真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「いんらん百物語 喜悦絶叫!」(2022/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/特殊メイクアップ&造形:土肥良成/撮影監督:中尾正人/録音:西岡正巳・大塚学/編集:山内大輔/音楽project T&K/効果・整音:AKASAKA音効/ラインプロデューサー:江尻大/助監督:谷口恒平/制作進行:菊嶌稔章/撮影助手:戸羽正憲・梅田さかえ/河童&蛇神イラスト:土肥良成/特殊メイク&造形スタッフ:大森敦史・山岡英則・大塚汐莉・川口怜/ポスター:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:宝田もなみ・きみと歩実・岬あずさ・川瀬陽太・森羅万象・安藤ヒロキオ・豊岡んみ・西山真来・赤羽一真・折笠慎也・小林節彦)。
 まづ最初に、気づくと2021年は空いてゐたので、再起動後恒例の、大蔵怪談映画の系譜を改めて掻い摘んでみると。恐らく映画を本気で信じてゐる渡邊元嗣が、「おねだり狂艶 色情いうれい」(2012/脚本:山崎浩治/主演:大槻ひびき)でルネサンスの火蓋を華々しく切つたのも、何だか何時しか遠い昔。金田一や座頭市は出て来る、後藤大輔の「愛欲霊女 潮吹き淫魔」(2013/主演:竹本泰志・北谷静香)が早速ズッ扱けたのが、今にして思へば所謂パンドラの箱。画だけは綺麗な加藤義一の「怪談 女霊とろけ腰」(2014/脚本:鎌田一利/撮影監督:創優和/主演:水樹りさ)と、ツッコミの余地ならば無駄にデカい竹洞哲也の「色欲絵巻 千年の狂恋」(2015/脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:伊東紅)。名はまだしも、結局実は全く取れなかつたハレ君事件の誘爆を受け、水野朝陽にとつて事実上最初で最後の映画出演となつた、荒木太郎の「色慾怪談 ヌルッと入ります」(2016/主演:南真菜果)で死屍累々の四連敗。実に尺の1/3を費やす長大なアバンで度肝を抜いた、山内大輔の「女いうれい 美乳の怨み」(2017/主演:佐倉絆)が負けはしない程度に連敗を辛くも四で止めつつ、高説は御尤もなこの御仁が、面白い映画を撮つてゐるのを個人的に観た覚えのない。佐々木浩久の「情欲怪談 呪ひの赤襦袢」(2018/主演:浜崎真緒)で一旦、通算成績は一勝五敗一分け。再び山内大輔の「変態怪談 し放題され放題」(2019/主演:星川凛々花)が甘目に見て引き分けにせよ、ある意味最大の問題作、翌年古澤健の「怪談 回春荘 こんな私に入居して」(2020/主演:石川雄也)に至つては、凡そ一切のあやかしなんて登場しやしない、そもそも怪談映画ですらない大概な羊頭狗肉。都合、一勝五敗二分け一没収試合といふのが、当サイト調べでの大雑把な戦禍、もとい戦果である。つか、今年も怪談やつてないのね。降霊もとい、恒例ではなくなつたのかも知れない。
 閑話休題、おどろおどろしい河童の看板で水難事故を注意喚起する河辺に、山咲小春(ex.山崎瞳)を令和ver.にブラッシュアップしたかのやうな三番手が佇む。アイリ(岬)と落ち合つたミツル(赤羽)は、純粋に金欠なのか釣つた魚に餌を与へる気がないのか、そゝくさホテルに直行。跨ぎで突入する、岬あずさのお胸のみならず御々尻も大変麗しい絡み初戦を、轟然と大完遂。事後、依然デートらしいデートをする気のまるでない、クソ彼氏に対し泣き出したリンカを、ミツルは曰くたゞで入れてホラー映画よりも面白いとかいふ、病院廃墟に連れて行く。こゝで、廃病院と来れば「変態怪談」と同じロケ先かと思ひきや、より廃墟みを増した全くの別物件、八潮市元病院スタジオとのこと。各々の幽霊カミングアウトで結果的には木に竹を接ぎがてら、二人は猫の捨てられてゐた痕跡も窺へる、屋内を右往左往。既視感を覚えるメソッドのみで造形された、ガチ幽霊(西山真来のゼロ役目)にアイリ・ミツルの順で闇の中に引き摺り込まれて一転。一応宗教画風の蛇神イラストに三本柱と、山内大輔をクレジットしてタイトル・イン、男優部三本柱までタイトルバックは続く。
 明けて胡瓜を常食する、不思議な雰囲気の転校生・ナツメ(豊岡)の高校時代の思ひでを、安藤ヒロキオが振り返る。のは、「ミサワ心霊研究所」所長・三沢武雄(森羅)が主宰する百物語の一環。参加するのは前職はIT系サラリーマンであつた江口(安藤)のほか、害虫駆除業者の吉井由人(川瀬)。
 配役残り、きみと歩実は江口の妻・マリカ。といふ次第で、きみと歩実(ex.きみの歩美)のマリカ・サーガ第四作。それ以外があるのかよ、なくもないんだな。百物語の舞台ともなる、件の廃墟は神宮寺病院跡地。江口が、あるいは江口は齢をとる割と根本的な疑問を等閑視すると、驚愕のオチに辿り着く江口の話を経て、吉井が神宮寺病院の元院長宅に入つたエピソードを語り始める。ビリング頭にして実に四十分もの長きに亘り温存される宝田もなみが、吉井が仕事で訪れる神宮寺家の、家事手伝ひ・リンカ、漢字は凛花。寝たきり状態にある神宮寺善三(小林)の、義理の娘にあたる。この乳娘、ならぬ父娘。公式のアナウンスはないが榊英雄で封印されたにさうゐない、角屋拓海の「唄へ!裸舞ソング ふれてGコード」(2021/主演:川上奈々美/二番手)に続き宝田もなみが実は二作目。地味にフィルモグラフィの途切れない小林節彦は、竹洞哲也2019年第五作「不倫、変態、悶々弔問」(脚本:当方ボーカル/主演:高瀬智香)ぶり。左肩甲骨の辺りに蛇の墨を入れた看護師、兼神宮寺の愛人・田中フジコは宝田もなみの二役目。堕胎を迫られたフジコが素頓狂なスローモーションでスーサイドする一方、リンカの同じ位置には、蛇の鱗状の痣があつた。西山真来は神宮寺の妻・幸子、リンカの母。それでは何故(なにゆゑ)に、神宮寺がリンカの実父ではないのか。折笠慎也が若かりし三沢、幸子がクロスカウンタ式の浮気に走つた、当時勤務医の三沢がリンカの父親。フジコの死後心身を壊した神宮寺のリタイア乃至クラッシュ後、病院の実権を掌握する野心に走り間男を無下に捨てた幸子を、心中を図り三沢が殺害。自身は死に損なつたといふのが、三沢の来し方。とこ、ろで。劇中百物語の当事者が三人であるにも関らず、並べられた椅子は四脚。吉井が訝しむ四つ目は、怪異譚を百語り終へたのち、降りて来る物の怪をお迎へするための椅子。となると、森羅万象が超絶のモノローグを静かに爆裂させる、三沢の告白含め江口が口を開くまでに、九十七は既に消化済みである旨、踏まへる段取りを設けてゐて別に罰はあたらなかつたのではあるまいか。
 2022年はあれだけ重用されてゐた山内大輔ですら一本きりに止(とゞ)まる、前述した「女いうれい」(2017)と「変態怪談」(2019)に続く三本目の怪談映画。三度目の正直や、果たして如何に。
 兎にも、角にも。大山の如き見事な爆乳を誇る主演女優以下、オッパイを三枚並べた上でなほかつ、電撃の四番手をも飛び込んで来る豪勢通り越して豪快な布陣を、山内大輔の的確な作家性が持て余しや出し惜しみする訳が勿論なく。中尾正人の鋭角な画作りにも加速され、裸映画的には文句なく充実する、ウッハウハに満ち足りる。その、上で。プロローグを半分は回収する江口パートと、本丸に突入する吉井篇。そして三沢がそもそもの謎を明かす、強靭にして完璧な構成を経て。対偶人魚型着包みの大概なプリミティブさは棚に置くと、三沢が彼岸に謝罪を請ふ美しい物語が遂に完成。「色情いうれい」を猛然とパシュートする一撃必殺の感動作が、十年の時を隔て漸く現れた。と、諸手を挙げ、感激しかけたのも正しく束の間。「貴方はまだ嘘をつくのね」の殺し文句こそ切れ味鋭く決まるものの、即座に卓袱台を床板ごと引つ剥(ぺが)す蛇女に劣るとも勝らずショボい猫娘で、折角綺麗に構築された映画が逆の意味で見事に木端微塵。要は多分大蔵から与へられた妖怪映画の御題に愚直か健気に従つた結果、セコい特殊造形とメイクに底を抜かれた割と壮絶な一作。良くも悪くも大勢に影響しない河童は兎も角、猫娘さへ出て来なければ、確かに勝ててゐた筈なのに。寧ろ殺させておけば据わりもよくなつたミツルはまだしも、虚空に浮いたアイリのぞんざいな扱ひには、三番手らしさでもメタ的に酌めばよいのか。猫が化けて出て来た、より直截には出て来てしまつた瞬間の、絶対値は無闇に極大、ベクトルの正負さへさて措けば。
 最終的な各々の去就<リンカは吉井と結婚・マリカは江口に殺害・アイリアバンを駆け抜けゆ・三沢幽霊にズユーッ・江口猫娘に返り討たれカパチョンパ・ナツメはマペトと江口の帰りを待つ>永遠に・ミツユ全裸で逃げゆ・神宮寺顔面騎乗から大蛇にパクーッ


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 「ママと私 とろけモードで感じちやふ」(2022/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:小山田勝治/録音:池田知久/編集:西山秀明/助監督:江尻大/小道具:愛河シゲル/選曲:効果:うみねこ音響/整音:竹内雅乃/グラフィック:佐藤京介/スチール:本田あきら/監督助手:吉岡純平/撮影助手:邊母木伸治/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:花音うらら・愛葉るび・可児正光・二葉エマ・橘聖人・加藤絵莉・只埜なつみ・豊岡んみ・かわいゆうな・樹カズ)。その後就職して足を洗つた模様の、愛河シゲルのピンク映画参戦は同じく吉行由実の2014年第二作「妹の匂ひ よろめきの爆乳」(2020/主演:奥田咲)と、小山悟2015年第二作「果てなき欲望 監禁シェアハウス」(脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:神咲詩織)ぶりの当サイトに抜けがなければ恐らく三戦目。コドーグコドーグいふほどの小道具が、何を指すのかは知らん。
 線路を跨ぐ歩道橋、エリカ(花音)が彼氏を寝取つた親友の佐藤樹里(二葉)に、憤然と決別を叩きつける。半ベソで踵を返すエリカ(花音)に入つた、母・真紀子(愛葉るびのゼロ役目)からの電話は父ないし、真紀子目線では夫の誕生日に合はせた温泉家族旅行のお誘ひ。尤もそれどころでない娘にはやんはりと参加を見合はされ、慎吾(樹)当人からは祝ふ齢でもないと企画自体否定された真紀子が、溜息ついてタイトル・イン。申し訳ないが花音うららは国沢実2020年第二作「性鬼人間第三号 ~異次元の快楽~」(脚本:高橋祐太/主演:東凛/二番手)を、全く覚えてゐなかつた。
 適当に散らかされた部屋に帰宅したエリカが、煙草に火を点けがてら樹里にカッ攫はれた元カレの直樹(橘聖人/橘秀樹には非ず)を想起。カットの割り具合から窺ふに、恐らく花音うらら当人は嗜まぬにさうゐない。絡み初戦は軽くイチャつく程度で一旦茶を濁し、玄関を開けるや勝手に上がり込んで来る仲の、幼馴染・秀一(可児)がハンバーグを作りに遊びに来る。上がり込むはおろか、それで事がオッ始まらないのが不思議な秀一はそのまゝ一泊。寝込みに手を出さうかしたところ、淫夢―で本格的な濡れ場初戦―を見るエリカが洩らす直樹の名前に、秀一が踏み止(とど)まつた翌朝。元々秀一と約束はしてゐたジョギングにエリカが音を上げてゐると、真紀子が家に戻らないとの電話が今度は慎吾からかゝつて来る。その通話を終へるや否やの正直へべれけなタイミングで、素頓狂に華美な扮装の真紀子改めマッキー(愛葉)が二人の前に大登場。どうやらエリカにとつて母親でなく、少しだけ年上のマブダチといふアイデンティティと思しきマッキーを、秀一の助言に従ひエリカは大人しく自室に転がり込ませる。
 配役残り、豪華四番手の加藤絵莉は、慎吾の浮気相手・佳奈、香菜なら頭をよくしてあげなくては。当然行くつもりのなかつたエリカは、今度はマッキーに背中を押され招待されてゐた、樹里の誕生日パーティー出撃を決定。只埜なつみと豊岡んみにかわいゆうなは、何故か主役が一番地味なドレスを着てゐるパーティーの名なし招待客。ビリング頭が三番手より着飾るのは別に構はないにせよ、そこはどうにかしてやれよと思へなくもない。その他吉行由実と、招待されてゐるのか店の従業員なのか微妙なEJD、更に特定不能の若い男が二人の計四名見切れる。画面の片隅に見え隠れする吉行由実の、ロイドのグラサンが浜野佐知みを爆裂させてゐるのが地味に可笑しくて可笑しくて堪らない。あと、秀一とのある意味プラトニックな関係以上に、エリカがホイホイ乗り気なのがなほパラノーマルに思へて仕方ない、結局樹里とも別れた慎吾がマキシワンピの中に淫具を仕込ませたエリカを、往来に連れ出す羞恥プレイ。の件に投入される通行人部が、潤沢を軽くオーバーシュート。
 上野の旗艦館始め公式に言祝がれてゐる割にその旨のクレジットは見当たらない、吉行由実監督生活二十五年の周年記念作。一年ずれるのは、撮影時カウントか。前作「同棲性活 恥部とあなたと…」(2020/主演:佐藤りこ)での、「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/監督:小川欽也/脚本:岡桜文一/協力≒脚本監修:関根和美)以来となる電撃復帰に驚かされた、愛葉るび的には芸能生活二十年の周年記念作。監督生活二十五年に話を戻すと、だから荒木太郎も同期なのに、清水大敬に関しては―当サイトが―忘れてゐた。
 母と娘が親友同士としての新しい関係を築きつつ、各々新しいパートナーにも恵まれる。量産型娯楽映画作家として吉行由実は既に成熟、大筋がとりあへず酌めるやうに撮られては、ゐるけれど。いやいやいや、この物語で、目出度し目出度しといふのは土台通らない相談。可児正光の男前力と、電飾ブランコの大技―こゝで装飾部の出番?―もそれなりに綺麗に決まり、エリカが秀一と結ばれる乃至、秀一積年の片想ひが漸く実るエモーションは素直に吞み込み得る。さうは、いへ。マッキー造形の痛々しさ以前だか以下に、全員偶さかな本命扱ひで、女優部三冠を華麗にでなく達成してのける達成しやがる、直樹の自堕落な浮気男ぶりが兎にも角にも即死級の致命傷。主演女優の裸を拝ませる方便以外に、そもそもさういふクソ男の相手を、何時までもエリカが嬉々と務めてゐる正しく腐れ縁が途轍もなく理解に遠い。挙句の、果てに。結果的かつファンタな母娘丼についてはまだしも、自分の気持ちを確かめるためにだとかで、女二人に目隠しさせた巴戦を仕込むやうな出鱈目な男を、エリカが母親に譲る構図が根本的に木端微塵。その場のショックで正気を取り戻した真紀子も真紀子で、「有難う、私を選んで呉れて」ぢやねえだろ。言葉を選ぶと二人とも頭おかしいのか、マッチポンプで恐縮ながら、全然正気取り戻せてない。性懲りもなく白馬の王子様を待ち焦がれてゐたりする、かつての―とうに少女ではない女が拗らせる―少女趣味を吉行由実が卒業したはいゝものの、これはこれで底の抜けたガッハッハに過ぎる。生まれ落ちて半世紀を通過、怠惰に堕ち続けるオッサンでも立ち止まらざるを得ないレベル。流石に幾ら何でも、ハッピー(風の)エンドを見せておけば、脊髄で折り返して客は喜ぶとでも思つてゐるのなら大間違ひだらう。


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 「痴漢との遭遇」(昭和53/製作:電映/監督:山本晋也/脚本:山田勉/企画:島田美沙子/撮影:志村敏雄/照明:磯貝一/音楽:森あきら/編集:室田雄/美術:大原友治/助監督:宮島利明/効果:秋山実/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/衣裳:富士衣裳/出演:原悦子・橘雪子・しば早苗・榊陽子・神原明彦・たこ八郎・九重京司・鶴岡八郎・千葉ルミ・村上恵美・照井公咲・尾形五郎・土羅吉良・久保新二)。出演者中、千葉ルミから土羅吉良までは本篇クレジットのみ。代りなのか何なのか知らんけど、ポスターにのみ千葉久美子と長谷圭子の名前が載る。当時喜び勇んで小屋に駆けつけた、長谷圭子クラスタの悲哀を偲ぶと血涙が止まらない、眼科行け。とまれ脚本の山田勉は、山本晋也の変名。
 商事をスッ飛ばす電映クレから、花の輪?越しに夜の屋外で性愛を交すカップルにピントを送る。こゝで、二人の固有名詞がが互ひの呼称準拠でエミちやんとゴローさんにつき、トランプ、もといとなると脊髄で折り返して村上恵美と尾形五郎なのかと思ひきや。必ずしも、さうではない模様。ゴロー役が土羅吉良ゆゑ、どうもエミゴロは単なる偶さか臭い。アヒル、もといとなるとエミもより派手に脱ぐ点から、序列のひとつ高い千葉ルミかも。閑話休題、そこに現れたサラリーマン・野村勇作(久保)が周囲の様子を殊勝に窺ひつつ、野外プレイを恐々覗かうとしてゐると「よ!覗いてんのか?」。思ひのほかフランクに、覗きの名人(たこ)大登場。名人が初心者―かつ初対面―の野村に指南する関係性をザックザクあつらへると、名人いはく三種類ある痴漢テクニックのうち、まづ覗きが“第一種痴漢接近遭遇”。受けて野村も「ぢやあ『未知との遭遇』ぢやなくて『痴漢との遭遇』ですな」、馬鹿丁寧にパロディ作である旨表明した上で、繫みの中妖しくうねるエミちやんの背中にタイトル・イン。今回は、照明も十全に当ててある。ちなみに本家「未知遭」の日本公開が二月末、今作封切りは六月初頭。これぞ迅速果断、その間僅か三ヶ月強。但しそれは、既に喪はれて久しい昭和の早さ、といふ訳でも決してなく。特別版と称した、突貫のパイロット版を観てゐないので中身の如何も果たして完成するのかも知らないが、令和のこの世にも「REVOLUTION+1」があるにはある。更に半月絞り込んだ以上に、事の性質なり成立ちからすると一層加速してはゐまいか。
 出勤時、実はレス・ザン・ホームの名人と再会がてら、野村―の所属は業務第二課―は秘書課で憧れの西田礼子(原)と交錯。礼子の持ち物と思しき、ダンヒルのライターを拾ふ。取り入る目的で野村が専務の松本(野暮つたいパーマ頭の神原明彦)に、連れ込みとして自宅を貸す一方、専務秘書の礼子は郷里への送金や何やかやも出汁に松本とは愛人関係にあつた。むゝゝ、何処かで聞いたやうな話といふのは、別に隠しもしない。
 配役残り、女子力ならぬ女史力漲る橘雪子は礼子にとつて秘書課の先輩、元専務秘書であつた佐藤春江。鶴岡八郎は松本が野村の課長昇進を推挙する、人事担当の常務・大久保で、しば早苗が大久保も野村の部屋を逢瀬に使ふ、愛人のミッちやん。そして、大久保に明け渡し、自分の家なのに野村が帰るに帰れない夜。名人と再々会した野村は、劇中二組目となる青姦カップルの覗きに連れて行かれる。おメガネの麗しいレイコは、千葉ルミのビリング推定が当たつてゐた場合、消去法で村上恵美。解けない難問が、そのお相手氏。闇にも沈み、限りなく全く面相の映らないカズオと、名人が野村をけしかける、直接触る“第二種痴漢接近遭遇”でどさくさする、どころか。明々後日か一昨々日にアテられた、少なくとも両性愛者の名人がカズオを掘り始める阿鼻叫喚の修羅場に介入する制服警察官。何れが照井公咲で、もう片方が尾形五郎なのかに関しては、正直手も足も出ない。九重京司は、接待の途中で―礼子と逢ふ―松本が豪快に後を野村に丸投げする、大阪商事の三津田社長。大絶賛実曲使用、木に竹を接ぎ喧しく鳴らされる阿部敏郎(ex.くもと空)の「あせるぜ」に完全に水を差される榊陽子は、松本から三津田に要は饗された佐藤女史の口から、秘書課の真実を聞き心騒がせた野村が、捨て鉢な一夜をともにする多分ホステス。何時の間にか阿部敏郎が今はスピで飯を食つてゐる、量産型裸映画畑でいふとまんたのりお(a.k.a.荻久保則男)にも似た人生いろいろに、風がそよぐ程度に琴線を撫でられる。
 情事の場を上司に提供する胡麻擂りか世渡りリーマンが、上司の愛人に岡惚れする。といふと「未知との遭遇」より寧ろ、まんま「アパートの鍵貸します」な山本晋也昭和53年第七作。ついでで野村家の普請もアパートといふよりは、完全に団地。尤も、恐らく「カサブランカ」がオールタイムベストにさうゐない、たとへば清大のやうな古典的シネフィルならばまだしも、無知蒙昧と浅学菲才なら人後に落ちない当サイトが、ワイルダーなんて通つてゐるものかかんらかんら、笑ふてしまへ。通る通らないは兎も角、頼むから落ちて呉れ。
 “第三種痴漢接近遭遇”で野村が礼子と目出度く結ばれる、結末こそ結構異なれど大筋を大体忠実にパk・・・・いやトレースしてゐるだけに、山晋映画にしては体を成した物語がとりあへず存在する。かと、いつて。礼子が眠剤自殺を図つた危機に際し、隣に住んではゐないが偶々野村を訪ねて来た、たこ・エクス・マキナな名人が実は東大医学部卒。俄かにたこ八郎が頼もしく輝く神業の応急処置を、詳細な仔細は赤バックの手書きスーパー一発勝負で事済ましてのける清々しい省略は兎も角、一旦野村が占有したダンヒルを、礼子の手許に戻す段取りがスッポリ脱け落ちてゐるのは、通り過ぎるに難い割と根本的な大ミス。久保チンが久保チンである限りな、間断ない小ネタの絨毯爆撃にも否応なく尺を割かれ、最終的には普段と大して変らずぞんざいな作劇が、この期に及んで殊更ワーキャー褒めそやすには値せず。スピルバーグにもワイルダーにも、特段レコメンドする気にはなれない一作、と半ばあきらめかけたところが。ブロバリン無効化の地味な謎を、名人が鮮やかに回収してみせる綺麗なラストには本気で感心した。最後の最後でたこ八が見事な逆転ホームランを放つ、スマートな量産型娯楽映画。何はともあれ、あるいは何はなくとも。矢張り電映製作による、山本晋也二作前「ポルノ チャンチャカチャン」で買取系ながらロマポ初上陸を遂に果たした、即ち将に天下を取る道程の原悦子がエクストリームに可愛くて可愛くて仕方ない、堪らない。何せ原悦子が可愛すぎて、映画の中身とか最早どうでもいゝ、よかないだろ。主演女優の可愛らしさは百難隠す、それもまたひとつの、偽らざる真実なのではなからうか。

 付記< 一旦脱稿後、「REVOLUTION+1」は完成したとのこと。関門海峡を越え、来たら観に行く、予定。予告に目を通してみるに、大概香ばしさうな雰囲気は否めない


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 「三次元透視 SEXウルトラアイ」(昭和59/製作:ハリマ企業らしい/配給:株式会社にっかつの筈/監督:吉岡昌和《第一回作品》/製作:吉岡昌和/製作補:関孝二/監督補:石部肇/撮影:高井戸明/照明:山口一/編集:酒井正次/録音:銀座サウンド/効果:東芸音響/現像:東映化工/スチール:橋本勝成⦅姫路銀影写房⦆/出演:河井憂樹・田代葉子・榮雅美・南条碧・吉岡和子・風見玲香・久保新二・螢雪次朗・立川与之助・堺勝朗)。出演者中、榮雅美と螢雪次朗に立川与之助が、ポスターでは栄雅美と螢雪次郎に立川与ノ助。これが世之介だと2代目快楽亭ブラックの、十一番目の名義にあたる。あとポスターには吉岡昌和と関孝子の共同とされる、脚本クレジットが豪快にも脱けてゐるのは本篇ママ、大体誰なんだ孝子。
 左から右に画面を横切る山陽新幹線にのんびり二十秒回して、カメラが寄つた先は「アナノ産婦人科医院」。オッパイも露に横たはる患者を、院長の穴野助平(堺)が適当に診察、傍らには配偶者の婦長(吉岡)も控へる。ゼロ親等なのか一親等なのかはたまた二親等なのか、特定はしかねるが恐らく、和子は昌和の親族なのではなからうか。それはさて措き全体何故、別に脱ぎもしなければ脱いで呉れなくて構はない、吉岡和子のビリングが風見玲香よりひとつ高い。閑話休題、診察に訪れたラウンジ「キング」のママ・マコ(榮)に穴野は自身の発明による、頑なに名前が呼ばれないゆゑ、あくまで仮称の「ウルトラアイ」を剥ける、もとい向ける。このウルトラアイ、見た目的には真黒の大ぶりな手持ち眼鏡のやうな代物で、カメラのシャッター的に釦を押すと人が着てゐる衣服が透けて見えるはおろか、体内まで覗ける大概なトンデモ・ガジェット。斯くもひみつな道具が説明を一切スッ飛ばした正真正銘のデフォルトで存在してゐる、とかく愉快か底の抜けた世界観ではある。とまれ三次元透視描写を、関孝二の考案にさうゐない要はシースルーを着させた女優部を普通に撮影する、コロンブスの卵感あふれるフィジカル特撮が案外画期的。踏襲した、前例が既にあつた可能性も否定出来ないが。待合室で雑誌を読んでゐる女の、何気でなく見事な爆乳もウルトラアイで拝みつつ、出し抜けに水面を駆ける、吉岡昌和所有の船舶に決まつてゐるクルーザー「KAZU Ⅶ」号に、藪から棒なゴーゴー音楽鳴らしてタイトル・イン。夜の女にしか見えない派手派手しいその他看護婦と、待合室にもう一人。不脱のアバン部はまだしも、裸要員二名のノンクレには不遇の誹りも免れ得まい。
 配役残り、早くね?といふ直截な疑問に対する回答としては、手短に掻い摘むほどの物語も特にないんだな、これが。久保新二と螢雪次朗は、穴野の、劇中本当に遊んでばかりの放蕩息子・のり平と、のり平の先輩にあたる内科の研修医・謙、苗字不詳。先輩後輩とはいへ、この二人実は同い歳。田代葉子と南条碧はともにキングのホステスで、謙と男女の仲にあるミヤと、プレスシートでも参照したのか、役名併記のjmdbにはエミとされる、ものの。どうも久保チンが、カオルと呼んでゐるやうに聞こえるのは気の所為かしら。風見玲香と立川与之助は、是が非でもミヤと一戦交へたいのり平の切望で、四人で入つたラブホテル「さくら」の、隣室で膣痙攣に陥るカップル。ほんでビリング頭にして前半温存される河井憂樹が、田舎を飛び出して来たキングの新人ホステス・さなえ。のり平がミヤにフラれたタイミングで唐突にラウドな選曲起動、酔ふと裸になるとかいふ底の抜けた方便で、脱ぎだしたさなえがいきなり半裸で踊り始めるファースト・カットの無造作さが、要は全篇を支配する最も顕著な特徴。その他キング店内に現地調達したと思しき、客と店員込みで十指に余る人数が投入される。
 今作の十九年後、平成15年(2003)には旭日双光章を受勲してゐる旨石動三六が辿り着いた、姫路の名士・吉岡昌和の栄えある第一回監督作品。次があんのかといふツッコミに対しては、あるんだよ、それが。吉岡昌和の第二回より風かおるの引退作がなほ重要な、凄まじいタイトルの「毛剃り魔」(1989/新東宝)、デビルに魂を売つてでも見たい。と、いふか。nfajがプリント持つてゐるぞ、チャンスが決してなくもない。そ、して。シネポは吉本昌弘と混同してゐる吉岡昌和の、確認し得る最古の量産型裸映画参加が何と、こゝから全てが始まつた山本晋也昭和50年全十八作中第八作、記念すべき無印「痴漢電車」(脚本:山田勉=山本晋也/主演:月丘恵子)の企画・製作。となると歴史の重要な一翼を、人知れず担つてゐたりもする御仁ではある。「毛剃り魔」に話を戻すが、「ケゾリマ」、片仮名で書くと何かイタリアら辺のアート映画みたいだ。
 しかも市井の町医者が発明した、原理の全く謎なクレヤボヤンス装置。なるゴキゲンな機軸を繰り出す、のみならず。公開題にまで賑々しく謳つておきながら、ウルトラアイが展開の主軸を成す訳でもなく。偶発的に女の裸を他愛なく覗いてみるか、そもそも映りから悪くて何がどうなつてゐるのかよく判らない、膣内―模型の―映像で茶も濁し損なふのが精々関の山。足首が細いだの口元に黒子があるだの、人相占ひにのり平が浮足立つ、名器狂騒曲に概ね終始する。カオルぽいエミと話を聞いたマコも、のり平の巨根に色めきたつ。一言で片づけると、兎にも角にも雑な映画で事済む、ともいへ。果たして何が禍したか致命傷を探し始めたが最後、逆にいゝところが一欠片も見つからないある意味壮絶な有様につき、途端に途方に暮れる。背景に姫路城を抜く以外の意図が見当たらない、間の抜けた構図のロングに関しては伊豆ならぬ姫路、御当地映画ならではの清々しさに免じ、寧ろ言祝いでみせるのも一興。なのかも知れない、なのかなあ、自信はまるでないけれど。六日の明くる日は七日、何でも脊髄で折り返して与太を吹くな。
 土台クレジットに於いて、自分の名前だけ頓珍漢な丸ゴシックで差別化を図つてのける、凄惨なセンスから既にチェックメイトの明らかな有様といふかザマなのだが、とかくぞんざいな繋ぎと、点々と打つた点が終に線を成さない、場当たり的な展開。ネタなりメソッドの陳腐さ以前に、会話のテンポはへべれけで、カット割りのリズムも生理的な不快感さへ覚えかねないレベルでぎこちない。風見玲香とex.桂サンQの危機に、のり平が「さくら」に父親を呼ばうとする件。電話口でワチャワチャ大騒ぎする久保チンの背後の、田代葉子と南条碧にも頼むから少しは芝居をつけて呉れ。映画のフレームの中に、手持ち無沙汰なんて見たかないんだよ。劇映画に開いた穴と、裸映画を散らかす粗。宛がはれた白痴造形に主演女優が後ろから撃たれる、率直なところポイントゲッター不在の女優部といふ評価については、百歩譲つて議論ないし嗜好の分れる点にせよ。濡れ場に入れば入つたで、順調にモタつくか躓いてみせるのが逆の意味で隙がない。下手に寄りすぎたかと思へば、今度は乳尻を外す始末。確実におかしな手持ちの画角が、逐一もどかしくてもどかしくて仕方ない。常々思ふのが女の裸を下手に狙ふくらゐなら、思ひきり馬鹿正直に真正面から撮つて欲しい、些末か煩瑣な映画的顕示なんぞ不要である。どうせ吉岡昌和の豪邸で撮影した、穴野家屋上にて観光、もとい敢行される穴野とマコの豪快な青姦。姫路民であればもしかしたらイケる、上つてゐるのか下つてゐるのか景色で判別つけ難い、新幹線が行くのと穴野がイクのを同期させる、こゝは手放しに画期的な“新幹線イキ”シークエンスこそ、的確に引いて十全に見せるべきではなかつたか。所々で俳優部の顔に、照明が満足に当たつてゐない不調法な画も散見される。本職照明部の、石部肇が監督補で名前を連ねてゐるにも関らず。クライマックスは相変らず四人の乱交目的で、のり平が無断で拝借した「KAZU Ⅶ」を、マコと愛艇逢瀬に繰り出すつもりの穴野が、係留所で盗んだ小型ボートで追ひ駆ける、盗人の親も盗人か。穴野らも「KAZU Ⅶ」に合流する形で、怒涛の六人バトルロイヤルに雪崩れ込、めばよかつたのに。延々水上チェイスした末に、結局そのまゝ二艘の舟が瀬戸内海の藻屑と消える別の意味で驚愕のラストには、尻子玉を摘出されるかと思つた、沈んでねえ。強ひて渾身のポリアニズム―愛少女的加点法の意―を振り絞るならば、現場で石部肇に舵を任せるでなく、本当に吉岡昌和が撮つてゐたのね、多分。


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 「それゆけ痴漢」(昭和52/製作:ワタナベプロダクション/監督:山本晋也/脚本:山田勉/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/音楽:多摩住人/編集:竹村編集室/記録:前田侑子/助監督:高橋松広/効果:中野忍/美術:岡孝通/スチール:津田一郎/制作進行:大西良平/制作担当:一条英夫/小道具:高津映画/衣裳:富士衣裳/タイトル:ハセガワタイトル/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/出演:泉リコ・北沢万里子・沢木みみ・笹木ルミ・尼紫杏・沢珠美・野田さとみ・松浦康・滝沢秋弘・深野達夫・竜谷誠・久須美護・岡田良・大山克則・久保新二)。出演者中、沢木みみがポスターには沢木ミミで、久須美護と岡田良は本篇クレジットのみ。逆にポスターにのみ、土羅吉良の名前が載る、自由だなあ。脚本の山田勉は山本晋也、企画の渡辺忠は代々木忠のそれぞれ変名。
 WP印のナベプロロゴから、往来の夜景挿んで、夜の公園へと繋ぐ。のは、いゝにせよ。矢竹正知ばりの、途轍もない無作為な暗さはどうにかならないものか。といふかどうにかせれ、商業映画だぞ。ベンチで致す高校生カップル(尼紫杏と、不完全消去法で岡田良/尼紫杏の役名は小百合)に、先輩後輩の痴漢コンビ・久保新二とヒロシ(滝沢)が右前方から回り込む形で無造作に接近。久保チンの劇中固有名詞はヒロシが“センパイ”としか呼称しないゆゑ、以後パイセンで通す。どさくさに紛れもせず二人が小百合の体に手を伸ばすはおろか、パイセンに至つては尺八まで吹かせる限りなく単なる乱交に近い痴漢現場に、警邏中の制服警察官(ポスターに名前が載る推定で大山克則)が介入。児戯的な追ひつ追はれつの末、世知辛い都会の痴漢に限界を感じたパイセンは、パクッて来た学生鞄の中から出て来たオリエンテーリングの入門書に触発。二冊目の『雪国』(いはずと知れた川端康成)で決定的に背中を押され、旅立ちを決意する。「吊り橋を抜けると、そこは痴漢の国だつた」云々。『雪国』冒頭を結構延々パロディした上で、門脇吊り橋(伊豆城ヶ崎)のロングにタイトル・イン。他愛ないヒロシのボケに対し、体重を乗せたエルボーなり頭突きでツッコむパイセンのブルータルさも楽しいが、受ける滝沢秋弘(a.k.a.滝沢明広)の「どわあ」が絶品。久保チンの「アシャアシャアシャ」や山竜の「ニニニ!」、ほかには螢雪次朗―あるいは黒田一平―の「ジャン!」同様。名物的なメソッドとして語り継がれてゐても別に罰は当たらなかつた、時代の流れの渦か泡(あぶく)に消えた慎ましやかな至芸、滝沢秋弘の「どわあ」がこの期に及んで胸に沁み入る。「どわあ」、ドワらせたら滝沢秋弘は日本一だらう、何だそのコンテスト。
 録音部の装備を携へた二人組・メグミ(沢木)とヤスコ(野田)の顔見せ噛ませて、立ちションするヒロシが、青姦カップル(笹木ルミと変なパーマの深野達夫)を発見。全体何がしたかつたのか、糸にメンソレータムを塗した釣竿―パイセン曰く如意棒―が、笹木ルミの菊穴に誤爆する、凄まじく下らない。
 配役残り、間違つても可愛らしくはなければ、本物にも絶対見えない。用途を何気に謎めかすクオリティの熊の着包みを持ち出し、健気に新田真子、もとい死んだフリをするメグミとヤスコに痴漢するパイセンに対し、「金のかゝつた痴漢やつてんなオイ」と感嘆してゐるのか呆れてゐるのかよく判らない松浦康は、地場の痴漢師・源三。覗きの源三略して、覗源なる異名を誇るらしい、異次元みたい。北沢万里子と、アテレコの久須美護(a.k.a.久須美欽一 or 久須美弦 or 夏季忍)は源三がパイセンとヒロシを覗きに案内する、農作業の傍ら野外夫婦生活に勤しむヨシコとマツジロウ。芸者や花魁ぢやあるまいし、花街感覚のチントンシャンを鳴らすちぐはぐな選曲に出鼻を挫かれる泉リコは、源三が畏怖する深い森の巫女。沢珠美と竜谷誠は、二人が矢張り源三のアテンドで凄い夜這ひに連れて行つて貰ふ、ものの。東京と伊豆を股にかけ、アバンを踏襲する野放図な闇に沈み、何をヤッてゐるのか本当に見えないタケとハナノジョウ。もうこんなの、女の裸の無駄遣ひ。
 吊り橋を痴漢の国に渡つたパイセンとヒロシが、各々下半身に可笑しいけれど深刻めなダメージを負ひ、からがら吊り橋を引き返し娑婆に戻る。即ち伊豆に行つて、伊豆から帰つて来る。今上御大こと小川欽也が後年完成した、現代ピンクの桃源郷・伊豆映画の萌芽ともいふべき山本晋也昭和52年第九作。我田引水、こゝに極まれり。
 必死で大人しく寝てゐる女を、チャチい熊の着包みが犯す、最早神々しいまでに独創的なシークエンス。文字通りの熊手では如何せん衣服を剥ぎ難い、マニピュレイト機能の否応ない限界を、カット割りで回避してのける論理性もキュート。沢木みみと野田さとみをぞんざいに通過した上で、北沢万里子―と久須りん―の下に三人で向かふ道すがら。何処の名画かと目を疑ふほどの、木洩れ日差す無駄に幻想的な超絶のロケーション。散発的な見所はそこかしこに見当たらなくもない割に、統一的な物語なり、明確な主題に端から関心を持ち合はせないと思しき、成行任せ出たとこ勝負のランダムな作劇が、面白いのかといふと決してさういふ訳でもない。量産型娯楽映画の塵を積もらせた大山を、賑やかす枯れ木の如き一作。しかも二段構への、藪から棒な怪異で締め括るオチも、木に竹を接いだ印象が甚だしい。とりあへず、折角それなり以上の女優部を揃へておきながら、乳尻を腰を据ゑ見させる最低限の誠意を、山晋にはもう少し弁へて欲しい。とかくこの御仁、裸映画を本気で撮る気があるのか否か、今一つピンと来ない、寧ろないのか知らんけど。

 話は一昨昨日に逸れるが、与太吹きついでで戯れにググッてみたところ、新田真子が今なほ同人のフィールドで大絶賛現役といふ、思はぬ方角から飛んで来た息の長さに軽く衝撃を受けた。2023年で何とデビュー四十周年、成年マンガ家の平均作家生活がどのくらゐの長さになるのか見当もつかないまゝに、論を俟たぬ数字で些末を圧し潰し得る、偉大な継続にさうゐない。


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 「セミドキュメント 《秘》女肉市場」(昭和51/製作:ワタナベ・プロダクション/監督:代々木忠/脚本:池田正一/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:高橋松広/効果:秋山サウンド・プロ/美術:日本芸能美術/小道具:高津映画/記録:前田侑子/制作進行:大西良平/タイトル:ハセガワ・プロ/制作担当:一条英夫/録音:大久保スタジオ/現像:東洋現像所/弾語り:東小川万吉・GEN.BAND 瀨戸雄二・江野光治・人見重蔵・川内博隆/協力:レストランホテル 目黒エンペラー前橋 群馬県勢多郡大胡町 TEL 0272-83-3211㈹・ナイトレストラン じゅれびあん TEL 988-4646/出演:真湖道代、南ゆき、ティミ杉本、乱孝寿、山下まゆみ、岡田あや子、秋川瑞枝、ウィリアム・キャンディー、ミス・ボンボン、堺勝朗、市村譲二、深野達夫、森一男、滝沢秋弘、土羅吉良、坂本昭、三條敏夫、高宮俊介、佐々木清人、高瀬竜、岩田富夫、北野清二、小波兼/ナレーター:都健二)。出演者中、南ゆきとティミ杉本が、ポスターでは南ユキとティミー杉本、ウィリアム・キャンディーと滝沢秋弘以降は本篇クレジットのみ。企画の渡辺忠は、代々木忠の変名。
 ナベプロ作ロゴから、南ゆきが湯に浸かる掴み処を欠いたロングにサクッとタイトル・イン。人妻(南)とホストクラブ「ムゲン」(表記不明/現存する大阪のMUGEN Groupとは多分無関係)のナンバーワン・ハヤミジュンイチ(深野)の、同伴出勤を見据ゑた逢瀬。寧ろ誰か真に受ける者が存在してゐたのか、甚だ怪しいレベルの正しく形だけともいへ、“セミドキュメント”の御題目を遵守し素面の劇映画的には中途半端に離れた距離を保ちつつ、気が向くと普通に寄つてもみせる、とかく安定しないカメラ位置が視覚的に如実な特徴。挙句油断してゐると、乳でなく結合部付近の尻を狙つた、藪蛇か闇雲なズームも唐突に仕出かしてみたりする。久我剛の持ちメソッドとも思へないゆゑ、ヨヨチューから特別な指示でも受けたのであらうか。あるいは、限りなく乱心に近い、単なる偶さかな気紛れに過ぎないのかも。それと今回この期に学習したのが、正常位で挿したまゝ終に体位を移行しないと、俳優部が少々オーバーアクト気味に頑張つてみせたところで、動きを欠いた画が如何せん漫然としてしまふきらひは否めず。兎に角、オッパイが男の背中に隠れ見えないのが根本的な致命傷、本末転倒こゝに極まれり。兎も角、一直線に結婚を望んで来る―既婚者の―南ゆきに対し、親爺の遺した借金だ病気のおふくろだと、ハヤミは適当に話を濁す。
 配役残り、「ムゲン」店内で最初に飛び込んで来るのが、意表を突いて東小川万吉。要はキャバレットな生演奏担当といふ格好で、のちに登場するGEN.BAND共々、結構ふんだんに尺を割いて貰へる。東小川万吉を出発点に右から左へグルーッと一望する中、視認出来たのはやさぐれたトルコ嬢のヒロコ(ティミ杉)と、ベテランで三の線のカワナトシヤ(堺)。外国人旅行者(ウィリアム・キャンディーとミス・ボンボン)を、一対二で引き受けるマツキヨウジ(市村)。今回、着衣の状態でカワナにハモニカを吹くやう強ひるに止(とど)まるミス・ボンボンが、一ヶ月後の木俣堯喬昭和51年第一作「ポルノ・レポート 金髪パンマ」(Missボン・ボン名義)に於いては黒い肉襦袢ぶりを豪快に大披露、観るなり見た者の心に傷を残す。閑話、休題。アキちやんと呼ばれる大体ヒムセルフ(滝沢)に、新人なのか、受付的な業務を主に任される土羅吉良。この人がホストなのか、懐の深い店だ。その他、札片をバラ撒いてはカワナに食べられないものを食はせる、陽気は陽気な乱孝寿の狼藉噛ませて、「ムゲン」に初来店するナミキ夫人が真湖道代、女優部としてはラスト・イヤーにあたる。若手ホープ格のダイゴは、ビリング的に森一男かなあ。ハヤミが同伴出勤する信用組合の事務員は、一濡れ場こなす以上山下まゆみ、の筈。あと比較的大きめの役だと、ハヤミがナミキ夫人の身上調査を依頼する、興信所の探偵が判らない。
 マツキが強い胃薬に表情を歪める洗面所に、ハヤミも現れる。皮肉交じりに上辺だけ気遣ふ若きNo.1に対し、マツキが寄越した捨て台詞が「頂上に立つた人間は、あと下るだけだ」。かつてどころでなく刹那的に短いスパンで、マツキとハヤミが交した―のと見事に全く同じ―会話を、今はハヤミとダイゴが交す。何だかんだ生き残るのはプライドを捨て、おこぼれを預かるジャッカルに徹する、カワナで案外あつたりもする。 “女肉市場”とか煽情的に謳ひながら、要はホスト残酷物語なるどちらかといはずとも、男優部がよりフィーチャーされた量産型裸映画的には変化球作。ハヤミが別宅に使用してゐる、今でいふ映える高級ホテルの一室に結婚結婚煩はしい南ゆきを先に入らせた上で、自分は後から来る体でカワナを遣はせる。そのまゝ送りならぬ向かひ狼で堺勝朗が二番手を手籠めにした事後、頃合ひを見計らひやつて来たハヤミが、他のホストと寝た南ゆきを捨てる。実も蓋もない展開に面白味も特段見当たらないが、とりあへず腹を立てるほど破綻してゐる訳でもない。螺旋階段で戯れる、ティミ―杉本と堺勝朗の局部がこれで映り込まないのが不思議な、別に特殊な技巧を駆使してゐる風にも映らない超絶撮影と、真正面からど直球の告白を敢行するものの、マツキは結局ナミキ夫人をハヤミから略奪し損ねる。小雨の中、トレンチの背を丸め往来に文字通り敗れ去る、市村譲二(a.k.a.市村譲)の哀愁漂ふ長回しが数少ない見所。カワナが乱孝寿に魚の骨を食べさせられ、目を白黒させられるのがラストカット。芳醇な堺勝朗の顔芸が、何気に最後は綺麗に締め括る。


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 「ペッティング・モンスター 快楽喰ひまくり」(2021/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:藍河兼一/編集・VFX:山内大輔/録音:光地拓郎・大塚学/ベロデザイン 造形・特殊メイク:土肥良成/ガンエフェクト:浅生マサヒロ/ラインプロデューサー:江尻大/制作進行:神森仁斗/助監督:谷口恒平/監督助手:吉岡純平・栗原翔/音楽:Project T&K/効果:AKASAKA音効/撮影助手:赤羽一真/特殊メイク・造形助手:李華㬢/ポスター:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:きみと歩実・篠崎かんな・七菜原ココ・加藤ツバキ《特別出演》・安藤ヒロキオ・可児正光・森羅万象)。出演者中、加藤ツバキの特出特記は本篇クレジットのみ。
 ピントを外された、“何か”ゐる水槽にタイトル・イン。結論を先走ると下手糞なくさめが、何某か演出企図があるものやら単なる不調法に過ぎないのか、最後まで判別しかねる森羅万象が薄汚れたオーバーオールでほてほて歩いて来るロング。に、全篇通して徒に乱打か濫用される、虚仮脅しの大仰な劇伴を鳴らす珠瑠美主義、縮めてルミズム。国産有機大豆使用を謳ふ「おいしい納豆」の販売員・三沢(森羅)が、小さなクーラーボックス一つ携へ得意の江口家を訪問、結婚三年目のマリカ(きみと)が藁包を三つ買ふ。まあた随分と、のんびりした商売ではある。その夜、マリカの夫・裕樹(安藤)が四日後の週明けからといふと、出し抜け通り越して出鱈目なオマーン赴任を報告、何て雑な会社なんだ。兎も角その日の夫婦生活と、何気に三沢とも交錯する裕樹の出発後、宅配便を持つて来た裕樹と同じ容姿の男(安藤ヒロキオの二役目)にマリカが犯される、ワンマンショーのオカズ妄想を経て。後始末するマリカに、五年の疎遠といふと結婚式にも呼んでゐない妹のユイカ(七菜原)から電話が入る。や否や、何処からかけて来たのか観音様も乾かぬ早さで、二人ともパチ屋のバイトを馘になつた彼氏のミキオ(可児)と、ユイカが収容人数には余裕のある姉宅に転がり込んで来る。傍若無人な妹カップルにマリカが普通にキレる中、裕樹から国際電話が。ユイカ曰く残して来た姉のケアを義兄に頼まれた旨、マリカが不平を唱へると君は一人つ子であつた筈だといふ裕樹は、続けてマリカに、ペットのプレゼントを用意しておいたと告げる。ユイカらに貸したつもりの、子供部屋(予)にマリカが入つてみるとそこには水槽があり、大人と同じくらゐの大きさの舌を常時文字通りべろーんと出した、一つ目で棘の生えた謎の生き物“ベロ”が入つてゐた。何に一番近いかと問ふならば、ガヴァドン幼生かな。
 配役残り、矢張りマリカを犯す可児正光二役目の宅配配達員と、裕樹が客死し悲嘆に暮れる、マスカラが溶けザ・クロウみたいなマリカを拾ふ安ヒロ三役目のガテン系。に続く加藤ツバキは、ガテン裕樹がマリカの以前に抱いた、矢張り未亡人の沙月弥生。特別出演ゆゑ、精々下着までしか脱がないものかと思ひきや、オッパイを御披露なさる豪気には軽く驚いた。篠崎かんなはマリカを訪ねる、弥生も組合員証を首に提げるNPO法人「全日本未亡人組合」の、城東地区リーダー・佐藤灯里。2014年発足で三万人弱の加入者を擁する「全日本未亡人組合」が、「全国未亡人連合」の後身組織といふのは、坂本太を悼むためだけに吹く与太。その他、加藤ツバキ第二戦の相手を務めるガテン系カニ・クルーズも登場。灯里がお尋ね者であるらしき風情と、ガテン裕樹の正体を埋める。
 七月末封切り、とはいへ。事情は知らないが映倫審査を受けたのはその十三ヶ月前、ともなると。凡そ四ヶ月前に公開された「淫靡な女たち イキたいとこでイク!」(主演:加藤ツバキ)よりも確実に、先に撮られてゐさうな山内大輔2021年第二作。ベビーブーム・マサ( a.k.a.廣田正興)の「魔性尻 おまへが欲しい」(2020/共同脚本:今奈良孝行/プロデューサー:榊英雄/主演:知花みく/二番手)からピンク二作目の篠崎かんなも、2020年七月末で引退してゐる。なので、こゝで谷口恒平は継戦するのか!?なんて、脊髄で折り返して色めきたつのは恐らくぬか喜び。
 人の言葉をも話す怪生物(CV不明/CはCreatureのC)と、存在するのか否か覚束ない妹。納豆の配達員は、回転式も持つて来る。おどろおどろしく且つキナ臭いサスペンスが、棹の休まる暇もない重量級の絡み絡みを、事実上独り身のマリカが溺れる、自慰イマジンの形で一点突破。効果的に虚実を混濁させつつ、剛腕の裸映画として見事に成立する、前半は。後半、要はハネムーン作戦的な生物兵器の大風呂敷をオッ広げると、第三勢力なのか政府反政府の何れかから分派したのか瞭然としない、全未組の立ち位置といふ結構根本的な疑問には強ひて目を瞑れば、如何にもありがちな結末ながら案外スマートな力業で、映画を大破させもせず綺麗に硬着陸。そもそも無理の多い強奪作戦の立案に関しては、それをいひ始めてはこの手の物語は片端から成立しない。損壊後の人体程度ならば兎も角、銃弾が貫通する特効には不意を突かれた。展開の収束に尺を割かざるを得なかつた結果、締めのシン・夫婦生活を主に、終盤裸映画的な失速は否み難い反面、実は争奪戦に全く絡まない、弥生即ち加藤ツバキが要は概ね木に濡れ場を接ぐためだけに、わざわざカメオ出撃する豪快さが清々しい。神が宿りもしない、微に入り細を穿つ悪弊に戯れるなら穴だらけともいへ、強引な力業は強引なりの絶妙な力加減まで含め、そこそこ底堅い一作。川辺に佇む加藤ツバキとタイトルバックを中心に、引いた画の強さが、そこかしこで映画を救ふ。
 尤も、だからベロの食料は人間の粘膜から出る体液だと裕樹から聞いてゐるにも関わらず、餌をやらうとするマリカが所謂バター犬的に表皮を舐めさせるのは、幾らきみと歩実のオパーイ感溢れるオッパイを見せる大義を優先した結果ではあれ、大人の娯楽映画としては些か通り辛いプリミティブなツッコミ処。ひとまづ先にハモニカを吹かせてからで、別に罰は当たらないやうな気がする。あと、介錯役に恵まれなかつた点も酌めなくはないものの、出番自体極々僅かな、二番手の脱がなさぶりが地味に衝撃的。

 世にいふ“かういふのでいいんだよ”を極めた覚悟完了のエロ映画、2019年第一作「若妻トライアングル ぎゆつとしめる」(桜木優希音と真木今日子もまりかと茉莉花)。正にマリカの扱ひに関して、旧弊なミソジニーが古色蒼然通り越して、古色惨憺たる2020年第二作「つれこむ女 したがりぼつち」に続く、マリカ・サーガ第三作。とか、気紛れに掻い摘みかけて。遠くエクセスに遡るか里帰りする幻のプロトゼロ作、2007年第三作「性執事 私を、イカして!」(主演:中島佑里)があるのを完全に忘れてゐた。もしかしたら、十有余年に亘る量産的創作活動の末、山内大輔当人も忘れてゐるのかも知れない。


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 「セミドキュメント オカルトSEX」(昭和49/製作:ワタナベ・プロダクション/監督:山本晋也/脚本:山本晋也/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照夫/音楽:多摩住人/助監督:城英夫/効果:秋山サウンドプロ/記録:前田美江子/製作主任:加藤良三/録音:大久保スタジオ/現像:東洋現像所/協力:ホテル 目黒エンペラー (03)492-1211㈹/出演:野上正義・堺勝朗・鏡勘平・乱孝寿・志摩京子・美鈴アイ・南スミ・早川リナ・仁科鳩美・葉山ジュン・吉沢恵子・木村典子・杉本可憐・松原ヨミ江・久保新二・滝沢明広・福岡三四郎・鶴丸昌治・西野泰)。さあて、あれこれ盛沢山。出演者中、美鈴アイと南スミに葉山ジュンが、ポスターでは美鈴愛と南ゆきに多分青葉純。鏡勘平と吉沢恵子・木村典子、松原ヨミ江以降は本篇クレジットのみ。逆にポスターにのみ、愛川彩なる謎の名前が載る、何で然様に好き勝手なのか。監督と脚本の別立ては、本篇クレジットに従ふ。企画の渡辺忠は代々木忠の変名で、製作の真湖道代は同じくヨヨチューの配偶者。二人の結婚が博く昭和42年(真湖道代当時十七歳)とされてはゐつつ、自身を回顧した「週刊代々木忠」の第五十五回「妻」によると2010年の四十一年前とされてゐるゆゑ、さうなると昭和44年にあたる。それと、本クレで拾はれて別に罰は当たらないナレーターの都健二が、今回は等閑視。
 赤バックのナベプロ作ロゴから、ウォーターベッドで志摩京子と、秋弘でなく明広なのは本篇クレジットまゝの滝沢明広が大絶賛真最中。お二人がヤッてはる画に、「愛の言葉で始まる性愛のスタートは」、「肉体といふ物理的愛撫によつてその最高潮を迎へます」。例によつて、生硬な声色含め無闇に観念論的な調子は徒な意匠に過ぎず、テキストの中身自体にも別に意味はない都健二のナレーション起動。ただ今回のミヤコレーションが一味も二味も違ふのが、男のナニから女のナニに脳波改め“性波”を送る性的念力、テレパシーならぬその名も“ポルノパシー”!の存在を晴々しくか白々しく宣言。画期的は画期的な珍機軸を謡つた上で、空想科学的なタイトル・イン。タイトルバック込みのタイトル前後と締めの濡れ場で再度使用する、膣内視点を得るための模型が観音様の方が矢鱈広大すぎて、棹が鉛筆の如くか細く映る女大男小な違和感が否応ない、春川ナミオの世界か。
 志摩京子と滝沢明広はタイトルバックまでで御役御免、とはならず、本篇冒頭も一絡み完遂で飾つたのち。ある意味最大の衝撃がガミさんが晩酌がてら見てゐるテレビ番組の形で、大橋巨泉が司会のユリ・ゲラーを特集した木曜スペシャルを、結構な長さ堂々と拝借してのける大概な昭和のフリーダム。斯くも無法な代物、おいそれとソフト化出来る訳がない、配信してゐるだけで他人事ながら冷や汗が出る。とまれ、すつかり感化されスプーンに曲がれ曲がれと念を送る斎藤三郎(野上)を、「曲がるくらゐならその前に勃つて欲しいは」。一週間御無沙汰の入り婿を、妻の節子(南)が明確な敵意を以て揶揄する。
 辿り着ける限りの、配役残り。ビリング順に堺勝朗と鏡勘平に早川リナは、三郎が籍を置く営繕課の田中課長と福田係長に坂東光子。ポスターでは、一応早川リナが先頭。次いで南ゆき、美鈴愛と続く、誰なんだスミ。一切の脈略を華麗か豪快にスッ飛ばすデフォルトで、要は狙つた女をモノにするポルノパシーの使ひ手―田中自身の用語では“念力SEX”―である課長が、斎藤と係長に吹聴する自慢話中、オトしたホステスが正直固定出来ないが上から潰して行くビリング推定だと葉山ジュン。往来の暗がりでは一瞬美人に見えた、吃驚するくらゐ若い乱孝寿は偶さかミーツした斎藤と忽ち連れ込みにて事に及ぶ、傍目には立ちんぼにしか見えない女。の正体が、実はやくざ(久保)とコンビの美人局。ガミさん&堺勝朗となら何時でも何処からでもジェット・ストリーム・アタックを撃てる、久保チンが係長とは邂逅する機会も与へられず一幕・アンド・アウェイ。念力マージャンで大勝ちした斎藤が豪遊する夜、多分キャバレーの「ハワイ」から持ち帰る女は仁科鳩美。順番に数へてみると六番手に沈む下位が、不遇と難じるほかない結構な逸材。結論を先走るとどうせ本筋といふほどの本筋も存在しないのだから、誰が重きを置かれるもへつたくれもなからう。美鈴アイは交通違反を取り締まる様子に、斎藤が見境なく欲情する婦警。その他主だつたところだと、斎藤が光子に念を送る公園にて、係長もトライしてゐたポルノパシーが誤爆する男と、制服婦警が―斎藤と―やつて来たのに、慌てる目黒エンペラーのフロント嬢が特定不能。地味に大きな謎が、美鈴アイに切符を切られるスズキジュンイチ。当時二十二歳につき、鈴木潤一を平仮名表記にしたすずきじゅんいちであつたとしてもおかしくはないものの、満足に首から上を抜いては呉れない以上―抜く必要もないんだが―何れにせよ断定はしかねる。
 先に挙げたユリ・ゲラーの木スペ「特集!驚異の超能力ユリ・ゲラーのすべて」の放送日が四月四日で、今作の封切りが八月三日。鉄を熱いうちに打ちのめすにもほどがある、山本晋也昭和49年第六作。“FUCK自在のポルノパシー(性的念力)を徹底解剖!!”、ポスターに踊る根も葉もない惹句が清々しい。
 端から田中が会得してゐるポルノパシーを、田中に師事するでなく、斎藤も何となく会得。有難味があるのだか矢張りないのか判断に苦しむ展開が、場当たり的なエピソードの羅列に過ぎないまゝに、迷ひも惧れも捨てた勢ひ勝負で駆け抜ける。よくいへば山晋らしい一作が、2022年視点でワーキャー喜ぶに値するのかと問ふならば。甚だ怪しいか心許ないといふのが、直截な偽らざる当サイトの回答。出し抜けであれ何であれ、琴線にヒットしたのは大胆にも営繕課のオフィス内。劇中最初に、田中のポルノパシーが光子に対して発動する件。目をヒン剥いた堺勝朗と、所謂メスの顔になる早川リナ。ガチョンガチョン寄るズームも乱打する二人のカットバックで、飛躍の高いシークエンスを力任せに捻じ込む剛腕のアバンギャルド演出と、先述したお昼休みの公園から、斎藤と福田が帰社したのが二時半。大目玉を落とす田中の、「何処の時計見たつて二時半なんですよ!」には普通に声が出た。軽演劇の素養を持ち元々オールドスクールの喜劇俳優たる、堺勝朗が他とは一味も二味も文字通り役者が違ふ。最終的に斎藤が辿り着いたポルノパシー通り越したセクソキネシス―今思ひついた適当な造語―の境地といふのが、挿入した節子の観音様の中で、棹をグキッと曲げる―実際に“グキッ”と音効を鳴らす―荒業・オブ・荒業。正直シンプルに痛さうで、抜けなくなりはしまいかとか無用の心配が先に立つスリリングなオチはこの際さて措き。赤バックに手書きのスーパーで、ポルノ映画のボカシが消えよと念じる旨促す、煌びやかに馬鹿馬鹿しい大オチがケッ作、誰も傑作とはいつてゐない。エンドマークも“終”なり“完”なり“FIN”等々でなく、“念”と入れてのける念の入れやう。離れすぎてゐて、意味が判らないけどね。


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 「激マブ探偵なな 手淫が炸裂する時」(2021/制作:ふくよか舎/提供:オーピー映画/企画・監督・編集:横山翔一/脚本:奥山雄太/プロデューサー:三橋翔太/撮影:佐藤直紀/照明:岩渕隆斗/編集・VFX・助監督:秋野太郎/制作担当:八ツ橋翔次・鶴丸彩/衣装:長瀬由依/ヘアメイク:安藤メヰ/録音・整音:田中秀樹/音楽:ひと:みちゃん/劇伴:松石ゲル・伊藤資隆/美術:柴田正太郎/装飾:岩間洋/特殊造形:快歩/タイトル:大脇初枝/スチール:篠田卓也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:きみと歩実、亜矢みつき、ジューン・ラブジョイ、長野こうへい、竹内健史、あらい汎、伊神忠聡、近藤善揮、高木健、卯水咲流《特別出演》、木村香代子、広瀬寛巳、吉田覚、松本卓也、中岡さんたろう、他ひと:みちゃんら夥しく多数)。まづ白旗を揚げておく、一般映画ばりの壮絶なクレジット情報量を、当サイトが誇、れない節穴の動体視力と記憶力とで全て拾つて来るのは土台無理。沙汰は未だ聞こえて来ないが何時かそのうち、円盤がリリースされたらそこで洗ふ、どうせフィジカルの方が先だらう。
 意図的に幾分落とした、ど頭はキネコ画質。夜の新橋西口通り、キャッチのクロフク(高木)が客を捕まへ、損ねる。勃たなくなり廃業した、初代セックス探偵の珍鎮(あらい)が見守るか水を差す中、二代目の果梨玉男(長野)と助手のなな(きみと)が特訓のセックロス。一方、そこそこ以上に所帯の大きな「トリプルエイチホールディングス」。草臥れリーマンの山田太郎(竹内)は、岡惚れる上司・大和(以下無記入は玉と砕けた残滓)が産休に入る激励会に、部長を後任する後輩・松本に引き継ぎ業務を押しつけられ出席出来ず。声をかけたクロフクも青ざめるほど、山田が完全に消沈して買ひに出た煙草の自販機。挙句百円ライターにも見限られ、半ベソの山田にガスマスクの怪人物が、三角形の紋章まで入つたジッポーで火を点けて呉れる。ジッポの蓋を閉ぢるや、男は消失。一服を深く吸ひ込み、通過する電車を見やる山田の背中フルショットから、後述する前作同様、新調した主題歌が威勢よく起動。普通にカッコいゝタイトルバックでメイン俳優部のクレジットを打ち込んだ上で、画面左半分に大書タイトル、右はきみと歩実が正座でニッコリ御挨拶するタイトル・イン。アバンから目を引くのが社屋ロケも全く十全なトリプルエイチに投入される、見た目も所作も手近で適当に見繕つた面子とはとても思へない高水準の大量動員と、まさかそのアダムジッポもわざわざ新造!?全体、この映画幾らで作つてゐるの。
 本篇の火蓋を切るのは二番手、セックス探偵の面々が根城とする表向きの稼業、チャイニーズオイルエステ店「アメノウズメ」の新人嬢・ハチ(亜矢)も交へた、改めての特訓セックロス巴戦。事後、新橋支配を目論む超男尊女卑犯罪結社、“Association of Domination with Amazing Men”を頭文字で略して「ADAM」と日々戦ふ果梨に、公式のカメオから連絡が入る。役つきに昇進、現場を離れる公安捜査官の長尾彩(卯水)は、果梨に独伊のADAMが初めて国際的に接触した事実を伝へ、本邦ADAMとの三国同盟阻止を依頼。事の最中に発動する超人的な推察力、シックスならぬ“セックス・センス”で捜査にあたる果梨をサポートする―即ち抱かれる―後任に、紐育市警から来日させた霞・ラヴクラフト(ジューン)を引き合はせる。多分丸腰の、彩のトリガーハッピーは治まつた模様。なほ白人部の招聘は、一撃必殺の告白がウルトラ泣かせる、滂沱の感涙作「むつちり家政婦 吸ひつきご奉仕」(2013/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:ティア)以来八年ぶり。は、いゝとして。同名同趣旨の犯罪結社が、各地で別個に興るちぐはぐな世界観はプリミティブなツッコミ処。
 膨大な配役残りを、目下辿り着ける限りで。丸が取れても丸々しさは変らない吉田覚(ex.吉田覚丸)は、ななに本番強要して出禁の大目玉を喰らふメンエス巨漢客。「恋の豚」は兎も角、竹洞哲也のパラレルな二部作を忘れてゐた。伊神忠聡は、姿を消した松本の捜索を望むHHH女子社員を伴ひ、「アメノウズメ」を訪ねる果梨の友人・前張達郎。この人確か設定だと俳優部の筈が、今回の劇中では制作部的なデスクワークしかしてゐない。木村香代子は果梨の大家から、松本の大家にプチ転職。事実上退場する果梨の代りに、珍鎮はクロフクに性豪を集めさせ五人の仮性セックス探偵を結成。揃ひの仮性Tが、本家の果梨Tより寧ろカッコいゝ。うち一名で、阪元裕吾の「グリーンバレット」あるいは「最強殺し屋伝説国岡[合宿編]」に於いて、最大瞬間風速的には主役の国岡昌幸(伊能昌幸)をも霞ませる、真中卓也役の松本卓也がゐるのには軽く度肝を抜かれた。仮性とはいへセックス探偵につき、当然女優部の恩恵にも与る。ただその体は、もう少し絞れるよね。近藤善揮は仮性の叛乱で「アメノウズメ」を失つた、珍鎮らが頼る映像制作会社「GOカンパニー」の社長・権座我鳴。GOカンパニー来客で、中岡さんたろうがシレッと紛れ込む。あとひろぽんは、何しに出て来たのか殆ど全く判らない、レス・ザン・ホームの情報屋。ピンクの座敷童を、外様が無理して連れて来た感も否めず。その他賑はふ新橋の往来始め、先述したトリプルエイチ要員とGOカン要員に、クライマックスの舞台となるネオ新橋ビル最上階、終電を逃したサラリーマンのオアシス―画的には安置場に近い―たる駅前サウナ「aSTiE アスティー」―実際にはaSTiLでアスティル―要員で優に数十人。その他、なながトリプルエイチに向かふ間、ハチの施術に悶絶する矢鱈一件に詳しい何かしら事情通に、松本以外のイランイラン名無し被害者。官憲部(にひと:みちゃん)etc.、途方もない人数がフレーム内に溢れ返る。全く不足を感じさせぬロケーションの数々に加へ、バトロワ的な首輪爆弾プロップの、最終盤に至つて遂に力尽きる如実な安普請にさへ気づかなかつたフリをすれば、美術・小道具にも隙はない。本隊近作でいふと、たとへば亜矢みつき(ex.神谷充希)の前作でもあるナベシネマと今作が、素人目ながら同じバジェットで撮られてゐるやうには正直凡そ見えないのだが、その格差の、所以は果たして何処(いづこ)に。
 横山翔一のピンク映画第二作は、当初からさんざ喧伝されてゐたにしては三年空いた、「絶倫探偵 巨乳を追へ!」(2018/脚本:奥山雄太《ろりえ》/主演:春原未来・長野こうへい)のその後を描いた「新橋探偵物語」正調続篇。では実はなく、公式の扱ひによるとあくまでスピンオフ。尤も、どちらでも大差ないけれど。ところで外様部隊が総本数に比して―元来ピンク全体で珍しめの―シリーズものが案外多く、梯子を外された荒木太郎とは異なり、自業自得で今をマキシマムにときめかない、金輪際ときめかなくて構はない榊英雄の、端から二本撮りされた「裸の劇団 いきり立つ欲望」(2016/脚本・助監督:三輪江一/主演:水城りの)を除いても、山本淳一の「ギャル番外地2 またシメさせてもらひます」(2020/主演:霜月るな)と、古澤健の「たわゝなときめき あなたの人生変はるかも」(2021/主演:松本菜奈実)に続く三本目。
 彩曰くに“真正の痴女”造形のラヴクラフトが最初に出て来た瞬間から既にトッロトロ―画面上の描写から窺ふ印象―で、あとはひたすらジャパニーズ・ウタマロに悶える通り越し白目を剥いて吠えるに只々徹する、純粋無垢な三番手ぶりを轟然と大披露。清々しさの陰で側面的に、高濃度媚薬で女々が廃人にさせられる、イランイラン事件から果梨を遠ざける。矢面に立たされたななは、大人しく認めても別に罰はあたるまい疑問もあれ、果梨に対する想ひに揺れながら怪人・イランイランに立ち向かふ。綺麗な物語が、第一作「絶倫探偵」の如く不用意にダークかウェットな方向に軸足を踏み外しもせず、そのまゝつゝがなく進行。荷物までまとめかけたななが、珍鎮の受け売りで華麗か現金に再起。お給料日に巷から女が消える、新橋最後の日。身体能力の高さを活かした特訓シークエンスも経て、ななが阿片窟ばりに煙るアスティーに単身赴く、王道展開は既に鉄板。イランイランとエステ対決と称した、要するに締めの濡れ場。“もう頑張らなくてもいゝよね”的な、カジュアルに心の折れる絶体絶命にまで追ひ詰められたななが、しかも絡みを通して、実は重ね重ね周到に打たれてもゐた布石を下に、果梨の幻影を突破し敢然と復活。凝り固まつた山田の女に対する怨嗟を、撃破しつつ浄化する大逆転は裸映画的にも、裸をサッ引いた素の娯楽映画としても一点の曇りも一欠片の衒ひもなくガチのマジで完璧。ピンクで映画のピンク映画の、近年稀に見る素晴らしい百点満点到達点。全て観る観ない以前に現時点で来てもゐないのに先走るが、全般的な完成度でいふと対「キモハラ課長 ムラムラおつぴろげ」(監督・脚本:城定秀夫/主演:七海なな)が流石に怪しいか厳しいにせよ、少なくとも締めの濡れ場限定でいふと2021年ブッ千切りで最高最強。強ひて難を論(あげつら)ふならば、ピンク的には若干姦しすぎるカット割り。もう少し女の裸を大人しく舐める、あるいは腰を据ゑて長く回す我慢を覚えて呉れるとなほ頼もしい。横山翔一が今後も量産型裸映画に留まるか否かは微妙なのかも知れないものの、とまれ未見の薔薇族も含めると三戦目で叩き出した感動作。嗚呼、今日はいゝ映画を観たと、心洗はれ小屋を後にした。

 こゝから先は、純然たる私事と与太、与太は全部与太なんだが。今作が上野にて封切られた当時、マネージャーと観に行くゆゑ、劇場で見かけたら声をかけて下さいねといふジューン・ラブジョイのツイートに触れ、何てエモーショナルなプロモーションなのかと激越な感銘を受けた。なので震へた魂を身銭で形にしようとあれこれした結果、思くそファンシーなラブジョイTシャツを購入。今も大絶賛愛用してゐるのみならず、堂々と着て小倉に出撃する、壮絶なキモオタムーブを敢行した。それはさて措き、目下ジューン・ラブジョイが、横山翔一の監督で主演自主映画を企画、クラファンで資金を募つてゐる。果梨とななの助けを得たラヴクラフトが、米ADAMと激闘を繰り広げる、「新橋探偵物語」第三作なら喜び勇んでぼちぼち出すぞ。
 付記< ナンバリングは第二作の「新橋探偵物語」第三作が、暮れにフェス先行で封切られる旨情報解禁。さうなると、セックス探偵・ゴーズ・アメリカは第四作でシクヨロ


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 「人妻淫靡行」(2021『淫靡な女たち イキたいとこでイク!』のOPP+版『人妻、ジャンプする!』の、更にDVD題/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:中尾正人/録音:大塚学/編集:山内大輔/音楽:Project T&K/効果・選曲:AKASAKA音効/ラインプロデューサー:江尻大/助監督:小関裕次郎/撮影助手:石川真吾・江森聖弥/ポスター:本田あきら/演出部応援:菊嶌稔章/撮影協力:ホテル サンセット・47style・斎藤光司・望月元気/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:加藤ツバキ・あけみみう・七菜原ココ・佐倉絆《特別出演》・石川雄也・橘聖人・安藤ヒロキオ・折笠慎也・山本宗介・小林麻祐子・サーモン鮭山・豊岡んみ・熊谷智穂・板井和美・鎌田一利・きくりん・森羅万象)。出演者中佐倉絆のカメオ特記と、豊岡んみからきくりんまでは本篇クレジットのみ。ついでに予告篇では、橘聖人に括弧新人特記。
 波打際の水面に「判つてる」、加藤ツバキのモノローグ起動。「思ひ描いた通りの人生を送れる人なんて」、「ほんの一握りしかゐないつて」。エプロン姿の専業主婦・江口弥生(加藤)が、こゝ何処?といふ風情で浜辺に立ち尽くす怪訝なフルショットに、「でも私は信じる」。「強い思ひを持てばきつと何時か、こゝぢやない何処かへ羽ばたくことが出来るつて」。屋内履きのスリッパが砂に沈む足下と、海に向かつて振り向いた弥生のソリッドな横顔を抜いた上で、暗転タイトル・イン。スタイルのよさ以前に黙つて立つてゐるだけで女優力漲る、加藤ツバキがロングに映えるアバンは強靭。宣ふ能書の、他愛なさにさへ耳を塞げば。
 品のない飲食店みたいな照明の、マンション一室。「これどういふこと?」、帰宅した弥生の夫・裕樹(安藤)が、穴の開いた靴下に因縁をつける。山内大輔―と安藤ヒロキオ―が古澤健との格の違ひを見せつけ、裕樹が一方的かつ強迫的な偽道徳を粘着質に捏ね繰り回す所謂モラハラに、弥生はといふと細い肩を竦め戯画的に恐縮するばかり。絡みの間も裕樹が間断なく無駄口を垂れ続ける、造形の周到さが裸映画を殺ぐ諸刃の剣に突入する夫婦生活の最中、終に裕樹との関係に耐へかねた弥生は、背面座位を振り切る形で“ブイン”と消失。画面の一部を波打たせる、“ブイン”処理が音効込みで秀逸。書き損じた原稿用紙が散乱する、畳の間に弥生は“ブイン”と出現。パラノーマルな現象に、無論全裸の弥生が当然の如く怯えてオッパイを隠す、加藤ツバキの可憐な御姿がまたエモーショナル。布団の中で寝返りを打つた、眠つてゐるex.ダーリン石川が目を覚ます寸前に往復の復“ブイン”、弥生は上手いこと自宅トイレに帰還する。翌日、今度は味噌汁で難癖つけられた弥生は再び原稿用紙部屋へとテレポート。用でも足して来たのか戻つて来る住人と入れ違ひ、弥生が次は砂浜に飛ぶのが開巻の海岸。潮の香りを深く吸ひ込んだ弥生は、未だ事態は呑み込めないまゝ、もう家には戻らないと覚悟を極める。
 配役残り、石川雄也が件の、原稿を文字通り書き散らかしてゐる藤森祐介。食へない本業は処女作『白いガーベラ』(光弾社刊/文庫のプリミティブな装丁が凄まじい)を一冊出版したきりの小説家で、元職は弥生の高校時代恩師。現職は、出張風俗嬢の送迎、のバイト。砂浜から弥生が更に飛んだラブホテル「Sunset」の102号室に、一発ヌク気運全開で現れる折笠慎也は「ハッピー不動産」の営業マン・田村。如何にもぽく見えるけど多分VANSではない、ピンクのハイカットがカッコ可愛いあけみみうは、田村が呼んだデリヘル「ピーチ倶楽部」の嬢・彩菜、本名は三沢すみれ。秀樹が改名した訳ではない、橘聖人はとりあへずヤサを探す弥生を戸建の賃貸物件に内覧させる、矢張りハッピー不動産の佐藤幹夫、即ち田村の後輩筋。森羅万象は幹夫が―唯一人―常連の、直截に不味くて閑古鳥鳴く小料理屋「みさわ」の主人・三沢。幹夫や義理の娘であるすみれが、店主を捕まへマスターと呼称するのに否応ない違和感を覚える。そこは森羅万象を擁してゐる以上なほさら、どう見ても大将だろ、店構へからマスターの柄ぢやねえ。「Sunset」でポップにwktkするサーモン鮭山は、逆ナン式に誘ひ込んだ弥生が、金だけ先に貰つておいて手洗から消える、サモといふより寧ろ鴨。山内大輔の二作前「はめ堕ち淫行 猥褻なきづな」(2020)で引退した佐倉絆は、幼少の幹夫を連れ藤森と再婚したみゆき、佐藤といふのはみゆきの元々姓。前夫、即ち幹夫の実父(山本)相手に、カメオながら茶を濁して済まさうともせず、全然普通に脱いでガンッガン対面座位で股がつてみせる、万全ないしフルコンタクトぶりには軽く度肝を抜かれた。熊谷智穂は最終的に若い男を作つて逃げた、三沢の妻にしてすみれの実母、この人は存命。そして散々ぱら温存される七菜原ココが、すみれからは一旦フラれた幹夫に一時的に出来た、固有名詞不詳のカノジョ。その他、男女五人の本クレのみ隊は、唐突にカレー屋としてリニューアルするや、俄かな活況を呈する「みさわ」を賑はす客要員。ところで鎌田一利ときくりんは、もう少し美味しさうか楽しさうに飯を食へないのか。といふか山内大輔による演技指導の有無も兎も角、特に菊嶌稔章は自身も演出部である以上、もう少し考へるべきかとは思ふ。オッサンが仏頂面でカレーを突いて呉れとか、些末なリアリズムに囚はれたのであればもう知らん。更にいふと筆鬼一(a.k.a.星野スミレ)では如何せん画が貧しくなるゆゑ、こゝはきくりんの対面がEJDといふ、何気に芳醇なテーブルを拝みたかつた心も残す。何なら、江尻大と菊嶌稔章が、ニッコニコ手を繋いで店の敷居を跨ぐカットがあつてもいゝ、無駄といふ言葉を知らんのか。
 台風十四号の接近に伴ふ鹿児島本線の半ドン運休が早々と発表されたため、外王で円盤を借りて来るプランGに移行した山内大輔2021年第一作。尺から十分強長い、中身の相違に関しては悪びれもせず等閑視する。特攻したところで別にデスりはしないけれど、何せ帰つて来れなくなるのね。
 藪から棒に瞬間移動の能力に恵まれた人妻が、自分の問題は半ば棚に上げ奔走する体の、超常的な人情譚。拙速に斬つて捨てると、今回山内大輔が思ひのほかヤバい、悪い意味で地味でなく派手にヤバい。数少ない見所のうち、最も特筆すべきはその都度その都度完璧な微調整の適宜施される、各ジャンプ時に於けるさりげなく超絶な弥生の所作。あとは―少なくとも―今作時点で何時でもビリング頭に帰つて来れる状態を保つ、佐倉絆の一欠片たりとて減衰してゐない決定力くらゐ。カウンター越しの三沢が、画面奥からすみれの恋路に一喜一憂改め一怒一憂する、森羅万象のロングレンジ至芸を忘れてゐた。其処から届く、圧が凄い。当人は勝手か何となく理解してゐる風なのが片腹痛い、弥生のギフテッド、の因果は甚だ漠然としたまゝ放置。藤森と幹夫を再会させる合目的性は認め得るにせよ、だからその目的なり、弥生に天賦を与へた主体は何なのよ、気紛れな神か。重ねて失はれたあるいは奪はれた、フリーダムを弥生が取り戻す。シンプルな奪還の物語に一点突破すればいゝものを、ゆすみれと幹夫のつかず離れずが弥生の本丸を阻害。連れ子同士で巡り合ふ、一つ目の器用な劇中世間の狭さはさて措き、再婚後僅か半年で山宗と情死に至る。そもそも何故みゆきは藤森と再婚したのか、エクスキューズのeの字も設けられない、木に藪蛇を接ぐ盛大な謎が劇映画上の致命傷。一人ぼつちで全部作り上げた自主映画ぢやなからうに、大の大人が雁首並べて、誰も何とも思はなかつたのか。ver.の差異に留意すると、一時間前後待機を強ひられるスリリングな七菜原ココの用兵は、遅きに失した三番手の投入が展開を爆砕してのける、荒木太郎的―あるいは三上紗恵子脚本的―な破局をハイテンポな離れ業で辛うじて回避、と目して目せなくもないものの、もう一箇所開いた大穴が男主役の橘聖人。少しでも荒げた途端、ずたぼろに割れるキンタマもといボロッカスな発声、に、劣るとも勝らず。この人AV男優部の出自にしては、要は根本的にメソッドが異なるのか、大概な濡れ場下手がピンク映画的な致命傷。締める筈のあけみみうとの一戦が、ものの見事に締まらない。それは果たして、見事なのか。ただ漫然とした外見から脱いでみると意外に作り上げられてゐる、ステルス性能のマッシブは買へる。八年間の結婚生活を捨てる腹を括つた弥生が「私は、自由だー!」とか、キメに来たシークエンスのつもりで、クッソ凡庸な台詞を演者に叫ばせる救ひやうのないダサさにも鼻白む。尤も、物理的にも裕樹が痛い目に遭ふフィジカルな懲悪に免じて、弥生が案外近所でしか飛んでゐない、二つ目の清々しい劇中世間の狭さにはツッコまずに通り過ぎる。結局寸借詐欺と不法侵入で急場を凌ぐ、弥生に勧めるほどの善は別に存在すまい。フレーム内を左から右に進むすみれと幹夫が、逆に右袖からフレームに入つて来た弥生・藤森と間抜けに鉢合はせる、スニーカーしか満足に回収しない、屁のやうなラストが逆の意味で完璧。敢ていふなら外様とはいへ、山内大輔にも草臥れられると―全体の状況的に―結構キツい、消極的な問題作である。
 裕樹のフィジカユな懲悪< 彩菜相手に無理心中を図り、救出に飛び込んだ藤森から金属バットで半殺し


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 「同棲性活 恥部とあなたと…」(2020/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:小山田勝治/編集:中野貴雄/録音:池田知久/整音:西山秀明/助監督:江尻大/撮影助手:赤羽一真/スチール:本田あきら/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐藤りこ・みひな・可児正光・八ッ橋さい子・愛葉るび・吉行由実・河井夕菜・松偉理湖・赤羽一真・森羅万象)。出演者中、赤羽一真は本篇クレジットのみ。
 夜景にタイトル開巻、早送りで夜が明ける。一転曇天の複合商業施設から可児正光と、愛葉るび・河井夕菜(河合から改名した?)・松偉理湖が出て来る。マコト(可児)が帰宅すると帰省から戻つて来た、同棲相手のエミリ(佐藤)が寝てゐた。両親の仮面夫婦ぶりに匙を投げるエミリに対し、マコトもマコトで夫の浮気に三下り半を叩きつけた実母がマコトの出産直後に出奔したゆゑ、三人の愛人―が久美子(愛葉)と郁恵(河井)に佐知子(松偉)―に育てられた過去を持ち、冒頭はその感謝の食事会だつた。そんなマコトの父親で、AV監督の泰三(森羅)が最早薬に頼らずには勃たない体を押し、拘束した夏美(八ッ橋)を責める。一方、足しにとマコトがAVを買つて来ての、エミリとのセックロス。騎乗位に狂ふあかね(みひな)を見た、エミリの表情が強張る。三年前、男に手酷くフラれたのを慰めてゐたところ、肉体的にも慰めて呉れるやう求められその後音信不通の親友・早苗(みひなの二役目)と、あかねは酷似してゐた。そら似とるはな、なんて潤ひを欠いたツッコミは兎も角。あかねと早苗があくまで別人である旨示すアイコンの、意図的に似合はない品を選んだのかとさへ映る、ダサいウェリントンは明確に頂けない。メガネをかけると可愛さが減衰する、だなどと人類史上最たる妄言は99.99999%正しくない、大抵は単にチョイスを間違へてゐるだけだ。
 出し抜けに火を噴く真理、ないし恒久の光芒を放つジャスティスはさて措き、配役残り吉行由実は、近しい仲の久美子からマコトの近況に関する報告も受ける、この人が生みの母・聡子。軽く首を傾げさせられるのが、本職は俳優部らしい赤羽一真の、出張中のマコトと会話を交す多分札幌ら辺の同僚と、聡子の再婚パーティー参列者の二役。背中しか見せないサッポロ氏(超仮名)なんて別にEJDで賄へるか、いつそ要らなかつた藪蛇感は地味に否み難い。もう一人、公園にてあかねがエミリとマコトにスマホを向けてゐると、二人に挟まれた空間、即ち画面ど真ん中・オブ・ど真ん中にプラーッと歩いて来るのは、純然たる間抜けなフレーム闖入者、そこは流石に撮り直せよといふ気もしなくはない。
 松偉理湖(ex.松井理子)と昭和アイドル歌謡のカバーユニットで活動してゐる縁と思しき、愛葉るびが伊豆映画前夜「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/監督:小川欽也/脚本:岡桜文一/協力≒脚本監修:関根和美)以来で飛び込んで来る、ガチのマジで度肝を抜かれた電撃復帰を遂げた吉行由実2020年第二作。2021年は沈黙した一年半後の吉行由実最新作にも、引き続き継戦してゐる愛葉るびの印象を脊髄で折り返すと、首から上がそれなりに丸くなりはした程度で、まだまだ、まッだまだ全ッ然イケる、戦へる。
 まづ夏美とあかねが同居、そしてあかねは夏美と泰三の結婚に伴ひ、転居の要にやんはりと迫られる。一方、夏美が実はマコトの元カノで、泰三のギックリ腰に際し呼びつけたマコトと泰三が、泰三が疎遠の息子に話してゐなかつたゆゑあれこれ驚きの再会を果たす。さういふ奇縁であかねがマコトに相談、更に話を振られたエミリが何故か首を縦に振り、マコトら宅にあかねが転がり込み、早苗と同じ顔の女の登場にエミリは内心動揺する。とかいふ、複雑といへば複雑に構築しはした、バクチクする激越な劇中世間の狭さは御愛嬌。そこさへ通り過ぎられれば、後はどうにかなる。不思議なのがウィキペディアの今作の項に、“一部設定などにオマージュが含まれる”関連作品として吉行由実1998年第一作、兼通算第三作「発情娘 糸ひき生下着」(脚本:五代暁子/主演:林由美香)が挙げられてゐる謎。ヒロインが自身のセクシャリティに揺れこそすれ、何処が如何に絡んでゐるのだか当サイトの節穴には正直ピクリともピンと来らん。往時早苗から乞はれた同性愛に応じられなかつた、エミリの桎梏は裸映画の文法で何となく突破。エミリとあかねが咲かせる百合に、マコトもフランクに加はる。都合のいゝこと羨ましい、もとい極まりない三角関係が最終的に成立する、文字通りの以前に。聡子の再婚相手が、あれやこれやの世知辛さは見事に丸々等閑視して済ますまさかの久美子。夏美からはリスキーな薬物依存を戒められた泰三も、余勢を駆る形で偶さか回春。結構力技の大団円に雪崩れ込み明示的に謳はれるハッピー・エンディングは、線の細さと紙一重の繊細ではあつた「ベストフレンド」より寧ろ、LGBTの風呂敷をオッ広げながらも、徒なアクチュアルはなだらかに流した2017年第一作「股間の純真 ポロリとつながる」(主演:あゆな虹恋)との親和が、余程近しいやうに思へる。冷静に検討してみると霞より稀薄な物語ともいへ、他愛ない会話を撮るのに長ける演出力で繋ぎの件も厭かせず楽しませつつ、乳尻でヌく、もとい乳尻を抜く本義は忘れない上で、女優部を主に表情も丁寧に捉へる。質的に何気に一線を画した濡れ場を、拘泥した些末な主題に尺を割かれるでなく、量的にもふんだんに畳み込む。面白い詰まらないでいふと取り留めのないにせよ、穏やか且つ力強く見させる良質の量産型娯楽映画。頑強な思想を今なほ貫く浜野佐知は終に辿り着き得ない―そもそも望んでゐない―であらう、女流御大の領域に吉行由実がいよいよ到達した気配をも窺はせる一作。惜しむらくは、さういふ吉行由実に年間四五本は当たり前の、リアル量産体制を採らせ得ない世情。口先ばかりのお前等が、金を落とさないからだろと居直られてしまへば、返すトリプルクロスもないんだけど。

 と、ころで。どストレートな“同棲性活”はまだしも、語感の所以なり文言の意味なり、下の句が何が何だかサッパリ判らない闇雲な公開題に、そこはかとなく漂ふエクセススメル。


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 「ギャル番外地2 またシメさせてもらひます」(2020/制作:ストラトス/提供:オーピー映画/監督・脚本:山本淳一/プロデューサー:黄金旭/撮影:橋本篤志/照明:大庭郭基/録音・MA:大塚学/助監督:森山茂雄・福島隆弘/編集:皿井淳介/特殊造形:土肥良成《はきだめ造型》/VFX:夜西敏成/殺陣:米山勇樹・本尾昌則/ダンス監修:AYASA/スチール:中江大助/演技事務:マイティー/衣装提供:山本絹子/撮影助手:伊東佳純/造形部:戸塚美早紀・村瀬和志/制作担当:近藤哲二・死の原惨太郎・石橋幸輝/音楽:山崎裕右《Artlark》・川口泰広/主題歌:『Ooku~大奥~』by ☆MEMI☆/ED曲:『マッドフォクシー』by ☆MEMI☆/挿入歌:『Outside world』by results in cert/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/美術協力:クマノ商会・T. Miyazaki・Y-10生活向上委員会/制作協力:レインメーカー・Trinity Works・株式会社MARCOT・赤田ペン吉・シネマコレクターズショップ映画の冒険・佐々木勝己・国沢実/出演:霜月るな・早乙女らぶ・しじみ・塚田詩織・渡辺一人・石田輝・小滝正大・太三・近藤善揮・ゆたち・マルポ《声の出演》・ワニ完才・豊岡んみ・新井舞衣・三上あや香・CHIHIRO・滝本より子)。出演者中、マルポは本篇クレジットのみ。
 「文明崩壊!弱肉強食!」。ワニ完才が黙らずに見てゐる前で霜月るなと、荒木太郎2017年第二作、といふかこのまゝ復権が図られない場合最終作「日本夜伽話 パコつてめでたし」(主演:麻里梨夏)ぶりピンク第三戦の塚田詩織が激突する、火蓋が切られてタイトル・イン。後述する前作で件の人が死んでゐたのを正直覚えてゐない、兄を睾丸を潰され殺された梅垣(ワニ)が、貞操帯的なプロップで洗脳したヴィルダー(塚田)を、兄の仇たるマッドフォクシーズ初代リーダー・ボウィ(霜月)と戦はせる。ちんたらした演者の動きを、カメラも暴れさせて誤魔化す温い立回り。余裕で圧倒しながらも、不意を突かれたボウィが三日間半径2km以上移動すると起動して死ぬ、ポイズンカプセルをヴィルダーから飲まされる一方、梅垣とヴィルダーは一旦退散。くたびれたボウィは、全然勇ましくはないイサム(石田)と出会ひ、場所を適当に移した上で筆下しする。とりあへず帰宅したイサムとボウィを、イサムの家で事実上飼はれるマリン(しじみ)とエンジェル(早乙女)が出迎へる。イサムらが暮らす町は、女は男の奴隷として生きるほかないヒャッハーな社会風土。マリンは御伽噺と一笑に付す、統治者のグランドママー以下女が男を虐げるファムシティと、実働部隊「マッドフォクシーズ」の噂話をエンジェルは救世主的に信じてゐた。ところで早乙女らぶも、後藤大輔2014年第二作「小悪魔メイド 後ろからお願ひします」以来結構久々のピンク三戦目。こゝだけの話、言葉を選ぶと後天的な目の大きさが怖い、何処だけなら。
 配役残り近藤善揮と、挿入歌を担当したピアノロックバンド「results in cert」(2019年解散)のVo./Gt.であるゆたち(現在は清家ゆきち名義で俳優活動も行つてゐる模様)は、何故か顔を緑と黒の二色に塗り、子供を助ける医薬品を届けようとかしてゐる人等。ゆたちをラリアット一発で葬る太三が、イサムが末弟の三兄弟長兄。ビジュアル的には所謂ペニパン状の、終盤二発目を防がれる描写を窺ふに実体弾を射出するのでなく、あくまで射精を殺傷力を有するほど加速してゐると思しき、チンコショットガン―劇中用語ママ―で近藤善揮を仕留める小滝正大が次兄。ズボンを下すと細長い銃身が現れるチンコショットガンに、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」のトム・サビーニよりも、タックからバントラインを抜く「ドーベルマン」のマニュを先に想起した。閑話、休題。何せ公称が五十六の小滝正大よりも、ホントは年下ではないのかと思へなくもない渡辺一人が、三人の父親。パターナリズムでマチズモを増幅させる厄介な御仁の割に、ナーバスな潔癖でもある。といふ造形が、野グソを垂れかけてゐた初登場と、地味に齟齬を来しはしまいか。兎も角仮称渡辺家に―身動きのとれぬ間―留まるに際して、ボウィはマリンの発案で男装する格好に。てな塩梅でチョーカーで変換した男声の主が、予め検索を拒むかの如きマルポ。神楽アイネは連れて来なかつたのか連れて来れなかつたのか、兎も角キャンディは人影で茶を濁しつつ、CHIHIROはのちにボウィ出奔後、マッドフォクシーズ二代目を張るアリア、滝本より子がグランドママー。三上あや香がコングで、豊岡んみがキャンディ。新井舞衣は再びファムシティを去るボウィを見送る、キャンディとは百合の花香る仲のナナ。マッドフォクシーズの制服たる赤いレインコートの、聞いて吃驚なトンデモ機能が開陳される。
 無印第一作「ギャル番外地 シメさせてもらひます」(2019)がそれなりに好評を博したのか、山本淳一ピンク映画第三作は前作に於いて舞ひ戻つたファムシティから改めて出て行つた、ボウィのその後を描いた正統続篇。滝本より子とCHIHIROの名前がポスターに載るのに、グランドママーとアリアはボウィからキャンディの落とし前つけられてね?と事前に訝しんでゐたところ、この二人は色々便利なチョーカーに残されてゐた―にしては所々でなく視点がおかしいのは気にするな―ファムシティ誕生当夜の記録にしか出て来ない。無印冒頭のイントロによれば“ 文明の半分と電脳空間が完全に破壊された”割に、ポイズンカプセルだ多機能チョーカーだ、挙句の果てにはナノマシン製で装着者の戦闘能力を強化するパワードスーツだなどと、ゴキゲンか御都合な超化学が闇雲に狂ひ咲くのは御愛嬌。忘れてた、洗脳貞操帯も。
 エンジェルに乞はれる形で、ボウィは女を男の支配から解放する、二度捨てた筈のファムシティを再々度目指す。男尊女卑と女尊男卑の二択しか見当たらない、何気にでなく歪んだ世界観に関してもこの際さて措け。結構マッドマックスばりの大風呂敷は作劇云々以前に、満足なロードムービーを構築してのけるだけのバジェットを端から望むべくもなく、展開を動かす方便に適宜持ち出される程度で、凡そも何も別に広げられはしない。へべれけな俳優部と、順調にグダる演出は相変らず。わざわざ殺陣師をしかも二人擁してゐるにも関らず、国沢実のションベン活劇に劣るとも勝らないアクションの他愛なさは逆の意味で画期的。ラストを飾り損ねる、心許なくすらないダンスも荒木太郎の盆踊りと乙丙つけ難く酷い。さうは、いへ。音楽の富を、奪取せよ。轟音で鳴らす「アーイウォンチュゲー」―多分“I want you girl”―の歪(ひづ)んだシャウトが激越エモい、挿入歌「Outside world」で無理から点火するエンジェル絡み一撃必殺のエモーション都合二撃。貞操帯プロップを外したボウィが、ヴィルダーに女を思ひださせ洗脳を解かんと、「股、シメさせてもらひます」の啖呵とともに手マン。フィンガリングを“股をシメる”と称する、超絶の言語感覚にも震へさせられる、公開題を見事に回収してみせた名シークエンス。前回のボウィ・ミーツ・キャンディ同様、キメ処はガッチガチにキメて来る、山本淳一の勘所を逃さない嗅覚は健在。一見至らないカットばかりにも思はせ、最終的には信頼して観てゐられる心地よい娯楽映画。幾らヴィルダーは洗脳状態にせよぞんざい極まりない、マリンの無体か無造作な最期は忘れれば、何やかや留保が多いな。裸映画的には梅垣がイサムを掘る、薔薇まで咲かせる濡れ場の手数は潤沢な反面、頑なささへ覚えかねない完遂率の低さには幾許以上の疑問も否めないが、この人は不脱なのかと諦めかけてゐた四番手が、最後の最後が本当に最後。ED曲が流れ始めて漸く、主にエンドクレジットのタイトルバックで自慢の爆乳を藪から棒かさして有難味もなく放り出すのには、「こゝで脱ぐのかよ!」と軽く腰が抜けた。


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 「愛人 悦楽の午後」(昭和60/制作:俥企画/配給:株式会社にっかつ/監督:薬師寺光幸/脚本:黒岩幻城/企画:奥村幸士/プロデューサー:照井公咲/撮影:志村敏夫/照明:斉藤政弘/録音:ニューメグロスタジオ/編集:田中修/音楽:PILLAKUN/助監督:東田真一/制作主任:松川充雄/現像:東洋現像所/効果:小針誠一/記録:竹本祐子/メイク:志川あずさ/出演:青木ひろみ・伊藤久美子・河田清志・上田幸輔・萩原賢三・大木祐司・沢田誠志・黒岩幻城・俵山栄子・水美翔・六本木舞・城源寺くるみ)。出演者中、黒岩幻城と俵山栄子は本篇クレジットのみ、配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。あと、白井伸明とする資料も散見される、何か文字化けしたみたいな名前の照井公咲が、その他活動の痕跡はガイラ(=小水一男)のスプラッターVシネ「GUZOO 神に見捨てられしもの」(昭和61)の企画くらゐしか見当たらない。
 エレベーターが開いて、泡沫女優部の安斉ミカ(青木)が出て来る。楽屋に顔を出すも、水美翔の髪を作るのに忙しいスタイリスト(俵山)から、名無しホステス役のミカは無造作に扱はれる。一方、所属する斉田ボクシングジムの会長(萩原)と女トレーナー・桃代(伊藤)を左右に従へ、連続KOの日本タイ記録に並んだフェザー級ボクサーの北原暁(河田)が大勢の記者部(大木祐司・沢田誠志ほか沢山)に囲まれ通り過ぎ、た後に。次戦の激突が予想される日本王者・バズーカ三浦(上田)がシレッと通路の壁にもたれ、要は身を隠しもせず佇んでゐる間抜けなシークエンスはもう一手間どうにかならなかつたのか。自分で適当に見繕つた衣装にそれはそれとして御満悦のミカ挿んで、滲ませたネオンにクレジットが先行。何某かに乗つたか載せられた青木ひろみがスーッと平行移動するタイトルバック、細山智明が多用した印象も強いが、要は昭和末期に軽く流行つたと思しき香ばしいメソッドの、源は何処かにあるのか否や。
 例によつてのエキストラをバラされ、落胆してJOAK-TV局―これ実名使用してるの地味でなくヤバかねえか?―を後にするミカにバズーカが接触。芸能界に顔の効く親爺のコネをちらつかせ愛人にしたミカに、バズーカは斉田サイドに接近しての、試合前の北原に睡眠剤的な薬物を飲ませるミッションを強ひる。とこ、ろで。斉田ジム内の会話に於いては、バズーカ父は医者とされてゐる、脇の甘いちぐはぐさもどうにかならいものか。兎も角配役残り、六本木舞と城源寺くるみは水美翔同様、楽屋を飾る女優部。六本木舞に至つては一言の台詞も与へられない、脱ぐ脱がぬ以前の端役ぶり―水美翔も水美翔で満足に抜かれもしない―は勝手に騙された軽く詐欺。ミカをバラす助監督なり、北原陣営の男トレーナー等々、候補が複数見当たる黒岩幻城は特定出来ず。あとミカがバズーカと出会ふ、バイト先スナックのママさんもノンクレ。
 監督第二作「幕末純情伝」(1991/製作総指揮:角川春樹/製作者:奥山和由/主演:牧瀬里穂)が今なほ毀誉褒貶喧しい、以外、軽くググッてみたところで外堀の“そ”の字も埋まらない薬師寺光幸の第一作。確認し得る最古のキャリアが、「アイコ十六歳」(昭和58/監督・共同脚本:今関あきよし/主演:富田靖子)のサード助監督といふ辺りが更に謎、飛花落葉の彼方に出自が霞む。
 六本木舞に城源寺くるみ、往時如何にも訴求力の高さうな名前でポスターを賑やかしておきながら、蓋を開けてみると脱いで絡む女優は二人きり―桃代は北原と男女の仲―といふ一種の羊頭狗肉と、一時間にも満たないピンクばりの短尺。一見随分小粒の初陣にも見せ、バズーカ三浦V.S.北原暁のタイトルマッチに際して、ホールを借りてのける辺りは買取系とはいへ流石のロマポ。悪魔に魂を売つてでも栄華を狙ふでなく、案外惰弱に二の足を踏むミカに、桃代がゐるにも関らず、何故だか北原は都合よく入れ揚げる。最終的には全員破滅する非情か無常なラストまで含め、ありがちな物語は大袈裟に破綻すらするでなく、ツッコんで楽しむ訳にも行かない程度。に思はせかけておいて、多用するロングを効果的に利した、カットの繋ぎには所々切れ味を感じさせなくもない。大雑把に片付けるなら暗がりの中寝落ちる落ちないは、偶さかな体調に支配されようなかなか掴み処を欠いた一作。男顔と肉感的な肢体がより琴線に強く触れる、伊藤久美子をお留守に北原が青木ひろみに心を移す展開が、個人的には感情移入に甚だ難い。「あんたアタシが作り上げた最高のボクサーなんだよ」、「誰にも渡さない、渡さないんだからあ」とエモい一途さを爆裂させての、桃代から北原に覆ひ被さる濡れ場が火蓋は完璧に切る反面、カッコつけずに、照明当てろといふフラストレーションは否み難く、弟子がミカを抱くのを終ぞ堪へる傍ら、斉田会長はザクザク喰ふ一戦。さしたる演出上の企図を窺はせもせず、手持ちとフィックスとで安定しない撮影に、アダルトビデオの侵攻に揺れる当時の空気を感じ取つてみたりもするのは、為にする素人考へに過ぎないであらうか。


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 「つれこむ女 したがりぼつち」(2020/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:藍河兼一/録音:大塚学・光地拓郎/編集:山内大輔/音楽・効果:project T&K・AKASAKA音効/ラインプロデューサー:江尻大/助監督:井上卓馬/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:赤羽一真/特殊メイク・造形:土肥良成・李華曦/ポスター:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:桜木優希音・きみと歩実・七菜原ココ・里見瑤子・森羅万象・安藤ヒロキオ・可児正光・ケイチャン・サーモン鮭山・小滝正大・折笠慎也・杉浦檸檬・井尻鯛・吉原麻貴・川瀬陽太)。出演者中、孤高のラッパーと吉原麻貴は本篇クレジットのみ。
 東京スカイツリーを一拍挿んで、カメラは薄暗くダダッ広い無人の家屋に。エンドとはサーモン鮭山と小滝正大の順番が入れ替る俳優部、と山内大輔のみクレジットした上で暗転タイトル・イン。正直、アバン―から暫く―は小屋で観てゐない、後述する。
 本篇の火蓋を切るのが、白塗りのおどろおどろしさがヨコハマメリー通り越してジョーカー状態の里見瑤子。酒に沈み赤ん坊の人形を可愛がる女ホームレス(里見)を、通りがかつた桜木優希音が足も止め注視、それを感知したガード下メリーは動物的に威嚇する。歌舞伎町一番街、今何処小山悟の単独初陣「ドM卒業 さよなら、ご主人様」(2015/脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:佐山愛)以来の電撃復帰で飛び込んで来たサーモン鮭山が、高級ソープ店にて嬢の愛未(桜木)を抱く。具合は頗るいゝものの、愛想どころか殆ど全く無反応の愛未にサモ鮭は気分を害する。一番街から都落ちした、歌舞伎町さくら通り。の店でも店長(井尻鯛=江尻大/a.k.a.EJD)が客からの苦情に業を煮やし馘になつた愛未は、寮を追ひ出されたのか、不動産屋(小滝)から無人の下宿屋といふ、一人暮らしにしては途方もなく広大な―しかも二階まである―戸建を心理的瑕疵物件とやらの破格安で借りる。そんなこんなな新生活、さくら通りでの同僚・真凛(七菜原)が惚れてゐた路上の志集売り・カヲル(可児)を見かけた愛未は、第25集を志集の定価たる三百円で購入。帰宅後繙いてみた志集には、オリジナルの象形文字が綿々と連ねてあつた。情事の最中でさへ左手人差し指を虚空に掲げ、常時何かしら受信してゐるカヲルの所作が秀逸。
 配役残り吉原麻貴も、真凛同様愛未のさくら通りでの同僚・モモちやん。多分モモちやんがキープしておくやう頼んでおいた筈のプリンを、真凛は愛未に食べさせてない?ケイチャンは、フリーの立ちんぼ―劇中用語では直引き―を始めた愛未の客。マシンガン関西弁で愛未の名器ぶりを観客に伝へるのは、グルッと一周させ効果的に利した諸刃の剣。森羅万象はガード下メリーこと恐らくアケミに、一回幾らなのか手コキを頼んだ事後、殺害してクッキー缶の中に貯め込んだ精々小銭を奪ふ鬼畜ホームレス。「僕のこと覚えてゐますか?」だなどと愛未の前に斬新か木に竹を接ぐ現れ方をする安藤ヒロキオは、並行世界の存在を数学的に立証しようと試みる、理論物理学者の江口裕樹。江口に劣るとも勝らず、割とでなくノー文脈で自由自在に出没する川瀬陽太は、二十年前に水死した愛未の義父・ゴロウ、苗字は吉井か。この人の扱ひが実は一番大概なきみと歩実が、最終的に江口の妻となる女・マリカ。折笠慎也と杉浦檸檬は大体三十年後くらゐ、依然同じ会社が管理してゐる多重事故物件を内覧させる小滝正大の遠い後輩と、父が遺した研究を爆心地で完成させようとする、江口の娘・真夢。しかし潰すのも怖いのか、その会社は縁起の悪いレガシーを、全体通算何十年放置し続けるつもりなんだ。
 元来開映時間の不安定な小倉名画座が思ひのほか早くオッ始めた挙句、桜木優希音が包帯でグルグル巻きの可児正光を、家に上げ飯を食はせてゐるところでブッ手切りやがつた山内大輔2020年第二作。そのため小滝正大―の声はテケツで聞こえた―が出て来るまでと、端折られた残りはOPP+版のDVDを外王で借りて来て済ませた。極端に濡れ場の薄い、ある意味不誠実な映画につき中途で匙を投げたKMZの気持ちも判らなくないとはいへ、流石に今後かういふ真似を続けられるとわざわざ遠征を出張るに値するのか否か、そのうち検討の要も発生しかねない。あと、勘のいゝ御仁はテケツで立ち止まられたかも知れないが、ちなみにピンクの小倉名画座1―薔薇の狂ひ咲くKMZ2は知らん―に所謂ホワイエは存在しない。表のガラス扉を開けると手洗個室程度のテケツがあるばかりで、もう一枚ドアを開けるとすぐ場内。なので座席の背後に自販機―誰かが何か買ふ度に、映画の最中随時爆音を鳴らす―が設置してあつたりもする、なかなかフリーダムな小屋ではある、客層以前に。
 劇中父親としか会話を交さない寡黙な売春婦の静謐な日常を、出し抜け気味なパラレル風味を塗して描く。ただ黙つてそこにゐるだけの桜木優希音をもエモーショナルに捉へる、澄んだ冬の空気の如く、透明感と硬質さとを併せ持つ撮影。抑制的な遣り取りが徐々に開く秘密の蓋とともに、ドラマチックに高揚する愛未とゴロウの対話。何れも訴求力の頗る高い二段構への見所に、コロッと騙されかけなくもない、にせよ最終的には結構な問題作。この期に国映でもあるまいし、羊頭狗肉の領域に易々と到着するレス・ザン・女の裸に関しては、琴線を激弾きし続ける主演女優のショットの弾幕に、ついうつかり忘れてしまつたフリをしたとて構はない。尤も、さうもいつてゐられないのが、暴力的に出鱈目な江口の造形。何某か面識があつたのか単なる江口の口から出任せか結局愛未との接点―の有無―に触れない、矢張り安藤ヒロキオで竹洞哲也2020年第一作も脳裏の片隅を掠める、来し方の覚束なさに軽く吃驚したのはまだ全然所の口。実質三番手の投入法に相当頭を悩ませた、山内大輔が終に乱心。したとでも考へた方が寧ろ理解に易い、聡明で美しいマリカの自らに対する想ひを、選りに選つてカヲルに犯させることで江口が試さうとする仰天展開には、プラトニックな恋路の梯子を外された愛未以上だか以下に度肝を抜かれた。あのさ、それ全体何十年前のミソジニーなのよ。直截にいふと大蔵はピンク映画の新しい在り様なり時代を窺ふに際し、この人を連れて来てゐて、もしくはこんな人を連れて来てゐて果たして大丈夫なのか。ゴッリゴリにどエロい、超実戦的な裸映画の歩みを進めさせるのならば兎も角。
 流れ的にレス・ザン・女の裸に話を戻すと、上野オークラ劇場マスコットガールの四代目といふ大看板を背負ふきみと歩実が、形式上の番手はさて措き事実上絡み要員に回―らされ―る。山内大輔もなかなか反抗的な真似をしてのける女優部三本柱は、初陣らしからぬ手堅さを煌めかせる七菜原ココまで含め十二分に磐石。束の間の濡れ場が束の間ながら、それなりに確かな手応へを撃ち抜いてゐてもおかしくなかつた、筈なのに。如何せん画面が暗い、誤魔化さずには撮れぬ訳でもなからうに、カッコつけずに照明を当てて欲しい。観客の、見たいものを見せる、その最も原初的なジャスティスに何故背を向ける。研究云々以前に素の人間として、江口が到底塞ぎきらない大穴どころか底を丸ごと抜いてしまつた以上、所詮詮ない話でもあれ、藪から棒をゴロウの力技とカヲルといふ飛び道具で無理から固定する最低二つの此岸と彼岸に関しては、顕示的に愛未の立ち位置も投影した、此処ではない何処かへと希望を繋ぐ真凛の姿を通して首の皮一枚、メタとの両面映画的にも救ひを残す。さうなると改めて、対マリカ戦に於けるカヲルの粗雑な用兵が重ね重ね惜しいのは、堂々巡るいはずもがな。

 正反対な二つの過去が正面衝突する終盤の盛り上がりは面白いが、にしても今時下手な玩具よりショボい、転位装置的なガジェットと思しき金属板に二三本毛を生やした程度のプロップは、もう少し―でなく―どうにかならなかつたものか。


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 「はめ堕ち淫行 猥褻なきづな」(2020/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:田宮健彦/録音:大塚学・柳田耕佑/編集:山内大輔/音楽・効果:project T&K・AKASAKA音効/助監督:江尻大/制作進行:泉知良/撮影助手:末吉真/特殊メイク:李華曦/特殊造形監修:土肥良成/森羅万象スタイリスト:大石幸平/ポスター:本田あきら/エキストラ協力:長谷川千紗・河合夕菜・有志エキストラの皆さん/撮影協力:喫茶 マリエール・ステージドア/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:佐倉絆・桜木優希音・並木塔子・森羅万象・石川雄也・可児正光・安藤ヒロキオ・須藤未悠・泉正太郎・井尻鯛)。
 タイトル開巻、騎乗位で乱れる佐倉絆、ではなく。下になつた森羅万象の頭頂部を真上が真横になる画角から抜いた画に、エンドとは可児正光と安藤ヒロキオの順番が入れ替る俳優部と、山内大輔だけを抜粋したクレジット。ex.OLの泡姫・ミユキ(佐倉)が想起する、プロのヒモを自認する三沢(森羅)との出会ひ。目下専ら御馴染の喫茶「マリエール」(新宿区歌舞伎町二丁目)、ミユキは三年付き合つた五歳年下の彼氏・サトシ(可児)から、悠香(須藤)に心を移したゆゑの別れを告げられる。本職は写真部の須藤未悠が山内大輔2017年第三作、にして復活後の大蔵怪談映画第六作「女いうれい 美乳の怨み」(主演:佐倉絆)と、小関裕次郎デビュー作「ツンデレ娘 奥手な初体験」(2019/脚本:井上淳一/主演:あべみかこ)に続いて地道に三戦目。泉正太郎が一人で店を回すマスターで、背中につきバストならぬバックショットしか見せないその他客は有志か。半ば呆れ果てたミユキはサトシの他愛ない抗弁には耳を貸さず、カウンター席で元人妻のこちらも泡姫・灯里(並木)が何気に自ら秘裂に指を這はせ、そんな灯里の口内を三沢がスプーンで掻き回す、カップル喫茶ばりの豪快な痴態に目を奪はれる。脱ぎこそしないものの、何気にマリエールでの史上初絡み。サトシと悠香が辞したのち、一応泣いてはみるミユキに声をかけた三沢が金はおろか家もなく、そのまゝといふか何が何だかな勢ひで、ミユキの家に転がり込む。さういふファンタジーにせよ途方もない大飛躍をも、カット跨ぎの濡れ場で何が何でも兎に角遮二無二固定してのけるのは、ピンク映画ならでは、あるいはピンク映画にのみ許された横紙破りの力技。
 しがない勤め人の稼ぎでは三沢を食はせられず、ミユキは三沢の知人が店長を務める泡風呂に転職。配役残り、井尻鯛(a.k.a.EJD)が件の「新世界」店長。ミユキは新世界で先輩として灯里と再会し、ソープテクニックを伝授されがてら、話は灯里の来し方に。石川雄也が、無職かつDVのコンボを決める灯里元夫。元と夫の間に、クソが抜けてるぞ。河合夕菜は灯里が働いてゐたスナック「スミレ」のカウンターを任せられるホステスで、過剰に化粧の濃い長谷川千紗が矢張りママ。奥のボックス席に見切れるのも、マリエ同様有志か。三沢は左目が潰れるほどex.ダーリンを半殺しにし、灯里と離婚させる。安藤ヒロキオは、ミユキに文字通り感涙する新世界のピュア客・鈴木。そして、イズショーは店を空けるマリエールにて、店を任された三沢と出会ふ桜木優希音が、当時女子大生アルバイトの愛未、専攻は社会福祉学。愛未も愛未で、その後三沢の知人が店長を務めるデリヘルに。純然たる余談ではあれ我慢出来ずに噛みつくが、可愛らしい名前でも思ひついたつもりか“愛未”ぢやことの、全体親は何をトチ狂ふてをるのか。元来日本語に於いて愛だなどと頭に性をつけた性愛と限りなく同義の、どちらかといはずとも粘度の高い美しくも清らかでも全くない寧ろ正反対の言葉で、あまつさへ“愛”に重ねて“未”。情欲にすら至らないと来た日には、斯くも自堕落極まりない名を与へるから、娘が恐らく大志を懐いて学問をしてゐる筈であるにも関らず、禿て肥えた中年男にコロッとチョロ負かされた挙句、春を鬻ぐ破目になつてしまふのだ。なんて、時には保守じみた戯言も捏ねてみたり。
 三月初旬に封切られた山内大輔2020年第一作は、一年前より2020年三月末での引退を表明してゐた佐倉絆のラスト・ピンク。2021年第一作「淫靡な女たち イキたいとこでイク!」での、カメオぶりは果たして如何なるものなのか。
 公開題にまで佐倉絆の“きづな”を無理から気味に盛り込む割に、序盤から先行し中盤を任せられる三番手と、終盤まで結構温存する二番手にも十分に尺を割く。涼川絢音に対するやうに僅か一言の別れを述べるでなく、朝倉ことみ引退記念作品と初めから堂々と銘打つた、実は佐倉絆の初陣でもある「ぐしよ濡れ女神は今日もイク!」(2017)で花道映画を完成させた印象の今なほ強い山内大輔にしては、思ひのほかアッサリしてゐるどころか、最後を匂はせる何某かが案外皆無であつたりもする。一方、フィルムと比べての遜色を相当感じさせない、オープン撮影の綺麗さ―所々、不用意な屋内は相変らず暗い―は光りつつ、要は単なる体のいゝ女衒譚に過ぎない、物語自体は実のない屁の如き代物。かといつて、糞を放(ひ)れといつてゐる訳ではない、断じて。木に竹を接ぐ徒なバッド・テイストも、オーピーは山内大輔の持病を後生大事に放置してゐる場合でもなからう。下手な鉄砲を、滅多矢鱈に撃ち倒せる時代なんてとうの昔に終つてゐる、その認識がこの期に大蔵にはないのか。裸映画的には一見水準的に見せ、直截にいふと山内大輔が水準に納まつて貰つてゐては困る。何時以来か忘れるほど久々裸映画を振り抜いた、エクストリームにどエロい前々作「若妻トライアングル ぎゆつとしめる」(2019/主演:きみと歩実)を想起するに、山内大輔はまだ前に押し込めるギアを一つ二つ残してゐる。四の五のいふな役立たず、何でか知らんけどオッサンが三百花繚乱の女優部三本柱からモテまくり、ヤリ倒す。その、よしんば怠惰であつたとて甘美な夢に、何故貴様は大人しく微睡まぬ。さういふお怒りも飛んで来さうだが、その手の底を抜くか人肌なエモーションを志向するには、少なくとも今回の山内大輔は些か硬く、冷たい。絶妙に劇中虚実を濁す、ラストも悪癖の一言で片付るとそれなりに纏まつてゐるやうにも思へ、最終的に何を最もやりたかつたのかよく判らない、物足りないか漫然とした一作ではある。


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