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真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「むちや振り開花中 浮気つ娘と火照り妻」(2023/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:倉本和人/録音・編集:西山秀明/助監督:松岡邦彦/制作主任:古谷雷太/VFX:中野貴雄/選曲・効果:うみねこ音響/整音:竹内雅乃/監督助手:吉永圭一/撮影助手:郷田或/スチール:本田あきら/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:幾田まち・愛葉るび・広瀬結香・可児正光・野間清史・吉行由実・石川雄也)。封切り僅か三週間の驚愕電撃配信をエク動が敢行してのけた、自身三本目となるデジエク第十弾「憂なき男たちよ 快楽に浸かるがいい。」(2019/脚本:金田敬/主演:並木塔子)まで遡るのかと、思ひきや。松岡邦彦の新作ピンク参加が、吉行由実2020年第一作「小悪魔妻 美乳で誘ふ」(主演:琴井しほり)の矢張り助監督以来。
 女の子がバニーガール姿で接客するガールズバー「Bunny Girls」の、遣り取りを聞くにバイトではない店員・花子(幾田)の居室、苗字は恐らく戸口。花子と一年間の円満不倫中、写真が趣味で花子がモデルのバニガ看板も撮影した、劇中一度もスーツを着てはゐない会社員は会社員らしい悦男(石川)との逢瀬。カメラを向ける悦男の求めに、気軽に応じた花子がぺローンと脱ぎ始めタイトル・イン。線は少なくも、前作「パーフェクト・キス 濡らしてプレイバック」(主演:花音うらら)に引き続き、タイトル画面がシュッとしたグリッドレイアウト、今後定型にするつもりかしら。それはさて措きこの、あれこれ考へるのに途中で草臥れたかのやうな、精度の甘々なぞんざい公開題はもう少しどうにかならないものか。
 登場人物一部後述、職場の先輩であつた悦男と結婚。目下子供のゐない専業主婦の友恵(愛葉)は、帰宅した夫が脱いだ上着をなほさうとして、ポッケのデジカメから花子の存在を初めて知る。偶さか見つけたとの看板で職場を特定した、友恵が出勤時の花子を直撃、といふ風でもなく穏当に接触。怒り狂ひもせず、寧ろ悦男を間に挟んだ花子との御縁すら肯定する不可思議な友恵に、当然当惑を隠せない花子が頭を抱へる一方、花子と一緒の―児童養護―施設育ちで、出張ホストの潤(可児)は半ば腹を抱へる。出店資金を貯めるべく、パブ店員も兼職し奮闘する潤が出したいのは、男娼を売る店に非ず多分何か飲食。ヒロインの幼馴染である可児正光は料理上手といふのが、実は前々作「ママと私 とろけモードで感じちやふ」(2022/主演:花音うらら)とほゞ全く同じ造形。余程吉行由実の琴線に触れるか、理想を反映してゐるにさうゐない。
 改めて配役残り、野間清史は往来で花子と再会する、実父の戸口。吉行由実が戸口の再婚後継子の花子を苛烈に忌嫌ひ、最終的にガチ放逐した鬼義母・昭恵。さういふ放埓な非道がある意味許されるのは、劇中現在昭恵が戸口と普通に社会生活を送つてゐるゐられるのが不思議なレベルの、激越な虐待が行はれてゐた場合にでも限られるやうな気がする。それは放逐なのか、保護なのか。吉行由実も兎も角、刹那的に御役御免の野間清史に話を戻すと、別にこの人がゐなくとも花子の出自は簡単な説明台詞で全然片づきさうな、藪蛇な出演具合は四ヶ月前の「誘惑ママさん レッツラ性春!」(監督:国沢実/脚本:高橋祐太/主演:一条みお)も想起させる。兎に角とかくこの辺り、徒にヘビーな設定を持ち出しては、別に深めるでなく。事もなげにケロッと流してしまふのは近年の吉行由実に特徴的な、邪気のない無頓着。閑話、休題。小栗はるひ第二作「快感メモリー 私が、い~っパイ」(大矢直樹と共同脚本/今村日那乃・紫月ゆかりとトリプル主演)からの二戦目となる幾田まちが、以後髙原秀和大蔵第八作(番手不明)と、吉行由実次作(主演)に継戦。次作一旦退場する、愛葉るびも吉行由実のex.ツイートを見るに、仕上がつたばかりの最新作には加はつてゐる模様。対して、パーキスと二作三番手を務めて打ち止めぽい広瀬結香は、潤と種々雑多なプレイをヤリ尽すほどの、ハードコア常連客・ゆかり。会話を窺ふにこの人も風俗嬢臭いけれど、厳密には職業不詳。その他バニガを主に、若干名の客要員―と店長―が投入される。その中に、松岡邦彦も含まれるのかな。
 令和六年十月十三日、公式ブログで発表されてゐる小倉名画座の番組(10/11~10/17)は、工藤雅典大蔵第五作。で、あるにも、関わらず。関らずー!大きな声を出すな。博多から小倉まで、JR鹿児島本線に揺られいざ小屋に赴くや、変更のアナウンスが少なくともWEB上では特にも何も一切見当たらないまゝ、翌週―の筈―の吉行由実が上映されてゐた2023年第二作。伊達政宗公のオフィ吉ロゴにど頭度肝を抜かれつつ、かうなつたらもう仕方ないと脊髄で折り返し、慌てふためきながらも純然たるゼロ準備でスクランブルした次第。今作の中身自体には案外首を縦に振つたものの、正直KMZには頭来た。かうなると何時かゝるか判つたもんぢやない、工藤雅典はもう外王戦で事済ます。当日時点で、未だ円盤の発売日すら出とらんがな。ち、なみに。併映は、既出の情報通り佐藤寿保1991年第一作。マズルの塞がれた、即ち弾が前に飛ぶ訳のない改造銃がメイン得物の、そこから底の抜けたファニー映画。
 まづ同一女優の比較でいふと、幼ささへ残した前回の今日子ver.二十歳と、今回の自活してゐる花子との対照は、小栗はるひのあれで満更でもなかつた、演出の成果を酌み取るべきなのであらう。幾田まちの演技スキルが、殊更高いのでなければ。花子と悦男が呑気に乳繰り合ひ続ける、安穏とした裸映画。実属性であるスピ風味も気持ち覗かせ、とかく掴み処を欠いた友恵を、花子と潤の二人が生温かく持て余す地味にアップデートされた人情喜劇。それと可児正光の色男が火を噴き倒す、軽くチャラいハーレクイン。よしんばちぐはぐなまゝにせよ、並立する三本立ての骨子が何れもそこそこの水準で安定。小倉名画座に仕出かされた不実に対するレイジも気づくと忘れ、珍作の類に属する前作と、自堕落極まりない前々作。何気に吉行組三本ぶりの白星を、何とはなく楽しめた。三番手の二回戦で展開を大きく動かし、クライマックスへの道筋も整へる。口先―と小手先―ばかりの荒木太郎が出来た例(ためし)の滅多にない、ピンクで映画なピンク映画の肝要を成す、慎ましやかに論理的な構成は震へるくらゐ秀逸にして狂人、もとい強靭。そし、て。カニ・クルーズ渾身の一撃で轟然と雪崩れ込む、二番手による事実上締めの濡れ場。所詮体液交換に過ぎない入れポン出しポンを、キッラキラに輝かせてみせるお花畑ないし絵空事と紙一重のきらめきこそが、吉行由実にとつて最大の持ち味となる主力エモーション。エピローグ的なビリング頭の裸見せ噛ませ辿り着く、のも通り越し捻じ込む。割とでなく力業の大団円をも、思ひのほか大人しく円滑に見させるのは、作家としての成熟の由。
 備忘録< 花子×悦男&友恵×潤のカプリングで、ビリング頭二人がそれぞれ御懐妊


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 「美乳若妻と巨乳女将 蕩けるお宿」(2023/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:中尾正人/録音:大塚学/編集:山内大輔/特殊メイク・造形:土肥良成/音楽project T&K/効果:AKASAKA音効/ラインプロデューサー/助監督:江尻大/監督助手:河野宗彦/撮影助手:榮穣・江森聖弥/ポスター:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック⦅株⦆/出演:美谷朱里・吉根ゆりあ・二葉エマ・安藤ヒロキオ・森羅万象・豊岡んみ)。
 VOID FILMSロゴ尻からシューゲの子守唄みたいな選曲鳴らして、タイトル開巻。深い霧に霞んだ、結構デカい深山ダム湖(栃木県那須塩原市)。俳優部から起動するクレジットは、オープニングで山内大輔まで走り抜く。屋号の入つたガラス戸を何かにつけ抜く、大絶賛実名登場の温泉旅館「雲海閣」(那須湯本温泉)。浴衣の主演女優が、切り取り方次第にせよ軽く坑道みすら漂ふ、凄い地下通路を経て湯船が二つ並ぶ浴場に。最初の裸見せ、湯を満喫するユカリ(美谷)は、何者かの気配に相好を崩す。
 こゝで、メイン女優部のフィルモグラフィ整理。美谷朱里と吉根ゆりあは、それぞれ小関裕次郎第四作「夜の研修生 彼女の秘めごと」(2021/深澤浩子と共同脚本/主演)と、佐藤周の「若妻ナマ配信 見せたがり」(2020/主演:山岸逢花/三番手)以来の二戦目。二葉エマは外様による「いんらんな女神たち」非公式第三弾「ブラとパンティ 変態がいつぱい」(2021/監督:鳴瀬聖人・近藤啓介)の、近藤啓介パート(主演:新村あかり/二番手)と吉行由実監督生活二十五年周年記念作「ママと私 とろけモードで感じちやふ」(2022/主演:花音うらら/三番手)に続く三戦目。残念ながら現時点で三人とも、以降継戦してはゐない。
 五年前は妻のユカリと泊まつた雲海閣に、江口雅之(安藤)が一人で現れる。別に覚えてはゐなかつた江口を、主人の源五郎(森羅)は朗らかに迎へる、矢鱈。今更にもほどがあるけれど、ガミさんも港雄一も久保チンも、みんな鬼籍に入つてしまつたきのふけふ。その空白を、森羅万象が埋めて呉れてゐるんだなと、改めて再確認した次第。横になつた江口が夢に見る、在りし日の夫婦生活が絡み初戦。起きた江口が浸かる風呂に、女将のタマミ(吉根)も入つて来る。美乳の若妻と、巨乳の女将。めくるめく色事に、お宿は確かに蕩ける。斯くも実際の本篇に超絶ジャストフィットした、ピンクの公開題といふのもなかなか珍しいのではなからうか。
 配役残り、この人は劇中現在時制でユカリとも交錯せず、となると何の方便で雲海閣の敷居を跨いだのだか実はよく判らない。要は木に濡れ場を接ぎに来た三番手の二葉エマが、江口のアグレッシブな不倫相手・ミユウ。たゞし、一般的なドラマツルギ上はへべれけなその立ち位置も、量産型裸映画にとつてはそれでも正しい。断然正しい、断固として正しい。ミユウが敢然と乗り込んで行つたのか、ユカリが毅然と迎へ撃つたのかは兎も角。泣きさうな江口を間に挟んで、ユカリとミユウがバッチバチに対峙する。キナ臭いどころでなくシリアスな三者面談の舞台が、佐倉絆引退記念作「はめ堕ち淫行 猥褻なきづな」(2020/脚本・監督:山内大輔)から気づくと案外空いてゐた、お馴染み喫茶「マリエール」(新宿区歌舞伎町二丁目)。豊岡んみが、如何にも修羅場らしい修羅場に、はらはらするばかりの店員・レイミ。別に貴女が、気を揉んだところで始まらない気も。
 おどろおどろしさの欠片も見当たらない、字面だけ見ると中間的なタイトルに―うつけの当サイトが―勝手に惑はされた、事実誤認の非を潔く認める。2021年が偶さか空いただけで、七月末封切りと盆には少し早いものの、一昨年に引き続き去年も大蔵恒例夏の怪談映画を山内大輔が担当してゐた、2023年第二作、今年も。昔の記録は知らないが、三年連続は二年目の時点で史上初。再起動後今作で十一本目となる大蔵怪談中、複数本自体唯一人の、山内大輔は完全に独走状態の四本を任されてゐる。いにしへの海女ンポルノに於ける藤浦敦のポジションに、近づいて来た感も強い。清大や、国沢実にも撮らせてあげればいゝのに。吉行由実、小関裕次郎もゐる。二本目になる荒木太郎なり、意外と撮つてゐない池島ゆたかとか。
 ミユウが雲海閣を訪れた所以に劣るとも勝らず謎なのが、はきだめが全体誰に何を施したのか。第六チャクラを開いた状態で、多分降霊してゐる赤頭巾の二番手に、よもやサードアイを描いただけ?決して神を宿しはしない、些末はさて措き。各々のキャラクター造形を猛然と加速させつつ、中尾正人のカメラは三本柱をバカみたいに美しく捉へ、深山ダム湖はそれこそ雲海をも思はせる幻想的な霧に恵まれる。江口が、互ひに激しく求め合ふユカリとの情交には炎々たる赤い照明を、半ば一方的に喰はれるに等しい、対ミユウに際しては対照的に青い光を当てる。濡れ場的になほさら、見事なコントラストも撃ち抜く撮影部が恐ろしいほど兎にも角にも絶好調。一枚一枚の画で、完全に他と一線を画してみせる。対して、お話自体の中身はといふと。観客の精巣を空つぽにしてやるぜ、といはんばかりの勢ひで序盤から轟然と突つ込んで来る重量級の裸映画は、終盤に及んで素面の劇映画に幾分道を譲る。その上で、この期に特段目新しくもない、オチ自体の強度は特段喧伝するにはあたらない。あたらない、まゝに。「一杯生きて」、「一杯幸せに」。遺された者に、遺した者が文字通りの激情を正しく振り絞るクライマックス。クソよりダサい在り来りなシークエンスを、なほ臆することなく全力で叩き込む。腹の据つた作家のみが遂に辿り着く手にし得る、覚悟完了したエモーションが一撃必殺。多段式ロケットの如く加速する女の裸を、よもや最後に物語がブチ抜いて行かうとは。荒木太郎が懐いた理想とは異なつたより実戦的なアプローチによる、ピンクで映画なピンク映画こゝにあり。ナベの「おねだり狂艶 色情いうれい」(2012/脚本:山崎浩治/主演:大槻ひびき)も、地味でなく凄惨な死屍累々の果て、正直記憶に新しくはない。恐らく大蔵の御題に従つた結果、壮絶な爆散を遂げた前年の「いんらん百物語 喜悦絶叫!」(主演:宝田もなみ)を当然一敗に数へて、実に十一年ぶりの白星で二勝六敗二分一没収試合といふのが、現行大蔵怪談映画のぞんざいにすぎる概評である。

 尤も、単なる着付の不在かはたまた、偉大なる吉根ゆりあの爆乳を格納可能の、着物が手近に見当たらなかつたのか。女将たるタマミがまるで作務衣みたいな、仲居感覚の格好で館内をうろうろしてゐるのは流石に如何なものか。幾ら源五郎いはくボロ宿とはいへ、旅館映画として何気に致命的なデメリット。つかそこ、雲海閣激おこ。
 備忘録< 死んでゐたのは、三ヶ月前トラクからユカリを庇つた江口。源五郎も何時の間にか故人、ミユウは知らん


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 「パーフェクト・キス 濡らしてプレイバック」(2023/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/ラインプロデューサー:江尻大/撮影:小山田勝治/録音:大塚学/編集:西山秀明/助監督:河野宗彦/小道具:中津侑久/選曲:効果:うみねこ音響/整音:竹内雅乃/グラフィック:佐藤京介/スチール:本田あきら/監督助手:小林義之/撮影助手:ナカネヨシオ/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:花音うらら・小池絵美子・広瀬結香・市川洋・安藤ヒロキオ・野間清史・河野宗彦・吉行由実・森羅万象)。
 一応肩書的には女性学教授の母・山岸綾子(小池)の執拗な干渉を逃れ、念願の一人暮らしを始めた小百合(花音)が実家に荷物を取りに来る。ど初端から結論を先走ると、綾子の木乃伊取りが木乃伊作りに全力で精を出すが如き、チンコの取れたパターナリズムの源なり所以を、結局綺麗にか平然とスッ飛ばしてのける。より直截にはそれで泰然としてゐられる辺りが、浜野佐知とは根本的に異なる吉行由実のレイヤー。あるいは単なる、藪蛇な無頓着。不自然なフェミニズムを、不用意に持ち出す要が何処にも見当たらない。
 本質的かも知れないけれど、閑話休題。この人は娘の意思を尊重して呉れる、義父の武雄(野間)と一緒に山岸家を離脱しようとした小百合が、叶はず綾子に捕まつた流れで、藪から棒なグリッドレイアウトのタイトル・イン。頓珍漢な意匠で木に竹を接ぎ続けるのは、吉行由実にとつて少なくともかつては盟友であつた筈の、清大と三人平成八年組の同期・荒木太郎をフィーチャした戦略では別になからうといふのは、全く以て為に吹く与太。
 配役残り、安藤ヒロキオは綾子が勝手に決めた小百合の婚約者・平川。平川なのに、何故ナオヒーロー当人を連れて来ない。綾子の元部下とかいふ、地味な素性不詳、今は何者なのよ。小百合がロストバージンすら平川で済ませてゐる、苛烈な綾子の支配ぶりは決して地味でない。最初は瞬間的な回想に飛び込んで来る市川洋は、往時家庭教師をしてゐた小百合が唇を奪はれたのが騒動となり、結果―綾子に―教職の夢を断たれた元教へ子の水原弘樹。最終的に武雄ではなかつた、綾子がブルータルな女王様プレイを営む、相手役の奴隷がその時点では不明。二番手一回きり戦を轟然と加速する、広瀬結香と森羅万象は小百合の捌けたメンターを担ふ従姉の瑠美と、齢の離れた夫・達也。達也の造形は、煙草の銘柄風にいへばマイルド鮫島。矢張り多呂プロのみならずダイウッドの想起も狙つた、吉行由実なりの一人同窓会なのか、絶対違ふだろ。さ、て措き。確かに乳は太いにせよ腰周りも太ましい広瀬結香と、森羅万象によるドカーンとした濡れ場が序盤の圧巻、ドカーン。を、クライマックス前で超えてみせようとは、よもや夢にも思はなんだ。綾子に付き合はされるか振り回される買物の最中、小百合はその後進学せず、今はバーのfもとい「promis_9」を開業した水原と再会。河野宗彦と吉行由実は、その格好で家からこゝまで来たの!?と軽く引くレベルの、素頓狂なドレスで小百合が「promis_9」に来店、耳目も憚らず水原に大告白する。凡そ吉行由実以外に撮り得なささうな、無防備シークエンスのカウンター客要員。が、実際にはもう二人ゐて全部で四人。入口から見た背中の並びで、一番左が河野宗彦。右端がEJD、その隣に吉行由実。吉行由実と河野宗彦に挟まれた、既視感を覚えなくもないパーマ頭のグラサンがどうしても判らん。その他小百合と瑠美が艶話に花を咲かせる茶店のウェイターに、小百合に声をかける同性の同僚。「promis_9」最初の来店時、道中で小百合―この時は馬鹿みたいなチークを刷く―をナンパしかける輩三人組等、もう若干名フレーム内に投入される。
 あの小川隆史の最初で最後作「社宅妻 ねつとり不倫漬け」(2009)主演を―里見瑤子のアテレコで―務めた、小池絵美子が実に十四年ぶりともなる驚愕の超復活を遂げた吉行由実新作。オフィス吉行次々作にも小池絵美子は継戦、最初のAVデビュー(2003年)からだと二十年の節目も通過した、何気な息の長さを誇る。
 邂逅以前から水原が瑠美のセフレであつたりする、ありがちな爆発的か圧倒的な劇中世間の狭さが、作劇に及ぼす吉凶に関してはこの際議論を放棄する。それどころで、ないんだな。箱の中に閉ぢ込められてゐたヒロインが、晴れて籠の外に脱する。普遍性の徳俵を割り陳腐に呆気なく堕す、物語もしくは劇映画が屁より薄い反面、二人とも正真正銘のノーイントロで三番手の絡みを豪快に放り込んでのける、裸映画的にはゴリッゴリに攻撃的である印象を最も強く受けた、一旦は。実は偽装結婚であつた綾子が、武雄とは一切関係を持たない。終盤明かされる秘密で俄かに沸き起こる、ほんならあの犬誰なのよとなる原初的な謎。を足がかりに、吉行由実が遂にか出し抜けに辿り着く、辿り着いてしまつた深町章ばりの一昨日通り越して一昨年なベクトルの老成が、今作を珍作なりチン作の領域に易々と放り込む、絶対値だけは無闇にデカい明後日なハイライト。確かに構成上は、計算し尽くした妙もなくはないけれど。気を取り直しての締めを、キラッキラのガーリーガーリーに撃ち抜けば撃ち抜きれれば、まだしも吉行由実こゝにありを叩き込めたところが。そこで絶妙に攻めきれない、若干力尽きた感の否めない枯れたきらひも、老成と評した所以のひとつ。近年顕著な傾向たる、良くも悪くも円熟味の増す一作である。
 備忘録< 小百合の父親は出生半年後急逝した、綾子不倫相手の教授。あと犬の正体は平川


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 「絶倫探偵DX 愛と淫慾のバイブ」(2023/制作:ふくよか舎/提供:オーピー映画/原案・監督・編集:横山翔一/脚本:奥山雄太⦅ろりえ⦆/撮影:佐藤直紀/照明:岩渕隆斗/録音:田中秀樹/美術:柴田正太郎/特殊造形:快歩/装飾:杉崎匠平/音楽:ひと:みちゃん/劇伴:松石ゲル・伊藤資隆/衣装:長瀬由依/ヘアメイク:安藤メヰ/助監督:秋野太郎/スチール:篠田卓也/編集・VFX:秋野太郎/整音・音響効果:田中秀樹/仕上げ:東映ラボ・テック⦅株⦆/小道具協力:株式会社ワイルドワン/出演:川上なな実、長野こうへい、ジューン・ラブジョイ、きみと歩実、真矢みつき、あらい汎、伊神忠聡、高木健、近藤善揮、西村禮、長谷川千紗、春原未来⦅特別出演⦆、折笠慎也、大迫茂生、麻王)。出演者中、麻王は本篇クレジットのみ、といふか。最初に颯爽と白旗を揚げさせて貰ふと、一般映画ばりの盛大なクレジット情報量を、当サイトが誇、れない節穴の動体視力と、へべれけな記憶力とで全部拾つて来るのは土台無理。ザッと眺めた感じ少なくともスタッフは、後述する前作と大分共通してゐる風ではあれ。なので沙汰は未だ聞こえて来ないがそのうち、円盤がリリースされた時点ででも洗ひ直す、どうせフィジカルの方が先だらう。
 連れ込みにしては高級さうな、ホテルの一室。ギャグで口を塞がれ拘束された、ジューン・ラブジョイの台詞曰く肩書が“長官”につき、恐らく警察庁長官の鬼道豪太郎(大迫)が意識を取り戻すと、傍らには黒下着を身に着け、目はバタフライで隠した川上なな実が。多分男限定の強力な媚薬・ヒドラマムシエキスを、川上なな実は鬼道の亀頭に注射。正確にいふと、鈴口か棹かは知らん。忽ちバッキバキに勃起した鬼道は、女の尺八と騎乗位に雌のやうな嬌声を上げ悶絶する。その様子を、廊下で窺つてゐた掃除婦(長谷川)が鬼道から室内に引き摺り込まれる一方、川上なな実は建物自体離脱。女優部四本柱と、折笠慎也・長野こうへいの順でクレジット先行。新橋の夜に川上なな実の背中が消える、繁華街のロングに轟然と大書で叩きつけるタイトル・イン。明けての本篇、画面一杯に四番手のオッパイが飛び込んで来る鮮やか且つ、艶(あで)やかな繋ぎは百点満点で百兆点の様式美。
 新橋歓楽街の客引き・クロフク役の―筈の―高木健が、何処に出てゐたのか途方に暮れる配役残り。ex.神谷充希の亜矢みつきから更に改名してゐた、やゝこしい真矢みつきが前作で失はれた根城のメンズエステ「アメノウズメ」の嬢・ハチ。ハチをジョイトイで可愛がるきみと歩実(ex.きみの歩美)も同じくななで、伊神忠聡はアメノウズメ一同が間借りする、映像制作会社「GOカンパニー」の社員・前張達郎。GOカンパニーを頑なに強姦カンパニーといひ間違ひ倒す、お約束も些か食傷して来たあらい汎は勃たなくなりセックス探偵を廃業した珍鎮で、終盤新日本もとい新橋映像の敷居を二度目に跨ぐ際には、ネオ書房Tを着てゐる長野こうへいが二代目セク探を継いだ果梨玉男、一応本業は俳優部。ジューン・ラブジョイは、超男尊女卑犯罪結社「Association of Domination with Amazing Men」こと“ADAM”の捜査協力で、紐育市警から来日してゐる霞・ラヴクラフト、映画はアニメしか観ない人。現在は青森に帰郷、撮影時期はさて措き、封切日準拠でピンク最終戦となる天下御免の折笠慎也は、三ヶ月ぶりの俳優部業で果梨がスタンドインに呼ばれるコマーシャル撮影のクライアント、セルフプレジャーアイテム―要はジョイトイ―制作会社「ビーナスピーナス」代表の針型隆起。ビーナスピーナスを、アルファベットで書くと“venus penis”、さういふことね。西村禮は、針型の無闇にエロい秘書・瀧クリ。そして改めて川上なな実が、映像制作会社「新橋映像」のAD・星美緒奈。麻王はクライアントの犬、もしくはCMディレクター。何やかや一騒動の撤収後、美緒奈の方から果梨を映画に誘ふ―デートで行く小屋は新橋文化劇場―超絶麗しい作り事の嘘を経て、二人は付き合ひ始める、のも通り越し美緒奈が果梨家に転がり込む、何足飛ばしよそれ。第一作ヒロインゆゑ、実に特別出演らしい特別出演の割に、何せ間が五年も空くと印象は正直薄い春原未来は、針型が美緒奈の元カレであつた事実に低スペックを拗らせる、果梨のどうしやうもない恋愛相談にも乗つて呉れる旧知の女優部・長尾ユミカ。エピローグに及んで漸く顔を出す、近藤善揮はGOカンパニー社長の権座我鳴。その他都合二人登場する果梨の共演相手なり、針型の高校時代の彼女?か同級生。特徴的な頭数が若干名ゐなくもないものの、如何せん外様が量産型裸映画の枠外から連れて来た、ストレンジャーばかりと来た日には手も足も出せず悪しからず。
 R18版と比して、尺が二十分も長いのは流石にどうなのよと軽くでなく首を傾げざるを得ない、一般映画題が「新橋探偵物語2 ダブルリボルバーラヴ」と兎に角カッコいゝ横山翔一ピンク第三作、薔薇族がもう一本ある。第二作「激マブ探偵なな 手淫が炸裂する時」(2021/主演:きみと歩実)が公式にはスピンオフ扱ひのため、「新橋探偵物語」第三作にして、第一作「絶倫探偵 巨乳を追へ!」(2018/主演:春原未来)の正調続篇となる。と、はいへ。その癖ラヴクラフト―ハチも―は「激マブ探偵なな」で初登場してゐたり、アメノウズメがGOカンに仮移転してゐる顛末ら辺。マブ探を窮屈に迂回するシリーズ構成に、拭ひ難いちぐはぐさを覚えなくもない。
 性交中に開眼する神通力的な第六感、シックスならぬ“セックス・センス”で事件の解決に当たる、セックスないし絶倫探偵。が、ADAMと死闘を繰り広げるのがお話の基本線。尤も、あらかた退場してゐた前作にある意味引き続き、今回の果梨も役者仕事と美緒奈に立てた操を、形だけの葛藤を感じさせる程度で探偵業に優先。片や針型、あるいはADAMから対セックス探偵のハニートラップとして放たれてゐた美緒奈は、果梨に心を移し二人の男の間で揺れ動く。美緒奈にとつて半ば以上にノルマかカルマの目隠しを果梨が封じた上での、中盤を見事に締める大濡れ場は一撃必殺のエモーションを撃ち抜く、一旦。寧ろ、結果論でいふと早すぎた感すら否めない。結局大して役に立たないななと前張は兎も角、美緒奈の機転で金玉爆死の危機をチンコの皮一枚回避。セクセンでヒドマムエキスを浄化する件は、普通に娯楽映画の鉄板的シークエンス。猛然と駆け上がり続ける映画が遂に、マブ探に勝るとも劣らない高みに辿り着くものかと、俄然期待しかけた、ところが。瞼の裏には何時もだとか、利いた風な殺し文句が実は単なるコンプレックス隠しの方便。たゞたゞ見せたくなかつた、見られなくなかつた、に過ぎなかつた。案外どころでなくガッチガチに構築された、針型改めDr.ディルドウの所謂ヴィランとしての肉付けが、折笠慎也と長野こうへいの否応ない地力の差を更に轟然と増幅。完全に果梨が針型に喰はれてしまつてゐる、事クライマックスに及んでの力学的崩壊が致命傷。きみと歩実は、最後までマブ探を背負ひきつた。そもそも、美緒奈の正体は―“新橋の目”起動パスワードを何故か持つてゐた謎は豪快にスッ飛ばす―ラヴクラフトが暴き、即ちかつて愛した男である<Dr.ディルドウも、最終的に倒すのは美緒奈>。実は果梨が事件の解決に、結構寄与してゐない随分か大概な体たらく。何がセックス探偵か片腹痛い、精々スケコマシ探偵ではないかといふ物語の中折れ具合も、前作に今作が比肩するのを力強く阻む、逆の意味で。尤も、絵に描いたやうなエキセントリックな相貌に隠された、悲痛な出自。最後で最後に全部持つて行く、折慎裏主演映画と捉へるならば格別。堂々とビリング頭を務めた加藤義一の「すけべ繁忙期 モーレツたらし込み」(2021/脚本:筆鬼一)と並ぶ、代表作の名に値するにさうゐない。

 展開の上つ面には反して、長野こうへいが折笠慎也に負ける構図が致命傷と、先に述べた。適宜叩き込まれる、タイトル同様確かに外連の爆ぜはする大書スーパーが、幾ら何でも何れもあまりに瞬間的で暴れる筆致が派手に読めないのは、映画に振り切られるかついて行けなくなる地味な深手。そ、れとも。終りの見えて来た、あるいは生命維持の仕方を忘れる準備を体が始めたオッサンとは異なり、今の若い人等は、あの速度でも平然と読解してのけるのかしら。
 Dr.ディユド誕生の背景< 針型の高坊時代、極度の短小に基づく絶望をADAMにつけ込まれ、狂ふ


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 「タクシー野郎 夜の淫花」(昭和52/製作:ワタナベプロダクション/監督:山本晋也/脚本:山田勉/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:高橋松広/協力:川崎市 新興タクシー会社 (044)344-5871/特別出演:スピリット オブ ポルノ号/出演:南ゆき・星亜也子・青山涼子・北斗レミカ・徳永レナ・安田清美・中野リエ・しば早苗・久保京子・東あき・野上正義・松浦康・滝新二・土羅吉良・たこ八郎・小川馨・太田隆・久須美護・岡田良・荒木柾明・久保新二)。出演者中滝新二と、小川馨から荒木柾明までは本篇クレジットのみ。代りといつては何だが、ポスターにのみ九九八十一なる謎の文字列が載る、代りの意味が判らない。脚本の山田勉は、山本晋也の変名。スピリット オブ ポルノ号を叩き込んで満足したか、録音や現像その他大胆に端折つてのける、随分なクレジットは本篇ママ。
 現存する新興タクシーの、電話番号も変らぬゆゑ恐らく本社(神奈川県川崎市川崎区)。凄まじく雑多にカットを繋いだ上で、二言目には「新興の倉本」云々大層な啖呵を切る運転手・倉本健二(野上)がボサーッと登場。フロントガラス左下隅にピンナップガールのステッカーを貼つた、愛車の名づけて「スピリット オブ ポルノ号」(以下SOP号)で仕事に出てタイトル・イン、車体自体は別に弄つてゐない。これが往時の標準なのか、それとも川崎固有の特殊事情か。野放図な路駐で激しくせゝこましい往来を、無造作に走り抜けるランダムドライビングを見てゐると無駄か無闇に肝を冷やす。混んだ駅前を嫌ひ、堀之内のトルコ街に回したSOP号を、東あきが停める。ところが実際に乗るのはぢいさん(滝)だと見るや、倉本は華麗か豪快に乗車拒否。曰く、“男の子の古くなつた奴は恐ろし”いらしい。アバンから全篇を貫く野上正義のモノローグが何故か、水谷豊の物真似みたいな朴訥とした口跡。
 あれこれググッてゐると出て来た、『月刊シナリオ』昭和52年二月号の画像に大分助けられた配役残り。尤も、先に白旗を揚げておくと大男役とされる太田隆が、いふほどの偉丈夫も特に見当たらず特定不能。更に、土羅吉良は警官役とあるものの、後述するたこ八パートと、南ゆき×久須美護(=久須美欽一)パート。別個に二人出て来る制服警官が、何れも土羅吉良ではないのも謎。最後に、月シナに記載がなく、jmdbとnfaj、ついでで別館検索にも引つかゝらない荒木柾明には、手も足もぐうの音も出ない。閑話休題、先に進むと星亜也子はホテル街で車を停めた倉本が、「何か突拍子でもねえこと起きねえかなあ」とか漫然としてゐると、SOP号の脇を全裸で駆け抜け正に突拍子ないことを起こす女・ナオミ。グルッと一周したプリミティブが斬新に到達する、天衣無縫な導入には驚いた、山晋矢張り天才かも。岡田良が、逃げるナオミを執拗に追ひ続ける男、仔細一切等閑視。久保京子はオケラでSOP号に乗つたのち、「あたし尺八だけは自信あるんです」と宣ひ倉本を吹く女・釈ならぬ尺八子。息するのやめればいゝのに、俺。久保新二は、息を吐くやうにマスをかき始める中毒症状まで含め、「未亡人下宿」シリーズに於ける尾崎と何もかも同じ造形のバンカラ、月シナによると応援団員。この多分セイガク、トルコに行くのにSOP号を拾ふ、金持つてんな。中野リエは連れのオッサン(知らん)が平塚までと倉本に渡した二万を、初乗りで降りくすねる現金な女。もう少し、大きな役で見たかつた。たこ八郎は、無賃乗車する筋者気取り。そしてa.k.a.愛染恭子の青山涼子が、よくいへば色情狂のヒロタ。何気に、塾長の沙汰も暫し聞かない。松浦康と、小川馨は姿を消したあるいは、外に出しちやいけないヒロタを捜す山本精神病院の白衣。安田清美としば早苗は、SOP号の後部座席でオッ始める百合カップル、しば早苗の固有名詞はサチコ。南ゆきと久須美護は勝手に仕出かす安清・サチコとは異なり、端から過分に支払ひSOP号を逢瀬に使ふ、ある意味紳士的なアベック、久須美護の固有名詞はミツオ。サチコから抜けなくなつたジョイトイをモンキーでヒッこ抜く、倉本に対して矢鱈喧嘩腰な新興整備班二人組のうち、ティアドロップのサングラス越しだと大杉漣似に映る方の声を、久保チンがアテてゐるのと同様、久須りんも主不明のアテレコ。艶のある声色が特徴的な御仁につき、違和感がバクチクする。ビリング四番手ながらポスターを一人で飾る北斗レミカと、徳永レナはタクシーの車内で喧嘩しだしたかと思へば、停車しドライバーが仲裁に入つたどさくさの隙を突き、逃げる性質の悪い遊びを繰り返す常習犯。
 総勢十名の結構豪華な女優部を擁するにしては、完全着衣とはいへ一応ひと濡れ場務める久保京子はまだしも、東あきと中野リエは純粋に不脱。安田清美もサチコをバイブで責めこそすれ、自らは全く不脱。本クレ・ポスターとも最初に名前の来る南ゆきですら、久須りんに跨る尻までしか実は脱がない。半分は脱ぐ南ゆきは0.5でカウントすると、ほゞ半数を温存する贅沢な山本晋也昭和52年第一作、羊頭狗肉ともいふ。
 タクシーの客と運転手が互ひにコノヤローコノヤロー痛快にいがみ合ふ、昭和のワイルドビート爆裂する久保新二篇は双方の間断ないマシンガン罵倒が絶品。何処まで脚本に書いてあつたのか知らないが、仮名尾崎の「信号なんか無視して走れバカヤロー」には声が出た。同じガミさんと久保チンの組み合はせでも、ほかの監督ではなかなか斯くも上手くは行かない辺り、山本晋也ならではの演出のキレなり油の乗り、時代の味方につけ具合といつた何某かがあつたのであらう。行きたい方角を指さす尾崎と、客の指示を見やる倉本が二人で走行するSOP号の窓から頭を外に出し、風を浴びるショットなんてもうまるで何かの間違ひかのやうな、ニューシネマの名作をも思はせる奇跡的なカッコよさ。要はも何も倉本を主役に面白可笑しく見させつつ、気がつくと案外どころでなく薄い女の裸を、まづ本格的に補完するのは愛染恭子に改名後、大ブレイクを果たす青山涼子。劇中季節は真冬―ちなみに封切は一月下旬、となると撮影は年の瀬前後?―であるにも関らず、暑い暑いとザクザク脱ぎ始める天衣無縫なシークエンスを、尊ぶ以外如何なる態度が観客なり視聴者に許されるといふのか。芳醇な男優部に恵まれ多様性には富むともいへ、やゝもすると雑多なエピソードの羅列で木に竹を接ぐに終始する破目に、なりかねないところを。野上正義の弾け続けるドライブ感で、誤魔化すもとい勢ひに任せ走り通した末。藪から棒な謎セダンで現れた岡田良が、何をトチ狂つたか100パー故意でSOP号の土手つ腹に衝突。倉本も倉本で真向から受けて立ち、飛んだり転がつたり落ちたりはしないものの、車同士でガッツンガツン殴り合ふ凄惨なカーアクションが、凡そ量産型裸映画らしからぬクライマックス。果ては大破した二台の車が迎へる、新しい一日の朝日は正体不明のスペクタクルを湛へ、それで車が動くのが不思議な状態の、SOP号でなほ倉本が平然とその日の営業に向かはうとするラストは、形容し難いカタルシスを撃ち抜く。結局公開題下の句で謳ふほど、夜の淫花が咲き誇るでは必ずしもなく、額面通りなのはトラックもといタクシー野郎。人心の沸点が常温より低い、「ドゥ・ザ・ライト・シング」のブルックリンばりにエントロピーの高い爆裂都市・カワサキを舞台に、無頼なタクシードライバーの無秩序な一日を描く。乳尻が四の五のいふより寧ろ、野上正義主演映画の色彩が兎にも角にも色濃い一作である。

 ひとつ無性に気になつて仕方がないのが、倉本がSOP号を停める度に、四つ角の真中で堂々と停まる自動運転ならぬ自由運転。あれ単に、撮り易い方便を優先しただけの話なのかな。


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 「欲情セレブ妻 いやらしい匂ひ」(2023/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/特殊メイクアップ&造形:土肥良成/劇中画:只埜なつみ/撮影監督:中尾正人/録音:西岡正巳/編集:山内大輔/音楽project T&K・魔王魂/ラインプロデューサー&助監督:江尻大/助監督:菊嶌稔章・小関裕次郎/DIT:石川真吾/撮影助手:榮穣・林遥南/監督助手:神森仁斗/ドライバー:モリマサ・赤羽一真/効果・整音:AKASAKA音効/ポスター:加藤彰/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:山岸逢花・只埜なつみ・美園和花・豊岡んみ・安藤ヒロキオ・小林節彦・モリマサ・加藤絵莉・杉浦檸檬・八ッ橋さい子・福山理子・須藤未悠)。面倒臭いゆゑ日本語で打つたが、実際の本篇クレジットはアルファベット、サトウトシキか。
 大書のタイトル開巻明け、轟然と飛び込んで来るのは三番手の爆乳。これぞピンク映画、カット跨ぎのオッパイに勝る、カタルシスが宇宙に果たして存在する哉。ギターウルフ的に底を抜いた真理はさて措き、旧姓江口の入婿・雅之(安藤)が家政婦の尚代(美園)を憚りもせず抱く一方、会長職に退いた父親に強ひられ、現社長の雅之と強制結婚、したといふかさせられたけれど。夫婦関係を持つつもりなど端からなく、もしかすると明示こそされてゐないだけで真性ビアンかも知れない、妻の神宮寺綾乃(山岸)は観音様にしか見えないアクリル画を前に軽く昂る。前職が女性限定会員制クラブ「PIERCING」の百合デリ嬢であつた尚代から、足の指舐めはおろかハモニカまで吹いて貰ふ性感マッサージを受けがてら、綾乃はアクリル画の作者で、芸大の同窓生・白井朱美(只埜)との逢瀬を想起する。こゝで三本柱が、順に恐らく最初で最後の賑やかし作「若妻ナマ配信 見せたがり」(2020/監督・脚本・編集:佐藤周)と、吉行由実監督生活二十五周年記念作「ママと私 とろけモードで感じちやふ」(2022/主演:花音うらら/モブ)に、古澤健ピンク映画第二作「怪談 回春荘 こんな私に入居して」(2020/主演:石川雄也/三番手)ぶりの全員二戦目。現時点で山岸逢花のみ、三本目となる髙原秀和大蔵第七作に継戦してゐる。
 配役残り森羅万象、でなく小林節彦が、件の綾乃父。多分一人娘である綾乃の、母親は二十年前に死去、遺影も見切れず。モリマサは、実家が太い訳でも別にない模様の朱美が、学生時代から元倉庫をアトリエ用に月二万五千円で借りる、判で捺したかの如く「ハッピー不動産」の高田。ところでその破格家賃、大島てる物件かね。新入生の時既に目をつけてゐた綾乃―綾乃は放送学科で、朱美は美術学科―が四年生になつて、朱美のバイト先である男子禁制のビアンバー(屋号不詳)の敷居を跨ぐ本格的な二人の出会ひ。まづ山内大輔2020年第二作「つれこむ女 したがりぼつち」(主演:桜木優希音)以来の杉浦檸檬が、朱美に煙草の吸ひすぎを窘めるパイセン店員。たゞその件、もしくは藪蛇な造形。嗜まない俳優部に下手な煙草を吸はせる悪弊は、いゝ加減国際条約で禁止すべきではなからうかとも思ふ。加藤絵莉と福山理子は、本格的に催したのか手洗でオッ始めてのける、カウンターのカップル客。気づいた杉浦檸檬の、声は発さず口の動きで「ヤッてる、ヤッてる」が激しく可笑しい。須藤未悠は、杉浦檸檬と会話を交すカウンターもう一人客。綾乃と雅之の、結婚式招待状を手に朱美が黄昏る、元職場のビアンバー。豊岡んみが、変つてるつてよくいはれてさうな、エッジの効きすぎた闇もとい病み店員・エミリ、どつちでも変らんか。あと特殊メイクは、箍の外れたマゾヒストであるエミリの文字通り痛々しい腕の噛み傷で、八ッ橋さい子は須藤未悠と同じポジのカウンター客。その他、流れ的には豊岡んみ登場の直前。大学卒業後、アート系グラビアアイドルとして一時的に本名で活動してゐた朱美を、とちぎいちごテレビ局女子アナの綾乃が取材する一幕、現場にカメラマンと照明を当てる二人見切れる。
 ピンク初でDIT“デジタル・イメージ・テクニシャン”がクレジットされる、四ヶ月強フェス先した山内大輔2023年第一作。尤もDITが、実際どういふ作業をしてゐるのかは知らんがな。
 ジャッロ感を明快に嗜好もしくは明確に志向したと思しき、毒々しい極彩色で彩られる鮮烈通り越し苛烈な百合万華。何はともあれ女の裸的には、山内大輔が腹を括つた堅調を堅持。隙あらば放り込む往時の回想込みで、季節を忘れたかのやうに百合が狂ひ咲き続け、僅かなヘテロを介錯する男優部も主に安藤ヒロキオと、気持ち小林節彦、何れにしても穴は開かない。印象的なアクリルの下駄も履き、ドギツい色調は作品世界の狙つたトーンと、力任せの煽情性を共々加速。申し分なく勃つ、どちらかといはずとも平素は逆の感興を覚えがちだが、寧ろ画に対する劇伴の非力をも感じさせるほど勃つ。片や劇映画的には、神宮寺が―下心限定の―テレパスで“創造的な妄想”を朱美に見抜かれた際、小林節彦の地力が爆裂する圧巻の目芝居。そして何より、只埜なつみが空前のソリッドとエモーションを敢然と撃ち抜く、「愛してないなら、綾乃あたしに返して」の極大名台詞には度肝を抜かれた。山内大輔はまだしも、只埜なつみがいゝ意味でとんでもねえ。ヤバいシークエンスを観た、凄い映画を観た。未だ半分も小屋に辿り着いてゐないうちに、2023年ベストを決定してしまはうかと思つた、一旦。
 さうは、いふてもだな。この物語、最初から朱美は神宮寺会長をその御仁と知つた上で、狙ひ撃つてゐないと展開が成立しないやうに思へつつ、その辺り、絶妙に堀が埋めきられてあるとはいひ難い。恵まれ倒した境遇に要は胡坐をかいてゐた綾乃と、苦しみながらも、戦ひ抜いて来た朱美。人物造形の対照がよくいへばそのまゝ反映されてゐなくもないにせよ、ビリング頭が名前の大きさ以外、超新星伏兵の二番手に何もかも負けてゐる。破綻したビリングが映画全体の均衡に、影響を及ぼさぬ筈もあるまい。最終的には手放しの傑作には些か遠い、攻めきれてゐない余地も否み難い一作ながら、昔日のピンク大賞が健在であつたならば、只埜なつみの助演女優賞は鉄板中の鉄板、まづ間違ひなからう。そのくらゐ吃驚した、引つ繰り返るかと思つた。

 あと何気に特筆すべきは、劇中に限つても三人着床。尚代と朱美に至つては二発二中の雅之が自慢していゝ、一撃必殺もとい必生の種馬属性。


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 「女子大生 三日三晩汗だらけ」(昭和54/製作:千鳥と宝石/監督:山本晋也/脚本:山田勉/原作者:市原安夫 大阪日日新聞連載『体験レポート女子大生の性』より/製作:千鳥文子・久保新二/撮影:笹野修司/照明:近藤兼太郎/音楽:翔べない鴉/編集:田中治/記録:豊島睦子/助監督:中山潔/監督助手:柴田ゆう/撮影助手:藤家力/照明助手:森信太郎/録音:SMスタジオ/効果:サウンド効果/現像:東映化工/協力:大人の玩具 渋谷 ファッションドリーム/出演:桂たまき・結城マミ・与那城ライラ・北沢ユキ・西野幸子・杉佳代子・加倉井次郎・堺勝郎・久保新二/特別出演:千鳥文子)。出演者中、加倉井次郎と堺勝郎がポスターでは加蔵井次郎と堺勝朗。加蔵井姓に関しては、シンプルな誤字かと思はれる。同じくカメオの千鳥文子は本篇クレジットのみで、代りといつては何だが、ポスターに載るたこ八郎が本クレで抜けてゐる謎の均衡。脚本の山田勉は、山本晋也の変名。クレジットがスッ飛ばす、配給は実質“提供:Xces Film”。
 無駄に、もとい馬鹿に綺麗な桜の並木道。セイシン女子大学の風俗学助教授・江川卓郎(久保)と、四度の再試験を経てなほ風俗学の単位を取れない、女子大生の左から福永百恵(結城)・長嶋淳子(桂)・掛布郁恵(与那城)が歩いて来る。江川と長嶋に掛布は当然判るけど、福永といふのは誰の苗字なの。小言の弾みで江川の口をついた、“三日三晩”の単語に三人が何故か喰ひつく木に竹を接ぐ流れで、勿論内部視点の観音様模型にタイトル・イン、外側からだと怒られる。当時流行してゐた「Mr.Boo!」シリーズぽさでも狙つたのか、タイトルバックに流れる事実上の主題歌と、劇中の挿入歌が広東語歌謡。タイミング的には今作のちやうど一週間後が、本邦公開順では二作目となる「インベーダー作戦」の封切り日。
 その他店子が一切出て来ないゆゑ、セイ女の寮なのか一般賃貸なのか微妙な、兎も角三本柱が暮らす「ひとみ荘」。わざわざ江川が訪問講義して呉れるといふのに、淳子はトルコ風呂のアルバイトに行く身支度、百恵も百恵でお馬さんの勝負がしたい。一方、いやらしい通り越し軽くでなく恐ろしい勢ひでマスターベーションに文字通り乱れ狂ふ、郁恵に置手紙を残し二人はひとみ荘を脱け出す。基本郁恵が普段から概ね常にキレてゐる造形の、与那城ライラの面相が正直怖い。
 かといつてその頃江川が、ひとみ荘に向かつてゐる訳でも別になく。配役残り、連れ込みにて江川と真最中の北沢ユキは、娘をセイ女に入れたい田淵婦人。要は裏金ならぬ、枕入学といふ寸法。たこ八郎が、妹の百恵と競馬に勤しむ予想屋。この人等兄妹にしては、百恵が外した損失を特に勿体つけもせず、たこ八兄貴に体で払ふ結城マミ第一戦。禁忌ないし人間性の喪失といふ重大なモチーフを、裸映画の方便で事もなげに無効化してのける。ほんのチョイ役ながら、マッシュルームな髪型が爆発的に可笑しい堺勝郎は、特殊浴場に於ける淳子のお客、源氏名と店の屋号は双方不明。江川に挨拶すべく、正真正銘顔だけ見せる西野幸子が、田淵婦人がセイ女に入れたい娘のヒロコ。ひとみ荘の表で郁恵と再会する、詰襟の加倉井次郎は以前郁恵が家庭教師してゐた、高校生の太平一郎。そして、実にスマートに飛び込んで来ては、一ネタこなすやチャッチャと捌ける。見事な一撃離脱を披露する千鳥文子が、間違へて江川の部屋にフロントが寄越した、倅を法政に入学させたい若松婦人。田淵と若松ともども、婦人と夫人の別は別に触れられない。一言で片づけると、所詮昭和の所業。結構終盤まで温存される、杉佳代子は太平君のお母さん。役名を併記して呉れるのが有難い、本篇クレジットでは“教育ママ”。ついでで若松は劇中さう名乗りこそすれ、本クレは“特別出演”、ヒロコも“その娘”、田淵婦人は本クレまゝ。
 数本の買取系とピンクに出資してゐる謎女史・千鳥文子の、恐らくフィルモグラフィの嚆矢たる山本晋也昭和54年第四作。大登場を果たす御当人のザックリした印象としては、気持ちふつくらした杉佳代子のやうな普通に美人。
 杉佳代子に男子のマスの掻き方を性教育しがてら、カットバックのどさくさ紛れに杉佳代子自身もバイブで責める。ガイゼンセー、何それ、新番組のロボットアニメ?とでも嘯かんばかりの、腰を据ゑるか開き直つた態度で、ひたすらに絡み絡みを畳み込み続ける間隙を、何処まで脚本に書いてあるのか何時も不思議な、久保チンのマシンガン舌先三寸で埋め尽くす。立て板に水の話術の中に沈む、慎ましやかな決め台詞。「鮫肌のやうな餅肌」といふ小ネタの、初出は全体どの映画になるのだらう。百恵の発案による、憐れ終に江川が干物になつてしまふ、女子大生三人に対し助教授一人の、三日三晩汗だらけの大乱交。豪勢な酒池肉林が羨ましいより寧ろ、徐々かつシリアスに消耗して行く江川の様子が結構本気で痛々しい。壮絶どころか凄惨な締めの濡れ場といふ怪体な代物にも、なかなかお目にかゝれないやうに思へる。物語なり主題といつた、ある意味小癪な観点から相対するにはそもそも当たらない一作ともいへ、映画が偶さか爆ぜるのが、「ストリップに於ける歴史学的考察とフロイトについて」とかいふ標題の、江川が最初は本当に風俗学しようとしてゐたひとみ荘講義。悪態つき続ける郁恵を筆頭に、まるで真面目にも満足にも聞いちやゐない、三人のふざけた態度に江川が激昂。矢継ぎ早に淳子と郁恵を、頭突きで卒倒させる出し抜けで出鱈目なバイオレンスが大笑必至、声が出るほど面白い。

 一人辛くも難を免れた百恵は、尺八を命ぜられ大人しく吹く。


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 「新未亡人下宿 奥の間貸します」(昭和50/製作:ワタナベ・プロダクション/提供:日活株式会社/監督:山本晋也/脚本:高橋文造/制作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:高橋松広/効果:秋山サウンド・プロ/美術:日本芸能美術/小道具:高津映画/衣裳:京都衣裳/タイトル:長谷川・プロ/記録:前田侑子/製作主任:城英夫/現像:東洋現像所/録音:大久保スタジオ/協力:ホテル 目黒エンペラー TEL 03(494)1211・銀座 ラブショップ アラジン TEL 03(567)3623/出演:青葉純、南ゆき、峰瀬里加、花房里香、千月のり子、久保新二、鯉のぼる、堺勝朗、松浦康、鏡勘平、たこ八郎、滝沢秋弘、土羅吉良、三篠敏雄、ミス・モンロー⦅特別出演⦆)。出演者中、たこ八郎がポスターには多胡八郎。同じく鯉のぼると鏡勘平に三篠敏雄、ミス・モンローは本篇クレジットのみ。チョイ役の鏡勘平と、最速で退場する三篠敏雄。カメオのミス・モンローはまだしも、鯉のぼるなんて久保新二に次ぐ、男優部で重要な役所なのに。代りといつては何だが、ポスターに谷良子とかいふjmdbにもnfajにも何も入つてゐない、謎の名前が載る正体不明のフリーダム。企画の渡辺忠はa.k.a.代々木忠で、提供に関しては実質エクセス。
 卒業を言祝ぐ汚い手書の半紙と、祝席の御馳走から下にティルトした先で、女と男が致してゐる。下宿の大家・池田久子(青葉)が、日大を卒業する小田中(三條)に身を任せる卒業祝ひ正しく本番、黙れ。「花の精鋭」の起動とともにタイトル・イン、クレジットの途中で、荷物をまとめた小田中が「お世話になりました」と下宿を辞す。となると一部屋空くゆゑ、久子が玄関に貼り出す「奥の間貸します」に、山本晋也の監督クレジットを被せる何気に完成されたタイトルバック。
 明けて馬鹿デカい高級車が、おそるおそる狭い路地に入つて来る。左三つ巴の家紋を一目見るなり緊張で強張つた制服警察官(たこ)が、あたかも脊髄で折り返して敬礼するレベルの名家・裏小路家。侍従の袋十太夫(堺)を文字通り従へ、御曹司の綾麿(鯉)が空いた奥の間に越す未亡人下宿に到着。「爺、こゝか?」、「むさいところぢやなう」と綾麿が綺麗な紋切型を切り出す、鯉のぼる第一声に対しての返答が「御意」。十太夫の所作口上が、ほとんど時代劇の領域に突入。それを堺勝朗が卒なくこなしてのける辺り、俳優部の分厚さがレガシー感を漂はせる。下宿の店子の、登場順に写真大―劇中用語ママ―五年の杉本(滝沢)と、東京農大の青木(土羅)。そして牢ならぬ下宿名主ぶる、国士舘八年!の尾崎(久保)は学習院政治学科三年の綾麿を、温かくか荒つぽく迎へる。後述するトルコの待合室に於いてすらマスをかく筋金入りの尾崎が、正しく息を吐くやうに常時チンコを触つてゐる造形が最高。カッコいゝとまでいふと言葉も過ぎるが、絶妙に画になるのが久保チンならではの天下御免。久子の風呂を覗き、オナニーをオッ始めた際「何時もこればつかりだもんなあ」と流石に自戒した尾崎が、続けて「偶には字も書かなきやなあ」と嘆息するのはダメ人間の格が違ふ、普通に声が出た。
 配役残り、花房里香は綾麿を連れ尾崎と青木が下宿屋から直行する、パチンコ屋「毎日ホール」の看板娘・玉子。千月のり子が母親の菊江、青木とデフォルトでデキてゐる。松浦康は、久子を狙ひ度々池田家に出入りする肉屋の市川。今やググッてみたところでドーナツ盤くらゐしか出て来ない、多分本職のミス・モンローは杉本も揃つた三馬鹿が綾麿を「新宿ミカサ劇場」に連れて行く、ストリッパーのメリー青葉。「女の人と体験したい」といふ綾麿を、尾崎が今度は屋号不詳のトルコ風呂に。峰瀬里加が、綾麿を担当するみどり。待合室にて尾崎と驚きの対面を果たす、顔面の美しさが他と一線を画す南ゆきも嬢、源氏名はカンコ。未見ながら未亡人下宿前作に登場する近藤質店の娘・幸子で、親爺が博打で店を潰したため、泡風呂に沈んだ由。涙の顛末を乳も放り出し語り、オッパイは軽く触られこそすれ、結局プレイには至らず絡みはしない。ストリップ小屋での卒倒に続き、騎乗位で筆を下して貰つた久子の股の下、遂に綾麿が重篤な状態に、鏡勘平が下宿を訪れる往診医。その他見切れる頭数のうち、目立つのはエンディングの往来ロング。たこ巡査が更なる新たな店子を連れて来る、広島太郎の如く―全国区で通用するのか?―所持品の過剰な、尾崎曰くに“イージーライダーみてえ”な新参者は不明、といふか識別し得よう筈がない。そもそも遠く、煩瑣に飾り立てられた上、止(とゞ)めのグラサンまでかけてるし。
 久保新二の代表作「未亡人下宿」シリーズ、買取系全十六作中(昭和49~59/久保新二は第十三作で降板)第四作にあたる山本晋也昭和50年第十四作。たゞし、nfajもプリントを持つてゐない以上、今後時空でも超えない限り触れること能ふまいが、五年先に立つ新東宝の元祖作が矢張り山本晋也の監督で存在する、現存しないだけで。山本晋也的には、当年驚く勿れ全十八作といふのが兎にも角にも凄まじい。こちらも記念すべき無印「痴漢電車」(主演:城山美紀)を八本目に撮つてゐるのと、「未亡人下宿」はこの年二本目といふ判り易いトピックに隠れ特徴的なのが、公開題に“ドキュメント”の文言を含む縛りでさへ、今でいふモキュメンタリーが半数の九作を占める愉快な底の抜け具合。往時“ドキュメント”の冠が斯くも集客力を有してゐたのか、それとも。詰まるところ多少大雑把な構成でもザクザク接いで行ける、方便的な特性が撮り散らかす、もとい量産型娯楽映画を実際量産するのに好都合であつたのか。
 基本設定のイントロを主演女優と介錯するや、男優部睦事要員が潔く御役御免と捌けて行く。前述した堅実なアバンとタイトルバックまでの好調を、以降全篇を通して維持。まづ裸映画的には、シコシコマンたる尾崎のキャラクターで下駄を履き、ビリング頭第二戦を賄ふのと四番手唯一戦を妄想で処理する、ある意味臆面もない戦法が案外的確。五番手も、土羅吉良が問答無用で場数を稼ぐ。一方、高位に関らず共々一幕限りの二三番手に関しては、直截にいふと物足りなさも地味に否み難い反面、話を花房里香に戻すと、デリュージョンの中でもマスをかいてゐる尾崎の、体の上で裸の玉子がじたばたするカットは、超絶のイマジン具現化に吃驚した。これまでいふほど高く評価してゐた訳でも別にないけれど、山晋矢張り天才かも。
 常習的に店子を喰ふ大家まで実は含め、猥雑な下宿屋に何かの間違ひかものの弾みか、やんごとなき血筋の若様が加はる。劇映画的にも、ど定番の下町騒動記を、終始小気味よく弾ける尾崎のワイルドビートで適宜加速。肉体関係は一切伴はないまゝに、綾麿と玉子が何時の間にか深い仲になつてゐたりする。藪から棒な悲恋物語の如何せん飛躍の高さは、矢継ぎ早に一幕一幕を連ね倒す、高速展開の勢ひに任せ捩じ伏せる。そして、尾崎を一旦奔走させたのち、「冗談ですよ」と床に臥せた綾麿が零す一筋の涙で、点火するエモーショナルなクライマックス。「卒業」のダスティン・ホフマンばりに、尾崎が上演中の小屋からメリー青葉をカッ浚ひ、杉本が大学の備品で照明を当て、青木はテレコで音楽担当。正真正銘余命幾許もない綾麿に、三馬鹿が奥の間でメリーさんの舞台を見させようと一肌二肌脱ぐ、今際の間際のマナ板は滂沱必至、涙腺を一撃で決壊させるエクストリーム名場面。豊潤な本篇をタイトルバックまでと要は挟み込む、未亡人下宿の変らない日常を次作に繋ぐ新人エンドが睛を入れ、画の竜は天に上る。勃たせ笑かせ、最後に泣かせ、改めて賑々しく締め括る、一旦。莫大な本数の十分の一も観るなり見てゐない癖に恐縮ではあれ、何処まで本気で撮つてゐるのか正直よく判らなかつた山本晋也の、裸と映画の二兎を見事仕留めてみせた当サイト選目下最高傑作。と、前のめつてはみた、ものの。山本晋也自体の評価とも微妙にリンクするのか、「未亡人下宿」が思ひのほか配信されてゐないのね。


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 「いんらん百物語 喜悦絶叫!」(2022/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/特殊メイクアップ&造形:土肥良成/撮影監督:中尾正人/録音:西岡正巳・大塚学/編集:山内大輔/音楽project T&K/効果・整音:AKASAKA音効/ラインプロデューサー:江尻大/助監督:谷口恒平/制作進行:菊嶌稔章/撮影助手:戸羽正憲・梅田さかえ/河童&蛇神イラスト:土肥良成/特殊メイク&造形スタッフ:大森敦史・山岡英則・大塚汐莉・川口怜/ポスター:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:宝田もなみ・きみと歩実・岬あずさ・川瀬陽太・森羅万象・安藤ヒロキオ・豊岡んみ・西山真来・赤羽一真・折笠慎也・小林節彦)。
 まづ最初に、気づくと2021年は空いてゐたので、再起動後恒例の、大蔵怪談映画の系譜を改めて掻い摘んでみると。恐らく映画を本気で信じてゐる渡邊元嗣が、「おねだり狂艶 色情いうれい」(2012/脚本:山崎浩治/主演:大槻ひびき)でルネサンスの火蓋を華々しく切つたのも、何だか何時しか遠い昔。金田一や座頭市は出て来る、後藤大輔の「愛欲霊女 潮吹き淫魔」(2013/主演:竹本泰志・北谷静香)が早速ズッ扱けたのが、今にして思へば所謂パンドラの箱。画だけは綺麗な加藤義一の「怪談 女霊とろけ腰」(2014/脚本:鎌田一利/撮影監督:創優和/主演:水樹りさ)と、ツッコミの余地ならば無駄にデカい竹洞哲也の「色欲絵巻 千年の狂恋」(2015/脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:伊東紅)。名はまだしも、結局実は全く取れなかつたハレ君事件の誘爆を受け、水野朝陽にとつて事実上最初で最後の映画出演となつた、荒木太郎の「色慾怪談 ヌルッと入ります」(2016/主演:南真菜果)で死屍累々の四連敗。実に尺の1/3を費やす長大なアバンで度肝を抜いた、山内大輔の「女いうれい 美乳の怨み」(2017/主演:佐倉絆)が負けはしない程度に連敗を辛くも四で止めつつ、高説は御尤もなこの御仁が、面白い映画を撮つてゐるのを個人的に観た覚えのない。佐々木浩久の「情欲怪談 呪ひの赤襦袢」(2018/主演:浜崎真緒)で一旦、通算成績は一勝五敗一分け。再び山内大輔の「変態怪談 し放題され放題」(2019/主演:星川凛々花)が甘目に見て引き分けにせよ、ある意味最大の問題作、翌年古澤健の「怪談 回春荘 こんな私に入居して」(2020/主演:石川雄也)に至つては、凡そ一切のあやかしなんて登場しやしない、そもそも怪談映画ですらない大概な羊頭狗肉。都合、一勝五敗二分け一没収試合といふのが、当サイト調べでの大雑把な戦禍、もとい戦果である。つか、今年も怪談やつてないのね。降霊もとい、恒例ではなくなつたのかも知れない。
 閑話休題、おどろおどろしい河童の看板で水難事故を注意喚起する河辺に、山咲小春(ex.山崎瞳)を令和ver.にブラッシュアップしたかのやうな三番手が佇む。アイリ(岬)と落ち合つたミツル(赤羽)は、純粋に金欠なのか釣つた魚に餌を与へる気がないのか、そゝくさホテルに直行。跨ぎで突入する、岬あずさのお胸のみならず御々尻も大変麗しい絡み初戦を、轟然と大完遂。事後、依然デートらしいデートをする気のまるでない、クソ彼氏に対し泣き出したリンカを、ミツルは曰くたゞで入れてホラー映画よりも面白いとかいふ、病院廃墟に連れて行く。こゝで、廃病院と来れば「変態怪談」と同じロケ先かと思ひきや、より廃墟みを増した全くの別物件、八潮市元病院スタジオとのこと。各々の幽霊カミングアウトで結果的には木に竹を接ぎがてら、二人は猫の捨てられてゐた痕跡も窺へる、屋内を右往左往。既視感を覚えるメソッドのみで造形された、ガチ幽霊(西山真来のゼロ役目)にアイリ・ミツルの順で闇の中に引き摺り込まれて一転。一応宗教画風の蛇神イラストに三本柱と、山内大輔をクレジットしてタイトル・イン、男優部三本柱までタイトルバックは続く。
 明けて胡瓜を常食する、不思議な雰囲気の転校生・ナツメ(豊岡)の高校時代の思ひでを、安藤ヒロキオが振り返る。のは、「ミサワ心霊研究所」所長・三沢武雄(森羅)が主宰する百物語の一環。参加するのは前職はIT系サラリーマンであつた江口(安藤)のほか、害虫駆除業者の吉井由人(川瀬)。
 配役残り、きみと歩実は江口の妻・マリカ。といふ次第で、きみと歩実(ex.きみの歩美)のマリカ・サーガ第四作。それ以外があるのかよ、なくもないんだな。百物語の舞台ともなる、件の廃墟は神宮寺病院跡地。江口が、あるいは江口は齢をとる割と根本的な疑問を等閑視すると、驚愕のオチに辿り着く江口の話を経て、吉井が神宮寺病院の元院長宅に入つたエピソードを語り始める。ビリング頭にして実に四十分もの長きに亘り温存される宝田もなみが、吉井が仕事で訪れる神宮寺家の、家事手伝ひ・リンカ、漢字は凛花。寝たきり状態にある神宮寺善三(小林)の、義理の娘にあたる。この乳娘、ならぬ父娘。公式のアナウンスはないが榊英雄で封印されたにさうゐない、角屋拓海の「唄へ!裸舞ソング ふれてGコード」(2021/主演:川上奈々美/二番手)に続き宝田もなみが実は二作目。地味にフィルモグラフィの途切れない小林節彦は、竹洞哲也2019年第五作「不倫、変態、悶々弔問」(脚本:当方ボーカル/主演:高瀬智香)ぶり。左肩甲骨の辺りに蛇の墨を入れた看護師、兼神宮寺の愛人・田中フジコは宝田もなみの二役目。堕胎を迫られたフジコが素頓狂なスローモーションでスーサイドする一方、リンカの同じ位置には、蛇の鱗状の痣があつた。西山真来は神宮寺の妻・幸子、リンカの母。それでは何故(なにゆゑ)に、神宮寺がリンカの実父ではないのか。折笠慎也が若かりし三沢、幸子がクロスカウンタ式の浮気に走つた、当時勤務医の三沢がリンカの父親。フジコの死後心身を壊した神宮寺のリタイア乃至クラッシュ後、病院の実権を掌握する野心に走り間男を無下に捨てた幸子を、心中を図り三沢が殺害。自身は死に損なつたといふのが、三沢の来し方。とこ、ろで。劇中百物語の当事者が三人であるにも関らず、並べられた椅子は四脚。吉井が訝しむ四つ目は、怪異譚を百語り終へたのち、降りて来る物の怪をお迎へするための椅子。となると、森羅万象が超絶のモノローグを静かに爆裂させる、三沢の告白含め江口が口を開くまでに、九十七は既に消化済みである旨、踏まへる段取りを設けてゐて別に罰はあたらなかつたのではあるまいか。
 2022年はあれだけ重用されてゐた山内大輔ですら一本きりに止(とゞ)まる、前述した「女いうれい」(2017)と「変態怪談」(2019)に続く三本目の怪談映画。三度目の正直や、果たして如何に。
 兎にも、角にも。大山の如き見事な爆乳を誇る主演女優以下、オッパイを三枚並べた上でなほかつ、電撃の四番手をも飛び込んで来る豪勢通り越して豪快な布陣を、山内大輔の的確な作家性が持て余しや出し惜しみする訳が勿論なく。中尾正人の鋭角な画作りにも加速され、裸映画的には文句なく充実する、ウッハウハに満ち足りる。その、上で。プロローグを半分は回収する江口パートと、本丸に突入する吉井篇。そして三沢がそもそもの謎を明かす、強靭にして完璧な構成を経て。対偶人魚型着包みの大概なプリミティブさは棚に置くと、三沢が彼岸に謝罪を請ふ美しい物語が遂に完成。「色情いうれい」を猛然とパシュートする一撃必殺の感動作が、十年の時を隔て漸く現れた。と、諸手を挙げ、感激しかけたのも正しく束の間。「貴方はまだ嘘をつくのね」の殺し文句こそ切れ味鋭く決まるものの、即座に卓袱台を床板ごと引つ剥(ぺが)す蛇女に劣るとも勝らずショボい猫娘で、折角綺麗に構築された映画が逆の意味で見事に木端微塵。要は多分大蔵から与へられた妖怪映画の御題に愚直か健気に従つた結果、セコい特殊造形とメイクに底を抜かれた割と壮絶な一作。良くも悪くも大勢に影響しない河童は兎も角、猫娘さへ出て来なければ、確かに勝ててゐた筈なのに。寧ろ殺させておけば据わりもよくなつたミツルはまだしも、虚空に浮いたアイリのぞんざいな扱ひには、三番手らしさでもメタ的に酌めばよいのか。猫が化けて出て来た、より直截には出て来てしまつた瞬間の、絶対値は無闇に極大、ベクトルの正負さへさて措けば。
 最終的な各々の去就<リンカは吉井と結婚・マリカは江口に殺害・アイリアバンを駆け抜けゆ・三沢幽霊にズユーッ・江口猫娘に返り討たれカパチョンパ・ナツメはマペトと江口の帰りを待つ>永遠に・ミツユ全裸で逃げゆ・神宮寺顔面騎乗から大蛇にパクーッ


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 「ママと私 とろけモードで感じちやふ」(2022/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:小山田勝治/録音:池田知久/編集:西山秀明/助監督:江尻大/小道具:愛河シゲル/選曲:効果:うみねこ音響/整音:竹内雅乃/グラフィック:佐藤京介/スチール:本田あきら/監督助手:吉岡純平/撮影助手:邊母木伸治/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:花音うらら・愛葉るび・可児正光・二葉エマ・橘聖人・加藤絵莉・只埜なつみ・豊岡んみ・かわいゆうな・樹カズ)。その後就職して足を洗つた模様の、愛河シゲルのピンク映画参戦は同じく吉行由実の2014年第二作「妹の匂ひ よろめきの爆乳」(2020/主演:奥田咲)と、小山悟2015年第二作「果てなき欲望 監禁シェアハウス」(脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:神咲詩織)ぶりの当サイトに抜けがなければ恐らく三戦目。コドーグコドーグいふほどの小道具が、何を指すのかは知らん。
 線路を跨ぐ歩道橋、エリカ(花音)が彼氏を寝取つた親友の佐藤樹里(二葉)に、憤然と決別を叩きつける。半ベソで踵を返すエリカ(花音)に入つた、母・真紀子(愛葉るびのゼロ役目)からの電話は父ないし、真紀子目線では夫の誕生日に合はせた温泉家族旅行のお誘ひ。尤もそれどころでない娘にはやんはりと参加を見合はされ、慎吾(樹)当人からは祝ふ齢でもないと企画自体否定された真紀子が、溜息ついてタイトル・イン。申し訳ないが花音うららは国沢実2020年第二作「性鬼人間第三号 ~異次元の快楽~」(脚本:高橋祐太/主演:東凛/二番手)を、全く覚えてゐなかつた。
 適当に散らかされた部屋に帰宅したエリカが、煙草に火を点けがてら樹里にカッ攫はれた元カレの直樹(橘聖人/橘秀樹には非ず)を想起。カットの割り具合から窺ふに、恐らく花音うらら当人は嗜まぬにさうゐない。絡み初戦は軽くイチャつく程度で一旦茶を濁し、玄関を開けるや勝手に上がり込んで来る仲の、幼馴染・秀一(可児)がハンバーグを作りに遊びに来る。上がり込むはおろか、それで事がオッ始まらないのが不思議な秀一はそのまゝ一泊。寝込みに手を出さうかしたところ、淫夢―で本格的な濡れ場初戦―を見るエリカが洩らす直樹の名前に、秀一が踏み止(とど)まつた翌朝。元々秀一と約束はしてゐたジョギングにエリカが音を上げてゐると、真紀子が家に戻らないとの電話が今度は慎吾からかゝつて来る。その通話を終へるや否やの正直へべれけなタイミングで、素頓狂に華美な扮装の真紀子改めマッキー(愛葉)が二人の前に大登場。どうやらエリカにとつて母親でなく、少しだけ年上のマブダチといふアイデンティティと思しきマッキーを、秀一の助言に従ひエリカは大人しく自室に転がり込ませる。
 配役残り、豪華四番手の加藤絵莉は、慎吾の浮気相手・佳奈、香菜なら頭をよくしてあげなくては。当然行くつもりのなかつたエリカは、今度はマッキーに背中を押され招待されてゐた、樹里の誕生日パーティー出撃を決定。只埜なつみと豊岡んみにかわいゆうなは、何故か主役が一番地味なドレスを着てゐるパーティーの名なし招待客。ビリング頭が三番手より着飾るのは別に構はないにせよ、そこはどうにかしてやれよと思へなくもない。その他吉行由実と、招待されてゐるのか店の従業員なのか微妙なEJD、更に特定不能の若い男が二人の計四名見切れる。画面の片隅に見え隠れする吉行由実の、ロイドのグラサンが浜野佐知みを爆裂させてゐるのが地味に可笑しくて可笑しくて堪らない。あと、秀一とのある意味プラトニックな関係以上に、エリカがホイホイ乗り気なのがなほパラノーマルに思へて仕方ない、結局樹里とも別れた慎吾がマキシワンピの中に淫具を仕込ませたエリカを、往来に連れ出す羞恥プレイ。の件に投入される通行人部が、潤沢を軽くオーバーシュート。
 上野の旗艦館始め公式に言祝がれてゐる割にその旨のクレジットは見当たらない、吉行由実監督生活二十五年の周年記念作。一年ずれるのは、撮影時カウントか。前作「同棲性活 恥部とあなたと…」(2020/主演:佐藤りこ)での、「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/監督:小川欽也/脚本:岡桜文一/協力≒脚本監修:関根和美)以来となる電撃復帰に驚かされた、愛葉るび的には芸能生活二十年の周年記念作。監督生活二十五年に話を戻すと、だから荒木太郎も同期なのに、清水大敬に関しては―当サイトが―忘れてゐた。
 母と娘が親友同士としての新しい関係を築きつつ、各々新しいパートナーにも恵まれる。量産型娯楽映画作家として吉行由実は既に成熟、大筋がとりあへず酌めるやうに撮られては、ゐるけれど。いやいやいや、この物語で、目出度し目出度しといふのは土台通らない相談。可児正光の男前力と、電飾ブランコの大技―こゝで装飾部の出番?―もそれなりに綺麗に決まり、エリカが秀一と結ばれる乃至、秀一積年の片想ひが漸く実るエモーションは素直に吞み込み得る。さうは、いへ。マッキー造形の痛々しさ以前だか以下に、全員偶さかな本命扱ひで、女優部三冠を華麗にでなく達成してのける達成しやがる、直樹の自堕落な浮気男ぶりが兎にも角にも即死級の致命傷。主演女優の裸を拝ませる方便以外に、そもそもさういふクソ男の相手を、何時までもエリカが嬉々と務めてゐる正しく腐れ縁が途轍もなく理解に遠い。挙句の、果てに。結果的かつファンタな母娘丼についてはまだしも、自分の気持ちを確かめるためにだとかで、女二人に目隠しさせた巴戦を仕込むやうな出鱈目な男を、エリカが母親に譲る構図が根本的に木端微塵。その場のショックで正気を取り戻した真紀子も真紀子で、「有難う、私を選んで呉れて」ぢやねえだろ。言葉を選ぶと二人とも頭おかしいのか、マッチポンプで恐縮ながら、全然正気取り戻せてない。性懲りもなく白馬の王子様を待ち焦がれてゐたりする、かつての―とうに少女ではない女が拗らせる―少女趣味を吉行由実が卒業したはいゝものの、これはこれで底の抜けたガッハッハに過ぎる。生まれ落ちて半世紀を通過、怠惰に堕ち続けるオッサンでも立ち止まらざるを得ないレベル。流石に幾ら何でも、ハッピー(風の)エンドを見せておけば、脊髄で折り返して客は喜ぶとでも思つてゐるのなら大間違ひだらう。


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 「痴漢との遭遇」(昭和53/製作:電映/監督:山本晋也/脚本:山田勉/企画:島田美沙子/撮影:志村敏雄/照明:磯貝一/音楽:森あきら/編集:室田雄/美術:大原友治/助監督:宮島利明/効果:秋山実/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/衣裳:富士衣裳/出演:原悦子・橘雪子・しば早苗・榊陽子・神原明彦・たこ八郎・九重京司・鶴岡八郎・千葉ルミ・村上恵美・照井公咲・尾形五郎・土羅吉良・久保新二)。出演者中、千葉ルミから土羅吉良までは本篇クレジットのみ。代りなのか何なのか知らんけど、ポスターにのみ千葉久美子と長谷圭子の名前が載る。当時喜び勇んで小屋に駆けつけた、長谷圭子クラスタの悲哀を偲ぶと血涙が止まらない、眼科行け。とまれ脚本の山田勉は、山本晋也の変名。
 商事をスッ飛ばす電映クレから、花の輪?越しに夜の屋外で性愛を交すカップルにピントを送る。こゝで、二人の固有名詞がが互ひの呼称準拠でエミちやんとゴローさんにつき、トランプ、もといとなると脊髄で折り返して村上恵美と尾形五郎なのかと思ひきや。必ずしも、さうではない模様。ゴロー役が土羅吉良ゆゑ、どうもエミゴロは単なる偶さか臭い。アヒル、もといとなるとエミもより派手に脱ぐ点から、序列のひとつ高い千葉ルミかも。閑話休題、そこに現れたサラリーマン・野村勇作(久保)が周囲の様子を殊勝に窺ひつつ、野外プレイを恐々覗かうとしてゐると「よ!覗いてんのか?」。思ひのほかフランクに、覗きの名人(たこ)大登場。名人が初心者―かつ初対面―の野村に指南する関係性をザックザクあつらへると、名人いはく三種類ある痴漢テクニックのうち、まづ覗きが“第一種痴漢接近遭遇”。受けて野村も「ぢやあ『未知との遭遇』ぢやなくて『痴漢との遭遇』ですな」、馬鹿丁寧にパロディ作である旨表明した上で、繫みの中妖しくうねるエミちやんの背中にタイトル・イン。今回は、照明も十全に当ててある。ちなみに本家「未知遭」の日本公開が二月末、今作封切りは六月初頭。これぞ迅速果断、その間僅か三ヶ月強。但しそれは、既に喪はれて久しい昭和の早さ、といふ訳でも決してなく。特別版と称した、突貫のパイロット版を観てゐないので中身の如何も果たして完成するのかも知らないが、令和のこの世にも「REVOLUTION+1」があるにはある。更に半月絞り込んだ以上に、事の性質なり成立ちからすると一層加速してはゐまいか。
 出勤時、実はレス・ザン・ホームの名人と再会がてら、野村―の所属は業務第二課―は秘書課で憧れの西田礼子(原)と交錯。礼子の持ち物と思しき、ダンヒルのライターを拾ふ。取り入る目的で野村が専務の松本(野暮つたいパーマ頭の神原明彦)に、連れ込みとして自宅を貸す一方、専務秘書の礼子は郷里への送金や何やかやも出汁に松本とは愛人関係にあつた。むゝゝ、何処かで聞いたやうな話といふのは、別に隠しもしない。
 配役残り、女子力ならぬ女史力漲る橘雪子は礼子にとつて秘書課の先輩、元専務秘書であつた佐藤春江。鶴岡八郎は松本が野村の課長昇進を推挙する、人事担当の常務・大久保で、しば早苗が大久保も野村の部屋を逢瀬に使ふ、愛人のミッちやん。そして、大久保に明け渡し、自分の家なのに野村が帰るに帰れない夜。名人と再々会した野村は、劇中二組目となる青姦カップルの覗きに連れて行かれる。おメガネの麗しいレイコは、千葉ルミのビリング推定が当たつてゐた場合、消去法で村上恵美。解けない難問が、そのお相手氏。闇にも沈み、限りなく全く面相の映らないカズオと、名人が野村をけしかける、直接触る“第二種痴漢接近遭遇”でどさくさする、どころか。明々後日か一昨々日にアテられた、少なくとも両性愛者の名人がカズオを掘り始める阿鼻叫喚の修羅場に介入する制服警察官。何れが照井公咲で、もう片方が尾形五郎なのかに関しては、正直手も足も出ない。九重京司は、接待の途中で―礼子と逢ふ―松本が豪快に後を野村に丸投げする、大阪商事の三津田社長。大絶賛実曲使用、木に竹を接ぎ喧しく鳴らされる阿部敏郎(ex.くもと空)の「あせるぜ」に完全に水を差される榊陽子は、松本から三津田に要は饗された佐藤女史の口から、秘書課の真実を聞き心騒がせた野村が、捨て鉢な一夜をともにする多分ホステス。何時の間にか阿部敏郎が今はスピで飯を食つてゐる、量産型裸映画畑でいふとまんたのりお(a.k.a.荻久保則男)にも似た人生いろいろに、風がそよぐ程度に琴線を撫でられる。
 情事の場を上司に提供する胡麻擂りか世渡りリーマンが、上司の愛人に岡惚れする。といふと「未知との遭遇」より寧ろ、まんま「アパートの鍵貸します」な山本晋也昭和53年第七作。ついでで野村家の普請もアパートといふよりは、完全に団地。尤も、恐らく「カサブランカ」がオールタイムベストにさうゐない、たとへば清大のやうな古典的シネフィルならばまだしも、無知蒙昧と浅学菲才なら人後に落ちない当サイトが、ワイルダーなんて通つてゐるものかかんらかんら、笑ふてしまへ。通る通らないは兎も角、頼むから落ちて呉れ。
 “第三種痴漢接近遭遇”で野村が礼子と目出度く結ばれる、結末こそ結構異なれど大筋を大体忠実にパk・・・・いやトレースしてゐるだけに、山晋映画にしては体を成した物語がとりあへず存在する。かと、いつて。礼子が眠剤自殺を図つた危機に際し、隣に住んではゐないが偶々野村を訪ねて来た、たこ・エクス・マキナな名人が実は東大医学部卒。俄かにたこ八郎が頼もしく輝く神業の応急処置を、詳細な仔細は赤バックの手書きスーパー一発勝負で事済ましてのける清々しい省略は兎も角、一旦野村が占有したダンヒルを、礼子の手許に戻す段取りがスッポリ脱け落ちてゐるのは、通り過ぎるに難い割と根本的な大ミス。久保チンが久保チンである限りな、間断ない小ネタの絨毯爆撃にも否応なく尺を割かれ、最終的には普段と大して変らずぞんざいな作劇が、この期に及んで殊更ワーキャー褒めそやすには値せず。スピルバーグにもワイルダーにも、特段レコメンドする気にはなれない一作、と半ばあきらめかけたところが。ブロバリン無効化の地味な謎を、名人が鮮やかに回収してみせる綺麗なラストには本気で感心した。最後の最後でたこ八が見事な逆転ホームランを放つ、スマートな量産型娯楽映画。何はともあれ、あるいは何はなくとも。矢張り電映製作による、山本晋也二作前「ポルノ チャンチャカチャン」で買取系ながらロマポ初上陸を遂に果たした、即ち将に天下を取る道程の原悦子がエクストリームに可愛くて可愛くて仕方ない、堪らない。何せ原悦子が可愛すぎて、映画の中身とか最早どうでもいゝ、よかないだろ。主演女優の可愛らしさは百難隠す、それもまたひとつの、偽らざる真実なのではなからうか。

 付記< 一旦脱稿後、「REVOLUTION+1」は完成したとのこと。関門海峡を越え、来たら観に行く、予定。予告に目を通してみるに、大概香ばしさうな雰囲気は否めない


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 「三次元透視 SEXウルトラアイ」(昭和59/製作:ハリマ企業らしい/配給:株式会社にっかつの筈/監督:吉岡昌和《第一回作品》/製作:吉岡昌和/製作補:関孝二/監督補:石部肇/撮影:高井戸明/照明:山口一/編集:酒井正次/録音:銀座サウンド/効果:東芸音響/現像:東映化工/スチール:橋本勝成⦅姫路銀影写房⦆/出演:河井憂樹・田代葉子・榮雅美・南条碧・吉岡和子・風見玲香・久保新二・螢雪次朗・立川与之助・堺勝朗)。出演者中、榮雅美と螢雪次朗に立川与之助が、ポスターでは栄雅美と螢雪次郎に立川与ノ助。これが世之介だと2代目快楽亭ブラックの、十一番目の名義にあたる。あとポスターには吉岡昌和と関孝子の共同とされる、脚本クレジットが豪快にも脱けてゐるのは本篇ママ、大体誰なんだ孝子。
 左から右に画面を横切る山陽新幹線にのんびり二十秒回して、カメラが寄つた先は「アナノ産婦人科医院」。オッパイも露に横たはる患者を、院長の穴野助平(堺)が適当に診察、傍らには配偶者の婦長(吉岡)も控へる。ゼロ親等なのか一親等なのかはたまた二親等なのか、特定はしかねるが恐らく、和子は昌和の親族なのではなからうか。それはさて措き全体何故、別に脱ぎもしなければ脱いで呉れなくて構はない、吉岡和子のビリングが風見玲香よりひとつ高い。閑話休題、診察に訪れたラウンジ「キング」のママ・マコ(榮)に穴野は自身の発明による、頑なに名前が呼ばれないゆゑ、あくまで仮称の「ウルトラアイ」を剥ける、もとい向ける。このウルトラアイ、見た目的には真黒の大ぶりな手持ち眼鏡のやうな代物で、カメラのシャッター的に釦を押すと人が着てゐる衣服が透けて見えるはおろか、体内まで覗ける大概なトンデモ・ガジェット。斯くもひみつな道具が説明を一切スッ飛ばした正真正銘のデフォルトで存在してゐる、とかく愉快か底の抜けた世界観ではある。とまれ三次元透視描写を、関孝二の考案にさうゐない要はシースルーを着させた女優部を普通に撮影する、コロンブスの卵感あふれるフィジカル特撮が案外画期的。踏襲した、前例が既にあつた可能性も否定出来ないが。待合室で雑誌を読んでゐる女の、何気でなく見事な爆乳もウルトラアイで拝みつつ、出し抜けに水面を駆ける、吉岡昌和所有の船舶に決まつてゐるクルーザー「KAZU Ⅶ」号に、藪から棒なゴーゴー音楽鳴らしてタイトル・イン。夜の女にしか見えない派手派手しいその他看護婦と、待合室にもう一人。不脱のアバン部はまだしも、裸要員二名のノンクレには不遇の誹りも免れ得まい。
 配役残り、早くね?といふ直截な疑問に対する回答としては、手短に掻い摘むほどの物語も特にないんだな、これが。久保新二と螢雪次朗は、穴野の、劇中本当に遊んでばかりの放蕩息子・のり平と、のり平の先輩にあたる内科の研修医・謙、苗字不詳。先輩後輩とはいへ、この二人実は同い歳。田代葉子と南条碧はともにキングのホステスで、謙と男女の仲にあるミヤと、プレスシートでも参照したのか、役名併記のjmdbにはエミとされる、ものの。どうも久保チンが、カオルと呼んでゐるやうに聞こえるのは気の所為かしら。風見玲香と立川与之助は、是が非でもミヤと一戦交へたいのり平の切望で、四人で入つたラブホテル「さくら」の、隣室で膣痙攣に陥るカップル。ほんでビリング頭にして前半温存される河井憂樹が、田舎を飛び出して来たキングの新人ホステス・さなえ。のり平がミヤにフラれたタイミングで唐突にラウドな選曲起動、酔ふと裸になるとかいふ底の抜けた方便で、脱ぎだしたさなえがいきなり半裸で踊り始めるファースト・カットの無造作さが、要は全篇を支配する最も顕著な特徴。その他キング店内に現地調達したと思しき、客と店員込みで十指に余る人数が投入される。
 今作の十九年後、平成15年(2003)には旭日双光章を受勲してゐる旨石動三六が辿り着いた、姫路の名士・吉岡昌和の栄えある第一回監督作品。次があんのかといふツッコミに対しては、あるんだよ、それが。吉岡昌和の第二回より風かおるの引退作がなほ重要な、凄まじいタイトルの「毛剃り魔」(1989/新東宝)、デビルに魂を売つてでも見たい。と、いふか。nfajがプリント持つてゐるぞ、チャンスが決してなくもない。そ、して。シネポは吉本昌弘と混同してゐる吉岡昌和の、確認し得る最古の量産型裸映画参加が何と、こゝから全てが始まつた山本晋也昭和50年全十八作中第八作、記念すべき無印「痴漢電車」(脚本:山田勉=山本晋也/主演:月丘恵子)の企画・製作。となると歴史の重要な一翼を、人知れず担つてゐたりもする御仁ではある。「毛剃り魔」に話を戻すが、「ケゾリマ」、片仮名で書くと何かイタリアら辺のアート映画みたいだ。
 しかも市井の町医者が発明した、原理の全く謎なクレヤボヤンス装置。なるゴキゲンな機軸を繰り出す、のみならず。公開題にまで賑々しく謳つておきながら、ウルトラアイが展開の主軸を成す訳でもなく。偶発的に女の裸を他愛なく覗いてみるか、そもそも映りから悪くて何がどうなつてゐるのかよく判らない、膣内―模型の―映像で茶も濁し損なふのが精々関の山。足首が細いだの口元に黒子があるだの、人相占ひにのり平が浮足立つ、名器狂騒曲に概ね終始する。カオルぽいエミと話を聞いたマコも、のり平の巨根に色めきたつ。一言で片づけると、兎にも角にも雑な映画で事済む、ともいへ。果たして何が禍したか致命傷を探し始めたが最後、逆にいゝところが一欠片も見つからないある意味壮絶な有様につき、途端に途方に暮れる。背景に姫路城を抜く以外の意図が見当たらない、間の抜けた構図のロングに関しては伊豆ならぬ姫路、御当地映画ならではの清々しさに免じ、寧ろ言祝いでみせるのも一興。なのかも知れない、なのかなあ、自信はまるでないけれど。六日の明くる日は七日、何でも脊髄で折り返して与太を吹くな。
 土台クレジットに於いて、自分の名前だけ頓珍漢な丸ゴシックで差別化を図つてのける、凄惨なセンスから既にチェックメイトの明らかな有様といふかザマなのだが、とかくぞんざいな繋ぎと、点々と打つた点が終に線を成さない、場当たり的な展開。ネタなりメソッドの陳腐さ以前に、会話のテンポはへべれけで、カット割りのリズムも生理的な不快感さへ覚えかねないレベルでぎこちない。風見玲香とex.桂サンQの危機に、のり平が「さくら」に父親を呼ばうとする件。電話口でワチャワチャ大騒ぎする久保チンの背後の、田代葉子と南条碧にも頼むから少しは芝居をつけて呉れ。映画のフレームの中に、手持ち無沙汰なんて見たかないんだよ。劇映画に開いた穴と、裸映画を散らかす粗。宛がはれた白痴造形に主演女優が後ろから撃たれる、率直なところポイントゲッター不在の女優部といふ評価については、百歩譲つて議論ないし嗜好の分れる点にせよ。濡れ場に入れば入つたで、順調にモタつくか躓いてみせるのが逆の意味で隙がない。下手に寄りすぎたかと思へば、今度は乳尻を外す始末。確実におかしな手持ちの画角が、逐一もどかしくてもどかしくて仕方ない。常々思ふのが女の裸を下手に狙ふくらゐなら、思ひきり馬鹿正直に真正面から撮つて欲しい、些末か煩瑣な映画的顕示なんぞ不要である。どうせ吉岡昌和の豪邸で撮影した、穴野家屋上にて観光、もとい敢行される穴野とマコの豪快な青姦。姫路民であればもしかしたらイケる、上つてゐるのか下つてゐるのか景色で判別つけ難い、新幹線が行くのと穴野がイクのを同期させる、こゝは手放しに画期的な“新幹線イキ”シークエンスこそ、的確に引いて十全に見せるべきではなかつたか。所々で俳優部の顔に、照明が満足に当たつてゐない不調法な画も散見される。本職照明部の、石部肇が監督補で名前を連ねてゐるにも関らず。クライマックスは相変らず四人の乱交目的で、のり平が無断で拝借した「KAZU Ⅶ」を、マコと愛艇逢瀬に繰り出すつもりの穴野が、係留所で盗んだ小型ボートで追ひ駆ける、盗人の親も盗人か。穴野らも「KAZU Ⅶ」に合流する形で、怒涛の六人バトルロイヤルに雪崩れ込、めばよかつたのに。延々水上チェイスした末に、結局そのまゝ二艘の舟が瀬戸内海の藻屑と消える別の意味で驚愕のラストには、尻子玉を摘出されるかと思つた、沈んでねえ。強ひて渾身のポリアニズム―愛少女的加点法の意―を振り絞るならば、現場で石部肇に舵を任せるでなく、本当に吉岡昌和が撮つてゐたのね、多分。


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 「それゆけ痴漢」(昭和52/製作:ワタナベプロダクション/監督:山本晋也/脚本:山田勉/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/音楽:多摩住人/編集:竹村編集室/記録:前田侑子/助監督:高橋松広/効果:中野忍/美術:岡孝通/スチール:津田一郎/制作進行:大西良平/制作担当:一条英夫/小道具:高津映画/衣裳:富士衣裳/タイトル:ハセガワタイトル/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/出演:泉リコ・北沢万里子・沢木みみ・笹木ルミ・尼紫杏・沢珠美・野田さとみ・松浦康・滝沢秋弘・深野達夫・竜谷誠・久須美護・岡田良・大山克則・久保新二)。出演者中、沢木みみがポスターには沢木ミミで、久須美護と岡田良は本篇クレジットのみ。逆にポスターにのみ、土羅吉良の名前が載る、自由だなあ。脚本の山田勉は山本晋也、企画の渡辺忠は代々木忠のそれぞれ変名。
 WP印のナベプロロゴから、往来の夜景挿んで、夜の公園へと繋ぐ。のは、いゝにせよ。矢竹正知ばりの、途轍もない無作為な暗さはどうにかならないものか。といふかどうにかせれ、商業映画だぞ。ベンチで致す高校生カップル(尼紫杏と、不完全消去法で岡田良/尼紫杏の役名は小百合)に、先輩後輩の痴漢コンビ・久保新二とヒロシ(滝沢)が右前方から回り込む形で無造作に接近。久保チンの劇中固有名詞はヒロシが“センパイ”としか呼称しないゆゑ、以後パイセンで通す。どさくさに紛れもせず二人が小百合の体に手を伸ばすはおろか、パイセンに至つては尺八まで吹かせる限りなく単なる乱交に近い痴漢現場に、警邏中の制服警察官(ポスターに名前が載る推定で大山克則)が介入。児戯的な追ひつ追はれつの末、世知辛い都会の痴漢に限界を感じたパイセンは、パクッて来た学生鞄の中から出て来たオリエンテーリングの入門書に触発。二冊目の『雪国』(いはずと知れた川端康成)で決定的に背中を押され、旅立ちを決意する。「吊り橋を抜けると、そこは痴漢の国だつた」云々。『雪国』冒頭を結構延々パロディした上で、門脇吊り橋(伊豆城ヶ崎)のロングにタイトル・イン。他愛ないヒロシのボケに対し、体重を乗せたエルボーなり頭突きでツッコむパイセンのブルータルさも楽しいが、受ける滝沢秋弘(a.k.a.滝沢明広)の「どわあ」が絶品。久保チンの「アシャアシャアシャ」や山竜の「ニニニ!」、ほかには螢雪次朗―あるいは黒田一平―の「ジャン!」同様。名物的なメソッドとして語り継がれてゐても別に罰は当たらなかつた、時代の流れの渦か泡(あぶく)に消えた慎ましやかな至芸、滝沢秋弘の「どわあ」がこの期に及んで胸に沁み入る。「どわあ」、ドワらせたら滝沢秋弘は日本一だらう、何だそのコンテスト。
 録音部の装備を携へた二人組・メグミ(沢木)とヤスコ(野田)の顔見せ噛ませて、立ちションするヒロシが、青姦カップル(笹木ルミと変なパーマの深野達夫)を発見。全体何がしたかつたのか、糸にメンソレータムを塗した釣竿―パイセン曰く如意棒―が、笹木ルミの菊穴に誤爆する、凄まじく下らない。
 配役残り、間違つても可愛らしくはなければ、本物にも絶対見えない。用途を何気に謎めかすクオリティの熊の着包みを持ち出し、健気に新田真子、もとい死んだフリをするメグミとヤスコに痴漢するパイセンに対し、「金のかゝつた痴漢やつてんなオイ」と感嘆してゐるのか呆れてゐるのかよく判らない松浦康は、地場の痴漢師・源三。覗きの源三略して、覗源なる異名を誇るらしい、異次元みたい。北沢万里子と、アテレコの久須美護(a.k.a.久須美欽一 or 久須美弦 or 夏季忍)は源三がパイセンとヒロシを覗きに案内する、農作業の傍ら野外夫婦生活に勤しむヨシコとマツジロウ。芸者や花魁ぢやあるまいし、花街感覚のチントンシャンを鳴らすちぐはぐな選曲に出鼻を挫かれる泉リコは、源三が畏怖する深い森の巫女。沢珠美と竜谷誠は、二人が矢張り源三のアテンドで凄い夜這ひに連れて行つて貰ふ、ものの。東京と伊豆を股にかけ、アバンを踏襲する野放図な闇に沈み、何をヤッてゐるのか本当に見えないタケとハナノジョウ。もうこんなの、女の裸の無駄遣ひ。
 吊り橋を痴漢の国に渡つたパイセンとヒロシが、各々下半身に可笑しいけれど深刻めなダメージを負ひ、からがら吊り橋を引き返し娑婆に戻る。即ち伊豆に行つて、伊豆から帰つて来る。今上御大こと小川欽也が後年完成した、現代ピンクの桃源郷・伊豆映画の萌芽ともいふべき山本晋也昭和52年第九作。我田引水、こゝに極まれり。
 必死で大人しく寝てゐる女を、チャチい熊の着包みが犯す、最早神々しいまでに独創的なシークエンス。文字通りの熊手では如何せん衣服を剥ぎ難い、マニピュレイト機能の否応ない限界を、カット割りで回避してのける論理性もキュート。沢木みみと野田さとみをぞんざいに通過した上で、北沢万里子―と久須りん―の下に三人で向かふ道すがら。何処の名画かと目を疑ふほどの、木洩れ日差す無駄に幻想的な超絶のロケーション。散発的な見所はそこかしこに見当たらなくもない割に、統一的な物語なり、明確な主題に端から関心を持ち合はせないと思しき、成行任せ出たとこ勝負のランダムな作劇が、面白いのかといふと決してさういふ訳でもない。量産型娯楽映画の塵を積もらせた大山を、賑やかす枯れ木の如き一作。しかも二段構への、藪から棒な怪異で締め括るオチも、木に竹を接いだ印象が甚だしい。とりあへず、折角それなり以上の女優部を揃へておきながら、乳尻を腰を据ゑ見させる最低限の誠意を、山晋にはもう少し弁へて欲しい。とかくこの御仁、裸映画を本気で撮る気があるのか否か、今一つピンと来ない、寧ろないのか知らんけど。

 話は一昨昨日に逸れるが、与太吹きついでで戯れにググッてみたところ、新田真子が今なほ同人のフィールドで大絶賛現役といふ、思はぬ方角から飛んで来た息の長さに軽く衝撃を受けた。2023年で何とデビュー四十周年、成年マンガ家の平均作家生活がどのくらゐの長さになるのか見当もつかないまゝに、論を俟たぬ数字で些末を圧し潰し得る、偉大な継続にさうゐない。


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 「セミドキュメント 《秘》女肉市場」(昭和51/製作:ワタナベ・プロダクション/監督:代々木忠/脚本:池田正一/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:高橋松広/効果:秋山サウンド・プロ/美術:日本芸能美術/小道具:高津映画/記録:前田侑子/制作進行:大西良平/タイトル:ハセガワ・プロ/制作担当:一条英夫/録音:大久保スタジオ/現像:東洋現像所/弾語り:東小川万吉・GEN.BAND 瀨戸雄二・江野光治・人見重蔵・川内博隆/協力:レストランホテル 目黒エンペラー前橋 群馬県勢多郡大胡町 TEL 0272-83-3211㈹・ナイトレストラン じゅれびあん TEL 988-4646/出演:真湖道代、南ゆき、ティミ杉本、乱孝寿、山下まゆみ、岡田あや子、秋川瑞枝、ウィリアム・キャンディー、ミス・ボンボン、堺勝朗、市村譲二、深野達夫、森一男、滝沢秋弘、土羅吉良、坂本昭、三條敏夫、高宮俊介、佐々木清人、高瀬竜、岩田富夫、北野清二、小波兼/ナレーター:都健二)。出演者中、南ゆきとティミ杉本が、ポスターでは南ユキとティミー杉本、ウィリアム・キャンディーと滝沢秋弘以降は本篇クレジットのみ。企画の渡辺忠は、代々木忠の変名。
 ナベプロ作ロゴから、南ゆきが湯に浸かる掴み処を欠いたロングにサクッとタイトル・イン。人妻(南)とホストクラブ「ムゲン」(表記不明/現存する大阪のMUGEN Groupとは多分無関係)のナンバーワン・ハヤミジュンイチ(深野)の、同伴出勤を見据ゑた逢瀬。寧ろ誰か真に受ける者が存在してゐたのか、甚だ怪しいレベルの正しく形だけともいへ、“セミドキュメント”の御題目を遵守し素面の劇映画的には中途半端に離れた距離を保ちつつ、気が向くと普通に寄つてもみせる、とかく安定しないカメラ位置が視覚的に如実な特徴。挙句油断してゐると、乳でなく結合部付近の尻を狙つた、藪蛇か闇雲なズームも唐突に仕出かしてみたりする。久我剛の持ちメソッドとも思へないゆゑ、ヨヨチューから特別な指示でも受けたのであらうか。あるいは、限りなく乱心に近い、単なる偶さかな気紛れに過ぎないのかも。それと今回この期に学習したのが、正常位で挿したまゝ終に体位を移行しないと、俳優部が少々オーバーアクト気味に頑張つてみせたところで、動きを欠いた画が如何せん漫然としてしまふきらひは否めず。兎に角、オッパイが男の背中に隠れ見えないのが根本的な致命傷、本末転倒こゝに極まれり。兎も角、一直線に結婚を望んで来る―既婚者の―南ゆきに対し、親爺の遺した借金だ病気のおふくろだと、ハヤミは適当に話を濁す。
 配役残り、「ムゲン」店内で最初に飛び込んで来るのが、意表を突いて東小川万吉。要はキャバレットな生演奏担当といふ格好で、のちに登場するGEN.BAND共々、結構ふんだんに尺を割いて貰へる。東小川万吉を出発点に右から左へグルーッと一望する中、視認出来たのはやさぐれたトルコ嬢のヒロコ(ティミ杉)と、ベテランで三の線のカワナトシヤ(堺)。外国人旅行者(ウィリアム・キャンディーとミス・ボンボン)を、一対二で引き受けるマツキヨウジ(市村)。今回、着衣の状態でカワナにハモニカを吹くやう強ひるに止(とど)まるミス・ボンボンが、一ヶ月後の木俣堯喬昭和51年第一作「ポルノ・レポート 金髪パンマ」(Missボン・ボン名義)に於いては黒い肉襦袢ぶりを豪快に大披露、観るなり見た者の心に傷を残す。閑話、休題。アキちやんと呼ばれる大体ヒムセルフ(滝沢)に、新人なのか、受付的な業務を主に任される土羅吉良。この人がホストなのか、懐の深い店だ。その他、札片をバラ撒いてはカワナに食べられないものを食はせる、陽気は陽気な乱孝寿の狼藉噛ませて、「ムゲン」に初来店するナミキ夫人が真湖道代、女優部としてはラスト・イヤーにあたる。若手ホープ格のダイゴは、ビリング的に森一男かなあ。ハヤミが同伴出勤する信用組合の事務員は、一濡れ場こなす以上山下まゆみ、の筈。あと比較的大きめの役だと、ハヤミがナミキ夫人の身上調査を依頼する、興信所の探偵が判らない。
 マツキが強い胃薬に表情を歪める洗面所に、ハヤミも現れる。皮肉交じりに上辺だけ気遣ふ若きNo.1に対し、マツキが寄越した捨て台詞が「頂上に立つた人間は、あと下るだけだ」。かつてどころでなく刹那的に短いスパンで、マツキとハヤミが交した―のと見事に全く同じ―会話を、今はハヤミとダイゴが交す。何だかんだ生き残るのはプライドを捨て、おこぼれを預かるジャッカルに徹する、カワナで案外あつたりもする。 “女肉市場”とか煽情的に謳ひながら、要はホスト残酷物語なるどちらかといはずとも、男優部がよりフィーチャーされた量産型裸映画的には変化球作。ハヤミが別宅に使用してゐる、今でいふ映える高級ホテルの一室に結婚結婚煩はしい南ゆきを先に入らせた上で、自分は後から来る体でカワナを遣はせる。そのまゝ送りならぬ向かひ狼で堺勝朗が二番手を手籠めにした事後、頃合ひを見計らひやつて来たハヤミが、他のホストと寝た南ゆきを捨てる。実も蓋もない展開に面白味も特段見当たらないが、とりあへず腹を立てるほど破綻してゐる訳でもない。螺旋階段で戯れる、ティミ―杉本と堺勝朗の局部がこれで映り込まないのが不思議な、別に特殊な技巧を駆使してゐる風にも映らない超絶撮影と、真正面からど直球の告白を敢行するものの、マツキは結局ナミキ夫人をハヤミから略奪し損ねる。小雨の中、トレンチの背を丸め往来に文字通り敗れ去る、市村譲二(a.k.a.市村譲)の哀愁漂ふ長回しが数少ない見所。カワナが乱孝寿に魚の骨を食べさせられ、目を白黒させられるのがラストカット。芳醇な堺勝朗の顔芸が、何気に最後は綺麗に締め括る。


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 「ペッティング・モンスター 快楽喰ひまくり」(2021/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:藍河兼一/編集・VFX:山内大輔/録音:光地拓郎・大塚学/ベロデザイン 造形・特殊メイク:土肥良成/ガンエフェクト:浅生マサヒロ/ラインプロデューサー:江尻大/制作進行:神森仁斗/助監督:谷口恒平/監督助手:吉岡純平・栗原翔/音楽:Project T&K/効果:AKASAKA音効/撮影助手:赤羽一真/特殊メイク・造形助手:李華㬢/ポスター:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:きみと歩実・篠崎かんな・七菜原ココ・加藤ツバキ《特別出演》・安藤ヒロキオ・可児正光・森羅万象)。出演者中、加藤ツバキの特出特記は本篇クレジットのみ。
 ピントを外された、“何か”ゐる水槽にタイトル・イン。結論を先走ると下手糞なくさめが、何某か演出企図があるものやら単なる不調法に過ぎないのか、最後まで判別しかねる森羅万象が薄汚れたオーバーオールでほてほて歩いて来るロング。に、全篇通して徒に乱打か濫用される、虚仮脅しの大仰な劇伴を鳴らす珠瑠美主義、縮めてルミズム。国産有機大豆使用を謳ふ「おいしい納豆」の販売員・三沢(森羅)が、小さなクーラーボックス一つ携へ得意の江口家を訪問、結婚三年目のマリカ(きみと)が藁包を三つ買ふ。まあた随分と、のんびりした商売ではある。その夜、マリカの夫・裕樹(安藤)が四日後の週明けからといふと、出し抜け通り越して出鱈目なオマーン赴任を報告、何て雑な会社なんだ。兎も角その日の夫婦生活と、何気に三沢とも交錯する裕樹の出発後、宅配便を持つて来た裕樹と同じ容姿の男(安藤ヒロキオの二役目)にマリカが犯される、ワンマンショーのオカズ妄想を経て。後始末するマリカに、五年の疎遠といふと結婚式にも呼んでゐない妹のユイカ(七菜原)から電話が入る。や否や、何処からかけて来たのか観音様も乾かぬ早さで、二人ともパチ屋のバイトを馘になつた彼氏のミキオ(可児)と、ユイカが収容人数には余裕のある姉宅に転がり込んで来る。傍若無人な妹カップルにマリカが普通にキレる中、裕樹から国際電話が。ユイカ曰く残して来た姉のケアを義兄に頼まれた旨、マリカが不平を唱へると君は一人つ子であつた筈だといふ裕樹は、続けてマリカに、ペットのプレゼントを用意しておいたと告げる。ユイカらに貸したつもりの、子供部屋(予)にマリカが入つてみるとそこには水槽があり、大人と同じくらゐの大きさの舌を常時文字通りべろーんと出した、一つ目で棘の生えた謎の生き物“ベロ”が入つてゐた。何に一番近いかと問ふならば、ガヴァドン幼生かな。
 配役残り、矢張りマリカを犯す可児正光二役目の宅配配達員と、裕樹が客死し悲嘆に暮れる、マスカラが溶けザ・クロウみたいなマリカを拾ふ安ヒロ三役目のガテン系。に続く加藤ツバキは、ガテン裕樹がマリカの以前に抱いた、矢張り未亡人の沙月弥生。特別出演ゆゑ、精々下着までしか脱がないものかと思ひきや、オッパイを御披露なさる豪気には軽く驚いた。篠崎かんなはマリカを訪ねる、弥生も組合員証を首に提げるNPO法人「全日本未亡人組合」の、城東地区リーダー・佐藤灯里。2014年発足で三万人弱の加入者を擁する「全日本未亡人組合」が、「全国未亡人連合」の後身組織といふのは、坂本太を悼むためだけに吹く与太。その他、加藤ツバキ第二戦の相手を務めるガテン系カニ・クルーズも登場。灯里がお尋ね者であるらしき風情と、ガテン裕樹の正体を埋める。
 七月末封切り、とはいへ。事情は知らないが映倫審査を受けたのはその十三ヶ月前、ともなると。凡そ四ヶ月前に公開された「淫靡な女たち イキたいとこでイク!」(主演:加藤ツバキ)よりも確実に、先に撮られてゐさうな山内大輔2021年第二作。ベビーブーム・マサ( a.k.a.廣田正興)の「魔性尻 おまへが欲しい」(2020/共同脚本:今奈良孝行/プロデューサー:榊英雄/主演:知花みく/二番手)からピンク二作目の篠崎かんなも、2020年七月末で引退してゐる。なので、こゝで谷口恒平は継戦するのか!?なんて、脊髄で折り返して色めきたつのは恐らくぬか喜び。
 人の言葉をも話す怪生物(CV不明/CはCreatureのC)と、存在するのか否か覚束ない妹。納豆の配達員は、回転式も持つて来る。おどろおどろしく且つキナ臭いサスペンスが、棹の休まる暇もない重量級の絡み絡みを、事実上独り身のマリカが溺れる、自慰イマジンの形で一点突破。効果的に虚実を混濁させつつ、剛腕の裸映画として見事に成立する、前半は。後半、要はハネムーン作戦的な生物兵器の大風呂敷をオッ広げると、第三勢力なのか政府反政府の何れかから分派したのか瞭然としない、全未組の立ち位置といふ結構根本的な疑問には強ひて目を瞑れば、如何にもありがちな結末ながら案外スマートな力業で、映画を大破させもせず綺麗に硬着陸。そもそも無理の多い強奪作戦の立案に関しては、それをいひ始めてはこの手の物語は片端から成立しない。損壊後の人体程度ならば兎も角、銃弾が貫通する特効には不意を突かれた。展開の収束に尺を割かざるを得なかつた結果、締めのシン・夫婦生活を主に、終盤裸映画的な失速は否み難い反面、実は争奪戦に全く絡まない、弥生即ち加藤ツバキが要は概ね木に濡れ場を接ぐためだけに、わざわざカメオ出撃する豪快さが清々しい。神が宿りもしない、微に入り細を穿つ悪弊に戯れるなら穴だらけともいへ、強引な力業は強引なりの絶妙な力加減まで含め、そこそこ底堅い一作。川辺に佇む加藤ツバキとタイトルバックを中心に、引いた画の強さが、そこかしこで映画を救ふ。
 尤も、だからベロの食料は人間の粘膜から出る体液だと裕樹から聞いてゐるにも関わらず、餌をやらうとするマリカが所謂バター犬的に表皮を舐めさせるのは、幾らきみと歩実のオパーイ感溢れるオッパイを見せる大義を優先した結果ではあれ、大人の娯楽映画としては些か通り辛いプリミティブなツッコミ処。ひとまづ先にハモニカを吹かせてからで、別に罰は当たらないやうな気がする。あと、介錯役に恵まれなかつた点も酌めなくはないものの、出番自体極々僅かな、二番手の脱がなさぶりが地味に衝撃的。

 世にいふ“かういふのでいいんだよ”を極めた覚悟完了のエロ映画、2019年第一作「若妻トライアングル ぎゆつとしめる」(桜木優希音と真木今日子もまりかと茉莉花)。正にマリカの扱ひに関して、旧弊なミソジニーが古色蒼然通り越して、古色惨憺たる2020年第二作「つれこむ女 したがりぼつち」に続く、マリカ・サーガ第三作。とか、気紛れに掻い摘みかけて。遠くエクセスに遡るか里帰りする幻のプロトゼロ作、2007年第三作「性執事 私を、イカして!」(主演:中島佑里)があるのを完全に忘れてゐた。もしかしたら、十有余年に亘る量産的創作活動の末、山内大輔当人も忘れてゐるのかも知れない。


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