「風俗嬢 内諸で本番」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/脚本:水谷一二三/撮影助手:倉田昇/照明助手:佐野良介/スチール:津田一郎/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学㈱/出演:青木こずえ・林田ちなみ・伊藤舞・杉本まこと・久須美欽一・栗原一良・山科薫・神戸顕一・太田始・姿良三・寺島京一・鴇泉宗正)。相変らず、他ではあり得ない位置に来る脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、小川和久(現:欽也)の変名。
ウッキウキでパンティを脱ぐ尻にタイトル開巻、ブラを外したお胸を、健気に寄せてみたりもする。摩天楼の電車サイドで痴漢電車プレイに興じる林田ちなみと神戸顕一挿んで、裸の主は満面の笑みの主演女優。山科薫をビッシビシ責める伊藤舞、杉本まことに正常位で抱かれる青木こずえと画を繋いで、クレジット尻はパンティを穿く尻。案外、綺麗に纏まつてはゐる。
女子大の先輩・ヨーコ(林田)から借りたチェット・ベイカーのCDを返すやう催促された、ヨシカワ秋子(青木)が又貸しした彼氏の山口渡(杉本)を訪ねてはみたものの、この一ヶ月行方不明な山口は矢張り不在。合鍵で室内に入つた秋子が、在りし日を想起してのワンマンショーをオッ始める強引なシークエンスは、次なる来訪者を告げる呼鈴に遮られる。秋子に続き山口を訪ね現れたのは、学生ローン「シルビアファイナンス」の小島(久須美)。山口が三百万を借りた挙句保証人は秋子だといひ、実際秋子に、書類にサインした覚えはあつた。忽ち窮しキャッチ(栗原)に声をかけられた一日二百万の本番ビデオ撮影に傾きかける秋子を、ヨーコは自身も働くイメージクラブに誘ふ。
配役残り神戸顕一は、ヨーコの常連客。二度目の出番は三河屋に扮しての不倫間男プレイ、ヨーコ奥様の中元の注文が、三河屋さんのカルピス。この時、小川欽也は確かに岡輝男を超えてゐたにさうゐない。寺島京一はイメクラの店長、伊藤舞と山科薫が店長が秋子を見学に連れて行く、イメクラはだしの本格的な責めを敢行する女王様と豚。変態的な目の輝きが堪らない太田始は、緊急出撃させられる秋子の水揚げ客。一度目は手先しか映り込まない鴇泉宗正は、壁の什器を見るに、カウンターは動かせる構造の摩天楼バーテン。大体、これ何て読ませるんだ。そして満を持して大登場する姿良三は、秋子に山口とヨーコを加へた三人でギャラが四百万だなどと、矢鱈と景気のいい本番ビデオの監督。実に二十五年前にしては、結構どころでなく変らない。
小川和久1994年最終第十作、妥当な数字に見えてもしまふのは、箍の緩んだ気の迷ひ。とこ、ろで。山口が三百万をシルビアに借りた所以が、競馬でサークルの金を使ひ込んだ末に、騙された共同馬主、バカの見本か。兎も角三分の一くらゐは身から出た錆でヒップに火の点いた女子大生が、パイセンの気軽な勧誘に脊髄で折り返して応じ、風俗の敷居を跨ぐ。辺りまでは、お気楽な裸映画のありがちな展開として、まだしも体裁を保つてゐなくもなかつた。とこ、ろが。初日で六万稼いだ帰途、蛇の道は蛇だとか絶妙な方便で捕獲された小島に喰はれた翌日。大絶賛仮名で舞女王様の有体な説教を頂戴した秋子は、股の根も乾かぬ内にイメクラを辞める。結局、実は留学費用を稼ぐべく体を売つてゐたヨーコ―と棹要員の山口―共々、法外なギャラを弾む本番ビデオに出演して借金はサクッと完済万事解決。だ、などと。度を越した御都合が天衣無縫の領域をも遥か彼方に突き抜ける、底の抜けた穴から日が昇るが如き途方もないオプティミズムには、この際クラクラ眩惑を覚えるほかない。余人の追随も理解も遠く及ばない、小川欽也のトゥー・マッチ・フリーダム、これぞイズイズム。大体なほ余つた百万は、山口が都合して来た実家に返せ。
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