真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「スキャンティドール 脱ぎたての香り」(昭和59/製作:(株)にっかつ+ニュー・センチュリー・プロデューサーズ/配給:株式会社にっかつ/監督:水谷俊之/脚本:周防正行/プロデューサー:海野義幸/撮影:長田勇市/照明:長田達也/美術:細石照美・種田陽平/編集:鈴木歓/音楽:坂口博樹/助監督:周防正行・井上潔・冨樫森/撮影助手:滝彰志/照明助手:豊見山明長/メイク:小沼みどり/スチール:目黒祐司/製作進行:西村裕之/効果:小針誠一/録音:矢込弘明・ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/車輛:富士映画/挿入歌:『いとしのスキャンティドール』作詞:周防正行 訳詩・歌:Sylvie Maritan 作曲:坂口博樹/協力:企画情報センター・女装の館『エリザベス』・ROCK HOUSE めんたんぴん'S『リンディスファン』/出演:小田かおる・麻生うさぎ・聖ミカ・MOMOKO・大杉漣・佐藤恒治・大谷一夫・瀬川哲也・上田耕一)。出演者中、聖ミカがポスターには聖みかで、瀬川哲也は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 ヒャラリーと軽快な劇伴起動、短パンでランニングする男の足下に、こちらも首から上を一旦フレームの外に逃がした、下着でトランポリンする小田かおるを挿み込む、伸びやかな肢体がヤベえ。何がプリントされてゐるのか最後まで判然としない、おヒップの止め画にタイトル・イン。地に足の着かなさ具合が、割と象徴的なアバンではある。
 江戸時代から続く周吉(大杉)で十代目の「間宮下着店」と、周吉の娘・亜矢(小田)が彼氏の治(佐藤)と開業した、ランジェリー喫茶「スキャンティドール」。ノーパンならぬ、ランジェリ喫茶とは何ぞや、といふと。ウェイトレスが下着で給仕する―だけの―露出過多ではあれあくまで普通の茶店。特に語られない、料金設定のほどは不明。亜矢的には、実家の下着店込みでランジェリーの新しい在り方を摸索する、漠然とした方便が一応なくもない。たゞそのためには、客に女が来て呉れないと始まらない気も。兎も角、謎の個室で大谷一夫と本番行為に及んだソフィア(MOMOKO)を、亜矢が脊髄で折り返す激おこで放逐、したはいゝけれど。治が―周吉も―亜矢には半裸接客を許さない、スキャンティドールは新しい嬢の獲得に迫られる、嬢て。
 配役残り、スキャンティドールの客要員に、見るから内トラ臭い若干名が投入されるほか、上田耕一が入り浸る常連客の村松高梧。亜矢に株式会社タコールランジェリー企画室室長の名刺を渡す、公私とも下着漬けの御仁。瀬川哲也は、周吉がかつてジョー・ディマジオに乞はれマリリン・モンローのために制作。マリリンの急逝後一枚だけ送り返されて来た、劇中用語ママで“幻のパンティ”を披露する知人の五十嵐か五十風。ある意味での本家、永井豪の『まぼろしパンティ』はちなみに三年遡る昭和56年。大ぶりのボストンがエクストリームに麗しい麻生うさぎが、治が掻き集めた六人の新スキャンティドール候補のうち、早文の岩井小百合。遺影をキッチリ抜いて呉れないゆゑ覚束ないものの、周吉の亡妻と瓜二つらしい。その癖、亜矢は何の反応も示しはしない。聖ミカは一旦オーディションから踵を返したのち、追跡した治にカップル喫茶で篭絡されるなおみ。女衆が落選する四名と、再逮捕後の噂話で眉をひそめる、近所の主婦がもう二人。引きの横顔と目元しか映らないが、画面左パーマ頭の方が水木薫似の結構な美人。
 ポスターには日活とN·C·Pの共同製作とある、本隊作なのか買取系なのかよく判らない水谷俊之第四作。俳優部の面子と、ニューメグロで録音してゐる辺り、何となく後者―寄り―に思へなくもない。いや、待てよ、ほんでもスチールマンは日活の人間だろ。
 単に繋ぎの問題なのか、不安定な演出のトーンと画調が最も顕示的な致命傷。最初イマジンと勘違ひした、にしては中盤を支配するほど長い亜矢と村松の対峙と、亡き妻との回想かと見紛つた、麻生うさぎと大杉漣の絡みが何れも劇中現在時制であつたのには、軽くでなく面喰つた。よしんばそれが、勝手な誤読に過ぎないにせよ。日課のジョギング下着泥棒でお縄を頂戴、職を追はれ、妻子にも去られ。全てを失つてなほ、半ば以上に中毒的な女の下着に対する偏愛を迸らせる。村松の、アウトサイドに突入した筋金入りのピュアネスに、何時しか亜矢が飲み込まれて行く展開ないし本筋には、満足に血肉が通ひこそすれ。周吉が小百合に亡き妻の面影を見出す、鼻の下を伸ばしたエモーション。スキャンティを愛でるでなく、自らが穿く方向に治は転び、最終的には等閑視される、亜矢が持ち出した“幻のパンティ”の所在。そして、子供どころか大人二人が入りさうな大きさが軽く衝撃的な、パンティを模したプチ気球、世辞にも尻の形には見えんがな。何故か五十五分にも満たない短尺にも当然足を引かれ、諸々盛り込まれはする枝葉なり闇雲な意匠は逆の意味で綺麗に消化不良か機能不全。なおみに齧られ、勃つ毎に治が激痛に見舞はれる件で一々鳴らす、ピキューンピキューン馬鹿みたいな音効にはナベシネマかと呆れ返つた、渡邊元嗣ナメてんのか。止めを刺すのが、シャバでの最後の朝を迎へた村松に入る、「ドラマが無い・・・・・」の開き直つたスーパー、終に力尽きたともいふ。村松に去られた亜矢が下着を撒き散らかす、川の水面から文字通り浮上、特撮だとするとクオリティが高すぎる、見た感じどうやら本当に飛ばしたらしいスキャンティバルーン―もしかして、これの製作費で詰んだ?―が天空に消える、雄大は雄大なショットで正体不明の余韻に持ち込み、つつも。全体的には纏まりを欠き、漫然とした一作。反面、治との関係をかなぐり捨てる勢ひで亜矢が村松との逢瀬に溺れる、主演女優のアツい濡れ場をこれでもかこれでもかと叩き込み撃ち抜き続ける後半は、裸映画的には大いに充実。小田かおるを胸に焼きつけ帰途に就く分には、木戸銭の元は取れる。

 と、ころで。無闇な奇声に矢鱈と頼る、煩瑣で素頓狂なメソッドが鼻について仕方ない佐藤恒治を観てゐて、吉岡睦雄は平成の佐藤恒治なんだな、とかいふどうでもいゝ知見を得た。


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 「⦅本⦆噂のストリッパー」(昭和57/製作・配給:株式会社にっかつ/監督・脚本:森田芳光/プロデューサー:八巻晶彦⦅N·C·P⦆/企画:大畑信政・進藤貴美男/撮影:水野尾信正/照明:矢部一男/録音:小野寺修/美術:後藤修孝/編集:川島章正/撮影協力:浦安劇場/製作協力:青木弘・日高捷夫/助監督:那須博之/選曲:甲斐八郎/色彩計測:高瀬比呂志/現像:東洋現像所/製作進行:霜村裕/出演:宮脇康之・岡本かおり⦅新人⦆・太田あや子・大高範子・金田明夫・吉川遊土・上野淳・鶴田忍・江藤漢・新井真一・石上一・佐藤恒治・玉井謙介・増尾久子・中原鏡子・三崎奈美・森田日記)。出演者中、石神でない石上一は本篇クレジットまゝ。ちな、みに。ポスターは普通に石神一なんだな、これが。となると未だ不安定な名義といふよりも、単に本クレが仕出かした可能性の方が寧ろ大きいのかも知れない。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 開演前の浦安劇場(とうに現存せず)場内、玉井謙介が盆の真ん中に持つて来たそれは電池式なのか、アンプラグドなテレビのスイッチを入れて「はいどうぞ」。ブラウン管に“日活株式会社製作”時代のカンパニー・ロゴが映し出され、劇伴起動。一転、風呂を浴びるストリッパーのみなさん、ビリング順にグロリア(岡本)と、姉貴分のレディ(三崎)。白黒ショーの女(ピンクチェリー?/大高範子)とキリス・アイ(吉川)に、増尾久子と中原鏡子の何れかが声を揃へ、玉謙に合はせて「本日は当浦安劇場に御来場頂きまして」云々、これといつた小ネタも足さない普通の場内アナウンス。レッツ・オープン・ザ・ミュージック!のアタックとともに、舞台に飛び込んで来たグロリアが客席に向かひ両手を広げる見得を切りタイトル・イン。割とてれんてれん躍る岡本かおりがオッパイまで見せ、照明が落ちる形で暗転しての監督クレジット。正直、タイトルバックは早速漫然としてゐなくもない。
 ロングで見た感じ思ひきり住宅街的な立地に存する、案外小さいのが小屋みのある浦劇外景。客引き(佐藤)が、ノンクレの客を捕まへる。グロリアが「どうぞ」と客に手渡したシェービングクリーム?を、自分の体に塗りたくらせる謎パフォーマンス。この辺りズッブズブの門外漢につき、ストの演目なり風俗―劇中では“スプレー”と称される―に関する見識をまるで持ち合はせない、憚りながら悪しからず。アルバイト配送員の洋一(宮脇)は、忽ちグロリアに心奪はれる。
 配役残り、ググってみると今は自身の名を冠した芸能プロダクションを構へてゐる上野淳は、照明係の照一、名に体を表させるポップ感。金田明夫は妹分であるグロリアの―マネジメント的な―面倒も見る、レディのヒモ・孝政、グロリアからの呼称はお兄さん。小水一男に結構似てゐる江藤漢はアイのヒモ、固有名詞不詳。榎木兵衛(a.k.a.木夏衛)と庄司三郎よろしく、ガイラとの兄弟役で全然イケさうな気がする。そして石上一が、最初に出て来た時は幕間のビール売り。三週間弱先行する―日付が合はないのは今作がかつての、フィックス敬老の日封切り―鈴木潤一(=すずきじゅんいち)昭和57年第二作にして通算第三作、且つ「女教師」シリーズ第七作「女教師狩り」(脚本:斎藤博/主演:風祭ゆき)が、jmdb準拠でこの人のデビュー作。弾けるやうな若さに、思はず相好を崩さされる。新井真一は大高範子の相方を務める男、鶴田忍が浦安劇場支配人。グロリアとヤリたい支配人は、その旨孝政に打診。孝政があくまで当人の意思を尊重する一方、金銭の提供も辞さない支配人に対し、軽く気色ばんだ金田明夫が放つ、「俺をポン引きにしないで下さいよ」はスパッと切れ味鋭く通る名台詞。そして太田あや子が、洋一の配達先・竹入か武入好子。見初めた洋一を、レコード針の交換を乞ふ方便で家に上げる盛大なファンタジーを美しく咲き誇らせる。中原鏡子と増尾久子の残つた方は、気がつくと楽屋にもう一人増えてゐるストリッパー要員。楽日の打ち上げ後、アイとレディにグロリアは、男衆(支配人とエトカンに孝政)と一旦別れ三人でディスコに。当時的にはポスターにこの人が載るバリューがあつたのか、不脱の森田日記はディスコの女王様。化粧室にてグロリアと会話を交す件にも以降に効いて来るサムシングは特段見当たらず、木に竹を接ぎに連れて来られたきらひは否み難い。その他小屋の主に客とディスコに、計数十人の頭数が投入される。あと、端々で目につくのがオープンの通行人がカメラの方を見すぎ、あるいは見させすぎ、那須博之もう少し仕事せんか。
 抜けるだけの組に入つてゐた訳でも別にないものの、後年宮脇康之(現:宮脇健)共々ロマポに盃を返す岡本かおり(今は岡本椛里らしい)のデビュー作は、森田芳光がロマンポルノを二本撮つてゐるうちの一本目、商業通算第三作。初代ケンちやんで一世を風靡した、宮脇康之の結局果たせはしなかつた復活作といふ点に関しては、最初で最後の所詮賑やかし。この期に触れる必要性も量産型娯楽映画的に然程どころでなく見当たらないゆゑ、事もなげに等閑視して済ます。
 限りなく少年に近い青年が踊り娘との―土台一方的でしかない―出会ひと別れの末に、幾分かは成長する?とかいふ、大筋ではあるのだらうけれど。ただでさへ尺に比すと頭数の多い中、グロリアと照一に、レディと孝政。チッチッチ妙にスポットの当てられるポン引きと、藪の蛇を突くトメ。洋一のゐないところでとかく分散しがちな焦点を絞り込む統合力を、寸から足らない文字通り童顔の、主演に据ゑるには激しく心許ない依然子供のやうな元子役と、エクセスライクな垢抜けない新人女優の、何れにも求め得ない脆弱なビリング頭二人が直截なアキレス腱。カット割りまで含め、壇上ないし絡みの演出に冴えなり煌めきを窺はせるでなく、裸映画としても全然平板。一日が終る風情を味はふ、好子の愛聴曲が「蛍の光」。洋一が好子に贈つた、「蛍の光」のオルゴールで関係の終了をそれとなく悟らせる。辺りのシークエンスは洒落てゐこそすれ、森田芳光の名前に脊髄で折り返してワーキャーするには必ずしもあたらない、精々水準的な一作。その“水準”もしくは全般的な感触といふのが、画面の厚み込みでロマポの方が、ピンクより基本上といふのは認める。

 但し、個別の面白い詰まらない、素晴らしい他愛ないはまた全く別の話。ジャスタモメン、極めて大事な点を忘れてゐた。夜景も凄まじく映える浦安劇場の、在りし日の姿を35mmで記録した意義は絶大。


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 「哀愁のサーキット」(昭和47/製作:日活株式会社/監督:村川透/脚本:村川透・古屋和彦/企画:三浦朗/撮影:姫田真左久/美術:菊川芳江/録音:福島信雅/照明:川島晴雄/編集:井上親彌/助監督:中川好久/色彩計測:田村輝行/協力:プロショップ日豊/製作担当者:大鷲勝道/現像:東洋現像所/音楽:樋口康雄 使用作品:キャニオンレコード 歌:石川セリ⦅キャニオン⦆『海は女の涙』・『鳥が逃げたは』・『Good Music』・『野の花は野の花』・『天使は朝日に笛を吹く』/出演:峰岸隆之介・木山佳・槙摩耶・青山美代子・殿岡ハツエ・石川セリ⦅キャニオン⦆・絵沢萠子・日高悟郎・江角英明・木島一郎・志賀正文・清水国雄・浜口竜哉・粟津號・下馬二五七・小森道子・早川マキ・中野由美・美里かおり・矢藤昌宏・中平哲仟・氷室政司・谷口芳昭・影山英俊・佐藤了一・広瀬優)。出演者中、木島一郎から浜口竜哉までと下馬二五七、早川マキ以降は本篇クレジットのみ。逆にポスターにのみ、戸塚あけみなる名前が載る。あと槙摩耶が、ポスターでは正字の槇摩耶。
 富士スピードウェイに、コルベットスティングレイが滑り込む。少なくとも劇中、終ぞテスト走行しか走つてゐないレーサーの滝田和郎(峰岸)を、ピットチーフの小林二郎(木島)が大仰な身振り手振りで迎へ入れてサーキットにタイトル・イン。そのまゝクレジット大トリの村川透を大人しく待つかの如く、約一分間うんともすんとも車が走つて来ない、案外静的なタイトルバックに軽く拍子を抜かれる。滝田が順調にタイムを刻む一方、ほぼ無人のスタンド観客席には、その日当地を撮影で訪れてゐた人気歌手・榊ナオミ(木山)の姿も。夕暮れ時の砂浜、奇声を発しながら両手を広げ走り回つてゐた、キマッてるレベルで挙動不審の滝田が、その時点に於ける最新曲「鳥が逃げたは」のドーナツ盤を、フリスビー感覚で波に放る榊ナオミと出くはすのが二人のミーツ、海を汚すなや。その後、基本情緒不安定なのか、児童公園でキャッキャキャッキャ遊ぶ滝田とナオミが再会。歌手活動にありがちな喪失なり疎外感を抱へてゐたナオミは、マネージャーの山ちやん(下馬)から再三再四釘を刺されてゐた、十二時の集合時間を華麗か豪快に何処吹く風、滝田と出奔する。
 辿り着けるだけの、配役残り。佐藤了一はタイムマンの清水大二、中平哲仟もピットクルー。えらく濃い面子のチームではある、小さな犯罪組織のひとつやふたつ壊滅させられさうだ。日高悟郎はスティングレイに目をつけ、滝田に接近する単車トリオのリーダー格・哲也。二尻の槙摩耶が哲也のスケ・洋子で、志賀正文と清水国雄はもう二人の丹前と革ジャン。滝田が三人のヌードモデルと写真を撮られる、何某かのコマーシャルなのかはたまた滝田和郎の頓珍漢なプロモーションに過ぎないのか、詳細が判然としないアシッドな撮影風景。青山美代子は、その中で最初に滝田と寝るモデルA。各種資料にモデルB―矢張り終盤寝る―とされる戸塚あけみといふのが、見れば即判る岡本麗の何と御本名。中野由美は違ふとして早川マキか美里かおりが、戸塚あけみないし岡本麗に該当するのか否かは知らん。浜口竜哉は禅問答みたいな取材を榊ナオミに仕掛ける、実名登場『平凡パンチ』誌記者。出て来るのはほんの束の間で、当然脱ぎも絡みもする訳がない石川セリは、クラブ的なところで歌ふてはるハーセルフ、台詞自体ない。哲也から滝田に挑んだ、哲也は洋子、滝田にはスティングレイを賭けさせるバイク競争。小森道子と影山英俊は二人の勝負を無駄に賑やかす、路地裏あるいはコース脇で対面立位に励むアベック。滝田と哲也の何れかより寧ろ、a.k.a.森みどりと影英の木に濡れ場を接ぎやうまで含め、割と画期的な一幕・アンド・アウェイぶりが一番速い。殿岡ハツエはクラブで踊る、アフロのダンサー。絵沢萠子と江角英明は、滝田とナオミがホッつき歩く公園にて、「デーモンのさゝやき」をゲリラ公演中のアングラ劇団「悪魔仮面」の俳優部、そのセンス。飛び込んで来た駐在に怒られる、水木京一ではない。最終的には派手に煮詰まる、榊ナオミと滝田和郎の戯れか偶さかな逃避行。粟津號はドライブインでカレーライスを突く滝田とナオミに、二人をその人と見知つた上で絡んで来る単車乗り、この辺りが限界。
 峰岸徹をイナズマンに譬へるならばサナギマン時の峰岸隆之介―渡五郎は峰健二―主演の、村川透昭和47年第三作、通算でも第三作にあたる。今作を最後に日活を離れ、一旦山形に帰郷する村川透が、滝田和郎の謎撮影現場に見切れてない?地元駅前に来
てはゐたものの、十年に一度のレベルで体調を崩し、潔く配信に退いたものである。今作よく判らないのが各所で69分とされてゐる尺に対し、今回小屋に来てゐたのと、同じバージョンにさうゐないサブスクで見たのは80分ある地味でない差異。
 ロマポ一個下の、当サイトにとつて物心はおろか生まれる前の話であり、正直知つたことでもないのだが福澤幸雄(昭和44年没)と小川知子を、滝田和郎と榊ナオミのモデルとした一作。裸映画的には、美人なのかさうでもないのか甚だ微妙な、主演女優を前半丸々温存する反面、後半のプチ駆け落ちの過程でそれなりに攻め込み、この時期のロマポにしては比較的形になる。尤も、村川透曰くの形で謳はれる、ロマンXに先立つこと十三年、峰岸隆之介と木山佳の絡みに於いて実は本番撮影を敢行してゐたとかいふ点に関しては、そもそも腰から上ばかり狙つてゐる―もしくは下を抜かない―のもあり、真偽のほどは判別しかねる。節穴自慢を重ねるに過ぎない気もしつつ、劇映画的にも往時の、あるいは喪はれたコンテクストが今のものとは異なりすぎてゐて、雲を掴むか煙に巻かれる漠然か漫然とした印象が強い。今作を捕まへてアメリカン・ニューシネマと評する風潮もなくはないやうだが、最後主役が唐突なり呆気なく死んだらニューシネマ。さういふ、脊髄で折り返す紋切型にも疑問を覚える。何時からニューシネマといふのは、その手の類型的な様式に堕したのか。


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 「発禁縛り夫人」(昭和53/製作・配給:新東宝映画?/監督:向井寛/脚本:宗豊/製作:伊能竜/企画:江戸川実/撮影:志村敏夫/照明:斉藤正明/音楽:芥川たかし/編集:中山修/助監督:さのひでお/演出助手:中山潔・滝田洋二郎/撮影助手:志賀一郎/照明助手:大久保公彦/製作主任:大井英雄/緊縛師:田中欽一/効果:秋山効果団/録音:東音スタジオ/現像:ハイラボセンター/協力:昭和風俗研究会/出演:志摩美雪 新人・国分二郎・桜マミ・北乃魔子・胡美麗・光岡早苗・山波洋子・浦野あすか・中条公子・高沢ひろ子・有沢真佐美・鶴岡八郎・三重街竜・滝沢秋弘・吉岡一郎・松田彦造・中村武・高岡静子・山崎みよ・サロメ角田 特別出演)。出演者中、志摩美雪の新人特記と、松田彦造から山崎みよまでは本篇クレジットのみ。脚本の宗豊は、獅子プロの共有ペンネーム。あと、製作と配給は新東宝興業かも。
 葉書状に切り取られた画の中で、国分二郎がサロメ角田に縄をかける。“極楽縛りの仙吉”の名を轟かせた縄師の仙吉(国分)が、情婦・おしの(サロメ)を責めるアバン。仙吉が自重を利しておしのの両足を裂き半身吊つたところで、「縄師つていふのは」と出し抜けに本質的な国分二郎のナレーション起動。「御存知ない方もおいででせうが」、「縄一本で女の体を縛り上げて、悦んで頂く商売なんですよ」。「因果な商売では御座いますが」と遜りつつも、「女といふもの元々男に甚振られたいと、いえ、どなただつてさうなんですよ」。「さう思つてゐるものなんですよ」とか慇懃な口調で大概なミソジニーを爆裂させた上で、吊られたサロメ角田にタイトル・イン。幾ら昭和の所業とはいへ、一言で事済ませるとあんまりだ。浜野佐知のレイジが、よく理解出来る。
 不景気気味の女郎屋「柏楼」に、何の因縁なのか知らんけどやくざが現れ一暴れ。縄師の足を洗ひ、今は“流れ者の風来坊で女郎屋の用心棒”―当人自嘲ママ―に納まつた仙吉が、オーバーキルな音効とともに男前の戦闘力で撃退する。「柏楼」隊は先陣を切る滝沢秋弘がポン引きの亀、桜マミから有沢真佐美までと思しき女郎部の中で、仙吉に惚れるおみよの桜マミと、処女で売られた北乃魔子くらゐしか見切れない己の浅学は素直に認める。確認し得るキャリア的に、遣手婆は光岡早苗?ある日浜辺を散策する仙吉は、波打ち際で寂し気に佇む女・市子(志摩)と邂逅。何故か市子に心奪はれる仙吉であつたが、市子は巷で“天皇”とさへ称される、ドメスティック有力者・石原(鶴岡)の妻だつた。
 正直いふと女郎部同様、殆ど手も足も出ない配役残り。「柏楼」主人の三重街竜と、石原を愉しませる正月の余興に招聘され、北乃魔子を縛る縄師の吉岡一郎が僅かに識別可能。石原の懐刀格で自ら組も構へる五十嵐が、港雄一のアテレコといふのに辿り着けはするものの。
 jmdbによると公開は一月で、それなり以上に豪勢な布陣を窺ふに、正月映画であつたのかも知れない向井寛昭和53年第一作。
 苛烈な責めの末に愛する女を死なせ、縄を捨てた縄師が出会つた人妻は、劣等感と猜疑心を拗らせる強欲の夫から日毎責められるうちに、縄の味を覚え込まされてゐた。話の枠組み自体は頑丈に出来上がつてゐる、壮絶にして甘美なるサドマゾ悲恋物語。と行きたかつたぽい、節ならば酌めるのだけれど。致命傷は心許ないお芝居以前に、流し目を送らせると目つきが怪しなるスリリングな主演女優で、アキレス腱は結局“極楽縛り”とは何ぞやをシークエンスとして提示しきらないまゝ、最後に主人公を殺しておけば何とかサマになるだらう、といはんばかりの粗雑か性急なラスト。僅か五分延ばしただけの尺で、おみよなり亀絡みの挿話も欲張り過ぎたか。つい、でに。画角に拘るのも映画の花とはいへ、濡れ場で狙ひすぎるのは却つて如何なものか。寧ろ乳尻は、肌の質感なり温もりが伝はるほど寄りに寄つて、質的にも量的にも入念に見せんかと思へなくもない。本筋からは半歩外れた側面的な佳境が、レンジが不明ながら五指に入ると賞される、イワガミかヤガミ(吉岡)が石原らの面前北乃魔子を責める一幕。一同に潜み始終を凝視する仙吉に気づいた何とかガミは、数段上の手練れを前に戦意を喪失、縄を置く。キッメキメに暗い画面の中、国分二郎と吉岡一郎が視線のみで静かに火花を散らす男達のドラマが、最も十全に完結してゐて見応へがあつた。


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 「花井さちこの華麗な生涯」(2005/『発情家庭教師 先生の愛汁』《2003》のディレクターズ・カット一般映画版/製作・配給:新東宝映画株式会社・国映株式会社/製作協力:Vシアター/協賛:報映産業株式会社/監督:女池充/脚本:中野貴雄/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽・アニメーション:岸岡太郎/撮影:伊藤寛/録音:小南鈴之介/編集:金子尚樹/助監督:永井卓爾/特殊造形:むくなしよる/特殊メイク:小川美穂/ガンエフェクト:ビル横山/アニメーション撮影:沖野雅英/ミサイル・エンドクレジット:清水康彦/挿入歌:溢れてまs guitar&drums オカニワフミヒロ bass こひやまる子 guitar 辻 drums,piano&trunpet タロー/監督助手:松本唯史・重信彰則・清水雅美/応援:田尻裕司・堀禎一・坂本礼・大西裕・伊藤一平/撮影助手:鏡早智・中島美緒・松下茂・柳澤光一/照明応援:大澤秀幸・増谷文良/録音助手:中尾憲人・小南敏也/特殊メイク応援:太田昭子/ネガ編集:松村由紀・小田島悦子/リレコ:福田誠/タイトル:道川昭/タイミング:安斎公一/スチール:田尻裕司/バカヤロー!:吉田修/協力:岩越瑠美、榎本敏郎、大野敦子、木全公彦、佐々木靖之、菅沼隆、竹洞哲也、西山秀明、真弓信吾、上田耕司、江利川深夜、大塚幸子、小泉剛、佐瀬佳明、ダーティ工藤、沼田和夫、三浦俊、柳田友貴、永井家の方々、藤井謙二郎、新井直子、作美はるか、石井幸一、林田義行、NK特機、OMB、タオ・コミュニケーションズ、ティ・ニシムラ、東映ラボ・テック、ナック・イメージテクノロジー、オノライト、スノビッシュ・プロダクツ、高津装飾美術、ティファナ・イン、東京衣裳、フィルムクラフト、ブロンコ/フィルム提供:報映産業株式会社・PG/出演:黒田笑・速水今日子・水原香菜恵・螢雪次朗・松江哲朗・川瀬陽太・小林節彦・アグサイ レザ・本多菊次朗・松原正隆・野上正義・久保新二・元井ゆうじ・吉岡睦雄・葉月螢・絹田良美・石川裕一・伊藤猛/《声の出演》:中野貴雄・佐藤啓子・キム アンソニー)。(声の出演)の正確な位置は、石川裕一と伊藤猛の間に挿む。
 何気にコンクリート打ちつぱなしの殺風景な部屋、金髪のみならず特服の山田君(川瀬)に、パッツンパツンでキワッキワのタイトスカートと、ガッバガバに開いた―といふか開けた―胸元がエクストリームに悩ましい、花井さちこ先生(黒田)が他愛ない英語の授業。スタイルは超絶な主演女優の、最終的には垢抜けない面相と端から議論の余地なく、覚束ない口跡に関してはこの際気にせず先に進め。密着とチラどころでない見せを連べ撃ちでカマして来るさちこ先生に、ライオンファイアした山田が猛然と起動。フィニッシュは途方もない量オッパイに大射精、するのは家庭教師プレイ専門のイメクラ「ホームティーチャー」に於ける、罰金百万円で禁じられた本番行為、判り易い罰ぽさも清々しい。山田のお痛は不問に付したさちこが、退勤後に現れたのは小林節彦が店主の、“社長”(電話越しの声が中野貴雄)と待ち合はせたオーソドックスな店構への喫茶店。なのに店内で流れてゐる似つかはしくないノイズが、挿入歌なのかなあ。客はほかに何某か取引事をしてゐるらしき、北朝鮮の工作員・キム(伊藤)とアラブ系の男(アグサイ)。“社長”から見えるやう入口近くに移動しようとしたさちこが、コバタケが水拭きした床に足を滑らせキムらのテーブルに倒れかゝり、アグレザの手荷物が暴れ大ぶりな口紅状の、金属製の円筒が床に落ちる。一方、三億ドルもの大金を振り込んだにも関らず、アグレザがブツを失くした様子に、キムは脊髄で折り返し凄まじいマズルフラッシュで発砲。至近距離から胸を撃ち抜かれ、即死したかに見えたアグレザを二発目で仕留め、三発目の流れ弾が、さちこの額に命中する。おでこの真ん中に大穴を開けたまゝ、ふらふらと店を出ようとするさちこの手鞄に、コバタケは円筒をさちこの持ち物かと誤認して放り込む。
 無駄と紙一重に豪華な配役残り、本多菊次朗は新宿コマ劇場前でへたり込む、さちこを拾ふ警備員。菊の御紋がなく、警官の制服には見えない。寄る気の皆無な不誠実の誹りも免れ得まい警備員戦の事後、さちこは漸く自らの前額に開いた、弾丸の覗く銃創を認識。何をトチ狂つたかアイペンシルで傷口を突いてみたところ、ザックリした断面図で弾は脳の深い領域に達し、た弾みでさちこは超天才に覚醒する。水原香菜恵は白昼うづくまるさちこを心配して声をかけるOLで、松原正隆は、予知能力をも得たさちこが水原香菜恵の最期を幻視する、屋上青姦の末にOLを突き落とす、不倫相手の課長。野上正義はガッチガチに哲学系の品揃へを、ガード下にて広げる路上古本屋、しかも一冊百円。“人類の叡智の結集”と図書館に感激するさちこが、蔵書を破つて食べ始めたのには「おゝい!」と怒髪冠を衝きかけつつ、実際には破損したのはぼちぼちよく出来た小道具、まあ許す。螢雪次朗が大学の研究室にまでさちこが訪ねる、当該著作『形而上学的現実に対する論考』を書いた哲学教授の佐伯俊夫。速水今日子は俊夫の妻・加代子で、今をときめかない松江哲朗が息子の守。実家が竜巻に巻き込まれたとか藪蛇か闇雲な方便で、さちこは佐伯家住み込みの家庭教師に。ノンクレジットで飛び込んで来る田中要次は、キムが張り込むさちこの部屋に荷物を届けに来る、しろねこ宅急便の配送員。a.k.a.朝倉大介の佐藤啓子が、さちこにまゝかりと米を送つた母親の声。首から上はジョージ・W・ブッシュの写真といふ、商業映画として成立してゐるのか否か際どいビジュアルで攻めて来る久保新二は、第四十三代アメリカ合衆国大統領。女池充六作前、即ちデビュー作の「白衣いんらん日記 濡れたまゝ二度、三度」(1997/脚本:小林政広/主演:吉岡まり子)があるガミさんはまだしも、ザッと探してみても見当たらないゆゑ、普通に、もしくは普通のピンクを作つてゐた昔日はさて措くと、久保チンが狭義の―あるいは現代的な―国映作は今作が最初で最後となるのではなからうか。「白衣いんらん日記」も、厳密にいふと新東宝作ではあれ。元井ゆうじと吉岡睦雄は、遂に件の円筒こと“大統領の指”を奪還したキムと、さちこを佐伯家の玄関口にて急襲する吃驚するほど役立たずの黒服。吉岡睦雄に至つては、得物を持つてゐるだけで素人以下の的。キム アンソニーは偉大なる将軍様の声で、葉月螢と“ぶーやん”絹田良美にもう一人ノンクレの太るとも細らない巨漢女が、地下道か洞窟の奥深く、最終兵器“ゼウス・エクス・マキーナ”に辿り着いたさちことキムを包囲する暗殺部隊の皆さん。破滅的な、といふかガチのマジで破滅するラストにいゝ感じの生温さで花を添へる石川裕一は、椿の落ちる如くポロッと弾が取れるや元に戻つたさちこを、ナンパするサーファー。
 俺達のインターフィルムさんがex.DMMのピンク映画chに新着させて呉れた、女池充通算第七作―全八作―の、大幅に再編集した一般映画版で国映大戦第三十九戦。これまでもバラ売り素のDMMで別に見られたとはいへ、今回新着のサブスク―かバラ売りex.DMM―で見た方が、どうせ画質は全然いゝといふのはどうかしたツッコミ処。
 二十五分短いピンク版(六十五分)―故福岡オークラか駅前ロマンで、観た記憶は残つてゐない―にあつて、文字通り地球規模にオッ広げてみせた大風呂敷がどれだけ削り込まれるかトッ散らかし倒す、壮絶な代物と化したのかは正直想像に遠い。クライマックスの舞台となる洞窟だか地下道周りを筆頭に、確かにピンクの小屋―に於ける上映環境―では甚だしく見え難かつたにさうゐない、徒に暗いカットも散見される。心配せずとも伊藤猛のよくいへば無二な滑舌は、どうせ何処で観てゐても聞こやしない。尤も、余程女池充に対しては腹に据ゑかねてをられたのか、m@stervision大哥が木端微塵に酷評なさるほどには何故か腹の立たないのも通り越し、素の劇映画と裸映画の両面とも思ひのほか楽しめた。如何にもレギュレーションに沿ひましたといはんばかりに、夫婦生活を披露するですらなく瞬間的に駆け抜ける速水今日子は兎も角、矢張り一幕限りの水原香菜恵が水原香菜恵はそこそこの濡れ場を披露するのに加へ、ビリング頭は誰かしら相手の絡みよりも寧ろ、発作的に襲はれる発情で恵まれた肢体を大いに愉しませる。カテキョ衣装のタイトなスカートに勝るとも劣らない、終盤のジーンズがまた大いなる眼福。突き出したおヒップをデニムでキュッと包み込む、ど定番のジャスティスも忘れない。侵入してみたさちこ宅の荒れた様子に、呆れがてら片付け始めた挙句、洗濯機まで回す案外家庭的な一面まで含めキム113号のハードボイルドな造形は結構な完成度。一々大仰なブローバックはプロらしからぬが、長い体躯を活かしての銃を向ける姿は逐一画になり、同級生のよしみで店を貸したのに、これ以上汚さないで呉れよと泣き言を垂れるコバタケを「判つた」と同時の一発で葬つた直後の、「これで最後だ」には伊藤猛の手柄といつてしまへばそれまでながら、女池充が斯くもカッコいゝシークエンスを撮れるのかと痺れた。プレジデント方面の迸る安つぽさと、“ゼウス・エクス・マキーナ”のリアリティが上手く埋まらない辺りには貧しさなり限界も否めない反面、目出度くなく釦を押したところで、さちこの憑き物が落ちて以降のラストが、ゲッター線を浴びたさちこが地球を奈落の底に呑み込む、オーラスが蛇の足に思へて仕方ないくらゐ秀逸。サーファーに声をかけられた佐知子もといさちこが、海の家の焼きそばにホイッホイ釣られついて行く長閑さか間抜けさの遥か彼方で、空に刷かれるアディダス調の三本ライン。静かに世界が終る、鮮烈な砂浜のロングは見事に映画的。安普請のビデオ合成を施す諸刃の剣の、豪快なキネコ画面にさへ目を瞑れば。如何なる形にせよ、この期に及んで「発情家庭教師 先生の愛汁」と比較対照する手立てが全く見当たらないのが如何せん苦しいものの、話が一応綺麗にまとまる「花井さちこの華麗な生涯」を見た限りでは、予想ないし経験則―あるいは偏見にも似た先入観―を覆して全然面白かつたといふのが、偽らざるところである。

 さりげなく特筆すべき一点、「花井さちこの華麗な生涯」(2005)と「発情家庭教師 先生の愛汁」(2003)で有無からクレジットの差異は検討出来ないが、翌年の「定食屋の若女将 やめて、義父さん!」(2004/脚本・監督:野上正義/主演:三月瞳)に制作協力で参加してゐるため、必ずしも最後のピンクとはならないが全体この時、“大先生”柳田友貴は何をどう協力してゐたのか。


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 「拷問女暗黒史」(昭和55/製作・配給:新東宝興業/監督:向井寛/脚本:宗豊/製作:伊能竜/企画:江戸川実/撮影:志村敏夫/照明:斉藤正明/音楽:芥川たかし/美術:大園芳夫/編集:田中修/製作担当:佐野日出夫/助監督:五月じゅん/演出助手:中山潔・渡辺基次/撮影助手:墓架治郎・宮本良博/照明助手:菅原洋一・近江明/結髪:木田隆男/歌舞伎指導:中村作衛門/録音:櫂の会/効果:秋山効果団/現像:東映化学工業/協力:日経ホール・飛騨の里・湯沢観光協会/配役:青山恭子・風間舞子・美保雪子・今泉洋・神原明彦・津崎公平・大江徹・草薙良一・東薫・港雄一・国分二郎)。脚本の宗豊は、獅子プロの共有ペンネーム。
 白川郷の合掌造り集落、に模した飛騨の里に電話が鳴り、エプロン姿の青山恭子が慌てて出る。夫で作家の山村浩(国分)と白川郷に隠匿して二年、女優の関川恵子(青山)に演出家の指名を受けての、帝都劇場特別公演「曽根崎心中」主役・お初の話が舞ひ込んで来る。一方の山村も、その間を執筆に費やした力作が遂に完成、二人は喜び勇んで上京する。てな塩梅での、帝都劇場(日経ホール)で幕を開いた曽根崎心中。徳兵衛役の井上春之助(大江)と、お初がひしと抱き合ふ寸前のストップモーションにタイトル・イン。デフォルトで苦虫を噛み潰したやうな、件の演出家先生・黒田芳憲(今泉)には開口一番「何だあれ」と木端微塵に酷評されつつ、恵子のお初が世間の喝采を浴びる反面、山村は富士書房に持ち込んだ原稿を編集長(東)からけんもほろゝに没を喰らふ。ここで東薫といふのが今回は?向井寛の変名で、声は甚だ紛らはしい港雄一のアテレコ。
 埋めきれぬ余白の多い配役残り、神原明彦は、関川恵子をベタ褒めする帝都劇場小屋主・金子剛造。風間舞子は恵子に嫉妬を燃やした冷やゝかな視線を、フレームの左隅から送る女優部・松田みどり。パーティーの席上黒田に話を聞く、マカロニみたいなロン毛の報道部が不明、もしかすると中山潔かも。剃刀のやうにクールでカッコいい草薙良一は、富士書房での撃沈後シャブを再開した、山村が薬を買ふゴンゾー組の岡沢松男、津崎公平が岡沢の兄貴か親爺の堀田政文。帝都劇場の従業員で、滝田洋二郎が声をアテた渡辺基次(基次は元嗣の適当な当て字)が飛び込んで来る。関川恵子の謝罪会見ではピンで質問を投げるロン毛の連れと、ゴンゾー組事務所にもう一人見切れる茶色い背広も不明。本クレの配役に於いては“犬をつれた男”とされる港雄一は、山村が作つた借金の形にゴンゾー組が関川恵子の緊縛エロ写真を撮影する件に登場する、純然たる犯し屋。そして港雄一が連れてはゐない犬以上だか以下に謎なのが、月丘洋子役との美保雪子が何処に見切れてゐる誰を指すものなのか不完全無欠に判らない。動物部も、恵子が山村と買つて来た綺麗な色の小鳥二羽以外には、哺乳類どころか雀一匹出て来やしない。その他満員の客席は何某かのバンクにせよ、パーティー会場込みで帝都劇場のバックヤードに富士書房、報道部ら諸々全て引つ括めると、二三十人は軽い大所帯が豪勢に投入される。
 当サイトは当時小学校低学年につき、正直1mmたりとて記憶にない巷間を大いに騒がせた、関根恵子(現:高橋惠子)のいはゆる愛の逃避行。昭和54年夏、関根恵子が出演の決まつてゐた舞台の土壇場も土壇場、何と初日前日に交際相手の作家・河村季里と海外に雲隠れ。電撃帰国して謝罪会見を開いたのが晩秋で、今作は新東宝が年明けに叩き込んで来た尺もロマポばりの正月映画大作。熱いうちに鉄を打ちのめすスピード感が清々しいが、量産型娯楽映画を塵を積らせる勢ひで実際に量産してゐた時代であつて初めて、叶ふ芸当といふのもあるのかも知れない。
 要はこの頃一種の脊髄反射なのか、“拷問”だ“暗黒”だとおどろおどろしく謳ふ割には、関根もとい関川恵子がヤクザ―の手の者―に一回きり凌辱される程度、といつては語弊しかないけれど兎も角女がブルータルに破壊される訳では幸にもない。寧ろ、創作にも専念せずに、恵子の出待ちにねちねち付き纏ひすらする。足しか引かない山村との正しく腐れ縁が恵子にとつて余程拷問に近く、斯くもクソみたいなといふかクソ・オブ・クソなクソそのものの男、さつさと捨てちまへといふ逆向きの感情移入が兎にも角にも強い。恵子が山村との関係を賢明かドライに清算してしまつては、土台成立しない物語ではあれ。山村が堀田の助け舟で漸く手に入れたヤクを汚い便所で打つ、ある意味綺麗なシークエンスにはグルッと一周して感心し、国分二郎のリアル食ひ方であつた場合実も蓋もないが、ラーメンをチューチュー啜る、しみつたれた造形とかもう完璧。鮮烈さがありがちなラストまで含め、類型的なシークエンスばかりを連ねた一篇ではあるものの、濡れ場を務める女優部が二人しかゐない―といふか三番手が何処にゐるのか判らない―疑問にさへ目を瞑れば、分厚い男優部にも下支へられ一幕一幕の完成度は何れも高い。何はともあれ、十全に作り込まれた帝都劇場舞台を筆頭に普通に見事な美術と、飛騨の里(岐阜県高山市)なり湯沢(多分新潟県南魚沼郡)にまでロケを出張つた点を加味するならばなほさら、ほんの一ヶ月そこらでこれだけの映画を新春に間に合はせた疾風迅雷のプロダクションをこそ、最も特筆すべきなのではなからうか。元々動いてゐた別企画を、力任せに変形させた可能性もなくはないが。


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 「日本密姦拷問史」(昭和54/製作・配給:新東宝興業/監督:向井寛/脚本:宗豊/原作:漆川一二三/製作:伊能竜/撮影:鈴木志郎/照明:斉藤正明/音楽:芥川たかし/編集:酒井正次/記録:豊島明子/助監督:さのひでお/監督助手:滝田洋二郎・平川知良/撮影助手:遠藤実/照明助手:水本薫/効果:日本効果団/録音:東映東京撮影所/現像:ハイラボセンター/協力:昭和風俗研究会/配役:北条杏子《新人》・国分二郎・東祐里子・北沢ゆき・神原明彦・三重街竜・沢村国之介・川村とき・三村麻美・沢陽子・飛鳥美雪・岡崎由美・松井知子・向島明寛・松本年男・黒木正彦・渋谷春孝・滝沢洋次・伊吹徹)。さあて大変だ、何が。出演者中北条杏子が、ポスターでは何故か北乃魔子、ビリング頭からかよ。改名前後といつた話でさへなく、全くの真赤な他人である。更に北沢ゆきと、三重街竜から滝沢洋次までは本篇クレジットのみ。逆に、ポスターにのみ水島夕子・吉田純・大村英治・野崎とよの名前が、もう出鱈目ぢやねえか。ここで自信を持つて断言しよう、少なくとも識別可能な形で、吉田純は何処にも見切れてゐない。製作の伊能竜は、向井寛の変名、製作に入つてゐるのは向井寛と見てさうゐあるまい。脚本の宗豊は、向井寛が率ゐた獅子プロダクションの共有ペンネーム。
 土手越しに千切れ雲の浮かんだ空を舐め、“はくい”でない方の白衣の女が画面左から右に緩やかに歩を進める、足取りの覚束ないロング。女は手荷物から歯の欠けた櫛を取り出し、その土地の来し方を振り返る。曰く不義密通した者が、“男は打ち殺され”、“女は嬲りものにされたもんぢや”。“もんぢや”ぢやねえよ、のつけからブルータルな世界観がバクチクする。川面に絹を裂くよなどころか、耳をつんざく断末魔が轟いてタイトル・イン。タイトルバックは大勢の男に追ひ駆け回された末輪姦される一人の女を、一歩間違へば叙情的に捉へるスローモーション。
 明けて本格的な古民家の画から、末席に村の有力者・権藤(神原)と、駐在の宮田(三重街)が並んで座る宴席。代々刀匠の旧家・渋川家当主である玄造の、漸くの祝言。“男入りの儀”とか称して、玄造(伊吹)とみよ(北条)の初夜に仲人的な夫婦も同席。魚拓感覚で和紙にとつたみよの破瓜の印を、一同に披露すると大喝采。だなどと、グルッと二三周して破天荒な一幕に眩暈がするのも通り越す。馬面で貧相な主演女優の容貌はこの際さて措き、玄造とみよの仲も良好、平穏な村に、玄造の弟で博徒に身を落とした良二(国分)が不意に舞ひ戻つて来る。
 配役残り、清吉役とされる沢村国之介は、モブ的な頭数を除けばほかに大して抜かれる人間もゐないゆゑ、榊英雄ライクな玄造の弟子?東祐里子は、岡惚れした良二を追つて村に現れる、ex.女郎のかつ子。順番を前後してタイトルバックの女が北沢ゆきで、実は夫の弟子と密通した良二の母。即ち、腹ならぬ棹違ひといふ寸法。最後に残る名あり俳優部、かね役とされる川村ときは、アバンの白衣くらゐしか見当たらない。その他はなほ一層手も足も出ない中、向島明寛と滝沢洋次は見るから向井寛と滝田洋二郎の変名臭いものの、識別能はず。それと、もしかすると松本年男・黒木正彦・渋谷春孝の中に、幼少期兄弟役の子役が含まれてゐるのかも。
 評判のほどは知らないが、平成も終る―あるいは既に終つた―この期に及んで昭和づいた新東宝の路線に従ひ、小屋に着弾した向井寛昭和54年第一作。一応近代的な警察組織も存在してゐるやうではあれ、残虐な因襲の根深く残る山村を舞台とした、大時代的といふより寧ろ前時代的なメロドラマ。琴線の触れ処を探すのも俄かに難い女優部に対し、国分二郎・伊吹徹・三重街竜を擁したそれなりに重厚な男優部が、代つて映画を支へ抜く。向井寛もさういふ布陣を冷静に認識してゐたのか、中盤までは良二を間に挟んだ三角関係を描いてゐながら、かつ子退場後、最終的には相克する兄弟の姿に映画は軸足を移す。深手を負ひ追ひ詰められた良二を、玄造が自ら打つた名刀の一太刀でズバッと仕留めるや、国分二郎の仰け反つた体の隙間から強烈な逆光が差す超絶の構図に、アンチャーンなる国分二郎のシャウトを響かせる。予想の範疇を過らぬでもないダサさに一瞥だに呉れず、遮二無二突進する肉を斬らせて骨を断つが如きエモーションが鮮烈。一方、捕らへられた北条杏子が執拗に責められるシークエンスなんぞ、遂に一切一欠片もワン・カットたりとて存在しない、豪快な看板の偽り具合は最早清々しい。特段のクレジットもないまゝに、本格派の衣裳部も十全、時代ごとのアドバンテージを感じさせる。


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 「ハレンチ・ファミリー 寝ワザで一発」(2002/製作・配給:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vシアター/監督:女池充/脚本:西田直子/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/撮影:伊藤寛/録音:小南鈴之介/編集:金子尚樹/助監督:大西裕/制作:島田剛/音楽:クラウジオ石川 みさ りえ《♡》/挿入曲:“Imperador do samba”Vo.ちなみ Fl.なおこ Per.クラウジオ/監督助手:躰中洋蔵/撮影助手:鏡早智・溝口伊久江・中島美緒/照明助手:迎修輔/編集助手:蛭田智子/制作助手:山川邦顕/スチール:岩田治樹/タイミング:安斎公一/タイトル:道川昭/現像:東映化学/録音スタジオ:シネマンブレイン/リーレコ:日映録音/協力:朝生賀子・石川二郎・伊藤一平・今岡信治・上井勉・江木俊彦・榎本敏郎・甲斐亜咲子・岡田靖広・岡田桃子・岡田杏子・片良あゆみ・金島智巳・小泉剛・駒木綾子・境あかり・坂本礼・田尻裕司・大橋大輔・浜野一男・星野諭生・星野真理・保土田靖・Mighty・松本唯史・森角威之・矢船陽介・山田まり・山本明佳・エスペトブラジル・ホテルアルパ・フィルムクラフト・レジェンドピクチャーズ/ビデオ版挿入曲:“Anjo Boonhan”byCLAUDIO & VIVA!YOSHIKOS/出演:絹田良美・今野順貴・佐野和宏・水原香菜恵・本多菊次朗・江端英久・佐々木基子・石川裕一・リンコーン ヌーネス・マリア ホドリゲス・山本草介)。
 大人が生徒の、水泳教室風景。インストラクターは渋谷美樹(水原)と、美樹とは不倫の仲にある所帯持ちの丹波(本多)。水原香菜恵と絹田良美・佐野和宏のみクレジットした上で、一同を驚かせる大きな水音をたて、巨漢の女がプールに飛び込んで来る。プカリと尻だけ浮かせた百貫が、表を向いてビデオ題「くひこむ水着 ~インストラクターの女~」でのタイトル・イン。因みに、水原香菜恵がReebokの競泳水着を殊更喰ひ込ませるシークエンスが、設けられる訳では特にない。
 巨漢女の正体は、美樹の厚意で泳がせて貰つてゐた友人の“ぶーやん”こと本名藤森昌(絹田)。嫁に子供が出来た、にも関らず関係に執着する丹波と、半ば以上に見切りをつけた美樹の拗れた情事を経て、警備員のぶーやんがその日から新シフトで勤務するオフィスビル。異変に気づいたぶーやんが踏み込んだ一室には、キャップとか鉄マスクで顔を隠した佐野和宏が。ぶーやんが佐野を捕らへようとすると、後頭部にサッカーボールが飛んで来て「お父さん逃げて!」。まさか連れて来たのか勝手について来たのか、息子・旭(今野)の健気な懇願に負け、人に教へられるレベルの柔道を活かした背負ひ投げでほぼほぼ仕留めながら、ぶーやんは物取り目的で忍び込んでゐた大崎和美(佐野)を逃がす。
 配役残り、本職演出部の山本草介は、生徒不足―といふか旭一人―でロイヤリティーを払へぬ和美に、契約解除を通告する学習塾フランチャイザー。佐々木基子と石川裕一は、甲斐性なしの和美に匙を投げ家を出た―まだ―妻・涼子と、その間男。要は新東宝ごと国映がピンク撤退して久しい中、石川裕一なんて久し振りに見たな。玄関口の靴に母親が男を連れ込んでゐるのを察した旭は、帰宅した踵を返す。リンコーン ヌーネスとマリア ホドリゲスは、仕方なくぶーやん宅を訪ねた旭の度肝を抜く、ぶーやんの養親・カルロスとマリア。ぶーやん亡父の工場で働いてゐた二人が、親戚中から人情の紙風船を被弾したぶーやんを引き取つた縁。後半の火蓋を的確に切る江端英久は処女のぶーやんが重い、もとい想ひを寄せる、一緒に柔道を教へる大矢俊郎、現役時代は雑誌に載るクラスの選手。あと主に協力部からエキストラに大量動員、水泳教室の生徒要員と、フランチャイズ本部要員。ぶーやん宅にて出し抜けにオッ始まるサンバのカーニバル隊に、結婚式の式場要員、と更に子役二人。
 惜しまれ労はれつつ、第三十一回の今年で最後となるピンク大賞。最優秀作品賞と守屋史雄の男優賞を受賞した城定秀夫の「世界で一番美しいメス豚ちゃん」を観に行く前に、是非通つておきたかつた女池充2002年第一作、で国映大戦第十二戦。いふまでもなく、二作の共通項は主演女優が過積載。何処で拾つて来たのか、馬ならぬ豚の骨が三番手に潜り込む―エクセスは平然とビリング頭にも捻じ込んで来るけど―なり、稀に目を離した隙に既知の女優がオッソロシく目方を増す悲しみを通り越した惨劇はあれ、太つた女を積極的に好む、あるいは太つた女にしか勃たないよりニッチな層を攻めて来るほどの、市場の広がりはピンクには基本ない。ところで、今作自体の第十五回ピンク大賞に於ける戦果は、ベストテン第五位と監督賞に、佐野の男優賞。
 前半は諸々外堀を埋めるのと並行して、水原香菜恵と佐々木基子の濡れ場を思ひのほか十全に楽しませる。江端英久投入で尺を折り返し、満を持してぶーやんのデブい、もとい初心い恋路といふ本題に突入する構成は、量産型娯楽映画に誠実に取り組まないことで定評のある女池充にしては、女池充でなくとも綺麗に形になつてゐる。個人的に太るくらゐなら死んだ方がマシといふ鉄の人生観の持ち主ゆゑ、絹田良美に対してはピクリともクスリとも、琴線を爪弾かれはしない。それ、でも。美樹が練つた子供騙しの作戦案に従ひ、ぶーやんは美樹宅の押し入れに和美と潜む。丹波の介入で卓袱台が爆砕するどころか、大矢が美樹と恋に落ちかねない雰囲気に泣きだしたぶーやんに、和美が「行かなくていいの?」。ベッド・インを賭けての、ぶーやんと大矢の柔道勝負。劣勢のぶーやんに、和美が今度は「頑張れぶーやん、負けるな!」。仕事と事実上嫁は既に、家と息子も、失ふ予定の中年男。和美は自らも人生に負けさうで頑張らないといけないのに、自分で自分の背中を押すかのやうに「頑張れぶーやん、負けるな!」。佐野が撃ち抜くどストレートなエモーションが、素直に泣ける。小屋では幾多―には満たぬにせよ―のオッサン客を、感涙の海に沈めたにさうゐない。一度は入つたアルパから、手ぶらで出て来た大矢に和美が詰め寄るカットでは、今回唯一佐野らしいエッジも弾ける。大矢との対戦を前に、「頑張つて」とかいふ美樹にぶーやんが「ホントに頑張つていいの?」、「嘘つき」、「アタシ絶対勝つから」と叩き込む決意のジェット・ストリーム・アタックも鮮やかに、全部は観るなり見てゐない以上のあくまで推定だが、女池充の最高傑作ではないかしらんと普通に思へる一作。美樹の翻意に関しては丹波乱入に伴ふ、藪蛇気味な怪我の功名で片付けられるとして、最後にひとつ残らなくもない不足は、一人ぶーやんのみが慮る、親爺よりも大人びた旭の孤独に手が回らなかつた点。木に竹も接ぎ損なふスレッスレのところで辛うじて有効に機能する、サンバ隊挿んで歩いてゐた三人が消えた道のラスト・ショットが、絶望の苦さを匂はせなくもない余韻を残す。


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 「ONANIE 24時間」(昭和59/製作:群星プロダクション/配給:新東宝映画/監督:増田俊光/脚本:しらとりよういち/企画:藤枝三郎/撮影:長町満/照明:石部肇/音楽:住吉十五/唄:沢田かおり/編集:金子尚樹/録音:矢込弘明《ニューメグロスタジオ》/助監督:井上潔/監督助手:高藤雅志/撮影助手:中尾正人/照明助手:佐藤才輔/効果:小針誠一/タイトル:ハセガワ・プロ/現像:東映化学/出演:沢田かほり《新人》・山口理恵・林かえで・大高範子・杉佳代子・牧村耕次・ジミー土田・織田倭歌)。
 深夜の街の画に、歌声以前にメロディから不安定な、アカペラの主題歌起動、クレジットが追随する。鼻差で先にタイトル・イン、ワン・コーラス完唱したところで、明らかに不自然な位置―低過ぎる―の街頭時計は午前四時。渡り廊下で繋がつたマンション、一室に灯りが灯り、消灯する。向かひには、双眼鏡でその部屋を覗く牧村耕次。再び灯りが灯ると、沢田かほりは出歯亀る牧村耕次に気づいてゐるにも関らず、見せつけるやうにオナニーを披露する。翌朝、時計は午前八時前。出勤する沢田かほりに、牧村耕次が接触する。今作ひとつの顕示的な特徴が、のちに林かえで(a.k.a.林香依兌)と織田倭歌のパートでも繰り出す、雑な編集で俳優部を神出鬼没ぽく動かすギミック。果たして当時的には斯様なダサさが通用したのかといふ以前に、繋ぎがあまりにも粗雑で、全く別種の企図があるのではなからうかとさへ煙に巻かれる。ともあれ、追ひ縋る牧村耕次を沢田かほりは振り切る。杉森昌武の自主映画に織田倭歌―や巻上公一(ヒカシュー)―と出演、商業作は恐らく最初で最後の沢田かほりの印象をザックリいふと、きれいな山田花子。
 配役残り大高範子は、沢田かほりにフラれた牧村耕次に、吠えるジュリー(犬種とか知らん)の飼主マダム。帰宅後「人間の男よりずつといい」とか所謂バター犬プレイに戯れつつも、途中から一人遊びに熱中。その隙にジュリーは玄関から逃げる、開いてんのかよ!林かえでは、帰宅途中売春婦に変身する看護婦、ホッつき歩くジュリーと変身後交錯する。山口理恵は授業が休講になつたものの、友人・キョーコは彼氏と映画を観に行くゆゑ、当てをなくす女子大生・エミ。キョーコにかける電話ボックスの足元を、ジュリーが通り過ぎる。織田倭歌とジミー土田は、ケンジ(ジミー)の単車で事故死したヒロシに花を手向けに行くマリ。単車に近づいたジュリーを、マリが拾つて行く。ケンジとヒロシは元々友人で、なほかつマリにケンジが想ひを寄せる三角気味の関係。ジミ土が二枚目不良造形である点には百歩譲つて笑ひを堪へるにせよ、ウェスタンを履いてなほ短い足には声が出る。この人もこの人で、色は普通だけれどハマーン・カーンみたいな髪型がパッと見誰か判らぬくらゐ似合はない杉佳代子は、待ち合はせをスッぽかされるサエコ。ここは変化球、サエコが空いた体を持て余すバーに、ジュリーが見つからず荒れるマダムが飛び込んで来る。その他満足に抜かれはしない、林かえでの客と、サエコとマダムが交錯するバーのバーテンに、マダムに声をかけておいて、サエコは無視するナンパ目的客。
 数へてみると―タグ付きの―残り弾は二本しかない、ビデオ安売王販売の「Viva Pinks!」レーベル作を、配信順に潰して行く殲滅戦。第十二戦は第九戦で昭和57年第二作「純潔を破る!」(真木信介と共同脚本/主演:杉本未央)を見た、増田俊光昭和59年第一作。林かえでが客の要望で自慰を披露するのはそれはそれとしても、マリが無人のキョーコ宅にて出て来たバイブを使つてみるのと、ケンジにジュースか何か買ひに行かせた隙に、マリが波止場でオッ始めてゐたりなんかするのは流石に無理からにもほどがある。にせよ、驚く勿れ実は終ぞ女優部と男優部が絡みはしないまゝに、一日を通して銘々のONANIEを見せきるに徹する、コンセプチュアルな裸映画、ロケーションも案外多彩。林かえでとマリで手口が殆ど変らないのは工夫が力尽きた感もなくはないとはいへ、ジュリーをフレキシブルな―勝手に動き回るともいふ―縦糸に、坦々と経過する時間を刻む時計込みで、断片的な濡れ場の数々を、単に羅列するのでなくひとつの世界に統合しようとする意思は明白。最後にマリを牧村耕次に繋げるプリミティブながら予想外の大技も鮮やかに決まり、全てのピースが納まつた、それなりの完成が結実する。先に触れたダサ雑いギミックに加へ、沢田かほりと牧村耕次の遣り取りと林かえでの独白は、下手に思はせぶりなばかりで、これといつた中身は特にない。モジモジさせられるのを禁じ得ないもどかしさも散見する反面、全体的には気の利いた小品感が心地よい一作。ジミ土のウェスタンに、杉佳代子のどうかしたかやらかしたヘアースタイル。枝葉を狂ひ咲かせる、地味に破壊力の高いふたつの飛び道具も捨て難い。


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 「純潔を破る!」(昭和57/製作・配給:新東宝映画/監督:増田俊光/脚本:真木信介・増田俊光/企画:藤枝三郎/撮影:熊田英明/照明:石部肇/音楽:東一郎/録音:渡辺基/編集:竹村峻司/効果:小針誠一/助監督:日垣一博/監督助手:山口行治/撮影助手:岡部文明・平沢智/照明助手:佐藤才輔/録音:ニューメグロスタジオ/タイトル:ハセガワプロ/現像:東映化学㈱/出演:杉本未央・南條碧・高中流水・外波山文明・田村寛・杉浦春二・椙山拳一郎・今泉厚)。
 尺八かと思へばハモニカだつたりするほど画面の暗い開巻、一分四十秒、少女の台詞で男女が兄妹である旨が判る。事後暗転、兄の矢崎透(今泉)が禁忌に触れた覚悟を問ふと、白痴の妹・ユミエ(杉本)は唯々諾々と承服する。ヒシとユミエを抱きしめた透の背中から、ピントを送つた手前には薬瓶が。眠剤をオーバードーズしたとかいふ寸法か、青暗い照明の中、並んで眠る二人。ところが透は目覚めると、単独で当初目的を達成したユミエを揺り起こさうとする、ウサギさんを抱へたユミエのスナップにタイトル・イン。一年後、死に損なひ工員として陰鬱な日々を送る透が、銭湯帰り自販機ビールを飲み飲み歩いてゐると女の悲鳴。現場に駆けつけると二人組(不明)に、杉本未央が輪姦されてゐた。ユミエ!と見紛つた透は介入するも、役に立たず秒殺で返り討ち。代る代る犯され意識を失つた杉本未央を、透は自宅アパートに連れ帰る。
 配役残りビリング推定で南條碧は、手紙だけ目を通すと包みも開けずゴミ箱に捨てられる、誕生日プレゼントを透に贈る事務員・ヨーコ。外波山文明と、大杉漣に結構似てないか?な田村寛は、とつゝきにくい透をからかふ昭和ウェーイな同僚工員。椙山拳一郎は後述するユミコ(杉本未央の二役)のバイト先、PUB HOUSE「LUPE」のマスターで、不完全消去法による高中流水がもう一人のLUPE店員にして、椙拳不倫相手。杉浦春二は恐らく矢崎家夏の帰省先、浴衣のユミエに悪戯する近所のをぢさん。「をぢさんが涼しくしてあげようか」と襟元を軽く肌蹴け、「こつちも上げようか」と裾を捲り「パンツも取らうか」と畳みかける華麗なコンボから、「今度は気持ちよくしてあげようか」とフィニッシュを撃ち抜きかけたところで、学生服の透が駆けつける。
 配信開始の古い順に、未見作を詰めて行く「Viva Pinks!」殲滅戦。第九戦は二月に上野オークラにも来てゐた、増田俊光昭和57年第二作。殲滅戦三戦後、増田俊光的には五作後となるjmdbだとキャリア最終年、昭和59年第一作「ONANIE24時間」も去年の十月矢張り上野に来てゐる。
 滅法ダークとの評判を見聞きしてゐたものだが、行くアテもないゆゑ透宅に居ついた存命の方の杉本未央が、自ら矢崎ユミコを名乗り透にお兄ちやんと懐き、おまけに家事まで嬉々とこなして呉れる。牡丹餅どころか棚からキッラキラ金貨が降り注ぐドリーミンな中盤は、案外底抜けに明るい。とはいへ過去を払拭出来ない―ケロッと喉元過ぎられても困るけど―透が自縄自縛に陥り、徐々にたち込める破滅のスメル。輪姦される毎に、今でいふとUSBメモリ感覚で記憶が出入りするメグミのある意味便利なポルノ体質はさて措き、無体なラストに完成する如何にもな因果は、綺麗に出来上がつたカタルシスがそれはそれとして清々しい。丁寧な成就を果たす外波文ズを筆頭に、俳優部全員が濡れ場に参加する布陣は裸映画的に強靭。かつ一昼夜の経過を語らない雑な繋ぎに、潔く三番手に徹するものかと思ひきや、椙拳との不倫関係に関して、愛があれば云々と他愛ない能書を垂れ―図らずも―ユミコの背中を押す形で、高中流水もギリッギリ展開に組み込まうとする一手間を踏んでみせてゐる点は好印象。逆に、ヨーコは透に岡惚れするばかりでユミコと掠りもしない南條碧が、寧ろ濡れ場要員といつていへなくもないものの。

 付記< 今上御大のソクミル旧作で南條碧に辿り着いた。南條碧が椙拳の不倫相手で、ヨーコ役は高中流水


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 「宇能鴻一郎原作 むれむれ夫人」(昭和53/製作:?/提供なり配給:?/監督:向井寛/脚本:田中陽造・山本晋也/企画:向江寛城/撮影:鈴木史郎/照明:斉藤正治/美術:田金一/編集:田中修/音楽:芥川隆/助監督:小椋正彦/監督助手:中山潔・一ノ倉二郎/撮影助手:林兆・小松原茂/照明助手:斉藤健一・井上和夫/記録:浅木志乃/効果:小島進/スチール:津田鉄夫/美容:内海響子/メーキャップ:瀨木みどり/製作主任:佐野日出夫/録音:東映撮影所/現像:東映化学/主題歌:唄・嵯峨美子 ピアノ・美野春樹/協力:銀座山岡毛皮店、新宿ハッピー・コーナー、オールアーツ、目黒エンペラー、ニュー・愛/出演:飛鳥裕子《ミス着物》・サロメ角田・桜マミ・茜ゆう子・牧伸二・大泉滉・笑福亭鶴光・ジャイアント吉田・松浦康・立川陳・石太郎・泉キヨシ・仲村和男・プリティ光・多多笑笑・川口朱里・北乃魔子・砂塚英夫・小松方正)。出演者中、立川陳から多多笑笑までと、飛鳥裕子のミス着物特記は本篇クレジットのみ。企画の向江寛城は、向井寛の変名。タイトルにも入るウノコー原作はポスターには謳はれる反面、本篇クレジットでは通り過ぎられる。
 本来の執事、ではなく。齢の凄く離れた社長夫人の元々召使であつたものが、そのまゝオプションで屋敷に入つた今泉(大泉)に、役名不詳の会社社長(小松)は昨晩の夫婦生活の絶倫ぶりを、清々しいほどのガッハッハ調で誇りつつ当然ハイヤーで出社する。改めてググッてみると、大泉滉が十九年、小松方正は十四年前―二人は大正末年生まれの小松方正が一つ下―に亡くなつてゐたんだ。さて措き、すると―性豪自慢は―嘘なんですと、仮名小松の夫人・アケミ(飛鳥)が開巻速攻、かつ実も蓋もなくウノコー節を爆裂させほくそ笑んでタイトル・イン。ところで全篇を通して受ける雑感としては、取つてつけた気味に“ミス着物”の称号を纏ひながら、劇中のむれむれ夫人は和装よりも寧ろ、銀座山岡から提供された今時ではあんま見ない豪奢な毛皮の印象の方が強い。
 アルバイトの学生が休みゆゑ、今泉の制止も聞かず愛犬・ラッシーの散歩に出たアケミは、社長に書類を届けるだ何だと屋敷に日参する、仮称小松製作所平社員の佐藤(牧)と交錯する。佐藤が落として行つた舶来もののエロ写真に、衝撃を受けたアケミが仮名小松邸に帰還してみると、あらうことかメイドのカズエ(茜)と佐藤は密通してゐた。フル勃起時で3cmの夫のモノ―ついでに持続時間は平均一分二十秒。短くて小さくて早過ぎるだろ、社長―しか知らなかつたアケミは、エロ写真に続き佐藤の精々人並な大きさに改めて衝撃を受け、男根探訪を思ひたつ。
 例によつて巨大な謎を孕む配役残り、砂塚秀夫の前名義といふ扱ひらしい砂塚英夫は、伝説のホストクラブ「ニュー・愛」に赴いたアケミの、巨根オーダーに従ひ宛がはれる西田。サロメ角田とパッと見裕也似のジャイアント吉田が、アケミを見初め一緒に遊ぶよう持ちかける「ゴールデン金融」の女社長・遠藤みちよと、みちよに買はれたホスト・古田、四人で目黒エンペラーに入る。大人二人入れるベビーベッド風の昇降機が、最終的には泡風呂の浴槽にパイルダー・オンするギミックには度肝を抜かれた、これぞ大人の遊園地だ。ex.岡田洋介の石太郎は、アケミを喰ふだか喰はれるだかするゴルフ練習場のレッスンプロ。笑福亭鶴光は、再び今泉の制止を振り切り満員電車に乗つたアケミに、文字通り接触する痴漢師。後に仮名小松が夫人を同伴させる、新工場予定地視察の際の、「東京エアーラインズ」ヘリコプター操縦士といふ形での超絶藪蛇な再登場を果たす。ミイラ状態で入院中、素性を隠したアケミに五十六にして筆卸された今泉が、院内で拉致る大騒動を繰り広げる看護婦は、茜ゆう子よりも高いのは解せないがビリング推定で桜マミか。となると、台詞もそこそこある「ニュー・愛」のウェイター始め、そこかしこで意識的に抜かれる頭数がなくもない、石太郎を除く本篇クレジットのみ部隊に手も足も出ないのは百歩譲つて仕方もないにせよ、男優部中、裸映画畑から唯一出撃し気を吐いて、ゐる筈の松浦康と、相ッ変らず川口朱里に北乃魔子が何処に出てゐたのかどうにも判らん。少なくとももう一度は観に行くが、本当に上映プリントに映つてゐるのか?
 エクセス提供東映ナウポルノ第六弾は、jmdbからも漏れてゐる謎の一作。といふか、異常に豪華な男優部の面子を見るに、厳密には東映ナウポルノではなく、東映本体製作のニューポルノなのかも知れない。笑福亭鶴光が自機に乗せてゐるのが電車で痴漢した令夫人であるのを知り、俄かに揺れ始めたヘリからまづ小松方正が配偶者も残して退散。再び飛び始めたヘリでの機内プレイを経てむれむれ夫人と鶴光は機外に投げ出され、たにしては怪我ひとつせず。無人で飛び去るJA7438を、「待つとくれーッ」と鶴光が間抜けに追ひ駆けるのが、どうでもいいクライマックス。といふと男性遍歴と称した要は濡れ場をつらつら連ねるに終始する、やつゝけた裸映画となりかねないところが、推定桜マミの出演直前、肛門科医(立川陳?)に華麗な人違ひで菊穴性交を仕込まれたむれむれ夫人が、超短小の亭主との夫婦生活に活路を見出す展開は、破綻する以前に満足に成立すらしかねなかつた物語を紙一重で救ふ。ヒロインの独白調の文体と、アヴァンギャルドな句読点の打ち方で知られるウノコーに関しても、過去に一度手に取つてみはしたものの、兎にも角にも文章が―たとへば煙草と同じ感覚で―合はず一行読めずに断念してゐたものだが、映画のモノローグとしては、全く何の痛痒もなく機能する。

 以下は再見に際しての付記< 松浦康と川口朱里と北乃魔子が、矢張りどうしても見つけられず


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 「性獣のいけにへ」(昭和59/製作:オフィスツー/配給:新東宝映画/監督:麿赤児/脚本:丸山良尚/製作:大阿久和夫《オフィスツー》/撮影:長田勇市/照明:長田達也/助監督:東山通・岩永敏明・高橋博/撮影助手:小川真司/照明助手:上田成幸/音楽:太田洋一/編集:鈴木歓/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/スチール:岡本昌己/衣裳協力:自前多数・感謝/製作補:大塚聖一/タイトル:日映美術/製作協力:大駱駝艦、大鯨艦、シアター・パラダイス、保苅藤原設計事務所/出演:花真衣・紫衣名・伊藤清美・沙覇羅ナナ・古川あんず・三宅優司・行田藤兵衛・束間燃・田村哲郎・大杉漣・松田政男《友情出演》)。衣裳協力クレジットのオネストに草。
 深い森の中、旧日本軍の軍服を着た大杉漣が女をうねうね拉致。家財道具一式抱へ、男と女が線路の上を逃避行。木々の間から、男が女を負ぶつて出て来る。西部劇のロケーションのやうな土手、何某か弦楽器を抱へた男を乗せた乳母車を、女が押す。一般映画はだしの四ショットを叩き込んだ上で、改めて深い森の中に競り上がつて来るタイトル・イン。過半数手も足も出ない俳優部に先に白旗を揚げておくと、一組目と二組目の女が、紫衣名と沙覇羅ナナなのだけれど何れが何れなのか特定出来ないのが最大のアポリア、ビリング推定だと紫衣名が一組目。アバンでは遠過ぎてまるで見えないが、花真衣と伊藤清美が四組目と三組目の女。行田藤兵衛・束間燃・田村哲郎の三人が、多分二組目から四組目の男、正直もうどうしやうもない。
 Y字の三叉路の集合部で、学生服のミハシ(ビリング推定で三宅優司?)がトランクに腰を下ろしてゐる。そこに通りがかつた二組目の伊達男と女に、ミハシは下宿屋・カワモトの道を尋ねる。辿り着いたミハシを、軽く白塗りのカワモト由紀子(紫衣名?)が出迎へる。カワモト邸は隙間だらけで、漏れ聞こえる物音に誘はれミハシが二組目の伊達男が女を手篭めにする現場を覗いてゐると、部屋に入り込んで来た由紀子の兄と称するタカシ(大杉)は、女・タマエ(沙覇羅ナナ?)と伊達男は夫婦で、手篭めにするのも何時もの夫婦生活であると伝へる。ミハシの階下に住む花真衣の連れの男は両足を失つた傷痍軍人で、フクザワの連れの女・シズエ(伊藤)の、心臓には穴が開いてゐた。そしてただの仮住まひを求めた学生などではなく、何事か任務なり大義を帯びたらしきミハシも、一丁のオートマチックを所持してゐた。
 出演者残り松田政男は、カワモト邸の庭にてミハシとミーツする刑事。プロテクター舞踏を披露する古川あんずは、本物のカワモト由紀子。プロテクター舞踏に至る顛末が、一ヶ月に亘る監禁凌辱の末にさうなつたとかいふ方便が、白々しい実も蓋もなさが笑かせる。因みに古川あんずと田村哲郎は、この時遠く既にex.大駱駝艦。
 如何なるものの弾みか話の転がりやうか、昨今は大森立嗣・南朋兄弟の父親としても知られる麿赤児唯一の映画監督作が、しかもピンク。一癖二癖どころでは済まなさうな男女が集ふ浮世離れた館に現れた、拳銃持ちのセイガク。やがて官憲も介入し、謎が謎を呼ぶ、といつて、通常のミステリーが繰り広げられる訳では、別にない。片仮名にせよ平仮名にせよ、“アングラ”の四文字で括られる領域の空気に支配された始終は、通常か明確な起承転結の構築は、恐らく最初から志向してゐまい。二三四組目が愛欲に溺れる形で、花真衣と伊藤清美をも擁し濡れ場も回数だけならば設けられるものの、これ本当に三百万で撮つてゐるのか甚だ疑問に映る、下手に重厚な撮影と、男優部中唯一覚えのある大杉漣が本格的な絡みに参加しない逆説的な配役も勿論響き、直線的な煽情性には甚だ遠い。ミハシがカワモト邸にやつて来た目的が終ぞ明らかとならないのはまだしも、また選りにも選つてこの野郎の口跡が如何せん不安定で、要の台詞が所々聞き取れずただでさへ劇中世界に重く立ち篭めた霧を、なほ一層深くする始末。当時的にはこれで最先端であつたのやも知れないが、この頃のシンセによるペラッペラの劇伴も、今となつてはキツい。完全に諸手を挙げたのは、その時点では全く意味不明―また偽由紀子も軽く白塗るものだから識別に難い―であつた、タカシが体の表に鉄板を装着した完白塗りの女を責める一幕。ぱぱぱぱで「星条旗よ永遠なれ」をがなる大杉漣に後ろから突かれる古川あんずが、朗々とドイツ語で「歓喜の歌」を熱唱し始めるに至つて、潔くか力尽きて完敗を認めた。兎にも角にもつもりが判らぬゆゑ、新東宝が頭を抱へたかどうかは兎も角、小屋は匙を投げたにさうゐない頓珍漢作。量産型娯楽映画の荒野に毒々しく咲いた、一輪の徒花である。


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 「夜のOL 舌なぶり」(昭和56/製作:獅子プロダクション/提供:東映セントラルフィルム株式会社/監督:宗豊/脚本:宗豊/製作:沢本大介/撮影:笹野修司/照明:斉藤正明/音楽:芥川隆/編集:酒井正次/助監督:西田洋介/監督助手:片岡修二/撮影助手:下元哲/照明助手:田畑功/現像:東映化学/効果:ムーヒーエイジ/出演:朝霧友香・萩尾なおみ・高橋浩美・岡田尚美・源明・木戸浩二・出口修一郎・千葉健一・高円寺聡・森一夫)。出演者中、出口修一郎・千葉健一・高円寺聡は本篇クレジットのみ。逆にポスターでは、朝霧友香に―何故か―特別出演特記がつく。提供の東映セントラルフィルムは、実際にはエクセス。
 提供クレジットと三角マークとタイトル開巻、バスタブ一杯の泡風呂で戯れる、朝霧友香のイメージ・ショットが暫し続く。明けてドナ・サマーがガンガン流れる騒々しい酒場、浮かれ踊る男女を余所に、篠田敦子(朝霧)は一人カウンターで黄昏る。何はともあれ恐らく、朝霧友香のアンニュイ系の美人ぶりは人類が雑滅するまで時代を超える。プロトタイプレーシングカーのレース映像なんて藪蛇に挿んでみたりなんかして、敦子が店にかゝつて来た電話で別れを告げられる一方、一見如何にも楽し気に見えた宮下(森)も、妻の友子(萩尾)と店で別れる。看板で追ひ出された敦子に、追ひ駆ける形で宮下が接触。「夜つて暗いんですねえ」だとかクソみたいな会話からカット跨ぐと、ベッドの上で大絶賛エッサカホイサカの真最中。簡潔の内側を更に抉る―如何にも量産型娯楽―映画的な繋ぎ、あるいは質量がマイナスに突入する軽やかな関係性が堪らない。
 配役残り木戸浩二が、敦子のレーサーの夫・達矢。レーサー要素に関しては、散発的にレース映像が挿み込まれる以外に欠片たりとて意味はない。神など宿るものか宿すものかといはんばかりの些末が、ある意味清々しくもある。高橋浩美は、達矢が一方的に入れ揚げる新しい女・ひろみ。ビリングが妙に高い源明は、敦子を犯した男・山本らしい。岡田尚美がひろみのズベ公仲間まではいいとして、本クレのみの男優部三人には正直手も足も出ない。内二人は最終的にひろみ・岡田尚美と乱交に突入する暴走族にせよ、もう一人は友子を犯した男なのか店に友子を迎へに来るグラサンなのか、それともバーテン辺りなのか。
 第二弾「武蔵野夫人の唄 淫舞」(昭和53/監督:渡辺護/脚本:高橋伴明/主演:北乃魔子)が地元駅前ロマンでは二週目に入つたタイミングで八幡は通称前田有楽に着弾した、今年になつてエクセスが回し始めた東映ナウポルノの復刻第一弾。宗豊といふのは誰かが覚えてゐないと誰なのか最後まで判らない複数人による共用名義で、一応昭和56年最終第六作。因みに次作は、関根和美の愛妻・亜希いずみも出演する「夜のOL 名器密猟」。毒を喰らはば皿までと、エクセスは「名器密猟」も回して呉れまいか。未知の新作と未見の旧作との間に特段の差異を認めない立場にとつては、かうして今までなら普通に生きてゐる限り逆立ちしても観られなかつた映画が、ネットか何かで見るどころか小屋に来て呉れるのはひとまづ猛烈に有り難い。映画自体が違ふゆゑ単純な比較は許されないのかも知れないが、駅前のプロジェク太では御愛嬌だつた画質が、結構いい機材を入れたと思しき我等が前田有楽の映写ではそこそこ以上の画で、軽く驚いた。DVDとはいへ原版は、それなりの形で焼いてゐるのではなからうか。
 中身といふほどの中身もない映画の中身に話を戻すと、スローモーションとソフトフォーカスを臆することなく多用するイメージか回想を乱打する前半は、強姦された妻を受け容れられなかつた夫と別れた女と、強姦された妻を受け容れられずに別れた男とが出会ふ歪んだ世界観にクラクラ来る。一山幾らのダメ人間に、世界の命運が託される凡百の勇者譚の方がまだマシだ。対して後半は、達矢をハクく袖にしたひとみが、仲間と派手にセックスしてるかと思ふと、出し抜けか闇雲な暴走族の暴走ショットに、グルッと一周して無常観すら漂はせクレジットが流れ始める。物語といふほどの物語もなく直截にいふと面白くも何ともないが、男優部が個性にも華にも何もかも欠く反面、朝霧友香の絶対美貌から威勢のいい岡田尚美のオッパイまで女優部は充実し、昭和の匂ひのする裸映画としてひとまづ楽しめなくもない。但し、今作はそもそも、別々の二本の映画を無理から編集で繋げでつち上げたとかいふ噂もあり、となると要は基本的には電話越しに朝霧友香に木戸浩二を接いだ力技の一点突破ともいへ、寧ろ案外な離れ業にも思へて来るのは、当方の脳髄が桃色に煮染められた気の所為かもしくは迷ひか。

 最後に、スースーしさうな効果クレジットに関しては、本篇ママ。


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 「女子大生 教師の前で」(昭和58/製作・配給:新東宝映画/監督:水谷俊之/脚本:磯村一路/撮影:坂真一穀/照明:三好和宏/音楽:坂口博樹/編集:菊池純一/助監督:周防正行・冨樫森/撮影助手:斉藤幸一/録音:銀座サウンド/効果:内田越允/現像:東映化学/タイトル:代東画/協力:アトリエキーホール・ファイブドアーズ/出演:山本さゆり・美野真琴・田口ゆかり・山口良一・森林太郎・小磯一巳・米長一彰・大杉漣)。
 山本さゆりが田舎の母親と電話で話す、電話を切り就寝すると暗転タイトル・イン。明けて今度は美野真琴(a.k.a.よしのまこと)登場、着替へるのかと思ふと、自ら胸を揉みオナニーをオッ始める。壁に並ぶ細い覗き窓が、その空間が嬢の痴態を個室に入つた客に覗かせる、いはゆる覗き部屋である旨を伝へる。因みに協力のキーホールは実名登場する有名店、ファイブドアーズは判らん。四周を闇に縁取られる覗き窓視点の、上辺にクレジットを打つのが激しく洒落てゐる。元教師につき、本名不詳源氏名ならシェリー(美野)からは“教授”と呼ばれる店長(大杉)の顔見せ挿んで、その日のキーホールの営業は終了、ネオンを消灯する。ジョギングで一走りし帰宅後に鳴りだした目覚まし時計を止める工藤タカコ(山本)と、対照的にベッドの中から目覚ましを蹴倒すシェリー。西(甚だ覚束ないビリング推定で山口良一)の車に乗るタカコに対し、シェリーは大欠伸しながら電車で通学。風俗のアルバイトで月数十万を稼ぎ、大学には殆ど顔を出さないシェリーは久々に再会したタカコを、お気楽にキーホールに誘つてみる。
 配役残り、新東宝が別タイトルでリリースしたVHS―現在はDVDもあり―では「田口ゆかり 見せちやひます」と、三番手にして堂々とだかシレッと看板をカッ浚ふ田口ゆかりは、パンジー(タカコの源氏名)・シェリーとキーホールのナンバーワンの座を争ふキャンディ。張形とペニパン持ち出し、ペニパン越しに張形を挿入するといふ斬新なプレイも披露しつつ、敵情視察したタカコには、「感じてなんかゐやしない癖に、ただの見世物だは」と痛罵される。森林太郎は・・・・教授と二言三言遣り取りを交すキーホールの従業員?磯村一路と米田彰の変名臭い小磯一巳と米長一彰は、キーホールを―ついでに大学も―辞めたシェリーの、移籍先に於ける客要員??とかく男優部にはボロボロに手も足も出ないものの、新宿電話局の二人は定石からいふと演出部か。
 高橋伴明率ゐる高橋プロダクション解散後、残された面々で立ち上げた制作集団ユニット5。福岡芳穂・米田彰・磯村一路(a.k.a.北川徹)・周防正行(順不同)と五人組のもう一人・水谷俊之の通算第三作。因みに家にないゆゑ当然よくも何も全然知らないが、目下水谷俊之はテレビを主戦場としてゐる御様子。悪友から覗き部屋のアルバイトに誘はれた、シェリー曰く“何するにも真面目”な、自称“在り来たりの女子大生”が、やがてキーホールに家財道具の一式を持ち込み、遂には電話も引き、覗き部屋で寝起きするにまで至るといふ展開が実にユニーク。ついでに電話を引くなるイベントが、発生する点には時代を感じさせる。今ならばスマホなりWi-Fiを持ち歩けば事済む話で、全く以て味気ない。閑話休題、重ねてユニークなのが、女の裸をほぼ全て―客の鼻先でポーズを取り写真を撮らせる、シェリー移籍先での様子を僅かに除く―覗き部屋の“舞台”に於けるパフォーマンス―キーホールで生活し、断じて風ではないタカコの自慰ですら―として処理し、男女が性交するシークエンスが半カットたりとて一切存在しない奇抜な機軸。いつそパンジー×シェリーの百合すら放棄し、濡れ場から一切の絡みさへ廃してしまへばなほ独創的であつたのに。クライマックスをオナニーだけで魅せきる熱量を確かに感じさせる、タカコのライブはマジックミラー越し、満場の観衆の拍手と各々のブースを打ち鳴らすオベーションを招く。屈折しながらも辿り着いた感動の大団円、かと思ひきや。何より素晴らしいのがお嬢さんお嬢さんした柔和なイメージを一転、山本さゆりが鋭く一閃する、映画を観るなり見てゐる観客含め一切合財を奈落の底に叩き落す、ハードボイルドに衆生を突き放したドライなエモーションが圧巻。この時、意欲的に映画に取り組む若き水谷俊之は一見対極中の対極に位置する、裸映画に裸以外の何物も、時には映画をも求める心性を貪欲と戒めるかの如く否定する、大御大・小林悟の厳格な父性にも似たダンディズムに、偶さか邂逅しかけてゐたのかも知れない。


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 「痴漢電車 奥までたつぷり」(1999/製作:T・M・Project/提供:Xces Film/監督・脚本:松岡誠/企画:稲山悌二/原案:山﨑邦紀/撮影:清水正二/撮影助手:岡宮裕・岡部雄二/撮影応援:佐久間栄一/録音:石井ますみ/効果:東洋音響カモメ/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/助監督:横井有紀・佐藤吏・田中康文/ヘアメイク:3041/スチール:岡崎一隆/現場スチール:石塚洋史/撮影機材:日本映機/照明機材:アスカ・ロケリース/特機:NK特機/現像:東映化学/フィルム:愛光/タイトル:道川昭/協力:株式会社旦々舎・日活撮影所・セメントマッチ・葉月螢・吉行由実・坂本好恵・細谷隆広《アルゴピクチャーズ》・中本憲政・榎本敏郎・久万真路・My Friends/出演:秋元志乃・林由美香・佐々木基子・麻生みゅう・寺十吾・木立隆雅・柳東史・荒木太郎)。
 歯を磨き、デカいヘッドフォンをつけ出勤する寺十吾の脇を、カウンター気味に電車がプアンと駆け抜けタイトル・イン。混み合ふ電車の車中、通り過ぎるが小沢仁志(寺十)は、ブレザーの制服の女子高生・由良満ちる(麻生)に不自然なほど正対して密着。SEと共に実車輌からセット移行、満ちるを裸にヒン剥いた小沢はネクタイにピンマイクを取付け、喘ぎ声を心から楽しむ。もう一度SEで実車輌復帰、小沢は別の女の喘ぎ声に耳と心を奪はれる。音的にはローターに聞こえるものの、遠隔バイブを装着させられた秋元志乃と、小さくした鉄人の操縦桿のやうな、結構本格的なリモコンを操る木立隆雅。満ちるから体を移し再密着した小沢に、自ら身を寄せた秋元志乃は何事か一言残し、呆然と立ち尽くす小沢はフラッシュバックで、髪留めをつけた女の後頭部の幻想を見る。地方民には特定不能な何処そこ大学、篠塚和夫(木立)の研究室にて、女子大生の梶雪子(秋元)が改めて嬲られる。模様も、盗聴してゐた小沢はいよいよ慌てて出社。遅刻した小沢に、同僚の佐々木華子(林)は不可思議な距離の近さで温かく接する。
 配役残り柳東史は、篠塚の前とは鮮やかに対照的に、“ポチ”呼ばはりで雪子女王様から結構苛烈に責められる奴隷男。佐々木基子は、この人も篠塚と関係を持つ、大学あるいは大学病院関係者・久保葉子。対葉子戦に際して、篠塚は容赦ないフィスト・ファックを繰り出す。荒木太郎は、後述する併走要員。
 豪華な協力体制に祝福のほどが窺へる、旦々舎を主に多呂プロ等でも助監督を務めて来た松岡誠のデビュー作。とりあへず、久万真路の名前があることに軽くビビる。m@stervision大哥は、松岡誠が「痴漢ハレンチ学園 制服娘の本気汁」(2001/主演:西尾直子)の上田吾六と同一人物だと仰つておいでだが、他のソースがどうにも見当たらない。あ、でも、製作がどちらもTMか。それは一旦さて措き、痴漢マニアではなく女の声により重きを置く盗聴マニア、を主人公に据ゑた意欲的な趣向は話としては酌めるものの、あれこれ頂けない。兎にも角にも、シークエンスを上手く構成し得なかつたのか初めから頓着なかつたのか、痴漢される女の声を引き出すなり辿り着くに当たつて、小沢が自分で満ちるにガンガン痴漢してゐるのは大概間抜けではないのか。これでは単なる、デカいヘッドフォンをつけただけの目立つ痴漢に過ぎまい。繰り返し、藪から棒にもしくは木に竹すら接ぎ損なひ挿入され続ける髪留めのイメージも、小沢にとつて髪留めが如何なる意味を持つてゐるのか痒いところに手が届かないどころか、縛られてゐさへするかのやうに清々しく遠く語られない以前に、そもそも当初は、それが髪留めなのか女の後頭部のイメージなのか判然としかねる始末。センシティブに屈折した小沢単体の造形は魅力的な反面、主演女優は案の定エクセスライク―重ねて口跡にクセのある、葉月螢にアテレコさせるのは些か如何なものか―で、疎かにしない女の裸に尺を割いてゐたりもする内に、可哀相な被害者を―勝手に―僕が助けてあげると、ナイト気取りでしやしやり出た小沢が予想外のヒロインの毒婦ぶりに吠え面をかく。頓珍漢なドン・キホーテ物語といふ塩梅の本筋は、終に心許ないじまひ。ところが、側面から飛び込んではノーガードのエモーションを叩き込んで行くのが三番手を佐々木基子に任せ一歩前に出た、ピンク映画史上最強の五番打者・林由美香。妙な勢ひで小沢に据膳をよそひ続ける華子が、木にプラチナを接ぎ大輪の月見草を咲き誇らせる。事実上雪子に撃墜された格好の小沢は、その期に及んで漸く、あるいは調子よく華子をドライブに誘ふ。停めた車中、小沢が盗聴器の電源を入れると、雪子と荒木太郎の情事の音声が。ここで困惑気味の華子の表情から既に超絶な上に、NK特機起動。何時しか降り頻る雨の中、自ら小沢に身を任せる華子が、決定力のある嘘を撃ち抜く。雪子の真の姿を知り動揺する小沢に対し、「大丈夫よ、貴方には、私がついてゐてあげる」、「ずつと貴方が好きだつたの」、「最初に会つた時から」、「貴方をもつと知りたい」、「ホントよ、信じて」、「こんな女の子のことは忘れて」、「私は誰よりも貴方を愛する」、「だから、こんなことも出来る」、「忘れさせてあげる」。しかも別の女に心を乱す、盗聴マニアのオタク野郎に斯くも真正面から突つ込んで来て呉れる女など居るものか。机の抽斗からドラゑもんが操縦するガンダムが金色の竜に跨り飛び出して来るが如き、ファンタジーにしても底の抜けきつた大嘘を、些かも臆することなく林由美香が渾身で撃ち抜き、撃ち抜かれた、俺は。残りは全部飛んでてもいい、この雨中の車中の一幕の完全一点突破で、それだけで今作は永遠だ。

 因みに、にも関らずなラスト・シーンはコートを脱ぐと裸の雪子に、小沢が喰はれる逆痴漢電車。丸々一車輌を人払ひし占拠した無茶に加へ、本濡れ場を敢行したラスト・ショットを外から抜いてみせるブレイブは天晴。


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