真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 人妻ストーカー」(1997/製作:旦々舎/提供:Xces Film/脚本・監督:山邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:繁田良司・高橋哲也/照明:上妻敏厚・稲垣従道/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:松岡誠・横井有紀/録音:福島音響/現像:東映化学/出演:奥寺レミ・田口あゆみ・竹本泰史・甲斐太郎・柳東史・青木こずえ)。
 タイトルからイン、逆光のハレーションを煌かせながら、電車が右下から左上に斜めにフレームを横切る。女の股間に這ふ、男の指。撮影は何れも実車輌につき、電車痴漢はパンティ越しに触るに止(とど)まる。主婦の辻堂今日子(奥寺)が魚を捌いてゐると、会社専務の夫(甲斐)帰宅。脅迫的に嫉妬深い辻堂は、今日子の観音様を検分する。他方、若いのに今よりもくたびれた竹本泰史が、ぼんやりと電車に揺られる。大学万年助手の葉山健太か謙太か憲太(竹本)は、妻(青木)―の家族―の力を借りれば出世の道もなくはないものを、変に意固地に燻つてゐた。ある日混み合ふ車中で―無理から―隣り合はせた今日子に、吸ひ寄せられるやうに葉山は痴漢する。眠る妻の体を撫でる、痴漢行為に触発された夫婦生活噛ませて、再び車中にて目が合つた今日子に、葉山は再び痴漢する。何処ぞの繁華街を通過して帰宅した葉山のマンション前まで、今日子は尾けて来てゐた。ある意味三度目の正直か、今度は駅で待ち伏せされた今日子と、ホイホイ葉山はホテルに入り事に及ぶ。カメラを携へた、田口あゆみに押さへられてゐることも知らずに。
 勤務先に現れ、自宅にも実名で電話。脅威の調査力を駆使し俄にアレな勢ひで突つ込んで来る今日子に恐れをなした、葉山が差し出した手切れ金が受け取り拒否されたところで、本当に飛び込んで来る柳東史は、何事かただらなぬどころではない因縁のあるらしき、今日子の命を狙つた男。
 前作と殆ど全く同じタイミングで遅れ馳せる、矢張り三番手の田口あゆみが同様に展開の鍵を握る、山邦紀1997年全六作中第四作、薔薇族入れると七の四となる痴漢電車。「潮吹きびんかん娘」(1996/主演:小泉志穂)が最後なのか、残念ながら今回も山本さむ(ex.小多魔若史)は登場せず。「痴漢電車 人妻ストーカー」、誰かしら良からぬ輩が人妻をストーキングする物語なのかと思ひきや、

 人妻がストーカーかよ!

 叙述トリックにも似た、公開題を逆手に取つた奇襲は痴漢電車史上屈指の鮮やかさで決まりつつ、逆からいふと、序盤でハイライトを迎へてしまつた全体の構成には覚束なさ、乃至は尻すぼみ感も拭ひ難い。竹本泰史が何故かこの時期は絶妙に不健康に見せることもあり、鬱屈した葉山の日常を淡々とではあれど執拗にトレースするまではいいとして、御他聞に洩れず―いやだから、別に洩れて呉れて構はないんだよ―何処かから拾つて来られた主演女優ゆゑ、全方位的に大暴れする今日子の表面的な異常性までは十全に描かれるものの、闇の底に沈んだ、歪んでゐるにせよ歪んだなりの今日子の真実といつたものは、特にも何も全く見えて来ない。誘ひに乗ると見せかけ今日子に強烈なカウンターを放つてみせる、青木こずえの静謐な迫力。諦観を巧みに表現する、持ち前の独特なメソッドを繰り出し吹つ切れた様子で今日子の外堀を埋める柳東史と、百戦錬磨の安定感で全てを失つた柳東史を救済する田口あゆみ。外野はそれなり以上に仕事をするものの、肝心のエースで四番が大概心許ない。良くなくも悪くも、エクセスライクの典型ともいふべき一作。と簡潔に片付けてしまへば、話はそこで呆気なく終りもする。


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 「秘技四十八手 枕絵のをんな」(1994/製作:プロデュース文花・小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:高山銀之助/プロデューサー:林孝/監修:青木信光/撮影:伊東英男/照明:内田清/美術:佐藤昭介/助監督:石崎雅幸/衣裳:大和衣裳/美粧・結髪:奥松かつら/編集:㈲フィルム・クラフト/音楽:OK企画/スチール:津田一郎/監督助手:井戸田秀行/撮影助手:郷弘美/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:水鳥川彩・岸加奈子・藤崎あやか・久須美欽一・杉本まこと・野上正義)。
 江戸の泰平を文化方面から適当に素描する岸加奈子のナレーションを経て、一分過ぎにタイトル・イン。ここでの背景の異常に豪華な映像は、何処から引張つて来たバンクなのか。札差の蓑屋波衛門か浪衛門(野上)と、人妻であつたのを蓑屋が強引に金の力で妾にしたおまき(岸)の絡みをタップリと通過した上で、浮世絵師の喜多川歌国(久須美)は、娘(一切登場せず)の嫁入り道具にと蓑屋から枕絵の注文を受ける。浮世絵師にとつて大物パトロンである蓑屋を喜ばせるべく、逆からいへば万が一にも機嫌を損なはぬやう枕絵のアイデアに悩む歌国は、弟子の歌吉か歌良か歌由、歌好かも(杉本)が純情交際する、初物確定の町娘・おえい(水鳥川)に目をつける。歌国が思ひ至つたのは、男を知らぬ生娘が次第にその味を覚えて行く過程。師匠におえいを女にすることを仰天要求されるも、逡巡した歌吉は情けなくも逃走。仕方なくといふか何といふか、兎に角歌国が自ら一肌脱ぐ一方、懇意の遊女・おみよ(藤崎)の下に転がり込んだ歌吉は、おみよが得意とすると豪語する四十八手にヒントを得、絵筆を執る。だから、それどころぢやないだろ。
 何故かといつては何だが、ここに来てDMMのピンク映画chが続々と小川和久を新規投入してゐる椿事に素直に釣られてみた、1994年全十作中第一作。となるとピンク映画chさんには、関根和美の拡充もお願ひしたいものである。見たところで腰しか砕けないのは承知ないしは覚悟の上で、「未来性紀2050 吸ひ尽す女」(1998)と「制服淫ら天使 吸ひ尽す」(1999)の、「ターミネーチャン」シリーズを是非とも改めてキチンと通つておきたいのだ。それと小川和久に話を戻すと、この期に及んで間が抜けるにもほどがあるが、欽也と和久の関係は、要は現在欽也がex.和久といふ把握で正しいのであらうか。
 大量の編纂ポルノで御馴染みの、青木信光大先生―山Pこと山下智久の祖父であることには驚いた―の御名をも監修に戴いた、繚乱の江戸を舞台とした本格時代劇ピンク大作、本格?大作!?好き者の富商に依頼された浮世絵師が、趣向を凝らした枕絵に挑む。直球勝負の素直な物語まではいいとして、和服を着せた六人の、髪も綺麗に結ふまでが正しく関の山。日本家屋と数室の和室のほかには、最低限無駄なあれこれが映り込まない何処ぞの海岸のみ。清々しいまでに貧弱なロケーションはバジェットの然程でもなさを正直に白状し、鬼畜な歌国が弟子の女を手篭めにし、一方歌吉は女郎相手に試行錯誤を勝手に同時進行させる。までが展開上も関の山で、考証的な枝葉ばかりは徒に饒舌な反面―この辺りに、青木先生の影が窺へるのか―本筋はスッカスカに物足りない脚本を、ひたすらな濡れ場で繋ぐ水増しに終始する始終には、ある意味での潔さならば濃厚に漂ふ。尤も、三番手の覚束ない口跡に耳を塞げば超強力な三本柱と、細疵も見当たらぬ安定した男優部。布陣はほぼ完璧であるだけに、細かい贅沢をいはなければマッタリとそれなりには心豊かに楽しませる。

 因みに、小川欽也2006年第一作「美人セールスレディ 後ろから汚せ」(主演:@YOU)に於いて、平川直大に求婚された@YOUが映画丸ごとを放り投げ手放しで喜ぶクライマックス。@YOU宅を訪れた平川直大が指輪ともうひとつ持参するのが、今作のVHSである。パッケージにボカシがかけられる大人の事情はよく判らないのでさて措き、使用されるのはおみよV.S.歌吉戦と、まぐはゝせたおえいと歌吉に、歌国が筆を走らせる二幕。


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 「昇天旅館 ねだる若女将」(1994『連れ込み旅館の若女将』の2000年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/脚本・監督:すずきじゅんいち/撮影:田中一成/助監督:増野琢磨/音楽:ザ・タートルヘッズ/編集:フィルム・クラフト/スタイリスト:伊東清子/監督助手:高井康洋/撮影助手:松一嘉通・山内匡・宮本拓昇/出演:早川優美・チャコ・山口昇二・野口雅弘・新井一貫)。企画とか―プロデューサーと同義の―製作とか録音とか現像のクレジットがないのは、本篇ママ。
 タイトルからイン、青基調の陰影を利かせた海岸の画。中盤出だしの赤基調を経て、オーラス間際の珍しい黄基調に窺へる、意外と明確な趣向は秀逸。帰港する渡船と、海から歩いてすぐであることが、野口雅弘の登場時に判明するきたがわ旅館。女将の加奈(早川)が、借金の返済を催促する電話に哀願する。トロいロックンロールを流すワンボックス、新井一貫(実はヒムセルフ)とチャコ(この人もハーセルフ、纏めて後述する)の二人連れが、偶々目についたきたがわ旅館に入る。初戦をディープキスまで見せて、野口雅弘が渡船から降り立つ。きたがわ旅館を訪れたタツヤ(野口)は加奈の旧知で、元々タツヤの恋人であつた加奈を、放蕩夫の聡(山口)が寝取つたものであつた。きたがわ旅館の窮地を把握済みのタツヤは、単刀直入極まりなく加奈に迫る。
 配役残り、きたがわ旅館ヒゲの板前と、聡が借金の担保に入れたきたがわ旅館の権利書を、タツヤが買ひ取る件。鳩山由紀夫にチョイ似の権利書前所有者と、カウンター内の女バーテンダーの計三名は不明。
 「砂の上のロビンソン」(1989)をとうに通過後、まさかまさかのすずきじゅんいち最初で最後の純然たるピンク映画。ロマンポルノ最終作からも、七年を隔ててゐる。果たしてこの時、何がどう転んだのか。傾きかけた旅館に、町を出た昔の男が五年ぶりに舞ひ戻つて来る。昔の男と、自身をその男から略奪した現在の―役立たずの―亭主との間で、女将は揺れ動く。濡れ場要員と兼務で、変型護摩の灰を本筋に噛ませる布陣含め話の大筋はピンク映画的に全く順当なものとはいへ、傍目には渡りに船としか思へないタツヤの申し出を何故か加奈が頑なに拒み続ける、ナイーブに右往左往するヒロインの心情を主軸に正攻法のメロドラマを志向するには、頭数が少ない以上手数の不足以前に、清々しく心許ない主演女優―未見の橋口卓明作が一本一応先行する―のお芝居が兎にも角にも致命的。しつとりさせたい筈の台詞は、悉く棒状に立ち尽くす。濡れ場に入ると思ひ出したかの如くかつ散発的に、どんぶらこどんぶらこと左右に揺れてみせるカメラも全く意味不明。肌の発色と局部を回避するアングルの摸索以外には、女の裸はおとなしく見せるべきではなからうか。挙句に、ただでさへどつちに転ぶのかタツヤを主に聡―と観客―も無駄にやきもきさせる加奈の言動は、最終的には正気をも疑ふレベルの木端微塵に突入する。実カップル退場後、まだ三分の一弱残すこの先一体どうするのかと別の意味で固唾を呑んでゐると、展開は不安の遥か斜め上を突き抜け、グルッと一周し底も抜ける。残された尺をひたすら絡み倒す怒涛の終盤は裸映画的には鮮やかでなくもないものの、気が触れたとでもしか思へない加奈の底なしの貪欲は明後日に圧巻。直截にいふと何だこれと開いた口が塞がらない、生温かい頓珍漢映画である。本当に果たしてこの時、何がどう転んだのか。

 よくいへば奇怪な映画本体はさて措き、見所は側面から飛び込んで来る。トメを飾る新井一貫は、オフィス★怪人社代表のIKKANと同一人物、本名である。そこだけでも注目な上更に、新井一貫と絡むチャコはマンガ家の新井祥(旧名:新井幸枝)と同一人物。時期の如何は不明ながら、何とIKKANの元嫁である!さう考へると、謎のタイミングでのすずきじゅんいちピンク唯一作であることに加へ、外堀には飛び道具に富んだ一作であるといへようか、本丸は掘建なのだが。それと因みに山口昇二も、山口健三の別名義。
 底の抜けた着地点< テキパキ働く棹兄弟の聡とタツヤ従へ、きたがわ旅館はけふも加奈が元気に切り盛りする、ジャンジャン!


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 「派遣OL 美人受付嬢SEX暴露」(1999『美人受付嬢 不適切な関係』の2008年旧作改題版/製作:フィルム ハウス/提供:Xces Film/監督・脚本:佐々木乃武良/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文雄/助手:鏡早智/照明:小野弘文/助手:藤塚正行/助監督:高田亮/助手:寺田史郎/製作担当:真弓学/ヘアメイク:塚本ゆき/タイトル:道川昭/編集:金子尚樹 ㈲フィルムクラフト/出演:麻丘珠里・扇まや・安藤なるみ・やまきよ・尾崎和宏・杉本まこと)。オープニングとエンディングとでビリングが異なる、エンディングのビリングは、麻・杉・尾・扇・安・や。
 更衣室の盗撮映像噛ませて、栗頭貿易株式会社、英語表記は“KURITOU Trading Company”。来客(不明)に応対する美人受付嬢・母仁田瑠衣(麻丘)を、アキバな造形の男性社員・細田剛(尾崎)が全然隠れきれてゐない物陰から注視する。細田のキモい視線に溜息をついた瑠衣の、受付カウンターの中にもカメラは仕込まれてゐた。瑠衣が一旦組んだ足を、開いてみせるのに合はせてタイトル・イン。それもそれとして細田が、仕事らしい仕事をしてゐるカットは、その後も終ぞ設けられはしない。
 揺れる栗頭貿易、取引銀行から栗頭貿易に乗り込んで来た、劇中本当にさういふ頓珍漢な役職とされる独立検査官―だから何だそれ―の星哲也(やまきよ)は、社長の栗頭功ニ(杉本)にリストラを迫り、社員の間にも動揺が拡がる。栗頭は瑠衣と関係を持ち、要所を片仮名にすると“クリトウはモニタルイと関係を持ち”栗頭貿易創業者の孫にして功ニの妻・平里(当然読みはヒラリ/扇まや)は、入り婿の女遊びを知りつつも半ば掌の上で遊ばせてゐた。一方、社長の女である瑠衣への対抗心も剥き出しに総合職の坂下杏子(安藤なるみ/安西なるみの誤字ではなく、全くの別人)は、栗頭と星の双方向にへべれけなハニー・トラップを敢行する。社長室、正しく勢ひ余つた杏子が、栗頭の机上に飾られたミニチュアの日米両国旗をブッ飛ばしてみせるのは、それは撮つてしまつてよいものなのだらうか。
 勝利一と同時デビューを果たしたオムニバス作「痴漢エロ恥態 電車・便所・公園」(1998/もう一人坂本太と共同監督)、空回つた意欲が高濃度エロ映画の醸成を妨げた、同年の独り立ち作「人妻交換 恥ぢらひ狂ひ」(主演:つかもと友希)に続く、佐々木乃武良単独第二作。元題や登場人物の名前から、合衆国大統領の火遊びが世界的に三面を賑せた、モニカ・ルインスキー事件に想を得てゐることは明々白々ながら、それならばおとなしくそのセンで攻めればいいものを、例によつてといふべきか事は上手く進まない。犯人の判らない盗撮サスペンスに、細田のウジウジとした純情。平里の腹ひとつで回避可能といふのが説明が足りてをらずよく話が見えない、星に乗り込まれた栗頭貿易騒動と、濡れ場の回数込みで野心的に暗躍する杏子。闇雲にモチーフが乱立する中、気が付くと殆どお留守なパロディ以前に致命的なのが、そもそも何処を向いてゐるのだかサッパリ判らないヒロインの心情のベクトル。ただでさへ心許ない麻丘珠里―エクセスライクに、今作がピンク映画初陣―を相手に、佐々木乃武良も一緒に右往左往してゐてどうする。ガッチャガチャでしかない始終に、時折コケ嚇しにラウドな劇伴が強制的にアクセントをつける様はグルッと一周しかけて微笑ましくなくもなかつたが、最終盤、遂に堪忍袋の緒は切れる。クライマックスの絡みをわざわざ中断して、といふことはより正確にはエモーションの素直な喚起を阻害して、栗頭が平里に平身低頭「ふ、不適切な関係でした」と詫びる一幕を差し挟んだところで、迸るのは覆水盆に返らず感ばかり。挙句に、エンド・ロールに際してやまきよに「栗頭に平里、結局何なんだ」とツッコませるに至つては言語道断。それはこつちの台詞だ、観客ナメてんのか。久々に、ピンクを観てゐて本気で腹の立つた不誠実な一作である。

 因みに、杏子が派遣されてゐることを示す描写は、ある意味勿論一欠片たりとて見当たらない。大体が、この新題では主人公が杏子になりかねない。往々にしてあることでしかないとはいへ、エクセスのフリーダムさが、何だか味はひ深いものとすら思へて来た。


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 「私は、変態 もう、便所まで待てない」(1995『景子のお便所』の2013年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・荻野真也/音楽:藪中博章/助監督:西海謙一郎/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斎藤秀子/スチール:岡崎一隆/出演:かとう由梨・青木こずえ・林田ちなみ・荒木太郎・平賀勘一・リョウ)。
 用を足す女の尻と、背中側に開けた―当たり前だが―覗き穴から凝視する男の眼。用を足した女がタンポンを入れ、最後に水を流すところまで馬鹿丁寧にトレースした上でタイトル・イン。短大卒業後小さな個人事務所に就職した相原景子(かとう)は、事務所が倒産し失業。いつそのこといはゆる永久就職を目論み、桑山慎三郎(リョウ)が所長を務める「ハート結婚相談所」の門を叩く。今でいふとアヒル口のかすみ果穂といつた趣のかとう由梨が、今観ても全然素晴らしい。桑山が良心的と胸を張るハート結婚相談所の料金システムは、入会金が五千円。お見合が一回につき三万円、但しこれは大抵男が払ふ。そして、目出度く結婚に漕ぎつけたとなると十万円。相場が判らないので高いのか安いのか判断しかねる以前に、よくよく気付いてみると凡そ二十年前の映画である。となると、一歩間違へれば当時の方が事と次第と物によつては値段が高かつた場合も考へられるので、矢張りお手頃なのか?
 登場順に荒木太郎は、最初に桑山が景子に紹介する、「ハート結婚相談所」男性会員の米田浩一。米田とのデートを前に、手洗ひに入つた景子が妙に大きな容器で女陰に液体を注入するのでこれは何をしてゐるのかと首を捻つてゐたところ、携帯用のビデとのこと、勉強になつた。青木こずえは、セックスに自信のない女性会員・川原幸恵。常習である女子便所覗きが幸恵に発覚した桑山は、劇中用語ママでお尻マニアであることを告白する。平賀勘一は、ヤルことはヤッておいて尻が軽いと米田にお断りされた景子に桑山が最後に紹介する、パブ&スナック「扇」社長の稲川真一。景子以前に、四十八回見合に失敗したといふ大川総裁の就職活動感覚の戦績を誇れない稲川を、常識的には桑山はおいそれと客に引き合はせたりしたらいかんぢやろ。林田ちなみは、扇の従業員・君畑智代。婚活に明け暮れる稲川を複雑な表情で見やる、初登場カットで十全に立てるフラグが麗しい。
 無職女が玉の輿狙ひで飛び込んだ結婚相談所の所長は、女の尻を偏愛する出歯亀であつた。浜野佐知1995年薔薇族含めて全十三作中第六作、この頃の闇雲な勢ひが堪らん。とはいへ、桑山のお尻マニアぶりに関しては末端の窃視行為が繰り返し繰り返し描かれるばかりで、由来のひとつ語られるでなければ、深まりなり―幸恵のアナル以外には―拡がりを見せる訳でもない。結婚狂想曲としても、潤沢な女の裸と同時に桑山の偏向に割かれる尺に希釈され、清々しく物足りない。そもそもが、しかも大概打算的な景子の結婚願望なんぞを、浜野佐知が何処まで身を入れて描くのかといつた話でもある。結果的に薄味な展開を、となると支配するのは御存知旦々舎の千リョウ役者・リョウことa.k.a.栗原良・ジョージ川崎、更には相原涼二。勿論旦々舎の専属ではないにせよ、栗原良が最も輝くのは見せ場の確立された旦々舎作であることに、恐らくでもなく論を俟つまい。稲川が店について来た景子を強姦したことに頭を抱へた桑山は、扇に怒鳴り込む。ここでの、リョウが平賀勘一を激しく叱責する一幕は、平勘の受けまで含めてケッサク、シンプルに可笑しい。幸恵に覗きが発覚した桑山は、破滅の予感に慄く。当然今度は、渾身の顔力で寄せた眉根に溝のやうに深い皺を刻み込み徒に難渋に苦悩する、十八番のメソッドを大披露。これだろ、毎度毎度同じものを、何度観ても全く飽きない。映画の中身が面白いにそれは越したことはなからうが、徒に難渋に苦悩する栗原良を観てゐるだけで、とりあへず元は取れる、一体俺は何を観に来てゐるのか。薮から棒かつ便宜的なクライマックスの濡れ場に際しては、藪中博章の美しい旋律が無駄遣ひ。それにしても何はともあれ、小屋にて物悲しくも力強いピアノに身を浸す至福は、矢張り何物にも代へ難い。長い回り道の末に漸く結ばれた稲川と智代の恋物語が生むエモーションも加へ、要は貧弱な幹よりも豊かに生い茂つた枝葉に目が行く一作ではありつつ、ところでこの流れだと今作に於ける真の勝者はヒロインではなく、持参金―扇二号店の開店準備金ともいふ―つきの若くて美人、おまけに特殊な性癖をも認めて呉れる捌けた嫁を貰つた、実は桑山であるやうに思へる。

 ところで、本篇の中身とは清々しく掠りもしない景子のディテール。在学中は遺跡の発掘に熱中、その結果就職活動に出遅れたとされるのだが、その短期大学には考古学部があるのか?


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 「新婚妻の性欲 求める白い肌」(2012/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:下元哲/編集:鵜飼邦彦/録音:シネキャビン/助監督:江尻大/撮影助手:石井宣之・榎本靖/監督助手:小鷹裕/スチール:本田あきら/選曲:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/出演:羽月希・小川はるみ・上加あむ・樹カズ・岡田智宏)。
 タイトルからイン、保健室で眠るセーラ服の羽月希の体に、何者かの手が這ふ。のは、高校卒業後すぐに担任の峯田健吾(岡田)と結婚した、香織(羽月)が度々見る同じ内容の淫夢。健吾は香織にカウンセリングを受けてみることを勧めつつ、夫婦生活の求めには応じない。そこまでは兎も角として、どちらかの親が金持ちなのか、殆ど底の抜けてゐるアホみたいにお洒落な峯田家の造形が、男前以外は排除した男優部同様ある意味微笑ましい。
 結婚二年、何故かセックスレスの状態にある香織の回想なり自慰を絡めて、樹カズが、小川はるみのスケッチに鉛筆を走らせる。峯田家の隣に越して来た笹野健雄(樹)は絵を描くのが趣味で、妻の浪江(小川)ともども、香織にモデルになつて呉れることを求める。ここで、健雄いはく“隠居”と称する笹野夫婦がリタイア後であるとする設定は、小川はるみはまだしも、樹カズには流石に無理が苦しい。どうしてもそのセンで攻めないと気が済まぬのならば、健雄役はなかみつせじでもまだ若く牧村耕次しか居ないのではなからうか。話を戻して、健雄が用意した衣装は、ナベシネマでいふとウィズ魂が爆裂するスッケスケのランジェリー。中座込みの浪江の援護射撃も交へ、健雄にあくまでジェントルに求められるまゝに、剃毛すら受け容れ裸身を晒した香織は、絵のモデルは何処吹く風に何時しか乱れる。
 香織のモデル初日と、健吾が妻の陰部が黒ずんでゐることを指摘するだけすると寝てしまふ、無体な夜を経た翌日。チークをキメキメの顔でシレッと飛び込んで来る上加あむは、健吾の同僚・落合冴子。
 吉行由実2012年第二作は、イケメン限定の男衆に加へ、松岡邦彦の正月第二弾「つはものどもの夢のあと 剥き出しセックス、そして…性愛」(脚本:今西守・関谷和樹/主演?:後藤リサ)もあるとはいへ、その更に前となると「母性愛の女 昼間からしたい!」(2008/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/主演:浅井舞香)まで遡る小川はるみ。自身の2009年唯一作「アラフォー離婚妻 くはへて失神」(2009/主演:冴島奈緒)から純粋に三年ぶりの上加あむと、久々の顔をヒロインを挟んだ、あるいは挟撃する両翼に配した女優部も特徴的。因みに戦歴としては、上加あむは今回含め三作全てが吉行組で、一方小川はるみはといふと、2007年の傑作未亡人下宿「未亡人アパート 巨乳のうづく夜」(主演:薫桜子)以来の二作目となる。理解に苦しむこと甚だしい健吾に放たらかしにされた香織を、正体不明の笹野夫婦が篭絡する。羽月希を美しく、そしてなほ一層いやらしく撮ることにのみ全てを注いだ―かに見せた―序盤・中盤は、確かにピンク的にはひとつの全く麗しき姿であるにせよ、恐ろしくゆつくりゆつくりした映画にも思へた。ところが、適度にセンシティブで十二分に扇情的なベリーソフトSM映画から、完全にそれらしき素振りで紛れ込んだ<三番手が根こそぎ持つて行くまさかの百合サスペンス>に大転調を果たす終盤には、高を括つた油断もあつたのか綺麗に度肝を抜かれた。完璧に騙された、完敗を認めるほかはない。受けに終始する羽月希に関しては、羽月希に対する賞賛といふよりは寧ろ吉行由実の的確な起用法をより重視するべきかとも思はれるが、地味に侮れぬ<上加あむ>有するエモーションの前に出る圧力が、力技極まりないクライマックスを頑丈に固定する。女の裸をお腹一杯に愉しませ、それで元は取れるからまあいいかと思はせておいて、最後の最後に劇映画を叩き込む。開巻が引つ繰り返る、映画の嘘など実に鮮やかだ。ピンクで映画なピンク映画のひとつの結実、打率は然程高くはないものの、吉行由実は強い時には滅法強い。

 一見清々しく他愛ない前作「抱きたい人妻 こすれる感触」を観た際には、白馬に乗つた王子様が迎へに来るのを何時までも待ち続けるが如き、花の咲いた少女趣味を裏返してみたところ、意外や意外オタク観客のナイーブな琴線を激弾きする、それはそれとしての商品性が一丁上がり。といつた新しい切り口に、吉行由実は到達したのではないかとの感触を懐いたものだが、今作を観る限りどうやら、それは相変らずな明後日だか一昨日の見当違ひに過ぎなかつたやうだ。


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 「婚前OL 不埒に濡れて」(2012/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『今宵、いつものバーで』/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:北川帯寛・松井理子/撮影助手:下垣外純・矢澤直子/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/タイミング:安斎公一/協力:ステージ・ドアー、ASAKUSA FOTOBO/出演:周防ゆきこ・中山智香子・日高ゆりあ・竹本泰志・なかみつせいじ・平川直大・三貝豪/Special Thanks:倖田李梨・野村貴浩・松井理子、他)。
 開店したてのパブ「ステージ・ドアー」の表を、編集プロダクションで働く花音(周防)と、恋人で早稲田理工卒旧財閥系の三ツ矢セメント勤務、即ち超優良物件の尚也(平川)が画面右から左に通り過ぎる。花音の部屋にて婚前交渉を交へ、たまま泊まるのではなく、実家住まひの尚也は終電が無くなるといふ理由でそそくさと花音宅を辞す。尚也が再びステージ・ドアー前を左から右に通り過ぎてタイトル・イン、今作の平川直大が髪型が殆ど同じなので、ハンサムな石動三六に見える。
 Special Thanks他勢と中川大資や勿論ひろぽんらで賑はふ、ステージ・ドアー店内。マスターの藤枝俊文(竹本)はセフレとのメールの送受信にうつつを抜かし、カウンターでは藤枝とは“トシちやん”、“はじめ”と呼び合ふ仲の幼馴染で不動産屋の岸田はじめ(なかみつ)が、エルビスのトランプで占ひに興じてゐた。花音はステージ・ドアーの常連で、来店しては花音ののろけ話を藤枝が小馬鹿にする、掛け合ひ漫才のやうな遣り取りが他の常連にも評判の何時もの光景であつた。
 通常・カメオ枠纏めて登場順に、松井理子は、花音の女友達でギャラリー「ASAKUSA FOTOBO」の雇はれ支配人・日向子。何か乳首が凄い中山智香子は、藤枝のセフレで人妻のえり子。野村貴浩は花音の職場の先輩・太田で、野村貴浩と時間差で顔を出す三貝豪が、花音元カレ・恭介。倖田李梨は、藤枝が地味に狙ふ同業者・リリー。そして日高ゆりあが、といふか日高ゆりあも藤枝のセフレでこれから人妻のまゆ。展開上はシレッと消化してみせるが、要は二番手と三番手を、全く同じポジションで片付ける確信犯的省力がある意味清々しい。現実味を忘却した理想論でいふと、別に日高ゆりあが一人居れば全然事足りるのだが。
 観たくて観たくて仕方がないナベのお盆映画「おねだり狂艶 色情いうれい」(主演:大槻ひびき)始め、依然七本飛ばしてるとはいへ池島ゆたか的には順々に来てゐるだけそれでもまだマシといへるのか、2012年最終第三作。ミスター・ピンクにしては、驚くほど少ない、今年の大逆襲が予感される。「婚前OL 不埒に濡れて」、タイトルだけ杉浦昭嘉の私選最高傑作「独身OL 欲しくて、濡れて」(2002/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/主演:木下美菜)と酷似してゐるといふのは、全くどうでもいい与太である、なら吹くな。「ホテトル譲 悦楽とろけ乳」に引き続き周防ゆきこを主演に擁し、前作に於いて顕著であつた傾向を、更に推し進めたかのか勝手に延焼したかのやうな一作。身長の高くはなさは残りの二高が補つて余りある、人も羨む彼氏以上婚約者ギリギリ未満に恵まれたヒロイン。当の本人はクリエイティブ系(笑)の仕事が充実してて仕方がなく、結婚までは兎も角、家庭に入るはおろか子供を産む気などサラッサラない。彼氏が一時的に日本を離れた鬼の居ぬ間に、偶々再会した昔の男をペロッとイッちやつたりもしつつ、我儘が祟つたのか火遊びの因果か、玉の輿を何処の馬の骨とも知れぬ女にカッ浚はれてしまふ。泣きつ面の前に現れたのは、歳の離れた喧嘩友達でもある行きつけのバーのマスター。援護射撃をこの上なく撃つて呉れたりする別のオジサマも居たりなんかして、アタシ結局セックスの上手いロマグレとラブラブー(≧∇≦)、なんて。だ、などと、小娘にのみ都合のいいハーレクイン・ロマンスに毛を生やしたのか抜いたのか最早どちらでも構はない物語を、池島ゆたかはこの期にどの面提げて確かオッサンの娯楽である筈のピンク映画で御座いと放り込んでみせるつもりか。と、ホテ悦と全く同じやうな感想になつた―決して手抜きをした訳ではない、多分―ことに関しては、良きにつけ悪しきにつけ、寧ろ周防ゆきこの影響力ないしは支配力をも指摘するべきなのか。前回は初陣につき敢て書かなかつたが、周防ゆきこの雑な言ひ方をすると声優芝居が、どうにもオジサン苦手だ。池島ゆたかがどうかう以前に、如何に表現したものかキュンキュンした周防ゆきこの感覚を、損なふことも抑制することもなく綺麗に料理し得るタレントは、今も昔もピンク映画界には居ないのではなからうか。片足二次元に突つ込んだ、新種のメソッドであるやうに思へる。

 ところで、ハートのエースが出て来る件。なかみつせいじの背中越しに、カウンター向かうの竹本泰志を抜くカットのピントが呆けてゐるのは、アレッとした初見と確認の二回、都合三度続くゆゑ錯覚でも節穴でもない。それともう一点、三十三→二十八以下→二十四と、会話に上る毎にどんどん若返る、花音の劇中設定年齢は変動制でも採用してゐるのか?


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人妻セカンドバージン 私を襲つて下さい」(2013/製作:Lenny/提供:Xces Film/監督・脚本:城定秀夫/企画:西健二郎/プロデューサー:久保和明/撮影・照明:田宮健彦/助監督:伊藤一平/ヘアメイク:蔦谷いづみ/編集:酒井正次/音楽:林魏堂/監督助手:小塚太一/撮影照明助手:俵謙太・川口諒太郎/スチール:本田あきら・伊藤久裕/メイキング:川村翔太/制作応援:貝原クリス亮/録音:シネキャビン/ロケ協力:柳川庄治《NPO法人パートナーシップきさらづ》/光学リーレコ:東映デジタルラボ《株》/現像:東映ラボ・テック《株》/出演:七海なな・吉岡睦雄・河野智典・仁科百華・中村英児・さくら悠・宮城翔悟・辺見麻衣・麻木貴仁)。
 陰鬱な望月家の朝、ぼんやりと包丁を使ふ麻子(七海)が指を切り、夫の高志(河野)はキレ気味に、捌けぬ妻に愛想を尽かし朝食を諦める。高志は後ろ手のまゝ靴ベラを遣り取りし、妻の方を振り向きもしない玄関。兎も角夫を送り出した麻子は、切つた指先から結構威勢よく滴り落ちる鮮血に気づく。までが、何気にワン・カットのアバンを経てタイトル・イン。認めざるを、得ないのか。
 ナッツでも摘む感覚で、ピル・ケースの錠剤をポリポリ食べ食べドラムを回す麻子は、異音に洗濯機を止める。高志の衣類のポケットから、ラブホテルのライターが出て来た。近所のサッカー高校生・ケンジ(宮城)と、ケンジが洗濯物を干す麻子と会釈を交しただけで一々噛みつく嫉妬焼きの彼女・ユミコ(辺見)の顔見せ噛ませ、三百円すら当たりもしない宝くじに匙を投げた麻子は、一旦催しかけて、後述する頗る魅力的なロングでフレームを右から左に横切り、珍・監禁逃亡でも使用された廃工場に。そこに現れたジャンキーのカップル・タケル(中村)とアミ(仁科)が、コロンビア産のお薬をキメてのセックスを覗き自慰に耽る麻子は、興奮の度が過ぎると喘息の発作を起こし、吸引薬に縋る。高志は同じ会社の浮気相手・ユキ(さくら)と外泊する夜。危なかしさこの上なく―下かも―矢張り錠剤をアテに泥酔する麻子は、よろめいた弾みで庭に忍び込んだ、社長を刺し逃走中の久保工業工員・宮守潤二(吉岡)とベランダのガラス戸越しに目が合はせる。ベランダを破り侵入、自身を犯した宮守を、高志が帰宅した翌夜以降も麻子は屋根裏に匿つた。
 配役残り、ピエール瀧のレプリカのやうな麻木貴仁は近所の駐在。宮守逃亡当夜、望月家を訪れただけではスケベな役立たずに過ぎないところを、再登場の機会を与へられ幾分以上に救済される。ポスター・クレジットとも名前はなく、引いた画で殆ど人相も判然としない小塚太一は、計四車線に隔てられた会話の末に飛び出した麻子を、卒ない繋ぎで撥ねてしまふ運転手、綺麗に名が体を表す。
 新東宝よりはそれでもまだマシなのか、青息吐息のエクセスが遂に切つた切札中の切札は、沈黙する無冠の帝王・新田栄でも雌伏し続ける至誠・中村和愛でも残念ながらなく、「妖女伝説セイレーンX」(2008)を一応挿んで十年ぶり二作目のピンク帰還を果たした、御存知霞予算映画界の巨匠・城定秀夫!城定秀夫が―時折首を突つ込むにしても―十年間ピンクを離れてゐた、あるいは離れざるを得なかつた事情に関しては、市井の一観客的にはノット・マイ・ビジネス、この際堂々とさて措く。重ねて性懲りもない憎まれ口を叩くやうだが、といふか叩くが、若松孝二や―向井寛や―ロマンポルノだけでなく、必殺のデビュー作きり十年ピンクを撮らなかつた城定秀夫も、いつてしまへば半分以上シネフィルの食ひ物。城定秀夫がどれだけ映画作家として優秀であらうとも、当サイトには関根和美や新田栄の方が重要で、旦々舎の方が大好きだ。どうも松岡邦彦は今のまゝだと怪しいけれど、渡邊元嗣や友松直之の方が頼もしいし、森山茂雄や田中康文の方が楽しみである。エクセス新作は城定秀夫の報が飛び込んで来た昨年末より当然俄然興奮しつつも、城定秀夫がナンボのものかと、捻くれた心持ちも同時になくはなかつた。我ながら、何処まで歪めば気が済むのか。兎も角、東京封切りから―プリントも一本しか焼いてゐないのに―僅か三ヶ月半といふ怒涛の超速で着弾した前田有楽の敷居を、戦闘態勢で跨いだものである。正直なところ個人的な現状認識と期待としては、あれやこれやどころかあれもこれも軒並クソな御時勢につき、こゝは逆に、ではなく寧ろこの期にだからこそ、このタイミングでの城定秀夫新作ピンクに望むのは笑つて泣かせてハラハラヤキモキさせて、色々あつても最終的にはダーイダーンエーンな本格娯楽映画であつた。尤も予習段階で既に、さういふ勝手か浅墓な希望は裏切られてもゐたが、結論からいふと、ヤベえ、ブッチギレてる。正しく圧倒的な衝撃は、森山茂雄の「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/脚本:佐野和宏/主演:みづなれい)を観た時以来。現時点に於いて観たものに限る注釈つきで、ハッキリいふが2012年のピンクは全部負けてる。一幕一幕が悉く震へさせられる名場面ばかりゆゑこゝが凄い、あそこが素晴らしいと騒ぎ始めると始終を活字再映するほかない間抜けな羽目に陥りかねなくもあれ、まづ度肝を抜かれたのが、遥か昔の前作「味見したい人妻たち」(2003/主演:Kaori)に於ける主人公・道川町子と隣家のヨシコ・鮭山光男の関係を髣髴とさせる、廃工場にて麻子がタケルとアミの情事を肴に、高志には満たされぬ性欲を自ら処理する件。往復するカメラが麻子に向いた隙に、タケルとアミが体位を変へる。地味に渋い如何にも裸映画的なカットの繋ぎ、に目を剥いた訳では無論なく、兵どもが夢の跡な事後。汚れた下着を脱いだ麻子が、取り出した換へのパンティに息を呑んだ。よくよく考へると予想の範囲内であつて然るべきにせよ、一連の異常な行動が、麻子にとつては日常であつたのかと、小屋の中で最初に仰天した。ついでといつては何だが特筆したいのが、仁科百華と普通に同世代に見えるハッチャケぶりを披露する中村英児。この人活動暦からいふと十二分にオッサンの筈にしては、二尻の原チャリで廃工場の門をブチ破るイヤッホーなファースト・カットの底を抜いた若々しさは、爆発的に笑かされた。“こんな家”と繰り返し訴へるほどの地獄性の描写には、尺が尽きたか不足も色濃いものの、体も心もポンコツなヒロインが閉塞した暮らしとストレンジャーとのめくるめく束の間の果てに、終にモンスターと化す驚愕の終盤。一体如何にケリをつけたものか、町子と仁志ならぬ麻子と宮守の別れを、単なるヒャッハーな裸要員に止まらせなかつたタケルとアミに介錯させる構成が改めて超絶。こゝも望月家のヘルさ加減同様、ケンジと何時の間にか近づけた距離はさて措き、ハッピーなのかバッドそれともマッドなのだか判らないエンド。にも、三番手の存在をさりげなく絡める秀逸。完璧だ、かういふ物言ひを軽々しく使ひたいものではないが、傑出した今作を傑作と賞さずして何といはう。畳み込まれ続ける何れも鮮やかなシークエンスと、リミッターをトッ外して加速する心理のスリリング。さうであつて仕方もない三本柱のエクセスライクを、微塵も感じさせない演出の強靭。後ろに巨大かつ荒涼としたコンビナートを置いた土手を、麻美が時にホテホテ歩き、時には颯爽と駆け抜ける映画的なショット感。覚醒後はブルーカラーの宮守をも凌駕する麻子の挙動を裏支へ、地味に高い節を窺はせる七海ななの身体能力。駄目だ、些か饒舌な劇伴以外には駄目な箇所が見当たらん。おいおいおいおい、勤続の十年選手ならば兎も角、十年ぶりに帰港した黒船に全部持つてかれてていゝのかよ。セカンドバージン墜とすのはナベか、もしくは順に大蔵・新東宝そしてエクセス、メイドロイド第一作(2009)で恐らく最後の三冠を達成した友松直之か。はたまた起死回生の松岡邦彦か、百合ダスが一段落ついた旦々舎か?2013年ピンク映画の構図は、城定秀夫を倒すのは誰かで決まつたといつても、過言ではあるまい。

 付記<五十音順にエクセス・オーピー・新東宝の三冠に関しては、のちの2015年に大蔵上陸したいまおかしんじと、当の城定秀夫が達成。2020年の石川欣の場合は順ににっかつ・新東宝・オーピーの三冠となるが、この人の場合浜野佐知らと同様、更にその前にミリオンもある実は四冠となる


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 「本番夫婦性生活 ‐絡み合ひ‐」(1995/企画・製作:フィルム ハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:斉藤久晃/編集:金子尚樹 ㈲フィルムクラフト/助監督:真弓学・加藤義一/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/撮影助手:井深武石/照明助手:井上愉斗志/ヘアーメイク:木村乃里子・大塚春江/スチール:本田あきら/出演:松本香央・吉行由実・栞野ありな・リョウ・平賀勘一・杉本まこと)。
 大音量でいきなりズンチャカ鳴り始めた適当な劇伴に吃驚させられつつ、松本香央×平賀勘一と吉行由実×杉本まこと、4Pのショットに被せて秒殺のタイトル・イン。クレジットどころではなく早速画面を制する、ビリング頭二人のオッパイの破壊力が圧巻。月を一拍押さへて、野沢家の夜の営み。結婚後一年、有美(松本)は夫・伸雄(杉本)の身勝手なセックスに不満を覚え、未だいはゆる女の悦びを知らずにゐた。仕事人間の伸雄との潤ひを欠いた朝の風景噛ませて、ぼんやりと街行く有美は、元居た会社の先輩・山田美幸(吉行)と不意に再会する。歩道橋を画面右から歩く有美と左から入る美幸とを、多分次の歩道橋から奥行きのあるロングで抜く意欲的な画がカッコいい。裸映画であつても、映画は映画だ。有美は久し振りに会つた美幸に沈みがちな風情を指摘されると、伸雄との倦怠をケロッと告白。公園にて軽く話を聞いた美幸から遊びに来ることを誘はれた有美が、次のカットでは山田家の玄関口に。展開は開巻のスピードスター・新田栄をも凌駕せん憩ひで抜群に早い反面、特に物語らしい物語が依然起動してゐる訳でもない。通された居間には先客が、有里とほぼ同境遇のスミレ(栞野)は自己紹介を済ますや、“美幸さん達のグループ”に入つてよかつたと切り出す。会話の読めない有里に、美幸はサクサク仰天白状、趣味と実益を兼ねて、夫以外の男と寝てゐるといふのだ。因みに、金銭の授受の有無に関しては、後述する池田に関して客といふ言葉を使ふ点から勘繰るに、どうやらある模様。ここでこの期に気付いたのが、時代を越えられない風俗の仕業で三本柱の眉毛の何れも太いこと太いこと。とりわけ吉行由実が仕損じた福笑ひの如き、殆ど間抜けな面相に見える、今の方が数段美人だ。話を戻して、有里が当然呆気に取られてゐるところに、大手コンピューター会社プログラマーの池田(リョウ)が現れる。池田はスミレの客とのことで別室に移り女王様プレイに突入、一方美幸は有里を百合で陥落。男を紹介するといふ日曜日、仕事を家に持ち込む伸雄を尻目に出撃した有里に、美幸はテレビ局勤務の山田(平賀)を宛がふ。
 折に触れ思ひ出したかのやうに繰り返してみるが、誰も知らない内に実は大門通か勝利一がピンク映画を完成して、そのことを別に偉ぶりもせず目下沈黙を守つてゐるのではないか。と、当サイトは常々何となく注目し追ひ駆けてみたりするものである。大門通ピンク映画第二作は、さういふ覚束ない期待には必ずしも応へて呉れない。殊に濡れ場に際しての明暗の効いた画調が映画的に映える、撮影部の頑丈なプロフェッショナルの仕事にも支へられ、超絶の女優部を擁した裸映画は麗しく頂点に到達する。栞野ありなのオッパイが小ぶりに見えるのは分が悪い錯覚に過ぎず、松本香央と吉行由実のボリューム感のある爆乳もヤバいが、栞野ありなも負けてはをらずこの人は尻が抜群に美しい。とはいへ、有里には男を紹介し、有里V.S.山田戦の最中急襲し妻以外童貞を喰つた伸雄には女を紹介する、美幸が仕掛ける野沢夫婦両撃だけでは如何せん話が薄い。冒頭に繋がる、野沢家に有里と伸雄と美幸と、更には山田が揃ふクライマックス。初対面の伸雄と山田が、平然と顔を合はせる不自然を埋める努力が一切図られないのは地味に大きな疑問手で、有里に対してはそのやうな素振りを欠片も窺はせなかつた、山田の見られてゐないと興奮しない性癖は出し抜けぶりが甚だしい。裸映画としては兎も角裸の劇映画としては心許なさを残しながらも、この際さういふ野暮はさて措き、次第に有里と伸雄もアテられ猛然と併走する二つの夫婦生活。「交代しませんか」といふ山田の申し出に、伸雄がタッチのみで応へるスワップ成立も粋なのだが、少し遡る前フリ、隣の花が赤く見える平勘のカットが実に渋い。女の裸が主眼のピンク映画を地味に支へるのは、意外とさういふ男優部の小さな所作ないしは仕事でもあるやうな気がする。


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 「人妻暴行マンション」(昭和60/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:斉藤信幸/脚本:望月六郎・斉藤信幸/プロデューサー:進藤貴美男/企画:八尋哲哉/撮影:野田悌男/照明:高柳清一/録音:金沢信一/美術:和田洋/編集:鍋島惇/選曲:佐藤富士男/助監督:萩庭貞明/色彩計測:福沢正典/製作担当者:藤田義則/製作協力:フィルムシティ/出演:渡辺良子・水木薫・河原さぶ・上田耕一・金子勝美・最上美枝・九十九こずえ)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
 日活はいいけど、東宝はどうかな?アラーム音にアンギャーアンギャー鳴く、ファンシーなゴジラの目覚まし時計で開巻。先にクレジットが通過しつつ、お見合時の会話をBGM代りに共働きの白石宏一(河原)・まり子(渡辺)夫妻の朝。着替へるまり子が、ペロンと披露する豊かなオッパイが圧倒的な琴線演奏力。渡辺良子はルックスも正統派の美人顔である一方、ボリュームがへべれけな髪型と、馬鹿デカいメタルフレームの眼鏡は清々しく時代を超えられない。微妙な雰囲気の朝食経て、部屋着のまま先に宏一を送り出したまり子の、大欠伸ひとつに合はせてタイトル・イン。宏一は区役所勤務、オールドミスの佐野カナ子(水木)が、結婚する同僚に渡す祝ひの品を買ふ金を集めて回る。用件を済まし捌け際のカナ子と、宏一は他の人間には悟られぬやう目配せを交す。多分先輩格にして夜の遊びの指南役・沼田恒造(上田)に連れられ、宏一は二対二のホテトル遊び。九十九こずえが、二人と先に部屋に居るイチゴちやん。最上美枝が遅れて現れる、ブーちやんもといレモンちやん。沼田がレモンを選び宏一の相手をしたイチゴは、前立腺マッサージは兎も角、事の最初に選択制のイチゴ味かチョコ味かコーラ味のパンティを、履いたまま客に食べさせるといふ訳の判らないサービスを披露する、一体材質は何で出来てゐるのだ。
 配役残り金子勝美は多分、日の高い内から電話ボックスに二人で入りエロ電話に垂涎する沼田と宏一を、憎々しげに睨みつけるオバハンか。白石家に波紋を投げかける、泥酔したまり子を送り届けた声は真央はじめに酷似で、顔が城定秀夫にチョイ似のまり子同僚・八神役は不明。その他十人前後、そこかしこに見切れる。普請の厚さは、流石に如何とも侮り難い。
 例によつて筆憚らぬ憎まれ口を垂れてのけると、若松孝二やロマンポルノなんぞシネフィルの食ひ物だと単館は平然とスルーしながらも、小屋に来るなら話は別だ。といふ以前に、「黒い下着の女」といへば―ミリオンの北沢幸雄(昭和60)は知らんが―瀬々の雷魚(1997)よりも、アメリカン・ニューシネマの魂を継承した斉藤信幸版だろ!と、思はず机を叩きたくなるくらゐ元祖「黒い下着の女」(昭和57)が大好きにつき、素直に胸躍らせ地元駅前ロマンの敷居を跨いだものである。してみたところ、イチゴちやんと一戦交へた宏一、よりも更に帰りの遅いまり子はさつさと寝てしまつた夜。素人目には構成を完全に破壊するひたすら長い二人の馴れ初めを皮切りに、幾ら濡れ場込みともいへ、不安にさせられるほど長尺を消費する回想と、現在時制も現在時制でランダムなシャッフル。意図的に迷走する展開に、まり子の髪型や眼鏡と同じくとうに消費期限の切れた当時の流行りなのか、奥歯に物を挟んだ遣り取りに終始するよくいつてもアンニュイとでもしか評しやうのない、端的に片付けると生煮えた行間ばかりのシークエンスが火に油を注ぐ。メリハリと緊張感とを欠いた始終の果てに、オーラスの発火点も、終に湿気てしまつた疲労感が強い。リアルタイムではこの手の映画がお洒落であつたりとかしたのかも知れないが、この期に35mm主砲の威力にも頼れぬプロジェク太映写下で観る分には、相当生温かく古臭い一作である。


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 「痴漢まん淫電車 エッチな匂ひ」(1997/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:鈴木一博・岡宮裕/照明:上妻敏厚・荻久保則男/編集:酒井正次/音楽:中空龍/監督助手:国沢実/助監督:横井有紀/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:川内梨帆・田口あゆみ・悠木あずみ・久須美欽一・中村和彦・柳東史)。前に置くのはいいとして、横井有紀が助監督で国沢実が監督助手といふのは、明らかに―国沢実の―肩書を間違へてはゐまいか。照明セカンドの荻久保則男は、まんたのりおと同一人物。
 エロ劇画の表紙のやうなフォントのタイトルからイン、電車が左下から右上へと斜めにフレームを通過する。詐欺師修行中の画面手前から弘太(中村)と晋平(柳)が、並んで吊革に揺られる。タッパのある中村和彦と意外に小柄な柳東史との、身長差が凄まじい、遠近法が狂つて見える。右隣に川内梨帆に割り込んで来られた弘太は、体を移し晋平と挟撃する形で電車痴漢スタート。兄貴分の中村和彦に促された格好の柳東史が、一旦は逡巡してみせるカットが早くも絶品。晋平に乳も揉まれる川内梨帆の表情に、晋平は心を奪はれる。降車後、急に立ち止まる中村和彦に、衝突したオバハンが軽くキレるのを撮り直しもしない雑踏。師匠のところに顔を出さないといけないのに、億劫がる弘太はパチンコに行つてしまひ、晋平は一人で劇中“事務所”と称される、師匠・呉市(久須美)の自宅―無論旦々舎―に向かふ。弘太いはく古過ぎて地味だといふ呉市の手口は、何の意味もないガラクタを、底の抜けた効能を謳ひ馬鹿に手頃な高値で売りつけるといふ子供騙し。事前にはイエローキッド・ウェイルの「俺は、真人間を騙したことはない」、「騙したのは、悪党だけだ」なる発言も引き晋平に説教しておいて、随分チンケな小悪党ではある。ともあれポスティングに走る中、再び電車で川内梨帆と再会した晋平は再戦がてら尾行。川内梨帆が勤めるらしき「BAR 山美果」の敷居を跨いだ晋平を、由香(川内)とママの公恵(田口)が迎へる。因みに山美果の、読みはヤマビカ。どうやら現存しない模様だが、アンダーグラウンドな香りのする店であつたやうだ。
 公恵がサクサク開陳する山美果驚愕のシステムは、一万円以上飲むと由香と店外デートが出来るといふ、そこだけ切り取れば良心的かも知れないもの。何だかんだで事後、腹の上に出した自分の精液に、晋平は三百万の成功報酬で釣り三万円の登録料を集める、精子バンク詐欺を閃く。吃驚するくらゐスムーズに本筋に加はる悠木あずみは、一人五千円のギャラで弘太が精液を尺八で採取する係に連れて来た、風俗嬢・克子。
 小多魔若史先生―この頃はもう山本さむ―が出てればいいなと選んだ、山邦紀1997年全六作中第三作痴漢電車、薔薇族入れると七の三。売春紛ひの接客を強ひられる惚れた女を救ひ出す為に、新米詐欺師が仕掛けた大勝負。若き柳東史が―ヤることはヤリつつも―純情青年を清々しく好演し、川内梨帆は首から上とお芝居は心許ないながら、ほどよくムッチムチな肢体の訴求力は頗る高い。新米詐欺師の大勝負は勝負本体のみならず、発案する件から濡れ場に直結、ピンク映画であることを十全に踏まへた上で、なほかつ綺麗な綺麗な娯楽映画。覚束ない主演女優を、妖艶な田口あゆみと隠れた名女優・悠木あずみが頑丈にサポートする女優部、久須美欽一をドッシリ構へた扇の要に、柳東史と中村和彦がやさぐれた青春を快活に駆け抜ける男優部。役者も陣形も実に素晴らしい、ストレートに眩しくて眩しくて仕方のない一作。精子バンクが思ひのほか当たり、晋平は喜び勇んで由香の下へ。一方、弘太と克子はイイ雰囲気に。克子の方から「する?」、「いいの!?」、「オッケーよ」の三言(みこと)で火蓋を切る、悠木あずみと中村和彦の絡みの導入などもスマートでスマートで堪らない。とはいへ、主に唯一ともう一つ残る問題が、晋平・ミーツ・由香の道具立て乃至は舞台として使はれる以外には、痴漢電車が展開上全く機能しない不徹底あるいは不誠実と、何時まで経つても田口あゆみが脱がない点、先に解決されるのは後者。既に尺も最終盤に突入した結構際どいタイミング、最小限に投げた伏線頼りに、久須美欽一と田口あゆみ貫禄の大芝居と、それに応へるべくアクセルを目一杯踏み込んだ演出が加速した上で捻じ込む、出し抜けにせよ何にせよ胸一杯のエモーションが圧巻。山邦紀の告発電話を機に、晋平の初陣は水泡に帰す。ここでも柳東史の、「逃げろ!」のシャウトが爽やかに弾ける。観客をも騙さうとしたのか確かに意外な真相は、流石に幾ら何でもこれは為にする嘘だらうと呆れかけたところで、そこから無理矢理始終を痴漢電車に収束させる―克子に痴漢する方に国沢実登場―力技には驚くのと同時に拍手喝采した。その場に弘太は参加する反面晋平の不在は画竜点睛を欠いたともいひ得るものの、本当に最後の最後で痴漢電車が痴漢電車であることを忘れた訳では決してなかつた、さうなるともう心憎いばかりの名作痴漢電車である。

 要は、最終的に痴漢要素は薄めの次第につき、小多魔砲は不発。それとオーラスの電車痴漢シークエンス、パンティ越しに二人の女の秘裂に這ふ指は、横着したのか演技力を問ふたものか、何れも中村和彦である。


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 「痴漢電車 奥までたつぷり」(1999/製作:T・M・Project/提供:Xces Film/監督・脚本:松岡誠/企画:稲山悌二/原案:山﨑邦紀/撮影:清水正二/撮影助手:岡宮裕・岡部雄二/撮影応援:佐久間栄一/録音:石井ますみ/効果:東洋音響カモメ/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/助監督:横井有紀・佐藤吏・田中康文/ヘアメイク:3041/スチール:岡崎一隆/現場スチール:石塚洋史/撮影機材:日本映機/照明機材:アスカ・ロケリース/特機:NK特機/現像:東映化学/フィルム:愛光/タイトル:道川昭/協力:株式会社旦々舎・日活撮影所・セメントマッチ・葉月螢・吉行由実・坂本好恵・細谷隆広《アルゴピクチャーズ》・中本憲政・榎本敏郎・久万真路・My Friends/出演:秋元志乃・林由美香・佐々木基子・麻生みゅう・寺十吾・木立隆雅・柳東史・荒木太郎)。
 歯を磨き、デカいヘッドフォンをつけ出勤する寺十吾の脇を、カウンター気味に電車がプアンと駆け抜けタイトル・イン。混み合ふ電車の車中、通り過ぎるが小沢仁志(寺十)は、ブレザーの制服の女子高生・由良満ちる(麻生)に不自然なほど正対して密着。SEと共に実車輌からセット移行、満ちるを裸にヒン剥いた小沢はネクタイにピンマイクを取付け、喘ぎ声を心から楽しむ。もう一度SEで実車輌復帰、小沢は別の女の喘ぎ声に耳と心を奪はれる。音的にはローターに聞こえるものの、遠隔バイブを装着させられた秋元志乃と、小さくした鉄人の操縦桿のやうな、結構本格的なリモコンを操る木立隆雅。満ちるから体を移し再密着した小沢に、自ら身を寄せた秋元志乃は何事か一言残し、呆然と立ち尽くす小沢はフラッシュバックで、髪留めをつけた女の後頭部の幻想を見る。地方民には特定不能な何処そこ大学、篠塚和夫(木立)の研究室にて、女子大生の梶雪子(秋元)が改めて嬲られる。模様も、盗聴してゐた小沢はいよいよ慌てて出社。遅刻した小沢に、同僚の佐々木華子(林)は不可思議な距離の近さで温かく接する。
 配役残り柳東史は、篠塚の前とは鮮やかに対照的に、“ポチ”呼ばはりで雪子女王様から結構苛烈に責められる奴隷男。佐々木基子は、この人も篠塚と関係を持つ、大学あるいは大学病院関係者・久保葉子。対葉子戦に際して、篠塚は容赦ないフィスト・ファックを繰り出す。荒木太郎は、後述する併走要員。
 豪華な協力体制に祝福のほどが窺へる、旦々舎を主に多呂プロ等でも助監督を務めて来た松岡誠のデビュー作。とりあへず、久万真路の名前があることに軽くビビる。m@stervision大哥は、松岡誠が「痴漢ハレンチ学園 制服娘の本気汁」(2001/主演:西尾直子)の上田吾六と同一人物だと仰つておいでだが、他のソースがどうにも見当たらない。あ、でも、製作がどちらもTMか。それは一旦さて措き、痴漢マニアではなく女の声により重きを置く盗聴マニア、を主人公に据ゑた意欲的な趣向は話としては酌めるものの、あれこれ頂けない。兎にも角にも、シークエンスを上手く構成し得なかつたのか初めから頓着なかつたのか、痴漢される女の声を引き出すなり辿り着くに当たつて、小沢が自分で満ちるにガンガン痴漢してゐるのは大概間抜けではないのか。これでは単なる、デカいヘッドフォンをつけただけの目立つ痴漢に過ぎまい。繰り返し、藪から棒にもしくは木に竹すら接ぎ損なひ挿入され続ける髪留めのイメージも、小沢にとつて髪留めが如何なる意味を持つてゐるのか痒いところに手が届かないどころか、縛られてゐさへするかのやうに清々しく遠く語られない以前に、そもそも当初は、それが髪留めなのか女の後頭部のイメージなのか判然としかねる始末。センシティブに屈折した小沢単体の造形は魅力的な反面、主演女優は案の定エクセスライク―重ねて口跡にクセのある、葉月螢にアテレコさせるのは些か如何なものか―で、疎かにしない女の裸に尺を割いてゐたりもする内に、可哀相な被害者を―勝手に―僕が助けてあげると、ナイト気取りでしやしやり出た小沢が予想外のヒロインの毒婦ぶりに吠え面をかく。頓珍漢なドン・キホーテ物語といふ塩梅の本筋は、終に心許ないじまひ。ところが、側面から飛び込んではノーガードのエモーションを叩き込んで行くのが三番手を佐々木基子に任せ一歩前に出た、ピンク映画史上最強の五番打者・林由美香。妙な勢ひで小沢に据膳をよそひ続ける華子が、木にプラチナを接ぎ大輪の月見草を咲き誇らせる。事実上雪子に撃墜された格好の小沢は、その期に及んで漸く、あるいは調子よく華子をドライブに誘ふ。停めた車中、小沢が盗聴器の電源を入れると、雪子と荒木太郎の情事の音声が。ここで困惑気味の華子の表情から既に超絶な上に、NK特機起動。何時しか降り頻る雨の中、自ら小沢に身を任せる華子が、決定力のある嘘を撃ち抜く。雪子の真の姿を知り動揺する小沢に対し、「大丈夫よ、貴方には、私がついてゐてあげる」、「ずつと貴方が好きだつたの」、「最初に会つた時から」、「貴方をもつと知りたい」、「ホントよ、信じて」、「こんな女の子のことは忘れて」、「私は誰よりも貴方を愛する」、「だから、こんなことも出来る」、「忘れさせてあげる」。しかも別の女に心を乱す、盗聴マニアのオタク野郎に斯くも真正面から突つ込んで来て呉れる女など居るものか。机の抽斗からドラゑもんが操縦するガンダムが金色の竜に跨り飛び出して来るが如き、ファンタジーにしても底の抜けきつた大嘘を、些かも臆することなく林由美香が渾身で撃ち抜き、撃ち抜かれた、俺は。残りは全部飛んでてもいい、この雨中の車中の一幕の完全一点突破で、それだけで今作は永遠だ。

 因みに、にも関らずなラスト・シーンはコートを脱ぐと裸の雪子に、小沢が喰はれる逆痴漢電車。丸々一車輌を人払ひし占拠した無茶に加へ、本濡れ場を敢行したラスト・ショットを外から抜いてみせるブレイブは天晴。


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 「女囚701号 さそり外伝 第41雑居房」(2012/製作:株式会社竹書房・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督・脚本:藤原健一/原作:篠原とおる『さそり』《小池書院》/企画:加藤威史・衣川仲人/プロデューサー:福原彰・一力健鬼/撮影・照明:田宮健彦/録音:高島良太/音楽:與語一平/衣裳協力:野村明子/ヘアメイク:ユーケファ/特殊メイク:征矢杏子/ガンエフェクト:近藤佳徳/スチール:中居挙子/編集:石井塁/CG:A&N T2 愛宕敏行・新里猛作/助監督:冨田大策・内田直之・山田勝彦/撮影助手:河戸浩一郎/メイク助手:渡辺涼心/制作:田中尚仁・伊藤雅仁/演出応援:加藤学/制作応援:松林淳・浅木大/ロケ協力:小山町フィルムコミッション支援室/制作協力:ANGLE/出演:葵つかさ・川淵かおり・篠原杏・倖田李梨・青山葵・晃田佳子・若林立夫・佐藤良洋・佐藤日出夫・塚越甲斐・波田野実・伊藤雅仁・大江直美・玉野悦子・久田真美子・渡辺利江・田中尚仁・松林慎司・清水大敬・川瀬陽太)。出演者中、塚越甲斐から渡辺利江までは本篇クレジットのみ。
 新宿の裏通り、ヤクをスカジャンの巨漢(不明)と売買する川瀬陽太と、脱走した女囚701号、通称“さそり”こと松島ナミ(葵)。ナミを追ふ刑務所所長・神崎(清水)―各種資料には神田とあるが、前外伝の正統な続篇である以上、神崎ではないのか―に刑務官の沖崎(若林)、更にはやんごとなき筋から遣はされた女ハンター(笑)の鬼頭京子(川淵)が交錯する。出刃を抱へ潜むナミを川瀬陽太は一旦見逃しつつ、ナミと神埼・沖崎が開戦。甚だトッ散らかつたカット割りで、ナミは神崎の左目を潰しなほ逃亡。今度は銃を持つた鬼頭に追ひ詰められるも、川瀬陽太が投げた空缶のアシストを受け、手錠で繋がれた鬼頭の左手を前腕部中程で切り落としその場を離脱する。正確には離脱する前に、川瀬陽太と目が合つたナミのストップ・モーションにタイトル・イン。墓地にて、手錠の鎖を石打ち破壊しようと悪戦苦闘するナミに、借金持ちの運び屋・村尾大輔(川瀬)が改めて接触、手慣れたピッキングで鍵を外してあげる。村尾のスナック「ダリア」に転がり込んだナミは、虐げられし者への優しさを滲ませる村尾と忽ち男女の中に。一方、御馴染み非人道的な女囚刑務所。何故か左袖を丸々ブラブラさせる鬼頭に頭ごなしに押さへつけられた神埼と沖崎は苦汁を舐め、第41雑居房では、どうも造形的に美雪とは別人ぽい瀬戸(倖田)、友咲ナミと同じお歯黒ポジションの尾根(晃田)、メガネと関西弁がセクシーな大塚(青山)。そしてナミに同性愛的な思慕を募らせると思しき―百合描写はなし―木田由紀(篠原)が、さそりの強制帰還を待ち構へてゐた。村尾を動かすヤクザ・佐川(江藤保徳を太らせたやうな佐藤日出夫)の顔見せ挿んで、距離を深めたナミに村尾は、南の海での全てをリセットした生活に誘ふ。村尾が再び新宿まで銃を運びに足を伸ばす中、ナミがカウンターに入るダリアに来店した佐川は素直に下心を起動し、何時の間にかさそりの潜伏先を掴んだ鬼頭も、ダリアを目指す。
 抜群の発声を披露した上でのイイ死に様を披露する佐藤良洋は、常識的な刑務官・山森。残りの配役はダリアで燻るアンチャン客とダリアを目指す鬼頭の連れに、女囚・看守要員。松林慎司と田中尚仁は、前作のバンクかも。
 さそりの、将来の首相候補のドラ息子を殺害した咎が挿入込みで語られることから、色々暗黒な第一作「女囚701号 さそり外伝」(2011/主演:明日花キララ)とダイレクトに連続した外伝第二弾。新東宝のお盆映画が、年を跨いだ黄金週間にやつて来たものである。何故か、従来新東宝新作が県内最速の地元駅前ロマンは、依然沈黙を続けてゐる。それはさて措き、ナミが大幅に幼くなつた点に関しては、葵つかさの“シリーズ最年少ヒロイン”はポスターにも謳はれる売りであるゆゑ、等閑視するべきだ。前作は商業映画がこんなにも見えないものかと、驚かされるほどの漆黒に塗り潰された画面に頭を抱へたが、今作、もとい今回の衝撃は、画期的なまでに派手にワープするプリント。具体的にいふと、ダリアを目指す鬼頭に続いて、いよいよナミに手を出さうとする佐川、の次のカットがいきなり神崎で、鬼頭は上級刑務官(?)として女囚刑務所に凱旋、ナミも既にトッ捕まつてゐる。終盤回想されなくもないとはいへ、鬼頭が村尾を虐殺し、その罪をナミに着せる件が丸々飛んでゐる。殺害前の村尾の足下に転がるシート包みの中身と思しき、佐川を始末したのが誰なのかも最早前田有楽で観た我々には判らない。現に、七十分ある筈の元尺に対し、上映時間も五分前後短い。小屋で戦ふ以上、時にはどうしやうもない厄災につき話を先に進めると、スタイリッシュに都会の闇に沈んだ川瀬陽太がカッコいゝ前半と、義手の仕込みブレードなどといふ頓珍漢なギミックまで繰り出し、ダイアン・ソーンの御存知イルザばりの底抜け衣装を着せられた川淵かおりが腰の据わらないアクション演出で大暴れする、死屍累々闇雲スラッシュな後半。二本の全く別の映画を無理矢理直結したかの如きへべれけな構成が、確かにといふか別の意味でといふか、兎も角兎に角“外伝”感は漂はせる。そもそもが、素材的には元気系の本来快活な美少女なのではないかと思はせる、葵つかさが清々しくさそりらしからぬ直截にいふならばミス・キャストも、否応なく外伝臭を加速。再見して辿り着いた最大の難点は、瀬戸に磔にされ嬲られるナミが見せる、完全に受けの表情。如何なる状況にあつても不屈のプロテスト・ヒロイン、それがさそりなのではなかつたか、これは藤原健一の明確な演出上のミスであるやうに思へる。逆に、ビリング順に篠原杏・倖田李梨・青山葵らは尺的にすら主演女優を喰はんばかりの活躍を見せるのもあり、結局誰が主役なのだか実質的にはよく判らない仕上がりであるものの、無印外伝よりはまだマシといふ以上には何となく纏まつてゐなくもない辺りがある意味藤原健一らしいのか、何とも掴み処のない一作ではある。

 付記< 今日から二週間、漸く駅前ロマンに着弾する(2013/7/19)
 再付記< CG部セカンドに、新里猛作の名前があつた


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 「乱交白衣 暴淫くはへ責め」(2012/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/原題:『白雪姫と5匹の子ブタ』/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:金沢勇大/準備:田中康文、他一名/協力:上野オークラ劇場/タイミング:安斎公一/出演:愛田奈々・浅井舞香・星野ゆず・津田篤・久保田泰也・太田始・小林節彦・稲葉良子・長谷川健一・しゃんぷう・西村晋也・小谷香織・小沢さん・今泉浩一・野村貴浩・那波隆史・牧村耕次)。超高速クレジットに振り切られる、F1パイロットでもないと無理だ。
 3.11後の世界、野戦病院の如き医療現場を一時離脱した白衣の天使・安本アデル(愛田)は、処女を捧げた外科医・関村南(野村)の下に向かふ。ところが関村は情婦・班目詩子(浅井)と情事の真最中で、挙句に呆然と立ち尽くすアデルは、関村と詩子二人がかりで嬲られる。一方、医学的には十分可能であるにも関らず、月々の事故補償金を漫然と受給しながら社会復帰への意欲を窺はせない者を、一軒家に隔離したZ病棟。泥棒の汚名すら浴びZ病棟に暮らすのは、元農家の高木勘三郎(牧村)、元ケーキ職人の山茂太一(那波)。元画家の武田透(久保田)と元コックの小出裕秋(津田)に、元々無職の後藤(野村貴浩の二役)。生きる意思を失つた五人は、唯一自分達にも温かく接して呉れるアデルを皆で犯し、最終的には心中を決意する。ある日Z病棟に向かつたアデルは、死に装束の黒い服装で固めた五人に襲はれると、関本に胸を痛めてゐたこともあり、捨て鉢に体を開く。白衣の天使と乱交しつつ、何時しかアデル含め何故か全員前向きに改悛。半年後の同じ日にZ病棟に開店する―急遽予定の―五人の店「白雪姫と5匹の子ブタ」での再会を約し、互ひに希望に満ちて別れる。
 配役残り大体登場順に荒木太郎は、Z病棟の面々を悪し様に罵る小役人、憎まれ役を自ら引き受ける。荒木太郎の連れの推定病院関係者は、長谷川健一か西村晋也。泡沫芸人のしゃんぷう―とりんす―は野戦通常病棟の元気な患者。小谷香織と小沢さんは、小沢さんは性別から不明。完全に関本に捨てられたアデルは、記憶を喪失し放浪する。多分前作には出てないぽい、前々々作「美熟女の昼下がり ~もつと、みだらに~」以来のピンク再帰還を果たす、さうなると吉行組にも顔を出して欲しい今泉浩一は、太田始とアデルを陵辱する労務者。小林節彦はラスト一つ前の名画座―場内は上野オークラ劇場旧館―にて、矢張りアデルを輪姦する男達の主格。そこでアデルを保護する名画座のおばあが、サイケデリックな扮装の稲葉良子。散らかり倒した一篇にあつて、初めて荒木太郎映画に馴染む。
 話題作らしいが、自身の第三作込みで十二本飛び越した上で黄金週間の前田有楽劇場に飛び込んで来た、正月映画には二足早い荒木太郎2012年最終第四作。これが確かに話題作といふか何といふか、兎に角凄い一作。ピンク映画初陣の三番手を、山茂を篭絡する本筋から乖離しない形とはいへ、尺もぼちぼち最終盤に差しかゝらうとするタイミングでしかも恐ろしく束の間に無理から捻じ込む。当代の若手アイドルを捕まへて、大概ぞんざいな起用法はピンク映画的には苦心の跡も窺へ微笑ましくなくもないが、凄いのは然様な枝葉に関する事柄では勿論ない。展開以前に繋ぎからガッチャガチャで、状況を撃つ撃ち損じるどころか、そもそも素面の劇映画として限りなく完全に近くほぼ木端微塵。それでゐて、白雪姫と5匹の子ブタが揃ふと、妙な質量のエモーションを藪から棒に叩き込んで来る。しかも荒木太郎平素の線の細いリリシズムとは明らかに次元の異なる、骨の太い映画的興奮を出し抜けに放り込んで来る。荒木太郎がどういふ心持ちで、あるいは何処まで本気で3.11と向き合つたつもりなのかは、5匹の子ブタの蔑まれぶりや高木が漏らす天皇崇拝に躓くまでもなく、今作からは全く辿り着き得まい。愛田奈々の偉大な肉体がもたらした奇跡か、苦し紛れにメガホンを振り回した荒木太郎の紛れ当たりが、偶々フルスイングしてゐたものだから球が遠くまで飛んだのか。訳が判らない以上兎も角とでもしかいひやうがないが、兎にも角にも力強い大怪作にして痛快作。湧き上がるサムシングは、正体不明でも何でも正しき結果に違ひない。前方向かそれとも明後日か、ベクトルなんて気にするな。


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 「三十路義母 背徳のしたたり」(2012/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:エバラマチコ/撮影監督:坂元啓二/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:奥村裕介/音楽:與語一平/監督助手:山城達郎/撮影助手:大内泰・藤田朋則/スチール:阿部真也/現像:東映ラボ・テック/協力:小松公典・L.S.C/出演:結城みさ・宮村恋・姫野ゆうり・藤本栄孝・小林節彦・岩谷健司・倖田李梨・牧村耕次)。
 タイトル開巻、配慮を欠いた旦那の意向で居間にて執り行ふ、初老の三枝達郎(小林)と、よくいふ“親子ほど年の離れた”といふのが、現に息子の二つ年上の後妻・季実(結城)との、再婚―季実は初婚だが―三ヶ月となるとそれはまだまだホヤホヤな夫婦生活。達郎のイケメンではあれコミュ障気味の息子・健吾(藤本)が、その様子を覗く。話としては健吾の気持ちも判らぬではないが、単純な色男といふよりは精悍な男前の藤本栄孝が、ナイーブな役所に若干フィットしない。達郎の前妻は二十年前に男を作り出て行つた三枝家には、目下若い義母に加へ季実の幼馴染で夫婦喧嘩中の土屋かおり(宮村)も転がり込み、思春期のやうな健吾の焦燥に火に油を注ぐ。達郎の存在を気にかけ、季実はかおりの敷居の低目な態度に苦言を呈するが、かおりは「それはアンタ達だつて同じだろ」と秘かに毒づく。全く以て、正論でしかない。
 常態化して来たこの際、エクセスライクといはず事実上オーピーライクといふべきなのか、主演女優と同じくピンク映画初参戦の姫野ゆうりは、公園飯の健吾に気軽に接する、一般職の同僚・春日まひろ。意外といつては失礼だがなかなか達者な芝居勘を誇りつつ、またこの人は―本当に―豪快に詰め込んだな。それと中指を二本の間に入れず上から添へるだけの、正しくない割には器用な箸の使ひ方をする。岩谷健司は、達郎ほどではないにせよ矢張り結構年の離れたかおりの尻に敷かれる、稼ぎの少ないらしい夫・幸男。倖田李梨は―健吾V.S.かおり戦が追走する―年甲斐のない事の最中に腰をヤッた、達郎が入院する病院の看護婦と、後々紙袋一杯のグレープフルーツを抱へて再登場。そして牧村耕次が、辛かつたり甘かつたりするまひろのお弁当の作り主・西島新太。
 ここに来て八幡の前田有楽劇場も小倉の名画座も、オーピー新作が滅茶苦茶な順番で飛び込んで来るのが逆に気懸りな、有楽に多分来月来る第四作を飛ばした竹洞哲也2012年最速第五作。もしかすると脚本料を渋つてゐるのか、昨今多く見られるこの期に及んでの素人もとい新人脚本家の起用も、竹洞哲也にとつては小松公典以外と組むのは初体験となるトピックも、協力に大き目の号数で名前を連ねる以上、小松公典の息が相当にかゝつてゐるであらうことは容易に予想され、ここでは怠惰にさて措く。映画自体に話を戻すと、定番の義母ものとはいへ腰から下をギボギボ滾らせるといふよりは、これは竹洞哲也の資質なのかそれともこれがエバラマチコの色なのか、首から上でウジウジした印象が強い。いつそ派手にブッ壊れて呉れた方が可愛げなりツッコミ処もあるものを、さういふ訳でもなく全般的には中の下辺りでパッとしない一作。唯一光るのは、大概な強引さともいへ三番手の濡れ場を、男主人公の抱へる家庭の事情に正面から直撃させたダイナミックな力技。尤もそれは、裸映画としての女の裸の消化法に関する秀逸さに過ぎず、物語本体の進行なり深化には殆ど関らない。当人以外の誰しもが躓くのも最早当然でしかない、そもそもヒロインの非常識な我儘に端を発した問題は幼馴染二人が時間差で妊娠した以外には何ら変化せず、未完性さを色濃く窺はせる健吾も、清々しくほぼ微動だに進歩してはゐない。初陣はだから未だ関門海峡を渡つてゐない以上未見の、宮村恋が小気味いいじやじや馬ぶりを披露し、姫野ゆうりも案外地に足を着けた不思議ちやんを予想外に定着させ得る反面、結城みさが最も心許ないパワー・バランスの他愛なさ、ではなく。寧ろこの際問ふべきは、さういふある意味想定じて然るべき逆風に、そのまま物語を曝した無策であるのかも知れない。ラストで季実の頬を綻ばせる健吾の何気ない一言は、流石に何気なさ過ぎる。小屋は訓練されたシネフィルの詰めかけるフィルム・センターなどとは違ひ、ピンク映画の観客は然程銀幕に集中などしてゐない。あるいは、然様な者供をも頑丈に惹きつけるだけの、それまでを展開した上でにして呉れまいか。まひろと西島に話を遡らせると、とりあへずエバラマチコの爪の垢を、煎じて三上紗恵子に飲ませたいといふのは、意図的に筆を滑らせた蛇足である。


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