真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「絶頂スクープ 生出しレポート」(2004『女子アナ秘局攻め』の2007年旧作改題版/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:創優和/照明:野田友行/音楽:レインボーサウンド/助監督:伊藤一平/撮影助手:原伸也・吉田雄三/監督助手:貝原クリス亮、他一名/出演:笹矢ちな・酒井あずさ・風間今日子・岡田智宏・丘尚輝・石川雄也・松浦祐也・柳東史・松田正信、他一名)。出演者中、ポスターに名前の記載のあるのは柳東史まで。
 奇癖を持つ視聴者を訪問するといふ深夜番組の1コーナー、ANL局―要はデビュー作や、この辺と同じネタ―の新人女子アナ・桜沢舞子(笹矢)が今回向かつたのは、その感触と匿名性こそが醍醐味と熱弁を振るふ全身タイツフェチ男(松浦祐也/どうもアフレコは本人ではないやうに聞こえる)の自宅。勧められるまま自らも全身タイツに身を包んだ舞子は思はず感じてしまひ、濡れ過ぎをディレクターにたしなめられたところでテンポ良くタイトル・イン。
 二人並んで局内を肩で風切り歩く酒井あずさと風間今日子は、舞子憧れの的の先輩アナ・新堂貴子と、貴子からは二期後輩の巨乳アナ・小田桐真美。岡田智宏は舞子の恋人で、ジャーナリストとしての志を若く燃やす報道局の新人記者・高杉虎鉄。絵に描いたやうなギョーカイ人ぶりを好演する丘尚輝は、プロデューサーの若林辰夫、好色で功利的なキャラクターがハマリ役。若林と不倫関係にある真美は御自慢の巨乳を駆使した肉弾工作で、貴子を押し退けアンカーウーマンの座を狙ふ。偶然その現場を目撃した、貴子は怒りに震へる。明くる日、舞子は高杉から借りて来たカメラを屋上にセットすると、その前でアナウンスの練習を始める。そこに貴子と、呼び出された真美とが現れる。ただならぬ雰囲気に舞子がひとまづ身を隠すと、貴子が真美に詰め寄り、二人は取つ組み合ひのキャット・ファイトに雪崩れ込む。すると弾みで貴子は真美を突き落とし、真美は転落死する。貴子に見付かつてしまつた舞子は、口止めを条件に貴子の口添へでの朝ワイドのレギュラーを持ちかけられる。舞子のドジながら好感の持てるキャラクターは視聴者の人気を博し、舞子は徐々に夢見た花形女子アナへの階段を上り始める。貴子&真美初登場時と同構図で局内を闊歩する貴子と舞子、高杉がそんな恋人の姿に偶さか距離を感じるカットは、変化の描き方として実に手堅い。一方、高杉は一年越しの執念の取材で遂にモノにしたスクープ映像を舞子に託すが、スクープは貴子に奪はれてしまふ。業界の体質に激昂した高杉はANL局を退職し、郷里のケーブル局に再就職する。
 語義矛盾じみても来るが、あくまでネイティブによるカタコト日本語と、最早逆に潔くすらある全身黒塗りとでキューバ人を強弁すると称した石川雄也は、舞子がインタビューする野球のホーリー選手。よせばいいのに収録後舞子にちよつかいを出し、濡れ場も展開する。ここの舞子の対ホーリー選手戦と、再び全身タイツも持ち出しての対若林戦は舞子のキャラクター設定としては、なかつた方が良かつたのかも知れない。後の展開も踏まへると、少々汚れ過ぎだ。確かに、笹矢ちなの濡れ場がひとつでも余計に見られるに越したこともないこともないのだが。柳東史は、特に濡れ場の恩恵に与ることもないアナウンサー。
 かつては憧れた、華やかさの薄皮一枚下では虚飾にまみれた世界から、半ば社会的にはドロップアウトしつつも、主人公が自分にとつて本当に大切なものを取り戻す。といふ展開は定番とはいへ今作の場合少々作り物臭くもあるが、最終的には主演の笹矢ちなの、瑞々しく輝く魅力に全て救はれる。これが新田栄監督作であつたならば、吃驚ついでにうつかり大絶賛してしまひかねないところでもありながら、加藤義一にこの水準の出来栄えで一々騒ぐこともあるまい、などといふのは少々酷であらうか。物語の鍵を握るテープの登場具合や、クライマックス舞子の衝撃的な告発を、番組は夕方の筈にしては、些か暗過ぎる部屋で固唾を呑んで見詰める松浦祐也の短いショット。細かなところでは加藤義一持ち前の技術的な論理性が冴えてゐるが、物語のスケールが一般的に大きな分、一般的ではない全体的な普請の安さは逃げ場なく災ひもする。余計な瑣末をツッコムと、ああいふスキャンダラスな跡の濁し方でキー局を後にした舞子が、地方のケーブル局とはいへ、矢張り女子アナウンサーに新天地を求めるといふのは、些か現実的ではないやうにも思へる。

 台詞も与へられず黙つて座つてゐるだけの松田正信は、ポジショニングから類推するにディレクターか。もう一人出演者としてクレジットされる田山某がどの人を指すのかは判らないが、局内スタッフとして撮影スタッフ勢も多数見切れる。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「団地妻セックスバトル 不倫とスワップ」(2004『夫婦交換《スワップ》前夜 ~私の妻とあなたの奥さん~』の2008年旧作改題版/制作:セメントマッチ・光の帝国/配給:新東宝映画/脚本・監督:後藤大輔/企画:福俵満/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:飯岡聖英/音楽:野島健太郎/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:堀禎一/演出助手:菅沼隆・森角威之/撮影助手:田宮健彦・田村覚/スチール:山本千里/タイミング:安斎公一/現像:東映ラボ・テック/協力:佐藤吏・茂木孝幸・㈱コアマガジン/出演:夏目今日子・境賢一・林田ちなみ・本多菊次朗・枝瑠・杉田浩子・宍戸宏江・片桐隆弘)。出演者中、杉田浩子以降は本篇クレジットのみ。夏目今日子は今作がピンクデビュー作で、旧版ポスターに於いては“(新人)”と、その旨特記される。
 劇団民藝所属の境賢一による朗読、「僕達の家庭は、一つの愛を育む」、「いや、家庭が僕達に愛の本質をもたらすのだ」。挫いたのか、足を引き摺るピン・ヒールの女の足元のアップ。タイトル・インに続くのは、堂々とした画質のビデオ画面。ピンク映画監督の加藤伸輔(境)は、同じ団地に住む主婦の宍戸かなえ(林田)と不倫関係にあつた。映画監督とはいへ仕事はしてゐるのかゐないのか、伸輔は靴屋で働く妻・時雨(夏目)の稼ぎで食ひながら、半ば主夫のやうな生活を送つてゐた。けふは昼間から伸輔がかなえとの露出プレイを収めたホームビデオでマスを掻いてゐたところに、足を怪我した時雨が不意に早く帰宅して来る。夫の自慰を揶揄する時雨は伸輔とは、長くレスの状態にあつた。
 改めて確認しておくと、ピンク映画監督の加藤伸輔と時雨の夫婦が登場する物語としては、「妻たちの絶頂 いきまくり」(2006/伸輔と時雨:吉岡睦雄と千川彩菜)に遡る一作である。演者がまるで違ふのもあり、伸輔と時雨の人物造形は表面的には大きく異なるが、時雨とは長く夫婦生活を持たない伸輔が余所に女を作ることと、時雨が過去に伸輔の子を妊娠した際に、卵管の病気が発覚するといふ点は共通してゐる。
 かなえが伸輔には無断で投稿したプレイ写真が、『ニャン2倶楽部』誌に採用され掲載されてしまふ。『ニャン2倶楽部』が劇中にそのまんま登場するのでええんかいなと思つてゐたところ、協力として㈱コアマガジン社がクレジットされてゐる、正当に話を通したやうだ。その『ニャン2倶楽部』を立ち読みした、かなえの夫・宍戸敦夫(本多)は俄かに興奮する。目線が入つてゐるとはいへ、特徴ある外見から伸輔を見抜いた宍戸は、こちらは何故かプレイ写真を加藤夫婦のものと不自然にも勘違ひし、捕まへた伸輔に夫婦交換を申し出る。信用金庫をリストラされたことを妻には秘密にしてゐたのが発覚した宍戸が、状況を打開する一手としてスワッピングを思ひ立つまでは理屈が通るが、かなえと時雨とでは、髪の毛の色から全く違ふ。その時点で宍戸が時雨を知らなかつたとしても、絶倫を誇り逆に食傷されてしまふくらゐに毎晩かなえを抱く宍戸が、伸輔はその人と見抜いておきながら抱き慣れた妻の肉体を見紛ふ方便には無理が大きい。後に宍戸が体格から写真の女とは全く別人の時雨を実際に抱くこともあり、ここは埋めきれてゐない展開上の明確な大穴であらう。宍戸から話を聞き『ニャン2倶楽部』を手に取つた時雨が、夫の相手の女がかなえであると気づいてゐたのか否かは、必ずしも明確には語られない。後々の描写からは、殆ど気づいてゐさうにも窺へるが。
 枝瑠は、団地の廊下を裸足で走り回つては、「幸せですか?」と家々の呼び鈴を鳴らす気違ひ女・エル。丘の上の馬鹿といふ趣向は勿論酌めるが、それがデブギャルといふのは激しく如何なものか、画面(ゑづら)が醜悪過ぎる。杉田浩子は、そんな近所迷惑な姉に手を焼く妹、可愛い。意外に歳は行つてゐるのだが、そこが又いい、知らんがな。片桐隆弘は、時雨が宍戸と入る小料理屋の一人客か?もう一人出演者としてクレジットされる、宍戸宏江が恐ろしく判らない。該当しさうな登場人物といふのが、ほかに全然見当たらないのだ。声のみで、団地の近所にイトーヨーカ堂が出店するらしいことをかなえに伝へる御近所か。それとも、宍戸が伸輔を捕まへるカットに見切れる、撮影中にその場に居た一般の通行人にしては、妙にハクい女?
 宍戸から夫婦交換を持ち掛けられたと伸輔から打ち明けられた時雨は、初めは当然のやうに激しく拒絶する。ものの土壇場で、断りかけた伸輔を遮り申し出を受諾する。時雨はスワッピングを機に、伸輔との関係を清算する腹を固める。衝撃を受け、伸輔は戸惑ふ。諸々の思惑が交錯する中、終に決行される夫婦交換。果たして、伸輔・時雨夫婦の行く末は・・・?
 出典は判らぬが、繰り返される一節。「僕達の家庭は、一つの愛を育む」、「いや、家庭が僕達に愛の本質をもたらすのだ」。スワップ当日、誘ひ出された伸輔は踊り場で衝動的にかなえを抱いてゐたところ、何時の間にか二人の様子を階段に座つたエルが見てゐた。何時ものやうに「幸せですか?」と二人に問ふエルに、伸輔は幸せとは何かと問ひ返す。エルは答へる、「失くしてしまふと、幸せぢやなくなるもの」。さんざぱら思はせぶりに外堀ばかり埋めておいて、最終的に事の顛末は明確には描かれない。お話を途中で投げ出した分、濡れ場の濃度は高くなつたやうにも確かに見えるが、その上でも不誠実に対する落胆の方が上勝る。何もかもを明示的に描いてしまふばかりが能でもなからう、さういふつもりなのかも知れない。別れが美しい悲劇であるか、あるいは何だかんだの末に、最後は全てが然るべき納まり処に収束する大団円を迎へるオーソドックスな娯楽映画となるのか、それは勿論何れでもいい。何れにせよ、帰結を中途で放置しそこから先を本篇以外の何物かに委ねて済ますやうな態度は、詰まるところは作劇上最も困難を要する段取りを、放棄したに過ぎない。とするのが、よしんばそれがプロの目からは表層的であり一面的であるものに見えたとしても、当サイトの採用する基本的な鑑賞姿勢である。本丸を敢て落とさなかつたといふことは、本丸を落とせなかつたことと結果的には何ら差異はない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「三匹の和服牝美人 十人十色の性」(2001『和服熟女の性生活 二十・三十・四十歳』の2008年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:羽生研司/脚本:遥香奈多/画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/助監督:城定秀夫/着付け:河村知也/監督助手:奥渉/撮影助手:宮永昭典/照明助手:長田はるか・平岡えり/編集:金子尚樹/効果:梅沢身知子/エンディング・テーマ:川奈和美『試練だらけの恋』/協力:坂本礼・小泉剛・菅沼隆・堀禎一、他二名/出演:佐々木麻由子・竹本泰史・南あみ・野上正義・柳東史・くすのき琴美・岡田謙一郎・松井明/人形の声:林舞希子)。羽生朝子ともう一人羽生姓の人間が、それぞれ別々の弦楽器(片方はコントラバス)の演奏としてクレジットされる。美術協力に力尽きる。
 人人の手を渡る陶人形(声:林舞希子)を狂言回しとした、三話オムニバス。再見をずつと切望してゐた、羽生研司のデビュー作である。
 第一話「時代屋の未亡人」(四十歳)。夫・露崎(中野英雄とTIMのゴルゴ松本を足して二で割つたやうな遺影のみ登場、誰なのかは不明)の死後、遺された古道具屋(ロケ地:ギャラリー露崎@於下北沢)を切り盛りする春江(佐々木)。ものの元来古美術に明るくない春江に経営は荷が重く、春江は借金ばかりがかさむ店を閉めることにする。そんな折、一人の男がギャラリーを訪れる。今は新進気鋭の画家として活躍する日野竜彦(竹本)は、若く貧しい頃、露崎に何かと世話になつてゐた。日本を離れてゐた日野は露崎の死を知らなかつたが、当時店に飾られてゐた、露崎が春江をモデルに描いた絵を買ひに現れたものだつた。売り物ではないと拒む春江に対し、日野はそれならばと、新たに春江をモデルに絵を描かせて呉れることを求める。実は日野は春江に、恋慕の情を抱いてゐた。
 第二話「華道の人妻」(三十歳)。華道家元の吉田秋子(南)は、歳の離れた夫・宏(野上)が最近寄る年波には勝てず弱くなつて来たこともあり、夫婦の間にギクシャクしたものを感じてゐた。ある日ままならぬ夫婦生活に二人して手を焼いてゐたところに、弟子の松任谷昌之(柳)の訪問を受ける。稽古も終り、松任谷から悩みを打ち明けられた秋子は、上手く捌け損ねた宏が物影から覗いてゐることも忘れたのか、松任谷に体を開く。
 第三話「同級生の義母」(二十歳)。夏美(くすのき)は高校時代の彼氏・明(松井)の父親である、スナックを経営する若山洋一(岡田)と結婚する。元々暴力的であつた明は父親に女を寝取られたことから更に荒れ、開店前の店で夏美、即ち今は義母を衝動的に犯す。事後飛び出した明は、橋の上で不貞腐れてゐるところを父親に目撃されたのを最後に、そのまま姿を消す。
 一話から二話に跨ぐ際には、一話のラスト春江が矢張り店を締める際に人形は三千円で売りに出され、夏美は三話の冒頭、人形をお師匠から頂いて来る。各話の登場人物が、同一フレーム内に納まるカットはない。
 概観を通り越して大雑把に纏めると、各三話のドラマとしての出来栄えは、第一話>第二話>第三話。主演女優の美しさといふ面では、第二話>>>>>>>>第一話>第三話。その為リアルタイム鑑賞時にはストレートに尻すぼんでしまふ、といふ感想であつたが、改めて観返してみたところ、若干受ける印象も変化した。段々に各話の主演女優が若くなつて行くことは兎も角、オーソドックスなラブストーリーである第一話から、テンポはスローながら直截に性のエモーションを表に出す秋子がはんなりと大暴れする、艶笑譚としての第二話を経て、少々粗雑ながらも大きなネタを落とす第三話は殆どいはばコント、といふ構成乃至は流れは理解出来ぬでもない。幾分冗長ではありつつ、飛び出したままの息子が<>となつて帰つて来る件。初めは客と勘違ひし歓待しながら徐々に目を白黒させやがて度肝を抜かれるといふ、岡田謙一郎のベテランならではの名演は、見事なオチの落差を補完する。もう少し第三話の主演がまともにお芝居の出来る女優であつたならば、結果はまるで変つてゐたやうにも思へる。髪を拭かれながら事に及ぶ、夏美と若山との夫婦生活は非情に雰囲気のあるいい濡れ場ではあつたのだが。
 同じ人形が登場すること以外には、まるで形式的にも内容的にも別個の各三話ではあるが、共通するのは微笑ましいポップ・センス。第一話、日野に言ひ寄られるも春江が困惑し逡巡すると、人形は事前の自慰シーンで春江が人形の隣に立ててゐた張形を、二人の気を引くやうに「エイ☆」と倒し、先に進まない状況をアシストする。第二話、初めて彼女の出来た松任谷がとはいへ包茎であるといふ悩みを秋子に打ち明けると、秋子は失笑を禁じ得ず、二人の様子を秘かに覗き見る宏は、声は押し殺しつつ手足をバタバタさせながら笑ひ転げる、のに加へ。こちらも事前のカットで畳の上を這つてゐたカメムシをも、(ひつくり返らされ)手足をバタバタさせる。カメムシにまで皮被りを笑はれるといふのも随分な話ではあるが、続いて慈しみ深く勿論童貞の松任谷を自ら優しく抱(いだ)き受け容れる秋子、即ち南あみの姿には、決定力のある美しさが轟く。第三話では話の筋とは特に無関係ながら、色気づいた人形は遂に福助人形の旦那さんをゲットし、驚喜する。その可愛らしさ瑞々しさは、今に至つても些かも損なはれてはゐない。そもそも、脚本は人に書かせたものだとしても(本人の変名であるやも知れぬが)、各話のテイストを綺麗に違へてみせること自体が、デビュー作としてみるならば畏るべきことでもあらう。とはいへ結果論としては、この時ピンクスが抱いた期待が、少なくとも現時点では未だ叶へられてゐないのは心苦しいところでもあるのだが。五十音順にたとへば久万真路、城定秀夫、寺嶋亮、そして今作の羽生研司。第一作を華々しく輝かせながら、以降長い雌伏を続ける逸材の何と多いことよ。一応はピンクでの続く監督作のある羽生研司と、前三者とではまた話が異なるやも知れないが。

 協力勢は時代屋を訪れる一人客と、若山のスナックでクリスマス・パーティーに興じる一団か。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )




 「ノーパン家庭教師 痺れ下半身」(2005/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:関根和美・水上晃太・宮崎剛/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/監督助手:高田宝重/撮影助手:岩崎智之・中村拓/出演:合沢萌・佐々木基子・間宮結・なかみつせいじ・久須美欽一)。出演者中間宮結が、ポスターには間宮ユイ。
 ピンク映画既出の温泉宿を舞台にした宮前家、家長の弘太郎(久須美)は既に仕事は定年退職し、後妻の由美子(佐々木)、高校生の娘・紫苑(間宮)との三人暮らし。紫苑は継母の由美子に対しては、明確に快く思つてはゐなかつた。受験生である紫苑の為に、由美子の姪・古沢栞(合沢)が、宮前家に住み込みの形で紫苑の家庭教師に当たる。とかいふ次第で、栞と紫苑の家庭教師シーンにて開巻。とはいへノートにマンガを描いてばかりの紫苑に、まるでヤル気は欠片も無いのだが。紫苑は由美子が連れて来た栞に対しても、あからさまな反目を隠さうとはしなかつた。ところで、

 間宮結が女子高生?

 制服一辺倒な衣装やおさげの髪型で、精一杯胡麻化さうとした苦心の跡が窺へるのは微笑ましいが、ツーショットでは何処から見ても合沢萌より年上にしか見えない。さて措き、もとい、さて措け、けふのところはひとまづ栞が匙を投げたところで、カット変ると深夜に時間は飛び下着姿での合沢萌排泄シーン。ヒロインのその姿を描くことに最早執念すら感じさせる、下元哲の頑強な姿勢が清々しい。栞は洩れ聞こえる弘太郎と由美子の夫婦生活の気配に、自ら秘裂に指を這はせる。
 翌日。教科書を逆さに持つ子供染みた抵抗を見せる紫苑は、シモネタを栞にぶつけるばかりで矢張り勉強する意欲をまるで見せない。業を煮やした栞は、不意に紫苑の唇を奪ひ黙らせる。その夜、一切会話の交されぬ異様な夕食の風景。紫苑と由美子の対立に加へ、定年後家でゴロゴロするばかりの弘太郎にも、家の中に居場所は無かつた。ここのところに関しては、残念ながら事前の佐々木基子と久須美欽一の普通に濃厚な絡みとの間に、生じる齟齬が解消されてはゐない。栞は由美子から水を向けられ、弘太郎にジャズダンスを教へることになる。
 バラバラの一家に現れた、オフェンシブに官能的な家庭教師。ダンスのレッスン後、栞と弘太郎は露天風呂にて体を重ねる。栞を想ひ自ら慰めてゐた情けない現場を、由美子に目撃されてしまつたことを告白した弘太郎に、栞は「ワープしちやはうか?」と駆け落ちを持ちかける。一方紫苑は自ら栞を求めたところに、タイミングよく由美子が闖入。すつたもんだの末に、勢ひで紫苑は家を飛び出してしまふ。共に栞を巡り、父娘がそれぞれ宮前家から退場する。ここから掛け値なく意外な結末は強度を有しておかしくない筈なのだが、意外な弱点は主演の合沢萌。これまでは濡れ場要員を旨とすることが多いやうに見受けられ、その限りに於いては特に不足は感じさせなかつたのだが、この人よくよく見てみると、瞳に表情がまるで無い。映画の支柱として物語を牽引させるには、甚だ心許ない。ただでさへ飛躍の大きさが肝のサスペンスにあつては、なほさらその馬力不足が露呈されて仕方がない。変に生真面目にストーリーを追ふよりも、いつそのことスポーツブラに極小のホットパンツといふ、阿呆みたいに扇情的な衣装で栞がジャズダンスをタラタラ踊つてみせるやうな、どうでもいいが麗しくいやらしいシークエンスを延々連ねてみせた方が、素材の料理法としてはより適切であつたのではなからうか。
 共に栞に袖に振られた格好の、弘太郎と紫苑。早々に悟つた娘に対し、老いた父親はなかなか事実を受け容れられない。子供の癖に、と負け惜しむ弘太郎に対し、男の不明を嘲笑する紫苑の一言が、より場面を整理する上でも欲しかつた。
 なかみつせいじは、紫苑の援交相手・宮下誠一、純然たる男優部濡れ場要員に止まる。

 宮前家の舞台となる温泉宿は、主にエクセス映画で何度か観たやうな覚えがある。たとへば中村和愛の「美人女将のナマ足 奥までしたたる」(1997/脚本:武田浩介/主演:須藤あゆみ)や、新田栄の温泉映画でも使用されてゐたやうな既視感を覚える。ところで改めて思ひ出したが、そもそも栞がノーパンといふ描写なんて別に無かつたぞ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「老人と和服の愛人 秘密の夜這ひ部屋」(2005/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:神野太/脚本:これやす弥生/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:橋本彩子/照明:山本浩資/撮影助手:末吉真・松川聡/照明助手:越阪部珠生/助監督:竹洞哲也・山口大輔・伊藤裕三/編集:酒井正次/スチール:阿部真也/制作協力:フィルムハウス/出演:小島三奈・小川真実・華沢レモン・小林三四郎・柳之内たくま・野上正義)。照明助手に力尽きる。
 和服姿の女が、嶋津家を訪れる。家は留守であつたが、首尾よく玄関先の鉢植ゑの下から鍵を見付け出した杉本京香(小島)は、挨拶はしながらも要は勝手に上がり込む。どうしたことか、家の中は惨憺たる状態だつた。一旦は頭を抱へながらも、覚悟を決めた京香は襷掛けでてきぱきと荒れ放題の家中を片付け始める。浴室を掃除したところで汗をかいた京香は、風呂を頂くことに。京香が風呂から上がると、健三(柳之内)が彼女の由実(華沢)を伴ひ慌ただしく帰宅する。裸身にバスタオルを巻いただけの京香がひとまづ身を隠すと、健三は何故だか綺麗になつてゐる家の様子に目を丸くしながらも、そそくさと自室で由実と一戦交へる。ものの、早漏の健三が暴発してしまつたことに臍を曲げ、由実は帰つてしまふ。京香のたてた物音に健三が驚いたところへ、堅一(野上)と研二(本多菊次朗のやうな髪型の小林三四郎)も帰宅。堅一は位牌を、研二は、妻・尚子(小川)の遺影を手にしてゐた。病没した尚子の納骨を終へ、親戚一同での食事会をすつぽかし、健三は由実とセクロスする為に一足先に家に戻つてゐたのである。不審者の存在の気配に恐々とする男三人の前に、京香はバスタオル姿のまま現れると、胸の谷間も顕に三つ指を突く。京香は病気の発覚した尚子が遺される家族の為に自ら選考し契約しておいた、南池袋家政婦協会所属の家政婦であつたのだ。身寄りがなく住み込みが条件の京香は、その日から嶋津家で暮らし始める。
 翌朝、尚子の遺志に従ひ、京香は三者三様の朝食を用意する。研二と健三は鼻の下を伸ばしがてら感激するが、偏屈な堅一は、何のかんのと難癖をつける。自室に戻つた堅一は、何故か半裸の尚子の写真を取り出すと、尚子との擬似、あるいは義理近親相姦を思ひ出しながら、京香に憎まれ口を叩いてしまつたことに対してポップに激しい自責の念に駆られる。買ひ物に出た京香は、公園でぼんやりと弁当を食べる研二を目撃する。研二は妻を喪つた後、仕事への意欲を失つてゐた。優しく抱きかゝへるやうに研二を伴ひ帰宅した京香は、昼間から研二と寝る。二人の様子を覗き見る堅一は、息子の後塵を拝したことに歯噛みする。その夜なかなか帰宅しない健三を探しに出た京香は、親子の血は争へないのか端的に工夫を欠いただけなのか、同じ公園で黄昏る健三を発見する。健三は、きのふの由実との一件を気に病んでゐた。それならばと今度は京香は、健三相手にプライベート・レッスンを展開する。孫にまで先を越されたと、堅一は地団太を踏む。
 母親を喪つた家に、明確にその遺志を引き継いだ家政婦が現れる。よくいへば天真爛漫な家政婦は股の方も頗る緩く、忽ちの内に三世代親子丼を完成せしめる。京香の対健三戦に焦点を当ててしまへば、それこそまんま「青い体験」ともなつてしまふので、堅一をメインに据ゑるといふ戦略は理解出来る。とはいへあまりにも粗雑に過ぎるのは、生前尚子が堅一、即ち義父と働いてゐた不貞について、事実の回想が設けられてあるだけで、最早清々しく一切の説明を端折つてみせる点。締めの京香と念願叶つた堅一との濡れ場に際しても、息子嫁が半ば自動的に堅一の和服愛人になるといふ劇中ルールは、ピンクだからと諦めてしまはないでは、どうにもかうにも素面で呑み込める筋合のものではない。そもそも、男には再婚禁止期間が定められてはゐないものの、尚子の納骨を済ませたばかりの研二がインスタントに京香と再婚してしまふといふのも如何なものか。いくらピンクとはいへ、これではホーム・ドラマとして登場人物に感情の移入が図れない。だつてピンクなんだもんと開き直るならば、そこそこポップでキュートな一作といつていへなくもないが、あくまでそこに胡坐をかいてしまふことを固く戒めるならば、矢張り劇中に開いた大穴を看過することは難い。素直になれず京香に邪険にしてしまふ堅一と、京香を擁護する研二・健三連合軍の対立軸などは、軽快で楽しく観てゐられるのだが。

前作以来二年ぶりのピンクは、神野太にとつて、実は十年ぶりとなるエクセス帰還作でもある。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「シングルマザー 猥らな男あさり」(2003/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:五代暁子/撮影:喜久村徳章/照明:西之宮勝/音楽:戎一郎/助監督:松岡誠/監督助手:横井有紀・小川隆史、他一名/協力:細部隆広・セメントマッチ/出演:秋津薫・里見瑤子・吉行由実・岡田智宏・石川雄也・本田唯一・白石雅彦・荒木太郎・かわさきらんこ・神谷信)。出演者中、神谷信は本篇クレジットのみ。ポスターには“撮影・照明 喜久村徳章”とあり、更にjmdbのデータには、何故か撮影・照明とも稲田堤一とある。一体何が正しいのか。撮影助手に関しては拾ひ損ねる。
 公園でバトミントンに興じる父娘と、二人の様子を温かく見守る女。藤沢慎吾(石川)は確かに奈津子(かわさき)の父親ではあるが、二人を迎へる奈津子の母親・桜木志保(秋津)の夫ではない、今は。真吾は若い女との浮気の末に志保とは離婚し、けふは月に一度の、真吾が奈津子と会へる日であつた。野暮を承知で補足しておくと、かわさきらんこはかわさきひろゆき・りぼん夫妻の実娘、親爺に雰囲気がよく似てゐる。その夜、残つたローンは慎吾が払ひ続けてゐる志保宅。奈津子はもう寝てしまつたといふのに何時までもくつろいでゐる元夫を志保は帰さうとするが、渋る慎吾はなかなか動かうとはしない。慎吾の心は揺れてゐた。初めは志保とは別れた後、カズミ(全く登場せず)と再婚するつもりであつた。ただカズミは、結婚した場合、慎吾に以後奈津子と会ふことを禁ずる。それが、慎吾には呑めなかつた。いつそのこと復縁でもするつもりか、慎吾は志保を抱く。
 志保は派遣社員として働き始めた会社で、丸山祐子(里見)、畠中昭彦(岡田)と仲良くなる。男運の悪いことを愚痴る祐子は課長の斎藤(本田)と先の開けぬ不倫関係にあり、畠中は、実は志保と同じくバツイチであつた。別れた妻の下に残した息子に会へぬ悩みを持ちかけられたことから、志保は畠中と、職場の同僚を内側に超えた距離で接近する。
 慎吾に新しい男の出現を勘繰られた志保はいふ、(女手ひとつで奈津子を育てて行くことに)「今は全然そんな余裕ないわ」、「大変なのよ、シングルマザーて・・・」。揺れ動くシングルマザーの心情を一貫した女目線でメインに据ゑる、成程ピンク映画としては画期的なプロットとはいへる。ともいへ、別れた元夫と満更でもない以上の風情で体を重ねてみたり、向かうからは完全にゴーの畠中を土壇場で祐子に譲つてみたりするなどといふのは、少々カッコつけ過ぎでは。これが監督も脚本も男であつたなら、完全に想像力の範疇でのファンタジーたり得る余地が上手く行けば残されるのかも知れないが、敵は吉行由実&五代暁子コンビである。かういふものを私達の映画でござい、と差し出されたところで、都合のいいお為ごかしが鼻についてしまふのは、単に私の心が歪んでゐるからか。加へて、畠中を祐子に宛がふのはよしとしても、その時点で慎吾との復縁といふ選択肢が何ら具体的な形を持たないままでは、志保の物語が何処にも着地しない。畠中も畠中で、男の目からは体よくあしらはれた風に見えなくもないので、これでは単なる祐子の一人勝ちといふだけの物語にもなつてしまふ。どうにも据わりの悪さを禁じ得ないのは、単に私の器量が狭い所以か。大袈裟に破綻してゐるとまでいふことは全くないが、目新しい機軸が結実を果たしてゐるともいへない一作。これはカメラマンの所為であるやも知れぬが、ドラマ・シーンに於ける工夫の無い構図での長回しも目立つ。濡れ場に際しての、肉の質感などは申し分ないのだが。
 吉行由実は、畠中の前妻・三上美恵子。畠中を捨て、息子を連れ金持ちの中年男・三上(白石)と再婚する。映画、あるいはフィクションとはいへ綺麗過ぎる志保よりは、元夫に対し徹底的に邪険で、悪し様に罵る美恵子の姿の方が余程リアリティに溢れる。体を下に殆どマグロ状態の白石雅彦を巧みにリードしての、重量感に富む美恵子と三上との絡みは見応へがある。わざわざ何しにポスターに名前まで載せたのかまるで肯けない荒木太郎は、一応一言台詞もある志保派遣先の社員。滅茶苦茶なことをいふと、特に変態でもない端役は、別に荒木太郎でなくともよからう。

 本篇クレジットにある出演者の中から、神谷信が特定出来ない。残る候補は、写真と運動会を撮影したビデオ映像といふ形でのみ登場する畠中の息子・達也と、志保派遣先に見切れる(だけの)若手男性社員。達也については、五代暁子愛息の円(つぶら)くんであるやうな気がしないでもないのだが。
 特に違和感を感じさせるものではないやうに恐らく思はれるが、ピンクスには、秋津薫のアフレコを吉行由実がアテてゐることは秒殺で看て、もとい聞いて取れる。となると、同じ声で喋る違ふ女が二人出現するのかと思つてゐたところ、吉行由実、即ち美恵子役に関しては更に別の人間が声をアテてゐた。この、美恵子のアテレコの主が誰かといふのもどうにも判らない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「不倫中毒 官能のまどろみ」(2007/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:吉行由実・樫原辰郎/原題:『ノワイエ』/撮影:清水正二/編集:鵜飼邦彦/音楽:加藤キーチ・小泉pat一郎/助監督:佐藤吏/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:種市祐介・村田千夏/照明応援:広瀬寛巳/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/脚本協力:本田唯一/現像:東映ラボ・テック/協力:洋泉社『映画秘宝』編集部・柳下毅一郎/出演:薫桜子・内山沙千佳・吉行由実・平川文人・国沢実・柳下毅一郎・なかみつせいじ)。出演者中柳下毅一郎は、本篇クレジットのみ。
 『映画秘宝』編集部にてロケされる、文芸雑誌『さざなみ』編集部。編集者の一ノ瀬理沙(薫)と、左隣に座るお菓子好きの同僚・清水(国沢)の、説明台詞が垂れ流される開巻。国沢実が、もう少し芝居は達者であつたやうにも思つてゐつつ、これでは監督業と変らん。学生時代から劇中小説『溺れそうな僕の小島』の大ファンであつた、理沙は作者・小山内誠二を担当することに憧れ編集職に就くが、小山内は、この十年筆を断つたまゝであつた。理沙は小山内の復活を企画として上げるが、清水にも、新任編集長である東海林麻子(吉行)からも今更と反対される。ある日麻子の家に、別の作家の自筆原稿を取りに向つた理沙は驚く。妻の稼ぎで生活し、日がな趣味の蕎麦打ちに熱中する麻子の夫が、何と小山内(なかみつ)であつたのだ。恋人の大野英則(平川)との情事に、文学中に描かれる人生を狂はすやうな情欲を感じられず物足りなさを覚えてゐた、麻子は次第に小山内との関係に溺れて行く。一方、小山内も理沙と重ねる逢瀬の中から、次第に失つてゐた作家としての力強い翼を取り戻して行く。
 快楽がフィジカルなものであるのかそれともメンタルなものであるのか、などと浅墓な心身二元論に支配された他愛もない議論のために、理沙は小山内が隠れて見守る中、大野に再び抱かれる。内山沙千佳は、今度はその逆だといふ次第で、理沙が見る前で抱く目的で、小山内が呼んだ風俗嬢・洋子。純然たる濡れ場要員ながら、小悪魔ぶりを炸裂させるキャラクターは非常に悪くない。柳下毅一郎は、小山内が麻子の夫であつた事実に関して会話を交す理沙と麻子の手前で、清水と打ち合はせする男。もう一人、編集部内に若い女が見切れる。
 今作吉行由実は、従来のドラマ重視から端的なエロ本義へとシフト・チェンジしたらしいが、結果的には大いに物足りない。即物的な実用性に関しては下元哲、神野太らのエクセス重戦車軍団に遠く及ばず、同じ女流監督で比較してみた場合にも、“女帝”浜野佐知の頑丈な思想に裏支へられた馬力や、苛烈な女性美に対しての偏愛にはまるで歯が立たない。男と女、あるいは女と男の情念を濡れ場に狂ひ咲かせるには、この人の映画は最終的にどうにも軽い、あるいは弱い。今作中最も映画が強度を有したカットは、小山内が執筆を再会した旨、麻子は一応理沙に伝へる。その時点で既に本人から原稿を手渡されてゐた理沙は、何枚か読ませて貰つてゐますと口を滑らせ気味にさりげなく勝ち誇る。そんな理沙の姿に、麻子が無言のまゝ夫と部下の不貞を察する件。吉行由実の近作は、折角ピンクに於いては阻害要因としかたり得まい埒の明かぬ少女趣味も抜け、いよいよ本格派の商業娯楽作家への脱皮も果たしかけてゐただけに、余計な外野からの風にでも吹かれたか、至らん色気を出しお話も中途で投げ出されてしまつたかのやうな体たらくの一作はどうにも惜しい。ピンク映画に於けるエロと物語、何れに重きを置くべきか、何れをも欲張つての初めてピンクで初めて映画であるのか。永遠のテーマでもあるやうに見えて、実はまるで単純な話に過ぎないやうにも思へるが。少なくとも餅は餅屋にとするならば、たとへ濡れ場が挿み込まれるものにすら過ぎなくとも、穏当な起承転結と、真つ直ぐなエモーションとを誠実に希求した映画の方が、吉行由実の場合には手に合つてゐるやうに見受けるものである。

 以下は再見時の付記< 仕事終りに清水が理沙を、萩原朔太郎の朗読会に誘ふもののまんまとあつさり袖に振られる、といふシークエンスが見られる。同じく国沢実がこの時は森田りこを、成瀬巳喜男の上映会に誘ふも矢張りフラれる過去作が想起され、観客席のダメ男達は滂沱の涙を搾り取られる。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




ピンク映画の感想のインデックスです。
当該タイトルを踏んで頂ければ、別ウインドウで表示されます。

監督別五十音順に整理、同一監督内は製作順。
(製作年/V)は、正確にはピンクではなくVシネ。

永井吾一(=永井卓爾)
いんらんな女神たち ~目覚め~」(2014/小山悟と共同監督)

中川大資
女子トイレ エッチな密室」(2014)

長崎みなみ
爆乳フェロモン いやらしい感度」(2001/旧題:『愛人・夢野まりあ 私、激しいのが好きなの』)

中野貴雄
ザッツ変態テインメント 異常SEX大全集」(1991/上野俊哉・サトウトシキと共同監督)
超過激本番失神」(1992)

中原俊
縄姉妹 奇妙な果実」(昭和59/ロマンポルノ)
イヴちやんの花びら」(昭和59/ロマンポルノ)
団地妻 昼下がりの情事」(2010/ロマンポルノRETURNS)

中村幻児
女子学生SEXレポート 実地研究」(昭和51)
恍惚アパート 悶々時代」(昭和52)
女犯魔」(昭和52)
痴女昇天」(昭和52/買取系ロマンポルノ)
ブルーフィルムの女 ちつそく」(昭和53)
残虐SEX 恥かしめ」(昭和53/東映ナウポルノ)
女高生 快感」(昭和54)
暴性族 襲ふ」(昭和54)
売春グループ 欲情する人妻」(昭和54/買取系ロマンポルノ)
⦅超⦆淫力絶頂女」(昭和54)
女子学生 危険な遊戯“あそび”」(昭和54)
濡れた唇 しなやかに熱く」(昭和55)
人妻・OL・女子学生 狙つて襲ふ」(昭和55)
セミドキュメント 特訓名器づくり」(昭和56/買取系ロマンポルノ)
痴漢電車 発射オーライ」(昭和56)
少女縄人形」(昭和58)
下半身症候群」(昭和59/買取系ロマンポルノ)
ザ・SM 緊縛遊戯」(昭和59)

中村光徳
樹<いつき>まり子 巨乳しごく」(1989)

中村和愛
濡れやすい人妻 ド突かれる下半身」(1997/旧題:『人妻の味 絶品下半身』)
美人女将の性欲 恥さらしのパンティー」(1997/旧題:『美人女将のナマ足 奥までしたたる』)
美白教師 本番性感講習」(1999/旧題:『新任美術教師 恥づかしい授業』)
極楽痴漢電車 ぬれぬれエクスタシー」(1999/旧題:『痴漢電車 指が止まらない』)
黒髪教師・劣情」(2000/旧題:『高校教師 ‐赤い下着をつける時‐』)
背徳同窓会 熟女数珠つなぎ」(2001/旧題:『三十路同窓会 ハメをはずせ!』)

中山潔
緊縛・白衣の天使」(昭和58)

成田裕介
花と蛇3」(2010/ピンクではない)

鳴瀬聖人
ブラとパンティ 変態がいつぱい」(2021/近藤啓介と共同監督)

新里猛作
性欲タクシー 走る車内で」(1999/旧題:『痴漢タクシー エクスタシードライバー』)
秘密クラブ 人妻専科」(2000/旧題:『買ふ妻 奥さま《秘》倶楽部』)
Mの呪縛」(2008/新里猛名義/厳密にはピンクではない)

西川卓
暴走レイプ魔」(昭和61)
踊り子 ワイセツ隠舞」(昭和62)
広子の本番 ベッドシーン」(1989)
真夜中の桃色アパート」(1990)
SEXドリーム 24時」(1990)
朝まで生いぢり」(1991)

西原儀一
潮吹きギャル 順子」(昭和60)

西村昭五郎
さすらひかもめ ‐釧路の女‐」(昭和48/ロマンポルノ)
カルーセル麻紀 夜は私を濡らす」(昭和49/ロマンポルノ)
本《ほんばん》番」(昭和52/ロマンポルノ)
団地妻 雨やどりの情事」(昭和52/ロマンポルノ)
宇能鴻一郎の看護婦寮」(昭和53/ロマンポルノ)
団鬼六 縄化粧」(昭和53/ロマンポルノ)
希望ケ丘夫婦戦争」(昭和54/ロマンポルノ)
宇能鴻一郎の濡れて悶える」(昭和55/ロマンポルノ)
看護婦日記 -わいせつなカルテ-」(昭和55/ロマンポルノ)
春画」(昭和58/ロマンポルノ)
女教師は二度犯される」(昭和58/ロマンポルノ)
花と蛇 地獄篇」(昭和60/ロマンポルノ)
女銀行員 暴行オフィス」(昭和60/ロマンポルノ)

西山洋一
ぬるぬる燗燗」(1996)

根岸吉太郎
女教師 汚れた放課後」(昭和56/ロマンポルノ)

野上正義
人妻が燃えるクラス会」(1996/旧題:『浮気妻 淫乱同窓会』)
覗き好きをばさん 牡の体臭に昇天」(2003/旧題:『覗き!をばさんの性態 ‐午後の間男‐』)
義父の指遊び 抜かないで!」(2003)
定食屋の若女将 やめて、義父さん!」(2004)


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「潮吹きヘルパー 抜きまくる若妻」(2007/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:亀井戸粋人/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:篠原麗華・鏡麗子・倖田李梨・久須美欽一・なかみつせいじ・岡田智宏・丘尚輝)。
 宮沢夫婦の夜の営みにて開巻。専業主婦の舞子(篠原)からの求めに対し仕事に疲れた夫・俊和(丘)は一旦は断るが、さうすると舞子はもう愛してゐないのね、といきなり離婚を切り出す、テレ朝水曜ドリフの女優コントかよ。慌てた俊和はくたびれた体に鞭打ちどうにか妻を抱くが、ケロッと二回戦を要求する舞子に、完全に降参する。呆れながらも俊和は、そんなに元気が有り余つてゐるならと、舞子に何か仕事を持つことを勧める。といふ訳で次のカットでは、早速資格を取り介護ヘルパーになつた舞子が、最初に担当する鈴木有三(久須美)の家へと向かふ。抜群にスマートな出足には新田栄の平素は秘められ気味の実は実直な地力が光り、しかもファースト・シーンの意味は、それだけに止(とど)まらない。洒落にならないかも知れない配役や劇中登場するリアルな介護用品に関しては、ひとまづ通り過ぎる。
 倖田李梨は、前職は泡姫の先輩ヘルパー・岡崎はるか。特殊浴場仕込の違法濃厚介護で被介護者の好評を博し、今はすつかり回復した滝田正彦(なかみつ)と結婚、豪奢な洋館で優雅な生活を送る。
 AV好きの伏線も丁寧に挿み込みつつ、新聞の折込チラシから宅配エロDVD―そんなもの折り込めるのか?―を注文した有三は目を丸くする。借りてみた「女子大生 潮吹きキャンパス」―流石に実在はしない―に主演してゐたのは、何と舞子であつたのだ。突きつけられた事実をおとなしく認めた舞子は会社には黙つてゐて呉れることを哀願し、潮を噴くところが見てみたいといふ有三とセクロス。舞子の豪快な潮噴きに、有三は養老の滝ぢやと歓喜する。そんな下らなさを、微笑ましく見てゐられる心の余裕といふ奴も、時に人生には必要であらうと思ふ。滝田にしても有三にしても、あんたら介護なんて必要ないぢやろ!といはんばかりのアクティブな絡みを展開してみせることも、それが新田栄映画の持ち味でもあるのでこの際さて措くべきだ。
 大胆にもストレートなギャル衣装が、思ひのほか違和感を感じさせない鏡麗子―舞子の鈴木家初訪問時、有三が返しそびれたAVの中にもシレッと見切れる―は、尺も折り返し地点付近にタイミングよく登場する、離れて住む有三の娘・光子。マンガのやうなダニぶりを炸裂させる彼氏・西島健司(岡田)を伴ひ、折角元気になりかけた有三にも、舞子にも邪険にする。今更ながら岡田智宏といふ人は、純情で不器用な好青年か、あるいは真逆の戯画的なツッパリ。持てる抽斗は、概ねその二つに大別出来よう。
 ここで再び舞子と俊和との夫婦生活、今度は俊和からの求めに対し、光子の登場に複雑な心境の舞子は疲れてゐるのと夫を拒む。そんなあ、と今度は俊和が絵に描いたやうにガッカリする。ここの展開、あるいは逆転は地味に秀逸だ。敵は新田栄&岡輝男ながら、普通に感心させられた。結局案の定西島にまんまと騙された光子は、二人に非礼を詫びるとともに有三の下に戻つて来る。仕事を探さなくちやといふ光子を舞子が介護ヘルパーに誘ふといふのも、一欠片の工夫にも欠きつつも、なればこその鉄板。主演女優の肉体を反映してか全体的な印象は緩いともいへ、さりげなく洗練すら感じさせる一作である。太めの女がお好みの諸兄に当たられては、その点に躓くこともない分、なほ一層の高い評価も得られようか。開巻を180度引つくり返した三度目の舞子と俊和との遣り取りが、舞子と有三との締めの濡れ場への誘導を果たすと同時に、映画をスマートに締め括る。

 再見に際しての付記< 劇中AV「女子大生 潮吹きキャンパス」に於ける、正面からは見せない男優役は加藤義一。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「人妻を狂はせた 不倫の夜」(1994『をば様たちの痴態 淫熟』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:高山みちる/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/音楽:モンスター藤本/助監督:国沢実/監督助手:北村隆/撮影助手:島内誠/照明助手:藤森玄一郎/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:鶴見としえ《40才》・如月じゅん《44才》・田口あゆみ《34才》・青木こずえ・清水大敬・吉永百合子・中川あきら・山科薫)。出演者中、田口あゆみまで女優名に続いて年齢が表記されるのと、吉永百合子は本篇クレジットのみ。
 後付にせよ何にせよ、ひとまづ「エロをばさま」シリーズの第二弾。
 篠宮さゆり(鶴見)は朝から、自堕落にエロマンガを読み耽る。夫の直昭(清水)が起きて来ると、朝食は袋も開けてないアンパンと、瓶牛乳一本きり。浮気の兆候を明確に示す直昭と、さゆりの関係は悪化してゐた。直昭が出張に行くのに派手な下着やコンドームを持参するある意味オネストに、さゆりは激しく噛みつく。田口あゆみ(34才)は、さゆりの想像の中にのみ登場する直昭の浮気相手・牧田かづみ。田口あゆみに別に罪はないが、清水大敬の濡れ場は何時見ても下品で汚い。
 その夜さゆりは、馴染みのスナック「いと」に向かふ。吉永百合子は、ボックス席中田新太郎の連れの女。二人とも物語には清々しく絡まない、純然たる見切れ要員。カウンターの隅に色男(山科)を見付けたさゆりは―山科薫の何処が色男なのだ、などといふ疑問は最早スルーだ―早速積極的も通り越し破天荒なアプローチを蛮行、もとい敢行。閉口した色男は俄かに女言葉になると、店にも遊びに来てねとさゆりに名刺を渡す。色男は、ゲイボーイであつたのだ。後にも先にも山科薫の出番はこの一幕のみ、何しに出て来たのだか殆ど判らない。落胆したさゆりは、直ちにマスターの和洋(中川)に矛先を向ける。さゆりと和洋とは、以前から関係を持つてゐた。そんなさゆりに、直昭に腹を立てる謂れは全くない。さゆりが店を後にしかけたところで、女子大生・前川秀美(青木)が「いと」に入つて来る。秀美は直昭の前妻・寿賀子(如月)の娘で、寿賀子には内緒で、さゆりとは以前から面識があつた。さゆりと和洋の濡れ場明け、翌日秀美が帰宅しようとしたところ、アパートのベランダが何故か開いてゐる。恐る恐る秀美が部屋に入ると、勝手に訪れた寿賀子が部屋を掃除してゐた。寿賀子が知らぬ間に秀美が直昭と撮つてゐた写真を見つけ、返せ返さないで揉み合ひとなつたスナップは、皺くちやになる。傷ついた秀美は、父親とも父親の後妻であるさゆりとも良好な関係を維持してゐる旨白状し、加へて、寿賀子にもそろそろ再婚するやう勧める。寿賀子の将来を考へて、子離れも促すべく秀美は一人暮らしを始めたものだつた。直昭との離婚後、寿賀子は女手ひとつで秀美を育て上げるべく、脇目も振らず仕事一筋に生きて来た。その夜秀美の言葉に我に帰つた寿賀子は、改めて女としての人生を顧み、自慰に溺れる。全てがセックスに直結してのけるのは、ピンクなので細かいことはいひない。
 ビリング上は一応トップの鶴見としえ演ずるさゆりは、自らの不貞は棚に上げ旦那に邪険にするやうな憎たらしい女なので、凡そ物語を背負はせ得よう筋合にはない。一方自らの母としてではなく、女としての幸せを再認識し動き出した寿賀子のドラマとしてならば、映画も成立し得ないではなかつたのだが、さゆりへの対抗心も剥き出しに「いと」を訪れ和洋に抱かれる一戦前後の、余計な濡れ場に邪魔される。風邪を引き熱を出した秀美をさゆりが看病すると称して、何故だか突入する百合の花香る絡みは意味不明。出張から戻つた直昭と、重ねて何故だか食卓狭しと並べたスタミナ料理で出迎へたさゆりとの、まるで手の平を返したかの如く順調な夫婦生活で映画を畳んでみせるといふのは全体どういふ了見か。シリーズ前作は、主演に女岡田謙一郎を据ゑながらも、物語自体は丁寧に織り込まれた極めて順当なホームドラマであつた。対して今作は、鶴見としえ(40才)も如月じゅん(44才)もともに三條俊江と比較して、といふ限定をつけなくともまあまあ普通に観てゐられはするのだが、無駄に看板を二枚―田口あゆみは純然たるエクストラな裸要員につき、さて措く―並べてしまつた分、展開の背骨が終に通らぬまゝに、地に足も着かぬ濡れ場濡れ場が漫然と連ねられるばかりのストレートな凡作に堕す。

 予想に反して現在のところ、「エロをばさま」シリーズ三作目「淫臭!! 年増女の痴態」(1995/脚本:岡輝男/主演:如月じゅん)の、再度―再々度?―の旧作改題は未だ行はれてゐない。2003年次の改題新版をこの期に小屋で観るのは望み薄ではあれ、毒を喰らはば皿まで。この際何とか、三作目も完走したいものではある。

 以下は再見に際しての付記< 中川あきら扮する和洋は芳田正浩のアテレコなのと、「いと」店内は摩天楼


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「巨乳熟女 とろける手ほどき」(2007/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:間宮結・国沢☆実/撮影:大川藤雄/照明:小林敦/撮影助手:大江泰介/助監督:高橋亮・関力男/効果:梅沢身知子/フィルム:報映産業/協力:《株》石谷ライティングサービス/出演:ささきふう香・華沢レモン・里見瑤子・中田二郎・佐藤五郎)。
 「どうして救つてあげなかつたの!」と生徒を平手打ちする、中学教師・松葉香織(ささき)の回想ショットにて開巻。
 会社員の笹原誠(中田)は同僚の三森敦子(里見)と関係を持つが、身も心も誠に捧げようとする敦子に対し、誠はといふと、体を重ねるだけで最終的には敦子の方を向いてはゐなかつた。翌朝お泊りした敦子を置き去りにして、一人さつさと出勤しようとした誠は、ゴミ出しに出る隣家の住人と鉢合せる。誠は驚く、隣家の住人は、中学時代誠が想ひを寄せ卒業式当日には手紙を渡してもゐた、担任教師の香織であつたのだ。誠らの卒業後結婚し退職した香織は夫を交通事故で喪ひ、今は一人娘の優奈(華沢)と一月前から偶々誠の隣に暮らしてゐたものだつた。早速その夜優奈は未だ帰宅しない松葉家を訪れた誠は、以後香織の趣味のビーズ細工を習ふといふ方便で、画期的な好都合で偶然隣に越して来た初恋相手の部屋に入り浸るやうになる。優奈もそろそろ親離れする年頃で心に隙間を感じ始めてゐた香織も、歳の差に抵抗は感じつつ、次第に誠との関係に溺れて行く。
 浅草キッドの二人を足して二で割つたやうな佐藤五郎は、優奈の彼氏・江崎洋介、格闘技フリークの純朴好青年をひとまづ好演。今回は決して大きな役ではない為、出来ればもつと他の映画でも観てみたいところではある。
 身勝手極まりない誠には、一切の感情移入は阻まれ。ささきふう香と佐藤五郎にも多くは望めず、里見瑤子は徹頭徹尾可哀相な役回りで不遇に手足を縛られる中、今作の決戦兵器は、当代最強のピンク五番打者である華沢レモン。子離れしない母親の新恋人の出現に、温かく見守りながらあはよくば背中も押さん勢ひで、主演の筈の二人に全く馬力は欠きながら、側面から飛び込んで来ては展開の牽引役を一手に担ふ。江崎宅から朝帰りしてみたところで、母の寝室に二人半裸で眠る香織と誠との姿を目撃するシークエンスのリアクションは絶品、映画を偶さか輝かせる。
 といふ訳で、(共同)脚本の間宮結も前回の敗戦を挽回したかと勘違ひしたのも束の間、クライマックスで、又しても映画は木端微塵に打ち砕かれる。買ひ物帰りの香織親子と誠の姿に、娘の方を泥棒猫と勘違ひした敦子が江崎と歩く優奈を急襲したところから、大胆不敵にも松葉家に全ての登場人物が揃つてしまふ。江崎は殆ど部外者として、凡そ収拾のつけやうが見付かりさうにもないグチャグチャの修羅場に一閃、十年の歳月を経て再び誠に振り下ろされた香織の平手が見事に物語を着地せしめ、たかと思ひきや。そこに続けて登場する、口では失くしたとかいひながら実は大切に保管してゐた、中学時代誠が香織に送つたラブレターが無理強ひする結末には唖然とさせられる。そのラブレターも藪から棒に飛び出て来たものではなく、御丁寧にも伏線を噛ませたものとあつては何をかいはんや、正しく開いた口も塞がらない。
 そもそも中学時代に誠が香織から平手打ちされた件も、誠が同級生の女生徒のイジメを見過ごしてゐたからだとかいふのも勘弁して欲しい。何があつたか詮索するのも最早面倒臭いが、辛気臭い個人的体験を一々商業映画に持ち込まれても閉口させられるばかりである、口を開けたり閉ぢたり忙しい。といふかこれでは最終的には、誠は中学時代の苛められてゐた同級生の女子も、敦子も共に救へなかつた救はなかつた、要はそれだけの話ではないか、無体にも程がある。二人掛かりで斯様な大穴を看過するとは、いよいよ以て頂けない。言ひ訳がましく敦子が元気を取り戻すカットも、蛇足を通り過ぎて却つて腹立たしい。華沢レモン大活躍の中盤は本当に順調であつただけに、余計に残念な一作である。

 ところで。どうにも通り過ぎることが出来ないのは、香織と誠が中学卒業以来の再会を果たすのが十年ぶり。誠卒業後の香織はほどなく結婚退職し娘を産むが、娘が五歳の時、夫は交通事故死してしまふ。そんな優奈が劇中時制現在十九歳といふのは、一体どんな時空の歪ませ方をすればさういふ出鱈目が通るのだ。誠が香織宅を初めて訪れた夜、気が付くと一々卒業アルバムを持参して行く辺りも強烈に不自然。都合のいい物語を力技で結末に導かうとするならば、尚更細部は入念に詰めておかなくてはなるまい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「熟年の性 人妻に戯れて」(2003/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:林真由美・関根和美/撮影:倉本和比人/照明:野口素胖/音楽:ザ・リハビリテーションズ/助監督:林真由美/照明助手:小綿照夫/監督助手:三谷彩子/出演:酒井あずさ・安西なるみ・金子みえ・町田政則・なかみつせいじ・江藤大我・天本文子)。出演者中、天本文子は本篇クレジットのみ。撮影助手に力尽きる。
 シャワーを浴びる、ラブホテルに呼ばれたデリヘル嬢・エリカ(金子)と、ベッドの上には、松岡正治(町田)が所在なさげにエリカを待つ。いい感じにモジモジする正治を画面左側に置き、イカしたフォントでドーンと入るタイトル・イン。
 正治とエリカの一戦を経て、若夫婦・山川友美(安西)と祐介(江藤)の夕食。急に友美は表情を強張らせると、「やめて」と強い調子で祐介をたしなめる。とぼける祐介からカメラがテーブルの下に潜ると、晩酌を傾けながら祐介は足の親指で妻の女陰を戯れに愛撫してゐた。ふざけた祐介が足を攣らせ七転八倒してゐるところに、正治帰宅。正治は定年退職後妻(亜希いずみ@関根和美愛妻/遺影としてのみ登場、本篇クレジットもなし)には先立たれ、娘夫婦の家に同居してゐた。若い友美と祐介には夜な夜なアテられ昼間は暇を持て余すばかりの正治は、新聞広告で見付けたホームヘルパー募集に応募してみる。正治が訪れた小田家は、完全に崩壊してゐた。タバコ片手に正治を出迎へた冴子(酒井)は昼間から呑んだくれ、家の中もすつかり荒れ放題であつた。痴呆症を進行させた冴子の姑・清子(天本)に、正治はひとまづ食事を作り持つて行く。冴子ファースト・カットの、酒井あずさの冷たく閉ざされた眼差し。正治の作つた簡単な雑炊を、夢中で口に運ぶ清子を前に、それ程腹を空かせてゐたのかと憐みや軽い衝撃を伴ふ困惑を入り混じらせた、町田政則の複雑な表情。平素のあんな関根和美こんな関根和美とは明確に訳の違ふ、強度に満ちた本格派のメロドラマが展開される。
 雑炊を食べた清子は、一時的に正気を取り戻し、正治に助けを求める。自分のことではなく、息子嫁の。元々呆け始めた清子を、息子の勝利(なかみつ)は非情にも施設に放り込まうとしてゐた、それを救つて呉れたのが冴子だつた。ただ一人で全てを背負ひ込んだ冴子も、程なく壊れてしまふ。冴子さんは本当はいい嫁だ、冴子さんを助けてあげて欲しい、清子は正治に哀願する。正治は冴子からは冷たくあしらはれながらも、小田家に通ひ続ける意を固くする。
 正治の不屈の熱意が、次第に凍りついた冴子の心を溶かして行く。逃げ場のない題材に正面戦を展開した重たい物語は、人柄の良さも感じさせる町田政則の熱演と、とても木端微塵の生活を送つてゐるやうには見えない酒井あずさの硬質な美しさにも支へられ、文句なく見応へがある。深夜の清子からの電話を機に、遂に最終的に勝利と衝突し家を飛び出してしまつた冴子を連れ戻しに奔走する正治と冴子とが結ばれる濡れ場には、単なる女の裸を見せる方便を超えた、一本の映画としての頂点が見事に輝く。リアルタイムにm@stervision大哥が四つ星をつけてをられることもあり、今作に対する世評は関根和美映画の中でも随一に高いやうである。とはいへにも関らず、いよいよ映画を畳む段には、今作は磐石を果たしてゐるとは必ずしもいへない。事後正治が冴子を家に送り届けたところから、カット変ると“一月後”。相変らずお盛んな娘夫婦の夫婦生活に読書を妨げられつつ、冴子との日々を想起する正治にエンド・クレジットが被さるといふのは、野球に譬へると映画の“抑へ”を中途で投げ出してしまつた感も漂ふ。正治が以後小田家を訪れてはゐないであらう節は何となく窺へるが、無粋をいふならば冴子がその夜家に帰つたところで、清子の痴呆が完治する訳ではないのだ。問題は何も、決して解決されたものではない。だからこそ、敢て無理矢理にでも余韻を残すやうな形で、本来のクライマックスの後に更に濡れ場を挿んでまでも、さういふ幕の引き方をしたものであるのやも知れぬが。久し振りに引き合ひに出すが、関根和美屈指のマスターピースといへば、一にも二にも「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000)を措いて他になし。といふのが、「淫タク」をオールタイムでピンク映画ベスト1として推す当サイトの変らぬ基本姿勢である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「喪服の未亡人 ほしいの…」(2008/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vパラダイス/監督:渡辺護/脚本:井川耕一郎/原題:『おきみやげ』/企画:朝倉大介・深町章/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:金沢勇大/撮影助手:海津真也・種市祐介/照明助手:広瀬寛巳/制作:坂本礼・飯田佳秀/出演:淡島小鞠・結城リナ・倖田李梨・岡田智宏・西岡秀記・川瀬陽太)。
 2001年に12年ぶりのピンク帰還を果たした大ベテラン渡辺護、続く翌年の「義母の秘密 息子愛撫」(2002)以来、更に六年ぶりとなる新作である。
 いずみ(淡島)の夫・西村(西岡)は、酔つて階段から落ち急死する。呆然と遺品を整理してゐたいずみは、一本のカセットテープを見付ける。再生してみたところ、「ほ、ほ、ほたるこい」と童歌の「ほたるこい」を歌ふ、自分ではなく聞き覚えのない女の声。西村の気配とともに、女の歌は喘ぎ声に変る。録音時期が定かではない以上俄かに不倫と断定は出来ないが、テープには、西村といずみ以外の女とのセックスの模様が収められてゐたのだ。猜疑に狂ふいずみは歌ふ女の正体を求め、西村の友人・藤井(岡田)と会ふ。藤井にも、女の歌声に心当たりはなかつた。
 倖田李梨は、藤井の妻・恵子。絡みでは首から上を満足に映しても貰へずに、殆ど何しに出て来たのだかよく判らない結城リナは、マンションのエレベーターでいずみと擦れ違ふ、「ほたるこい」を口笛で吹く女・綾香。
 いずみは西村へのヤブヘビ気味の当てつけとして、藤井に抱かれることを求める。対する藤井にとつていずみは友人の未亡人であることに加へ、自身も妻帯者である、藤井は困惑を禁じ得ない。何時しかマクガフィンとしてすら機能しない歌ふ女の正体など何処吹く風、物語はさういふ他愛もない堂々巡りに収束する。さうなると今作の見所は。間違ひなく強靭な筈の画面の魅力に関しては、情けないプロジェク太上映の画質では恐らくその本来の威力の何分の一すら味はふこと叶はないであらうところなので、ここはひとまづ潔く通り過ぎる。さうしたところその上でも残されるのは、煌く渡辺護の華麗なるアナクロニズム。淡島小鞠はおつかない目つきで変に声を張る、何だか映画といふよりはまるで舞台のやうな芝居を要求され、一方倖田李梨は倖田李梨で、コークでもキメた陽気な商売女のやうな破天荒な好色さを暴発させ、凡そ普段の生活の顔を想像させない。箆棒な譬へ方をすると、いずみは山崎ハコの暗黒名盤「人間まがひ」収録曲の主人公のやうな女で、恵子には下番線の東映映画に濡れ場要員として出て来さうな匂ひがプンプンする。何れも、それがそれぞれの女優としての素材に絶妙にフィットしてゐる辺りは素晴らしいが。回想、あるいは妄想の絡みを除いては2、3カットづつくらゐにしか登場しない結城リナと西岡秀記は兎も角、岡田智宏に関しても然程の無茶は見られないが、それは岡田智宏がああいふ人なので渡辺護が幾ら押しても暖簾が揺れるばかりであつたのか、それともそもそも渡辺護が、男の演技指導にはさして情熱を有し得なかつたのか。改めて振り返るならば、「義母の秘密 息子愛撫」主演の相沢ひろみが炸裂させるハチャメチャ演技も、相沢ひろみのロー・スペック以前に、そこに渡辺護が火に油を注いだ、といふのが実相であるのかも知れない。顔も身なりも今時の役者と今時の舞台でドラマは展開されながら、そこには如何ともし難い古臭さが拭ひ切れない。時にはさういふ古きを知るを通り越した要は時代錯誤に触れてみるのも、また一興ではあらう。元々脚本にあつたものではなく渡辺護のアイデアらしいが、いずみに心を囚はれ深夜にも関らず外出しようとする藤井を、恵子が諫めるシーンのマスクの使ひ方には、衝撃を通り越した戦慄すら覚えた。敢てどちらかといふならば、別の意味寄りではあるが。
 よくよく考へてみれば平成も二十年になるこの期に、カセットテープかよとそこから始まる話でもあらうか、ともいへる。

 一体本当に出て来るのか不安にさせられた川瀬陽太はオーラス、娼婦になつたいずみを買ふ男。貞淑であつた筈の妻が、夫の死とひとつの疑惑を機に何時しか淫蕩な娼婦になる。世間一般に対して通るかどうかはさて措き、全くピンクピンクした落とし処ではある。

 以下は再見時の付記< 改めて観てみると、凡そ精神の平定を保ててゐさうにはないいずみや、基本躁状態にあるとしか見えない恵子の、ひとつひとつの所作や台詞は相当にヘンテコリンだ。編集のリズムも、いずみが綾香とエレベーターの乗り口で擦れ違ふ件に殊更顕著に、あちらこちらで奇妙である。今作は時代錯誤といつた領域は既に斜め下に通り越した、いはゆる“珍作”といつた部類にさへ相当するやうに思へた。仮にさういふものを渡辺護の名前を有難がつて、徒に押戴くやうな態度があつたならば、それは、ピンク映画にとつて決して為になるものでないのではなからうか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )