「三匹の和服牝美人 十人十色の性」(2001『和服熟女の性生活 二十・三十・四十歳』の2008年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:羽生研司/脚本:遥香奈多/画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/助監督:城定秀夫/着付け:河村知也/監督助手:奥渉/撮影助手:宮永昭典/照明助手:長田はるか・平岡えり/編集:金子尚樹/効果:梅沢身知子/エンディング・テーマ:川奈和美『試練だらけの恋』/協力:坂本礼・小泉剛・菅沼隆・堀禎一、他二名/出演:佐々木麻由子・竹本泰史・南あみ・野上正義・柳東史・くすのき琴美・岡田謙一郎・松井明/人形の声:林舞希子)。羽生朝子ともう一人羽生姓の人間が、それぞれ別々の弦楽器(片方はコントラバス)の演奏としてクレジットされる。美術協力に力尽きる。
人人の手を渡る陶人形(声:林舞希子)を狂言回しとした、三話オムニバス。再見をずつと切望してゐた、羽生研司のデビュー作である。
第一話「時代屋の未亡人」(四十歳)。夫・露崎(中野英雄とTIMのゴルゴ松本を足して二で割つたやうな遺影のみ登場、誰なのかは不明)の死後、遺された古道具屋(ロケ地:ギャラリー露崎@於下北沢)を切り盛りする春江(佐々木)。ものの元来古美術に明るくない春江に経営は荷が重く、春江は借金ばかりがかさむ店を閉めることにする。そんな折、一人の男がギャラリーを訪れる。今は新進気鋭の画家として活躍する日野竜彦(竹本)は、若く貧しい頃、露崎に何かと世話になつてゐた。日本を離れてゐた日野は露崎の死を知らなかつたが、当時店に飾られてゐた、露崎が春江をモデルに描いた絵を買ひに現れたものだつた。売り物ではないと拒む春江に対し、日野はそれならばと、新たに春江をモデルに絵を描かせて呉れることを求める。実は日野は春江に、恋慕の情を抱いてゐた。
第二話「華道の人妻」(三十歳)。華道家元の吉田秋子(南)は、歳の離れた夫・宏(野上)が最近寄る年波には勝てず弱くなつて来たこともあり、夫婦の間にギクシャクしたものを感じてゐた。ある日ままならぬ夫婦生活に二人して手を焼いてゐたところに、弟子の松任谷昌之(柳)の訪問を受ける。稽古も終り、松任谷から悩みを打ち明けられた秋子は、上手く捌け損ねた宏が物影から覗いてゐることも忘れたのか、松任谷に体を開く。
第三話「同級生の義母」(二十歳)。夏美(くすのき)は高校時代の彼氏・明(松井)の父親である、スナックを経営する若山洋一(岡田)と結婚する。元々暴力的であつた明は父親に女を寝取られたことから更に荒れ、開店前の店で夏美、即ち今は義母を衝動的に犯す。事後飛び出した明は、橋の上で不貞腐れてゐるところを父親に目撃されたのを最後に、そのまま姿を消す。
一話から二話に跨ぐ際には、一話のラスト春江が矢張り店を締める際に人形は三千円で売りに出され、夏美は三話の冒頭、人形をお師匠から頂いて来る。各話の登場人物が、同一フレーム内に納まるカットはない。
概観を通り越して大雑把に纏めると、各三話のドラマとしての出来栄えは、第一話>第二話>第三話。主演女優の美しさといふ面では、第二話>>>>>>>>第一話>第三話。その為リアルタイム鑑賞時にはストレートに尻すぼんでしまふ、といふ感想であつたが、改めて観返してみたところ、若干受ける印象も変化した。段々に各話の主演女優が若くなつて行くことは兎も角、オーソドックスなラブストーリーである第一話から、テンポはスローながら直截に性のエモーションを表に出す秋子がはんなりと大暴れする、艶笑譚としての第二話を経て、少々粗雑ながらも大きなネタを落とす第三話は殆どいはばコント、といふ構成乃至は流れは理解出来ぬでもない。幾分冗長ではありつつ、飛び出したままの息子が<娘>となつて帰つて来る件。初めは客と勘違ひし歓待しながら徐々に目を白黒させやがて度肝を抜かれるといふ、岡田謙一郎のベテランならではの名演は、見事なオチの落差を補完する。もう少し第三話の主演がまともにお芝居の出来る女優であつたならば、結果はまるで変つてゐたやうにも思へる。髪を拭かれながら事に及ぶ、夏美と若山との夫婦生活は非情に雰囲気のあるいい濡れ場ではあつたのだが。
同じ人形が登場すること以外には、まるで形式的にも内容的にも別個の各三話ではあるが、共通するのは微笑ましいポップ・センス。第一話、日野に言ひ寄られるも春江が困惑し逡巡すると、人形は事前の自慰シーンで春江が人形の隣に立ててゐた張形を、二人の気を引くやうに「エイ☆」と倒し、先に進まない状況をアシストする。第二話、初めて彼女の出来た松任谷がとはいへ包茎であるといふ悩みを秋子に打ち明けると、秋子は失笑を禁じ得ず、二人の様子を秘かに覗き見る宏は、声は押し殺しつつ手足をバタバタさせながら笑ひ転げる、のに加へ。こちらも事前のカットで畳の上を這つてゐたカメムシをも、(ひつくり返らされ)手足をバタバタさせる。カメムシにまで皮被りを笑はれるといふのも随分な話ではあるが、続いて慈しみ深く勿論童貞の松任谷を自ら優しく抱(いだ)き受け容れる秋子、即ち南あみの姿には、決定力のある美しさが轟く。第三話では話の筋とは特に無関係ながら、色気づいた人形は遂に福助人形の旦那さんをゲットし、驚喜する。その可愛らしさ瑞々しさは、今に至つても些かも損なはれてはゐない。そもそも、脚本は人に書かせたものだとしても(本人の変名であるやも知れぬが)、各話のテイストを綺麗に違へてみせること自体が、デビュー作としてみるならば畏るべきことでもあらう。とはいへ結果論としては、この時ピンクスが抱いた期待が、少なくとも現時点では未だ叶へられてゐないのは心苦しいところでもあるのだが。五十音順にたとへば久万真路、城定秀夫、寺嶋亮、そして今作の羽生研司。第一作を華々しく輝かせながら、以降長い雌伏を続ける逸材の何と多いことよ。一応はピンクでの続く監督作のある羽生研司と、前三者とではまた話が異なるやも知れないが。
協力勢は時代屋を訪れる一人客と、若山のスナックでクリスマス・パーティーに興じる一団か。
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