「喪明け妻 一周忌の情事にて…」(1992『喪服妻 生贄地獄』の2011年旧作改題版/製作:飯泉プロダクション/提供:Xces Film/監督:北沢幸雄/脚本:笠原克三/企画:業沖九太/製作:北沢幸雄/撮影:千葉幸男/照明:隅田浩行/音楽:T2/編集:フィルムクラフト/助監督:増野琢磨・岩波均/効果:東京スクリーンサービス/出演:荒木美操・水鳥川彩・千秋誠・上田耕造・平賀勘一・芳田正浩・小林節彦・伊藤猛)。“球太”ではなく企画の業沖九太は、本篇クレジットまゝ、撮影部セカンドその他諸々に力尽きる。
一年前に事故死―よもや航空機事故ではあるまいな― した亡夫・桜庭コージ(上田)の墓を、喪服姿の寡婦・紀美子(荒木)が参る。手前に一輪の菊の花を置き、画面遠く奥に紀美子を捉へたロング・ショットが極端に青味を上げた画調に変るや、フレーム・インした男の手が花弁を摘み潰しタイトル・イン。
桜庭在りし日の夫婦生活の回想を挿んで、ひとまづ墓参を終へた紀美子に、桜庭とは趣味のラジコン仲間であつたといふ、久世トシオ(伊藤)が接触する。ここで、繋ぎの遣り取りに一々躓かざるを得ないのが、喪装の女をしかも墓前で捕まへて、褒めるにしても黒い服装が似合ふだなどといふのは、初対面の男と女の社交辞令以前に、大人の会話として些かならず見識を欠きはしないか。兎も角、桜庭のラジコン操縦の腕前に憧れる久世が、今でも生前に撮影したビデオを見ては研究するとの発言に、紀美子は喰ひつく。急死後桜庭家には空巣が入り、ここは正直不自然に思へなくもないが、その時桜庭ゆかりの品々は持ち去られてしまつてゐた。とかいふ流れで、紀美子は久世とともに、同好の士が投資目的も込みで購入したマンションの一室に向かふ。そこはかつて、紀美子が桜庭に連れられ訪れたこともある場所であつた。久世撮影による、桜庭がラジコンを操る映像を紀美子は素直に懐かしむが、ビデオは何時しか、矢張り久世が撮影した、その部屋にて紀美子が桜庭に抱かれる盗撮映像にと切り替る。当然気色を変へる紀美子ではあつたが、久世に薬を盛られた、体の自由は既に利かなかつた。久世は挨拶代りに軽く嬲つた紀美子を再び愛車のランドクルーザーに乗せると、今度は空き地の一角が入り口となる秘密の地下室へと運ぶ。そこでは、平賀勘一と小林節彦が久世の所有物であるノリコ(水鳥川)を二人がかりで責め、更に千秋誠が、芳田正浩に奉仕してゐた。紀美子登場に色めき立つと同時に、何をされても喜ぶやうになつたノリコに見切りをつけた男達は、その夜を最後に、ノリコを解放しはしないが手放すことにする。
慰み飽きた女は平然と、行く末をトレースすることもなく闇ルートに卸す。正しく鬼畜の所業といふに相応しい秘密クラブに囚はれた未亡人が、陵辱の限りを受ける。即ち、元題の額面通りに“喪服妻”が、“生贄地獄”に堕ちる。凶悪なればこそ強力な物語を、前半を丸々費やし入念にあつらへたまではいいものの、今作が映画的な、あるいは反映画的な真の牙を剥くのはここから。紀美子が地下室に入つたところで、少々勿体なさも残しつつ水鳥川彩と千秋誠は、“生贄地獄”のイントロダクションをほぼ唯一の任務に僅かな出番でそそくさと退場。主演の荒木美操は華のある容姿も適度に的確な肢体も、裸映画を一人で支へ抜くに十二分な威力に近い魅力を誇りながらも、それにしても、このまま紀美子が徹頭徹尾延々とヤリ倒されるだけでは、流石に劇映画として何ぼ何でもあんまりだよな、とも不安になりかけた終盤。地下室の入り口に、謎のカーキのロング・コートの後姿が現れる。来た来た来た遂に来た漸く来た!殆ど尺も残されてはゐないが、女の裸のみに支配された始終を裸の劇映画としての充実に力技で引つこ抜く、急展開の期待が俄に膨らむ。冷静に考へてみれば振り逃げに近いやうな形であつたとて、観客をアッと驚かせそのまま有無もいはさず映画を畳み込んでみせるのも、れつきとした娯楽映画のひとつの主砲、もとい手法に違ひあるまい。ところが、カーキ・コートの主こと、桜庭がどうやらピンピン生きてゐるのは兎も角、別の意味で見事にそこで話が終つてしまふのには逆方向に度肝を抜かれた。四人に蹂躙される紀美子を地上から窺ひ、高笑ふ桜庭の姿からは、クラブのメンバーをも欺く徒に手間のかゝつた邪欲が透けて来ぬでもないとはいへ、そこは桜庭には地下室に下りて、一同を驚愕させて貰はないと。これでは単なる、自己満足に小躍りする不審者でしかない。黙つて品性下劣なポルノらしいポルノを愉しんでゐてもいいものを、下手に鑑賞眼気取りの節穴をひけらかし余計な色気を出すや、超豪快なフェイントに打ちのめされる。「馬鹿野郎、ピンクを観るのに首から上は耳目以外使ふな。腰から下だ、腰から下で観ろ!」とでもいはんばかりの、北沢幸雄からのエモーショナルなメッセージの込められた一作。さういふことに、この際しておいては如何だらう?
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