真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「パイズリ熟女・裏責め」(1995/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:五代暁子/撮影:柳田友貴/照明:渡部和成/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワ・プロ/録音:シネキャビン/現像:東映化学《株》/出演:冴島奈緒・桃井良子・吉行由実・白都翔一・坂入正三・樹かず・港雄一)。
 早朝の思ひきり民家に構へられた「今井探偵事務所」、出勤した調査員の真理子(冴島)が未だ眠る所長の今井(坂入)のズボンを下ろしてタイトル・イン。贅沢にも当初今井は二の足も踏みつつの一戦終へたタイミングで、調査依頼の電話が鳴る。ちやうど真理子が脱ぎ終るのに合はせるオープニング・クレジットも併せて、開巻は何気に完璧。そんなこんなで真理子が出向いたミサトニックな滝沢邸、依頼者は一人息子の慎司(白都)。資産家の父親が六十五にして何と二十歳の小娘と再婚、そんな女に遺産をカッ浚はれては堪らないので年下の義母・エミ(桃井)の浮気を暴き、離婚に持ち込んで欲しいといふのだ。そこに慎司の妻・ミドリ(吉行)が現れ、自分たちはテニスに行くの不自然な一点張りで、真理子に床に伏せる滝沢(港)を一時間押しつけ外出する。となると当然何だかんだで元気な滝沢にも跨つた上で、やつとこさ探偵らしい行動開始。真理子はエミをプリプリユッサユッサ尾行、無論、プリプリするのは尻で、ユッサユッサするのは乳だ。日本語の歴史の中で最も、無意味な一文を書いた気がする。真理子に尾けられてゐることに気付きながら、エミは平然とマコト(樹)と合流する。
 大御大・小林悟の1995年ピンク限定最終第十作、薔薇族がもう二本。要は脚本に五代暁子を迎へた―だけの―ことが最大の勝因といへるのか、これといつた中身は特にないにせよ一本の物語をつつがなく消化して下さつただけで、有難い有難い気持ちにすらなつてしまへるのは一体如何なる相談か。根本的に間違つてゐるやうに思へなくもないが、細かいことは気にするな、エモーションはエモーションだ。三本柱が超絶であるだけに、お話さへそれなりに整つてゐればひとまづ裸映画としては完成する。小林悟は絡みに際して仕出かすことはなく、柳田友貴のカメラも四次元に動かない。下手に放置すると作品世界を木端微塵に粉砕することもある冴島奈緒大先生のガッハッハ系の豪胆な自キャラも、これで案外大御大が御し得たのか単に濡れ場の比重の高さゆゑ羽目を外す間もなかつたのか、兎も角今作に関してはおとなしく親和する。冴島奈緒は男優部を総嘗めし、桃井良子は二戦目は真理子も引き込んでの二回、吉行由実は順当な夫婦生活の一度きりといふ、綺麗な黄金比は矢張り磐石。一件終着後、相変らず尾行の下手糞な真理子が相変らず男運に恵まれるエミと再会するオーラス。奮起を期した真理子は無駄話をしてゐる内に調査対象(誰だこれ?)を見失つてしまふものの、「ま、いいか」と元気に歩き出した背中にズンチャカ適当な劇伴が鳴り始める終幕は開巻に続き改めて完璧、頭と尻が堅いと映画は強い。


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 「裸女の宅配便」(1990/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:喜久村徳章/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:金子編集室/助監督:石崎雅幸/撮影助手:井本康三・向後光徳/照明助手:佐野洋一郎/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真実・香園寺忍・俵ひとみ・井上真愉見・黒田武士・久須美欽一・工藤正人・吉岡市郎)。脚本の水谷一二三は、小川和久(=欽也)の変名。
 おこたで晩酌する工藤正人、しがないチョンガーに見えた印象は、半分正解。自身も団地暮らしで、後に離婚して二ヶ月であることを嬢に自己紹介する小林(工藤)は、折込の中に紛れ込んでゐたピンクチラシに団地の奥さん目当てで琴線を弾かれる。早速ダイヤル式の電話をかけてみた、小林の希望は二十五歳くらゐの人妻。同様の遣り取りを繰り返すところをみるに何処からのものなのか実はよく判らない、折り返しを小林が受けたところでタイトル・イン。三人のコールガールが同じ車に乗り合はせて移動、クレジットに連動して人妻の信子(小川)、OLのユリ(香園寺)、女子大生のマリ(俵)の順に抜かれる。ところでマリは石川恵美のアテレコにしか聞こえないが、あるいは杉原みさおと持田さつきと同じ関係、即ち画期的に声のよく似た二人であるのかも。車を回す山田(黒田)の指示で、マリは何処ぞのホテルの302号室で待つ小山(久須美)の所に。ユリは鈴木カズオ(吉岡)宅の一軒家、そして信子がE-14号棟308―凄え巨大団地だ―の小林の下へとそれぞれ出撃する。
 和久名義の小川欽也1990年全十一作中第二作、薔薇族含むと十二の三。jmdbも、それに引き摺られたのかDMMも共にタイトルを「裸女の宅急便」としてゐるものの、正しくは宅配便である。小林との挨拶がてら、信子は売春を始めた経緯を振り返る。出張ばかりの夫が月に一週間しか家に居ず、信子は欲求不満を持て余してゐた。女性週刊誌に触発されての自慰を一通り見せた上で、友人で週刊誌記者のエツコ(井上)が遊びに来る。エツコは信子を彼氏が始めたバーのアルバイトに誘ひ、山田の店「ナイトスポット」に連れて行く。山田が信子のビールにカプセル錠をバラした薬物を判り易く混入しつつ、マリを指名する電話が店にかゝつて来ると、裸女の宅配便をケロッと白状。さうかうしてゐる内に前後不覚に陥つた信子を二階に上げての巴戦に突入、以来今に至る。といふ回想が、延々十七分弱続く大胆不敵な構成には呆れついでに別の意味で度肝を抜かれたが、驚くのはまだ早い。302号室と小林の部屋と鈴木宅、忘れた頃にナイトスポット。以降も物語らしい物語が終ぞ起動すらすることなく、四箇所を行つたり来たりしながらひたすらに濡れ場濡れ場を連ね倒した挙句に、心がこもらなければ中身もない吉岡市郎のナレーションに乗せ各絡みのハイライトを更に適当に並べて終りといふある意味清々しさには、いつそ勘違ひして感心してしまへた方が寧ろ気が楽なのかも知れない。女の裸のみである以上、正真正銘の裸映画・オブ・裸映画とでもしか評しやうのない一作。ただそんな今作を紙一重救ふのが、これまで気付かされたことはなかつた吉岡市郎の芳醇さ。そこかしこで細かく織り込む小さなアクションの地味な味はひ深さと、鈴木が捌け際すつかり意気投合したユリに「これ持つてきなさい、好きな物買ひなさい」と、財布ごと―通常料金外の―金を渡すカットの男ぶりとは何気に光る。事後手料理を振舞ふ場面なども微笑ましく、鈴木パートはそれでも劇映画を見てゐる満足感を微かに残す。

 新田栄の「セミドキュメント 離婚妻の性」(昭和61)を見た時にも引つかゝつた点で一つ気になるのが、昨今我々が知る姿より確実に少なく見える久須美欽一の髪の量。・・・これもしかして、俺は消されるのか?


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 「乱熟秘書 吸ひつく下半身」(1997/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:図書紀芳/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/音楽:OK企画/編集:《有》フィルムクラフト/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:田宮健彦・中野貴大/勢作進行:加藤義一/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーン・サービス/現像:東映化学《株》/スチール:津田一郎/出演:小川美那子・林由美香・新納敏正・萩原賢三・皆川衆・木澤雅博・北沢はじめ)。脚本の水谷一二三は、小川和久(=欽也)の変名。
 開巻即、シャワーを浴びる小川美那子の背中にタイトル・イン、オープニング・クレジットが出演者に差しかゝる際に、小川美那子は振り返り乳も見せる。同じ建設会社に勤める三十六歳の水上芳子(小川)と、八つ下の建築士・山田圭二(新納)との山田の部屋での情事。歳の差には拘らず結婚も辞さない構への山田に対し、芳子は頑強に二の足を踏み続ける。翌朝か勤務先、新社長に就任した大川(萩原)は、念願とのことで芳子を秘書に迎へる。ビル夜景がカウンターの右手に来るのが仮称摩天楼で、背中に来るのがこちらといふ識別法に漸く辿り着いた、スナック「美風」。山田が同僚の山下(木澤)と飲み、荒木太郎と内藤忠司を足して二で割つた感じの皆川衆がマスター。山田は、社内順位を大幅に跳び越す大川の大抜擢を受けてゐた。遅れて美風に到着した芳子は、山下の気配を察すると踵を返し山田の部屋に直行する。大川があくまで紳士的に芳子を口説く―細君の去就は一切語られない―傍ら、大川の娘・朱美(北沢)も山田に興味を抱く。ただでさへ芳子がウジウジと首を縦に振らない中、選りにも選つて社長の横槍がしかも挟撃する形で入つた格好の山田がやきもきさせられる一方で、挙句に出世頭の山田を明確にロック・オンした、塚本やよい(林)までもが飛び込み話は一層ややこしくなる。芳子不在の休日の山田宅を、御丁寧に雨に降られたやよいが急襲。出し抜けに脱ぎ始めるや「うわあ、下着まで濡れちやつた」、「体冷えちやつた、擦つて呉れる?」と雪崩れ込む一戦には、小川欽也の天才を確信せずにはをれない。後にそのことを芳子に指摘された山田の抗弁も、「会つて呉れないから、欲求不満で」だなどといふのは最短距離にもほどがある。
 和久名義の小川欽也1997年全四作中第三作、jmdbを鵜呑みにするとこの年は全て和久作らしい。要は芳子の意固地を全ての元凶に、色事とフリーに直結した恋路が判り易く交錯する、ピンクで綺麗な恋愛映画。絡みを担当するのが萩原賢三までで、その他周囲に配されるのも皆川衆と木澤雅博と、布陣には些かの遜色もない。ラブ・ストーリー自体の骨格がしつかりしてゐる故、濡れ場濡れ場で展開を繋げる話法に無理なりやつゝけぶりを感じさせることもなく、唯一残る疑問を除くと実に安定した裸映画。大体が初登場は林由美香を先んじるにも関らず、終にビリング・トメの北沢はじめが脱がない出し惜しみを差つ引けば。尤もその点に関しては、時機を失した三番手の捻じ込みがドラマの推移を阻害することを回避したともいへようし、如何せん北沢はじめといふ人の素性が全く判らないのだが、そもそもこの人は裸になる前提にはないのか?それ以前に、さうでなくては観客よりも先に大蔵が首を縦には振るまいが。少なくとも素材としては、普通にハキハキした若くて美人である。

 因みに今作のビリング順に小川美那子と林由美香と皆川衆は、翌年木澤雅博の「宿」(公開は2002年/製作・配給:回転ねこ/監督・原作・企画:木澤雅博)に出演してゐる。


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 「美人家庭教師 欲しがる下半身」(2002/製作:ニューエンタテインメント?/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:橘満八・工藤雅典/プロデューサー:西川友吉/音楽:たつのすけ/撮影:井上明夫/照明:奥村誠/録音:野田正則/ヘア・メイク:MASAMI/編集:南三郎/制作:ピュア/出演:上村ひな・永井真希・速水今日子・片岡命・清水健二・井田延・拓植亮二・なかみつせいじ/友情出演:町田政則)。を、コンマビジョンより2008年にリリースされたDVD題「女子大生教師 不倫の代償」の形でDMM戦。ゆゑにピンク版のクレジットなりビリングとは、あちこち異なるやも知れぬ。土台、助監督や各部セカンド始め、致命的なのは現像のクレジットがない。
 DVDタイトルで見たとはいふものの、開巻即座に愕然とする。なかみつせいじが横たはる上村ひなに無造作に札片を捨てるが如く切る、オープニング・シークエンスの無体さに対してではない。何だこりや、

 ビデオ撮りかよ

 こんなの観たかいな?リアルタイムは素通りしたのかまるで覚えがないが、兎も角話を戻すとデザイン事務所を経営する寺崎磐(なかみつ)が白樺女子大生のアルバイト、兼不倫相手の桐原優香(上村)に投げたのは、退職金名目の手切れ金。口をパクパクと覚束なく絶句する優香の泳ぐ視線が、寺崎家の家族写真を捉へたところでタイトル・イン。そこに至るまでの段取りは豪快に割愛し、タイトル明けると優香が車庫にはロメロも停まる寺崎邸を訪ねる。寺崎を急襲すべくいきなり本丸に乗り込んだ、訳ではその時点では必ずしもない。寺崎の娘で白樺女子を志望する琴美(永井)の家庭教師の座に潜り込むことに何時の間にか成功した優香を、妻の恵里子(速水)が迎へる。だからどうといふ特徴も見当たらないのだが、因みに今作が速水今日子にとつてピンク初陣。恵里子の隣で所在なさげにポケーッと座る琴美の成績は、夏から急降下してゐた。そんな琴美が優香のイヤリングに注目し表情を緩めかけたかに見えるカットは、永井真希の心許なさに伏線認定の半信半疑以前に、結果的には一欠片の意味もありはしなかつた。大丈夫かな、この映画だかVシネ。以降幾度と繰り返される優香の寺崎との回想と、無言電話をかけ続ける―着拒すれば済む話だろ―現況。速水今日子唯一の濡れ場となる短い夫婦生活と、根暗な童貞臭をボサッと爆裂させる琴美の弟・健太(片岡)の顔見せ挿んで、出し抜けに登場し通り過ぎて行く清水健二は琴美の凶悪な彼氏・京介で、井田延と拓植亮二は京介が琴美を物のやうに宛がふ悪友二名。何故かそのレイプ現場に居合はせたのだか尾けてゐたのだかは語られない以上俺は知らんけど、兎に角助けもせずに見てゐた優香はボロボロの状態で帰宅した琴美を素知らぬ顔で保護。百合の香も漂はせながら体を洗つてやる様子を、更に超絶のタイミングで帰宅した健太に覗かせる。ぼちぼち本気を出し優香は加速、恵里子には内緒話を厳命した上で琴美が寺崎の浮気を目撃したとの嘘情報を吹き込み、意図的に前乗りした寺崎家で健太を首尾よく捕獲すると、適当に誘惑した上でパンティをプレゼント。後に姉の家庭教師風景を再び覗かせては、コッソリ自ら裸の尻を晒す、コッソリ尻を出せるのかといふ疑問を持つのは禁止だ。
 工藤雅典ピンク映画第七作、若干超過して総尺も六十三分強だけど、ピンクでカウントしていいんだよね?詰まるところはただならぬ諜報能力を誇るスーパー女子大生が一家丸ごとに仕掛けた、女の武器も駆使しての復讐譚。あ、大事なことを忘れてた、ところで家庭を顧みない寺崎は連夜帰りが遅く、家に出入りする優香の存在をそもそも知らないといふ大方便。バーホーベンな大方便、何となく思ひついたままに書いてみた。そこかしこでK点越えの直截には藪から棒な大飛躍をカッ飛ばし、クリシェばかりの展開にも一旦は唖然としかけたものの、よくよく考へてみると紋切型を排するなり逸脱しようとする無駄な色気のないだけに、案外ひとまづひとつの物語として纏まつてはゐる。指導報告書といふ名の爆弾を軸にしたサスペンスは、順調に導火線を消化した後に綺麗に爆発―有刺鉄線にダイブする大仁田厚よろしく、なかみつせいじの被爆ぶりも絶品―し、まさかのカメオで町田政則が、全てを失つた寺崎に止めを刺しに飛び込んで来るサプライズも嬉しい。ビデオ画質に目を塞がれると見失ひがちになつてしまふのかも知れないが、これでもひとまづひとつの物語として纏まつてゐる分、まだマシな部類であつたのだ。今回で目下全十六作をコンプした格好につき、勢ひに任せ筆を常にも増して滑らせてのけるが、第二作の「美人取立て屋 恥づかしい行為」(1999/主演:青山実樹)と第四作「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001/主演:岩下由里香/脚本は二作とも橘満八との共同脚本)はいはば紛れ当たりで、残りは第十二作「おひとりさま 三十路OLの性」(2008/主演:友田真希)で幾分以上持ち直したほかは押並べてへべれけかそれ以下の木端微塵。無冠の帝王・新田栄の名前すら既にない、昨今の激減したエクセスの新作製作体制の中にも生き残り、その名前を聞くと何となく有難く構へる空気もあつたやうに見受けつつ、ハッキリいふが実は我々は大概、工藤雅典といふ映画監督を過大評価してゐたのではなからうか。

 ついでに、工藤雅典で逆の意味で一番面白いのはこちらもカテキョものの前作「美人家庭教師 半熟いぢり」(2001/主演:加藤由香)。全篇ボロボロなのだが、ツッコミ処の破壊力が徐々に増して行く一昨日な奇跡が明後日に素晴らしい。


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 「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:橘満八・工藤雅典/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:栗山修司/照明:三枝隆之/録音:シネキャビン/編集:金子尚樹/音楽:たつのすけ/助監督:竹洞哲也/監督助手:城定秀夫・浜辺華奈/撮影助手:山本直史/ヘアメイク:河村知也/スチール:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映化学/出演:岩下由里香・里見瑤子・佐々木麻由子・前川勝則・久須美欽一・野上正義・森士林)。
 ボンネットの「エンジェル自動車学校」校章をまづ抜いて、講習中の額に巻いた捻りタオルがポップなトラック運転手・島崎(前川)の股間に、助手席から教官のくらら(岩下)が顔を埋める。頭を起こしたくららは不遜に左右を見やると、ぶつきらぼうに「次の角、右」。一方エンジェル自動車学校校舎前では、これから走る後藤(久須美)の教習車に乗り込んだ教官のれいな(里見)が、大概なミニスカから太股も露に「をぢさま、出して」。ダブル・ミーニングで「ハイ」と鼻の下を伸ばし頷く久須美欽一の何気ないメソッドに、完成品のみが持ち得る安定感が偉ぶらずに煌く。島崎の車に続いて、後藤の車も「ホテルライフ」に入る。くららとれいな、互ひに騎乗位で突かれる二人を行き来するカメラの、五手くららでタイトル・イン。くららとれいなは問題のある生徒に免許を取らせる為なら手段を選ばないと称して、要は実質枕教習を旨とするその名も“仮免エンジェルス”。エンジェル自動車学校校長室、校長のチャーリーもとい今村(野上)は仮免エンジェルスの二人に、これまで十四箇所の自動車学校を渡り歩くだかたらひ回しにされてなほ免許の取れない、札とまではいはぬにせよ曰くつきの富田浩一郎を任せる。富田(森)は適度に精悍なイケメンではあつたが、車に乗るや緊張するどころか一息に挙動不審の領域に通り越し、乗車姿勢の設定に日が暮れるまで強迫的に費やすやうな、確かに煮ても焼いても喰へない男であつた。ある日帰りしなに学科の教習を終へた富田と一緒になつたくららは、軽くデート、いい雰囲気になる。島崎の言葉から富田は制服に緊張するのではないかといふ適当なヒントを得たくららは、一計を案じる。
 そんなある日。れいなが校長室の前を通りがかると、中では何と情事の気配が。三番手ながら史上空前レベルに完璧な起用法の中で咲き誇る佐々木麻由子―そもそも、この時期飛ぶ鳥落とす勢ひの佐々木麻由子が三番手といふのも恐ろしい話だが―は、後に実は社員であつた後藤が誇らしげにいふ総売り上げ八兆円、世界第三位の自動車会社「トミタ・モータース」の社長夫人・富田百合恵。二千万を積み、今村に他愛ない重要な問題の解決を依頼する。因みにエンジェル自動車学校の教習車はホンダ車なのだが、そこは別に拘らないんだな。閑話休題、ちやうど尺の折り返し地点で飛び込んで来るタイミングも含めて、佐々木麻由子起用法の何が史上空前レベルに完璧なのかといふと、重要な情報を落とす最初二回と、繋ぎの一幕には過ぎない最後の一回、何れにせよ登場する度に、素面の会話でも事済むものを一々今村と一戦交へてみせる桃色の花香る勤勉性。さうなると方便臭も漂ひかねないところが、攻める佐々木麻由子と受けるは野上正義、無理なくシークエンスを成立しめる豪華な配役の説得力が改めて絶品。
 工藤雅典2001年全三作中第一作、兼ピンク映画第四作は、しなやかで愛ほしい正調娯楽映画の秀作にして、私選工藤雅典最高傑作。清々しくピンク映画的な仮免エンジェルスの大活躍から、ダイレクトな濡れ場比率の高ささへさて措けば思ひきりストレートな恋愛映画へと華麗に以降。強欲な相棒の横槍に水を差された、ヒロインの恋路の行方や如何に。先に触れた佐々木麻由子投入に加へて、島崎と後藤それぞれのくららへのさりげない援護射撃の撃ち具合。細部まで練り抜かれた磐石な構成も素晴らしいが、何はともあれ、平素は男勝りの“仮免エンジェルス”クールな方―れいなはキュートな方―から、プライベートで惚れた男と二人きりになると途端にしをらしくなる、“日本のスカーレット・ヨハンソン”―声がハスキーなだけだろ―岩下由里香超絶のツンデレぶりが堪らん、タッパが高いところに更にエモーションを加速される。それは単なるお前の趣味だ、それがどうした文句があるか、大いにあるかもな。話を戻すと、エンジェル自動車学校に通ふ理由が、れいなと遊ぶ以外には特に見当たらない後藤の描き込みには物足りなさも残す反面、島崎が免許取り消しになつた逸話を自嘲気味に振り返る件なども実に豊潤。強ひて贅沢をいふならば、二兎取りの都合のいいラストが完全にれいなは排除したくららと富田の二人で完結してしまひ、それもそれでいいとしても、もう一段欲を見せて―特に逼迫した事情の―島崎と後藤の去就も返す刀で回収する、王道の大団円をも望むのは過ぎた相談であらうか。ともあれお腹一杯の女の裸と物語の面白さとを見事に両立した、ピンクで映画なピンク映画の相当な到達点。確かにこの時までは、工藤雅典は輝いてゐた。


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 「美人取立て屋 恥づかしい行為」(1999/企画・製作:新日本映像株式会社/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:橘満八・工藤雅典/プロデューサー:稲山悌二・西澤信行/撮影:上野彰吾/照明:田村文彦/音楽:たつのすけ/編集:三條知生/録音:加藤大和/助監督:高田宝重/監督助手:永井卓爾/撮影助手:中澤正行/照明助手:船橋正生/編集助手:青野直子/音響効果:中村佳央/スチール:佐藤初太郎/ヘアーメイク:早津晋二/制作担当:岡輝男/現像:東映化学/協力:日活撮影所/出演:青山実樹・佐々木ユメカ・黒田詩織・森士林・吉田祐健・飯島大介・町田政則・赤星昇一郎)。照明の田村文彦の文の字が、正確には左から右のはらひが髭付き、明朝体でないと出せん。
 青山実樹と飯島大介の絡みで綺麗に開戦、正常位に入る青山実樹を左側から捉へた画が、不意に青味を強調したキネコに変化したかと思ふと鮮烈なタイトル・イン。挿入前に、美人取立て屋のたまき(青山)は町工場「猪熊製作所」社長の猪熊(飯島)に、今月分の払ひを確認。一方、先般のキネコは情事が盗撮されてゐることを示す一手で、デフォルトで花瓶に仕込まれたカメラを通し表に停められたバンの中では、たまきとは別口の取立て屋・小夜子(佐々木)とマサト(森)が、マサトはたまきに執心気味に二人をモニタリングする。介錯役の飯島大介込みでグレードの高い青山実樹の裸含めて、抜群にカッコいい開巻である。事後宅配便を装ひ「道頓堀ファイナンス」から雇はれたバンの二人が猪熊のセカンドハウスに乱入、たまきと小夜子は女のプライド混じりに交錯する。続いて登場する赤星昇一郎が、たまきのボスで「ハッピー♥ローン」社長の榎木武彦。猪熊製作所を監視する小夜子だけでなく、榎木もここに来ての不可解な猪熊の金回りのよさに疑念を懐く。車中での小夜子とマサトの一戦挿んで猪熊製作所に整理屋の鬼頭太一郎(吉田)が出入りしてゐることが判明し、榎木と道頓堀ファイナンス社長の前田欽二(町田)は共闘、軽いすつたもんだの末にチームは小夜子の仕切りで動くことになる。鬼頭のヤサを押さへ、鬼頭とパトロンの娘かつベッドの上では女王様(黒田)のプレイを、例によつて仔細は省略した完璧な首尾でモニタリングしたまではよかつたものの、鬼頭の動きは予想外に早く猪熊製作所は破産させられ、債権を回収し損ねた榎木と前田は大損する。ともあれ鬼頭の手口は掴んだと、小夜子は逆襲を誓ふ。
 栄えある翌年の正月映画でもある、当時エクセス期待の生え抜きの新星・工藤雅典の1999年全二作中第二作、兼ピンク映画第二作。因みに鬼頭V.S.黒田詩織戦の背後で流れてゐる―設定上―テレビ音声は、デビュー作の「人妻発情期 不倫まみれ」(主演:小室友里)より、川瀬陽太の声が妙に通る。近現代ピンク姐御肌最強の佐々木ユメカがドッシリ扇の要に据わり、エクセスライクが奇跡を呼んだ青山実樹と、三番手にをも既に四番を打つた実績のある黒田詩織。超絶美麗の三本柱を支へる男優部もイケメンの森士林をビリング筆頭に、登場順に飯島大介×赤星昇一郎×吉田祐健×町田政則と色気も渋味も凄味も申し分ない、エース格のオッサンを四枚揃へたチート感覚のフォー・カード。出来過ぎた布陣を腐らせることもなく、たまきとマサトのラブ・ストーリーを併走させる悪党同士で騙し合ふ活劇がしなやかに進行する、素面で面白い娯楽映画の快作。寧ろ鬼頭対道頓堀ファイナンス&ハッピー♥ローン共同戦線の対立図式を纏めることにより重きを置く前半部分に関しては、各濡れ場の短さが不足にすら感じられるほどだ。だから誰だ、エクセスは絡みばかりのエロ映画だなどと、見る前から決めつけてゐやがるのは、法人にせよ個人にせよ名前で映画を観るな。対して後半は濡れ場の比重が増す分、今度は話の展開が幾分性急になつてしまふのは土台六十分の尺では最早仕方がないのか。鬼頭撃墜の一連は兎も角としても、前田と榎木とたまきに山分けした、残りの金を全てマサトに渡した小夜子が投げる決め台詞「取立てやるんならたまきと組みなさい、向かうもアンタが必要な筈よ」。言ふでもなく話すでもなく、語るでも告げるでもない、佐々木ユメカが台詞を正しく投げる距離感ないし体温は絶品。そこだけ切り取れば震へさせられるカットではあるのだが、世知辛い稼業に厭きマサトをたまきに譲り身を引く小夜子の外堀は、決して十全に埋められてゐるとはいひ難い。ともあれそこまで望むのは些か贅沢か、リアルタイムで感服して以来ずつと再見を切望してゐつつ機会に恵まれず、今回DMMに手を出し漸く果たせたものだが、改めて見てみても色褪せない充実に唸らされる。確かにこの頃は、工藤雅典は輝いてゐた。


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 「痴漢ストーカー 狙はれた美人モデル」(2001/製作・配給:新東宝映画株式会社/監督:藤原健一/企画:福俵満/プロデューサー:寺西正己/撮影:中尾正人/照明:東海林毅/録音:シネキャビン/編集:酒井正次/音楽:川口元気/現像:東映化学工業/スチール:山本千里/メイク:横瀬久美子/制作主任:中村和樹/撮影助手:田宮健彦/照明助手:吉田誠二郎/パソコン画面:Freeks/協力:中山潔・愛染恭子・室賀厚・松嶋正樹・大将軍・大西裕・長谷川千夏・こばぴょん・ファントムラインジャパン・ファン・幻想配給社・ライトブレーン/助監督:石川二郎・斉藤一男・斉藤勲/制作協力:フィルムワークス ムービーキング/出演:沢木まゆみ・亜村佳史・西野美緒・中川真緒・河内正太・土田良治)。藤原健一の筈の脚本が抜けてゐる他、あちこち不自然な箇所は本篇クレジットに従ふ。表記自体は何もおかしくはないが、この順番で助監督が来るのも非常に珍しい。
 重村佳史と中川真緒の絡みで開戦、リアルタイムでm@stervision大哥は土田良治が真田広之に似てゐると書いてをられるが、今の目で見ると重村佳史も結構堤真一に見える。女は二人の逢瀬がその日で最後であることを惜しみ、男にとつて新しい仕事が入れば終りとなることは、初めから決めてゐたことだつた。四分弱費やし正常位→騎乗位→対面座位、再び女が上に乗る騎乗位へと華麗に移行。三番手の濡れ場を開巻に消化する奇襲作戦に加へ、巧みに互ひの、特に男の立ち位置に関する情報を練りこむオープニング・シークエンスがピンクで映画なピンク映画的に実に秀逸、先制は鮮やかに決まる。事後、「夢幻堂探偵社」の矢野彰一(重村)は夢幻堂公式サイトをチョコチョコ弄り、木下沙織(中川)が矢野の次なる標的で女子大生モデル・新庄道世(沢木)のファイルを勝手に触る。所変り雨中の張り込み、道世を送つた所属プロダクション社長の小川雅也(土田)が車中でキスを交し、その模様を矢野は撮影する。矢野が音声も拾へる仕組みがよく判らない、割愛した事前に盗聴器を車載させたのか?矢野は動画を、小川の妻で依頼人の緑(西野)に見せる。後半口に上る劇中用語によると矢野は“ホスト探偵”、対象となる女を寝取り依頼者の望まぬ関係に終止符を打つ、要は別れさせ屋であつた。緑が捌けたところで、吃驚するくらゐにショボいタイトル・イン。カメラマンに化けた矢野は道世のヌード写真の嘘企画を、小川の事務所に持ち込む。2001年当時の自分の感覚を覚えてはゐないが、さういふアプローチの仕方には、直截にトレンディな底の浅さを覚えぬでもない。大体が、名前の通らない人間の企画に、何処の事務所が金の卵を任せるんだ?兎も角、小川は時期尚早とNGを出すものの、何故だか道世は矢野が仕掛けた揺さぶりにケロッと動揺する。一方、番号を変へても辿つて来る、部屋にまで侵入してはオッカナイ血文字を残す。妙に高機動なストーカーの影に、道世は怯えてゐた。
 m@stervision大哥が五つ星をおつけになつた、藤原健一ピンク映画デビュー作。因みに藤原健一の純然たるピンク映画といふのは、今作とPINK‐Xプロジェクト第三弾でもある次作、「につぽん淫欲伝 姫狩り」(2002/主演:西村萌)の意外と僅か二本である。新東宝がここから本道回帰路線に振れることはまづ考へ難いゆゑ、断定しても問題あるまい。m@ster大哥に弓引くのは野蛮な勇気を要するが、器用にも天涯孤独を二枚揃へた在り来りなミイラ取りがミイラになる物語に、然程の魅力は感じない。世界と正対することを拒み、女を喰ひ物としか捉へてゐなかつた矢野が、“一人ぼつちでも、夢を持つて生きてゐる”道世との出会ひに感化され始まるロマンスだなどと、小癪、あるいは惰弱といふ感触しか覚えない。曲がつたものは曲がつたまゝ生きるのも、ひとつの真直ぐな生き方といへるのではないのか、私は常々さう思ふ。さういふ単なるへそ曲がり自慢はさて措き、実際に矢野による道世の撮影に突入する段、道世がテレーッと自転車で走つて来る最初の画の間抜けさや、初めてのキスの口火に、スタジオ気取りの夢幻堂のクーラーが効き過ぎで手の悴んだ道世がブラウスの釦をかけられない、といつた不自然さには、如何にも藤原健一的な脇の甘い無造作さも看て取れる。小川のお人形さんであることに疑問を懐き始めた道世が、虚ろに見やるのが鉢の中の金魚といふクリシェのどうしやうもなさは、殆どギャグにしか見えない。ところが、志賀勝ばりの渋い凄味を匂ひ立たせる河内正太が、劇中最強を誇る、そして二人目のミイラ取りとして飛び込んで来る辺りで始終がグッと締まる。とはいへ、ここに室賀厚が協力してゐるのか、無理出来ないぶりが涙ぐましいカー・アクションと大雑把な修羅場との間に挿まれた、道世と矢野の平板なクライマックスは矢張り生温い。ものの、締めの二幕、殊に一幕目が抜群に素晴らしい。男と女の後日譚を、もう一人の女も絡めて素敵に纏め上げるスマートな作劇の、さりげなさをも含めてなほさら一撃必殺の決定力には全力で惚れ惚れした。オーラスの数カットの他愛なさは蛇足臭を爆裂させつつ、完成された冒頭と洗練された幕引き際が鮮烈な印象を残す、都会の恋愛映画の秀作。となると今作に於ける真のMVPならぬアクトレスだからMVAは、実は中川真緒だ。


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 「淫獣調教 極限レイプ」(1997/制作:大敬オフィス/配給:大蔵映画/制作・脚本・監督・出演:清水大敬/撮影:小西泰正/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/美術:清水正子/音楽:サウンド・キッズ/助監督:加藤義一/スチール:加藤翔/監督助手:古川昌史・竹洞哲也/撮影助手:佐藤剛・植松亮/照明助手:藤森玄一郎・細貝康介/制作進行:大野基/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイトル:道川昭/制作協力:翔スタジオ・《有》メイクス・哀川良二・田邊幹男/出演:斉藤容子・林由美香・中村京子・神戸顕一・水海伸一郎・相沢直樹・羽田勝博・モト大野・土門丈・牧村耕次)。出演者中、土門丈の丈の字が正確には左から右のはらひが髭付き、明朝体でないと出せん。
 何とか丘病院の外景で開巻、スタッフのクレジットから入る。制作協力まで行つたところで、主演女優がTバックをペロンチョと履く。続いてガーターを身に着け、ブラの中にオッパイを押し込む。実に美しい体である、今作の最も賢明な鑑賞法は、ここで見るのを止めてしまふこと。以降は、劫火の中に栗を拾ひに行く覚悟が必要だ、既に炭になつてゐるとも知らずにな。右手を眉間に当てこちらを見るジョン・カサベテスを一拍挿んだ上で・・・・やつちまつた、清水大敬がやつちまつたよ・・・・“この作品を 今は亡き ジョン・カサベテス監督に 捧げます・・・。”スペースで改行。やつちまひやがつた清水大敬、悪いことはいはないから、巨大な世話だがカサベテス好きは見ない方がいい、映画監督で俳優の清水大敬(本名:清水昇)さんのキル害事件が起こる。タイトル・インもまだなのに、自分がカサベテスを選んで見るやうな人間ではないことにホッする、屈折した安堵しか早くも残されてはゐなかつた、どんなパンドラの函だ。改めて美しい体のあちこち舐めて、看護婦・山口裕子(斉藤)の「松浦先生、検診お願ひします」、一応朗らかな一声に合はせてここでタイトル・イン。既に致死量の猛毒だが、結果的には恐ろしいことにこれで全然序の口なんだよな。
 清々しく病院内には見えないスタジオ物件はさて措き、裕子と医師で恋人の松浦光二(モト)が、102病室の入院患者・鮫島(清水)の様子を見る。そこにハチャメチャにビザールな扮装の鮫島の妻・アケミ(中村)が、ファースト・カットではシュンと呼んでゐながら、絡みの最中ナオキに名前が変る愛人の相沢直樹を引き連れ乱入。遺言書について大事な話があると裕子と松浦を放逐すると、鮫島の前でアケミとシュンだかナオキだかは大熱戦を繰り広げる。一戦が収束するのを待ち、今度は鮫島の息子・ヨウヘイ(神戸)登場。中村京子と神戸顕一がそれぞれワーギャー喚き散らしながら飛び込んで来る、狂騒的な不安定さは実に清水大敬映画の生理。多分本人的には案外真面目なシネフィルなのに、自分で映画を撮ると何故かうなるのか。荒木太郎に劣るとも勝らない、“映画好きがいい映画を撮るとは限らない”テーゼを体現する日本代表にこの御仁を推したい、推すも引くもないやうな気しかしないが。
 ツッコミだすとキリがないので適当に端折ると、裕子の姉・京子(林)の顔見せと空室の102病室に於ける求婚込みの裕子V.S.松浦戦を経て、無断で屋上に姿を消し裕子を慌てさせた鮫島は、自分が死んだ場合、遺言書と遺骨を倉岡といふ男に渡して呉れだなどと、大概な難題を赤の他人の裕子に託す。そのことを裕子が京子に相談してゐるとタイミングよく松浦から電話がかゝつて来る、体は何処も悪くない筈の鮫島が死亡した。三日後、裕子は遺言書を懐に鮫島家に乗り込む。どうして清水大敬といふ人は徹頭徹尾不自然な映画を撮らないと気が済まないのか、裕子は一旦玄関の前まで行つたものの、何故か地下の駐車場に回り結局無断なので要は鮫島家に不法侵入する。写真を現像する暗室のやうな闇雲な照明の一室に祭壇は設けられ、そこではアケミが後述する何者かと文字通り狂つて乱れてゐた。裕子はアケミともう一人が果てた隙を突き、鮫島の遺骨を盗み出す。幾ら故人の遺志に副ふとはいへ、随分な行動力ではある。
 配役残り土門丈は、裕子・京子姉妹の父親で殺害された刑事、の遺影。羽田勝博が、ジョン・カサベテスが大好きな倉岡。牧村耕次は倉岡の子分で古文に造詣が深い―といふほどでもない―牧村で、水海伸一郎が牧村を呆れさせる無教養の子分B。山口刑事から逃走中に事故死した、暴走族の鮫島次男は不明。
 清水大敬ピンク映画第二作は、この時点でこの人は完成してゐたのかと、暗澹たる衝撃に打ちのめされる掛け値なしの問題作。鮫島とは対立してゐたにも関らず骨と遺書を渡され困惑する倉岡は、「お前映画好きか?」と薮から摩天楼に裕子に切り出すと、「ぢやあジョン・カサベテスつて知つてるか?」。面喰ふ裕子と観客を余所に、倉岡こと羽田勝博は半ば恍惚と続ける「金のない中でいい映画を撮り続けて、インディーズ映画の神様だよ」、「グロリア観たか?ジーナ・ローランズつて最高にセクシーだらう」。裕子がカサベテスを一本も観てゐないことを知るや倉岡は激昂、お前も鮫島と同じだ、ジョン・カサベテスを一本も観てねえやうな女はクソだと裕子を犯す。

 (;´Д`)

 そんなプリミティブな映画愛の叫び方見たことねえよ!清水大敬はグルッと一周してゐれば天才になれたのに、あと半歩が絶望的に遠かつた。ところが驚く勿れ―悲しむのはいい―これで今作の破壊力は、これでも頂点に達してゐないのだ、頂なのか底なのか判らない。御役御免で退場する名義の安定しないアケミ愛人を除けば、そこだけ割ると最終的には裕子以外全員が必ず誰かに殺される形で死ぬ終盤は、木に卒塔婆を接ぎ続ける魔展開に次ぐ魔展開。殺しのバリエーションには変に凝つてみせることと、ここは唯一正方向に評価すべき点として、腹を括つたが如き苛烈な孤軍奮闘が報はれない撮影部が現出する、鮫島邸地下室の魅力的なヴィジュアルの薮蛇ぶりとが、全篇隈なく炸裂し倒す不条理を光の速ささへ超えん勢ひで加速する。憚りながら小生も一本も観てないから―「グロリア」くらゐ若い頃に見てたかな?―よく知らないが、もしも仮に万が一、清水大敬の明々後日な真心が捧げられるに相当する映画監督でカサベテスがあつたならば、スピルバーグとてエド・ウッドと大差ない、関良平でも滝田洋二郎に勝てたかも知れないよ。清水大敬の僅かばかりの資質として、裸映画的な要素はそれなり以上に担保してあつたやうに思へなくもないが、見終わつた後心に残るはこれぞペンペン草一本生えぬ正しく不毛の荒野。ある意味「DMM荒野篇」の名に相応しいといふか、今はもう、この映画と小屋では出喰はさなかつた最低限以下の消極的なラックを言祝ぐ気力も失せた。ヘトヘトに徒労して力尽きるかのやうに眠るほかなく、枕を濡らす最後の余力もない。


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 「レイプ願望 私をいかせて!」(1996/制作:大敬オフィス/配給:大蔵映画/制作・脚本・監督・出演:清水大敬/撮影:遠藤政史/照明:隅田浩行/編集:酒井正次/音楽:遠藤浩二/演出助手:佐々木乃武良・浅野和太/撮影助手:鈴木一博・橋本彩子/照明助手:耶雲哉治/タイトル:清水正子/スチール:加藤翔/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学工業《株》/撮影協力:旦雄二・荒木太郎/出演:水野さやか・矢野陽子・吉行由美・桃井良子・呉尾パトラ・水海伸一郎・神戸顕一・麹町寅・山本清彦・土門譲・米田保洋・山根忍・荒木太郎・大海昇造・文京周平・牧村耕次/友情出演:林由美香)。
 大敬オフィス作品である旨を告げ、何故か全員仏頂面か微妙な表情のスチール込みで順に桃井良子・吉行由美・林由美香・水野さやかの三本柱+αをクレジット。し終へたところで開巻早々清水大敬病発病、小癪さが迸る極大字幕が火を噴くぜ!“この作品を ピンク映画にたづさはる すべての仲間達に さゝげます・・・ 清水大敬”スペースで改行し、原文は珍仮名。朝食用に大根を千切りする手元と、新聞配達(誰?)の風景を往き来し、キッチンからカメラが引くと下はTバック一枚の、女が半裸エプロンである辺りは清水大敬手放しでぬかりない。再び新聞配達と大根切りをジグザグして女の家にも新聞が投函されたのが五時四十分前、寝てる山本清彦を抜き台所は弁当も準備してゐることを示した上で、目覚ましが鳴るとTバックの尻を間に挟んでのタイトル・イン。それは流石に些か狙ひ過ぎ、左右に分断されたタイトルが所在なさげだ。
 ピンク映画女優の山口裕子(水野)と、恋人で同じく男優の沢田直樹(山本)の朝、今日は二人とも同じ現場で集合時間は九時。裕子の主張する朝御飯を押し切り直樹主導のマックならぬ朝ファックをコッテリとこなした上で、履き替へようとした裕子のパンティが物干しから盗まれてゐる窃盗被害を投げつつ二人は慌ただしく出発。ここでその日の撮影が遅刻に厳しい、清水組であることが明らかとなる。ひとまづ駅まで辿り着いたものの、薬缶を火にかけつ放しにして来てゐた為裕子はとんぼ返り。裕子が自宅で監督からの電話に出る件で、清水―大敬―役が牧村耕次である驚愕のキャスティングが明らかとなり度肝を抜かれる。ジャイ子の描くのび太さんどころの話ではない、美化も通り越した完全な別人だ。何だかんだで八時前、裕子は目一杯慌ててゐるといふのに家出中の姉・直美(吉行)がこんなタイミングで不意に帰宅、しかも見るからに堅気ではない情夫・鮫島(麹町)を連れて。ここでポップなダニ芝居を爆裂させる麹町寅は、羽田勝博の別名義。早速オッ始まる情事などこの際知つたことではなく、裕子は再出撃。したにも関らず、鮫島に唆された直美にバッグから財布を抜かれてしまつてゐたゆゑ再々帰還。その間ネットリと尺を費やす直美V.S.鮫島戦、無闇に壁を多用するアクロバットが馬鹿馬鹿しい。二度目の帰宅、今度は裕子から清水カントクの携帯に電話を入れてゐる内に、気が付けば直美と鮫島は姿を消す。消したかと思ふと、今度は刑事(呉尾)がトッ捕まへた窃盗犯・森山(水海)を伴ひ山口家を来訪、事前の電話では断つた現場検証を強要する。果たして裕子は、何時になつたら清水組の現場に辿り着けるのか。
 配役残り、ポップな憎まれ役を引き受ける神戸顕一は、自らヒロインに選んだ裕子の到着を待ち続ける清水カントクに喧しくプレッシャーをかけ続ける、プロデューサー・大場か大庭か大羽かあるいは大葉。助監督にしては清水よりも大場寄りに立ち振る舞ふ、林由美香のポジションがよく判らない、ついでに声はアテレコ。直樹と絡みを撮る桃井良子はハーセルフでいいのだと思ふ。矢野陽子は、朝の時点では直美を探しに家を出てゐた姉妹の母親。三人家族なのか、山口家に父親の存在は気配さへ描かれない。土門譲から文京周平までは、実スタッフ含め清水組現場要員か。荒木太郎を見落としたが、確認にもう一度見返すのは面倒臭い。
 「DMM荒野篇」、荒野にもほどがある心構へで挑んだ清水大敬デビュー作ではあつたのだが、これが満更でもなかつた。病が膏肓に達してゐるだけなのかも知れない、何を今更。裕子がどうしても家から出られない迷宮系の悪戦苦闘は、演者込みで森山パート以降の、殊に森山と鮫島とその他諸々がグジャグジャに交錯する終盤のへべれけさに目を瞑れば―無視し難いとする慧眼には異論を唱へない―水野さやかの熱演に支へられ質・量とも濡れ場も申し分なく、思ひのほか普通に見応へがある。そもそも、ヒロイン以外の登場人物の大半に終始闇雲かつ狂騒的に喚かせ続ける奇怪な演出と、従来の映画文法と観客の予想とを木端微塵に無視する魔展開。清水大敬映画と聞くと条件反射で想起させられずにはをれない悪癖も、処女作で勝手が掴めなかつたのか比較的鳴りを潜めてゐる。結局裕子と心中した格好の清水に業を煮やし、強権を発動した大葉は清水組を解散させる。後日、新しい製本台本を手に清水カントクが山口家を訪ねての締めの一幕は、何をこのオッサンは己を主人公に据ゑた物語で調子のいいことをと、呆れかけるのも無理からぬところではあるのだが、桃井良子と直樹の絡みに続いて二度目に火を噴く、抜群に肌の発色の美しい撮影部の本気に免じて野暮は控へるべきだ。と、したところまででまだ四分残す。ここからまさかまさかの驚天動地のオーラスには、油断してゐたのか完璧に裏をかゝれた。冷静に考へてみると大概プリミティブな禁じ手に思へなくもないとはいへ、全体で1.5段構への変則的メタフィクションは案外秀逸。大体が仲間に捧げて、観客は置いてけぼりかよといふ難癖は兎も角、初つ端で大上段からぶつてみせたピンク愛が当然喚起し得る危惧が的中することもなく、予想外に映画は爽やかに締め括られる。ビギナーズ・ラックここに極まれり?それをいつては元も子もなからう。

 因みに林由美香が林由美香役で出演するピンク映画といふと、「最新!!性風俗ドキュメント」(1994/監督:深町章/構成《事実上の脚本》:甲賀三郎=瀬々敬久/主演:林由美香・荒木太郎)と、同年林由美香にとつて七作前の「変態願望実現クラブ」(脚本・監督:山崎邦紀/主演:岩下あきら)に続き確認出来てゐるだけで今作で三本目。一体最終的には全部で何本あるのかといふのは一旦措いておいて、実はここまで三作外れがない。


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 「女将のくびれ腰 濡れてまさぐる」(2001『未亡人旅館2 女将は寝上手』の2012年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/企画・脚本:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:しのざきさとみ・里見瑤子・水原かなえ・かわさきひろゆき・岡田智宏・神戸顕一)。
 元気に帰宅した女子高生の羽衣茂美(里見)がオットットと逆戻りしてカメラに向かひ、実家の温泉旅館・実名登場「水上荘」まで自己紹介して手短にタイトル・イン。タイトル前後の差異を除くと、実はこの開巻は「未亡人旅館」前作「未亡人旅館 したがる若女将」(1999/主演:しのざきさとみ)に於ける、里見瑤子の先代女中女王・相沢知美の手によるイントロダクションを概ねそのままトレースしたものでもある。因みに、ナンバリングされた深町版未亡人旅館は同年五作後の「未亡人旅館3 女将の濡れたしげみ」(脚本:岡輝男/主演:葉月螢)で打ち止めだが、実は「したがる若女将」よりも二年遡る、新田栄の「肉欲女体盛り」(1997/主演:松島エミ=鈴木エリカ=麻倉エミリ)なる未亡人旅館もあつたりなんかする。
 「水上荘」の面々は、茂美の母親で女将の妙子(しのざき)に、共に住み込みの板前の源さんこと何でも気合で片付ける源次郎(かわさき)と、仲居で元レディースの小野美樹(水原)。茂美の父親・英治(岡田)は、五年前に交通事故で死去してゐた。「水上荘」に、ニッポー商事専務の岡田錠司(神戸)が再び現れる。前回宿泊した際に、妙子が岡田と一夜の過ちを仕出かしたらしき気配に、美樹と関係を持ちながら源次郎は気が気でなく、当然のこと、さうなると美樹は穏やかではない。ところで、ポロシャツの襟をジャケットの上に出す、岡田の着こなしはそれはアリなのかナシなのか。
 深町章2001年全六作中第一作、即ち、この年の深町章は未亡人旅館で明けて、未亡人旅館で暮れた格好となる。ミニマムな布陣の中で判り易く恋情が交錯する御馴染み水上荘を舞台に、やがて明かされる一つの秘密を軸に大きく動き始める物語。妙子が在りし日の夫婦生活を回想する濡れ場、の間際にしのざきさとみが不意に里見瑤子にスイッチする不自然さをさりげない火蓋に、お話自体も見せ方もプリミティブにつき、いい話の筈なのに如何せんやつゝけた印象も否めない、ルーチンな人情譚。肝心な段取りを勝手に片付けて呉れる英治の八面六臂の大活躍ぶりも兎も角として、間抜けな岡田智宏の老けメイクはいはずもがななミスキャスト感を迸らせる。ついでに世知辛いツッコミを入れておくと、傾きかけた温泉旅館の板前が、何百年奉公すれば二千万も貯められるのか。


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 「ホテトル譲 悦楽とろけ乳」(2012/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『夕凪のスカイツリー』/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:北川帯寛・松井理子/撮影助手:海津真也・矢澤直子/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/劇中写真:大蔵俊介/協力:ステージ・ドアー、ASAKUSA FOTOBO、松下来吉、周磨要、仲根大/出演:周防ゆきこ・伊沢涼子・日高ゆりあ・三貝豪・世志男・野村貴浩・竹本泰志・近藤善揮・久保田泰也・池島ゆたか)。
 要は物件的には参加型写真ギャラリーとかいふ「ASAKUSA FOTOBO」の、壁に写真が掲示されるほかダダッ広い割に家具も殆ど見当たらず、部屋の中でも土足の生活感を欠いた一室。昼下がりに目覚めたホテトル嬢の凪(周防)がぼちぼち出勤、浅草からだと東の空にスカイツリーを見やつてタイトル・イン。
 無害でポップな変態客・田中(世志男)との愉快な仕事をこなした凪は、残念ながら九月の二十五日に閉館した―今作封切りは七月中旬―伝説的な構造を誇るピンク映画専門館「浅草世界館」の入る浅草新劇会館の表で、一眼レフを抱へ行き倒れるかのやうに眠る三貝豪を拾ふ。逆の形ならばまだしも、藪から棒に凪が男をしかも一人で自宅に連れ帰る、こゝの超飛躍はそれをいつては始まらないのでさて措くと、意識を取り戻した三貝豪はマキと名乗り、歳は凪の一つ下の二十二であつた。一方、凪の先輩ホテトル嬢・りょう(伊沢)と、常連客で富山の旅館の次男坊・加賀(竹本)の一戦。甚だ申し訳ないが、伊沢涼子はもう少しでなく体を絞らないとそこかしこ厳しいぞ。実は十八にもなりそろそろ施設を追ひ出される子持ちのりょうに、加賀は求婚する。凪宅に転がり込んだ格好のマキが出歩いてテレッテレ写真を撮つてゐると、地元・北海道の同級生で東大生の及川(久保田)と再会する。北大に通ふマキが仕出かした不倫騒動は、仲間内のSNSを騒がせてゐた。
 配役残り近藤善揮は、何故かオカマキャラのFOTOBO大家。野村貴浩は凪の客で攻撃的に横柄な井上。井上とのことと、りょう先輩の寿退職。諸々に揺れる凪を、己の面倒もまゝならない訳だからある意味仕方もないが、無力なマキにはどうすることも出来ない。テヘペロッと邪気もなく通り過ぎて行く日高ゆりあは、さういふ微妙なマキを自身通算五十八人目に喰ふみなみ。伊沢涼子と日高ゆりあ、投入のタイミング込みで場慣れした二番手・三番手の、ピンク初陣の主演女優を支援する態勢は完璧。そして貫禄の安定感で地味に劇中世界の鍵を握る池島ゆたかが、息子・ヨシヒコを連れ戻しに上京する北海大学教授・村上潤一郎。この人は主人公に北風を吹かす役所(やくどころ)の時の方が、打率が高いやうな気がする。
 スカイツリー推しも浅草推しも共々特に根を張るでもない、池島ゆたか2012年第二作。女と男が一つ屋根の下に暮らすにも関らず、手を出して来ない草食に風俗勤めを自嘲する凪に対し、マキがその件には何も一切答へずに何とはなしの雰囲気で乳繰り合ふ。ところから観てしまつた、小屋に入るタイミングをそもそも間違へてゐたのかも知れないが、ホテトル譲がある日、首からカメラなんぞプラ提げたクリエイティブだかセンシティブと出会ふ。一応イケメンだし、嫌な客にも当たるし、仲のいい先輩は結婚して足を洗ふんだつて。貯金もそこそこ貯まつたことだし、こゝいらで従兄弟とか嘘ついてる管理人さんにも彼氏だときちんとカミングアウトした上で、アタシも資格取つたりなんかして。新しい生活(≧∇≦)、なんて。だ、などと、別の意味で凶暴に表層的なマキと凪のいはゆる自分語り含め、地に足の着かない主役二人の佇まひに素直に連動して幼く心許ない寝言じみた物語を、池島ゆたかはこの期にどの面提げて確か大人の娯楽である筈のピンク映画で御座いと放り込んでみせるつもりか。と一旦は、確かに可愛らしいのは抜群に可愛らしい、周防ゆきこのグッド・ルッキングにも絆され憤懣やる方ないとまではいはないにせよ、ヤキモキ食傷しつつ観てゐた、ものであつたのだが。中盤久保田泰也に投げさせた伏線を回収する形で、大将自ら出陣の池島ゆたかが浮世離れしたそれまでを頑丈に固定。にしても変り映えのしないヒロインの境遇を、開巻に続き飛び込んで来た世志男が、よしんば便宜的な誤魔化しに過ぎなくとも明るく楽しく救ふ。詰まるところが年端も行かぬほどではない小娘が他愛もない夢を見て、醒めた。たつたそれだけの埒の明かない始終ながら、娯楽映画としての十全な設計が、それでもゴーズ・オンな人生を一旦力強く締め括る。最終的にはお話と演出次第で映画は形になるにしても、初顔の当代AVアイドルがビリングの頭に座る例(ためし)が比較的多いエクセスライクな昨今の風潮に対しては、些か疑問を持たなくもない。とまれ、個人的には単なる貧乏性につき全部観ずに席を立つ豪気は余程腹が立たねば持ち合はせないが、全篇通して観ると納得させられる途中退場厳禁の一作、実に当たり前の結論でしかない。


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 「変態プレイ 教師すすり泣く」(1998/制作:大敬オフィス/配給:大蔵映画/制作・脚本・監督・出演:清水大敬/撮影:小西泰正/照明:瀬尾進/編集:酒井正次/美術:清水正子/音楽:サウンド・キッズ/スチール:古瀬友博/助監督:大越朗/撮影助手:岩瀬正道/照明助手:高橋元/編集助手:井戸田秀行/演出助手1:大浜直樹 2:中川英夫/車輌部:谷盛正幸/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイトル:道川昭/制作協力:愛光《株》、弁天スタジオ、フロム・ワン/出演:相沢奈保・中村京子・佐々岡ルル・浅利まこ・神戸顕一・羽田勝博・水海伸一郎・土門丈・文京周平・中退みつる・大浜直樹・土橋聞多・村中琢也・石部金吉・牧村耕次・山科薫)。出演者中、文京周平の文の字が正確には左から右のはらひが髭付き、明朝体でないと出せん。
 大敬オフィスに続いて、“人間は、豹変する…”との例によつての極大字幕。不動産屋・米田(羽田)の紹介する中古物件を、サラリーマンの山口健一(神戸)と妻で高校教師の裕子(相沢)が見て回る。先に出た二人を追ひ、裕子もベランダに姿を消したところでクレジット・イン。既に水は通つてゐるのか、手洗ひを使つた裕子は、水漏れを見付ける。水漏れ箇所を調べようと、これ見よがしに廊下側に突き出した裕子の美しいヒップ・ラインに、米田は獣染みた視線を注ぐ。米田のアップを抜いて、ドイーンとタイトル・イン。引越し後、裕子は見かけた近所に住む健一の一応上司で係長の鮫島泰三(牧村)に挨拶するが、鮫島は同じく御近所の社長よりも挨拶が遅れた当然に不条理に憤慨する。要は鮫島は、さういふ厄介な男だつた。そのことを愚痴りながらの夫婦生活挿んで翌朝、健一は裕子を残し先に出勤。甚だ不自然なカット割りで一旦家を出た裕子がテレビが点いてゐる気配に戻ると、そこには旧いライフル銃を携へた鮫島が侵入してゐた。リストラの一番手で四年前に妻と娘にも逃げられた造形の鮫島が、やをらビジネス鞄からまな板と林檎とナイフを取り出すカットの狂気は、清水大敬にしては正方向に鮮やか。片足を低いテーブルに載せさせられた前屈みの体勢での、しかも裸エプロンで林檎を切らされる天才的な火蓋から、鮫島の裕子に対する陵辱はスタート。飽き足らぬ鮫島に裕子が呼び出させられた、社長夫人の上村京子(中村)は幾ら昔は場末のストリップ嬢とかいふ薮蛇な設定にしても、振袖にフェイク・ファーがタップリついた頓珍漢な扮装で現れ、当然底無しの鮫島の獣欲の餌食となる。帰宅した健一に加へて、この人も呼び出させられた教頭の奥野昌幸(山科)に連れて来なくてもいいのに音楽教師の青木真由美(佐々岡)、最後に京子を探す社長の上村良吉(清水)まで山口家に揃ひ、鮫島が司る狂宴は唸りを上げる。絡みの順番でいふと多少以上に太り気味にしても依然全盛期に踏み止(とど)まる中村京子が魅せる鮫島×京子、奥野×真由美、京子×健一と再び鮫島×裕子。そこで一段落つき、鮫島が用足しに一旦捌けるや、何故か健一始め全員が―鮫島ではなく―裕子が悪いとフルスイングに逆上した上で罵詈讒謗の限りを浴びせかける、奇々怪々な集中砲火。そこに鮫島が戻り、銃声五発。水海伸一郎から石部金吉までの計八名は、鑑識と刑事+α、次の一幕に於ける官憲要員。
 毒を盛らはば皿まで、の覚悟で佐々岡ルル目当てで選んでみた清水大敬1998年全三作中第一作、ピンク映画通算第三作。佐々岡ルルの肉の海がまるで目立たない、あるいは霞ませるほどの、闇雲な演出の過剰とある意味予測不能の魔展開とは、別の意味で流石ではある。明確なテーマとして懐いた“人間の豹変”とやらのテーマは、詰まるところは清水大敬映画にあつては何時何時(いつなんどき)登場人物の誰しもがへべれけな振り幅で豹変し得るカッコよくいへばアナーキーさ、直截には従来の映画的文法を清々しく否定した不安定さが常につき、即ち全作常時誰かが豹変してゐたりもするものなので、殊更に根を張ることも実を結ぶこともない。とはいへ五発の銃弾の虚実を、御丁寧にミッチリ二度に亘つてトレースしてみせる間抜けさ。満を持した再登場を果たす米田が幕を開く、教師をすすり泣せる変態プレイの第二幕と、諦めかけた浅利まこが、ここは明確に工夫を欠きつつ相変らず呼び出させられた女子高生・小森レイコ役で、残り二分といふギリギリのタイミングで飛び込んで来る一但しもう脱ぎはしない―サプライズ。明後日にせよ一昨日にせよ兎も角観客を飽きさせない仕掛けには満ち、何よりも重要なのは、奇跡かあるいは映画の神の祝福か、幸運な主演女優。清水大敬に任せるのは勿体ないだなどと本当のことをいつてしまつてはそれこそ元も子もないが、抜群のプロポーションに地味目の容姿が一層映える、相沢奈保が超絶。清水大敬にしてはこれでも大袈裟な破綻が少ない部類の始終を頑丈に支へ抜くヒロインを擁し、寧ろ覚悟してゐただけの破壊力には至らない妙な不足さへ残す、そこそこの裸映画である。


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 「生好きお姉さん おクチなら何度でも」(1997/製作:関根プロダクション?/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・樹かず・片山圭太/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/助監督:片山圭太/監督助手:城定秀夫/撮影助手:新井毅/照明助手:臼井幸男/スチール:佐藤初太郎/音楽:リハビリテーションス/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/編集:《有》フィルムクラフト/現像:東映化学/出演:中原美樹・中沢江梨子・佐々岡ルル・樹かず・山本清彦・山内よしのり)。
 切迫した表情で走る樹かずがアパートの前で立ち止まりタイトル・イン、樹かずは想起する。二浪生の浜田健次(樹)と、幼馴染でこの人はストレートで女子大生の京子(中沢)とののんべんだらりとした一戦。は、勉強中に寝落ちた健次の夢オチ。のつけから夢オチかよといふ以前に、如何にも思はせぶりな開巻の想起から全く繋がつてゐない、関根和美フリーダム過ぎるだろ。夢の中での京子と同じ「美味しいはあ」といふ嬌声に、健次は勉強もそつちのけに誘はれる。嬌声の主は、健次が居候する兄・雄一(山本)の嫁・真奈美(佐々岡)。ここで火を噴くキナ臭い飛び道具が、佐々岡ルルの肉の海。まあ旦那の鼻先に突き出した尻の、恐ろしく馬鹿デカいこと馬鹿デカいこと、遠近法が木端微塵に粉砕される。更に衝撃的なのが、背面座位の体勢になると巨体に隠れて山本清彦が全く見えない、そんな画初めて見た。一欠片たりとて嬉しくはない文字通り重量級の一夜明け、健次が歯を磨いてゐると、真奈美がカチューシャかましてシャワーを浴びてゐたりなんかする、女の裸を見てストレートに凶暴な気持ちになるのは何故なのか。再び覗く健次が思はず握り締めたチューブから、ニュルッと飛び出す歯磨き粉が射精のメタファーといふのも一体全体どうなのよ。朝から消耗する健次に真奈美が出した朝食が、目玉焼きの乳房にプチトマトが乳首と臍、ソーセージでボディ・ラインを描いた上でブロッコリーを陰毛に見立てた、その名も真奈美スペシャル。今回の関根和美は、観客の神経を逆撫ですることに全精力を傾注するつもりらしい、俺の心は早くも折れさうだ。挙句に真奈美の下半身の、エプロンの下は裸。また健次の無用で無闇な幻影でオトすものかと思つてゐたら、後に雄一曰く「マナミはな、ファミレスと風俗勤めが長くてああなつた、あれがあいつの愛なんだ」とのこと。全篇狂気ないしは凶器、004みたいな映画だ。話を戻してそこに雄一が現れ、二年前に海外赴任し先週帰国した、大学時代の後輩の引越しの手伝ひに健次を拉致する。どうせ勉強なんてしない癖に不承不承の健次ではあつたが、現れた美加(中原)を一目見るなりボレッと掌を返す。話の流れとしては判らなくもないが、飽くなき一昨日な攻撃性が牙を剥き倒すここでの問題が、佐々岡ルルに劣るとも勝らない主演女優。最短距離の内側を抉ると馬面のババア、エクセスライクを超えなくてもいいのに超えやがる破壊力には、ファースト・カットで本当に頭を抱へた。中原美樹に関して戯れにjmdbを触つてみると、おいおいおい、少なくとも十五年選手だぜ。実は中沢江梨子も中沢江梨子で、首から下は普通に綺麗でとりあへず若いといふだけで、タラコ唇のアイコン的な容姿は何処まで妥協しても十人並に過ぎない故、元々知らない名前であることもあり、三者連続三振のビリングを読めるか否か本気で心配した。エンド・クレジットに役名を併記して呉れてゐなかつたら、多分どれが誰やら本当に判らなかつたと思ふ。兎も角、三本柱の焼け野原ぶりは一旦忘れて話を進めると、京子とつかず離れずしつつ、雄一が勝手につけることにした家庭教師が、美加であることを知つた健次は何故か夢と股間を膨らませ気味に俄然発奮する、だから健次マニア過ぎるだろ。
 関根和美の1997年最終作は、女の裸が主眼の筈なのに肝心の女優陣がロートル×鱈子×肉塊といふ、最も危険が危ない一作。といふとそれで片付きもするのだが、健次が受ける代々本ゼミナール模試の順位を軸に、美加から貰ふ御褒美の傍目にはちつとも嬉しくはないグレードが順々に上がつて行く展開は、強ひて冷静な検討を試みるならば意外と手堅い。それなりに盛り上がつた終盤、姿を消した美加ならぬナオミの姿を求めて、強面・富岡(山内)が飛び込んで来るアクセントも、ぞんざいな真相明かしと、富岡がある程度は身から出た錆ともいへ気の毒な被害者に過ぎない不均衡さへさて措けば、全体の構成としては満更でもない。最後の最後までベクトルを美加に固定する健次が、健気な京子を袖にし続ける不自然には不可思議な印象も強いが、それもこれも、全ては中原美樹の高齢に帰結する。どうスッ転んでも挽回不能なキャスティング段階での劣勢にポップに屈した負け戦ながら、映画自体の作りは実は順当であることと、ツッコミ処が過積載とでも思へば、それはそれとしてその限りに於いては生温かく接せられないこともない。

 リハビリ的な見所ならぬ聞き所、健次と美加がデートする件、ロイ・オービソンの「オー・プリティ・ウーマン」のイントロ―だけ―のパクりを延々繰り返す劇伴に加へ、オーラスからエンド・クレジットにかけてバンドバンドした、ヴォーカル入りのトラックが一曲丸々流れるのが耳新しい。


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 「主婦売春 若妻性欲処理」(1995/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:川井健二/脚本:如月吹雪/撮影:伊東英男/照明:秋山和夫/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/編集:フィルム・クラフト/助監督:一ノ瀬教一/撮影助手:倉田昇/照明助手:鹿児島明/監督助手:小谷内郁代/スチール:津田一郎/現像:東映化学《株》/タイトル:ハセガワ・プロ/出演:林由美香・青木こずえ・吉行由実・今泉浩一・真央元・杉本まこと)。
 高校教師の松原浩介(杉本)と、元教へ子で卒業後直ぐに結婚した綾(林)の夫婦生活で一見順当に開巻。こつちはまだ濡れてゐないといふのに、挿れてる内に濡れて来るといふ浩介が勝手に果てるや、綾曰く「何よ、濡れてる暇もないぢやない」。潤ひを欠いた朝の風景挿んで綾は机上のスナップ写真から高校時代の求婚と受諾を想起、チャイムが鳴つたところで遅れ馳せ気味のタイトル・イン。来訪者は、同級生で目下イケイケな女子大生の藤島か藤嶋夏樹(青木こずえ/a.k.a.村上ゆう)。「先生と上手く行つてる?」等々と挑戦的にカマをかける夏樹は固辞する綾に男遊びを強引に指南、五時にピンクの傘を持つて紀伊国屋前に立つアポを無理強ひする。出向いた綾も綾なのだが、初対面の待ち合はせにタンクトップで現れた山木か山城アキラ(真央)は、会ふだけといふ綾と夏樹との口約束を木端微塵に粉砕、ホテルに直行三万円で事に及ぶ。JD仲間を集めた売春クラブの元締めだなどといふ、出し抜けに凶悪な造形の夏樹に綾は騙されたことを抗弁するが、夏樹にいはせれば先にハメたのは綾。実は元々、夏樹が先に松原先生に想ひを寄せてゐたのだ。浩介に知られたくなくばと半ばどころか純然たる脅迫で、連絡用にポケベルを持たされた綾は以後主婦売春を重ねさせられる。因みに重ねさせられる描写に際しては、内トラを動員することはなくカメラ・ワークに腐心する真央元の孤軍奮闘で乗り切る。
 今泉浩一は、夏樹懇意の客・博之。事後戯れ気味に撮られた写真をダシに、綾を篭絡し浩介と別れさせる、どう考へても結構困難なミッションを夏樹から安請け合ひする。この時期はランダムに由美との間を往き来するのが要注意な吉行由実は、博之の見るからにオッカナイ細君・ケイコ。
 jmdbによると1993年から1995年にかけてピンク映画全二十作+薔薇族一本を撮つた川井健二とは、同じくjmdbによると1990年から1995年まで監督作のない、関根和美の別名義である。今作は1995年ラストの第六作、即ち、同時に関根和美が名義を戻す以前の川井健二期最終作といふ格好となる。再々度jmdbによれば製作は関根プロダクションとあるが、本篇クレジット上には見当たらなかつた。映画の中身に話を戻すと、綾が絡め取られる件を筆頭に、博之なり浩介も含め夏樹の攻撃性が牙を剥く段では一足飛びに展開がサクサクする割には、遊びのない布陣にも足を引かれ、全般的にはモターッとした印象が強い。本格的に映画が躓き始めるのは中盤、夏樹に差し向けられた逆ハニー・トラップの博之が起動する辺りから。呼び出した綾に金を前払ひしておいて手をつけようともせず、自分が仕事仕事に追はれてゐる内に女房が寝取られてしまつた云々と泣き言を繰り始め同情から気を引かうといふのだが、何処から見てもグジャグジャ惰弱な今泉浩一が百歩譲つたとて鬱陶しくしか見えず、端的には男の目からも十二分にキモい。ここはせめて次善策としては、真央元と役が逆ではなかつたか。綾からコンタクトを取り三度目の逢瀬にして初めて致してゐる隙を突き、夏樹は先に帰宅した浩介を急襲。ここからが白眉の反対側なので、黒眉とでもいふべきか、自堕落が頂点に達する、それは底だ。何故だかここに来て松原夫妻が正体不明の絆の強さを発揮、何だかんだでもとい何が何だかな流れで夏樹を排除し思ひきりシッポリ結ばれるに至つて完全にチェック・メイト。挙句に、何時まで経つても始まらない故よもやと不安にさせられた吉行由実の絡みを、この期に松原夫妻以上に―以下だ―粗雑な導入で放り込む始末。締まらないので締めの名には値しないが、順序的には最後の濡れ場が三番手のものである構成のへべれけ具合によくいへば判り易く止めを刺される、薄らぼんやりとした一作。テレクラとポケベル、御丁寧にもお互ひ様な二段構への思はせぶりなバッド・エンドに、素直に神経を逆撫でされる。


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 「痴漢電車 よせばいいのに」(1990/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小川求/協力:ミュージック レストラン ナイト・アンド・デイ/編集:金子編集室/助監督:青柳一夫/スチール:大崎正浩/監督助手:毛利安考/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/主題曲:三浦弘『よせばいいのに』/出演:明日香ちなみ・一ノ瀬まみ・高橋ルリ・山本竜二・港雄一・石神一・板垣恵美・工藤正人/特別出演:三浦弘・ハニーシックス)。
 痴漢電車にしては意表を突く陸橋の画で開巻、赤の馬鹿デカいアメ車が登場。三浦弘先生が運転なさるアメ車が、何でか知らんけど山本竜二と工藤正人を何時ものやうに駅まで送る。山竜の「ぢや音楽行きますか」の一言でイントロ続いて“女に生まれて、来たけれど、女の幸せ、まだ遠い”と代表曲の「よせばいいのに」起動、タイトル・インからクレジットにかけて一番を丸々費やす。引き続き二番を聴く一郎(工藤)のウォークマンに、何故だか理屈が理解出来ないし結局最後まで説明は為されないのだが女の喘ぎ声が混線、触発されたのか一郎は陽子(明日香)に痴漢する。所変り「理論科学研究所」―何だそれ―の、“特殊地域内FM放送”と壁に掲示された一室。二人とも白衣のところを見るとこれで研究職なのか、ハルカ(一ノ瀬)に今朝の首尾を問はれた陽子は、電波を流した途端スケベ供が寄つて来て痴漢に大満足であつたと、奇々怪々な会話を交す。そこに二人の遣り取り曰く、“電波が飛ぶと男が寄つて来る”なる正体不明の理論科学を唱へる所長(港)が現れ、納品用のテープに女の喘ぎ声が入つてゐたと訳の判らないお小言を二人に垂れる・・・・話が全然見えて来ない。今回の御大仕事は、序盤から順調に徒な難解さに頭を抱へさせられる。陽子は“通勤電車ラジオ・ステーション開局記念”に飲みを誘ふも、旦那が帰つて来るといふハルカは断る。今度はスナック「摩天楼」(大絶賛仮称)、カウンターに画面奥から一郎・山本竜二・三浦先生と、一番手前に誰かもう一人。一郎が朝の一件に関してクライム自慢を軽く切り出すと、山竜はヘッドフォンで音楽を聴いてゐた女子大生に痴漢した武勇伝を披露、電車痴漢に興味を持つた三浦先生は盗人猛々しい二人からたしなめられる。三番手が思ひのほか美人であるのは結構なのだが、相変らずお話は全く見えて来ない。ハルカがシャワーを浴びる、一ノ瀬まみの大美人ぶりは手放しで素晴らしい。単身赴任先から一時帰宅したといふのに寝てゐるダメ亭主(石神)を起こしての夫婦生活、事後ハルカは陽子に勧められた痴漢かあるいは離婚だと、薮から高層ビルが聳え立つ二者択一の腹を決める。山竜に痴漢されたJD・ヒロミ(高橋)が、友人のカワハラヒトミ(声は板垣恵美か?)と電話で話す。ヒロミのウォークマンにも女の喘ぎ声が流れ始め、直後に山竜が寄つて来てゐた。だから何が何だか没論理ないしは超論理に導かれ、何者かが流した電波がヒロミのウォークマンに混線したといふ最早神秘的な結論に落ち着いた挙句に、俄に自身も海賊放送に開眼したヒロミは、姪だといふヒトミの紹介で港所長に会ふ。支離滅裂な文章しか書けてゐないのは、今項ばかりは半分以上は小生の所為ではない筈だ。
 イコール板垣有美の板垣恵美は後回しにして出演者残り特別枠のハニーシックスは、ラストのひとつ前、「ナイト・アンド・デイ」のステージから離婚テーマの曲をライブ披露、客席のハルカを泣かせるグループセルフ。メインボーカルの二人には、ベソをかくハルカを慰める一幕も設けられる。ハルカの薮蛇な離婚決意は、この件に捻じ込む強引な伏線であつたのか。伏線といふか、木に接ぐ竹の植樹といふか。何はともあれ、ファンの皆さんは必見、ヤケクソなのか俺は。電車内乗客要員の中でとりわけ目立つ妙に精悍なオッサンと、Tシャツ姿の摩天楼マスターは不明。
 タイトルだけで選んでみた、薔薇族込みで小林悟1990年全十八作中第十六―ピンク限定だと13/14―作。まさか三浦弘とハニーシックスが飛び込んで来るとは思はなかつた、これは「ナイト・アンド・デイ」撮影込みで御大人脈なのか。陽子は毎朝何某かの原理に従つて通勤電車内で実験を繰り返してゐるやうなものの、出発点たるそこのイントロダクションを清々しくスッ飛ばされてしまつては、ただでさへ飛躍と無造作のみで占められた以降の最早展開の名に値しない殆ど物理的時間の進行と同義の始終は、いとも容易く不条理の領域に突入といふか墜落する。仕方がないので殆ど存在しない物語を掻い摘む儚い営みは放棄しそのまま筆を進めてしまふと、ヒロミの電波に一郎と山竜をカッ浚はれた格好の陽子は、降車後一郎を捕獲。体調不良を装ひ連れ込みに雪崩れ込むへべれけな導入から、各人実は一度きりの本格的な濡れ場―高橋ルリは訪ねた港所長と―を漸く消化。ハニーシックス・オン・ステージ挿んでオーラスの痴漢電車に乗り込むのは、抜かれる順にハルカ・山竜・一郎・陽子・三浦先生。陽子は三浦先生は撃退し、一郎の痴漢は受け容れる。ところまでで、尺は残り三分、一体ここからどうやつて映画を畳むのよ。袖に振られた三浦先生は、それではと板垣恵美の尻に手を伸ばす。ところが板垣恵美は女痴漢捜査官で、憐れ三浦先生現行犯逮捕。一方ハルカは何者かに痴漢され続け、三浦先生検挙に呆然とする一郎の傍ら陽子が「よせばいいのに」の一言を憎々しげに吐き捨てて終り・・・・

 そ、そんな(;´Д`)

 確かに、三浦先生がお縄を頂戴した瞬間走る、映画的緊迫は尋常ではない。ついでにハルカを痴漢してゐたのは実は石神一で、無理矢理夫婦仲のヨリを戻してみせるのか、だなどと一瞬期待した俺はジョージア・テイスティよりも甘かつたよ。観客の鑑賞を積極的に拒むかが如き混迷を極める混沌の末に、それはそれとして日本映画史上に残り得ようまさかまさかのゲスト・スターの無体な扱ひに度肝を抜かれる、明後日にせよ一昨日にせよ兎にも角にも衝撃作。ただのルーチンワークだと高を括ること勿れ、そこには巨大な虚無が口を開けて、映画の底もろとも全てを呑み込まんと待ち構へてゐる、ブラックホールか。


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