真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「紅い発情 魔性の香り」(2014/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『白ゆり黒ゆり』/撮影監督:清水正二/撮影:海津真也/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:北川帯寛/監督助手:菊嶌稔章・松井理子/撮影助手:矢澤直子/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/タイミング:安斎公一/応援:田中康文/協力:ステージ・ドアー/出演:日高ゆりあ・瀬戸友里亜・沢村麻耶・酒井あずさ・津田篤・樹カズ・野村貴浩)。協力の次にクレジットされる、樹カズ自作の挿入曲曲名をロストする。
 マンションの外景と、全篇を通してフィーチャーされる割に、何を表してゐるのかいまひとつもふたつも理解に遠い新月スレスレの細い三日月。樹カズの素頓狂な歌声に瀬戸友里亜がキャイキャイ喜んでゐると、くたびれた風情の日高ゆりあが帰宅する。三十目前の地方公務員・萩原ともえ(日高)は一年前、ストーカー被害に悩む大学の後輩・高宮カオリ(瀬戸)に乞はれ以来ルームシェアする。ところがカオリはろくでもない女で常時両手に余る数の男と関係を持ち、今日も今日とてミュージシャンの岬オトヤ(樹)を連れ込んでゐた。他方こちらは五年の長き間男日照りのともえは布団をヒッ被り、カオリが憚りもせぬ嬌声に耳を塞ぐ日々。そんなカオリがストーキングされるのも当たり前だとともえが悪態をついたところで、改めて三日月を抜いてタイトル・イン。翌朝の諍ひ挿んで、例によつてカオリが連れ込んだ栗原一哉(津田)は頻りに求婚するも、欠片もその気のないカオリにはかはされる。更に翌朝、メイク中に手洗ひから出て来た一哉と顔を合はせたともえは、何てこともない会話を通して一哉に一目惚れする。うん、ポップに厄介だな。
 中盤の火蓋を切り飛び込んで来る沢村麻耶は、カオリがバイトする雑貨店オーナー・圭子。野村貴浩は、六年間の何だかんだの末の圭子婚約者・大迫優希。不脱も高い満足度を叩き込む酒井あずさは、婚期を逃しがちの娘をのほほんと案ずる、ともえ母・美津子。カオリのスマホを拝借したともえは、一哉にクソ重たい勘違ひメールを連打。遂にメアドを変更されたショックで路上過呼吸に陥つたともえに、手を差し伸べる男は菊嶌稔章。重装型田中康文ともいふべき巨漢の菊嶌稔章が、逆上したにせよ日高ゆりあに突き飛ばされるのは画的に大いに説得力を欠く。
 幻の大器・坂ノ上朝美の下駄も履き初の一般映画「おやぢ男優Z」が単館畑を席捲する池島ゆたかの、2014年第一作。自由恋愛どころかフリーにもほどがあるセックスを謳歌する女と、対照的な地味女。土台が家賃も入れない同居人なんぞとつとと追ひ出してしまへばいいのに、次第でもなく二足三足飛びに鬱屈を拗らせた地味女は、派手にブッ壊れて行く。カオリは待ち惚けを喰らはされたステージ・ドアーにて、圭子に連れられ飲みに来た大迫と出会ふ。出会つたかと思ふと現像液も乾かぬ内に、次のカットではカオリと大迫はオン・ザ・ベッド。適宜小気味よく放り込んで来る濡れ場のタイミングは頗る快調な一方、ともえが一線を跨ぐに至る過程は概ね平板なベタ足。カオリの対極に位置するともえが、いはゆる正直者が馬鹿を見る流れにしても絡みに尺を割かれ、そもそも肝心要のともえの外堀が埋まらない。不自然に口元にグラスを挟んだ一哉とともえの遣り取りは、一体何を長々と漫然とした酔狂に戯れてゐるのか。全体この時何が如何に転んだものか、元来最もよくいへば菊穴の締りのいいOPレイティングの横紙をブチ破るクライマックスのスラッシュも、演出手腕含め諸々の限界を無策に全弾被弾し清々しいほどの棒立ちぶり。と、漫然とした仕方なさに堕する寸前の始終をすんでで救ふのは、パブは一人で飾るカット毎に若いのか年食つて見えるのかよく判らない瀬戸友里亜を差し措き、蓋を開けてみると予想外のビリング・トップに躍り出る日高ゆりあ。ともえの八つ下の妹・エリ(名前が口頭に上るのみ)のデキ婚を伝へる、美津子二度目の登場時。終に堰が切れたのかともえが爆発するシークエンスでは、出し抜け具合をも力で捻じ伏せる日高ゆりあの充実、ないしは決定力にダレた襟を正せられる。憑き物を落とすかのやうに浴びた鮮血をシャワーで洗ひ流すラスト・ショットの、正体不明の爽快感も出色。女の裸はコッテリだかコテコテに楽しんだ後、マッタリしかけた頃合で日高ゆりあに目を見開かされる、さうしてみると案外満更でもない一作である。


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 「憧れの白衣の天使 愛撫でびつしより」(1998/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/脚本・監督:関根和美/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:㈲フィルムクラフト/助監督:片山圭太/撮影助手:新井毅/監督助手:城定秀夫/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/音楽:リハビリテーションズ/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:浅倉麗・吉行由実・槇原めぐみ・樹かず・やまきよ・山内健嗣/特別出演:飯島大介)。
 リエ(浅倉)が一瞬余所見をしつつシャワーを浴びて、ゐたかと思ふとシャワーが止まる。挙句に湯かと思へば浴びてゐたのは実は水で、ガスに続き水道も料金未納で止められた窮状をリエが同棲相手の耕平(樹)に訴へると、耕平曰くの予想通りの展開で電気も消える。秘密特務機関員募集の新聞広告に応募したところが、ギャラは激安バイトも禁止で首の回らなくなつた二人が蝋燭の光の中一戦カマした事後、とうに鳴らない筈の電話が着弾、ネオン街を適当に抜いてタイトル・イン。二人を呼び出した秘密特務機関指令役(人相だけは周到に照明の陰に隠した飯島大介)は、遺伝子研究の超エリートにして院長の中弟・五代国光(素頓狂な長髪ヅラのやまきよ)、イケメン外科医の末弟・琢磨(山内)。そして前院長の妾の子で、理事長を務める長姉・律子(吉行)。腹違ひの五代三姉弟が経営する大病院「五代病院」で頻発する、若い女限定の入院患者変死事件の調査をリエと耕平に命じる。リエは見習看護婦、耕平は住み込み掃除夫に化けサクサク五代病院に潜入。自らを佐和子とかいふ女と誤認した国光に見初められたリエが律子への接近を果たす一方、琢磨を尾けた耕平は、特別室での半年前試合中に骨折し入院中のプロレスラー・エヴァン綾波(槇原)と琢磨の逢瀬を目撃。絶頂に達した瞬間、琢磨に首筋から注射器で何かを抜き取られた綾波は、前後不覚に陥つた挙句に何故か色と髪型ごと綾波レイに変貌する。何をいつてゐやがるのか、お前はろくでもない茸でも食つたのかと思はれるかも知れないが、本当に実際さういふシークエンスなんだ。
 こんちこれまたDMM戦にて関根和美1998年第二作、と呑気に構へてゐる訳にも参らない。DMMピンク映画chに関根和美の未見作が、今作含めて残りもう二本しかないのだ。由々しき私事は兎も角、開巻は水道が電気よりも先に止まる非常識さをさて措けば、リエと耕平の掛け合ひが珍しく快調に繋がりらしからぬ充実を窺はせる。タイトル挿みカメオで飯島大介が飛び込んで来るサプライズも嬉しく、これは今回の関根和美は当りかと期待も膨らむといふもの。とは、いふものの。いざ舞台が五代病院に移るや、不完全無欠に何時もの関根和美。手数ばかり無闇に多い小ネタはことごとく面白くも何ともないどころか、各々の当該件に於いてすら噛み合はない。話としてはそれなりに出来てゐなくもない一件の真相が、結局自動的ないしは場当たり的に開陳されるサスペンス上根本的かつ致命的なへべれけさもいはばお家芸。全体何の意味があるのか、こんなことをして客が喜ぶとでも思つてゐるのかと、懇々と問ひ詰めたくもならう槇原めぐみのコスプレ遊びは二重の意味で腹立たしい。何となれば、ガチャガチャ無駄な馬鹿騒ぎに興じ尽くしてゐる隙に、吉行由実・槇原めぐみと折角二枚並んだ爆乳が全く満足に機能せずに持て余されてしまふからである。百歩譲らなくとも物語が詰まらないのはまだいい、但しその場合も勃つものは勃たせて欲しい、話はそれからだ。よくも悪くも、といふか何処がよいのかファンながらよく判らないが、兎にも角にも実に関根和美らしくはある一作。何度でも蒸し返すと、関根和美のウィキペディアの、“都市を舞台とした、男女の恋愛が織り成す人間模様を社会派的タッチで鋭く描き出す作品を制作し続けて”だなどといふ途方もない記述は、身内でなければ一体何処の馬の骨が吹いた与太なのか。


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 「隣のお師匠さん 恥らふ太股」(1995『尺八教室のお師匠さん』の2000年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:千葉幸雄/音楽:TAOKA/照明:渡波洋雪/編集:北沢幸雄/助監督:瀧島弘義・堀川慎太郎/撮影助手:嶋恒弘之/照明助手:藤森玄一郎/結髪:早津晋二/スチール:本田あきら/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学《株》/出演:渡辺茜・浅野桃里・摩子・吉岡市郎・竹内久和・野上正義)。照明の渡波洋行ではなく洋雪といふのは、本篇クレジットまま。
 水上荘の風呂の画を置いて、欠片も登場しない亡父から尺八琴山流の四代目を継いだ、珍しく新旧タイトルが等閑視するものの後家(亡夫遺影も登場せず)の中村静花(渡辺)と、生徒、兼パトロンでもある土産店経営・松山誠(野上)の一戦。挿入する松山が静花を先にイカせ、自分は後でもいいとする遣り取りの意味を量りかねてゐると、松山のフィニッシュは静花の尺八でといふ秀逸な趣向に感心させてタイトル・イン。ここまでは、全く磐石。
 タイトル明け今度は室井(吉岡)の稽古、室井は手本の尺八を吹いてみせる静花の姿に、ポップな尺八のイマジンを膨らませる。稽古後のお茶、静花がさして抵抗するでもなく室井にザクザク言ひ寄られる現場に出くはした、静花の女子大生か短大生の妹・桃花(浅野)は清々しい嫌悪を露にする。松山が行きつけのスナック―これ「ちよ」か?―のホステス・ユキエ(摩子)も噛ませた巴戦に静花を連れ出してみせたりもする中、桃花はこの人も琴山流の生徒である、海外転勤の決まつた年上の幼馴染・石垣峰男(竹内)が、話があるといふので求婚でもして呉れるものかと思ひきや、静花が好きなので代りに気持ちを伝へて欲しいだなどと意気地もデリカシーも欠いた申し出にショックを受ける。
 摩子特集残念ながら最終第三弾は、北沢幸雄1995年第二作。今回摩子的にはしなやかな色香を随所で振り撒きつつ、本筋に首を突つ込むこともなく、おとなしく濡れ場に咲く綺麗処に止(とど)まる。といつて、然程明確なり統一的な物語が起動なり機能してゐる訳でも別にないのだが。開巻では首から下も上も結構ないい女に見えた渡辺茜は、本篇に入り和服に合はせ不用意に髪を結ふや、馬脚ならぬ馬面を逆の意味で綺麗に露呈。微妙に仕損じた福笑ひが如き面相はついでに表情にも乏しく、始終をおいそれとは委ね難いのは定番のエクセスライク。代つて浅野桃里に舵をとらせる、桃花と静花と石垣の強ひていふならば三角関係に主軸を移す戦略は、それなりには賢明。尤も竹内久和も竹内久和で渡辺茜に劣るとも勝らず覚束なく、青春ピンクの巨匠・北沢幸雄がどれだけ桃花の健気さを積み重ねたところで、結局締めの絡みは名目上の主演女優に渡さねばならず、ビリングを無視しきらぬ順当さが、却つて映画の首を絞めたといへなくもない一作ではある。

 今作に際して北沢組が水上荘で撮影したのは、尺八教室の舞台として日本家屋が必要といふだけで山間の田舎町の風情は別に不要であつたらしく、桃花が静花に対抗して松山と寝た帰路、レンタルビデオ路面店のロケーションは初めて見た気がする。


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 「《生》盗聴リポート ‐痴話‐」(1993/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/企画:田中岩夫/撮影:瓜生敏彦/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:国分章弘/監督助手:原田兼一郎/撮影助手:松崎労・山下政治/照明助手:牧野千文/製作協力:林田義行/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/出演:伊藤清美・摩子・浅野桃里・今泉浩一・紀野真人・伊藤猛)。
 今は亡き富士通TownsのPC画面と、軽くスノーノイズ。体に青い砂嵐が投影される絡み合ふ男女、車内にて盗聴器をチューニングする伊藤清美、頭部にまで包帯を巻きベッドに横たはる、馬鹿デカいゴーグルを装着した伊藤猛。ひとまづ思はせぶりにモチーフを蒔いた上で、ボガーンといふ爆発音とともにTowns画面にタイトル・イン。赤い液体を注入する太い注射器のイメージに乗せて、伊藤清美が地獄の蓋を開ける、もとい火蓋を切る「私の右の乳房には生まれた時から傷があつた」。“悩みを持たれた方に精神の安定、及び高揚をもたらすといふ効能を持つたビデオ”とされるどつちなのかよく判らないビデオドラッグ光輪「KORIN」―中身は牧歌的なCG万華鏡―を見る影山葉(伊藤清美)は、伊藤猛とのセックスの幻覚を見る。見るからに不安定な葉に、プログラマーの同僚である柴田(今泉)が接近。葉が盗聴でチームを組んでゐた、そして不倫の関係にもあつた犬丸(伊藤猛)は交通事故に遭ひ、目下植物人間の状態に。犬丸の子供を妊娠してゐる―とする―葉が犬丸の妻に告げに向かつたところ、犬丸夫人(摩子)はそのことを勘付いてゐた。
 配役残り浅野桃里は、葉がクライアントの委託を受け情事を盗聴する女・松永和子、相手役の男には潔く手も足も出ない。俳優部中殆ど唯一劇映画を満足に進行させる紀野真人は、葉に接触する犬丸の友人・神崎。紀野真人(ex.杉浦峰夫)に関してjmdbが坂本太デビュー作の撮影を担当としてゐるのは、紀野正人との混同
 突発的摩子特集第二弾は、佐藤寿保1993年第二作。これが相当厄介な代物かとも初めは思へたが、直に突き抜けた。佐藤寿保だ四天王だと映画を名前で観るなり見る悪弊に囚はれるならば現代人の孤独だ狂気だ、サイコ・サスペンスだサイバーパンクだと埒の開かぬ能書を捏ね繰り回す羽目になつてしまふのかも知れないが、量産型娯楽映画に徒な下駄を履かせるばかりが能ではあるまい。真綿色したシクラメンよりも清しい―ルーシー・リューの声色で―ヤッチマッタ映画の大迷作、一見ベクトルは真逆ながら、最終的には破戒上等の新田栄の尼寺映画と同等の破壊力。となるとここは、ツッコミ倒して楽しむのが吉といふもの。情報量の少な過ぎる開巻と、伊藤清美の陰鬱かつ頓珍漢なモノローグで順調に迷走する混沌は、神崎登場で物語としての体を回復するかに見せかけたのは束の間の早とちり。電気信号的な文字が頭の中に入り込んで来て囁くのを感じた葉が、メッセージに促され神崎が投げた名古屋に―会社をサボッて―出向き、出向いたもののそこには特に何もなく手ぶらで帰京する辺りで卓袱台は完全に引つ繰り返る。名古屋事件の凄惨な真相が辻褄を合はせ損なふのも焼け石に水、要はポップに電波な影山葉こと伊藤清美が支離滅裂に大暴れする五里霧中の気違ひ映画。圧倒的な三番手ぶりを爆裂させる浅野桃里の扱ひの軽さ、葉以外無人のオフィスで電話が全門着弾する出し抜けなホラー風演出。肝心要のアイテムの筈なのに、見せ方が至らなくて痛痒を増すだけのポラロイド写真。摩子が狂騒的に散布する殺虫剤よろしくバラ撒かれ続けるチャーミングの頂点だか底に燦然と、あるいは散々と輝くのはあの人とあの人の正しくドミノな死に様。あまりにも酷くて、寧ろ感動した。意地悪をいふと、流石にそのシークエンスは佐藤寿保も見返せば顔から火が出る思ひなのではなからうか。何人殺せば、何回殺せば気が済むのか文字通り暴走する葉が始終を綺麗に木端微塵に粉砕した末に、一体何がどう完了したのか全く要領を得ないオーラスに止めを刺される。摩子と紀野真人の濡れ場は辛うじて普通に見させるとはいへ、正直これは小屋で観てゐなくてよかつたかもとすら思へる一作。リミッターが働き寝落ちるか腹を立てるのでなければ、途方に暮れてゐたにさうゐない。


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 「痴漢電車 巨乳がいつぱい」(1992/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:瀬々敬久/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:国分章弘/監督助手:本多英生/撮影助手:青木勝弘・伊藤伸久/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:石川恵美・杉原みさお・摩子・しのざきさとみ・池島ゆたか/ナレーター:芳田正浩)。実際のビリングは、しのざきさとみと池島ゆたかの間に芳田正浩?
 週プロを枕元に寝こける池島ゆたかと、背中の細さが堪らない石川恵美が朝食の支度。誠穏やかな朝の風景に、芳田正浩のナレーションが被さる。帝国不動産課長代理の川島春雄(池島)は夢に見るほどの巨乳好きで、そんな夫に妻の秋子(石川)は手を焼くと同時に、コンプレックスを懐いてゐた。加へて、いい大人が朝も一人で起きられず秋子に逆ギレする春雄の造形に本気で腹が立つ、女房が石川恵美で何の文句があるのか。起こす起こさない、胸が大きい小さいで派手に夫婦喧嘩。ザックリしたビデオ題「痴漢電車 巨乳篇」のタイトル・イン挿んで、兎も角春雄は出社。春雄が通勤電車の車中出来心で痴漢してみた巨乳女は、何と同じ会社の山口夏子(杉原)。ところが、あるいは挙句に、夏子はその場で春雄にまさかの愛の告白、サクサク車中プレイに突入。大胆にも夏子が吹き始めた尺八に春雄が喜悦したのも束の間、電車が急停車し弾みで喰ひ千切られる。スラッシュも、重層的な春雄の夢であつた。正夢かと出社を渋る春雄に、主が不明の電話越しの部長は夏子に回させる車で千葉に向かふ旨を厳命。電車でなければと春雄も腰を上げる道中、矢張り予知夢なのか夏子の方から膳を据ゑ、そのまゝ連れ込みに寄り道。要件は済ませた後なのか前なのか、ハンドルは春雄が握り、助手席から夏子が尺八を吹く車が、踏切内でよもやの停車。無情にも遮断機が下り、チンコは夏子の口の中―あるいは歯と歯の間―にあるにも関らず電車が迫り来る・・・・!
 配役残りしのざきさとみは、相変らず春雄が淫夢に文字通り現を抜かす、南酒々井の川島家斜め向かひでお茶教室を開く海野夫人。秋子曰く“妙~に色つぽ~い女”、石川恵美の口跡で脳内再生されたし。春雄が帰りの電車の中で出会ひ、海野家に連れ込まれるといふ流れ。この人は劇中現実の地平で登場するフォクシーな摩子は、吸ひ寄せられるかのやうに電車痴漢を仕掛けた春雄のことを、勤務先まで知つてゐた謎の美女。
 瀬々敬久脚本に惹かれて、ではなく。山邦紀の「ナマ本番 淫乱巨乳」(1994/山崎邦紀名義/主演:姫ノ木杏奈)を見て改めて火が点き、摩子の出演作を何でもいいから兎に角見たいと辿り着いた、深町章1992年第九作。摩子目当てで喰ひついた人間には、序盤の杉原みさおパートは正直キツい。ものの、如何やうにも春雄が逃れられぬ、電車が衝突して阿部定る悪夢の連鎖といふ素晴らしく魅力的なモチーフは、続くしのざきさとみ戦に際してケロッと放棄。些か拍子を抜かれつつ、首から上も下も圧倒的な完成度を誇る絶対美人ぶりに正しく惚れ惚れさせられる摩子をいよいよ投入するや、物語の舵をファンタ方面に急旋回。そして火を噴く、今作最大最強の大技。あの石川恵美が超絶巨乳に変貌する、プリミティブがグルッと一周する驚異の映像マジックには度肝を抜かれた。結果、気だてのよさが感じられ、俺的お嫁さんにしたいピンク女優永代第一位の石川恵美の本濡れ場がオミットされたのは英断の範疇にさて措くとして、ここはおとなしく摩子に腰から下のエモーションを全て注ぐべきだ。翌朝の芝浜も地味ながら極めて秀逸、狐に憑かれたが如きラストは微妙に後味の悪さも否めないではないにせよ、これだけ諸々の見所を盛り込んでおいて、しかも六分強余して映画を切り上げるシャープな潔さに重ねて驚愕する。幕引き際の魔術師・深町章の面目躍如といつたところで、これよくよく考へてみると、案外合理的。六十分なり今後は七十分といつたレギュレーションが、何も全てではない。万事ないし始終が片付いた以上、残り尺はいはば無駄なり蛇足と断ずるならば、いつそそこでスパッと畳んでしまつて問題ないとする考へ方も十二分に成立し得る訳である。


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 「熟女 濃密な前戯」(1990/企画・製作:《株》メディア・トップ/配給:新東宝映画/脚本・監督:鈴木敬晴/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:斉藤久晃・井上愉斗志/音楽:Y.T.S/編集:酒井正次/助監督:沖田晃/制作主任:相沢豊/録音:ニューメグロスタジオ/効果:栗原効果/現像:東映化学/出演:小川真実・竹二郎・杉浦峰夫・久須美欽一・池島ゆたか・伊藤舞)。出演者中、池島ゆたかは本篇クレジットのみ。照明部チーフの斉藤久晃が、ポスターには斉藤雅志、ある意味判り易くはある。効果の栗原効果てのは初めて観た。
 夫婦で経営する零細印刷会社「沖島印刷」、勇治(竹二郎)・未幸(小川真実/主に辿り着けないアテレコ)夫妻と工員の晃(杉浦)が未幸の名前に関して、“未だ幸せ知らず”なのかそれとも“未来にバラ色の幸せが待つてる”なのかと話に花を咲かせる。晃の視線に気付いた未幸が、休憩に誘つてタイトル・イン。といつて、そのまゝ一足飛びに濡れ場初戦に突入する訳ではなく、ここでは麦茶で喉を潤すに止(とど)まる。例によつて沖島印刷は資金繰りに窮し、融資を断られた帰りに平然と座りションする白痴の少女・美津子(伊藤)と出会つた勇治は、衝動的に偽札作りに着手する。現金払ひと引き換へに肉体を求める取引先の部長・高田(久須美)に、未幸が抱かれて来たのを察した勇治は姿を消す。配役残り池島ゆたかは勇治をシメる、印刷機を売れだ女房を売れだとポップに情容赦ない三東か山東商会の借金取り。海辺を彷徨ふ勇治が美津子と再会する一方、刹那的に未幸と一線を跨いだ晃は、勇治がある程度まで仕上げた偽札に手を出す。
 久方振りの駅前本戦は鈴木敬晴(ex.鈴木ハル)1990年第三作にして、鈴木敬晴名義第二作。トータルでは、第五と三分の一作に当たる。切羽詰つた状況の中で、男と女が弾かせる情動、といふ主眼ならば酌める。典型的な悪代官ぶりに徹する久須美欽一とは対照的に、突つ込んで来る竹二郎や杉浦峰夫の切迫感は鈍く煌く。他人声が若干心許なさを残しつつも、受けて立つ、小川真実の地力に早くも遜色なし。フィクショナルな天使に過ぎないともいへ、伊藤舞も適役。とは、いふものの。誇張でなく十分弱の尺を残しての呆気なく無体な結末には、片やの清々しい放置含め流石に呆気にとられた。それと、実際の竹二郎はさて措き、劇中勇治三十八歳。自分より若い人間に行き詰まられると、小生少々複雑な気分(´・ω・`)

 後藤大輔の「喪服の女 崩れる」(2001/原案:堪忍/主演:佐々木麻由子)に、松岡邦彦の「福まんの人妻 男を立たす法則」(2009/脚本:今西守/主演:伊沢涼子)。首が回らなくなつた零細印刷会社が舞台のピンクが大体十年に一本放り込まれる細やかな伝統に、何某かの人為を超えた意思の存在は認め得るのか。もしも仮に万が一さうであつた場合、果たして次の機会はあるや。


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 「いんらんな女神たち ~目覚め~」(2014/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/第一話スタッフ 脚本・監督:小山悟/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/撮影助手:中村ゆう子/企画協力:鎌田一利/脚本協力:小鷹裕/第二話スタッフ 監督:永井吾一/脚本:佐藤稔・永井吾一/撮影監督:佐久間栄一/編集:酒井正次/撮影助手:大江泰介/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/共通スタッフ 録音:シネキャビン/助監督:禅立煙猫/監督助手:小関ユウジロウ/音楽:小鷹裕/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/主演:友田彩也香/第一話キャスト:星野ゆず・久保田泰也・岡田智宏・倖田李梨・加藤義一・竹洞哲也・鎌田一利・森羅万象/第二話キャスト:春山めい・佐藤良洋・亜留蜂乃・山口真里・松井理子・伊藤猛)。第一話キャスト中、加藤義一・竹洞哲也・鎌田一利は本篇クレジットのみ。第二話監督と共同脚本の永井吾一が永井卓爾の変名で、助監督の禅立煙猫といふのは、撮影当時前立腺炎を患つてゐた小鷹裕の変名。更に、第二話キャスト中亜留蜂乃だとか他愛のない名義は、クレジットから抜けてゐるけーすけの変名か。ついでで佐藤稔の名前を見かけるのは、「したがるかあさん 若い肌の火照り」(2008/監督:堀禎一/脚本:佐藤稔/主演:かなと沙奈)以来結構久し振り。
 クレジットの流儀に従ふと共通題のタイトル開巻、鄙びたバッティングセンター。ヘルメットまで赤で固め豪快な大根切りで空振りする森羅万象に、倖田李梨が大はしやぎで声援を送る。森羅万象と倖田李梨のコンビが、実にイイ感じ。この二人、この後(あと)ガッツガツしたセックスするんだらうなといふ風情を漂はせる。高卒後十一年―長えな!―当地でアルバイトを続ける、元高校球児の景浦伸二(久保田)が咥へ煙草で古く調子の悪いピッチング・マシーンを整備し、黒ヘルの若い女が予告ホームランの動作で打席に入る。金を入れたのに球が出ないと伸二の下の名前を呼び苦情を入れて来た女は、十一年前に死んだ筈の野球部マネージャー、兼伸二の彼女・南舞(友田)であつた。混乱する伸二と舞がすつたもんだした後(のち)、森羅万象と倖田李梨も金を入れたのに球が出ないと伸二をドヤして第一話題「場内ホームラン」が改めてタイトル・イン。伸二と、同棲相手・松林凛(星野)の生活もモニタリングしてゐるらしき舞はその後も伸二の前に現れ、舞からの電話を取つた凛の頭上には、謎の金属バットが降つて来る。これがロケーションも鑑みるに、一体何処から降つて来たのか本当に超常現象。凛にも出て行かれ、伸二は次第に消耗する。
 第一話配役残り岡田智宏は、吉商野球部監督・工藤安武。伸二の子供を妊娠した舞は、不祥事を懼れ秘かに堕胎。そのための費用稼ぎの援助交際を今度は工藤に嗅ぎつけられ手篭めにされかける現場に、伸二が飛び込む。三人が揉み合ふ中、舞は工藤に金属バットで撲殺される。加藤義一と竹洞哲也と鎌田一利は、バッセンその他客、並びまではロストする。それと一点瑣末、舞が伸二をバッセン事務所に訪ねる件、伸二の煙草が変つてるぞ。
 第二話「『思ひ出作り』『自分探し』『夢』『愛』に関するピンク」、センスのないタイトルで開巻。偽女子高生のノノミヤナナコ(友田)と、淫行補導教師―本物の教師か否かは不明―のコシミズ(だからけーすけ)が三万の約束でホテルに入る。事後シャワーを浴びる隙に支払前のコシミズに逃げられたナナコを、彼氏のアツヤ(佐藤)は激しく叱責する。人気AV女優と超一流ヴィジュアルアーティストを共に目指すと称して、アツヤは要は家出娘相手の質の悪いスケコマシだつた。続いてナナコが客を取らされたキンジョー(伊藤)は、背にはシーサーの彫物を背負ひ、勃たなかつた。なほかつ上着からは回転式拳銃まで転がつて来たがキンジョーの振る舞ひはジェントルで、金払ひもよかつた。
 第二話配役残り、見切れるか見切れないかの写真出演に止(とど)まる山口真里はナナコ憧れの、AV女優からタレントに華麗な転身を果たした夢の島舞、何なんだその関取みたいな苗字は。松井理子は街頭ビジョンから夢の島舞急死と、広域指定暴力団鍋組の渡邊元嗣―読みはゲンジ―組長襲撃事件を伝へるアナウンサーの、声のみ。春山めいはナナコと縁を切る前からアツヤが部屋に連れ込んだ、ナナコの後釜・ユズキ。
 金沢勇大・中川大資・矢野泰寛名義の北川帯寛・江尻大が合同デビューを果たした無印第一弾「いんらんな女神たち」(主演:佳苗るか・森ななこ・円城ひとみ・上原亜衣・津田篤)、中川大資の単独デビュー作「女子トイレ エッチな密室」(脚本:小松公典/主演:由愛可奈)を経て、小山悟と現役助監督界最後の太者、もとい大物・永井卓爾が二人それぞれ初陣に挑む「いんらんな女神たち」最終第二弾。主演女優は共有すれど、二篇の中身自体は半欠片たりとてリンクしはしない。終にあの大蔵もデジタル移行といふ歴史的なトピックとの兼合ひもあるのかも知れないが、北川帯寛は兎も角中川大資―にせよ第二作―以外残る四人の一人立ちの話が依然聞こえて来ないのは、地味に問題でもあるまいか。
 意図的にザラついた撮影に、俳優部若年層の面構へが浮いてしまふ仕方のない違和感も否めぬ小山悟の第一話は、新味に乏しい塞ぎ込んだサスペンスが、よくいへばよくも悪くもない。個人的な時事意識としては斯くも手当たり次第万事手詰まつた状況下に於いて、閉塞感だけ放つて寄こす感覚は、大いに疑問視したい。冷たい北風には吹かれ慣れた、小屋の暗がりの中でくらゐ、他愛ない慰撫にせよ怠惰な御都合であつたにせよ、暖かい南風を吹かせて欲しい。それと再度もう一点、今度は瑣末ではない。バッセンが伸二と舞にとつて思ひ出の残る場所であるといふ情報を、梓の指摘以前に完全にスッ飛ばしてのけるのは娯楽映画の段取り上甚だ如何なものか。最後に、どうにも腹の虫が納まらないのが、逆立ちしても経験者には見えない伸二のクソ以下のスイング。誰か久保田泰也の辞書に役作りの項目を追加して呉れ、商業映画ナメてんのか。対して永井卓爾作は、こちらもこちらで清々しく救ひのない物語とはいへ、最後の最後に再び飛び込んで来たけーすけが、ユーモアで暗さを埋め上手いことバランスを取るラストは、実のところは全く以て類型的な手数ながら確実な手応へで映画を締め括る。持ち尺十五分といふ非常に窮屈な戦ひを強ひられた、金沢勇大と北川帯寛と江尻大を同じ土俵に上げるのは公平を欠く気もしつつ、「いんらんな女神たち」組の中では永井卓爾に、流石に一日どころでは済まない長を感じた。
 加へて当然通り過ぎることが許されないのは、渡邊元嗣2014年第二作「純愛不倫 恍惚のくちづけ」(脚本:山崎浩治/主演:本田莉子)に続く、昨年九月に飛び込んで来た急過ぎる訃報が深い衝撃と哀しみとを呼んだ、伊藤猛のピンク・ラスト・バトル。今回は脱衣しての濡れ場も敢行、髪には白いものが混じり、深い皺が刻まれた表情はお爺ちやんにも見え、血色はよく、口跡にも所作にも覇気がある。五月中盤に封切られた今作の撮影時期が正確に何時頃であつたのか―もしかすると「純愛不倫」より先なのかも―は存じ上げないが、大雑把な筆を滑らせると、半年後には亡くなるいふなれば末期の人間には凡そ見えない。伊藤猛がエクセスライクなヒロインを頑丈にサポートする、既に地獄に堕ちた娘と、これから地獄に赴く男との邂逅は抜群に見応へがある。ナナコの、アツヤに傷つけられた背中に気づいたキンジョーは、直前の遣り取りも踏まへ「酷いことする神様だな」。第二話冒頭、同じシチュエーションにて無造作に昂るコシミズとの対比込みで、如何にも伊藤猛らしく投げた台詞が今も耳に残る。伊藤猛にカッコいい花道を用意した功績を、永井卓爾も胸を張れると思ふ。

 拙筆オーラス、二発目は何処にどうなつたのか二回観てもよく判らなかつたのだが、弾着がそこそこの出来。相当のアップで切り抜けざるを得ない着弾先を、劇中最初のナナコ帰宅時に、それとなく見せておいた一手間も心憎い。


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 「ナマ本番 淫乱巨乳」(1994/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:山崎邦紀/脚本:的場千世/撮影:繁田良司・小林嘉弘/照明:宮城力安・小林昌宏/音楽:薮中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:佐々木乃武良・戸部美奈子/ヘアメイク:斉藤秀子/スチール:岡崎一隆/効果:時田滋/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:姫ノ木杏奈・摩子・辻かりん・荒木太郎・太田始・樹かず・甲斐太郎)。脚本の的場千世も、山邦紀の変名。
 本格的なウェディング・ドレスを着込んだまなつ(姫ノ木)が、電話回線に別途噛ませた機器を介して自身の画像を相手に送る。まなつが今日は―電話の向かうの―貴方のお嫁さんになる旨を宣言したタイミングで、ドーンと威勢のいいタイトル・イン。情報家電を持ち込んだ画つきのテレクラといふと、浜野佐知1992年薔薇族込みで最終十二作「裏本番 女尻狂ひ」(主演:三田沙織)に於ける平勘主催の「世田谷TVデート」が想起されつつ、今回使用するガジェット―何れもSONY製―は大幅に小型化されたことに加へ、依然白黒ながら解像度も通信速度も格段に向上。更に、解像度を落とせば動画も送れる驚異の高性能。現代の水準で論じるならば牧歌的以前の骨董品とはいへ、当時としてはガンッガンに好事者の胸をときめかせた夢の新商品にさうゐない。恐らく、当人がときめきついでに山邦紀はその点ツボを弁へ、後述するユウコの顔見せに際しては、粗いけれどもイイ感じに扇情的な動画を、じつくりと尺も費やして見せる。
 横道から本道に復帰、まなつと関川(太田)の一戦。関川は鈴のついた、まなつのラビア―陰唇―ピアスに度肝を抜かれる。一見樹かず(現:樹カズ)の陰に隠れ忘れがちとなつてしまふのかも知れないが、実は矢張り今なほ戦線に留まる太田始の変らなさ、歳をとらなさぶりも十五分にも六分にも異常。一方、まなつの友人で画つきテレクラを運営する美香(摩子)は、如何にも人の好さげな画像を送つて来た業田か郷田か合田(甲斐)とホテルで待ち合はせることに。ところが部屋に黒服×サングラスで現れた業田の第一声は、「トーシローがプロの仕事にちよつかい出しちやいけねえな」、甲斐太郎の振り幅が素晴らしい。手篭めにされるも事後業田が寝落ちた隙に、美香は辛々脱出する。
 配役残り荒木太郎は、まなつが今度は看護婦の白衣で出撃する顧客。辻かりんは第三のテレクラ―といふか、業田の言の通り限りなくホテトルではある―嬢・ユウコ。この人は本物の刺青女で、まなつとボディピアスと刺青に関する談義に花を咲かせる。樹かずは送られて来た画像にユウコが喰ひつく色男・ヨシヤ。
 山邦紀1994年薔薇族含め最終第五作、アルバイト感覚の風俗営業を筋者に睨まれた、三人娘の運命や如何に。といつた寸法の如何にも娯楽映画的な粗筋ではあるのだが、中盤、事を済ませ―ナース服のまゝの―まなつと出歩く荒木太郎の曰く“業界には業界のユニフォーム”といふ私服を見た時点で、明らかとなる落とし処が裏切られるなり捻りを加へられることは別にない。ラビアピアス描写もピンク映画の限界におとなしく従ひ、普通にエロい以外に特段のエグみを感じさせるものでもない。寧ろすつかりビビッた美香の代りに、修道女姿で出向いたまなつのピアスに気付いた業田が「格好も変だし、変態女かお前は!?」と驚くのが、平素の雄姿を思ひ返すにつけ爆裂する「お前がいふな」感の面白さの方が先に立つ。よくいへば素直な、悪くいへば薄味な物語に対し、三番手は少々垢抜けないもののオッパイのジェット・ストリーム・アタックを撃ち抜き得る女優部三本柱は文句なく強力。とりわけ、即物的な破壊力では若干姫ノ木杏奈に劣れど、ルックス・プロポーション共々メリハリの利いた摩子が改めて超絶。摩子の絡みが序盤の対甲斐太郎一戦しかないことが、重ね重ね惜しい。とまれまなつのラビアピアスに、関川がチンコピアスで応へる締めの濡れ場は下心がグルッと一周したハート・ウォーミングに溢れ、エクセスの流儀に沿つたストレートな裸映画としては、全く磐石の仕上がりである。


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 平成27年映画鑑賞実績:219本 一般映画:18 ピンク:185 再見作:16 杉本ナンバー:56 ミサトナンバー:9 花宴ナンバー:4 水上荘ナンバー:9

 平成26年映画鑑賞実績:215本 一般映画:11 ピンク:197 再見作:7 杉本ナンバー:66 ミサトナンバー:8 花宴ナンバー:7 水上荘ナンバー:17

 再見作に関しては一年毎にリセットしてゐる。その為、たとへば三年前に観たピンクを旧作改題で新たに観た場合、再見作にはカウントしない。あくまでその一年間の中で、二度以上観た映画の本数、あるいは回数である。二度観た映画が八本で三度観た映画が一本ある場合、その年の再見作は10本となる。

 因みに“杉本ナンバー”とは。ピンクの内、杉本まこと(現:なかみつせいじ)出演作の本数である。改めてなかみつせいじの芸名の変遷に関しては。1987年に中満誠治名義でデビュー。1990年に杉本まことに改名。2000年に更に、現在のなかみつせいじに改名してゐる。改名後も、旧芸名をランダムに使用することもある。ピンクの畑にはかういふことを好む(?)人がままあるので、なかなか一筋縄には行かぬところでもある。
 加へて戯れにカウントする“ミサトナンバー”とは。いふまでもなく、ピンク映画で御馴染みプールのある白亜の洋館、撮影をミサトスタジオで行つてゐる新旧問はずピンクの本数である。もしもミサトで撮影してゐる一般映画にお目にかかれば、当然に加算する。
 同様に“花宴ナンバー”は、主に小川(欽也)組や深町(章)組の映画に頻出する、伊豆のペンション「花宴」が、“水上荘ナンバー”は御馴染み「水上荘」が、劇中に登場する映画の本数である。


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 「淫乱OL 思ひつきり抱いて」(2002『OL性告白 燃えつきた情事』の2014年旧作改題版/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/監督助手:下垣外純・井上久美子/撮影助手:岡部雄二/照明助手:広瀬寛巳/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/現像:東映化学/協力:未来/出演:佐々木麻由子・水原かなえ・河村栞・なかみつせいじ・竹本泰史・神戸顕一・入江浩治・樹かず・色華昇子・小川隆史・つーくん・山ノ手ぐりこ・川瀬陽太)。出演者中、色華昇子から山ノ手ぐりこまでは本篇クレジットのみ。
 無人のブランコを一拍抜いて、手短にタイトル・イン。税理士の神林尚彦(川瀬)は仕事先の「アセント・コーポレーション」にて、この半年で別人のやうに変貌したといふ野村美咲(佐々木)の溌溂とした姿に惹かれる。仕事に感(かま)け、疎かにしてゐた彼女・怜子(河村)をギタリストのヒロシ(入江)に寝取られ失意の尚彦は、今度は自棄酒を呷るバーにて、ホステスとしてアルバイトする美咲と再会。尚彦は口封じ兼意気投合した美咲宅に要は連れ込まれ、そのまゝ熱い一夜。そんな据膳、僕も装つて欲しい、下戸だけど。仕方のなさ過ぎる与太はさて措き、翌朝美咲から二月一ヶ月間―限定―の恋人を申し込まれ、当然釈然としない尚彦に、実家から送られて来た苺のお裾分けを持つて来た美咲の親友でオカマのミチヲ(なかみつ)は、尚彦が先月の―恋人―よりずつとマシ、今までで一番いゝとタイミング抜群に外堀を埋める。
 配役残り神戸顕一は、尚彦に対する美咲のイントロダクションも担当するアセントの経理部長・船戸。竹本泰史は後輩の尚彦と「N&K税理事務所」を共同経営する、Nこと中里功一。これ尚彦のイニシャルがNKで中里はKNなので、この二人何れかが去る形で袂を分かつた場合でも、何とか事務所名を変へず続けてゐられる。水原かなえは、中里の婚約者・由里枝。樹かずが、美咲の“一月の恋人”・西村。色華昇子から山ノ手ぐりこ(=五代暁子)までは、ミチヲ四十の誕生日パーティー要員。この中で唯一名つきの小川隆史は、ミチヲの彼氏・マサオ、マサヲかも。問題が、遡つて尚彦が美咲と双方驚きの再会を果たすバー。カウンターで一人酒の尚彦背中のボックス席、二人連れの客は片方が佐藤吏なのでもう一人は多分下垣外純にしても、美咲にカウンターの接客をするやう促すホステスが不明、演出部にしては普通に華がある。協力の未来といふのが、人なのか店なのか何の名前か判らない。
 池島ゆたか2002年第一作、「スウィート・ノベンバー」とかいふ評判の悪かつたデートムービーの翻案らしいが、そんな代物評判が良からうと悪からうと俺様の知つたことか。ラジー賞を獲得したとか聞くと臍の曲つた琴線もくすぐられつつ、実際に観るなり見れば珠瑠美の方がまだしもマシに決まつてゐる。女の裸もあるし、尺も半分近く短いし。捻くれた閑話は休題、因みに劇中が九月ではなく二月なのは、公開月に合はせて。月毎に恋人を変へる奔放な女と、女に見初められた、引つ込み思案の男。やがて明かされる、女のありがちな秘密。後述する、常にも増して主演女優ありきの企画であるにも関らず、佐々木麻由子よりも、相手役の川瀬陽太の方が寧ろ輝く。楽しむだけ楽しんで今際の間際は綺麗言を投げてオサラバだなどと、最終的には身勝手なアタシ探しに明け暮れる美咲の姿が、個人的には感情移入に難い。代つて美咲との出会ひを通して一皮剥け、一途に突つ込んで来る尚彦の青さを残すエモーションにこそ、激しく胸を揺さぶられた。「二月は終らない」、そんなダサいのかカッコいゝのかよく判らない台詞を、静かなる渾身で撃ち抜く川瀬陽太の愚直なカッコよさが、この映画のハイライト。終らない、終らせない。時空をも歪めよ、馬鹿の純情。何てロマンティックなんだ・・・・何ィ、元々甘ノベにもある台詞?だからそんなこた知らねえよ(#゜Д゜)

 すつかり忘れてゐたが、今作は当初佐々木麻由子の引退花道作であつたさうである。そもそも、人気ゆゑ旧作が常時上映され続けてゐるうちに、何時の間にか復帰し目下も現役の佐々木麻由子が、一旦引退してゐたことすら忘れてゐた。ただあれは今世紀初頭か、佐々木麻由子出演作は客が呼べると、週刊誌にも採り上げられるほどのちよつとしたフィーバーが興つたのは覚えてゐる。尤も、覚えてはゐるものの、実感してゐはない。この期に及んで今更何だが、実は当サイト、佐々木麻由子があまり得意でない。その理由は、伝はる伝はらぬは兎も角言葉には出来る、広島の土の匂ひがするんだ。


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 「挑発ウエイトレス おもてなしCafe」(2014/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:永岡俊幸/音楽:與語一平/監督助手:新甫慎太郎/撮影協力:本格珈琲 昭和/出演:辰巳ゆい・沢井真帆・菅野いちは・倖田李梨・山本宗介・岩谷健司・津田篤・ダーリン石川)。クレジットが確かなかつたけれど、撮影部のセカンド以降はゐないのか。まさかの紀野正人ただ一人で、経験則から推測するに照明は竹洞哲也が当てた?
 負傷した者縛られた者倒れた者に、転がる拳銃とナイフ。今一つ緊迫感に欠くのは映画そのものの都合とさて措いて、明らかに尋常ではない状況の喫茶店店内。両鼻から鼻血を垂らした辰巳ゆいが、「私はただ、美味しいカレーを食べたかつただけなのに」と呆然と呟いてタイトル・イン。義父・祐介(岩谷)の経営する喫茶店にてウエイトレスとして働く千川彩菜、もとい文子(辰巳)は、将来的にはカレー店の開店を夢見る。店内には他に文子の義理の妹、即ち祐介からは実の娘に当たる同じくウエイトレスのちとせ(菅野)と、ちとせを口説くポップに怪しげな芸能プロダクション社長・明地吾郎(津田)に、カウンターでは単行本を読み耽るいはゆる毒女の芦花さん(倖田)がコーヒー一杯で粘り腰。その日が誕生日の彼氏・浜名郁(山本)宅に、現に元カレを寝取られた過去もある実姉・つつじ(沢井)が遊びに行つてゐる情報を、当のつつじからのLINEメールで知らされた文子は気が気でない。当方時代遅れの田舎者につき一々噛みつくと、だからウエイトレスが客から見えるところでスマホを弄るな、祐介も注意しろよ。そんな最中、オートマチックとナイフを携へた穴倉良(ダーリン)が店内に飛び込んで来る。
 よくいへば問題作の範疇に入るのか、竹洞哲也2014年第二作。喫茶店武装籠城事件と、姉が仕掛ける今でいふNTR。併走するふたつの事件―とオッパイ薀蓄―をヒロインの、カレーに対する情熱と、要は彼氏以外は劇中全員ヘイトといふ清々しさとを縦横の糸に紡ぐ。といつてしまふと特段変哲なく聞こえかねないものの、その紡ぎ方が極めて特殊。適宜放り込まれるサブタイトルは精々スパイス程度に、始終を各人のモノローグで繋ぐ凝つた手法が話題を呼んだ加藤義一2010年第一作「痴漢電車 夢指で尻めぐり」(脚本:近藤力=小松公典/主演:かすみ果穂)の遥か斜め上を超え、本来ならば銘々の台詞―大蔵、もとい穴倉に関しては弁士のゐない無声映画方式―さへ声色で片付ける、文子のモノローグ一本槍で貫くといふかブチ抜いてみせた!何が凄いといつて、俳優部からは辰巳ゆいしか参加してゐない―残りの面子はしなくていい―アフレコ風景を想像するにその画面(ゑづら)が凄い。特異な趣向には反して、問題、もしくは致命傷は全く実に清々しく素直に、発声による情報を本当に全て任せられた辰巳ゆいの地に足の着かない口跡、より直截には覚束ないスキル。ピンク映画が出来上がるまでの具体的なタイミングなりスケジュールが判らないのは仕方のないことと開き直るとして、脚本を執筆する段階で、主演女優くらゐは決まつてゐなかつたのかな?映画一本丸々背負はせるのは、ピンク二戦目の辰巳ゆいには些かでもなく通らぬ相談といふもの。余程の歴戦か天才的な超新星でなければ重過ぎる荷にヨレた映画の腰を、演出部が持ち直すこともなく。展開の一手一手自体は特にも何も新味も切れも欠き、史上最大の作戦の辺りでは明確に縺れる。だからコッキングの省略は娯楽映画の文法的にアリなのかナシなのか、といふ点は一旦等閑視した上で、それ以前に辰巳ゆいの走り姿も別に美しくはないラストは抜けが悪く、中途半端なオーラスは生煮え感をある意味だか逆の意味で完成させる。詰まるところ不自由なパントマイムを強ひられる俳優部は辰巳ゆいの元々無理が大きい支配の下身動きを半ば封じられ、個人的には結構好きな、2013年第一作「野外プレイ 覗きの濡れ場」(主演:吉瀬リナ)以来通算第五戦となる沢井真帆の片翼捥がれた感は地味にでもなく厳しい。結果論にせよ何にせよ、決戦兵器といふか要は唯一の武装が辰巳ゆいによる独白、といふ時点で既に負け戦ともいへ、もしも仮に万が一。ほんなら誰を連れて来れば勝てたのかと素人の浅知恵を巡らせてみると、夢想し得る正答例が決してなくはない。まるで夜空を駆け抜ける彗星の如く、早々にリタイアした小さな大女優・華沢レモンであつたならば、斯くも難解な企画も十二分に成立してゐたやうにも思へる。


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 「社内《秘》性愛 バイブを掻き回さないで」(1995『出張ONANIE 女課長の携帯バイブ』の2014年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/音楽:鷹選曲/美術:衣恭介/効果:協立音響/編集:井上編集室/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:赤木佐智・柴田はるか・風間水絵・樹かず・木村正男・山本清彦)。出演者中、木村正男は本篇クレジットのみ。主演の赤木佐智がポスターには赤木佐知、正解、ないし基本はどうも赤木佐知ぽいのだが。
 演歌のイントロみたいな謎劇伴流れる中、アメリカにて下着デザインで一山当てたのち、国内の下着メーカー開発課課長に抜擢された境玲子(赤木)が、Tバックの下着を脱ぎ美しい尻を晒す。自ら目隠しし、バイブで自慰に耽る玲子を部下の村木(山本)が手篭めに。シチュエーションが感動的なまでにまるで理解出来ないけれど、兎にも角にもタイトル・イン。どの際だか最早判らないこの際、兎に角とでもしかいひやうがない。
 専属モデルの募集に応募して来た柴田はるかを、玲子が異様に面接する。一体全体、異様な面接とは何ぞやといふ話であるが、珠瑠美映画のシークエンスは概ね理解不能につき、逐一を文字に起こすのでなければ異様とでもしか評しやうがなく、勿論然様な不毛な骨を折るつもりも御座らん。十五の時暴走族に輪姦されて以来男を遠ざけて来た玲子は、はるか(仮名)が目下異性と交渉を持つてはゐない点に固執する。配役残り樹かずは、玲子を抜擢した専務・志村幸三。またえらく若い専務だなといふ不可思議は、筆頭株主の子息といふ形で珍しく順当に説明される。反面、当の志村が十五の玲子を犯した族の一員であつたりするわざわざ薮の中の蛇を突くツッコミ処は、無造作に繰り出されそのまゝ放置される。風間水絵は志村の細君、木村正男は村木を伴ひ経費を湯水の如く使ひ、業務内容も怪しげな開発課に関して志村に苦言を呈する反対派。
 監督としては二十年弱のキャリアの終盤、珠瑠美1995年全五作中第二作。自らが開発した―媚薬仕込みの―下着を携へ富裕客の下を訪問販売、そこでバイブONANIEを披露し注文下着を売り捌く。ヒロインの造形で既に世界を狙へるアヴァンギャルドさを、奇怪な展開が終始維持するそれはそれとしてそれでも実に珠瑠美らしい一作。寧ろ実は彼女であるはるかに村木が焚きつけられての結果が開巻に、水絵(だから仮名)が下着メーカーの妻―志村台詞ママ、日本語おかしいだろ―にしては変哲ない下着を着けてゐる紺屋の白袴がクライマックスへと連なる予想外の脈略は、融解した起承転結にあつては掛け替へのない奇跡とすら映る。屈折したアイロニーはさて措き、三本柱は首から下も上も綺麗に粒が揃つてゐるゆゑ、下手に物語を追ひさへしなければ濡れ場比率だけは文句なく高いだけに、裸映画的にはそれはそれとしてそれなり以上に安定する。確か一応その筈の劇映画を捕まへて、物語を追ふなとは何事か、といふ最も原初的な疑問については気にするな。気にした方が負けとする規則を採用するならば、何人たりとて珠瑠美には勝てないやうにも思へる、勝ち負けの意味が判らない。


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 「豊丸伝説 超変態」(昭和63/製作:獅子プロダクション?/配給:新東宝映画/構成・演出:片岡修二/企画:大橋達夫/撮影:下元哲/照明:白石宏明/録音:大谷清/編集:酒井正次/劇中映画:『満蒙的淫乱恋歌』 脚本・演出:瀬々敬久/監督助手:小林洋一/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/録音助手:田村英二・吉峰康雄/メイク:岡本佳代子/車輌:JET RAG/現像:東映化学/出演:豊丸・山本竜二・井上あんり・東山絵美・渡剛敏・下元史朗・西本健吾・渋谷良介・広瀬誠・池島ゆたか)。
 今回ダウンロード視聴したのがビデオ版につき実際の本篇の塩梅は判らないが、ヌルいタイトル開巻。戦火と雨の中を、軍服とチャイナドレス、二人の女が逃げる。一方、挙動不審の愛新覚羅溥儀(山竜)に、目元が色つぽい甘粕正彦改め吉岡正彦(池島)が近寄る。そこに吉岡の手引きで、川島芳子もとい敷島ユウコ(豊丸)が天津から婉容妃(東山)を送り届ける。二組の男女が二部屋に別れ、勿体つけた雰囲気、あるいはモッサリとふたつの濡れ場が併走するのは、井上あんりがハーセルフのリポーター役で飛び込んで来る、“史上最強の淫乱娘”豊丸主演の映画「満蒙的淫乱恋歌」(監督の瀬々敬久もヒムセルフ)の撮影風景。当然この人もヒムセルフの下元史朗も参戦し、インタビューとシーン・撮影現場込み込みの「満蒙的淫乱恋歌」とが適宜連ねられる。
 配役残り渡剛敏は、川島芳子が何と山口二矢(東山絵美の二役目)と邂逅する場面の撮影中に乱入する、豊丸の偏執的ファン・小林。ビリング推定で西本健吾と渋谷良介が締めの絡みの乱交要員、広瀬誠はジージャンにサインして貰ふ豊丸ファンか。
 何を見るかとDMMのピンク映画chをブラブラしてゐたところ見付けた、最高傑作の第二作「豊丸の変態クリニック」(昭和63/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀)、最終作「豊丸の何回でも狂つちやふ」(1989/脚本・監督:細山智明)に先行する、豊丸のピンク映画第一戦。豊丸が主演三作に於いて、何れも彼女自身の豊丸役といふのは稀有なトピック。劇中映画と、今でいふモキュメンタリーとが交錯する。初陣にして複雑な趣向の一作を引き当てる辺りも確かに伝説的な豊丸のスター性の所以であるとよくいへばいへるのか、不用意に観念的な「満蒙的淫乱恋歌」は特に工夫もなく全般的にどうしやうもない安普請の直撃を被弾し、インタビュー・パートの平板な中身含め、片岡修二の構成は切れを欠く。目新しいコンセプトの一点突破で興味を惹きつけ得た―のかも知れない―当時は兎も角、如何ともし難い漫然とした退屈さが今の目には否めず、何れにせよ、豊丸目当てでAVの形で今作を借りた諸兄は、大概ババを引いた思ひをしたのではなからうか。ただ「満蒙的淫乱恋歌」作中意図的に錯綜する敷島ユウコの出自が、豊丸本人のものに収束する劇中映画ラスト・シーンから怒涛のクライマックスへと繋がる流れは幾分以上に求心力を回復しつつ、結局オーラスで再失速。もう一声色気を出して、映画が第三の位相に突入する粘りを見たかつた心も残す。


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 「姉妹どんぶり 抜かずに中で」(1997/製作:?/監督:吉行由実/脚本:五代暁子/撮影:小西泰正/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/音楽:加藤キーチ/助監督:瀧島弘義/監督助手:松岡誠/撮影助手:畠山徹・鏡早智/照明助手:耶雲哉治/応援:国沢実/スチール:原田兼一郎/録音:ニューメグロスタジオ/タイトル:道川昭/現像:東映化学/配給:大蔵映画㈱/協力:小林プロ、オフィス・ブルー、小室博文、目黒シネマ/出演:貴奈子・神無月蘭・吉行由実・畠山たくみ・石川雄也・山ノ手ぐり子・細谷隆広/友情出演:葉月蛍・荒木太郎・Dear Friends)。
 明朝体のお堅いタイトル開巻、ショート・カットの貴奈子とロン毛の石川雄也が、翌年撤退するダンキンドーナツのフレンチクルーラーに舌鼓を打つ。ここで、轟然と若気の至りが火を噴くのが出鱈目に動き倒すカメラ。実際には普通に食べ食べ歩いてゐるだけなのに、まるで乱気流の中にでも放り込まれたかのやうに何が何だか本当に識別不能な画面は何だこりや、やらかしたぶりが実に清々しい。OLを突如退職、語学留学後現在は目黒シネマのモギリ嬢として働く葉子(貴奈子)と、八年来の友人・タカシ(石川)がスイーツ談義に話を咲かせる。ここで、カット毎地味に服装が変つてゐるのは二人の日常的に継続する関係を表したギミックなのかも知れないが、正直さりげなさ過ぎて判り辛い。自宅にて「明日世界が終るとしたら、何が食べたいですか?」、葉子が今度は手話を練習してゐると、帰国後始まつた付き合ひが一年の元同僚・英二(畠山)が風呂から出て来る。入念に七分費やす割に、濡れ場初戦は貴奈子の美しい乳尻をあまり見せはしない。頻りに距離を詰めて来る英二に対し、葉子は微妙に煮え切らない。タカシの存在も念頭に、次第に業を煮やす英二と葉子が軽くでもなく衝突する中、就職活動を控へた葉子の妹・ナナ(神無月)が田舎から上京。葉子は仕事につき、タカシが東京案内する。
 配役残り、細谷隆広とイコール五代暁子である山ノ手ぐり子は、目黒シネマ支配人夫妻。吉行由実は、タカシと同棲する同僚編集者・ミナコ。映画館だ編集者だと、底の浅い、もといそこはかとないカルチャー臭が堪らない。問題は友情出演勢、候補は目黒シネマの観客要員くらゐしか見当たらないが、相変らず葉月蛍や荒木太郎が何処に見切れてゐるのか全く判らない、これはこれで逆に凄い。
 年末に公開された、吉行由実真夜キバ込みで2014年第二作「妹の匂ひ よろめきの爆乳」(主演:奥田咲/当然未見)の、リメイク元だといふので見てみた吉行由実第二作、由美でなく由実名義なんだ。何気に注目すべきなのが上野オークラが「妹の匂ひ~」を、併映に今作を並べて封切つてみせた点。非常にユニークな番組であるのと同時に、暗いところで同じ物語を二度続けて観ることになる訳で、眠たくならないか?とも脊髄反射で思ひかけたが、そもそも主人公のポジションが姉から妹にと、結構骨組みから違ふみたいではある。
 とりあへず話を本作単体に戻すと、秋の空にも譬へられる女心の美名に隠れ、詰まるところ自堕落に二枚目の男友達をキープし続けるヒロインの姿には男目線では感情移入に甚だしく遠く、そしていふまでもなく、ピンク映画の観客は手前供下賤な男衆である。飛び込んで来ては仕事を片付けるや直ぐ様捌ける、ビリング上は二番手の三番手に展開全体に於いて最大の動因を担はせる戦略は素晴らしく秀逸ともいへ、自ら膳を据ゑておいて、事後はしかも寝取つた男を詰りすらする主人公に対しては、何なんだこの女とツッコむほかない。挙句に、葉子が何だかんだで―多分―専業主婦の座にちやつかり納まつた末の、オサレの皮を被つた都合のいいラストには、最後の絡みから十分弱残した尺を、無理に女の裸を捻じ込むことなく素のドラマ一本で乗り切つてみせた英断とメガホン捌きには敬意を表しつつも、最大限好意的にも苦笑を禁じ得ない。我儘なお姫様をイケメンの王子様が腹も立てずに優しく抱つこして呉れる、要はハーレクインロマンスに陰毛を生やしたが如き一作とはいへ、考へてみればうだつの上がらないダメ男が何故か女優部三本柱相手に酒池肉林。我々を惰弱に慰撫する底の抜けたエロ映画のネガだと思へば徒に目くじらを立てるのも大人気ない相談で、苛烈なフェミニズムを咆哮し続ける浜野佐知とは一見対極に位置しながら、これもひとつの女性映画の形であるとするならば興味深い。かういふ映画を観て喜ぶ人間の下に、どうやつて届けるのかといふ根本的な問題はさて措いた上で。


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 「ラスベガス狂乱 襲はれて」(1990/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:松瀬直仁/企画:ロック座企画室/撮影:柳田友貴/照明:飯田橋小助/スチール:大崎正浩/編集:金子編集室/メイク:田中尚美/助監督:まつせなおと/音楽:竹村次郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化工㈱/出演:東笙子・火の鳥・東瑠璃・工藤正人・武藤樹一郎・三代目東八千代)。
 飛行機抜いて即ベガスかと思ひきや、ハイキーなフレームの中で東笙子と工藤正人が対話する。女子大生の美智子(東笙子)は留学目的の渡米を控へ、まるで今生の別れとでもいはんばかりの大袈裟さで、未だ気持ちが固まつては必ずしもゐないボーイフレンド・杉山ジュン(工藤)に膳を据ゑる。完遂後改めて爆音、向かうの空港の風景を舐めた上で、何と街景スナップ―最悪絵葉書―にラベルプリンターを貼つゝけただけといふ画期的に安つぽいタイトル・イン。クレジットも―最終的にエンド・マークも―同じ手口で通すのだが、わざわざラスベガス撮影までしておいて、そりやないぜ大御大。
 美智子は心配して先乗りした杉山とまさかの再会、待ち合はせた美智子の叔父・大宮ヒロシが現れないため、右も左も判らぬ中二人で大宮の住所を目指す。偶々見付けた日系人・チャンドラ(武藤)が大宮の知人で、渡りに船と車で送つて貰ふことに。ところが砂漠の真ん中で故障を偽り車を停めたチャンドラは、杉山はスパナで昏倒、美智子を犯して拉致する。挙句に大宮に二十五万ドルもの貸し金があるだなどと因縁をつけ、チャンドラは美智子をボスの高岡(名前しか登場せず)に売り飛ばさうとする。
 配役残り、時期的に二代目かとも思へたが確かに三代目とクレジットされる東八千代は、チャンドラ情婦。門外漢が大雑把に譬へてみると東八千代といふのは要はストリップ界のコロンビア・ローズで、何があつたのか三代目が素の三代目とnew三代目の二人に増殖してみたりするゆゑ、末代の七代目までで総勢十人ゐる。東瑠璃は砂漠で杉山を保護する女・ユキ、火の鳥がユキの妹・マリ。顛末が片付いた後に漸く登場する大宮は、上手く回避してあるが多分小林悟。
 大御大・小林悟、1990年薔薇族四本込みで全十八作中第八作。流石に本数の箍が外れてゐる、量産型娯楽映画の権化、あるいは鬼とさへ呼ぶに相応しからう。元々の出発点が―総本山たる浅草―ロック座のラスベガス公演に連動したものか慰安旅行にでも便乗したものかは兎も角として、jmdbをつらつら眺めるに恐らくこの時、エクセス一本挿んで第十作「猥褻ストリート」(脚本:松瀬直仁/主演:東八千代)、第十一作「ネバダ砂漠 肉と欲」(脚本:小林悟/主演:火の鳥?)、第十二作の薔薇族「南十字星 神々の償ひ」(脚本:松瀬直仁/主演:工藤正人)との驚異の四本撮りを大御大は敢行してゐる。二本程度ならば今でも聞くが、その倍、乃至は二乗である。流石にやることが違ふ、仕出かす無茶といふべきか。尤も、もしくは案の定、映画の中身は別に信頼はしないけれども安定の御大映画。折角不憫に思つた三代目が逃がして呉れたのに、その後の経緯は軽やかに割愛して美智子は間抜けにチャンドラに再捕獲、大使館に駆け込むくらゐの知恵も働かないのか。一方、囚はれの美智子に役立たずだ馬鹿だ弱虫だ間抜けだと散々に罵られる杉山も現にその通りの男で、担ぎ込まれたユキ宅にて、何れも据膳の姉妹丼を完成せしめるばかりで美智子捜索は女任せ。重ねて乗り込んだチャンドラ邸でも、再度ボコられかけ三代目に助けられる始末。そもそも、ひとつの屋敷をチャンドラ邸・ユキ宅ついでに大宮邸で使ひ回す清々しいほどの安普請は、元々薄い物語成分を更に撹拌する。そもそもそもそも、折角アメリカに繰り出しておきながら、女優部は全員ロック座舞台もとい部隊。どんなに大根であれ何処で拾つて来たのか判らない馬の骨であれ、パツキン女優の一人も出て来ないとあつては画竜点睛を欠くどころの騒ぎではない。
 そんな、一見掴み処にさへ乏しいかに見せかけた今作が爆裂させる空前絶後の大技は、再捕獲後の美智子が、ベッドに縛りつけられチャンドラに再び陵辱される件。一応アフレコは被せてあるものの、適当に連続させたスチールで、しかもよもやまさかの七分強といふ長尺を乗り切るといふか突つ切つてみせる驚天動地の映画反革命。こんなの本当に正真正銘初めて見た、映画の惹句によく謳はれる“衝撃のラスト何分”云々は、全部纏めて今作の比類ない破壊力の前に平伏すしかあるまい。何某かの粗相で、そのパートのフィルムを丸々おシャカにしたぢやことのいはんぢやろな。


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