真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「湯けむりおつぱい注意報」(2017/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/原題:『童貞と激欲の熟女たち』/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/音楽:OK企画/助監督:加藤義一/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:酒村多緖・丸峯正義/録音所:シネキャビン/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:井戸田秀行/出演:篠田ゆう・加藤あやの・福咲れん・櫻井拓也・平川直大・小川雅也・鯨屋当兵衛・久須美欽一)。原題は、劇中見切れるシナリオの表紙から拾つた、劇中?
 OPPカンパニー・ロゴとOKPクレジットに続き、「本番!」かゝる撮影風景を短く挿んで、「皆さん監督の小川欽也です」と今上御大が飛び込んで来る驚愕開巻。監督生活大体五十五年―正確には五十三年―と監督作四百二十本を記念しての観客に対する御挨拶は、小川欽也の語り口に合はせのんびりマッタリ五分を費やすものの、変名である水谷一二三の由来が水谷良重(現:二代目水谷八重子)のファンである所以と、聖地・花宴の経営者が友人である縁故が明らかとなる以外には、明後日か一昨日な有難味はさて措き正直これといつた意味はない。ある意味革命的とでもいふか何といふか、小川欽也にのみ許された芸当といつてしまへばそれまでながら、兎も角仕出かす芸当のスケールが違ふ。
 闇雲にカッコいい“小川欽也監督作品”のロゴを噛ませた上で、気を取り直し改めて本篇。北村拓哉(櫻井)の部屋にて、恋人の水上京子(福咲)と婚前交渉突入目前。腰の重い北村に軽く業を煮やし、自分から尺八を吹く格好で下半身を脱がせてみた京子が、「可愛いのね」とついうつかり口を滑らせる。実は童貞の北村はその一言で心が折れ行為を中断、憤慨した京子は部屋を出て行く。櫻井拓也デフォルトの膨れ面で北村が憮然としてゐるところに、大学の自動車部の先輩・西川薫(平川)からドライブにお誘ひの電話が。“いざ出発”、“伊豆へ―”。何をこの期に血迷つたのか、市川崑―と荒木太郎―に気触れた明朝体大書スーパーを多用も通り越して濫用しつつ、てな訳で二人は西川が購入した中古の日産ティアナで一路伊豆。ポール・モーリア風のOK劇伴鳴る中、後部座席から前方を抜いた画にタイトル・イン。続けてオープニングで済ませるクレジットは俳優部・スタッフの順で、右側車窓を景色とともに名前が左から右に流れて行く。トメの久須美欽一と、小川欽也は流れず最初から中央に浮かび上がり、ピンクに今世紀初参加した井戸田秀行はただ一人、他よりも明確な速さで駆け抜ける。
 伊豆に行つて帰つて来る以外の内実も特にないゆゑ配役残り、ピンク初陣の加藤あやのは、西川がナンパする山田真里、仕事を辞め実家に居場所をなくした口。車が壊れたと偽り北村に宿を探しに行かせた隙に、西川が真里に手を出しかけた結果、真里は北村と距離を近づける。後部座席真里マターで真里と北村がイチャつくのはおろかオッ始めかねない勢ひに、遂にハンドルを握る西川がキレる件は、御齢八十二ともなる監督の映画とは思へない瑞々しさ。あるいは、ナオヒーローの太陽のやうに熱く輝けるエモーションの成せる業なのか。篠田ゆうは、画面右から欽也御親族?とKSUの変名に追はれティアナの前に飛び出して来る島田藤子。こちらは国沢実2013年第一作「家庭教師 いんび誘惑レッスン」(脚本:内藤忠司/主演:早乙女らぶ)二番手以来の大復帰、まるで面影がないほどの超絶プログレスを遂げてゐる。そして久須美欽一が藤子の祖父で、一行が孫を助けて呉れた御礼に御厄介になるペンション「花宴」のオーナー・島田公平。顔の引き攣りに気づかないフリをするならば、全盛期そのまゝに軽妙な良コンディションを窺はせる。二十年前には既にお爺ちやん役をやつてゐた印象につき、小川欽也と大して変らない齢なのかと思ひきや。久須りんてまだ六十七歳なんだ、まだまだ全然イケる。
 国事行為に憂いた荒木天皇が、伊豆に行幸する。荒木太郎は俳優部に専念させ、今上御大・小川欽也に撮らせてゐれば天皇ピンクも賑々しく成立してゐた官能性、もとい可能性があつたやうに思へなくもない、年一ペースの純粋伊豆映画最新第七作。真里が北村にザクザク膳を据ゑる一方、愛人を作つた元夫に蒸発された藤子と、都会生活に厭いた西川とが俄かにイイ仲になる展開は、島田翁がザックザク孫の恋路に乗つかつて来る久須美欽一の猛ダッシュを除けば、絡みに突入する方便を超えての見所も見当たらず、劇映画的には何時にも増して薄い。尤も加藤あやのの朗々とした棒口跡は底の抜けた据膳シークエンスに絶妙にフィットし、こんなどエロい体してたかな!?と目を見張つた篠田ゆうの極エロ肢体を、戦闘的なカメラワークで狙ふ濡れ場は凡そ枯れを感じさせない。どころか、弟子筋の加藤義一なり竹洞哲也に爪の垢を煎じて飲ませたくもならう、最古参が最前線を爆走する一撃必殺感を轟かせる。自分の組が初めてだからといつて小川欽也は新人と勘違ひしてゐるやうだが、数へるとピンク五戦目となる福咲れんも福咲れんで高い水準を保ち安定。東京で一人待ち惚けを喰らはされる京子が、真里―と西川パイセン―のアシストを受け帰京した北村との締めを担ふ、ビリングは三番手にして地味な重責もサラリと果たす。開巻の弁では“それなりに面白い”と謙遜しておいでだが、なかなかどうして、それなり以上に充実した裸映画であつた、メデタシメデタシ。と行かないのが、今回の伊豆映画。目出度く完遂を果たした北村家のベッドから、カメラがパンしたスタンドの傘に“終”が被さる盤石のラスト・カットと、スチールを連ねた小川雅也と鯨屋当兵衛を除いたキャストと小川欽也のクレジットを経て、「今年はこれで、また来年」と小川欽也が再び飛び込んで来るオーラスには度肝を抜かれた。伊豆を小川欽也で挟む、どんなサンドイッチだ、こんな映画本当に観たことない。土手を散歩する小川欽也に異常に長々とカメラを回す姿勢には、主演女優の物語が事実上完結したのちの残り十分で、温存した朝倉ことみを消化する前作「昇天の代償 あなたのゐない夜」(2016/主演:広瀬奈々美)同様、撮影方法がフィルムからデジタルに移行しただけなのに、何故かロマポ並の七十分に十分延びたレギュレーションに対するプロテスト―前後合はせて、今作に於ける小川欽也パートも概ね十分―と曲解し得たにせよ、幾ら何でも今上御大の近影よりも、女の裸を見せろといつた呆れないし憤慨は否み難い。どうせなら、小川欽也が普通か勝手に喋つてゐる背景で、何の脈略もなく女優部がくねくね踊つてゐたりなんかするワンダーくらゐ撃ち抜いてみせればよかつたのに。それと荒木太郎ばりに脚本のト書きをわざわざ文字にしてのけもする大書スーパーは正直藪蛇に煩はしくしかない反面、北村×西川×真里が花宴に到着して最初の夜。多分花宴夜景の画面一杯に、

 “夜”

 と打つてみせたのにはグルッと一周して感服した。見れば判るよ!流石に量産型娯楽映画とはいへ、そこまで敷居を低くして呉れなくていい(笑


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