真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「いひなり未亡人 後ろ狂ひ」(2010/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也/撮影助手:橋本彩子/照明助手:八木徹・斎藤順/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション・カラオケスナックドール/出演:星優乃・亜紗美・岡田智宏・西岡秀記・堀本能礼・山口真里)。
 大蔵もとい大暗ヶ池のほとり、三回目の未亡人になりたての氏木真知子(星)が黄昏る。全員チラ見せの遺影は判別し損ねたこれまで真知子三人の旦那は、一人目はエッチを求め過ぎて過労死、二人目は風呂場での潜望鏡プレイの最中に水死。そして直近の三人目は、騎乗位で跨る内に腹上ならぬ腹下死したことにも気付かず、真知子は死後硬直を更なる剛直と勘違ひし腰を使ひ続けてゐた。即ち、真知子の箍の外れた性欲の果てに、何れもが命を落としたものだつた。池に三つ目の結婚指輪を投げた真知子の前に、その姿で外を出歩くのは正直清々しくブレイブな頓珍漢にも思へる、セクシー・ムームー衣装の羽佐間美也(山口)が現れる。巨大なお世話で真知子に男難の相を看て取つた美也は、頼みもしないのに占つて進ぜようと自宅にまで乗り込む。占ひ師なのかといふ真知子の問に対し、美也が“ジプシーの運命研究家”―本篇山口真里台詞ママ―と自己紹介したタイミングに合はせてタイトル・イン。
 主演女優の裸を軽く披露がてら、張道完門下なのか美也は真知子の女陰周辺の形状から、何だかんだと大雑把に占ふ。重ねて星型の入墨ではなく黒子を見つけた美也は、亀頭に同様の黒子がある人物こそが真知子にとつて運命の男であるとの診断を下し、三万円の見料をせしめて行く。だからそれ、如何なる手段で探し当てるんだよ!といふツッコミ処が、その後回収されることは特にない。話を戻して、真知子は以前から、服装から江戸時代を思はせる遠い昔、池で男と心中する同じ内容の夢を繰り返し見てゐた。但し頭巾に隠され、当の運命の星型氏と思しき男の顔は絶妙に見えなかつた。
 場面変り、真知子行きつけのスナック「薔薇の蕾」。オカマのママ・ヒロミ(岡田)は美也の宣託を体よく騙されたのだと一笑に付すが、亡夫の死亡退職金が入る予定の真知子は、さして意に介さない、現金な女だ。真知子が「薔薇の蕾」を後にすると、泥酔し寝こけてゐた常連客の森宮春樹(西岡)が目を覚ます。形はどうあれ矢張り伴侶を喪ふではなく正しくは失つたばかりの春樹は、真知子に金が入る件はチャッカリ耳にしてゐた。ヒロミからは惚れられた強みに乗じ、春樹も真知子に続き、飲み代(しろ)はツケて払はずに帰る。劇中、ヒロミが客から金を受け取るカットは終に設けられないのだが、果たしてこの店は大丈夫なのだらうか。
 林家ペーのやうな髪型の、逆の意味でオネストともいへる闇雲な鬘を載せた堀本能礼は、そんなこんなで事務的手続きのために真知子宅を訪れる、最新亡夫勤務先の上司・津川浩三。以前に何処かでお会ひしたことがありませんか云々と、ベタベタな口説き文句でセクシーな寡婦に言ひ寄ると、美也に加速され夢見がちな真知子をコロッとオトす。単なる助平親爺に騙されたとヒロミから明らかにされたにも関らず、続いて春樹にも、薮蛇なイマジンに乗じていひなりな真知子が対津川戦と同じくチョロ負かされたところで、正しく猛然と飛び込んで来る亜紗美は、オーピー金融秘められた素顔は武闘派の回収担当・八田彩香。平素目をショボつかせる牛乳瓶メガネを外すや否や、途端に超強硬の強面、兼サディストへと華麗なる変貌を遂げるギミックは、亜紗美の地力にも加速され画期的に鮮やかに決まる。と、ここまで、ピンク映画初出演ながら思ひのほかカンの悪くない星優乃以下、突進力自慢の山口真里、クネクネしたオカマ役に意外と長けた岡田智宏。ポップな好色漢と甘いマスクのスケコマシを好演するそれぞれ堀本能礼と西岡秀記に、持ち前のキレのある攻撃力をフルスイングする亜紗美。円滑な始終の推移に、逆に見落としてしまひがちになりかねないのかも知れないが、改めて検討してみると配役は驚愕の完成度を誇る。
 渡邊元嗣快調に九月封切りにして早くも2010年第四作―但し一月中盤の翌年第一作までが、暫し間も空く ―は、「愛染かつら」から「君の名は」に流して、女郎の心中悲恋と阿部定事件をも大胆に加味した「金色夜叉」経由で、終着点が何と「エクスクロス」行き。などといふ、空前絶後の離れ業を繰り広げる展開を通して運命の恋人同士が巡り会ひ結ばれるまでを描いた、一見何といふこともないルーチンに偽装した量産型娯楽映画気楽な大傑作。まるで予め、通り過ぎられることを自ら望むかのやうに肩肘張らなければ偉ぶりもしない、流れる水の如く恙無さではあるが、徐々ににじり寄つて来る伏線のシレッと迸る秀逸さが堪らない本筋に加へ、実は何気に、、起承転結転部のアクセントを綺麗に叩き込むと同時に、春樹を篭絡し双方向に牙を剥かせる彩香、媚薬を用ゐ強制攻略したといふ方便で、二つの星型の黒子を繋げ線を引く美也。ピンク映画に関してある意味最重要ともいへる、二番手・三番手の裸込み込みの放り込み様も超絶に完璧。王道中の王道といふに相応しい物語を、共に慎ましやかな頑丈な論理と卓越した技術とによりサラッと形に仕立て上げた、現在進行形の工芸的な到達点。しかもラスト・ショットは、巨大な鋏を振りかざす追手を中央に、左にヒロミ右に真知子が逃げながらジャンプするストップ・モーション。この期に、斯様な古式ゆかしいメソッドで堂々と一本の商業映画を締め括つてみせるといふのも、世界の映画人の中でも渡邊元嗣でなければ北沢幸雄くらゐにしか許され得まい、その意味に於いても、紛ふことなきナベ映画。確かに間違つても芳しくはない状況の中でも、渡邊元嗣は軽やかに走り続ける。壮絶な純愛映画の圧倒的傑作にして、然れども純然たるピンク映画とは決していひ難い「妖女伝説セイレーンXXX 魔性の悦楽」(監督:芦塚慎太郎/脚本:港岳彦/主演:まりか・西本竜樹)を、ピンク本隊から迎へ撃つべき頼もしい最有力候補。ナベが来た!パッと見他愛もない一作を前に、真打登場の衝撃と感動とに打ち震へる。


コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
こんにちは (やまぐちまり)
2011-08-09 06:45:10
いつも読ませてもらってます。
どうしても私の事をデブと書きたいようで…人間本当の事を言われるとイラッとしますよ 笑
 
 
 
お早う御座います (ドロップアウト@管理人)
2011-08-09 07:34:08
 有難う御座います、感激至極です。

 は兎も角、いやいやいや、いやいやいや。
 あくまで肉感的と称へてをるところであります。
 因みに余計な手の内を明かすと、
 腐す場合、この男は“戦車”といふ用語を使用します。

 出演作に頑丈な安定感を付与する頼もしい御活躍、
 今後も括目しながら追ひかけて参ります。
 
 
 
Unknown (hide)
2011-10-10 02:31:57
まりちゃんこんな奴わざわざ相手にしなくてもいいのに(爆)
 
 
 
休日出勤の朝 (ドロップアウト@管理人)
2011-10-10 07:35:38
 どはははは。
 “こんな奴”にわざわざ深い時間にお相手頂き恐縮です、
 しかもコテハンで。
 
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