真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美人姉妹の愛液」(2002/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:田中康文/撮影助手:田宮健彦/下着協賛:《株》ウィズ/衣装協賛:中野貴雄/出演:美波輝海・葉月螢・林由美香・今野元志・十日市秀悦)。照明助手を拾ひ洩らす。中野貴雄に関しては、劇中、この衣装は中野貴雄のところから持つて来たに違ひないと思つてゐたら矢張り出て来た。主に、十日市秀悦の衣装である。
 「昔々、一人の悪魔が、一人の魔女に恋をした」、いきなり火を噴くナベの主砲。
 昔々、悪魔(十日市秀悦の二役)が魔女(美波輝海の二役)に恋をした。ところが魔女は人間の男(今野元志の二役)と恋に落ち、男の二十四歳の誕生日に結婚を約束する。魔女と人間の男が一緒になる為に必要な月の石を、二人で取りに行くことに。横恋慕に狂ふ悪魔は、魔女と男を切り裂くべく呪ひをかける。時は流れ現代、魔女の子孫の三姉妹。魔女にかけられた呪ひとは、人間の男とセックスするとその男は早死にしてしまふ、といふものであつた。欲求不満の長女・アスカ(葉月)は最初の夫を喪つて以来八年にもなる独り身の寂しさに悶え、淫乱な次女・レナ(林)は結婚と死別とを繰り返してゐた。愛する者を喪ひたくはない三女・メグ(美波)は、恋に落ちることを恐れ、処女を守り通す。ある日箒片手に魔法学校からの帰りにメグは、昼間でありながらキャンバスの上では夜空の満月に筆を走らせる、売れない画家の白石至(今野)と出会ふ。白石は、メグが商店街のショウウィンドウに目を奪はれた、矢張り満月の絵を描いた作者であつた。
 説明無用、などといつてしまふと横着も過ぎるがナベ十八番の、スペックとバジェットとを欠き、どんなに安くとも底が浅くとも馬鹿馬鹿しからうとも、なほのこと美しいファンタジー映画の佳篇である。別の映画から二年ぶりに再見してみても改めて欠片の魅力も感じ取れなかつた主演の美波輝海は、矢張り一本の映画を支へさせるには心許ないことこの上ないが、代りに十全な脚本と真心の込められた演出とに支へられ、側面からではありつつも堂々と映画的エモーションの積み上げを果たすのは、意外、などといふと不分明を笑はれかねないが十日市秀悦。キャラクターにマンガ的な癖が強いので、作品を選ぶ節は大いにあるのかも知れないが、この人何気に演技力は強力なのかも。魔女に恋した悪魔の子孫、現代の悪魔として三姉妹の前に登場。魔界からのリストラを回避する為に、三姉妹の愛液を魔王に献上しようとする。昔々に悪魔がかけた呪ひに話を戻すと、魔女にかけられた呪ひは、繰り返しになるが人間の男とセックスするとその男は早死にしてしまふといふもの。一方男にかけられた呪ひとは、二十四の誕生日に死んでしまふといふものであつた。そしてメグが出会つた白石は、目前に控へた自らの二十四回目の誕生日に、カレンダーにカウント・ダウンを取つてゐた。最早論を俟つまい、白石こそは、昔々にメグの先祖の魔女が恋に落ちた、人間の男の子孫であつたのだ。時を超え再び巡り会つた、結ばれぬ運命の二人。アスカとレナにそれぞれ夜這ひを敢行し愛液を採取した悪魔は、白石の死の回避と引き換へに、メグの処女性を要求する。「だつて悪魔なんだもん」、と文句のつけやうのない嘘つきなのか正直なのかよく判らない清々しさで、事が済むや手の平を返す如くメグを裏切つた悪魔は、メグが零す涙の粒に、理由の知れぬ胸の痛みを感じる。野球に譬へるならば三振ばかりの四番打者にどうにも形を成し得なかつた映画は、ここから一気に最大加速する。柄にもなく悪魔が苛まれる呵責と逡巡とで外堀を埋めると、迫り来る白石の死とメグの奔走とで舞台を整へ、世辞にも魔法学校での成績が良いとはいへず、それ以前に愛する者と結ばれ得ぬ運命を厭ひ魔法が好きでもなかつたメグが、初めて成功させた箒での飛行で白石と月を目指すクライマックスには、ど真ん中の映画的エモーションが眩いばかりに銀幕を輝かせる。無論ナベである、改めていふまでもなく一本三百万のピンク映画である。特殊撮影の“と”の字も望むべくはなく、物理的に映写された映像の貧しさは比類ない。但し、そのやうなことは全く問題ではないのだ。渡邊元嗣は愛し信じたファンタジーを、培はれた実は確かな実力で積み上げると、瑣末になど囚はれずに全力と100パーセントの覚悟とで撃ち抜いた、そのことが何よりも素晴らしい。結実したエモーションには、恐らく間違ひはない。美しい、映画である。ラインを超えた、映画である。リアルタイムでは斜めに観て馬鹿にしてゐたやうな覚えもあるが、今は漸く今作に、追ひつけたやうな気がする。
 とはいへオーラスにもう一度登場させる辺りに、影の四番としてナベ自身明確に意識してゐたものやも知れない十日市秀悦の悪魔の描写に、ひとつだけ注文をつけたい。魔界の禁を破つたことによる変化あるいは落差を、視覚的にももう少し顕示しておくべきではなかつたか。その方が悪魔の下した選択あるいは決断が、より一層際立つてゐたやうに思はれる。

 蛇足ではあるが、最後にひとつ驚かされたのは。美波輝海が、現在でも活動を継続してゐたこと・・・・何といふか、言葉を失つてしまひさうにもなるが、同時に、絶対に倒れさうにはない強さを、感じさせられもする。


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