真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「誘惑ママさん レッツラ性春!」(2023/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:渡邊豊/撮影助手:渡邊千絵/録音:大塚学/スチール:本田あきら/助監督:菊嶌稔章/メイク:ビューティ★佐口/編集:渡邊豊/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:あぶかわかれん/出演:一条みお・春日えな・瀬名未来・竹本泰志・小滝正大・神澤裕哉・野間清史・森羅万象)。
 「私は人生を、もう一度やり直すチャンスを手に入れた」。プールならぬ、水のないシャワー的に体を揺らす一条みおのセルフ濡れ場。ではなく、傍らに男もゐた。神澤裕哉が眼鏡を外さうとするのを制し、オッ始めたタイミングで今時グルッと一周して目新しい、二十年前の感覚で清々しく作為を感じさせないタイトル・イン。
 勤めを終へたOLの理沙(春日)が、転がり込んだ昨今は専らテレワークの婚約者宅に帰り着いたところ。当のヒロシ(神澤)は、謎の若い女・睦美(一条)と寝てゐた。脊髄で折り返しヒロシを張る理沙を、睦美はまるで母親のやうな口調で叱る。その、数週間前。娘の理沙と睦美(一条みおのゼロ役目)が観に行かうとしたミュージカルは、今時な出演者の体調不良で公演中止。日程を食事に切り替へようとする理沙を遮り、久々おんもに繰り出し草臥れた、睦美は音を上げ帰宅を選ぶ。と、ころが。その頃苗字不詳家(絶対仮名)では、睦美の夫で肩書は社長の史郎(森羅)が、浮気相手の部下・三谷千秋(瀬名)を家人のゐぬ間に連れ込むアグレッシブな逢瀬。不貞の完遂を実直に待ち、妻と娘が帰つて来る絶望的な修羅場。激高し史郎を張るはおろか放逐した理沙は、その状況に於いてなほ覇気のない睦美にも逆上、自らも家を飛び出して行く。令和の仲山みゆき的な三番手と、トメの森羅万象は共々、煌びやかなほど潔く一幕・アンド・アウェイ。
 配役残り小滝正大は、苦節三十年、遂に強力な強精剤「ヤングエナジー」を―自分のために―完成させた、在野の研究者・田野倉。竹本泰志は睦美のみならず、史郎とも旧知の砂田。直截にいふと大好きな大好きな大好きな、今でも大好きな睦美を、史郎にカッ浚はれたチェリー。地味に問題の野間清史は、限りなく何しに出て来たのかほとんど全く判らない、賑やかしさへし損ねる酔つ払ひ。それとも、退場時からの繋ぎが雑すぎるのかな。
 何時の間にか、気づくと結構な御無沙汰。奇捜研シリーズ第三作の2020年第二作「性鬼人間第三号 ~異次元の快楽~」(主演:東凛)以来で高橋祐太がピンクに還つて来た、一月後盆に薔薇族のもう一本―矢張り高橋祐太脚本―控へる国沢実2023年第一作。懐かしついででこの期に確定しておくと、奇捜研第一作「性鬼人間第一号 ~発情回路~」(2016/主演:桜木優希音)の寺西徹で火蓋を切り、次々作の町田政則で度肝を抜いた、一時恒例のベテラン男優部サルベージは完全に終了してゐる模様。
 時空を歪め、もとい超えた回春の果て若返つたヒロインが、これまで誰かのため方便に押し殺して来た、自身の人生を取り戻す。といふと綺麗にも聞こえ、選んだ選択が選りにも選つて娘の婚約者を寝取る。実は睦美とヒロシが互ひに好意を懐いてゐた、とかいふ木に申し訳程度を接ぐ外堀を埋める作業すら、豪快に端折つて済ます。へべれけな作劇が当然の如く火にニトロを焼べる、仲良しの吉行由実監督生活二十五年周年記念作「ママと私 とろけモードで感じちやふ」(2022/主演:花音うらら)にも似た、土台素面では成立し難い物語。を、色男でさへない、大根の男主役が加速する、逆向きに。馬鹿デカいウェリントンによるほゞ一点突破の、一条みおの老け作りが如何せん厳しい―演出まで含め―全般的な安普請如き、この際取るに足らない些末。高橋祐太を呼び戻してこのザマなら、樫原辰郎を連れて来るしかないのか。もしも、仮に、万が一。連れて来ようとしたとして、来て呉れるのか否かは知らんけど、著述業で忙しさうだし。頭を抱へるか、匙を投げるかの二択に、国沢実が相変らず力なく追ひ込まれたものかと、思ひきや。云十年に亘る、直截にいふと盛大な岡惚れを拗らせたか募りに募らせた砂田の一発大逆転エモーションを、竹本泰志が強引に引つ張つてスタンドまで放り込む。アルコールとヤングエナジーのチャンポンで、大体半分くらゐ睦美が若返る、勢ひ任せの大技は兎も角。皮膚の薄さを主に、見やうによつては和製シシー・スペイセクに見えなくもない、ものの。所詮はエクセスライクな主演女優と、ボサッとした青二才的な若さ以外何もかも本当に見当たらない、馬の骨がそもそも感情移入に果てしなく遠い展開を、上手く御し得るもへつたくれもない中。二番手を立会人に猛然と飛び込んで来た砂田の大純情で、終盤に及んで漸くか初めて映画の足が接地。そのまゝ一気呵成にレッツラゴー、二つのセックスがクロスでセックロス、する締めの絡みに敢然と雪崩れ込んで駆け抜ける、ラストは思ひのほか盤石。案外爽やかな余韻に、良作をも錯覚したとて少なくとも当サイトは止めはしない、首を傾げもしない、必ずしも。要は、これで竹本泰志がゐないとどうなつてゐたものやら、と肝を冷やすか、竹本泰志がゐて呉れて助かつた、と胸を撫で下ろすか。何れにせよ、砂田ないし竹本泰志で辛くも首の皮一枚繋がつたやうな、ある意味スリリングな一作である、何だそのメタ映画観。

 限りなく直感と紙一重の推測にのみ従ひ、実直で論理的な検証作業は一切スッ飛ばす。学問に対する田野倉の破天荒か出鱈目な姿勢はこの際さて措き。ヤングエナジーを業務用焼酎に混ぜた上でがぶ飲みする、オーバードーズはオーラスで無事回収。たゞ、一見面白可笑しいオチには反し、いはゆる保護責任者が端から存在しない以上、この状態だとこの御仁死んでしまふしかないよね。といふのはもしかして、足を生やした蛇で藪を突くのを逆の意味で得意とする、如何にも国沢実らしい捻くれぶりが珍しく形を成したブラックジョークなのか、多分でなく違ふ。


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 「巨乳令嬢 何度もイカされたい」(2023/制作:鯨屋商店/提供:オーピー映画/企画・監督:小関裕次郎/脚本:小栗はるひ/撮影監督:創優和/録音・整音:大塚学/特殊メイク:土肥良成/音楽:與語一平/編集:鷹野朋子/助監督:可児正光/監督助手:高木翔/撮影助手:岡村浩代/スチール:本田あきら/車両:別府スナッチ/協力:ナベシネマ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:白峰ミウ・森羅万象・安藤ヒロキオ・西本竜樹・石川雄也・卯水咲流・橘聖人・市川洋・ほたる・ケイチャン・きみと歩実)。
 「愛しきあの人よ、あまげのみやげ?今日もまた」。開巻第一声からヒロインが何をいつてゐるのか釈然としない、覚束ない口跡は早速の御愛嬌、もしくは致命傷。オリカ(白峰)は森の中の洋館、といふほどでもなく、ペンションみたいな一応お屋敷に暮らす。同居人は心臓病で再起不能の父親(森羅)と、メイド服常用の家政婦(きみと)。恋多きオリカを、近隣の人間はみな口を揃へて“可愛い女”と言祝いだ。
 配役残り、石川雄也は後々オリカと再々々婚、しはしない医者、最初は親爺の往診で登場。誰に何をするのか事前に見当のつかなかつた土肥良成は、顔の腫瘍を森羅万象に施す。道の駅的な販売所の店員が、その人と識別可能な角度から抜かれはしないものの、役名併記のクレジットによると市川洋のゼロ役目。ほたるとケイチャンは、「クリーニング屋」だなどとプリミティブな屋号の洗濯屋夫妻。二十年―では効かない―前には想像もつかなかつたらうが、今はex.葉月螢とex.けーすけの夫婦役が思ひのほかしつくり来る。そして安藤ヒロキオが、オリカにとつて最初の夫となるマジシャン。ドンキで道具が揃ひさうな、セコい手品はどうにかならないものか。端から二兎を追ひ、一般公開もするんだらう。市川洋はマジシャンの同業者と、世界大会に出場した夫の客死をオリカに伝へる、官憲の電話が二役目。湖畔で悲嘆に暮れる喪服のオリカに、「誰か死んだのか?」。西本竜樹は想像を絶するぞんざいな出会ひを果たす、ほどなく二人目の夫・材木屋。卯水咲流は、医者の別居中の妻。市川洋の三役目が、台風百号の接近を告げるラジオ音声。百号て、また随分とキリか威勢のいゝ異常気象ではある。最後に橘聖人は、医者の大分大きくなつてゐる息子、医学生。
 自身が愛読するチェーホフの『可愛い女』から着想を得たとかいふ、小関裕次郎第六作。尤も、ならばと青空に目を通してみたところ。最初の夫で小屋主のクーキンに相当する、マジシャンが左官屋的な恨み節を垂れる辺りから結構そのまゝ。原案どころか、実質原作の様相は否み難い。そもそも誤魔化す素振りも覗かせないのが、三月半フェス先行したR15+題が「かはいゝオリカ」といふどストレートさ、それともオネスト。『可愛い女』に於けるヒロインの名前を、片仮名表記するとオーレンカとなるのがオリカの所以。
 多情かつ、一度惚れるや忽ち相手に染まる。それでゐて固有のアイデンティティには甚だ希薄な、寧ろ一種の器としての資質にこそ、個性を見出すべきなのかも知れない女の物語。チェーホフの原作では不器量な女とされる医者の妻に、卯水咲流を宛がふのは許されるのを超え、望ましい裸映画の嘘と通り過ぎると、きみと歩実扮する、炊事女ならぬ家政婦が狂言回しを担ふのは今作完全新規。マジシャンと材木屋に続く、医者篇の再起動を大家と店子の関係でなく、倒れた家政婦の往診で処理。当然の如く、寝てゐた家政婦が目を覚ますと、オリカと医者は歌留多に戯れてゐたりする。世間の声を一手に引き受ける形で、再三再四オリカを愛でるクリニング屋夫婦の、ほたるが何気に大きくなつたお腹を摩つてゐるのに、何事かと目を疑つてゐるとオリカが滔々と開陳する受け売りで医者との深い仲を、クリニング屋夫婦を通し観客にも諒解させるのは優れた娯楽映画必須の、さりげなく秀逸な論理性。尤も、渾身のポリアニズムで探し当て得る「よかつた」も、あとは卯水咲流が持ち前のエッジを効かせ叩き込む、家が古い×田舎臭い×道が悪い×学校まで遠い。そして「この子―橘聖人を指す―にはこゝは合はない」の、ソリッドな悪態五連撃くらゐ。
 強靭な二三番手と比べた場合なほさら脆弱さが際立つ、映画初出演―舞台経験はある模様―にして主演。綺麗なエクセスライクを体現する白峰ミウの心許なさは、旧い口語体準拠の大仰な台詞ないし口上を逆の意味で見事に持て余す、ついでで安藤ヒロキオも。煽情性のみならず映画的なエモーションにも正直遠い、プレーンな濡れ場をビリング頭が手数だけならひとまづ稼ぎつつ、ともに一発限りの二番手と三番手は―殊に後者が大概―唐突に、無理から木に往時とイマジンをそれぞれ接ぐ始末。亡父の服喪期間なんて何処吹く風、オリカとマジシャンの祝言を、途轍もなくそこいらの適当な土手で事済ます。小関裕次郎にとつては大師匠、ないし伊豆映画の巨匠で知られる今上御大。小川欽也にも匹敵する底の抜けた無頓着、もしくは安普請。何れにせよな、イズイズムには畏れ入つた。量産型裸映画の、どちらかといはずとも宜しくない部分まで、律儀に継承することも別にあるまい。マジシャン出演のテレビ番組にときめくオリカの胸を過(よぎ)る、良人が誰かに似てゐる疑問。よもやまさか、大輪の百合を狂ひ咲かせるつもりかと―いゝ意味で―慌てさせた、きみと歩実(ex.きみの歩美)が藪蛇な決定力で撃ち抜く「私が一緒にゐます」。広げるだけ広げ散らかした、畳まない風呂敷もちらほら目立つ。プラスでは畳むでも畳まない、なんて知るかボケ。何より衝撃的であつたのが、一欠片の精神性も見当たらない、たゞ単に粗野なばかりのガッハッハ。挙句上げ底ばりに底の浅い、他愛ないマチズモまで振り回させるに及んでは。デビュー作「ツンデレ娘 奥手な初体験」(2019/脚本:井上淳一/主演:あべみかこ)ぶりで純粋ピンクに飛び込んで来た西本竜樹の、クソ以下に酷い造形には度肝を抜かれた。こんな役に、この人連れて来る必要全然ない。本当に誰でもいゝのだけれど、強ひて名前を挙げるなら重松隆志で十分、斯くも全方位的に毒を吐くのが楽しいか。主演女優に苦労してゐる気配も窺へなくないとはいへ、初陣さへ確かに気を吐きながら、早くも二作目から地を這ふかの如く底値安定。竹洞曲線を上回るだか下回る、小関裕次郎の低調が激しく気懸りな限り。五十音順に荒木太郎と池島ゆたかは不在、旦々舎も。当たればデカい加藤義一は、何時当たるか判らない。国沢実は座付きに大穴が開き、清水大敬はダイウッドの我が道。だから竹洞哲也も相変らず竹洞哲也で、森山茂雄の超復活作が、関門海峡以西に着弾するのはまだまだ当分先、随分先。吉行由実は一昨日に安定気味で、ナベも今一つ元気がないと来た日には。本隊ローテ中最新の意で最後のサラブレットたる、小関裕次郎にもう少し―でなく―しつかりして貰はぬでは終つてしまふとはいひたくないゆゑ、話が始まらない手詰り感。


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 「モア・セクシー 獣のやうにもう一度」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:加藤彰/脚本:中野顕彰/プロデューサー:八巻晶彦⦅N·C·P⦆/企画:山田耕大/撮影:米田実/照明:田島武志/録音:酒匂芳郎/美術:渡辺平八郎/編集:山田真司/音楽:甲斐八郎/挿入歌:『ガラスのジェネレーション』⦅EPICソニー⦆ 唄:佐野元春/助監督:上垣保朗/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/車輛協力:富士映画車輛㈱/製作進行:鶴英次/出演:畑中葉子・横山エミー・太田あや子・マリア茉莉・香川留美・青山恭子・市川好朗・河西健司・内藤剛志・高瀬将嗣・片岡五郎・高橋明・関悦子・織田俊彦・今井久・麿のぼる・森洋二・谷口芳昭・新井真一・黒田光秀・栗原哲也・衣笠健二・白井達始・井本昌臣・高原真由美・扇ひろ子⦅特別出演⦆・片桐竜次/技斗:高瀬将嗣)。出演者中、関悦子から高原真由美までは本篇クレジットのみ。あと技斗の正確な位置は、高原真由美と片桐竜次の間。
 大型船のカットを適当に連ね、俯角の港湾ロングに無機質なタイトル・イン。舞台は横須賀、美人局コンビのヨーコ(畑中)と次郎(河西)が、ステレオタイプな伊達男を捕まへた、と思つたのも束の間。ヨーコと伊達男が致す連れ込みに次郎と矢継ぎ早に、伊達男と仲間の恐いお兄さんが更に二人カチ込んで来る。要は、まんまと釣られた格好。ヨーコと次郎はどうにか逃げ果せると、今度は十日町―は新潟なんだけど―市会議員・桑原多聞(高橋)の車を奪ふ。盗んだセダンで走り出し、たのも再び束の間。前を行く安浦運送のトラックが落とした、ナショナル扇風機の箱を避け損なひ車は中破。ゲーム感覚で次から次にトラブルの発生する、大概な横須賀の治安はさて措き、次郎が箱を蹴散らかすと何故か、中からパンダさんの縫ひ包みが出て来た。
 辿り着ける限りの、配役残り。このくらゐの頭数ともなれば、要はビリング下位に手も足も出ないのはある程度想定の範囲内ともいへ、見れば判る―筈の―新井真一を見つけられなかつたのは正直軽く情けない。気を取り直して、バイカーと事故現場に現れる太田あや子は、ヨーコの地元・横浜での後輩・チビ。チビに連れられ、ヨーコ―と次郎―はパイセンであるオバン(横山)の店に、内藤剛志がバーテンダーのケン。市川好朗は手下を引き連れ、何某か探し物の風情でオバンの店を襲撃する、新興勢力「信成会」の最低でも幹部・堺。結果店も大破、物騒とか最早さういふ話ですらなく、法が機能してゐないのか。片桐竜次は刑事を偽り、修羅場をとりあへず収める謎の男・ジョー、ジョーて。マリア茉莉は当たり屋を仕掛けたヨーコと再会する、同輩と思しきお嬢。刃傷沙汰のみならず、矢鱈とリユニオンも頻発する街だな。この辺り、世間の狭さを問ふべきか、手数の乏しい作劇を難ずるべきか。織田俊彦は、ツッパッてゐた過去を隠し、お嬢が玉の輿に乗つた青年医師。名義が青山涼子と愛染恭子を足して二で割つたやうな、青山恭子は堺の情婦・まゆみ。高瀬将嗣は、信成会の泡沫構成員・北見。パンダの中にヤクが隠してあつたと踏んだヨーコらに、偽パンダで誘き寄せられた上サクッと監禁、あれこれ口を割るお茶目さん。中盤、木に復活劇を接ぐ片岡五郎が、オダトシ医師と結婚したお嬢を恐喝する、昔の男・大和田。流石に強面かつオッサンすぎて、旦那はたとへば影山英俊、大和田が織田俊彦でよかつたのではあるまいか。なんて、そこはかとない疑問を覚えなくもない。実は関東麻薬取締官である、ジョーが接触する部長の弘子は扇ひろ子、懐刀的なもう一人は、まづ間違ひなく高原真由美。痛飲した挙句「いゝ娘ゐねえか!?」と荒れる次郎に、「あたしでどう?」と凄惨か壮絶に囁くスナックのママさんは関悦子。当人いはく、テクニック抜群らしい。知るかボケ、黙れ。香川留美は、「よし!オバサンと寝る」と腹を括つた、男の中の男の次郎を「あたしとどう?」とカッ浚ひ、観客なり視聴者を安堵させる店の女ないし映画の天使・ルミ。その他何やかや、五十人を優に跨ぐ膨大な人員が、湯水か雲霞の如く投入される。
 恐らく一般含め今作でフィルモグラフィの打ち止めと思しき、マリア茉莉出演ロマンポルノを―追へるだけ―追つて行くフィナーレは、往時フィーバーしてゐた畑中葉子のロマポ三本目でもある、加藤彰昭和56年第二作。来し方を振り返るばかりが、能ぢやない。今年が畑中葉子のソロデビュー四十五周年とやらで、「後から前から」ジャケのプリントTを発売。脊髄で折り返し一瞬ポチりかけたものの、「着られるのか?それ」とお乳首が透けてゐるTシャツを一旦思ひ留まつたのは、残りの人生生きてるだけ無駄な当サイトの、他愛なくさへない日々。
 ハマからスカにヒモと流れて来たズベ公が、昔のダチと再会。ライカローリングストーンなものの弾みで、ヤバくてデカい白いお薬の取引に首を突つ込む。と、来た日には。前年に池田敏春第一回監督作品「スケバンマフィア ―肉《リンチ》刑―」(昭和55/脚本:熊谷緑朗)で復興を図りたての、日活でいふと「野良猫ロック」シリーズに代表される、反体制的なヒロインが薄くでなく汚れた大人―社会―に牙を剥く。伝統的か類型的なひとつの系譜を成す、ソリッドでアナーキーな活劇かと思ひきや。畑中葉子がコケティッシュに微笑むティザービジュアルから、さういふ線を狙つてゐる訳でも土台なかつたやうな気もしつつ、梶芽衣子や倉吉朝子と比べた場合、如何せん畑中葉子のエッジ不足は明白で、尺から長い徒な大所帯も諸刃の剣。主演女優が始終を掌握しきれない、全般的に漫然とした印象は否み難い。ほとんど唯一、畑中葉子のよくいへば80年代的な軽やかさ―端的に軽い薄さともいふ―が正方向に作用するのが、「俺は冗談では女を抱かない」と嘯くジョーに対し、ヨーコが返して「アタシは冗談でも抱かれるよ」。途轍もないダサさを上手く呑み込み綺麗に流す、スマートさが偶さか灯る名台詞ではある。最終的には主人公―と物語の本筋―が心許ない反面、形を成すのが半ば自発的ないし自縄自縛気味にしても、旧交を温めるヨーコらからハブられる形で、次郎が元々の無力感に加へ疎外感まで拗らせる、ルサンチマンと紙一重の煤けたエモーション。一歩間違ふと青さも感じさせかねない風貌から、思ひのほかドスの利いた発声を響かせる。河西健司が精一杯弾けて、呆気なく消える。「ヨーコ俺矢張り、お前とクッついてねえと、ダメだ」。一人の役者の、一世一代をも思はせる無様でなほ見事な次郎の死に様が、最後に映画が輝くハイライト。プロの反社会的勢力と菊の御紋相手に、不良崩れがローラスケートと単車に、チャチい得物で立ち向かふ。別に使ひこなすでなく、畑中葉子がヌンチャクを振り回してゐたりするのは悪い冗談。そもそも加藤彰の資質から疑はしいのか、セコい大立回りが完全に空回る、クライマックスにしてはお粗末な大乱闘で完全に失速、どころか失笑も萎む始末。幾ら昭和の紋切型とはいへ、戯画的以前に牧歌的な、間の抜けた銃撃戦には尻子玉を抜かれるかと思つた。チャリンコの操作云々も兎も角、ポジショニングからへべれけな体に合はないドロハンのシングルスピードを、ヨーコが与太与太もといよたよた見るから危なかしく駆る、満足に駆れてないけど。狙ふ時点でどうかしてゐるとしか思へない、疾走感の欠片もない頓馬なタイトルバックがある意味象徴的。一昨日か明後日から飛び込んで来る、片岡五郎と関悦子の側面的なポイントゲッターぶりは突発的に爆ぜこそすれ、掘立の本丸を雑多か無闇な意匠で飾りたてた、藪の蛇を突く如き一作。に、してもだな。生温かく見過ごせもしないのが、何時の間にかシレッとくすねてゐたパンダ一匹で、オバンとの新生活を設計するジョーの腐り倒した職業倫理、果たして正義とは。激おこの弘子部長に差し向けられた、高原真由美に射殺されてしまへ。バキューンとか、陳腐な音効鳴らして。

 改めてマリア茉莉の、三年に満たない実働期間を振り返ると。林功の透明人間もので初土俵、西村昭五郎のウノコー案件を間に挿み、伊藤秀裕にデビューから二作続けて。伊藤秀裕の次は、藤浦敦。海女ポ第二作・第三作含む、地味に驚愕の三作連続出演を果たしたのち、今回の加藤彰で畑中葉子の脇を飾れてゐるのか、ゐないのか。錚々といふほどでもないにせよ、なかなか特徴的な戦歴にも思へる。それなりに日活の期待を受けてゐた、風情が窺へるのではなからうか。尤も、隣に並んだ女優部を容赦なく爆殺する、正しく圧倒的な足の長さとタッパ。たぷんたぷんの悩ましいオッパイに、止め画より動いてゐる方が映える、案外正調の美人顔。以外には、本当に一欠片たりとて何ひとつ恵まれなかつた。マリア茉莉が案の定とでもいふか何といふか、終ぞマリア茉莉のまゝ。規格外の素材を女優として花咲かせることなく、さりとて気を抜いてゐると画面の中で遠近法を狂はせる。アメイジングかワン・アンド・オンリーな確かに離れ業は、辛うじてこの人ならでは。


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 「箱の中の女2」(昭和63/製作:にっかつ撮影所/提供:にっかつ/監督:小沼勝/脚本:ガイラ・清水喜美子/プロデューサー:半沢浩/企画:塩浦茂/撮影:福沢正典/照明:内田勝成/録音:福島信雅/美術:渡辺平八郎/編集:鍋島惇/選曲:林大輔/助監督:金沢克次/色彩計測::佐藤徹・栗山修司/製作担当:江島進/現像:IMAGICA/協力:渋峠ホテル・横手山リフト/出演:長坂しほり・中西良太・河村みゆき・小川真実・浅井夏巳・小原孝士・大場政則・皆川衆)。共同脚本のガイラは、小水一男の変名。提供に関しては、事実上エクセス。
 裸電球から下にティルトした地下室、市川崑式に、矩手のタイトル・イン。視点が無造作に寄る鎖の先では、繋がれた裸の女が、与へられた食事を食べてゐる。囚はれの人妻・石井洋子(淺井)がおまるで用を足してゐると、足音が。女が逃げ隠れた、大人が入る大きさの箱に小沼勝のクレジット。現れた男が箱に入れた爪先を洋子は従順に舐め、男はそんな女の陰部を、口から離した足で弄ぶ。一転、スッコーンと晴れた志賀高原の観光地、ごつた返すスキー客に適当もしくは勝手にカメラを向ける。ペンション「白峰館」を一人で切り盛りする小西邦彦(中西)が、到着する客を待つ四駆の窓ガラスに、義妹の大谷かずみ(河村)が雪玉を投げる。邦彦の妻でかずみの姉(固有名詞すら口頭に上らず)は、男を作り出奔してゐた。こゝで改名後に田原政人となる大場政則が、かずみと三河屋的な職場で働いてゐるらしき工藤修。各種資料には工藤修介とあるものの、オサムちやんとかずみからは呼ばれてゐる。後述する坂口夫妻が白峰館を辞したのち、小西は嬲り飽きた洋子を薬で昏倒させると、段ボールに入れ緩衝材をどばどば振る丸きり荷物感覚の梱包。ドライバーらが車を離れた、ヤマトの配送車(実名大登場)に放り込む乱暴極まりない形で、元ゐた住所に送り返す。も、もしかして着払ひなのか。幾ら昭和の所業とはいへ、流石に大雑把すぎる。
 配役残り、ビリング順に小川真実と皆川衆が、件の小西が待つてゐた良枝と幸司の坂口夫妻。酔ひ潰した幸司の傍ら、小西が良枝を手篭めにするのが小川真実の濡れ場。大会に出るレベルで剣道に打ち込むかずみの、師範役は防具をつけてゐて手も足も出ない。坂口夫妻の帰りを小西は送らない、タクシーの運転手はヒムセルフかな。長坂しほりと小原孝士が、白峰館の次なる客にして多分最後の犠牲者、博子と純の山岸夫妻。洋子を放逐しての帰途、雪の中で遊ぶ博子の姿に目を留めた小西が純の車をナイフでパンクさせ、助ける素振りで白峰館まで連れて来る。展開の大らかさも実に昭和、寧ろ、このくらゐ無頓着な方が、何事も楽になるのかも知れない。再起不能の重傷を負ひ、ミイラ男状態でプラグドの山岸に付き添ふ、看護婦は引きの距離以前に背後からしか抜かれず当然不明。
 死に体のロマポがビデオ撮り×本番撮影とかいふ、みすみす相手―アダルトビデオ―の土俵に乗り目出度くなく傷口を致命傷にまで広げた、徒花あるいは断末魔企画「ロマンX」。の、同じく小沼勝と小水一男による第一弾「箱の中の女 処女いけにへ」(昭和60/主演:木築沙絵子)と、女を箱に入れて甚振る以外、何もかも全然関係ないナンバリング第二作。小沼勝的には、昭和63年第二作にあたる。日活での最後の仕事かと思ひきや、のちにVシネがもう一本あるのね。不思議なのが、日活公式サイトが今作をロマンXシリーズとしてゐる反面、いざ蓋を開けてみると綺麗なフィルム撮りで、ポスターにもロマンXのロゴは見当たらない。本番云々に関しては、元々往時の粗いモザイク越しに、当サイトの節穴では凡そ判別不能。他方、ロマンXとしてゐないロマポ単独の公式サイトも窺ふに、恐らく日活公式が仕出かしたのだらう。仕出かさないで、混乱するから。
 博子から気違ひと詰られた小西が、狂つちやゐないと抗弁して曰く、「俺は人妻の本当の貞淑が見たいだけだ」。小西が妻に逃げられてゐる、一応最低限の方便も設けられてゐなくはない、箱の中に女を入れる男の物語。劇中に限定するとデフォルトの洋子しか出て来ない、常習者かと博子を絶望の淵に叩き落す、小西いふところの“今までの奥さん”。監禁され凌辱の限りを尽された被害者が、何時の間にか被虐の快楽を覚え加害者の強ひる邪淫に溺れる。所詮は大概か出鱈目な絵空事に立脚した、到底元号を超え得ない底の抜けた基本設定である、のみならず。助からないだ最後だと、終盤藪から棒に小西が匂はせる重病?フラグも、ものの見事に一切回収せず事済ます、へべれけな作劇が火に油を注ぐ。イントロダクションを担当する四番手と、三番手も繋ぎ役に徹するのはまだしも、木に竹刀を接ぐ二番手すら、甚だぞんざいな扱ひに無駄遣ひ感ばかりバーストさせる始末。とかく素面の劇映画としては、全く以て覚束ない、ながらに。博子に対する最初の強姦を浴室にて行つた小西が、一発事済ますや晴れ晴れと風呂に浸かる、大笑必至の盛大な開放感。博子を入れた木箱をチェーンソーで切り刻み、四角く開けた穴から尻を引つ張り出し、箱を抱へ後背位で捻じ込む。即ち、箱ごと責めて犯す、これぞ文字通り箱の中の女なエクストリーム。そして雪山で燦然と輝く、些末なコンテクストを易々と超越、最早博子の感情を推し量り難いほどの、次元の異なる領域に突入した長坂しほりの壮絶な美しさ。明後日にせよ一昨日にせよ、ベクトルが何処を向いてゐようとこの際どうでもいゝ。絶対値の無闇に馬鹿デカい、しかも手数に富んだ一撃必殺を随所で果敢ないし苛烈に撃ち込んで来る。平板な面白い詰まらないはさて措き無類の見応へ煌めく、三ヶ月後完全に力尽きるロマポが偶さか狂ひ咲かせた、正に灯滅せんとして光増す一作。一旦解放後、どうやら山岸に止めを刺した上で小西の下に戻つて来た博子が、「私をまたスキーに連れてつて」。本家「私をスキーに連れてつて」(昭和62/監督:馬場康夫/脚本:一色伸幸/主演:原田知世)の翌年どころか、封切りの間隔でいふと実は僅か三ヶ月しか矢張り空いてゐない、如何にも量産型娯楽映画的な臆面、もとい節操のなさも清々しい。

 一点激しく気になつたのが、山岸夫妻の白峰館逗留初日、純は翌日から病院に固定されるんだけど。小西が振舞つた本格的なディナーの、丸ごとのメロンを刳り抜き中に何か詰めるデザート。明確な好意を小西に寄せ、白峰館に入り浸るかずみが手伝ふつもりで中身を入れようか、としたところ。「いゝよ!これはいゝよ」と小西が何故か声を荒げるのは、てつきり具材の中に何か仕込んであるのかと思ひきや、別にさういふ訳でもなく。そこで小西がキレる理由が最終的に見当たらない、何気にちぐはぐな一幕。


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 「若熟女と家出娘 たつぷりハメて」(2022/制作:鯨屋商店/提供:オーピー映画/監督:小関裕次郎/原案:関根和美/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音・整音:大塚学/音楽:與語一平/編集:鷹野朋子/助監督:可児正光/監督助手:高木翔/撮影協力:夏之夢庭/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:根尾あかり・竹内有紀・成宮いろは・山本宗介・佐々木麻由子・市川洋・広瀬寛巳・ケイチャン・並木塔子・森羅万象)、撮影助手は何者の変名なのか。
 深夜の公園に、部屋着の主演女優がプラーッと現れるロング。に一旦女優部三本柱と関根和美、小松公典・小関裕次郎までクレジットした上でタイトル・イン。淡白なアバンが、結局脆弱な全篇の基調を成す。
 「何処よ、こゝ・・・・」、着の身着のまゝ財布も持たず飛び出して来た、小柳聖子(根尾)が途方に暮れる。とりあへず喉でも湿らせるかとした水飲み場、の先を争ふかの如く、殴られた傷を洗ふ菅原剛(山本)が聖子の気勢を制して割り込む。序盤中の序盤から、絵に描いたやうに不自然か不格好な二人の出会ひはどうにかならなかつたのか。最終的に、それどころの話ですらないんだけど。腹を空かせてゐる風情の聖子を、剛改め通称・つーさんは自宅に招き手料理を振る舞ふ。素頓狂の火にニトログリセリンをくべる不条理に近い超展開は、カット跨ぎの豪快な詐術もとい魔術で切り抜ける。切り抜け得たとは、いふてない。兎に角とかくそんな調子で、そこかしこからの援助に頼るのと深夜バイトで遣り繰りしつつ、つーさんは老若男女問はず困つた人間を見捨てて措けない人間だつた。端から底の抜けた絵空事の、外堀をどうにか埋めんと試みた一幕。だから、埋められたとはいふてない。深夜に見知らぬ男の家に連れ込まれ、脊髄で折り返し身を固くする聖子に対し、筋金入りの熟女専ゆゑ家出娘には関心のない旨示すべく、つーさんは段ボール一杯のDVDコレクションを開陳。その一番上にある「高速ベロ回転パート20」の、出来は正直ショボいパケを飾るのが並木塔子。軒並みSNSを畳んでゐる点を窺ふに、この人完全に活動を停止した?
 配役残り竹内有紀は元々つーさんとは離婚を手助けして貰つた縁で、現在はセフレ且つ女パトロン的な役割も担ふ杉貴子。最高ではないかといふ与太は与太でもキラキラと輝く寝言はよしとするにせよ、前作「夜の研修生 彼女の秘めごと」(2021/深澤浩子と共同脚本/主演:美谷朱里)と限りなく全く同じキャラクターは流石に如何なものか。といふ根本的な疑問に重ねてそもそも、“若熟女”とかいふ途轍もない語義矛盾、賛成の反対か。大体竹内有紀と根尾あかりなんて、公称は三つしか違はない、見た目もそんな変らない。ツッコみ出したら止まらないぜ、土曜の夜のピンクスさ。気を取り直して先に進む、森羅万象は頻繁につーさん宅に出没するアル中の松宮英二。アル中以外に、現況に関する描写はなされず。同じやうな齢のとり方をしてゐるのか、バンダナを巻いてゐると工藤翔子に似て映る佐々木麻由子は、つーさんから家賃を取らない大家、お姉さんと呼ばないと怒る。キャリア的には工藤翔子の方が長いけれど、齢は佐々木麻由子が二つ上。こゝで、案外間の空いた山本宗介と佐々木麻由子のフィルモグラフィを整理すると、山本宗介はもしかしてピンク版には見切れない可能性も留保する、竹洞哲也2022年第一作「はまぐり三景 吸つていぢつて」(脚本:小松公典/トメ:倖田李梨)のスチール出演をサッ引いた場合、山内大輔2021年第一作「淫靡な女たち イキたいとこでイク!」(主演:加藤ツバキ)での、轟然と復活を遂げた佐倉絆の介錯役以来。佐々木麻由子は、脱ぎ納めとなるのか工藤雅典大蔵第二作「爛れた関係 猫股のオンナ」(2019/主演:並木塔子)まで遡る。広瀬寛巳とケイチャンは、つーさんが―無論無償で―身の回りの細々(こまごま)した世話をする老人部。ケイチャンが純然たる端役で大人しく茶を濁す一方、ひろぽんは“ポンコツ”と“只今休憩中”、十八番のTシャツ芸を披露、殊にポンコツの切れ味たるや。背景のハンガーには、“運動不足”Tもかゝつてゐる。全体、この手の愉快T何枚あるんだ。そして、小癪な裸映画名義なのか平をオミットした市川洋が、聖子と結婚も見据ゑ同棲してゐた吉岡拓海。劇中聖子は職業不詳―つーさんを半ば養ふ貴子も―ながら、吉岡は普通のホワイトカラー。結論を一部先走ると、ヒロインの出奔事由が悲惨は確かに悲惨ではある、過去を勝手に拗らせてゐただけといふのはとんだ一杯案件。陰鬱な面持ちの勘違ひミスリーディングに引つかゝつたのか、実は吉岡に非は一切ない。といふか、勘違ひにミスリーディングもクソもねえ。閑話休題、往来でつーさんに来し方を思ひ起こさせる、悪戦苦闘する建築系の営業は不明。可児正光でも大将出陣KSUでもないとなると、高木翔なのかな。最後に成宮いろはが、痴漢の冤罪で全てを失つた、菅原の元妻・太田淳美。ちなみに松宮は、酒で身を持ち崩した口。別に成宮いろはと根尾あかりならば、熟女と家出娘の対照が無理なく成立する、並木塔子ないし佐々木麻由子でも。佐々木麻由子だと一番重低音―の説得力―がバクチクする、うん、マーケティング的な妥当性は知らん。
 果たして生前何処まで練つてゐたのか、関根和美の痕跡が節穴には見つけられなかつた原案を、弟子筋の小松公典が形にした小関裕次郎第五作。何時の間にか、文字通りの急逝から四年も経つタイム・ゴーズ・バイにプチ隔世の感、何せ大御大・小林悟に至つてはもう二十三回忌だし。
 いはずと知れた「おくりびと」を軽やかに拝借した、OPP+題が「たすけびと」。「おくりびと」ももう十五年前なのか、最早元ネタの届かない層も一定数ゐさうだ。話を、戻せ。つーさんがたすけびとの活動に身を投じた、発端から逆の意味で律儀にへべれけ。前述した理由で、菅原が荒んでゐたロスト時代。行き倒れの松宮を偶さか助け―てしまつ―たところ、意識を完全に喪つてはゐなかつた松宮の「ありがとな」が嬉しくて、以上。えー!と思はず声が出た、一人の人間の人生を変へる、契機にしては心許ないにもほどがある。要は「熟女と家出娘」に「たすけびと」、裸映画と劇映画が、ある意味仲良く共倒れた格好、総崩れともいふ。木に乳尻を接ぐ聖子の出し抜けな全裸告白といひ、溢れ零れる無尽蔵のツッコミ処に、寧ろ関根和美の遺した魂を酌めばいゝのかしらん。松宮の卒倒時、聖子とつーさんが、正しく矢継ぎ早に帰宅するドンピシャなタイミングも。
 「今日の一秒が明日の一分」、説教臭い娯楽映画ほど忌しいものもないが、つーさんが二言目には「気楽に行かうぜ」。云十年昔にキムタクが完成させた、ぞんざいな色男メソッドもとうに賞味期限が切れたのか。あるいは単に、封切り当時既にエフジュー代に突入した山宗が臆面もなく使はうとする、蛮勇に土台無理があつたのかは兎も角。粗野なジェントルを気取るつーさんの姿には、些かならず痛々しさ―あるいは薄つぺらさ―も否み難い。一方、根尾あかりも根尾あかりでホームグラウンドのAV畑では、演技派とやらで通つてゐるらしい。尤も、個性のない美人顔で総じて目の表情に乏しく、吉岡が結婚の単語を口にした途端、聖子がみるみる表情を曇らせる静かに鮮烈なカット以外、大した煌きは感じなかつた。
 貴子を伴ひ、つーさんが過去にケジメをつけに行く、一応の方便も設けられてゐるとはいへ。早めの締めかと思へた根尾あかり2.5回戦のあとに、驚く勿れ一時間も突破した土壇場に飛び込んで来る成宮いろはの絡みには、小関裕次郎は荒木太郎に劣るとも勝らないつもりかと度肝を抜かれかけた。尤もなほそののちに、つーさんと貴子も、聖子と吉岡に続き改めて結ばれる。即ち、最終盤に畳みかける怒涛の濡れ場・ストリーム・アタックを、①ビリング頭②三番手③二番手といふ超変則的な順序で仕掛けつつ、それが展開の流れにも沿つてゐる。といふ、三番手を緩衝材に挿む実際は極めて秀逸な構成込みで、それはそれとしてその限りに於いての見事な離れ業をやつてのけてはゐる、ものの。そのセンを狙ふには、脚本含め演出部の手数と自身の地力不足で、ビリング頭を喰ひきれなかつた二番手の限界が、最終的な致命傷となる画竜点睛の欠如。

 加藤義一とタメの当サイトは、己に太るのを許してをらずBMIほゞ20を未だ維持してゐる。なのでいはせて貰ふが、十も若い山本宗介の体が緩み膨らんで来てゐるのは全く以て頂けない。今なほ十分バッキバキな、平川直大―は当サイトの一個上―ことみんな大好きナオヒーローを見倣つて欲しい。

 付記< 23フェスのテア新檀上にて、塩出太志の口から伝聞形式ながら、並木塔子の復帰報告が為された模様


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 「女教師 汚れた噂」(昭和54/製作:日活株式会社/監督:加藤彰/脚本:いどあきお/プロデューサー:岡田裕/撮影:森勝/照明:新川真/録音:木村瑛二/美術:渡辺平八郎/編集:井上治/音楽:高田信/助監督:浅田真男/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/出演:宮井えりな・深沢ゆみ⦅新人⦆・吉川遊土・山谷初男・椎谷建治・山田克朗・高橋明・八代康二・木島一郎・織田俊彦・五條博・大熊英之・大平忠行・中平哲仟・佐藤了一・南條マキ・影山英俊・田中加奈子・木下隆康・牧村秀幸・新井真一)。出演者中、大平忠行以降は本篇クレジットのみ。では、あるのだけれど。
 水溜りに揺れる「ホテル 智恵」のネオン、改めて看板を狭い路地から抜いて、木島一郎と寝た宮井えりなが身を起こす。身支度を始めた城南学園教師・西片志麻(宮井)に、「男はかうしておくと何となく気が休まるんだよ」とキジイチは三万円支払ふ。ペットの哭く、雨上がりの往来。大掛かりなターンテーブルで車輛の向きを変へる、転車台が画になるバスの停留所。始発を待つベンチで座り合はせた手塚良平(椎谷)を、志麻は戯れに三万で買ふ。二つ目の濡れ場を垂直に抜く俯瞰から、オーバーラップした教室にタイトル・イン。主演女優の、ハクいロングを撮ることに全てを賭けたか如き、やさぐれたハードボイルドがアバンから敢然と火を噴く。
 尤もタイトルバックも校舎のそこかしこ、であるとはいへ。劇中城南学園は春休み期間、授業風景はおろか、制服を着た生徒一人出て来はしない。後述する坂口が理科準備室に入り浸るのもあり、ふんだんに学校が舞台となりこそすれ、一年空いた「女教師」シリーズ次作「女教師 汚れた放課後」(昭和56/監督:根岸吉太郎/脚本:田中陽造/主演:風祭ゆき)に準ずるなかなかの変化球。閑話、休題。城南学園二年生の小形燎子(深沢)が、彼氏・神坂浩(大熊)を観に行つたアイスホッケー部が練習するリンクに、恐らく二連戦を戦つたまゝの志麻も現れる。「パックを西片のアソコにぶち込むつもりでやるんだよ!」、如何にも昭和らしいぞんざいさで発破をかける、キャプテン(新井)に喰つてかゝつた浩が弾みで壁面に激突。頭から突つ込んだにしては、何故か肋骨を骨折する。
 配役残り、浩が担ぎ込まれた病院に駆けつける五條博は、アイスホッケー部の顧問か神坂の担任・松木。南條マキは燎子の母でフランス料理店を営む忍、山田克朗が、娘いはく“お母さん目当てに来るお客さん”の滝村。山谷初男が件の理科教師・坂口、八代康二は校長の久保。吉川遊土は、田舎でたばこ屋とバー「白ゆり」を営む志麻の叔母。絶妙ならしさを爆裂させる影山英俊が、目下叔母と一緒に暮らす新しいバーテン・宮田。即ち今なほ変らない、男を取つ替へ引つ替へする叔母の姿を、子役(田中)が目撃する幼少期の回想。一人目氏は識別能はないが、二人目の郵便配達は多分、声色と体格から粟津號ではなからうか。織田俊彦は、ディスコで志麻と出会ふ行きずりのワンナイラバー。高橋明は志麻の実兄、地主か何かなのか矢鱈凄い屋敷に住んでゐる。そ、して。叔母が急死した霊安室、その場にもう一人居合はせる白衣にも辿り着けないが「御面倒おかけ致しました」の台詞が一言与へられる、吉川遊土の弟で水木京一が悄然と項垂れてゐるのが地味に最大の衝撃。枝葉を賑やかす、常連脇役部しか見てねえのかよ。最後に中平哲仟が、志麻の三万円で行けるところまでといふ、漠然とした客に小躍りするタクシー運転手。まさかの粟津號なり、水京がクレジットの狭間から電撃の奇襲作戦で飛び込んで来る反面、木下隆康や牧村秀幸―何れかはフランス料理店の給仕人?―は兎も角、大平忠行と佐藤了一が何処に出てゐたのかどうしても判らない、あんな濃い面相の人等なのに。
 VHS(初版1999年)のジャケで堂々と“ロマンポルノ版「ミスター・グッドバーを探せ」!!”―探してでないのは原文ママ―を謳つてゐるのが微笑ましい、加藤彰昭和54年第一作は全九作からなる「女教師」シリーズ第三作。同じく加藤彰の昭和51年第二作「女教師 童貞狩り」(脚本:鹿水晶子主演:渡辺外久子=渡辺とく子)が、作品群に数へられない点にふとした疑問も覚えつつ、何のことはない、田中登の第一作(昭和52)に先んじてゐるだけの単純極まりない理由であつた。
 男漁りがてら売春する志麻を描いた、作者不詳の謎エロ劇画『女教師 花芯のわなゝき』。コピーと悪い噂が送られて来た久保の手許を始め、校内に出回る。松木も交へた校長との面談で明らかとなる、前任校で志麻が起こしたスーサイド未遂。「どうしたの、こんなもん飲んでるの」とあのオダトシに軽く心配させるほどの、志麻のヤバげな常用薬、どのオダトシだ。諸々思はせぶりな火種が散々振り撒かれ、はするどころかな話ですらなく。各種イントロには窺へる志麻が、叔母と繋がつた淫蕩な血を畏れてゐる、とかいふ。一番手前の外堀を埋める埋めない以前に、満足に触れさへしない実は割と壮絶な有様では、義母もとい偽母の死後衝撃的か無造作な事実と直面する志麻以前に、映画自体が糸の切れた凧。『花芯のわなゝき』の確かにアッと驚かされる作者の正体以外には、広げた風呂敷を逆の意味で見事に全て畳みもせず放置。最終的には終始足元の心許ないヒロインに対し、中盤猛追しかけるのがピンクでは前年から活動してゐた二番手。猛追しかける、ものの。大概拗れ倒した浩と、燎子が何となくV字仲直りしてのける茶の濁しぶりでは、ビリングを逆立させる鮮烈には果てしなく遠い。山初が妙に尺を食ふグロテスク云々も結局さしたる実を結ぶでなく、本筋に含みばかり持たせた中では、寧ろ木に接いだ竹と紙一重。さうなると漫然と沈降しておかしくない映画を轟然ととサルベージするのが、全篇通して連べ撃ちされ続ける、ラメには見えないがビニールなのかテッカテカな素材の、正直教職らしくはない華美なロングコートで、宮井えりながカッコよく漂泊する超絶ショットの弾幕。哲仟が旧臭い無駄口を垂れ流す、オーラスは蛇に足を描き足し気味の一方、矢張り冗長な長講釈で志麻から要は自失の体験を尋ねられた手塚は、たゞ一言「うん、あるよ」。難渋な禅問答に対してのある意味最適解なのかも知れない、キレのある不愛想さが正方向のハイライト。


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 「SM ロリータ」(昭和59/製作・配給:新東宝映画/監督:影山明文/撮影:伊東英男/照明:出雲静二/出演:早坂明記・香川留美・田代葉子・中山あずさ・杉本未央・池島ゆたか・久須美欽一・北浦圭一郎・南郷健二・山本竜二・荻谷雅光)。如何にも怪しい殺風景なタイトルの入り具合に、脊髄で折り返した危惧がまんまと的中。キャストの頭数が揃つてゐるだけまだマシ、なのかも知れない、豪快だか箆棒に脚本をも等閑視して済ますビデオ版爆縮クレジットに散る。さて措き出演者中、中山あずさがVHSのジャケには中山あづさ。どうも正解はあずさぽいものの、ザッと検索してみたところで少なすぎるヒット数が大まかな当寸法すら拒む。とりあへず新田栄の「女子大生連続ONANIE」(昭和59/脚本:池田正一)主演を、jmdbが中山あずさにしてゐてnfajは中山あづさにしてゐるのは、全体どちらが正しいのか。挙句難しいのがこの辺り、ポスターはあずさで本クレあづさ、とかいふ事例もまゝあるジャミングぶり。その場合、当サイトは基本的に本篇クレジットを尊重してゐる。
 交錯する電車にタイトル・イン、駅前の雑踏に制服の主演女優が現れる。五丁目三番地までヒッチハイクした車に送つて貰つた交通遺児の千秋(早坂)が、今日から厄介になる遠縁の健三(久須美)に赤電話。近くなので道を尋ねながら来いとする健三の、迎へに行つてやれといふ早速の非道ムーブ。健三の妻・吉江(香川)が小娘を預かつて大丈夫なのか不安を隠さない一方、実に久須欽らしいメソッドで健三はしたり顔。実は三年前から千秋に目をつけてゐた健三が、買春させるつもりであるのに吉江は驚く、それは確かに驚く。ちなみに劇中設定で千秋十四歳、にも見えないがな。何れにせよ、ヒューマニティーといふ言葉を知らんのか、昭和。
 健三がマスターで吉江がママの、看板ママで“小さなクラブ「エリカ」”、なかなか斬新な業態ではある。配役残り、端役臭い覚束ないビリング推定で、荻谷雅光はエリカの名無し客。頻りに抱かせて呉れるやう口説く吉江に、手コキと生乳までは揉ませて貰ふ。田代葉子が奥の間どころか、平然とボックス席で客に跨るエリカのホステス・ユーコ。問題が、ユーコを抱くエリカの上客・大崎が吉岡市郎なんだな、これが。あれこれググッてみるに薔薇族で吉岡市郎と共演作のある、南郷健二は明らかに別人。男優部主役作―「拷問 車輪責め」(昭和60/監督:藤井智憲か藤井知憲か藤井智恵)―もある、北浦圭一郎が多分イコール吉岡市郎。吉岡市郎に、吉岡圭一郎なる別名が存在するのは確認してゐる。中山あずさは、健三の下を離れた千秋が働く、お食事屋「かるかや」のママ、固有名詞不詳。杉本未央は店の二階で客に抱かれる、「かるかや」の女・ルミで山本竜二が常連客。さういふ店ばかりの、マッドな町。池島ゆたかが「かるかや」のオーナーで、要は中山あずさを妾に囲ふ御仁・イワミ。但し正妻の存在は必ずしも描かれないのと、糖尿でイワミは勃起不全気味。そんなこんなで恐らく南郷健二が、中山あずさがイワミの目を盗み密会する情夫。さういふ名前の並びと役の重さで、しつくり来るやうに思ふ、より直截には期待する。
 松浦康と同一人物説が何処から出て来るのかよく判らない、元々俳優部に出自を持つ名和三平の変名かつ、更にa.k.a.蔵田優でもあるらしい影山明文の最後期作。名和三平名義での監督作もある一方、影山明文と蔵田優は演出部専。時期的には昭和48年から60年までの間に、三人のjmdb合算で全六十六作。脱けの可能性を鑑みると八十は兎も角、七十本くらゐは行つてゐるのでなからうか。
 そもそも遠いとはいへ血縁でもある、好色漢に散らされた破瓜の血も乾かぬうちに、客まで取らされる。大概な児童虐待を受けてゐる割に、千秋が最初以外はさしたる痛手を負ふでなく。寧ろホイホイ得られる現金に案外味を占めた千秋が、イワミを何だかんだ篭絡。とりあへず「かるかや」のママにまで上り詰める、ある意味『悪徳の栄え』のやうな一作、一滴の精神性も見当たらないけれど。テーマなりメッセージなんぞ端からあるでなく、実はビリング頭が一番弱く映る気もする、全員脱いで絡む女優部が豪華五人態勢。となると物量で攻めて来る重量級の裸映画を望めば普通に望めた、筈なのに。千秋が大崎に売られた絡みを刈るが如く端折つた、次のカットがまさかの御満悦でシャワーを浴びる大崎。そこで吉岡市郎単独の裸を見せて何がしたいのか、濡れ場さへ大切にしようとしない、底無しといふか底の抜けた虚無に限りなく近い、殆ど絶対的なぞんざいさにはグルグル何周かした感興も覚えた、バターになるぞ。看板に仰々しく謳はれるサドマゾは、勃たないイワミが気分ないし趣向を変へる気紛れに、しかもラスト五分を切つて漸く木に縄を接ぐ程度。さうはいへ千秋が浣腸液を噴く、もしかすると今では許されないエクストリームは、当時の観客を大いに滾らせた可能性も否めなくはない。結局、千秋の預金残高が順調に増えて行く以外には、イワミの回春すら描かない徹底した物語の放棄に関しては、嫌悪を通り越した憎悪に近いドス黒い感情も覚えかねない反面、針に糸を通す精度で琴線に触れたのが、千秋が健三宅から「かるかや」に流れて行く道程。草叢に制服を無造作に捨てる、即ち一度は夢見た高校進学を千秋がこともなげに放棄、截然とドロップアウトする姿には偶さか劇映画が正方向に輝くといふか仄かに煌めいた。


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 「悶々法人 バリキャリ男喰ひ」(2022/制作:ネクストワン/提供:オーピー映画/監督・編集:工藤雅典/脚本:橘満八/プロデューサー:秋山兼定/音楽:たつのすけ/撮影:井上明夫/照明:小川満/録音・整音:大塚学/VFX:竹内英孝/助監督:永井卓爾/監督助手:赤羽一真/演出部応援:岡元太・長谷川千紗/撮影助手:林雄一郎/照明助手:広瀬寛巳/ポスター:MAYA/協力:浅生マサヒロ、KOMOTO DUCT、池袋・バレルハウス/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:希島あいり・Kent・卯水咲流・初愛ねんね・古本恭一・那波隆史・パスタ功次郎・なかみつせいじ)。
 “着る、を観る。 全く新しいFashion WEB Magazine ハレホラヒレ”の紙パブを一拍挿んで、『ハレホラヒレ』編集長・華子(希島)の自宅。業務上横領で懲戒解雇が相当なところ、華子が情夫のよしみで依願退職に収めた、元編集者の榊原(古本)に対面座位で跨る。名器の締めつけに屈し、中に出した榊原を華子は改めて追ひ出す。赤いビニール傘が鮮やかに映える、雨の往来。男運のなさを嘆きつつ、坂を下る華子の背中にタイトル・イン。たつのすけこんな人だつたかなとど頭から耳を疑ふ、頓着なくズンドコ鳴らすぞんざいな劇伴が、結論を先走るとアバンで既に勝敗を決してゐた。それ、と。もしかしてVFXはこゝのビニール傘の発色―と後半、夜間ロングの明らかに距離の近い満月―で使つてる?
 半角スペースを入れるのが凄まじく気持ち悪い、字幕ママで“ファッションWebマガジン「ハレ ホラ ヒレ」編集部”。そもそも、ウェブ媒体とはいへ雑誌を謳つてゐる以上、二重鉤括弧を使つて欲しい。さて措き、雅衣(初愛)と伊藤(パスタ)以外の人員は、あらかた辞めたか華子が放逐した編集部に、新任エンジニアの板谷(Kent)が入つて来る。きれいな太三といつた風情のパスタ功次郎が、2008年第二作「如何にも不倫、されど不倫」(主演:鈴木杏里)以来の地味に大復帰で通算三作目。再度閑話休題、パンツ越しにも歴然とした、板谷の立派な逸物に華子は忽ち心を奪はれる。と、ころで。華子と板谷のミーツが、出会ひ頭で華子がタンブラーのコーヒーを板谷の股間にブッかける、要は食パン美少女の変形バリエーションであるのは兎も角。華子がテンプルに指を添へる毎に、スチャスチャ音がするメガネはだから眼鏡屋に調整を頼んで直して貰へだなどと、この期に及んでなほいはせるつもりか。量産型娯楽映画にとつてクリシェは一種の花にしても、一切のアップデートを拒んでいゝといふ訳では必ずしもあるまい、保守なのに。尤も、意図的に野暮つたい雅衣のボストンとの対比も効いた、華子こと希島あいりの使ふ細身のオーバルが、美人を加速させるメガネとして狂ほしく超絶。さうは、いへ。いよいよ事に及ぶ段に、外してしまふのは矢張り頂けない。実際邪魔なのは邪魔なんだけど、そこはそれ、フィクションならではの美しい嘘といふ方便でどうぞ宜しく。
 配役残り、かれこれ七年十本目となる卯水咲流は、セックスお悩み相談の回答者に華子が白羽の矢を立てる、蕨法経大学の同期で女優の岩下桃子。板谷もワラホーで、桃子の演劇部後輩といふのは、単に大ファンであれば事足りる藪の中の蛇。桃子のデビュー作が工藤雅典の名作「紅の純情ロード」(2008)だなどと、熱つぽく板谷に語らせるのは恥づかしくないのか。なかみつせいじが、撮影中の桃子相手役。河原のロケ現場に全員リアル撮影隊とは恐らく限らない、工藤雅典以下計七人がフレーム内に公然と投入。助監督の赤羽一真と照明部のひろぽんまでは識別出来たものの、永井卓爾の巨躯が見当たらず。これクレジットにはないけれど、スクリプタか制作部ぽいのが末田佳子に見えるのは気の所為か。那波隆史は桃子の事務所社長、兼不倫相手。社長が既婚者、桃子に店を持たせてもゐる。バレルハウスを画像でググると撮影に使つてゐるのは判る割に、屋号が抜かれはしない。前述した撮影隊のほか、スタジオ内の楽屋にもう三人―と赤羽一真が―見切れるうち、メイクは多分長谷川千紗。あとHHH編集部にその他編集者も、女と男一人づつ見切れる。いふまでもなく、重複してゐる者の存在は否めない。
 同じく希島あいりを主演に迎へた前作、「人妻の湿地帯 舌先に乱されて」(2020/脚本:橘満八)で実に十二年ぶりともなる久々の白星を叩き出した、工藤雅典の大蔵第四作。昨年暮れ、ツイッターで工藤雅典が新作を編集してゐる気配は窺へる、ピンクであるのか否かは不明。
 強欲、いや性に主体的なヒロインが、純情男の巨根に回りくどくお胸をときめかせる。先に触れたズンドコは、いはば挨拶代り。華子の心情が大きく揺らぐ度に、エレキをギュインギュイン連動させる天井かと見紛ふ底の浅い選曲に咥へもとい加へ、最終的には勃起に擬音をつけてのける、友松直之も裸足で逃げ出す底の抜けた音効には畏れ入つた、勿論悪い意味で。榊原を起承転結を整へる噛ませ犬的な動因と、濡れ場の火種に据ゑるのが精々関の山。華子発案の板谷攻略戦は迂回のための迂回に終始、勧善懲悪を強制完了する、謎弾着のいゝ加減な扱ひは何気に衝撃的。雅衣と伊藤が出社してゐるにも関らず、板谷―と華子―は在宅勤務。リモート会議で新婚夫婦生活がオッ始まるしやうもないラストまで含め、かつての工藤雅典らしい、硬質さなり端正さは欠片もお目にかゝれない結構惨憺たる体たらく。オープンで卯水咲流となかみつせいじが対峙するカットに際して、卯水咲流が逆光側に立つてゐたりする。希島あいりを綺麗に撮る以外には、撮影部も無造作か平板な画を臆面もなく連発といふか乱発。三本柱の乳尻を少なくとも量は十全に拝ませる、裸映画的に最低限安定はしてゐるだけに、辛うじて腹こそ立ちはしないにせよ。殊に男優部主役が壊滅的にパッとしないこの面子の中で、論を俟たず絡みの技術に最も長けた、なかみつせいじを温存する壮絶なセルフ負け戦は流石に如何なものか。土台高々このくらゐの水準の映画なら、せめて月に数十本は量産して数で圧し潰すでもするしかなささうな、全く以て漫然とした一作。橘満八のno+eによると驚く勿れ何と十二稿まで改稿したといふが、これは所謂あれかいな、全ての色を混ぜると灰色になるとかいふ現象を、一本の映画の形で体現して見せられたのであらうか。


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 「裸のタイガー エロス狩り」(2022/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:切通理作/撮影・照明:渡邊豊/撮影助手:渡邊千絵/録音:小林徹哉/スチール:本田あきら/助監督:菊嶌稔章/編集:渡邊豊/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/擬闘:大平真嗣/ガンエフェクト:小暮法大/フードコーディネーター:志摩ことり/特殊造型:土肥良成/協力:はきだめ造型・野間清史・郡司博史・ロケ太郎・江尻大・貝原クリス亮/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐倉絆・南梨央奈・並木塔子・折笠慎也・安藤ヒロキオ・裏地圭・GAICHI・あぶかわかれん・根岸晴子・末田佳子・橘メアリー⦅回想シーン⦆・小滝正大)。出演者中、回想特記の橘メアリーは本篇クレジットのみ。
 赤い月に、実はど頭で大オチを割りもする並木塔子のシャウトで「虎だ、お前は虎になるのだ!」。後述する前作ラストで出奔、今は追はれる身のアンドロイド型ダッチワイフ・マナ(佐倉)と手傷を負つた、ポーラボーン社マナ計画オブザーバーの風早タクマ(小滝)が、国沢実の好んで使ひがちな物置然とした一室に逃げ込む。手当てがてらオッ始めた絡み初戦の完遂を待つて、適当なプロテクターを身に纏つたアンドロイドハンター大登場。飛び道具を用ゐた手短な攻防の末、マナとアンドロ狩りが直接激突せんとするタイミングでタイトル・イン。言葉を選べば微笑ましい虎さんの着包みがガオーガオー吠えるのが、一旦俳優部―のクレジット―が先行するタイトルバック。ところで素朴な疑問、ブレードランナーといふのは、一般名詞的に使つたら怒られる単語なのかな。
 腹を空かせた風来坊の背中挿んで、ケン(安藤)が親爺の跡を継いだ青果店「八百丸」。周囲の店の、シャッターが劇中常時閉まつてゐるのが地味に気になる。兎も、角。客要員で飛び込んで来るEJDと、一緒に店を切り盛りする妹のアキ(南)。三羽烏的な常連客のワンノブゼン(あぶかわ)で賑ふ八百丸表の往来を、GAICHI(ex.幸野賀一)の大型バイクが暴走。危ふく轢かれさうになるアキを、通りがかつたはらぺこ流れ者(折笠)がプリミティブな特撮で描かれる、超人的ジャンプで助け出す。男はケンからバイクレーサーの夢を託された弟分でアキとも恋仲にありつつ、レース中の事故で再起不能の重傷。爾来行方不明の、ダンヒデオと瓜二つであつた。けれどもあくまであるいは、その場的な勢ひで郷田リクを名乗つた折慎は野菜が箆棒に大好きで、厳密には葉緑素を含んでゐるものをしこたま食はせる賄ひを唯一の条件に、正直人件費は出せない八百丸に居つく。自慢の単車を満足に抜いて貰へる訳ですらなく、「シェケナベイベ」のクッソしやうもない断末魔を残して御役御免、途轍もなくどうでもいゝGAICHIの扱ひに涙も枯れる。
 配役残り、この二人は事務所に一応籍を置いてゐる、根岸晴子と末田佳子が三羽烏のあと二人。三人に三人なりのフィルモグラフィがなくもなく、本職プロデューサーのあぶかわかれんは加藤義一2017年第四作「肉体販売 濡れて飲む」(しなりお:筆鬼一/主演:きみと歩実)以来、国沢実的には2017年第一作「来訪者X 痴女遊戯」(脚本:高橋祐太/主演:桜木優希音)ぶりの通算四戦目。村田頼俊と同じく「加藤企画」所属の根岸晴子は、2019年第二作「スペース・エロス 乳からのメッセージ」(高橋祐太と共同脚本/主演:南梨央奈)以来の二戦目。根岸晴子は池島ゆたか2018年第三作、といふか現状最終作となる「冷たい女 闇に響くよがり声」(脚本:高橋祐太/主演:成宮いろは)以来の三戦目。ゆめゆめ誤解なきやうお断り申し上げておくと、現状ないし不遇を追認するものでは断じてない。閑話休題、並木塔子が町に舞ひ戻つたセックスカウンセラー・南ユリ子にして、ケンの一年前に逃げられた女房、即ちアキにとつては義姉。に止(とど)まらないんだな、これが、覚悟しろ、覚悟て何よ。バンク限定で登場の橘メアリーはマナのライバル格、マナ計画的には試作段階のジャンクパーツが勝手に合体して誕生した野良アンドロイドのジュン。ハイパーメガバズーカ砲でマナに倒されたのち、復活もしくは再生したといふ。再度敗れたとはいへ、元々底の抜けた出自込みで、マナより何気に不死身のジュンの方が凄くはなからうか。最後に、何しに出て来たのか清々しく判らない裏地圭は、異国と称したそこら辺のホテル街にて再び回遊中のユリ子に拾はれる?百万円持つてゐるのが不思議な作業員。丸ごと謎の意味不明な一幕につき、何時とユリ子以外の3.5Wが本当に雲を掴む。
 国沢実の新作は山内大輔2020年第一作「はめ堕ち淫行 猥褻なきづな」で引退後、2021年第一作「淫靡な女たち イキたいとこでイク!」(主演:加藤ツバキ)で電撃復帰した佐倉絆を完全カンバック的にビリング頭で迎へた、2019年第一作「溢れる淫汁 いけいけ、タイガー」の正統続篇。尤も前回と同じ役の佐倉絆と小滝正大、橘メアリーに対し、マナ計画責任者・蛇塚信一郎博士であつた安藤ヒロキオは下町の八百屋二代目、折笠慎也も無宿人は無宿人ながら、名無しの悪役から主役級―といふか主役―の善玉へと全然別の役に変つてゐる。国沢実と切通理作のコンビとしては、2018年第三作「ピンク・ゾーン2 淫乱と円盤」(主演:南梨央奈)を皮切りに「いけタイ」、2020年第一作「ピンク・ゾーン3 ダッチワイフ慕情」(主演:佐倉絆)と連なる四作目。撮影時期的には滑り込まうと思へば恐らく滑り込めた、2021年公開なら年一ペースを守れてゐたのか。
 さうはいへ佐倉絆をわざわざ連れて来たにしては、再生ジュンと相討ちしたダメージなのか、それとも耐用年数間近の経年劣化。二つの所以が並行する脚本の初歩的か根本的な粗忽はさて措き、木に牙を接ぐ吸血属性―しかも相手は若い女に限る―を背負ひ込まされたマナは、出番ごとダンのヴィランに後退。物語の本筋は記憶を失つた郷田あるいはヒデオと、アキのあれこれ素直になりきれない、とかく面倒臭い恋模様が担ふ。先に進む前に、脚本のミスをもう一点。風早が<ダン>を捕まへて、“アンドロイドも家庭的な温もりには弱い”云々と嘲笑つてみせるのは、だからそこは人造人間ではなく改造人間、即ちサイボーグだろ。筆の勢ひ余つて書き損じるのは別に構はないが、現場から完パケに至るまでの過程で、誰もおかしいと思はなかつたのが寧ろ信じられない。気づいてはゐたけれど、直さないのならなほさら。さて措き切通脚本の最も顕著な特徴に挙げられよう、粒の小ささと紙一重ではあれ、よくいへば繊細な国沢実の、直截にいふとミニマムな器を弁へないオーバーフローの大風呂敷を何も考へずにオッ広げた結果、悪い意味で見事に映画が爆散する。略してオーバーフローシキが続篇エフェクトで幾分緩和されたのか、ナミキ・エクス・マキナ一点張りの超展開が乱打される滅茶苦茶通り越して出鱈目な終盤も、折笠慎也が誇る怒涛の熱量頼みで案外躓きもせず一息に突破。面白いと賞する途方もない勇気は流石に持ち合はせないが、腹が立つでなければ呆れ果てるでもなく、ひとまづ大人しく見させる見せきるのは、近年の国沢実にしては上出来の部類か。裸映画的にはソープテクニック映画を燦然と復興させる、ユリ子とケンの豪快な夫婦生活が何はともあれ何はなくともな白眉。対決の最中にいきなり諸肌脱いだマナが、艶めかしく誘惑してダンの機先を制するのは、実にピンクらしいチャーミングな妙手。反面、事実上のヒロインと看做して問題ない二番手は、処女設定ともどかしさを優先した回りくどい作劇とに足を引かれ、質量双方の不足は否み難い。さうなると、それともそれだけに。郷田目当てにホストクラブ感覚で三羽烏が通ひ詰める、八百丸の風景だのヒデオとケンの笑へもしない特訓。花は青いか赤いのかといつた、他愛なくさへないシークエンスで茶も濁し損なふくらゐなら、女の乳尻に尺を割くべきだといふ至極全うな義憤も禁じ得ない。アキとヒデオが壮大な紆余曲折を経て漸く結ばれる、締めの濡れ場を堂々と完遂した上で、綺麗な大団円を素直に畳んでみせれば、よいものを。アキも虎になりたガールにしてしまひ、全く以て不用意不必要に後味を濁してみせるのは、国沢実の悪い病気と当サイトはもう諦めた。諦めがついたのが、もしかすると今作最大の収穫かも、何だそれ。

 二度目の別れに際しケンが洩らした坦懐を聞くに、ユリ子が家を空けてゐた期間は一年間。とかいふ数字に色とりどりの齟齬なり無理が鏤められてゐるやうにも思へるのは、だからこの人等にその手の野暮を吹き始めてもキリがない。却つて、釣られたら負けの世界に近いものがある。
 ナミキ・エクス・マキナ驚愕の三変化< セックスカウンセラーから性の極意を極めたキラークイーン、から更にの、ダンに改造手術も施した―まんまショッカーな―ポーラボーン首領


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 「人妻 濃密な交はり」(2005/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vシアター/配給:新東宝映画/監督:勝山茂雄/脚本:奥津正人/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/音楽:黒木和男/撮影:石井浩一/照明:椎原教貴/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/スチール:大崎正浩/タイトル:道川昭/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/監督助手:清水雅美・小林憲史/撮影助手:灰原隆裕/照明助手:松本勝治/協力:いちごみるく・江口美帆・加藤ともみ・金野学武・小林しゅり・武田和・田中雄也・張敬隆・戸川健二・福島直哉・渡邊さとみ・高田宝重・田尻裕司・榎本敏郎・坂本礼・石川謙・山内洋子・伊藤一平・朝生賀子・佐々木靖之・田山雅哉・坂場裕輔・早稲田太郎・ホテルシルク/出演:真田ゆかり・川瀬陽太・飯沢もも・星野つぐみ・石川裕一・伊藤猛・村松和輝・前田優次・花塚いづみ・大槻修治・高橋大祐・森永健司・安西秀之・松島圭二朗・蔵内彰夫)。闇雲な頭数の俳優部は、全員ポスターにも名前が載る。
 河川敷でサッカーする一団を、土手から川瀬陽太と真田ゆかりが眺める。プツッと音もしさうに、唐突に暗転してタイトル・イン。自称ex.天才サッカー少年の、友田組組員・児山浩志(川瀬)の携帯に、弟分のシン(石川)からキナ臭い電話が入る。友田組が両友会と交した取引で、ブツは両友会の手許に渡つてゐなかつた。にも関わらず、友田組は出世を餌に、両友会からの集金を浩志に指示。あからさまに危ない橋にシンは一旦隠れるやう浩志に促す一方、妻の恵美(真田)やもう一人弟分の鉄男(村松)らの処遇も鑑み、大概怖気づきながらも浩志は腹を括る。括るといふか、逃げる意気地もなかつたといふか。
 配役残り、飯沢ももは浩志が店長を務めるPUB「LUCK」―シンと鉄男も従業員、恐らく恵美がママ―の、チーママ・ミズキ。ビリング前後して大槻修治と伊藤猛は、友田組組長と、浩志の兄貴分・本橋。組長なり社長なり、兎に角トップが室内でパターゴルフに興じてゐる、クリシェの清々しさに尻子玉が抜けさうになる。安西秀之と松島圭二朗は両友会組員、2011年に窃盗でパクられ俳優業を引退した、森永健司が両友会の偉いさん、蔵内彰夫は森健の舎弟。高橋大祐は、元々は浩志よりも上の序列にあつた本橋舎弟。そしてゴリゴリのロリ体型が、軽い罪悪感をも誘起する星野つぐみは両友会に出張る前の浩志が、長財布ごと貰つたお祝ひで本橋の薦めに従ひ、スッキリして来る泡姫のチサト。信仰自体に興味はあるらしく、ダイエットのメソッド感覚で、色んな宗教をお試ししてみるなかなかの逸材。シンは知りつつ浩志には未だ打ち明けてゐないまゝに、恵美は妊娠してゐた。花塚いづみは暫くサボッてゐた検診を恵美が受けに行く、若き美人開業医・後藤。えゝと、これで全部かな。いや、誰か忘れてないか。とかいふ含みはひとまづ通り過ぎるとして、大分フレーム内に投入されてゐる―もしかしてアバンのサッカーも?―と思しき、協力勢はホステス込みのパブラック店内を主に、あと後藤医院の院内エキストラ。その中一際目を引くのが、全体どういふ設定になつてゐるのか、壁際の席で妙にちやほや接待され御満悦な高田宝重の存在感と、地味な晴れ舞台ぶり。
 小屋にてよほど腹に据ゑかねたのか、以前といふか昔に書き散らかした感想が我ながら質はおろか、量からぞんざいな代物につき、潔く全面的にやり直すことにした国映大戦第五十戦。雑に、もといザッと探してみた感じ勝山茂雄が今作以後、Vシネも撮つてゐる形跡が見当たらない、PVその他は知らん。
 幹部バッジと引き換へに、正しく詰め腹切らされるチンピラと、その周囲の物語。風評被害の類と大差ない、純然たる迸りでしかないがビデオマーケットの、“風俗の世界と極道の世界が夜の街で交錯する官能ドラマ”だなどと、途轍もなくどうでもいゝキャプションが生温かく琴線を撫でる。惹句とは果たして何ぞや、何気に根源的な難題も兎も角、野暮を一応ツッコんでおくと、チサトの店に浩志がヌキに行くのは真昼間である。
 多分坂本礼が浩志の土座衛門を発見して以降、遺された者達が最終的には、銘々何となく新しい日々を適当に歩き始める。要は終盤何も起こらない、水のやうなラストには当サイトも加齢に伴ひ、幾分丸くはなつたかそれとも直截に枯れたのか、この期に及ぶと腹も立ちはしない。尤も、面白い以前に詰まらなくないとも論を俟たず一言たりとていふてはゐない。浩志の匂ひが残るヤサを捨て、何処かに越して行く恵美はまだしも。友田組の腹積もりがよく判らないが、相変らず営業を継続するパブラック。無闇に爆ぜればいゝといふものでもないにせよ、ミズキと鉄男が何故か距離を近づける様子に、相好を崩すシンの姿には流石にこんならそがな腑抜けたザマでえゝんかと、レイジ混じりの疑問も禁じ難い。前回怒髪冠を衝き破つた、台詞の聞こえなさ―ヘッドフォンでもあちこち聞こえない―に関してはどうやら録音レベル云々いふより、寧ろ元々俳優部の口跡からそこかしこ覚束なかつた模様。といつて原田眞人でもあるまいし、俳優部が心許ないのなら録音部が補ひ観客の円滑な鑑賞なり視聴を妨げぬやう努めるのが、商業映画の基本的どころか原初的に然るべき形なのではなからうか。
 新たな今回の発見が、唯々純粋に面白くなく詰まらない、訳でも必ずしもなく。グルッと一周する、破壊力に長けたある意味見所がしかも二点。まづ最初は在り来りに薄汚れた渡世に、舞ひ降りたリスカ傷だらけの天使、になり損なふ三番手。浩志でその日の仕事が終る、わざわざ布石まで御丁寧に敷いた上で。チサトが往来をほてほて歩いてゐるまさかの再登場には、完全に一幕・アンド・アウェイの裸要員かと思はせておいて、再び飛び込んで来た三番手が展開上重要な一翼を担ふか、一撃必殺のエモーションを撃ち抜く。ピンクのある意味枷を逆手にとつた、鮮烈な大技がキマるのかと脊髄で折り返してときめいたのは、勿論粗忽な早とちり。そもそも、もしも仮に万が一そんな一発大逆転が決まつてゐたとしたら、過去に斯くも無体な感触に収まつてゐる筈がなく。結局車で拉致られる浩志と交錯しかけ、るに過ぎないチサトが最終的にはラブホに二三本陰毛でも生やした程度の、教会ぽい建物に目を留めて終り、だとか難解なシークエンスには眩暈がした。含みを持たせ過ぎたのか単なる不調法か、何がしたいのか何を描きたいのか雲も掴みかねる。火に油を注いで凄まじいのが、木に締めの濡れ場を接ぐためにのみ登場する前田優次。辞した本橋をシンが追つた、けれど特に何事も発生しない対峙を経て。藪から棒に謎の前田優次とホテルに入つた恵美が、手短に寝る。誰そいつ!?あるいは、何で浩志と死別したばかりの恵美が、ほかの男とヤッてんのよ?といつた火花の如く脳裏に飛び交ふ至極全うな疑問は、一切全く一欠片も顧みられない。実はその一幕で主演女優が三回、二番手が二回に三番手は大人しく一回きり。一種の黄金律的な、数字のバランスを完成させてゐるともいへ、こゝまで派手にブッ壊れてゐるとはよもや思はなかつた。へべれけに温存された三番手が、遅きに失するにもほどがある土壇場に至つて映画を逆の意味で見事に詰んでのける、荒木太郎にすら劣るとも勝らない壮絶か凄惨な大爆砕。それが荒木太郎の罪なのか、三上紗恵子に帰すべき責なのかはさて措き。裸映画に話を絞ると―よしんば片方向にせよ―何れも完遂にまで漕ぎつける、濡れ場自体は案外オーソドックスで、満更でもない。さうは、いふてもだな。女と男がエッサカホイサカ、入れポン出しポン励む画にまるで茶店のBGMみたいな、クラシックのイージーリスニングを鳴らすセンスは如何なものか。劇伴で、煽情性をスポイルしてどうするの。総じては想像を超えた酷さに、それはそれとしてベクトルの正負は問はない、絶対値のデカい感興は覚えた一作。とりあへず、前田優次のアヴァンギャルドな起用法には本当に度肝を抜かれた。前田優次前田優次いふてるが、別に前田優次は全然悪くない。
 数少ない正方向のハイライトが、組関係の人間が誰一人顔を出さない、児山家葬儀会場に本橋が現れる件。遠目に長身の本橋が入つて来るカットと、恵美は受け取つて呉れなかつた、分厚い香典をシンに押しつけ立ち去るカット。丈に恵まれた体躯を気持ち持て余す、伊藤猛のロングが箆棒に映える。今なら、稀有なビート弾けるそのショットの一点突破で、木戸銭の元も決して取れなくはない。体調と、機嫌さへよければ。


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 「女秘書の告白 果肉のしたゝり」(昭和51/製作:日活株式会社/監督:近藤幸彦/脚本:桃井章/プロデューサー:三浦朗/撮影:萩原憲治/照明:松下文雄/録音:古山恒夫/美術:林隆/編集:西村豊治/音楽:蓼科二郎/助監督:黒沢直輔/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:栗原啓祐/出演:梢ひとみ・宮井えりな・笹尾桂・島村謙次・織田俊彦・伊藤弘一・八代康二・小林亘・西山直樹・北上忠行・影山英俊・露木護・菅原義夫・星野かずみ・あきじゅん・工藤麻屋)。出演者中小林亘と北上忠行に、露木護以降は本篇クレジットのみ。クレジットがスッ飛ばす、配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 穏やかなギター鳴る中、豪奢な部屋にて全裸の主演女優が腰を折り、下着に御々足を通すファースト・カット。レースのカーテンに、指を添へた止め画にサクッとタイトル・イン。東都貿易社長秘書の影山綾子(梢)が出勤しようとすると、隣室に住む飲食店最低でも雇はれ店長の、美輪朋子(笹尾)は常連客の麻雀に捕まり朝帰り。部屋の鍵を太腿のガータに隠すのが、綾子が男を除けるお呪ひだつた、除けたいのか。所帯の大きさ的に、庶務課辺りと兼ねてゐるぽい秘書課に綾子が顔を出すと、その日が初出社の新入社員・伊藤和代(宮井)が殊勝に机なんか拭いてゐたりした。社長である村越正弘(伊藤)と一日の日程を確認、綾子が淡々と仕事をしてゐると、経理の峰健治(影山)が村越の決済を求め現れる。峰が綾子に気がある旨、女子社員らからは噂されてゐた。後述するその他仮面乱パ要員含め、社内を主に数十人単位のノンクレ俳優部がジャッブジャブ投入される。それ、なのに。
 配役残り、島村謙次はコピー室で和代を犯さうとする、課長の北村。かつて綾子も犯し、その代償として社長秘書に推挙した御仁。課長風情が色んな意味で箍の外れた権勢を振るふ、大丈夫なのかこの会社、社長だらうと許されるかバカタレ。綾子を初めて夜のプライベートに誘つた、村越が向かつた先は接岸してゐる客船。そこでは男女ともバタフライで顔を隠した上、男は揃ひの何か軍服、女は適当なドレスに着替へ、ゴージャスなカップル喫茶的に銘々のパートナーを取つ換へ引つ換へする、要は普通にパーティーらしい乱交パーティが繰り広げられてゐた。織田俊彦が、綾子を抱く小田敏夫。村越は、美青年・オサム(西山)と薔薇を咲かす。バタフライ越しにもその人と何となく看て取れる、八代康二と露木護がパーティ参加者男優部。ビリング末尾三人も、多分同じく女優部。一方娑婆では綾子のさりげないアシストも受け、和代と峰が距離を近づける。小林亘と北上忠行に菅原義夫は、路肩でカーセックロスに耽る、箆棒に無防備な峰の車を襲撃する労務者。三人に軽くシメられた影英が、和代―と愛車―を捨てすたこら逃げる無様で無体なシークエンスには、「えー!」的な感じで唖然とした。
 量産型娯楽映画界に於けるひとつの鬼門、初見の監督。地元駅前ロマンに着弾した近藤幸彦昭和51年第二作は、全十六作中通算第十四作。日活退社後は、潔くテレビ畑に転作ないしレッスンプロの道を選んだ模様、潔さの意味がよく判らない。
 一言で片づけると、そもそもな暗中摸索の火に油を注ぐ、まあ掴み処を欠いた一作。一時間を漫然と跨いだのち、村越が―オサムとはまた別の若い男と行つた―洋行土産で綾子に贈つた、結果的に忘れ形見と化す夜間飛行を、小田が意表を突く力技で案外スマートに固着。そこそこの落とし処に、漸く辿り着きこそすれ。満足に起動しない、物語らしい物語。抑揚に乏しい展開と、行間だけはガッバガバに広い、思はせぶりなばかりで何某かの結実を果たすでは特にない会話。それでゐて、所々で藪から棒か藪蛇に爆ぜる、正体不明の詩情。裸映画的にも裸映画的で、端的な即物性には背を向けながら、それでゐて何かほかのサムシングがある訳でも特にない濡れ場は、リズムからちぐはぐで煽情云々いふより、勃つ勃たない以前のフィジカルな違和感の方が寧ろ強い。アキレス腱はどうやら端からヒロインが惚れてゐるにしては、華なり魅力どころか、特徴すらない伊藤弘一、でなく、外堀の一切凡そ全く埋められない三番手。この人等もこの人等、綾子と朋子が百合の花薫らせる関係性を、ノーイントロで放り込んで来る随分な無造作さにも驚くにはあたらず呆れたが、そこがまだ、底ではなく。パーティ会場にて、矢鱈と綾子に小田を宛がはうとする謎の女が、朋子であつた大概な超飛躍にも吃驚しつつ、結局その時その場に朋子が乗船してゐた、所以なり経緯を一欠片たりとて説明しない、説明しかけもしない途轍もなく不親切な作劇には卒倒するかと思つた。そし、て。結構深い底をもなほブチ抜いてみせるといふか抜いてしまふのが、三羽烏に輪姦され、身も心も傷ついた和代の背中を朋子が押す、具体的な内容といふのが改めて島謙課長に自ら股を開き、引き換へに秘書の座―と綾子パイセンの如くハイソな生活―を手に入れるとかいふ有体に汚れた立身出世。綾子との遣り取りを窺ふに、どうやら真性ビアンと思しき朋子にとつて、そのへべれけなエンパワメントはシスターフッド的にどうなのよといふのが、果たしてこれも昭和ならば通つたのか、少なくとも2023年の感覚では別の意味での、映画の終りを確信するに至る超問題。あまりに酷いそこかしこの木端微塵ぶりに、桃井かおりの兄貴が書いた脚本を、近藤幸彦が相当弄り回した可能性をも疑ひたくなる消極的な問題作。一縷の望み、あるいは命綱が断たれた瞬間が、劇中第一次難破船ならぬ乱パ船の後日、村越が綾子に御馳走するレストラン。カット頭に、ウェイターで。小宮山玉樹が超絶の十八番タイミングで飛び込んで来てさへ呉れたなら、当サイトは脊髄で折り返す“コミタマキタ━━━(゚∀゚)━━━!!”の一撃で、木戸銭の元も取れたものを。

 第二次乱パ船、の導入。何か浮かんでゐるのは点々と灯る窓の灯で看て取れる、ものの。船の形が俄かには判然としない、単なる無作為にさうゐないほぼ闇夜の黒牛は、遂に撮影部までもが力尽きた断末魔。


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 「密着指導 教へてあげる」(2021/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督・脚本:小南敏也/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:今井哲郎/録音:大塚学/助監督:浅木大・貝原クリス亮/スチール:本田あきら/編集:小南敏也/撮影助手:高橋基史/制作応援:別府啓太・阪田翔太郎・渡邊創時/出演:古川いおり・金子雄也・栗林里莉・川瀬陽太・倖田李梨・ケイチャン・剣斗・麻木貴仁)。東ラボのクレジットがないのは、本篇ママ。
 成人映画館の実情を弁へぬ暗さ、ハモニカを吹かれ、女の影が妖しくうねる。一方、ワーワー大わらはで爆走する中年男のカットバック。進学校の数学教師・鈴原のぞみ(古川)が生徒の奏多(剣斗)と情を交す教室に、駆けつけた同僚(麻木)が轟然と怒鳴り込んで来る。口元に黒子のある奏多もろとも、麻木先生(超仮名)から激しく難詰されたのぞみが「何のために今まで頑張つて来たんだつけ?」、人生の目的を―改めて―見失ひ暗転タイトル・イン。それなりの距離を移動してその場に辿り着いた麻木貴仁が、その時そこで事が行はれてゐるのを、察知した経緯については綺麗に等閑視される。あと見える見えないのみならず、聞こえる聞こえないも全篇を通しあちこち弁へてゐない。ピンクの小屋を、普通の映画館と同じ塩梅で考へて貰つちや困る。今際の間際、もとい今更の限りのこの期に及んで、垂れる繰言でもないけどね(๑´ڡ`๑)
 手荷物と花束を携へた主演女優が、真直ぐな田舎道を歩く。抜けるやうな晴天にも恵まれた、美しいロング。盛夏ゆゑ盆なのか、母親の墓参に帰郷したのぞみが背後から迫り来る、軽自動車の道を塞ぐ形で熱中症的に昏倒する。車を運転してゐたのはのぞみにとつて高校時代の恩師で、今は家業の農業を継いでゐる佐々木良彦(川瀬)、同乗者は矢張りのぞみの同級生で、再婚の良彦と結婚した後妻の早苗(栗林)。後述する篤志の実母たる、前妻の去就は生死から一切語られない。墓地まで送つて貰つたのぞみは、佐々木家にも招かれる。淫行事件を機に無論退職、東京の家を引き払ひ、実家も消滅してゐるらしく要は仕事はおろか住所すらない。ある意味珍しい、のぞみが完全根なし草である点に着目した早苗は、良彦の息子で自宅浪人してゐる篤志(金子)の家庭教師を、おまけに住み込みで乞ふ。割と空前絶後の機知奇策が、良彦の大した介入もなく早苗主導でザックザク成立。篤志目線でいふと齢が十も離れてはゐまい、そもそも若き義母と同い歳の魅惑的なホームチューターが、しかも一つ屋根の下に転がり込んで来る。棚から雨霰と菱餅が降り注ぐ盛大なファンタジーを、早苗の強引ではあれ面倒見はいゝ造形の一点突破で固着するには、如何せん二番手が些か役不足。清水大敬とか森羅万象、旧い名前しか出て来ない女優部だと小川真実なり風間今日子辺りの、少々の無理をも力づくで通してのける圧を有した面子を連れて来るのでなければ、映画丸ごと底を抜いて雪崩れ込むくらゐしか流石に厳しいのではなからうか。さういふ、過大な大役を負はされた栗林里莉が、古川いおりが城定秀夫大蔵上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015)と、加藤義一2019年第二作「人妻の吐息 淫らに愛して」(脚本:伊藤つばさ=加藤義一・星野スミレ=鎌田一利)・第三作「濡れ絵筆 家庭教師と息子の嫁」(脚本:深澤浩子)を経てのピンク第四作。といふのは頭にあつたが実は栗林里莉もこれまで、友松直之2014年第一作「強制飼育 OL肉奴隷」(脚本:百地優子/キャスティング協力:久保和明)と、竹洞哲也2015年第四作「色欲絵巻 千年の狂恋」(脚本:当方ボーカル=小松公典/二番手)に、髙原秀和大蔵第二作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/うかみ綾乃と共同脚本/二番手)。なかなかバラエティないし破壊力に富んだ、アシッドなフィルモグラフィの出来上がる四戦目であつた。
 配役残り、倖田李梨とケイチャン(ex.けーすけ)は、何時の間にか死んでゐたのぞみの母・涼子と、壁の向かうで当時高校生ののぞみが耳を塞いでゐるにも関らず、クソ親が平然と連れ込む情夫。最低でも一件から半年は経過したラスト、見事か無事大学に合格した篤志を面接する家庭教師業者で、十八番の罵倒芸は凍結した―が台詞は普通にある―久保和明(a.k.a.久保獅子or久保奮迅or獅子奮迅)がノンクレ出演。その他、麻木先生がダッシュする廊下に一瞬見切れる生徒の人影と、高校時代のぞみを虐めてゐた、早苗を煽る声のみ女生徒なんて判る訳がない。
 要は今時ハイロー系のイケメンアクション版「闇金ウシジマくん」、「クロガラス」シリーズの小南敏也ピンク映画筆下し作、我ながら雑なイントロにもほどがある。小南敏也がR15+戦線向きにも一見思へ、昨今の新作本数自体が壊滅的に激減してゐる暴逆風の中、今後継戦するのか否かは全く以て不明。
 恐らく小遣ひの全額もブッ込み、鬱屈とした性欲を拗らせる浪人生の下に降臨したカテキョの女神が、やがて既視感も覚える高スペックを発揮しつつ、同様に悦楽交差点みも拭へない魔性の本性を現す。ノースリーブの脇から覗く肩紐と、背中を向けると透けるおブラジャー。高いテンションでスパークし続ける、超絶の目元と口元。演出と演技双方、メソッドのダサさ陳腐さ如き些末に一瞥だに呉れず、腹を括つた艶技指導に統べられ家庭教師もの、あるいは古川いおりもの的にはペッキペキに完璧。既に実績のある商業監督ゆゑ至極当然といへば当たり前なのか、量産型裸映画としては初陣にせよ、面白味か可愛気に欠けるほど手堅くまとまつてゐる。早苗が夫婦生活の際、良彦に目隠しを施すプレイを好む。端からある意味顕示的な布石が、のぞみの仕掛ける佐々木家制圧作戦に於いて見事に着弾。尺の僅少ささへさて措くと、崩壊したのぞみの家庭環境に担任の良彦が介入する構図で、三番手を展開に組み込む難事にも成功してゐる。反面、壊れる前と壊れてからしか描けなかつた、実は結構広大に空いた行間。切札を担ふに足る麻木貴仁でなく、最も存在感の薄い、アバンから飛び込んで来る刺客。序盤の超飛躍を充実した中盤で帳消しにしてなほ大いに余りあつた始終が、クライマックスで失速するきらひは否み難い。山場で蹴躓いたまゝ、結局ラストでも挽回出来ず。劇中都合三つ登場するプロミスを整理すると、口約束にしても元々甚だ覚束なく、挙句良彦が再婚した時点で、事実上無効化してゐる第一の約束。逆にのぞみが反故にした、物騒な報ひも受ける二番目の約束。最も新しい約束を、締めの濡れ場で麗しくもしくは堂々と、果たしてみせても罰はあたらなかつたのではなからうか。秤にかけた全体的な物語―の雰囲気―を優先して、裸映画に最後の最後で踏み込みきれなかつた印象を受ける。何れにしても、外の世間に出た途端吃驚するくらゐ画を保てなくなる、芯を感じさせない男優部主役の結構致命的な脆弱性は残されるのだけれど。


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 「夜の研修生 彼女の秘めごと」(2021/制作:鯨屋商店/提供:オーピー映画/監督:小関裕次郎/脚本:深澤浩子・小関裕次郎/撮影監督:創優和/録音:山口勉/助監督:江尻大/音楽:與語一平/編集:鷹野朋子/整音:大塚学/監督助手:高木翔/撮影助手:岡村浩代・赤羽一真/録音助手:西田壮汰/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:望月元気・小園俊彦/出演:美谷朱里・竹内有紀・並木塔子・市川洋・安藤ヒロキオ・竹本泰志・なかみつせいじ・ほたる・折笠慎也・里見瑤子・鎌田一利・郡司博史・和田光沙・須藤未悠・森羅万象)。出演者中、鎌田一利から須藤未悠までは本篇クレジットのみ。
 波止場に何となく佇む主演女優が、三本柱のクレジット起動に続いてママチャリを漕ぎ始める。画面左奥に走り行く、空いた空間にタイトル・イン。上の句に於ける、“夜の研修生”といふのがヒロインを指す訳ではないどころか、女ですらない案外豪快な公開題。
 駒井未帆(美谷)が向かつた先は、幼馴染の両親が営むラーメン屋。大将である鈴木三郎(なかみつ)と―少なくとも娘が禁じてゐる―酒を飲む、父の吉次(森羅)に美帆は角を生やす。こゝでほたる(ex.葉月螢)が、三郎の妻・エツ。この人の新作参加が思ひのほか久し振り、実際の時間経過より随分昔にも何となく思へる、涼川絢音の引退作「再会の浜辺 後悔と寝た女」(2018/脚本・監督:山内大輔)以来。往来から美帆がチャリンコの呼鈴で呼び出す、当の幼馴染・櫂人(市川)が出向いた先が予想外の駒井家戸建。携帯で呼べばよくね?だなどと、潤ひを欠いたツッコミを懐くのは吝かの方向で、つか実家かよ。三人の親達―未帆の母は幼少時に死去―が公認する事実上の婚前交渉的な、濡れ場初戦。モッチモチに悩ましい美谷朱里のオッパイを決して蔑ろにしはしない、小関裕次郎の生え抜きらしい堅実が頼もしい。濡れ場は、頼もしいんだけど。鯖缶工場での働きが認められ社員起用、東京本社での研修が決まつた櫂人を、駅やバス停でなければ、海空問はず港でもなく。美帆が何故か、海辺から送り出す何気に奇異なシークエンス。何てのかな、もう少しナチュラルな映画は撮れないのか。この辺り、小関裕次郎がデビュー三年目にして早くも、それらしきロケーションを用立てる手間暇を端折つて済ます、大師匠筋と看做した場合の語弊の有無は兎も角、今上御大の天衣無縫な無頓着・イズイズムを継承して、しまつてゐる感の漂はなくもない。
 配役残り、一同一絡げに投入される、ビリング順に並木塔子と竹本泰志に折笠慎也、あと鎌田一利から須藤未悠までの本クレのみ隊は、櫂人が一年間厄介になる―予定であつた―本社営業部の野島礼香と営業部長である池井戸雅也に遠藤、とその他頭数。休みの取れた美帆が上京して櫂人の下に遊びに行く、ウッキウキの予定を立てた途端、放埓な不摂生の祟つた吉次が深刻に昏倒。馬鹿デカいウェリントンとナード造形が気持ち井尻鯛みたいな安藤ヒロキオは、駒井家に通ふ往診医の原田良雄。礼香と池井戸の社内不倫を、櫂人が目撃。する件もする件で、一緒に外回りに出る筈の遠藤に、別件の電話が入る。なので一人で先に出る形になつた櫂人が、会議室のドアを開ける意味が判らないのだが、ロッカーでも兼ねてゐるのか。プリミティブなツッコミ処はさて措き、後日据膳に箸をつけず―池井戸との関係を―終らせても忘れさせても呉れなかつた、櫂人に礼香が拗らせる悪意を火種に、池井戸の姦計で櫂人は横領の濡れ衣を着せられ解雇。自由気儘な会社だなといふ顛末のぞんざいさもさて措き、竹内有紀は失意の櫂人に対する文字通り拾ふ神、離婚したての木下笑子。慰謝料代りの、持ち家に櫂人を転がり込ませる。
 OP PICTURES+フェス2022に於いて第六作がフェス先行で上映されてゐるのが、フェス先ならぬフェス限になるまいか軽く心配な、小関裕次郎通算第四作。何せ今や月に封切られるのが一本きりゆゑ、R15+で下手にまとめて先走られると渋滞を強ひられるピンクが追ひ駆けるのにも苦労する、映画の中身とはまた次元の異なつた、現象論レベルでの本末転倒。どうも昨今、我ながら憎まれ口しか叩いてゐない風にも思へるのは気の所為かな。
 都会と海町に離ればなれNo No Baby、遠距離恋愛を描いた一篇。に、してはだな。吉次が担ぎ込まれた病院から、憔悴しきつてとりあへず帰宅した美帆を、東京にゐる筈の櫂人が待つてゐたりしてのあり得ない甘い一夜。を、美帆の―この時点で櫂人は吉次のプチ危篤を知らない―淫夢なのか有難く膨らませたイマジンなのか、満足にも何も、一切回収しない大概な荒業にはグルッと一周して畏れ入つた。尺の大半を無挙動回想が何時の間にか占めてゐたりする、関根和美に劣るとも勝らない驚天動地、凄まじい映画撮りやがる。特に面白くも楽しくもないものの、絡み込みで丁寧な作りではあつたのが、箆棒な初手で足ごと吹き飛ぶ勢ひで躓き始めるや逆向きに猛加速、逆噴射ともいふ。背景に東京タワーを背負つた、櫂人が礼香に所謂“女に恥”をかゝせる一幕。最初は雪でも降つてゐるのかと目を疑つた、余光の浮き倒す節穴にも明らかな低画質も果たして激しく如何なものか。恐らく、他のパートとは異なる―簡易な―機材で撮つてゐたのではなからうか。そし、て。限りなく三番手にしか映らない、二番手の第一声。流れ的には当然社宅も追ひ出され、仕事どころか住む家すら失ひ、橋の上にて見るから危なかしい佇まひで黄昏る、櫂人にかけた言葉が「こゝぢや死ねないよ」。幾らある程度より踏み込んだ判り易さが、プログラム・ピクチャーにとつて一つの肝にせよ。深澤浩子と小関裕次郎、何れの仕業か知らないが令和の世に、斯くも使ひ古された台詞書いてみせて恥づかしくはないのか。等々、云々かんぬん。これだけ言ひ募つて、まだ止(とど)めに触れてゐないのが今作の恐ろしさ、とうに致命傷は負つてゐるといふのに。亡骸の四肢をバラバラに損壊する驚愕の超展開が、選りにも選つて一時間も跨いだ土壇場通り越して瀬戸際でオッ始まつた、締めの濡れ場。を介錯するのが市川洋ではなく、よもやまさかのEJDライクな安藤ヒロキオ。さうなると確かにその時々は藪蛇としか思へなかつた、闇雲な原田フィーチャが力づくで回収されてはゐるともいへ、「櫂人ぢやないんだ!?」と突発的に発生したスクランブルなスリリングに、もしやKSUは2021年当時フィルモグラフィの、半数でパイロットをブッ放すつもりかと本気で狼狽した。十年くらゐ前、実は既に貰つてゐた指輪を櫂人に返した美帆が、勝手に吹つ切れて新たな人生を歩き始めるラストは木に首途を接いだ印象を否めず、ついでで美帆が小学四年の時に亡くなつた、亡母・トキコの遺影役とされる里見瑤子がピンクには影も形も出て来ない。大分長いタス版が如何なる帰結を辿つてゐるのか、知らない以前に興味もないが、七十分を費やしてなほ話を満足に形成さしめ損なふやうな心許ない体たらくでは、小関裕次郎の量産型裸映画作家としての資質も、俄かか本格的に疑はざるを得ない消極的な問題作。竹洞哲也に似たコケ方を小関裕次郎がしてゐるやうだと、とんと名前さへ見聞きしない小山悟が発見されるか森山茂雄―が真の切札、最強の―が蘇りでもしない限り、本隊を守る今世紀デビューのサラブレッドが、加藤義一唯一人となつてしまふ流石に怪しいか厳しい雲行き。と、いふか。えゝと、お・・・・小川隆史とか、な・・・・中川大資(;´Д`)


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 「ひと夏の出来ごころ」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:加藤文彦/脚本:木村智美/プロデューサー:林功⦅日本トップアート⦆/企画:山田耕大/撮影:杉本一海/照明:高柳清一/録音:中野俊夫/美術:中澤克巳/編集:奥原好幸/音楽:前澤晃/助監督:金沢克次/色彩計測:佐藤徹/現像:東洋現像所/製作担当:三浦増博/出演:岡本かおり・高橋麻子・隈本吉成・小沢仁志・玉井謙介・藤岡実・桐川マリ・高木均・渡辺とく子)。
 女子大―設定では寮らしい―の表に溢れ返るノンクレ女優部と、初老の男と女盛りの女。男が停めた高級車の中には、参考書に目を落とす少女がもう一人。男はミキの父親・江崎(高木)で、女はミキの実母(遺影も見切れず)が死んで一年、江崎が再婚した二十年来の二号・今日子(渡辺)。少女は今日子の連れ子といふのが、江崎が生ませたミキにとつては腹違ひの妹となるケイ子(高橋)。当のミキ(岡本)は妾を本妻にした親爺の傲慢さに匙を投げ、夏休みを多分別荘で過ごす家族計画を華麗にバックれる。そんなこんなでミキが二人旅に出ようとランデブーする彼氏といふのが、作業中のマンホールから上半身覗かせる小沢仁志!小沢の姿を認め、岡本かおりが手を振る止め画にタイトル・イン。改めて後述するが前年からテレビドラマには出てゐた、小沢仁志にとつて今作が銀幕初陣。薄汚れつつ精悍な、男臭くも洒落たファースト・カットには勃起した。それとも演技指導の賜物か、小沢が案外卒なく濡れ場もこなすミキと武内浩二(小沢)の、浩二の部屋での婚前ならぬ旅前交渉。事後浩二の実家から、父親が卒倒した急の報せが入る。仕方なく浩二は前々から準備してゐた二人の旅行を一旦延期、単車で田舎に帰る。浩二からの連絡を待ちくたびれたミキも、海に近い江崎邸に、は入らずに何か小屋の中で寝てゐると早朝、怪しい隈本吉成がスコップを取りに来る。砂浜に何か蒔いたのち、隈吉があらうことか自分ちの屋敷に入つて行く。すは泥棒かとミキは騒ぎたてるが、男は江崎の客人で予備校教師の長谷川(隈本)だつた。のちミキに対し、長谷川が自己紹介気味に韜晦して曰く、“インポの親爺のチンポの身代り”。凄まじく実も蓋もない、語感はいゝけれど。
 配役残り、浩二の父親がそのまゝ一直線に逝つた、通夜の弔問客二人と、江崎家一同がテラスにて果物を摘む背景で、芝刈り機を回す使用人、ノンクレ女優部がもう三名投入される。玉井謙介は、海町のエロ本屋。エロ本ばかり売つてゐる店ではなくして、店主当人がエロい本屋。桐川マリは飲み屋の女で藤岡実が、キリマリを後ろから突いてゐる最中にガチ昇天した浩二父。
 加藤文彦監督第三作は、零距離戦闘術は温存したTAK∴(ex.坂口拓)と三元雅芸がカッティングエッジな速さで激突する、還暦記念作品「BAD CITY」(2022/OZAWA名義で製作総指揮・脚本/監督:園村健介)が大絶賛公開中の、小沢仁志銀幕デビュー作。流石にポスター・本クレとも、小沢に新人特記は施されない。初の商業実写映画「ラブ&ポップ」(1998)に際し、庵野秀明が自身の監督クレジットに(新人)をつけ、場内の笑ひを誘つてゐたのを不意に思ひだすシナプスのフリーダム。
 オールドスクールな家父長たる江崎と、反発を隠さうともせず、自由気儘を拗らせるミキ。今日子は次第にを通り越した勢ひで長谷川に入れ揚げ、江崎は江崎で尊大に見せ不能は深刻な負ひ目であるらしく、開き直られてしまふと成す術失ふ複雑な三角関係。双方の父親に起因しミキと浩二は度々擦れ違ひ、かと思ふと藪から棒に、ミキから長谷川に膳を据ゑてみたりもする大雑把か大概な飛躍。そして、誰がどのやうな形で介錯するのか、どれだけ素頓狂であらうと姉妹百合を咲き誇らせるのが、寧ろ最もハードルが低いのかとさへ思はせた二番手。ついでで浩二のアパートに一人、ミキが浩二の電話を待つ夜。「死んだらまた電話します」は面白い、間違ひ電話をかけて来た死にたガール君(声の主知るか)は清々しく木に竹を接ぐ。「信ずる者は死んでも生きる」なる、拝一刀の死生観のやうなキリストの啓示も。諸々モチーフはバラ撒きながら、何ひとつ満足に実を結ぶでなく。そもそも結実させようとする意思から窺ひ難い、掴み処を欠いた一作。三十の誕生日に死ぬとか嘯く、狙つた造形なのか単なる限界なのか微妙な、長谷川の薄ぺらいニヒリズムと底の浅いペダンチズムは、何れか片方で既に十二分な致命傷。序盤中盤は手堅く丁寧に攻めてゐたのが、終盤に及ぶにつれいゝ加減になる絡みは大いに考へもの。一流の女になりたくば男を知れだなどと、姉からへべれけなマウントを取られたケイ子が、寝取るに事欠いて浩二に白羽の矢を立てるのには結構呆然とした。結局豪快にドロップアウトした、ケイ子の行く末や果たして如何に。正真正銘どさくさに紛れ、江崎が男性機能を回復する狂寄りの驚展開は映画の底を易々と抜き、今日子と長谷川を追ふ、江崎からカメラが大きくパンすると何故か何時の間にかミキが全裸になつてゐて海に入るラストは、乱心の末入水してゐるやうにも半分以上映る。さうは、いへ。何はなくとも、何はともあれ。発声には未だ心許なさも些か残すものの、若さを弾けさせる小沢がカッコよくてカッコよくて仕方ない。個人的には三十代に突入する時点でもう無理だと断念したが、武内浩二に憧れてまたジージャン着てみようかなといふくらゐカッコいゝ、絶対やめとけよ。件のイージュースーサイドを、長谷川が悪びれもせず冗談だよの一言で片づけるや否や、怒髪冠を衝いた浩二が猛然と突進するロングは一撃必殺。爾来今なほ小沢仁志が撃ち抜き続ける、骨太のエモーションは既に完成してゐる。尤も、そんな浩二が目下四浪、東大受験を方便にモラトリアムを過ごしてゐるといふのは、流石に俺達の小沢の柄ぢやない。


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 「愛人妻 あぶない情事」(昭和63/製作・配給:株式会社にっかつ/脚本・監督:片岡修二/プロデューサー:半沢浩・進藤貴美男/企画:塩浦茂/撮影:志村敏雄/照明:斉藤正明/録音:酒匂芳郎/編集:冨田功/助監督:橋口卓明/色彩計測:片山浩/選曲:林大輔/現像:東映化学/製作協力:フィルム・シティ、獅子プロダクション/衣裳協力:ジャスメール/出演:浅間るい・堀河麻里・瀧口裕美・池島ゆたか・清水大敬・外波山文明・長坂しほり・下元史朗)。出演者中、清水大敬がポスターではa.k.a.の石部金吉になつてゐて、長坂しほりには特別出演の括弧特記。
 艶めかしく御々足をストッキングに通す瀧口裕美(ex.藤崎美都/a.k.a.滝口裕美)の、傍らに浅間るいと堀河麻里、のみならず。カメラが更に引くと、ノンクレ女優部が周囲にもう二人ゐたりしてタイトル・イン。必ずしもビリングに囚はれない旨、何気に表明する率直なアバンではある。
 ズンドコ十人弱でエアロビクス、常々拗らせてゐるが当サイトは、80年代を憎悪する、何となればダサいから。とまれエアロビがてら、三本柱のイントロダクション。都会の女を気取る倫子(浅間)は地下への下り口で派手にスッ転び、バニーガールのサエコ(堀河)は給仕する際豪快に粗相。そして自動車整備士のケイ(瀧口)が、四苦八苦弄つてゐた車をボガーン★と黒煙吹かせる。改めて後述するとして、実質先頭を走るトリオ編成ヒロインの一角が自動車整備士とか、何て画期的な映画なんだ。よもやまさかのドリフ爆破に藪から棒も厭はずオトすためだけの、破天荒な造形に震へる。よしんば偶さかであれ何かものの弾みであれ、片岡修二には天賦の才が降つて来る瞬間がある模様。は、さて措き。パッとしない日々にありがちなフラストレーションを燻らせる三人は、スワップ誌に想を得たケイの音頭で、各々の愛人を募集するオーディションを開催する運びに。
 配役残り、三人同時のフレーム・イン、控室的な廊下に居並ぶ池島ゆたかと下元史朗に清水大敬が、栄えある審査合格者。順にサエコの愛人となる、一介の公務員だてらに株で儲けた小金持ちの園山高志―フルネームで名乗る―と三河屋を経営する佐伯に、のち表札が抜かれる青年実業家の野沢俊介。佐伯の履歴書が刹那的に映り込みつつ、画数的に下の名前が恭司ではないぽい。野沢は倫子の愛人、被つたケイが佐伯に身を引く。外波山文明はケイから―毛皮のコートに続き―ダイヤの指輪を強請られ音を上げた佐伯が、半ば泣きつくやうにケイを紹介する宝石店店主の沼田。この人の沼田役に大いなる既視感を覚え、別館を漁つてみたところ昭和61年第二作「SM・倫子のおもらし」(主演:下元史朗・早乙女宏美)のほか、驚く勿れ片岡修二の代表作的シリーズ「地下鉄連続レイプ」の、無印第一作(昭和60/主演:藤村真美)・第二作「OL狩り」(昭和61/主演:北条沙耶)・第三作「制服狩り」(昭和62/主演:速水舞)、驚愕のシリーズ三作連続含む、確定もしくは判明分に限つても四本出て来た。一応お断りしておくと、続く最終第四作「愛人狩り」(昭和63/主演:岸加奈子)にも外波山文明は皆勤してゐるものの、単に役名が判らないだけである。当然、更に相当数の外波文沼田作が存在するのにさうゐない。と、いふ以前に。そもそもそれならば下元史朗の野沢俊介や、池島ゆたかの園山高志はなほ底の抜けた数字になるぞといふ話でしかない。あゝ量産型娯楽映画ならではの、清々しさよ。閑話、休題。枝葉なのか本筋なのかは議論の分れさうな、極大問題の当事者となる長坂しほりは、野沢の本妻・亜紀子。その他エアロビあるいはズンドコ隊と、三人の概要に見切れるイントロ部。選抜応募者ならび劇中それぞれが使ふ飲食店要員に、野沢と亜紀子の息子・俊輔役の正真正銘男児、総勢二十人前後がそこかしこに投入される。その中で、若干の台詞も与へられる福々しい禿の愛人選考落選者が、軽く喉を絞つた外波山文明のアテレコ。それは果たして、与へられてゐるといへるのか。
 買取系かと勝手に思ひ込んでゐたら、フィル街なり獅子プロが製作協力に置かれてゐる点を窺ふに、どうやら本隊ロマポであるらしき片岡修二昭和63年第二作。もしも仮に万が一、現にさうであつた場合片岡修二にとつて、最初で最後の本隊作となる。に、しては。長坂しほりを除き、面子的には矢張り買取風味かも。
 三人の女が三人の男を捕まへて、住めばいゝのに要はヤリ部屋に億ションを買ふ、藪蛇なラブアフェア。ただ、その底の抜けたお気楽さも、昭和の豊かさに拠るがゆゑに成立し得た、この期に及んでは枕を濡らすレガシーであるのやも知れない。古本屋の棚の守り神、もというつむきかげん―桃井かおり著、今でも守つてゐるのかなあ―な繰言は兎も角、倫子とケイの当初希望が、野沢で正面衝突。倫子の提案による、逆に二人の何れかを野沢に選ばせる解決策に対し、脊髄で折り返して倫子に野沢を譲つたケイ曰く、「男に主導権握らせたら意味ないもん」。最初からリーダー的に倫子とサエコを引つ張る能動性に加へ、ケイの瞳には、明確な女性主体の思想が輝いてゐる。全盛期の下元史朗をも擁する、男優部込みでも実は瀧口裕美の眼差しが最も強い。亜紀子の存在に尻尾を巻いて来た倫子に、ケイは野沢に文字通りの二者択一させるやう促した上で、「あんたアタシにはさういつたんですからね」。亜紀子も倫子もものともせず、野沢を奪ふ腹をケイが決め詰め寄る際には、「アタシは気にしません」、「奥さんがゐても、愛人がゐても」。大して通つてもゐない癖に何だが、片岡修二史上屈指とすら思へる名台詞・オブ・名台詞を、三番手の位置から瀧口裕美が撃ち抜くカットが、裸を忘れた裸の劇映画として一撃必殺のハイライト。思ひ起こすに、堀内靖博第四作にして最高傑作「桃尻ハードラブ 絶頂志願」(昭和62/主演:脚本:内藤忠司)に於いても、藤崎美都は二人ぼつちのマジカル・ラバーズ・コンサートの大役を担つてゐる。口跡の激しく覚束ない浅間るいと、タッパから恵まれたスタイルはガチのマジで超絶な堀河麻里。二人と比べて「ロマン子クラブ」会員NO 7の出自を誇りこそすれ、瀧口裕美が藤崎美都時代にいふほど場数を踏んでゐる訳でもない割に、明らかな格の違ひを見せつける。にも、関らず。それまで積み重ねて来た、展開もエモーションも何もかも全部御破算に爆砕。結局亜紀子とは別れた野沢と倫子が目出度くか木に竹を接いで結婚するに至る、月光蝶システムで消滅した卓袱台が、屁となつて雲散霧消するラストには尻子玉を抜かれるかと仰天した。ぞんざいな着地点に硬着陸はおろか墜落するといふよりも寧ろ、飛行機が空中分解した趣き。園山が意外と―セックロスに―弱い以外、さしたるドラマも設けられない、二番手の等閑視ぶりも酷い。そんな、既に大概な何やかやに劣るとも勝らず凄まじいのが、撮影時堀河麻里は何処で遊んでゐたのか、ボディスーツで魅惑的に佇む、左から瀧口裕美・浅間るい・長坂しほりの三人でポスターを飾つておきながら、おきながらー!長坂しほりの出番はといふと、門を挟んで往来の野沢を斬つて捨てた亜紀子が返す刀で、倫子も配偶者の高みから葬る短い一幕・アンド・アウェイ。しかもその件さへ、夜分に野沢家の表まで来てみはした倫子が、突入する意気地はなく踵を返しかけた、ところ。そこに偶々野沢が愛車のBMWで帰宅した挙句、わざわざ俊輔くんを抱き抱へた亜紀子まで何故かその場に顔を出す、壮絶に無造作かプリミティブなシークエンス。頼むよ、プロの撮る商業映画だろ。何れにせよ、下着姿でパブに堂々と載つた女優部が、蓋を開けると靴下一枚脱ぎはしないだなどとといふのは、量産型裸映画的には言語道断の羊頭狗肉。ティザーに登場するカッコいゝガンダムが、実際の本篇で開発もされてゐなかつたら、多分みんなキレるよね。濡れ場自体は隙を感じさせないメイン女優部と、馬鹿にならぬ瀧口裕美の決定力。少なくとも良作たり得た芽の幾らでもあつた物語を、破滅的な作劇で木端微塵にブチ壊した末に、犯罪的な長坂しほりの起用法で止めを刺す地味にキナ臭い一作。長坂しほりは別にも何も、全然悪くないんだけど。

 表層的に一点軽く途方に暮れたのが、ソフト化その他に際しての後処理には見えない、しかもチラチラ動くモザイク。正直2022年目線で触れる分には、最早背面騎乗で跨つてゐるのか、ハモニカを吹かれてゐるのか俄かには判然としない。結構壮絶な有様なのだが、当時は今や失はれたコンテクストが未だ生きてゐて、これで案外、何をどうしてゐるのか読み取れたのであらうか。


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