真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「雪子さんの足音」(2019/製作:株式会社旦々舎/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/企画:鈴木佐知子/原作:木村紅美『雪子さんの足音』《講談社刊》/音楽:吉岡しげ美/撮影:小山田勝治/照明:守利賢一/美術:山崎輝/録音:藤林繁/編集:金子尚樹/助監督:湯本信一/ヘアメイク:清水惇子/衣裳:青木茂/制作:森満康巳/CG:川村翔太/HP作成:笠谷亜貴子/撮影助手:宮原かおり/照明助手:蟻正恭子・小倉一・斎藤愛斗/ポスターデザイン:利根川初美/ポスター写真:岡田崇/タイトル題字:岩科蓮花/映像協力:フィルム・クラフト/撮影協力:株式会社アシスト・株式会社 Po-Light、他/協力:静岡市、フィルム・クラフト、他多数/Special Thanks:鈴木静夫、他多数/助成:文化庁・文化庁文化芸術新興費補助金《映画創造活動支援事業》・独立行政法人日本芸術文化振興会/出演:吉行和子・菜葉菜・寛一郎・大方斐紗子・野村万蔵・宝井誠明・佐藤浩市《友情出演》・山崎ハコ・石崎なつみ・結城貴史・贈人・木口健太・村上由規乃・辛島菜摘、他多数)。一般映画ばりの情報量に悶絶する、だから一般映画だろ。
 黄昏時といふと日没間際にしては強い陽光の差し込む、吉行和子が穏やかに眠る一室に寛一郎が現れる。真綿で首を絞めるやうな挨拶を交し、暗転タイトル・イン。立ち止まらず、一旦先に進む。
 出張先の地方都市、同僚の市岡誠(室井)とホテルの朝食を摂らうかと新聞を広げた公務員の湯佐薫(寛一郎)は、九十歳のアパート大家・川島雪子(吉行)が、死後一週間経つて発見される孤独死を遂げた記事に絶句する。当地は湯佐が二十年前の大学時代を過ごした場所で、雪子のアパート「月光荘」二〇三号室に、湯佐は大学三年の暮れまで住んでゐた。心が騒ぐ湯佐は予定を変更、市岡とはその場で別れ、月光荘を訪ねてみることにする。
 配役残り野村万蔵と山崎ハコは、雪子のドロップアウトした息子・良雄と、湯佐の母・節子。公称で六十三だからある意味普通といへば普通とはいへ、山崎ハコお婆ちやんになつたなあ。九つ上の、浜野佐知より全然老けて見える。菜葉菜は、劇中当時時制には二人しか出て来ない、月光荘二〇一号室の住人・小野田香織。高校卒業後、岩手の山奥から出て来たテレフォン・オペレーター。今作最大の飛び道具を担ふ佐藤浩市は、良雄の夭逝後月光荘を急襲する、数百万の債権を良雄に持つとする反社の人。直截にいふと倅の映画に首を突つ込んだ、完全映画オリジナル役。“最大多数の最大幸福”だなんてウルットラ久し振りに聞く文言を、恐喝の方便に振り回すのもチャーミング。古い世代の、インテリではあるみたい。大方斐紗子は月子の友人で、喫茶店「レザン」―静岡市葵区常磐町―の店主・高梨秋江。因みに月光荘は同じく駿河区池田の、ex.エンバーソン邸。贈人は小野田が激しく憎悪する、アル中の父。木口健太と村上由規乃は、湯佐の同級生・拓二と理江、大学のロケ先は常葉大学。湯佐が内心秘かに関心を寄せる理江が、拓二とくつゝく昨今でいふBSS。原作では、理江と拓二は最終的に結婚する。それと木口健太は、みんな大好きナオヒーローこと平川直大に、気持ち雰囲気が似てゐなくもない。辛島菜摘はアメイジングに美人の郵便局員、後方に副局長か何かで国沢実が見切れてゐるといふのは、為に吹く与太である。石崎なつみはバーで終電を失くし、湯佐の部屋に転がり込む看護学生・智子。異性にフニャフニャへつらふ、常々打倒を公言する男JAPANを平然と利用するか寄生するパーソナリティーを、浜野佐知が如何に評価してゐるのかは興味深い。少なくとも、造形上は決して露悪的に描かれてはゐない。結城貴史は、遂に湯佐が辿り着いた現在の月光荘にギリギリ残る、引越間際の店子。その他そこかしこの見切れ要員と電車の車中湯佐が検索する、ツイートの朗読部隊で結構な頭数がクレジットされる。その割に、齋木亨子(a.k.a.佐々木基子)や中満誠治(a.k.a.なかみつせいじ)の名前も見当たらないのは少なからず寂しい。閑話休題、何処まで本気なのか、レザンで湯佐が小説の新人賞に応募する旨を騙るもとい語るや、雪子と小野田は俄かにどうかした勢ひで喰ひつく。それまでの食事の提供に加へ、若い芸術家のパトロン―野暮をいふと“patron”は大元はラテン語の“pater”に由来する男性名詞―になりたいと、遂に雪子は現金をも寄こし湯佐を困惑させる。
 浜野佐知が十代の大半―生地は徳島―を過ごし、御馴染経堂の旧邸を引き払つたのち旦々舎も目下構へる、静岡市でオールロケを張つた一般映画第五・五作。死んだ子の齢を数へるやうな繰言ではあれ、佐藤選人がやらかしてゐなければ、静活も何某か加はつてゐたのかも知れない。整数でない奇怪なナンバリングについては、長くなるゆゑ後述する。原作の外堀を埋めておくと、第158回芥川賞と第40回野間文芸新人賞の候補作、初出は『群像』誌の2017年九月号。文壇デビュー十余年の木村紅美にとつて、今回が初の映像化に当たる。全国随時上映の九州上陸に際しては、同日に金沢の同系列シネコンと二箇所で火蓋を切る、何気な離れ業も敢行。シネコンで旦々舎の映画が観られる日が来るなんて、千載一遇のミラクルチャンスには震へた。
 浮世離れた女二人の過剰な厚意なり好意に、二言目には「ぢやあ」が口癖の、主体性の頗る稀薄な青年が翻弄される。吉行和子と菜葉菜に挟撃された寛一郎が、ションボリした表情を浮かべるポスタービジュアルは見事にコンセプチュアルである、ものの。のつけから筆禍をハイマットフルバーストすると、施しを甘受しつつ疎ましがる打算的な湯佐が、かといつて何を成すでもない。自堕落かモラトリアムな物語は文章自体の滋味も特にも別にも見当たらず、単行本に目を通した時点で読み応へにさへ欠き、面白くも何ともなかつた。その意味では、動きと展開に乏しく、それ相応の尺も費やして画と音をつけるには相当の苦心も容易に予想される、小説の映画化として忠実ではある、成功したとはいつてゐない。全くのゼロから創出した子煩悩のベンサム氏(仮名)に加へ、映画版独自の趣向は秋江の藪蛇気味な戦争体験披露と、湯佐と小野田二人きりの夜を演出する雪子の京都旅行の、レザン偽装工作。餌を与へられる愛玩魚に、湯佐が自身を重ね合はせる雪子の部屋の大ぶりな金魚は、クラゲウーパールーパーだと、特異な水棲動物好きの山﨑邦紀が趣味性と象徴を両立させた妙手として、贈人が娘を強姦してゐたとするのは、流石に些か勇み足か。ついでに湯佐が二作手を着けはする小説のタイトルが、『さらば青春の四重人格』と、『日曜の夜と月曜の朝』。ここは寧ろ、苔生して駄目ぽいセンスが地味に素晴らしい。『さらば青春の四重人格』はいはゆる奇書のフィールドに実在しさうな頓珍漢ぶりが絶妙で、『日曜の夜と月曜の朝』に至つてはどれだけ果てしなく詰まらないのか、グルグル二三周した興味が湧く。最大の問題なのがナノ帰省した横川と、小倉で二度観ても矢張りさつぱり判らなかつた、小野田の捨て身の据膳を爆砕した湯佐が真に望んでゐたのが、驚く勿れ何と雪子であるとする画期的な新も通り過ぎた珍機軸。また途轍もない竹を接いで来たなといふ以前に、村上由規乃から吉行和子まで包括するストライクゾーンの広さを誇るならば、菜葉菜も当然スタンドに放り込み得よう。截然と筆の滑りをマッハで加速してのけるに、旦々舎の行き過ぎた吉行和子愛が、映画を曇らせたものと映る。
 それどころですらない致命傷が、フィルムとデジタルカメラを比較した場合の、ラティチュードの絶望的な差をむざむざ被弾するどうかした負け戦。開巻即、白々と飛ぶ画面に目を疑つたが、よもやまさか、空想ないし異界の中で湯佐に官能的に看取られた、雪子が月光荘の二階への階段を上がる。即ち雪子の死を美しく描いた―つもりの―ラスト・ショットが、吉行和子が盛大な白トビに向かつて歩を進める壮絶には正直頭を抱へた。幾ら何でも、歴戦の小山田勝治とガッツのコンビを擁してゐる以上、素人目でしかないがもう少しでなく何とでもなつたらうに。まるで津々浦々の偉人をその時々で尊敬する星野勘太郎のマイク・パフォーマンスの如く、店子に合はせて変るフレキシブルな来し方含め、時に可愛らしく時に魅惑的に、それでゐて老いてなほ、旺盛に欲し望む。実写化には確かに成功した雪子の姿を通して、吉行和子を愛でる分には申し分ないにせよ、本気で世界と一戦交へる気の浜野佐知ならではの、苛烈さにも力強さにもほど遠い。調理製菓専門学校「鈴木学園」の協力も仰ぎ、あれこれ手の込んだ本格的に美味しさうな料理の数々が、雪子がサロンと称し小野田や湯佐を招く自室に並ぶ。その癖、二本の間に中指が入らない、箸の持ち方が微妙におかしな湯佐の野郎はといふと、男子大学生の分際で案外はおろか殆ど手をつけやがらない。超重量級の作品群でその名を轟かせる旦々舎が、ピンクの戦線を二年の長きに亘つて離れ放つた乾坤一擲にしては、全く以て物足らない。湯佐がどうして飛びつかずに済ますのか到底理解に難い、ブルータルに巨大なローストビーフの塊よろしく、暴力的にエモーショナルな映画で叩きのめして欲しいところである。

 改めて、“一般映画第五・五作”について。横川で耳を疑つたのが、上映後の舞台挨拶に於いて「雪子さんの足音」を一般映画第五作とする浜野佐知の発言。あれゝのれ?「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011)が第四作で、その次に何かあつたよな。否、あれがある。前世紀末、邦画女性監督の最多長篇劇映画監督本数を、田中絹代の六本とする公式の場での発言に浜野佐知が激怒、一般のフィールドにカチ込んだ経緯は、この期に及んでは博く知れ渡つてもゐよう。その、上で。里帰りを果たしたデジエク第四弾「僕のオッパイが発情した理由」(2014/脚本:山﨑邦紀/主演:愛田奈々)に再編集と追撮を施し、ピンクでも脱いでゐない里見瑤子が大輪の百合を咲かせる一般映画化。となると、要はOPP+のメソッドを完全に先取りしてもゐた「BODY TROUBLE ボディ・トラブル」に関しては、エクセス資本も入つてゐる点―と下衆く勘繰るに色濃いヤマザキ色―に、浜野佐知御当人は幾許かの引つかゝりも覚えてゐる模様。田中絹代が全て自己調達資金で撮つてゐた訳でもあるまいし、そこに拘る必要が傍から見る分には甚だ疑問であるのと、そもそもこの期には正確な実数なんて神さへ忘れてしまつてゐるにさうゐない、数百本のピンク映画で堂々と正面戦を繰り広げて罰は当たらないのではなからうか。
 最後にもうひとつ、小野田の造形は、原作にあつては大柄で美少女ならぬ美の少ない女として描写される。当サイトが脊髄で折り返して連想したキャスティングは、旦々舎で一時代を築いたオッパイともに大女優・風間今日子なのだが、浜野監督御自身のイメージによると、南海キャンディーズの山崎静代らしい、なるほど画になる。
 備忘録< ビリング順に菜葉菜・寛一郎・山崎ハコ・石崎なつみ・結城貴史・贈人・木口健太・村上由規乃は同じ芸能事務所   「T-artist」所属>山崎ハコは業務提携


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 「痴漢地下鉄」(昭和50/製作・配給:新東宝興業/脚本・監督:山本晋也/撮影:伊東英夫/照明:出雲清二/音楽:森あきら/編集:中島照雄/出演:堺勝朗・久保新二・峰瀬里加・深美じゅん・青山涼子・花房理加・青山ユミ・北沢万里子・茜ゆう子・松浦康・土羅吉良・田島豊)。
 わらわら行き交ふ早送りの地下鉄駅構内に三十秒近く回し、電車から降りるなり、ズッこけた三井(久保)が会社に行きたくなくて途方に暮れる。時代に許された大らかさで、煙草を咥へ地上に出た三井は、「会社なんか行きたくねえなあ」と帰りたガールを爆裂。万感の共感を以て、早速琴線を鷲掴みにしてのける。「何で会社なんかあるのかなあ」から、挙句の果てには「何でみんな歩いてるのかなあ」とか、久保チン一流のリズム感で愚痴り倒す三井は、山本晋也同年七作前「痴漢電車」のポスターに目を留め、朝から開いてゐるのか新宿国際劇場(2012年閉館)の敷居を顔を隠して跨ぐ。と路線図に劇伴起動、地下鉄が滑り込んで来る画にタイトル・イン。山本晋也以外のスタッフは伊東英夫と出雲清二しかクレジットしない、ビデオ仕様の暴虐に号泣する。製作・配給の新東宝興業に音楽と編集は、jmdbから拾つて来た。俳優部についても、実際これで全部なのかは当然知る由もなく、それ以前に改めて後述するが頭数も合はない。土台山本晋也自体、脚本は変名の山田勉かも知れないないないづくし。
 兎も角大惨事を通過、三井が小屋から出て来たかと思ふと、吃驚することにおんもはもう完全に夜。この男、ホントに会社行つてないのか。初めて観たピンクに「こんなに面白いとは思はなかつたなあ」と感嘆した三井は、会社を辞め痴漢をやらうと決める、何て豪快な映画なんだ。てな塩梅で地下鉄車内、漸く女(不明)を見つけ―撮影は多分セットの―電車痴漢の火蓋を切つた三井は、期せずして挟撃する形で真鍋(堺)と出会ふ。久保チンが女にコンタクトするフレームに、堺勝朗が右方から入つて来るカットが地味に絶品。そのカットが、流石に実車輌では撮れないものと映る。ここが最大の謎ないし超飛躍なのだが、最初は背広を着てゐたのに何時の間にか普段着の真鍋と、三井は泥酔してすつかり意気投合する。
 辿り着ける限りの配役残り、“塾長”愛染恭子の前名義である青山涼子は、コンビを組んだ格好の真鍋と三井が最初に覗きをキメる青姦女、若くてもバーケー。博く今作が塾長の映画デビュー作とされてゐるらしきものの、どうにも引つかゝるのがjmdbに記載されてゐる、四ヶ月遡る若松孝二。茜ゆう子は三井の妻・アキコ、ちなみに三井は婿養子。松浦康は、白アリ駆除に扮した真鍋と三井が、昼間から致してゐる最中に飛び込む渡世人。新宿公園の和服女は、恐らく峰瀬里加。その他登場順に痴漢要員のノーブラ・三河屋を家に上げる主婦・渡世人の情婦・ラストのパーマ女が主に不明。不脱はこの際無視するとしても女優部の名前が一人足らない一方、土羅吉良―ドラキュラを捩つたのか―と田島豊は、塾長のお相手氏と三河屋でひとまづ数は合ふ。
 時にはクラシカルなピンクでも見るかと、山本晋也昭和50年第十五作。既に聞いて驚く第十五作、どころでなく、更にその先を行く全十八作。それだけ撮つてゐれば、撮らなくなるのも仕方がないのかしらん。アキコの逆鱗に触れ家を追ひ出された三井は、ホームレスである真鍋に痴漢の弟子入りする。物語といふほどの物語もないにせよ、堺勝朗と久保チンの息の合つた至芸で女の裸にうつゝを抜かすよりも、寧ろ面白可笑しく見させるフリーダムな一作。凄く自由なのが対ノーブラの一幕に際しては、堂々と使用する“Choo,choo train”の歌ひ出しで御馴染の―ヤング置いてけぼり―ニール・セダカ「恋の片道切符」実曲。これ、そのまゝソフト化してゐるのだとしたら大丈夫か?
 覗いてゐる内に催しマスマスのりだした久保チンを、堺勝朗が手伝つてあげてゐると目を丸くした塾長とお相手氏が逆に覗く、最早神々しいほどの名シークエンス。自宅に招いた―当然アキコ激怒―真鍋が襖一枚の隣で高鼾をかいてゐるにも関らず、“真鍋くんやるから見てネ”とメモも提示し、三井は夫婦生活をオッ始める。当然誘はれる真鍋と、三井が交替する片務的スワップなる何気な離れ業をも、絶妙な間で綺麗に切り抜ける。そして異常に画になる、堺勝朗と久保チンの公園生活風景。女の裸にうつゝを抜かすよりも寧ろといつたが、正直人数の割に得点力には欠く女優部を見るに、端から真鍋と三井のチン道中に焦点を絞つた可能性も想像に難くない。それともう一点、そもそも―痴漢電車の―黎明期にそこまでの意識なり志向が存在したのか否かも甚だ疑問ながら、地下鉄は痴漢のワン・ノブ・シチュエーションにあくまで止(とど)まり、三井と真鍋がミーツする器と、エンド・マークの代りに“GOOD LUCK!”を叩き込む体裁を整へる以外には、展開に一切の影響を与へない。少なくともこの辺りに関しては、昔日を後年が完全に超えてゐる。


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 「人妻濡れた花唇」(1990/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:松尾研一/照明:内田清/助監督:石崎雅幸/撮影助手:小渕好久・中川克也/照明助手:佐野洋/編集:金子編集室/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/音楽:OK企画/出演:小川真実・風間ひとみ・果林・白戸好美・原田千春・工藤正人・久須美欽一)。相変らず何故かjmdbには池袋高介とある脚本の水谷一二三は、小川和久(現:欽也)の変名。出演者に関しても、熊谷一佳なんて出て来ない。変に暗い影に沈む、摩天楼のバーテンがさうだといふのなら別だが。
 関東運輸局指定の民間車検場をザックリ抜いて、劇中屋号はアトラス自動車。左手を怪我してゐるとやらで満足に仕事しない小島祐二(工藤)に、先輩の杉山(久須美)が苦言を呈する。兎も角その日は給料日、杉山の妻・知子(小川)に連絡を取つた小島は、御馴染「摩天楼」にてランデブー。杉山どうするどうしたのよといふツッコミについては、朝まで帰らない釣りとの方便で回避を一応心がける姿勢を見せる。小島と知子の仲がそもそも何れ先行なのかはスッ飛ばしつつ、マイホーム資金を夢見仕事に忙殺される杉山から放たらかしにされた知子が、欲求不満を拗らせたなる構図。だから夜釣りに繰り出す暇があるのだから、といふ話でしかない。
 配役残り果林だけではこの期にググりやうもない果林は、小島が繁華街でナンパする女子大生・美子。如何にも声かけられ待ち風情に映るファースト・カットに比して、身持ちは案外固い模様。風間ひとみは、小島が修理の済んだ車を津田スタまで届けに行く北村夫人。小川真実でも同じことがいへるが出て来た瞬間に成立する鉄壁の説得力で、小島を捕食する。白戸好美と原田千春は、小島が摩天楼で纏めてナンパするユカとカヨ。賑やかしかと思ひきや、普通に巴戦に突入してみせるのには軽く驚いた。
 公開が五月となると、全員脱いで絡む女優部が五人の豪華態勢は、対黄金週間布陣かも知れない小川和久1990年薔薇族込みで第六作。公開題の“人妻”と“濡れた花唇”の間にスペースを入れなかつたのは、空けてゐるのやらゐないものやら甚だ微妙な、本篇に従つた。
 兎にも角にも小島が、どうしやうもないクソ野郎の一言に尽きる致命傷。杉山とは久しく交渉のない知子が妊娠したといへば、脊髄で折り返して「堕ろせよ」。口止めに腐心する北村夫人からはサクッと手切れ金をせしめ、たにも関らず知子が自腹で用立てるとなると、その金でユカカヨとハッパまでキメる豪遊。斯くも自堕落なゴミの極み男が、最終的には真実の愛にでも目覚めた風情で美子と結ばれる。久須りんは終ぞ夫婦生活に与らないまゝに、何だかんだか、寧ろ何が何でもな勢ひでクズ主人公が女優部を総嘗めする人を喰つた裸映画。それはそれとして最低限の本義は果たしてゐるにせよ、締めの濡れ場さへ中途で端折る完遂率ゼロの据わりの悪さ以前に、どうにもかうにも厳しいのが、実写版ねずみ男くらゐにしか評しやうのない三番手のルックス、スタイルは別に普通なんだけど。果林と白戸好美のビリングを逆転するだけで、結果は兎も角受ける印象は、まだしも変つてゐたらうに。清々しいまでのカスさが、ある意味量産型娯楽映画ぽくなくもない一作。といふか、より直截にはせめて量産してでも呉れないと、とてもではないがやつてゐられない。何時か何か何処かで一発当たれば御の字の、捨て弾といつてしまへば元も子も原子に還る。


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 「すけべ妻 夫の留守に」(1995/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:渡剛敏/企画:朝倉大介/撮影:稲吉雅志/照明:小川満/編集:酒井正次/音楽:藤本淳/録音:シネキャビン/助監督:榎本敏郎/監督助手:坂本礼/撮影助手:片山浩/照明助手:一色嘉伸・鏡早智/協力:広瀬寛巳・女池充・徳永恵美子・戸部美奈子/現像:東映化学/出演:貴奈子・吉行由美・川崎浩幸・今泉浩一・大沢涼・小林節彦・いぐち武士・渡剛敏・紀野真人・切通理作・広瀬寛巳・女池充・橋井友和・伊藤清美)。
 離れ小島にタイトル開巻、ミサトニックな洋館。俗世を捨てた富豪のカツジ(川崎浩幸=かわさきひろゆき)と食事を摂る娘のアリサ(貴奈子)が、不意に泣きだす。生の喪失感と同時に、「海の向かうに行つてみたい」と訴へるアリサに対し、カツジは「海の向かうには何もない」、「詰まらない人間達が詰まらないことにうつゝを抜かしてゐるだけだ」と言ひ包めた上で、常なる風情で娘を抱く。早々派手に拍子が抜けるのが、島から目線だと、対岸が思ひのほか近いんだな。そこら辺の港湾的な風景が、競技者ならば泳いだろかといひさうな距離で普通に見える。バルコニーに白いズックを残し、アリサはダイブする。一方、都内のお屋敷。テレビからはアナウンサー(橋井友和しか残らない/アシスタントの女は不明)が光速の減衰だなどと途方もないニュースを伝へ、ハルミ(吉行)が魚を捌くのに悪戦苦闘。和室では、義母のノギエ(伊藤)が「えい!」とかポン刀を抜いてみたりなんかする。
 配役残り今泉浩一は、実家も母も妻も唾棄する、ハルミの夫・ヨシオ。ノギエが固執しハルミが焦る子宝に関しては、等閑視するものかと思ひきや子供は欲しい模様。小林節彦・いぐち武士・渡剛敏は、岸に無事到着したアリサを人魚と見紛ひ、輪姦すレス・ザン・ホームな人等。チンピラ役の大沢涼が、俳優部に於けるアキレス腱。佐々共に若干色をつけた程度の、一応色男に過ぎない割に大仰な大根を悦に入つて振り回す挙句、息を吐くやうに銃を抜くゴミ造形。週に一度婦人会のボランティアで、ノギエが孤児院の夜勤に入る夜、ハルミも街に出て男を漁る。広瀬寛巳は、ヒッチハイクの形で漁られるトラック運転手。ところで婦人会のボランティアといふのはレッドな嘘で、ノギエは役立たずのチンピラを片腕に、VIP相手の秘密クラブを使ひ回すミサトで開いてゐた。本格的に痩せた現在とは体型ごと顔の違ふ、切通理作がVIP客。紀野真人は、ボートで海を渡り、アリサを捜すカツジが頼る占師。諸々を挽回しきるか否かは議論の別れる兎も角、命綱的な女池充は記憶を喪失したヨシオに接近する、下着までフルクロスの女装子。
 国映大戦第二十六戦は、佐藤寿保1995年ピンク唯一作、もう一本はENK薔薇族。この年から佐藤寿保は量産態勢を離れ、1998年に新東宝作とはいへ、九十分弱ある一般映画じみたピンク?と矢張りENK薔薇族を一本づつ発表後、現在に至る。
 役立たずのピラチンにミサトに連れて来られたアリサは、藪蛇な創造力が爆裂するチェーンソーメイドに扮せられ切通理作のお相手。暴走した末ボストンバッグ一杯の札束に、プレイを撮影したVHSを奪ひ逃走したアリサと、ハルミがミーツする。佐藤寿保×渡剛敏の組み合はせにしては、案外ストレートな展開。そして何はともあれ、何はなくとも、尺的に疎かにして済ます訳でも必ずしもない、吉行由美の爆乳の説得力が圧倒的。アリサを追ひ奔走するノギエとピンチラ挿んで、カット跨ぐとハルミとアリサが大輪の百合を轟然と咲き誇らせる繋ぎは一見出し抜けの極みながら、裸映画的には断固として、絶対的に正しい。劇伴からズンチャカな乱交カーが夜明けの果てを目指す爽快なラストを、カツジとヨシオを纏めて救済するアクロバットが側面から補完する。等々ポリアンナばりによかつただけ探すと良質の一作にも思へ、実際にはクライマックスの幽霊ビルを舞台とした、空騒ぎにさへ至らないクソ騒ぎが子供騙し以下に酷い。ノギエとピランチはまだしも、カツジが幽霊ビルに辿り着くのは流石に飛躍が大きく、撮れもしないアクションにむざむざ大惨敗する、ノギエとラピンチの最後―とカツジの乱心―は粗雑の極み。チランピ今際の間際の「まるで、マンガだ・・・・」には、マンガ舐めてんのかと本気で腹が立つた。幽霊になつた二人が踊り明かす屋上も、荒木太郎かよと匙を力の限り遠投するほかない。そもそも、相対性理論が引つ繰り返る超風呂敷を、ものの見事に放置してのけるのには吃驚した。ワルキューレの騎行―とキャンディ・キャンディ主題歌―を、小手先でチョイチョイ改悪もといアレンジした劇伴も癪に障る。一言で片付けるならば、他愛なくすらない出来損なひの娯楽映画。返す刀で筆禍を加速すると、斯くも惨憺たる代物でも、『PG』誌主催の第八回ピンク大賞にあつてベストテン九位と貴奈子の新人女優賞。貴様ら、鈴が鳴ると涎を垂らす犬か。


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 「黒い性感帯 喪服妻の太股」(1995/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:千葉幸雄/照明:隅田浩行/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:瀧島弘義・坂井秀治/撮影助手:嶋恒弘之/照明助手:根本浩輝/スチール:小島浩/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学㈱/出演:貴奈子・青木こずえ・葉月螢・吉本直人・真央元・杉本まこと)。出演者中葉月螢が、ポスターには葉山螢。一字しか違はないやうで、結構全然別人。
 ブライダルなパンフレットから舐めて、シーツの中で男女が乳繰り合ふ。かと思ひきや出し抜けにブツッと―ホントにブツッと―切れる、謎暗転で墓地にタイトル・イン。墓地に最初から小さく映り込む、貴奈子と真央元を改めて抜いてクレジットは俳優部に。夫の一周忌、墓前に何時までも粘る桜庭紀美子(貴奈子)に業を煮やしつつ、義理の弟である徹(真央)が付き合はうかとしたところ、亡夫の大学ワンゲル部後輩である久世俊雄(吉本)が平服で現れる。かと思ひきや再びシーツの中で惚気る、久世と三ヶ月後に挙式を控へた婚約者の村上法子(青木)にブツッと切れ、二人は大絶賛婚前交渉に突入。絡みの中途で紀美子のアップに移行したかと思へば、再々度明らかにぞんざいなブッツブツした繋ぎで、逆アングルの紀美子のアップにカットが変る。動画がバグッてゐるのでなければ、どう見てもこの映画壊れてないか?兎も、角。半年前、遺品のスーツを今更クリーニングに出さうかとした紀美子は、亡夫の手帳を見つける。そこには“N”なる女との不義の記録が、簡潔ながらある程度克明に記されてゐた。
 配役残り杉本まことが、北岳で雪崩に遭ひ死亡した紀美子の夫・耕一。遭難死については、紀美子が目を落とす手帳の登山に関する記述に、重ねられる雪崩的な音効の一点突破で切り抜ける、もしくは茶を濁す。葉月螢は、徹の彼女・山辺由香。ついでに徹と耕一は腹違ひとかいふ藪蛇な設定で、法子もワンゲル部後輩。
 昨年そこかしこで回つてゐる、そのうち駅前に来さうな気配がなくもない一本―2000年第二作「社宅妻暴行 白いしたたり」(主演:佐々木麻由子)の、2007年旧作改題版「団地妻凌辱 白い肌をいただけ!」―を除けば、終にex.DMMの中にも未見作のなくなつた北沢幸雄1995年第一作。エク動が、飛び込んで来て呉れたりすると勿論脊髄で折り返してポチる。この期な北沢幸雄の新着に、どの程度の訴求力があるのかは知らんけど。弟子の威を借りて、シネフィルが釣れんかいな。
 序盤のズッタズタな編集と右往左往する時制は忘れたフリをすると、喪服妻が亡き夫が不貞を働いてゐた泥棒猫に、自身に向けられた義弟の劣情を利用してトゥー・マッチに報復する。女の裸に特化する本義に即するならばなほさら、シンプル極まりない物語。徹に“N”こと法子を、菊穴まで犯させるは法子の眼前、久世を―二度目に―逆寝取るはとやりたい放題大概な紀美子の姿には、浜野佐知の如くブルータル、もといパワフルな女性上位思想に裏打ちされてゐるでなく、流石に感情移入に難い。とは、いへ。恋焦がれる義姉さんの要求に全て従順に従ひ、目出度くといふか何といふか、何はともあれ御褒美を頂戴する徹のエモーションには、真央元(a.k.a.真央はじめ)が元々内包する、あるいは主力兵装たる歪んだ純情にも加速され、日陰に燻るか拗らせた琴線を、激弾きするサムシングが確かになくはない。法子と久世を婚約解消にまで叩きのめした―そもそも久世にとつては、盛大なとばつちりもいいところである―紀美子が、桜庭の家から籍を抜き、徹に別れも告げず何処かへと立ち去るラストを、トップのその先にギアを捻じ込んだ精緻な演出によつて、あたかも本格的な悲恋物語かの如く昇華してのけるのは、北沢幸雄ならではの端正な力技。徹が紀美子に告白し、紀美子はそれに対して何も答へない。カメラが二人の前後を文字通り劇的に回り込み、マオックスから貴奈子に、的確にピントを送る。中盤以降の極悪非道を思ひ起こすに、シークエンスの美しさが寧ろ不思議ですらある、曲芸じみたアメイジングな一作。逆に論を俟たず評価に足るのが、大胆な葉月螢即ち三番手の起用法。紀美子への想ひを滾らせる徹が、手篭めにするかのやうに由香を抱いて、それきり。一見粗雑に見せて、徹的な外堀を踏まへると案外合目的な用兵術には素面で感心した。

 もう一点特筆しておきたいのが、貴奈子がオッカナイ役柄に身動きを半ば封じられる一方、紀美子から疑惑を突きつけられるや、豪快に開き直つてみせる法子に扮する青木こずえ。ワン・アンド・オンリーの鋭角な清々しさが、華やかに花開く。


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 「痴漢 穴場びしよ濡れ」(1996/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/編集:㈲フィルムクラフト/脚本:岡輝男/協力:亀有・名画座/監督助手:加藤義一・山田大作/撮影助手:郷田有/照明助手:佐野良介/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真実・早川優美・杉原みさお・太田始・青木和彦・久須美欽一・姿良三・寺島京一・林田義行・生方哲・白木努・丘尚輝)。他人に書かせても、脚本はこの位置なのね。
 クレジット除けば劇中特に明示はされない、当時既にピンクの小屋であつた亀有名画座(1999年二月末閉館)。開館前の劇場内、館主の妻・依子(小川)が、映写技師の増村俊彦(太田)とオッ始める。今朝はまだ来ないとする依子の思惑は外れ、館主の琢也(姿良三=小川和久/現:欽也)も来館、あるいは出勤。まだ誰も出て来てゐないものと思ひ映写機をセッティングする琢也は、映写室の小窓から嫁と従業員の不貞を目撃し仰天。した弾みで爆弾を抱へる心臓に発作を起こし、そのまゝ悶死。崩れ落ちる琢也がボタンを触り、映写機起動。不意に始まつた上映に、依子と増村も漸く事態を認識する。映写機に被さる依子の「貴方!」といふシャウトに続いて、劇伴共々思ひきり長閑な遠景にタイトル・イン。四十九日も明け、亀有名画座の休館解除。ここで青木和彦は向かひの蕎麦屋の大将で、杉原みさおが、大将いはく「女だてらにポルノ写真が好き」な女将。一旦田舎に帰るも、帰りきらなかつた増村も戻り、兎も角営業再開。完全に、もしくは現金に増村と一緒になる気の依子に対し、不用意に琢也の死を引き摺る―おかしかないか、別に―増村が煮え切らない中、増村が郷里で偶さかな一夜を過ごした、ストリッパーの玲菜(早川)が増村の部屋に転がり込んで来る。
 配役残り久須美欽一は、イヤミな造形の伊達男常連客。寺島京一も常連客で、どちらかといはずバッチコーイな杉原みさおに痴漢を繰り返す。OK劇伴が流れるゆゑ、自作かと思ひきや関根プロダクション作で面喰ふ、寺島京一と杉原みさお一回戦の際の上映作は、川井健二名義での1993年第三作「媚肉人形」(脚本:ミスター・チャン/主演:林由美香)。林田義行以降は観客要員しかない筈だが、林田義行が辛くも確認出来る程度で、ノートの液晶だと丘尚輝=岡輝男も目視不能。
 三年前に少なくとも東京近郊では回してゐた、小川和久1996年第二作。小屋主未亡人と間男の映写技師が付かず離れずウジウジするピンク映画館に、すつかり映写技師の女房気取りのストリッパーが飛び込んで来る。スクリーンの前に舞台があるのを看て取つた踊り子は、脊髄で折り返して舞ひ始める。滅法酷いと逆の意味で評判を呼んだ割に、所々にピンク映画愛―ないしは惰弱な擁護―を織り込みつつの案外オーソドックスな人情譚は、いふほど派手に破綻するでなく、下手に構へると拍子抜けするほど粛々と進行して行く。久須りんと再婚するだとかいひだした依子と決別した増村は、玲菜を連れ何処ぞの港町―といつて、六畳間にポンポン音効を鳴らすだけ―に。惚れた男の気持ちを酌み、己の恋心は押し殺し増村の背中を押してやらうとする健気な玲菜の姿は、如何にも有体か都合のいい紋切型ともいへ、早川優美はいい芝居をさせて貰つてゐると結構本気で心に沁みた。それ、なのに。触れずには始まらぬゆゑ平然とバレてのけるが、緊急帰京した増村が、アバンを引つ繰り返した今度は終映後の場内にて、依子に情熱的な告白。依子も脊髄で折り返した抱擁で応へ、クライマックスの名に足る締めの濡れ場に猛然と突入。あとは、確かに結婚の約束を交し、今は依子と二人で亀有名画座を切り盛りする、久須りんの去就さへどうにか出来れば堂々とした大団円が花開いた、ところが。矢張り映写室の窓からその現場を目撃した久須りんはといふと、普通にキレて35mm主砲を点火。往事と同様不意に始まつた映写に、依子と増村が琢也の幻影に慄くエンドとは全体何事か。後味がどうかう以前に、折角綺麗に盛り上がりかけたエモーションを、木端微塵に爆砕してのけるデストラクティブな作劇には素面で度肝を抜かれた。大御大・小林悟をも時に易々と凌駕する、茶の間ごと卓袱台を重機で圧し潰すが如き小川欽也の暴力的な無造作さに、叩きのめされグウの音も出ない殆どショック映画である。


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 「雨音を聴く魚“をんな”たち」(2000『見られた情事 ズブ濡れの恥態』のDVD題/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督・脚本:菅沼隆/企画:朝倉大介/撮影:森下彰三/助監督:小泉剛/編集:酒井正次/制作:堀禎一/音楽:松崎順司/監督助手:吉田修・松本唯史/応援:大西裕/撮影助手:田宮健彦・志田貴之/ロケ協力:中村正・中村直子/録音:福島音響/現像:東映化学/機材協力:《株》ナック・ライトブレーン・中尾正人/出演:山田智範・東城えみ・中川真緒・大槻修治・和田智・川瀬陽太・本多菊雄・SARU)。出演者中、SARUの全角は本篇クレジットまゝ。
 最初に飛び込んで来るのは朝大クレ、嬌声とアクアリウムのポンプ音に、雷鳴。だゞつ広い部屋、直でフローリングに横たはる裸の女と、男はとりあへず腕だけ。シャレオツな劇伴が鳴り始め、裸の男女は接吻を交す。ひとまづ画はシャープでありつつ、如何せんボサッとした男優部の華のなさは否み難い。徘徊するかのやうに覚束ない視点、建物着、家内に入り、二人の情交に直面、完遂まで一分弱回す。視点の主は踵を返し、無造作に閉まるドアの音に、魚住(山田)とタチバナは恐らく橘小夜子(東城)は漸く気づく。魚住を妹の小夜子に有体にいふと寝取られた、朝美(中川真緒のゼロ役目)は入水。するロングにも五十秒近く費やした上で、DVD題でのタイトル・イン。開巻即と完遂にまで至る点は全く以て十全ではあれ、小綺麗に過ぎる濡れ場に、琴線も緩む。
 ―2年後―、ラブホの窓から晴れてゐるのに雨の音が聞こえて来るだの静かに、あるいは素頓狂に病んだ小夜子は、自身を本多菊雄に三万で売る。兎も角オッ始まる一戦、引いたカメラが絡みの全体像を映さうといふよりも、寧ろ関心の欠如さへ感じさせる。ラジオが東京都港区赤坂のスナック「アモーレ」の店主が殺害され、警察が犯人と断定した従業員の女が数百万を奪ひ逃走したニュースを伝へ、積木くずしばりに箍の外れたパーマ頭の東野か塔野か遠野あやの(中川)が、大きな手提げを抱へ江ノ電極楽寺駅に降り立つ。雨の中、傘も差さずに帰宅した小夜子と今は一緒に暮らす魚住は、二年前の事件以来勃たなかつた。
 配役残り大槻修治と和田智は、あやのを追ひ極楽寺に入る、刑事のヤブさん―m@ster大哥が山さんとしてゐるのは誤り―と犬養か犬飼。この犬養の野郎が出ッ鱈目で、リアルがどうだかうだ座席で拳銃を弄んだ挙句、怪訝に見やる通路を挟んだ純然たる一般市民でしかない乗客(不明)に気づくや、戯れに銃口を向けてみる始末。ヤブさんもヤブさんで、手帳を見せ侘びた程度で許されるか。そんな極大粗相、昭和でも通らねえよドアホ。気を取り直して珍奇な名義で普通に美人なSARUは、界隈をほてほて平然と歩くあやのに、「朝美!?」と声をかける女。川瀬陽太も、駆け込みかけた公衆トイレの表で、あやのを朝美かと見紛ひ驚く黒川。死体は上がらないまゝに、朝美は自殺したものとされてゐた。もう少し残り、刑事部が持ち歩く、あやののスナップで肩を並べる男も不明。ラーメン屋にもう一人見切れる、キングコングの絵とか描かない方似の土方が、小泉剛でも堀禎一でも大西裕でもないゆゑ、吉田修か松本唯史?
 国映大戦第二十五戦は、少なくとも近年まで業界に留まり継戦してゐる形跡は窺へる、菅沼隆の最初で最後の監督作。何れかかは当然の如く覚えてゐないが、故福岡オークラか現存する駅前ロマンで観てゐた、霞よりも薄い記憶が断片的の限りを尽くして残らなくもない。
 あやのと朝美の相関が赤の他人含めまるで語られない、娯楽映画としては暴力的な荒業。あるいは強ひて、渾身の強ひてで好意的に解釈するならば破天荒なマクガフィンぶり、以前に。完全に心の壊れた造形を宛がはれたキアヌ・リーブス似の―ついでにとてもプロレスラーの体つきには見えない―女と、EJDと淡島小鞠を足して二で割つたルックスはさて措き、小屋では言語道断にさうゐない、ヘッドフォンで耳を凝らしても囁き口跡が何をいつてゐるのか聞き取れない男。幾ら重たい罪の意識に苛まれてゐるとはいへ、主役の二人が擦れ違ひさへせず煮詰まるのも通り越し、凍りつき倒す地獄絵図が兎にも角にも煮ようが焼かうが箸も動かない。国沢実にしてもさうだが、観る者見る者を陰鬱な心持ちにさせるのがそんなに楽しいのかと、匙を投げ捨てた、一旦。散発的に撮影部は奮闘する中でも、短いトンネルを抜け開けた海に小夜子が心なしか晴れる、最も力を持つショットから起爆。貴方が背負つてるもの全部海の底に持つて行つてあげるだなどと、小夜子が、小夜子も海に入る入らないで揉める修羅場には、劫火にガソリンを注ぐ気かと完全に諦めかけた。とこ、ろが。全ての脈略をスッ飛ばしながらも、魚住が唐突に改悛もとい回春。あるいは菅沼隆は不本意であつたのかも知れないが、ひとまづエモーショナルな青姦で締めるクライマックスは、小夜子が海に達した時点で予想に易い、裸映画的にはそれしかないせめてもの起死回生。辛うじて、徳俵一杯一杯で首の薄皮一枚繋がつた、スリリングな一作。底の抜けた停電イベントであやのを取り逃がした、役立たずが臆面もなくよさげな表情を浮かべるエピローグなんぞ、いつそ切つてしまへばいい蛇の足に過ぎまい。

 一度目の、ラジオが赤坂スナック店主殺人事件を伝へる件。重要な伏線を投げるだけ投げると、麻薬探知犬の健康診断だとかどうでもいい次の話題にサクッと移る、人を喰つたセンスは買ふ。


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 「ハードエクスタシー 処女失神」(昭和63/製作:飯泉プロダクション/配給:新東宝映画/監督:北沢幸雄/脚本:田辺満/撮影:志村敏雄/照明:斎藤政弘/音楽:平岡幹士/編集:金子編集室/助監督:荒木太郎/撮影助手:片山浩/照明助手:須賀一夫/演出助手:加藤嘉隆・若月美廣・足立いちろう・松田病/効果:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:星川琴美《新人》・堀田エミリー・渡瀬奈々・平工秀哉・藤原利朗・井上真愉美・桐原沙織・星恋華・内村宏・中本伸恵・足立いちろう・沼袋茶助・吉岡圭一郎・池島ゆたか)。
 山梨県笛吹市、石和温泉ら辺。ライトバンが通過する鉄橋の、ぼんやりしたロング。ハンドルを握るのは草履顔の中島果奈(星川)で、後部座席には後輩のリエ(渡瀬)とノブコ(堀田)。もしかすると、後にノークラ―今でいふオートマ、用語に時代が感じられる―車を買ふノブコは同級かも。片やパチンコ屋「ホームラン」の駐車場、果奈とは腐れ縁の幼馴染・クニオ(平工)が油を売る。信号待ちの車内でディープキスに戯れる、非常識かチャレンジャーなカップル(中本伸恵と、足立いちろうか沼袋茶助)に果奈とノブコがあやをつけ、スッて出て来た矢張り幼馴染のシュージ(藤原)をクニオが捕まへるアバンに、一向何も見えない、かに思はせて。クニオとシュージの会話を通し、果奈が女子高生売春を斡旋してゐる豪快な設定が判明。合流しかけたクニオを振り切り、果奈はリエとノブコを客の下に送迎、宮殿調のラブホテルにタイトル・イン。ノブコの客は、甲州銀行支店長補佐の吉岡圭一郎(a.k.a.吉岡市郎)。その日が初陣の、リエの客が農協の偉いさんとかいふ池島ゆたか。二人の投入で、漸く映画の足が地に着く。兎も角果奈に対して一方的に入れ揚げるクニオは、二人でのプールバー経営を持ちかける。
 配役残り桐原沙織と星恋華は、足抜けしようとする果奈後輩。激情癖のある果奈にシメられる方がミキではあるものの、凡そ特定不能。内村宏は、無神経な駐車に苦言を呈する、果奈が住むマンションの管理人・小島か児島、あるいは古島かな。そして井上真愉美が今作最大の難問、難問とは何事か。改めて井上真愉美は、相変らず不自然極まりない、後述するラストに登場する信号待ち抱擁女。抱き合ふ横顔をバンから見下ろす軽い俯瞰でしかも数秒間しか抜かれない、ウォーリーを見つけるよりも難しいエニグマ。
 淡々と見進めるうちに、気づくとex.DMMの中にも未見作が残り僅かとなつて来た北沢幸雄の、昭和63年第一作。北沢幸雄には八作前にもう一本、「ハード・エクスタシー 失神寸前」(昭和61年/主演:岡田きよみ?)が見当たる模様。
 クニオはサンダルの裏みたいな顔の女が好きで好きでどうしやうもない反面、主人公―の筈―であるにも関らず、果奈の真意はといふと終ぞ詳らかとはならず。畢竟、精々他愛ないか断片的なドラマの隙間を、正方向の濡れ場が懸命に埋めるのが関の山。掴み処のない漫然とした裸映画、とでもいつた印象が兎にも角にも強い。性行する毎に出血し、度々腹痛に顔を歪める果奈が積み重ねる如何にも重大なフラグを、見事に放置して済ますのには流石に吃驚した。そんな中でも、とりあへずなすつたもんだの末に、足を洗つたのか果奈は宅配業に勤しむ。信号停車した際再び見やつた、井上真愉美と沼袋茶助か足立いちろうの普通にお熱い姿に絆され泣きだした果奈は、雨が降つてもゐないのにワイパーを起動する。清々しいほどのダサさが、最後の最後で火を噴く北沢幸雄の真骨頂。

 とこ、ろで。ハードな絶頂も、処女が失神する件(くだり)も特にも別にも存在しない件。そのよくいへば大らかさは、それはそれとして尊びたい。


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 「スナックあけみ 濡れた後には福来たる」(2018/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:田宮健彦/録音:大塚学/編集:山内大輔/音楽:Project T&K/効果・整音:AKASAKA音効/ラインプロデューサー:江尻大/助監督:小関裕次郎/特殊メイク・造形:土肥良成/特殊メイク・造形助手:リ・カエ/撮影助手:荒金聖哉/演出部応援:佐藤洸希/スチール:本田あきら/エキストラ協力:周磨要・鎌田一利・西村太一・郡司博史・中村勝則・etc./仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:霧島さくら・佐倉絆・川瀬陽太・里見瑤子・黒木歩・森羅万象・野村貴浩・世志男・安藤ヒロキオ・ケイチャン・満利江・フランキー岡村・しじみ《特別出演》)。出演者中しじみのカメオ特記は、本篇クレジットのみ。
 新宿の場末、買物袋を提げた吉井ゴロウ(川瀬)が、電飾看板もあつらへたスナック「あけみ」に帰還。ママを継いだスミレ(霧島)が作つた焼きそばを二人で食し、もうすぐ三年の月日に触れる。ピンで両手をかざしたものと、EJD・もう一人と映つた、二枚の先代ママにしてゴロウの亡妻・明美(黒木)のスナップを抜いてタイトル・イン。「あけみ」のロケーションは、一手に引き受けた感も強いステージ・ドアー。あと、フライパンを振る何気ないカットに於いてさへ、威圧的なまでに魅惑的な霧島さくらのオッパイの迫力が凄え。大事なことゆゑ繰り返す、霧島さくらのオッパイの迫力が凄え。
 超絶技法で些かの躓きも感じさせず、全篇を通して前後にボックスを踏み続ける時制をザックリ整理すると、明美とは同じ児童養護施設「若草学園」育ちのゴロウが、六年のお勤めを終へ出所。ヤクザ稼業―今回共に欠場する、竹本泰志が組長で若頭は山宗か―の足を洗ひ、土建業の職に就く。ある日、ある意味川瀬陽太十八番のメソッドで、急激な便意に襲はれ帰途を急ぐゴロウは、顔面を痛々しくボッコボコにされたスミレを拾ふ。スミレはいはゆる神待ちの家出少女で、金田(ケイチャン/ex.けーすけ)に三万で買はれる。事後財布の金を盗まうとしたところ、半殺しにされたものだつた。その夜「あけみ」で焼きそばを振舞はれ、何にもしてゐないのにゴロウからもディスカウントな一万円を受け取つたスミレは、翌日ホステスを募集する「あけみ」の門を叩き、働き始める。
 配役残り森羅万象と野村貴浩は、「あけみ」の常連客で土建屋社長の三沢と、不動産屋社長の矢木澤。三沢がゴロウを雇ひ、矢木澤がスミレの住居を世話する。明美に対する身の上話中に登場するフランキー岡村は、両親とは死別、居心地の甚だ悪い親戚宅も飛び出したスミレを、最初に買ふ男・岡村。しかし六ヶ月ぶりで改めてひつこいやうだが、ただでさへポップと陳腐を穿き違へた、この男の抽斗の少なさはどうにかならんものか。しじみは矢木澤がスミレに用立てた、風呂場だけはピッカピカな破格の―事故―物件に出る、貞子みたいな女。ファースト・カットの暗さは、故有楽では何も見えなかつたにさうゐない。手帳が貰へさうなくらゐ左足に損傷を負つた里見瑤子は、この人も「あけみ」の常連客・野口容子。安藤ヒロキオと佐倉絆は、トラックに轢かれた明美に手の施しやうもなかつた医師の鈴木タカシと、結婚を約した仲にある看護師・野口深雪。ex.東川佳揚とかいはれても正直知らん満利江は、深雪が鈴木との結婚を喫茶店「マリエール」にて報告する、若草学園の恩師・坂上頼子、現在の肩書は理事長。そして鍵を握る世志男が、実はソープ嬢―嬢?―であつた容子の十五年来の馴染客・鈴木健治。エキ部は「あけみ」ボックス席と、深雪・鈴木勤務先の院内要員。一人女の看護師も姿を見せるのが、該当しさうな名前が演出部にも見当たらない。
 前田有楽閉館から半年、遂に戦線復帰の運びとなつた第百三十八次「小倉名画座急襲篇」。最初の有楽未着弾新作は、封切り直前に抹殺された荒木太郎の天皇映画に続きといふのも何だが、第三作「アブノーマルファミリー 新妻なぶり」(主演:神納花/ex.管野しずか)が一旦公開(11/16)後、謎封印の憂き目に遭つた山内大輔2018年第四作。ついでに“遂に戦線復帰”といつて、小倉の一月の番組は、依然既に八幡で観たものばかり並んでゐたりもする。本格再起動は、来月からかな。
 手料理が売りのスナックを舞台に、客と店の人間の、それぞれの家族の物語。山内大輔のスナック映画といふと、脊髄で折り返して思ひ浮かぶのが2013年第一作「スナック桃子 同衾の宿」(主演:山吹瞳)に、2017年第四作「ひまはりDays 全身が性感帯」(主演:涼川絢音)。バッド・テイスト映画の「スナック桃子」は固より、ザックリ同系統の「ひまはりDays」とも、森羅万象や満利江の役名以前にそもそもスナックの屋号ごと異なる、全く別個の物語である。
 現在と過去を頻繁に往き来する、劇中時間の移動に僅かな瑕疵のひとつ覚えさせない手腕は高く評価しつつ、一撃一撃も然程強くはない散発的か断片的、かつ有体なホームドラマの羅列に、ワーキャー諸手を挙げ称揚することもない。と、高を括りかけたところが。サプライズ的な濡れ場を効かせたのも裸映画として重ねて心憎い、片親同士を直結する予想外の大技で、一息に晴れ晴れしい大団円に落とし込む終盤は、圧巻といふほどでもないにせよ天晴。加へて、幾ら伏線は十全に敷設済みともいへ、余計にしか思はせなかつた蜆の刺さつた枝葉に花を咲かせてみせる離れ業に、寧ろ正方向に驚かされた。豪腕ストレートと、見えない方向から飛んで来るフック。二発のパンチが火を噴く、後述する小ネタのジャブまで含めかなり良質高水準の娯楽映画。では、あるものの。美容パックを施す直前の、スッピンも可憐に披露する佐倉絆が後半を引き受け大いに気を吐きながらも、絶大なる決定力を誇る主演女優のオッパイを、展開上序盤で封印せざるを得なかつた構成には如何せん心が残る。かつてエクセスが誇つた超武闘派集団・フィルムハウスの一角を担つた腕は未だ決して衰へてはゐない以上、観客の金玉をカラッカラにする裸映画―小屋でヌクのかよ―を、山内大輔に望まぬ訳には行かないだらう。

 もう一点特筆しておきたいのが、随所で弾けるビートの利いた小ネタ。妊娠六週間をゴロウに報告した明美が、無造作に煙草に火を点ける件。忽ち顔色を変へたゴロウの、「煙草なんかやめろ」×「ブッ殺すぞ」×「毒だぞこれ」のジェット・ストリーム・アタックには、「ブッ殺すぞ」で声が出た。息子の婚約者の前で、出し抜けに風俗通ひを告白し始めた父親に対する、安藤ヒロキオ―新人男優賞を選ぶとしたら、この人しかゐまい―の「親爺何いひだすんだよ」は間が絶品。電話するかとした母親が「二十年前に死んでた」と笑顔で惚ける三沢に矢木澤が呆れる、「酒の飲み過ぎで頭ブッ壊れてんぢやねえか」にも再度声が出た。かうして、思ひだしても笑けて来る。現代美術のヨシナリ・トヒは滑るが最も画期的なのが、深雪の気も辿つて来た辛苦も知らず、平板な絵空事を並べた鈴木が追ひ返された義理の母(予)を追ひ飛び出した往来の、後方に業態不明の「のう天気」なる看板が見切れる奇跡のショット。能w天w気www、狙つて抜いたものであるならば、神々しいほどの閃きにシャッポを脱ぐほかない。


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 「家庭内3P 人妻の妹」(1995/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/編集:㈲フィルム・クラフト/脚本:水谷一二三/撮影助手:倉川昇/照明助手:佐野良介/スチール:津田一郎/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学㈱/出演:青木こずえ・中島かづき《新人》・小川真実・杉本まこと・久須美欽一・神戸顕一・白木つとむ・春田寿長・清水節・小川努・三崎良司・但馬オサム)。撮影助手の倉田でなく倉川昇は、本篇クレジットまゝ。ワン・アンド・オンリーな位置に来る脚本の水谷一二三は、小川和久(現:欽也)の変名。
 タイトル開巻、日中の津田スタDK。役名不明の杉本まこと(以下杉まこ)と妻・真弓(中島)の、話題は真弓の妹である小島舞。青木こずえと中島かづきの姉妹役で、青木こずえが妹といふキャスティングに軽く意表を突かれる。兎も角同棲相手と別れた舞が相続権を半分持つ、元々は姉妹の実家であつた姉夫婦宅に、一ヶ月前から転がり込んでゐた。隆盛する陰毛ヌード云々の斬新か唐突な切り口からオッ始まる、夫婦生活はザックリ中途。時制をザクッと移動して夜の通勤電車、件の舞(青木)が、神戸顕一の電車痴漢を被弾する。ほかに人影らしい人影も見切れないゆゑ、出演者中白木つとむ以降は全員乗客要員、の筈。その夜、寝つけない舞は昼間したのに夜もお盛んな、姉と義兄の営みにアテられ廊下から覗きながらワンマンショー、先に完遂する。
 配役残り久須美欽一は、休日杉まこに車を借りた舞が気晴らしのドライブに出かけた秋川で出会ふ、川原でスケッチする男、本職は切り絵作家。藪蛇な造形に、勿論意味など欠片たりとてあらう訳がない。番手概念を爆砕する存在感を放つ小川真実は久須りんの妻で、新宿でバー「摩天楼」(大絶賛仮称)を営むアヤ。舞が久須りんに連れられ、摩天楼の敷居を跨ぎアヤと初対面する件。カウンターの端に神顕が再登場を果たすのは、正直無駄に繁る枝葉。
 北沢幸雄を並行して淡々と未見作を拾つて行く、小川和久1995年第三作。ひとつの恋が終つた舞が、次の一歩を歩み始める物語。になんてなりやあしないんだな、これが。寧ろ、なるものかとすら公言しかねない態度で。舞が不意にミーツした久須りんの、嫁が御丁寧に摩天楼のママであつたりする辺りの急旋回から、俄かに映画は右往左往も華麗に通り越して五里霧中。ストーリーなりテーマといつた概念を、些末とでもいはんばかりに霞の彼方にかなぐり捨てる。アヤが見られたガールだとやらで、久須りんとアヤが致すのを、舞が傍らで注視させられる―謝礼は豪気に三十万―八分の大熱戦。と、くたびれて帰宅したらしたで舞が引き摺り込まれる、杉まこは兎も角何故か当初から真弓も異常に積極的な、八分を更に上回る十分間の巴戦。終盤を本当に占める長丁場二連撃を経ての翌朝、“兵どもが夢の跡”の風情を漂はせた姉妹と杉まこが完全にヤリ疲れて眠りこけるのが、ある意味といふか別の意味で圧倒されるラスト。挙句、クライマックスたる“家庭内3P”の締めも、最初に果てた真弓に、杉まこがタップリ顔射エンド、ヒロイン置いてけぼりかよ。ついでで棒状に快活な、中島かづきの口跡が火に油を注ぐ。女の裸以外の何物をも、一切合切欠如した壮大な空白がグルグル二三周してこの際爽快にまで突き抜ける、壮絶な一作。その割に、絡みが長くなればなるだけ際立つ、体位移行の繋ぎの雑さは、清水大敬ほどブツ切りではないにせよ、小川欽也が新田栄を決して超えられない壁。劇中庭までしか往来にさへ出ない、杉まこに凡そ何某か仕事をしてゐる形跡が窺へない点にも妥協といふ言葉を忘れた無頓着、当サイト造語のイズイズムが薫る。


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 「地下鉄連続レイプ 愛人狩り」(昭和63/制作:獅子プロダクション/提供:にっかつ/脚本・監督:片岡修二/プロデューサー:奥村幸士/企画:塩浦茂/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕・小原忠美・瀬々敬久/色彩計測:片山浩/撮影助手:小山田勝治・林誠/照明助手:シャオ・チャン、安部力・本橋義一・伊藤裕/車輌:JET・RAG、アラヤ・ロケーションサービス/ヘアー・メイク:木村たつ子/音楽:周知安/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:岸加奈子・高橋めぐみ・瞳さやか・木村さやか・螢雪次朗・外波山文明・池島ゆたか・ジミー土田・中根徹・佐野和宏・鈴木幸嗣・渡剛敏・狼狂二・ジャジャ・桃太郎・石井一春・新井賢二・大杉漣・下元史朗)。出演者中、渡剛敏から新井賢二までは本篇クレジットのみ。
 エンディング曲:竜童組「GET IT BACK」のイントロがメイン・テーマの、テレビ東洋の生放送番組「ニュースハッカー」の副調整室。クレジットが何もないのを見るに、恐らく、大絶賛無断使用か。さて措きADの中根徹が最初に飛び込み、中根徹が体を前に乗り出した陰から、ディレクターの野沢(下の名前はどうせ俊介/下元史朗)が現れる。キャスターの江藤倫子(岸)が伝へる最初の話題は、新宿で発生したホテトル嬢殺害事件、そんなのがトップかよ。嬢が所属してゐた風俗店「チェリー」の社長か店長(外波山)に、リポーターの嶋村圭(高橋)が突撃を敢行。取材を拒んだ外波山文明が暴れ始める修羅場を囲む、野次馬の輪の中からOLの黒崎悦子(瞳)が離れる。特筆すべきなのが、高橋めぐみの目に、未だ表情がある。再度閑話休題何某か技術的な要因でもあるのか、急に画がバカにハイキーになる地下鉄駅。悦子が乗車すると、第一作・第三作を踏襲する地下鉄視点のタイトル・イン。すると日が東から昇るが如く、パンクス四人組(後述)が悦子を輪姦。その場に乗り合はせた、写真週刊誌『シャッター』のカメラマン・轟(下の名前はどうせ渉/佐野和宏)は現場を激写。掲載された記事の信憑性を疑ふ警察が動かない一方、「ニュースハッカー」の視聴率低迷で尻に火の点いた野沢は、菊の御紋よりも先に俺の番組が事件を解決すると、明後日か一昨日に意気込む。
 ここで改めてパンクス四人組の面子が、一列横並びに座つたファースト・カットの、画面右から岩淵達也(渡)。以降全員役名不詳でグラサンで顔も隠し正体不明の桃太郎、ハードコアパンクバンド「リップ・クリーム」(昭和59~1990)二代目Vo.のジャジャに、二度目の地下鉄連続レイプ隊となる狼狂二。ガッチガチの本職を含むだけあり、現場スチールをそのまゝ、所謂アー写に使へさうなくらゐサマになつてゐる。
 配役残り、大杉漣はテレビ東洋のプロデューサー氏。ジミー土田はカメラマンの佐伯、となると下の名前は恭司か。池島ゆたかも会議に参加する、ポジション不明の「ニュースハッカー」スタッフ。螢雪次朗と鈴木幸嗣は、地下鉄連続レイプとは別のヤマで起動する、花粉症刑事と連れ。石井一春と新井賢二がもう一組のパンクスは兎も角、木村さやかが劇中三人目の被害者となると、悦子のお母さん役に該当する名前が、クレジットには載つてゐない格好に。
 片岡修二昭和63年第三作は、初めてヤクザが一人も出て来ない―チェリーは怪しいが―「地下鉄連続レイプ」シリーズ最終第四作にして、最後の買取系ロマポ兼、大杉漣的には矢張り最後の量産型裸映画出演作と諸々盛り沢山。最後の量産型裸映画出演作とはいへ、絡みひとつ大杉漣がこなすでもないのだけれど。
 視聴率ジャンキーと化した下元史朗の指揮下、地下鉄連続レイプ事件を官憲を出し抜いて追はうとする、限りなくワイド寄りなニュース・ショウ。社会派バイオレンスの傑作として今なほ評価の高い一作ながら、平成さへ終つたこの期に初見の節穴には、ワーキャー絶賛する熱狂は凡そ遠かつた。何はともあれ、ピンクと然程変らない上映時間に、小難しい主題なり、アッと驚く超展開を盛り込み過ぎ。報道の在り方を問ふ、終に平行線の域を出ない野沢と倫子の相克は、野沢の愛人の座を巡る倫子と圭の他愛ない女の争ひに寧ろ喰はれ、下元史朗のラスト台詞こそカッコいいものの、驚天動地の轟殺害事件に関しては、満足な形にすらなり損ねる。集団ならば兎も角実はいふほど連続してゐる訳では全くない、売りの“地下鉄連続レイプ”を都合二度繰り出す点は集大成の気概も窺はせるにせよ、ただでさへパッツンパッツンに尺が圧迫される中、女の裸の満足度は決してどころでなく高くない。冷えた個人主義に閉ぢこもる倫子を超絶のタイミングで切り取つた、鮮烈なラスト・ショットは確かに一撃必殺の威力を誇りつつ、衆人環視の地下鉄車内で、完全に枠の外に外れた連中が女を連続レイプする。そもそもか大概な荒唐無稽に、モーゼルなもうひとつの荒唐無稽を当てるクロスカウンターで上手いことシンプルな展開に捻じ込んだ、第三作「制服狩り」(昭和62/主演:速水舞)をシリーズの白眉に挙げるものである。

 締めに俳優部の戦歴を整理すると、下元史朗・ジミー土田・外波山文明が如何にもプログラム・ピクチャーらしい、全四作皆勤を果たしてゐる。三作で準込みの主役を張る下元史朗は、「制服狩り」ではカメオに後退。逆に残り三作で端役の外波文が、濡れ場要員ながら「制服狩り」に於いて最たる大暴れを披露する。濡れ場要員×下元史朗の片腕×地下鉄連続レイプ隊と来て比較的大きな見せ場も設けられる今作と、何気に最も安定した功績を残すジミ土は、前述した狼狂二に五十音順で郷田和彦・渡剛敏共々、地下鉄連続レイプ隊を二度務めてゐる。


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 令和2年映画鑑賞本数:85本 一般映画:20 ピンク:61 再見作:4 杉本ナンバー:10 ミサトナンバー: 花宴ナンバー:2 水上荘ナンバー:3

 再見作に関しては一年毎にリセットしてゐる。そのため、たとへば三年前に観たピンクを旧作改題で観た場合、再見作にはカウントしない。あくまでその一年間の中で、二度以上観た映画の本数、あるいは回数である。二度観た映画が八本で三度観た映画が一本ある場合、その年の再見作は10本となる。それと一々別立てするのも煩はしいので、ロマポも一緒くたにしてある。

 因みに“杉本ナンバー”とは、杉本まこと(現:なかみつせいじ)出演作の本数である。改めてなかみつせいじの芸名の変遷に関しては、昭和62に中満誠治名義(本名)でデビュー。1990年に杉本まことに改名、2000年更に、現在のなかみつせいじに改名してゐる。改名後も、旧芸名をランダムに使用する例もある。ピンク畑にはかういふことを好む(?)傾向がまゝあるゆゑ、なかなか一筋縄には行かないところでもある。
 加へて、戯れにカウントする“ミサトナンバー”とはいふまでもなく、ピンク映画で御馴染みプールのある白亜の洋館、撮影をミサトスタジオで行つてゐる新旧問はずピンクの本数である。もしもミサトで撮影してゐる一般映画にお目にかゝれば、当然に加算する。
 同様に“花宴ナンバー”は主に小川(欽也)組や深町(章)組の映画に頻出する、伊豆のペンション「花宴」が、“水上荘ナンバー”は御馴染み「水上荘」が、劇中に登場する映画の本数である。


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 「義姉と弟 禁断不倫」(1991『痴漢と覗き 義姉さんの寝室』の1998年旧作改題版/製作:新映企画《株》/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:亀井よし子/企画:伊能竜/撮影:千葉幸夫/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫/音楽:レンボーサウンド/撮影助手:古川俊/照明助手:北明夫/監督助手:杜松蓉子/スチール:田中スタジオ/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/出演:小泉あかね・たまき美香・英悠奈・石神一・芳田正浩)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。音楽のレンボーサウンドは、天衣無縫な本篇クレジットまゝ。何か凄く斬新通り越してアバンギャルドな選曲しさうな気がする、別にしないけど。
 夜の荒川家、タダシ(芳田)が兄夫婦のハネムーン土産を開ける。先走るとこのタダシが酒を飲めば煙草も呑むととつくに成人してゐると思しき割に、平日昼間に堂々とかのうのうと家でホケーッとかしてゐやがる、イズイズムばりに頓着ない造形。さて措きグラスを準備すべく階下に下りたタダシは、大絶賛お盛んな夫婦生活の嬌声に誘はれる。左右が狭められた、即ちタダシの覗き視点による後背位のハモニカにタイトル・イン。荒川(石神)の妻にしてタダシにとつては義姉の由美子(小泉)は、元々タダシの級友だつた。そんな二人のそこそこアクロバティックにも思へる馴初めも、ものの見事にスルーして済まされる。
 とまれ翌朝、荒川が新聞を広げようとすると、中から由美子との結婚を中傷する怪文書が現れる。追撃するかの如き無言電話も頻発、仕方なく恐らく自営の荒川が出勤してみると、職場の郵便受けにも乱暴な退職願を兼ねた怪文書が。横恋慕を拗らせてゐるのは、由美子以前に荒川とは男女の仲にもあつた、部下の沢村(たまき)だつた。一方タダシもタダシで、高校時代からの岡惚れをこの期に燻らせる。「人の気も知らないで」といふが、知らんよな、そりや。英悠奈はタダシの彼女、彼氏の由美子に対する想ひも知る、矢張り二人とは同級生。かうして書くとトライアングルにやゝこしさうにも見えて、実際は一幕限りを鮮やかに駆け抜ける、煌びやかな絡み要員。
 未見×未配信の新田栄旧作が、地元駅前ロマンの正月番組に飛び込んで来た1991年第九作。純正「痴漢と覗き」全十三作中、第八作に当たる。
 祝賀を装つた花束に、剃刀を仕込むほどの苛烈な沢村の横恋慕も、終に一線を超えもせず惰弱に地団太を踏むタダシの岡惚れも、兄貴と兄嫁はといふと綺麗に何処吹く風。のほゝんと夜毎の営みに終始、物語も展開もあつたものではない。例によつて由美子と荒川が励む締めの濡れ場は、臍に完遂。した後(のち)に被さる、「でも俺は矢張り、由美子ちやんが好きだ」なる芳田正浩の性懲りもないか往生際の悪いシャウトに叩き込まれる“終”が、何ッ一つ完結してゐないにも関らず、兎にも角にも満ちたか尽きた尺を強制終了。素面といふ意味での裸の劇映画としては、抜けるだけの底さへ見当たらない一方、三番手が―比較的―最も美人、二番手に至つては焼きそば頭の草加煎餅であつたりもするものの、とりあへず三人とも首から下はそれなりにプリップリで、裸映画的には辛うじてよりは幾分マシな程度で安定する。

 そんな他愛なさしか窺へない始終にあつて、結局モノにはし損ねつつ千載一遇がなくもない。相も変らずエッサカホイサカな荒川と由美子を、再度荒川家に来襲した沢村が窓越しに覗きながら、限りなく往来にしか見えない隣家との隙間でワンマンショーをオッ始める無防備な現場。に、英悠奈の部屋から帰宅したタダシが遭遇する神懸かり的に豪快なシークエンス。そこでタダシが沢村に手を出してゐれば、覗きは兎も角痴漢が出て来ない例(ためし)の多いシリーズではあれ、“覗き”に“痴漢”する変則的な形で珍しく“痴漢と覗き”が揃つてゐたのに。空前の好機をみすみす逃した時点で、雌雄は決せられてゐた一作ではある。


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