「黒い性感帯 喪服妻の太股」(1995/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:千葉幸雄/照明:隅田浩行/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:瀧島弘義・坂井秀治/撮影助手:嶋恒弘之/照明助手:根本浩輝/スチール:小島浩/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学㈱/出演:貴奈子・青木こずえ・葉月螢・吉本直人・真央元・杉本まこと)。出演者中葉月螢が、ポスターには葉山螢。一字しか違はないやうで、結構全然別人。
ブライダルなパンフレットから舐めて、シーツの中で男女が乳繰り合ふ。かと思ひきや出し抜けにブツッと―ホントにブツッと―切れる、謎暗転で墓地にタイトル・イン。墓地に最初から小さく映り込む、貴奈子と真央元を改めて抜いてクレジットは俳優部に。夫の一周忌、墓前に何時までも粘る桜庭紀美子(貴奈子)に業を煮やしつつ、義理の弟である徹(真央)が付き合はうかとしたところ、亡夫の大学ワンゲル部後輩である久世俊雄(吉本)が平服で現れる。かと思ひきや再びシーツの中で惚気る、久世と三ヶ月後に挙式を控へた婚約者の村上法子(青木)にブツッと切れ、二人は大絶賛婚前交渉に突入。絡みの中途で紀美子のアップに移行したかと思へば、再々度明らかにぞんざいなブッツブツした繋ぎで、逆アングルの紀美子のアップにカットが変る。動画がバグッてゐるのでなければ、どう見てもこの映画壊れてないか?兎も、角。半年前、遺品のスーツを今更クリーニングに出さうかとした紀美子は、亡夫の手帳を見つける。そこには“N”なる女との不義の記録が、簡潔ながらある程度克明に記されてゐた。
配役残り杉本まことが、北岳で雪崩に遭ひ死亡した紀美子の夫・耕一。遭難死については、紀美子が目を落とす手帳の登山に関する記述に、重ねられる雪崩的な音効の一点突破で切り抜ける、もしくは茶を濁す。葉月螢は、徹の彼女・山辺由香。ついでに徹と耕一は腹違ひとかいふ藪蛇な設定で、法子もワンゲル部後輩。
昨年そこかしこで回つてゐる、そのうち駅前に来さうな気配がなくもない一本―2000年第二作「社宅妻暴行 白いしたたり」(主演:佐々木麻由子)の、2007年旧作改題版「団地妻凌辱 白い肌をいただけ!」―を除けば、終にex.DMMの中にも未見作のなくなつた北沢幸雄1995年第一作。エク動が、飛び込んで来て呉れたりすると勿論脊髄で折り返してポチる。この期な北沢幸雄の新着に、どの程度の訴求力があるのかは知らんけど。弟子の威を借りて、シネフィルが釣れんかいな。
序盤のズッタズタな編集と右往左往する時制は忘れたフリをすると、喪服妻が亡き夫が不貞を働いてゐた泥棒猫に、自身に向けられた義弟の劣情を利用してトゥー・マッチに報復する。女の裸に特化する本義に即するならばなほさら、シンプル極まりない物語。徹に“N”こと法子を、菊穴まで犯させるは法子の眼前、久世を―二度目に―逆寝取るはとやりたい放題大概な紀美子の姿には、浜野佐知の如くブルータル、もといパワフルな女性上位思想に裏打ちされてゐるでなく、流石に感情移入に難い。とは、いへ。恋焦がれる義姉さんの要求に全て従順に従ひ、目出度くといふか何といふか、何はともあれ御褒美を頂戴する徹のエモーションには、真央元(a.k.a.真央はじめ)が元々内包する、あるいは主力兵装たる歪んだ純情にも加速され、日陰に燻るか拗らせた琴線を、激弾きするサムシングが確かになくはない。法子と久世を婚約解消にまで叩きのめした―そもそも久世にとつては、盛大なとばつちりもいいところである―紀美子が、桜庭の家から籍を抜き、徹に別れも告げず何処かへと立ち去るラストを、トップのその先にギアを捻じ込んだ精緻な演出によつて、あたかも本格的な悲恋物語かの如く昇華してのけるのは、北沢幸雄ならではの端正な力技。徹が紀美子に告白し、紀美子はそれに対して何も答へない。カメラが二人の前後を文字通り劇的に回り込み、マオックスから貴奈子に、的確にピントを送る。中盤以降の極悪非道を思ひ起こすに、シークエンスの美しさが寧ろ不思議ですらある、曲芸じみたアメイジングな一作。逆に論を俟たず評価に足るのが、大胆な葉月螢即ち三番手の起用法。紀美子への想ひを滾らせる徹が、手篭めにするかのやうに由香を抱いて、それきり。一見粗雑に見せて、徹的な外堀を踏まへると案外合目的な用兵術には素面で感心した。
もう一点特筆しておきたいのが、貴奈子がオッカナイ役柄に身動きを半ば封じられる一方、紀美子から疑惑を突きつけられるや、豪快に開き直つてみせる法子に扮する青木こずえ。ワン・アンド・オンリーの鋭角な清々しさが、華やかに花開く。
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