真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若奥様 スワップでメロメロ」(1997/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/脚本:八神徳馬/編集:㈲フィルムクラフト/助監督:井戸田秀行/監督助手:広瀬寛巳/撮影助手:倉田昇/照明助手:佐野良介/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:真純まこ・工藤翔子・悠木あずみ・麻生みゆう・杉本まこと・久須美欽一・樹かず・下川オサム・山本清彦・姿良三)。自由自在な位置に来る脚本クレジットは本篇ママで、出演者中姿良三(=小川和久)が本篇クレジットのみ。
 麗しの七色王冠開巻、寝室の壁を飾る、駱駝の隊列が描かれたタペストリーにタイトル・イン。ラストでは位置から違ふ、帆船の描かれた別のタペストリーが恐らく何の含意もなく出現する、無駄に紛らはしい真似を仕出かさないで欲しい。
 ベッドで本を読む準教授の夫・高橋幸治(杉本)に、妻の彩(真純)がてつきりお強請りするものかと思ひきや、定石を外してとつとと床に入る。幸治主導でオッ始まりはしたものの、彩のノリが甚だ悪い初戦は中途で打ち切つて何処園大学(ウルトラ仮称)。台詞上は雑誌記者の近藤(樹)が、高橋から小文の原稿を受け取る。編集者にしか見えないんだけど、矢張り台詞上で上司は編集長だし。さて措きその日彩は高校の同窓会で外出してゐるゆゑ、高橋は近藤を飲みに誘ふ。
 配役残り、それらしきロケーションを工面する手間なり袖を惜しみ、二人とも不釣り合ひなドレスで新宿公園に飛び込んで来る工藤翔子は、彩の同窓生・絵美。彩が絵美に高橋との何となくな不仲の悩みを打ち明けかけた、話の途中で何処園大の高橋個室に逆戻り。近藤が「ぢやあ先生、新宿の居酒屋『いざこざ』ですね」とその夜のランデブーを確認するのが、地味に火を噴く超絶の繋ぎ第一弾。いwざwこwざwww、ハイセンス過ぎるだろ。二軒目以降なのか、高橋と近藤が入る摩天楼がカウンター右手でなく、背中にあるので恐らく美風のバーテンは、未だフッサフサの広瀬寛巳。思ひきり普段着どころか殆ど部屋着にさへ映る、ボサッとしたTシャツ姿で登場する下川オサムは絵美が彩を招いた浮気用の別邸に現れる、絵美いはく“マイペット”のタクヤ。所詮ツバメの分際で、絵美と所帯を持つ色気を滲ませる身の程知らず。悠木あずみは、近藤が高橋を連れて行くイメクラの嬢・マリ。そして久須美欽一が、絵美が愛人から本妻の座に横滑りしたフルハタ。麻生みゆうと山本清彦は、フルハタの誕生日パーティーと称した要は乱パの頭数要員。大事でないことを思ひだした、最初はタラタラ踊る程度の、パーティー開宴。「Don't Stop Me Now」のメロディを清々しくパクッた、忘れてなければ多分初めて聞くボーカル入りのトラックが使用される。一見他愛ないヒッチコックかぶれに思はせて、案外満を持す姿良三は、彩の父で娘と高橋の結婚も決めた小川教授。パーティー当日、高橋は小川と学会で京都に。何時から、あるいは如何なる形で、学会と来れば京都といふのが定番になつたのか。兎も角フルハタにペヨーテを飲まされた彩が、タクヤと軽くチークを踊るだけで大概メロメロになるシークエンスから、小川欽也となかみつせいじの2ショットをインターミッションに挿んで、大乱交に突入してみせる無理のない飛躍が何気に超絶の繋ぎ第二弾。
 封切りが十一月終盤となると、女優部四人態勢も正月映画といふ訳では別にない、小川和久1997年最終第四作。夫婦生活にしつくり来ないものを感じてゐた若奥様が、アグレッシブに捌けた友人の手引きで参加したスワップで一皮剝け、配偶者と固く結ばれる大団円に辿り着く。高橋は不感症と認識してゐた彩のノリの悪さが、抑遜してゐたとかいふ唐突な方便は豪快に竹を接いで来つつ、締めの濡れ場を完遂させない画竜点睛の欠き具合を除けば、全く以て磐石な裸映画。今上御大旧作を集中的に見てゐて改めて感じるのが、久須美欽一は絡みが本当に上手い。女優部の裸を、群を抜いた安定感で愉しませる。素面の映画的に面白いのが、高橋がヤリチンの近藤に彩の不感症に関する相談を、意図的に過剰な演技で友人の話を装ひ持ちかける件。実も蓋もない第一打「男のリードの仕方が不味いんぢやないですかねえ」に、適当な第二打「強引にヤッちやへばいいんですよ」。そしてすつかりお見通しの第三打が、「教養が邪魔するんですかねえ」。樹かずが色男の高みから華麗に撃ち下す三連撃が、素晴らしく綺麗に決まる。


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 「女教師《秘》教へてあげる」(昭和54/製作:日本シネマ/配給:新東宝興業/監督・脚本:梅沢薫/撮影:笹野修司/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/音楽:芥川たかし/出演:風間舞子・浜崎マヤ・浜圭子・国分二郎・加倉井和也・木村明・浅井鉄)。
 校舎から原つぱに引いて、VHS題「Dカップ女教師 教へてあげる」でのタイトル開巻。脊髄で折り返した危惧は的中、梅沢薫に、俳優部も三本柱と浅井鉄しかクレジットしない新東宝ビデオの糞仕様に匙を投げる。死ね、半分死んでるやうなもんだけど。なので残りはjmdbで埋め、ビリングはポスターに従つた。
 パンか何か食ひ食ひ走つて来た角帽のタツヤ(浅井)が、セーラー服だけど場末のホステス程度にしか見えない山本キョーコ(浜崎)とランデブー。タツヤ宅にしては、表札が多分別の名前に映るアパートの一室に駆け込んだ二人は、昼休み中に一発イタして、再び高校に帰還する競技感覚の逢瀬に挑む。一方放課後、タツヤに揶揄されつつ秀才の三郎(加倉井)は、キョーコの姉で同じ学校の恐らく英語教師である和子(風間)の、どうやら姉妹二人暮らしにしては、豪邸の領域に余裕で敷居を跨いだゴージャスな自宅に。何とそこで金を払ひ和子の個人授業を受ける三郎は、矢張り同じ学校の教諭である高村(国分)が和子を訪ねて来るのを見計らひ早々に辞す。妻帯者である高村と和子の要は不倫を、三郎はキョーコから聞き知つてゐた。
 配役残り浜圭子は、会話を窺ふに和子の同級生・ヒサコ。配偶者(木村)とサブラウンジ「ケープ」を営むものの、和子が足を運ぶ劇中二回が二回とも店内で真最中かつ、少なくとも和子の存在はそれでてんで意に介さない愉快な夫婦。
 日本シネマ製作のクラシックがex.DMMで見られる僥倖に、釣られてみた梅沢薫昭和54年最終十三作。齢相応に童貞を拗らせる三郎がDカップ女教師に燻らせる劣情と、穏当な性愛の紗回想―あるいは妄想かも―が頻繁にカットバックされるのが、結局何処にも結実しないのが却つて驚きな、メタルフレームのツーブリッジがどヤクザにしか見えない、高村が矢鱈と本格的に和子を責めるサドマゾ。ヒサコ夫妻は能天気な絡み要員にしても、結局諸々の要素が一欠片たりとて深化しなければ絡み合ひもしないまゝに、畢竟何時まで経つても起動しない物語らしい物語。挙句にケープにて観音様の木村明と、口にはヒサコに突つ込まれたバナナ。藪蛇な二穴責めを経て帰宅した和子が高村がキョーコにも手をつけてゐるのを知りながら、翌朝何事もなかつたかのやうに仲良く家を出る、闇雲に壮大なオーケストレーションにも彩られた底の抜けたラストにはグルグル何周かした形容し難い感興を喰らつた。古びた画面の肌触り以外一切得るものの見当たらない、ある意味腹の据わつた裸映画ではある。以上も以下も、それ以外に評しやうがない。


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 「スージー明日香 緊縛の舞」(昭和61/製作:ローリング21/配給:新東宝映画/監督:渡辺護/脚本:しらとりよういち/企画:渡辺護/撮影:志村敏夫/照明:石部肇/編集:田中修/音楽:飛べないアヒル/現像:東映化工/録音:銀座サウンド/助監督:塙幸成・大野芳嗣/撮影助手:古谷巧/照明助手:山田一/出演:スージー明日香・更衣詩子・風原美紀・堺勝朗・田村寛・岡大介)。
 古民家の白黒画に、ローリング21クレジット。直ぐ様カラー復帰、地味に尻がエロい女中が階段を上がり、別の女の観音様を背負つた背中にタイトル・イン。彫師の九条清治(堺)が、根を詰めて久子(スージー)の背に観音を彫る。女中の一枝(更衣)が告げる薬の時間を無視しつつ、ある意味定刻に発作を起こした九条は昏倒。慣れた風情で、一枝が口移しで粉薬を飲ませる。中略して久子の肌の、朱の発色に不満を覚え煮詰まる九条は、一枝が顔色を変へる“あの男”の招聘を思ひたつ。
 配役残り、口跡だけなら津田寛治の岡大介は、飲み屋を潰した借金の形に、久子を九条に売つたクソ亭主・安夫、体を表す名が清々しい。口跡だけなら津田寛治なんだけど、千鳥足も別の意味で覚束ない大根。風原美紀は、目下の安夫の情婦・ひろ子、夜の女。精一杯、ただの濡れ場三番手で済ませようとはしなかつた、節は窺へなくもない。そしてティアドロップが戯画的に似合ふ佇まひは悪くないものの、一言でも口を開くや下卑た地金が出てしまふ田村寛が、九条が呼び寄せた縄師・流山童子。
 四月七日に緊急事態宣言が発令されて以降も、十二日までは営業を続けてゐた福岡県下映画館最後の砦たる地元駅前ロマン―とパレス―が、遂に十三日からクソ国は補償もしやがらない休業に突入。そのため、ex.DMM戦で十七日から来る予定であつた渡辺護昭和61年第一作、残りは買取系とミリオンの全三作。
 何時の間にか見初められてゐた彫師に売られた女が、何時の間にか縄の味を覚える。言葉の響き的にはより眼力に近い、堺勝朗の目力。何時の時代でも十二分に戦ひ得よう、粒の揃つた女優部と、あくまで汚くはならなくも苛烈な、見応へある責めの描写。丹念に積み重ねられた一幕一幕が、ある程度深い映画的充実を湛へる、にせよ。白鳥洋一が何処まで書いてゐたのか、あるいは渡辺護がどれだけオミットしたのか。一枝の外堀は九条と流山双方向にまるで埋められず、篭の鳥があまりにも判り易すぎて、寧ろ暗喩だとは思ひたくないひろ子周りのありがちなシークエンスは、三文に値引きされる。久子に至つては彫られ縛られする内に、勝手に開花した印象、狂ひ咲きか。状況的にはハードランディングともいへ、定番みの色濃いラストに大人しく収まるとあつては、よくいへば広い行間に余裕を持たせた、直截にはモサーッとした作劇が、最終的には薄さか安さを露呈してしまふ印象が強い。当時的には最先端であつたのであらうが、ダサいシンセがその癖下手にラウドに鳴る劇伴は聞くに堪へず、仕出かしたスタッフの足下が映り込むだとか、九条の刺し棒で頬を切られた安夫が、その前に何某か刺したのか刺さなかつたのかゴチャゴチャしてよく判らない。終始狙ひ過ぎかねないほどキメッキメに画角と距離に凝り倒す割には、選りにも選つてクライマックス近辺で激しく出来の宜しくないカットが散見されもする。殆ど積極的に観るなり見てゐないといふのも否定はしないが、橋が転ぶと祭り上げられる渡辺護といふ映画監督を、当サイトはこの期の未だに理解してゐない。

 逆の意味で見事なのが、調教の目処のついた久子に対し、九条が「女といふものはな、男に愛されるやうに出来てゐるものなんぢや」、“なんぢや”ぢやねえよ。現在の、所詮は偶さかな価値観で過去を一方的に裁断する悪弊に関しては、保守を標榜する以上なほさらいはれなくとも忌避するところであれ、流石にこれには震へた。その煌びやかなまでの旧さをこそ尊ぶか勿体ながるべきなのかも知れないが、正直付き合ひきれない。浜野佐知は、この手の人等と戦つてゐた、もとい今も戦つてるんだらうな。


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 「若妻侵入 淫乱まみれ」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/脚本:八神徳馬/撮影助手:倉田昇・樹かず/照明助手:佐野良介/編集助手:網野一則/音楽:OK企画/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学㈱/出演:西野奈々美・青木こずえ《新人》・吉行由美・久須美欽一・太田始・中川朗・杉本まこと)。他人に書かせても独特の位置に来る脚本の八神徳馬は、本篇クレジットまゝ。本名で演出部に入るのは何度か見覚えもあるが、樹かずの撮影助手は初めて見た。
 西野奈々美(大体ex.草原すみれ)のワンマンショーで轟然とタイトル開巻、クレジット追走。爆乳のジャスティス、腹肉もダブついてゐる気がするのは目の錯覚にさうゐない。結婚三年の麻生良子(西野)が台所に立つてゐると、夫の繁からその夜も泊り残業の旨を告げる面倒臭げな電話がかゝつて来る。となると最早当然とでもいはんばかりの流れで、受話器を置いた繁(杉本)はといふと、浮気相手・ナツミ(主不明アテレコの青木こずえ)宅でしかもベッドの上。正常位→対面座位→後背位と移行する、教科書通りの綺麗な濡れ場を繁とナツミが完遂する一方、良子は健気にも良人を思ひながらのワンマンショー。は、何時も良子が自分でするのを見て俺もしてゐるゆゑ、“俺達毎晩バーチャルセックスしてるんだぜ”とか嘯く超絶キモい怪電話に遮られる。買物に出た良子に、御近所の奥田光江(吉行)が接触。繁が、若い女とホテルに入るのを目撃したといふ。そもそも、光江も光江でどうしてホテル街にゐたのか。良子の脊髄で折り返した怪訝な表情に対し、悪びれる素振りも見せない光江の答へが団地妻仲間で運営するデートクラブ。光江から誘はれた良子は、繁の不貞ごと否定して立ち去る。見送る光江が浮かべる魔女の如き微笑が、吉行由実ここにありを煌めかせる十八番のメソッド。
 配役残り、顔面の濃さで独特の存在感を画面に刻み込む、画力(ゑぢから)を誇る太田始は良子が電話帳から辿り着く、繁の調査を依頼する探偵・古賀。久須美欽一が、光江が初陣の良子を斡旋する水揚げ客。中川朗は超絶端役の繁商談相手、ではなかつたんだな、これが。ところで俳優部に誰一人、撮影部セカンドより男前がゐない現場。
 一言でいふと小川和久を甘く見てゐた、1994年第九作。夫の不倫に動揺する若妻が、主婦売春の甘い罠に転びかける。最終的に調子に乗りすぎてナツミにフラれた繁と、良子が痛み分け的にヨリを戻す着地点から随分に大概なのだが、ピリオドの向かう側に易々と加速する、小川欽也の度を越した無頓着として当サイトが謳ふイズイズムは止まらない。最初は夢でオトす、東映化学の屋上入口で良子を犯す謎の覆面氏。久須りんの下を土壇場で逃げ出して来た良子は、光江にヤキを入れられかける。その場を救つて呉れた古賀を自宅に上げた良子が、幾ら古賀が汗をかいてゐるとはいへ、シャワーを振舞ふ件はどう考へても膳を据ゑてゐるやうにしか映らないものの、想定外の明後日だか一昨日に急旋回。古賀の手荷物を漁つてみた良子は、夢の筈である覆面氏と同じ覆面をその中に発見する。凶悪な光江の告発電話を受けた繁が、良子を売女呼ばはりした挙句フルスイング張り手をカマすとなると、何処からどう見ても修復不可能に思へた夫婦仲がリカバリする時点で既に度肝を抜かれつつ、だから今上御大はその先へと行く。前なのか後ろなのか、最早ベクトルはよく判らないけれど。三度目の屋上来訪で目出度く良子が手篭めにされる覆面氏の正体が、実は良子と会話したのは一回きりである電話氏との、関係は不鮮明な中川朗。おまけに古賀の鞄に何故か入つてゐた覆面に関しては、遠く時の輪も接しない時空の彼方に等閑視。その上で、帰宅した繁を、良子が好物の肉じやがで迎へるのが頭のおかしなハッピーエンド。ハッピーといふか、もうこれクレイジーだろ。井戸田秀行の変名説も囁かれる八神徳馬の脚本が余程酷かつたのか、単に小川和久のへべれけが過ぎたのか。秀逸か大胆な構成が観客の経験律的な想像力を超えるでは決してなく、プリミティブな意味で出鱈目にもほどがある展開は到底予測不能、こんなもの読める訳がない。とかいふ次第でマトモな劇映画だと思つて相手しようとすると、発狂はしないまでも著しく消耗する一作ではあれ、西野奈々美に加へ勝るとも劣らないオッパイを悩まし気に誇る吉行由美をも擁し、裸映画的には磐石に安定する。光江が久須りんに良子の非礼を詫びる形での、吉行由美と久須美欽一による六分半を跨ぐ中盤の長丁場だけで、元は十二分に取れる。


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 「凌辱ホステス ぶち込まれて」(2019/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:宮原かほり/照明:大久保礼司/録音:荒木俊一/殺陣師:永井裕久/ポスター:田中幹雄/助監督:両国太郎/撮影助手:榮丈/照明助手:藤田洋介/制作助手:四谷丸終/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:海空花・水谷あおい・成宮いろは・望月りさ・藍色りりか・朔田美優・《友情出演》里見瑤子・《友情出演》長谷川千紗・野村貴浩・佐々木狂介・清水大敬・細川佳央・折笠慎也)。出演者中、里見瑤子・長谷川千紗のカメオ特記と、清水大敬は本篇クレジットのみ。逆に、ポスターにのみ中野剣友会が載る。
 適当なロケーションにて、大雑把な大乱闘。顔は見せない大柄な女の、初めから当たらない間合ひの両フックを主演女優がスウェーした画にタイトル・イン。明けて飛び込んで来るのが、細川佳央の遺影。株で作つた借金を遺し死んだ両親(遺影すらスルー)に続き、求婚まで受けた木下達夫(細川)をも交通事故で喪つた山口裕子(海空)が悲嘆に暮れる。ジャスティスなオッパイの大写しで火蓋を切る、事後指輪を受け取る木下との婚前交渉の回想を完遂した上で、残された借金の返済に加へ裕子が学費の面倒も見る、看護系専学生の妹・弘美(望月)が顔を出す。矢継ぎ早に弘美の恋人で医者の卵の吉岡健児(折笠)と、幼少期から裕子が嗜む武道の師匠・桐野利秋(清水)も弔問に現れる山口家を、両親が金を借りてゐた金融会社の用心棒格・谷口(野村)が子分(中野剣友会?)を引き連れ急襲。どうでもよかないが、竹刀をステッキ感覚で持参するへべれけな造形はどうにかならないのか。この人達は悪役です、流石に、幾ら量産型娯楽映画とはいへそこまで判り易くある必要はないと思ふ。さて措き、裕子が働く店内装飾の殺風景な高級―らしい―クラブ。客の中には、国沢実と高橋裕太が殆ど常駐感覚で見切れる、大部屋か。裕子に客を奪はれた明美(水谷)は限りなく憤怒に近い、箍の外れた苛烈な憎悪を燃やし、ママの博子(成宮)がそんな二人の火種に気を揉む。藍色りりかと朔田美優は、その他嬢の藍と美由紀、識別可能なくらゐ近づいて抜かれもしない。
 配役残り、眉はあるいは剃つたにせよ、禿て太つて人相のまるで変つた佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)が件の金融会社社長、と来れば当然のやうに鮫島。長谷川千紗は、弘美バイト先の居酒屋女将・恵。クラブと居酒屋合はせて、客要員は十人超。居酒屋を訪れ、古典的な手口で弘美を誘拐する医師と看護師に扮した男女が、郡司博史と末田スエ子。里見瑤子は、最初は吉岡の子を宿した弘美を診察する、こちらも地味に御馴染の港川総合病院の産婦人科医。若干名の鮫島軍団―のち明美軍団―が中野剣友会、自分から蜻蛉を切つて裕子に投げ飛ばされる、愉快なアクションを披露する。
 併映のエクセス旧作が公式ブログの番組とは違つてゐたため、本当に上映されるのか否か肝を冷やした清水大敬2019年第一作。といふかアカを持つてゐるのだから、小倉名画座はツイッターも適宜活用して欲しい。勝手な話でしかないが、こつちは博多から遠征を出張つてるんだよ。
 義父の性的虐待で壊れた異常者に売られた喧嘩を、自制といふエレメントは一切学んでゐない血の気の多いヒロインが買ふ―だけの―物語は、ただでさへドラマツルギーが平板な上ダンプなり、忠臣蔵といつた特徴的な意匠も欠き、大きいのも通り越して薄味な印象すら強い。そもそも劇中凌辱されるホステスは見た感じ和姦と紙一重の博子一人きりで、ホステスではないが、弘美に関しては言語情報のみで処理される。攫はれた妹の身代りになつた裕子が犯され倒した末に、絡みが一段落するタイミングを見計らつて激昂した清水大敬がその場に漸くカチ込む。新味なり新奇を摸索する柄でもあるまいに、どうしてその手の定番展開に思ひ至らなかつたのか疑問も残る。もしかすると、三作連続の可愛い主演女優を酷い目には遭はせたくない親心的な邪念が、清水大敬に生じたものやも知れない。かつての清大であつたならば、情け容赦も呵責もなく嬲り尽くしてゐたのではなからうか。ついでに執拗な割には単調に繰り返されるばかりで、結局一欠片たりとて深化するでも満足に機能する訳でもない点には逆に吃驚させられる、大丈夫ネタには腹を立てる気も失せる反面、寸暇を惜しまず、不自然なカットも懼れず。事ある毎に女優部三本柱の下半身に文字通り肉迫し際どい画を刻み込み続ける、姿勢ないし至誠は断固として正しい。清水大敬と同じ圧と熱量とを、清水大敬ほどの資質を有さない俳優部にも強要、もとい要求する。狂騒と狂乱の境界線上で、清大映画の業を一身に背負ふのは永遠の二番手・水谷あおい。何時の間にか谷口が明美に籠絡されてゐることに、気づいた鮫島が怪訝な表情を浮かべる。動揺する権力のドラマが起動するのかと身を乗り出しかけたのは、勿論そんな訳がない早とちり。ではあれ、左右から谷口と明美にブッ刺され、鮫島が惨殺されるサプライズには思はず声が出た。修羅場に中野剣友会が持つて来る謎のマイクスタンドが、明美に「Show Time!」のシャウトを一言叫ばせる用途限定といふのは噴飯必至。監督キャリア二十有余年、薔薇族含め本数も三十本を超えてるんだぜ、どうすれば斯くも画期的に頓珍漢なシークエンスを堂々と撮れるのか。無邪気といふか無作為といふか言葉を探すのに苦労するが、兎も角チャーミングな御仁である。


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 「ある女教師 緊縛」(昭和53/企画・製作:新東宝興行株式会社/配給:新東宝映画/監督:高橋伴明/脚本:高橋伴明/撮影:伊東英男/照明:磯貝一/音楽:PUPA/編集:竹村俊司/助監督:成田裕介/監督助手:磯村一路・国重和人・鈴木敬晴/撮影助手:長田勇一/照明助手:西池彰/効果:サウンド184/録音所:ニューメグロスタジオ/現像所:東映化工《株》/協力:銀座アラジン Tel 567 3623・新宿二丁目 だんしやく Tel 354 7764/出演:岡尚美・波田夏樹・山下エミ・山田一・馬津天三・野上勉・海虎男・鈴木英雄・下元史朗)。出演者中馬津天三は、本篇クレジットのみ。監督と脚本を別立てにしたのは、本篇に従ふ。
 五時を指す時計と代ゼミの合格者名簿に、表のロング?を連ねてE-4教室での私大対策英語集中講座。先生である遠井恵子(岡)は少々薹が立つてゐたとて構はないにせよ、どいッつもこいつも十九二十歳には見えない生徒部の画面(ゑづら)が凄まじい。あと密集した机の間隔が、訳が判らないくらゐ狭い。合格者名簿に「ウンコめ」と毒づく三浪生・野上勉(山田)の顔見せ挿んで、板書を終へた恵子のドヤ顔に、女の絶叫が入れられたかと思ふやタイヤで吊られた岡尚美がグルグル回されるブルータルなショットにタイトル・イン。最早女の裸云々といふよりも、殆どショック映画に近い。そして起動する全篇を貫くメイン・テーマが、Nazarethの「Please Don't Judas Me」(1975)。この曲だけ聴くとサイケにも聞こえつつ、HR/HMの系譜に括られる模様。正直この辺りの匙加減、門外漢には測り難い。退勤時、往来で声をかけて来た渋沢竜雄(下元)を恵子がその場では邪険にした割に、何の意味があるのか別にないのか帰宅後右顎に偽黒子を描くと、改めて渋沢とランデブー。マンションの一室のやうな謎部屋でエミ(山下)と百合の花を咲かせたのち、渋沢宅に移り改めてガッチガチに責められる。エミのポジションがペケ街の新東宝公式には秘密クラブの女とあるものの、エミから渋沢に金の入つた茶封筒を渡すカットを窺ふに、エミが愛人業で得た金で、渋沢から恵子を買つてゐる間柄と邪推。あくまで、純然たる下衆の邪推。使用禁止の下階段―劇中呼称ママ―を簡易アジールとして共有する形で野上と徐々に距離を近づける一方、恵子は渋沢に呼び出されては、ギッチギチにフン縛られるかエミに抱かれる日々を送る。ここまでで山下エミが、大体ex.山下エミで日野繭子。ハスキーな声で目ならぬ一耳瞭然の山下エミも兎も角、軽く声の潰れた下元史朗もアテレコに聞こえるのは気の所為か。それとも、単に発声が若いだけ?
 配役残り波田夏樹は恵子が再会する、高校教師時代のex.教へ子・木村しのぶ。渋沢率ゐるヒャッハーズ(多分野上勉・海虎男・鈴木英雄)にしのぶが犯されてゐる現場に、飛び込んだ恵子も輪姦される。された事件がタイトルバックのタイヤ吊りと恵子の前職退職事由、その瞬間マゾ性を見抜いた渋沢が、以来恵子に付き纏ふ因縁に繋がる。そんな恵子としのぶが、各々予備校教師と浪人生、とかいふ新しい境遇で邂逅を果たす超奇遇。はさて措き、野上とウンコ人生観を共有するデブが、馬津天三らしい。
 地元駅前ロマンにて、“懐かしの新東宝「昭和のピンク映画」シリーズ!”で高橋伴明昭和53年第一作。実際強力らしいロマポに対し、訴求力のほどは如何なものなのか。
 何はともあれ、肝心要の発端たる過去が明らかとなるのが、何を出し惜しんだか尺も終盤に突入して漸く。そのため恵子と渋沢の関係が何時まで経つても判然とせず、昼の英語教師と、夜の性奴。昼夜で極端に相異なる、二重生活の外堀は畢竟埋まらない。野上が馬津天三と拗らせる、厭世観も深化し損なひ精々木に竹を接ぐか、枯れ木に造花を賑はす程度。縄に絞り込まれた岡尚美(a.k.a.丘ナオミ)のデローンとしたオッパイは矢張りジャスティスで、諸々の緊縛ショットを繋げる、いはば動くエロ本の一頻りは量産型娯楽映画ならではの、実用性を獲得しもする。さうは、いへ。せめて綺麗にクロスを合はせた、迎撃する最初の一太刀で仕留めておけばなほ一層鮮烈でもあつたものを、人を殺しておけば―か何か燃やしておけば―とりあへずオッケーだらうといはんばかりのラストには、衝撃よりもぞんざいさが先に立つ。バンメーバンメーと有難がるにはまるで当たらない、リアルタイムが煮るなり焼くなりどうとでも出来さうな一作。俺は保守だけど、古けりや涎を垂らして喜ぶ訳ではないんだぜ。


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 「濡れた愛情 ふしだらに暖めて」(2019/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/監督:髙原秀和/脚本:宍戸英紀・髙原秀和/撮影監督:下山天・田宮健彦/音楽:野島健太郎/録音:竹本未礼/助監督:江尻大・小関裕次郎・島崎真人/撮影助手:高嶋正人/整音:野島健太郎/編集:高原秀和/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:末永賢・国沢実・永元絵里子・村上典子・五十嵐理/出演:小倉由菜・並木塔子・那波隆史・涼南佳奈・吉田憲明・山田奈保・櫻井拓也・稲田錠・金田敬・山岡竜生・泉正太郎・山本宗介・可児正光・下元史朗)。出演者中金田敬は、本篇クレジットのみ。確かに監督がついてゐるのを確認したが、撮影監督が二人ゐるといふのも斬新なクレジットではある。
 物騒か、ある意味判り易く金属バットをカラカラ引き摺り歩く小倉由菜と、それをポカンと見やる並木塔子。今カノの芦田チカ(山田)と連れ立つミュージシャンの元カレ・富樫広夢(吉田)を、家出少女発風俗嬢経由、目下は大絶賛無職の松崎いつか(小倉)が襲撃。凶悪にも「夢をブッ壊す!」だなどと、いつかはギターを弾く富樫の指を金属バットで殴打しつつ、チカが持ち歩く、スタンガンにあつさり返り討たれる。一時的に活動の停止したいつかを、月島佐知子(並木)は間柄が不明の片桐真一(那波)と営むスナック(屋号不詳、ムーンライト?)に担ぎ込む。その日は佐知子が昼のランチ営業を見据ゑ、開発中のカレーを振舞はれ辞したいつかは、中略した後日出し抜けにスナックを再訪。ランチを始めた店でアルバイトしながら、元小学校教諭の佐知子に勉強を教はり高校卒業の資格を目指す格好になる。とこ、ろで。正直顔つきから他の女優部とは地力の違ひを感じさせる山田奈保が、那波隆史と同じ芸能事務所「ストレイドッグ」所属。直截にいふと無論、那波隆史よりも余程上手い。
 出演者残り、役作りなのか何なのか別人のやうにモサーッとした涼南佳奈は、いつかと同居する風俗嬢・倉持ひな。といふかいつかが収入がない以上、事実上の居候か。国沢実2013年第二作、「女警備員 まさぐり巡回」(脚本:内藤忠司/主演:織田真子)以来となる下元史朗は佐知子の叔父で、仮称「ムーンライト」のオーナー・春一郎。髪も薄くなりパッと見のお爺ちやん化は否み難いものの、ここぞといふキメ処での声の張りは未だ衰へず。櫻井拓也は見てるだけのいつかも交へた、教師と生徒プレイに興じるひなの客。つけられた劇中呼称がアナル先生、酷え(笑。柴原光ピンク第三作にして映画通算最終第六作「若菜瀬菜 恥ぢらひの性」(1999/監督:柴原光/脚本:沢木毅彦/主演:若菜瀬菜)、盛大か壮絶にやらかした髙原秀和前作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/うかみ綾乃と共同脚本/主演:榎本美咲)に続く、ピンク三戦目となる稲田錠(G.D.FLICKERS/Vo.)はランチ初日、最初に来店する客・川谷建一、金田敬が二人組の連れ。。春一郎に対して、“社長”と気軽に呼びかける懇意の知人。SNSに上げる写真をテレッテレ撮影したりだとか、ロックでもなく、もとい碌でもなくどうでもいいシークエンスに茶を濁す。恐らく協力の五人は繁盛するカレー部、どう見ても、その数倍の頭数が最盛期には見切れる。山岡竜生と泉正太郎は、既に結構酔つた状態で夜のスナックに現れる佐藤と田中、強制連結要員。山本宗介と可児正光は、チカに乞はれか雇はれ自宅にいつかを急襲する、ほぼ黒尽くめのウェーイ・アキラとコウジ。端役で使ひ流される、山宗を観るたび胸が痛む。ここいらで誰か本腰入れて、決定力のある代表作を撮つて貰へないものか。
 猫を被つた電撃上陸作「フェチづくし 痴情の虜」(2018/原作:坂井希久子/主演:榎本美咲・涼南佳奈)、稲田錠のフィルモグラフィーに関して触れた「トーキョー情歌」を経ての、髙原秀和大蔵第三作。髙原秀和が2019年ピンクは今作きりに止(とど)まる一方、キング・レコードの今後存続するのかは謎なR15+レーベル「Erotica Queen」には二本喰ひ込み、今年も依然オーピーに継戦する模様。
 拠り所のない若い娘が、妙にカインドな飲食店に転がり込む。さう聞くと如何にも「スナックあけみ」的な人情譚かと思ひきや、どうしても読めなかつた並木塔子の配役が、妊娠してゐた息子のダイスケを交通事故で喪つたのち、片桐と八年ぶりに復縁した元嫁といふ設定に度肝を抜かれた「制服美少女 先生あたしを抱いて」(2004/主演:蒼井そら)驚愕の続篇。春一郎は当然月島家が総スカンで反対する中、佐知子唯一の味方といふポジション。そんな昔の映画知らんがなといふ方に向け簡単に掻い摘んでおくと、当時高校教諭の片桐が出産を控へた妻―全く登場せず―が実家に帰つてゐる隙に同僚と不倫した挙句、関係を持つた女生徒を自身が運転する車から不慮の事故で死なせておいて、そのまゝ放置するのが「先生あたしを抱いて」のどうしやうもないラスト。
 「スナックあけみ」スーパーライトに関しては、前回の大概なマイナスがゼロに復旧する程度には、腹も立てずに観てゐられる。別に、面白いとは一言もいつてゐない。ところが後半、発熱といふ形で佐知子が一旦退場。片桐が前面に躍り出て来るや、途端に十年どころか十五年一日の自堕落さが爆裂してのけるのには、最早逆の意味での髙原秀和と那波隆史の鋼鉄よりも硬い相性に最早観念するか匙を投げるほかない。徒に内向し、猥らに堂々巡り、力なく燻る。髙原秀和の大蔵三作全てに参加してゐるゆゑ近しく映るのは似た者同士なのか、国沢実に劣るとも勝らず酷い。ついでにさうなると余計に際立つのが、ライブハウスから連れて来た飛び道具が仲野茂から稲田錠へと激しくスケールを落としてゐる分、ただでさへな映画総体の絶望感に、明後日か一昨日な見所をも欠いた、粒の小ささが火に油を注ぐ。濡れ場よりも素の表情の方が魅力的な主演女優を擁し、裸映画的な訴求力も然程ですらなく高くはない。何某か言ひ分なり企図するところも―下手に―あるのであらうが、カットを煩雑に割つてみたり不用意に暗く撮つてみたり、かと思へば今度は思ひきりオーソドックスに攻めてもみたり。絡みの演出自体、逐一安定しない。せめて潔くか鮮やかにでも、死ねばいいのに出奔した片桐が土方として生きさらばへるのは百歩譲つて兎も角、改めて片桐の子を宿した佐知子が、またしても片桐を寝取られたいつかと、カレーを振舞ひ勉強する、相変らずな日常を仲良く送るのが完全に意味不明。そもそも、片桐の如き全方位的に一欠片の魅力も感じられないクソ以下のゴミ男が、何故に斯くもモテるのかが全く以て判らない、ファンタジーならばそれらしく描け。わざわざ紀伊国屋の紙カバーもつけたまゝ、いつかが何度も愛読―その割には卸したての如く綺麗―するのがこの期に『星の王子さま』といふのも、全体何がいひたいのよ。結局十五年髙原秀和が一ミリも進歩しなかつた着地点が、「先生あたしを抱いて」から後生大事に引つ張つて来た“あるもんしかない”。“あるもんしかない”といふよりも、“ねえもんはねえよ”といふ印象がより強い、貧しい映画である。


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 「愛欲の日々 エクスタシー」(昭和59/製作:株式会社にっかつ・㈱ニュー・センチュリー・プロデューサーズ/配給:株式会社にっかつ/脚本・監督:磯村一路/プロデューサー:結城良煕/撮影:長田勇市/照明:長田達也/美術:細石照美/編集:菊池純一/音楽:坂口博樹/助監督:米田彰/演出助手:富樫森・東山通/撮影助手:滝彰志/照明助手:豊見山明長/美術助手:種田陽平/メイク:小沼みどり/スチール:目黒祐司/効果:小針誠一/録音:矢込弘明 ニューメグロスタジオ/車輌:富士映画/現像:東洋現像所/出演:小川より子・下元史朗・美野真琴・岡本達哉・椙山挙一郎・大杉漣・丸林昭夫・水田裕子・中野藻都子・西巻映子)。出演者中美野真琴が、ポスターにはよしのまこと。グーでなくパーな椙山挙一郎は本篇クレジットまゝで、西巻映子は本篇クレジットのみ。各種資料にある企画の栗原いそみが、例によつて本篇クレジットからはオミットされる。
 全裸から小川より子(ex.稲川順子)が服を着始めてクレジット起動、この期に豪快な挙一郎に悶絶する、ちやんとしろよロマポ。さて措き、喪装が完成したところで磯村一路のクレジット。葬儀を終へた参列者が輪を作る駅のホーム、一人離れて椅子に座つた下元史朗は苦み走り、白いハンカチを思はせぶりに握り締める。一方、エコーハットとトレンチをキメた小川より子が駅に向かふ。無視した踏切の遮断機に小川より子が前後を挟まれた、危なかしいショットにタイトル・イン。ここまでガッチガチに画が力を持つ、アバンは頑丈。
 北川徹(下元)が自分と同じ葬儀に参列したものと勘違ひした小山恵美子(小川)は、「清々したはやつと」だなどと意図的な無神経さで話しかける。当然面喰ふ北川と、恵美子は同じ電車で帰京。恵美子が詫びるかに見せて結構へべれけに膳を据ゑ、兎も角二人はホテルに。一夜を過ごした恵美子と北川は、なほもグダグダと矢張り電車で小旅行。降り立つたのは、当時国鉄小海線の甲斐小泉駅。甲斐小泉はかつて、恵美子が死んだ男と訪れた場所であつた。
 配役残り美野真琴と岡本達哉は、恵美子と北川に続き甲斐小泉駅の改札を、判り易くキャッキャウフフしながら出て来るカップル。水田裕子は、ロッジ風レストランの女給。駅の表で岡本達哉いはく「ようしここに決めた!」といふのが何を決めたのかと思ひきや、よもやの死に場所。椙山挙一郎は、心中した二人の遺体を発見する現地民。凄い端役で吃驚させられるのと、現地民はもう二名見切れる。どうせ内部は別ロケだらうが、大杉漣は再帰京した恵美子と北川が再度宿を取る、BUND HOTELの支配人、BUND HOTELは横浜なんだけど。西巻映子は恐らく、声しか聞かせない北川の元嫁、再婚済み。丸林昭夫と中野藻都子は、恵美子が発熱したため北川がバンドホテルに往診を呼んだ、医師と看護婦。居心地悪さうに肩を竦める、中野藻都子が地味に激しくエモい。
 尺もピンクと全く変らず、共同製作の形を取つてゐるとはいへ買取系との境界が甚だあやふやな、磯村一路(a.k.a.北川徹)昭和59年第二作。コミタマが飛び込んで来る僥倖を願つたのは、所詮儚い御門違ひに過ぎなかつた。jmdbを鵜呑みにするに、新東宝限定と思しき北川徹の変名を、磯村一路は今作の前年から使用してゐる。
 元々北川は三日の休暇を所得、恵美子は北川と寝た翌朝、藪から棒に勤めを辞めることにする。偶さか出会つた男と女が、束の間なモラトリアムを一緒に過ごす。ハクい立ち姿と目力は申し分ないものの、一言でも口を開くや硬い口跡が致命傷の主演女優が、何はともあれなアキレス腱。恵美子がレストランのテーブルで北川に仕掛ける対面型テレフォンセックスは、複雑な仮想具合といふ凝つた意匠よりも、ぎこちない台詞回しで単なる壮絶な自爆シークエンスに堕す。物語的にはそもそも別個の葬式に出てゐた北川と恵美子は、それではそれぞれ誰に死なれたのか。劇中殊に北川が恵美子に真相を最終盤まで明かさないだけで、適宜挿み込まれる丁寧な回想により視聴者ないし観客にとつては、端からミステリーとして機能しもしない。その上で、キキーッガシャーンとぞんざい極まりない“課長”の死に様には呆れ果てる気力も失せる反面、恵美子と北川を甲斐小泉で別れさせない、娘の形見の歯のギミックは秀逸。最終的に、何でそんなところから出て来るのかはアメイジングだけど。後年開眼する?事もなげに主体さへ無視したローションで女優部をダッラダラに煌めかせる、振り切れた煽情性は流石に望むべくもないにせよ、回数こそそれなりではあれ全ての絡みを中途で端折る完遂率ゼロの小癪さは片腹痛く、美野真琴と岡本達哉に関し「あの子達どんな風にシテるのかしら」と恵美子に水を向けさせておいて、北川が「ああいふのは大抵」と適当なイマジンを膨らませる。即ち美野真琴の裸を、純然たる赤の他人に対する勝手な妄想で処理してのける荒業には、ある意味画期的な頭数の用兵であると感心した。兎にも角にも恵美子が喋り始めた途端映画はギクシャク円滑さを失ひ、終始悦に入つて饒舌な劇伴は、締めの濡れ場に至つて明確にノイジーの領域へと土俵を割る。劇に伴へ、前に出て来んな。お前のスコアを、聴きに来た訳ぢやない。上を向いてゐるのか下を向いてゐるのかよく判らないラストが象徴的な終始、あるいは万事しつくり来ない一作ではある。


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 「密通の宿 悦びに濡れた町」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:島崎真人/撮影助手:高橋草太・日高紘貴/協力:深澤浩子/スチール:田中幹雄/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:なつめ愛莉・南涼・倖田李梨・細川佳央・森羅万象・柳東史・櫻井拓也・ダーリン石川)。
 テトラポッドを背景に、細川佳央が釣り糸を垂れるロングにタイトル開巻。何某かの影響か単なる腕の問題か、さて措きその日もボウズの雲田雄太(細川)を、屋号不明な食堂の大将・鉄川哲男(森羅)が揶揄する。その頃雄太が主人の民宿「秀風荘」では、町を離れる災害支援のジブシー作業員・表野六児(櫻井)と、秀風荘を常用するデリ嬢・米川葵(なつめ)が最後のプレイ。餞別代りに雄太が弁当を寄こす、表野との別れに政治家一家に入婿、のち町長となる雄太の兄・野村現(ダーリン)が家を出た時の回想を噛ませて、葵いはく客が来るのが一大事の秀風荘に、見るからなスメルを漂はせる春木力也(柳)と蝶子(倖田)の夫婦が現れる。春木夫妻が大略を埋め、大体四十分前後で明らかとなる顛末。国からの補助金を撒き餌に、現が誘致した絶対安全を謳つた処理場が、以後も雄太や哲男は普通にその土地で暮らしてゐはする程度の重大な事故を起こし、兎も角事実上町は死ぬ。失職した現は失踪、哲男の娘で、現と不倫関係にあつた笑子(南)は、現を捜さうと往来に飛び出した瞬間車に撥ねられて命を落とす。配役残り、後頭部しか抜かれない三人の町民要員は特定不能で特に困りもしないが、沖縄に移つた葵の客である、眼鏡のデブがEJDにしては肥え過ぎてゐないか。永井卓爾に迫る勢ひの太りやうに目を疑ひ、果たしてEJDなのか否かも自信がない。
 第二十七回ピンク大賞に於いて優秀作品賞を始め、監督×脚本×主演女優×男優賞(森羅万象)を嘗めた2014年第三作「背徳の海 情炎に溺れて」(脚本:小松公典=当方ボーカル/主演:友田彩也香)の夢よもう一度と、小松公典が社会派ごつこに戯れた竹洞哲也2019年第一作。ん?話が終つてしまつてゐるやうにも思へるのは気にしないで。
 先に裸映画的な側面から触れておくと、過去パートで大概唐突に捻じ込む二番手濡れ場の木に竹を接ぎぶりにさへ目を瞑れば、ひとまづくらゐには安定する。矢張り二番手を務めた竹洞哲也前作「田園日記 アソコで暮らさう」(2018/脚本:当方ボーカル/主演:白木優子)では画期的に脱いでゐない南涼が、二戦目の正直で漸く絡みらしい絡みをこなし、なつめ愛莉は初端から、素立ちではあれ―多分―無修正の陰毛を披露する。
 片や物語の方はといふと、何かしらヤバい廃棄物の処理場が、人が住めなくなるほどではないインシデントを仕出かした。そこまでは酌めるなり語られるものの、具体的な枠組みが何一つ、本当に一ッ欠片たりとて構築されないとあつては、如何せん話の首が据わらない。その癖、得意とする―つもりの―会話劇は一向踏み込みもしないまゝに、あるいは同一円周上で相も変らず饒舌に花盛り。外堀ばかりを飾りたて、ハリボテにすら至らない展開の本丸を見やるに、未来を喪つた町を描く以前に映画自体が未来を喪つた、性懲りもなさの印象が兎にも角にも強い。土台が笑子の死に関して、インスタントな最期をぞんざいな音声情報のみで処理する、所謂―何が所謂なんだ―キキーッ死演出はこの期に及んでどうなのよ。苔生したクリシェを逆手に取る戦法もなくはなからうが、今作のシリアス嗜好もとい志向は、その手の捻くれた笑ひを呼び込むものでも求めるところでもあるまい。ついでにダーリン石川は、町長がその小汚いパーマ頭は如何なものか、弟の方が余程しつかりしてゐる。尤も、フレームに入る物理的時間に於いて、少なくとも形式的なビリング上は下位である倖田李梨にすら南涼が後塵を拝する一方、直截に片付けると無駄話に尺を割いた怪我の功名で、主演女優を愛でる分にはそこそこ以上に申し分ない。ヒールで砂浜を走り回る、何気か健康的な身体能力の高さを披露するのに加へ、スクリーン一杯になつめ愛莉が満面の笑みを輝かせるラスト・ショットが、少々無理からでもとりあへず、一篇を爽やかに締め括つてみせるのが数少ない救ひ。


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