真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「必殺色仕掛け」(昭和48/製作:日活株式会社/監督:藤井克彦/脚本:高田純/プロデューサー:伊地智啓/撮影:前田米造/美術:渡辺平八郎/録音:福島信雅/照明:松下文雄/編集:井上親弥/音楽:月見里太一/助監督:佐藤重直/色彩計測:松川健次郎/現像:東洋現像所/製作担当者:山本勉/出演:二條朱実・牧れい子・叶今日子・薊千露・市川亜矢子・島村謙次・木夏衛・浜口竜哉・丹古母鬼馬二・谷本一・堺美紀子・小森道子・深町真樹子・吉野あい・小見山玉樹・氷室政司・谷文太・清水国雄)。出演者中、堺美紀子以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 意表を突くモノクロ無声映画風開巻、時代的には明治中頃か。旅に出る売り出し中の任侠・花田優次郎(谷本)が、遊郭「廣満楼」の女郎・鏑木郁子(二條)の髪に簪を差す。手向けにと郁子が手渡す弁当なり林檎が、ヒシと花田が郁子を抱き寄せるなり川に落ちる学習能力を欠いた別れの遣り取り経て、カラーの林檎の画に“そして五年―”。“そして五年―”に赤く色が着くと、長ドスを提げた郁子にピントが移る。廣満一家が仕切る、色町・圓山仲町の喧騒。廣満一家と反目する金辰一家の若い衆・庄吉(清水)が、金も使はず女々に痴漢して回る。劇中オチ担当の今でいふ小梅太夫みたいな女郎(深町)の顔見せ挿み、自身も旅に出、渡世で“日陰花のお郁”なる異名も誇るやうになり圓山仲町に戻つて来た、郁子が庄吉を脛蹴りで撃退。郁子が母と慕ふ“血桜のお満”こと廣満一家組長(堺)、代貸の小満(小森)と、ギャラリーに見切れる庄司三郎も見守る中、郁子は手コキで庄吉を蘇生。庄吉が射精に至る大花火のイメージに乗せた“廣満屋”、“日陰花”のシャウトとともにタイトル・イン。一方、西洋思想に気触れた娼婦廃業促進連盟理事・徳大寺春枝(市川)を招き入れ、金辰一家組長の金山辰三(丹古母)は廣満楼を狙ふ。俵締めのおさね(牧)、ミミズ千匹のおりん(叶)に、数の子天井のおぬき(薊)。廣満楼看板の名器三人娘に対抗するべく、ナニに真珠を埋め込んだ三男の喜三郎(浜口)。面だけでなく馬並の次男・慶次郎(木夏)に、無尽蔵のスタミナを誇る長男・沢太郎(島村)の奥野三兄弟を金山は呼び寄せる。
 配役残り谷文太は、庄吉と二人劇中メイン格の金辰子分、多分寅。小見山玉樹と氷室政司は、おさねとおりんの亭主といふ名のヒモ・キクチシンジロウと車蛾次郎。ついでに何時の間にか肺を病んでゐた花田が、おりんのヒモ。吉野あいは、廣満楼の女中かと思へば、ラストでは女郎に出世するおしん。
 名器自慢の三女郎と、棹自慢の三兄弟が激突する。マンガみたいな物語をロマポのプロダクションで如何に形にするのか、事前には非常に興味を覚えた藤井克彦昭和48年第三作。ところがいざ蓋を開けてみると、裸の面でも映画的にもてんで不甲斐ない残念作。名器三人娘が次々奥野三兄弟に籠絡され、存亡の危機を迎へた廣満楼の窮地を見かねた日陰花のお郁が、単身金辰一家に乗り込む。女任侠映画としてのフォーマットは綺麗に仕上がつてゐるものの、必ずしも当サイトは量産型裸映画に、そんなものを求めちやゐない。見せ場の濡れ場たる筈の色道勝負が、絡み的に全く以て説得力から遠いのが第一の敗因。気取つて浄瑠璃の真似事なんぞ戯れてゐる内に、慶次郎と対戦したおりんの絶頂描写はスッ飛ばし、喜三郎と慶次郎を一応撃破し、沢太郎と相見えた郁子が、最後沢太郎のスタミナ源たる背中のイボを、アバンで花田から貰つた簪で差し勝利を得るのは、百歩譲つて反則もへつたくれもないにせよ、少なくとも色道の勝負ではない。更にはおしんを筆頭に廣満楼の女達が、女郎稼業に身を投じる方便が男を喜ばせたいの一点張りなのがどうもかうもしやうのない致命傷。ほかの誰かのためでなく、ただアタシがヤリたいからヤル。どうしてたつたそれだけの清々しさが描けないのか、その貧しさは如何ともし難い。幹が朽ちては枝葉も繁らず、ヒロインのex.いい人にしては花田の扱ひは甚だ雑で、市川亜矢子はこのビリングの高さで脱ぎもしない。出し抜けにオーラス膨らませてみせる人類史上最大級の林檎ネタも、藪蛇の極み。丹古母鬼馬二を半壊させるドリフ桶ばりの額縁以外唯一の見所は、サブは何時も通りのサブぶりながら、みんなのコミタマことロマポの座敷童・小見山玉樹の、凡そコミタマらしからぬ台詞と出番の多さ。結局色男に女を寝取られる、情けない役である点に変りはないのだけれど。


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 「妻たちの宴 不倫痴態」(2017/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影監督:清水正二/撮影:海津真也/録音:小林徹哉/編集:山内大輔/音楽:大場一魅/効果・整音:AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:宮原かおり/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎・山口雅也・杉本晋一/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/現場応援:松井理子/合コンの参加者:あぶかわかれん・藤岡範子・田沢麻紀・山ノ手ぐり子・宮木宏之・周磨要・中村勝則・太三/出演:成宮いろは・めぐり・佳苗るか・竹本泰志・牧村耕次・細川佳央・橘秀樹・野村貴浩・長野原万丈)。
 朝の中澤家、五日間のシドニー出張から帰国した広告代理店勤務の雄大(竹本)が、妻・夏海(成宮)の味噌汁に舌鼓を打つ。ところに、十七才高二の一人息子・海里(長野原)も食卓に着く。さういふ演技指導である可能性も大いに留保しつつ、越智哲也似の長野原万丈が、所作の全てがクリシェで構成されたある意味清々しい逸材。雄大が提案した、理想の家族を作るため家庭にセックスを持ち込まないとする、“パーフェクト・ファミリー”の理念に触れた上で三人のスナップにタイトル・イン。家でしないとなると、畢竟ヤリたい時は外で済ませて来る寸法に。夏海の最初の不倫相手は、海里が小学校に入り手の離れた十年前、始めたホームヘルパー先で出会つた田中(牧村)、田中が劇中現在存命であるや否かは不明。ここで飛び込んで来る池島ゆたかは、田中に観音様を見せて呉れるやう迫られ逡巡する夏海の背中を押す、十年前の更に三年前、「オメ・・・・コー!」と今際の絶叫を残して急死した夏海父。メチャクチャなことをいふと、池島ゆたかには実際さういふ死に様を見せて欲しい。話を戻して、床に臥せた牧村耕次の顔を、成宮いろはが中腰で跨ぐ画がまづ最初にクッソどエロい。客が見たいシークエンス、ショットを何はともあれ叩き込む、その姿勢はジャスティス。田中がジャブジャブ回春する濡れ場を大完遂、“パーフェクト・ファミリー”の半歩も前に進まない蒸し返しを適宜挿み込みつつ、雄大目下の不倫相手で、名家の玉の輿に乗つた浅田ミキ(佳苗)の絡みを経てめぐりがボイーンと大登場、はせずにおづおづ小登場。めぐりと強迫的な夫・市川(野村)の息詰まる夫婦生活噛ませて、ある日夏海は、実家時代お隣の涼子(めぐり)と再会する。
 配役残り橘秀樹は、涼子の心の拠り処、たるかに見せた不倫相手・岡田。二度目の出番では早川健みたいな箍の外れた扮装で現れるのは、それは私服なのか?何処で売つてゐるんだ。細川佳央は、「ライブ&バー Ruto」(四谷)で開かれた潤沢に頭数も用意しての既婚者合コンで夏海がミーツする、ボルダリングのインストラクター・内村タカシ、下の名前の漢字は判らん。
 限りなくピンクと変らない出来栄えと評判の一般映画第二作が公開されたばかりの、池島ゆたか2017年第二作。子供を扇の要に、作り物じみた家族像を構築・維持するには、家庭にセックスを持ち込まない、何故なら家族はセックスしないからだ。雄大が持ち出した“パーフェクト・ファミリー”なる奇怪な概念が、出発点にして到達点を堂々巡るばかりで終に外堀は微塵も埋められないまゝに、夏海的には派手にブッ壊れる涼子と、内村との修羅場。雄大は雄大で、ミキの多方向なサプライズ。超絶のタイミングで各々不倫が頓挫した中澤夫婦が、海里を授かつて以来の営みを再開するに至るラストは、双方が配偶者以外のセフレ漁りを謳歌する方便としてしか機能しない、“パーフェクト・ファミリー”が全く以て諒解可能な形にまで消化されない以上、大概な力技の筈なのに、案外どころでなくさうも見えない奇跡の大団円。素面といふ意味での裸の劇映画としてはアメリカンも通り越した殆ど水で、裸映画的としてはコッテコテに濃厚。ピンク映画的な是非を問ふならば断ッ然アリな中、プックリ煽情的に膨らんだ主演女優と三番手の乳輪以外に目を引いたのは、一皮剝けた勢ひで色気を迸らせる、細川佳央の目力。次も維持してゐるやうだと、この人完全に化けたかも。


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 「若妻後ろから開く」(1989/製作:株式会社メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:カサイ雅弘/監督助手:松本憲人/撮影助手:田中一浪/照明助手:小田求/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:大沢裕子・伊藤清美・川奈忍・芳田正浩・山の手ぐり子・山本竜二)。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 俯瞰気味のロングで住宅街を抜いた画に、VHS題は大沢裕子を冠するタイトル開巻。玩具デザイナーの神崎聖吉(芳田)と花子(大沢)の若夫婦が、花子の母が生前暮らしてゐた長屋に越して来る。引越しも一段落、その他二人の業者作業員含め四人前注文したにしては、聖吉の蕎麦がない。すると、もといするてえと長屋の隣人・草加千平(山本)が、勝手に上がり込んで聖吉の分の蕎麦を食べてゐた。下町風情とやらでワイワイ一笑に付す千平と花子に対し、山手育ちの聖吉は憤慨気味に辟易する。その夜、下町の人間関係を図々しいと気さく、一方山手はといふと礼儀正しいとよそよそしいと、好対照に対立する夫婦喧嘩を軽く噛ませて、兎も角新作の作業に取りかゝるかとしたタイミングで、隣から洩れ聞こえて来るどころでない嬌声に聖吉は頭を抱へる。
 出演者残り川奈忍が、そんな千平の同居人。山竜と川奈忍の濡れ場がアラビア~ンな劇伴で火蓋を切り、二人して洋ピン的なメソッドを多用するのはこれまた藪蛇な演出だなあ、と生温かい心持ちで見てゐると、後述する伊藤清美の顔見せ等諸々挿んでの結構後々発覚するのが、川奈忍は独立したての小国・ヤカマシカから日本にやつて来た、ヤーデ・カセギーノとかいふ吃驚配役。とはいへ川奈忍のビジュアルを一欠片たりとて弄るでなく、映画の嘘を真面目につかうとする素振りさへ窺はせない。伊藤清美は、聖吉が勤務する「ドリームメーカーおもちや設計会社」―何かザックリした社名だ―の同僚・花園美沙、バツイチ。花子との衝突を拗らせ、遂に家を出た聖吉を自宅に招く際の口説き文句が、「冷静になるまで、ウチに泊まつてもいいのよ」、どうスッ転んでもなれねえよ。前述した引越作業員に加へ、千平のMCによるヤーデのセーラー服ショーの観客要員に、草加宅を飛び出したヤーデの、一発一万をまるで取り合はない男達、十人弱その他見切れる。ん、まだもう一人ゐる?暫し待たれよ。
 コッテコテした下町人情譚かに思はせて、思ひのほか豪快に舵を切る渡辺元嗣1989年第五作。話は変るがデビュー順に今上御大・小川欽也、浜野佐知に大きく間を空けてナベと、同年時間差の関根和美。以上四監督が、昭和・平成と来年人為的に幕を開けるその次。ピンク映画を三つ元号を跨いで撮るといふ何気に馬鹿にならない偉業を、案外何時も通りに成し遂げる、予定である。流石に、新田栄なり深町章らが大復活する芽はもうあるまい。
 閑話休題、川奈忍の吃驚配役が明らかとなる川原に於けるピクニック―あるいは酒盛り―の件で起爆装置が地表に露出する、大団円に何だかんだを通して辿り着く。ものかと、思ひきや。ところで今作のスピードポスターに勇ましく躍る惹句が、“男一人に女が三人!君ならどうやつてヤル!!”。男一人対女三人の絡みが盛り込まれる場合、劇中どう見ても男一人といふのは千平、聖吉はさういふ柄ではない。かといつて、ヤーデと美沙は兎も角花子が千平と寝てしまつては、壊れかけた神崎夫婦の仲が完全に修復不能にもなりかねない。全体どうする気なのかと、思つてゐたところ。身を引いたヤーデの肩を聖吉が持ち、一方美沙側には花子がつき膠着する神崎家に漸く現れた千平は、顔を煤つぽく黒く汚した第四の女たる、ルンペン女を拾つて来てゐた、これが地味に伊藤清美に感じが似てゐなくもない山の手ぐり子(a.k.a.五代暁子)。この年五代暁子は響子名義で脚本家デビュー、当時はカサイ組の座付的ポジションにあつた。正直この辺りは満足な記録も残つてないゆゑ、最終的には片端から観るなり見た上でないと正確なことはいへないにせよ、この映画が、俳優部時の山の手ぐり子(現:山ノ手)初陣となるのかも知れない。挿入する段を端折るのが激しく頂けない、仲直りした神崎家夫婦生活は完遂直前で、ルンペン女は眠る傍らのヤーデ×千平×美沙の巴戦に移行。目を覚ました山の手ぐり子は、ブラこそ外さないものの、諸肌までは脱ぎ三人の営みに参戦する。のが、パブにも謳はれた“男一人に女が三人!”の真相。四人での生活は長屋では手狭につき、山手の花園宅に千平以下三名が大八車でヨイショヨイショと移り住むラストは、一見何となくまとまつてゐなくもないとはいへ、一体誰が主人公なのかといつた疑問は拭ひ難い。主演―の筈の―女優も差し措いて、山竜が美味しいところを全部カッ浚つてゐる。企画が紆余曲折なり右往左往したのでなければ、そもそも物語の軸を何処にとかいふ以前に、置いてゐたのか否かから怪しい。表面的には賑々しい反面、冷静に検討してみると大いに覚束ない一作である。

 ヤカマシカから渡日し、豊かな大国への憧憬をストレートに表すヤーデに対し、千平は「日本だつて本当は貧しい国だぜ」と苦々し気に投げる。山竜が出し抜けに放つたニヒルが、よもや三十年後には斯くも身に沁みる破目にならうとは。平成元年は兎も角、四ヶ月は大胆に等閑視するとして平成末年、確かに日本は本当は貧しい国になつた。


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 「W不倫 寝取られ妻と小悪魔娘」(2017/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:加藤義一/編集:有馬潜/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:榎本靖/録音:シネキャビン/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボテック/効果:東京スクリーンサービス/出演:江波りゅう・きみと歩実・あやね遥菜・竹本泰志・津田篤・なかみつせいじ)。
 サド全集とか適当に並ぶ書架を舐めた先の、PC画面にタイトル・イン。何処そこ大学心理学教授の吉永修一(なかみつ)が、当時の学部長を媒酌人に見合結婚して十年の妻・笑子(江波)を、戯れにでもなく鞭打ち責めてみる。いやしくも心理学徒が、所詮文学者のサドを出汁にいはゆるマゾ気質を女にア・プリオリなものと看做す態度には猛烈に疑問も覚えつつ、どエロい江波りゅうの乳出し下着に免じ、然様な些末はこの際さて措く。最初はノリが悪かつたものが、攻守交替するや笑子が俄然ノリッノリになり、最終的には何時もと変らぬ早打ちの吉永が妻を待たず果てた事後。先にシャワーを浴びようとベッドから離れ際笑子が残した溜息に、吉永は地味に衝撃を受ける。その話を聞いた準教授の村木健吾(竹本)が、出し抜けな突破力で尽力を申し出た翌日か後日、吉永が大学の自室に入らうとすると、見知らぬ女が。部屋を間違へたかと踵を返しかけた吉永を、村木が手配した専任秘書・夏目ひとみ(あやね)が引き止める。一方その頃吉永家には、如何にも関根和美らしいアバウトさで面識の有無は語られないまゝに、最初から妙に距離の近い村木が笑子を訪ねる。
 配役残り津田篤は、後述する祥子の同棲相手で、研究員の高嶋信人。それ以外には内トラ一人見切れない純然たるデフォルト、あるいはミニマム布陣。吉永の教授室は兎も角、キャンパス内に模した―つもりの―ベンチが、どう見てもそこら辺の公園にしか見えない画は如何なものか。せめて、すぐ背中が往来でないロケーションを摸索すればいいのに、オープンキャンパスにもほどがある。
 豪快な荒業を繰り出す前作を剛とすると、今回は柔の関根和美ともいふべきNSP“ニュー・関根和美's・ピンク”2017年第二作。剛といふか柔といふか、二作一緒くたに業とでもいふか。映画前半は、吉永のスキャンダル失墜を目論む、村木の夫婦個別撃破。後半も成立する“W不倫”(吉永夫婦)は兎も角、“寝取られ妻”(笑子)も“小悪魔娘”(ひとみ)も全て額面通り揃つてゐる。ところが村木と、実は元カノであつたひとみの本濡れ場を務め上げたところで、三番手はザクッと退場。色恋に関する経験値不足を自認する小心さに基づき、ひとみの解雇を吉永が台詞一言で告げるや、村木に提出するレポートの期限を諸々に忙殺されスッ飛ばし、吉永に泣きつくハーバード大への留学も決まつた才媛・君田祥子役のきみと歩実大登場。足元を見る形で吉永が祥子に疑似恋愛を持ちかける後半は、主演―の筈の―女優も殆ど何処吹く風、完ッ全にきみと歩実が支配する。気がつくと高嶋が準教授に昇格してゐたりする割に、触れられさへしない村木の去就。木に竹を接ぐか手の平を返したハッピーエンドも、藪蛇に濁して絶妙に後味を悪くする。三本柱に恵まれ裸映画的には全く以て安定するにせよ、ブレるどころかある意味綺麗にスライドする軸転移なり、不用意な枝葉は典型的なNSPならぬUSP“ユージュアル・関根和美's・ピンク”。そんな中でも突発的な見所は、ひとみが一度は確かに吉永を籠絡する件。手渡された書類の何処に判を捺したらいいのか吉永が見つけられないでゐると、ひとみが横から体を密着させオッパイをグーイグイ押しつける、のは全然試運転。自らタイトスカートをたくし上げた上で、背面座位の格好で吉永に跨つたひとみが臆面もなくグリングリンしながらええとええとしてのける、今上御大・小川欽也も流石に呆れるかシャッポを脱ぐにさうゐない超弩級の駄メソッドには腹を抱へた。あと、クレジット画面は普通ゆゑ、仕上げではなく恐らく元々の撮影素材の問題か。全般的にといふか正しく全篇、フィルム時代のキネコを彷彿とさせる画質の粗さが目についた、別に懐かしくはない。


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 「日本夜伽話 パコつてめでたし」(2017/制作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/現場演出:若月美廣/撮影助手:宮原かおり・岡村浩代/照明助手:広瀬寛巳/演出助手:三上紗恵子/製作:佐藤選人・小林徹哉/ポスター:本田あきら/音楽:龍宮首里音楽協会/応援:中西さん/亀捕獲:三上紗恵子/タイトル協力:ヴィッケ/セッティング協力:コポンチ・ミニコ/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック《株》/カラコレ:石井良太/協力:福島清和・首里劇場/出演:麻里梨夏・塚田詩織・愛野ももな・西藤尚・本木幸世・淡島小鞠・平川直大・夕須虎馬・冨田訓広・小篠一成・稲葉良子/特別出演:牧村耕次)。出演者中、西藤尚・本木幸世と冨田訓広は本篇クレジットのみ。牧村耕次の正確なビリングは冨田訓広と小篠一成の間で、荒木太郎の俳優部に関してはオミットされる。
 可動ギミックを仕込む形で進化を遂げた多呂プロ立体ロゴと、亀の甲羅にタイトル開巻。国民年金を受け取りさゝやかにホクホク帰宅する浦島才蔵(小條)は、あちきなヒャッハー造形の不良少女三人組(西藤尚×本木幸世×淡島小鞠)が、亀を苛めてゐる現場に遭遇する。ここで、ともに銀幕初陣の小篠一成と本木幸世は黒テント一派。といふか、遅れ馳せながら今回初めて辿り着いたのだが、多呂プロでのキャリアをぼちぼち積み上げる冨田訓広がそもそも黒テント。この御三方、小篠一成は創立メンバーで、本木幸世と冨田訓広はそれぞれ2000年と2010年の入団。そして改めて声を大にして訴へたいのは、何がそんなにいゝのか個人的にはてんでピンと来なかつた、アイドル扱ひで持て囃されてゐた現役時代よりも、西藤尚は顔の線がリファインされた現在の方が絶対に美人である、である(ドン!   >強く机を叩いてみる
 収拾のつかなくなつた感情の発露は兎も角、亀を助ける引き換へになけなしの泪金を巻き上げられた才蔵は、亀を川に逃がしたのちとぼとぼとまさかのシネキャビンに帰宅。浦島家のロケーションは、荒木家を巧みに兼用してるかも。軽く呆けた妻のさなえ(稲葉)は困窮した事態を理解しない中、長い付き合ひの大家の、ドライな息子(平川)が滞らせた家賃の催促に現れる。突きつけられた猶予は、非情か非常識にも二日、といふかそもそも違法である。何も出来ない一昼夜を通過した、シネキャ最後の夜。若き日のさなえ(塚田)の幻影に誘き寄せられ、自身も若返つた才蔵(夕)が騎乗位を完遂した淫夢明け、娘が満額家賃を払つて行つたと、ナオヒーローが領収書を手に現れる。謎の恩人を捜しに家を飛び出した才蔵は、川のほとりにてこの人?が金を出して呉れてゐた、助けた亀の化身・アンモナイト麻美(愛野)と出会ふか再会する。むかしでないけど浦島は、助けた亀につれられて。豪快にハンドメイドな紙細工と、要は夕須虎馬が愛野ももなを後背位で突くイメージを通して、亀の背中に乗つた才蔵は、琉球建築を王宮に模した竜宮エレン国に到着する。
 配役残り満を持して登場する麻里梨夏が、暗殺された国王に代る事実上の女王として、竜宮エレン国を統べる王女・エレン。散発的に名曲「恋情乙女」(2010)が劇伴にも使用される牧村耕次と、冨田訓広にコバテツがエレンの従者。華麗に二役を務める淡島小鞠は、竜宮エレン国に侵攻する隣国のAve Maria少年総統、荒木太郎が配下。その他景色的に、首里劇場館長が見切れる。
 関東近郊だけでなく、沖縄・大阪ロケをも謳つた荒木太郎2017年第二作。尤も、沖縄に渡つたのは恐らくカメラを持つた荒木太郎と亀を持つた三上紗恵子(=淡島小鞠)のみで、多分大阪も、出張つたのは塚田詩織と夕須虎馬の二人きりか。そして、あるいはそんな。正直何気に意義が微妙な大阪パートを、生存が確認されるレベルで久ッし振りに名前を見た若月美廣が仕切つた格好なのか?
 映画の中身に話を戻すと、性愛によつて発生するエネルギーで文明を回す―図らずも、山﨑邦紀と荒木太郎が近いタイミングで同じやうな話を書いてゐるのが興味深い―竜宮エレン国では、正装がいはゆるバカには見えない服。日常の各挨拶も愛撫諸々とかいふ、如何にもピンク映画的なユートピア設定。兎にも角にも特筆すべきは、さういふ方便で荒野に於けるAve Maria少年総統との対峙時以外には正真正銘の全篇をトップレスか全裸で通す麻里梨夏が、荒木太郎前作に続くピンク第二戦で代表作の貫禄を以て撃ち抜く、たをやかにして弩級のエモーション。飯岡聖英デジタル時代も必殺のカメラの力も借り、時に美しく時に気高く、濡れ場に入るや問答無用にどエロい麻里梨夏が叩き込み続けるショットの数々は、要は浦島太郎に二三本毛を生やした程度に過ぎぬ他愛ない物語をも、主演女優の一点突破で堂々と支へきる。エレンの背景で、如何にも竜宮城的な舞を舞ふ役を担ふには、表情に限らず体も硬い三番手に、荒木太郎が我慢しきれない、表層的なアクチュアリティ。こちらもピンク第二戦で、闇よりも暗い第一戦では唯一人気を吐く輝きを誇つた塚田詩織の、実質締めの濡れ場でこゝぞと再び「イン・ザ・ムード」を鳴らさない超絶のロスト画竜点睛。猥雑な昭和を懐かしんでばかりの荒木太郎には、これから自分が描く世界にも目を向けなよと声をかけたくもならうところではあれ、万事些末とさて措いてしまへ。麻里梨夏だけ見てればいゝ、それだけで戦へる。いや、それだけでもないもう一点。一人づつだと映画的にはクドさも否めない小篠一成と稲葉良子が、二人見事に噛み合ふとシークエンスが芳醇な香りを放ち始める、滋養深いケミストリーは裸を離れた見所。もしかすると、演劇畑でもこの二人の共演は何気にエポックたり得るのか。


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 「出張ソープ 和風不倫妻」(1994/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/美術:衣恭介/音楽:鷹選曲/効果:協立音響/編集:井上編集室/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:神代弓子《イヴ》・本城未織・麻生雪・杉本まこと・樹かず・神戸顕一)。美術の衣恭介は、木俣堯喬の変名。
 素頓狂に京劇風の劇伴が鳴る中タイトル開巻、春画からイヴちやんにパンしてクレジット起動。早くも何もかもが、紛ふことなき珠瑠美映画、この際完璧とでもいふほかない。クレジットがてらイヴちやんの自慰を二分見せて、とりあへずそこそこ豪邸の堀江邸。jmdbには堀井とあるが、都合二回着弾する郵便物の宛名は何れも堀江。堀江勇作(杉本)は妻の美佐子(神代)と他愛ない会話を交しつつ、美佐子が堀江家に代々伝はる枕絵を覗き見た節を確信する。背中を流せと風呂場に呼んだ美佐子を、勇作が軽くシャワー責めする流れで、カット跨ぐとサクサク突入する夫婦生活。勇作は祖母や母と同様、美佐子に枕絵から学んで名器の持ち主になるやう厳命する。九十年代中盤の現代劇で、時代錯誤といふか倒錯甚だしいといふか、兎も角一言で片付けるとかういふ狂つた家族観をケロッと描いてのけるのが逆に凄い。絡みから十秒!費やす長尺フェード明け、美佐子が庭でポケーッとしてゐる―実際ポケーッとしてゐるやうにしか見えない―と、電話が鳴る。美佐子が出たところ、支局長の村井が急死したとやらで、勇作に急遽バンコク転勤が決まつたとかいふ仰天人事。フリーダムな会社だな、電話一本で、しかも相手が配偶者とはいへ本人すらスッ飛ばすんだぜ。兎も角、専業主婦である美佐子がついて行かない不自然な事情に関しては一欠片たりとて触れないまゝに、勇作は単身での赴任間際、ちよつとしたパーティーで会つた美佐子の旧友・時田恵子の名刺を残して行く。
 配役残り、整理すると林田ちなみa.k.a.本城未織がex.新島えりかとなる本城未織が、表向きは美容サロンを経営する時田恵子。またこの恵子の会社の屋号が不安定、勇作が美佐子に渡した名刺には「CREATE・ジュリー」。美佐子が名刺の番号にかけてみた電話口では「タイエット・ジュリー」で、マンション一室に構へた自宅兼オフィスの表札は「CREATE・ケイコ」。かうなるとスクリプターだ何だといつた次元ではない、大体何なんだジュリー。唐突に飛び込んで来る麻生雪と、ランデブーする神戸顕一は、出張風俗嬢の浅井弓子とその客・良行圭介。この二人の対戦に際してはユミコが外したサングラスに映した騎乗位から、次の画は九十度俯瞰と撮影部が発作的なヤル気を見せる。樹かずは恵子のパパさんポジの、若くして化粧品会社専務。
 実は、と改まつていふのも何だが、もうDMMの中にも、未見のタマキューが今作入れて二本しかない、別に寂しくはないけれど。ともいへ買取系ロマポでも今後新着した暁には、バラ売りであれ臆することなく出撃する。監督デビュー初期のミリオン作は固より、新東宝の望みも最早あるまい。旦那の「中川みず穂 ブルーコアin香港」(昭和61/脚本・監督:木俣堯喬/主演:中川みず穂)と二本撮りしたものと踏んでまづさうゐない、「香港絶倫夫人」(同/脚本:木俣堯喬/主演:川上雅代)ならば何気にでなく普通に観るなり見たい。
 話の中身は自身も一肌脱いで会員制のマントルならぬマンションソープ―劇中用語ママ―を営む恵子が、樹専務を籠絡する切札にハメ撮り写真を撮影した美佐子を脅迫する。何の捻りも新味もないといふ意味で、商業ポルノグラフィー的には当り障りないもの。ところが「CREATE・ジュリー」だか「タイエット・ジュリー」だか「CREATE・ケイコ」が裏の素顔はマンションソープである旨を、終盤恵子が自ら美佐子に宣言するまで、何故か珠瑠美は断固として痒いところに手を届かせぬ強い意志を感じさせかねないほどに、頑なに明示を拒む。酔ひ潰された美佐子を犯す役に呼ばれた良行が、辛うじて一番外側の外堀を埋める程度。本城未織と樹かずの逢瀬は、単なる愛人とパパさんの情事で普通に成立する。挙句勇作が美佐子を強制一皮剥けさせるために恵子との再会を仕組んだ、といつたありがちな姦計が明らかとなる、でさへなく。恵子は―恵子推定で―美佐子の樹専務の会社への密告で失墜、一方美佐子は勝手に帰国した勇作と、締めの濡れ場をキメて駆け抜けるといふか、要はヤリ逃げるラストは、一言で片付けると面白くも何ともない。本当に女の裸しか見所のない、純粋裸映画。そのほかに印象に残るのは、全篇を通してシークエンスに合はせる気も展開の推移に沿はせる気もさらッさら窺へない、闇雲な選曲くらゐしか捉へ処も見当たらない。量産型裸映画で面白い映画なんぞ寧ろ撮る必要がない、珠瑠美―かプロ鷹―鉄の信念にでも我々は感服するべきなのであらうか。


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 「過激!本番ショー 異常者たちの夜」(1990/提供:アウトキャストプロデュース/配給:新東宝映画/カントク:サトウトシキ/キャクホン:小林宏一/キカク:田中岩夫/プロデューサー:岩田治樹/サツエイ:西川卓/ショウメイ:高田賢/オンガク:ISAO YAMADA/ヘンシュウ:金子尚樹/ジョカントク:上野俊哉/エンシュツジョシュ:中野貴雄/サツエイジョシュ:福島佳紀/ショウメイジョシュ:島田良一/トクシュコウカ:城沢源太郎/スチール:福島写真館/オンキョウコウカ:高野藤次/ロクオンスタジオ:ニューメグロスタジオ/ゲンゾウ:東映化学工業/キョウリョク:城沢靖・西山秀明・勝山茂雄・大倉琢夫・及川清夫・チキンシャック《福生》・《株》サンアイ・スノビッシュプロダクツ・エグザエル/シツエン:吉田春兎・芹沢里緒・神山洋子・清水大敬・梅垣義明・中根徹・中野貴雄・石井基正・世良福助・加納妖子)。キャクホンの小林宏一は、小林政広の前名義。クレジット含め印象的な筆致の割に、タイトル担当はクレジットされない。
 喪はれ行く風景を切り取る方便か、にしても執拗も通り越して些かくどく全篇を通して繰り返し繰り返し繰り返し挿入され続ける、今は亡きコマ劇場を皮切りに新宿の映画街と歓楽街の画を連ね、幕の内弁当をビニール袋に提げたワタナベ(吉田)が、風俗情報誌を発行する「歌舞伎町タイムス」に帰社する。ここで吉田春兎といふのが、案外色んな名義を多用してゐる現在の本多菊次朗。凡そ三十年前ともなると当たり前でしかなからうが若く細く、軽い。入れ違ひに社を出た編集長の宇野(清水)が都庁新築に伴ふいはゆる浄化による、界隈の斜陽も予想される世相に触れた上で、建設中の新都庁舎の画も連ねてタイトル・イン。神山洋子と中根徹の絡みが家中を移動する傍ら、駅から歩いて三十分かゝる―チャリンコ乗れよ(´・ω・`)―自宅にワタナベがてくてく帰宅すると、妻の恐らくユミコ(神山)は、実はワタナベとも面識がある旨後々語られる、間男の古賀か古河か古閑辺り(中根)を連れ込んでの情事の真最中であつた。ユミコの父親名義の家を出たワタナベが、暫く寝泊りすることにした歌舞伎町タイムスに、電話番を募集する求人広告を見た梓ユウコ(芹沢)が現れる。
 配役残り、薔薇族映画畑では翌年の「奴隷調教 ドラゴンファクトリーの男たち」(ENK/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀)がデビュー作と謳はれてゐるものの、当然こちらの方が早い石井基正と、世良福助は宇野が取材する本番ショーの男達。あのワハハの梅垣義明の梅垣義明は、石井基正と世良福助のショーで女性客の動員を目論む、売りのショーの中身をコロコロ変へるショーパブ、十足した「第十七天国」店主、多分この人も今回が銀幕初陣。加納妖子は、宇野に記事を書かせておいて薔薇族本番ショーには早々と見切りをつけた第十七天国の、SMショーの女王様、責められる奴隷は世良福助の二役か。中野貴雄はラストの第十七天国にてステージ上尺八を吹いて貰ふギャラリー、もう二人、後頭部くらゐしか見切れない客要員は流石に判らん。ところで第十七天国が、物件的には現存する老舗ライブハウスの「チキンシャック」。老舗も老舗、何と創業昭和49年!
 全体リリース当時如何様にセレクトしてゐたのか、何が飛び出すか予測不能な雑多ぶりが堪らない「Viva Pinks!」殲滅戦。第七戦は福岡芳穂単独第一作に続いて、とかいふザックリした括りでいいのか、生かキナ臭い火種を抱へなくもないノンフィクション『名前のない女たち』の映画化第二作―第一作は佐藤寿保―「名前のない女たち うそつき女」(脚本:加瀬仁美/原作:中村淳彦/主演:吹越満)が、六年ぶりの新作として公開間近のサトウトシキ1990年最終第三作。
 今作の公開は十二月、即ち厳密な前後は不明ながら、最早“新”ともとうにいはない現都庁舎の竣工に、フルコンタクトで当てに行つた格好となる。といふか、封切りをぶつけるどころかなラストを見るか観るに、サトウトシキは明らかに都庁を撃ちに行つてゐる、現に撃つた。尤も、あの頃サトウトシキなり小林宏一らが感じてゐたにさうゐない、やがて明けるやうに暮れる白々しき夜に対する悪寒にも似た予感は、時間と距離の隔絶か単なる知性ないし想像力の欠如か、個人的に共有可能な類のものではなく、あるいはさういふ者にも体感させるだけの、時代を易々と飛び越える跳躍力をこの映画が有してゐる訳では必ずしもない。吉田春兎のみならず、あの狂騒的なエキセントリックの大家・清水大敬にまで強ひる、含みを持たせたばかりで大して中身もない台詞を、坦々と妙な間で発せさせる演出は古臭さとまどろこしさとにモジモジ身悶えしてしまふのを禁じ得ず、遂に鳴るアタック音には頭を抱へる。確かに過激な本番ショーとはいへ、“異常者たちの夜”の多様性を第十七天国店主の移り気に頼りきりな展開は面白味に乏しく、寧ろ古賀に飯の最中肛門性行を求める、ユミコの方が余程箍が外れてゐる。二番手たる神山洋子が快調にカッ飛ばす反面、主演の筈の芹沢里緒の濡れ場の比重は清々しく小さい。ところが漫然と終始するかに思へた始終が、文字通りの飛び道具で以てとんでもない急加速で弾ける。表面的には「タクシードライバー」との類似も窺はせつつ、アイリスをも殺める点を決定的な差異に一線跨いだその先で更にもう一線跨いでみせるワタナベの凶行は、ピンク離れした本格的な特効と超絶の繋ぎとで一息に引き込ませて見させる、梅垣義明の後頭部が吹き飛ぶショットには吃驚した。人より生命力の強いと思しき清水大敬には二発を費やす心配りも心憎く、ただそれだけに、ワタナベがリボルバーの撃鉄も起こさず続け様に撃つ、今となつては考へられない初歩的なボーンヘッドは地味にでなく目立ち、見事な弾着と比すればなほ一層、ラストの銃創のショボさが際立つのはグルッグルッと二周した致命傷。突発的に煌めき、損なふ一作に止めを刺すのは、“オワリ 1990アクトキャストプロデュース作品”なる間抜けなエンド・クレジット。“アクトキャスト”て何だ、“アクト”て。何か明後日だか一昨日な、変な方向に完成してゐる。


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