真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「売春グループ 欲情する人妻」(昭和54/製作:ワタナベプロダクション/配給:株式会社にっかつ/監督:中村幻児/脚本:奥出映/製作:真湖道代/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:石部肇/助監督:岡孝通/編集:竹村編集室/音楽:多摩住人/記録:平侑子/演出助手:広木隆一/撮影助手:宮本勇/照明助手:佐々木哲/効果:ムービー・エイジ/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/出演:渚りな・笹木ルミ・豪田路也留・泉ユリ・浜恵子・今泉洋・市村譲・松浦康・岩手太郎・日高進也・土居三郎・矢野健・鶴岡修)。出演者中、路世留でなく豪田路也留は本篇クレジットまゝ、そしてポスターには括弧新人特記。泉ユリと市村譲、岩手太郎・日高進也に矢野健は本篇クレジットのみ。逆に吃驚するのが、ポスター限定で―劇中見当たらない―川口朱里の名前が載る、何故この人の扱ひは斯くも自由なのか。
 ベッドの上にタイトル開巻、カメラはもぞもぞ動きつつも、痒いところに手を届かせない暗さまで含め意図的に俳優部の個別的具体性を排した、人妻売春の模様がタイトルバック。明けておしぼり業者「TTオシボリ」のシンイチ(鶴岡)に、スナック「窓」の店主(松浦)がタオルに縮れ毛がついてゐた云々と因縁をつける。ゴリゴリ攻撃的に押すなり圧して来る硬だけでなく、ねちねち粘着質に絡む軟のメソッドも松浦康は持ち合はせるといふのが、今回の発見。のちに抜かれる、機材車に貧相なテープ貼りで屋号を施した「TTオシボリ」配送車のセコい美術は情けない―岡孝通か広木隆一ヤル気出せ―反面、挨拶代りの他愛ないシークエンスに於いてさへ、逐一画が深い。シンイチが赤電話から陰毛の件会社に報告を入れてゐると、隣で電話をかけてゐた女・ヨーコ(笹木)が赤い手帳を忘れて行く。レス・ザン・防壁で電話機が並ぶ光景に、今の若い子達は隔世の衝撃を覚えるのかも知れないが、君等だつて公衆の面前平然と通話してゐるではないか。ちなみに当サイトは、生誕半世紀も目前にして未だかつてモバイルを所有したことがない、事実上占有する業端ならある。一番の理由は一度も欲しくならなかつたからで、二番目以降は特になく零番目が、みんな持つてゐるからだ。疾風怒涛の閑話休題、チヅル(渚)は彼氏であるシンイチの反対を押し切りピンクサロン「日の丸」で働き始めるのと並行して、半年間のセックスレスを一方的に通告、シンイチを激しくやきもきさせる。
 えゝいまゝよと突つ込んでみた藪の中から、案の定抜けられなかつた配役残り。確実なところから出て来る順に詰めて行くと、監督業に鞍替へ後はPaint It,Blackな画面で上映中の場内を漆黒の闇に沈めた―にさうゐない―市村譲は、車椅子の身ながら、余所の男と寝て来たヨーコを荒々しく責める配偶者。照明も劇伴もおどろおどろしく、車椅子が飛び込んで来た瞬間の映画が一筋縄で行かない悪寒、もとい予感は堪らない。多分今作がデビュー作となるあくまで本クレ準拠で豪田路也留―JALかよ―は、最初はシンイチが普通に手帳をヨーコに返すつもりで接触する、中に電話番号の書かれてあつた村上夫人。今泉洋は「日の丸」でのチヅル贔屓客、公開題的に、恐らくピンク映画と思しき「女のまよひみち」―表記は適当―を一本撮つて馘になり、ブルーフィルムを目下の稼業とする模様。「日の丸」にてチヅルを口説いての、要はアフターで撮影をといふのが破天荒すぎる。四位といふ高ビリングにしてはポスター不掲載が解せない泉ユリは、シンイチが村上夫人経由で辿り着く人妻売春グループの元締め、美容院「ベラミ」の女主人。消去法で浜恵子は泉ユリにあしらはれたシンイチを、「ベラミ」を抜けてのフリー商売を目論み捕獲する白ワンピの団地妻か、ナオちやん(男児)のお母さん。最大の難問が、その他男優部のうち唯一ポスターに居並ぶ土居三郎。シンイチが矢張り手帳経由で接触する、村上夫人と懇意でもある細川かと豪田路也留と一戦こなす推定で最初は思つたが、後半今泉カントク(仮名)が8mmを回す、ブルーフィルムでチヅルがケンちやんと絡み始めるに及んで完全に万事休す。そのほかそれらしき登場人物は、「日の丸」店長にラストでシンイチを最低半分は殺す二人組。既に一人分名前が不足する―子役入れると二人分―のに加へ、主に「日の丸」と「ベラミ」についでで「窓」にも、総計ざつと二三十人はノンクレ大部隊が投入される、もうどうしやうもない。
 量産型娯楽映画相手に数をこなせてゐないのもあり、今一つでなく如何に評価したものか正直定まつてゐない、中村幻児昭和54年第九作。手帳を拾つた男は持ち主捜しと、女は金を稼ぐのに各々奔走する、拾つた訳では別にないか。寧ろある種のオネスティをも漂はせなくもない、如何にも変名臭い奥出映の正体に関しては知らないし見当もつかない―ついでに読めない―が、結構あゝだかうだ足を棒にしておいて、結局シンイチが歩道橋で偶々ヨーコと擦れ違ふ、純然たるラック頼みの展開には十二分に腰も砕ける。ブルーフィルムにヨーコが出演してゐた件なんて、女の裸を差し引けば純粋無垢な、最早清々しいほどの木に接いだ竹。火に油を注ぐそれ以前の致命傷が、兎にも角にも碌でなさしか感じさせないシンイチのクソ造形。徹頭徹尾自堕落にして浅墓、手前勝手で無軌道なシンイチの姿がかといつて中途半端な鶴岡修のハンサムにも足を引かれてか、たとへばアメリカン・ニューシネマ的なダメ人間はダメ人間なりの逆説的な、あるいは首の皮一枚繋がつた限界のカッコよさに通ずるでなく。チヅルのある意味健気さも理解ないし感情移入に甚だしく遠く難いどころか、そもそもこんなゴミ男の何処に惚れたのかそこから腑に落ちない惨憺たるザマ。といふか、その外堀を埋めきれてないのは、演出部のチョンボぢやろ。安定期といふ言葉を知らない、腐れシンイチが二人組に虫けらの如くブチ殺されでもして呉れれば作劇的には少々へべれけでも、幾許かの強引なカタルシスもあつたものを。痛めつけるだけ痛めつけておいて、奪はれた端金を奪還しないのも意味不明。挙句に一見颯爽と街行く女のカットで印象的に切り取つたかに見せて、その実漫然と茶を濁すか奥歯に物を挟んだラストは、実は何も完結してゐないにも関らず、唐突極まりなく叩き込まれる“完”に唖然とさせられる始末。五本柱に全員主演女優を狙へさうな面子を並べた割には、濡れ場も決して強くはない。「TTオシボリ」を電話一本で辞めた筈なのに、シンイチは何時まで営業車を乗り回してゐるのかといつたキレを欠くツッコミ処を見るにつけ、いつそ珠瑠美くらゐ派手にブッ壊れて貰つた方がまだマシにすら思へる、最終的には全く以て漫然とした一作である。改めて直截にいふ、中村幻児がよく判らん。


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 「痴漢電車 相互連結」(昭和61/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:深町章/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/音楽:二野呂太/編集:酒井正次/監督助手:橋口卓明・小原忠美/撮影助手:片山浩/照明助手:馬太里庵/スチール:津田一郎/録音:東音スタジオ/現像:東映化工/出演:橋本杏子・井上真愉見・水野さおり・松田知美・鈴木幸嗣・ジミー土田・市川悠・橋井友和・御原庄助・池島ゆたか・港雄一)。
 VHSのジャケでは「下から改札」と一応改題してゐるにも関らず、堂々と「相互連結」の元題でタイトル・イン、ヤル気のなさが清々しい。適当に行き交ふ雑踏をタイトルバックに、改めて電車の画に深町章のクレジット。車内実景を何枚か連ねて、向かひ合はせの倫子(井上)のお胸が村沢(鈴木)にコンタクト。村沢は堂々と正面から電車痴漢開戦、ガラス戸にオッパイでなく、裸に剥いた尻を押しつける案外珍しいメソッドも繰り出しつつ、頃合を見計ひ、倫子は村沢の財布を掏る。降車後倫子を追ひ駆け捕まへた村沢は、己の痴漢は棚に上げ倫子を警察に突き出す。対応した刑事の沼田(港)は村沢も村沢の脛の傷につけ込むかの如く、村沢が掏られたと主張する所持金一万四千円を遺失物の形で処理する。
 ジミー土田が痴漢した高井望(水野)はこの人も刑事で、当然車中の現行犯逮捕。ところがジミ土の一目惚れ抗弁に、望がコロッと陥落。職務も何処吹く風、後日ジミ土とデートした望は、サクサク処女をも捧げる。尺八を吹く水野さおり―の巨乳―を、仰角で抜く画がガチのマジでヤバい。望に対して独身を偽るジミ土には、実は松田知美といふ妻がゐた。配役その他橋井友和は、ジミ土同僚の橋口君、変名の意味ねえ。あと一人笠井係長が、会話の中にのみ登場する、ナベなら課長かな。
 画面左から池島ゆたかと橋本杏子に、御原庄助(=小原忠美)ともう一人津田一郎(a.k.a.津崎一郎)まで一遍に飛び込んで来る。買物して友達とお喋りする用事で、アキコ(橋本)は刑事の夫(池島)と通勤電車に揺られる、また刑事かよ。池島ゆたかの劇中固有名詞は、アキコが本命・明子であつた場合園山高志。対抗・亜紀子で野沢俊介、但し大穴の岩淵竜也か達也も残る。閑話休題アキコは園山(仮名)が触つて来てゐるものかと思ひきや、犯人はまさかの自分でマスもかく御原庄助。小原忠美によるヤバいドライブの変態野郎が、割と名演技。さて措き駅前で園山と別れたアキコの、本当の用件は間男・マコト(市川)との逢瀬だつた。御原庄助と一緒に見切れるゆゑ、当初津田一郎の匿名かと早とちりした市川悠が全く以て初見の、といふか何時か何処かで観るなり見てゐたとしても、まづ覚えてゐまい特徴のない面相。
 タグつきでシリーズ管理されてある新東宝の痴漢電車を、片端から攻めて行く趣向の殲滅戦。終に第十五戦で残り弾のなくなつてしまつた、深町章昭和61年第四作。ロマポが膨大に残つてはゐるのだが、正直ピンクは結構見尽くした。トチ狂ふかどうかした勢ひで、旧作をジャブジャブ新着させて貰へると大変有難い。未知の新作と、未見の旧作との間に於ける差異など、甚だ形式的なものにさうゐない。酔へば酔ふほど強くなるのが酔拳なら、掘れば掘るだけ旨味を増すのが量産型娯楽映画、であるやうな気がする、断言する勇気はないのか。
 やけに刑事だらけの三篇オムニバスが、例によつて互ひに連関するでは一切なく。倫子の江藤が崩れる「ミセス痴漢の愛液ビシャビシャ編」―VHSジャケより、以下同―が、パート尻のぞんざいさを除けば、最もオチらしいオチがつく。途中で松田知美の顔が透けて見える「婦人警官のパンティ塗れ濡れ編」も、予想通りともいへ綺麗に落とす。対してアキコ園山双方不自然な言動に終始する「人妻の不倫グチョグチョ編」―にしてもどのサブタイも凄まじく酷い―が、前二篇より幾分長めの尺を費やしながら、最後まで雑なまゝ振り逃げる。単純な面白い面白くないでいへばさういふ問ひを設定すること自体が無体な一作ではあれ、四番手まで夫婦生活をキッチリこなす、女優部四人態勢はしかも穴のない顔ぶれが何気でなく明確に豪華。最終的には何時も通り津田スタを手替へ品替へするのは兎も角、濡れ場に際してはテンションの高いショットをそこかしこで叩き込み、のんびりと女の裸を愉しむ分には、それなり以上に激しく楽しませる。


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 「セックス・フレンド 濡れざかり」(1999/製作:国映株式会社/配給:国映・新東宝映画/監督:坂本礼/脚本:坂本礼・今岡信治・瀬々敬久/企画:朝倉大介/音楽:大木裕之/撮影:鏡早智/照明:泉田聖/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:大西裕/撮影助手:小岩井貴子・宇貫谷友織/照明助手:一色嘉伸/現像:東映化学/撮影応援:西村友宏/助監督応援:田尻裕司/応援:石川二郎・榎本敏郎・星川隆宣・柳内孝一/協力:ファントムライン・堀禎一・綿引近人/出演:澤哲志・さとう樹菜子・酒井邦幸・柊美瑛・新崎貢治・飯島大介・伊藤清美・伊藤猛・坂本八重子)。
 タイトル開巻を、嬌声が追ふ、こゝまでは誠実。二人のスナップも置かれたベッド脇に、男の腕が伸び数枚目のコンドームを手探る。ゴソゴソはする気配と、首がどうかなりはしないか軽く心配な凄い勢ひで、ガクンとさとう樹菜子の頭部がベッド外に逆向きで項垂れこそすれ、カメラが一分間動きやしない。開巻の誠実が何秒続くものやら様子を眺めようかとしてゐたら、よもやまさかのゼロ秒だつた。
 漸く満足に捉へた正常位は、三十秒そこらで手短に完遂。プーの須藤大助(澤)の、そんな暑い暑いいふのなら、エアコン様がをられるのだから点火すればいゝ部屋。さとう樹菜子は同じコンビニのアルバイト先で知り合つた、グラフィック系の専学生・?林美果。事後の須藤宅に、小学校の同級生かつ少年野球チーム「松本 BIG-4」のチームメイトでもあつた、小林ツトム(新崎)が当時以来のいきなりで訪ねて来た上、ザクザク上がり込んだ挙句勝手に寝る。いやあ、この時点で大概だろ。兎も角、半日転がり込んだツトムは出て行つた、大助の帰宅後。ベッドに残された身に覚えのない携帯に大助が出ると、忘れて来たツトムが、実家まで届けて呉れないかといふ。その際はシカトするつもりであつたかに思はせ、翌日になると実家の母親(坂本八重子/もしかして坂本礼のリアル一親等?)から親爺の車を借り、大助は美果と埼玉の片田舎を目指す。
 配役残り伊藤猛は、賞味期限切れの弁当なり惣菜を、店員に分け与へる善意が嬉しくて嬉しくて仕方ないコンビニ店長。酒井邦幸と柊美瑛は、大助と美果の埼玉行、美果が野ションしてゐところ、本格的な野外露出ワンマンショーを撮影中の村井憲太郎とジュンコ。酒井邦幸が、今はラーメン屋の大将らしい。話を戻して少年野球時代、「SNAKES」に所属してゐた村井に押し出しのフォアボールを大助が与へ、「松本 BIG-4」は西武球場に行き損ねた因縁。その後村井は内野手として中日ドラゴンズに入団するものの、小金稼ぎのAV出演が発覚して馘に。ツトムは目下村井が錦糸町北口で経営するスナック―但し風前の灯―にも顔を出し、村井には実家の住所を遺しもとい残してゐた。伊藤清美がツトムの母で、飯島大介が父。甚だ束の間とはいへ、このビリングで伊藤清美に夫婦生活の濡れ場が設けられるのは予想外。その他ノンクレで動員される、少年野球部と審判は知らん。
 素のDMMでバラ売り動画を買ふ、正調国映大戦。大体半年ぶりの第三十五戦は、五年目で監督デビューを果たした坂本礼第一作。最近再起動したぽいインターフィルムさんが、現状配信では見られない第二作「18才 下着の中のうづき」(2001/脚本:井土紀州/主演:笹原りな)をex.DMMに放り込んで呉れると、第三作「豊満美女 したくて堪らない!」(2003/脚本:らもんなか=今岡信治/主演:西野美緒)もバラ売りDMMで押さへられるゆゑ、力の限り捗るのだけれど。
 木に竹を接ぎ続けるファンタジーを通して道にはぐれ気味の青年が何となく救はれる、みたいな掴み処のない物語。ただでさへ漠然とした台詞を、男主役の覚束ない口跡は無論支へきれず。一番愕然としたのが、主はバイト中につき不在の須藤家。キスするしないで美果とツトムが向かい合ふ悠久を、鏡早智のカメラも根でも生えたかの如く相変らず微動だにしない、呆れる勿れ二百秒の壮絶には度肝を抜かれた。最早、何(なん)かの限界に挑戦してゐる趣すら窺はせる。その後も単に引いてゐるだけのロングと、長く回すだけの長回しを乱打した末、マウンド上で暫し相対した大助とツトムが、二人とも子供の姿に戻る一撃必殺のマジックで遂に逆転ホームランを放つた!かに糠喜びさせておいて。村井のピッチャーフライを、大助とツトムがダイレクトお見合するへべれけなカット割りで試合終了。ついでに三遊間を無駄に広々と空けるショートの守備位置はさて措き、美果が何処を守つてゐるのかサッパリ判らないのも地味に考へもの、そこを引きで押さへないでどうするのよ。何が当然なのか判らないが、当然のやうに女の裸濃度も極めて薄く、腹が立つほど詰まらなくはないものの、ピンクの小屋でかけるにはこれは苦しからうと首を傾げざるを得ない、精々生温かい初陣ではある。


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 「悩殺業務命令 いやらしシェアハウス」(2019/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影 照明:小山田勝治/録音:小林徹哉/編集:酒井正次/助監督:小関裕次郎/演出部応援:赤羽一真/撮影助手:山川邦顕・高橋広海・渡辺晃己/現場応援:鎌田一利/合成:飯岡聖英/スチール:本田あきら/選曲:徳永由紀子/MA:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄・やよいあい/出演:生田みく・原美織・ケイチャン・可児正光・美咲結衣)。何気に驚異のピンク戦歴―これまで―全六作継続した、美咲結衣のパーマネント二番手が遂に途切れる衝撃に泡を吹きかけたが、寧ろ前作が形式上ビリングの二人目に名前が載るといふだけで、実質的にはトメに座る今作の方が矢張り、あるいは歴然とした二番手である。
 新東宝旧ロゴ壁紙みたいな背景に、銀色の大体スポーツブラとホットパンツ、頭にはハートの触覚?の生えたヘアバンドを載せた八雲花恋(生田)が「ハーイ!」と元気よく飛び込んで来る。花恋の祖母が、令和生れといふくらゐの近未来。素頓狂な扮装は当代のモードらしい劇中世界は、人類が単純労働をロボットと人工知能に行はせる理想郷、全く以て素晴らしい。藪から棒でしかないが当サイトは改憲論に決然と与する、非人道的極まりない第二十七条一項を即刻削除すべきである。二項と三項は、それでも働きたがるかも知れない病的な物好きか、主体性の希薄な暇人のために残しておけばいゝ。完全無欠の閑話休題、にも関らず、「AI任せぢやつまんない!」と頭のおかしな不平を垂れ『モテ本!』なる色恋マニュアルの小―さくない―冊子を取り出した花恋は、令和の町並を遺したレトロ地区に、同じく令和のビンテージ・ファッション―と称した私服―で現れる。なかなか秀逸なのか開き直つた力技なのか、よく判らない方便ではある。いらすとやを使用した「お見合ひシェアハウス」の看板の掲げられた一軒家に辿り着いた花恋が、「ゴキゲンだね☆」と親指を立てるとキラーンと音効が鳴り、空にパンしてタイトル・イン。初陣にして工藤雅典の電撃大蔵上陸作「師匠の女将さん いぢりいぢられ」(2018/共同脚本:橘満八/主演:並木塔子)三番手から二階級特進した主演女優が、何か顔が変つたやうに映るのは気の所為か。
 わざわざ一軒家を用立てた割に、シェアハウスの参加者は花恋と、背広で二十世紀のサラリーマンを意識した桐島平田(ケイチャン)の二人きり。花恋に対し桐島が覚えた、以前に会つたやうな謎の疑問を遮るかの如く、シェアハウスの企画者で、「スター・プリンス」社の社長・草壁冴子(美咲)がホログラフで登場。この人の格好は、緩めのサンタコス風に猫耳。冴子と目配せを交す花恋が実は、開発部所属のスター・プリンス社員。かつ桐島は自らが人間である記憶を埋め込まれた、スタプリ社主力商品たる人工知能搭載のヒューマノイド。自律思考可能な新型にヒューマノイドをアップデートする一貫で、スタプリ社は恋愛機能の実装を目指してゐた。とかいふ次第でシェアハウスを通して霧島を恋の虜にする、要はオトせといふのが、希望した―けれど社内選考に落ちた―開発チームへの参加と特別ボーナスを成功報酬に、花恋が社長から直々に受けた特命だつた。
 配役残り、地味に五年目六本目の原美織は人間童貞の桐島がかつて使用した、恋人型ヒューマノイドのエヴァ。桐島の近未来モードは、まんまか単なるモジモジくん。一方可児正光は、ヒューマノイド処女である花恋の元夫・友哉。AIが弾き出した幸福確率99%を真に受け結婚したものの、友哉が余所に女を作り一年と続かず破局する。
 2016年第二作「めぐる快感 あの日の私とエッチして」(主演:星美りか)以来、山崎浩治が三年ぶりに復帰した渡邊元嗣2019年第三作。もう一人小山田勝治のナベシネマ参加は、確認し得る範囲では1998年第四作「壺いぢり名器天国」(脚本:波路遥/撮影:下元哲/主演:西藤尚)の撮影部チーフ以来。
 如何にもオッサンじみた―オッサンだからな―繰言を吐くが、林由美香なら卒なくこなしてゐたであらう、過剰なマンガ芝居に生田みくが概ね憤死しつつ、花恋は他愛ない手練手管で持ち前のオーバーアクトを一切封印した、表情の乏しい桐島を籠絡すべく悪戦苦闘する。逆に、さういふ造形を宛がふのであれば、そもそも何故ケイチャンを連れて来たのか。兎も角山崎浩治御自身のブログによると、木乃伊取りこそが木乃伊であつた、2015年第三作「愛Robot したたる淫行知能」(主演:彩城ゆりな)の姉妹作、ぽいとのこと。土台がサシでテラスハウスを気取らうだなどと、大概な蛮勇に関してはそれをいふても始まらないゆゑ、と後ろ向きな言草で呑み込むとしても、画的にもこれといつた煌めき一つ欠いた平板さの中、決定力不足の俳優部による大人の映画で子供も騙し損なふ稚拙なラブコメは、山崎浩治大復活に狂喜したときめきを、容赦なく霧散させるに余り有る、頼むから余つて呉れ。尤も桐島がロボット工学を嗜む設定で軽くミスリードする、ある程度容易に予想し得よう「愛Robot」調のオチを軽やかか力強く通り越し、2009年第三作「愛液ドールズ 悩殺いかせ上手」(主演:クリス・小澤)の領域に至る辺りからは俄然一気呵成。「愛Robot」ではある意味見事に等閑視してのけた、ロボット三原則の第二条周りにも細やかな冴えを感じさせる。何より―恋をするのに―年齢や性別はまだしも、人機の別すら最早関係ない。桐島が到達したジョン・レノンばりの視座から、カット跨いで締めの濡れ場に轟然と突入する馬力、あるいはアクセルの踏み抜き処を決して逃さない一種の勘こそが、依然ナベがナベたる所以。百一回目の試行なのか、友哉の扱ひがあんまりなエピローグに際しては尺を持て余し気味で、スーザン・カルヴィンに片足突つ込むかのやうな、草壁冴子―美咲結衣の濡れ場は、充電中に桐島のVR遠隔セックス機能を使ふ形で処理される―が最終的に目指す地平は雲を掴む。正直昨今一抹以上の厳しさも否み難い、ナベシネマ的には些かならず物足りない一作ながら、漸く活きのいゝ連中もぼちぼち出始めて来た外様の台頭を、渡邊元嗣には鼻歌で弾け飛ばす、果てしなく高く無慈悲に頑強な壁でまだまだあつて貰はないと困るのだが。

 ところで今作のシナリオ題が、「星の王女、お見合ひに行く!」。「星の王子 ニューヨークへ行く」翻案が大蔵から与へられた御題であるといふのには、幾ら続篇が製作されたとはいへ何をこの期にと驚くほかないが、実際に星の王女様なり王子様がどの程度フィーチャーされてゐるのかといふと、テラハ以上だか以下に木に竹しか接がない。


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 「下半身症候群」(昭和59/製作:株式会社にっかつ・U-PRODUCTION/配給:株式会社にっかつ/監督:中村幻児/脚本:吉本昌弘・高原秀和/企画:才賀忍/撮影:遠藤政史/照明:森久保雪一/編集:田中修/助監督:高原秀和/監督助手:望月六郎/色彩計測:守屋治朗/撮影助手:富田伸二/照明助手:坂本太/製作主任:廣木隆一/挿入歌:『ストーリー』歌:石黒ケイ ビクターレコード/録音:東映東京撮影所仕上げセンター/現像:東映化学/撮影協力:鶴見ホテルニューヨーク・パブレストラントーヨー・新宿 覗き部屋メルヘン・下着専門店エーゲ海/出演:朝吹ケイト・西川瀬里奈・聖ミカ・五月女弘美・石川亜美・中根徹・大杉漣・塩野谷正幸・佐藤靖・石川均・池島豊・堺勝朗・末次真三郎・富岡忠文・飯島大介・坂本昭)。出演者中、五月女は兎も角ヒロミは宏美の筈の五月女弘美が、本篇クレジット・ポスター双方確かに五月女弘美。同じく佐藤靖から池島豊までと、末次真三郎以降は本クレのみ。企画の才賀忍は、中村幻児の変名。
 ネオンから歌舞伎町のカットを繋げて行き着いた先は覗き部屋、くねくね踊る朝吹ケイトの背中にタイトル・イン。タイトルバックが、カメラも精力的に動く。後述する店員B(仮称)と店長(飯島)に挨拶して、脱サラで射精産業に飛び込んだ小泉真紀(朝吹)が退勤。着替へする嬢の友子(ビリング推定で聖ミカ)と、店員・島田治雄(佐藤)の真紀が種々の業態を渡り歩いて荒稼ぐ噂話噛ませて、総勢十人弱のその他も投入されるデート喫茶。太田(末次)とホテルに入つた真紀は、拘束プレイの末に所持金を奪はれる。翌朝、美術部は特にクレジットされないゆゑ、恐らく狙ひすぎた場末のロケーション。捨て猫を拾つた山口静(西川)に、ゴミの中から手錠もかけられたまゝの真紀がお金貸して呉れない?と助けを乞ふ。的な流れで、真紀がゲイで売り専ボーイの野口純次(中根)と同居する共同生活に、静も加はる。
 闇雲に膨大な配役残り、明美役とされる石川亜美は、消去法で友子ともう一人脱ぐ覗き部屋嬢か。回想中の静不倫相手が、多分富岡忠文、踏み込んで来る妻子は知らん。塩野谷正幸は、真紀を諦めきれない会社員時代の同僚である元カレ・岡田弘。岡田が勧められた見合写真の、部長の娘も判るか。大杉漣は純次の交際相手・三村茂、互ひのサングラスに相手を映り込ませる、初登場カット―のダサさ―に悶絶する。堺勝朗は、渡された名刺を頼りにデート喫茶こと正式にはESCORT PUB「APPLE HOUSE」を訪ねてみた岡田の眼前、真紀を買つて行く安斎、娘のキヨミが超好き。覗き部屋で股縄を披露するのが五月女弘美、ex.五月女宏美で、早乙女宏美になるといふのは寡聞にして初めて知つた。純次が働く売り専バーの、客二人とバーテンダーも不明。池島豊(当然a.k.a.池島ゆたか)は、真紀の愛人バンクに於ける顧客・近藤。唐突に真紀と百合を咲かせた静は、静も“恵まれない男に愛の手を”差し伸べる稼業に足を踏み入れる。坂本昭は、トーヨー表を抜いての静初陣相手・河村。ひとつ残る巨大な謎が、最初は二番目に見切れ、のちに静を巡り島田とプレゼント合戦も繰り広げる、覗き部屋店員B役。出番もふんだんに与へられノンクレとは考へ難いゆゑ、となると石川均しか名前が残らないのだが、何処からどう見ても石川均には見えない件。つかこの人、吹き出物ないけど望月六郎ぢやねえか?
 ex.DMMピンク映画chの中に、中村幻児がロマポは残してゐたなと思ひたち、朝吹ケイトついででチョイスした昭和59年第一作。真紀が二言目には、「先が見えてる生活なんて興味ないは」。刹那的か享楽的にドロップアウトしたヒロインと、その周囲を取り巻く有象無象の織り成す人間模様。少なくとも政治的と経済的には三十年をドブに捨てた、平成を経てなほ令和が全速後進する今となつては、「先が見えてる生活なんて興味ないは」。先らしい先が標準的に見当たつた時代なればこそな、自堕落といふより寧ろ、真紀の小生意気な方便は一種の恵まれたヴィンテージでさへあつたのだらう。さういふ屈折した眩さも、この期に及んでは禁じ得ない。
 とかいふ辛気臭い感慨は、今作単体の出来とは別に無関係。当時的な流行りみたいなものなのか、表層的な雰囲気なり他愛ない惚れた腫れたを漠然と連ねた末、純次がドシャアされたのを便宜的な契機に、何となく幕を閉ぢる始終は清々しく面白くも何ともない。かてゝ加へて敵は暗黒の忌はしき八十年代、壮絶な女優部のパーマは琴線を引き千切るどころか琴本体ごとヘシ折り、キッラキラ輝くハイキーな水面を背景に、影絵ぽく単車と人物を配した一枚画辺りは、何かもう見てゐる―だけの―こつちが恥づかしくなつて来る。一時間にも満たない尺に比して、明らかに過多な俳優部の頭数は元々存在しない、限りなく透明に近い本題を更に希釈。そもそも真紀が、純次を連れて来たのか純次のヤサに住み着いたのか。一繋ぎの台詞の中ですら日本語が繋がらない、真紀らが暮らす生活臭の一欠片もしない絵空事のやうにシャレオツな部屋は、全体誰名義の物件なのよ。反面、造形美の領域に突入する肢体を華々しく誇る朝吹ケイトを名実ともの先頭に、女優部の粒はそれなり以上に揃ひ、最終的には何れも散発的なものながら濡れ場の手数は貪欲で、あくまで裸映画的には案外堅実で高い水準を保たなくもない。いつそ腹を括つて女の裸一本に焦点を絞つて観戦する分には、立つ瀬のまだしも残される一作ではある。


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 えゝと、詳細は割愛か自重するとして、ツイッターが凍結された。とこ、ろが。一度(ひとたび)凍らされたが最後、当サイトはモバイル持たないものだから解凍出来ないのね(笑
 メアドまでは認証させ得ても、次の段階で詰む。必ず詰む、詰む・オブ・詰むレベルで詰む。大体携帯電話がないだけで手も足も出せなくなる、排他的なシステムはどうにかならんのかと呆れかけなくもないものの、別に課金してる訳でもなく、こゝは仕方ないかと一旦諦める。
 ログアウトすればロムる分には今まで通りで、多分着弾したDMは、メーラーの通知メール経由で読める筈。知らんけど、返せないし。新しいアカ作るのも今は面倒臭いから、当分このまゝの状態で放置する模様。


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 「《秘》肉体調教師」(昭和53/製作:日活株式会社/監督:白井伸明/脚本:村田晴彦/プロデューサー:三浦朗/撮影:安藤庄平/照明:岡田菊夫/録音:高橋三郎/美術:渡辺平八郎/編集:井上治/音楽:近田晴夫とハルヲフォン/助監督:村井良雄/色彩計測:村田米造/現像:東洋現像所/製作担当者:遠山茂/出演:渚りな・中島葵・島村謙次・益富信孝・橘雪子・浅見小四郎・兼松隆・堀礼文・木島一郎・大平忠行・小見山玉樹・中平哲仟)。出演者中、大平忠行と小見山玉樹は本篇クレジットのみ。寧ろ本篇クレにのみ飛び込んで来るのが、コミタマらの真骨頂。気を取り直してクレジットがスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 営業中のスナック―屋号は多分「バロン」―の表から、ドアの硝子越し最初に抜かれるのは兼松隆。マスターの江川三太(兼松)が、常連客の貧乏学生・斎藤正夫(浅見)がしこたま食つておいて金は持つてゐない無銭飲食に剣幕を荒くする修羅場。に、奥の席に居合はせた白川亜湖(渚)が、「この人の分ウチに立て替へさせて呉れはる?」と割つて入る。呆気にとられる斎藤に、亜湖が“今日からあんたと同じとこに下宿させて貰ふ”、と早速何気に不可解な自己紹介をカマした上でビル群のロングにタイトル・イン、何故斎藤の素性を知つてゐるのか。兎も角ピントを手前に送ると都電荒川線の線路を、亜湖と荷物を持つた斎藤がほてほて歩いてゐるのがタイトルバック。特に慌てもせず、平然と電車と擦れ違ふ豪気が凄まじい。斎藤が下駄の鼻緒を切らした流れで、シレッと滑り込ませる監督クレジットがスマート。
 明けて「和洋裁仕立て直し致します」の札も提げられた、仮称佐竹荘。女将の佐竹米子(中島)がミシン仕事に精を出す背中から入つて、少年マガジンを逆さに読むキャメラマン・坂口達也(堀)の布団の中では、美容師の亀井洋子(橘)があゝだかうだ悪戦苦闘。美学生の亜湖が加はり、店子は総勢四名。米子の夫で、銀行の支店長代理の昭男(島村)も帰宅しての夕餉。エキゾチックなヘアバンドに、透け透けのネグリジェ。亜湖が頓珍漢な巫女―もしくは生贄―のやうな格好で現れ、座の度肝を抜く。その夜、斎藤の寝袋に亜湖が潜り込むと、初対面の時点で鼻の下を伸ばしてゐたにも関らず斎藤が勃たない一方、佐竹夫婦も佐竹夫婦で、例によつて昭男が中折れ二ヶ月の御無沙汰を拗らせてゐた。
 配役残り、今更にもほどしかないがこの人ミック・ジャガーに似てゐるのに気づいた益富信孝は、亜湖がウェイトレスのアルバイトを始めた、バロンを急襲する長尾武。何某か亜湖と因縁のある画家、結局その詳細が語られはしない。詳細がといふか、詳細もといふか。木島一郎と中平哲仟は、界隈で頻発する下着ドロを張り込む、のにそれぞれ青のジャージと白いオーバーオールとか、お笑ひ芸人かゲームキャラみたいな扮装の刑事コンビ。我等がビリング下位のスーパースター・小見山玉樹と、大平忠行は刑事部に追随する制服警官。その他バロン要員に合計六人、仕事の出来ないカメアシの坂口が、グズ達呼ばはりでこき使はれるアサヒスタジオに脱ぐ女優部二人込みで四人。洋子が勤める美容院に四人に、制服警官がもう二人全部で投入される。増員警官の一人がサブ臭く映らなくもないものの、流石に画が遠い。益富信孝≒ミック・ジャガーに話を戻すと、ストーンズに続いてクイーン、堀礼文はフレディ・マーキュリー。
 二十一世紀の視点で振り返るとリファインしたまいまちこにも見える、渚りなを主演に擁した白井伸明昭和53年第一作。渚りなといふ人がコロッコロ改名してゐたり、フィルモグラフィーが何だかんだ雲を掴む。デビュー作は「セミドキュメント スケバン用心棒」(昭和49/監督:代々木忠/脚本:林崎甚/主演:五十嵐のり子)らしくて、この時の名義は大谷リナ。
 面々が悶々とする下宿屋に、コケティッシュな若い女が新しく越して来る。奔放も華麗に通り越したヒロインはへべれけな魅力で忽ち男衆を惑はせ、一同は騒動に巻き込まれて行く。よくあるストレンジャーものともいへ、なかなか一筋縄で行かない一作。全く以て、悪い意味で。佐竹荘でのある意味初夜、各々の現況を一通り掻い摘んだ亜湖は、「哀しい人達ばつかりや」。自身を追つて来た長尾に対し、「絵もう描けるやうになつた筈やろ」と長尾の筆による裸婦画を突き返した上で、「ウチの出番終つたんや」。江川の下着ドロに官憲が動き出す事態に際しては、「思ひも寄らぬオマケがついたは」。たとへばメアリ・ポピンズぽい正体なり裏の存在も窺はせる、思はせぶりな台詞をそこかしこで積み重ねて、おきながら。更なる顕示的な謎が、狂乱の一夜―から早朝にかけて―の前段、亜湖が洋子に持ちかける互ひの居室ないし実質寝室のスワップ、もといスイッチ。果たしてその部屋交換が如何様に機能するのかが全ッ然読めず、どれだけ複雑なピタゴラ装置を構築するのかと固唾を呑んでゐたところ、結局何のために部屋を交換したのかサッパリ腑に落ちない、木に藪蛇を接ぐギミックであつたのには玉と砕けて腰が抜けるかと思つた。米子と長尾が改めて致すメイン居室に、洋子と佐竹も何時しかオッ始める押入れが決壊。そこに突入する警官隊が火にガソリンを注ぎ、あとは勢ひに任せたてんやわんや。を、亜湖はといへば明後日な高みから眺めてけらけら笑ふばかり。何だこの映画、何もかも逆の意味で見事に回収しないラストに吃驚したのが、最早正負は問はないベクトルの最大値。あとは橘雪子が可憐に輝かせるピンク色のお乳首様を除くと、「ワッショイワッショイ」のリズムでの、木島一郎と中平哲仟による「ワイッセツワイッセツ」。花の一つ咲かぬ、枝葉ではあれ。とかく本隊ロマポといふとお高くスカした印象を持ちがちなのかも知れないが、何せ母集団がそれなり以上の大きさであるだけに、マメに観るなり見て行くうちに、結構トッ散らかつた代物にもまゝ遭遇するのであらうか。だとすればそれは要は、あるいは単に。スタージョンの黙示を再確認して、事済む話に過ぎなくもある。

 もう一点、正しく耳に障るのが、饒舌どころでない近田晴夫とハルヲフォン。狭義の劇伴自体は、シークエンスとの親和度を度外視さへすれば調子よく聞いてゐられなくもない―伴つてねえ―にせよ、何がどうなつてゐるのを指すのか、状態がてんで伝はらない過剰な音効は完全に逆効果。下手に狙つた珍奇な意匠が、まんまと諸刃の剣に堕してしまつてゐる、荒木太郎か。


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 「痴漢女便所」(1990『痴漢と覗き 穴の開くほど』の1999年旧作改題版/製作:新映企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:伊能竜/撮影:千葉幸夫/照明:百合明/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:古谷卓/撮影助手:水野勝也/照明助手:田中雄一郎/効果:蒔田グループ/現像:東映化工/録音:銀座サウンド/出演:真野舞花・川奈忍・和ひさ美・初見美沙・石神一・吉岡市郎・工藤正人・久須美欽一)。出演者中初見美沙に、ポスターでは括弧新人特記。脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。あと効果の時田でなく蒔田グループは、本篇クレジットまゝ、器用な真似しやがる。
 ビル外景に軽快な劇伴を鳴らし、女便所のピクトグラムと、洗面台挿んで使用禁止の個室。下に開けた隙間から上目遣ひに覗く、久須美欽一の鋭い視線にタイトル・イン。和式便器を跨ぐ女の足下にクレジット起動、排尿を始めて俳優部、水を流して新田栄の名前といふある意味完璧なのか、匂ひさうなのかよく判らないタイトルバック。花菱商事の清掃員(久須美欽一/役名不詳につき以下久須りん)は覗きが日課で、本篇最初に用を足す川奈忍に対し、毛深いだ凄いデカマンだ随分な悪口を叩く。そんな久須りんに、高卒の新入社員・山吹千里(真野舞花/仲山みゆきのアテレコ)は温かくフランクに接し、相好を崩させる。ある日、公園を歩いてゐた女子大生(二戦するビリング推定で和ひさ美)に目をつけた久須りんは、ベンチでエロ本『ウルフGUY』を読み耽るひさ美(仮名)に物理的接触。ひさ美の体験告白音読に乗じて、その通りに久須りんが実際に触つてみる。とかいふ最早神々しいまでに天才的なシークエンスを通し、要は黙つて見てゐればいい覗きに比べ難易度のより高い痴漢をも敢行、滅多に両立しない“痴漢と覗き”を完成させる。晴れて偉業を成し遂げた久須りんの肩を、恐らく探偵の石神一が叩く。畜生専門から趣向を替へた石神一の、目下の稼業は初恋の人捜し。尻にデカい黒子のある、花菱商事女子社員を捜してゐる石神一が久須りんに協力を要請する一方、呼称も先生先生と痴漢の弟子入りする。ある意味、何て長閑な物語なんだ。つか、またアメイジングな手懸りの人捜しだな。
 配役残り、覚束ない消去法で初見美沙は久須りん初恋の人にして、筆卸して貰つた山吹マチコ。載せたのか植ゑたのか兎も角何某か手を加へる以前の髪量で、久須りんが詰襟を着てゐる回想パートの一昨日な破壊力がヤバい。吉岡市郎は久須りんがアップアップの初体験に、藪蛇に介入する痴漢師。そして激しい疑問も禁じ得ない吉岡市郎と和ひさ美?のそれぞれ二役目が、アルバイトの応募者に無造作なセクハラ面接を施す課長―画質が低く長万部支店に飛ばされる辞令の氏名判読不能―と、それをまるで意に介さない風俗経験者。体験告白女子大生は当人いはく未体験で、久須りん在りし日の吉岡市郎と長万部課長(符丁)が同一人物であるとすると、当然の如く時空が歪む。土壇場まで温存される工藤正人は、千里が久須りんに仲人を頼む婚約者・南城シンヤ。ところで―今作に於いては―絵に描いたやうな好青年に徹する工藤正人が、どう調べても1991年までの活動しか見当たらない件。果たして今はどうされてゐるのか、三十年経つてゐるとはいへ、精々還暦前後だらう。
 油断してゐるとツイッターでのアナウンスもないまゝに、エク動に飛び込んで来てゐた未見かつ未配信の新田栄1990年第五作。これまで観るなり見てゐるのは全十三作中六本の、本家「痴漢と覗き」第二作に当たる。その他通つてゐるのは改題した結果のセルフ傍系のほか、北沢幸雄坂本太に大御大・小林悟
 首から下はそこそこ美しくはあれ、垢抜けない馬面の主演女優を擁し、相対的にこの面子だと大女優にも映りかねない川奈忍が、へべれけに間を繋ぐ前半は右往左往に終始。久須りんが久須りんもマチコ捜しを石神一に依頼するに及び、漸く物語らしい物語がおづおづと起動する。尤も後半も後半で、和ひさ美?と吉岡市郎は不用意な一人二役×2の二人四役で茶を濁し、川奈忍も川奈忍で相変らず、しかも終盤の常識的に考へると大概重要な時間帯に差しかゝつてなほ、女の裸を見せるためだけに女の裸を見せるワンマンショーで豪快に木に竹を接いでみせ、つつも。見え見えな久須りんの正体と、秀逸と力技で評価の割れさうなミスリーディングとでエモーションを案外順調に醸成。千里の誕生日自宅に招かれた久須りんが、南城の存在に愕然としての帰途は、止(や)みはしたものの、雪の残る冬の夜道。他愛ない下心は空振りしながらも、街灯に照らされ、千里の幸福を静かに願ふ久須美欽一の満ち足りた背中のロングは、確か俺が今見てゐるのは新田栄の「痴漢と覗き」の筈なのに、何処の名画かと目を疑ふ一撃必殺のエクストリーム・ショット。遂に久須美欽一脚本による、真の傑作に巡り会へた、だなどと感涙に咽びかけたのは、まあ浅墓な早とちりかどうかした勇み足だ。石神一が惚けた面相でミスリーディングをケロッと引つ繰り返すと、結局誰の初恋なのか掠りさへせず触れられないまゝの“尻にデカい黒子のある女”に関しても、ぞんざいに明かすばかりで実質的な扱ひとしては等閑視。久須りんが同じ作業服の石神一と便所覗きに勤しむ、頭数は増えた変らない日常ラストは矢張り何時も通りの「痴漢と覗き」。いゝ映画を普通に撮るのを、恥づかしがる必要なんて別にないんだぜ。新田栄と久須美欽一、シャイな男達が作つた爪弾くほどではないにせよ、琴線を優しく撫でる一作、なんて辺りにでもしておくか。
 備忘録< 久須りんの正体は花菱社長、左尻にデカい黒子のある千里の、母親では別にないマチコも存命


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 「童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ!」(2019/制作:Grand Master Company/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:塩出太志/撮影:岩川雪依/視覚効果・照明・Bカメ:塩出太志/録音:横田彰文/助監督:田村専一・宮原周平/小道具:佐藤美百季/特殊メイク:懸樋杏奈/特殊メイク助手:田原美由紀/衣装制作:コヤマシノブ/整音:井上久美子/音楽:宮原周平/タイトルデザイン:酒井崇/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/協力:愛しあってる会《仮》・露木栄司・ニューシネマワークショップ・木島康博・田島基博・Seisho Cinema Club・青木康至/出演:戸田真琴・きみと歩実・星野ゆうき・松本高士・西山真来・しじみ・岡本裕輝・長岡明美・田丸大輔・加藤絵莉・香取剛・手塚けだま・ほりかわひろき・田村専一・馬場泰光・鳥居みゆき)。
 ど頭光の粒子が蒸着して文字を成す、王冠挿んだOP PICTURESロゴから上下に帯のついた所謂シネスコ画面。ただ単に忘れてるだけか知らんけど、デジ蔵で初めて観た気がする。尤もかといつて、横長のアスペクト比を存分に活かした、キメッキメの画面設計が為されてゐる訳でも、別にない。
 コンビニエンスストア「EVERY DAY」の表で信夫(星野)が待つてゐると、仕事を終へた鈴木歩美(戸田)が出て来る。雨の中、歩美主導で二人は一人住まひの信夫宅、ではなく夜まで親は戻らない、筈の歩美実家に。キッラキラ瞳を輝かせる歩美がサックサク膳を据ゑて来るまゝに、いよいよといふかあれよあれよ事に及んだ、ものの。避妊具を持ち合はせず、ついでに初体験の信夫が歩美二撃目の「いゝよ」を振り切り買ひに出ようかとしたところに、予想外の早さで両親(岡本裕輝と長岡明美)帰宅。歯がガッチャガチャな俳優部が居並ぶ、貧相な画面(ゑづら)はどうにかならんのか。親爺に摘み出され、悄然と歩いてゐると―ある意味潔く―映さない車に衝突されピヨーンと宙に舞つた信夫が、情けない一生を思ひ返して暗転タイトル・イン。ところで主演の戸田真琴は、榊英雄ピンク映画第四作「ほくろの女は夜濡れる」(2017)ぶりの二戦目。造形の如何か所以か、二年前より若々しく見える。
 明けて信夫が寝かされ、歩美と両親に、信夫を轢いたと思しき女・高田(西山)も深刻に詰める病室。幽体離脱した信夫の意識ないし霊は、歩美をすり抜け触れられない点やその場の雰囲気から、自身が高田の車に撥ねられた状況を察する。どういふ訳だか自分の体にも戻れなかつた信夫は、高田の家にとりあへずついて行く。パッドがリムと一体型の眼鏡感あるおメガネも外さず、高田がシャワーを浴びるプチ濡れ場を西山真来がアッサリした豪快さで披露しつつ、挙句就寝時もメガネを外さない夜。時々話には聞くけれど、とても真似しきらん。高田の部屋に、多分その場所で彼氏を寝取つた女に殺された、両頬に無惨な傷も負つた地縛霊・香織(しじみ)が現れる。幽霊同士で情を交した事後、自らの来し方を無意味であつたと嘆く香織に対し、筆卸して貰つた信夫が意義を肯定すると、それで納得した香織はしじみ本来の綺麗な顔に戻り、光芒に包まれ成仏する。
 配役残りアバンに遡つて香取剛は、「EVERY DAY」の店長・岡田。EVERYとDAYの間にスペースが入るのは、名札ママ。松本高士は仕事中の歩美をレジに急襲する、性質の悪い彼氏・工藤、彼氏なのか?手塚けだまは、霊感のある岡田の妻、この人もコンビニで働く。きみと歩実は岡田と金で寝る歩美の姿に鈴木家にて途方に暮れる、信夫の前に現れる二人目の女幽霊・牧子。香織同様矢張り彼氏を寝取つた、但し男に殺された人。田村専一は工藤行きつけのバーのマスター、屋号不詳。パチキで卒倒させた歩美の、ハメ撮りを工藤が撮影するのを端金で黙認する外道。鳥居みゆきが、サタンゴースト大の閻魔様、様をつけないと怒られる。下膨れの田丸大輔は、気絶した人間には乗り移れるといふ信夫の知見を得て、牧子が乗り移つてみる恐らく酔ひ潰れてゐた男。加藤絵莉が下膨れの配偶者、後背位の最中に当て身を叩き込んで、信夫用のボディを用立てる。ばかに目の綺麗な田村専一は、高田の体に入つた信夫に救ひを求められたけだまが紹介する、霊能者の坊主・渡辺。馬場泰光は本クレで“邪悪の化身”とされる、工藤に取り憑いたサムシング。深く被つたフードと黒塗りとで、正直何処の誰でも殆ど変らない程度にしか映らない。のは兎も角邪悪の化身が再三再四登場する波打ち際の彼岸に於いては、バックベアードぽいビジュアルで虚空に浮かぶ。
 ど真ん中お盆に公開された正調、あるいは本隊大蔵怪談映画たる「変態怪談 し放題され放題」(脚本・監督・編集:山内大輔/主演:星川凛々花)。今作の約一ヶ月前、十月中旬に封切られた「淫美談 アノコノシタタリ」(脚本・監督:角田恭弥/主演:なつめ愛莉)に続く、些かの食傷も否めなくはない当年三本目となる幽霊映画は、OP PICTURES新人監督発掘プロジェクト2017(第一回)で審査員特別賞を受賞した、塩出太志のピンク映画筆卸作。「アノコノシタタリ」同様、二ヶ月弱フェス先行した上で、上野の初日を迎へてゐる。
 大好きな可愛い娘ちやんとの初体験を目前に、非業の死をほぼほぼ遂げた童貞男が、生き返りを目指し奔走する。閻魔から判り易い復活の条件も提示され、ある意味順調に紆余曲折しながらもつゝがなく信仰する物語に加へ、何はともあれな見所は綺麗などんでん返し。流石に開いた蓋から覗いてみるに結構都合のいい方便か無理からな力技ではあれ、出し抜けに牧子が真相に辿り着く超過程さへさて措ければ、信夫が仕方なくついて行つた高田宅に何故か感じた懐かしい匂ひ始め、牧子以前に似て非、ならざる香織の出自。鍵のかゝつてゐないチャリパク感覚で失神した他人の肉体を好きに使ひ回す信夫が、病室に横たはる己には戻り損なふ謎等々、実は周到に全篇を通して伏線は数々張り巡らされてゐる。ただ信夫が頭を抱へた工藤と高田の騎乗位が、実際には誰が誰に跨つてゐたのかだけは、どうしても判らないぞ。信夫の一途な恋が醒めないのが寧ろ不思議な、歩美の藪蛇なエクストリーム内弁慶―もしくは猫かぶり―には対岡田で絡みの種を一つ増やす以外に正方向の必要性が見当たらないとはいへ、人類補完計画ばりの逡巡を歩美ちやんと一緒にゐたいの一点張りで突破した信夫が、目出度く締めの濡れ場に堂々と辿り着く清々しいラストは、それなりの強度で磐石。自死を図つた?高田の体に飛び込んだ信夫は、起動を確認すると「よし、動く」。最終決戦のガレージ、誰か卒倒する度に、よし来たそれ行けといはんばかりにヒョイヒョイ憑依する信夫なり牧子の軽やかなフットワークは、一種サイバーパンク的でもある確かに新しい感覚。そもそも枠から違ふツッコミ処には意図的に気づかないプリテンドで筆を滑らせると、髙原秀和や佐々木浩久ら一昨日なロートルが茶を濁すどころか泥水に変へてゐるうち忘れがちにもなりかねないが、この期に外様を連れて来る大蔵の狙ひは、本来さういふ辺りにあつたのではなからうか。裸映画的にも事前には二本柱かと思つてゐたら、本クレではビリング後半に沈む加藤絵莉まで、全員本格的な絡みをキッチリこなす豪華五本柱には軽くでなく度肝を抜かれた。即物的に寄る意識は低い―あと尺八も吹かせてないよね―反面、完遂率の高さは女の裸を決してノルマごなしとして疎かにはしない、真心の表れと捉へたい。所々演者の顔ぶれが覚束ない、新規組特有の脆弱性は否めない側面もあるにせよ、まあ十二分な一作。古澤健小栗はるひが相変らず派手に仕出かす一方、塩出太志と角田恭弥に加へ谷口恒平も当然忘れてならない2019年は、オーピーの新風路線が漸く軌道に乗つた一年、といふ評価も後年成立し得るのではあるまいか、後年があればの話だけれど。兎にも角にも、最終的に肝心なのは量産性。全員にいへることだが量産型娯楽映画が、賑やかしのワン・ヒット・ワンダーでは始まらない。
  大オチ<イマジナリーフレンドか別人格か語られない詳細なんて知らんけど、牧子も信夫も高田も、といふかそれ以前に香織から全員工藤


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 「痴漢電車 素肌にタッチ」(1991/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:柴崎江樹/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛己/監督助手:渋谷一平/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/ナレーター:芳田正浩/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演 パート1“テレパシー”:橋本杏子・荒木太郎・川崎浩幸/パート2“予知能力”:小泉あかね・南城千秋/パート3“霊能者”:石川恵美・池島ゆたか・山本竜二)。助監督の寛巳でなく広瀬寛己は、本篇クレジットまゝ。
 手前に戸建の密集を置いた団地ロングに、「世の中には色々な能力を持つた人間がゐる」。芳田正浩のナレーションが、地味に手堅い。「常識では理解出来ない特殊な能力を持つた者もゐる」、といふ流れで津田スタ床の間に目覚まし時計が鳴り、轟渉(荒木)が止める。轟の特殊能力とは、人の心が判るテレパシー。尤も日々周囲の雑多な思念に煩はされ、轟は自身の精神感応を持て余してゐた。「聞きたくもない他人の本心ほど」、「やかましいものはないかも知れない」と一旦まとめてタイトル・イン。通勤電車の車中、轟はハシキョンの「あゝゝ、誰か痴漢して呉れないかしら」なる心を読み、お任せ下さいといはんばかりに実行する。ヨシマサレーション曰く「とまあ、こんな時は超能力の威力を発揮する」、随分な“とまあ”感が清々しい。そんな轟に、部長(川崎浩幸)が縁談を持ちかける。外から抜ける喫茶店「CARRY」で紹介された江藤倫子(橋本)は、その日の朝轟が意を汲んで痴漢した女だつた、また箆棒に仕掛けの早い見合だな。その後二人がぶらぶらするのを、デパートの店内的なロケーションで撮つてゐるのにも軽く衝撃を受ける。
 予知能力を持つOL・望となると苗字は恐らく高井(小泉)は、プリディクションした通り南城千秋の電車痴漢を被弾する。劇中一切呼称されない南城千秋の固有名詞に関しては、定石を消去法で攻めると本命が野沢俊介、対抗は岩淵竜也か達也といつた辺りか。ところでひとつ不思議なのが、2020年新版ポスターに―俳優部として―紛れ込む渋谷一平の名前。パート3に一人如実に映り込むその他乗客がゐるにはゐるにせよ、髪が未だフッサフサといふかモッジャモジャの、ひろぽんに見えるのだけれど。
 石川恵美に痴漢した園山、と来れば下の名前は高志にさうゐない池島ゆたかは霊能力者で、矢張り津田スタの自宅に、交通事故死した四回戦ボーイ・佐伯(初代林家三平みたいな髪型の山本竜二)の幽霊が現れる、恭司だな。佐伯が園山の前に化けて出た用件はズバリ文句、園山が手を出した悦子(石川)は、佐伯の恋人だつた、苗字は絶対に黒崎。
 この御仁は三篇オムニバスを全体何十本撮つてゐるのか、深町章1991年第八作。深町章に限らず近年あまり見ないが、女優部三本柱で話を三つに割るといふのは、テンポなり各パートの連関なり、上手くハマれば戦略的な手法であるやうにも思へる。
 ロケ特性を活かした、真実を知つた轟こと荒木太郎が見せる恨めし気な表情が絶品なパート1は、ある程度綺麗にオトす、尺的にもほぼほぼ三等分。尺から短いパート2は甚だぞんざいな出来で、プリップリにキュートな小泉あかねを、逆の意味で見事に飼ひ殺す。良くも悪くも問題なのがパート3、経験の豊富な園山が、要は初心者幽霊である佐伯を鼻であしらふ様から斬新で、「ゴースト」よろしく自分の想ひを伝へて欲しいといふ要求を面倒臭がる園山に、佐伯が“一生のお願ひ”とかいひだすと、脊髄で折り返して「お前にはなあ、もう一生はないんだよ!バカ」とツッコむのには普通に声が出た、確かにねえ。兎も角佐伯―の霊―を伴ひ園山は悦子に会ふものの、常人ゆゑ佐伯が見えない悦子は園山が代弁者でなく佐伯の生まれ変りであると思ひ込み、山竜一流のメソッドで地団太を踏む佐伯の眼前、園山が悦子を抱く。即ち今風にいふならば、NTR幽霊譚とでもいふべき画期的な構成には、量産型娯楽映画の大山に埋もれた隠れた逸品に遭遇、したものかと一旦はときめいたのに。汽車がキタところで、一時間に十分弱余してゐるにも関らず、大オチも設けずザクッと畳んでしまふ最早一種のストイシズムですらあるのかも知れない、豪放磊落な終劇には何て粗い映画なのかと吃驚した。

 改めて近年のオムニバス作を何があつたかいなと探してみたところ、2018年第二四半期に連続して封切られた、池島ゆたか2018年第一作「だまされてペロペロ わかれて貰ひます」(二話構成/脚本:五代暁子/主演:神咲詩織)に、髙原秀和の十三年ぶりピンク復帰作にして大蔵上陸作「フェチづくし 痴情の虜」(三話構成/原作:坂井希久子『フェティッシュ』/主演:涼南佳奈・NIMO・榎本美咲)。の前となると、オーピーが総勢六人の監督をデビューさせておきながら、結局一人も残らなかつたか残さなかつた、「いんらんな女神たち」(四話構成/2014/監督:金沢勇大・中川大資・矢野泰寛=北川帯寛・江尻大/主演:佳苗るか・森ななこ・円城ひとみ・上原亜衣)、「いんらんな女神たち ~目覚め~」(二話構成/同/監督:小山悟・永井吾一=永井卓爾/主演:友田彩也香)まで遡る。いんらんな女神たちはそもそも、全く別個のコンセプトだろ。


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 「愛憎のうねり 淫乱妻とよばれて」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/助監督:小関裕次郎/録音:小林徹哉/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/編集:有馬潜/監督助手:鈴木琉斗/撮影助手:宮原かおり/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐倉絆・涼南佳奈・里見瑤子・津田篤・柳東史・和田光沙・柳之内たくま)。見易くはあれ、市川崑ぽいクレジットが小癪でなくもない。
 白昼の広い通りに佐倉絆が一人で立ち尽くす、後述する前作ラストの画に「あの人はとうとう来なかつた」。オーラスの笑顔を引つ繰り返すモノローグから暗転しての三年後、佐倉絆が如何にも映えさうな食事を支度する台所。山宗をも捨ててなほ、再会した日夏優(柳之内たくまのゼロ役目)とは結局結ばれなかつた旧姓小川春美(佐倉)は、旅先で知り合つた江口輝久(津田)と結婚。輝久が大手保険会社で出世コースにも乗り、結構どころでなく恵まれた生活を送つてゐた。中途で済ます夫婦生活を経て、優が出て来る悪夢に春美が目を覚ます一方、一戸建ての江口家を、藁人形をポップに携へた里見瑤子の背中が見やる。翌朝、春美がゴミを出さうとするとどうかした勢ひで文字通り突つ込んで来る、左手が不自由な日夏亜子(里見)は越して来たてで分別のルールを知らなかつたものの、注意されると思ひのほか大人しく従ふ。明確に差のついた境遇に羨望を隠しもしない、同じ養護施設で春美と姉妹のやうに育つた浅井奏(涼南)の顔見せ噛ませ、春美は東京タワーを望む優との思ひ出を残すロケーションにて、髪の色と全体的にやさぐれた風情は異なれど、当然造作は優と全く同じ謎の男・日夏烈(柳之内)と交錯する。
 配役残り柳東史は、明らかに厄介な近隣トラブルに巻き込まれてゐると思しき春美に、レス・ザン・距離感で接する残念な町内会長・西岡。言葉を選べばエキセントリックが里見瑤子で飽和状態に達してゐる以上、この人の造形は別に普通でも構はなかつたやうな過積載は否めない。不意討ち感が抜群な、烈キックの呼び水といふ地味に痛快な要素さへさて措けば。それと東史×之内たくまのツイン柳共演作的には、山内大輔2006年第三作「レンタルお姉さん 欲望家政婦」(主演:姫川りな)以来実に十三年ぶり六本目、流石に今作で打ち止めか。
 ピンク限定でも八作前、薔薇族含めると九作前ともなる、2017年第二作「愛憎の嵐 引き裂かれた白下着」続篇の加藤義一2019年第四作。この度うねりが、嵐をどの程度振り返るものかとの疑問を懐いてゐたのが、限りなく一切顧みないノーガード戦法には正直吃驚した。率直なところ当サイトも覚えてをらず、サブスクで復習した結末を主に掻い摘むと、大概壮大なフェイクで春美から優を強奪した、日夏郁子(和田)が自身の左腕を本当に破壊しようとした乱雑なものの弾みで、優は郁子に刺される形で絶命。郁子にも、有能な上司に対しピリオドの向かう側に跨いだホモソーシャルをかねてから滲ませてゐた、橘秀樹の凶刃が振り下される。なので全部捨てて優と駆け落ちる心積もりの、春美はエターナル待ち惚けを喰らはされたといふ次第。
 春美の前に烈が現れる、同じ顔をした男サスペンスが気がつくと里見瑤子が根こそぎ通り越して地殻ごと持つて行く、隣人スリラーに変つてしまふのはそれでもまだ御愛嬌。一旦話を変へて裸映画的には、特に涼南佳奈を誰が介錯するのかが全然読めなかつた、二三番手は力任せの一発勝負で振り逃げつつ、ビリング頭の裸は輝久が呑気に眠る傍ら、自撮りを烈に送信させられる案外目新しいシークエンスまで含め、質的にも量的にもふんだんに愉しませる。問題が、矢継ぎ早に二三番手を片付けた余勢でそのまゝ突入する、空前に壮絶な木端微塵。そこはせめて姉だろ!な二親等のバーゲンセールから、紙より軽いドミノがバッタバッタ倒れて行く終盤はある意味圧巻。階段落ちと屋上墜ちの本来あんまりな二連撃が意外と一息に見させるのは、発狂した里見瑤子が何故か口裂けゾンビに変身する、アメイジングな飛び道具の力も借りての妙手なのか。妙手?珍妙な手法を妙手とはいはんぞ。主演女優の引退も既に発表されて久しいといふのに、よもやまさかの第三作に含みでも残したつもりなのか、それでゐて二親等ズの存否を濁す辺りとかこの際逆の意味で完璧。二度目のコンタクトで大絶賛和姦をしかも中に出して執り行つた春美と烈が、事後テレパシーで会話した挙句、“だ”と“ら”と“く”を一文字づつ打つた末に、清水大敬よりも馬鹿デカいフォントで“堕落”と極大スーパーを撃ち抜いてみせる明後日か一昨日な荒業も、当然忘れてはならない。“百点満点で零点”といふよりも寧ろ、“百点満点の零点”映画。加藤義一が近作比較的安定傾向にあつただけについうつかり油断してゐたところが、久々に浴びた鮮やかな破壊力、断じて褒めてはをらん。それでも漫然としかしてゐない映画と比べれば、ベクトルの正負はさて措き徒に絶対値だけは大きな分、まだしも取りつく島があるやうにも思へかねないのは、純然たる錯覚にさうゐない。ついでに撮影部が総じてはキメッキメのショットをそこかしこで放つ反面、最初の春美・ミーツ・烈と烈の奏急襲に、最後に春美が慄く郁子の幻影。往来を完俯瞰で捉へられるカメラ位置が余程気に入つたのか、同じ画角を都合三発繰り返しては、流石に画の底も抜ける。腐してばかりでも何なので正方向の見所も拾つておくと、熊さんが転んでゐたりお人形が大股開いてゐたり、あるいはソファーがボッロボロであつたり。異常性を何気に表する亜子宅の美術と、前世紀のデビューから二十余年、未だ草臥れた風情も見せず元気な里見瑤子。

 ひとつ形式的な疑問が残るのが郁子と烈は兎も角、亜子まで日夏の不可解。優が婿に入つてゐた場合今度は不可解が烈に移るが、今回の復讐戦に際して、亜子と烈は籍でも入れてゐたのであらうか。優と郁子が元々二人とも日夏?同郷かよ。あともう一点、春美を口汚く罵倒するビラが大量に貼付される、怪文書路地の件。どさくさに紛れて“ヨゴレマンk”がシレッと映り込ませてあるのは・・・・まあ、もしくはもういいや。


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