真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「どすけべ女社長 未亡人の性欲」(2000/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:小林悟/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/照明:ICE&T/編集:井上和夫/助監督:竹洞哲也/監督助手:村松健/撮影助手:岡宮裕/タイトル:ハセガワタイトル/出演:愛染恭子・小池結・横塚明・けーすけ・草野陽花・坂入正三/客演:港雄一・久保新二・薩摩剣八郎)。
 三年前に死んだ亡夫(遺影すら一切登場せず)の法事を終へた、多分苗字は広瀬―廣瀬か弘瀬かも―彩乃(愛染)とその多分一人娘・麻美(小池)、彩乃とは幼馴染で、劇中“大将”ではなく“マスター”と呼称される居酒屋店長(坂入)が連れ立つて歩く。坂入正三十八番の陽性にウジウジとしたメソッドで、未婚のマスターは彩乃にそろそろと再婚のカマをかけるも華麗にかはされつつ、自宅に戻る彩乃と、店(屋号ロスト)に向かふマスターと麻美とは一旦別れる。喪服姿の愛染塾長を、無理矢理官能的にだか叙情的に捉へ、きれてはゐないショットに噛ませてタイトル・イン。彩乃と、家に遊びに来てゐた近所の御隠居・城山(港)の、濡れ場のハチャメチャさに関しては既に語り尽くされて来たことなので割愛するが、彩乃が継いだ零細運送会社(有)「ヒロセ運輸」に、薄給故従業員が居つかないとの悩みの種が蒔かれる。といふかここは、導入のアヴァンギャルドの領域にすら突入しかねないプリミティブさは最早さて措き、愛染恭子×港雄一といふ合計年齢がやんごとない数値になりさうな顔触れによる絡みを、寧ろ有難く有難く押戴くのも酔狂の範疇に含まれはしないか。一方麻美も彩乃の下に向かつたマスターの目を盗み、カッコいいではなくあくまでカッチョいい彼氏でヒロセ運輸社員でもある、殿山(横塚)との情事を店内にて披露。そんなこんなする内に、ここは正直よく判らない設定だが大学在学中にヒロセ運輸への勤務込みでの就職を決めた、西川きよしならぬひろし(けーすけ)の歓迎会。何故かその場に同席するマスターは、その後も普通に朝食を、ヒロセ運輸の社屋兼彩乃宅に住まふ従業員と一緒に摂つてゐたりなんかする。かういつた辺りの描写が、m@stervision大哥が今作を変格未亡人下宿と目された所以なのであらう。話を戻して、城山の明後日な進言に素直に沿つた綾乃は、肉弾戦術と称して西川を筆卸、最低三年間は辞めないことを約束させる。おとなしく篭絡される西川も西川なのだが、何故か敵がけーすけだと、頓珍漢なシークエンスも何となく定着し得て見えるのは御大こと小林悟映画の魔法か、単に小生の病がいよいよ膏肓に入つただけのことか。癖のないイケメンを活かし、当時ピンクやエロ系のVシネに役者として数作参加してゐた現在映画監督の草野陽花は、ヒロセ運輸の真面目社員・東(あづま)。ひとまづ役者が揃つたところで、麻美の元カレを彩乃が排除しただのしないだのといつた、薮から棒な母娘の確執が放り込まれる。開巻など殊にそこに至るまで、彩乃と麻美の仲が悪さうな風情なんぞ1カットたりとも見受けられなかつたのだけれど。
 ヒロセ運輸の経営問題と麻美との親子問題とに揺れる、未亡人女社長の奮戦記。案の定といふか何といふか、性質の悪いスケコマシであつた殿山が会社の金を持ち出し姿を消す、一応大騒動を巻き起こしたまではいいとして、最終的にはこれといつた作劇の求心力ないしは説得力が発揮されることもないままに、何となくの勢ひでとりあへずの大団円に軟着陸する。本来ならばキチンと懲悪されるべき悪漢たる、殿山のトンズラ後の去就が綺麗に通り過ぎられて済まされる辺りに、やつゝけ感が爆裂する小林悟の逆噴射ビートは別の意味で鮮やかだ。それでゐて更にそこから、薮蛇気味に、といふか薮蛇でしかないのだが彩乃が従業員三冠をせんでもいいのに達成する対東戦に際しては、東が恋愛もセックスも否定する、宇宙真理教の信者であるなどとする破天荒なギミックも繰り出される。この、天衣無縫といふに値しよう闇雲な破壊力も、紛ふことなき御大仕事。素面の娯楽映画として面白いのか否かといつた、平板な議論はいつそのこと兎も角、愛染恭子が居て坂入正三がその周囲を取り巻き、客演ながら港雄一は二度も塾長戦を戦ひ更に後述する久保新二と薩摩剣八郎までもが、正しく賑やかしに降臨する。良くも悪くも小林悟の名前なくしては為し得なかつたであらう、案外味はひ深い、かも知れないルーチンワーク。塾長要素さへ凌駕し塗り潰す小林悟色は、実は何気に驚異的。前年、即ち今作からは翌年の撮影中に、文字通りの壮絶な戦死を遂げた遺作「川奈まり子 桜貝の甘い水」(2002)以降、新版公開されることも滅多になく、小林悟の映画に触れる機会はめつきり減つたどころか極々稀ともなつてしまつたが、個人的にはまだまだですらなくガンガン観たいし、世間(の片隅の)一般的にも、もう幾分生温かい目で玩味されてもいいのではあるまいかなどと、甚だしい錯乱を仕出かさぬでもない。
 オーラスに満を持して飛び込んで来る久保新二は、殿山が姿を消したヒロセ運輸に新加入する大法螺鯉三郎。当時既に五十前の、久保新二が新入社員といふ箆棒を打ち消す薩摩剣八郎は、歓迎会に同席する鯉三郎の何と父親・睦五郎。毒を以て毒を制すかの如く、一見ルーズに見えて攻撃的な配役だ。いや、矢張り適当なだけかも。因みに鯉三郎は牛乳瓶メガネに黄色いジャケットと赤いベストを華麗に合はせ、睦五郎は何時もの作務衣姿。清々しく束の間の出演時間とはいへ、彩乃の歓迎会肉弾二次会と麻美の三次会との狭間で混乱を来たした―何処で何を迷ふことがあるのか、といふ激しい疑問はこの際呑み込むことにする―鯉三郎が卒倒してしまふ間際に、「見たいハメたい舐めたい、の下三段活用」なる初見の大技と、持ちネタ「アシャアシャアシャ・・・・」をどさくさ紛れに叩き込んでみせる辺りは久保チン流石である。

 毎日決まつた時間に、綾乃の風呂を覗きに行くマスターが23分32秒中座する、営業中の居酒屋店内風景。三人見切れる客はL字型のカウンター画面左奥に福俵満、折れて中央が竹洞哲也、一番手前でほぼ後姿しか見せないのが、御大・小林悟その人である。それなりに接客する坂入正三まで含め、なかなか渋いショットだ。


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 「若妻の身震ひ 大胆騎上位!」(1994『若奥様《秘》宅配便』の2011年旧作改題版/企画・製作:オフィス・コウワ/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:小渕アキラ/プロデューサー:高橋講和/撮影:斉藤幸一/照明:斉藤久晃/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/製作担当:堀田学/助監督:佐々木乃武良/音楽:伊東善行/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学㈱/撮影助手:佐藤文男/照明助手:小倉義正/スチール小島ひろし/車輛:網野一則/出演:赤木佐知・浅野桃里・本城未織・杉本まこと・樹かず・久須美欽一・平賀勘一)。久し振りに穏当な新題だ、これで穏当なのか。
 交際五年、入籍六ヶ月の筒井夫婦の夜の営みでひとまづ快調に開巻。尤も、事後妻に余韻に浸る間も与へず、シャワーを浴びると床を出てしまふ夫・靖夫(杉本)に、美紗子(赤木)が長過ぎる春はさて措き結婚してから半年にも関らず、“十年も一緒にゐるみたい・・・”と臍を曲げてタイトル・イン。カット明けると男の自宅にて、美紗子の妹・宮田玲美(浅野)と、フィアンセ・戸田耕作(樹)の大絶賛婚前交渉。ところが姉が姉なら妹も妹、藪から棒にいはゆるマリッジブルーに陥つた玲美は、一旦ヤルことは済ませつつ、耕作に婚約破棄を一方的に通告する。寝耳に水こゝに極まれり、ともいへ。姉妹それぞれの絡みをダイレクトに連ねる構成も確かに酌めぬではないが、直後の筒井家を訪ねた玲美が姉の姿を通して結婚に幻滅する件を、先に噛ませておいた方が話の流れがより滑らかになつたのではあるまいかとの、文脈上の疑問も残らぬではない。話を戻して、短大の同窓会の報せを受け取つた美紗子は、自身の現況に対する不満を負ひ目に感じ逡巡する。そこに飛び込んで来る、“最も美人な三番手”界の女王にして、だからPG誌編集長・林田義行氏の姉ではないa.k.a.林田ちなみこと本城未織は、美紗子に誘ひの電話を寄こす、互ひに数少ない既婚者の友人・徳永恭子。本城未織の参戦を従順に補佐する平賀勘一は、何と主婦売春に手を染める恭子の客・平沢和男。そんなこんなで会当日、同窓生要員の頭数は華麗にスルー、二次会かはたまたそれ以降か美紗子と恭子が二人きりで落ち着く、角打形式の小洒落たバー。出し抜けに恭子がその夜の客の下に、美紗子を向かはせようとする。脊髄反射で驚愕する美紗子を、恭子は売春は売春であるのは認めた上で、後述する奇天烈なゲーム理論の一本槍で正しく強引に言ひ包める。そこで美紗子の初陣を火に油を注ぎ迎撃する久須美欽一が、結構アグレッシブな性癖の客・宮川勇次。エクセスライクな主演女優の挙句飛躍の大きなどころか出鱈目なシークエンスを、頑丈に形成しめる久須美欽一の侮れない安定感は、実は正方向に評価されて然るべきではなからうか。兎も角、客の男達との情事に何故か素直に開眼した美紗子は、俄に独身時代のやうな光彩を取り戻す。そんな美紗子に対し、靖夫は妻の復活を静かに注視、玲美は姉の変貌に目を丸くする。
 坂本太デビュー翌年の通算第四作は、恭子いはく売春をゲームとして楽しみ得るのは、帰る家庭と愛すべき夫のゐる主婦だけである、などとする怪理論、あるいは直截には正体不明の没論理による、清々しいまでの一点突破を敢行してみせる一作。一見、結婚生活と売春行為をそれはそれとしてアクティブに両立し、輝きながらセックスを愉しむ三人の女の雄姿ならぬ雌姿には、女の側から、女が気持ちよくなるための性を描くことを頑強に旨とする、浜野佐知との近似をも頓珍漢には勘違ひしかねないが、勿論坂本太の素直な視座は単に、助平な女は男にとつて有難いことこの上ないウヒヒウヒヒといふ、シンプル極まりないものに過ぎないにさうゐなく、なればこそ理に適つた頑丈さも誇り得る。理といふか、生理といふか。細かな脈略も、映画作家然とした浅墓な色気にも脇目も振らず、ヒロインの行動原理を無理矢理に固定するや、姉妹属性も加味した濡れ場濡れ場の怒涛の連打で一息に押し切る力技は実に鮮やか。グルーヴの余波で壊れかけた二つの男女関係を修復し、仔細を操る糸を裏で引く、絶妙な伏線も踏まへた黒幕の登場と底の抜けてゐるやうに見せて、案外劇映画的に十全な段取りを何気に整へてゐたりもする。裸映画としての誠実さが、胸に爽やかな快作。女の裸をタップリ楽しませて、後にはケロッと何も残さない。意外とそんな辺りが、量産型娯楽映画の到達点であるやうにも、時に思へる。

 ところで瑣末・オブ・瑣末。同窓会後の美紗子と恭子が、それぞれ未婚者ではないゆゑ男の子と会話する機会がまるでなかつたと愚痴を零し合ふのは、絶対にあり得ない話では必ずしもないものの、同窓会が短大時代のものであるといふディテールを想起するに、些かの違和感が拭へなくもない。


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 「熟れ濡れ芳醇女 締まるツボ」(2002『三十路色情飼育 ‐し・た・た・り‐』の2011年旧作改題版/制作:ワイ・ワン企画/提供:Xces Film/監督・脚本:加藤文彦/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:戸川八郎/撮影監督:佐藤徹/助監督:城定秀夫/編集:フィルムクラフト/撮影助手:谷川創平・赤池登志貴/ヘアメイク:屋代美知/スチール:八木スタヂオ/制作協力:押野匡志/録音:シネキャビン/効果:梅沢身知子/タイトル:道川タイトル/現像:東映化学/出演:木築沙絵子・ゆき・中渡実果・杉本聖帝・江沢大樹・森羅万像)。同じ不平の繰り返しばかりで恐縮ではあるが、昨今のエクセスは羽目を外し過ぎ、出鱈目な新題ばかりだ、ノレない当サイトが悪いのか?
 漢字表記は不明のシンコー商事、イケイケで仕事は憚りもせず腰掛の後輩・あづさ(中渡)とガッハッハ系の社長(森羅)に挟まれ、地味な三十路事務員・順子(木築)は黙々と日々のルーチンに明け暮れる。くたびれて侘しい一人住まひの集合住宅に帰りついた順子は帰りついたで、自由奔放な隣人・ミドリ(ゆき)に自爆的に煩はされる。ここまで、逆に後述する残り二人の男優部には弱さが顕著な点を等閑視すれば、何気ない開巻ながら、実は配役の完成度は超絶。順子の部屋には、蝋燭が二本立てられた、老女(不明)のスナップ写真が飾られてあつた。順子が母親(声の主も不明)からの、祖母の法事―即ちスナップの老女が、順子のおばあさん―には帰つて来るやう伝へる留守番電話を聞いたタイミングでタイトル・イン。すると、何某かの意思の存在を表すかの如く、独りでに蝋燭が発火する。
 その夜、自ら連れ込んだバイオレントなアイマスク男(杉本)に手を焼いたミドリが、既に洩れ聞こえる破廉恥な嬌声に頭を抱へる順子の部屋に逃げ込んで来る。騒々しい中さて措き就寝、自身がアイマスク男に犯される淫夢に濡れた順子の両手首には翌日、不思議なことにまるで聖痕のやうに、夢の中で縛られた縄の跡が残されてゐた。朝から消耗して出社した順子は、昨日紅を引いたあづさが無造作に散らかした、唇を拭(ぬぐ)つたチリ紙を拾ひ上げた弾みで、あづさと社長がオッ広げた情事の幻覚に忘我する。後に語られるところによれば、それは些細な契機で他人の性交渉をトレースしてしまふ、巫女であつた祖母の血を引く順子が有する、“妄想かも知れない、三十過ぎの欲求不満女の”と自覚ないしは自嘲しないでもない、望まぬ特殊な能力であつた。
 配役残り、杉本聖帝―然し闇雲な芸名だ、名前負けといふ言葉を知らんのか?―の二役目は、金の切れ目が縁の切れ目と、あづさから清々しく捨てられる―この件には、ゆき(ex.横浜ゆき)の女性上位な攻撃力と距離感とが綺麗に機能する―優男・茂。他愛もない段取りで、何となく順子との距離を近づける。江沢大樹は、何でまたこのやうなパッとしない男が中渡実果(ex.望月ねね)を射止められたものかと、やつかむ仕方のない気持ちも抑へ難い、あづさの呼称ママでダーリン。あづさが順子を招いた夜、家事を軽やかに放棄した妻に代り、手の込んだ肴(アテ)を披露する。
 80年代後半に一世を風靡した木築沙絵子にとつて、十数年ぶりの劇場映画主演電撃復帰作―但し今作以降、完全に表舞台からは退場してしまはれたやうだ―といふトピックに関しては、リアルタイムを十八歳未満につき素通りしてゐるのと、本公開より更に十年近く時を経てゐるのもあり、今回は最早潔く通り過ぎる。その上で改めて掻い摘むと、味気も色気もない日々を送る薹が立つた異能力者の女が、現し世とも夜の夢とも判別のつかない淫獄に、徐々に囚はれて行くバッド・エンド系の幻想譚、とでもいつた寸法になる。さうはいへ、一飯は兎も角一宿の恩義にと、高級ルージュを固辞する順子に押しつけるミドリに、冒頭の伏線も噛ませ、社長を出せとしつこい電話にキレるあづさ。外野の描き込みには冴えを見せつつ、肝心要の順子に際してが、イマジンに落ちては覚める、再びイマジンに落ちては覚める同じテンションの描写を積み重ねた挙句に、尺の配分を誤つたか性急なラストには、仕上げの雑さを否めない。地力の違ひを見せつけるといふよりは、久々の実戦に挑んだベテランが、バッリバリの若手におとなしく力負けした感も強いのは些か厳しい。往年のファンならずとも、消化不良気味の一作ではある。

 ワン・カット画期的に頓珍漢なのが、他人のセックスが見えるギフトを、順子が持て余す件。「人の見えないものが見えるなんて、疲れるだけ。さうでせう?お祖母ちやん」と心の中で尋ねかけた、素晴らしくフォトジェニックな空に、誰か知らんバーサンの遺影?が堂々とした勢ひで被せられるショットの間抜けさは別の意味で感動的。映画の神がその刹那微笑みかけたかのやうな、憎い破壊力のチャーミングであつた。


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 「恋情乙女 ぐつしよりな薄毛」(2010/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/原題:『夢しか夢がない人のプロレタリア恋愛』/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:三上紗恵子・森岡佑介/撮影・照明助手:堂前徹之・宮原かおり/応援:田中康文/音楽:宮川透/ポスター:本田あきら/劇中歌『恋情乙女』作詞:三上紗恵子 作曲:安達ひでや 唄:牧村耕次・『蓮池の恋』作詞:三上紗恵子 作曲:宮川透 唄:里見瑤子/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/協力:静活・佐藤選人・福島清和・安達ひでや・江川さん/出演:桜木凛・里見瑤子・浅井舞香・津田篤・那波隆史・淡島小鞠・佐々木基子・牧村耕次・野上正義)、何て完璧なビリングなんだ。
 タイトル開巻、轟音の煽情性を爆裂させる浅井舞香の自慰で口火を切り、イメージ風の津田篤との情交。津田篤が喘ぐ浅井舞香に、桜木凛の面影を重ね合はせる。殆ど立つことさへ叶はぬ、体調を崩した老父(野上)に見送られ、慎一(津田)が外出する。各々の厳密な撮影時期までは不明ながら、2010年六月公開の「最後のラブドール 私、大人のオモチャ止めました。」(監督:友松直之)と、同じく七月末の「お掃除女子 至れり、尽くせり」(監督・脚本:工藤雅典)のエクセス二作に続き、九月初頭に封切られた今作が、昨年末に逝去された野上正義さんにとつての結果的な最後の作品となる。名優と誉れ高かつたガミさんではあるが、老父の見るから具合の悪さうな様子は、恐らく既に半分以上芝居ではあるまい。厳しいことをいふやうだが、そのことの是非は、実は問はれるべきでもなからうか。話を戻して、慎一は父が潰した料理屋「あづま」の再建を期し、故郷―即ち、いふまでもなくロケ地―の静岡を離れ、出稼ぎの飯場で汗を流してゐた。ここで一度目に見切れる淡島小鞠は、家を出る慎一を見送る薮蛇なRAP女、SRにでも被れてみせたのか?三年前、慎一は歌が好きな幼馴染で、演歌だかムード歌謡歌手の河瀬純(牧村)に弟子入りしたマミ(桜木)と、三年後の夕方五時、七間町のオリオン座前での再会を約して別れる。金の目処もつけ、マミへの依然強い想ひも胸に、慎一は静岡に帰つて来たのだつた。尤も三年の間に、慎一は現場の親方(事前の予想通り、ガテン系フェイスの田中康文)の情婦(浅井)に見初められ、筆卸後も度々関係を持つ。一方先の見えぬ付き人生活を送るマミも、姉弟子の典子(里見)に誘はれ、社長(那波)との援助交際に手を染めてゐた。夢を体で買つたことを気に病むマミは、慎一が待つであらうオリオン座に向かふのを激しく逡巡する。
 配役残り荒木太郎―の一役目―は、河瀬純の多分マネージャー。佐々木基子は、自身と同様に“夢しか夢がない”娘の背中を押し、現在は病床に臥せるマミ母親。
 静活の旗艦館・オリオン座は正面の外景だけならば登場するものの、あくまで慎一とマミの三年越しの待ち合はせ場所に偶々選ばれたに過ぎず、二人が木戸銭を落とし小屋の敷居を跨ぐ訳ではなければ、主要モチーフの重きも歌の世界に置かれ、映画文化が顧られることはどちらかといはずともない。そのため、荒木太郎自身の心積もりは与り知らぬが、各々の出来不出来はさて措き脈々と続けてゐること自体は評価に値しよう、全国小屋ロケ行脚御当地映画シリーズの第十一弾とは考へ難いものと思はれる。とりたてて纏めてみるまでもないシンプルな主眼は、離れて暮らす内に互ひに汚れてしまつた男と女。男は兎も角ひたむきに女を待ち、対して過剰なきらひで憚る女は、何時までも忸怩たる思ひを抱へ立ち尽くす。果たして二人が、再び巡り会ふに至るや否や、といつた寸法の、古臭さが却つて鉄板の恋愛映画である。この期に一向に学習する気配すら窺はせない三上紗恵子に頼らぬ自脚本による、三人目の女の裸を見せることにより展開が猛然と走り始める前作に引き続き、三番手を開巻に投入した奇襲は、一旦鮮やかに決まる。屋上への上がり口の、更に屋根の縁に立つた姿を煽りで捉へた、まるで空に溶け込みさうな桜木凛が「ローレライ」を歌ふショットには、それ単体で鮮烈な映画的体験を叩き込み得る画的な力が漲る。ピンク映画初陣の桜木凛は口跡は少々心許ないが、憂ひを帯びた表情は悲恋気味の物語に綺麗に映え、当然期待されるサポート役を、里見瑤子も十全に務める。尤も端的には、起承転結の転部で力尽きてしまつた印象が強い。兎にも角にも二人の、殊にマミの過去にただでさへ限られた尺を喰ひ過ぎて、現在時制の慎一とマミのドラマは、甚だ未完成に止(とど)まる。締めの濡れ場でマミと慎一が結ばれるのが順当な流れであるとしても、伴はぬ脈略を捻じ伏せるだけのシークエンスを、必ずしも用意出来なかつた不備の穴は際立つ。斯様な次第であるならば、河瀬純こと牧村耕次が、キメッキメのカメラ目線で「恋情乙女」をワン・コーラス朗々と披露するのはサービス・カットとして嬉しいが、“溜め”のイントネーションで“為”の意味を通す、典子いはく自分には既になくマミは未だ有する、“タメ”に関する遣り取りなんぞいつそ端折つてしまへとさへ思へる。演者が及ばないものやら演出部の責に帰するべきものやら、津田篤の棒立ちぷりも甚だしい。少なくとも今回の荒木太郎に、若い男役をディレクションする熱意が凡そ感じられなかつたのは気の所為か。余計な意匠と機能しないギミックばかりの、荒木調ならぬ荒木臭を概ね排した正攻法も光りつつ、それでも最終的には肝心要に於ける詰めの甘さを否めない、惜しい大魚を釣り逃がした一作ではある。

 荒木太郎と淡島小鞠(=三上紗恵子)は、オリオン座表で延々と待ち惚けさせられる慎一にアテられる、フェイント要員としてカップルで再登場。辟易といふか自堕落なといふか、兎も角呆れさせられることは禁じ得ない。詰まるところは、僅かに漂ふ荒木臭は、このコンビの登場場面に限定される。自縄自縛を通り越した自爆は、全く以て因果とでもしか最早いひやうがない。簡潔に少なくともラッパー小鞠は、完全に不要だ。


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 「変態暴行 ‐甘い絶叫!!‐」(1991/製作:ニューウェーブ/配給:新東宝映画/監督:本井了/脚本:本井了/企画・制作:成田誠/撮影:稲吉雅志/照明:秋山和夫/音楽:坂本豊/編集:酒井正次/助監督:佐智敏昭/製作主任:宮本明/ヘアメイク:浅倉志保/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/音楽協力:マルヤスヨシムラ/協力:D2 KINEMA CLUB/出演:森川いづみ・井上真愉見・水鳥川彩・渡辺千尋・美山かほ・真崎彩・大友梨奈・沢田善生・野沢明弘・大島徹・かえで一機・ジミー土田・藤昇挙・雷小僧・桑原孝二・工藤正人・川部いちろう・久須美欽一)。出演者中、大島徹・藤昇挙・雷小僧・桑原孝二・川部いちろうは本篇クレジットのみ。主演女優の森川いづみがポスターには森川いずみで、更にそんなポスターの大半を占めるのは何故か渡辺千尋のスチール。もう、何が何だか判らない。
 精悍なサラリーマン・早見(沢田)が、待ち合はせ場所の歩道橋へと急ぐ。ところが終始沈鬱な面持のヨーコ(真崎彩か美山かほ)は合鍵を返すと、早見の罪悪感に端を発する三年間の交際に終りを告げる。足を引き摺りながら立ち去るヨーコの背中に、左足の太股に深く突き刺さつたナイフの回想ショットが被せられタイトル・イン。所と気分をガラリと変へ、陽気に騒がしい飲み屋。学生時代はボクシング同好会に在籍し十二勝二敗の戦績を誇つた早見に、現役生の石塚(工藤)が美人マネージャーの柴田―芝田かも―杏子(森川)を紹介する。もう一人同席する早見とは同輩と思しき、坂口大先輩(一切登場せず)に呼び出され退席する三上先輩は、川部いちろう?正直なところ妙に大所帯の俳優部の中には更に、現時点に於いてはその後のあるいはその他活動をトレース出来ない人間も散見され、如何せん配役に関しては所々手も足も出ない。そもそも、実は名前が一人分足らない。三東会準構成員・山崎(野沢)をリーダー格とする、島と野村(大島徹とかえで一機でこの二人?)を加へたチンピラ三人組が、早見が送つて行かうと連れ立つて歩く杏子に目をつける。山崎らは二人が早見愛車のSAABに乗り込んだところを襲撃、勿論といふか何といふか、事前に杏子は兎も角早見が普通に飲酒してゐる点に関しては、無頓着な時代の大らかさが現在の感覚からは透けて見える。昔取つた杵柄で果敢に応戦を試み野村にはダメージを負はせるも、不摂生と頭数、そして酔ひも禍してか、早見は最終的にドスも抜いた山崎からは無様にノサれ、車ごと杏子は連れ去られる。三人組のアジトの、後に明らかとなる横浜第三倉庫にて、杏子は代る代る暴行された末に、翌日放棄するかの如く解放される。一方傷だらけで自室に辿り着いた早見には少し前に酒場の件で語られる、工夫を欠いた苦い過去があつた。学生時代、男がルンペン風のもう一人(何れも不明)に刺される修羅場に遭遇した早見は、自身にも刃物を向けられると無力に腰を抜かし、続けてその場に現れたヨーコが、何も出来ない早見の眼前足を刺される。会社は休み杏子の様子を見に行つた早見はポップに拒絶され、追ひ討ちをかけるかのやうに、事件を知つた石塚からも激しく詰られる。久須美欽一は、呆然としたまゝ職場復帰したもののすつかり腑抜けの早見に、眉をひそめる上司。やがて早見は三人組への復讐と二つの敗北の清算を期してトレーニングを再開、徐々に生気を取り戻し、久須美欽一もそんな部下の姿に目を細める。三人組を探し奔走する早見は、一戦終へスッキリした風情で情婦(渡辺)のマンションから出て来た島を目撃。因みに渡辺千尋宅は、調布市菊野台の「メイン・グリーン 小川」。少なくとも二十年以上前の物件ではあるが、現存する。
 把握し得た配役残り、登場順に井上真愉見が、山崎に見初められ平常に口説き落とされる、喫茶店店員。大友梨奈は、二人組で三人組に犯される女・カズエ。美山かほか真崎彩が、カズエの連れ。ジミー土田は、再びシメられただけで、結果的には早見が無駄に張り込んだ三東会事務所に出入りする、手下二名(藤昇挙と雷小僧?)を引き連れた山崎兄貴分。水鳥川彩は、島を早見に倒されつつ、山崎がなほも野村と横浜第三倉庫に拉致した女。
 謎の監督・本井了の―少なくとも本井了名義―唯一作は、当年全盛期を謳歌してゐたAVアイドル・森川いづみをビリング・トップに据ゑた一作。尤も、久須美欽一やジミー土田の招聘にも窺へる異様に豪華なプロダクションの下、脱ぎ役の女優だけで六人も名前を連ねるゆゑ、各人の絡みは均等に一度きりづつ。残り全員要は濡れ場要員に過ぎない井上真愉見以下五名に比して、ドラマ上の比重は一応重きを与へられる森川いづみではあるが、それも寧ろ早見の周囲を飾るに止(とど)まる。一旦は失つた野獣性を男が取り戻す、シンプルな復讐アクションとしての色彩が兎にも角にも強い。松田優作の量産型のレプリカの更に模造品、とでもいつた趣を漂はせる沢田善生の、ひとまづ精強な馬面とタッパから繰り出される、元花形学生ボクサーといふ設定の割には蹴り技に裏拳果ては背負ひ投げと、結構自由な早見のファイト・スタイルはそれなりにスクリーンに映え、意外とマッシブな工藤正人が、階段落ちまで披露するのには驚かされた。悪人系色男として完成されたルックスも適度に鍛へ上げられた肉体も、憎き敵役の大ボスに申し分ない野沢明弘との、清々しいロケーションの平板さが定番へと昇華する、かも知れないクライマックス埠頭での死闘。大した水量にも別に見えない山崎のヌルい放水攻撃を、単調な左右のステップで回避しながら徐々ににじり寄つた早見が、終に射程距離内に詰めるや怒りの鉄拳を叩き込むシークエンスの、画期的な微笑ましさが牧歌的で素晴らしい。挙句にフィニッシュ・ブローがボクシング技でも何でもなく、柄当だなどといふ辺りは人を喰つてゐる。いはば杏子のためではなく、自分自身にケリをつけるべく戦ひに挑む早見を前に、退場した森川いづみが勝利した男を出迎へにのこのこ改めて現れるオーラスに輝かしく爆裂する、お為ごかしな展開の工夫のなさはグルッと一周して逆の意味で完璧だ。クリシェはクリシェなりに、振り抜いた威勢のよさと潔さとが爽やかな好篇である。


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 「家政婦が見た痴態 お願ひ汚して」(2010/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・新居あゆみ/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:新居あゆみ/編集:有馬潜/撮影助手:江尻大/照明助手:ハンニバル/監督助手:市村優/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/協力:ペンション花宴/出演:鈴木ミント・水沢真樹・酒井あずさ・なかみつせいじ・天川真澄・久保田泰也・牧村耕次)。ポスター・タイトルは、「家政婦が見た痴態 ~お願ひ汚して~」。
 伊豆へと一応緊迫した様子で向かふ車、ハンドルを握る公務員の田所幸生(なかみつ)の傍らでは、妻のまり子(水沢)がコンビニおにぎりをパクつく。のつけから、グラビア+キャンギャ+総合格闘技イベントに於けるラウンドガールといふ、それなりに華麗な経歴を経てのAV女優で、今作がピンク映画デビュー作となる水沢真樹の、遠峰江里子と山口真里を足して二で割つたやうなルックスが、それにしてもまあ輝かしくなく古臭い。関根和美の映画に、ある意味映えるといへば映える。深夜に父親重篤の報を伝へる、正体不明の若い女からの電話の短い回想を挿むと、今しがたまり子の呑気をたしなめたばかりの幸生自身も、おにぎりを頬張つてゐたりなんかする。幸生が一言「お茶」と、亭主風を吹かせまり子に茶を要求したタイミングでタイトル・イン。断崖と海を望むショットを噛ませて、ペンションであるとの幸生の実家は表札からガッチリ抜かれる、伊豆といへば小川欽也や深町章作でも御馴染みペンション花宴。ここまで開巻のテンポは、関根和美にしては抜群といへるほどに快調かつ的確。当の田所家家長・修造(牧村)は救急病棟で面会謝絶につき不在の中、花宴のお手伝ひ・海野しおり(鈴木)と、透(後述)に対する自己紹介ママで雑役係の木村翔太(久保田)の二人が幸生とまり子を出迎へる。先般の謎電話は、しおりからのものであつたといふ寸法である。ここは正直、素性を秘する必要性は全くないやうにしか思へない。金に困つた風情で、どちらかといはなくとも修造にはこのまま迎へられて貰ひ遺産が欲しい幸生とまり子が、通されたかつては幸生の勉強部屋にて、木に竹を接ぐが如く明後日に盛り上がり夫婦生活をオッ始めるや、それを覗くしおりは、頓珍漢な桃色イマジンを膨らませ自慰に耽つては最終的には片乳と尻も放り出して失神しつつ腰を抜かし、挙句にその姿に、翔太が熱い視線を注ぐ。ここに至つて、関根和美は矢張り何時もの関根和美であつた。別の意味で、誠に清々しい。さうかうしてゐるところに、伊達なハットから前髪を垂らし、タック・インしないピンク色のドレス・シャツに度派手な柄物の黄色いネクタイを合はせる。などといふ、オダギリジョーにでも被れたオッサンが仕出かしたやうな扮装で登場する天川真澄は、子供の頃から優等生の幸生とは反目する、一時は羽振りもよかつたものの現在は時勢にポップに屈し矢張り激しく困窮する、服飾デザイナーの弟・透。ポルシェも手放し、電車で来伊した透が遅れて到着するといふ細部は、何気に論理的。
 薮蛇にキッスアーミーのやうなキツ目のメイクの酒井あずさは、透を支へる為に特殊浴場で働く妻・美緒。仕事柄終電で伊豆に入り、翌日は早朝シフトとのことで始発で捌けて行くといふ方便で、透以外とは誰とも絡まずに三番手ポジションを従順に通り過ぎて行く。良くも悪くも贅沢極まりない起用法ではあるが、夫に尽くす健気な妻の風情を、束の間にもしつとりと叩き込んでみせる地力は堅実に光る。
 急を告げる老父健康状態の危機に伊豆の実家に呼び寄せられた、互ひに仲違ひし、同時に目下それぞれ経済的苦境に追ひ込まれてもゐる兄と弟。取つてつけられた蛇足と見做すか、当然必要な段取りと目し得るかは微妙なところともいへ、とりあへず締めのしおりVS.翔太戦を除くと、各々の順当な夫婦生活と入浴その他短い繋ぎのカット以外の濡れ場に、延々としおりの妄想を臆面もなく積み重ねてみせるのは、あくまで関根和美的には通常運行。一々その点に目くじらを立てるのは、お門違ひだとすらこの際開き直つてしまへ。寧ろ、なかみつせいじと天川真澄による安定した薔薇には非ざる絡みを、絶妙にアテレコに聞こえるやうな気もすることは兎も角水沢真樹が、阻害することもないどころか順当に補佐する兄弟喧嘩のパートが思ひのほか充実してゐるため、底の浅さも初めから露呈したかのやうなドラマの薄さながら、くたびれさせられることもなく案外観させる。それまでは溜めに溜め、最終盤に満を持して撃ち抜かれるのが、張りのある艶やかな美声で映画をガッチリと締める牧村耕次第一声、「やつと思ひ出して呉れたのか」。漸く登場した千両役者・牧村耕次こと修造が、一件の真相を自らの口から明かす件は、一本の劇映画の頑丈なハイライトたるべき名場面、と本来ならばならう相談ではあつたのだが。ここで大らかに間抜けなのが、修造のメガネに映り込んだ光が、牧村耕次の両の瞳をほぼ隠してしまふ頂けない画面設計。撮影・照明が下元哲と代田橋男といふ歴戦のコンビにしては、らしからぬプリミティブな粗忽さが折角の修造長台詞に覚束ない水を差す。無茶苦茶に纏めてみるならば、長所と短所とが綺麗に同居する、実に人間的な一作。そこかしこに、作り手の息遣ひ肌触りは感じられぬでもない。


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 「ナース夏子の熱い夏」(2010/製作:レジェンド・ピクチャーズ、シグロ/監督:東ヨーイチ/脚本:東ヨーイチ/企画:山上徹二郎・利倉亮/プロデューサー:江尻健司・渡辺栄二/撮影:下元哲/録音:山口勉/助監督:佐藤吏/監督助手:加藤学/撮影助手:高田宝重・榎本靖/メイク:島田万貴子/メイキング:榎本敏郎/音効:藤本淳/EED:桐畑寛/EED助手:竹内宏子/制作協力:セゾンフィルム/出演:愛奏・岡部尚・加島潤・竹田朋華・梨木ナオミ・澤村清隆、他・里見瑤子・川瀬陽太)。
 横断歩道の向かう側、アコーハットに馬鹿デカいサングラスを合はせた愛泰(ex.薫桜子)のショットに被せられる、以降全篇を覚束なく叙述する岡部尚のモノローグ「不思議な女だつた」。清々しくセンスのない扮装は、“わざと不細工に変身”したものであるとのこと、力ない開巻に早くも暗雲が立ちこめる。映画本篇と直接には関係ない瑣末ながら、それにしても鬼のやうにダサい改名をした薫桜子改め愛泰は、「和泉整形外科医院」の看護士・日比野夏子であつた。ここで、冒頭夏子のイントロダクションに登場する加島潤は、自宅に居場所がないことも含め退院したくないと甘えるやうに駄々をこねる、大した骨折でないにも関らず入院した初老の患者・今井。出版社に勤務する宮本一樹(岡部)は、妻・和代(里見)と職場結婚する。夫よりも忙しい部署に配属される和代を、その日はといふかその日もといふか、兎も角遅い出社の一樹は寝惚け眼で送り出す。その夜、出版パーティーに出席し早く出て遅く帰つて来た和代から求められ一樹が抱くのが、最初の濡れ場。ところがそんな和代が、自転車に追突され腰を強打、和泉整形外科医院に入院する。再びここで梨木ナオミは、和代と相部屋の、首にコルセットを巻いた女。妻の担当となつた夏子に興味を抱いた一樹は、一応純然たる方便ではない取材を口実に接近を図る。首尾よく外で会ふことに成功した一樹と夏子は、案外容易くホテルにまで到達。正常位の一回戦、後背位の二回戦に突入したところで、“夏子の肩にタトゥーがあつた”、“でも、何も訊かなかつた”。とかいふ左肩背中に花を彫つた入墨が、まるでマジックペンで描いたかに見える―再見した松岡邦彦の「ノーパンパンスト痴女 群がる痴漢電車」(2007)で確認したが、それでも本物である―安つぽさが、独白の生煮え感を加速させる。和代の十日間の入院中、時に病院のシャワー室にて時には鬼の居ぬ間の宮本家でと、堰を切つたやうに一夏の、あるいは一過のアバンチュールに溺れる一樹と夏子ではあつたが、夏子は一樹を自室に招くことだけは、生き物の気配がどうのかうのと頓珍漢な抗弁を持ち出し拒んだ。ところが、といつた接続詞を用ゐることが、適当であるのか否やも些か微妙なところでもありつつ、さて措き和代の退院後、次の日から一樹は夏子と連絡が取れなくなる。
 最早、面倒臭いと感ずることを横着と躊躇ひさへしない気分なので堂々と端折つてみせるが、「私の調教日記」(主演:亜紗美・佐藤幹雄)に劣るとも勝らぬ展開の薄さを誇れない、東陽一もとい東ヨーイチによるエロバリ第一弾もう片方である。“エロバリ”とは何ぞやといふ点に関しては、「私の調教日記」拙稿を御参照頂きたい。詰まるところは、カミさんが入院してる隙に火遊びした大巨乳の看護婦は、女房が退院するや自動的に何処かに消えて呉れまんた★だなどといふ、非感動的に都合のいい物語に加へて、妙にそこかしこに含みを持たせる他愛ない作劇が、止めを刺すが如く火に油を注ぐ。壮絶に平板な標準的Vシネ画質の中、凡そ一切の雰囲気といつたものの醸成は予め妨げられてしまつてゐるとすらいへる以上、斯様な意図的に痒いところに手を届かせぬ流し打ちは自殺行為に過ぎず、思ひ切り振りきることにより引張るしかないのではなからうか。そこで一人気を吐く川瀬陽太は、一樹いはく“気配の正体”こと、八年前より関係を持ち三年間のいはゆるお勤めを終へ娑婆に戻つて来たばかりの、夏子の情夫で筋者の吉田ツネオ(ツネオの漢字表記は不明)。仕事も辞めた夏子が完全に姿を消して数日、一通の埒もない手紙を勤務先宛で受け取つた一樹は、矢張り同様の便りが届いた吉田から呼び出される。アルコール類は置かない店での、如何せん不穏な空気の流れることも否応ない会談。夏子に本当に必要なのは足を洗つた吉田ではあるまいか、との一樹の為にする思ひつきに対し吉田は低く性急な口跡で、「何時もさうやつて、勘で生きてるのか」。全く散発的に川瀬陽太がフルスイングの凄味を撃ち抜いたこのカットが、ほぼ自力で豊かな情感を勝手に湛へる里見瑤子以外に、殆ど唯一今作が力を得て輝いた瞬間。改めて考へてみるならば、「私の調教日記」に於いては久し振りに観た佐藤幹雄と、今回は川瀬陽太。要はエロバリとは十年選手のピンク映画俳優くらゐしか見所の見当たらない、全く以て漫然とした連作であつた。
 それにつけても、佐藤幹雄が異常に変らない一方で、川瀬陽太は順調に歳を重ねる。岡部尚と川瀬陽太の役は、一昔前ならば川瀬陽太と伊藤猛の役ではなかつたらうかと思ふと、積もる月日が感慨深い。

 残り配役は、レジェンド・アクターズスタジオ所属の竹田朋華が、医院入り口のガラス越しに姿を見せる、看護士その他であつたやうな気がする、半分程度しか自信はない。更にその他劇中に登場するのは、オーラス明示的に抜かれるチンドン屋の楽器隊男女各一名。病院内要員と、一樹が吉田と会ふ、喫茶店店内に見切れるカップル客。全く予想してゐなかつたので、澤村清隆が何処に居たのだかが、結構特徴的な容姿の割には全然気付けなかつた。


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 「我慢できない女子 エロ妻・サセ妻・ヤリ妻・スケベ妻」(1996『密会の女たち 人妻から女子大生まで』の2011年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二・業沖球太/原案:中尾浩二 報知新聞即売面連載『実録/店外デート・女狩り』より/製作:北沢幸雄/撮影:鈴木一博/照明:高原賢一/録音:中村幸雄/編集:北沢幸雄/音楽:TAOKA/助監督:佐藤吏/監督助手:山本和弘・鈴木章浩/撮影助手:飯岡聖英/照明助手:藤森玄一郎/ネガ編集:酒井正次/協力:横浜《関内》ピンサロ『カモン』・新宿性感ヘルス『茄子がママ』・新宿イメージ性感『パパイヤーん』/出演:森下ゆうき・悠木あずみ・西山かおり・佐々木恭輔・頂哲夫・三橋里絵・佐々良淋・神戸顕一・樹かず・矢島俊一・染島みつぐ・清水昌一・ロッキー石橋、他・杉本まこと)。若干名ロストした他出演者は、本篇クレジットのみ。
 朝の山口家、夫・耕治(矢島)の腕時計の不調から金が入用であることをスマートに示す論理性が、さりげなくも光る。娯楽映画といふものは、かくあるべきであらうと感心させられる開巻。妻の幸恵(森下)は耕治を送り出すと、自らもそそくさと横浜・関内のピンサロ「カモン」に出勤する。自分の小遣ひは自分で稼ぐ、と客にはいふものの、住宅ローンの足しにする素振りも窺へぬではない、幸恵は源氏名・メグミの人妻ピンサロ嬢であつた。ここで、純然たる勘でしかないがクレジット順がそのまま登場順なのではないかと思はれる、三橋里絵・佐々良淋と清水昌一・ロッキー石橋は、それぞれホステスと客のAとB。三橋里絵と佐々良淋も、店内限定ではあるが二人ともきちんと脱ぐ。染島みつぐがMCを兼任する店長で、神戸顕一は、金に物をいはせ矢鱈と女達を「カモン」では禁止された店外デートに誘ふ、性質の悪い客・田中。一方、新宿の性感ヘルス「茄子がママ」。竹村梧郎(杉本)が真剣にナナ(悠木)を口説くが、自身が春を鬻(ひさ)ぐ女であることも弁へてしまふと、ナナはどうにも煮え切らない。ナナの、本名は不明。テンポも軽快に、今度は何処ぞの大学、連れ立つて歩く、三人の女子大生と一人の男子学生。不明の他二名と別れた、本田真智子(西山)と彼氏の江口俊夫(樹)。真智子も真智子で、こちらは新宿のイメージ性感「パパイヤーん」の、源氏名は美奈であつた。但し、確か「パパイヤーん」だけは、「カモン」と「茄子がママ」とは異なり店の表が抜かれない、プリントが飛んでゐるのかも知れないが。頂哲夫は、美奈の常連客で同じく大学生の谷島博好。親の町工場を手伝ひ得た金を、「パパイヤーん」に注ぎ込む。「パパイヤーん」ファースト・カット、アイドル歌手に扮した美奈が「私、貴方が好き」といふ同じフレーズを何度も何度も歌ひ、交互に親衛隊役の谷島が「Go!Go!Let's Go!大好き美奈チャーン!」と素頓狂にシャウトする様子を、まるでジョン・カーペンターばりに繰り返し繰り返し頓珍漢な執拗さで反復してみせるのが、妙なツボを爆突きして来る。そんな中、ポップに酔つ払つた耕次が調子に乗り家に連れて来た部下の石川正晴(佐々木)と、後日昼下がりの「カモン」で再会したメグミもとい幸恵は驚く。因みに今作中、夫婦生活が描かれることはない為、矢島俊一は濡れ場の恩恵に与り得ず。
 歓楽街で働く風俗嬢と店の外で関係を持つ、いはゆる店外デートを軸に、三人の女と客の男達との関り合ひを描いた一作。各々の連関ないしは交錯は、一切発生しない。その上で、石川から強ひられた関係も半ば悪びれることの殆どない火遊びと受け流す、幸恵こと一応ビリング・トップの森下ゆうきに関して、最もドラマ性が希薄となつてしまふ不体裁は清々しく否めない。反面、残る二パートは綺麗に充実する。竹村とナナとの、あくまで純愛物語は誠実なハンサムを好演する杉本まことの熱演と、丁寧に積み重ねられるナナの寂寥を表現する描写とに、素直に力を持つ。店に来たのに服すら脱ぎもせず、竹村が買つて来たケーキを二人で食べる件は、殊更に涙腺をチョロ負かせてやらうといふ意図も酌めぬ平温の演出ながら、それでも個人的には、何度観ても泣ける。性感ヘルスで事も致さずに女と洋菓子を食ふ、珍奇とすらいへる光景から透けて迸る、竹村の不器用な真心には何度観ても矢張り泣ける。こちらは今回再見して再認識した、真智子と谷島の一夜の物語も、肩肘張らない純情が爽やかな好篇。美奈の方から店外に誘つておいて、江口からの呼び出しを受けた真智子は、一旦はケロッと谷島をスッポかしてみせる。約束は二十一時、真智子が漸くそのことを思ひ出したのが、翌日二十六時前。そのまま江口の求めに屈し一戦交へつつ、谷島のことを捨てきれない真智子は翌朝早朝、寝こける江口の部屋から脱け出すとタクシーに飛び乗り待ち合はせ場所へと向かふ。とはいへ、人気がすつかり途絶えてからも夜通し美奈を待つた谷島の姿も、終にそこには無かつた。真智子の後悔混じりの落胆を観客にも一旦共有させたところで、呑気にサンドウィッチをパクつく谷島がポケーッと通りがかるロング・ショットが素晴らしい。どちらかといふとバタ臭い、基本オフェンシブな西山かおりと、間の抜けたディフェンシブな頂哲夫を噛ませた配役も何気なく完璧に、何といふこともないままに男と女の純情が共に麗しい、捨て難い名場面。あるいは寧ろ、進んで森下ゆうきには余裕を持たせ悠木あずみと西山かおりの引き立て役に回したとさへ捉へるならば、北沢幸雄の憎いアクロバットが決まる変則的な佳篇。穿ち過ぎであらうことならば判つてゐるつもりだ。

 その他劇中に見切れるのは、石川がピンサロ勤めの秘密をネタに幸恵を呼び出した夜、耕次の左隣に座るたんぽぽおさむ似の妙な男前と、ナナを待ち伏せる「パパイヤーん」表で、竹村と擦れ違ふスッキリして来た男。それと、最早どうでもよかないが、昨今エクセス新版公開時新題の、明後日な絶好調ぶりはもう少しどうにかならないものか。


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 「とろける新妻 絶倫義父の下半身」(1999/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/現像:東映化学/出演:荒井まどか・村上ゆう・麻生みゅう・熊谷孝文・久保新二)。
 殺風景ながらもフォトジェニックに捉へられる山間の原つぱに停められた、一台の黒塗りのセダン。車中は助手席に芦田聖子(荒井)と、運転席には彼氏の粟野邦洋(熊谷)。交際半年、仕事も出来ればぼちぼちイケメンの彼氏を先手で詰めんと、聖子の方から、邦洋の家族に紹介して呉れるやう求める。その夜、御馴染み水上荘の粟野家では、邦洋の父親で専門は社会生物学の大学教授・洋二(久保)と後妻である美津江(村上)の、家に来る息子の恋人を揃つて楽しみにしつつの夫婦生活。そんなこんなで聖子が粟野家を訪ねた当日、どうにも微妙な雰囲気が漂ふ中、藪から棒に家に来たばかりの聖子に風呂を勧めたのに続き、矢継ぎ早に久保新二一流の小ネタが振り抜かれる。脊髄反射で当惑する聖子に洋二が、サッパリするやう促した上で口に含んだ茶に茶葉が入つてゐたらしく、さうすると「チャッパリ」。サッパリとチャッパリ、プリミティブ過ぎて、逆に独創的だ。久保チン以外には、誰にも辿り着き得ぬ地平に違ひない。聖子が湯を浴びる風呂場に、お得意のアシャアシャ笑ひとともに忍び寄つた洋二は、何といふこともないかのやうに浴室内にもチン入、もとい闖入。昭和の時代の、スポーツ新聞エロ面か。聖子の美身を軽く堪能するや、「鮫肌のやうな餅肌」の持ちネタも当然の如く披露する。血相を変へ入浴を早々に切り上げた聖子が、邦洋に洋二の乱行を訴へたところ、まるで意に介さない邦洋も邦洋で、平然と美津江と風呂に入るといふ。愕然とする聖子を、挙句に洋二が今度こそ犯す。アパートの自室に逃げ戻り缶ビールを自棄飲みする聖子ではあつたが、不思議なことに洋二に火を点けられた体の疼きはまるで納まらず、自慰に狂ふ。一息ついたいはゆる賢者タイム、聖子は美津江に連絡を取ると、改めて粟野家の外で会ふ手筈を整へる。
 麻生みゅうは、そんな次第で美津江との公園での会談―ここと聖子自室の撮影は、於東京?―を経て、水上荘を再び訪れた聖子を火に油を注いで驚愕させる、洋二に抱かれてゐた美津江の連れ子・久美。母親達とは同居してゐないといふ不自然気味の設定は、聖子宅に飛び込ませるための無理からな方便か。
 少なくとも異性間全方位乱交に気軽に戯れる恋人一家に、初めはいふまでもなく度肝を抜かれてゐたヒロインが、何時しか感化され自らその一員に加はるに至る。一般的には異常極まりないが、ピンク映画的には麗しく順当な桃色ホーム・ドラマ。洋二が適当に振り回し、サブ・モチーフとされる牧歌的な利己的遺伝子論は、この期には寧ろ微笑ましく通り過ぎ得よう。兎にも角にも、荒井まどかの美しさが決定的。素直に美人な容貌と最も適度な大きさの美乳も映えつつ、腰から尻にかけての艶(なまめ)かしいラインがとりわけ素晴らしい。六十分の小篇とはいへど更に薄さを感じさせぬでもない物語を、弛ませるでなく強靭に牽引して行く。芝居勘も案外悪くなく、麻生みゅうとの百合にはあらぬ絡みに際しては、深町章作にしてはらしからぬ、ライトで瑞々しい風情も振り撒く。聖子が腹を決めた後の水上荘での、器用にバスト・トップだけを光りの中に浮かび上がらせた裸の立ち姿に、うねるシンプルな官能性。オーラス直前、夜中に台所に水を飲みに現れた洋二を、聖子の側から誘惑する件の妖艶な幻想性。勿論撮影部の卓越まで含め、終盤火を噴く二つのショットの映画的な威力は絶大。全篇を叙述すると同時に、フィニッシュにさりげなく叩き込まれるモノローグが、表面的には穏やかにも映画をピリリと締め括る。物語自体は敢て一歩引き主演女優を心ゆくまで堪能させるべき、女優映画のスマートな完成形、深町章流石の妙技が冴える一作である。
 備忘録< オーラスのモノローグは「可愛がつてあげてね、可愛い妹のこと」


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 「いひなり未亡人 後ろ狂ひ」(2010/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也/撮影助手:橋本彩子/照明助手:八木徹・斎藤順/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション・カラオケスナックドール/出演:星優乃・亜紗美・岡田智宏・西岡秀記・堀本能礼・山口真里)。
 大蔵もとい大暗ヶ池のほとり、三回目の未亡人になりたての氏木真知子(星)が黄昏る。全員チラ見せの遺影は判別し損ねたこれまで真知子三人の旦那は、一人目はエッチを求め過ぎて過労死、二人目は風呂場での潜望鏡プレイの最中に水死。そして直近の三人目は、騎乗位で跨る内に腹上ならぬ腹下死したことにも気付かず、真知子は死後硬直を更なる剛直と勘違ひし腰を使ひ続けてゐた。即ち、真知子の箍の外れた性欲の果てに、何れもが命を落としたものだつた。池に三つ目の結婚指輪を投げた真知子の前に、その姿で外を出歩くのは正直清々しくブレイブな頓珍漢にも思へる、セクシー・ムームー衣装の羽佐間美也(山口)が現れる。巨大なお世話で真知子に男難の相を看て取つた美也は、頼みもしないのに占つて進ぜようと自宅にまで乗り込む。占ひ師なのかといふ真知子の問に対し、美也が“ジプシーの運命研究家”―本篇山口真里台詞ママ―と自己紹介したタイミングに合はせてタイトル・イン。
 主演女優の裸を軽く披露がてら、張道完門下なのか美也は真知子の女陰周辺の形状から、何だかんだと大雑把に占ふ。重ねて星型の入墨ではなく黒子を見つけた美也は、亀頭に同様の黒子がある人物こそが真知子にとつて運命の男であるとの診断を下し、三万円の見料をせしめて行く。だからそれ、如何なる手段で探し当てるんだよ!といふツッコミ処が、その後回収されることは特にない。話を戻して、真知子は以前から、服装から江戸時代を思はせる遠い昔、池で男と心中する同じ内容の夢を繰り返し見てゐた。但し頭巾に隠され、当の運命の星型氏と思しき男の顔は絶妙に見えなかつた。
 場面変り、真知子行きつけのスナック「薔薇の蕾」。オカマのママ・ヒロミ(岡田)は美也の宣託を体よく騙されたのだと一笑に付すが、亡夫の死亡退職金が入る予定の真知子は、さして意に介さない、現金な女だ。真知子が「薔薇の蕾」を後にすると、泥酔し寝こけてゐた常連客の森宮春樹(西岡)が目を覚ます。形はどうあれ矢張り伴侶を喪ふではなく正しくは失つたばかりの春樹は、真知子に金が入る件はチャッカリ耳にしてゐた。ヒロミからは惚れられた強みに乗じ、春樹も真知子に続き、飲み代(しろ)はツケて払はずに帰る。劇中、ヒロミが客から金を受け取るカットは終に設けられないのだが、果たしてこの店は大丈夫なのだらうか。
 林家ペーのやうな髪型の、逆の意味でオネストともいへる闇雲な鬘を載せた堀本能礼は、そんなこんなで事務的手続きのために真知子宅を訪れる、最新亡夫勤務先の上司・津川浩三。以前に何処かでお会ひしたことがありませんか云々と、ベタベタな口説き文句でセクシーな寡婦に言ひ寄ると、美也に加速され夢見がちな真知子をコロッとオトす。単なる助平親爺に騙されたとヒロミから明らかにされたにも関らず、続いて春樹にも、薮蛇なイマジンに乗じていひなりな真知子が対津川戦と同じくチョロ負かされたところで、正しく猛然と飛び込んで来る亜紗美は、オーピー金融秘められた素顔は武闘派の回収担当・八田彩香。平素目をショボつかせる牛乳瓶メガネを外すや否や、途端に超強硬の強面、兼サディストへと華麗なる変貌を遂げるギミックは、亜紗美の地力にも加速され画期的に鮮やかに決まる。と、ここまで、ピンク映画初出演ながら思ひのほかカンの悪くない星優乃以下、突進力自慢の山口真里、クネクネしたオカマ役に意外と長けた岡田智宏。ポップな好色漢と甘いマスクのスケコマシを好演するそれぞれ堀本能礼と西岡秀記に、持ち前のキレのある攻撃力をフルスイングする亜紗美。円滑な始終の推移に、逆に見落としてしまひがちになりかねないのかも知れないが、改めて検討してみると配役は驚愕の完成度を誇る。
 渡邊元嗣快調に九月封切りにして早くも2010年第四作―但し一月中盤の翌年第一作までが、暫し間も空く ―は、「愛染かつら」から「君の名は」に流して、女郎の心中悲恋と阿部定事件をも大胆に加味した「金色夜叉」経由で、終着点が何と「エクスクロス」行き。などといふ、空前絶後の離れ業を繰り広げる展開を通して運命の恋人同士が巡り会ひ結ばれるまでを描いた、一見何といふこともないルーチンに偽装した量産型娯楽映画気楽な大傑作。まるで予め、通り過ぎられることを自ら望むかのやうに肩肘張らなければ偉ぶりもしない、流れる水の如く恙無さではあるが、徐々ににじり寄つて来る伏線のシレッと迸る秀逸さが堪らない本筋に加へ、実は何気に、、起承転結転部のアクセントを綺麗に叩き込むと同時に、春樹を篭絡し双方向に牙を剥かせる彩香、媚薬を用ゐ強制攻略したといふ方便で、二つの星型の黒子を繋げ線を引く美也。ピンク映画に関してある意味最重要ともいへる、二番手・三番手の裸込み込みの放り込み様も超絶に完璧。王道中の王道といふに相応しい物語を、共に慎ましやかな頑丈な論理と卓越した技術とによりサラッと形に仕立て上げた、現在進行形の工芸的な到達点。しかもラスト・ショットは、巨大な鋏を振りかざす追手を中央に、左にヒロミ右に真知子が逃げながらジャンプするストップ・モーション。この期に、斯様な古式ゆかしいメソッドで堂々と一本の商業映画を締め括つてみせるといふのも、世界の映画人の中でも渡邊元嗣でなければ北沢幸雄くらゐにしか許され得まい、その意味に於いても、紛ふことなきナベ映画。確かに間違つても芳しくはない状況の中でも、渡邊元嗣は軽やかに走り続ける。壮絶な純愛映画の圧倒的傑作にして、然れども純然たるピンク映画とは決していひ難い「妖女伝説セイレーンXXX 魔性の悦楽」(監督:芦塚慎太郎/脚本:港岳彦/主演:まりか・西本竜樹)を、ピンク本隊から迎へ撃つべき頼もしい最有力候補。ナベが来た!パッと見他愛もない一作を前に、真打登場の衝撃と感動とに打ち震へる。


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 「変態好きな熟牝たち 露骨な下半身」(1994『どインランな女たち 大阪風俗篇』の2011年旧作改題版/製作:ENKプロモーション/提供:Xces Film/監督:剣崎譲/脚本:駒来愼/製作:駒田達郎/撮影:中川寿彦/照明:北井哲男/助監督:山内隆弘/編集:安東孝一/協力:映像グループ 翔の会・関西映機、他多数/出演:美藤世里、水鳥川彩、小寺弘之、リッチドール・裸夢、鍋島浩《特別出演》、バニー・マリア、ピアス企画・りか さやか、シャレード・リカ、他大勢)。ピンクにしては情報量の甚大なクレジットに完敗する。然し闇雲な新題だ、内容に即さうとする気がまるで窺へない。
 個室マッサージ店「リッチドール」にて、正味な話本職の役者には見えない客(不明)が裸夢嬢(ハーセルフ)のサービスを受ける。場面変り「阪神出版」編集部、先刻の客氏は実は風俗ライターで、既に広告収入の減収と売り上げ低下に頭を悩ます編集員の花田貴司(小寺)が、他愛もない記事にダメを出す。そこに、編集長以下残りの編集部員(全員手も足も出せず矢張り不明)には内緒で男女関係にもある、フリールポライターの高見沢伸江(美藤)が連載するグルメ記事を持参する。その夜、皆で繰り出したカラオケボックス。編集長が何の曲を入れるか何時までもダラダラ逡巡する、途方もない間に辟易した花田は傍らの伸江に、今居るカラオケ店が以前は規制の強化による廃業を余儀なくされた、ソープランドであつたといふさして意外でもない事実を伝へる。後に店名の明らかとなる「ムーンライト」には、花田いはく伸江と出会ふ前一度きりお世話になつたとかいふ、兎も角かつて伝説的とすら称へられたソープ嬢・ミーコ(水鳥川)が在籍してゐた。「ムーンライト」閉店後の消息は不明で、座席の陰に今もその不在を嘆く客であつた男の残した落書きを発見した伸江は、そこまで人の心に己の存在を刻み込んだ、ミーコといふ女に興味を持つ。常々物書きとしての功名心を燃やす伸江は、次なる執筆対象にミーコを選ぶ。伸江はスポーツ紙と風俗誌を買ひ込むと店々に足を運び、現場の女達にミーコその後の足跡を尋ねて回る。
 ポスターには“現役大阪風俗嬢多数出演”と謳はれる、剣崎譲監督第六作にしてピンク映画デビュー作。因みに第五作までは、全て薔薇族である。話を戻して、成程確かに開巻のリッチドール・裸夢嬢に続き、ミーコの取材を開始した伸江は最初に、よく判らない業態だがビデオ&マッサージ店「バニー」を訪ねる。そこで相変らず不明の客要員と一戦交へたマリア嬢(ハーセルフ/以下略)に、ミーコの所在を訊いてみるカットが一応設けられるまではある程度十全であつたものの、ここからが清々しく、映画の底を抜いてみせる。以降は何れも体の緩んだ多分りか女王様の指導の下、消去法で奴隷のさやかを調教し、その模様をビデオに撮影させて呉れる「ピアス企画」。続いて結構ハクいリカ女王様が登場する「シャレード」、かなりイイ体の女が屋外での羞恥痴漢プレイを敢行する一幕―には客要員の他に、通りから目撃し目を丸くする通行人も見切れる―と、最早開き直つたかのやうに伸江すら姿を消したままに、公開当時実在風俗店のドキュメント乃至は再現フィルムに一時(いつとき)終始する。挙句に忘れた頃に再登場した伸江は薮から牡丹餅式に情報を得ると、待ち合はせた通天閣にて唐突にミーコとのミーツを果たす。即ち整理すると、序盤はぼちぼちの劇映画、後述するオーラスの濡れ場まで含めて終盤は下手糞な劇映画。そして間に挟まれた中盤が、基本木に竹を接ぎ倒す羅列に終始する風俗実録映画などといふ、画期的に頓珍漢な構成を採つた一作。余所の地の特殊浴場に移ることも一旦は考へたミーコではあつたが、結局大阪の女である故大阪を離れることが出来ず、大阪の男達を元気にすることを選ぶ。さうして今は飛田新地の売春宿に身を置くミーコのエモーションは、主演女優は兎も角水鳥川彩の力もあり、偶さか力を持つ。特別出演の鍋島浩は、押入れに押し込まれた伸江の見守る前でミーコを買ふ客・上村。
 ミーコへの取材を下に伸江が出版した『大阪を出て行かない女たち』は、全国的な賞を受賞し、伸江自身も一躍時の人となる。名声と更なる飛躍とを求めた恋人が、大阪―と自ら―を捨てるのではないかと女々しく危惧する花田を、情事を通して伸江が綺麗にミーコ二番煎じの理由で大阪に止まることを表明し、安堵させるといふのがフィニッシュ。ここで、止めを刺すかの如き疑問手が、伸江と花田が普通に黙つてギシアン一回戦を通過しておいて、ああだかうだと工夫を欠いた遣り取りを交し、改めて二回戦に突入してみせる無駄なやうにしか見えない二部構成。伸江が大阪愛を表明する件が二つの絡みの狭間に埋没してしまふ間抜けさに加へ、挙句に後半戦に際しての妙な照明の暗さには、逆の意味での執拗ささへ感じさせかねない。ムーディーさでも狙つたつもりなのかも知れないが、見せないといけないものを見えなくしてしまつてどうする。端的にはよくいへばチャーミングな、直截には珍作である。筆が折れても面白いとはいひ難いが、こんなピンクも観たと、話の種にはならぬでもない。
 映画の中身とは本当に全く関係ない、完全に純然たる瑣末ながら一際目を引いたのは、劇中伸江が取り出す携帯電話のとんでもない馬鹿デカさ。些かの誇張もなく、500mlのペットボトルほどはあらうか。手鞄でも持ち歩かねば、まづ携帯することは叶ふまい。字義通りの、隔世の感が極まれる。

 今作には、剣崎譲翌年の第八作にしてピンク第二作、「どインランな女たち 大阪すけべ喫茶篇」(主演:赤江美紀)なる続篇も存在する。特に期待してもゐない上で、それでも矢張り観てはみたい。浅ましい業の深さを、笑ひたければ笑ふがよい。


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