「不倫人妻 ただれた下半身」(1992『若奥様 下半身熟女』の1998年旧作改題版/制作:シネマ アーク/提供:Xces Film/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小野寺透/編集:フィルムクラフト/助監督:青柳一夫/監督助手:杜松蓉子/スチール:田中スタジオ/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/フィルム:AGFA/出演:椎名美月・冴木直・小川真実・朝田淳史・白都翔一・石神一・港雄一)。
ヤクザ者の三国(朝田)と兄貴分の花村(港)が、三国と当時今貴子(椎名)のハメ撮りビデオを見る。貴子は結婚を機に三国とは別れ、三国の手元に残されたのはビデオと、月五万支払ふ旨の手切れの誓約書。悪くない話に思へるのは詮無い貧乏性か、端金に不満を持つ三国の思惑を酌み、花村が出張る格好に。さうとも知らず、ニッコリ笑つたCM感覚でカップヌードルカレーを手に主演女優が改めて登場、振り返るとエプロンの下は裸でタイトル・イン。貴子が家では基本裸エプロンで通す藪から棒に関しては、後に暑かつたからと適当に言ひ訳する以外に、特にも何も何ら方便を設けない姿勢は寧ろ潔い。裸映画は、女の裸を見せるのがジャスティス、その志は清々しい。貴子がビールを飲み飲み三分を待つてゐると、呼び鈴が鳴る。旦那が早く帰宅したのかと思ひきや、早速花村来襲。幾ら清々しい心意気ともいへ、貴子が花村を前に裸エプロンであるのを一欠片も恥らはないのは、エンジン全開絶好調の大いなる無頓着。ビデオを持ち出されるや貴子は本格的に点火、一戦交へた後、三国が音を上げた貴子の好き者ぶりに花村も一旦手ぶらで退散する。花村は続いて、実は誓約書は貴子の手によるものでなく、面白半分で代筆してゐた貴子の友人・ヨシエ(冴木)を訪ねる。ビデオを見せられるとヨシエもよろめきかけ、土壇場で我に返る。
出演者残り石神一は、互ひの夫婦生活トークのみ出番のヨシエ夫。白都翔一が、実質入り婿に近いらしい貴子の夫・沢井。沢井が花村と三国に呼び出されるのは、カット頭の画面手前には小林悟も見切れる純喫茶摩天楼。脅された沢井が自棄酒を痛飲するのが、今度は軽快にゴーゴー音楽流れるスナック摩天楼。スナック摩天楼のママはほぼ定位置の板垣有美、沢井の左右に三人座るその他カウンター客は、背中しか見せないゆゑ流石に手も足も出ない。何処まで引つ張るのか如何に捻じ込むのか地味にハラハラさせられた三番手たる小川真実は、沢井が頼る同級生で弁護士の照井。実にスマートな配役ながら、因みに板垣有美のアテレコ。
大御大・小林悟の、1992年ピンク全十三作中第七作、薔薇族が更に五本。沢井家のホワイトボードに出前の電話番号が並ぶのは、貴子が料理をしない無精を描いたらしからぬディテール。尤もらしからぬのは神も宿し損ねたその細部くらゐで、総じては相も変らず紛ふことなき大御大仕事。後生だから折角何百本も撮つたのに、何本かは見紛はせて欲しい。アテレコ三番手と随分な扱ひの小川真実が無理なく展開に加はるのが、今作のピークといふ名の関の山。沢井は何処で油を売つてやがるのか、一人で三国か花村のヤサに乗り込んだ照井は、一服盛られ手籠めにされる。結構な悲劇も豪快にさて措いて、照井発案の“最後の手段”を頼りに、沢井は花村・三国との最終決戦に挑む。一応それなりのクライマックスかに思ひかけたのは気の迷ひ、わざと席を外した沢井が、花村と三国が妻を強姦するビデオを逆撮影、誓約書とビデオ―マスターだとかコピーだとかは勿論一切スルーする―を奪還する。確かに“最後の手段”だなといふ大らかなツッコミ処も兎も角、捨てる前にビデオを見てみると、ビデオの中でヤラれてゐるのは貴子、ではなく照井。となるとそこは、ヤクザの方が一枚上手といふオチにならうところが、さうはならずに貴子が人のビデオに盛り上がり突入する夫婦生活の、しかも途中で適当に振り逃げるラストの紙一重を跨ぎかねないルーチンぶりが、小林悟が小林悟たる所以。即ち、観客が裸映画に女の裸以外の何某かを求めるある意味色気を許さない、厳格な父性にも似た逆説的なストイシズムこそが、小林悟映画の本質である。どんな与太でも吹きやいいつてもんぢやねえんだよ(´・ω・`)
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