「牝猫 くびれ腰」(2003/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『DENPA-KEI』/撮影:鈴木一博/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:田中康文/監督助手:笹木賢光、他一名/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/協力:阿佐ヶ谷『スターダスト』・色華館/挿入歌:『愛しのピンナップ・レディ』作詞:五代暁子、作曲・歌:大場一魅/出演:望月梨央・美奈・紅屋トミ子・本多菊次郎・樹かず・神戸顕一・色華昇子・吹雪桜子)。サード助監督と、二名クレジットされる撮影助手に力尽きる。プロジェク太画質に阻まれ、小さな活字がよく見えない。ところで出演者中本多菊次郎が、ポスターでは本多菊次朗。
火にかけられた薬缶が蒸気を噴く、海外への留学も決まつた優秀な息子(樹)の、恋人(美奈)を家に招いての団欒で開巻。交される会話は何の過不足もなく表面的には幸福さうなものながら、男、即ち父親(本多)は鷲掴みにしたショートケーキにグラスの黒ビール、男の左隣に座る息子の恋人は丸齧りする胡瓜にワイングラス、右隣の妻(望月)はバナナにポン酒、更にその隣の息子はドラ焼きにジュース、かウーロン茶。銘々がてんでバラバラの品を、しかも手掴みで口にする光景にはストレンジが否み難い。笑ふ四人の姿を順々に捉へるカメラが、狂騒的にグルグル回り始めてタイトル・イン。その夜妻を抱いた男は、事後玄関先から洩れる強烈な光に誘はれる。男が外に出ると、右目に眼帯、左手には松葉杖を携へた看護婦姿の謎の女(紅屋)が。女は「フフフフ・・・」、と笑ひながら男を手招きする。男が注意を留めると、女は姿を消す。後日、外回り中の男の携帯が不意に通じなくなる。そこに謎女が、再び男の前に姿を現す。女は児童公園に男を誘(いざな)ひ、宇宙人であるとかいふ自らの正体を明かす。半信半疑の男に滑り台の下に張つた暗幕を捲らせると、そこはUFO内部に通じてゐた。フルアーマー大屋政子とでもいつたメイド(色華)の見守る中、男は女を抱く。
順風満帆過ぎる人生を歩む男、不意に出現した謎の女を、男は異空間で抱く。二度目に女を抱いたのち、我が家に帰宅した男を、愛すべき筈の家族がどうした訳か拒絶する。これは果たして現実なのか、それとも悪い夢なのか・・・・
一言で片づけてしまふならば、江戸川乱歩いふところの、「現し世は夢であり、夜の夢こそ誠」。延々とした繰り返しが冗長といへなくもないオチの落とし方は、芸としては必ずしもなつてはゐないが、その分、それだけに却つてネタ自体の突進力は強く活きる。映画やロックは、ちよつと下手糞であつたり壊れてゐたりするくらゐが一番エモーショナル、といへる時もある。それが正しい見方なのかさうでないのかはひとまづ兎も角、さういふいはゆる“ツボ”を御共有頂ける諸兄には、お薦め出来るやも知れぬ一作。因みに個人的には、深い感銘を受けた。野球の投手の投げる球でいふならば、コントロールは出鱈目で球速も然程速くはないけれど、呆れるくらゐ真つ直ぐでそこそこ重いド直球に譬へられようか。兎にも角にも、やらうとしたことはやり抜いた感のある池島ゆたかを、本多菊次朗が全力で受け切つた様は天晴である。
配役残り、神戸顕一は男の部下。吹雪桜子は、部下に連れられ男が入るバーの白塗り女バーテンダー。都合二度のバーでの男と部下との会話の中では、男の出身校が、慶応の大学院から国公立の理系へと摩り替つてしまふ。男と妻の、一体どれだけの子沢山なのか判らない奇怪な遣り取りといひ、風呂敷を拡げる上での細部の積み上げは例になく上手い。さういふあれやこれやがあつてこそ、ラストの間延びしかねない一点突破の中での、冷酷な正体明かしが更に響いて来るのであらう。紅屋トミ子と吹雪桜子は、通り魔ロツク楽団「母檸檬」のツイン・ヴォーカル:御手洗水子と御手洗花子。さういふ全くの異業種から、一体どういふ顛末でピンクで脱ぐことになつたのか、花子の方は脱がないけど。
御馴染み「スターダスト」はさて措いて、協力としてクレジットされる色華館とは、UFO内部のロケーションに用ゐられる、色華昇子の自宅マンション。これが、百万本の造花とそれなり以上の電飾とに正しく極彩色にデコレートされた、壮絶にオッソロシイ部屋。アレな店の内装とでもいふならば兎も角、かういふ空間で日々の生活を過ごしてゐる人間がゐるなどとは、世人には計り難いものがある、とでもしか形容のしやうもない。
本筋からは清々しくどうでもいい笑ひ処、二度目に男が謎の女を抱く件、正常位の男の更に上から、傍目におとなしく見てゐればいいものを、盛り上がつたメイドが覆ひ被さる。因みに改めてお断りしておくと、色華昇子はオバQ顔の名物オカマである。基本喜悦する色華昇子を煽り気味にピンで抜いた画から、尻を抜かれ悶絶する本多菊次朗が身を仰け反らせ二度三度と下からフレーム・インする見切れぶりが絶品。
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