真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美人OLの性欲処理 痴女三昧」(2000『ハイヒールの女 赤い欲情』の2011年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:工藤雅典/脚本:橘満八・工藤雅典/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:井上明夫/照明:奥村誠/音楽:たつのすけ/助監督:竹洞哲也/監督助手:城定秀夫/撮影助手:森英男/照明助手:河野賢/メイク:パルティール/出演:五十嵐ゆうか・小川真実・里見瑶子・なかみつせいじ・森士林・野上正義)。一々律儀に釣られてみせるやうだが、まあ雰囲気も何もあつたものではない新題である。幾ら買ひ取りとはいへ、工藤雅典が聞いたら怒るぞ。
 パパさんの援助もあつてか、若いOLの一人住まひにしては妙に広い一室。部屋の住人の洋子(五十嵐)と、二年前に死去した亡父の友人でもある不倫相手・大森(野上)との逢瀬。事後、大森にはあたふたと家に帰られ寂寞を隠しきれない洋子が、二件目に入つてゐた母親(電話越しの声の主は不明)からの留守番電話にぼんやりと耳を傾けたタイミングでタイトル・イン。日を改め、懲りずに母親がセッティングした縁談に出向いた洋子は、開巻で大森から贈られたばかりの、黒いハイヒールの踵を折つてしまふ。洋子はオーダーメイド靴を扱ふ「靴のマナセ」に入り、店主の真瀬(なかみつ)に修理して貰ふ。靴屋としての腕は確かな真瀬は、秘かに美しい洋子の足に尋常ならざる熱情を注ぐ。ex.根本義久の森士林は、そんな次第で今回の見合ひ相手・五十嵐、脱サラしてレストランを開くことを夢見るほどのメキシコ狂。五十嵐と連れ立つて歩く洋子を、三本の綿菓子を手にした大森が目撃する。後日、泥酔した状態で洋子の部屋に現れた大森は、半ば暴力的に洋子を抱く。五十嵐への分別を忘れた横恋慕の末に家族も捨てたのか、出し抜けに部屋に転がり込んでの新生活を切り出す大森に、疲れを覚えた洋子は別れを告げる。大森的には、勝手にかけた梯子を外された格好にもならうところだが。話を戻して、今度は洋子が千鳥足で、閉店間際の「靴のマナセ」を訪れる、ここでの遣り取りが明白にちぐはぐ。マティーニを五、六杯飲んだといふ洋子に対し、真瀬はそんな強い酒ばかり飲ませる男とは別れた方がいいと諭す。あれれ?洋子と大森とは、既に洋子の部屋で終つてゐた筈だ。兎も角、赤いハイヒールを注文がてら、洋子は真瀬と徐々に距離を近づける、のも内角を際どく抉り、次第に爛れた肉体関係に溺れて行く。
 無自覚にか意図的にか、靴をフィッティングする際いはゆるパンチラをチラリズムどころではなく披露する里見瑶子は、靴にだか真瀬にだか興味津々の娘・友美。一面に靴を拡げた部屋で真瀬を待つ小川真実は、上得意と称してホスト感覚で靴屋との情事に耽る有閑マダム・瑞江。何のことはない、友美は瑞江の娘であつた。
 主演女優の五十嵐ゆうか、ヒールを履くとなかみつせいじを見下ろす形になるスラリとしたプロポーションは、超絶にして完璧。公式プロフィールなのか、ウィキペディアによれば身長163cmとあるが、どう見てもそれより高いのではないか。他方で、逆にそこがツボだといふ琴線の張り具合もあるやうな気がしないではないが、首から上は、表情以前に造作としても明白に心許ない。その上での工藤雅典第三作は、さういふ五十嵐ゆうかの素材に、全般的な印象が良くも悪くも直結したかの如き、主には消極的な意味での女優映画。兎にも角にも、洋子が一体何がしたいのか、あるいは観客のエモーションを何処に持つて行きたいのだかが皆目判らない。序盤で大森は捨てた洋子は、中盤以降真瀬の司る愛欲に平穏な日常をも崩壊させかけつつ、危ふく踏み止まり五十嵐との順当な交際に落ち着くのかと思はせて、結局さんざ留守電も無視した真瀬の呼び出しに応じ、淫窟としての「靴のマナセ」に再度足を踏み入れた、かと思ひきや、最終的にはそこでの友美も交へた3Pに嫌気が差し逃げ出す。全身を抜くロングで捉へられる、洋子が真瀬の手による赤いヒールを投げ捨てるラスト・ショットは、画的な完成度は高いものの物語は満足に着地しないどころか、そもそも道筋から覚束ない。あまり多くを望まずに、ひとまづ硬質な画面に頗る映える五十嵐ゆうかの美身を黙つておとなしく楽しむ分には、とりあへずの元は取れよう一作である。


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 「痴漢電車 とろける夢タッチ」(2010/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・山口大輔/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:山口大輔/監督助手:小山悟/撮影助手:丸山秀人・酒村多緒/音楽:與語一平/協力:加藤映像工房・有限会社TOHOO・エキストラのみなさん/出演:和葉みれい・かすみ果穂・山口真里・倖田李梨・毘舎利敬・石川ゆうや・岩谷健司・岡田智宏・サーモン鮭山・津田篤・久保田秦也・井尻鯛・葵うさぎ)。出演者中、津田篤がポスターには津田敦、この期に及んであんまりだろ。井尻鯛は、本篇クレジットのみ。
 混み合ふ、ほどでもない電車の車中。画面手前から並んで立つ「島野探偵事務所」所長代理のハニー倖田(倖田)、一応人妻の白井あゆみ(山口)、そして痴漢要員の葵うさぎ―抜かれる順は葵うさぎから―に、奥のドア付近に立つタキシード姿の見るからに怪しげな男・西村修、に少し色をつけた西村修身(石川)が鋭い視線を注ぐ。いきなり形式的な特徴としては、カメラ位置のフットワークを狙つたものであるのやも知れぬが、通して電車シーンは―と、後の和葉みれいとかすみ果穂のファースト・コンタクトの直前に於いても―キネコを使用。この点に関しては、判り辛ければピントが合はせられてゐない箇所の、“荒れ”を注視して頂きたい。話を戻して、歩道橋の上で、白衣姿の男が通過する電車を見下ろす。歩道橋の男がストップ・ウォッチで計測を始め、三人の女と正対する座席に座る、矢張り白衣を着た藤波辰爾もとい藤並竜也(岩谷)が電車の中なのに傘を拡げるや、西村起動。葵うさぎから順々に痴漢、次々と防御する藤並の傘に潮を―ハニー倖田は失禁―噴かせる。女達を昏倒させた西村の決め台詞が「南無阿弥陀仏」、安い外連が堪らない。電車組の二人はストップ・ウォッチの男・吉江、ならぬ吉川豊(毘舎利)と合流、三人で合はせた人差し指と中指を卑猥にヒクつかせ、「ビバ、痴漢!」と素頓狂な気勢を上げたところでタイトル・イン。振り切れた底の抜け具合が、逆に強靭な娯楽映画を予感させる。
 タイトル明けると主演女優の後背位、如何にもピンク映画的な繋ぎの大胆さが麗しい。西村知美もといもとい西村知世(和葉)と、恋人の畠田理恵もといもといもとい畑田理雄(津田)の情事。ところが一旦一段落ついたところで、女探偵である知世に呼び出しがかかる、知世の在籍事務所は終に不明。再び大胆なカット明け、今度は“元”人妻探偵の志村香(かすみ)登場。島野探偵事務所の表で、今作が不発気味のスタイリッシュ探偵物語「人妻探偵 尻軽セックス事件簿」(2009)の続篇であることを華麗に宣言した香は、ちやうどその時依頼に訪れて来た、しがなくないサラリーマンの白井丈二(サーモン)と出くはす。所長の島野奈美と沼倉英二(AYAと松浦祐也/共に壁に掲げられた写真のみ)は出張中につき、ハニー倖田と香が白井を応対。白井は、電車の中で痴漢されたことによる快楽が忘れられなくなり、失踪した妻・あゆみを探してゐた。羽振りの良さげな白井の風情に香が俄然ヤル気を出すことは兎も角、ハニー倖田には職業柄、その当のあゆみと今しがた同じ車輌に乗り合はせてゐたことを覚えておいて欲しかつた。一見探偵といふよりは概ね漫才師に近い、香とハニー倖田に不安を隠せない白井が、別の探偵事務所を併用することを思ひたつ一方、香は目下抱へる浮気調査をチャッチャと片付けるべく浮き足立つて飛び出す。
 岡田智宏は、奈美が自分の留守中何かあればと事務所に残して来た、普段は寝るか本を読んでばかりの、カーキの繋ぎに首から上はほぼ金田一耕介、首からはシド・ビシャスのやうに、では別になく大きな南京錠をぶら提げた、鍵師と呼ばれる矢張り探偵。その他特徴としては、古畑任三郎のやうな口跡も使ふ。登場順に井尻鯛(=江尻大)と久保田秦也は、前作を踏襲するマッチポンプ式ハニートラップの、香と知世それぞれの標的。ラブホテルに強制的に連れ込まれるに際し、かすみ果穂に殴り飛ばされる井尻鯛のしばかれ芝居は、短いカットながら地味に完璧。それと、もしかすると江尻大は、35mm商業映画で世界一女優と絡んだ助監督、でギネス申請すれば通るのではなからうか。エキストラのみなさんは、当然乗客のみなさん、他に小松公典も勿論見切れる。互ひに井尻鯛と久保田秦也を文字通り篭絡し、改めてあゆみ捜索に奔走する香と知世は、高校以来、久方振りに今度は商売敵といふ形で再会する。二人は当時、城定秀夫の「デコトラ☆ギャル奈美」第二作の吉沢明歩と亜紗美夜露死苦よろしく、界隈最強の座を賭け、香に知世が挑んだ因縁にあつた。
 遠く大蔵時代から連なる、オーピー例年通り正月番線痴漢電車は新年を賑々しく飾るに相応しい、奇想天外にして呵々大笑かつ一気呵成、滅法面白い娯楽活劇の大快作。謎の痴漢氏を誘き寄せんと、電車内で明後日な露出合戦を繰り広げる知世と香を霞ませるほどの、吉川・藤並と西村の正体は。吉川が、痴漢時の背徳感と高揚感のエネルギー転用を目指すだなどといふ、頓珍漢な研究テーマを掲げた末に案の定学会を追はれ、失意の裡に自死を図つたマッド・サイエンティストで、藤並はその時蘇生もした助手。ひとつ通り過ぎることの許されない細部が、吉川の回想中に再登板する葵うさぎの黒縁メガネは実にエクセレント。西村は有数の拳法家であつたものが、痴漢の冤罪をかけられ同じく失墜、吉川らから指と男根に改造手術を施された、痴漢とカンフーのハイブリッド・メソッド“チカンフー”の使ひ手!チカンフーて、偉大な発明だ。丘尚輝(=岡輝男)がユン・ピョウ改めウンピョウに扮する、助監督を竹洞哲也が務めた「痴漢電車 快感!桃尻タッチ」(2003/監督:加藤義一/主演:佐倉麻美)でもその発想は出て来なかつた。西村のチカンフーで日本中の女をイカせ、痴漢に関する認識を覆す。僅か三人ばかりのプチ秘密結社が巻き起こし、破廉恥な桃色女探偵が掻き回す大騒動の、正しく鍵を握る鍵師は挙句に、胸元の錠前は実は自身の能力を抑へるリミッターである、人外なテレパス能力を誇る超能力探偵Z、Zは余計だ。「尻軽セックス事件簿」では鼻についた、瑣末で半端なエモーション志向は潔く一切排し、余らせた細かな且つ膨大な手数は驚異的な打率を発揮する丁々発止の遣り取りに傾注。途切れを知らぬ弾幕がバラ撒かれ続ける中を、何れも主砲級の飛び道具が苛烈に交錯する展開は、松岡邦彦が湿り気味の近年にあつては稀に見る完成度。全篇に間断なく敷き詰められた馬鹿馬鹿しさの、結果最終的な情報量の甚大さと、抜群のテンポは絶品である。鍵師と西村の最終決戦を頂点に、シリーズではなく竹洞哲也自身の前作ではまるで形にならなかつたアクション描写が、今回は何れも有効。第一作をスマートに引き継いだ上で、吉川一派は倒したものの、あゆみといふ新たなモンスターの誕生―結局、知世も香も実は白井の依頼自体は果たせてゐない―に事件の継続も爽やかに予感させるオーラスに際しては、どさくさ紛れに第三作の可能性も匂はす、シリーズ作ならではの小技も生命力豊かに光る。フと気付くと愚息を勃てた覚えの殆どないやうな気もするが、この際瑣末とさて措け。カテゴリー自体の命脈が絶たれてしまふ前に、是が非とも更なる強力な進化を遂げた次作を観たい一作。卒業生を復学させるが如き無理を承知でいふが、その暁には、どうにか松浦祐也も引張つて来ては貰へまいか。


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 「女開業医 世間知らずな性癖」(1999『三十路女医 白衣欲情』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:五代暁子/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:村石雅也/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/録音:シネキャビン/効果:中村半次郎/現像:東映化学/出演:新田利恵・林由美香・中村杏里・岡田謙一郎・山内健嗣・村石雅也・杉本まこと)。出演者中、村石雅也は本篇クレジットのみ。
 亡父を継いだ「中原外科医院」、院長の中原圭子(新田利恵)と看護婦の松崎さおり(林)、それに患者役の村石雅也を加へた診察風景にて開巻。その日の診療は終了後、後始末もさおりに任せ、圭子はそそくさとナイトライフの出撃体勢。生真面目な女医としての仕事ぶりにこれまで敬意を払つて来たものなのに、最近俄に男遊びが盛んさうな圭子に、さおりは不満を覚える。さおりの不審も余所に、圭子と、城西もとい南西大学病院時代の恩師・瀬川(杉本)との逢瀬。ここで主演女優の新田利恵、ルックスには全く華を欠きつつ、均整の取れた首から下、殊に形・大きさ共申し分なく、加へて震へるほどに柔らかさうなオッパイの戦闘力はヤバい。俺は一体、何を直截極まりなく筆を滑らせてのけるのか。裸映画的に磐石の第一撃を経て、消灯時間が目前にも関らず、臆面もなく拡げたエロ本に鼻の下を伸ばしてゐるところを如何にも潔癖さうなさおりに咎められる、足を骨折した入院患者・斎藤(山内)登場。まるでなびく気配もないさおりを、斎藤が懲りずに口説く遣り取りは、安定感に富み軽快に観させる。後日、その日はさおりを先に帰した圭子は、ギャンブル狂の元夫・辰波(岡田)を破廉恥にも診察室に連れ込んでの一戦。ここで明後日に特筆すべきは、その様子をさおりに目撃される段取り。医院の前を通りかゝり人の居る様子に気付いた私服のさおりが、小脇に抱へるのは洗面器。1999年に、さおりは銭湯通ひかよ!圭子も、風呂つきの部屋に暮らせるやうもう少し給料呉れてやれよ、といふか、このディテールの清々しいアナクロニズムは、素直に五代暁子の責に帰すべきものなのか、あるいは現場に於いての兎も角臨機応変な新田栄のアイデアなのか。もうひとつ瑣末、中原外科医院の待合室に平然と置かれてある灰皿は、そこはかとない時代の隔絶を感じさせる。
 中村杏里は、辰波に三百万の貸し金も持つ情婦・レナ、夜の女。出勤前の情事は純然たる三番手仕事ながら、再び地味に重要なのがレナ登場の前段。何処やらの場外馬券場で相変らず辰波が負ける繋ぎの一幕に際して、画面向かつて左隣に新田栄が、完全にその場の風景に溶け込んだ超絶のナチュラルさで見切れてゐる。ウォーリーならぬ、新田栄をさがせ!といつた感すら漂ふ、クイズのやうな名ショットといへよう。
 首から上は思ひきり普通の新田利恵と、明確に曲がつた中村杏里。とはいへ抜群のプロポーションを誇る二人の間で扇の要をスマートに務めるのは、ピンク映画最強の五番打者・林由美香。岡田謙一郎×山内健嗣×杉本まことと男優部にも全く穴はなく、この頃の新田栄作にしては奇跡的とすら思へるほぼ万全な布陣に支へられ、右から左にサクッと流れる良くも悪くも水のやうな物語を、元々束の間の上映時間ともいへ間をモタつかせることもなく、一息に観させる仕上がりはひとまづ素晴らしい。唯一勿体ないと感じられなくもなかつたのは、意外な世間の狭さで瀬川を元凶とする、男性恐怖症をさおりが最後まで克服出来ずに引き摺るゆゑ、サブ・プロットとはいへ魅力的に見えた斎藤発の恋愛物語が、綺麗に成就せず仕舞ひのまゝ、退院に伴なふ消滅の形で済まされてしまふ点。そのため、幾分尺も残し一体如何なる組み合はせで繰り広げられるものかと、一旦首を傾げさせられた締めの濡れ場は、藪から棒に咲き誇る百合の花が飾る。実は形式的な構成上のみでは完璧な起承転結の果てに、畳み処ではキッチリ底を抜き後にはケロッと何も残さない辺りは、娯楽映画のある意味完成形と称へ得るのではなからうか。

 当時JUNKから「三十路女医」なる、ザックリしたタイトルでビデオ・リリースされた際に抱き合はされたもう一本、勝利一の「濡れ上手 白衣の未亡人」(同/主演:永森シーナ=中村杏里)も、矢張り2007年に「未亡人女医 プライベート《秘》看護」との新題で新版公開されてゐる。ここは俄然、どうにか拾ひたいところではある。


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 「ハイミスOL 艶やかな媚態」(1991『ハイミス本番 艶やかな媚態』の2011年旧作改題版/製作:伊能竜/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/撮影:稲吉雅志/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:山崎光典/監督助手:渋谷一平/撮影助手:村川聡/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・石川恵美・早瀬瞳・芳田正浩・南城千秋・池島ゆたか)。製作の伊能竜は向井寛の、脚本の周知安は片岡修二の変名。照明の田端一が、ポスターでは何故か伊和手健に。
 窓の外からロングで抜かれる喫茶店、入社八年ハイミスOLの江藤倫子(橋本)と、上司兼二年来の不倫関係にある野沢俊介(池島)が逢瀬の日程を調整する。来週の日曜日に迫る倫子二十九回目の誕生日といふ、展開の鍵を握るイベントに関してさりげなく投げられる。何の変哲もない津田スタの日本間を、障子越しの劣情を煽るドギツイ照明で無理から連れ込み風に見せる一室にて、倫子と野沢の一戦。事後、倫子は部下兼従順ないはゆるアッシー君の、轟渉(芳田)を呼びつける。後腐れない相手を次々に変へ奔放なセックス・ライフを楽しみながら、自身に明確な好意も寄せよう轟を便利な存在としていひやうに扱ふ倫子の姿が、モノローグを通して描かれる。役者がひとまづ揃つたところで、完璧なタイミングで飛び込んで来る早瀬瞳は、橋本杏子より年上に見えないか、とまでいふのは流石にいひ過ぎかも知れない、倫子の妹で女子大生の由美。由美が姉に遊ぶ金を無心する、冒頭とは別の喫茶店に遅れて現れた大学の先輩で彼氏の岩淵竜也(南城)に、倫子は何気に目を留める。
 登場順はビリングと前後して石川恵美は、倫子の元同期で現在は野沢の妻・明子。明子との兼ね合ひでどうやら日曜日に野沢は捕まへられさうにもない中、倫子は一人のところを出くはした岩淵を、妹のボーイフレンドにも関らず戯れに喰ふ。例によつて事後は轟を招聘しつつも、倫子は徐々に空しさを覚えて来るのも禁じ得ない。
 詰まるところは、初めからそのつもりでもあつたらうに、自由気儘な放埓の果て、当然の如くやがて訪れる偶さかな寂寥に俄に駆られた三十路も目前の女が、変らず周囲に留まつてゐた真心とやらと結ばれる、端的には都合のいいことこの上ない一作。とはいへ、入念な脚本と意図を汲み平素とは明らかにギアを前に入れた叙情的な演出に、最初に“最後のピンク女優”と呼ばれた、当時天下御免の看板女優・橋本杏子の静かな名演とが合はさる、主として独白を通した倫子の心境の変化が丹念に描かれた上で、倫子基点では兎も角、逆に轟目線からはストレートな純愛物語は、意外と素直にエモーショナルに観させる。考へてみれば、それはそれでこの世界には絶対に必要なものであるとも出鱈目な確信で断じ得るが、冴えないダメ男にセクシーなカワイコちやんが挨拶代りにヤラして呉れる底抜けが存在する他方で、かういふ女の側からの、悪し様にいふならば自堕落な物語といふのも、時にあつていいのではなからうか。絡み合ふ倫子と轟を画面奥に置いたラスト・ショット、カメラのピントが合はせられると同時に下にパンした先のバースデー・ケーキに、無造作に立てられる火の点つたローソクの、十三本―直前のカットから、一本減つてゐる―といふ適当な本数が量産型娯楽映画をらしく締め括る辺りは、深町章の膨大な戦歴を何となく物語る。

 轟を呼び出す倫子が手鞄から取り出す、絶対に懐の中には携帯出来まい携帯電話の尋常ではない巨大さに、時代がいはずもがなに感じられる。


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 「悦楽の性界 淫らしましよ!」(2011/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:中山敦介/撮影助手:末吉真/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:西野翔・藍山みなみ・津田篤・西岡秀記・山口真里《愛情出演》・亜紗美)。
 店名不肖の飲み屋、細木数子の携帯占ひサイトを見るOLの三沢百々(西野)は、その日が天中殺から始まり、しかも十三日の金曜日で仏滅の三隣亡、おまけに大殺界などといふ、複雑で厄介なコンボを決めてゐるのにポップな悲鳴を上げる。遅れて、百々の同僚、兼婚約者の圭介(津田)が来店。キャバクラばりに胸の谷間も豪快に、天使の扮装で店の名物カクテル「天使のKiss」を注文する前から圭介に持つて来る、友情ではなく愛情出演の山口真里は、店のママ・マリちやん。圭介は百々のそこそこ以上にあるらしき預貯金を無心し、会社を立ち上げる夢を熱つぽく語る。「幸せにするからな」といふ頼もしいのだか薄つぺらいのかよく判らない圭介の言葉に、百々が浮かべた複雑な表情を押さへてタイトル・イン。
 ひとまづ入念に婚前交渉をこなした後、百々は衝撃的な告白を何気なく切り出す。病院の検査の結果、何やら難しい病気で半年の余命だといふのだ。かといつて、特段嘆き悲しむでなく、相変らず臆面もなく自身の貯へに汲々とする圭介の姿に、地金を見た百々は見切りをつける。男運のなさを嘆き、児童公園で黄昏る百々の前に、ゴス系のメイクにアグレッシブな黒尽くめの服装に身を包んだ、その割には案外愛想は悪くない兎も角奇怪な女・悪魔子(亜紗美)が現れる。観音折の無闇な名刺には“地獄推進委員会セールス担当”とある悪魔子は、自分は文字通り悪魔で、百々の魂と引き換へに、何でも悩み事を叶へてやらうといふ。尤も、常識的にはおいそれと呑み込める話ではなく、まるで噛み合はずに一旦悪魔子は姿を消す。再びマリちやんの店、取らぬ、どころではなく取れぬにも関らず、百々遺産の皮算用に相変らず余念のない人でなしの圭介に、悪魔子が接触する。百々とは異なり、圭介と悪魔―子―との契約は脊髄で折り返して成立。赤い照明が色んな意味で判り易く扇情的な一戦を繋いで、『AERA』ならぬ『AHERA』もとい『AEGI』誌を手に取つた百々は仰天する。表紙をマイクロハード社の社長に就任した圭介が飾り、加へて秘書が悪魔子であつた。頃合をジャストに見計らひ、悪魔子再登場。とはいへ、家族関係に恵まれず幼少期より不幸続きの百々の願ひといへばさゝやかな幸せで、一方悪魔子は、悪魔なので幸せだとかポジティブな言葉を聞くとそれだけで蕁麻疹が出てしまひ、矢張り折り合はない。死後の不名誉を鑑み、百々は間もなく遺品となるであらう身の回りの品々を整理する。慌ててゴミ袋に放り込んだバイブに続けて手に取つた、ボール紙製の金メダルに百々は目を細める。それは高校時代、最後の大会でも最下位になつたダメ陸上部員の百々に、絵に描いたやうな情熱家の顧問・有田(西岡)が贈つて呉れた物だつた。かういふ、一山幾らの他愛ないシークエンスに際しても、キチンと観る者の心に強い情動を叩き込めるのは、映画監督渡邊元嗣の決して馬鹿には出来ぬ、確信を伴なつた強さに違ひない。定番が定番たり得る所以は、ひとへにそのエモーション喚起の確実性の高さによるものにほかなるまい。娯楽映画にとつて最も肝要な論理と技術の神髄は、そこにこそあるとするならば、徒にツボを外すことに腐心し、新奇といふ名の珍奇を求める作家性と称した心性は、単なる器量の矮小さに過ぎないのではなからうか。話を戻して、これは正直一度観ただけでは清々しく判り辛いが、愛人の美里(藍山)から、別居中の妻・美穂(全く登場せず)との離婚届を冷たい顔で突きつけられもした有田に、百々は意を決して今生の別れに会ふだけ会ひに行く。少なくとも百々の前では、有田は感動的にまるで当時のまゝだつた。
 正月第二弾、の中でも更に第二弾の渡邊元嗣2011年第一作は、中盤までは全く完璧であつた。徹底して幸薄く、しかも僅か半年後には終る儚い生涯にも関らず、健気さと可愛らしさを失はぬ百々と、悪魔にしては随分と人の好い悪魔子が繰り広げる軽妙な遣り取りは、正統派アイドルとして十二分に通用しよう魅力を湛へる西野翔を、コメディエンヌとしての地力も誇る亜紗美が頑丈に牽引し、抜群に見応へがある。有田絡みのエピソードも、陳腐極まりないものながら、それでも思はずグッと来させられる。有田が悪魔子のナビゲートで百々の現住所に辿り着き、主演女優の濡れ場を二度目に見せるところまではひとまづ磐石。ところが、百々の文字通りの徹頭徹尾の悲運を表現するために、戯画的な熱血漢といふ相の影で、実は有田が―百々が元々入つてゐるといふ描写は一欠片たりとて見当たらない上で―死亡保険金の入手を目論む卑劣な好色漢であるだなどといふ、恩師の薮蛇な素顔を悪魔子が百々に晒してから以降が、俄に雲行きと、軸の所在が怪しくなつて来る。ここで大絶賛三番手の藍山みなみの絡みは、そんな有田に、美里が如何にも毒婦然と寄り添ふ形で仕出かされる。ここはいつそのこと清々しく木に竹でも接いでみせた方がまだマシで、下手に三人目の女優の裸をドラマの進行に取り込まうとして失敗した分、いふならばピンク映画固有の論理に負けてしまつたといへよう。なほも変化の窺へぬ、何処までも純粋な百々をそれでは最後の手段だと、悪魔子が黒百合の花咲かせ篭絡する展開は転じて正方向にジャンル的で麗しいものの、その後の着地点が逆の意味で見事にちぐはぐ。百々はAKB改めOPB48のメンバーにスカウトされ栄華を極めつつ、予定通りの一生を終へる。そこから、渡邊元嗣の抑へ切れなかつた趣味性の発露と捉へれば微笑ましくあるのかも知れないが、直截には蛇足感を爆裂させるエピローグとの間に挿まれた、そこだけ切り取れば超絶の一幕。雑踏の中、物憂げな悪魔子が空に消え行く赤い風船を捕まへ、煩型らしいゴッド担当の寿命を曲げる真のラスト・シーンは劇的に美しいのだが、ただこれでは前後を、OPB48の人気投票で一位を獲得し冗長にはしやいでゐるだけの百々は綺麗に何処吹く風。ヒロインの座が何時の間にか、藪から棒に改悛した悪魔子に横滑りしてゐる。幾ら要所要所は決まつてゐるとはいへ、如何せんこれでは流石に物語が形にならぬ。傑作の前髪を何度か掴みかけたとは思しき、何度も掴みかけたのに画期的に惜しい一作。牽強付会気味に繰り返すが、勝敗の分かれ目は、有田の変心まで含め無理して西岡秀記と絡ませた藍山みなみの起用法に求められるのではないか。さう考へた時、それはそれで潔いが、女の裸を銀幕に載せることにのみ全力を注ぐ裸映画、ではなく。女の裸ばかりに囚はれるでなく、裸込みの裸の劇映画といふ志向、より理想的には女の裸によりより加速される劇映画、でもなく。端的には女の裸に足を引かれた劇映画、といふ評価が相当するやうに思へる。


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 「阿部定 ~最後の七日間~」(2011/製作:株式会社GPミュージアムソフト・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督:愛染恭子/脚本:福原彰/製作:山田浩貴・後藤功一/企画:西健二郎・衣川仲人/プロデューサー:森角威之/ラインプロデューサー:泉知良/撮影:田宮健彦/録音:高島良太/ヘアメイク:唐澤知子/スタイリスト:野村明子/編集:石倉慎吾/助監督:浅木大/スチール:中居挙子/メイキング:高橋悠/撮影助手:坂元啓二・原伸也/制作応援:内田直之・安達守/現像:東映ラボ・テック/ロケーション協力:パートナーシップきさらづ/制作:Sunset Village/出演:麻美ゆま・松田信行・佐々木麻由子・中谷千絵・佐藤良洋・元田牧子・鶴西大空・浅木勝《声の出演》・飯島大介・菅田俊《友情出演》)。改めて後述するが、実際の登場人物からすると、出演者のクレジットが一人分足らない。
 昭和十一年五月某日、東京警視庁尾久署の取調室。中野の料理屋「石田屋」の住み込み女中・阿部定(麻美)が、情夫で石田屋主人の石田吉蔵(松田)を殺害後、局部を切断したとされる殺人及び死体損壊事件を捜査する浦川刑事(菅田)は、供述の安定しない定が吉蔵殺しをのらりくらりと認めるでも認めぬでもないことに、手加減抜きの重厚感をバクチクさせつつ業を煮やす。一応映画史的には、菅田俊が阿部定を取り調べる刑事を演ずるのは、武知印の禅問答映画「JOHNEN 定の愛」(2008/監督:望月六郎/主演:杉本彩)から二作連続となる。それはそれとして、凄いポジショニングだ。話を戻すと、定と浦川が正対する傍らでは、端正な顔立ちの宮田刑事が終始黙々と調書を取る。定が名古屋のパトロン・大宮五郎(飯島)と出会つた件から、再度供述が聴取される。商家に生まれた後十五で大学生に騙され非行に走り、十八の時に勘当された定は芸妓の道からやがて娼妓に身を落とし、転々とする内に教育者で市議会議員の大宮と出会ふ。定が足を洗ふのを願ふ大宮は小料理屋を持たせることを思ひたち、大宮の紹介で、定は石田屋に入る。ここで佐々木麻由子は、亭主の女癖の悪さに呆れ果て一度は家を出たものの、子供(子役一切見切れず)のことを考へ戻つて来た吉蔵の妻・トク。ところが―少なくとも劇中は―忽ち定は吉蔵と男女の仲に陥り、石田屋を離れ待合を漂白する日々を送る。佐藤良洋が番頭で元田牧子が女中の「みつわ」を経て、二人は荒川区尾久の待合「満左喜」に転がり込む。再びここで、松田信行・元田牧子・森角威之と同様に劇団「天然工房」所属で看板女優の中谷千絵は、満左喜の女中。定の留守中、戯れに体に手を伸ばす吉蔵を跳ね除ける際の膨れ面は、束の間のカットながらとても魅力的。元ラジオ日本アナウンサーの浅木勝は、中盤とオーラスに二度朗々とした名調子をラジオ越しに披露するアナウンサー。と、なると、ワン・シーン出番のある、満左喜の主人役に相当する人物がクレジットの中に―ポスターにも―見当たらない。因みに、佐々木麻由子の濡れ場は、満左喜から石田屋に金策に戻つた吉蔵の帰りが遅いことに膨らませる定の猜疑の中に、勿体ないくらゐの束の間放り込まれる。そしてこの時、定は牛刀を買ふ。
 四畳半襖の下張りと羊の頭を偽り夫婦善哉といふ狗の肉を売つた、「新釈 四畳半襖の下張り」(2010/脚本:福原彰)に続き愛染恭子が主演に据ゑた麻美ゆまとタッグを組む、一応ピンクの番線に含まれてゐるともいへ、一目瞭然、従来型狭義のピンク映画とは非なる以前に似てすらゐないキネコ連作の2011年第一弾。形式的な差異に、新東宝の提携先が従来の竹書房からGPミュージアムソフトに変更された点が挙げられようが、恐らくはそれは今のところ今回限りで、実質的な映画の出来上がりにも、さしたる影響が及んでゐるやうには特にも何も全く見受けられない。場面が取調室と定の供述内容、あるいは娑婆での回想パートを頻繁に行き来する中盤までは、テンポ自体悪くなくなほかつ菅田俊の重量級のしかめ面が適宜展開を引き締め、ある程度以上に充実させて観させる。ものの、舞台が満左喜の一室にほぼ固定された終盤は、定と吉蔵の“最後の七日間”を描き切らうとしたテーマには反し、引くでもなければ寄るでもない、甚だ中途半端な位置からカメラが基本動かない画的な単調と、愛染演出の矢張り一本調子とから、映画が激しく失速してしまふ感は禁じ得ない。定が口ではいふ運命的な連鎖とやらが、傍目には淫蕩女が懲りずに入れ揚げた男と偶さか迎へた、悲劇も通り越した惨劇的な結末とはいへど、最終的には物の弾みにしか別段見えない辺りは如何せん弱い。これまでの阿部定映画と、今作との彼我を分ける決定的な特色としては、ひとまづ十全な伏線も噛ませた上での、荒淫と痛飲の果ての吉蔵死因がいふまでもなく際立つ、ところではあつた筈なのだが。ところがその点に関しても、塾長は如何に弁へたものかもしくはまるで頓着無かつたのか、勘所中の勘所にも関らず、どうにも奥歯に物の挟まつたかのやうな踏み込み具合ないしは温度に止まる。俳優部は総じて健闘してゐるやうにも見える一方で、共にメリハリを欠いた撮影部と演出部とに足を引かれた印象の強い一作。最終的に、心に残るは菅田俊の一人ドス黒く気を吐きぶりばかり。


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 「隣の不倫主婦 午後三時の淫汁」(2003『破廉恥町内会 ‐主婦悶絶‐』の2011年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《Xces Film》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:加藤義一/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/ヘアーメイク:ASAMI/効果:中村半次郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:山口玲子・林由美香・酒井あずさ・竹本泰志・岡田智宏・兵頭未来洋・丘尚輝)。
 高橋のぞみ(山口)は御近所の仲根美佐代(林)と、山梨県は甲州市の塩山温泉を訪れる。酒屋の息子・水原瞬(岡田)が仕切る近所の商店街の福引で、一等の温泉旅行を美佐代が見事引き当て、仲良し主婦二人での温泉旅行と洒落込んだ寸法。番頭の田口淳一(丘)が回すライトバンで、のぞみと美佐代は旅館「宏池荘」に。早速二人して湯に浸かり、のぞみは疎い町内の噂話に美佐代が花を咲かせがてら、林由美香がピンク映画初陣の山口玲子を巧みにリードし百合の花も軽く咲かせる。新田栄実は一流の流麗な開巻は、進行自体は全くつゝがなくもあれ、問題なのは、女の裸が銀幕に載るまでのイントロダクションがそこそこ長い間、かなり壮絶な画質のキネコである点。ハード・キネコは以降も繋ぎの場面に際して、そこかしこで散見される。今にして思へば、それでも撮るだけマシとさへいへるのかも知れないけれど、何れにせよ、あまりも何も褒められた筋合にはないのは、改めていふまでもなからう。各部屋の客が宴会場に集合しての夕食、のぞみは驚く。何と瞬が、といふか瞬も、一人で宏池荘に宿泊してゐたのだ。瞬の右隣に見切れ、一頻り普通に飲み食ひしてゐるのは新田栄。ある意味、今作の本質を何気に表したカットであるともいえようか。要は、福引からインチキで、美佐代と瞬の湯煙不倫のダシに、のぞみは塩山温泉まで連れて来られたものだつた。のぞみを瞬が取つた清々しく狭い一人部屋に押し込むや、美佐代と瞬は主目的を華麗に開戦。不貞腐れたのぞみが、それならば私も火遊びをと自暴自棄気味に混浴風呂に突入するものの、折悪しくそこには新田栄しかゐなかつた。よくいへば、ストイックなギャグではある。なほも一人きりの湯船で粘り、漸くお目当てのイケメンが現れたと喜んだのも束の間、すつかりのぼせたのぞみは昏倒してしまふ。裸を他の人間の目に晒したくはなかつた、とかいふ底の抜けた方便で担ぎ込まれた、先刻の若い男・松田文哉(兵頭)の部屋でのぞみは意識を取り戻す。のぞみの裸身を称へて松田いはく、「大理石のやうにスベスベで、水晶のやうに透明で」。これ見よがしに石ころや―図書館から借りて来た―専門書の転がる部屋に泊まる松田は、鉱石の研究で山にやつて来た大学院生であつた。まあ超絶に、どうでもいゝ枝葉でしかない。最終的には、幹が途中でヘシ折られるのだが。当然その場の勢ひで松田と一戦交へつつ、翌日のぞみは流石に改悛し、亭主への土産物でも買ふかと町に繰り出す。ところが再び、更に一層のぞみは仰天する。北海道に出張中の筈の夫・和馬(竹本)が、美佐代と同様に―但しこちらは恐らく純然たるラックで―福引一等の温泉旅行をゲットした、山川怜子(酒井)と如何にも男女の風情で連れ立つて歩いてゐたのだ。
 小川欽也の伊豆映画と並ぶ、ピンク映画に於ける特殊ジャンル、新田栄の温泉映画。一切の誇張もなく本当に全ての役者が宏池荘に揃つてからの、以降が別の意味でといふか逆の意味でといふべきか、兎にも角にも凄まじい。美佐代×瞬、和馬×玲子、そしてのぞみは松田との再戦ではなく、新たに再度風呂場で強制調達した田口と。三つの濡れ場が特に交錯するでもなく、ただ単に連ねられるのみでエンド・マークまで一直線。相変らずろくでもないキネコの宏池荘外景に、同じ町内三人の主婦の、破廉恥な嬌声がアンアン被せられるラスト・ショットは、底の抜け具合がグルッと一周して寧ろ感動的。簡潔にいふならば、劇映画としての体裁がひとまづ整つてゐたのは起承転結の転部までで、残りの物語はほぼ放棄。皆で温泉に繰り出して、ついでに一本拵(こさ)へて来るか、そのくらゐの大らかな心構へでなければ、凡そ撮り得まいと思はせるに足るルーズな問題作。ところがこれで不思議なのが、山口玲子×林由美香×酒井あずさ、三本柱は奇跡的に超強力であるだけに、これで裸映画としては妙な充実度を誇りもするのはピンク映画の醍醐味の一つに、正方向に数へ得るのではなからうか。

 冒頭、公衆浴場入口の札と建物外景まで持ち出しておきながら、どうも宏池荘の風呂場が水上荘のものに見えたのは、流石に考へ過ぎか。因みに、二つの宿の位置関係としては、宏池荘の3㎞強北東に、水上荘が存する。


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 「若妻と熟女妻 絶頂のあへぎ声」(2011/製作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影:吉田剛毅/照明:大川涼風/音楽:OK企画/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/撮影助手:古橋長良/照明助手:竹洞哲也/監督助手:江尻大/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック/出演:夏川亜咲・倖田李梨・佐倉萌・竹本泰志・津田篤・姿良三・井尻鯉)。黄門様と助さん角さんよろしく、加藤義一と竹洞哲也を左右に従へたかのやうな小川欽也、凄い布陣だ。
 サラリーマンのアフター5、先輩後輩の志田敦夫(竹本)と戸森慎二(津田)が、連れ立つて帰途に着く。志田の妻は十一歳年下で、対する戸森は姉さん女房を貰つてゐた。銘々帰宅、戸森の妻・なつみ(倖田)はその日が排卵日だとかで、早くも子作り機運全開で夫を待ち受ける。一方、志田の妻・つかさ(夏川)は、受け取つた夫の上着から出て来た、本当に接待で使つた熟女パブの名刺に脊髄反射で完全に臍を曲げる。志田が気を取り直さうとした夜の営みの求めを、「ダメ!」とつかさが子供のやうに拒絶したタイミングでタイトル・イン。
 タイトル明け、倖田李梨と津田篤のシッポリした絡みで序盤を整へながら、つかさの機嫌は何時までも直らない。さういふ状況下、まさかの形で飛び込んで来る姿良三(=水谷一二三=小川欽也)は、共働きで看護婦といふ設定のつかさが、介護する身寄りのない老人・小林。お預けを喰らはされ続ける志田の薮蛇なイマジンの中で、挿入までには至らぬ形ではあれつかさと絡む。木に竹を接ぐ素振りさへ最早窺へぬ清々しい役得ぶりに関しては、この際天衣無縫とすら称へるべきではあるまいか。生半可な映画作家としての意識が邪魔すれば、凡そ撮り得ないシークエンスといへよう。小川欽也―や小林悟や新田栄なり関根和美・・・・以下略―の毒が、いよいよ小生の元々貧しい脳髄にまで達して来たやうであるが、この期に及んでさういふ細かいことは気にしない。
 そんな折、伊豆でペンションを営む志田の叔父から、志田の両親も交へた四人で遊びに来ないかといふ誘ひの電話が入る。電話越しの声の主は不明、とかいふ以前に、小川欽也の天真爛漫、より直截にいへば無頓着は短い電話の遣り取りにあつても妥協知らず、頼むから覚えて呉れ。叔父氏が志田の父親のことを、“親爺さん”と呼称するのはどう考へてもおかしいだらう、アンタにとつては兄貴だ。話を戻して、話は進むが土壇場で志田父が体調を崩したため、志田は伊豆に戸森夫婦を誘ふ。戸森も即答で快諾、志田にしてみればつかさとの仲直りがてら、二組の夫婦は志田の車で一泊二日の伊豆旅行へと向かふ。後述する中間は一旦端折りつつ、伊豆でペンションといへば勿論、四人が到着したのは水上荘と並ぶピンクスの聖地こと、御馴染み花宴。結果論としては終に姿を見せぬ、叔父氏に代り一行を歓迎する井尻鯛は、ペンションなのに番頭。当然、番頭と来れば法被着用。小川欽也は、ペンションを旅館の英訳か同義と認識してゐるにさうゐない、何処までフリーダムなのだ。ところで幾分肥えたのか、元来の丸顔が丸々と更に丸くなつた井尻鯛(=江尻大)には、戯れの直感でピンク映画界のマシ・オカの称号を冠したい。通された部屋で一息つき、切らしたラーク・マイルド・メンソールを買ひに出ようとした志田は、階段で擦れ違つた佐倉萌に気をとられる。
 ネタバレだ何だと心を砕く要も特にない以降は、頑なに登場せぬまゝ叔父氏が番頭経由でつかさに寄こした、支那起源を謳ふ俗流セックス指南書『女悦交悦』―しかも御丁寧にも正・続二冊―に素直に発奮した、つかさとなつみ発で各々の夫婦生活が展開される合間に、一人で一風呂浴びようかと洒落込んだ志田は浴場にて、それぞれ別の相手と結婚したのちこちらは現在バツイチで子持ち―息子か娘か知らんが、何処に置いて来たんだ?まだ小さからうに―の元カノ・生田真奈美(佐倉)と、それは驚くに決まつてゐる衝撃の再会を果たす。風呂ゆゑ互ひに既に全裸につき、論を俟たず一戦交へた上で、翌日今度は戸森の運転で四人は東京に戻る。即ち、伊豆に来て、伊豆から帰る、だけの映画。挙句に、東京を出て花宴に辿り着くまでの一頻りには、あちらこちらで望遠鏡を覗き、名物に舌鼓を打ち、足湯に浸かり、皆で記念撮影を撮る。一応撮影は十全であるものの、夏川亜咲と倖田李梨と竹本泰志と津田篤の単なる伊豆観光ショットが、妙な、といふか通常の劇映画にしては明らかに異常なボリュームで、結構な尺を費やし連ねられる。皆さんが素面で楽しげな様子を眺めてゐるのは、これが然程退屈でもないのは意外である。実は堅実な、編集の成果でもあるのか。兎も角といふか兎に角といふか、凶悪な監禁陵辱犯が、終盤の山場―なるものは要は存在しないのだが―まで溜めもせず開口一番動機を割つてしまふ、腰砕けエロティック・サスペンスの問題作「拉致ストーカー 監禁SEX漬け」(2003/主演:三上翔子)の、更に先だか後だかあるいは明後日に突き詰めた、ピンク映画・娯楽映画・商業映画・etc.etc.・・・・既存のありとあらゆる映画ジャンルを超越するかもしくはそれらから逸脱する、正にワン・アンド・オンリーの伊豆映画とでもしか評しやうのない、そして何はともあれその完成形ともいふべき一作。まんじりともせずに始終を観通せたのが、寧ろ不思議なくらゐ。良くも悪くも小川欽也にしか為し得ない仕事であらうことは、ひとまづ断言出来る。その是非なんぞ、この期に及んでは取るに足らない瑣末、とでもいふことにしてしまへ、日本も印度だ。

 尤も、花宴を発ち際の夫と真奈美との間に流れる如何にも訳アリな風情に、矢張り熟女が好きなのかとつかさが車中で暴れだし、戸森が運転するワン・ボックスがポップに蛇行する愉快なラスト・シーンは、開巻を綺麗に回収した、全く磐石の着地感を誇る。花宴に四人が足を踏み入れる件に際しても、子供のやうにチョコマカする夏川亜咲を、竹本泰志がフードを無造作に掴み回れ左で方向転換させるカットが狂ほしいまでに可愛らしい。これが演出であつたならば、小川欽也は紛ふことなき天才であるのではないか。無我の境地に到達した感のある老熟に、正方向に感服する。前代未聞の甚だしい勘違ひであつたとて、別に構ひはしない。


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 「覗き好きをばさん 牡の体臭に昇天」(2003『覗き!をばさんの性態 ‐午後の間男‐』の2011年旧作改題版/製作:キティスタジオ/提供:Xces Film/監督:野上正義/脚本:五代暁子・野上正義/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/制作:野上正義/撮影:中本憲政/照明:墓架冶郎/編集:田中修/助監督:高田宝重/監督助手:北村翼/撮影助手:海津真也・堂前徹之/照明助手:溝口伊久江/協力:有限会社ライトブレーン・カップル倶楽部 藍の森/出演:高根綾・小川真実・青島ひかり・津田好治・野島誠・野上正義)。共同脚本に関する野上正義のクレジットは、五代暁子との対比を明確にすべく号数が1/3ほどに小さい。
 深夜の谷川家、雅子(高根)は一人娘の長電話に釘を刺しつつ、亭主はまだ帰らないのか、床の中で自慰に耽る。その痴態を庭から覗く、サングラスとマスクで顔を隠したポップな不審者の姿を噛ませてタイトル・イン。翌朝、夫の夏彦(野上)は和食、娘・薫(青島)はパン食といふ面倒臭さに雅子が愚痴を零す、結果論としていへばそれどころではない在り来りなディテールと同時に、夏彦のオレンジ色の携帯に微妙に怪しげな電話が入る、ここはさりげなくも十全な伏線を落とす。夫婦の会話によると高校は卒業したらしいが、その後は明示されない薫は、外出したその足で彼氏の内村智也(野島)とホテルに入る。薫の登場シーンから歴然と少ない中で、野島誠の出番はこの先一切なし。完全無欠の濡れ場要員ぶりがある意味清々しい。年頃の娘はお盛んな一方、“親子ほど歳の離れた”といふモノローグは少々言葉が過ぎるかとも思はれるが、ともあれそこそこ年長の夏彦と今でいふデキ婚した雅子は、何と七年間セックスレスの状態にあつた。そんな次第での、オナニー狂ひといふ寸法である。ここは粗雑な飛躍も大きいが、夏彦宛に届いた張形の宅配便を雅子は勝手に開けると、挙句に訝しむこともなく自身の観音様で堪能。さうかうする内に、開巻既に顔見せ済みの出歯亀・平山直人(津田)の存在に気付いた雅子は、ショックのあまり膣痙攣を起こし、バイブが抜けなくなつてしまふ。助けを乞はれた平山が室内に飛び込み、それはさういふ対処法でいいものやら如何なものなのかはよく判らぬが、兎も角出産を模すやうな形で、雅子は窮地を脱する。その場の勢ひで平山のしかも筆を卸した雅子は、以来若いツバメとの奔放な情事に溺れる。ところで津田好治といふ人は、少し面長にした河瀬陽太に見えて仕方がない、声は全然違ふのだが。
 一見何気ないが、情交時に限らず、野上正義との絡みでは惚れ惚れさせられるほどの安定感を醸し出す小川真実は、出し抜けに寄こした電話を契機に旧交を温める、雅子の友人・榊久美。ところが久美の心積もりとしてはどういふつもりなのか、女房は放たらかしにしておいて、夏彦は久美と不倫関係にあつた、その開始時期も不明。ラブホテルでの逢瀬にも飽きた為、夏彦は久美とカップル倶楽部―要はいはゆるアベック喫茶―「藍の森」に赴く。
 仏さんの仕事に難癖をつけるのは気が引けぬでもないが、一体五代暁子のベース脚本に野上正義が如何に手を入れたのだかが猛烈に解せぬ、劇的に劇の薄い劇映画。直截に筆を滑らせると、エクセスも何を考へてわざわざ今作を新版公開したものやら端的に理解に苦しむ。この期に及んで、原初的な野暮を吹くやうだが。ひとまづ役者が揃つたところで、以降は雅子が延々と自宅に上げた平山と楽しみ倒した末に、平山に連れられた「藍の森」にて、唸りを挙げる便宜的な世間の狭さのことはこの際兎も角、隣のブースで致してゐた夏彦・久美と鉢合はせ、一応オーラスの乱交に雪崩れ込むのみ。裸を抜いた素のドラマ的な展開が、特にどころか殆ど生み出されるでもないままに、重ねて、これまでそこかしこで触れたディテールの数々に加へ、ゲームセンターに於いてアレな感じで戯れる他は語られはしない平山の素性等々、そこかしこに割く尺は幾らでも見当たる割に、省略され済まされた外堀も目立つ。青島ひかりが脱ぐのは一度きりに、残りはひたすら高根綾と小川真実の裸でエモーションを持続させるには、憚りながら小生はまだまだ修行が足らぬ。何れにせよ、少なくとも四人が「藍の森」に入つてから、衝撃の対面を果たすまでの夏彦×久美戦と雅子×平山戦が、目新しいものでもない癖にそれぞれ妙に長く、クライマックスが画期的に間延びする印象は否めない。女の裸を銀幕に載せることのみを本義と成す姿勢、あるいは至誠は確かに天晴であるものの、不躾な話がオバハンの裸ばかりでは流石に些かキツいといふことと、メリハリを欠いてしまつては元も子もない一作ではある。

 劇中、別に雅子が窃視行為を働くものでは全くないのだが、“牡の体臭に昇天”とは語呂から素晴らしい。エクセスにしては久々のヒットといへるのではなからうか。


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 「女引越し屋 汗ばむ谷間」(2007/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:社会歳三/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:宮永昭典/照明助手:小松麻美/音楽:與語一平/挿入歌『happiness』・『遠く遠くから』作詞・作曲・唄:ニナザワールド/協力:加藤映像工房・吉尾亮二・八巻祥一/出演:チカッチ!・倖田李梨・青山えりな・菅原陽子・吉岡睦雄・松浦祐也・高見和正・サーモン鮭山)。脚本の社会歳三は、例によつて小松公典の飽くことなき変名。この人の場合、所属する協同組合日本シナリオ作家協会に、金泥駒や当方ボーカルまで含め別ペンネームとして一々届け出てゐることに関しては、ある意味律儀だ。出演者中、菅原陽子は本篇クレジットのみ。
 鉄橋を左から右に電車が走る。草舟を川に浮かべた、チカッチ!の横顔を捉へてタイトル・イン。
 「Smart引越し社」の富永五月(チカッチ!)と田野倉綾(倖田)が、女二人のみのペアで汗を流す。二人は百合の花を咲かせる間柄にあり、作業中にも関らず綾が戯れに五月に後ろから抱きついた為、工夫とキレを欠いたコメディ演出で荷物を破損してしまふ。綾と五月が平謝る顧客は、暗めの画面とプロジェク太の覚束ない画質に100%の自信を持つては断言しかねるが、多分新居あゆみ。さういふ他愛ない仕事ぶりを経て、給料の出た綾は焼肉をと気炎を上げるが、堅実なのか五月は牛丼に落とし込む。そんな夜の街、交通誘導員の赤色灯の光に、五月は忌まはしい過去を喚起させられる。かつて同じ仕事をしてゐた五月は、徒名は侘助と呼ばれる仙道敦史(松浦)から勤務後レイプされる。その時以来、今も五月は言葉を失つてゐた。五月の戦慄を看て取つた綾は、即座にサポートする。ここで、協力に見られる二つの男名は、開巻の引越し現場と、回想中に登場する何れも若い男の見切れ要員か。因みに吉尾亮二はミュージシャンで、八巻祥一が、アクリル絵具で手作り靴を製作する人。らしい、何のことやらよく判らないが。後述する、菅原陽子のコネクションであるのやも知れない。重たいから抜いておいて呉れといふのに入れられたままの箪笥の中身が、らしからぬ華美な下着であることに二人が仰天する再び他愛ない仕事ぶりを挿み、同時に撮影したであらう節を隠す気配も窺へぬ、再度仕事終りの夜の街。綾が再会した元同僚の加納範子(青山)の路上ライブを、五月も見に行くことに。ニナザワールドの中の人である菅原陽子は、範子の相方、といふか範子は概ねコーラス役に、「happiness」を披露する。その後は四人で居酒屋に、五月はポップに酔ひ潰れ、綾は範子に水を向けられた、彼氏といふよりはほぼヒモの本間寿(吉岡)と、一向に已まぬ浮気癖に業を煮やし派手に別れた苦い思ひ出を想起する。即座に畳みかけるかのやうに、カット変るとカップルでラブホテル清掃係の、範子と彼氏・南淵和男(高見)との仕事中の一戦。悪くいへばノルマごなしが自堕落な、如何にもピンク映画的進行ではあるが、さうなると場数の足らぬ、高見和正にはチと荷も重い。底の抜けかけたシークエンスを、縦横無尽の一人芝居で強靭に補佐するサーモン鮭山は、出くはした二人の情事にマスをかく、支配人までには至らぬと思しき、範子らからは上司格。何時かは二人だけの夢の島に移り住むことを目標とする五月と綾が、いい雰囲気で見守る五月が浮かべた草舟を、石で爆撃する不埒者が。それは、自棄を起こした本間であつた。綾が蹴撃した小石が額を直撃し卒倒してしまつたことを方便に、例によつて金も行く当てもない本間は、二人が暮らす部屋に転がり込んで来る。
 謎の主演女優・チカッチ!をざつくばらんに譬へてみると、華沢レモンと望月梨央を足して二で割つた感じ。あと一人で居るショットを見る限りにはさうにも見えないが、倖田李梨と並べてみると、男と変らぬくらゐ結構デカい。あへて自重するが、最終盤ワン・カット起爆装置が地表に露出せぬでもない要因からか、劇中現在時制のヒロインに、終に一言も発せさせないアクロバットを仕掛けた気概は酌めぬでもないが、作劇としての成就は決して果たせずじまひに止まつた印象は強い。五月の、綾とのラスト・シーンに際しては、俄な健闘を見せ黙したままながら五月のエモーションをそこそこの強度にまで持ち上げることに成功するものの、一本の劇映画を決するにはなほ遠い。といふのも兎にも角にも、本間再登場以降を簡潔に掻い摘まんでみると、何時の間にやら綾がダメンズの元カレとヨリを戻し、五月はトコロテン式に身を引く。即ち、五月主体の能動的なドラマといふものが存在しない。始終の数日間を通過した上で、五月は綾から離れた以外には一欠片も進歩もしなければ変化すらしてゐない。これでは物語が形になるまい。かといつて、脇から映画の主軸を掻つ攫ふほどの逞しさは、最終的には質感に乏しい倖田李梨にも望み辛い。本間と別れた後は自分が強くなることばかり考へて、五月を守るつもりが、自分を守つてた。とかいふ綾の告白は、如何にも竹洞組らしく、臭く、かつ軽い。大体が、わざわざピンク映画的には目新しい業種を持ち出しておきながら、引越し屋属性が綾は兎も角五月には殆ど全く機能しない。ガッチガチのリミッターがかけられた松浦祐也も満足に身動きの取れぬ中、最早清々しく覚束ない五月と綾の本筋を余所に、逆の意味で感動的な三番手感を爆裂させる青山えりなの濡れ場の放り込み様と、そこで一人明後日に気を吐くサーモン鮭山。心に残るは横道ばかりの、端的にはチャーミングな一作である。それにつけても、だから一体誰なんだチカッチ!。どうでもよかないが、句点の前に感嘆符を置かざるを得ないのは、固有名詞―の一部― なのだから仕方もないとはいへ実に気持ちが悪い。


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 「好色長襦袢 若妻の悶え」(1998/製作:国映/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:武田浩介/企画:朝倉大介/撮影:柳田友貴/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/協力:榎本敏郎・広瀬寛巳/出演:葉月螢・篠原さゆり・相沢知美・杉本まこと・熊谷孝文)。
 昭和二十二年、御馴染み水上荘の笹島邸。手足は一応ついてゐるとはいへ自由は失ひ、言葉を話せなければ耳も聞こえない。 “生きてゐるのが不思議”と医者にいはしめる状態で戦地から帰つて来た、笹島家の当主・修治(杉本)が全身を包帯でグルグル巻きにされた上で床の中から、視覚の他、僅かに自由となる口元で銜へた鈴をけたたましく鳴らす。布団の周囲には、意思を家人に伝へる唯一の手段である、「カワヤ」(注:便所、即ち排泄のこと)・「メシ」といつた、矢張り鉛筆を口に銜へ書いたたどたどしいメモが、無惨に散乱する。そこに飛んで来た修治の妻・翠(葉月)は、芋虫のやうな主人に手を焼くこともなく、雑炊を甲斐甲斐しく食させる。一方、元々は「ミモザ」、戦中は「大東亜」、そして今は「ホテル・ハリウッド」と節操なく屋号を変へた連れ込みにて、これは後々語られる設定ではあるが、引き揚げ後無気力な生活を送る黒田直樹(熊谷)と、首尾よくオトした森崎財閥令嬢である森崎美子(篠原)の逢瀬。事後、ここは甚だ粗雑な段取りにしか見えないが、美子は風呂を浴び、黒田が一人で(ゴールデン・)バットを燻らせる部屋に、官憲(声のみの二人組が、榎本敏郎と広瀬寛巳か?)に追はれた売春婦の井口由利(相沢)が無造作に飛び込んで来る。ヒット・アンド・アウェイといはんばかりに即座に一旦捌けた、由利が落して行つた札入れの中から出て来た、笹島修治の名刺に黒田は目を留め、美子には悟られぬやう懐に忍ばせる。カット明け笹島邸を訪ねた黒田は、翠と再会する。元々翠と黒田は恋人同士であつたのが、裕福な家の笹島に奪はれたものであつた。
 壮絶な開巻で幕を開ける、本格時代劇の成立を許すバジェットは既に存在しない状況下でも、猟奇要素は作品毎にある時もあればない場合もあるが、兎も角深町章の得意とする大東亜戦争前後の近未来ならぬ近過去を舞台とした一作。ファースト・カットは随分と乱暴ではありつつ、三番手の相沢知美に単なる濡れ場要員に止まることなく、ヒロインといはくつきの元恋人を繋ぐ送りバントも打たせる構成は、地味ながら実に論理的。とはいへ、ロケーションの品数が清々しく貧弱な中、これは純然たる明後日な横道でしかないが、柳田友貴の大先生撮影が火を噴くこともなく、中盤が中弛む印象は否めない。但し、伏線も十全に噛ませた上での、衝動的に翠が陰惨な凶行に及ぶ戦慄のスラッシュは正しく衝撃的。直後の展開も、常識的には不自然極まりないのも通り越し無茶苦茶ですらあるのかも知れないが、ピンク映画的には順当に、そして頗る力強い。二つの情交を重ねることにより、ひとまづ幕を開いた筈の、新時代からは取り残された闇と空疎とを鮮烈に並置する終盤は圧巻。開巻とオーラスに流れる勇壮な男声コーラスの「ズンドコ節」が、のろまだといふ訳ではない、鈍く重いエモーションを残す。

 今回は旧題ママによる2011年二度目の新版公開で、大胆にも2002年最初の旧作改題に際しては、翌年の「鍵穴 和服妻飼育覗き」(1999/脚本:福俵満/主演:葉月螢)を追ひ越すだか追ひ越されるだかして、「鍵穴2 長襦袢欲情覗き」なる新題をつけられる。実は先に製作されてゐたシリーズ第二作といふのも愉快な話、あるいは乙な世界だ・・・・と、一旦書きかけて、ここから先は自力で辿り着いた話ではないのだが、事の正確な次第が判明した。元々、深町章同年五作前の「痴漢覗き魔 和服妻いぢり泣き」(1998/脚本:岡輝男/主演:葉月螢)が、最初の“鍵穴”「鍵穴 和服妻痴漢覗き」。そして今作が「鍵穴 長襦袢欲情覗き」と、ビデオ化に際し改題されリリース。二本のビデオのそこそこヒットを受け、初めから鍵穴ブランドを冠して製作されたのが、「和服妻飼育覗き」。即ち、ナンバリングされてゐないだけで、そもそも「和服妻飼育覗き」は“鍵穴3”といふ寸法である。以降は、「淫ら姉妹 生肌いぢり」(2000/脚本:かわさきりぼん/主演:里見瑤子)が、ビデオ化改題「蔵の中 鍵穴Ⅳ」。鍵穴ブランドではないものの、中身は概ね同趣向の「赤い長襦袢 人妻乱れ床」(2002/脚本:岡輝男/主演:若宮弥咲/ビデオ題:『蔵の中 和服妻みだら床』)と、「天井裏の痴漢 淫獣覗き魔」(2003/脚本:福俵満/主演:川瀬有希子/ビデオ題:『淫獣 天井裏の覗き魔』)を経て、「新・鍵穴 絡みあふ舌と舌」(2005/脚本:岡輝男/主演:葉月螢)に連なる、といふのがシリーズの沿革である。改めて整理してみたところ、矢張りほぼ同じ傾向による加藤義一の第四作、「いんらん夫人 覗かれた情事」(2002/主演:水沢百花)の脚本も手掛けた、岡輝男が鍵穴シリーズのメイン・ライターであつたといふ事実が何気に興味深い。


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 「絶対痴女 奥出し調教」(2011/製作:幻想配給社/提供:オーピー映画/監督:友松直之/脚本:友松直之・城定秀夫/撮影:Syu G.百瀬/照明:太田博/助監督:安達守・浅見圭史/撮影助手:吉田明義・渡邉寿岳・佐藤匡/メイク:江田友理子・玉手マリコ/スチール:山本千里/編集:酒井編集室/唄・作詞:アリスセイラー 作曲・編曲:長上エイジ/制作担当:池田勝/出演:あいかわ優衣・亜紗美・若林美保・藤田浩・津田篤・如春・松本美帆・しじみ、他多数)。出演者中、松本美帆以降は本篇クレジットのみ。エンディングに流れるトラックに関しては、何故か曲名がクレジットされない。いはずもがなを臆することなくいふと、撮影のSyu G.百瀬は、百瀬修司の変名。
 堂々としたキネコ画質に何事かと思ふと、大胆にも手持ちビデオを回しての、何処ぞの病院への潜入映像。実際に持病の貧血を拗らせ入院中の、しじみ(ex.持田さつき)の降板謝罪コメントに続いてタイトル・イン。ドキュメント・タッチ、といふかそのものの衝撃的な開巻であると同時に、やつれもあつてか素顔のしじみは、結構印象を違へて見える。感じたままに大雑把に譬へると、面長にした淡島小鞠。病人を捕まへて申し訳ないが、これはこれで実に悪くない。
 看板女優・アカネ(しじみ)が倒れてしまつた、劇団「キャラメル・バケット」座長のヨウコ(若林)と、副座長格ポジションの山田(藤田)の一戦。早速ガツンとした絡みを挨拶代りに披露しつつ、二人はアカネが務める予定であつた、公演の迫る舞台の主演をどうするのかといふ目下の一大事について相談する。「キャラメル・バケット」にはアカネの他にアヤカ(亜紗美)といふ女優も居たが、色気とロマンに欠けると、ヨウコの御眼鏡には適はなかつた。ここで、SHIN氏のブログ「BATTLE BABES」によると、アヤカの声は一般映画に於いて亜紗美との共演も多い、泉カイのアテレコであるとのこと。これが、さういはれてみないとまづ判らない、地味に超絶のフィット感を誇る。話を戻して、それでは一体、「キャラメル・バケット」の舞台「午後のアグダプティ」の主役は誰になるのかといふと、カット明けると大胆にも公演中の同舞台。ピン・スポットを当てられた、アグダプションされた妊婦・サオリ(あいかわ)が登場。一点、以降折に触れ目についたのが、あいかわ優衣は口元が大きく右に振れてゐるので、真正面から捉へるのは銀幕のサイズ、といふ意味での映画的には得策でないやうに見受ける。一方、ヒロインの座を後に語られるところによればチラシの劇団員募集を見て応募して来た、いはば新参のサオリに攫はれた格好のアヤカは、当然激しく面白くない。少雨に基く断水につき汗も流し損ねた、彼氏で矢張り「キャラメル・バケット」団員の、「午後のアグダプティ」ではサオリの夫役を演ずる田中(津田)との、不機嫌な情事。と、いつた寸法で、「午後のアグダプティ」の公演内容と、更にもう一人の「キャラメル・バケット」メンバーの鈴木(如春)も交へての、徐々にアヤカが喰はれるやうにして実際には「キャラメル・バケット」の男連中を全員喰ひ散らかして行くオフ・ステージとが、綺麗に並行して描かれる。
 元々はニシオカ・ト・ニール作演出、しじみ主演の舞台「女魂女力 其の壱 しじみちやん」のピンク映画化として企画は進行する。ところが、薮から棒に態度を硬化させたニシオカからは訴訟沙汰、漢友松直之は怯むことなく強行撮影に突入するも、今度は挙句にしじみが貧血でダウン。等々、撮影以前の騒動の顛末については、仕方もなく既に出遅れぶりも甚だしいところなので一切潔く割愛し、今項は裸の裸映画としてのアプローチに努めるものである。
 進行する予測不可能な劇中劇と、舞台外での何れも頑丈な濡れ場濡れ場とが位相の異なることもものともせず見事に猛然と併走する序盤には、当人にとつては手慣れた手法といへど、それにしても改めて強靭な充実に、正に友松直之ここにありと大いに刮目させられた。とはいへ、中盤UFOなり宇宙人の肯定論者役の鈴木と、否定論者役のアヤカとが変な執拗さで延々堂々巡りの論争を始めてからは、即ち「午後のアグダプティ」の進行が事実上ストップしてしまつてからが、素直に連動して映画全体が明確に失速する。終に時制が統一される転調は鮮やかではありながら、文字通りの舞台の上へ下への大騒ぎが繰り広げられるクライマックスに際しても、趣向の要請を受けた為術であることならば酌めぬでもないものの、端的に画面が散らかり、もしくは汚過ぎ。小屋に木戸銭を落として映画を観に来た者の立場でいはせて貰ふと、些かどころではなく首を縦には振り難い代物である。人を小馬鹿にしたかのやうな下らなさが逆に堪らない、拡げた風呂敷の痛快な畳み際に続く、序盤に蒔いた種をさりげなく回収するギミックは、本来ならば顛末の、据わりをよくしようところではあつたのだが。ニュース番組のテーマ音楽の如き、半端にラウドで品のない劇伴にも、矢張り全篇を通して興が削がれる。尤も、終盤に至るまで一旦失つた求心力を取り戻せずじまひのままに、終りなきサークル・クラッシュの継続を明示するオーラスは、あいかわ優衣持ち前の絶妙に生々しい、別のいひかたを試みれば如何にも男好きしさうな色つぽさもあり、我々の仕方もない業の深さを、束の間のシークエンスにも関らず鮮やかに定着させる。さうかうしてみると、長所と短所が判り易く同居した、一方向に絞れば粗の顕著な一作ではある。錯綜し急を要する状況の中から、放たれた決死の一撃であることを鑑みれば相当も超えた上出来であるといへるのかも知れないが、そもそもそれは要は裏事情に過ぎず、職業作家が方便にすべきものではあるまい。憚りもせず、いはずもがなを繰り返すやうだが。
 エンド・ロールに際しては幾分撮られた、しじみの素材が流用される。ところがこれが、SMもののアダルトビデオとでもいふならば兎も角、これでピンク映画を行くのかと目を丸くさせられるほどの、苛烈に次ぐ苛烈な責めに終始。これではしじみが体調を崩すのも無理からぬとすら思はせる、薮蛇なエクストリームを開陳する。

 触れずに通り過ぎる賢明な選択肢まで含めて、何処で手を着けたものか最後まで思ひあぐねた末に、結局敢然と掉尾を散らかすことに。本篇クレジットのみの出演者中、しじみに関しては既に採り上げた通りとして、ダンサーであるらしき松本美帆は、自信がないがフと気付くと一同が車座になつた稽古場での頭数がひとつ多い、「キャラメル・バケット」のその他劇団員か。問題なのが、二十人前後は居たと思はれる他多数。ピンクスを中心に掻き集められたと思しき、「午後のアグダプティ」公演会場を埋める観客要員。勿論人様のことをいへた義理にはなく、安普請の中でのさういふ製作体制は仕方のないことともいへ、如何ともし難い画的な貧しさは否めない。中でも直截に筆を滑らせると、最前列の太つた女は我慢出来ずに見苦しい。開き直ることも胡坐をかくことも、狭い狭い仲間内でのみ戯れ合ふこともなく、あくまで素面の商業映画として世間一般にも討つて出るつもりであるならば、矢張りあまりにも、もといあまり褒められた筋合にはなからう。


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 「ロリ作家 おねだり萌え妄想」(2007/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:佐々木英二/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:関谷和樹/撮影助手:鶴崎直樹/下着協賛:ウィズコレクション/出演:藍山みなみ・神田ねおん・西岡秀記・横須賀正一・吉岡睦雄・華沢レモン)。照明助手その他ロストする。
 画期的にパッとしない風景ショットを舐めて、何処にあるのか、御馴染み山の手のハウススタジオ。出世作『世界の中心まで君に会ひに行きます』で知られる、人気純愛小説家・長瀬カノン(藍山)の自宅、兼仕事場である。商売敵とはいへ、同じ家屋に出入りするよしみといふことで、『世界の中心まで~』を出版した集談社のカノン担当編集者・竹内剛(吉岡)と、社長の娘、兼常務の妻(重役二人は何れも姿は見せず)との不倫が発覚し、社内的に花形の女性誌編集からカノンの担当に有体にいふと左遷されたオーピー出版の一条真一(西岡)とが、エールならぬ名刺を交換する。と、そこに当のカノン先生起床。ジャージの上からどてらを羽織つた色気の欠片もない格好に、おまけにドリフの爆破コントオチ並みのボサボサ頭。挙句に後に本人いはく、入るのは週に一度といふ風呂嫌ひ―更に髪を洗ふのは月に一度―で、現れただけで部屋には異臭が漂ふ。半ば愕然とする一条の目を憚りもせず、半分露にした尻をポリポリ掻いたカノンが、振り返り「よろしく」と挨拶を発したタイミングでタイトル・イン。
 カノンを一条に引き合はせるや、ひとまづ役目は済んだといはんばかりに竹内はそそくさと退場。予想される当然のやうに家事もままならぬ故、一条が作つたシチリアゴッドファーザー風エスプレッソ・パスタ―どんな味がするんだ、それ―にカノンが無作法に舌鼓を打つ中、頭につけてゐるのは兎耳なのに鳴き声は「ワン」の、カノンの同居するペットでオカマのカオル(横須賀)も登場。辟易の火に油を注がれる一条がカノンの近作、ライ麦畑もとい『お花畑でつかまへて』に目を通してみたところ、主人公は道ならぬ恋に心中を決意した女高生と教師(以下作中登場人物は延々藍山みなみと西岡秀記)。ところが服毒するつもりが女高生がバイアグラにすり替へてゐた為、俄に発奮した二人は致してしまふ、などといふ官能小説であつた。続いて手に取つた『冬のアナタ』も、交通事故に遭つた男が、女に吹かれた尺八の感触に記憶を取り戻す他愛もない艶笑譚。カノンは、純愛小説を書けぬスランプに陥つてゐたのだ。頭を抱へつつカノン宅を後にする一条の前に、問題の常務嫁・里中志穂(華沢)が颯爽と現れる。志穂によるとオーピー出版は同族経営であるといふのに、大蔵姓ではないのか。さて措きわざわざ一戦交へた上で、未だコネも利した復権を目論む一条に、志穂は華沢レモン一流のドライな距離感で三行半を叩きつける。肩を落し歩く一条の煤けた背中を、不審極まりなくも三洋電機冷蔵庫の段ボール箱が追ふ。スタンド・アップした箱の名から出て来た、渡邊元嗣前作「令嬢とメイド 監禁吸ひ尽くす」(主演:夏井亜美)に引き続き出演の神田ねおんは、一条をストーキングする素性不肖のギャル・水前寺冴子。そもそも一条と志穂の関係を社内に暴露した怪文書も、冴子の仕業であつた。兎も角、望みを繋いでゐた志穂のルートも絶たれた一条は、純愛小説で復帰させることにより自力で自身の再起も図るべく、仕方なくカノンの生活一切の改善から着手する。
 依然継続する、前回の二番手から昇格した主演女優のオーバー・ウェイトはロリータ体型といふ器の中に無理矢理押し込めつつ、ボサッとし倒した非大絶賛不調の女流作家が、完璧を自認する色男編集者の手により、徐々に女としても磨かれて行く。といふ、大雑把に括るならば「マイ・フェア・レディ」の線のラブ・コメディ。カノンがエロ小説しか書けなくなつた要因を、拗らせた処女性に求める流れには見事な機軸と大いに感心しかけたが、結局は他愛もない劇中小説試作に収斂してしまつた辺りには、一旦落胆させられた。ところがそこから、吉岡睦雄の再登場で起承転結を転がすアクセントをつけると、カノンの熱狂的なファンを装ひ長瀬家に潜入を果たした冴子の濡れ場で、行き詰まつた一条の立ち位置に風を通す。一見漫然と思へなくもない、序盤に於いて入念に主人公二人の人物設計を地均しした上で、中盤キレを見せる展開の急旋回により物語を順調に加速。終盤に及んで初めて、人の言葉を発した―チャンポンの方言はツッコミ処だが―横須賀正一にヒロインの背中を押させると、強度も十全な恋愛映画としてど真ん中のクライマックスに叩き込む。純愛官能小説『冷静と情熱の間で花と蛇が叫ぶ』にて、カノンが再ブレイクするラストの爽やかな軟着陸まで含め、何気ないやうに見せて、完成された構成が肩肘張らずに実に心地よい娯楽ピンクの良作である。ここに至つてこの期に気付いたが、アイドルあるいはファンタジー映画の雄といふ、これまで一般的であつた渡邊元嗣に関する評価ないしは理解に止まらず、実は意外と堅固でもある全体的な映画作りと、同時に緩い全般的な肌触りとからは、師弟関係は少なくとも表面的には特段どころにでもなく認められないながら、この人には深町章の後継的ポジションも認め得るのではならかうか。

 面目ない付記< 末文に関して、例によつてこの大間抜けが仕出かしやがつたので、コメント欄も併せてお読み頂きたい。


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