真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「一人寝未亡人 恥毛の落ちた蒲団」(2000『黒い下着の未亡人 通夜の情事』の2011年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:小野弘文/助監督:寺嶋亮/撮影助手:市山誠/照明助手:平岡えり/監督助手:林真由美/メイク:パルティール/効果:東京スクリーンサービス/タイトル:道川昭/出演:高樹里緒・麻生みゅう・時任歩・柳東史・加藤智明・吉田祐健)。
 一週間の新婚旅行(行き先不明)から、曽根悟郎(柳)と新妻・百合子(高樹)がアツアツも通り越しホッカホカの風情で帰国。エクセスが時に仕出かす惨劇を幸にも回避した、古手川祐子のセンの正統派美人の主演女優に、ホッと胸を撫で下ろすどころか心の琴線を結構掻き鳴らされる。それにつけても、どうして女の裸が主眼の量産型娯楽映画にあつて、ヒロインが美人であるなどといふ至極当然であらう筈のことに、一々安心しなくてはならないのか。何といふか、因果な世界であるとでもしかこの際言葉が見当たらない。気を取り直し、シチュエーションを替へ趣向を替へ、延々延々もひとつ延々、早速新居での夫婦生活に半日文字通り明け暮れる、といふかより正確には暮れ明ける百合子と悟郎の姿が、勝利一も撮つてゐて楽しくて仕方がなくなつてしまつたのか、いつそこのまま一時間を使ひきつてみせるおつもりではなからうなとすら危ぶまれるほどに、前半をほぼ費やさんばかりの勢ひでひたすらに延々描かれる。漸く翌日、悟郎は仕方なく出勤。無防備にも、百合子が通りに開(ひら)けた車庫に下着を干す曽根家に、通りがかりの不審な労務者・鳥羽伸次(吉田)が目をつける。空巣を狙ひ忍び込んだ鳥羽がショッポで一服つくところに、財布を忘れて街まで出かけた百合子が帰宅。正しく居直つた鳥羽は百合子を手篭めにするや、薮蛇な説教強盗的捨て台詞も残し立ち去る。犬に噛まれたことを嘆く間もなく、百合子を更なる最大級の衝撃が襲ふ。悟郎が、後に語られる理由によると子供を守らうとして交通事故死したといふのだ。
 麻生みゅうと加藤智明は、カット明け悟郎の葬儀―ここの繋ぎの超速ぶりは清々しい―に列席する、百合子の妹・松原藤子と、その婚約者・林田修。続けて蛙腹で登場し一同の度肝を抜く時任歩は、悟郎の前カノを自称する早瀬歩美。回想による、柳東史との濡れ場がてらお腹の子は悟郎の種であると主張するが、何のことはない、こんな時に非常識極まりなく人騒がせな、歩美は単に岡惚れしたに過ぎぬ悟郎勤務先の元派遣社員で、しかも妊娠などしてゐなかつた。
 スマートなルーチンワーク作家として、勝利一と、もう一人大門通のことは個人的に常々地味に注目してゐるものである。これは全くの純然たる思ひつきでしかないが、実はピンク映画はこの二人の何れかが誰も知らない内に完成してゐて、そのことを特に誇るでもないままに事実上退場してしまつたのではないかとさへ、時に夢想することがある。さうはいふものの、少なくとも今作に限定した話としては、リアルタイムでm@stervision大哥が軽快かつ的確に論断された通りに、場当たり的といふ形容が矢張り最も適当か、としかいひやうのない一作。妙なボリューム感を誇る新婚新居初夜をやつとこさ通過、ジャンル上必須の段取りとして、悟郎を無造作な寝耳に水で泉下に叩き込んだまでは、兎も角としても、あるいは仕方のない範疇に止まるとしても。以降、こちらは未亡人ものといふジャンルも超えた、ピンク映画といふカテゴリー上必須の要諦として二番手・三番手の絡みもビリングは前後しながら矢継ぎ早に、といふか直截には拙速に消化したところで、画期的な藪から棒感を爆裂させる、一応香典泥棒の下調べとでもいふ方便のやうだが、忌中にあることを看て取つた鳥羽は、俄に喪装すると何くはぬ故人の知人面して曽根家に再突入。挙句に、ある意味定番ギミックといつてしまへばさうともいへるのかも知れないが、兄急死の報に駆けつけた、双子の弟・達郎(勿論柳東史の二役)までもが放り込まれるに至つては、木端微塵になる以前の、元々の物語の概要すら最早覚束ない。いつそのこと、ここは然様な瑣末はさて措き、思ひのほかキュートな高樹里緒に心ときめかせてのみをればいいものを、まだまだ修行が足らぬと自戒すべきや。
 あるいは、高樹里緒の素材にハートウォームな新妻物語に適性をより見出しつつ、さりとてエクセスとの商売上は未亡人として喪服を着せぬ訳には行かぬジレンマに陥つた勝利一の、やぶれかぶれな開き直りの結果が、序盤で事済まず中盤にまで及んだ、頓珍漢なペース配分なのではあるまいか。とまでいふのは、贔屓目に勘繰るにも度が過ぎるであらうか。

 製作費を浮かせる為に撮影との同録ではなく、音は後から入れることを旨とするピンク映画にあつて、今回時任歩演ずる早瀬歩実と、更に吉田祐健演ずる鳥羽伸次の声は別人。歩実の声は多分佐々木基子のやうな気もするが、些か自信が無い。鳥羽に関しては、まづ間違ひなく岡田謙一郎のアテレコ。女優は結構ままあるが、男優の、しかも一作品にアテレコが二人といふのも、珍しいことではないかとも思へる。悟郎の葬儀には、正直貧相な面子のその他弔問客が四名見切れる。その中でも、一見中高生男子にしか見えない女の子は、この人が林真由美なのか?


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 「人妻と愛人 不倫ハメ覗き」(1998/製作:国映/配給:新東宝映画/監督:橋口卓明/脚本:荒留源/企画:朝倉大介/撮影:中尾正人/照明:井和手健/編集:酒井正次/音楽:遊林/助監督:石川二郎/監督助手:大西裕/撮影助手:田宮健彦・奥野英雄/制作応援:根本強史・佐々木直也・牧田重臣/キャスティング:寺西正己《アクトレスワールド》/協力:上野俊哉・坂本礼・榎本敏郎・今岡信治・新里猛作、他総勢二十数名・《有》ライトブレーン・《有》ペンジュラム/出演:里見瑶子・富山敦史・瀬戸恵子・青山円・横塚明・隆西凌)。脚本の荒留源が、ポスターには何流布缶暴盃。一体全体、何がどう転んだらかういふ出鱈目なことになるのか、どう読ませたいのか教へて頂きたい。本来の荒留源も、判らんといへば確かに判らないが。
 ジッポーの点火で開巻、炎で車のナンバー・プレートを照らしてタイトル・イン。養老乃瀧店員の安岡マキ(里見)宅にて、会社社長令嬢と結婚した城戸もしくは木戸祐二(横塚)の不倫の逢瀬。妻から雇はれた探偵の小島(隆西)が、表に停めた車からその様子を窺ふ一方、開かれた窓を覗く望遠レンズ越しに、通りと線路を隔てた一室でマキと祐二の情事をつぶさにモニタリングする、北村一輝を少し小粒にした感じのイケメン・トシアキ(富山)の姿もあつた。音声までは拾へてないのか、トシアキはマキの唇を読む。妻を懼れる祐二は事後早々に帰宅、その喪失感に黄昏るマキの部屋に、トシアキから電話が入る。トシアキはどうやら耳が聞こえないらしく、マキに対しては普通に携帯電話で発話し、応答には矢張り読唇で対応した。トシアキは元々、社長令嬢の朋子(瀬戸)を祐二と争ひ、なほかつほぼ結婚も決めてゐた。因みに、瀬戸恵子にとつて、今作がピンク映画初陣に当たる。引退作「四十路寮母 男の夜這ひ床」(2006/監督:新田栄)と比しても、意外と印象は全般的に変らない。話を戻して、ところが、ミュージシャンと思しきトシアキはブース内で下拵へ中のスタジオ、朋子のハンドバッグに蹴躓いた祐二がボリュームを触り、激越な爆音がトシアキを襲ふ。観た感じには、正直結構以上に間抜けな状況と演出ではあるが、兎も角その結果聴覚を失つたトシアキを手の平を返すかのやうに見限つた朋子は、結局祐二を選んだものだつた。ところでそもそも、祐二・朋子と斯様な因縁にあるトシアキが、マキと如何にして現在の複雑かつ親密な交際を築き上げ得たのかに関しては、清々しいまでに完全に通り過ぎられる。
 良くも悪くも国映作らしいといへば国映作らしい、直截に片付けると青臭い変則恋愛映画。凝つたのかプリミティブなのかよく判らないしがらみを、不安定で不思議な擬似恋愛関係で味つけした仰々しい物語は、やがて無闇にアンニュイなマキにトシアキが無造作に投げた死と暴力の匂ひと、底の浅い小島の両天秤とに加速され、粗雑な修羅場へと雪崩れ込む。徒に思はせぶりなばかりの、モノとダイアの別を問はずローグに仔細の推移は基本頼りきりの反面、各々のシークエンス単位の強度には、ビリング頭二人、主役男女の表情以外には特段恵まれない。殊に、妙に尺を喰ふところまで含めて、朋子が居酒屋店内に泥棒猫たるマキを強襲する件の、鬱陶しい蛇足感は比類ない。大体が、トシアキの聾者設定自体が、展開の実勢には実は馬鹿馬鹿しいほどに絡まない。万事が右から一昨日へと上滑る中で、終にマキがトシアキと結ばれる締めの濡れ場すらが、決定力を掴み損ねた印象は否めず。女の裸を、半ば初めから等閑視したプロットではない分国映近作よりはまだましともいへ、お門違ひにも商業娯楽映画を求めるならば、相当に力なく物足りない一作ではある。

 配役残り青山円は、泥酔した挙句に藪から棒な強姦衝動を持て余す小島の前を、脱がしにくいパンツ姿の女(不明)に続きうつてつけに通りかかり、まんまと犯されてしまふ軽装の女。“まんまと”といふのも、自分で筆を滑らせておいて如何なものかといふ話だが。本筋には全力で一切関らず、しかも実質的には殆ど脱がないどころか、決してカメラが寄りはしない夜道のショットの中、首から上さへ満足には捉へられない。ここまで乱暴な三番手の放り込み方といふのにも、滅多にお目にかゝれない妙な感動は、確かに残らぬでもない。その他、踏切を待つマキの傍らに、ギターケースを抱へた今岡信治が見切れるのだけは確認出来た。
 最後に、今回は旧題ママによる二度目の新版公開で、2002年一度目の旧作改題時の新題が、「裏窓 妻と愛人の痴態」。通りに面したマキ宅の窓は、別に裏窓ではない件につき(´・ω・`)


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 「秘蔵尼寺 後家の乱れ腰」(2003『尼寺の後家 夜這ひ床枕』の2011年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:小川満/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:石井拓也/効果:中村半次郎/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:武藤さき・小川真実・ゆき・なかみつせいじ・樹かず・丘尚輝・前田恵一)。
 新田栄の尼寺映画と来れば、大成山御馴染み愛徳院、では今回はなく満光寺。何れにせよフザけた名前であるといふか、満光寺は東京以西のそこかしこに思ひのほか散在してゐるファクトに、戯れに調べてみたところ驚かされた。話を戻して、当然大絶賛男子禁制である筈のしかも深夜の満光寺に、なかみつせいじが忍び込んだタイミングでタイトル・イン。庵主・妙心(武藤)が就寝する寝床に、寺にも出入りを許された大工の雫石源太(なかみつ)が夜這ひを敢行する。エクセスの惨劇を幸にも回避した主演女優に安堵しつつ、出家前は元々後家であつたといふ妙心は、さしたる抵抗を見せるでなく、源太の急襲に普通に喜悦する。棹の根も乾かぬ翌日、満光寺を源太の妻・弓子(ゆき)が訪ねる。亭主の女癖の悪さを相談に訪れた弓子に、妙心が壊滅的にバツの悪い―受け容れた以上、自業自得といふほかない―心持ちにさせられる一方、満光寺のある山間の田舎町に、旅僧の照輝(丘)が現れる。照輝は快く喜捨に応じた主婦・松下恵(小川)の後を尾けると、敵が坊主だといふので油断したか、亭主は出稼ぎ中につき不在といふ松下家にまんまと上がり込む。劇中、山の季節が冬には特に見えないのだけれど。兎も角軽く遣り取りを交したのち、カット変るやいきなりいゝ感じに酔つ払つた照輝がガンガン裸踊りをカマしてゐたりなんかする底の抜けた破壊力は、流石新田栄である、とでもしか最早いひやうがない。恵宅をサクッと通過後今度は妙心と接触した照輝は、弓子の悩みを解決すべくサラサラッと御札を認(したた)める。効力を発生させるには、札を弓子のいはゆる観音様に貼るべしだなどといふのも、岡輝男は岡輝男で流石だ。因みに岡輝男は丘尚輝として照輝を演ずるに当たり、実際に頭髪を本当にツルッツルに剃り上げてみせた点は天晴である。
 その他配役登場順に前田恵一は、多分職業大工の源太弟分・中村典良。源太と中村が同夜に、それぞれ別個に満光寺に夜這ひを仕掛ける件に際しては、映画的に適宜な暗闇の中、互ひにさうとは知らぬまゝ二人が交錯を繰り返す、ドリフのコントばりのシークエンスを結構尺も費やし披露する。妙心には先に中村が辿り着き、筆卸を済ませる。樹かずは、妙心こと俗名は妙子の、出家前の不倫相手・野島光夫。尼だ後家だ挙句に不倫だと、箍の外れた属性の過積載ではある。
 エクセスライクな容姿で開巻早々映画に止めを刺すことはとりあへずないとはいへ、武藤さきが一本の劇映画を背負はせるヒロインには、お芝居にせよ存在感にしても素直に心許ない。小川真実はへべれけな濡れ場をそれでもベテランの地力で支へ抜く、頑丈な実質三番手の座に従順に納まり、物語の本筋にそれなりに絡みこそすれ、ex.横浜ゆきのゆきも、ビリングを華麗に飛び越えるほどの決定力ないしは突進力は感じさせず。女優三本柱が何れも最終的には機能しない中で、豪快な生臭ながら意外と霊力の高さも併せ持つ照輝こと岡輝男が、後半の主導権を地味に握つてみせる展開が興味深い。劇中既に二度もの夜這ひに見舞はれる愉快な尼寺を舞台に、予想される野島来襲を前に、妙心は照輝に弓子に渡したものとは逆ver.の御札を乞ふ。ところが後に呪文を間違へてゐた粗相に気づいた照輝が残す、「矢張り人の愛には勝てん、儂の負けぢや」なる適当な捨て台詞に続く、妙心と中島との一戦を下手に美しいピアノの旋律で締め括る終幕は、適当極まりない物語を案外実直に纏め上げてみせた、裸映画として実は磐石の強度を誇る。決してセンターに躍り出て来る訳ではあるまいしそれで別に構はないが、量産型娯楽映画が膨大な塵を積もらせた大山の周縁を、それなりにさりげなく飾らう燻し銀の一作、些かならず褒め過ぎたかも。


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 「淫乱Wナース パイズリ治療」(2010/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:蒼井ひろ/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/音楽:與語一平/助監督:小山悟/監督助手:安達守/撮影助手:平林真実・岩見周平/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/現像:東映ラボ・テック/協力:《有》コウワクリエイティブ・《株》旦々舎/出演:稲見亜矢・葵うさぎ・倖田李梨・津田篤・平川直大・広瀬寛巳・井尻鯛・伊集院守・なかみつせいじ)。
 正直シークエンスのテイストとは清々しく似(そぐ)はないベース音に乗せて、「お早う☆」と青空総合病院の新米ナース・倉持彩乃(稲見)が軽やかに登場。入院患者のエロ爺・関口(広瀬)のセクハラに、彩乃が如何にもピンク映画的な大らかさで応へる、のではなく、「イヤーン★」とでもいはんばかりに撃退したところでタイトル・イン。と、こゝまで、加藤義一らしいポップ・チューンの出足は完璧。身寄りのない関口は寂しいのだと、彩乃が医師で恋人の遠藤光一(津田)から、それとこれとは話が別だとしかいひやうがない諭され方をする中、青空総合病院に、看護学校の同期かつ、彩乃とは何事か曰くありげな片山千里(葵)が、まるで仇敵を追ひ駆けて来るかのやうに赴任して来る。千里は彩乃とは、といふか要は世間一般とは対照的に、関口のセクシャルな求めにもへべれけに応じる一方、交通事故を起こしたタクシードライバーの市村正晴(なかみつ)が青空総合病院に搬送される。こゝで不完全な消去法から伊集院守は、未だ意識を取り戻さない病室に市村のイントロダクションに現れる、妙に不遜な扇子男か。結果論としては、非感動的に不格好な見切れ役にしか見えない。話を進めて、市村はヤバい筋に借金を抱へてゐるらしく、判り易い強面の黒川浩司(平川)が、とりあへず彩乃に接触する。そんな折、市村が力なく自殺を図る。それをすんでのところで制止した彩乃は、藪から棒に市村に体を開く。当然そのことも踏まへてか、医療費を支払へない市村を追ひ出さうとする遠藤に対し、彩乃は無闇矢鱈と反発。入院費を立て替へるに止まらず何故か青空総合病院まで辞め、挙句に住む家も持たない市村を、自室に迎へ入れる。然様な棚から牡丹灯篭が降り注ぐが如く、、木に竹さへ接ぎ損なふ出鱈目な新生活。ひとまづ駅前の新病院をメイン・ターゲットに求職活動を開始する彩乃に、金貸しだけでなく、イメージ専門デリヘル「カオス」を経営する黒川が再び接近する。
 配役残り井尻鯛は、「カオス」常連客の伊藤。因みに度々の繰り返しにもなるが井尻鯛とは、江尻大の変名。となると、役柄から正体不明の伊集院守といふのは、仙台を主戦場に活動するローカルタレント・本間秋彦の別名義でもないゆゑ、もしかすると安達守?ピンク映画二戦目の主演女優と完成された後輩・先輩ショットを披露する倖田李梨は、「カオス」のクラリス嬢こと―彩乃の源氏名はマチルダ―三原玲子、こちらも元職は看護婦。誕生日祝ひに招かれた彩乃宅にて、ただらならぬ因縁にあると思しき市村と、思ひもしなければ望みもしない再会を、家主には悟られないやう果たす。
 ビリング前後して攻める千里と、守る彩乃。淫乱なのかどうかは兎も角、コンビとしても綺麗に出来上がつたWナースが完成したところまでは、加藤義一一流の穏やかな王道娯楽映画の予感を、確かに感じさせたものであつたのだが。起承転結を転がすにもほどがある、さしたる葛藤なり逡巡をまるで窺はせない、彩乃のデリヘル嬢への転落辺りからがあまりにも木端微塵。それ以前に、黒川から背中を押されること、実父が似た境遇にあつたこと、等々一手間二手間も一応設けられるとはいへ、何をトチ狂つたか自らの生活だけでなく将来をも棒に振る無鉄砲どころでは凡そ済まない頓珍漢な覚悟で、彩乃が何でまたそこまで市村に入れ揚げるのかがこの期には清々しく理解に苦しむ。以降は軸の名に値する軸が残りの尺を貫くでなく、概ね千里と黒川に関して以外は、全員全篇場当たり的な展開が連ねられるばかり。おまけに主人公が看護師の職を辞してしまつた以上、薮蛇なコスプレが披露されはするものの、白衣カードすら殆ど封印される始末。倖田李梨の濡れ場は大変情感豊かなものと評価も高いやうだが、確かに当該絡みだけを掻い摘めばさういふ好評が相当するのかも知れないが、あまりにも、といふか逆に凄い勢ひで体を成さない物語にあつて、少なくとも今回個人的には、仔細を忘れてそこにノルといふのは非常に難い相談であつた。ラストを一応飾る、タクシー運転手に復職した市村と、市村に対してその人との記憶は既に有さない、ウエディング・ドレス姿の彩乃との、慌ただしい儚さが美しい再会。本来ならば決定力のある名場面となる筈ではあつたのだらうが、観客を酔はせるなり騙す映画トータルの求心力が全く覚束ないとあつては、そこに至る段取りの便宜的な芸のなさが胸にではなく頭に残り、矢張り心を洗はれるには遥か彼方の一昨日に遠かつた。純然たる素人考へではあれ、脚本のかなりな、といふか最早苛烈な不出来も邪推させる一作。加藤義一は今後とも、いはゆる座付きといふ形での固定を図らずに、様々な脚本家と組んで行く心積もりでをられるやうだが、望むならば、御自身の貴重な機会を大切にして頂きたい。他に取りつく島もない、などといつてのけては正しく実も蓋もないが、一応終始一貫する千里と、黒バージョンの平川直大がやさぐれたナイスガイを好演する、黒川のドラマは横道ながら琴線に触れる。


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 「女痴漢捜査官2 バストで御用!」(1999/製作・配給:新東宝映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遙/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:榎本敏郎/監督助手:大西裕/撮影助手:岡宮裕/照明助手:小田求/スチール:佐藤初太郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:工藤翔子・瀬戸恵子・山崎瞳・岡田智宏・山﨑進・西藤尚)。出演者中、山﨑進がポスターには山崎進哉。
 くたびれた風情の工藤翔子が、ロング・ショットで夜の車道をホッつき歩く。西藤尚が呑気にファッション誌を眺めるマンションの一室に、工藤翔子は帰宅。自らの肉体を囮とする、女痴漢捜査官の碧川ジュン(工藤)が日々の任務の愚痴を同棲する同性の恋人である根本理恵(西藤)に零しつつ、二人が早速咲かせる麗しき百合の花を屋外から覗き見る、窃視者の気配を噛ませてワープロ打ちの貧相極まりない―エンド・ロールも―タイトル・イン。
 翌朝、慌ただしく送り出した理恵が通勤電車の車中、変態青年・ヒロシ(岡田)に痴漢されるのを、無造作に同じ車輌に足を踏み入れたジュンが目撃する。視線に気付いたヒロシは、大胆にもその場でハンカチに染み込ませた薬物で理恵を眠らせると、降車する客の波に二人を見失つたジュンの目前まんまと拉致する。咄嗟にジュンは、歳格好が豪快に異なるツッコミ処は兎も角、七年前に自身が担当したレイプ捜査を想起する。女々を矢張り水のないプールしては監禁・陵辱、保護された者も廃人同様にしてしまふ凶悪事件が発生。容疑者(後述、しない)を追ひ詰めたジュンは発砲、男根を撃ち抜き重傷を負はせまではしたものの、結局取り逃がす。ジュンはその失態のゆゑに痴漢の囮捜査官に格下げされたもので、理恵は元々、容疑者に人質に取られたところをジュンの誤射により負傷させてしまつた通りすがりの当時女子高生であることも、後々に語られる。ここは少々非現実的であるのかも知れないが、サポート要員すら用意されない完全単独行動の女痴漢捜査官は警察組織自体からも隔絶され、自宅のPC越しに遣り取りするのみの上司・桜丘憲邦(山﨑)には、理恵略取に関し管轄外を厳命されながら、全方位的に抑制を欠いたジュンは命令を無視、理恵保護とレイプ犯の検挙を期し行動を開始する。
 口元の曲りを危険な撮られ方をする山崎瞳は、ジュンが最初に訪ねた、多摩丘陵の山川療養所に収容される七年前の事件の二人目の被害者・三波基世。因みに宝石デザイナーである一人目の被害者・松坂成美役は、ジュンが不当に閲覧した資料の画像が粗過ぎるのもあり、何者なのか識別不能。瀬戸恵子は、ジュンが腰に提げた手錠に忌まはしい記憶を呼び起こされた基世の回想中に登場する、ジュンが逮捕し損ねた容疑者の後妻、兼ヒロシの義母・佐織。一旦ヒロシの下から逃走を図つた理恵がテレホンカードを拝借する、ボサッとした若い男は不明。内トラの定石からいつて、榎本敏郎か大西裕ではないかとも思つたが、確認能はず。といふか、半裸のどう見てもただならぬ様子の女を前に、テレカを渡すだけでなく、お前が警察を呼ぶなり保護するなりしてやれよ、といふ話ではある。
 第一作「女痴漢捜査官 お尻で勝負!」(1998)から一年に一作づつ都合四作が製作された、「女痴漢捜査官」シリーズの第二作。2003年に「痴漢とレズ とろける花芯」なるぞんざいな新題による旧作改題を一度経ての、今回は旧題ママによる二度目の新版公開に当たる。但し、「女痴漢捜査官」シリーズとはいへ、西藤尚は兎も角工藤翔子に被電車痴漢のシークエンスは用意されず、ジュンの置かれた境遇のイントロダクションとして以外に囮要素は全く皆無。一件の発端に掠るのみで、痴漢捜査は本筋には殆ど全く関らない。代つて主眼をなすのは、岡田智宏の幼さも超絶に異常犯罪者の歪みに転化させた、渡邊元嗣にしてはいい意味で遊びのない、吃驚させられるほどに正攻法のサイコ・サスペンス。端々で繰り広げられるアクションも、リハーサル・レベルのローを超えたノー・バジェットの弾着さへさて措けば、ピンク映画としてはらしからぬ水準で普通に充実。終に突き止めたヒロシのアジトに単身突入するジュンこと工藤翔子は、タッパと長い手足も画面に映え、まるで女松田優作を思はせる猛烈なカッコよさを披露する。丁寧に開陳される猟奇的かつ大胆な因縁は、清々しく狂つたヒロシの論理まで含め頑丈に全篇を貫く強い求心力を発揮。佐織が壊れる件は粗雑で呑み込み辛いが、寧ろ女の裸を愉しむエモーションをも忘れさせられかねない、物語の面白さで堂々と観させる強靭な一作である。


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 「淫臭パンティー 味は十人十色」(1995『使用済み下着』の2011年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:守屋保久/照明:渡波洋雪/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:瀧島弘義・小谷内郁代/撮影助手:有賀久雄・松井勇剛/照明助手:藤森玄一郎/メイク:鷲野早苗/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/出演:河名麻衣・池島ゆたか・小川真実・渡辺茜・小林節彦・佐瀬佳明・野上正義)。各種資料にある照明の渡波洋雪とは、洋行の誤記ではないのかとも思つたが、本篇クレジットにあつても洋雪。そこから既に仕出かしてゐるのかも知れないが。
 テレクラを介して知り合つた、家出女子高生の松本理沙子(河名)と、川辺肇(池島)がホテルに入る。理沙子がシャワーを浴びる隙に、川辺は脱ぎたてのパンティーをくすねる。それは川辺の抑へきれぬ性癖で、なほかつ下着偏愛が妻・冴子(小川)の逆鱗に触れた為に追ひ出され、カプセルホテル住まひをしてゐる身だつた。対して理沙子は過干渉な父親と、そんな夫のいひなりな母親とに嫌気が差し、家を出て来てゐた。所変り冴子一人の川辺家、居間のゴミ箱には、大量のスナック菓子の包装が散乱する。離婚も見据ゑ肇を叩き出したまではいいものの、欲求不満と精神的ショックとから、冴子は過食症の症状に陥ゐつてゐた。その夜はそのままホテルで明かした理沙子と出勤する川辺は、再会を約し一旦別れる。一方、冴子は大学時代の恩師である、奥水女子大心理学教授・松本邦雄(野上)に接触、目下悩まされる肇との騒動を包み隠さず相談する。ここまで、キュートでアクティブな女子高生ヒロインに河名麻衣。相手役を努める、幾分以上の屈折も抱えへつつ、心優しき中年男に池島ゆたか。男を排斥した鋭角の陰に、弱さも併せ持つ妻に小川真実。そしてかつての教へ子に頼られる、鉄壁のロマンス・グレーぶりを誇るインテリ老紳士に野上正義。滑らかな序盤の推移に気付かされることもなく通り過ぎかねないが、ここまで四本柱の配役は、感動的なまでの完成度を誇る。仕事終りの川辺と、理沙子は二夜続けて合流する。ところがしがないサラリーマンにホテル暮らしは矢張り厳しく、川辺には最早持ち合はせが無い。仕方がないので、理沙子が川辺も伴なひ転がり込むのは、元々世話になつてゐた、高級コールガール・山野愛(渡辺)が住居兼仕事部屋とするシティ・ホテルの一室。ここで初めて、ほぼ磐石の出演陣に、僅かな穴が開く。首から下は兎も角、渡辺茜の洗練度を明確に欠く容貌は、役柄上少々厳しい。ここは岸加奈子か沢田夏子といつた、超絶美人を連れて来て貰へればいよいよ完璧であつたのだが。話を戻して、ところが折悪しく客の来訪予定があり、二人は再び夜の街に放り出される。そこで小林節彦が、愛の部屋に現れる客。愛を“スケベな社長の奥さん”に模した頓珍漢なプレイ内容の、薮蛇ぶりは御愛嬌である。そんな中、冴子に乞はれ自宅を訪れた松本教授は、求められるままに一線を越えてしまふ。
 北沢幸雄の精緻なメガホン捌きが冴えるスマートな、寧ろスマート過ぎるくらゐの一作。二組の男女がホテル街で交錯し、二つの因縁が十字砲火を華麗に轟かせる中盤の強度は圧巻。但し、あくまで尺をそこから先にそれなりに残す以上、起承転結の方法論に即していへば、その輝く頂はされども転部に止まる筈だ。以降に更なる決定的なもう一手間を設けることもなく、いはば長いエピローグを費やしながらなだらかな着陸を果たす終盤には、物足りなさを覚えなくもない。北沢幸雄の都会的な円熟を深く味はふことのみによつて良しとするや、あるいは標準的な物語構造を有した劇映画を求めるのかによつて、大きく評価も分かれようか。

 キャスト残る佐瀬佳明は、一件がひとまづ収束してからの数ヶ月後、家には戻つたとはいへ相変らず奔放な日々を送る理沙子の、援助交際相手。俳優部からの濡れ場要員を、全くそつなく務める。


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 「監禁玩具 わいせつ狩り」(2010/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:岡輝男/撮影・照明:小山田勝治/録音:シネキャビン/助監督:小川隆史/監督助手:藤剛/撮影助手:大江泰介/撮影助手:花村也寸志/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/ネガ編集:有馬潜/現像:東映ラボ・テック/出演:鈴木なつ・藍山みなみ・河本博志・野村貴浩・村田頼俊・佐々木麻由子)。
 男の手の中で弄ばれるフィギュア素体、俯瞰の、何故かキネコによる街頭ガールズ・ショット。何処かしら高い場所から見下ろす画家の村川ならぬ白川、静もとい透(河本)は、目を留めた女の子と同じ体勢にフィギュアの形を変へる。と、いふと、ピグマリオン・コンプレックスなる特異なモチーフの陰から素敵なロマンティックを撃ち抜いた、山﨑邦紀2005年の傑作「変態体位 いやらしい性生活」中の写真家・渋沢蘭子(佐々木麻由子)の逆バージョンかと想起しかけたが、よくよく思ひ留まつてみるに、それは極々標準的なメソッドに過ぎない。とりわけ気に入つた鈴木なつが、待ち合はせたと思しき野村貴浩と連れ立ちその場を去る様子に、透が岡惚れな地団太を踏むのに合はせてタイトル・イン。ところで透役の河本博志は野村貴浩と同じく、ヨギプロダクション所属、であつた筈なのだが。2011年九月現在、ヨギプロダクション公式サイトに河本博志の名前は見当たらない。
 話戻してタイトル明けると、舞台はラブホテル。先刻までは私服であつた鈴木なつが、何故か女子高生の制服姿に。それは香坂唯(鈴木)と、ああだかうだ注文の煩い中島洋一(野村)の援助交際。三歳の時に両親を亡くし、以来親戚中をたらひ回しに。十八の時に家出した唯は、中島の求め以前に、人形のやうに生きることを旨としてゐた。中島からいいやうに玩具にされる、唯のモノローグ「私は人形」、「何も感じない」、「何も思はない」、「心なんて要らない」。良くも悪くも手慣れたもので、国沢実の演出は主人公を内向させるとひとまづ走る。一戦交へた中島とは別れ、立ちんぼ感覚でキャッチを仕掛けた国沢実には綺麗に袖に振られた唯は、寝床にするかと赴いた公園のゴミ箱から、腹が裂け綿の飛び出したクマさんのお人形を手に取る。すると、捨てるつもりならばその人形を呉れまいかと、新米女優の相沢美穂(藍山)が唯に声をかける。宿無しであるのを目敏く見抜き、唯を自宅に招いた美穂は、自身も親を知らぬ施設育ちであつた。人懐つこい美穂の温度と距離感とを疎んじつつ、行く当てもない唯はひとまづ厄介になる格好に。所変り、小洒落たコテージ風の白川邸。母親の峰子(佐々木)が、無断で外出した透を咎める。透の創作が捗らぬ風情を看て取つた峰子は、モデルを雇ふことを思ひ立つ。後々幾らか披露される、そこそこの水準の劇中透描画は、何処かで目にしたやうな気もするが、何者の手によるものなのかはクレジットもされないゆゑ不明。結果論的には、然程活かされる設定でもないものの、美穂はフリーターの彼氏(スナップで見切れるのは演出部?)の子供を身篭つてゐた。何かと金が入用な美穂は、まんまと好条件に釣られネットで拾つた透のモデルを募集するアルバイトに応募する。白川家を訪れた美穂を、紫色のフードで顔はほぼ隠した峰子が出迎へる。
 痒いところに手を、届かせないかの如き一作。裸の美穂―今回藍山みなみは、相変らず重量過多傾向に―を前に、一旦は普通に筆を走らせる透も、やがて飲み物に混ぜた薬物で眠らせあれやこれやする内に、あれよあれよと本格的な監禁状態に。初めは無関心を装ひながらも、やがて唯は人間的に美穂を案じ始める。一方美穂の携帯を触る透は、メールを送つて来る相手が、写メの画像から冒頭に心奪はれた鈴木なつであると知り、俄に心ときめかせる。屈折し倒した透の正しく純然たる片想ひに加速気味に連動させた、美穂のバイト先に突入する腹を固めた唯が“人形であることをやめる”過程が、今作の最高潮。都合三度目の対戦の最後に唯が中島に投げる、「あばよ、ヘンタイ!」なる捨て台詞には、2010年に少女の口から“あばよ”かよ!?などといふ野暮な疑問も、微塵たりとて感じさせない鮮やかな決定力が漲る。漲つた、時点に於いては散発的な、国沢実の充実が感じられもしたけれど。中盤より徐々に起爆装置が地表に露出する、ピンクの安普請から登場人物の頭数を更にひとつ減らす、<二重人格>ネタを、それなりに丁寧に割つたまでもいいとして、そこから拡げた風呂敷を畳む段が、どうにもかうにも策が尽きたかのやうに力ない。結局<峰子を絞殺した>のは誰なのよ、あるいは動機は何なのかといつた、物語の鍵を握る重要な情報も性急に通り過ぎられた挙句に、在り来りなマッド・エンドが生煮えなルーチン感を加速する。女の裸方面からも突出した威力を誇るシークエンスは用意出来ず、所々では輝きつつも最終的には漫然とした印象の強い、僅か二作に止まつた国沢実2010年最終作。何時の間にやら、気がつくと今年で監督デビュー十五年選手になるとはいへ、未だ世間を轟かせる戦果も挙げ―られ―ぬまゝに、国沢実はまだまだ中途半端に纏まつてゐる場合でもないやうに思へるのだが。
 そんな中、プアではあれ最も可笑しかつたのは、透がモデルの最中の美穂を二度目に眠らせる件。その際の透からの陵辱は、美穂の白日夢なのかはたまた現実なのか。といふ問題に対する回答が、美穂が捌けた直後、透は尺八を吹かせようとして噛まれた一物が、痛い痛いと悶絶する。遣り口のプリミティブな馬鹿馬鹿しさに、河本博志の稚拙さがいい感じに加味され、消極的なツッコミ処ではあれ反射的に笑かされた。

 出演者残り村田頼俊は、遣り取りから透中学時代の担任。佐々木麻由子唯一の濡れ場の、介錯を務める。


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 「ふしだら慕情 白肌を舐める舌」(2007/製作:多呂プロ/特別協力:南映画劇場[名古屋]/提供:オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:吉行由実/撮影:清水正二/編集:酒井正次/助監督:内山太郎・金沢勇大・江尻大/撮影助手:海津真也・関根悠太/タイトル:福岡美咲/ポスター:本田あきら/応援:小林徹哉・木村浩章/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/撮影協力:イマージュ・SOPHIA/協力:太田耕耘キ[ぴんくりんく]・森裕介・プラネット映画資料図書館/出演:平沢里菜子・華沢レモン・淡島小鞠・吉岡睦雄・岡田智宏/友情出演:内藤忠司・柳東史/名古屋エキストラ:南澤佳代子・横地孔・東内原車人・Kappa[カッパ]・中村ゆかり・山上竜馬・大久保卓弥・河村ゆみ・石川学・堀井恭章・北野智子・卍村・つぐちひろし・坪井篤史・木全哲・江尻真奈美・片桐芳樹・斎藤敏之・田中淳・小西恵・星野友紀/名古屋協力:吉田守伸・渡邊咲子・松岡三保・森久代・伊藤康一郎/特別出演:久須美欽一・池島ゆたか)。出演者中、内藤忠司は本篇クレジットのみ。
 女の肌を男の舌が舐めるショットを噛ませて、タイトル・イン。表題を最短距離で具現化した、アバンの強度はひとまづ十全、ではあつたのだが。
 アルバイト募集の掲げられた、名古屋は内田橋の成人映画専門館―但し、作中の設定ではピンクの小屋ではなく、洋画二番館―「南映画劇場」こと通称“南映”。稼働する35mm映写機と、館主の健太郎(池島)が神棚に拍手を打つ画を手短に繋いで、退職する従業員の永瀬か長瀬(柳)が、後釜アルバイトの面接に当たる。冴えない男(不明)を一人通過、続けて現れたのは、思ひのほか美しく快活な女・鈴子(平沢)であつた。健太郎の旧友で南映常連客の、小林(久須美)や古川(荒木)らによる脊髄で折り返した後押しもあり、鈴子はその場の勢ひの即決で採用される運びに。早速レローンと鼻の下を伸ばす小林らに対し、健太郎は釘を刺す。
 取り立てて纏めるほどの梗概すら非感動的にまるで存在しないゆゑ、以降残り配役を登場順にトレースしておくと吉岡睦雄が、鈴子の当初転がり込み先でもあるセフレ・直也。別の女(絡み合ふ足しか抜かれず、撮影上は平沢里菜子の二役である可能性が高い)の存在に直也宅をコッソリ飛び出した鈴子は、以降夜は繁華街を彷徨ふ生活を送る。正面を向いた首から上が何故か巧妙に回避される内藤忠司は、目撃した小林と古川が後を尾けてゐるのも知らず、鈴子が最終的にはホテルにまで入る行きずりの中年男。華沢レモンは、鈴子の火遊び問題を巡り、古川と大喧嘩した健太郎が諫められつつ小林と向かつた、「ニューソープランド づか」―現存する―の泡姫・ミドリ。この辺りから粗雑な綻びが徐々に顕著となり始める岡田智宏は、実際に母親―あるいは健太郎亡妻―の葬式以来顔を合はせるのは三年ぶりで、それまでも金の無心くらゐにしか帰つて来ず、当然南映を継ぐ気はない健太郎の息子・昭雄。気軽にホテルで情を交した鈴子に、昭雄は出し抜け極まりなく求婚。若夫婦(予)が切り盛りする、とりあへず順調な南映に招かれざる淡島小鞠が、昭雄を追ひ駆けて来た妊娠中の元カノ・香苗。幾ら三番手とはいへ、来名直後の昭雄と香苗の一戦は、鈴子とのもの以上にもしくは以下に、あまりにもぞんざいだ。あるいは、この拙速な昭雄の処遇に、展開上は押し殺すに如くはない、荒木太郎の瑣末なリアリズム、乃至は現実諦観が窺へるのか。といふのは、下衆が勘繰るにも度が過ぎるであらうか。
 オーピーのカンパニー・ロゴ直後に多呂プロ50本記念作品が謳はれる、荒木太郎2007年第一作。当サイトの、ザックリした整理の上では全国小屋ロケ行脚御当地映画シリーズ第七弾。但し公式には、“映画館シリーズ”の第四作とされる。何と何と何が省かれたのか、今はもう、改めて確認しようとする当然の労力すら疎ましい。といふのも、確かに叙情はそれなり以上に豊かであるともいへ、一本の劇映画を貫くに足るだけの物語の体を成すには、叙事が決定的に不足してしまつてゐる。そのため、御丁寧にも一度は捨てられるところまで含めウエディング・ドレスを持ち出した、挙句にロケーションは古い名画を上映中の映画館であるなどといふ、トッピングの闇雲な全部乗せにも似た健太郎と鈴子が終に結ばれるクライマックスが、清々しいほどに定着しない。そもそも、ともに出演時間は束の間に短い、華沢レモンと淡島小鞠が仲良く濡れ場要員のポジションに止(とど)まる中、女の裸を稼ぐ重責が平沢里菜子一人に背負はされた結果、鈴子にとつてオーラスの対健太郎戦が、最初の直也は兎も角としても、内藤忠司も入れると別に誇れはしない男優部四冠達成となつてしまふ点には、激しく躓くほかない。これでは、幾ら当該シークエンス自体は綺麗に取り繕つてみせたところで、単に鈴子の尻が激軽なだけに過ぎないのではないか。尺が尽きるに屈したが如く、唐突かつ無造作に迎へる終幕には、直截な心の声として「どうにかせえよ!」と唖然とさせられた。純然たる素人考へでしかないが、近作の傾向から吉行由実には娯楽映画の十全な組み立てを既に手中にしてゐる風も窺へるとなると、古いものを引張り出したのでなければ、ここは脚本がといふよりは、下手に気負つた荒木太郎が派手に仕出かしたのではないかと邪推させられる一作。半端な映画愛なり誠実さがこれ見よがしなだけに、なほ一層始末に終へない地雷映画。うつかり踏んだ者は、おとなしく己が不運を呪へ。
 一度もその敷居を跨いだことのない者が、平然とさういふ口ぶりをしてのけるのは本来ならば許さないのが個人的な偏狭ではあるが、兎も角甚だ残念ながら、南映画劇場は今年の五月二十二日を以て閉館した。映画単体の出来はこの際さて措き、古きよき時代の趣ある芳醇さを伝へる―現時点では“伝へた”―小屋の風情をフィルムに焼きつける点に関しては、しつかりと果たされてある。その限りに於いては、2006年五月末に矢張り閉館した、故福岡オークラ劇場にとつての「年上の女 博多美人の恥ぢらひ」(2002/主演:富士川真林《ふくおか映画塾》)同様、喪はれた小屋の思ひ出を留める一つの記録としての価値は、それでも厳然と認められ得るに違ひない。

 心なしか筆を滑らせるが如何にもシネフィル然とした小奇麗な面々が、クレジットにも名前の載る観客要員として、ロビーを中心にそこそこ大量に見切れる。顔触れの、何ともいへない馴染まなさに関しては劇中南映の敵が一般映画―ついでにイーストウッド率が矢鱈と高い―と来た日には、それも又やむなし。


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 「和服義母 通夜に息子と」(1998『喪服義母 息子であへぐ』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:竹洞哲也/メイク:桜春美/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:大橋陽一郎/効果:中村半次郎/出演:橘美希・林由美香・麻生みゅう・中川大輔・杉本まこと・久須美欽一)。
 宮沢りえの邪神フィギュアのやうなエクセス主演女優が、田中家の墓を参る。田中さんとは実際にはどちら様なのか、もしやロケ“墓”地で適当に目星をつけただけの、全然関係ない家の墓ではあるまいな。七回忌を迎へた亡夫に対し、モッコスな宮沢りえが不義を詫びた流れで、正に六年前夫が死亡した当日の、義理の息子との一戦が挿入される。今は元姓柿島の当時田中悦子(橘)が、高校生の義息・健児(中川)と禁忌を犯す。幾分若く未だ肥えてゐない中川大輔は、パッと見にはいよいよ兵頭未来洋に見える。デビューは中川大輔の方が先なので、正確には兵頭未来洋が中川大輔に似てゐるといふべきなのかも知れないが。話を戻して、乳は一応豊かであると同時に、腹回りも見事にではなくダブつかせる悦子が、達するのに合はせてひとまづ順当極まりなくタイトル・イン。今作の顕著な特徴として、関根和美のやうにその境目がへべれけとなつてしまふことは、新田栄の実は意外に実直な地力を以てして必ずしもないものの、劇中現在時制よりも、度々度々本当に度々おまけに延々差し込まれる、最終的には十数年前にまで遡る回想ないしは過去パートの方が、圧倒的に長く尺を支配する。
 で、あるので、本篇の順番は華麗に前後しながら整理すると、会社社長の夫・友孝(杉本)は、商用で海外渡航中の不在につき悦子が一人で守る屋敷に、軽く不良風の高校生で、この時は酒井姓である筈の健児が現れる。友孝の息子である旨を告げ、文字通り藪から棒に田中家に厄介になることを言明し家に上がり込む健児に、当然困惑した悦子が連絡を取つてみたところ、仔細の説明は省いたままに、友孝は現にその通りであるので面倒を見ることを、案外気軽に求める。ここで麻生みゅうは、これ見よがしな健児が、悦子の目を憚るでもなく早速連れ込むカノジョ・水沢容子。友孝には元々、酒井美紀(若干オーバーウェイトの林由美香)といふ恋人が居た。ところが美紀は、友孝にとつても友人であると思しき山口(全く登場せず)と結婚する。ショックを受けた友孝は、それ以外には一切語られずその後別れた理由も不明な前妻と結婚した矢先に、山口は急死する。忙しい世間だ。葬儀に駆けつけた友孝は、美紀と再会。今度はここで丘尚輝が当日の段取りを取り仕切る、口調から多分葬儀社の人間で見切れる。山口との短い結婚生活に幸福な思ひ出のなかつた美紀は、衝動的に出棺までの間隙を突きラブホに突入、友孝と関係を持つ。電話越しの声は兎も角、キャメラの前での芝居はこの件にしか出演しない杉本まこと(現:なかみつせいじ)は、幸か不幸か橘美希との絡みは回避する。健児は、要はその時に出来た子供で、程なく山口家からは籍を抜き女手ひとつで息子を育てた美紀の死去に際して、父親を頼つて来たものであるといふのだ。改めて後述するが、徒にややこしい家族設定のお話ではある。そんな折、結局成長した息子と顔を合はせることもなく、健児来訪後程なく、友孝は出先でテロ事件に巻き込まれ客死する。事前に最低限それなりの助走も噛ませた上で、衝撃がてら悦子と健児は終に一線を越える。と、今度はそこに憎々しい貫禄が堪らない、特に何するでもなく、弟の会社の稼ぎで遊んで暮らす放蕩兄貴・邦之(久須美)が登場。邦之は会社を健児に継がせると、悦子には端金の手切れ金を押しつけチャッチャと田中家から追ひ出す。そんなこんなで漸く開巻に立ち戻り、友孝の墓を参つた健児は、直前の参拝者の存在に気付く。コソッと参りコソッと捌けるつもりの悦子は追ひ駆けて来た健児と、六年ぶりの再会を果たす。
 ラストに至つて不完全無欠の唐突ぶりを爆裂させつつ開陳される、夫を裏切つた妻と、義母を寝取つた息子との木に竹すら接ぎ損なふ贖罪のメロドラマは、主演女優のエクセスライクな容姿と、ひたすらに、しかも主には過去の濡れ場で埋め尽くすばかりで一向に深化の気配さへ見せない作劇の前に、綺麗に形になり損ねる。兎にも角にも、無闇に複雑な田中家の家族構成を説明するまでに、全体の凡そ3/4を費やしてしまふ頓珍漢なペース配分が、清々しいまでに致命的だ。さうなると残される僅かな見所といふか、直截にはツッコミ処といふ意に於いての捉へ所は、岡輝男(=丘尚輝)がそこかしこで繰り出す珍台詞の数々。最も最早鮮やかなのは、義母と関係を持つた事後、さうなることを望んでゐたといふ健児は、「オヤジが死ねばいいつて」と口を滑らせる。すると悦子はそれを途中で遮るでもなく、「駄目、それ以上いはないで」。以下はあつてもそれ以上はあるか、全部いふてしまふとるがな(´・ω・`)
 美紀も美紀で、山口家からとりあへず走らせた友孝の車の助手席から、出し抜けに明後日に突つ込む、「抱いて!あの人が灰になつてしまふ前に」。意味が判らんと頭を抱へかけたが、どうやらこれは、山口との不幸な日々に対する、復讐の意味合を込めたものであるとのこと。いやしくも男子たるもの、それは林由実香の据膳であれば喰はぬ者は居るまいが、それにしても、地雷の火薬臭のプンプンする思考回路ではある。一方友之は友之で、健児がコッソリ再び田中家の敷居を跨がせた悦子を手篭めにすると、「成程、これが父と息子を誑かしたオメコか」、「大したビラビラだ」。底の抜けたいい加減な科白でしかないとはいへ、それでもそれをそれはそれとして頑丈に撃ち抜き得る、久須美欽一の定着力は侮れぬと称へておきたい。オーラス、手と手を取り自由な未来を求めて逃げる悦子と健児の足は地に着きはしないが、その姿を俯瞰で目撃した友之が間抜けに地団太を踏むショットは、シークエンスを連ねる手続き上、実は極めて実直な一手間といへるのではないか。


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 「ザ・緊縛」(昭和59/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:滝田洋二郎/脚本:夢野史郎/撮影:志賀葉一/照明:岩崎光/編集:室田雄/助監督:佐藤寿保/監督助手:笠井雅裕/色彩計測:下元哲/撮影助手:片山浩/照明助手:藤井稔恭/車輌:岩崎雅幸/スチール:田中欣一/出演:西川瀬里奈・中根徹・竹村祐佳・しのざきさとみ・伊藤幸子・佐藤靖・笠松夢路・池島ゆたか・螢雪次朗)。出演者中、伊藤幸子がポスターには何故か河井憂樹で、中根徹は仲根徹に、一体河井憂樹の名前は何処から出て来たんだ。佐藤靖・笠松夢路・池島ゆたかは本篇クレジットのみ。更に編集の室田雄が、ポスターでは酒井正次、怠惰なコピペか。
 煽り気味のパンで舐められる、四台並んで駐車したタクシーが一斉にヘッドライトを点灯。照らし出されるのは、一台の軽トラ。荷台の幌が勢ひよく外されると、そこには驚くことに、逆さ吊りにされた女(伊藤)が。調教師の螢雪次朗がビッシビシ女を責め始めたところで、ドガーンと画面一杯に大書のタイトル・イン、凄まじい開巻だ。それはさういふ形態で見せるショーで、宮園自動車のタクシー車中では、客(佐藤靖?)が固唾を呑んで見入り、運転席の北上(中根)は、気怠い風情を隠さうともしない。ある夜、北上は地に足の着かぬ女の一人客・ナツミ(西川)を拾ふ。満足に行き先も告げずナツミは車を戯れに走らせ、挙句に、気紛れに停車させると北上を夜空の下でのダンスに誘ふ。ところが時計の針が深夜零時を指すや、俄に血相を変へたナツミは要領を得ない客に呆れかけた北上もその場に残し、何かに追はれるやうにその場から走り去る。後には、余程慌てたのか踵を壊した、右足のハイヒールが脱ぎ捨てられてゐた。北上がとりあへず修理に出してみた靴はオーダーメイドの品で、なほかつ壊れた踵には、コインロッカーの鍵が隠されてあつた。一方、手下のヤス(こちらが佐藤靖かも)とサブ(多分笠松夢路)に、御馴染みスプーン印の角砂糖―劇中そのまま登場する―に注射針で絶対に物騒に違ひない薬物を仕込ませる、見るからにキナ臭い作業を行はせる螢雪次朗も、何かを持ち出し行方を眩ませたナツミ発見に躍起になる。竹村祐佳は、禁断症状に見境をなくし、螢雪次朗らのアジトに乗り込んでは刃傷沙汰を仕出かす女・アケミ。あちらこちらを当たり、何気にナツミと交錯しかけつつ終に北上が辿り着いたロッカーから出て来たのは、大西商事宛の封筒に入れられた、一本の六十分VHSテープ。中身は冒頭と同様のショーの模様であつたが、終盤に至ると不意に砂嵐が出て、以降には何も収められてゐなかつた。
 しのざきさとみは、北上の情婦的ポジションの、バーの女。純然たる濡れ場要員ながら、全盛期の弾力感溢れる超絶にグラマラスな肢体の、銀幕を轟かせる桃色の破壊力は正しく猛烈にヤバい。池島ゆたかは、大胆にもテープをタクシーの中で客に見せる北上の背後で、女の裸にではなく、北上自身にただならぬ関心を寄せる、妙に綺麗な顔にメイクした初老のホモ客。迎車ならぬ、ゲイ車といふ寸法である   >黙れ
 目的地の見えない不思議な女客は、夜の十二時になると、片方の靴を残しタクシードライバーの前から姿を消した。気恥づかしいまでの雑踏の片隅のシンデレラ物語はやがて、男が女を捜す内に何時しか非情な裏社会に首を突つ込む、ビターなハードボイルドへと移行する。無個性な美人の西川瀬里奈はひとまづ薄幸系の可憐なヒロインにそつなくハマり、ダボシャツも似合ふ螢雪次朗が終盤開陳する、手の込んだ真相は全篇を力強く貫くしなやかな求心力を発揮する。そこまではいいとして問題なのが、火中に栗を拾ひに行く始終の主動因たる、肝心のタクシードライバーに扮する中根徹の、手足の長さは映えるとはいへ如何にも人の好さうな童顔は、闇を孕んだ展開の担ひ手にしては如何せん厳しい。一旦物理的には自由となつた反面、実質的には更なる絶望に囚はれた北上とナツミによる、恐らくは意図的にハイキーな画の中で振り抜かれる、檸檬ならぬ角砂糖を用ゐたセンチメンタル・テロリズムは素晴らしく鮮烈なのだが、それにしても蛇足感を爆裂させる、何故か画質が著しく劣化する ―安価なビデオ編集の所以?―オーラスの薮蛇な逆回しが、激しく水を差す。強烈な先制打には度肝も抜かれたものの、以降の要々を押さへきれずに、アンハッピーな都会映画の秀作になり損ねた一作といへようか。

 各種資料に於いて、音楽を担当したとされる早川剛の名前は、少なくとも本篇クレジットには載らない。


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 「昼下りの教室 教壇に立つ女」(2001『高校牝教師 ‐汚された性‐』の2011年旧作改題版/企画・製作:シネマアーク/制作協力:セゾンフィルム/提供:Xces Film/脚本・監督:今岡信治/企画:稲山悌二・奥田幸一/プロデューサー:江尻健司/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:菅沼隆/録音:シネキャビン/音楽:gaou/監督助手:吉田修・伊藤一平/撮影助手:西村聡仁/照明助手:小山田勝治・たかだたかしげ/制作:山田剛史/ヘアメイク:マキ/スチール:本田あきら/現像:東映化学/タイトル:道川昭/協力:片山圭太・柳井孝一・堀禎一/出演:仲西さやか・武田まこ・鈴木敦子・河合誠・田島英治・藤木誠人・伊藤猛)。
 豪気にも八時十分まで寝坊した高校国語教師の和田沙代子(仲西)は、サラリーマンの夫・功一(河合)と慌てて家を出る。途中催した沙代子は、道端での座りションを敢行するもなかなか出ず、「シーシー」と排尿音を口で模し促すやう、周囲を慮り気が気でない功一に求める。授業中、三好達治の詩の解説をしてゐて感極まり、思はず涙ぐんだおセンチな沙代子に、男子生徒の川口孝夫(田島)は熱つぽい視線を注ぎ、そのことが、一応彼女的な藤原智美(武田)は面白くない。放課後、孝夫は一緒に帰らうと追つて来た智美を振り切り、校内に戻る。頃合を同じくして、沙代子が一人佇む生徒は誰もゐない教室に、顔をレジ袋で隠した不審者(藤木)が入つて来る。レジ男は睡眠薬を染み込ませた布で沙代子をポップに昏睡させると、犯し、半裸の痴態をインスタント・カメラに収める。手短な事後、揚々と引き上げる藤木誠人と入れ違ひで教室に現れた孝夫は異変を察知、依然朦朧とする沙代子を助け起こす。人を呼ばうとする孝夫を、事を荒立てなくない沙代子は一旦制する。仕切り直して二人で下校がてら孝夫は沙代子に、かうすれば落ち着くと、「ア、ア、ア、ア・・・・」と腹から声を出す発声法を伝授する。一方妻の一大事も当然露知らず、功一は同僚、兼浮気相手の山本由希(鈴木)とホテルにゐた。凄いのが、数回の出番がありながら、作中鈴木敦子が本当にベッドの上から下りない。翌朝、教卓の上に何気なく置かれた封筒の中に入つてゐた、昨日の強姦写真が沙代子を動揺させる。事態の解決策も見当たらないまゝ沙代子は孝夫に縋り、彼氏と女教師の距離が妙に近い様子に、アイスクリームが手放せない智美は直截な嫉妬の炎を燃やす。そんな最中、沙代子がかけた孝夫の携帯に、シャワー中の情人に代り出た由希は、本妻に対し華麗に宣戦布告する。
 シネフィルにもある程度広く好評を博する―寧ろシネフィルにこそ、とすらいふべきか―今岡信治にとつて、最初で事実上最後のエクセス参戦作。封切り当時は、概ね肯定的に迎へられたやうにもうろ覚えてゐるものであるが、今回改めて触れてみたところ、些かながら首を傾げざるを得ない。自身のレイプ被害と配偶者の浮気、そして三角関係にも派生する教へ子との淫行にと、沙代子は正しく全方位的に追ひ詰められる。そこからの沙代子が、元鞘に万事目出度く納まるに際しての、展開に蓋然性を付与すべき段取りが逆の意味で感動的に、清々しくさて措かれてしまつてゐる。拡げた風呂敷を畳む手間も惜しんで、とりあへずハッピー・エンドに落とし込んでおけばそれで“こんなもんでよかんべ?”、といふルーチンワークであればそれはそれとしてその限りに於いて、また別のアプローチからの評価が成り立たなくはない。但しそれにしては、全篇に隈なく敷き詰められた、シーだのアーだの戯れなミイラ男に唐突なドア外し等々、味はひ深く飄々とした今岡印をフィルムに色濃く刻印する、諸々のギミックは逆に不要ではあるまいか。ルーチンならルーチンらしく、瑣末な作家性なんぞ余計ではないのか、と思へたのだ、劇伴も概ね前に出がち。主演に当代人気美形AV女優の仲西さやかを擁し、脇を固めるのは爬虫類系クール・ビューティーの鈴木敦子に、意外と侮れぬHPを誇る高身長美少女の武田まこ。三本柱の粒は超絶に揃つてゐるものの、女の裸を見せることには後ろ二人に関して殊に、忠実ではない、あるいは素直ではない。さういふ、荒木太郎とはあまりにも表面的なベクトルは異なりつつ最終的には同様の、不誠実な裸映画。裸映画としての不誠実さといふ特質に達するや、同じく映画好きを標榜するオサレな皆さん共の好物で、最近あまり名前を耳にしない気がするQ・タランティーノの作風にも似た、煽情性とは別の意味でのいやらしさが感じられる。とまでいふのは、牽強付会を拗らせるにもほどがあるであらうか。

 配役残り伊藤猛は、コミュ障気味の教師・後藤、ある意味猛然としたリアルを叩き込む。その他そこかしこに生徒要員が、質的にも量的にも潤沢に見切れる。


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 「性愛婦人 淫夢にまみれて」(2010/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:後藤大輔/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:中川大資/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:海津真也/照明応援:佐藤吏/編集助手:鷹野朋子/タイミング:安斎公一/協力:関根プロダクション/出演:竹下なな・なかみつせいじ・里見瑤子・琥珀うた・野村貴浩)。
 オーピーのカンパニー・ロゴから開巻即タイトル、断崖と海のショットを噛ませて、劇中営業してゐる風情は特に窺はせないが、伊豆ピンクといへば御馴染みペンション花宴。管理人夫婦の、森崎一馬(なかみつ)と着付けのルーズな和服姿―柄的にも、殆ど浴衣に見える―の妻・鈴子(竹下)が、二人きりで朝食を摂る。毎朝のやうに、味噌汁はお替りし御飯はやめておいた一馬が食事を終へると、鈴子は衝撃的な一言を淡々と叩き込む「ところであなたはどなたなの?」。愕然としながらも、一馬は一旦そのことは後回しにし朝から夫婦の夜の営み。お玉で尻を打たれながら後背位で激しく突かれた鈴子は、景気づけの如く潮を噴く。出掛ける身支度を整へる一馬の、決まつて左前のベルトループに通し損ねた帯革を鈴子は甲斐甲斐しく直す。検査の結果、器質的な異常は認められなかつたが記憶障害の状態にある鈴子の為に、高校地学教師の職も辞した一馬は、森で新第三紀の示準化石であるレピドシクリナの完全体を探すことを日課としてゐた。私服を持たないのか、外を出歩く際も終始白衣の看護士・美咲(琥珀)が軽く顔見せ。実家かはたまた寮暮らしなのか、美咲を羨ましがらせるアパート生活を始めたこちらは普段着の先輩は、新居あゆみ。そして鈴子が掃除する室内には、鈴子と同じ着物を着た、里見瑤子の遺影が遺骨と並べて置かれてあつた。一面の黄色い花をバックに里見瑤子が微笑む写真の、コラージュしたことが丸判りな安普請は、繰り返し抜かれるアイテムだけに結構重く頂けない。翌朝、午後の紅茶、のペットボトルに入れた茶色い飲料を呑み呑み歩いてゐた美咲は、ここは少々粗雑に薮蛇だが何時もの森に向かふ一馬と擦れ違ふや、道にうづくまり嘔吐する。と、そこに、誰か家族の納骨の件と、芳しくない商売の為の金の無心とに花宴を目指す一馬の弟・聡(野村)が、車で通りがかる。然程緊迫した状況にも見えなかつたが、単に運転が下手糞なのか路上で吐く美咲に矢鱈と慌てた聡は、ポップにクラッシュ。意識を失ふほどのそこそこの怪我を負ひ、美咲が勤務する病院に担ぎ込まれる。その夜、シャックリにしか聞こえない女の啜り泣きに目覚めた聡は、医師に体よく遊ばれ傷心の美咲と一戦交へつつ、更に翌朝漸く兄宅に辿り着く。出迎へた鈴子を、聡は鈴子の妹の名前・春香で呼んだ。一方、弟とは行き違ひになつた格好の一馬は、追ひ駆けて来た美咲と、森の中にて対峙する。
 内田利雄ではない方の、ミスター・ピンクこと池島ゆたか2010年も順調に第四作は、PG誌主催、一般投票により選出されるピンク映画ベストテンの2010年度に於いて、作品賞・監督賞・男優賞(なかみつせいじ)・技術賞(音楽/大場一魅)の四賞を舐め、そこかしこで傑作傑作と無闇に誉れの高い注目作。尤も、そこにおとなしく乗つかれないのが、苦しいところといふか、より直截には小生の臍の曲がりを拗らせた辺りとでもいふか。ネタをバラさずには掻い摘めないので一応字を伏せるが、端的には<ミイラの伴侶気取りが実はミイラであつた>、といつた趣向の一作。中盤で話を割つてしまふのが早過ぎはしないか、との疑問は、夢から醒めてなほ、改めて新しい夢の世界に生きることを選ぶ男と女の濃密なドラマを前に、一旦引つ込めぬではない。正確には濃密さを、狙つたと思しき。間違つても詰まらないといふことはないのだが、それにしても、今作が2010年のピンク映画ナンバーワンといふには、些かならず遠いやうにしか思へない。あちらこちらに結構バラ撒かれた瑕瑾に関しては、前段に於いて既にそれなりに触れた。そのほかにも、一馬が無造作な契機を経て痛ましく哀しい真実に辿り着く件に際しては、その場に居合はせた筈の美咲が、頭を割つた男を前に職業的倫理もさて措き綺麗に消失してみせる作為を欠いたイリュージョンにも、激しく躓かずにはをれない。撮影期間の短いどころでは済まない僅かさも鑑みると、驚異的な大量人員を投入した場合不思議と抜群に冴える池島ゆたかの演出も、初期設定の六人タッグマッチを更に刈り込んだ布陣の前では平素の非感動的な甘さを発揮し、漫然と力無く間延びした印象は兎にも角にも強い。鈴子あるいは春香×聡、本丸たる一馬×美咲といふ、両面から秘められた真相に迫る構図自体は十全ではありつつ、竹下なな×野村貴浩に、なかみつせいじ×琥珀うたといふキャスティングはドラマの本格を射止めるには如何せん厳しい。最終的には心許なさを拭ひきれない、竹下ななを牽引するだけの馬力は野村貴浩には望めず、琥珀うたも濡れ場のフットワークの軽快さは光るが、総じては正直単なる小娘要員とでもしかいひやうがない。元々は、深町章に渡される予定の脚本であつた、とする噂を真に受けるならば、なかみつせいじと里見瑤子は生かした上で、ここは思ひきり素直に、春香もしくは鈴子に水原香菜恵改め奈月かなえ、美咲には亜紗美で、聡役は西岡秀記。藪から棒に寄り道してみると、協力に関根プロダクションとあることから関根和美監督版も夢想してみると、なかみつせいじはそのままで里見瑤子が春香役にスライドして、酒井あずさが鈴子、聡に天川真澄で、美咲は最早特段拘りもせずに鈴木ミント。十分に実現可能で、結果のよりよいこともある程度容易に予想される配役にあれこれ思ひを馳せるのは、意外と楽しい。とまれ話を戻すと、確かにネタ自体は魅力的ではあるものの、直截に全体的な完成度は然程高くはない。ギャースカギャースカ騒ぐほどの一本か?といふのが、最も率直なところである。

 個人的な嗜好を堂々と大上段から振り回すが、そもそも、ピンク映画ベストテン自体が相変らず偏向してはゐまいか。簡単にいふと、製作すらされてゐない国映系―いまおかしんじの河童ミュージカルも、何時の間にか単館映画になつてしまつた―や、三上紗恵子との心中路線が敬遠されてか荒木太郎色は大分薄まつて来たとはいへ、代りにといふか何といふか、五十音順に池島ゆたかや加藤義一や竹洞哲也が妙に持て囃される反面、2006年以降の、渡邊元嗣の軽快に見せて怒涛の充実が、まるで無視されて通り過ぎられる不遇は激しく腑に落ちない。ついでに深町章はそれなりに拾ひ上げられる傍らで、現在は事実上沈黙する新田栄は兎も角としても、小川欽也や関根和美も、何をどう撮らうとも端から存在すらしないといはんばかりの扱ひである。狭い、本当に狭い狭い仲間内で話を合はせる分には便利なのかも知れないが、いい加減この期に及んで、名前で映画を観る悪弊はそろそろ終ひにしないか。自身がズブズブのピンクスの分際で欠片の説得力も持ち得ないが、それは決して世間の傍目からは、開けてもゐなければ何処かへと通じるものではないのではなからうかと、明後日から一昨日に向かつて訴へたい。

 以下は再見時の付記< へべれけな着付けに加へ鈴子の和服は振袖だ。


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 「陵辱!白衣を剥ぐ」(1990/制作:メディアトップ/配給:新東宝映画/脚本・監督:片岡修二/製作:伊能竜/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:カサイ雅弘/監督助手:松本憲人・青柳誠/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・大沢裕子・深田みき・山本竜二・池島ゆたか・港雄一・下元史朗)。製作の伊能竜は、向井寛の変名。出演者中、山本竜二は本篇クレジットのみ。
 一応緊迫した手術室、単に薮なだけなのかも知れないが。難手術に悪戦苦闘する執刀医(山本)の左右で、看護婦の立花梨沙(橋本)が疫病神的腐れ縁の同僚・黒崎悦子(大沢)と、悦子の過去の粗相を主とした、場所柄も弁へぬ無駄話に花を咲かせる。ここで、焼肉用の食肉を用ゐてゐるのは一目瞭然ながら、脈動するギミックまで仕込み結構グロテスクな内臓模型が、ピンク映画にしては珍しい水準で登場する。どうやら山本センセイが仕出かしてしまつた様子はさて措き、梨沙はしつこく誘ふ悦子に負け、二人で男漁りがてら飲みに行くことに。とはいへ、堅気らしからぬ下元史朗が痴話喧嘩と思しき風情で騒ぎ始め、荒れた雰囲気に辟易した二人は早々に店も後に。店内にはほかに、客が二人とバーテンダーの計三人が見切れる。なほも往生際の悪い悦子は食下がり、結局は梨沙の部屋でのテレクラへと移行。悦子らが現役の看護婦であるのを知ると、ナース服で来て呉れたら一人五万出すといふ男の下に、渋る梨沙も悦子に引き摺られ向かふ羽目に。待ち構へてゐたのは、自身も白衣の、といつて医者には清々しく見えない変態男・佐伯恭司(池島)。すつたもんだしつつも佐伯は自らの左腕と梨沙の右腕を手錠で繋ぐと、呆れた梨沙は別に助けもしない中、右腕一本で器用に悦子を犯す。一方その頃、先刻の騒々しい筋者・野沢俊介(下元)の情婦・間藤亜紀子(深田)が、沼田耕造(港)に抱かれてゐた。幾ら下元史朗とはいへ、敵が港雄一では女を寝取られたとて文句もいへまい、重厚な親分感がバクチクする問答無用の貫禄が堪らない。ところがそこに、拳銃を構へた野沢が飛び込んで来る。ものの、腰抜けの野沢は先に銃を向けておいてロクに手も足も出せず、容易く返り討つ沼田から右肩を撃ち抜かれる。翌朝、事後悦子は逃げ、尻の穴の中に隠したとかいふ鍵が見付からぬゆゑ、仕方なく手錠で繋がれたまゝ朝の街を金物屋を探して歩く梨沙と佐伯の前に、亜紀子が転がす白のクラウンが急停車する。扮装から佐伯を本物の医者と誤認した亜紀子が、病院には連れて行けない野沢の手当てをさせようとしたのだ。そんな訳で四人が転がり込むのは、野沢のアジト。改めて気づいたが、幾分以上の潤沢さを感じさせる劇映画らしいロケーションの多彩さは、とりあへず光る。何故か自信満々の佐伯は兎も角、実際にどうにか出来ぬでもない梨沙の求めに応じ、野沢が脂汗を流し流し朝飯前だとヘアピンで手錠を外すや、解き放たれた佐伯は亜紀子も犯す。池島ゆたかの、ポップなセックス・マシーンぶりが快調。ここで振り抜かれる、身動きが取れない野沢の珍台詞が、「俺の巨乳に触るな!」。もうひとつ、佐伯が―亜紀子のバストサイズが―95センチはあるなと垂涎した点に関しては、正しく振り絞るやうに「98だ!」。狙ひとしては、一見強面が時折みせるお茶目さが憎めなくもある、といつた辺りなのではあらうが、如何せん野沢が実質的には基本非力な腑抜けに過ぎない以上、少々間抜けに過ぎる。逃げた亜紀子を追ひ佐伯も掃け、梨沙は一人で、野沢の肩から弾丸を摘出する。ここは些か飛躍も大きいが、以降自宅に匿はれた恩を正しく仇で返し、回復した野沢は、梨沙を陵辱すると会ひたければ会ひに来いだなどと、身勝手極まりない捨て台詞を残し姿を消す。
 今回観たのは旧題ママによる二度目の新版公開で、2002年一度目の旧作改題時の新題が、「巨乳と白衣 濡れた秘所」。即ち巨乳担当は深田みきで、白衣担当が橋本杏子―に大沢裕子―と相成る寸法。成程確かに、正しく“爆乳”といふに相応しいボリューム感溢れる迫力を爆裂させる、全盛期深田みきのオッパイと、佐伯の二戦とは明らかに趣向を違(たが)へた、野沢による緊迫した梨沙の強姦シーンは、二十優余年の歳月の隔たりにも些かたりとて色褪せぬ文句ない見応へがある。とはいへ、自脚本による凝つた展開で組み立てられた、白衣を剥がれた天使の復讐譚は、役者も揃つてゐる割には終始ルーズな演出に妨げられ、各々の場面が締まるなり映画全体としての求心力を持ち得るには終に遠い。リベンジを期した梨沙が頓珍漢なアーミー・ルックに武装した上出撃する時点で、ただでさへ短い尺を本当に殆ど費やしてゐた、半分くらゐは仕方のないペース配分も、勿論響かない筈がなからう。本来ならば魅力的であつたやうにも思へる物語が、形になり損ねた残念な一作。ハード・ロマンとコメディ要素の折衷に失敗したといふか、前者が完全に負けてしまつてゐる。

 どうでもいいがヘタレであると同時にインテリ臭い野沢が、部屋に亜紀子の訪問を受け、咥へてゐた煙草を栞代りに読みかけの誰かの分厚い全集に挿むのは、画的にはサマになるのだが実際には激越に危ないだらう。この気障な造形は、何処かに何か元ネタがあるのかな?


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