「団地妻 雨やどりの情事」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:西村昭五郎/脚本:久保田圭司/プロデューサー:栗林茂/撮影:森勝/照明:直井勝正/録音:高橋三郎/美術:徳田博/編集:堀田好倫/助監督:上垣保朗/色彩計測:関寿之/現像:東洋現像所/製作担当者:田中雅夫/協力:ホテル 目黒エンペラー/出演:宮下順子・水城ゆう・花上晃・鶴岡修・堀勉・高橋明・本田博太郎・日夏レイ・原田千枝子・田畑善彦・伊豆見英輔・小見山玉樹・賀川修嗣・田中加奈子・畑昇)。出演者中、伊豆見英輔以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
諸々開いた傘を俯瞰で捉へる雨の雑踏に、サクッとタイトル開巻。クレジット明け、スーパーに於ける主婦連の他愛ない噂話が、電光石火の速攻で藪蛇なエキサイトメントを叩き込む。曰く小見山さんの御主人がパイプカットしただの、再び小見山さんの御主人が鬘だだのと、西村昭五郎と久保田圭司、どちらの仕業なのかはさて措き、何でまた斯くも出し抜けに小見山玉樹をフィーチャーするのか。何れにせよ、量産型娯楽映画ならではの豊潤さを強く高く尊びたい。
団地妻の恩田千秋(宮下)が、エビフライにする海老を十尾買つて帰る。もしかすると俳優部後ろ二人が、千秋に二人ゐる子供(兄妹)の子役?ある夜、例によつて酔つて遅く帰宅した夫・肇(花上)から気紛れに求められつつ、小用を訴へた娘を手洗ひに連れて行つてゐる隙に、肇は寝てしまふ。千曲高校のクラス会に出席した千秋は、ザックザク言ひ寄つて来る同窓生・園部(本田)の勢ひに折れ、待ち合はせに指定された喫茶店「パール」に。ところが人を誘つておきながら園部に不義理を喰らつた千秋が、さりとて真直ぐ団地に帰る気にもなれず。漫然とぶらぶらしてゐたところ、街は何時しか雨。水をひつかけられたキャデラックから慌てて降りて来た北上準一ことジュン(堀)と、千秋はミーツする。因みに今なほ現役の堀勉が、ex.ミスタースリムカンパニー、中根徹も在籍してた時期があるんだ。
配役残り日夏レイと原田千枝子は、軽く台詞も与へられる千秋の同窓生・敏子と光枝。ある意味満を持して登場する小見山玉樹が、園部の詫びの電話を千秋に繋ぐ「パール」のウェイター。千秋には高級外車所有の富裕層を偽るジュンの本職は、高橋明が工場長の修理工場工員。高橋明の、トゥー・ワイルドなボス役の安定感。登場するなり高橋明が誰かを怒鳴りつけるか殴り倒すロマポが、全体全部でどれだけあるのか。鶴岡修も工員で、ジュン兄貴分の相良。水城ゆうは、相良の彼女・マキ。賀川修嗣は、アイハラから預つたキャデラックと工場の売上金を盗み、指名手配されたジュンを最初に発見する制服警察官。田畑善彦と伊豆見英輔は、ジュンを追ふ背広刑事。特筆すべきが、順番的にいふと賀川修嗣と田畑善彦の間に、千秋とジュンが度々使ふレストランのウェイター役で、クレジットレスの影山英俊が飛び込んで来るサプライズ。刹那の出番で確かな存在感を撃ち抜く、ロマポ脇役部の二大巨頭―本当は庄司三郎/a.k.a.サブも入れて三大巨頭―たるコミタマと影英が、ともにウェイター役で映画を掠めて行くのが側面的な今作最大の見所、本見所は正直知らん。
ロマポが誇つた一大看板の「団地妻」シリーズを、ピンクは兎も角買取系との絡みで、全何本にカウントするのが正解なのか自力で指折り数へてみるのも直截に面倒臭い、西村昭五郎昭和52年第四作。偶さか出会つた女と若い男が、銘々虚飾に塗れた逢瀬を重ねる。千秋とジュンが目黒エンペラーで乳繰り合ふのと同時進行で、徐々に捜査の網が狭まる情け容赦ないカットバックは、終に二人が大絶賛エッサカホイサカする部屋が官憲に踏み込まれる、西村昭五郎らしいドライ且つ無体なラストに否応なく帰結する。終盤はそれなりにスリリングかドラマティックに盛り上がらなくもないものの、野暮つたくグジャグジャ惰弱に執心するジュンに千秋が危ない橋を渡つてまで入れ揚げるのが些か理解なり共感に難く、先述したコミタマと影英や高橋明、個々に気を吐く俳優部の奮闘が、関の山といつた感もなくはない。タイトル・インから何となく団地にパンしこそすれ、代り映えしない日常に鬱屈とする、人妻の寂寥なり焦燥ならば兎も角、そもそも事件らしい事件は千秋が出歩いた先で主に起こるのもあり、画一的もしくは人工的といつた、団地そのもの乃至団地性は限りなく稀薄ではある。今からしてみると途方もない贅沢にさへ思へかねない、専業主婦が在り来りな閉塞感を拗らせるのに、最終的には集合住宅も戸建も関係なからう。プログラムピクチャーにあつてフォーマットを否定する、難癖気味の与太を吹くやうだが、人間はそこまで図式に忠誠を誓へはしまい。ただもう一点素面で目を引いたのが、驚く勿れ序盤を優に通過した二十六分で漸く初オッパイを披露する、千秋と肇の風呂場夫婦生活。陰影も噛ませた上で暈しを構図に取り込んだ、何気に超絶のショットには激しく感心した。
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