真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ピンク・ゾーン3 ダッチワイフ慕情」(2020/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:切通理作/撮影・照明:渡邊豊/撮影助手:渡邊千絵/録音:清水欽也/助監督:菊嶌稔章/監督助手:粟野智之/美術協力:いちろう/特殊造形:土肥良成/スチール:本田あきら/編集:渡邊豊/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄/協力:はきだめ造形・Abukawa corporation LLC./出演:佐倉絆・生田みく・並木塔子・折笠慎也・中瀬しんいち・橘秀樹・片桐俊次・西村太一・国沢実・安藤ヒロキオ)。出演者中国沢実は、本篇クレジットのみ。
 “宇宙の彼方に浮かぶ第四惑星”の、すゝき野原で伸びをした佐倉絆が振り向いてタイトル・イン。最初から提示しておけばいゝのに、何故か中盤まで温存する舞台設定を先に踏まへておくと、古典的なアダムスキー型飛翔体を主兵装とする、宇宙人連合軍が第四惑星に侵攻。人類は地下に逃れる一方、女性用ダッチワイフ―ハズバンドの用語は頑なに用ゐない―である男性型セクサロイドが都合よく一斉蜂起。不正プログラムの類なのか、機械にのみ感染するスペースQに脅かされつつ、苛烈な抗戦を繰り広げてゐるとかいふ世界観。を、掻い摘む画を作る能力が国沢実には端から望むべくもない中、ナレーションの力も借りつつ、昭和の紙芝居調の挿絵で簡潔に物語る絵師は不明。何気に、実際の俳優部に結構寄せる画力(ゑぢから)も披露してのける。
 セクサロイド看護師・東さくら(佐倉)の下に、上半身はサイヤ人戦闘服柄のロンT、下半身は迷彩パンツ―靴は銘々の私物―の負傷したセクサロイド兵・カルロス(折原)がパラシュートで落下。救護しようとしたさくらに襲ひかゝつたカルロスは、友松直之よりも大仰かつ珍奇に鳴らすSEとともに機能停止。国沢実が門番する、元々赴任する道すがらであつた前線のセクサロイド医療施設に、さくらはカルロスを担ぎ込む。ボイーンなりプルーン的に、即物的な煽情性に振る分には大目に見なくもないにせよ、子供騙し未満のラウドな音効はどうにかならないものか。音効に限つた話でなく、序の口に過ぎないんだけど。
 配役残り、所々で村上ゆう(大体ex.青木こずえ)ぽい貌も覗かせる並木塔子は、矢鱈と含んだ風情の婦長・南キク。その癖、これといつた中身ないし秘密なんて、別にない。登場順に橘秀樹・片桐俊次・西村太一・中瀬しんいちは大部屋に収容される、セクサロイドのヒデキ・セイジ・ゲン、とジングウジ。ヒデキにも、即ちヒムセルフのタチバナといふ苗字が与へられる。御無沙汰な印象の橘秀樹が振り返つてみると、「未亡人下宿?」シリーズ第二作の清水大敬2018年第一作、「続・未亡人下宿? エロすぎちやつてごめんなさい♡」(2018/主演:永井すみれ?)以来。話を戻して暴れてフリーズさせられるだけの役、の割にビリングが不自然に高いジングウジにスタンガン的な特殊警棒で引導を渡す安藤ヒロキオが、施設責任者を兼ねる軍医の岡部。フリーク・アウト制作の工藤雅典大蔵上陸作「師匠の女将さん いぢりいぢられ」(2018/主演:並木塔子)、渡邊元嗣2019年第二作にして、山崎浩治復帰作「悩殺業務命令 いやらしシェアハウス」主演を経てピンク三戦目となる生田みくは、さくらと仲良くなる同僚の北アザミ、ヒデキとはパーマネントな仲。
 国沢実2020年第一作は、「地球に落ちてきた裸女」(2017/脚本:高橋祐太/主演:阿部乃みく)と「淫乱と円盤」(2018/脚本:切通理作/主演:南梨央奈)に続く、「ピンク・ゾーン」第三作。さうは、いへ。PZ三作が互ひに全く連関しない以前に、「地球に落ちてきた裸女」以降の国沢実が、“空想特撮”ピンクを謳ふのが烏滸がましいにもほどがある点に関しては一旦兎も角、要は全作ファンタ傾倒もとい系統揃ひにつき、そもそも傍目には甚だ意義の不鮮明な、よく判らないナンバリングではある。全部似たやうな痴漢電車なのに、任意の三本をたとへば「どすけべ痴漢電車」で括る違和感、といつた風にいへば、当サイトが首を傾げる所以を御共有頂けようか。
 オープンの背景を平然と車が往来する、人類が地下に避難してゐる状況を、度を越した怠惰なのか底の抜けた無頓着なのか、説得力を有した映像で形にする気のサラッサラない国沢実に、壮大な宇宙戦争なり、謎解き交じりのSFロマンなんぞ期待するだけ無駄。小屋に木戸銭を落とした観客を虚仮にしてゐるやうにしか思へない、散発的に爆裂するイメージの迸る安さチャチさは商業映画ナメてんのかと、投げるのを思ひ止(とど)まつた匙を逆手に、ジョン・ウィックばりに柄で米神を狙ふたろかとでも思ふばかりだが、近年コンスタントに撮らせて貰へてゐるVシネ業界に於いても、国沢実は斯様にふざけた仕事ぶりなのかな?こゝはひとつ検証してみるかといふ気にも、無論ならない。他愛ないそこら辺の屋上にて、カルロスとセイジ&ゲンが妙な長尺も空費して仕出かす、他愛なくすらない大乱闘は、清大に劣るとも勝らない盛大な茶番劇。言葉を選ぶとゴミ未満のSPAC―公式に曰く“Science Pink Adventure Cinema”とかいふジャンルらしい、アホか―と比べると、思ひのほか正攻法な濡れ場が殊更に輝いて映るのは、多分逆説的な錯覚。普段はど不良が、捨て犬を拾つてゐる姿が云々といふのと同じ、所詮外道は外道である。一応振り抜きはする、ラストの豪快な巨大女―と巨大男が更にセックロス―でラッキーパンチを当てかけつつ、ショボい印字から見るに堪へない、足を洗ふ佐倉絆に捧げた陳腐なメッセージでみすみす茶を濁すにあたつてはもう国沢実天才、全速後進逆の意味で。実は同期のいまおかしんじ(ex.今岡信治)が一年後輩の荒木太郎ともども、手酷く梯子を外した大蔵から放逐される反面、未だプロパーあるいは子飼ひの座を保ちながらも、事この期に及んで国沢実が如何せん厳しい。内向性を拗らせてゐた暗黒期でさへ、まだしもマシかと生温かく懐かしみかねないくらゐに、現在進行形で過去最悪に厳しい。


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 「密猟妻 奥のうづき」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:菅野隆/脚本:いどあきお/プロデューサー:細越省吾《N.C.P.》/企画:飯塚和代/撮影:水野尾信正/照明:野口素胖/録音:伊藤晴康/美術:中沢克巳/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:中原俊弘/色彩計測:青柳勝義/製作進行:三浦増博/現像:東洋現像所/出演:風間舞子・中川みず穂《新人》・梓ようこ・桑山正一・北見敏之・中丸信・白山英雄・新井新一・田村寛・桐山栄寿・石塚忠吉・渡辺倫彦・相田麻理子・郡真知子)。
 女と男がシーツだけ被つて、絨毯の上に寝てゐる。おもむろに乳繰り始め開戦、中途で端折つた事後。愛欲の無間に厭いた二人は、死を決意する。庭からも望める海に、切り立つた断崖。登美(風間)が腰紐で梅沢治郎(中丸)と自らの胴体を結んだ上で、崖を海から抜いたロングに、中丸信(現:中丸新将)の絶叫だけ轟いて暗転タイトル・イン、上の句が赤く発色する。一年後、夏の浦安。公衆便所の窓から文字通り便所の落書きを舐め、壁に“来来軒の新ちやん”の逸物を彫り込んだ落書き通り越した落彫りに、生きてゐた登美が自慰に狂ふ。炎天下をパチンコ屋「さくらセンター」に退避、水で濡らしたハンカチで汗を押さへる登美は、凡そ助かる高さにも見えなかつたが、矢張りピンピン普通に生きてゐる梅沢と再会。その日は焼けぼつくひに再点火するでなく、登美は登美のために全てを捨てた、丸根達三(桑山)の待つアパートに帰宅する。因みに公式資料的には、登美の苗字も丸根。来来軒の新ちやんを捜し歩く―別の来々軒で空振りする、トシちやんが石塚忠吉―登美は、地下鉄の車中結局謎の男の電車痴漢を被弾。その様子を見てゐた女子大生・平山珠子(中川)が騒ぎたてるものの、登美は痴漢被害自体を黙秘。梯子を外された格好の、珠子はどうかした敵意を登美に燃やす。
 配役残り、死んだ目に妙な迫力のある北見敏之が、珠子から痴漢容疑者に挙げられる浅見静夫、もう一人ゐる髭はノンクレ、渡辺倫彦が駅員。新井新一は遂に登美が辿り着いた“来来軒の新ちやん”こと萩村新二で、相田麻理子が同じ来来軒の店員。梓ようこは本妻には子供を連れ実家に帰られたゆゑ、梅沢の情婦。当サイトはどうも、いはゆるWAMといふ奴が苦手だ、汚らしい。セールスマンか何かなのかアタッシュに淫具を持ち歩き、実に四十年後の2021年も現存するジョイトイ屋「APPLE INN」(新橋)に入つた浅見を追ひ、店の敷居を跨がうとする登美を白山英雄が制止する。浅見のために女房が死ぬ破目になつたとか訴へ、人殺しとすら罵る白山英雄を、一撃で床に倒す北見敏之の刀ならぬ抜肘術がカッコいゝ。そして問題?がこゝから、浅見と再び心中を仕出かし、又しても死に損なつた―浅見の生死は不明―登美は、警察署の表まで迎へに来てゐた丸根の眼前、道路挟んでパラノーマルに姿を消す。そして「三幸開発」のマイクロバスに揺られる登美が流れついたのが、みどりニュータウン分譲地受付会場。桐山栄寿と郡真知子に田村寛は、桐山栄寿が衝動的にブロックで郡真知子を殴り殺す男で、抵抗を試みたものの、返り討たれる田村寛が郡真知子の配偶者。二人の娘と思しき子役以下、分譲地には二十人近く投入される。
 世間的にどの映画が最高傑作と目されてゐるのか知らないが、全五作発表したのち、金子修介によると最終第五作後、ほどなく亡くなられたらしい菅野隆の昭和56年第二作にして、通算第二作。
 不老はさて措き殆ど不死すら手に入れた性愛ゾンビのやうな女が、夢の国建立前の浦安を舞台に底の抜けた貪欲で男を漁る。地獄巡りに片足どころか両足突つ込む、のも通り越して腰まで浸かつた一大もとい、極大エクストリーム作。箍の外れた執拗さで登子をつけ狙ふ、珠子―この娘絶対大学行つてねえ―まで含め鉄筋家族の町には狂つた人間しか住んでゐないのか?といはんばかりに凄まじく歪んだ世界観はグルッと一周した清々しさをも獲得。流石に何某かの特撮を駆使してゐるにさうゐない、まるでマンガみたいに登子のパンティからダッラダラ愛液が溢れ零れる描写も激越に、風間舞子の濡れ場をただただひたすら連ね倒すに徹する最早過剰なほどの裸映画は、元号二つと世紀を越えた今なほ、いはゆる“淫乱”系のフィールドを一切合財焼野原にしてのけかねない一撃必殺、ワン・アンド・オンリーな迫力に漲る。ゼロより空つぽに映る造成地、夫婦二人を惨殺したのち糸の切れた桐山栄寿に、近づいた登子は優しく唇を寄せ、当然の如くそこでオッ始める。だぶだぶにマンコを濡らした破廉恥な聖女が、血塗られた罪人を受け容れる。新約ルカ伝(15:1-7)―またはマルコ伝(18:12-14)―なり歎異抄の悪人正機説、あるいはハイロウズの「Happy Go Lucky」に通ずるシークエンスを飾るのは、穏やかに鳴り響くパッヘルベルキャノンの号砲。脳天に踵を叩き落とすが如く、有無をいはさず首を縦に振らせる一作。成熟する以前もしくは直前の、中川みず穂の硬質な美少女ぶりは現在でも十二分に通用し得よう反面、如何にも昭和スメルの強い、風間舞子の瞬間最大風速的に南風を吹かせたとてバタ臭ひ面相には正直食傷するほかなくもないものの、成程、この映画が世評の高さの所以であつたのか。


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 「ひとり妻 熟れた旅路の果てに」(2020/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/録音:丹雄二/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/制作応援:泉知良/撮影助手:赤羽一真/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:辰巳ゆい・並木塔子・加藤ツバキ・折笠慎也・モリマサ・安藤ヒロキオ)。
 ウミネコの生息地として知られる種差海岸(青森県八戸市)、夫は遅れて来る結婚十年の記念旅行で当地を再び訪れた、旧姓野口の菅原恵深(辰巳)が一人佇む。辰巳ゆいの、タッパがロングに映える。恵深が前回同じ場所に来たのは、職場結婚後も二年前までは勤めてゐた会社の、二年前の慰安旅行。倒木に十メートルくらゐ間を空けて座る、夫の洋介(折笠)と、膵臓癌で死去した―のが告別式出席で洋介の来青が遅れた所以―石庭柊子(加藤)の不自然な姿を目撃しながら、恵深には二人に声をかけることが出来なかつた。浜から海空を抜いて、何故か左端にせゝこましく入れるタイトル・イン。間もなく辞める人間が慰安旅行には来るのかよといふ、尻の穴の小さいツッコミ処も何気に否めない。
 初見では単なる適当なナンパ野郎にでもしか見えない、恵深に話かけて来る芹澤拓真(安藤)の顔見せ挿んで、宿に戻らうとする恵深は櫻井拓也とホソヨシの親爺も祝杯を上げた、和風食事処「松家」の表に、飯を食つた客(完全に不明)を見送る従業員で、高校時代の同級生・羽賀梢枝(並木)を見つける。続けて梢枝に道を尋ねる男は、トレードマークのチューリップ―ハット―的にもしかして新田栄ライクな竹洞哲也?恵深が普通に旧交を温めようとした梢枝は如何にもな訳アリ風情を滲ませ、当時快活な優等生であつたものの、ある日学校に来なくなつた梢枝には、駆け落ちしたなり中絶したなり、キナ臭い噂が囁かれてゐた。恵深がホテルで浴びるシャワーと、慰安旅行初夜ならぬ終夜に於ける夫婦生活の回想とで漸く本来求められて然るべきものを一頻り見せた上で、執拗に連絡の取れない洋介が一人になりたい旨のぞんざいなLINEだけ寄こして来た恵深は、梢枝と待ち合はせた翌日芹沢と再会。作家を語るか騙る芹沢に、本好きとか称する恵深が脊髄で折り返してマイッケル、もといホイッホイ釣られるアメイジング。
 配役残りモリマサは、梢枝と自宅の安アパート近くで別れた恵深が続けて帰宅し、梢枝に迎へられる姿を遠目に目撃する、足の不自由な漁師で内縁の夫の大原正行。バンク・ラバーで強盗殺人を犯した、大原の指名手配写真を掲示板に貼る制服警官はEJD臭く見えたが、確信能はず。
 脚本家以外同じ並びのスタッフを窺ふに、前作「発情物語 幼馴染はヤリ盛り」(脚本:小松公典/主演:川上奈々美)と青森二本撮りしたぽい竹洞哲也2020年第一作。常々あれだけ大蔵の寵児ぶりを誇る竹洞哲也でさへ、昨年は二本しか発表出来てゐない事実に、コロニャン禍半端ねえな!と改めて愕然とした、何をこの期に。指標おかしいだろ、世捨ててんのか。
 二番手の幸せと三番手の心を踏み躙つた主演女優が、素知らぬ顔でノーミス人生を歩み続けようとする。ある程度丁寧な心情描写で丹念に綴られるマリシャスな物語は、最低限酌めはするくらゐには見てゐられる。尤も、梢枝パートの殊更にテローンと平板な明るさの画は、徒なヘビーさを凡そ支へきれず、それでゐて、芹沢の存在に踵を返した梢枝に恵深が連れ立つ往来。ビリング頭二人の顔が、影に沈む非力なカットは尚更苦笑もの。丁寧な心情描写に関し“ある程度”と意地の悪い注釈をつけたのは、入念に埋め込む女優部三人に比して、男衆の扱ひが清々しいほどにスッカスカ。大原に関しては限りなく等閑視、無駄口ばかり饒舌な割に、芹沢が本当に物書きであるのか、自己啓発系すら疑はせかねない、単なる胡散臭いマンに過ぎないのか最終的に痒いところに手を届かせず仕舞ひ。大体洋介は何時まで一人になりたガールなのか、立腹した恵深が帰つてしまはないのが不思議で不思議で仕方ない、最早網の如くそこかしこに開いた穴が大きく多すぎて、一見落ち着いた語り口には反し、展開が満足に体を成してゐるやうには受け取り難い。とこ、ろが。「サイコウノバカヤロウ」第二作に劣るとも勝らず漫然と二連敗する、ものかと思ひきや。カットバックもするとはいへ、地味に絡み初戦から緻密に構築してもゐなくもない大胆なイマジンで放り込む、昔よりは十分延びた尺も利して満を持した、加藤ツバキに任せた締めの濡れ場があまりにも一撃必殺。ワーキャー褒めそやすには別に値しないにせよ、溜めに溜めた末轟然と撃ち抜く裸映画特有のエモーションが、百難隠して余りある一作。に、しても。実は何処までも冷酷な恵深の八幡馬スローを、何をトチ狂つたか都合三度二回リフする加藤義一でもしなささうな苔生した演出には、竹洞哲也どうかしたのかなと首を傾げた。

 フと気づくと加藤ツバキが田中康文大蔵上陸作「人妻エロ道中 激しく乗せて」(2013)でピンク初土俵を踏んで以来、今作で十三戦目、フィルモグラフィーを現在進行形で積み重ねてゐる。この人が恐ろしいといふか、素晴らしいのが今なほ全盛期を更新し続けてゐる点。花の命が、案外長い。


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 「特写!!13人のONANIE」(1990/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:佐久間勝/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/演出助手:松本憲人/撮影助手:佐藤和人/照明助手:中島一/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・加賀恵子・伊藤清美・井上真愉見・南野千夏・森みなみ・高中流水・中村京子・深田みき・鴻港しのぶ・香川久美・津村梅子・榊原いずみ・池島ゆたか・山本竜二)。
 Vサインみたいな凄い兎の浮かんだ満月に、「人妻13人絶叫黙示録」のVHS題開巻。如何にも作り物じみたあり得ない形の兎さん以前に、満月の外周が―月より―手前にある筈といふか、手前になくては絶対におかしい、木々を結んだラインを満月の外周が削つてゐるのだけれど、何処までいゝ加減な画なのか。そんな宇宙の歪んだ、岩形県変木郡落目村、ヘンボク郡の漢字は推定。助役(山本)と杯を交す村長・池ノ上豊太郎(池島)のが第一声が「いやあ参つた」と、画にでも描いたかのやうに判り易く困り果てる。その過剰なくらゐの判り易さは、決して藪蛇なクリシェなどではなく、量産型娯楽映画にとつて一つの肝要なのでなからうか。さて措き池ノ上が頭を抱へるところの所以は、昨夜シゲゾーの娘・サエコ(二人とも名前が口頭に上るのみ)が村を出ての、村内未婚女性消滅。即ち、深刻通り越して詰んだも同然の嫁不足。にも関らず、多分女郎的な三本杉のオサネ(橋本)の下に一週間ぶりで遊びに行つた池ノ上は、オサネがその間ONANIEで火照つた体を鎮めてゐたと恨み節を垂れるのにユリイカ!どうせ役所的なロケーションの工面を回避したにさうゐないが、池ノ上はわざわざ神社の境内に助役を呼びつけ、一ヶ月の東京出張を藪から棒に厳命。独り身をワンマンショーで慰めてゐる女の個人情報を助役にファックスで送らせた上で、集団見合の案内状を送りつける。とかいふのがオサネとの遣り取りを通して、池ノ上が閃いたミッション。深町章にしては秀逸すぎるやうにも思へて来るのは、何も当サイトが勘繰らせた邪推といふばかりでは必ずしもなく、他人に書かせた脚本を、さんざ剽窃してゐた報ひと解して頂きたい。
 いざ上京、右も左も判らない助役が、往来にて靴を飛ばしとりあへずの行き先を決めるのに、いきなり爪先が向いた方向とは逆に向かつてみたりする、早速底の抜けた珍道中。辿り着ける限りの配役残り、声で判る南野千夏が、最初の東京部。といつて、居室はオサネ宅同様、毎度御馴染津田スタで撮影してゐる点に関しては、改めて断るまでもあるまい。深田みきは何某かの理由で、中華まんとファンタグレープを暴飲暴食する二人目。のちに登場するナカキョンをも圧倒する、まるで風船みたいな爆乳が凄え。加賀恵子は、AVとバイブを使用する三人目。東京部中唯一役名の判明する伊藤清美が、風呂場で自慰に励む伊藤光子。この辺りから、確かに映画が窮屈にはなる覗き視点を放棄、截然と開き直り始める。女のつもりで覗いてゐたところ、男だつた美青年は綺麗に抜いて呉れないが、恐らく橋井友和。中村京子は、五人目の東京部(不明)と百合の花咲かせる六人目。後述するウェルカム落目村の狂宴に参加してゐるゆゑ、二人ともバイの模様。井上真愉見は生理中の看護婦、生理中にも看護婦にも、別に意味はない。助役が一人一人追つて行くのは、八人目となる北条杏子似の和服女まで。
 一月封切りの今作がもしかすると対正月戦線用の目玉で、矢張り深町章の五作後、八月公開の「激撮!15人ONANIE」(脚本:周知安/主演:岸加奈子)は多分盆。十二月の「実体験リポート ★13人★SEXパーティー」(構成・演出:業沖九太=北沢幸雄/ビリング頭は芹沢里緒)も、また年が明けての正月映画か。新東宝がこの頃余程景気がよかつたのか、ともおいそれと思ひ難いところではあれ、兎も角闇雲な女優部大量投入を一年に三度も繰り出してゐた、一の矢たる深町章1990年第一作。げに賑々しく、麗しき昔日よ。
 嫁の貰へぬではやがて男も郷里を捨てる、落目村存亡の危機の打開を図る破天荒な奇策。裸映画的にも勿論狂ほしく相応しい、見事な展開には「さう来たか!」と確かにときめいた。さうは、いへ。七組計八人を助役が順々に出歯亀して回る件が、気づかれては他愛ない小ネタで誤魔化し―損ね―て、気づかれてはまた誤魔化し―損ね―ての結構か大概な一本調子。折角の奇抜なプロットが膨らむ訳でも特にも何も全くないまゝに、池ノ上と助役にオサネ、東京からの参加者は南野千夏から和服まで全員出動の八人。“歓迎落目村”の手書き画用紙も踊る、十一人詰め込むと流石に手狭な、例によつての津田スタ和室。ところが現地隊の青年団が、前祝ひに羽目を外した挙句食中毒で壊滅。池ノ上はすたこら逃亡する中、さりとて池ノ上が盛つた媚薬にキマッた女達の渦に、山竜が呑み込まれる勢ひ任せのラストは、正直人海に胡坐を掻いた振り逃げ勝負と片づけて片づけられなくもない。女体に埋れた山竜が見えなくなるほどのある意味壮観を、エロスの霧散と難じるか、グルッと一周した一種のスペクタクルと称揚するかで、評価の大いに分れよう一作である。

 意図的に通り過ぎたが、改めて今作のコンセプトを再確認しておくと、レス・ザン・ブライドに悩む落目村に、東京から男日照りと思しき女達を捕まへて来る。ぞんざいな方便の是非に関しては一旦かこの際兎も角、だからさういふ趣向だといふのに、ビデオ化に際して“人妻13人”とか素頓狂なタイトルをつけてのける新東宝のセンス、いゝ加減な仕事にもほどがある。土台が何が黙示録か、バチカン怒つていゝぞ。
 最後に、見合会場に於ける東京から参加者八人の並びは、画面手前から時計回りに、和服・深田みき・南野千夏・ナカキョンのパートナー。上座の池ノ上と助役にオサネ挿んで、井上真愉見・加賀恵子・光子・ナカキョン。女達が池ノ上から送られて来た手紙に目を通す件に―のみ―登場する、不脱の謎美人入れてなほ名前が二人分余るやうな気がするのは、よもや加賀恵子がオカズにするアダルトビデオに出てゐる女と、電話帳記載の住所から光子に辿り着く前段、助役が話を訊く煙草屋のex.看板娘まで含まれてゐるのか?


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 「《裸》女郎生贄」(昭和52/企画・製作:新東宝興業株式会社/配給:新東宝興業/監督:渡辺護/脚本:高橋伴明/撮影:笹野修司/照明:磯貝一/音楽:飛べないアヒル/編集:堺集一/助監督:関多加志/監督助手:岡孝通/撮影助手:加藤好夫/照明助手:前田明彦/衣裳:南潔/車輌:松崎プロ/効果:秋山効果/衣裳:富士衣裳/小道具:高津小道具/現像:東映化学/録音:ニューメグロ/出演:泉リコ・青山涼子・国分二郎・港雄一・松浦康・安田清美・榊陽子・東あき・藤ひろ子・君波清・関多加志・青柳和男・三崎五郎・島雄一・中野恵子)。編集の堺集一が、ポスターには境修一、あとニューメグロで端折るクレジットなんて初めて観た。出演者中泉リコと青柳和男が、ポスターには泉理子と青柳利男。ポスターにのみ、中村文子・久保今日子・岡哲男の名前が更に並ぶ。
 開巻即、女がギッシギシ責められてゐるある意味清々しさ。足抜けを図つた女郎の千代(青山涼子/a.k.a.愛染恭子/但しアテレコ)を、女郎屋「山野家」の女将(藤)が下男の多分佐吉(不明)を伴ひ責める。最初にお断り申し上げておくと、今回手も足も出ない俳優部に関しては、潔く通り過ぎて済ます。場数を踏み重ねてゐるうちに、何時か答へが出る。のかも知れない、出たらいゝのにな。蓄音機が起動―トラックも特定不能―して、泉リコ以下、安田清美・榊陽子・東あきまで一遍に飛び込んで来る「山野家」の女郎詰所に、おもむろな感じのタイトル・イン。タイトルバックでは憲兵分遣隊本部から、制服の部下を連れたコスギ(港)が背広で出て来る。
 全篇を貫く統一的な物語も特にないゆゑ、辿り着ける限りの配役残り、泉リコは千代が責められる様子を偶々目撃して以来、距離を近づける小藤。鶴田面の安田清美がお京、太平洋と揶揄されるジャンボな観音様の持ち主。もう一人絡みを披露するアキがビリング推定で榊陽子、二人で度々お京を嘲る、アキの腰巾着ポジは覚束ぬこと極まりない消去法で東あきかなあ?a.k.a.木南清の君波清は、千代の水揚げに選ばれた山野家の上客・清水。ナベなりチョクさんなり、名ありとはいへ山野家―客―要員は憲兵部含め、この時代のしかもな頭数では無理。国分二郎が、歩兵第三連隊からの脱走兵・宮田誠一。コスギが探索に動くのと、宮本と名を偽り小藤を買ふ、のも通り過ぎる。松浦康は、客に敬遠されるお京―のやうな女―を捜し求めてゐた、配偶者を死なせるほどの巨根の御仁。規格外の者同士が結ばれる、麗しくもあれ全体的には木に竹を接ぎ気味の一幕は、高橋伴明の脚本に元々あつたものではなく、渡辺護が勝手に付け足した件であるとのこと。
 当サイト的には殊更ピンと来る決定力も感じさせない、“懐かしの新東宝「昭和のピンク映画」シリーズ!”で渡辺護昭和52年第七作。関根和美のデビュー作「OL襲つて奪ふ」(昭和59/主演:山地美貴?)辺りでも放り込んで呉れれば、俄然猛然とときめくのだけれど。
 考証的な頓着のまるでない、門外漢の節穴には十全に映る美術部と、そこかしこで藪蛇に画角を狙つて来る撮影部の闇雲な健闘には反して、演出部の腰は然程据わらない。始終を大雑把に掻い摘むと、これといつて別に何某かの深まりもない、港雄一の雑なアイアンクローで千代がパイパンにされる塾長パートと、中盤を支配するお京と馬並氏(超仮名)のドンキー・ミーツ・デカマンに、各々トッ捕まつた宮田と―宮田の子を宿した―小藤が、それぞれ拷問されるありがちな悲恋物語の三部構成。その中最も力を得るのは、結局最終的なエンドのハッピーとバッドの如何は描かれないまゝに、互ひに運命的な相手に巡り合つたお京と馬並氏篇。ではあるものの、所詮は枝葉、の筈。この頃狂ひ咲いた残虐ピンクの企画を遊女方面に振りつつ、反戦か権力批判の矛先も覗かせたい色気を窺はせかけ、ながらも。大して踏み込んでみせるでもないうちに、何となく尺も尽きた印象。かと思へば、砂丘に卒塔婆をブッ挿した、即席な宮田の墓を小藤が参る、ロングを適当に回した末に。“山野家から逃走した小藤は、それから八か月後、秩父山中で非国民の子供を産んだ。”その後の顛末を乾いた一文スーパーで片づけるブルーバックに、1/8画面サイズの“完”を有無もいはさず叩き込む豪快なオーラスが、正体不明の破壊力ないし、明後日か一昨日な余韻を残す。


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 「ズーム・アップ ビニール本の女」(昭和56/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:菅野隆《第一回監督作品》/脚本:桂千穂/プロデューサー:村井良雄/企画:小倉浩一郎/撮影:水野尾信正/照明:加藤松作/録音:伊藤晴康/美術:鈴木清倫/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:鈴木潤一/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作進行:服部紹男/緊縛指導:浦戸宏/出演:麻吹淳子・早野久美子・佐々木美子・北見敏之・平光琢也・草薙良一)。菅野隆に第一回監督作品の括弧特記に加へ、苗字には“かんの”と読み仮名まで振られる。“すがの”とか読みやがると承知せんぞ、並々ならぬ意思が清々しい。
 原つぱを逃げる女の足と、ヘッドライトを背負ひ迫り来る男。廃工場に追ひ詰められた女が、よくいへば如何にもおあつらへ向きに、直截には何故かそんな場所にポカーンと放置されたベッドに押し倒される。男が女を剥き縛りつけ、たところで。緊迫感でも演出したつもりなのか、小癪にもベタな裸映画を忌避したものか。即座に割つてみせるカットには疑問も禁じ得ない、一旦、豊かなオッパイを十全に見せておくべきではなかつたらうか。いよいよ男が覆ひ被さりクレジット起動、手短に端折つての事後。その場に一人取り残された女が、男が落として行つたライターを点け暗がりの中初めて麻吹淳子の顔を浮かび上がらせた上で、吹き消しての暗転タイトル・イン、女の字のみ赤く発色する。二年後、何がそんなに楽しいのかにへらにへらしながら玉葱を買ふのが薄気味悪い、当時世間を席巻したビニ本のカメラマン・村木を引つ繰り返した木村仁(北見)の周囲に、コートをキメた秋岡名美もといナミ(麻吹)が出没する。艦橋感漂ふ、軍事施設みたいな無骨さが矢鱈とカッコいゝ集合住宅のヤサに木村が戻ると、元々同棲してゐたモデルの吉原昌子(早野)が、新規居候のカメアシ・引田功一(平光)と真最中。木村が作つたミートソースを三人で食べてゐると玄関口で物音が、様子を見に行つた昌子ことマコが新聞受けに放り込まれてゐたと、筒状に丸められた百万円を持つて来る。
 配役残り、木村らが顔を出す「プリンス出版」に動員される、性別不問の結構な頭数には手も足も出せず。オカマ造形が陽水みたいな草薙良一は編集者の川本で、川本が連れて来る佐々木美子が、新人モデルの秦好江。ゲーセンにて一人荒れるマコを、ナンパしようとする二人組も不明。これがピンクなら、片方はすずきじゅんいちと来る相談なのだが。
 ツイッタで滅法面白いと評判の、菅野隆を見られるだけ―全五作のうち第四作除く四本―見てみるかとしたデビュー作。nfajで追へる助監督修行は四年間までであるものの、日活入社自体は、更に四年遡る昭和48年とのこと。
 最終盤闇雲なフルスイングを披露こそすれ、元々シンプルな復讐譚に、大した捻りなりうねりが加へられるでなく。シークエンスの突飛さないし、ショットの激越さに全てを賭けるイメージ勝負のソリッドなファンタにせよ、前年アップならぬインで一足先に初陣を果たした、黒沢直輔の「ズームイン 暴行団地」(脚本:桂千穂/主演:宮井えりな)にまだ分があるやうにも思へる。今作単体で激賞する声に些かならずピンと来ないのはこの際兎も角、面白い面白くない以前に首を傾げたのが、男女分け隔てなく、意図的な無機質でも藪蛇に狙つてみせたのか、俳優部の肌を微妙に血色悪く見えさせるマリシャスな撮影には、もう少し綺麗に撮らうと思はなんだのかといふより根本的な疑問を否み難い。さうはいつても要は全部見ても残り僅か三本につき、このまゝ先に進む。

 ひとつ地味に残る謎が、ナミと木村が二年ぶり二回目の廃工場でヤリ倒す傍ら、現場から二人が消えたため途方に暮れた引田が、一人猫と遊ぶ艦橋アパート(仮称)。に、行方を完全に眩ませてゐたマコが帰投する件。その際、マコが着てゐるトレーナーに―決して外れない周到さで―ボカシがかけられてゐる理由に辿り着けない。配信動画を節穴で見た感じ、元プリントから施されてゐる処理であるやうに映つたのは、全体何が絶対に見切れてはならないデザインであつたのか。


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 「人妻の湿地帯 舌先に乱されて」(2020/制作:ネクストワン/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:工藤雅典/脚本:橘満八/プロデューサー:秋山兼定/音楽:たつのすけ/撮影:村石直人/照明:小川満/録音・整音:大塚学/VFX:竹内英孝/助監督:永井卓爾/撮影助手:安藤昇児/演出応援:天野裕充/制作応援:中島章・矢島輝樹・下倉あつし/ポスター:MAYA/スチール:伊藤太/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/協力:浅生マサヒロ・KOMOTO DUCT/出演:希島あいり・関幸治・麻倉ゆあ・折笠慎也・古本恭一・並木塔子)。
 後ろ手に縛られた状態で椅子に座らされた主演女優に、ワイングラスを手に男が迫る。無理矢理飲まされ、零れた赤ワインが肌着を濡らし女は犯される。黒の暗ならぬ赤転、遠目に煌めく水面の覗く、晩秋の森にタイトル・イン。配偶者の―精神的な―病を慮り、山中に移つて来た心療内科医・松村浩司(関)がチャンピオンのジャージでジョギング。グリップの効いた足の運びを窺ふに、関幸治が普通に走れる模様。道に落ちてゐた、山歩きに正直相応しくはない左足のハイヒールに続き、松村は湖畔に倒れてゐる希島あいりを発見。脈拍と呼吸を確認した上で、自身の医院に運び込む。一旦自宅に戻りシャワーを浴びる松村が、完全に目のトンだ風情の妻・和枝(並木)の求めを拒む地味な絶望噛ませて、松村家を訪ねた屋号不詳の水道屋・北本裕介(古本)を、バスローブを肩に乗せただけの半裸未満で和枝が出迎へる。一方、スナップを手渡し「これが君だよ」。松村メンタルクリニックに、陽子(希島)の夫・葛城匡(折笠)が未だ自失した妻の回収にサクッと現れる。面倒臭い仔細を序盤にして大胆か大雑把に端折る何気に大概な飛躍は、実はそれでもまだ序の口。配役残り、私服にエプロンを巻いた麻倉ゆあは、生活感どころか使用感をも稀薄な、葛城邸住み込みのお手伝ひ・佐伯真理子。こゝでメイド服等を求めるのは、却つてやりすぎなのか。
 もしかせず最初からいはれてゐた議論であるのかも知れないが、迂闊にして今回初めて辿り着いた認識が―多分最初の“最後のピンク女優”―ハシキョンに表情が寄つて来た気がする、並木塔子が二本続けて張つたビリング頭を、最も過小評価した場合でも今世紀最強の痴漢電車「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016/監督・脚本:城定秀夫)からピンク二戦目の希島あいりに譲つた、工藤雅典大蔵第三作。どさくさ紛れにこの期な筆を滑らせると、「君等理解したな。俺にはもう、ピンクですることはないぞ」。超絶の電車痴漢トリプルクロスを構築するにあたり、究極に突き詰めた論理と、その論理を突き詰める情熱が箍を蹴外して狂気の領域に突入しかねない。「マン淫夢ごこち」といふ問答無用、天下御免の傑作を卒業制作に叩きつけた城定秀夫が、ピンク映画から足を洗ふものかとこゝだけの話当サイトは思つてゐた、何処だけの話なら。
 壊れた妻と半ば隠遁する医師が、記憶を喪つた美しい人妻と巡り合ふ。浮世離れた松村家―葛城家は陽子の実家が太さう―の生活経済は兎も角、ありがちな物語で、工藤雅典が相変らず非力に茶も濁し損なふ、ものかと高を括つてゐたところ。アニー・レノックス、もとい、あに図らんや、“あに”しか合つてねえ。最初は陽子に処方する、強めの眠剤で丁寧に埋めかけた外堀を、色んな律に触れるのも省みず、松村が強引に突破して雪崩れ込む怒涛の終盤が圧巻。矢継ぎ早に放たれる超展開の連打通り越した乱打で形成する弾幕で、些末な疑問ないしツッコミ処なんぞ粉微塵にケシ飛ばしてみせる勢ひ任せの豪快な作劇は、有無をいはさぬ迫力でサスペンスぽかつた導入を、パワー系のファム・ファタルに無理から固定してのける。開き直る以外に、未だ映画史の中に最適解が恐らく見当たらない、あんまりかぞんざいな階段オチはさて措けば。さうはいへ、果たしてこれが、工藤雅典が採るべき戦法なのか?と問ふならば、邪なる存在の活写に長けた、松岡邦彦の重低音高速ビートにより適した物語であつたやうな、素朴か粗忽な疑問も決して残らなくはない。尤も、着衣のファースト・カットがデッサンが狂つてさへ映る、麻倉ゆあの爆乳を的確な仰角で狙ひ続ける賢慮ないしジャスティスに加へ、あるいはそこまで含めての周到な造形であつたのか、「マン淫夢ごこち」時の徒なチーク―あとSNSに於ける過剰処理―を排した希島あいりの、直球勝負の絶対美人がナチュラルかつ、エモーショナルに輝く。淡い陽光の差す静かな森の中を、何するでなく陽子がぶらぶらする。よしんば他愛ない動くポートレートであつたとて、陽子が適当に散策する件は全然飽きずに心奪はれ観てゐられる、結構な美しさにして案外な完成度。さういつた端整さに関しては、矢張り工藤雅典に分があらう。ラストで倒立するアバンが、実は引つ繰り返すためにのみ設けられた、全く以て便宜的なシークエンスに過ぎない辺りも奮つてゐる。思へば遠くへ来たもんだ、振り返ると大蔵初日は遥か彼方におろか、あれも違ふこれも違ふそれは論外と一本づつ遡つてみたところ、驚くもしくは呆れる勿れ、2008年第一作「おひとりさま 三十路OLの性」(主演:友田真希)以来、工藤雅典にとつて実に十二年ぶりともなる久々の白星。一見雰囲気があるかに思はせ、その実大して中身に掠りもしない、インパクトすら薄い公開題に関してはこの際忘れてしまへ。


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 「満員通勤電車 集団痴漢」(昭和63/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:幡寿一/監督助手:中村和愛/撮影助手:青木克弘・林憲志/照明助手:小田久/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化工/出演:相原久美・中村深雪・秋本ちえみ・川奈忍・橋本杏子・ジミー土田・成田誠・山本竜二・池島ゆたか)。助監督の幡寿一は、佐藤寿保の変名。jmdbは深町章とする脚本がスッ飛んでゐるのは、本篇クレジットまゝ。
 サンヨーのCDラジカセ点火、ゴトンゴトン鳴り始める電車音を追つてクレジット起動。老けメイクの池島ゆたかが神妙な面持ちで耳を傾け、日に焼けた相原久美が、えつちらおつちら危なかしくガラス戸を運ぶ。「幾ら昔電車の中の掏りで財を成したからといつて」とか、清々しい説明台詞でユミ(相原)が不満を垂れつつ、表だけ適当に抜く豪邸にタイトル・イン、中は何時も通り津田スタ。小出しされる設定を整理すると電車スリ長者―実に奮つてゐる―の仙三(池島)は、今や男性機能も失し侘しい独居。女優志望の女子大生であるユミを仙三がバイトで雇ひ、ユミと同居する、脚本家志望のミカが書いたシナリオを元にした電車痴漢プレイで回春を図る。だなどと、凝つてゐるのか矢張りいゝ加減なのかよく判らないコンセプトの上、例によつて互ひに全く連関しない、無頓着なオムニバスが出発進行するといふ次第。
 配役残り、成田誠は他三名と公開題を偽らぬ集団痴漢を敢行する痴漢師で、川奈忍がその獲物。問題が、他三名のうち二名が識別不能。川奈忍を囲む時計回りで最後が模造山宗的な成田誠、三人目は恐らく、現状確認し得る、二番目に古いキャリアとなる中村和愛。最古は今作の二週間前に封切られた、片岡修二同年第五作「人妻ワイセツ暴行」(脚本:瀬々敬久/主演:風見怜香)。最初の男がどう見ても佐藤寿保には見えず、佐々木浩久似の二番目も心の底から誰だこれ。川奈忍が痴漢させた男から掏るスリ師で、手業込みで一番気に入つた成田誠を、現行犯逮捕を装ひ連れ込みに拉致るオチ、川奈忍のオッパイがヤベえ。そして綱島渉か蘭汰郎、あるいはより時代的に近いところだと、頂哲夫にそつくりな逸―脱した素―材である中村深雪が件のミカ、ユミとは男女ならぬ女女の仲。橋本杏子とジミー土田は、向日葵の髪飾りをつけてゐる女と、向日葵の髪飾りを目印にした、デートクラブの嬢と車内ランデブーする手筈の男。偶々向日葵をお召しになつてゐただけのハシキョンにジミ土が誤爆する、自脚本にしては複雑であるやうに、思へなくもない一幕。凄まじいアイシャドウ―が地味に秀逸な造形―の秋本ちえみと山本竜二は、クリームまで持ち出し菊門責めを所望する秋本サキコと、捕獲されるヒムセルフ。サキコがアテレコ主不明―の男声で―でチョイチョイ顕す本性に、ネタが割れるパンチライン。
 未見作が結構ex.DMMに残つてゐるぽい、深町章昭和63年第五作。当サイトの通過本数的にナベなり浜野佐知を躱すのは確実、新田栄にも届くのかな?さう来た日にはエク動に、ジャンジャン気を吐いて貰ふほかない。
 何れもとりあへずオトしてみせるだけまだマシな部類、といつた三篇の連なりに然程どころでなく面白味なり趣があるでなく、セコい影絵で仙三―の逸物―が徐々に回復を果たす、他愛ない本筋にしても同様。悪い意味での男顔に劣るとも勝らず、壮絶にダサいヘアバンドに失神しさうになる中村深雪と、百難隠す命綱をも、日焼けで失した主演女優。ただでさへ心許ないビリング頭二人が、普通にクリンナップとして成立し得る後ろ三人に爆殺されるしかない、そもそも頭数自体藪蛇な布陣が如何とも切ない一作。一応二番手であるにも関らず、中村深雪にとつて唯一かつ五人中最も束の間な濡れ場となる、ユミと咲かせる百合をあまりにも唐突すぎて吃驚させられるド中途でブッた切つての、橋本杏子パートに移行する無造作極まりない繋ぎの衝撃が、琴線の触れ具合に於ける、この際正負は問はない最大値であつたりもする。


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