真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「股間の純真 ポロリとつながる」(2017/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:吉行由実/撮影:藍河兼一/録音:光地拓郎/音楽:柿崎圭祐/編集:中野貴雄/助監督:江尻大/整音:西山秀明/効果:うみねこ音響/グラフィック:竹内雅乃/タイトル:佐藤京介/監督助手:八巻太郎/撮影助手:柳田純一・赤羽一真/スチール:本田あきら/ロゴ:小田歩/ポストプロダクション:スノビッシュプロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:あゆな虹恋、可児正光、相澤ゆりな、しじみ、柳東史、竹本泰志、倖田李梨、吉行由実、白石雅彦、小田歩、井尻鯛、シャルロット、エドアルド・フェラーダ、樹カズ)。出演者中、白石雅彦から井尻鯛までは本篇クレジットのみ。アルファベットが並ぶ協力を、手も足も出せずにロストする。
 何故かエンブレムに馬に跨る伊達政宗のシルエットをあつらへた、オフィス吉行三代目カンパニー・ロゴ御披露目。伊達政宗なのは吉行由実の東北出身人選にしても、そもそも何でまた戦国武将なんだろ?何処ぞの姫君ならばまだしも。
 ザラッとした処理を軽く加へられた開巻、幼少期空手大会少年の部で優勝した記念のスナップ(丸々とした男の子が誰なのかは不明)も飾られる玄関口で、完ッ全に女の子の姿で現れた中原ひかる(あゆな)に対し、父の武(竹本)は困惑でひとまづ立ち止まる一方、母・久美子(吉行)は脊髄で折り返した拒否反応を示し、ex.一人息子をヒステリックに追ひ返す。とぼ暮れた帰り道、ひかるはチンピラ二人組(小田歩と、もう一人は演出部?)にボコられてゐた桂木玲二(可児)を、初段の空手で撃退。のちにもう一幕なくもないアクションに関しては、お察しの方向で。忽ちいい雰囲気になつたひかると玲二は、そのまゝホテルに。順当に上から攻めた玲二が、ひかるのパンティの中、未だ落としてゐないひかるに立ち止まるシークエンスが秀逸。そこで超絶のタイミングでタイトルかと思ひきや、ここが劇中最大の飛躍なのだが、玲二は特段意にも介さず続行。事後改めてキスを交して、キラッキラのタイトル・イン。五年後、ゲイのジョージ(柳)が店主の飲食店で働くひかると、ホワイトカラーの玲二は結婚を決める。ひかるのbookもといFace noteでそのことを知つた、玲二の母親を名乗る藤野真紀(倖田)からのリプライが着弾。施設育ちの玲二が唯一持つてゐた母親の中学時代の写真と、真紀は同じ女であつた。
 配役残りシャルロットとかいふ割に多分東洋人のシャルロットとエドアルド・フェラーダは、ジョージの店の常連客でひかるとは友人のアキと、アキの新しい彼氏・エド。よくよく見てみると背景の店に似顔絵が飾つてあるゆゑ、エドアルド・フェラーダはロケ先のオーナーか何かなのかも。ハモニカとアコギで武装した樹カズは、店に出入りするジョージのパートナー・健吾。占師である真紀の、背中しか見せない客要員は流石に判らん。しじみは中原物産婿養子社長である武の秘書兼、久美子と別居後は家に転がり込む仲の愛子。ププッピドゥなウィッグは正直木に竹を接ぐ相澤ゆりなは、玲二の元カノ・恵。白石雅彦は、飲みには付き合つて呉れた恵に、ホテル行きを強要する中年男、その場に通りがかつたひかるにノサれる。そしてa.k.a.EJDの井尻鯛が、二人の結婚お祝ひ動画に顔を並べる、ひかるの幼馴染・大木淳一。
 白馬に乗つた王子様の出現を待ち望むお姫様気触れ、ではなく、本格的な性同一性障害の人物をヒロインに据ゑた、吉行由実2017年第一作。玲二が触れるひかるが特に隠しもしない持ち物に、性転換手術の資料も登場する。といつて、何だかんだ議論の種となるなり何やかや生臭い、アクチュアルな部分を今回吉行由実はある意味潔くスッポリ等閑視。ピンクの安普請上不可避の制約も含めてか、ひかるが男児、ないしは少年時代に体験した苦悩もしくは軋轢は綺麗に通り過ぎ、個々人の呑む呑み難いは兎も角、何時の間にか同性婚が認められた仮想日本を舞台に、全てのセクシャリティがある程度当たり前に共存する一種のファンタジーとして物語は進行する。その上で、一にも二にも特筆すべきは、普通にラッブラブでキュートなあゆな虹恋、即効性の肉感を爆裂させながら笑ひ処も撃ち込んで来る相澤ゆりな、しつとりとした情感を正攻法で撃ち抜くしじみと、三本柱三様の見事な濡れ場の描き分けが何はともあれ素晴らしい。とりわけ、相澤ゆりなを後背位で突く樹カズの、更に背後から柳東史がヤナーギーと大登場するショットは天才の仕事だと感動した。無論、連ケツする。体調不良を装ひ自宅に連れ込んだ玲二が、会社に一本電話を入れてゐる隙に恵は服を脱ぐ。振り返つた玲二がうは・・・・と項垂れるノリツッコミ風のカットを加速する、恵の「汗かいちやつた」なる底の抜けた方便には今上御大かよ!と草も生やしかけつつ、対照的に、社長から最終的には武さんへと呼称が変る、丁寧に台詞を積み重ねる愛子と武の絡みの導入は至芸。お話的にも、中原家に勝るとも劣らない複雑かナーバスな、畳み損ねた場合藪蛇の誹りも免れ得まい玲二と真紀の関係に序盤で思ひのほか綺麗に片を付けると、中盤は飛び込んで来た煽情的な小悪魔が王道の三角展開を堂々と牽引。甘美なる女子トークピンクの奇跡の再来は今回も不発であつたものの、命名の妙も冴えるのか、愛子が狂気とスレッスレのドロついた情感、即ち日本語本来の愛を果たせはせずも苛烈に放つ終盤は、二段構へで温かく爽やかなラストへと軟着陸する。杓子定規にテーマ性に拘泥するならば物足りなさを誤認しかけないのかも知れないが、穴は何で恵がひかるの戸籍上の性別を知つてゐるのかといふ疑問―真紀の場合は、手相を見るのに手を取つた際察したにさうゐない―が語られない点と、不仲につき仕方もないにせよ、中原家夫婦生活の不在くらゐしか見当たらない、何気に完璧な一作。二人して大体常時何かを食べてゐる様も微笑ましい、ひかると玲二が銘々抱へる家族の問題込みの、ウェルメイドな波乱万丈を乗り越えハッピーエンドに辿り着く様にホッコリするにせよ、柳東史のヤナーギーに腹を抱へるにせよ、結局一番脳裏に焼きついてゐるのは相澤ゆりなのオッパイにせよ。観終つたあと心豊かに家路に着かせる、良質の量産型娯楽映画。寧ろ初めからそのセンに狙ひを定めての、アクチュアリティ等閑視が戦略的放棄であつたとしたら吉行由実の画期的大勝利となるのではなからうか。


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 「個人レッスン 触つてあげる」(1991/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:夏季忍/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:山崎光典/監督助手:渋谷一平/撮影助手:村川聡/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:石川恵美・南野千夏・中悠奈・南城千秋・荒木太郎・久須美欽一・川崎季如)。脚本の夏季忍と企画の伊能竜は、それぞれ久須美欽一と向井寛の変名。
 大学のキャンパスの画に、南城千秋の声で「真亜子ちやんどうだつた?」。返して「合格したは一郎君は?」、「落ちた」。二人で一緒に城西大を受験したものの、ストレートで咲いたガールフレンドの真亜子(中)に対し、成竹か鳴竹一郎(南城)の桜は散つた。真亜子は一郎に一年待つ旨と、それまでは会ふのを控へる一旦の別れを告げる。息子の大学受験不合格に際して、嫁に家を出て行かれた生活上のハンデを気に病む一郎の父親(久須美)の姿挿んで、一郎は真亜子の名を呼びオナニー、一方真亜子も真亜子で自慰に燃えてゐた。それにつけても、南城千秋はマスをかく芝居が日本一サマになる。成竹課長の部下で、一浪とはいへ一流大学卒の苗字不詳コースケ(荒木)は、一郎の浪人生活に予備校よりも家庭教師を勧め、大学の後輩を招聘するコネクションを確約する。尤も、野郎の家庭教師なんぞことごとく断られ、その時部屋に来てゐたほど懇意のファッションマッサージ嬢・春風うらら(石川)が、当人の気軽な思ひつきで一郎の家庭教師をすることに。
 配役残りイコールかわさきひろゆきとわざわざ断らずとも、一目瞭然吃驚するくらゐ変らない川崎季如と、ビリングに軽い違和感を覚えなくもない南野千夏は、うららの常連客・原黒金蔵か金三と、うららは成竹家につき店を休んでゐるゆゑ、代りに対戦する譲。本番禁止の貼紙があるにも関らず、当たり前のやうな勢ひで騎乗位に跨る麗しき世界。原黒に話を戻すと、南野千夏と一緒くたで純然たる一幕限りの単なる濡れ場要員かと思ひきや、全日本学生援護協会理事を名乗り、浪人生の親に裏口入学を騙るペテン師として大再登場、この人のトメは肯ける。
 Viva Pinks!戦第二戦はまたしても深町章の、1991年第五作。尺自体五十三分にも満たないコンパクトさに加へ、周知安(a.k.a.片岡修二)のやうに何かしら展開を左右するなり鍵を握るネタを盛り込むでなく、夏季忍(a.k.a.久須美欽一)による脚本は良くも悪くも無駄がない。付け焼刃の予想外どころか全然普通なうらら先生のカテキョぶり、うららに仮想娘を見る成竹と、父親を知らず、素直にその眼差しを受け止めるうららの思慕、そして原黒が起爆する一悶着。諸々ドラマの種もなくはないにせよ、下手な色気を窺はせるでなく、見事再び訪れた桜の季節に雪辱を果たした一郎と真亜子の、何故か青姦の締めの濡れ場まで一直線。昭和のコーヒー文化風にいへばアメリカンな裸映画ながら、反面石川恵美の穏やかで柔らかなエモーションに委ねられたとも目し得る始終は、長閑で心地よい。そんな中ハイライトは、家庭教師初日、晩御飯まで振る舞つた流れで、うららは成竹家に一泊。成竹がバスタオルと称して脱衣室に忍び込んでゐるのも知らず、シャワーを浴びるうららが浴室のガラス戸に―正直不自然に―尻を押しつける、オッパイならぬ尻ガラスも華麗に挿みつつ、先に成竹が夜這ひを敢行。狸寝入りがクロスカウンターする愉快な一戦の完遂後、うららは手洗ひに。そこに後塵を配した一郎が、親爺の菊穴に誤爆する定番シークエンスは、久須りんの満更でもなさ加減まで含め笑かせる。


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 「揺れる巨乳103cm」(1989/製作:プロダクション鷹/配給:新東宝映画/監督:珠瑠美/脚本:木俣堯喬/撮影:伊東英男/照明:沖茂/音楽:CMG/美術:衣恭介/編集:竹村峻司/録音:協立音響/録音:ニューメグロ・スタジオ/現像:東映化学工業・株式会社/出演:東美由紀・渡瀬奈々・刀根新太郎・嘉見力・須藤伸・あおい恵)。美術の衣恭介は、木俣堯喬の変名。協立音響も録音になつてゐるのは、効果の誤りか。とか何とか、それどころではなく。
 カッチョいいギターがギュインギュイン唸る中、自慰る尻が漫然と正面を向きオッパイをデローンと開陳する。暗転明けた先は、上下に“abnormal sex”の五連打。流石だ、今ならストロングゼロでもがぶ飲みしながらでないと、こんな映画撮れない気がする。東美由紀つきのVHS題がブツッとタイトル・インして、最初の、といふか最大の衝撃は本篇クレジット、渡瀬奈々とかあおい恵なんて出て来ないぞ。何で斯くも自由なのか、大泉逸郎みたいな気分だ。
 「トラック一杯といひたいのだが」、「その片隅に僅かな身の回り品だけを載せて」、「田舎の高校を出るとエイコ十八歳」、声は渋いプロ鷹ナレーション起動。両親の束縛から逃れるためだけに短大に進学した、要は遊ぶ気全開のエイコ(東)が同級生でルームメイトの、この人は保母志望で一応真面目に勉学するマサコ(上原絵美/石川恵美の旧名義)に生活態度を窘められる。不貞たマサコが街をブラつく頃、マサコもマサコで隣に住む大学生(刀根)をベランダから家に上げての一戦。帰宅したエイコに、情事の痕跡を見つけられる。母親が倒れ、マサコは一時帰郷。マサコが彼氏らしき先に電話をかける度に隣で受話音が鳴るのに気づいたエイコは、マサコを装ひ誘き寄せた刀根新を寝取る。
 配役残り、上原絵美同様本クレに等閑視される井上真愉見は、百合を咲かせる目的でエイコを買ふ未亡人。かに見せかけて、須藤伸が百合畑に乱入し二人でエイコを手篭めにする井上真愉見配偶者、実にタマルミックなシークエンスではある。嘉見力は、誰かしら弾いた直後にエイコとミーツする鉄砲玉・ケン。
 珠瑠美1989年第一作、案外少ない全三作。タマルミのフリーダム演出に劣るとも勝らない致命傷は、オバパーでどすこいフェイスの主演女優。角度と顔さへ撮らなければオッパイは確かに映えなくもないものの、乳が太ければ腹回りも多少太からうと構ふまいとするが如き風潮には、当サイトは断固として与さない。一方、主演女優の面と腹肉を見て流石の珠瑠美も血相を変へ幾分かはヤル気を出したのか、前半のマサコ篇は、別にも特にも全く面白くはないにせよ、第一次井上真愉見パートを挿んでエイコが刀根新と乳繰り合ふところにマサコが帰つて来る修羅場で、霞よりも稀薄な物語とはいへ大袈裟な破綻もなくひとまづ収束する。明けて銃声とともに嘉見力が飛び込んで来た時には、いよいよ以てこの映画は終りだと頭を抱へかけつつ、まさかよもやの木に接いだ竹を魔展開で裏返す力技で井上真愉見と嘉見力を強制連結。だから欠片たりとて面白くはないにしても、とりあへずなラストに到達してみせるのは、珠瑠美にしては画期的。

 ところで、濡れ場でこれといつてアブなプレイを仕出かしてはゐない件?バッカモーン!だからタマルミが風呂敷を畳んでゐるだけ有難いと思ふべきだ。


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 「マリは天使の匂ひ」(昭和60『ロリータ喪失』のVHS題/製作:日本シネマ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:片岡修二/監督助手:高嶋靜子/撮影助手:片山浩/照明助手:田端功/制作進行:池田文彰/美粧:鷹嶋青子/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/主題歌“君と天使の風になる”作詩:川上謙一郎・作曲:鈴木智子・編曲:中谷靖・唄:鈴木智子/出演:松田ジュン・彰住響子・藤冴子・杉本未央・ジミー土田・池島ゆたか・金太&ヒロコ・螢雪次郎)。製作の伊能竜は向井寛の変名、監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。
 悪魔のイラストを、真ん中に配せばいいのに右上にチョコンと置いて、馬鹿にシャレオツなVHS題開巻。明けて手前の蝋燭越しに後背位、舞台は安普請な地獄。コードネームの―あるとするならば―含意に辿り着けない下級悪魔・サタンSGW2249(螢)と、魔女(藤)の一戦。線が細い上に今でいふゴスなメイクを施した螢雪次郎が、結構佐賀照彦に見える。大絶賛事の最中にも関らず、サタンに直属デビルの下に出頭するやう獄内放送。左右に地獄の番人(金太&ヒロコ)を侍らせた、池島ゆたかがサタン上司のデビル。といつてモップみたいな赤毛の鬘に、顔はホルスタイン柄の池島ゆたかが、声を発するまでその人とは判らない。地獄の番人に関しては恐らく画面左で尺八を吹いてゐるのがヒロコで、右からデビルとチューしてゐるのが金太か、パッと見二人ともオカマぽい。劇中台詞ママで“馬小屋で生まれたあの捻くれ者”の没後、かれこれ二千年。今回デビルがサタンに下した任務は、西暦二千年に新たなる救世主を産むやう天国が遣はせた新聖母候補を、堕落させての処女懐胎阻止。これまた画期的に気の利いた極大風呂敷を広げてみせたものだと感心しかけつつ、要は、時期的にドンピシャな「ターミネーター」の影響が色濃く窺へると解するのが正解なのか。デビルに指示された、三十分後に発車する地上行の普通列車・地獄69号、ではなく。その次の特急に乗れば間に合ふといふ口車に乗せられ、サタンは魔女と未遂の事を再開。改めてサタンが達すると、テレテレテレテレーンとトロい主題歌起動、高校三年生の杉本真理(松田)が着替へて外出、ショーウィンドウ越しに見初めた、サンタか何かのてるてる坊主みたいなマスコット?を買ふ。
 配役残り純然たる四番手濡れ場要員の杉本未央は、真理の姉・良江。嵐の夜、出没したサタンに籠絡される。目新しい機軸として悪魔は処女の血に弱い設定で、そのためサタンのミッションは、周囲をまづ攻略し真理を非処女にする作戦。二枚目ツッパリ造形が清々しく似合はないジミー土田は、真理にガッつく同級生・横島。彰住響子は、真理と同じマンションに越して来た、FM銀座のアナウンサー志望の女子大生・馬場明子。オーラスに飛び込んで来る、シン・マリ役の子役と、背中しか見せない母親は不明。
 単独第三作となる、渡辺元嗣昭和60年第一作。非常に壮大かつ魅力的な物語ながら、真理がてるてる坊主を買つたところから、サタンが嵐の杉本家に現れる件の繋ぎは甚だ手際が悪く、展開は序盤から順調に迷走する。サタンが明子なり横島から攻めるのは既定路線とはいへ、電話ボックスの中、悪魔と天使が当人を挟んでポップにせめぎ合ふ一幕は笑かせるものの、ジミ土が不器用な純情のエモーションを撃ち抜き、もせず。根本的に理解に難いのが、主演女優が男優部と本格的に絡むシークエンスに何故か頑なほど尺を割かないまゝに、サタンの姦計がサックサク実るよもやの悪魔勝利エンドには、度肝の以前に拍子を抜かれた。ところがその時、横島と邪に街に消える真理が見たのは。開巻の地獄パートで案外周到に撒いた伏線が見事に着弾する、まさかの大どんでん返しには正方向に驚かされた。いや別に、サタンそこから再始動すればいいぢやん、といふツッコミもしくは疑問は強ひて呑み込むとして。サタンに「それぢや、俺はまるでキューピッドぢやないか!」なる名台詞まで吐かせておいて、何となく国沢実の名前も浮かぶ、三転目が蛇の足気味な最終的なキレの悪さもさて措くとして。必ずしもどころでなく十全ではない演出を、秀逸な脚本が見事に救済した一作。雑な希望を述べると、今からでも遅くないから、といふか今こそなナベの盤石な円熟でセルフリメイクすることは出来ないのかな。らしからぬ与太を吹くやうだが、プラス戦線の決戦兵器を十二分に狙へる弾たり得るのではと、思つてみたりもした。

 最後に特筆すべきは、悪魔が神とか天使とかあるいは聖母(予)とか、兎に角悪魔がホーリーな存在に手を出すナベシネマとなると、2000年第六作にしてピンサロ病院シリーズ第三弾「ピンサロ病院3 ノーパン診察室」(脚本:中野貴雄/主演:黒田詩織)に、デジタル初陣の2015年第一作「いたづら天使 乱れ姿七変化」(脚本:山崎浩治/主演:桜木凛)。何気に十五年周期を採つてゐる―多分ほかには見当たらない、筈―点については、何某か大いなる意思の存在でも感じ取ればよいのであらうか。


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 「スチュワーデス みだらな私生活」(1994/製作・配給:大蔵映画/脚本・監督:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:渡部和成/編集:㈲フィルム・クラフト/スチール:佐藤初太郎/録音:シネ・キャビン/音楽:東京スクリーンサービス/効果:サウンドBOX/助監督:国沢実・広瀬寛巳/現像:東映化学/フィルム:AGFA/タイトル:ハセガワ プロ/出演:吉行由美・冴木直・藤沢美奈子・愛田真奈・西野奈々美・白都翔一・坂入正三・樹かず・森純・神戸顕一・港雄一)。
 飛行機のエンジン音から雑踏にズームで寄つた先は、三人組のスチュワーデス。エアロジャパン航空国際線の、画面左から葉子(藤沢)・ミヨタ瑛美(吉行)・エリカ(西野奈々美/a.k.a.草原すみれ)が、“機内”と“着ない”をかけた他愛ないネタに話の花を咲かせてれてれ歩いた上で、改めてANA機の機影にタイトル・イン。適当な札の提げられたエアロジャパン航空乗員部、開巻を背中に引つ繰り返した葉子・瑛美・エリカの並びでシャワーを浴びながら、社内不倫を称して機内食や男性自身の意で管制塔まではまだしも、ビアンが胴体着陸で―勃起の―持続時間が滑走路となると由来が全然判らない、オリジナルの隠語を駆使して各々の外堀を何となく埋める。のはこの際さて措き、早くも巨乳部を三枚揃へたジェット・ストリーム・アタックが苛烈に火を噴く中でも、とりわけ藤沢美奈子の超絶ぶりが圧巻。コンビニから制服のまゝ出て来た葉子を、足元しか見せない謎のバイカーがロック・オンする一方、エリカは瑛美と葉子には否定した、胴体着陸こと百合相手に連絡する。
 配役残り、無造作な吉行由美によるアテレコで観客―か視聴者―の耳を幻惑する愛田真奈が、エリカのお姉様・キミエ、寿退職してゐる。その頃瑛美の部屋にゐた白都翔一が、機内食相手にしてキミエの夫でもある丸山修一。更にその頃、この人もこの人で制服のまゝ狭いバーで荒れる冴木直は、エアロジャパンの国内線客室乗務員・マキ。マキが荒れてゐる理由は、丸山の不在、シラート途方もないヤリチン野郎。神戸顕一が何やかや丸山にあやつけつつ、何だかんだとマキを手篭めにする外道マスターなのはある意味麗しきタイプキャストとして、ところで瑛美の部屋と神顕の店に、同じZI:KILLの「VIDEO ROCKET LONDON SIDE」(1993年発売)のポスターが貼つてある謎のメッセージ性は何なのか、誰のといふのと。坂入正三は、嘘労災の認定を受けての休職期間中に、銀座のクラブでバイトしてゐたエリカを喰ふ部長。キミエは兎も角真性だつたのか、この時までエリカ処女。港雄一は、弁護士会会長といふとかなりの要人でもある、瑛美パパさん。森純も森純で葉子が関係の継続を瑛美とエリカには否定した、フライト中の機内で捕まへたロック歌手・キタロウ。そして樹かずが、殆ど忘れかけたラスト五分、漸くにもほどがある再登場を果たし自宅の葉子を襲撃するレイプマン。ところで樹かずと森純は、前年の第六回ピンク大賞で特別賞を受賞―何が評価されたのかは知らないが―した、神戸顕一率ゐる神戸軍団の成員。残り二人はマオックスとやまきよ、同窓会的に再結成して呉れたなら脱糞するほど特大歓喜する、糞は漏らすな
 三月下旬封切りといふと盆暮れでも黄金週間でもない割に、異常に俳優部の豪華な小林悟1994年第五作、ピンク限定だと第三作。エリカとキミエが咲かせる百合と、吉行由美V.S.白都翔一戦が並走する以降を臆面もなくトレースしてのけると、まづ冴木直V.S.神戸顕一戦が二戦を追走。瑛美宅を適当に辞した丸山は、恐らくマキの家風呂でマキを抱く二連戦を華麗に敢行。続けざまに、瑛美にパパさんから上京する旨の電話がかゝつて来る。坂入部長がエリカの水を揚げる件に続いて、港会長はジョイトイ満載で瑛美とお楽しみ。そしてキタロウが藪蛇に葉子の菊を散らし、丸山家夫婦生活挿んで、樹かずが葉子を襲撃する。葉子はマジ休職、何時も三人エリカの車で出勤する瑛美が「私達つて何をしてるのかしら」と軽く自嘲してのけると、エリカが「私達つて何を夢見てるのかしら」と受け心にもない空白感を表出した上で、再びANA機の機影に“完”。物語もへつたくれもあつたものではない、確かにスチュワーデスのみだらな私生活を描いてはゐるものの、銘々が好き勝手にヤリ倒すかヤラれ倒すばかりの六十分。となると珠瑠美の純粋裸映画と何ら変りはない筈なのに、それでも大御大仕事の方が余程全うな劇映画にも映るのは、流石に侮り難い演出上の地力の差か。ビリング頭の吉行由美が、実はただ一人絡みを一回きりしかこなしてゐないのは気づくとバランスを失してゐなくもないとはいへ、劇中退職後のキミエまで含め、女優部が下着以外にはスチュワーデスの制服しか身に着けない徹底した姿勢は清々しい。


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 「ザ・夫婦交換 欲しがる妻たち」(1991/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:今岡信治/撮影助手:後藤友輝/照明助手:田端功/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:川奈忍・水鳥川彩・早瀬瞳・荒木太郎・池島ゆたか)。脚本の周知安と企画の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。ところでVHSジャケには、早瀬瞳が早見瞳。涙なくては語れないのがDMMに行くと、そのことに由来するクレーム評価があつたりもする。否、ここは断固、よしんば早見瞳がゐないにせよ、早瀬瞳で何の文句があるのかと声を大にして私は問ひたい。
 タイトル開巻、夫婦の寝床に鳴る目覚まし時計に、第一声が「私は平凡なサラリーマンだ」と池島ゆたかによる適当なモノローグ起動。どうにかかうにか家も建て嫁も貰つた園山高志(池島)は、乳を放り出し遅れて起きた妻の明子(川奈)を朝つぱらから抱きつつ絶倫を自認する。到底明子一人では満足出来ない園山にとつて、当面の切なる願ひは素人との浮気。妹が遊びに来るといふのに、明子は今日も今日とて、先日の高校に続き今回は中学のクラス会。尤も、園山にとつてそれは好都合でもあつた。それもそれとして園山家の隣家は、共働きの二人共々係長である園山の部下の、渉(荒木)と悦子(水鳥川)の轟夫妻。今日とて今日も友達と飲みに行くといふ渉に目くじらをたてる悦子に、園山は地味に狙ひをつけてゐた。一方、既に姉に幾許かの借金を焦げつかせる明子の妹・佐伯良子(早瀬)は、五十万の借金を新たに切り出すも見事に爆死。そんな、南酒々井の夜。明子不在の園山家では、五十万の財源を姉から義兄に変更した良子と、義妹に鼻の下と食指を伸ばす園山の思惑とが、双方向の誤解が上手いこと噛み合つたまゝ進行する。配役すこしだけ残り、ひとまづ首尾よく園山から金を得た良子が電話をかける、一緒にオーストラリアに行く彼氏の声は多分ひろぽん。
 深町章のコッテコテな量産型娯楽映画から、麿赤児の限りなく前衛映画まで。この期に正確な総数は不明ながら、恐らく大した数でもないにしては―痴漢透明人間をも含む―途方もない種々雑多感が堪らない、日本ビデオ販売の「Viva Pinks!」レーベル。DMMで見られるだけ片端から網羅するかと、一覧の下から未見作を探して最初に当たつた、深町章1991年第二作。と、してみたところ。ある意味己の妙な引きの強さに驚いたのが、今作、七年後の正直微妙な翌年正月映画、「隣の女房 濡れた白い太股」(1998/主演:久保新二)の元ネタ。元ネタも元ネタ、深町章―と酒井正次に津田一郎―以外の面子に劇中固有名詞、園山家―トナマタでは黒井家―ロケーションが津田スタではなく水上荘である形式的差異以外には、違ふ箇所の方が余程少ないくらゐ本当に全く同じ物語。良子が明子に五十万を無心する件で気がつき、改めてトナマタにも目を通して吃驚した、何が自脚本か。顕著な一例を挙げると、初戦に於いて、遅刻を理由にハモニカを拒否する遣り取りまでそのまんま、良子が義兄に振る舞ふ矢鱈と豪勢なディナーが冷食なのも。挙句、黒井からみわに渡る五十万を豪快に端折り展開の底が抜けるトナマタが、重ねて綺麗処をキチッと三枚揃へた今作に女優部の顔ぶれでも大きく、大ッきく水をあけられる始末とあつては、片岡修二にトナマタを見せて、感想のひとつも聞いてみたいところである。よくある話の一言で、片付けられさうな気もせんではないが。序盤早々にオチが露呈するのは、全体的な構成さへしつかりしてゐれば問題ない。寧ろ容易な予想がピシャッと的中する、一種の快感も与へられやうもの。尤もその点に関しては、パクリ元たる今作自体から然程強靭でもないものの。


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 「性春リバーサイド ふたりでイかう」(2017/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影監督:清水正二/撮影:海津真也/録音:小林徹哉/編集:山内大輔/音楽:大場一魅/効果・整音:AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:松井理子・泉正太郎・八巻友也/撮影助手:島大和/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎・だいさく/協力:高円寺 馬力/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:佐山愛・佳苗るか・由紀恵・沢村麻耶・松井理子・川越ゆい《特別出演》・細川佳央・橘秀樹・山ノ手ぐり子・竹本泰志《トランペット演奏》・井尻鯛・太三)。出演者中、川越ゆいと竹本泰志の諸々特記と、山ノ手ぐり子・井尻鯛・太三は本篇クレジットのみ。
 千葉駅を皮切りに千葉ショットをつらつら連ね、松井理子と川越ゆいの間に橘秀樹・細川佳央の順で入り残りは端折る俳優部と、池島ゆたかのみ一旦クレジットしておいてタイトル・イン。契約社員プログラマーの遠藤マコト(橘)と、劇団員の佐々木レイジ(細川)は高校卒業後十年を経た今なほ、日曜日になるとマッ缶ことマックスコーヒーを飲みながら、互ひの近況なり昔話なりをダベる仲。ところで、あるいはとはいへ。それが週毎のならはしである旨が語られるのは結構終盤に差しかゝつてからにつき、各々のエピソードを通過する度に、気がつくと川辺の二人の扮装がコロコロ変つてゐる点には一旦躓かざるを得ない。全体何年、何本商業映画を撮つてゐるのか。
 兎も角、待ち合はせに遅れたレイジお詫びのマッ缶を二人で開けて、章立てする意義も特段感じられない第1話タイトル「こんな、ふたり」が改めてイン。ところで既視感も覚えた「こんな、ふたり」といふのは、池島ゆたか1998年第一作、ENK配給薔薇族の公開題。大絶賛フリーターでもあるレイジの、クソみたいな単発バイト天国と地獄トークを話の枕に、高校時代より実に十一年交際の続く彼女・有岡しおり(佐山)に対し飽きて来ただのと、腐れマコトの贅沢極まりない不満と、レイジが教へ子の童貞喰ひで名を馳せる、英語のミサキ先生(沢村)に筆卸して貰つてゐた告白が、脊髄で折り返してデパルマの名前が浮かんで来る分割画面を駆使した上で連結される。デジタルだとかういふ作業も簡便になつたのね、と付き合ひの悪い感想にも落ち着きかけつつ、一枚のスクリーンに幾らでも、如何様にも乳尻を載せられるのは新時代の確かなプログレス。ハモニカのクローズアップと、喘ぐ佐山愛のバストショットとを並べた画面には感動した。佐山愛が女子高生には到底見えねえ?橘秀樹のひとつ後輩にも見えないが、さういふ野暮は偉大なるオッパイに免じてさて措くべきだ。
 配役残り、厳密な登場順は佐山愛と沢村麻耶の間に入る太三は、二人の傍らに尋常ならざる面持ちで佇む待つてゐた男。山ノ手ぐり子は、何時までもプラプラする息子を生温かく見守るレイジ母。三つめの致命傷たる由紀恵は、マコト・レイジらの高校時代のマドンナ・奥沢ゆい、絡みの火蓋を切る尻の美しさは買へる。竹本泰志は、モノレールにゆいと乗るところをしおりに目撃され、マコトとレイジが邪推を膨らませる数学の井上先生。今作単体では画期的に木に竹を接ぐ、孤高のラッパー・EJDの役者名義である井尻鯛が待つてゐた男の下にやつて来た男。何もかも捨て駆け落ちする風情で、熱い抱擁を交す。元ネタを通つてゐれば腑に落ちるのか、似たやうなポジションが見当たるのか否かなんか知るか。井上がゆいに繰り出す四十九番目の体位「ヨシムラ」を通しての、藪から棒に飛び込んで来る吉村卓フィーチャーにも面喰はされる。但し、そこかしこのちぐはぐさにこそ、逆説的な作り手の体温が感じられなくもない。二番手にして要は体のいい裸要員に過ぎない佳苗るかは、しおりに厭いたマコトが武勇伝を見るに確かにオトした、会社の若い派遣社員・アイカ。川越ゆいは役者志望の美樹で、予告に見られる刃傷沙汰は、馬力を借りての「小鳥の沐浴」稽古の一幕。贅沢にも女優部ここまで脱ぐ松井理子が、演出家兼役者の佳恵、レイジとは男女の関係も持つ。佳苗るかに話を戻すと、以後田中康文自身も消息を絶つ2014年第二作、「盗撮ファミリー 母娘ナマ中継」以来三年ぶりとなるピンク第三戦。花の命が、案外長い。
 ピンク版「セトウツミ」として評判を呼んだ、池島ゆたか2017年第一作。アクションも特撮も女の裸も見当たらない、一般映画を僕様が観てゐる訳がない、そもそも割くリソースを持ち合はせないものぐさなんぞ、この期にいふまでもあるまい。さあて、開き直つておいて。徹頭徹尾自堕落なマコトと、安いウェイさがより甚だしいレイジ。感情移入に激しく難い主役二人と、所詮垢抜けない池島ゆたかの演出とでは、今時の青春映画が形にも画にもならず、何となくそれぞれの活路が拓ける怠惰な顛末も退屈なばかり。マコトとレイジの粗雑な造形に加へ、精々稲葉良子の若い頃程度にしか見えないガイコツ系の由紀恵が、挙句リケジョな高根の花といふのも根本的なミスキャスト。ビリング前二人とのパワーバランスが、崩壊する以前に成立すらしてゐない。ビリング前二人といふと、一応彼女一筋のマコトに対し、情事、もとい常時二三人の女を欠かさないレイジ。とかいふ図式に、展開上なつてはゐるものの。兎にも角にもしおり一人で既に絶対勝者たるマコトがアイカをも攻略してしまつては、より直截にはマコトが佐山愛と佳苗るかと絡んだとなると、せめて物語的にゆいでも誑かさないでは、直截過ぎて申し訳ないがレイジが劇中沢村麻耶と松井理子としか絡んでゐない以上、ヤリチン対照、ないしは優位がピンク映画的に尚一層欠片の説得力も持ち合はせない。千葉の半端さを自嘲する返す刀で、東京二十三区外や埼玉を斬つて捨てる掛け合ひも清々しいほどに陳腐で呆れるほかならず。短い松井理子はボーナス・トラック程度にせよ何れも極めて高水準な四本柱の濡れ場は見事なだけに、「セトウツミ」に触発され川辺と濡れ場を繋げて一本出来上がり、と妙案を思ひついたつもりなのかも知れないが、雑な一太刀で片付けると、斯くも映画が邪魔なピンクも珍しい。


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 「痴漢変態電車」(昭和60/企画・製作:小倉プロ/配給:大蔵映画/監督:北見一郎/脚本:萩原新八/撮影:伊藤英夫/照明:石部肇/編集:室田雄/製作主任:綾瀬直子/演出補佐:成瀬正行/音楽:大蔵笑美子/音響:平田靖/効果:高野藤次/録音:ニューメグロスタジオ/現像:ティー・ビー・エス・エイガ/出演:田口あゆみ・山村裕美《新人》・大田夏実《新人》・ 梓葉子・川倉慶三・吉田純・松本嘉・左甚太・池島ゆたか・坂本昭)。純然たる当てずつぽうでしかないのだが、北見一郎作にのみ脚本を提供してゐる萩原新八といふのは、たとへば小川欽也と水谷一二三の如く、どうも北見一郎の変名臭い気がする、ググると出て来る宇宙友好協会との関係は完全に不明。
 木の枝越しに覗いたグラウンドの俯瞰、バレーコートに寄りかけて、グラウンドを見下ろす高台に三人とも大学生の、女二人と男一人。小説家志望の三郎(川倉)は、彼女・夕子(田口)のルポライター志望に“人の裏表をスッパ抜くやうな職業”と難色を示し、夕子の友達の秋子(山村)が適当に間に入る。どうでもよかないのが田口あゆみは若いころから田口あゆみとして完成してゐて、くたびれた三十路前ホステスのやうな山村裕美といひ、ビリング頭二人が鮮やかなほど女子大生には見えない。兎も角、映画を観に行くといふ三郎にはついて行かず、何となくその場は別れた夕子がぼんやりすると、陸橋を通過する電車のロングにタイトル・イン。役名を併記して呉れるクレジットに、本気で救済された。
 大して混んでもゐない電車に乗る秋子が、下村(池島)の痴漢を被弾。その近くに乗り合はせた夕子は、二人のすぐ横からマイクを向け音声を録音する。何だこれ、画期的なまでに無造作なシークエンスに度肝を抜かれた。帰宅後、録音したテープをオカズに全裸自慰に耽る―秋子は友達ぢやないのか―夕子は俄かに催し、卒論テーマに頭を悩ませる三郎を燃えてるのと電話で呼びつける。“燃えてるの”と来たもんだ、発情した女のダイアローグに、昭和を感じさせる。さて措き、事後三郎に降つて来た卒論のテーマが、「女の性と愛は何処までが真実か」、散文詩でも一節打つつもりか。それを聞かされた秋子の反応がケッサク、「女の性と愛なんて女性週刊誌読んだ方が早いはよ」。脊髄から鼻に抜ける、突き放した秒殺ぶりが笑かせる。
 配役残り坂本昭は、夕子に電車痴漢を仕掛ける三田。ホテルにまでは連れ込むも、チンコを掴まれ逃げられる。結構な山の中にまで足を延ばし下村と青姦を楽しんだ秋子は、自身を見殺しどころか出汁にした夕子に対する報復を依頼。とかいふ次第で下村が頼る吉田純が痴漢の師匠筋のバー店主・矢島で、山村裕美共々まるで新人臭のしない大田夏実は矢島の情婦・美子、松本嘉はチーム矢島の四番手・北島。ラストの電車に藪蛇気味に飛び込んで来るa.k.a.梓ようこの梓葉子とa.k.a.左陣太の左甚太は、夕子が再び目撃する痴漢される女・リカと、痴漢する中村。
 昭和末期の十余年大蔵でローテーションを守つてゐた北見一郎のピンクが、バラ売りDMMで一本だけ見られるのに辿り着き買つてみた昭和60年第二作。因みに当年全十作、どころか、昭和53年から60年まで毎年十本前後大蔵から公開されてゐる。量産型娯楽映画を、現に量産してゐた様はひとまづ麗しい。そして北見一郎といふのは、製作プロダクションにもその名を冠す小倉泰美の変名。といふか、キャリアの大半が北見一郎名義である以上、ex.小倉泰美、小倉泰美が北見一郎に改名したものと捉へるのが、実質的にはより相当であるやうにも思へる。もうひとつの名義とされる氏家彰に関しては、そもそも何処で氏家彰を名乗つてゐたのか判らん。
 映画の中身的には、吉田純や坂本昭が個性的な面構へで画面にアクセントをつける、男優部はそれなりに顔ぶれ豊かな反面、薹の立つた女優部がただでさへ緩々の物語を支へきれず、直截に片付けるならば面白くも何ともない、直截にもほどがある。箸にも棒にもかゝらぬ一山幾ら感が兎にも角にも強く、さうなると寧ろ紛ふことなきプログラムピクチャー・オブ・プログラムピクチャー加減が清々しいとでもいつた以外に、立つ瀬の欠片も見当たらないかに一旦思はせて、一筋の光明が。jmdbで田口あゆみの項に行くと今作は脱けてゐて、北見一郎次作「SM緊縛飼育」の記載はある。となると、消費財としてのポップ・カルチャーの宿命にある意味最も苛烈に殉じ、正直この辺りは最早確かめようにもその術がないとはいへ、「痴漢変態電車」が、田口あゆみの大蔵デビュー作となる可能性はなくもない。少なくとも、「SM緊縛飼育」よりは早い。


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和風旅館 若女将の赤襦袢」(1998/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:稲山悌二[エクセスフィルム]/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/ヘヤーメイク:川辺久美子/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学[株]/出演:柿沼ゆう子・林由美香・杉原みさお・樹かず・田嶋謙一・久須美欽一)。出演者中田嶋謙一が、ポスターには田島謙一。脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 赤襦袢の畳紙を解き、「母さん、私は今夜、母さんの形見のこの赤い襦袢を着てあの人に抱かれます」、ヒロインが亡き母に報告だか宣言してタイトル・イン。久須美欽一の入念な舌戯が延々と火を噴く、亡母から温泉旅館「梅田屋」を継いだ若女将の叶涼子(柿沼)と、建設会社社長・岩田時三(久須美)の一戦。は後背位手マンの途中で一旦切り上げて、そこかしこにダム建設反対のビラが貼り散らかされる群馬の何処かの山町。涼子が梅田屋の板前・桜井清次(樹)と、母の墓を参る。先代大女将が死んで三年、は兎も角。梅田屋が存する一帯は、五年後にはダムの底に沈む計画が予定だか決定。桜井には今のうちにな好条件の転職を勧めつつ、涼子は最後まで梅田屋を守り抜く負け戦の腹を固めてゐた。
 配役残り林由美香は、落ち合ふ約束を反故にしたどうせ不倫相手辺り・哲夫(名前しか登場せず)にスーサイドする旨を匂はせる書き置きを残し、梅田屋から姿を消す野瀬珠子。涼子に報され、旅館のライトバンで慌てて山に飛び込んだ桜井が、身を投げようとしてゐた珠子をすんでで保護してからの一幕。気を失つた珠子をバンに運び込んだ桜井は、派手に肌蹴た裾から覗く太股とパンティにポップな生唾。を呑むまではいいとして、脊髄反射で手を出してんぢやねえよ。しつかり指挿れてんぢやねえよ、それから―バンの―ドアもきちんと閉めてんぢやねえよ、挙句ハモニカ吹いてんぢやねえよと、大草原広がるツッコミ処連打の一幕は、エロいといふよりも寧ろ清々しく可笑しい。田嶋謙一と杉原みさおは、ダム建設の地元の下請業者・山辺と、山辺懇意のパニオン・マリリン。ところで下請が山辺なら元請はといふと、それが大学時代、山岳部の合宿で当時は涼子の母・菊江(柿沼ゆう子の二役)が女将の梅田屋に宿泊した思ひ出もある岩田。町に入つた岩田は、涼子に菊江の面影を見る。もう三人、男三人が浸かる露天風呂を引きで抜く繋ぎの画、新田栄と加藤義一までは辛うじて判るけれど、もう一人は素性自体が謎の北村隆?
 岩田が涼子に菊江の面影を見て、ダイレクトに突入する回想パート。岩田が菊江の赤襦袢の中に上手いこと完全に潜り込んで、男優の姿は消したまゝ正常位に喜悦する女の裸だけを見せる斬新な絡みには感心させられた、新田栄1998年第六作。回想パートに引き続き、怪我の功名でデキた珠子と桜井が布団部屋にて致すのと、岩田が山辺からマリリンを宛がはれる件とが並走。林由美香V.S.樹かず戦では凝つた構図が目を引き、杉原みさおV.S.久須りん戦に於いては、臍酒ワカメ酒と畳みかけ「さ、今度は私のも頼むよ」と王道の切り返しで尺八を軽く吹かせた上で、机越しの後背位へと連なる流麗な展開が光る。一方、お話的には哲夫との希望駆け落ちに際し全てを捨てて来たゆゑ、岩田屋に転がり込んだ珠子と桜井とが、岩田屋を見切る見切らないのドラマを取つてつけた程度に開陳し、岩田屋は存亡の危機を、一つでも大概な超展開を二つ―大体公共事業が、一土建屋風情のその場の一存で引つ繰り返るものか―重ねて回避する。地味に完成度の高い濡れ場の合間合間を、霞の如き物語で埋めた一作と思へば、新田温泉映画のそれはそれで案外水準の高い佳篇と、首を縦に振つて振れなくもない。ところでは、あつたのだけれど。周囲の反対を押し切り私生児として涼子を産んだ菊江が、生前父親は岩田だと娘に言ひ残したのと、岩田はその他大勢と一緒に憧れてゐただけであると全否定する間に横たはる、看過能はざる齟齬が最後まで整理されずに残る。兎にも角にも、確かに岩田は菊江を抱いてゐた回想パートが邪魔なのだ。あれはリコレクションではなく実は単なるイマジンに過ぎないとする一手間を設けて呉れないでは、開巻がクライマックスで復活する涼子と岩田の情事が、禁忌が余計な枝葉の近親相姦になつてしまふ。立ち退きに抵抗する梅田屋へのカウンターにと、山辺は料理に陰毛が入つてゐたと難癖をつけ涼子を手篭めにする。方便のへべれけさに関しては主演女優の裸に免じてさて措くにせよ、事後庇ひ立てして貰つた風に涼子を気遣ひ涙を落とす珠子の姿を見てゐると、恐らく切つたものかと推定される珠子が山辺に配膳したカットでもないでは、犯されたのは涼子なのに、珠子が泣く意味が判らない。締めの濡れ場を完遂したドンピシャのタイミングで、“終”が叩き込まれるラストが完璧なだけに、なほ一層そこかしこに開いた大穴小穴が目立ちもするのは勿体ない。


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 「少女バンパイア あなただけ今晩は」(昭和61『ロリータ本番ONANIE』のVHS題/製作:日本シネマ/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:末田健/撮影助手:片山浩/照明助手:森岡薫藻/協力:ホテル駒込アルパ/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/出演:大滝かつ美・彰桂響子・清川鮎・ジミー土田・ルパン鈴木・寺西徹・螢雪次朗)。製作の伊能竜は向井寛の変名、監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣。それとjmdbによると、原題は「ひそやかに秋は沈黙する」、秋感特にないけどな。
 画面の中央が黄ばんでゐるのは何か意味があるのか、セピア調の、後述するがここが甚だ判り辛い、回想ではなくあくまで過去開巻。高校卒業間近、チャイムの音を名残惜しむ香島未来(大滝)の左右には、同級生の子守松雄(ジミー土田の二役)と異常愛作(螢)。仲の良さを冷かす声に、振り返つた三人のスナップにタイトル・イン。ところで、文字通り極まりなく異常なるストレンジな苗字の読みはコトヅネ、力技にもほどがある。のと、香島と子守の漢字は大絶賛推定といふ名の適当。
 タイトル明けて現代、といつてもう三十年以上も前なのだが。兎も角、食紅商事熱海支社から本社帰還を果たした小森松太郎(ジミー)が、喜び勇んで出勤。したはいいものの、始業時間より三時間も早く到着してしまつた松太郎が、如何にもジミ土ぽいメソッドで遊んでゐると、大谷あけみ(彰桂)を伴ひ課長の田中(ルパン)が出社。したかと思ひきや、二人はオフィスでオッ始める。それを見ながらマスをかく松太郎が果てたタイミングで、安普請のアイドル衣装みたいな素頓狂なワンピースの大滝かつ美が現れて、消える。謎の少女を見たと訴へる松太郎に対し、同期の横川(オッソロシク若い寺西徹)はまるで取り合はない一方、あけみにスッぽかされた田中が再び出現した大滝かつ美を抱いてみたところ、「これは違ふ」とルパンに匙を投げるや、モックモク気前よくあがる白煙とともに少女はまたしても消失。田中課長はカチンコチンに凍りつき、あまつさへ自慢の一物が捥げてしまふ怪事件が発生する。
 配役残り個人的にこの人のタッパが堪らない清川鮎は、松太郎が親父の幼馴染といふ縁で田中のチンコ接合手術を依頼する異常医院―ドームが特徴的な突飛な建物は、これが駒込アルパ?―の、チィース造形が意味不明な看護婦・七本樫。七本樫て何だそれ、何某か元ネタがあるのか?
 デビュー三年目となる、渡辺元嗣昭和61年第二作。ナベが相当入れ揚げたらしい大滝かつ美がクールを通り越したコールドビューティーに扮する、恋人探しの最終的には切なくも美しい物語。といふセンを、狙つたのだらうといふ節までは、酌めるのだけれど。渡邊元嗣世評では全盛期の一作かつ、如何にもナベシネマ的にファンタな物語ではあれ、直截に片付けると完成度は別に高くない。大滝かつ美が愚息の琴線に触れない点に関しては、偶さか極まりない要因につきさて措く。松太郎が謎の少女の正体を求め奔走する展開が、彰桂響子のわざわざバイブを持ち出しての第三戦まで設けてゐる内に、前半まるで進みやしないもどかしいペース配分に、まづ躓く。逆に異常が再登場を果たすと一息に真相が開陳されるインスタントぶりもインスタントぶりとして、そもそも、松太郎が松雄の息子で、ついでに松雄は既に故人である旨を観客なり視聴者に示す、情報が一欠片たりとて提示されてゐない。のが、最大の問題、ではないんだな、これが。一旦情報の非提示に話を戻すと、そのため、松太郎がどうして同級生である筈の大滝かつ美の顔が判らないのかが、普通に見てゐてサッパリ呑み込めなかつた。何より、改めて最大の問題、乃至は疑問手は、クライマックスの未来と松太郎の濡れ場を、異常に「美しい・・・・」と嘆息させるくらゐ大完遂してゐるにも関らず、その後に七本樫クンが改めてウィッスと飛び込んで来るのが、ピンク映画的にはなほさら蛇足中の蛇足といふほかない、グルッと一周して吃驚した。そんな中明後日だか一昨日な見所は、田中に続いて、横川がチンコカチンコチン事件―バカか、俺は―第二の被害者に。その際、後年とは本当に別人のやうにオチャラケて若い寺西徹が、御丁寧にカットも切り替へて「アチィーッ」を連呼する、いはば怪鳥音が可笑しくて可笑しくて仕方がなかつた。


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 「ぐしよ濡れ女神は今日もイク!」(2017/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/撮影監督:田宮健彦/録音:大塚学/編集:山内大輔/特殊メイクアップ・造形・美術・スーツアクター:土肥良成/音楽・効果:Project T&K・AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:北川帯寛・菊嶌稔章/撮影助手:高嶋正人/ポスター:本田あきら/協力:はきだめ造形/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/朝倉ことみ主演×山内大輔監督ピンク映画全6作品:『痴漢電車 悶絶!裏夢いぢり』《2015》・『情炎の島 濡れた熱帯夜』《2015》・『性辱の朝 止まらない淫夢』《2016》・『淫暴の夜 繰り返す正夢』《2016》・『人妻漂流 静寂のあへぎ』《2016》・『ぐしよ濡れ女神は今日もイク!』《2017》/出演:朝倉ことみ・涼川絢音・真木今日子・和田光沙・川瀬陽太・森羅万象・野村貴浩・太三・竹本泰志《友情出演》・山本宗介《友情出演》/スペシャルゲスト出演:佐倉絆)。出演者中、後ろ三人のカメオ特記は本篇クレジットのみ。
 VOID FILMSロゴに続くど頭に、“朝倉ことみ引退記念作品”クレジット。NPO団体「きばうの輪」が主管する出張カウンセラー「しあはせ配達人」の名札を提げたユリ子(朝倉)が、地図を手に当日の目的地を目指す。家事全般を通り越した万事の、本ッ当に万事の世話を通して世の孤独な男性に夢と希望と癒しとを与へんとする、しあはせ配達人の宗をユリ子がモノローグで述べてタイトル・イン。ユリ子が向かつた先は、妻に先立たれたのち、娘にも家出された元個人経営の弁当屋店主・吉村ではなく佐藤源五郎(森羅)宅。源五郎の設定は、「人妻漂流 静寂のあへぎ」を色濃く引き摺つてゐる。「お父さんただいま」と部屋に上がつたユリ子は、一見完全に人間性を失したかに見せる源五郎が、ユリ子が買つて来たカレールーをルーのまゝ貪り喰ふ間に、襖の奥から麗しき裸エプロンで大登場、慌てて止める返す刀で体を重ねる。要はしあはせ配達人とは、さういふ如何にもピンク的な至れり尽くせり感を爆裂させるサービスであつた。えゝと、連絡先を当サイトにも教へて呉れないかな   >デリれ
 配役残り野村貴浩は、一年前のOL時代、ユリ子の職場不倫相手・八木澤。初登場時は「悶絶!裏夢いぢり」と殆ど同じポジションの―後半「性辱の朝」・「淫暴の夜」二部作のミカヨ方向にシフトする―涼川絢音は、妻が妊娠した八木澤に関係を解消され、その余波で仕事も辞め途方に暮れるユリ子と再会、しあはせ配達人に勧誘する高校の同級生・柴原麻里、当人は愛人業から転職した口。「情炎の島」から抜け出て来たが如き造形の和田光沙は、セックスの喜びだか悦びによる世界平和をも謳ふとなると、セクシャルな方向にスッ転んだジョン・レノンのやうな「きばうの輪」代表・金城明恵。真木今日子は、ユリ子のしあはせ配達人実技テストの試験官・マキ。ゴーヤペニパンなる超絶怒涛の飛び道具を装備、極大の煽情性を撃ち抜く一幕は圧巻。マキといふのも、「情炎の島」なり「人妻漂流」でもマキ。太三は、その頃麻里が訪れてゐた、「性辱の朝」・「淫暴の夜」二部作で登場した雌雄同体の肉塊の両親の介護で、中年童貞を拗らせる太郎。麻里のアグレシッブな責めにパニックを起こし、次回以降はユリ子が担当する。佐倉絆は、太郎意中のメイド・ミク、この人もが本格的な絡みを敢行するのには驚いた。ユリ子をみちると見紛ふ川瀬陽太は、役名は吉川とされてゐるものの、長い苦節を経て新人賞を受賞した途端、妻のみちるを交通事故で喪つた作家といふと、「性辱の朝」・「淫暴の夜」二部作の吉川よりも、「情炎の島」の吉岡由人その人。竹本泰志と山本宗介は「性辱の朝」・「淫暴の夜」二部作の高橋と真木にしては、ガード下にて真木が高橋を刺してゐる状況が判らない。のはさて措き、目撃し立ち尽くすユリ子に、人差し指を唇の前に立て騒がぬやう制止した上で、ウインクを決める目張りをバッキバキにキメた山宗がウルトラ男前、のんけなのに抱かれたくなるくらゐ男前。
 山内大輔2017年第一作は、自身のエクセス時代2006年第三作兼、現代ピンク最大の封印作「レンタルお姉さん 欲望家政婦」(主演:姫川りな)を踏まへた物語―煩はしくなるゆゑ詳細は後述する―で朝倉ことみの引退記念に山内組主演五作を総括する、知らずに観てゐると気づかないのかも知れないが相当な離れ業に挑んだ一作。ところで朝倉ことみは上野オークラ劇場の二代目マスコットガール、三代目が誰かは知らないが、初代の星野ゆずがヤーヤー逆の意味で評判になるほど―演技が―下手だつたかとは、個人的には未だに納得してゐない。閑話休題、何はともあれ、初戦の朝倉ことみV.S.森羅万象戦から猛然と爆走、真紀今日子が途方もない高みにまで押し上げるのみならず、おまけで和田光沙の足払ひは笑かせ、まさかの佐倉絆までもが普通に飛び込んで来る。プラスなんぞ一般映画に対する色気は端から捨ててゐるといはんばかりに、濡れ場が鬼のやうにクッソどエロいのに感動した。加藤義一、竹洞哲也、ついでに榊英雄も観てるか?女の裸をただ撮ればいゝつて訳ぢやない、女の裸でギンッギンにオッ勃てさせるのが裸映画だ。物語的には、あるいは物語的にも。ユリ子を誘ふ麻里の姿に自己啓発スメルが否応ないのは、ある意味「悶絶!裏夢いぢり」からの既定路線。ユリ子のステレオタイプな自分探し方便に、底意を感じかねないのは心性の卑しさ所以の勘繰りとして。観客を欺かんと欲すればまづヒロインを欺くギミックが秀逸な、源五郎が最初の言葉を発して以降超加速。フィルム時代より十分延びたとはいへ、流石に厳しいかとも事前の素人考へには思はせた、「レンタルお姉さん」セルフリメイクで五本の映画を網羅するインポッシブルなミッションを、しかもリアルに足を洗ふ朝倉ことみ自身の姿をも絡め超絶の手際で見事やり遂げてのけた、に更に止(とど)まらず。俳優部銘々からの感謝と別れを述べるメッセージを、同じく感謝と別れの、そして客席にも向けられたメッセージで受けた朝倉ことみが、トレンチの背を向け並木道に消えるラスト・ショットが美しい完璧な構成には、ピンクで映画なピンク映画といふジャンルにあつて、山内大輔は引退記念作といふひとつのカテゴリーを完成させてしまつたと深い感銘を受けた。「ぢやあな」と「勿体ないけど仕方ねえな」、山本宗介と森羅万象がぶつきらぼうに投げる一言も胸に染みつつ、川瀬陽太の「何時でも会はう、作品の中で」には、突然天国に還つて行つた天使・林由美香に斯くも素晴らしい手向けの一作が撮られてゐればと、思はず泣きさうになつた。

 最後に、「レンタルお姉さん」と今作の相関ないし対照をまとめておくと、いふまでもなくユリ子がほぼほぼ「レンタルお姉さん」に於ける千夏(姫川りな)。源五郎はバナナ好きが稗田三蔵(坂入正三)に掠るのと、バナナを食べてゐる間に、ユリ子が裸エプロンに着替へて出て来るシークエンスは概ね演者と部屋と画角が異なるのみ。矢木澤は、ユリ子よりも更にそのッまんまヤザキ(柳東史)。ここまでヤザキなら、柳東史を連れて来ればとしか思へないほどにヤザキ。麻里はメガネをかけてゐないが大体トモミ(日高ゆりあ)で、明恵とマキが、冴子(倖田李梨)のNPO代表と指南役の役割をシェアする格好。とか何とか整理してみると、改めてメガネの涼川絢音が見てみたかつたといふ心が激越に残るのは、至極当然といつた意味での仕方もない人情といふもの。

 付記< いや、非常に意地の悪い世界観だが、今作のアンハッピーな未来が「悶絶!裏夢いぢり」に連なる地獄の輪廻を留保するならば、矢木澤役は矢張り野村貴浩でいゝといふか、寧ろさうでなくてはならないのか


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 「全裸妻連続暴行」(昭和57『新妻残酷に犯す』の1994年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/配給:新東宝映画/監督:珠瑠美/脚本・プロデューサー:木俣堯喬/撮影:倉本和人/照明:石部肇/音楽:新映像音楽/効果:秋山実/編集:菊地純一/助監督:佐藤曉彦/録音:東音スタジオ/現像:東映化学㈱/出演:美野真琴・佐田川彩・田口あゆみ)。恐らくはVHS仕様か、男優部を端折るクレジットに悶絶する。
 ど頭はキネコのブルーバックで、“MIYOWA・PICTURE プロダクション鷹 作品”なるクレジット。みよわ?漢字で書くとどうなるのか、そもそも何語なのか。とまれ本篇開巻、予想外の見事なシネスコに吃驚する。
 共働きのOL・アイカワアヤコ(美野)が帰宅、ズージャ―を流すラジオをつけると、不意に部屋の灯りが落ちる。何時の間にか家内に侵入してゐた、黒マスクの暴漢登場。ダイナミックに逃げ惑ふも、アヤコは絞殺されかねない勢ひで首を絞められ失禁する。恐らくラジオを倒した弾みで、これ見よがしに印象的に抜かれる割に、結局特段重要な小道具でもないオルゴールが鳴り始める。暴漢が失神したアヤコを無理から床(とこ)に運んで、床(ゆか)に転がるハンドバッグにタイトル・イン。タイトルが入つてから、クレジットが起動するまでに一分超、地味に時機を失したタイミングが居心地悪い。
 配役残り江上真吾(現:江上真悟)が、革ジャン男との見るから怪しげなコンタクトを経て帰宅する、アヤコの夫・サトル。野上正義は、エロ専門のカメラマン、ツダスタジオで撮影してゐるゆゑ津田かと思へばワタナベ。サトルがカメアシで、田口あゆみはヌードモデル。ワタナベに話を戻すと、一息つくのにタバコか缶コーヒー感覚で、シャブを打つダイナマイトな御仁。アヤコは気づかぬ間に、サトルも打つてゐた。佐田川彩は、サトルが出入りする賭場の女・サヨコ。華があり、脱いでみるといいオッパイの逸材。他の出演作も見てみたいけれど、流石にハードルが高い。その他アヤコが勤める会社のオフィスに二人、サトルが借金の形にアヤコを売る悪い仲間がもう二人、アイカワ家に踏み込む刑事が更に二人。絡みもこなす悪い仲間二人―不細工な外波山文明とナオヒーロー似―は本職の俳優部に見えるが、残り四名は内トラ臭く映る。兎にも角にも、しかもこの古さでクレジットをスッ飛ばされては手も足も出ない。
 DMMで見られる中で最も古い、珠瑠美昭和57年最終第十作。ちなみに月額でもバラ売りでも、ラインナップは変らない。jmdbを鵜呑みにすると、前年監督デビューした珠瑠美にとつて、通算では第十一作に当たる。前十本、ミリオン作は流石に難しからうが、買取系ロマポだと何かの間違ひかものの弾みで、まさかがあるかも、見たいのか
 映画の中身はといふとヤク中かつ博打打ちとかいふ絵に描いたやうなクズ亭主の因果で、新妻が残酷に犯されるはブルーフィルムを撮られるはと色々酷い目に遭ふ。救ひがなければ工夫なり新味もない全く類型的な物語未満の展開ながら、後年の―女の裸以外見るべきところが本当にない―純粋裸映画を知る目からは、あの珠瑠美にしては物語といふほどの物語でもないものの、少なくともひとまづ一篇を通する形で成立してゐることと、驚く勿れ選曲その他の要素も含め何も破綻してゐない点に度肝を抜かれた。最低限の映画に何を驚愕してをるのかといふ話でしかない訳だが、あれか?よくいふ捨て犬に優しくする不良か。この時代的には単なる古き良きスタンダードであつたのか、あるいは撮影部の独断専行かも知れないにせよ、兎も角左右に広い画面の中、明暗も効かせての凝つた構図を撃ち抜く意欲的な画作りも際立つ。お話的にはなんちやないとはいへ、1994年当時今作に小屋で触れたならば、結構チョロッと心酔してゐた可能性も想像に難くない。逆にそこで珠瑠美といふ名前に喰ひついて、追ひ駆け始めた途端激しく絶望する悲劇は更に容易に予想し得る。遅くとも昭和61年には、我々がよく知る木端微塵、ないしは支離滅裂が完成してゐる。それは完成したのか、それとも壊れたのか。逆に従来知る珠瑠美旧作略してタマキューとの共通項としては、始終を結ぶのに官憲に頼る作劇が、全然マシな形ともいへこの時点に於いて既に見られる。


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