真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「大人の同級生 させ子と初恋」(2018/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:菊嶌稔章/制作応援:MASATO/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:なつめ愛莉・香山亜衣・加藤ツバキ・細川佳央・津田篤・折笠慎也・イワヤケンジ)。遠出する頭数を渋るなり絞つたのか、助手部のクレジットはなし。
 もうバービー人形ばりにスタイルのいい主演女優が田舎道、キャリーバッグを引くフルショットにサクッとタイトル開巻。都落ちした西原紅子(なつめ)がほてほて向かつた先は、青森県三戸郡五戸町の床屋「イトウ理容」(旧倉石村)。紅子が十六連射感覚でチャイムを乱打しても出て来ない家人、紅子の姉・碧(加藤)と夫の中澤慎介(津田)は、風呂桶の中大絶賛背面立位の真最中。伊藤とか伊東にしておけば別にいいぢやんといふのと、何某か所以の有無は知らないが十一月初頭に封切られた今作で、薔薇族込みでも2018年漸く初舞台となる津田篤が、経年劣化に抗へず大分体が緩んで来た。ピンクに出る以上絡みもあるのだから、抗つて欲しい。千葉真一曰く、肉体は俳優の言葉。高校卒業後十年、東京で読者モデルとして浮名を流す紅子は、同棲する劇団員が妊娠させた他の女(二人とも一切登場せず)と結婚するとかいふ、無体か雑な理由で住居を放逐。勢ひで仕事も辞め出戻つたものの、大量の荷物を着払ひで被弾させた実家からも、塩を撒かれて来たものだつた。どちらが本業なのか、姉夫婦の葱畑を手伝はされる紅子は、アイスを買ひに行つてマッチを買つて来る―劇中当地に初めて出来た―コンビニの表で、こちらも母の死を機に就職した仙台から先月帰郷した、高校の元カレ・阿久津礼二(折笠)と再会する。
 配役残りイワヤケンジは、妻の死後阿久津家を一人で守る格好になりかけた、礼二の父・賢二。礼二の上に兄貴が少なくとも一人はゐるとなると、なほさら齢が近すぎる―公称十七歳差―違和感は、直截な見た目からも否めない。ワン・カットだけ見切れる妻の遺影は、流石に遠すぎてあれはスクリーン・サイズでも識別不能だらう。香山亜衣は、カレーをタッパに入れて阿久津家に度々現れる謂れがよく判らない、紅子・礼二と同級生の小暮すみれ、旧姓広岡。細川佳央は、矢張り紅子らと同級生の、すみれ夫・弘嗣。界隈最強に土の匂ひの似合ふ男、広瀬寛巳の出番は今回残念ながらなく。
 竹洞哲也2018年第四作は、新たなる危機の到来を思はせかねない静かな問題作。紅子主導の限りなく据膳感覚で、サックサク焼けぼつくひに火を点ける紅子と礼二の周囲を、すみれがうじうじうろうろする。腹をたてるほどの、内容では必ずしもない、ものの。どうせOPP+に色目を使つてゐるにしては、平板な展開も兎も角、膨らませる余地どころか、本筋から漠然とした稀薄な物語が、殆ど余計な心配と同義の別の意味でミステリアス。挙句すみれは兎も角、R18版中終に礼二の口からすみれの名前は聞かれず終ひの上で、すみれが弘嗣と離婚し紅子は身を引き、すみれと礼二がくつゝく人を喰つた着地点には吃驚した。それでも七十分の尺があるにも関らず、高校時代の回想パートも丸々オミットしておいて、木に竹を接ぐ気でなければその結末は如何せん呑み込むに辛い。元来浮草の紅子が身を引くのも何処に流れて行くのも兎も角、弘嗣がすみれと別れるのは流石に些かハードルが高くはあるまいか。細川佳央が二度目に撃ち抜く、知つてゐた表情は数少なさを差し引かずとも、ドラマ上最強の見所ではあつたが。酔ひちくれ寝てゐたところを、嬌声で起こされる。なつめ愛莉と折笠慎也の絡みが完遂に至る瞬間に、イワヤケンジのどうでもいいカットを捻じ込む正気を疑ふ極大悪手は到底度し難いとして、あとは殊に三番手の量的不足と、二番手がより存在感を示す若干失した平衡を除けば、裸映画的にはぼちぼち寄りのそこそこ。ここは恐らく演出の成果で陽陰のキマッたビリング頭二人を擁し、各々男優部をフレーム外に排したショットは決して悪くない。さうは、いへ。加藤義一が若御大化しかねなかつた、絶不調の谷間を目出度く脱したのも束の間。話を戻すが霞よりも薄い物語と、あまりにぞんざいで仰天させられる着地点。要は、竹洞哲也が師匠にして大御大・小林悟の作風を現代風に幾分リファインした、新御大爆誕の悪寒もとい予感に、我々は慄かなくてはならない時が来てゐるのかも知れない。

 紅子が膣トレ用のジョイトイを挿れたまゝ、阿久津家を訪れる一日。帰宅した礼二が空のチャリンコに目を留める件が、わざわざ設けた割に後に全く繋がつてゐない気がするのだが。例によつての、二兎を追つた弊害なのか?


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 「痴漢電車 お尻自慢」(1989/製作:国映/配給:新東宝映画/監督:笠井雅裕/脚本:五代響子/企画:朝倉大介/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:柴原光/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/車輌:JET RAG/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:岸本かおる・橋本杏子・風見怜香・伊藤清美・いわぶちりこ・山本竜二・渋谷良介・池島ゆたか・清水大敬)。
 結果的に、この期に及ぶと特定の誰某なり何某かを連想させるサムワンサムシングも特段見受けられないにしては、フィクションである旨わざわざ断りを入れるクレジット。もしかすると、再生性不良貧血を慮つたものなのかな、それとも脳梅毒か。ホンワカホンワカ呑気かぞんざいな劇伴が鳴り、新東宝ビデオ開巻。イチニサンシ、ゴウロクシチハチ。お花畑といふほどでもない、適当に草木の生えた何の変哲もないのも通り越し、そもそも切り取り方にさへ意欲を感じさせないボサッとしたロケーション。悪い意味での“奇跡の一枚”を―VHS―ジャケ写には採用した可愛くも何ッともない主演女優が、バレエをもたもた甚だ不格好に踊るファースト・カットにタイトル・イン。早々に、雌雄が決せられた感もなくはない。
 かき氷みるく(表記不明/岸本かおる)が、オールドスクールの新聞配達に勤しむ。御近所の「つみたフルーツ」(店主不明)にて、何かよく判らん何時も世話になつてゐる施しを受け帰宅したみるくは、脳をスピロヘータにヤラれた祖父(清水)を起こす。みるくが小遣ひ、といふよりは生活費稼ぎの自撮り開脚ポラ―おパンツは脱がない―を撮る一方、清大はといふとアダルトビデオを見ながら猛然とワンマンショー。薔薇族では御馴染なのかも知れないが、尺八ならばまだしも、張形を扱く描写がコロンブスの卵に映る。そんな日々を送るみるくは、青年団が主催する発表会とやらの、主役に選ばれてゐた。
 配役残り橋本杏子は、高校なのか青年団の方なのかは兎も角、みるくらが今とならずとも見てゐるだけで恥づかしい、レオタードでてれてれ汗を流すエアロビクスの鬼指南役・黒岩富美子、愛称はくらら。風見怜香は、貧乏を皆から馬鹿にされるみるくに、一見唯一温かく接する白鳥サキコ、またしても堂々とした百合の花を咲かせる。ほかにレオタード要員がもう五六名、その中にビリング頭より美人が何人もゐるバッドラック。山本竜二は、みるくを犯して発表会を断念させる田吾作。正直疲れてゐる時に見ると、山竜の―別な意味で―ダウナーなメソッドが煩はしい。一旦絶望したみるくに、清大はみるくの母が、浅草の名ストリッパーであつた事実を語る。母を捜しにみるくは上京、池島ゆたかは、見るからおのぼりさんなみるくに、ラッパを吹きながら接触する闇雲な造形の女衒。ラッパ女衒がみるくの判子で二百万の借金、渋谷良介は、みるくをSMクラブに放り込む借金取り。その後懇ろになつたみるくと渋良が、肛門脇にある赤い痣が手懸りらしいみるくの母を、満員電車の車中二人で捜すのが今回の痴漢電車、要は黒田一平を丸パクリ。伊藤清美は、出し抜けにこの人も上京してゐてみるくと驚きの再会を果たすくらら女王様の、アシスタント・亜理沙。台詞は潤沢に与へられるものの、見るから内トラ臭い客の奴隷は不明。池島ゆたかがチョビ髭をつけただけで臆面もなく全く別人の二役で、丹念にフラグを積み重ねはしたみるくに、絶望的な病状をあつけらかんと告知する鬼畜医師。いわぶちりこは、みるくが最終的に身を落とす売春バーの店主。ここでも、みるくに黒い靴の贈り物だけ渡しに来る山竜が、田吾作と同一人物なのか田舎もとい否かといふ疑問は、所作指導の有無なんぞ水泡に帰さんばかりに普段通り手前勝手に喚き散らす、山竜の姦しさの前に爆砕される。
 国映大戦第十四戦は通算第三作となる、笠井雅裕1989年第一作。jmdb調べでの笠井雅裕と国映の関りは、助監督時代の佐藤寿保組二本のほか、前年の『PG』―前身の『NEW ZOOM-UP』―誌主催ピンク映画ベストテンに於いて第三位に飛び込んで来る、前作「お尻を振つておねだり」(昭和63/脚本:笠井雅裕/主演:風見怜香)と「お尻自慢」に次作「中がいいは」(カサイ雅弘名義/脚本:五代響子/主演:南崎ゆか)の痴漢電車三連撃に、ENK薔薇族一本挿んで「ザ・暴行 下半身責め」(脚本ともカサイ雅弘名義/主演:橋本杏子)の計四本。ついでに同年第二回のピンク映画ベストテンに於いても、四作後の「冴島奈緒 異常昂奮」(エクセス/カサイ雅弘名義/脚本:五代響子)が栄えある第一位と、五作後の「痴漢電車 後ろから乗つて!」(エクセス/カサイ雅弘名義/脚本:五代響子/主演:石原ゆり)で第七位に輝いてゐる。
 当時笠井雅裕がピンクスから熱狂的に迎へられてゐた空気は窺へ、国映も未だこの頃は後年のやうに傾(かぶ)いてはゐなかつたらしく、ルーズな選曲から象徴的な殊更トガッてみせた訳でもない、良くも悪くも量産型娯楽映画らしい一作。それ、どころか。一応「美徳の不幸」といふほど本格的な代物でもないにせよ、「純朴の不幸」程度にみるみるみるくが零落する趣向は、ひとまづ成立してはゐる。とはいへ魅力に乏しいヒロインにキレを欠いた演出も追随、如何様な状況にあれ、出て来るなり映画を掌握、あるいは全部持つて行つてみせる清水大敬の熱量を伴つた圧力を除けば、凡そ見所らしい見所さへ見当たらない。最大の謎は、斯様に漫然としかしてゐない今作を、あのm@stervision大哥が御自身の1989年日本映画ベスト20で、ピンク最高の五位に挙げてをられる件。例によつての節穴が見落としたと思ひたいところではあるのだが、流石に何処が面白いのかサッパリ全く一ッ欠片たりとて判らない。マッチ売りの少女風、といふかそのまゝ終に事切れるみるくに続き、フルチンでマスをかきながら清大がみるくの名を東京の夜空に叫ぶ。それはそれとしてそれなりに豪快なラスト・ショットには、何処が面白いのかサッパリ判らないまゝ映画が終る、そのアメイジングに対する衝撃に思はず「凄え!」と声が出た。


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 「ホールインラブ 草むらの欲情」(昭和54/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:林功/脚本:宮下教雄/プロデューサー:村井良雄/撮影:米田実/照明:野口素胖/録音:佐藤富士男/美術:渡辺平八郎/編集:西村豊治/音楽:本多信介/助監督:鈴木潤一/色彩計測:野田悌男/現像:東洋現像所/製作担当者:服部紹男/協力:株式会社マツダサービス/出演:山口美也子・宮井えりな・高橋明・市村博・白山英雄・小池雄介・八代康二・織田俊彦・浜口竜哉・木島一郎・影山英俊・緑川せつ・八城夏子・吉沢由起/ゴルフ指導:服部泰子・小林リエ)。正確なビリングは、緑川せつと八城夏子の間にゴルフ指導を挿む。各種資料に見られる企画の進藤貴美男が、本篇クレジットには見当たらない。
 トロフィーや栄光の写真の数々で飾られた、新人杯優勝気鋭の女子プロゴルファー・朝倉真紀子の居室。ベッドの上では真紀子(山口)と、恋人の西沢(影山)が交はつてゐる。開巻主演女優と二人先陣を切る俳優部が、影山英俊である僥倖に早速打ち震へる。西沢が真紀子の体を愛でて、「全く真紀子の体は素晴らしいコースだよ」。クソ以下の文句が、影山英俊の口跡にかゝるやグルッと一周して寧ろ完璧に聞こえる詐術もとい魔術。ダサい台詞をきちんとダサく、あくまでダサいまゝにひとつの形として吐けるのも、ある種の才能だと思ふ。ところが挿れ始めたところで、不意な来訪者が。ノンクレジットの賀川修嗣と小見山玉樹を引き連れた刑事の高山(浜口)が、深夜の家宅捜索に乗り込んで来る。呆然と、捜索を見やる真紀子にタイトル・イン。“女子プロゴルフ界に黒い霧”、“新人杯の朝倉真紀子覚醒剤常習で逮捕”、“プロゴルフ連盟朝倉プロを永久追放”。新聞か雑誌の見出しを連打、基本設定をチャッチャと片付けるタイトルバックが手短に駆け抜けた上で、これ見よがしなケースに入れられた注射器を高山が発見。ベッドに一人留まる西沢を抜き、真紀子に手錠がかけられる。露払ひを務める影英とノンクレで飛び込んで来るコミタマ、アバンで軽くお腹一杯になつた感もなくはない。
 半年後出所した真紀子を、真紀子の妹・玲子(吉沢)と、真紀子が元々キャディーとして働いてゐた、ゴルフ場経営「双葉観光」社長の双葉(八代)が出迎へる。二人の迎へを一旦断つた真紀子は、続けて現れた『ゴルフ通信』記者・陣内(白山)の車に乗る。真紀子を顔の利く練習場との「緑が丘ゴルフクラブ」に連れて行つた陣内は、真紀子を裏世界の賭けゴルファー、劇中呼称で“ハスラー”に勧誘する。
 配役残り宮井えりなは、正体不明の何者かに弄られる、緑が丘ゴルフクラブ囚はれの経営者・マダム蘭子こと海老原蘭子。木島一郎は、陣内が真紀子に引き合はせるハスラー初陣相手・黒川、土建会社社長。真珠どころか、棹にダイヤを埋め込んだ大層な御仁。見えないところに、金をかけるダンディズム。高橋明と小池雄介は、真紀子馴染のスナック「バーディー」マスターの島本と、「バーディー」で日がな一日酔ひ潰れる海老原シュンサク。当時たまたま実際に焼けてゐたのか、藪蛇に真黒な八城夏子は双葉の娘で、とかくライバル視する真紀子に、だけれどもゴルフの腕は適はないルミ子。そして織田俊彦が真紀子に対するリベンジを期する黒川に招聘された、プレイ中に七色のボールを使ひ分ける―当然クッソ反則行為―と謳はれるゴト師の利根山。織田俊彦がイカサマ野郎、さりげなく爆裂する超絶のハマリ役に小躍りした。緑川せつは、利根山のヤサである黒川の第二現場に急行した真紀子と海老原に、邪険に対応する謎の女。胸元が乱れてゐるのが利根山と寝てゐたものかと思ひきや、ワンマンショーの最中であつたとかいふ闇雲な裸要員。a.k.a.五條博の市村博は、最終決戦の代役・梶岡テツヤ。海老原が遂に勝てなかつた、ex.日本チャンピオン。
 へべれけに酔つ払つてゐながら、勝負に完勝した海老原が屠つた真紀子に伝授する、示現流の立木打ちからヒントを得たとかいふオリジナル秘打、その名もダブルスピン。距離を問はずボールを五番アイアンで地面に叩きつけ、画的にはビヨーンビヨーンと短く往復するプリミティブ特撮でボールを的に捻じ込む。マンガみたいな必殺技が清々しい、林功昭和54年最終第三作。緑川せつまで豪華五本柱を擁する割に、一度たりとて絡みを最後まで描かない小癪な姿勢は頂けないものの、所々の大雑把さに目を瞑ると、海老原といふやさぐれたバディも得て、真紀子が次第に姿を明かす真の黒幕との対決に至る展開は、王道中の大王道。病気で片肺を摘出し、過酷なツアーには耐へられないゆゑ引退したにせよ、梶岡は1ラウンドなら今なほ超一流。強敵の攻略に際し、正確無比なショット―と難のあるスタミナ―を狂はせるべく、真紀子が採用した戦略がズバリ色仕掛け。休憩中クラブハウスのロビーにて、真紀子がシャロンシャロンと足を組み換へ梶岡の目を引くカットは笑かせつつ、島本の姑息な工作で五番を失つた真紀子が決死の敢行を挑む、七番ダブルスピンは燃える。これでもう少し、演出に外連があればなあ。

 キャリア後期は関根組で活動してゐた、野口素胖の名前をロマポのクレジットに見かけると改めて感慨深い。目下確認出来る最後の仕事は、六変化しかしない関根和美2005年第一作「女探偵 おねだり七変化」(脚本:吉行良介/主演:出雲ちひろ)。


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 「いやらしい人妻 濡れる」(1994/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:幡寿一/脚本:別所透/企画:朝倉大介/撮影:稲吉雅志/照明:小川満・隅田浩行/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:徳永恵美子/撮影助手:片山浩/照明助手:葉賀威仁/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/協力:藤川佳三・戸部美奈子・林田義行/出演:伊藤清美・伊藤猛・穂村♀柳明・平松大・しのざきさとみ・川崎浩幸・中島裸茂・今泉浩一・下元史朗)。監督の幡寿一と脚本の別所透は、それぞれ佐藤寿保と夢野史郎の変名。出演者中穂村♀柳明の♀と中島裸茂は、本篇クレジットのみ。
 タギング塗れの連絡通路にベースが唸り、グラングラン揺れるカメラが徘徊する。「街を彷徨つてゐるのか、街そのものが彷徨つてゐるのか」、開口一番スッ惚けた伊藤猛の独白起動。覚束ないダサさと紙一重の中身が、朴訥な棒読み紙一重の口跡と奇跡の親和を果たす。高校教師の傍ら、友人の頼みで構成作家をしてゐた別所透(伊藤)は、TV番組「ヤングヴォイス」を通して出会つた少女と恋に落ちる。忽ち入れ揚げた別所が真剣に結婚を考へ始めた矢先、女は別の男と高飛び。失意のまゝ上京した別所は定職にもつかず、自らを“未確認尾行物体観察者”と称し適当に目星をつけた人間を、要はストーキングする日々を送つてゐた。この辺り、まさか大木寛のリアル人生とかいふまいな。その日別所が尾けたのは、空の注射器を持ち歩く平松大。スクラップ置き場で対峙した平松大に、別所が未確認尾行物体観察者を自己紹介して何某かのモニターに浮かべたタイトル・イン。アバンから快調にカッ飛ばす、虚仮威し具合が絶品。
 配役残り、穂村エリナ名義の出馬康成ピンク映画第二作「異常テク大全 変態都市」(主演)と、公開順だと鼻差で今作がデビュー作になる穂村♀柳明は、美人局的にも平松大の連れ。伊藤清美と川崎浩幸は、別所が作成する未確認尾行物体観察書の対象者・田村裕子との関係が謎な女と、情交中に刺された上、全身の血を抜かれる恐らく非加熱―血液―製剤製造元の人。高校の屋上―多分東化―で、血管に空気を打ち込みスーサイドした別所の教へ子は、平松大の二役。苦しさうな咳で丁寧にフラグを積み重ねる別所は、遂に平松大と穂村♀柳明の前で昏倒。雑踏の中別所に接触する下元史朗が、別所が担ぎ込まれた東都病院にて、最初に対応した紅林アツオ、専門は皮膚科。しのざきさとみは伊藤清美と百合の花を咲かせ、かけた途端矢張り刺される、非加熱製剤代理店担当者?そして今泉浩一と、今岡信治の変名である中島裸茂の組み合はせが地味にクイズ、組み合はせだクイズとは何事か。紅林のマンションから出て来た別所を、待ち構へてゐた伊藤清美が最期の逢瀬を重ねる、玄関先がホテルには見えない正真正銘正体不明の一室。紅林の予告自殺を伝へるTVニュースの、一目ならぬ一聴瞭然の声が今泉浩一で、遠いブラウン管越しの画は今岡信治、これは難しかつた。
 バラ売り・月額さへ問はず、新着国映作をメッキメキex.DMMに放り込むインターフィルムがシネフィルを震撼、させてゐるのか否かは知らない佐藤寿保1994年第三作で、国映大戦第十三戦。残弾にはまだまだ余裕があるゆゑ、是非とも好評を博し、インターフィルムさんは攻め続けて欲しい。
 紅林が別所に尾行を依頼する伊藤清美が、実は紅林の妻で内科医。紅林らが関るステロイド試薬の被治験者となつた、伊藤清美は中毒症状を起こしてゐた。前述した未確認尾行物体観察者に加へ、平松大が嘯く、絆を確かめようとする相手と注射器で少しづつ採り合つた血液を、互ひの血管に打ち合ふ劇中用語でブラッドストーム。ジキタリス・ルーレットの切迫感も鮮やかに、如何にも夢野史郎らしい、明後日か一昨日なロマンティックを拗らせた大風呂敷が、珍しく空回るでも上滑るでもなく、今回は綺麗にオッ広がる。別所と伊藤清美の、最初の逢瀬。カーテンを閉めきり、室内灯を点ける消すの攻防戦の果て一旦真暗な室内。「見えないよ」と伊藤猛が軽く力も込めて抗弁すると、伊藤清美は優しく諭すかのやうに「見えなくていいのよ」。ダブル伊藤が交す会話も超絶に、常日頃の憎まれ口もかなぐり捨て、手の平を返し諸手を挙げる傑作の期待も、膨らみかけたところが。幾ら三番手とはいへ、しのざきさとみが文字通り瞬殺される不誠実スレスレの扱ひに関しては、伊藤清美と穂村柳明の裸は量的にも質的にも案外愉しませる眼福で十二分に相殺し得る。尤も、実際の義憤ならば最早仕方もないにせよ、不用意に薬害エイズ事件にコミットした結果、憂世に片足着けてしまつた物語が、みるみる飛翔力を失した印象は否み難い。皆殺すどころか全員死んで行くラストがエッジを効かせたつもりで精々生煮えた、力なくありがちな落とし処に尻窄む。


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 「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/監督:髙原秀和/脚本:うかみ綾乃・髙原秀和/撮影:森川圭・小林啓一/音楽:野島健太郎/照明:ガッツ/録音:田中仁志/整音:野島健太郎/編集:髙原秀和/助監督:江尻大・岸拓人/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/エンディングテーマ:『東京無限』ライヴ:『Demon&Angel』BGM『悪魔になるのも悪くはない』・『ケセラセラ』他 G.D.FLICKERS ALBUM『悪魔』より/協力:ポット出版・吉祥寺 ROCK JOINT GB・フロムダスクティルドーン⦅新宿・歌舞伎町⦆・フルセイル・マイケルギオン・Keith・ナボ⦅ニューロティカ⦆・ナオミ⦅ナオミ&チャイナタウンズ⦆・うかみ綾乃・金田敬・末永賢・天野裕充・大町孝三・宍戸英紀・古井榮一・木庭博光・永元絵里子・小池浩・知念小姫・スズキタカコ・シン上田・鈴木淳・磯貝和日朗・松本かずみ・gon・森川凜子・KAZUMI・NAOKO・伊東理沙・松島政一・砂川恭子・砂川豊・中川いくこ・安田七見子・砂川英一・渡辺和幸・周磨要・鎌田一利・高橋祐太・BAKURO・mame・ヤハラシノ・タカギキョウスケ・オカマコト・NarumiKomatsu・西村太一・おしょうゆ高野/出演:榎本美咲・栗林里莉・吉田憲明・稲田錠・涼南佳奈・仲野茂・平本一穂・長谷川九仁広・国沢実・那波隆史・景山潤一郎・石川kin・櫻井拓也・柳沼宏孝・飯島洋一・G.D.FLICKERS 稲田錠・原敬二・佐藤博英・DEBU・岡本雅彦)。出演者中、長谷川九仁広と国沢実に柳沼宏孝と、G.D.F.のVo.以外各個人名は本篇クレジットのみ。野島健太郎の、音楽と整音を別立てするのは本篇ママ。
 “美しき官能小説家”紫城麗美がパンチラとお胸の谷間も露に、「書くためのセックス?しますね☆」的にアホな質問にアホに応へるアホなTV番組を、一人暮らしの自宅でクマさんの縫ひ包み抱き締め、紫城麗美こと本名・中山典子(榎本)が自分で見て悶絶。世間から求められるまゝの奔放で豪奢な虚像と、晩熟で地味な実際とに七転八倒する典子が遂に耐へきれずテレビを消すと、ギターが一哭きタイトル・イン。結果論を先走るが、よもや余程気に入つたのかオーラスで再度打つ、大昔のパンクよろしく色んなフォントを適当にトッ散らかしたヌルいタイトルに、既に勝敗は決してゐた模様。
 明けて何処ぞのライブバー、同業者の友人・渡部ユズ(栗林)を相手に典子が全篇を通し、終にアバンから半歩たりとて前に進まない管を巻く。一旦話を逸らせるとして、扱ひの均等な三話オムニバスにつき、実質トリプル主演の髙原秀和前作「フェチづくし 痴情の虜」(原作:坂井希久子『フェティッシュ』)でともに初陣、ピンク二戦目となるビリング頭と三番手に対し、栗林里莉は友松直之2014年第一作「強制飼育 OL肉奴隷」(脚本:百地優子)と、竹洞哲也2015年第四作「色欲絵巻 千年の狂恋」(脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:伊東紅/二番手)以来三年ぶりの三作目。正直、特に印象は残つてゐない。閑話休題、カウンターにはバンド活動と並行するアルバイトのバーテンダーで、ユズの恋人でもある稲田錠(ほぼほぼヒムセルフ)が入り、カウンター席典子らの左手で楠田昇(吉田)が一人飲み。背後のボックス席には、田中(石川)と佐藤(櫻井)のリーマン二人連れ。「フェチづくし」の馬力要員で賑はしてもゐるらしい、石川欣の名あり台詞ありのガチ出演はといふと、女池充の「濃厚不倫 とられた女」(2004/脚本:西田直子/主演:こなつ)以来。泥酔して勝手に店を離脱、田中と佐藤に軽く絡まれ振り切るも完全に潰れた典子を、楠田が拾ひ―典子の―家まで負ぶつて行く。その晩は寝てしまつた典子に楠田も手を出しはしなかつた後日、紫城麗美の官能小説を、原作に戴いたAVの撮影現場。取材に訪れた典子は助監督といふ形で楠田と再会するものの、当日の記憶を綺麗に失つてゐた典子は、片方向に目を白黒させる楠田を覚えてゐなかつた。
 さあてこゝからが、本格的な道なき獣道、もしくは地雷原。配役残り、昭和すぎて正確に追ひきれず、御本人のTwitterプロフィールによれば実に三十五年ぶり!のピンク映画出演ともなる―らしい―飯島洋一は、名なし編集部要員。那波隆史が紫城麗美担当の坂正喜で、奥にもう一人見切れる。亜無亜危異ロンTの仲野茂が、件の紫城麗美原作AVの監督・菅谷驀進。仲野茂は当時ドレッドノートを率ゐてゐた「制服美少女 先生あたしを抱いて」(2004/主演:蒼井そら)の十一年前に、安藤尋デビュー作「超アブノーマルSEX 変態まみれ」(1993/脚本:加藤正人/音楽:John Zorn/主演:石原ゆり)がある十四年ぶり三本目。涼南佳奈と平本一穂が、AV女優の蓼科芽衣と男優の平沼ガチ。長谷川九仁広が撮影部で、国沢実も助監督、マイクで音を拾ふのはEJD。平本一穂は浜野佐知1995年第七作「お嬢さんは汁まみれ」(脚本:山崎邦紀/主演:小森まみ/残念無念未見)以来、何気に二十三年ぶりの十分大復帰。長谷川九仁広も長谷川九仁広で、ピンク参加は森山茂雄第六作「後家・後妻 生しやぶ名器めぐり」(2004/脚本:佐野和宏/主演:神島美緒)ぶり。都合二度パフォーマンスを開陳する、G.D.FLICKERSはゼムセルフ。問題が、主演女優と那波隆史で既にお腹一杯どころか腹を下すくらゐ詰んでゐるにも関らず、真の、もしくは更なる地獄の底を担当するのがTHE PRISONERの景山潤一郎(Vo.)。景山潤一郎は、ワールドツアー級だなどと間抜けな設定を臆面もなく採用する、形態が不明な劇中架空ユニット「J.LIMIT」のメンバー・ユート。名義から凄まじくダサいのが逆の意味で完全無欠、不完全無欠か。心酔するG.D.F.のライブを観に来た打ち上げの席、ユートは錠に自身のレーベルからのニュー・アルバム発売をこれ見よがしに申し出、一同の喝采を受ける。何かさあ、観てるこつちが恥づかしいんだけど。こちらもライブハウス畑の住人である柳沼宏孝は、G.D.F.のマネージャー。マネ氏の出番もユズがG.D.F.の前で自作を散文詩の如く朗読する、へべれけなシークエンスなのだがもうホント、一々キリがない。その他野球でいふと二試合に優に足る頭数の協力部は、概ねハコ要員。詳しい方にとつては知つた顔がウッジャウジャ出て来るのか、六月で六十五年の歴史に幕を引く我等が旗艦館「有楽映画劇場」、通称・前田有楽のプロジェク太は暗い画に弱点を抱へるのもあり、典子とユズのすぐ背中に立つ、ARBのKeith(Dr.)くらゐしか識別出来なんだ。元々大蔵と髙原秀和の間を取り持つた縁にもある、加藤義一は顔を出してゐなかつたのであらうか。
 気づくと何時の間にかローテーションに定着してゐた、髙原秀和の大蔵第二作。荒木太郎ごと封殺されたいまおかしんじと、髙原秀和はキング・レコードのR15+レーベルにも喰ひ込み、素人のパッと見、この期な御時世に順調な風情が窺へる。さうは、いへ。十三年ぶりまさかのピンク帰還にしては、水よりもプレーンな裸映画に止(とど)まつた「フェチづくし」が、実はあれでまだまだ全ッ然マシ。山本淳一を鼻歌交じりの貫禄でブッ千切り、電撃大蔵上陸作で工藤雅典が逆の意味で余程頑張らないと、ワースト最有力の一大問題作。始終フニャフニャ堂々巡る典子のアタシ探しと、終盤にかけて―藪蛇に―猛然と起動するG.D.F.の居場所探し。二本立ての軸はものの見事に纏まらないまゝある意味鮮やかに共倒れ、ついでに典子が捏ね繰り回し続ける埒の明かない繰言に、坂即ち那波隆史に連呼させる、一欠片の意味も見当たらない奇怪なオノマトペ。何がプニプニ×ニョロニョロだ、頭おかしいのか。重ねて典子と楠田による未完成なり未熟の“未だ”が、永遠に訪れぬにさうゐないと思はせる、惰弱な恋愛模様を描いたセンシティブでもあらうつもりが、直截には非力この上ないモラトリアムな青春映画、下だ。前回、大蔵に草鞋を脱ぐに際し猫を被るなり辛抱したリバウンドか、要は、髙原秀和の悪いところが全部出てゐる、良いところは知らん。女ポルノ作家にえてして付与されがちなステレオタイプを、無駄な周到さで典子の口を通して難じさせてみせる。それも販売戦略のひとつにしておいて自堕落な、うかみ綾乃の他愛ない自虐的な諧謔なんぞ最早何処吹く風。尋常でない発汗で撮影に挑む平沼ガチを、気遣ふ芽衣のファンタジックな優しさは僅かか微かに琴線を爪弾きつつ、しかも出番は束の間の、涼南佳奈の裸は浪費される。気持ちは酌めぬでもないが、そこで女優部でなく平本一穂に焦点を当ててどうする。歌を歌ふより寧ろ上手いのではとすら思へかねない、仲野茂が思ひのほか変らず元気な様子も微笑ましいにせよ、申し訳ないが枝葉の極み。当サイトは別に、親衛隊ぢやねえよ。徹底した俗物として描かれる田中と佐藤の造形が、殆ど唯一満足な点といふブーメランは苛烈に突き刺さり、プックプクに膨らんだ乳首を現にビクンビクン震はせるワンマンショーも披露する、榎本美咲の本来主力兵装たるべき悩ましい美巨乳を、愛でる下心さへ終に萎えかける始末。一言で片付けると、全く以て似ても焼いても食へない。
 とうにペンペン草一本生えないエイジェント・オレンジぷりの火にガソリンを注いで、だからこの映画、地獄の底をもブチ抜きやがんだなあ。ユートが持ちかけたG.D.F.新譜は、割とリアルな理由であへなく頓挫。ひとまづ潔く、あるいは力尽き旗を下すかに思はせた錠が「俺の世界のセンターはこゝ―ステージの上―だ!」と「東京無限」に突入するのが、締めの濡れ場とアルカトラズ、もとい虻蜂捕らずなハイライト。二兎とも逃してゐては、ハイライトたり得てゐない。何といつたら、いゝものやら。面倒臭いから端的に斬り込むと、ハコの中とかクッソ狭い村社会で、互ひに称賛慰撫し合ふ地獄絵図が心からどうしやうもない。墨入れたデブが、G.D.F.にへいこら平身低頭するカットの醜悪さ痛々しさと来たら、「もうやめて><」と頭を抱へるほかなかつた。木戸銭落として小屋の敷居跨いだ筈が、これ何かの拷問なのかな。そもそも御大・仲野茂から、四十年一日の目出度い御仁ではあれ、2015年に結成三十周年を通過したG.D.F.が別の意味でヤバい。継続は力なり?こんなら会社員か。継続しかして来なかつた力如き、経年劣化にも抗へまい。再生産が関の山、後退しないので精一杯のロックンロールが、近年汎く囁かれ始めもした、ロックはダサいなる無常なテーゼを否応なく突きつける。安寧な当人達は、至つて無自覚なところで。さう捉へた時、一見箸にも棒にもかゝらずぐうの音も出ない今作が、量産型裸映画的には本分と一切関り合ひもしない点はさて措き、これはこれで、時代を撃つた一作と評し得るのかも知れない。時代を撃つたといふか、時代に撃たれたといふか。


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 「女刑務所 変態」(昭和54/製作:若松プロダクション/配給:新東宝映画/脚本・監督:高橋伴明/撮影:長田勇市・中島正利/照明:磯貝一・西池彰/編集:酒井正次/助監督:鈴木敬晴・樋口隆志/製作担当:磯村一路/効果:秋山実/音楽:浪漫企画/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:岡尚美・北沢ゆき・有沢真佐美・杉佳代子・可愛ひとみ・笹木ルミ・泉ユリ・下元史朗・吉田純・樋口隆・今泉洋/友情出演:騒動社 土方鉄人・飯島洋一・碓水明・斉藤茂樹)。出演者中、有沢真佐美がポスターには有沢真佐実で、樋口隆と騒動社は本篇クレジットのみ。正確なビリングは、樋口隆と今泉洋の間に騒動社を挿む。
 ポカーンと浮いた小島の空撮、バンクかも。塀から正面に繋げて“昭和六年 佐和島刑務所”、暗転してタイトル・イン。明けて檻が開き看守視点、劇中用語で破壊主義者の叶か加納瞳(泉)を、看守の井上(下元)が取調べと称して外に連れ出す。舌の根も乾かぬうちに、井上は「さあ脱いで貰はうか」と瞳をヒン剥き手篭めにした上で、川の中にあつらへた水牢に全裸で放り込む。水牢に続けて放り込まれた市川隆子(岡)は、大概衰弱した瞳を水から揚げるのと引き換へに、自ら井上に身を任せる。一旦逃亡を図りつつ、トッ捕まつた二人は所内で所長(今泉)も交へ各々拷問。房に戻され、見ず知らずの隆子にコロッと心を開いた瞳は、西坂町にあるアジトの所在を口を滑らせる。ところが隆子の正体は、いはゆるアンダーカバーであつた。所長の思惑は功を奏しアジトは壊滅、冷酷な事実を突きつけられた瞳は隆子を犬と罵り、その場で自死する。
 配役残り可愛ひとみと樋口隆は、隆子が一人で入る特戒房に、追加される初恵と名無し看守。初恵が隠し持つ煙草の入手経路を探るのが、隆子の次なる任務。フィジカルな隠し場所といふのが必ず調べられる前に対し、案外スルーされる後ろ。実際さういふものなのかも知れないが、あんまりな方便が笑かせる。喉には煙しか通さないにせよ、口に入れるものだぞ。北沢ゆきが、初枝と百合の花咲かせる代償に、煙草を流す教官の伊藤。杉佳代子は、不貞を働いた男爵の夫をどうにかした松岡シノブ、隆子らの房の新参者。有沢真佐美と笹木ルミが、房長のマツともう一人の川原か河原エツコ。吉田純は、最初は犯したエツコと、その後も継続した関係を持つ看守・小水。小水の子を、エツコは宿してゐた。素性が割れた、より正確には鈴木タエコとして追潜入した伊藤に割られた隆子は、三日三晩寝かされないまゝイカされ続ける、ふくろふ落としにかけられた末遂に発情もとい発狂。騒動社の面々は、ロングに映えるスケールの大きな砂浜、完全に壊れた隆子を宛がはれる男囚部。
 新東宝自体が今回新版ポスター(2019年)に“懐かしの新東宝「昭和のピンク映画」シリーズ!”と銘打つ、高橋伴明昭和54年第八作。一方ペケ街の新東宝公式は、前年の「私刑」と翌々年の「犯す」(主演:朝霧友香)で三部作に括つてゐるのだが、翌年の「緊縛」を割愛するところのこゝろは判らない。
 jmdbによると公開が八月といふことは、あるいはお盆映画であつたのか、豪華七名の全員脱いで絡む女優部を擁し、尺も一割増しの六十六分。若松プロ製作といつて殊更反権力の色彩が強い訳でもなく、女を責めるシークエンスに際しては凄惨なまでの濡れ場を、たゞひたすらに撃ち続ける。潜入捜査の方向に機軸を振りながらも、あくまでフォーマット通りの女囚映画を、幾分以上ブルータルに寄せたパワフルな一作。尤も頭数は倍増以上とはいへ、正直今の目で見る分には杉佳代子―と可愛ひとみ―以外は薹が立つたか白粉臭い布陣の訴求力はさして高くもないものの、隆子が職務を忠実に果たさうとした結果、佐和島刑務所が崩壊に至る展開は素直に面白い。大雑把スレスレの鮮烈なストップモーションが、ドミノ倒しが性急なラストを首の皮一枚救ふ。いきなしのズドーンで、果てしなく遠くまでフッ飛ぶ下元史朗とかケッサク。この頃に於いてのみ、許された豪快なカットにさうゐない。


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 「いんらん姉妹」(昭和63/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:笠井雅裕/脚本:柿崎明彦/企画:伊能竜/プロデューサー:白石俊/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:瀬々敬久/撮影助手:片山浩・小山田勝治/照明助手:森本博之/音楽:赤地竜弥・関和則・藤田ユウ子・藤沢直治/メイク:KAYOKO/スチール:津田一郎/車輌:JET・RAG/アクション監督:成田誠/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:高原ルミ・橋本杏子・風見怜香・たかとりあみ・下元史朗・螢雪次朗・坂田祥一朗・山本竜二・ジミー土田・甲斐純一・会田雄二・平山竜二・池島ゆたか)。企画の伊能竜は、向井寛の変名、白石俊とどうも担当が怪しいのは本篇ママ。この期に及んでかうしてクレジットを見てみると、元々、あるいはかつては橋口卓明が瀬々敬久よりも格上であつた事実に何気に驚かされる。
 セーラー服で屋上に上がつて来る、高原ルミ(VHSジャケには高原流美)のロングにサクッとタイトル・イン。遥か下方の地上に、一対三でボコられる男子も映り込ませる。描きかけのカンバスなんて置いてある、早くも狙ひ過ぎな屋上に上がつたヨシノメグミ(片仮名なのは漢字を特定出来ない由/高原ルミ)の、第一声が「ユースケ君のインポ野郎!」。ユースケ(ビリング推定だと甲斐純一、会田雄二か平山竜二かも)は部屋にメグミを連れ込んでおいて、据膳気味のいざとなると明太子とガリ?で作つた、案外よく出来た観音様に衝撃を受け勃たなかつた。屋上に当のユースケも現れ、メグミと仲良く喧嘩する生温かい様子に、ジミー土田率いるヤンキー集団「ジミーズ」(大絶賛仮称)が、七輪で焼く肉とアンパンをキメながら冷ややかな視線を送る。ジミーズの面々はほかに甲斐純一・会田雄二・平山竜二からユースケ役を引いた二人と、固有名詞はシンジのゴリラに、スケバンがもう一人、ゴリラ?ジミ土がゴリラ―の着包み―とワチャワチャするシークエンスの途方もなさで、兄弟子であるナベを軽く超えた感もなくはない。兎も角、ジミー土田はメグミを輪姦す算段を立てる。
 配役残り螢雪次朗は、メグミの父親・ヨシノ(池島)が勤務する「ファミリーホーム」の上司、役職は部長。「ファミリーホーム」のブルータルな経営指針、「家は一代ローンは末代」が笑かせる。姉の帰りが遅いメグミとヨシノの夕食挿んで、艶やかに濡れ場で飛び込んで来る橋本杏子―笠井雅裕の元配偶者―が、メグミの姉・ハルカ。三分姿を見せないハルカの不倫相手が下元史朗、こちらも蕩けるやうにクッソ男前。ハルカの妊娠疑惑といふ飛び道具を機に、グジャグジャ別れる別れないを拗らせつつハルカがハンドルを握る下元史朗の尺八を吹いてゐたところ、車が後ろから追突され歯で阿部定。たかとりあみは、病院に駆けつけた下元史朗の妻、多分ハナコ。山本竜二が担当医師、全く遊びがないのはさて措き瞬間的な出番に、晴れの初陣に花を添へた風情も窺へる。三番手濡れ場要員にしては―複義的に―デカすぎる存在感を放つ風見怜香は、遂に詳細が一切埋められないハルカの両刀相手。バイなのかビアンなのか、風見怜香自身のセクシャリティさへ不明。ex.坂田祥一朗で坂田雅彦となる坂田祥一朗は、螢部長が持つて来たハルカの縁談相手・大空カナタ。会話を何でも馬鹿みたいな快活さの「ええ!まあ!」で返す、酷い造形を振られる。その他、メグミとユースケの屋上にもう一人ゐる、別の学校のセーラー服。結構な人数のファミホ要員に、十年前に交通事故死したヨシノの妻・ケイコと、姉妹幼少期の子役。看護婦とカナタの両親等、協力クレジットもないまゝに、二十人前後が更に見切れる。
 過去に一度見ようかとしたものの、謎の長尺に一旦二の足を踏んでゐた笠井雅裕デビュー作。謎の長尺といふのが、標準的なロマポのフォーマットをも跨いだよもやまさかの八十分!直截な話、橋本杏子と風見怜香が―ローションで―ヌッルヌル且つテッカテカに咲かせる大輪の百合を見るに、凡そ一般公開に色目を使つた代物にも見えず。この時余程笠井雅裕が将来を嘱望されてゐたのか、一体何の物の弾みなのだか知らないが、そもそも、いふてもたとへば愛染恭子級の、名前で客を呼べる大看板を擁してゐる訳でも必ずしもない中、八十分とかいふ如何にも小屋からは面倒臭がられさうな尺で、封切り以来、果たして今作はどれだけ再映されたのであらうか。ちな、みに。高原流美―片仮名ルミは改名後とのこと―のファンサイトによると、原題は「フルメタル家族」とかいふらしい。
 とりあへず、演出のトーンはおろか画面のルックにも、目新しいなり見るべき点はまるで見当たらない。介錯にも恵まれぬメグミが平板な反面、ハルカの絡みはゴリッゴリ攻めて来る以外には、トメに座る割に女優部の恩恵に与れないヨシノが開陳する、家そのもの乃至家族に関するテーマも、言葉が足らないのか語り口が悪いのか単なる当サイトの読解力の問題か、精々空念仏を捏ね繰り回してゐる程度、直截にいへば何をいひたいのだかサッパリ判らない。ところがチンコを喰ひ千切られた下元史朗が廃人状態になるのに続き、風見怜香が出し抜けに感電死する辺りで、闇雲な勢ひがライズする。死にかけたカナタこそ生還するにせよ、みるみる死体の山が築かれるかに思はせた魔展開の果て、最大の見所は何と七十分からオッ始まるメグミ×ユースケV.S.ジミーズの最終決戦。復讐を期し、メグミがユースケの単車でジミーズが根城とする廃工場に乗り込むと、強いライトを背負つて踊りだすジミーズ!俄かに走り始めるハードロックな劇伴もある意味完璧に、ラウドなウエスト・サイド物語で華麗に火蓋を切るや、花火か発煙筒辺りの、何かよく判らない火を噴く棒状のプロップと、メグミは手製の手裏剣も持ち出す銃撃戦は何が何だか、兎に角箍のトッ外れた異様な迫力。シンジが蜂の巣に被弾する死に様は着包みに火が点きはしないかとハラハラし、シンジを喪ひ激昂したジミーズがメグミとユースケを激しく追撃するカットに際しては、激走する手持ちカメラが圧倒的なスピード感と緊迫感とを撃ち抜く。挙句、鳴り始めるワルキューレの騎行。少なくとも、この時笠井雅裕は紛ふことなき天才であつたと、ワルキューレが荘厳に起動した瞬間、脊髄で折り返して確信した。最後に残つたジミ土とメグミが、何でまたそんなものがそんなとこに転がつてゐるのか卒塔婆で決闘。ジミ土が配電盤を背負ふフラグも清々しいが、最強に素晴らしいのは、息を吹き返し、最後の力を振り絞つた投げナイフでユースケの右手を貫いたジミ土に、メグミが止めを刺すのが何処から持つて来たのかモーゼル銃!映画のクリシェを積み重ねた末に、見事グルッと一周してのける超豪快な力技には本気で喝采した。最後にヨシノが家を出たハルカは勿論、メグミも不在のローンが悠久に残るマイホームにて、“私の中の新たな夢の家族”だ何だ漠然と独り言ちる、相変らずてんで掴み処のない―恐らく―主題なんぞこの際どうでもいい。対下元史朗ではオーソドックスな戦法を高水準に、対風見怜香に際しては限りなくAV寄りに越境しての、二発二様に放たれる橋本杏子の濡れ場と、ラストの闇雲なV.マドンナ反逆同盟。二つの矢鱈に絶対値のデカい見所で、笠井雅裕はピンクの歴史に確かに足跡を刻んだのだと、改めて、あるいは明後日か一昨日に感動した。

 一応一言お断り申し上げておくけれど、意図的にチャンポンしたもので、混同してゐるのではないからね、ピリオドが入るのは流石に知らなんだけど。


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 「世界で一番美しいメス豚ちやん」(2018/制作:Production Lenny/提供:オーピー映画/監督:城定秀夫/脚本:鈴木愛・城定秀夫/プロデューサー:久保獅子/撮影・照明:田宮健彦/録音:弥栄裕樹/助監督:伊藤一平/音楽:林魏堂/編集:城定秀夫/ヘアメイク:辻真美/スチール:本田あきら/監督助手:寺田瑛/撮影助手:荒金聖哉/制作応援:館林剛太郎・沖貴優・川上悠/撮影協力:アートワークスラパン・DJ KOYA・浅木大/映像提供:『誘女、派遣します。』©V☆パラダイス/仕上げ協力:川上翔太/出演:百合華・守屋文雄・三苫うみ・並木塔子・吉田覚丸・山本宗介・ケイチャン・久保獅子・可児正光・松井理子・もちこ・館林剛太郎・沖貴俊・川上悠・城定由有子《声の出演》)。出演者中、館林剛太郎以降は本篇クレジットのみ。
 レニーロゴに続く映倫番号尻から蝉の音、推定ミルクバーを舐め舐め陽炎の中を歩いて来た巨漢女の姿が、フレーム下方に消える。甚大な体重を支へきれず、憐れ力尽きたヒールが破断してゐた。女がアンダーリムのメタルフレームを直すと、パッッッツンパッツンのチビTとデニムのホットパンツで波打ち際に佇む、キー・ビジュアルにタイトル・イン。明けて恐らくこゝで城定由有子の声を使用してゐる、食用豚を扱つたドキュメンタリー番組。借金の保証人になつた友人にトバれ債務を抱へたマリエ(百合華)が、電話口では“畜舎”と称される、いはゆるデブ専のデリヘル「牝豚養豚場」の事務所でその番組を見ながらポロポロ泣いてゐる。直ぐ背中の三苫うみも嬢の萌、更に後方の松井理子ともちこがその他嬢要員。殊に松井理子ともちこに至つては僅かに与へられる台詞を除くと、終始何かしら口に入れ続けてゐるそれはそれでタフな役。泣いてゐるのを指名されないからかと勘違ひした、店長の道田(吉田)はマリエに豚まんを差し出す。何度でも繰り返すが、当サイトは己が太ることを許してゐない鋼の人生観で生きてゐる人間であれ、優しい世界ではある。
 配役残りケイチャンは、そんなマリエを自宅に呼ぶ塚本。対ex.けーすけ戦後、マリエは返済を続ける街金に。雰囲気イケメンを中途半端に持て余す善人よりも、マイルドヤンキー系の悪人の方が似合ふ可児正光は、債務者A(館林剛太郎と沖貴俊の菊島稔章に似てゐる方)に生命保険加入を強ひる街金の社員・山田。a.k.a.久保和明の久保獅子が、マリエには直々に応対する社長の中島、牝豚養豚場を紹介したのもこの御仁。マリエに想ひを寄せてをり、“豚だつて”金を返すと債務者Aを恫喝する山田に大激怒、脊髄で折り返して蹴倒し、返す刀で債務者Aにマシンガン罵声を浴びせかける十八番が爆発的に笑かせる。山本宗介は度々マリエをホテルに呼ぶ、常連客の神谷。神谷に生死を彷徨はせる雷電ドロップ級の顔面騎乗が、ポスター・ビジュアル、本当に死んでしまひさう。一日の仕事を終へ、送迎車から降りるや炭酸飲料を買はうとしたマリエは、自販機の下に落とした百円玉を取らうとして、丸太が抜けなくなる。守屋文雄が、そこに通りがかりマリエとミーツする風来坊・カズ君。川上悠は、何だかんだでカズ君との同棲を始めたマリエ宅に、エアコン様を持つて来る電気屋。川上悠の出番後多分もう一回、城定由有子の声を使用してゐる。そして四十五分ひたすらに温存、ファースト・カットで観客の心を鷲掴む並木塔子が、カズ君の実は配偶者・美津子。透明度の高い清楚な大正調美人顔に、水着にして立たせてみると、案外寸胴で足も短い日本人体型が堪らない。時代を獲りに来た、一種の風格を初陣で早くも漂はせる。沖貴俊と館林剛太郎のハンチングの方が、山田から地下施設の労働契約書にサインするやう迫られる債務者B。その傍ら、借金を完済したマリエを、中島は食事に誘ふも断られる。フラれた旨無造作に茶化す山田を、中島が今度はグーで殴り倒すのが又しても捧腹絶倒。少なくとも低予算映画のフィールドにあつて、久保和明は借金取りを演らせれば日本一なのではなからうか。
 城定秀夫大蔵第四作は、撮了二週間を待たず先にOPP+に飛び込む、疾風迅雷の超電撃作戦を敢行した話題作にして、今年で最後となる第三十一回ピンク大賞の、最優秀作品賞と守屋文雄の男優賞受賞作。因みに一般映画題「恋の豚」とピンク版との差異は、御当人のツイートによるとタイトルと映倫ナンバーと、実質的には絡みの表現が“ビミョーに”違ふ―だけ―らしい。尺から全ッ然別物を放り込んで来る連中、聞いてるか。これが城定秀夫のほかは目下いまおかしんじしか採用してゐない、正攻法のストロングスタイルといふ奴だ。それでR18とR15+が両面戦へてしまふより本質的な疑問については、一旦さて措く。
 巨漢の風俗嬢が偶さか出会つたボサッとしたオッサンのフーテンに、何故だか一目で恋に落ちる。風俗嫌ひのフーテンに自分の仕事はいひだせず、イケメンの常連客から求婚されたりなんかしてゐる内に、出会つた時と同様、フーテンは不意に姿を消す。漸くの物の弾みで再会したフーテンは、高さうな外車の停まる一軒屋に住んでゐて、なほかつ綺麗な妻がゐた。元々作り手とピンクスの距離が近過ぎた、悪しき風潮がSNS時代により汎く拡散されたやうにも思へる、舞台挨拶界隈でちやほやされる風情は大いに窺へつつ、直截なところ、そこまでワーキャー騒ぐ映画かいふと甚だ疑問。双方内に秘めた性癖を拗らせた末に、擦れ違ひかけた若夫婦が上手いこと元の鞘に収まる。既存の大蔵三本中最も他愛なかつた「汗ばむ美乳妻 夫に背いた昼下がり」(2016/長濱亮祐と共同脚本/主演:七海なな)にさへ、フラットな展開は物語的には劣るとも勝らず。精緻に構築された論理が狂気の領域に突入しかねない、驚愕の電車痴漢トリプルクロスを成し遂げた二十一世紀最強の痴漢電車「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016/主演:希島あいり・竹内真琴・松井理子・麻木貴仁)を経たあとでは、贅沢な不足を覚えるのも禁じ難い。“世界で一番美しい”かは兎も角、メス豚を明確な意図を以てビリング頭に据ゑる一大奇襲は、量産型娯楽映画をかつての如く滅多矢鱈に数打てはしない、現在に於いては確かに特筆すべきブレイブ。ただその点に関しても、腰をいはしたカズ君を、マリエがそのまゝ自宅に連れ込んでの初夜。カズ君がマリエの巨体を一欠片たりとて意に介さない、単なる豪快な無頓着と紙一重の大いなる懐の深さは狙ひ通り琴線に触れるにせよ、神谷の保険を留保した諸刃の剣で、下手な物言ひを不用意に滑らせるとマリエの肥満といふハンディキャップが、ギリギリの徳俵にも余裕を余して切羽詰まらない。参考作にと目を通しておいた、「ハレンチ・ファミリー 寝ワザで一発」(2002/監督:女池充/脚本:西田直子/主演:絹田良美)よりも踏み込みの甘さを感じるマリエの本丸エモーションが、久保Pが綺麗に撃ち抜く中島の不器用でブルータルな純情に、負けてゐる印象を端的に覚えた。そもそも、守屋文雄がクッソ美人の嫁と結婚した上で、自由気儘に遊んで暮らせる超絶ファンタジーが説得力に到達し得てをらず、カズ君との新しい生活に胸躍らせるマリエが大地を揺るがせスキップする。幸福感溢れるショットを彩るラブ・ミー・テンダーは兎も角、映画本体が非力に堕した途端、饒舌に聞こえる林魏堂のオリジナル劇伴もさりげなく耳に障る。十二分に面白いのは面白いが、ジョージョージョージョーとベルが鳴る度に、一々尻尾を振り涎を垂らしてみせるほどでもあるまい。全般的なプリミティブさは丸ッと等閑視してのけると、一撃の威力は、加藤義一の「白衣の妹 無防備なお尻」(しなりお:筆鬼一/主演:桜木優希音)の方が強いやうに思へる。のが、精々四か五の手数を積み重ねた末に、はふはふの体で十のラッキーパンチを放つ―時もある―凡百の作家に対し、八九の有効打を始終当て続ける城定秀夫が逆説的、あるいは宿命的に背負ふウィークポイント。


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 「独身OL 毎夜の指あそび」(1994『特殊性技 ONANIEテレフォン』の1997年旧作改題版/企画:サン企画/製作:Gプロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:市村譲/脚本:夢野春雄/撮影:立花次郎/撮影助手:太田純/照明:堀川春峰/編集:酒井正次/音楽:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド《株》/効果:サウンドChip/スチール撮影:最上義昌/現像:東映化学工業《株》/出演:麻生雪・谷口眞樹・西野奈々美・野上正義・石津雅之・太田始・大矢信二・神戸顕一)。
 王冠開巻から、点描の電話機にチャッチャとタイトル・イン。タイトルバックはエロ写真の数々、に反して。ホンワカした劇伴が、サザエさん感覚のホームコメディ調。この辺りの、清々しくぞんざいな選曲が早速堪らない。ある意味、量産型娯楽映画といふ奴は却つてそのくらゐでちやうどいいやうに、時に勘違ひしなくもない、別の意味かも。何処ぞの編集部、ネクタイを締め机も与へられる編集者の弘美(石津)と、弘美に対する呼称が“先輩”の割に、服装はカジュアルでポジションがよく判らないイラストレーターのめぐみ(西野)が、三ヶ月カナダに長期出張するタケダ(一切登場せず)のマンションを、その間弘美が留守番する基本設定を投げる。その夜、一旦帰宅した上で、弘美が向かつた件のマンションが現存する「秀和深川森下町レジデンス」。とか、いふ前に。弘美の退社時、だから漆黒に暗いのに、相ッ変らず照明を全く使はない雑居ビル出入り口。闇の底から浮かび上がるかの如く、石津雅之が往来に現れる唐突なカットが、地味にか実に市村譲的。この期に及んでよくよく勘繰るに、市村組でしか見かけない堀川春峰なる作為も感じられる名義の照明技師の実在自体、見るから市村譲の変名臭い夢野春雄含め何気に疑はしくはある。つい、でに。jmdbには助監督として記載のある佐々木光が、本篇クレジットには見当たらない。逆からいふと今作以外に参加してゐない―とされる―佐々木光も、そもそも怪しいといへば怪しい。
 閑話休題、一風呂浴びた弘美が晩酌をキメようかとしたところ、謎の女からテレフォンセックスを仕掛ける電話がかゝつて来る。主演女優はバイブも持ち出し、双方ワンマンショーを大完遂。弘美は翌日も完全無料テレクラを被弾、何某かに囚はれてゐさうな様子をめぐみからは訝しまれつつ、半裸で電話を待つ三日目の夜、その生活。尤も着信音は鳴らぬまゝ、壁越しに聞き覚えのあるリアル嬌声が聞こえて来た弘美は、何階なのか知らんけど果敢にもベランダ越しに痴態を目視。特殊性技を駆使しはしないONANIEテレフォンの主が、実は隣家の斉藤りえ(麻生)である恐るべき世間の狭さを確認する。
 表記込みで、クレジットに役名を併記して呉れるのは本当に助かる配役残り。野上正義は、りえ曰く弟が起こした交通事故を出汁に、りえを―性的に―脅迫する横山、建設会社社長。社長といつて、婿養子で家では戯画的な嬶天下をカマされる横山の、妻といふか要は主人・あやこが谷口眞樹。どうも本職俳優部には見え難いニュートラルな大矢信二と、太田始は刑事BとA。神戸顕一は絡みひとつこなすでなく、クライマックスへの送りバントも決めるにせよ、めぐみと超絶どうでもいい会話に終始する編集長。流石に、神顕を連れて来るほどの役かと首を傾げた。
 全体何のものの弾みか間違ひか、この期にバラ売りex.DMMに新着した市村譲1994年第三作、間違ひとは何事だ。インターフィルム経由の国映系は月額にもガンッガン新着、ex.DMMが結構アツい。といふか、これインターフィルムはものによつてはバラ売りと月額同時に放り込んでゐないか?天晴な潔い姿勢を、他社も見倣つて欲しい。
 再度、閑話休題。未見の市村譲が見られると、脊髄で折り返して飛びついた粗忽の塊は何を隠さうこの俺なのだが、如何にも市村譲らしいといへばそれまでの、一言で片付けるとまあ漫然とした一作である。スカパーで放映されてゐた形跡も窺へるものの、量産型娯楽映画に一欠片の愛着なり造詣もなく視聴し―てしまつ―た素面で不憫な御仁の、お気持ちを慮るや止め処なく流れる涙も禁じ得ない。といふか最後まで見通した人間が果たしてどれだけゐるのであらうか、我慢して。最低限形ばかりのオチにどうにかかうにか辿り着くとはいへ、何時まで経つても満足に起動しない物語。印象の薄い主演女優と、明確に魅力に乏しいボサッとした男主役。弘美がりえを特定する件では、カット毎に弘美がジージャンを着てゐたりゐなかつたり。スクリプターの在不在以前の問題、精々三日で撮影してゐた筈なのに、スタッフ・キャスト共々、全員記憶媒体をトッ外して撮つてゐたのか。画的に最も特徴的なのは、極端に暗い画面は―あくまで―然程目立たず、代つて何処に誰が映つてゐるのだか暫しといふのが本当に暫く判然としない、ぼんやりとした雑踏のロング。斯くも頓着ない映画を平然と生み出す、生み出せる姿勢が、寧ろ羨ましくさへなりかねない市村譲の仕事。さう捉へる時、とかく世知辛く余裕を欠いたこのクソ時世、市村譲に敢て触れる意義が、辛うじて見出せるのかも知れない、牽強付会といふ言葉知つてるか?唯一正方向に評価し得る点は、遂にビリングさへ無視。三番手であるa.k.a.草原すみれこと西野奈々美を、堂々と持つて来た締めの濡れ場。構図から意外とダイナミックな騎乗位で躍る西野奈々美のパンチのあるオッパイは、現代でも些かの遜色なく通用しよう。

 佐々木光に関して疑つた筆の根も乾かぬ内に、今度は手の平返して鵜呑みにする神経も我ながらどうかとは思ふが、恐らくピンクの戦歴は全四作となる麻生雪にとつて第三戦。順に初陣が珠瑠美1994年第四作「過激!!同性愛撫 蜜の舌」(主演:柴田はるか)、第二戦が同日に封切られたとされる珠瑠美次作「出張ソープ 和風不倫妻」(主演:神代弓子《イヴ》)。特オナ挿んで最終戦も、市村譲次作「超変態 女体肉実験」(主演:西野奈々美)。珠瑠美と市村譲で二本づつ、凄まじいフィルモグラフィーであるといふのと、それでも、あるいは一応、今作が唯一の主演作に当たる。全く以て、だから印象は薄いのだけれど。


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 「冷たい女 闇に響くよがり声」(2018/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:高橋祐太/撮影監督:根岸憲一/録音:小林徹哉/編集:山内大輔/音楽:大場一魅/効果・整音:AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:佐藤洸希/撮影助手:岩淵隆斗・平見優子/照明助手:佐藤仁/スチール:本田あきら・山口雅也・杉本晋一/現場応援:小泉剛・松井理子/挿入歌:『さくらふぶき』・『ありがたう』作詞・作曲・編曲:藤井良彦 歌:葉月汐理/エキストラ協力:YO-EN・葉月汐理・相川優・米山敬子・十松弘樹・桜井明弘・北村孝志・川本じゅんき・高橋祐太・井坂敏夫・中村勝則・末田佳子・吉原あんず・松井理子・小泉剛/協力:グンジ印刷株式会社・はきだめ造型/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:成宮いろは・佐倉萌・長谷川千紗・竹本泰志・山本宗介・郡司博史・西村太一・国沢実)。出演者中、郡司博史以降は本篇クレジットのみ。
 マンションをティルトアップで舐めて、増田真亜子(成宮)が体内時計のみに従ひ目覚める。リビングを経て目覚ましが鳴り、寝室を別にする夫の道雄(竹本)も起床。一人分の朝食を支度、納豆を握り箸で搔き回し始める道雄を、ベランダで冷たい茶を喉に通す真亜子は憎々しげに見やる。ボサッと覇気もなく道雄が出撃、印刷屋の家業を継いだ「グンジ印刷」に、鍵を開け入つてタイトル・イン。アバンのサービスは、ポッチする成宮いろはのお乳首様だけ。
 明けて外出した真亜子の行先は、自室かホテルか微妙な、浮気相手でノワール作家の茂木誠(山本)が待つ一室。後々埋められる外堀を整理すると、キャバ嬢であつた真亜子は茂木と店で出会つた当時は広告代理店マンの道雄とを天秤にかけ、堅い勝負を選び道雄と結婚する。ところが道雄が退職、先の見えたグンジを継いだ脱サラに真亜子は態度を硬化、夫婦関係は完ッ全に冷え切つてゐた。エグい尺八で轟然と火蓋を切る濡れ場を通して、真亜子は保険金目当ての道雄殺しを茂木に依頼。自身は同窓会に出席する不在証明が成立する夜、パートも帰り一人となる時間帯の道雄を、植木鉢の下に隠した鍵でグンジに侵入・殺害するザックリした手筈を整へる。
 配役残り佐倉萌は、臍を曲げた真亜子は一切手伝はないグンジの、パート従業員・武藤桃子。小遣ひを得て、道雄と関係も持つ仲。長谷川千紗は、茂木が依頼した趣味と実益を兼ねる系の殺し屋・目黒美沙。三番手にしては単なる絡み要員に止(とど)まらない重役ながら、粗雑なヒャッハー造形に足を引かれる。潤沢な協力部から、十松弘樹コネクションのシンガーソングライター・YO-ENと松井理子に葉月汐理は、真亜子の同窓生要員、もう二人ゐる。改めて後述するが、葉月汐理は2010年第三作「未亡人銭湯 おつぱいの時間ですよ!」(脚本:五代暁子/主演:晶エリー/ex.大沢佑香)に於ける女湯要員以来の太腹帰、もとい大復帰。桜井明弘は、二次会の女子会会場、御馴染「ステージ・ドアー」のマスター。夜はステドのホステスとしても働く桃子が、真亜子と殆ど意味のない対面も果たす。十松弘樹と北村孝志以降は、無闇に入つたステド満席部。決して前に出ないナチュラルさでさりげなく見切れる高橋祐太が、新田栄超絶のウォーリー感を何気に相伝する。一応正規俳優部その他、グンジの主である郡司博史と西村太一に国沢実は、ラストに登場する刑事部、もう一人ゐる童顔の制服警察官が判らない。
 2013年第二作「熟女の色香 豊潤な恥蜜」(脚本:五代暁子/主演:村上涼子)ぶりのヒッチコックもの、「ダイヤルMを廻せ!」(1954/米/脚本:フレデリック・ノット)の嫁を殺さうとする旦那を旦那を殺さうとする嫁に引つ繰り返した、池島ゆたか2018年第三作。手垢のついた幻影オチの連発に堕しもする、サスペンス的には漫然とした反面、ダイヤルMを愚直に踏襲しつつも、終盤マーゴならぬ真亜子と道雄の夫婦仲が修復される、百八十度の大変更を加へてゐる点が最大の特色、表の。夫婦生活の導入込みで道雄と真亜子が互ひの激情をぶつけ合ふ件は2018年を代表する名場面、と行きたいところが。腹の底から振り絞つてなほ、明瞭に聞こえる竹本泰志の発声は見事な一方、初陣にして竹本泰志との夫婦役前作、2017年第二作「妻たちの宴 不倫痴態」(脚本:五代暁子)の頃から大したプログレスも感じさせない、成宮いろははといふと表情も口跡も何処まで行つても御愛嬌。流石に、煽情性を優先したキャスティングが、踵ひとつ俵を割つた風情は否めない。加へて着地点を大きく弄つた割に、最初の事件当日はダイヤルMを馬鹿正直にトレースした結果、結構決定的なちぐはぐが生じてゐる。道雄の手に知らず知らず美沙の鍵が渡る、あるいはより核心に近づくならば、今作の場合存在しないハバード警部の推理を補完するイベントが発生しない以上、何時までも後生大事に鍵が植木鉢下にある不自然は第二次凶行の便法で片づけ得るにせよ、そもそも真亜子が軽く危ない橋を渡りまでして、美沙をグンジに入れさせるのに道雄の鍵を使ふ理由が存在しない。真亜子が茂木―が自ら手を下すものと真亜子は思つてゐた―に、自分の鍵を貸せばサクッと事済む話である。それをいつては、原典から躓くやうな気もしなくはないけれど。重ねて、もしくは火にニトロを注いで。何もかんもそれどころでなくすのが、ステドにてカラオケのマイクを握る形で仰々しく自曲まで披露する、葉月汐理(ex.木の実葉/ex.麻生みゅう)の惨劇、もとい衝撃。何が阿鼻叫喚といつて、これ多分、葉月汐理の中にデビュー当時の麻生みゅうはスッポリ格納出来ると思ふ。挙句、わかばとか底辺臭い煙草吸つてんぢやねえよ、俺も底辺だけど。恐らく普段から呑んでゐるにさうゐないが、そこは虚構の中であり、真亜子の同級生といふポジション的に殊更やさぐれる要もないゆゑ、煙草を吸ふなら吸ふでもう少しカッコつけて欲しい。といふか、直截にいふと要はこの人映画に出したらイカンやろ、良くなくも悪くもヴィジュアルショックに全部持つてかれてしまふぞ。これでもまだ、言葉は選んでゐる。確かに結婚してゐた筈なのに、目下ステータスを未婚にしてゐるのもジワジワ来る。いはずもがなをいつておくが未婚と独身は、決して同義ではない。未婚が必ず独身ではあつても、独身が必ずしも未婚とは限らない、かつては既婚であつた者も含まれるからな。案外世評は高いやうだが、幹と枝葉―に狂ひ咲いた凶花―双方、諸々ツッコミ処に負けた一作ではある。

 小泉剛が新作ピンクに参加するのなんて何時以来だらうと探しかけたものの、自身二本目となる松岡邦彦によるデジエク第九弾「おばちやんの秘事 巨乳妻と変態妻なら?」(2017/脚本:金田敬/主演:桐島美奈子)をすつかり忘れてゐた、忘れるのも仕方ない映画ではあれ。


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 「痴漢電車 あの娘にタッチ」(昭和63/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/企画:白石俊/撮影:志賀葉一/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:小原忠美・小笠原直樹/計測:宮本良博/撮影助手:中松敏裕/照明助手:王子貞治/美術協力:佐藤敏宏/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:荻野目翔子・橋本杏子・川奈忍・松本ちえみ・小林あい・池島ゆたか・ジミー土田・山本竜二・久保新二・螢雪次朗/友情出演:たかとりあみ・滝川真子)。製作の伊能竜は、向井寛の変名。正確なビリングは、久保チンと螢雪次朗の間に友情出演を挿む。
 映画「東京の休日」(監督:ウヰリー綾羅/主演:鳳直子)上映中の、“名画の殿堂”「駅前キネマ」。実際に駅前キネマといふ小屋が存してゐたのか否かにはニュートラルな名称すぎて辿り着けず、「東京の休日」といつて、皇女でなく帝自身がランダムに出歩く、荒木太郎の封印ピンクが時空を超えた訳ではない。与太を吹かねば死んでしまふ病ならば、息すんのやめれ。マリア(滝川)と久保田(久保)が原付で二尻してみたり、真実の口ならぬ針千本の泉に赴く「東京の休日」の終映後、眠る主演女優の後方に若き渡邊元嗣も見切れる場内。駅前キネマ三代目館主・マキノ松太郎(高田宝重ばりにモジャモジャの螢雪次朗)が寝倒した客を起こさうとすると、響未来(荻野目)は一瓶の眠剤を呑んでゐた。未来が、「蕾の薔薇・・・・」と譫言を漏らすや雰囲気一転、西武新宿線にジャジャジャジャージャジャージャジャンジャンと(仮称)「痴漢電車のテーマ」大起動、タイトル・インするものかと、思ひきや。タイトルは、後述する駅前キネマの新装に合はせ、エンド・クレジット前に回る。盲のヤクザとかいふただでさへ闇雲な造形を、白痴と錯乱を7:3の割合で搔き回す、もといブレンドする十八番のメソッドで、貞夫(山本)が―ナベの―兄弟子・滝田洋二郎と螢雪次朗による名探偵黒田一平よろしく電車痴漢を通して、指に残る名器の感触を頼りに未来を捜す。貞夫いはく“なかなかのもんやけど違ふ”、松太郎とは別居中の妻・淳子(橋本)にヒット。弾みで貞夫のタイピンが順子の手荷物の中に落ちる、逆痴漢のカウンターも火を噴く指戯に暫し耽りつつ、松太郎の友人で淳子とも往診と称して男と女の仲にある、医師の則平(チョビ髭の池島ゆたか)が介入、貞夫はその場を離脱する。
 配役残りジミー土田は、駅前キネマに出入りする新東宝の営業マン・北川。川奈忍は、亭主が来てゐないかと駅前キネマに乗り込む則平の妻・千明。松本ちえみと小林あいは、駅前キネマの常連客にして、双子感覚のシネフィル・松本いちごと小林あけび。そしてたかとりあみが、未来の母・寿美子。
 ハンドレッド戦以来御無沙汰のナベキューを久し振りに見てみるかとした、渡辺元嗣昭和63年第二作。ナベキューといつて渡辺久信では勿論なく、渡邊元嗣旧作の意である。
 “好きな映画を観ながら夢見るやうに死”なうとした女と、プリントの使用量も満足に支払へない名画座の館主がミーツする。ダサさ臭さに一瞥だに呉れずどストレートな映画愛を謳ひあげる反面、再三嘆かれもする斜陽ぶり。淳子が経営するビデオレンタル店の表を通りがかつた松太郎は、折角撮影に貸して貰つてゐるにも関らず、「いい加減な商売しやがつて」と悪し様に毒づく。“蕾の薔薇”なる如何にもロマンティックな謎まで含め、当時、よもや三十年後も現役でピンクを撮つてゐようなどとは思つてゐなかつたにさうゐない渡辺元嗣が、既に一線を退いてゐたたかとりあみと滝川真子をも擁し、並々ならぬならぬ意気込みで今作に挑んだ風情は、ひとまづ透けて見える。さうはいへ貞夫の正体が、トルコ嬢であつた未来の単なるヒモである旨が判明する辺りから、オッ広げられた大風呂敷はみるみる尻窄む。何だかんだであれよあれよと駅前キネマに俳優部が集結しての、上へ下への大騒ぎは如何にもこの頃のナベシネマらしさが微笑ましく、切れたフィルムが洪水の如くのたうつパニック描写は、島鉄雄の暴走する肉塊のイメージに鼻差で先行しつつも、締めの濡れ場を雑なフェードで中断する以上だか以下の最大の疑問手は、北川の提示を脊髄で折り返し、頑なに拒んでゐた松太郎が手の平返すラスト。再度抜いた「東京の休日」ポスターから、カット跨いで駅前キネマの新春番組は今作とナベ二作前「Eカップ本番」(昭和62/主演:田中みか)の豪華二本立て。即ち、大人から子供まで楽しめる娯楽をと、松太郎が先代も持ち出し北川に反駁してゐながら、駅前キネマはケロッと成人映画館に衣替へしたといふ寸法である。北川の手引きにより、劇中「あの娘にタッチ」の主演でデビューしたいちごとあけびが舞台挨拶で気前よく脱ぎ、駅前キネマ上映開始の体で新東宝カンパニー・ロゴとタイトルが入る趣向は素敵に洒落てゐるにせよ、流石に一欠片たりとて方便も設けないまゝ、主人公が右でも左でもどちらでもよいが、一昨日から明後日に転んでゐては凡そ満足に物語が成立し得まい。直截に切り込むと終りの見えたピンク映画に、ナベが賑々しくレクイエムを捧げようとした節は窺へなくもないものの、如何せん諸々伴はない一作である。“蕾の薔薇”の拍子も外れる真相に関しては、連れて来られたたかとりあみの面子に免じ、ここはさて措く。

 一箇所激しく琴線に触れたのが、フィルムの洪水にトチ狂ひ、何かの赤穂浪士もの主人公の口跡を真似自害しようとした貞夫を、未来が平手で張つた上で「何でアンタは何時もさうなのよ!」と一喝。ハハハハ、超絶正しく、何で山竜は何時もかうなんだ。


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