真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「《秘》好色温泉 昇天覗き風呂」(1993/製作・配給:新東宝映画/監督:酒井正次/脚本:夏季忍/製作:田中岩男《新東宝》・金子尚樹《フィルム・クラフト》/撮影:下元哲/照明:佐久間優/録音:中村幸雄/編集:三上えつ子/助監督:石崎雅幸/出演:杉原みさお・渡辺千尋・伊藤舞・井上あんり・池島ゆたか・平賀勘一・鶴川柿生・荒木太郎・相川純・杉本まこと・山ノ手ぐり子・橋口卓明・的場研魔・港雄一/友情出演:渡辺元嗣・宝槻文則・清水信浩)。実際のビリングは、的場研魔と港雄一の間にカメオ勢を挿む。脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 最初にお断りしておくと、ビデオ版を基にしたものとみて間違ひあるまいダウンロードした動画再生が、五十七分過ぎに本篇が終了しフェードで暗転するところで終つてしまつた故、スタッフのクレジットにはお目にかゝつてゐない、オープニングでキャストと共に見たのはPとDのみ。脚本の夏季忍と撮影の下元哲に関してはjmdbにも記載が見られるが、その他の所々当てにならないぽい名前は、VHSパッケージに従つてみた。プロデューサーに話を戻すと、そこに金子尚樹の名前があるのは凄い新鮮。
 晩秋の山村、劇中その名もほのぼの村、あんまりだ。ローカル線から度派手な、といふか現在の感覚でいふと出鱈目な柄のボディコン女二人連れ(杉原みさおと渡辺千尋)が駅に降り立つ。それにしても、杉原みさおがビリングの頭に来るのも何気に初めて見た。温泉宿に招聘されたコンパニオンの茜(ビリング推定で杉原みさお)と桃子(不完全消去法で渡辺千尋)は、想像以上に田舎な周囲の状況に呆然とする。逆からいへば自分達が浮いてゐることも自覚しつつ、ともあれ二人が気を取り直し気合を入れたストップ・モーションでタイトル・イン。温泉旅館「ほのぼの荘」の主人・常造(港)に娘の玉子から手紙が届いたかと思へば、さくさくカットは移りゲートボールに興じる三人の老人(池島ゆたかと平賀勘一と鶴川柿生)。後に、佐藤吏と広瀬寛巳を足して二で割つたやうな鶴川柿生が池島ゆたかから梅と呼ばれてゐる点を窺ふに、池島ゆたかが松で、平賀勘一は竹であるのかも知れない。一方、二人で炬燵に入る、玉子の妹・千代(伊藤)と彼氏の三郎(荒木)。村を捨て上京を希望する三郎が、俺と一緒に行こと口説いた流れで一戦、それを推定松竹梅のゲーターズが覗きに来る。元の居場所に戻り、若い衆のセクロスに発奮するゲーターズの前を茜と桃子が通りがかり、ゲーターズは自身らにも春が戻つて来るチャンスの到来と驚喜する。ところで常造に届いた手紙の中身は、東京に出て行つた玉子が帰つて来るといふ報告。そこに茜と桃子がほのぼの荘に到着、二人は常造が村の活性化の為に呼んだものだつた。
 配役残り、ノン・クレジットで飛び込んで来る白塗りの久須美欽一は、茜と桃子が浸かる風呂に闖入する宿泊客、オカマのママ。相川純がママの連れのマサキ君、モノは結構なものをお持ちらしく、酒席の流れで桃子に筆卸される。ベンツを掃除するファースト・カットが渋い高田宝重の変名である的場研魔は、ペロペロキャンディーを常備するアレなお坊ちやま(橋口)の執事か運転手・高木。橋口卓明が玉子(井上)を迎へに行つた千代に一目惚れ、それを高木が玉子と誤認する正直無駄な一ネタ噛ませて話は見合に発展。山ノ手ぐり子(=五代暁子)が、橋口卓明のお母たま。山ノ手ぐり子と登場順は前後して杉本まことは、五年前電力工事でほのぼの村に入り、出会つた玉子を東京に連れ帰つた上で、結局捨てた色男。無論渡辺元嗣しか判らない友情出演組は、村人要員。それにしても演出意図を酌んだのかシンプルに楽しくて仕方なかつたのか、ナベの満面の笑みは画面の片隅を豊かに飾る。
 編集界の重鎮・酒井正次が監督するといふので、皆が手弁当で馳せ参じたといはれる注目作。先がないのは否めない山村を出るのか出ないのかな姉妹と、外からやつて来たパニオン二人組。パニオンは案外村に馴染み、村の好色爺さん連中は俄然色めきたつ。一応本筋たるに足る要素の二、三本もなくはないものの、流石に踏んで来た場数が違ふとでもいふべきなのか、酒井正次は初メガホンに下手に気負ふことなど半欠片もなく、潤沢な濡れ場の合間合間を概ねへべれけな空振り気味のコメディ演出で埋める、処女作にして大ベテランばりのある意味安定した量産型裸映画に仕上げてみせた。そもそも、トメに置いた港雄一に娘達と村の行く末を見据ゑた重低音の哀愁を表現させようとした節も確かに窺へる反面、実際の尺の支配率は、御陽気に暴れ倒すゲーターズに激しく劣る。出戻つたばかりなのに、入れ替りで―三郎と―東京に向かふ千代を一人では行かせられぬと、玉子が再び村を離れるといふのも人を喰つてゐる。但し、ほのぼの荘に留まつた常造を除いた村の皆―もしかして、港雄一は一人だけ現場の滞在時間が短いのか?―が、千代を見送らうと線路沿ひに集まるラスト・シーンが出し抜けにせよ抜群に素晴らしい。大騒ぎして通過する電車を追ふ一堂の姿には、酒井正次が映画を撮る、ピンク映画にとつての一つの祭りに参加した喜びも透けて見え、これはいいショットを見たとストレートに心洗はれる。物語は女の裸の桃雲の彼方に遠く霞んだ一作ともいへ、終りよければ全てよしといふ奴だ。新版公開した気配は1996年に一度だけ、新東宝が旧作改題を重ねるのは茶飯事につき、この期にでも小屋で観たい。


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 「団地妻・愛染恭子 かまきり熟女」(1993『愛染恭子 昼下りの情事』の2013年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:三原好男/照明:隅田浩行/編集:北沢幸雄/音楽:TAOKA/助監督:増野琢磨・岩波均/撮影助手:鬼頭信行/照明助手:上別府創/ネガ編:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/出演:愛染恭子・小川真実・草原すみれ・白戸翔一・杉本まこと・山科薫・石神一・久保新二・鈴木慎二・北野山猫・宅間翔一、もう一名)。出演者中、鈴木慎二以降は本篇クレジットのみ。
 何者かに強姦される淫夢に佐伯涼子(愛染)が目覚めると、傍らでは夫の亨(白戸)が妻の異変にも気づかず眠つてゐる。アンニュイな素振りで、涼子がパンティの中に指を挿れたところでタイトル・イン。陰鬱な亨を送り出すと、涼子も身支度。共稼ぎなのかと思ひきや、亨が不能である旨を語る医師の診断結果噛ませて、フル装備の涼子はテレクラ相手との待ち合はせ場所まで赴き、結局二の足を踏む。パトロンの郷戸政彦(久保)とカウンターで飲む今野久美子(小川)の店に、OL時代の同僚である涼子が顔を出す。その夜久美子を抱いた郷戸は、涼子に激しい興味を示す。久美子から連絡があり、涼子は再び会ふ。すると夫との不仲を看破した久美子は、あらうことか涼子に自身が仕切る主婦売春を切り出す。当然涼子は脊髄反射で拒絶する一方、実は久美子配下のスケコマシ・山村信也(杉本)が起動する。
 配役残り草原すみれは、久美子と郷戸の初登場時会話に名前が上る、久美子が客に世話する売春主婦・小出麻里。この期に及ぶのもほどがあるといふか、より直截には大概にせえよといふ話でしかないが、草原すみれがa.k.a.西野奈々美である事実に、今回今作を観てゐて初めて辿り着いた。因みに北沢幸雄の同年前作では、西野奈々美名義を使用してゐる、そんなに観客を混乱させるのが楽しいか。気を取り直して山科薫が、麻里を買ふ客。石神一は、涼子と風呂場で致す客。鈴木慎二以降は、カウンターの久美子と郷戸の背後ボックス席に、山村のほかに陣取る二人連れと、涼子とテレクラを介して待ち合はせる男計二名か。となると、カウンター内のバーテンダー分の頭数が足らなくもなるのだが。
 元題で白川和子に新題では五月みどりにと、矢鱈とデカい的に喰つてかゝる北沢幸雄1993年全四作中第四作。挑戦的なのはエクセスの勝手な都合、あるいは臆面もなさが映画の売り方としてある意味的確なマーケティングとしても、確かに我等が“塾長”愛染恭子であるならば、この二人を敵に回したとて堂々と互角以上に渡り合ひ得よう、今も訴求力の衰へぬ流石の金看板ぶりである。公開当時公称スペックに従へば塾長御歳三十五、未だ体のラインも衰へてはゐない。純然たる濡れ場要員の草原すみれは措いておくとして、腹に一物含む芝居を得意とする小川真実がハマリ役。涼子と久美子の2ショットは、普通にそこら辺を歩いてゐるだけで素敵にワクワクさせられる、久保チンは幾分以上におとなしい。白戸翔一は愛染恭子を嫁に貰ふには役が足らないのは流石に仕方がないにせよ、ニヒルなハンサムから最終的にはアクションを起こしヒロイックに、なりかける杉本まことまで、ある程度役者は揃つてゐる。そこまではいいものの、問題は北沢幸雄の作劇。欲求不満といふ爆弾を抱へた女ざかりの団地妻が、十重二十重の悪意なり邪欲なり猜疑に絡め取られる。過程に、間を持たせ損なひマッタリマッタリ凡そ五十分まで尺の大半を費やした末、漸く物語が重い腰を上げたかと思へば、甚だ判り辛い、より直截には不手際にしか見えない繋ぎで展開を汚した挙句、前には出ず後ろにも引かず、明後日に転んでみせたアンチ・ロマンティックな結末は些かならず如何なものか。ありがちな“ベタ”を外したつもりなのかも知れないが、ベタを外しただけでドラマになるか。履き違へたドライさ、乃至は人を喰つたリアリズムに、腹も立たない一作ではある。


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 「痴漢と覗き -社員女子寮篇-」(1993/製作・シネマアーク/提供:Xces Film/監督:北沢幸雄/脚本:笠原克三/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:三原好男/照明:隅田浩行/編集:北沢幸雄/音楽:TAOKA/助監督:増野琢磨・岩波均・瀧島弘義/撮影助手:阿部宏之/照明助手:上別府創/スチール:佐藤初太郎/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/現像:東映化学㈱/出演:上杉愛奈・伊藤清美・西野奈々美・小林節彦・白都翔一・芳田正浩・北野山猫・宅間翔一)。
 住宅地の夜景で開巻、窓際から退いた若本太郎(芳田)が、買つて来たばかりの双眼鏡を取り出す。武者震ひする太郎の目的は、スーパー丸尾女子寮に暮らす“あの娘”(上杉)の部屋。ほどなく発見、太郎は“あの娘”がベランダに下着を干す姿に驚喜するも、直ぐにカーテンは閉まり消灯。仕方がないので双眼鏡を移し、別の部屋にハイヒールを履いた伊藤清美と白都翔一を発見したところで鮮烈なフォントのタイトル・イン。スーパー丸尾上野店店長(伊藤)と、丸尾に出入りする業者「ミカメ食品」の営業・倉田か蔵田(白都)の犬プレイと、更に伊藤店長の隣室ではアテられた西野奈々美がオナニー。お盛んな女達の嬌態に騒がされた太郎が膨らませる、“あの娘”のイマジン。ここで、主演はエクセス初出演の女優に限る。正体不明の縛りが仕出かす時には絶望的な大惨事を引き起こす、エクセスライクが今回は奇跡を生んだ。おお、主演女優が美人だ、そのことに驚くといふのもおかしな話だけれど。大雑把に譬へるならば、即物的にエロくした感じの沢田夏子、オッパイも二割り増し。ところが、“あの娘”に関しては非現実にせよ一応三花繚乱を切り裂き、小林節彦の何者かが女子寮に潜入。“あの娘”が干したばかりの下着を盗んで行く、多分まだ生乾きだよね。
 翌日から、予め見定めたミカメ食品で太郎はアルバイトを始める。コンビを組むのが倉田であることは偶然で片付ける、豪快さんだ。首尾よく太郎は堂々と丸尾上野店に潜入、“あの娘”こと寺島か寺嶋涼子はレジ担当で、西野奈々美もレジ打ちの西浦望か希。度々倉庫で致す伊藤店長と倉田を覗く望を尻目に―女の覗きも登場するのは、さりげない特色―公園で食事を摂る涼子に、太郎は初日から果敢にアプローチ、非現実的にもサクサク会話を弾ませる。のはいいとして、ここで発覚する残念な真実。上杉愛奈が即物的にエロくした感じの沢田夏子に見えたのは、フルスイングのソフト・フォーカスと真正面からの奇跡のアングルによる綱渡りの映像マジック。僅かでもズレると、この娘激しく顔が曲がつてる。さて措き、そんな太郎宅に、“ピーピング・トム様”とだけ書かれた謎の封筒が届く。“あなたの友人”を名乗る差出人は太郎が女子寮を覗いてゐることを知つた上で協力を申し出、現に望が風呂場でシャワー自慰する情報を提供する。その後も謎の手紙は続く日々、太郎は倉田の同業者の、両国(小林)と出会ふ。
 新田栄のライフワーク「痴漢と覗き」―ウルトラ適当―を、実は新田栄以外にも坂本太大御大・小林悟らほかにも色々撮つてゐることを知り、DMMのピンク映画chで探してみた北沢幸雄版。何と佐藤寿保や新東宝が看板を拝借しての的場ちせ(=浜野佐知)のもあるのだが、観るでも見るでもどちらでも構はぬからどうにかならないものか。今作本体に話を戻すと、チャッカリお目当ての女の子と普通に徐々に距離を近づける覗き趣味の青年の下に届く、正体不明の送り主からの援護射撃。果たして、俺の秘密を知るのは誰なのか?そして、あの娘との恋の行方は。関根和美が好んで失敗する土台頭数が不足したサスペンスを、予想外の驚きこそ全くないものの、北沢幸雄はお姫様の危機に出歯亀ナイトが駆けつける普通にエモーショナルな見せ場で加速し、丁寧に丁寧に形作る。底を割つて以降は、一転綺麗な綺麗な恋愛映画へと華麗に移行。シレッと相変らず両国が忍び込む気の利いたオチまで含めて、「痴漢と覗き」最高傑作は今作ではあるまいか―対抗は下着マニア―と思はせるに足る案外完璧な娯楽映画。裸映画的には、実は残念な主演女優の面相に、足を引かれることは然程ない。締めの一戦は兎も角、濡れ場のメインは自宅から双眼鏡で女子寮を覗く太郎の遠目の主観映像。最も肝要な手間を疎かにはせず、ロングで室内を窺ふカメラの如何にもそれらしい十分な説得力と、同時に客が見たいものは十二分に見せる的確な画とが実に素晴らしい。両国が飛び込む際の、臨場感溢れるアクション演出も地味に秀逸。北沢幸雄、北沢幸雄といふほどには結構当たり外れのある印象も持つところではありつつ、文句なく面白い、鑑賞後の心持ちの何と爽やかなことよ。
 
 闇雲な名義と絶妙な名義のその他出演者は、かといつて特段の登場人物も見当たらず、倉田―と太郎―の相手をする担当者と涼子のレジに立つ客のスーパー要員、即ち内トラをわざわざクレジットした寸法か。それともうひとつ、伊藤店長と倉田の蝋燭プレイ、悲鳴を通り越した白都翔一が繰り出す怪鳥音が笑かせる。


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 「痴漢電車 エッチが大好き!」(1994/製作:サカエ企画/配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/音楽:レインボー・サウンド/助監督:国沢実/監督助手:北村隆/撮影助手:島内誠/照明助手:藤森照明/効果:中村半次郎/出演:西野奈々美・吉行由美・長崎ゆき・杉下なおみ・太田始・中田新太郎・野上正義)。出演者中、吉行由美がポスターには何故か吉行ゆみ。平仮名表記なんて初めて見たし、実際に使用したことも恐らくないのでは?それと、中田新太郎は本篇クレジットのみ。
 電車痴漢を“日本の大都会にしか存在しないいはゆるひとつの大人のゲーム”と礼讃するガミさんの豪快なナレーションに乗せてタイトル・イン、タイトル・バックは西野奈々美V.S.太田始の痴漢電車。
 OLの小沢ひかる(吉行)が、初老の痴漢師・梅宮市造(野上)と電車から双方会社もスッぽかしホテルに直行、行きずりの情事に燃えた武勇伝と、後輩・桜井佳恵(西野)の部屋にて、今でいふ女子会がてら結構本格的に咲かせる百合とが併走。佳恵に尋ねられた梅宮の印象を、ひかる曰く赤井英和といふのが適当極まりない、ガンダムとダグラムほど違ふ。翌朝、寝坊した二人は、妻・妙子(長崎)に送り出される飯島雅治(太田)を追ひ越しバタバタ出勤する。以降特に物語らしい物語も存在しないゆゑ残り配役を登場順に片付けると、杉下なおみは、その日の昼、本屋でエロ本を立ち読みしてゐたところ大胆な書店痴漢を敢行して来た飯島を、そのまま自宅に連れ込む人妻・堀内咲子。中田新太郎は、帰りの電車で飯島が目撃する中、佳恵に痴漢する亮太。今度は佳恵が、亮太の印象をカズ(三浦知良)とひかるに電話で語るのは幾ら何でもあんまりだ、何でも書けば撮ればいいつてもんぢやないんだぞ。佳恵が目でオッケーの合図を送りかけたタイミングで、亮太は情けなくも佳恵の手コキにフライング。佳恵と亮太の画面手前に見切れる―飯島の立ち位置は奥―新田栄のジャケットで、佳恵は手を拭く。梅宮篇にも新田栄が居たやうな気がするものの、回想であることを示す四周のボカシに絶妙に隠れ断定はしかねる、国沢実の長身は未確認。
 意外にもハンドレッド以来今年初となる、新田栄の新東宝ド旧作新版戦。しかも、今回観たのはこの期に漸く辿り着いた、同題による2010年のニュー・プリントである。新東宝ももう少しヤル気を出して欲しい、弾はまだまだあるだろ?話を戻して、中途終了した佳恵V.S.亮太戦以降、バレるもバレぬもない始終は飯島家夫婦生活と、開巻の面子を変へただけの、電車痴漢から連れ込みでの逢瀬に移行する佳恵V.S.飯島戦。起承転結もへつたくれもない、濡れ場だらけの純然たる裸映画。その癖それなりにサクッと一時間を観させるある意味驚異的な構成力が、寧ろ不思議なくらゐだ。オーラスもオーラスで再びガミさんが、佳恵と飯島の如く―ひかると梅宮も―都会にはこんなチャンスがゴロゴロ転がつてゐるとした上で、電車痴漢を“日本の都会人にだけ与へられた特権”と再び礼讃する。一ッ欠片も悪びれない辺りがグルッと一周して実に清々しい、洗はれた心が白々と真つ白になるやうな―別の意味での―王道量産型娯楽映画である。

 唯一にして最大の疑問は、クライマックスの佳恵V.S.飯島前半戦。痴漢電車パートの最中、この頃御馴染み膣内模型の使用直後に1カットだけ訳知り顔で抜かれる、相沢知美と青木こずえ(a.k.a.村上ゆう)を足して二で割つたやうな女は両義的に一体誰なんだ?


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 「痴漢電車 早くイッてよ!」(1989/製作:㈱旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影部:稲吉雅志・相馬健司/照明部:牧哲也・佐藤武/演出部:毛利安孝・鈴木静夫/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/ヘアメイク:久保早苗/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:鮎川真理・林ひすい・久須美欽一・平賀勘一・佐藤源三郎・佐野和宏)。
 電車に揺られる佐野和宏の横顔で開巻、佐野が旦々舎に出てたことなんてあつたんだ。派手派手しいハット×グラサン×ボディコンのコンボを決めたマリー(鮎川)に目を留めた加川(佐野)は、惹き寄せられるかのやうに後を追ひ背後につく。電車痴漢を開始したのも束の間、振り向きざまに加川の頬を張つたマリーが「アタシを誰だと思つてんのよ!」、「アタシはねえ、痴漢なんかに手出しされるやうな女ぢやないのよ!」と啖呵を切つたところで、頭に“鮎川真理”付きのタイトル・イン。加川はマリーを尾行、住所と名前までは突き止める。表札には、“MARRY.”とだけあつた。くたびれた加川の日常を切り取る、こなれない繋ぎを経た後日、再び痴漢電車。加川の前に花田ゆりか(林)が強引に割り込むや、早速開戦。すると、自ら加川の手を誘ひ長けた指戯に喜悦したゆりかは、降車後加川を捕獲、とりあへず茶店に入る。加川がマリーにやつゝけられたエピソードを聞いたゆりかは、“痴漢の敵”と明後日に憤慨。普通、痴漢が女の敵だ。兎に角ゆりかに焚きつけられ、加川はマリーに報復する流れとなる。ここで登場する髪の薄い久須美欽一は、マリー宅で奴隷プレイに驚喜する会社社長・原田孔三郎。翌朝、ゆりかはガス会社の検査を装ひ血圧は低いと思しきマリーの部屋に侵入、居間のテーブルの裏に盗聴器を仕掛ける。勤め人の筈なのに仕事はどうしたのか、加川はゆりかの車からマリーの監視を開始する。
 出演者残り平賀勘一は、マリー劇中第二の男・大前シンジ。大前とモーツァルト談義に花を咲かせるマリーの姿は、原田に対するマリー女王様とはまるで別人であつた。佐藤源三郎が第三の男・オサム、オサムの前では若いアンチャン・チャンネー同士のマリーは、原田には幼少時に没したとした貿易商の両親のことを、存命でしかも下町のガラッパチと語つた。男毎に顔を変へるマリーに激しく興味をそそられるゆりかの傍らで、加川は標的の照準を失し途方に暮れる。
 小多魔若史先生狙ひは外れた、浜野佐知1989年最終第九作。山邦紀が好んで描く女の正体不明さを軸に据ゑた物語は、三者三様の順調な盛り上がりを経て、一旦完璧に完成する。だらしなく逡巡するばかりで役立たずの加川なれど、ゆりかに促され原田と大前とオサムにマリーの最低三股を暴露。マリーのマンションに三人が呼び寄せられ、ちよつとどころでは済まない修羅場。大前に詰め寄られたマリーは叩いてみせる「退屈なホントのことより楽しい嘘の方がずつと素敵よ」、「本当のアタシ?要らないはよそんなもの!」。これは素晴らしい、江戸川乱歩いふところの“現し世は夢であり、夜の夢こそ誠”を、ドラマの中で見事に結実させ得た圧倒的大名台詞。看板の鮎川真理は今の目からすると然程の上玉にも思へない反面、演出の勝利か、シークエンスの中で前に出る圧力には確かに富む。一方林ひすいはといへば、首から上は完全に十人並に過ぎないものの、フカフカした柔らかさを感じさせるオッパイと、全体的に気立ての良さを窺はせる風情は地味に好印象。二者二様に活写される女優部に対し男優部はといふと、久須美欽一・平賀勘一・佐藤源三郎は、おとなしくマリーに振り回されるに止(とど)まる。肝心の佐野和宏も、マリーに心を奪はれるかゆりかに背中を押して貰ふかするだけで、概ね受動的な役回りに畏まる。尤もこの辺りの配役の力学は、浜野佐知の女性上位映画であることを思へば寧ろ至極当然の結果ともいへよう。一旦完成した物語が、更なる一段上のエモーションに辿り着くことはない上でも、後述する物理的にもサクサク見させるスピード映画である。

 ひとつ吃驚したのが、薄さは否めない終盤を抜群のテンポで切り抜けた―あるいは振り逃げた―ともいへるのだが、何と五十四分で終る脅威の短尺。深町章が、二三分余してチャッチャと映画を畳むのは数本観た覚えもありつつ、流石に五十五分を割り込むのは初めて見た。

 思ひ出した付記< 初めてではなかつた、「どすけべ付き添ひ婦 さはつていいのョ!」(1996/主演:林田ちなみ)が、何とまさかの五十分インパクトならぬコンパクト。


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 「痴漢電車 ミニスカートに御用心」(昭和63/企画:㈱旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/原案:小多魔若史/撮影:稲吉雅志/照明:出雲静二/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/助監督:鬼頭理三・小笠原直樹/出演:前原祐子・秋本ちえみ・川奈忍・山本竜二・臼井健治・池島ゆたか・小多魔若史)。
 ベッドの脇には三脚、テーブルの上にはカメラやフィルムが広がる一室。チャイナドレス姿の前原祐子登場、この人真正面からよくよく見るとロンパリか、そこがまた狂ほしく素晴らしい。前原祐子はソファーに座りセルフ・ポートレートを一枚パチリ、片乳放り出しもう一枚、唇を半開きの表情をパチリに合はせてタイトル・イン。サングラス×ヘッドフォン×チューインガムの臼井健治が、女(背格好推定で川奈忍か)に電車痴漢する。二人連れの御存知痴漢マンガ家・小多魔若史先生(当然大絶賛ヒムセルフ)と山本竜二が、赤い和服が色つぽい秋本ちえみと擦れ違ふ。山竜はポップに垂涎し、小多魔先生はクールな素振りを崩さない。ハイレグの百代か桃代(川奈)がビキニパンツの山竜をトッちめるグラビアを、ソウコ(漢字不明/前原祐子)が撮影、百代はカメアシも兼務する。いはゆる“男らしさの神話”を破壊するソウコのグラビアに、多分編集長的な池島ゆたかは御満悦。一方、一戦交へる百代と山竜は、双方ソウコに気があつた。ここで一点目を引くのが、結合部にかゝるモザイク処理。主演に前原祐子を擁し、初めからビデオ発売と連動した企画であつたのであらうか。タイトルの雰囲気とセカンドを端折つたクレジットも、ビデオ的なものに見えた。さうかうしながら漸く再び痴漢電車、小多魔先生に痴漢されたソウコは、顔にカメラを向け撃退。他方臼井健治は、和服秋本ちえみに痴漢する。ズボンを下ろした臼井健治があらうことか挿入をオッ始めたところで、「てめえ、何やつてんだよ、ちよつと次の駅で降りろ」と激昂した小多魔先生が飛び込んで来る、このカットは何気にカッコいい。限度と節度を知らない臼井健治の痴漢行為に難色を示し小多魔先生と山竜が詰め寄る、新人類V.S.オジン、痴漢のプロレス風にいふならば世代間抗争。そこに介入した秋本ちえみは、深い仲らしき臼井健治を回収する。要は、カップルの痴漢プレイであつたといふ寸法。生意気な小僧と憧れの和服女、二匹の魚をカッ浚はれた山竜が吐き捨てる、麗しき初期理論「ベッドの上で起こることは、全て電車の中でも起こる!」に次ぐ痴漢電車名台詞が、「女が居る奴は電車に乗んな!」。メチャクチャだけど、魂の大名言だ。個人的な希望をいふと、座席で自動的に眠らない余力を残す人間は電車に乗らずに歩け。
 純然たる私事で恐縮ではありつつ、目下監督別感想本数二位の座―無論一人だけ桁の違ふ一位は無冠の帝王・新田栄―を深町章の猛追を受けてゐるにつき、DMMでの梃入れを図つた浜野佐知昭和63年第四作、してみたところが小多魔先生物件であつたのは非常に嬉しい。ヒロインが何にプロテストするでもない、単なるカワイコちやんに過ぎぬ点は苦しいにせよ、小多魔先生・山竜の2トップは一癖ありぶりが堪らなく、そこに如何に生計を立ててゐるのかが全く判らない、臼井健治と秋本ちえみの万事に厭いた刹那的なカップルが絡む構成は魅力的。とはいへ、最終的には四番が置物では矢張り苦しいのか、秋本ちえみ・臼井健治の本番モデルを経たソウコが、これまでの見る快感から見られる快感にも開眼するといふ展開は、あまりにも平板。写真のテーマたる男性性への攻撃とやらも、終始にこやかなソウコが何に牙を剥くでもなく、池島編集長と職業上の便宜も込みでか普通に懇ろとあつては、為にする商品性程度にしか思へない。背景に子供も見切れる時間帯の、児童公園で繰り広げられる山竜トッチメ撮影第二章のラストは馬鹿馬鹿しさが清々しくあるものの、問題はクレジット通過後。百代と山竜が「また今度セックスする?」、「しようか」。「今度は優しい気持ちでしようね」、「うん」だなどと惰弱に遣り取りするオーラスは激しくらしからぬ。この頃のハチャメチャさが火を噴く旦々舎の大快作・大怪作群と比べずとも、随分とおとなしめの一作ではある。

 今作最大のチャーム・ポイントは、ソウコが百代を小多魔先生と山竜に電車痴漢させ、痴漢される女、ではなく痴漢する男を激写する件、の冒頭。今回は小多魔先生の盟友の座を山竜に譲つた格好の山邦紀が、山竜の後方に澄ました風情で乗客要員として紛れ込んでゐるのが可笑しくて可笑しくて仕方がない。ここでフと改めて調べてみたところ、第五作「盗聴魔 妻たちの性態」(エクセス)の詳細が不明ながら、それを差し引いたとて全八作中の五作に小多魔先生は出演なり登場してゐる。殆ど看板だ、山邦紀も同じだけ出てゐるのだが。


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 「欲しがり令嬢 くはへて飲む」(1994『いんらん令嬢 野外逆レイプ』の1997年旧作改題版/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:繁田良司・西久保維宏/照明:阿部力・高原賢一/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:女池充・戸部美奈子/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:石原ゆり・ゐろはに京子・田代葉子・荒木太郎・杉本まこと・甲斐太郎)。
 曲りくねつた川岸を気持ち水に入る、左手に果物を持つたオレンジ色の和服の女。素足だと堪へる石の険しさなのか、覚束ない足取りを通り越して大概歩き辛さうにヨロヨロと進む。情容赦ない演出に従ひ一分強歩かされた上で、ゐろはに京子が半分に切つた果実を片方は貪り、もう片方は体中に塗りたくつての壮絶な自慰。開巻即極限、ゐろはに京子の柔らかく豊かな肢体の威力が尋常ではない。三分のエクストリーム、タップリ劣情を揺さぶられた上で、ところでこの果物何だつけ?と首を傾げたタイミングを見計らふかのやうに、低い崖に立つゐろはに京子のロングに、「マンゴー」と超常風に少し弄つたシャウトが被さるタイトル・イン、実に親切だ。
 タイトル明けると‐20年後‐、旧家・中里家一人娘の零子(石原)が、医師の小渕(荒木)と同じ川岸を歩く。「もう直ぐですね、僕達の結婚式」といふ小渕の言葉に対し、どうやら零子は煮え切らない様子で嬉しくはなさげ。矢張り同じ川で寡黙に釣り糸を垂れる髭面の杉本まこと挿んで、御馴染み旦々舎。きれいな小沢仁志に見える田代葉子が縁側で花を活けてゐると、甲斐太郎がウアーと現れる。甲斐太郎は零子の父親で、娘と小渕との縁談は、甲斐太郎が強引に進めたものだつた。小渕が作つて来たお弁当、タバスコを取り出し「使ひます?」。すると強迫的なイメージ起動、大量にタバスコを振りかけたピザを貪り喰つた零子に赤い照明が当てられ、マンゴー同様のホニャーンとシャウト。静から動、清から淫。百八十度正反対の人格を発動させた零子が「結婚式まで、セックスしないつもり?」と小渕の度肝を抜くと、森の中に舞台を移しそのまま婚前交渉に突入。第三者の視点と思しき粗いキネコを噛ませて、木々の合間から様子を窺ふゐろはに京子の幻影を見た零子は「お母さん!」と叫び我に返る。となると、田代葉子は甲斐太郎の後妻といふ寸法か。時を同じくして、甲斐太郎もマンゴー・オナニー略してマンゴナニに狂ふゐろはに京子の幻影に遭遇、こちらは戦慄する。後々、杉本まことに呼称されるゐろはに京子の固有名詞は兆子、超子か蝶子かも。
 この頃は大蔵とエクセスとを往き来する山邦紀1994年全四作中第三作、薔薇族含むと五の四。何はともあれ、十七年前にもマンゴーものを撮つてゐたことに感興を覚えた、卵だけぢやなかつたんだ。マンゴナニに狂ふ母親と、香辛料に点火される娘。母娘の周囲で振り回されるばかりの男達と、一件の鍵を握ると思しきワイルドでハンサムな杉本まこと。豹変する瞬間の石原ゆりの瞳の輝きは素晴らしく、田代葉子の肉体を拝借した兆子は、甲斐太郎にかう告げる、“私の一人だけの世界に、零子が穴を開けて呉れたの”。無間の快楽に囚はれる母親を解放した娘が、自身も万事父親のいひなりの物静かで受動的な娘から、ドラスティックに変り始める、何たるロマンティック。とはいへ、頗る魅力的に拡がつた風呂敷が、満足に畳まれることはない。結局甲斐太郎いはく“お前《兆子》や俺を裏切つたあの男”といふ杉本まことの正体なり因縁が一切語られない派手な拍子外れを筆頭に、静謐な青い画調で捉へられたいはゆる母娘丼はクライマックスに相応しい強度に満ち溢れるものの、物語的にはあれもこれもまるで片付かずじまひ。巴戦までで概ね尽きた尺を、殆ど大御大・小林悟作かのやうに清々しく振り逃げてみせる。とはいへとはいへ、だなどといふ野暮は、所詮は首から上で映画を見た上での戯言。考へるな、感じるんだ、腰から下で。改めてキチンと見てみるとゐろはに京子といふ人は、これでこの人がもう少し美人で出演作ももつともつと多かつたならば、為にする物言ひでなく本気でピンク映画の歴史が変つてゐたのではあるまいか。いやらしく美しい肉体には、居るとすれば極稀にしか成功しない、造物主の神秘的な作為をも感じた。理想的人間像といふ奴の首から下は、女はこの人の体でいいのではなからうか。石原ゆりはその意味では何周か周回を遅れつつ、扇情的かつ挑戦的な画作りは十二分に刺激的。考へるな、感じるんだ。腰から下で感じる分には文句ないどエロな一作、こんなものポール・ルーベンスに観せたら駄目だからな、またトッ捕まるぞ。


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 「エッチな体温 白衣みだれ抜き」(2013/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/原題:『あすなろStory』/撮影監督:清水正二/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:中川大資/監督助手:北川帯寛・松井理子/撮影助手:海津真也・矢澤直子/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/協力:鎌田一利/出演:周防ゆきこ・日高ゆりあ・沢村麻耶・竹本泰志・牧村耕次・なかみつせいじ・野村貴浩・小林節彦・久保田泰也・北川帯寛/Special Thanks:松井理子・山ノ手ぐり子・倖田李梨)。
 チャリンコを転がす―ピンクの―白衣の周防ゆきこ、橋を渡り、安アパートに辿り着く。「訪問看護ステーション『あすなろ』の三鷹ゆかりです☆」と、元気に名乗りを上げたタイミングで完成されたタイトル・イン。開巻の訪問先は、寝たきりの独居老人・今泉(小林)宅。小林節彦に丸投げしたのか、リズミカルに発作を起こすほかは、「義母と郵便配達人 ‐禁欲‐」(2010/監督:松岡邦彦/主演:佐々木麻由子)時と殆ど全く同じ造形ではある。ゆかりは“あすなろスペシャル”と称して今泉に身を任せると、英気を取り戻させる。そんな―どんなだ―「あすなろ」事務所、面々は所長の額田恭介(竹本)以下、事務方の芳恵(倖田)。ヘビースモーカーの西崎明奈(日高)に、南野(結局登場せず)のセクハラを訴へながら帰還する小林(松井)。ゆかり曰く、いはゆる裏看護のあすなろスペシャルに関しては五人しか知らないといふのがよく判らない。額田と実働部隊のゆかりと明奈に芳恵と・・・・もう一人が誰よ、四人と聞き違へたかな?
 配役残り牧村耕次は、結構元気な車椅子生活を送る山村史郎。沢村麻耶は史郎の息子嫁・優子で、久保田泰也が優子が連れ込む間男の和彦。野村貴浩は史郎の告発も痴呆かと取り合はぬ、呑気な息子・誠。額田がゆかりをスカウトする件に登場する北川帯寛は、手術を控へた骨肉腫患者・山田。山田篇の頭と尻には、広瀬寛巳と中川大資が医療関係者要員でシレッと見切れる。山ノ手ぐり子(=五代暁子)は若年性痴呆症の夫を抱へ明奈に泣きつく恵で、目玉クリップで留めたポストイットでメメント状態のなかみつせいじが、当人は未だに最前線の企業戦士のつもりの国枝。となると、ここは実は、牧村耕次の息子ではなく野村貴浩を弟か何かで国枝に絡めると、森山茂雄第三作「美人保健婦 覗かれた医務室」(2003/主演:麻木涼子)とほぼ同じポジションにもなつたところである、それがどうしたといふのはいはないで呉れ。
 池島ゆたか2013年第一作にして、主演三作目の周防ゆきこ第三戦。オジサンどうにもかうにも、キャイキャイした周防ゆきこの今時声優風のメソッドが苦手で、これまでは殆ど喰はず嫌ひに済ませて来た次第である。とはいへ今回、周防ゆきこ自身が幾分落ち着いて来たのか、それともゆかり一人に焦点を絞る構成でないのが幸したか、その点に足を引かれることは個人的には意外となかつた。ゆかりと明奈の奮闘により今泉と国枝と山村史郎が元気になる物語が、殊更に騒ぎ立てするほど面白いといふ訳ではない。今泉と国枝と山村のハッピー・エンドはそれぞれ完全に別個の状態に止(とど)まり、劇中世界の重層的な絡み合ひが、一段二段のより深みを増すといふこともない。前作を想起するとしかも同じ面子で清々しく芸を欠く、ゆかりと初老の額田とのラブ・ロマンスは、額田が没妻への贖罪も込みで十五年放置した勃起不全が、あすなろスペシャルでコロッと完治するといふのは流石に御座なりに過ぎよう。尤もさうはいへ、いい湯加減の南風系娯楽映画に、さういふ瑣末な野暮は控へるべきだ。とりわけ、修羅場のどさくさに紛れ史郎は車椅子からスタンド・アップ。それに誠が気付くと、ゆかりと二人で史郎の周囲をグルグル回り、「立つた、立つた、親爺が立つた♪」と案外尺も費やし乱舞するカットの、底の抜けた幸福感は絶品。ピンクを取り巻く局地的な状況も、世間全般もとかくクソ塗れな閉塞した昨今につき、せめて小屋の暗がりの中浮世に沈んだ身を浸す一時の慰撫くらゐは、このくらゐ能天気で寧ろちやうどいい塩梅なのかも知れない。


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 「主婦《秘》不倫 後ろから出して」(2012/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:星野スミレ・伊藤つばさ/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:小山悟/監督助手:北川帯寛/撮影助手:大坪隆史/音響効果:山田案山子/音楽:友愛学園音楽部/協力:ゾンネンプロ・フィルムハウス/出演:相田ユリア・小出遥・あずみ恋・久保田泰也・野村貴浩・荒木太郎・岡田智宏)。
 土手を走る二尻のチャリンコ、ブスッとした表情の相田ユリアが、一転頬を綻ばせたところで手短にタイトル・イン。
 半田友子(相田ユリア/どうも佐倉萌のアテレコに聞こえるのは気にし過ぎか)と夫・和人(野村)との入念な夫婦生活で、しつぽりと開巻。「Zonnen Services」に勤務する和人は九州支社の設立準備で出張に次ぐ出張に追はれ、子供も居ない友子は団地で一人夫の帰りを待つ日々が続く。小出遥が、友子と気が合ふ団地の御近所・岸美代。美代は美代で二次元大好きなオタク夫・信一(岡田)とは非大絶賛セックスレスの状態にあり、出会ひ系を介しての男漁りに精を出してゐた。ある日、毎朝新聞奨学生・三崎直志(久保田)の新聞の勧誘、荒木太郎の宗教の勧誘、ゴミ出しの苦情の加藤義一の団地管理人、再び三崎、今度は共愛党の荒木太郎、そして再々度三崎、望まぬ来訪の大コンボが友子を襲ふ。友子から三崎の話を耳にした美代は、若い男の子の気配に豊か過ぎる胸をポップにときめかせる。散らかつた空缶や、倒れた自転車を片付ける三崎の姿に友子が何となく心を動かされる一方、美代は契約を出汁に三崎をチャッチャと喰ふ。その頃出張先、Zonnen Services九州組の岡村陽子(あずみ)は、仕事のデキる和人に徐々に膳を据ゑる。
 正常化の兆しは依然欠片も窺へない、オーピー新作が関門海峡を渡る順番がグッチャグチャに前後する中、漸く辿り着いた加藤義一2012年第二作。監督デビュー十年の節目にしては、二本きりしか発表してゐないのが意外でもある。その分公開を一本翌年に持ち越した2013年は、現状年間五本ペースで快走してゐる模様。今回、星野スミレだなどと人を喰つた名義の脚本家の正体は、ゾンネンプロ主幹・鎌田一利。一番デカいところでいふと「NEXT」に於ける、青山えりなが一世一代の修羅場を千葉尚之と繰り広げる部屋の主―劇中の部屋主は千葉尚之―である。伊藤つばさといふのは、多分加藤義一か。子供が居るでなく共稼ぎでもなく、いつそ期限つきにせよ転勤すれば?といふ勢ひで亭主が出張がちとはいへ、夫婦仲に問題があるではない団地妻が、純朴な新聞奨学生によろめく。如何にもよくある、昼下がりを中心に物語が進行する類の一作。一見、余計な機軸なり派手な粗相は見当たらない。締めの濡れ場直前に友子が三崎と食べる、帰京する旦那の為に用意した筈の寿司のほかには。土曜日ならば問題あるまいが、予定を反故にして九州に留まつて、和人は翌日の本社出社はどうするつもりだ?飛行機でもたとへば八時半は流石に無理だらう。話を戻すと、薮蛇に長けた相田ユリアの複雑な表情の作り方にも騙されかねずに、油断してゐると友子と三崎が結ばれるに至る流れをうつかり呑み込みかける。とはいへ、よくよく考へてみるまでもなく、要は二番手・三番手のモバイルを駆使したキラーパスの果てに、特に主体的には何をするでもないヒロインが、所定の帰結にするすると収容される展開は、随分と便宜的に思へなくもない。個人的にはどうしても、全般的にボサッとしただらしなさがどうにも煮ても焼いても箸をつける気にさへならないゆゑ、所詮久保田泰也が相手役ではどう転がしたところでしつとり系のメロドラマが形になる訳がない。などと臍を曲げてしまつては、それこそ実も蓋もない。尤も、絶妙な薄幸感が歪んだ琴線を激弾きする相田ユリア。主演女優をさし措きポスターを一人で飾りもする、小出遥の首から上の雰囲気からは全く予想外の爆乳の破壊力。そして三戦の主演作で培つた安定感を手に、三番手に控へ後方をガッチリ固めるあずみ恋。三番手が地味に超強力であるだけに、裸映画的には手堅い仕上がり。下手にお話を追ふと釈然としないならば、いつそ腰から下だけで観てしまへ。


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 「どインランな女たち 大阪すけべ喫茶篇」(1995/製作:ENKプロモーション/提供:Xces Film/監督:剣崎譲/脚本:駒来慎/製作:ENKプロモーション 駒田達郎/撮影:牧逸郎/照明:北井哲男/助監督:岸田一也/制作:大谷優司・溝口尚美/撮影助手:木根森基・道岡誠/スチール撮影:渡辺哲/照明助手:田村まさひろ・山形剛・高柳知/編集:京ふたば/美粧:TATTOO/現像:東映化学/録音:東洋スタジオ・立石幸雄/フィルム:FUJIフィルム/協力:カップル喫茶 レッドハウス《新大阪》・レンタルラボ エンドレス《吹田》/照明機材:マジックハンド・映材スポット/撮影機材:関西映機/出演:谷川芙弥・赤江美紀・扇十郎・池浪義樹・南波れいこ・あんがい純・かめだこうじ・上村俊太郎・上田かなよ・山内ちはる・のばら・渡辺哲・高永良夫・竹田孝一)。スチールが、撮影部と照明部のセカンドを分断するクレジットは初めて見た。
 最初に、手も足も出ない以上おとなしく白旗を揚げるほかあるまい。後述する序盤のルージュ要員に登場する渡辺哲以外、本当に誰が誰やら全く判らない。昭和55年とでもいふならばまだしも、1995年の浅さで斯くも配役を固定出来ないのも開き直るが珍しい、大阪映画たる所以か。
 ズンチャカ開巻即底を抜く劇伴と、大阪城。途轍もなく女好きだつたらしい大公殿下―豊臣秀吉―の影響なのか、現代の大阪は次々と新風俗が誕生する地で知られてゐる云々と、随分な方便のナレーション。大体が、豊臣秀吉好色の真偽は問はないにせよ、極々限られた一時期の施政者の個人的な特性が、どうすれば四百年後の街全体の気質を左右出来るのか。六十億人分のパーソナリティーを僅か四類型に振り分けてみせる、ザックリするにもほどがある“占ひ”とやら以上だか以下に、没論理的であることなどピンクスにでも判る。閑話休題、繁華街を進む男女の背中に乗せた“最高の性風俗はこれだ!”とかいふシャウトに続き、そこそこの広さのカップル喫茶店内のそこかしこで、多数のカップルがお盛んに励む壮観を一望するショットに合はせてタイトル・イン。凄いのは確かに凄い画なのだが、冷静に考へてみるとカメラ位置の詳細がピンと来ない、二階席でもあるのか?
 夫の接待の席に随伴する風を装ひ身支度する麗子(ビリング推定で谷川芙弥か/以下同)に、息子・シゲルを預けさせられる舅の紀夫(扇十郎か池浪義樹/雰囲気的には扇十郎>何だそれ)が軽く嫌味を叩く。麗子は全く意に介さず、シゲル単独のイメージ(子役不明)挿むや否やチャッチャと夫・和彦(池浪義樹か扇十郎)とカップル喫茶店内、お花のパーテーションで覗き覗かれ易いやうに仕切られたボックス席。後々、入念に看板も抜かれる店名は協力のレッドハウス、ではなくルージュ。でもこれ改めてよくよく見てみると、ルージュは上から貼りつけただけかも。ここから、パッと見では濡れ場がマッタリ連ねられ続けるだけであるものの実は何気に凄まじいのが、和彦・麗子夫婦に、ロン毛の旦那が馬面イケメンのこちらも御夫婦と、関係性は不明なメガネ男と金髪ショートの女(女二人は南波れいことあんがい純か)。最低三組の脱衣本戦隊と、渡辺哲含め尺八その他要員。ルージュにて繰り広げられる酒池肉林に、序盤を丸々潰して何と十五分弱の長尺を費やす仰天構成。先走ると二戦目にして、剣崎譲も随分と勇敢な無茶をする。ところでルージュ店内、大絶賛開戦中のカップル客ばかりで、ギャラリー客が見当たらないといふのは幾分不自然でもある。それと、常時そこかしこに誰かしらが見切れてゐるため、ルージュ乱交部隊―ダーク破壊部隊風に―は全部で何人になるのか最早判然としない。ともあれ第一次ルージュ大戦ひとまづ終結、客同士の交流用連絡帳に書き込む黒髪ショートの女のカット噛ませて、帰りがけにロン毛夫妻と会話を交した麗子・和彦はシレッと帰宅。したところが大事件発生、紀夫が庭に出てゐる隙に、シゲルがゐなくなつたといふのだ。麗子と和彦が途方に暮れ、紀夫は悪びれもうろたへもしない中、当然名乗りはしないが亜矢(赤江美紀?)から誘拐したシゲルの身代金に、八百五十三万円を要求する電話が入る。八百五十三万円といふのは、麗子が管理する貯金の残高と同じであつた。亜矢と、この人は無関係な太郎(かめだこうじか上村俊太郎で、もう片方がロン毛?)との一戦経て、再び電話を入れた亜矢は、和彦を押しのけ受話器を取つた麗子に金の受け渡し場所としてルージュを指定する。因みにルージュ≒レッドハウス疑惑を蒸し返すと、ルージュの所在地も新世界は新世界。
 剣崎譲第八作にして、ピンク映画第二作。残りは一般映画でも非商業映画でもなく、薔薇族といふ寸法。ピンク映画前作兼、一応姉妹の姉作「どインランな女たち 大阪風俗篇」(1994/主演:美藤世里)との連関を窺はせる描写は、清々しいまでに一欠片たりとてない。となると、雑な物言ひにもなるがどうせピンク映画ゆゑ女優部は概ね“どインランな女たち”で、大阪を舞台とするのもデフォルトである以上、全作「どインランな女たち 大阪何某篇」であつて別に問題はないやうな気もする。映画本体に話を戻すと、全体の体裁が転々とグラつく大阪風俗篇と比較した場合、おとなしく劇映画の枠内に終始納まる点を一々長足の進歩と騒ぎだててゐては、流石に剣崎譲に対して失礼か。二度のルージュ大戦の間隙に放り込まれた、シゲルの誘拐・絶妙な額の身代金要求といふ出し抜けな重大事件。更に、起爆装置の予め地表に露出したサスペンスは、ツッコミ処過積載の荒業と、有無をいはせぬ速さとで切り抜ける、直截には誤魔化すともいふ。カップルの皆さんが致すのを、多数のギャラリーが動物園感覚で鑑賞するカップル喫茶の進化形・オープンカップル喫茶。オープンは兎も角喫茶要素が特に見当たらない、オチの豪快さもまた堪らない。正直俳優部の弱さは否めず、劇映画を下手に求めるならばまるで見るべきところもないにせよ、それはお門違ひといふ奴だ。スカスk・・・もといスカッと爽やかな、腹の据わつた裸映画ないしは量産型娯楽映画。後には何にも残さない、それは時に、ストイックな美徳として成立し得る態度であるのではなからうか。


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 「スチュワーデス暴行魔 三十路を狙へ!」(2004/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:龍田一郎/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:泉田まさと/音楽:レインボーサウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/録音:シネキャビン/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/現像:東映ラボ・テック/出演:酒井あずさ・水原香菜恵・石川雄也・丘尚輝・柳東史)。
 御馴染み「ペガサス・エアウェイズ」の国際線客室乗務員・高島彩子(酒井)が座席で雑誌を読んでゐると、突きつけたナイフと共に中田哲也(柳)が「この飛行機は我々がジャックした、静かにしてろ」。途端に鳴り始める緊迫感を煽る古典的な劇伴が微笑ましい中、パンティ越しに中田が彩子の秘裂を執拗に弄ぶカットの、プニプニした感じがよく出てゐるのは素晴らしい。とはいへ事の最中に、多分風間今日子の声でハイジャック予行演習を中止する旨の機内放送。予行演習するのは構はんが、実際にヤることはないだろといふ至極全うなツッコミに関しては、酒井あずさのプニプニに免じてここは控へるべきだ。空港と、離陸する旅客機の画を挿んでタイトル・イン。全篇を通して、乗客要員は意外と潤沢。ライトグリーンのポロシャツでワインを注文し、一番ああだかうだと目立つのが、ピンク映画界のヒッチコックこと新田栄。細かいことは、気にするな。一仕事終へ空港内を―堂々と―闊歩する彩子の前に、森谷正晴(石川)が現れる。森谷は彩子の恋人であつたが、勤務先のサンシャイン銀行が経営破綻し失業するや、掌返しに捨てられてゐた。早速次の優良株との関係をスタートさせ、男を経済力と将来性のみで評価する彩子の高飛車な態度に、同居する恋人居ない暦三十年の川瀬市子(水原)は異を唱へる。そんなこんなで彩子と、白石トレーディング御曹司である白石英太(丘)のディナー。丘尚輝(=岡輝男)は頼むから、もう少しいい格好で出て来いよ。ファストファッションどころか、スーパー感が全開だ。彩子と白石の情事が、果てしない長さで繰り広げられる一方、彩子の制服を着てみた市子は、デストロイヤー風の覆面で顔は隠した、見覚えのあるナイフを振り回す暴漢に襲はれる。
 新田栄の2004年が結構穴が開いてゐることを知り、DMMを頼つた第七作。何にせよ、何はともあれ、何が何でも、観てないものは全部見るんだ。としたところが、新田栄恐るべしとでもしか最早言葉が見付からないといふか、正体不明の脚本家を擁し更に加速してみせる、明後日だか一昨日に。徹頭徹尾功利的な高飛車スチュワーデスが、純情肌のルームメイトに絆され考へを改める。やうなオーソドックスを期待した、俺の寧ろ負けだ。翌日朝一の便で、留学する白石と渡米する―ことが求婚の受諾―腹を彩子が固めた夜。名残を惜しみ制服に身を包んでみたりしてゐると、オッチョコチョイなスチュワーデス暴行魔再起動。三度目の長々とした絡みが、五十五分も跨いだところで流石に慌てた。一体ここから、如何に始終を畳むのかと。スカーッとバレてのけるが、翌朝彩子は寝坊し、この時点で白石の線は消える。数日後、彩子は仕事復帰。寿退社する段取りとか進めてなかつたのかよ、といふ一般的な疑問は、それどころではない故さて措く。機内にて、グレート証券に再就職した森谷と再会した彩子が、かといつて元鞘に納まるでもなく。一拍飛行機噛ませて、周囲には誰も居ない機内。内トラにしては男前の部類に入る若い男の尺八を吹く彩子の、カメラ目線の舌舐めずりでエンド・ロール、

 何だこの映画。

 人違ひで犯されたまま退場する、市子の復権が果たされることはない。幾ら濡れ場要員にしても、あまりにも無体な扱ひに止め処なく流れよ、我が涙。当然、ヤナギトロイヤーが罪の報ひを受けなどする訳がない。挙句に、劇中彩子が最後に辿り着く男といふのが、面は不味いがサラブレッド中のサラブレッドである白石でなければ、財務面では大幅に劣れど色男でおまけにセックスも上手い森谷も煙に巻いた末に、現状経済力に欠くのは確実で、将来性に関しても蓋を開けてみないと判らないそこら辺のアンチャン。だからホントに誰だこれ、龍田一郎も。物語が木端微塵に砕け散る爆風で、吹き飛ばされるのを体感した。PCのモニターだからまだしも、小屋で観てゐれば斯様に呑気な諦観もとてもではないがいつてゐられなかつたのかも知れない、キナ臭い一作。土台が、三冠を華麗に達成する酒井あずさの裸だけで、細かいのも加へると優に半分以上尺を消費する、潔いにもほどがある構成から大概ではある。


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 「義父と姉妹 桃汁味くらべ」(2013/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:蒼井ひろ/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:竹洞哲也/監督助手:山城達郎/撮影助手:酒村多緒/音響効果:山田案山子/音楽:友愛学園音楽部/出演:辺見麻衣・日高ゆりあ・あずみ恋・岡田智宏・久保田泰也・なかみつせいじ)。クレジット終盤に力尽きる。
 会社の階段から落ち右腕・右足を骨折した上原建設社長の上原真介(なかみつ)を、元は秘書で現息子嫁の彩花(辺見)が、胸の谷間も無防備に露な服装で介護する。帰宅しない息子・直樹の浮気に関しては、真介も知つてゐた。何処からともなく聞こえて来る祭囃子を懐かしむ真介に、彩花が同調したところでタイトル・イン。三年前、ゆくゆくは上原建設を継ぐであらう直樹(岡田)が彩花に一目惚れ、真介に結婚を申し出る。彩花は判断を真介に委ね二人は結婚するも、息子の夫婦生活の気配を窺ふ真介は、自身の宝物が壊される焦燥に駆られる。再び現在、眠れぬ夜彩花は真介に、直樹の持ち物から勝手に作つた合鍵で、浮気相手のキャバクラ嬢・藤谷優衣(あずみ)宅の何時ものカエルハウスに侵入。そこに優衣と直樹が帰つて来た為、クローゼットに潜んで情事を覗き見た。だなどと、もう少しスマートな三番手の裸の見せ方を思ひつけなかつたものか随分と乱暴な体験を懺悔する。その勢ひで、彩花と真介はサクサク一線を超える。え、そこもう超えるの、早くね?
 彩花と真介が一応遂に結ばれた余韻も断ち切り、鼻息荒く飛び込んで来る日高ゆりあは、彩花とはあれこれ確執を抱へてゐるらしき姉・大石麗子。勤務先のスーパーが潰れた故、彩花といふかより直截には上原を頼つて上京する。舞台活動の成果か、これまで耳に覚えのない日高ゆりあの発声の張りは光る。久保田泰也は麗子のスーパー同僚で、見た感じ安アパートに殆ど囲つてゐるかのやうにさへ見える年下の彼氏・向井英司。
 もう少し気を配つて呉れてもいいのに、翌週来る2012年第二作「主婦《秘》不倫 後ろから出して」(脚本:星野スミレ・伊藤つばさ/主演:相田ユリア)を追ひ越して八幡の前田有楽劇場に着弾した、加藤義一2013年第一作。因みに加藤義一以外に、2012年作をもう三本残してゐる。土壇場中の土壇場のこの期に及んで、発掘してゐるのか育成してゐるのか、それとも一緒に遊んでゐるのだか。素人、もとい新人脚本家づいてゐる加藤義一の今回の連れは、ピンク映画は三戦目となる蒼井ひろ。前回は2010年第四作「淫乱Wナース パイズリ治療」(主演:稲見亜矢)、その前に実は、坂本太の結果的に最終作「痴漢蚊帳の内 茄子と四十路後家」(2008/主演:竹内順子)がある。Vシネその他、余所での戦績は有無から知らん。今作本体に話を戻すと、元々相思相愛であつたとはいへ、彩花と真介が世間的には禁忌を犯すまでが僅か二十分。有体に考へると若妻×義父もののクライマックスを早くも序盤で迎へてしまつて、一体この先この映画どうなるのよ。と別の意味でハラハラしてゐると、間髪容れずにレギオンならぬレイコ襲来。すると前門の浮気夫に、後門の鬼姉。彩花が見舞はれる更なる苦難には意表を突かれながらも、昼メロないしは大映ドラマといふ奴は、ある意味こんなもんかもな、と納得しかけたものの、そもそも驚くのから早かつた。三部構成に於ける均等な尺の物理的配分だけは整ひつつ、超展開に次ぐ超展開の末に、二転三転した卓袱台が木端微塵に砕け散る終盤には逆の意味で圧倒される。翻弄される悲劇のヒロインが、何時の間にか魔性の女!?気がつくとボンボンの浮気夫が、地道に愛と家庭を育んでるの!?清々しいまでの支離滅裂に正体不明の感銘すら受けかねない、グルッと一周した一作。公開は世間一般的には正月第二弾にして、早くも2013年裏ランキングの筆頭候補だ。プロの映画監督がお考へになることを、市井の節穴風情が理解出来なくて寧ろ当然なのかも知れないが、岡輝男の意外と偉大さを恐ろしく無駄な回り道をして際立たせようといふのでもなければ、昨今の加藤義一が選択する路線の意義が小生には皆目判らない。

 度々持ち出される遠くに聞こえる祭囃子のギミックは、それらしき風情を押さへる一手間を踏むでもなく、力なく木に竹を接ぎ続ける。但しラスト・シーン、姉妹が揺らすブランコを仰り気味に捉へた後方の民家越しに、綺麗な夏空が広がるショットは手放しに素晴らしい。撮影部の孤軍奮闘に、突発的な映画的興奮を覚える。


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 「欲情電車 狙はれたOL」(1992『痴漢電車 通勤下半身』の1998年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/脚本・監督:橋口卓明/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:フィルム・クラフト/助監督:今岡信治/監督助手:本多英生/撮影助手:飯岡聖英/照明助手:小田求/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:五月純・夏みかん・伊藤清美・杉本まこと・佐野和宏・榎本祥太・山田奈苗・林田義行・林田隆行・畠山学・山田孝鐘・伊藤剛正・山本拓)。出演者中、榎本祥太以降は本篇クレジットのみ。
 プアンと画面手前に進行する山手線のショット噛ませて、手短にタイトル・イン。混み合ふ通勤電車の車中、白鳥悠(五月)は殊更に体を密着させた恋人の今川(杉本)の興奮を看て取るや、自らズボンの中に手を差し入れる。今川も応戦したはいいものの、開巻の相互痴漢電車。抑制的な演出の結果、互ひに下半身を弄(まさぐ)る―だけの―画に、単調な走行音のSEが延々被さるのは少々厳しい、そんなに観客を眠らせたいのか。元々悠は今川と同じ会社のお茶汲みOLであつたが、キャリア志向から派遣社員に転進。その選択が、果たして正しかつたのかはさて措き、その日が悠の初出社日。絶妙に細部は詰められない、見た感じ編集部的な新天地。セクション長の越智(佐野)は、ロクに仕事もせずにのつけから悠を注視する。上昇志向の悠とマイペースな今川が何気に対立する中、たまたま今川がかけた公衆電話に自宅の悠が出損ねたタイミングで、今川の同僚、といふことは悠とも面識のある夏代(夏みかん)が声をかける。大胆な昼下がりのオフィス情事から悠は越智と急接近、一方、今川も夏代と何となく関係を深める。そんなある夜、連れ添つて歩く今川と夏代は、同様の悠・越智と交錯する。要は、知らぬは越智ばかりといふ寸法。
 昨今、本格的にエクセスと復縁したらしき地元駅前ロマンにこの期に着弾した、1998年新版。持論を繰り返すと、何はともあれ、未見の旧作と未知の新作との間に形式を除いた差異は、当サイトの中には存在しない。綺麗に擦れ違つた二人が、よくいへば起承転結の転部に相応しい強度とでもいふのか、直截には何気に壮絶なまでに無造作なアシストを受けひとまづ目出度くヨリを戻すまでを描いた物語。非現実的な夏代の行動も大概だが、実は更に凄まじいのが、ビリング下位に甘んじた伊藤清美の登板法。尺の折り返し地点前後を支配する、出し抜けにラバーマスク―しかも一旦被せられると、何故か自分では外せない仕様らしい―なんぞ持ち出しては、服を脱げだオナニーしろだ股を開けだと、越智が我儘放題をし倒す不倫の逢瀬の事後、ホテルで悠がシャワーを浴びる。次のカットが、旦那である越智にローションを塗つて貰ふ背中のアップから、伊藤清美が飛び込んで来る。伊藤清美!?悠と越智のSMテイストな夜は何処に消えたのよ。そのまま平然と穏当な夫婦生活を一幕、佐野和宏の出番もここまで。佐野和宏退場も兎も角、一見シレッとした繋ぎのどさくさに紛れて、とんでもない三番手の放り込み様をしやがる。木に竹を接いだのではない、カット跨ぐと木が竹に変つたのだ。ある意味凄い編集マジックであるのは間違ひない、感触的には殆どイリュージョン。最終的に全篇を貫く意図的に静か過ぎるトーンの中、派手な二手が地味に火を噴く。それはそれとして、悠と今川の復縁は夏代の箆棒な翻意の結果につき、電車痴漢は何の関係もなければ、二人の考へ方の相違が埋められた訳でも別にないよな。と一旦は、痴漢電車的にも、それを差し引いた裸の劇映画にしても、頂けない出来であらうと難じかけたところが、開巻を若干アレンジした、実質的には一歩進んだ形のオーラス相互痴漢電車。そんな、基本漫然としてゐるかと思へば所々では激しく仕出かした、よく判らない始終の末に、案外静かなラブ・シーンとして美しく成立してゐることには面喰ひつつ感心した。何といふか、良くも悪くも一筋縄では行かぬ不思議な一作である。

 配役残り榎本祥太以下は、悠派遣先社内と、欲情電車車内要員か。但し悠派遣先社内、最初に悠が越智の所在を尋ねる若い男は今岡信治?


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 「発情おねだり 夜ごとの快楽」(2001『いんらんアパート 毎晩いかせて!』の2013年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/照明:田宮健彦/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/タイトル:MARIKO/現像:東映化学/出演:里見瑤子・奈賀毬子・佐々木麻由子・岡田智宏・かわさきひろゆき・さとうおさむ・丘尚輝・横須賀正一)。田宮健彦の照明クレジットは何気にレアだ。
 タイトル開巻、最初に飛び込んで来るのは、奈賀毬子のオッパイ。毎晩のやうに違ふ女を取つ換へ引つ換へ部屋に連れ込む別所太市(岡田)の今日のお相手は、会社では対面に座る同僚の富田瑞穂(奈賀)。事後、別の女のネックレスを見付けた瑞穂は軽い修羅場の末に出て行き、不貞腐れた太一が体を預けた壁の反対側から、女が手を添へる。翌日、遊び仲間の同僚・井口和彦(丘)が仕切つたJKとの合コンが、全員援交で補導されてしまつたゆゑ流れた太一がサッサと帰宅すると、礼装の大家・山辺恵三(かわさき)と擦れ違ふ。兄妹で暮らす太一隣室の、妹さんが病死したのだといふ。その晩、暇を持て余しついでに太一が弔問に訪れてみると、仁科広明(さとうおさむ=佐藤吏/城定秀夫によく似てる)の妹・みくに(里見)の遺影は思ひのほか美人であつた。帰室し何となく心を痛める太一の前に、みくにの幽霊が現れる。長い病を患つたみくには処女のまゝ死に、プレイボーイぶりを見込んだ太一に一夜の女の悦びを乞ふ。ひとまづその夜を十全に消化した翌日、四十九日まであと四十八日間は此岸に留まるにつき、すつかり味を占めたみくにがケロッと再び現れる。
 佐々木麻由子はみくにが彼岸から連れて来る、首を括つたお向かひの団地妻・白石路子。この世に残した未練を、太一の腕と棹とで解消して貰はうといふ寸法。太一勤務先には瑞穂と井口以外に、もう二人見切れる。佐藤吏のカードが切れない以上、一体誰なのか。クレジットしてゐないだけで、各部セカンドが普通に存在するだけのことなのかも知れないが。
 陽気な女幽霊が連夜キャピキャピ膳を据ゑる、欠片も怖くない朗らかな幽霊譚。太一がみくにに傍目には満更でもなく取り憑かれる、一旦出来上がつた流れが幾分横道に膨らむ以外には、新たな展開やエモーションの深まりなり高まりに繋がる訳でも別にない。そんな中順番的に最後の濡れ場が、主演女優ではなく三番手のものである厳密にいへば構成の不備に関しては、この頃単純な出演本数でいふとキャリアハイとなる佐々木麻由子の既に完成された貫禄で、如何様にも捻じ伏せてみせよう。何より特筆すべきは、深町章にしては意外なほどに若々しい演出のセンス。あの―どのだ―朴訥ハンサム・岡田智宏を筆頭に、会話の遣り取りが中身は他愛ないにせよテンポが素晴らしく軽快でサクサク見させる。横須賀正一が飛び込んで来る、直前に読めるオチまで一直線。横須賀正一のこの手のネタは何度観たのか、数へれば答へを出せるやうな気もしつつ面倒臭いのでやらないが、何回観ても配役のあまりの強度に満足させられる。但しここで更に欲張り過ぎると、色華昇子で画を散らかしかねない羽目になる点は要注意。


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 「熟母の本能 一滴残らず欲しい」(2001『股がる義母 息子の快感』の2009年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:北沢幸雄/助監督:城定秀夫/監督助手:伊藤一平/撮影助手:長谷川卓也/照明助手:原康二/ヘアメイク:成田幸子・藤野育美/スチール:佐藤初太郎/音楽:TAOKA/録音:シネキャビン/ネガ編集:酒井正次/タイトル:道川タイトル/現像:東映化学/効果:東京スクリーンサービス/出演:美波輝海・山咲小春・笹原りな・小泉博秀・樋口大輔・なかみつせいじ)。
 東大医学部を目指す竹中渉一(小泉)ことハンドルはショウが、ハンドル・ムーン女史に近況をメールで綴る。のちに渉一がムーンを図々しくも彼女であるだなどと称するものの、映画を観る限り精々メル友程度にしか見えない。渉一の父親で経済評論家の渉蔵(なかみつ)は、新しい母親が三人目といふことは、久美(美波)と少なくとも四度目の結婚をする。渉蔵の女癖の悪さを知る渉一は、そんな男と結婚しようといふ女は頭がおかしいとムーンに嘯(うそぶ)きつつ、二十八とまだ若い久美に、当然一番見境ない盛りの性欲を刺激されなくもない。ひとまづメールを送信してタイトル・イン、渉一は夫婦生活の真最中の、片方は義理とはいへ一応両親の寝室の様子を窺ひに行く。
 完璧にそれらしく見える樋口大輔と笹原りなは、渉蔵の同級生でヤンキーの小泉純一と、彼女でギャルの森島千景。それにしても、東大医学部を本気で狙へる生徒から、コッテコテのヤンキーなりギャルまで机を並べるとなると、なかなか振り幅のデカい高校ではある。貧しくホテル代に欠く二人に、渉蔵が自室を要はヤリ部屋に提供する件は、三番手の裸見せといふ方便に止(とど)まらず、強者の論理とやらの有体な新自由主義を振り回す父親への反抗心も込みで、アフリカでの医療ボランティアを将来の目標に据ゑる、渉一の弱者への眼差しを補完する一手として地味に秀逸。竹中家の風景を綴る中、お義理で久美を後ろから突く渉蔵の欠伸共々、長いキャリアが伊達ではない北沢幸雄の侮れぬ地力を感じさせる。そして山咲小春が、矢張り病気は治らない渉蔵の愛人・中田真紀子。
 この頃大変だつたらしい北沢幸雄の2001年唯一作、といふよりは、美波輝海のピンク映画初陣といふ点を寧ろ重視したい。これで大貫あずさと二度の小山てるみ、計三回となるカンバック含め、都合六本の美波輝海出演作をひとまづ網羅した格好となる。別に嬉しくないといふのは兎も角、流石に、今からもう次はあるまい。閑話休題、真紀子の存在を察知し、胸を痛める久美に渉一が徐々に距離を近づけて行く展開は、よくいへば手堅く、悪くいへば平板。派手に壊れるでない反面、別に深まりもしない。ただ、最終的に一線を超える一手が、ソファーに座り終に泣き出した久美に対し、歩み寄つた渉一が立つたまゝハンカチを差し出す。そんな渉一の両足に思はず縋りついた久美が、フと面(おもて)を上げると義息の愚息はギンギンにフル勃起、といふのは実に腰も砕けるお茶目である。渉一に続き渉蔵ともヤることはヤッておいて、しかも別れ際には渉一から指輪まで受け取つておきながら、それでも久美が渉蔵―と渉一も―を捨て姿を消すラストは、逆に渉蔵的には好都合でもなくね?と下衆いオッサンの考へ方としては勘繰れなくもない。それに加へ、返信すら着弾するでもないムーンが、一貫してネットの向かう側に留まつてゐるのも奇異に思へる。普通思はぬ正体が明らかとなり渉一が吠え面をかくのが、ありふれた“意外な真相”といふ奴なのではなからうか、実はネカマで渉一に世間を教へてやるとか。表面的にはとりあへずスムーズに着地しながら、案外ツボは器用に外して行つたやうにも思へ微妙に居心地の悪さを残す、絶妙な一作ではある。

 ところで、エアロビに軽く汗を流した久美が見る昼メロ、といふ方便と思しきテレビ画面が、まづ間違ひなく北沢幸雄自身の高校教師ものの授業風景カットではないかと思はれるも、特定には至らず。


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