真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「小松みどりの好きぼくろ」(昭和60/製作:株式会社マイルストーン/配給:にっかつ株式会社/監督:山本晋也/脚本:佐伯俊道・山本晋也/企画:野路孝之《マイルストーン》/プロデューサー:奥村幸士・北島肇《マイルストーン》/撮影:志村敏雄/照明:斎藤政弘/録音:細井正次/美術:滋野清美/編集:鍋島惇/助監督:中村光徳/製作主任:岩尾英一《ソック》/製作担当:平川弘喜/選曲:林大輔/記録:菅正子/効果:斎藤昌利/製作進行:笠井孝志/現像:東洋現像所/車輌:前田オート/主題歌:『はしご酒』《株》ポリスター・作詞:はぞのなな・作曲:赤坂通・歌:小松みどり/協力:日本映機《株》・《株》ライトユニオン/撮影協力:熱海社交業組合・湯河原共同自動車・香林荘・水口園/出演:小松みどり《二役》・九十九一・野上正義・福田健次《新人》・平瀬りえ・江崎和代・橋本杏子・江藤漢・若林哲行・坂田祥一朗・大木正司・なぎら健壱・滝川真子・イヴ)。出演者中、橋本杏子がポスターには橋本京子。日活もやらかすんだなといふのと、配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
 花畑で目のトンだイヴちやんと、あちこち不自由な九十九一が戯れる。絶叫とともに発作に襲はれたイヴちやんに九十九一が竹筒の水を飲ませたタイミングで、主題歌が起動してタイトル・イン。車載カメラによる夜の街に紫陽花がオーバーラップする画でフルコーラス聴かせ、錦糸町の居酒屋「邑」。その日は看板、女将の赤嶺紫雨子(小松)に薬物中毒から救はれたお手伝ひの沼沢初美(滝川)が、未だやめられてゐないマリファナを吸つてゐると、店の表に高級車が。修験道系の新興宗教「仙道王呪教」の高僧・草野(江藤)が、開祖・岳堂(大木)の長女である紫雨子を、岳堂の死去に伴ひ迎へに来たものだつた。世俗に戻つた身と固辞する紫雨子に対し、事務長の野々村健蔵(野上)は二代目として仙道王呪教を継ぐやう求める。それにしても還俗した着地点が和服の色つぽい居酒屋女将とは、振り幅が凄まじい。
 概ね登場順に配役残り、トメを固めるイヴちやんは紫雨子の妹・霞、突発的に色情狂の症状を示す。九十九一は紫雨子や後述する幹生とは幼馴染の、庭師・六郎。幹生が一人飛び抜けて若くね?といふのは現に一回り弱違ふので気にするな。平瀬りえ・江崎和代・橋本杏子は野々村の情婦である平瀬りえをリーダー格に、巫女の伸代・友子・章子。滝川真子とイヴちやんまで含め、見事六枚揃ふ濡れ場のローテーションは流石に豪華。若林哲行と、坂田雅彦の旧名義である坂田祥一朗は、男性信徒の須崎と高月。福田健次は、健蔵の息子・幹生。テレビ持たないから知らなんだけど、この人今は福岡に移住してローカルタレントやつてゐるのね。目をヒン剥きぱなしのなぎら健壱は幹生と霊山に入つた紫雨子に邪教徒と因縁をつける、殆どパンクスのやうな造形の山伏。そして小松みどりの二役目は、密通を咎められた末に自死した紫雨子の母親・夕子。
 山本晋也の「愛染恭子の未亡人下宿」(昭和59/脚本:吉本昌弘・山本晋也/主演:愛染恭子)次作にして、主演の小松みどりは五月みどり実妹。小松みどりの本業は歌手、とはいへ小ぶりの今でいふロケット型オッパイと、昭和の歌謡界の地力を感じさせるお芝居は全然申し分ない。尤も、要はハッパと脱法ハーブを資金源―それを不具者の六郎一人に栽培させてゐるといふのは若干無理もある―とする、セックス教団の興亡記。といふ物語本体は、一般映画ばりに整つた体裁が、潤沢な絡みで更に薄まつた、通り一遍展開の中では平板に映る諸刃の剣と紙一重。初美が何時の間にか仙道王呪教に潜り込んでゐたり―但しこの点に関しては重大な疑義あり、後述する―であるとか、キメッキメの事の最中に章子が情死、官憲の介入を許した状況下で、野々村が紫雨子を手篭めにしようとする、端々の粗さも際立つ。劇中唯一人ライトな初美が最も活き活きと輝いて見えただけに、結果的にそれしかねえのかよ!といふ反駁は潔く被弾した上で、こゝも矢張り肩肘張らない未亡人下宿で別によかつたのではと思へなくもない。

 実は遠征より帰還後DMMでザッと復習したので判明したのだが、禊中で半裸の紫雨子を六郎が覗く件が丸々カットされてゐる。続く幼少期の描写の、幼女ヌード―紫雨子・幹生・六郎、三人分の子役クレジットはなし―を回避したものではあるまいかと思はれる。そこをスッ飛ばしてはラストに繋がらないことに加へ、殆ど連れ去られた紫雨子を追ひ初美が仙道王呪教に潜入する辺りからも結構派手にブッた切つてあるやうな・・・・今更なのかも知れないけれど、これもしかして八十分弱の元尺を、エクセスが七十分に刈り込んでないか?


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 「花と蛇」(昭和49/製作:日活株式会社/監督:小沼勝/脚本:田中陽造/原作:団鬼六/プロデューサー:松岡明/撮影:安藤庄平/美術:横尾嘉良/録音:片桐登司美/照明:木村誠作/編集:鈴木晄/音楽:真鍋理一郎/助監督:鴨田好史/色彩計測:田村輝行/現像:東洋現像所/製作担当者:青木勝彦/緊縛指導:浦戸宏/出演:谷ナオミ、坂本長利、石津康彦、藤ひろ子、高橋明、あべ聖、八代康二、大山節子、織田俊彦、三山裕之、菅原靖彦、ウィリー・ドースイ)。出演者中、大山節子以降は本篇クレジットのみ。各種資料に見られる企画の五味春雄は、事実であるにせよ少なくとも本篇クレジットからはオミットされる。正確には緊縛指導の浦戸宏は、出演者の裏。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”、なのか?
 暗室のやうな赤い照明、洋パンの母・美代(藤)が黒んぼの―劇中用語ママ―米兵・ジミー(ウィリー・ドースイ)に抱かれる現場に遭遇した野球帽の息子・誠(子役不明)は、憎しみのこもつた目つきで脱ぎ捨てられたホルスターから拝借した拳銃をジミーに向ける。一発発射、右胸を撃たれたジミーは絶命せず、巨大な白い掌を振りかざし誠に迫る。両手で首を鷲掴みにされ誠が苦悶するのは、成人した片桐誠(石津)が未だ囚はれる悪夢。ハイライトに火を点け、屋根裏部屋から台所に下りビールの小瓶を開けた片桐は、悶絶する女の声に驚く。地下室に更に下りた片桐が、緊縛され責められる二人の女(何れも不明)に度肝を抜かれたところで、静かに鮮烈なタイトル・イン。地下室の実情は、目下美代が営む大人のおもちや屋のブルーフィルムとスチール撮影。過保護の美代に追ひ返され自室に戻り、緊縛写真でマスをかいた片桐は、事後ティッシュを窓の下のポリバケツに「安らかに眠れよ、ここがお前達の墓場なのだ」と葬る。母親の情交を覗き見たことと、ジミー殺害とが楔となり、片桐は女を抱けずにゐた。若くして係長の片桐は、社長の遠山千造(坂本)に自宅屋敷に呼び出される。デスクに潜ませてゐた緊縛写真から、片桐のサドマゾ趣味が遠山に発覚。遠山は気位が高く夫婦生活も拒む妻・静子(谷)を屈服させる調教を、専門家どころか実は童貞の片桐に求める。この辺りの、瓢箪から駒感も面白い。
 辿り着ける配役残り、高橋明は美代片腕の調教師。大山節子は、大人のおもちや屋住み込みの店員・照枝か照江か輝枝か輝江。八代康二が遠山には平身低頭の課長で、丁寧に仕上げられたメイドぶりが、昨今の観客には下手すると谷ナオミより受けるかも知れないあべ聖は、静子が実家から連れて来た遠山邸小間使ひ・ハル。
 先生逝去後の今なほ新作映画が製作され、恐らく今後も折に触れされ続けると思しき、鬼六ブランドのフラッグシップ・タイトル「花と蛇」の歴史的第一作。と書きかけて、よくよく調べてみたころSMペディアによると先行する六本のピンク映画―jmdbにも項目あり―が存在することが判明。存在といつて、今はプリントもとうの昔にジャンクされ影も形もあるまいが、何れにせよ後にロマンポルノと、東映・東映ビデオ版をそれぞれ四本計八本従へた小沼勝の「花と蛇」は、通算では映画化第七作に当たるといふ事実を、改めて特記しておくものである。傾向が限定されるのは仕方がないにせよ、SMペディアが結構でもなく強力に分厚い。
 映画本体に話を戻すと、実に四十年後の目にもエポック・メイキングであつたらうことが想像に難くない、“女王”谷ナオミの堂々とした肉体に対する責めは流石の迫力。但し単にそれだけに止(とど)まらず、幼少期のトラウマから不能となつた―ついでにマザコンの―主人公の、母離れの物語が裸のみならず劇映画としての体裁も保つもう一本の軸として、普通に見応へがある。遠山からは固く姦通を禁じられたにも関らず、調教初夜に筆卸を済ませた誠がやがて静子との結婚を切り出すや、ラジオから流れて来るのはパパパパーンで御馴染みのメンデルスゾーンの「結婚行進曲」。動揺し追ひ縋る美代を振り切り誠が出勤すると、今度は“かあさんが夜なべをして 手袋編んでくれた”と「かあさんの歌」、スーパー・ポップな選曲も麗しい。終に誠がジミーの呪縛から解放される件も、女と洋ピンを観に行く。ニューヨークの夜の闇に弾けたトラヴィス・ビックルの魂を救済するシークエンス自体込みで、単なる作劇上の手堅さを超え素晴らしい。それだけに支配・被支配の関係が逆転するラストは、却つて平板に映らぬでもない。

 因みに更にSMペディアによると当時谷ナオミは結局起訴猶予で済むものの、御縄を頂戴し本篇は中川梨絵のアテレコであるとのこと。この辺りは、小生の耳には手も足も出ない。


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 「制服日記 あどけない腰使ひ」(2014/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/原案・監督:加藤義一/脚本:鎌田一利/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:小山悟/監督助手:江尻大/撮影助手:酒村多緒/音響効果:山田案山子/音楽:友愛学園音楽部/協力:ゾンネンプロ/出演:桜ここみ・ほたる・あずみ恋・柳東史・松本格子戸・紅森伐人・東京JOE・GON・井尻鯛・山内大輔・本多菊次朗)。出演者中、東京JOEから山内大輔までは本篇クレジットのみ。
 チクタクぼんぼん時計が、午後十一五十分を指す。情夫・和泉賢(柳)を連れ込んだ母・芳子(ほたる)の憚りもせぬ嬌声を肴に、父違ひで、事故に遭ひ体と言葉の自由を失つた車椅子の兄・太一(紅森)を、木下恵(桜)がいはゆる手コキする。日付を跨ぐと、その日は恵十八歳の誕生日。小さなケーキに一本だけ立てた蝋燭を、吹き消してタイトル・イン。オナニーによる裸と、翌朝高校の同級生・山内雅子(あずみ)の長めの顔見せ挿んで、仕事をするでもなく家に居る和泉に手篭めにされかけた恵は衝動的に家出。繁華街にて、柄の悪いナンパ師(多分東京JOE?)に付き纏はれてゐるところを助けた団厚作(本多)に恵は謎の勢ひでコロコロ懐き、殺風景な一人住まひに転がり込む。街で出会つたJKが、インスタントに家まで来て呉れる、ある意味ファンタジーに思へなくもない。
 観終つた後猛烈にくたびれる、加藤義一2014年第一作。家庭を放棄し男に狂ふ母親と、片端の義兄の介護。ポップに不幸な女子高生を拾つた渋めの色男は、無職のスケコマシ。在り来りな悲劇を、スッカスカに描く。途中で俺は、気が付いた。紅森伐人“かうもりばつと”だなどと取つて付けた変名感を迸らせる名義の正体は、何のことはない鎌田一利。桜ここみとは下手すれば親子ほど歳が離れてゐるどころか、一歩間違へばほたる(ex.葉月螢)よりも年上だ。誤魔化しもしない髪に混じる白いものを見てゐると、別に事故に遭つた義兄でなくとも、単に芳子が匙を投げた亭主で話は全然通る。パッキパキに顔の出来上がつたまるであどけなくはない桜ここみと、地味にキャリアを重ね貫禄もついて来たあずみ恋がよもやのJK二人組。人を喰つた、キャスティング。正体不明の一途さで厚作に入れ揚げた恵は易々と現役女子高生売春婦に身を落とし、何故か重ねて転がり込んで来た友人―の筈の雅子―も、平然と売る。無体を木に竹すら接ぎ損なふロマンティックで和へた奇怪なラストまで、観客の感情移入を端から拒んだが如き展開。大御大・小林悟が壮絶な戦死を遂げて久しく、今上御大・小川欽也は近年第一線を退く。次代を目される関根和美は未だ遠慮か未練があるのかすんでで踏み止まり、渡邊元嗣・浜野佐知・池島ゆたから現役大ベテラン勢はそもそもそんなつもりもなく、国沢実と荒木太郎は終にその器にはあるまい。即ち、オーピー映画がピンク映画最後の牙城―の本丸―として五十優余年の歴史を死守する上で、その極北たる御大枠が現状空いてゐる。そこに、デビュー十年といふ魔速で若御大・加藤義一が何時の間にか―あへて特定するならば、周年記念の次作「主婦《秘》不倫 後ろから出して」(2012)辺りか―飛び込んで来てゐたのだ。さう考へた時初めて合点が行くといふか、さうでも思はないと理解出来ない。

 配役残り、井尻鯛(=江尻大)と、加藤映像工房から電撃大蔵第一作、兼2010年代依然最強の一作「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏)以来となるみづなれい復帰作「欲望に狂つた愛獣たち」を発表し話題を呼ぶ山内大輔は、誰からも祝はれはしない恵のバースデーに雅子が贈つた、表札大の訳の判らない大きさの蝙蝠のペンダントを、バカにする通りすがりの二人組。一応振り返りもする江尻大に対し、山内大輔は終始背中しか見せない。このペンダントの件もペンダントの件で、女子高生が友達にこんなダサい品贈るかよといふ頓珍漢さに加へ、恵がその場で一言も断りもせずに包みを開け始める無造作さ、徹頭徹尾の薮蛇ぶりが最早清々しい。松本格子戸は厚作とは長い付き合ひと思しき、射精産業従事者・堺幸夫。不完全消去法で恐らくGONは、恵を買ふ客。
 忘れてた、厚作宅の冷蔵庫に、昨年末に封切られたほたる監督・脚本・出演作「キスして。」のフライヤーが見切れる。


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 「本番狂ひ」(1990/製作:21映像企画?/配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:倉田昇/照明:森隆一郎/音楽:中村半次郎/美術:最上義昌/編集:酒井正次/助監督:鈴木正人/撮影助手:高橋淳/照明助手:竹内弘一/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津装飾/衣装:日本芸能美術/撮影協力:料亭・松風、村山スタジオ/出演:南野千夏・神山洋子・島田さとみ・赤城玲子・南条千秋・長沢聖也・高橋隆二・橋詰哲也・西田光月・野沢純一・青松次郎・本郷竜二・藤堂五郎・海野力也・川津正雄・住吉夏男)。出演者中、高崎ではなく高橋隆二は本篇クレジットまま。
 女子大生の家庭教師・愛子(南野)が、高校二年生の教へ子・ひろし(南条)にピアノ際に追ひ詰められる。思ひ詰めた南条千秋の、マー坊みたいな髪型が堪らない。カット一転、足抜けしようとした暴走族のリンチに遭ひ半死半生のひろしに駆け寄る愛子と、パトカーが到着した気配に蜘蛛の子を散らす一同、この辺りの繋ぎの無造作さは矢竹正知の真骨頂。後のシーンではパトカーを実際に用意してゐるところを見るに、もしかすると単車も走らせてゐるのかも知れない、バンクでなければ相当本格的なチェイスに続いてタイトル・イン。お屋敷、寝つ転がつてドラクエの攻略本を読んでゐるのは、ひろしではなく貿易商を営む父親の有三(だから正しくは高崎隆二でないの?)。素行にも問題のあるひろしに家庭教師をつけることを考へた有三は、二年前に再婚した後妻・雪江(神山)の浮気を心配して、女の先生を希望する、息子のヤリたい真つ盛りは無視かよ。夫婦生活を経て、愛子が、同級生の竜介(長沢)と遅い初体験を迎へるまででマッタリと二十分を消化、漸く家庭教師に入る。エクストリームにグダグダな、残り時間僅かな終盤ではグルッと一周してスリリングに至る無頓着な尺の配分も、矢竹正知の持ち味。何処か正方向に評価可能なポイントは見当たらないものか、とかく、頑なに加点法を拒むストイックな監督ではある。
 そんなこんなでぼちぼちと矢竹正知1990年第一作、jmdbには製作は21映像企画とされるものの、配信された動画では確認出来ず。例によつてといふべきかこの際順調にと自暴自棄にさへなるべきなのか、ツッコミ処だけには事欠かない。豪快な先制パンチで見るなり観る者を秒殺するのが、タイトル・イン直後のキャスト―のみの―クレジット。よもや忘れたのではあるまいなと心配させられるスタッフに関しては、オーラスまで持ち越される。役名も併記して呉れるのは見知らぬ名前も多いこの時期のピンクにあつては非常に助かりつつ、カーセックス後族に襲はれる島田さとみが、劇中ユカと呼称されるにも関らず“若い人”と投げやりに済まされるのは、これで全然序の口。お相手の橋詰哲也の“若い男”は、男優部の濡れ場要員はそのくらゐの扱ひでも問題なからう。青松次郎以下六人が暴走集団と、〃AからEで一括られるのもいいとして、最大級のインパクトを誇るのはリーダー格・野沢純一(a.k.a.野澤明弘)の役名、

 不良番長。

 不w良w番w長w、二十四年前と考へると昔のことのやうな気もしないではないにせよ、1990年に不良番長はねえだろ、破壊力が半端ない。“不良番長 野沢純一”と並ぶ奇跡的な文字列が今作の最高潮、え、オープニングのクレジットが頂点?これはこれまで見た三作に共通する特徴なのだが、陰気な女のナレーション―主は多分赤城玲子―で心情の変化なり展開の推移を片付けるインスタントな作劇は、今回が最も顕著、より直截にいふと酷い。極端な話ダラダラした濡れ場の隙間を、ト書きで埋め誤魔化してゐる。開巻では逃走した不良番長with暴走集団が本篇では全員お縄の自由奔放な映画文法は、矢竹正知の得意技、一体何なんだこの人。最終的に、愛子と―後半は暫し退場したままの―竜介のラブ・ストーリーに収束するラストが別の意味でケッ作。愛子への想ひを胸に、辛うじて一命を取り留めたひろしの立場が全くない。

 配役残り西田光月は、警視30号のパトカーに乗車する刑事、同行する部下は不明。赤城玲子は有三が労を労ふかに見せかけて、酔ひ潰した愛子を手篭めにする赤坂の料亭の女将。


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 「露出願望 見られたい人妻」(2014/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/脚本・監督:国沢☆実/撮影:佐久間栄一/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:江尻大/監督助手:増田秀郎撮影助手:鈴木靖之・春木康輔/スチール:本田あきら/効果:梅沢身知子/現像:東映ラボ・テック/協力:生方哲・岡輝男・佐倉萌・周磨要・武田浩介・鶴岡和輝・中村勝則・藤木吾呂/出演:あいださくら・美咲結衣・伊沢涼子・前沢健太・村田頼俊・中川大輔・山科薫)。
 雑踏の中立ち尽くすあいださくら、トッ散らばつたタイトル・イン。野外露出を何者かに写真に撮られるのは、朝食中の西脇美優(あいだ)の白日夢に似た妄想。度々上の空となる妻に、夫の凌一(中川)は半ば匙を投げてゐた。ここで中川大輔は田中康文の「痴漢電車 夢指の熱い調べ」(2012)で乗客要員に見切れてゐなければ、直近の出演作は池島ゆたかの「超いんらん やればやるほどいい気持ち」(2008)まで遡る案外御無沙汰。夫婦生活に悩みを抱へる美優はある雨の日、何でそんなロケーションをホッつき歩いてゐるのかは兎も角、川原の橋の下で青姦に燃えるカップル(美咲結衣と前沢健太)を目撃、思はずその場で自慰に突入する。美優と目が合つた美咲結衣は、挑戦的に笑ひかける。美優の箍はその一件で外れ、開巻に繋がる野外露出。写真を撮られ逃げ出した美優は公衆トイレにて着衣後、なほも後を尾ける男の気配にカウンターで金的を叩き込むと、それは七年ぶりに再会した、高校時代の教師・犬飼保(山科)だつた。屋外なり照明を満足に当てられると幾分マシとはいへ、赤黒い顔色は矢張り心配。教へ子を強姦し教職を追はれた犬飼は、カウンセラーとしてメンタルサポート「オアシス」を開業してゐた。蟻地獄に捕はれた蟻の如く、美優は犬飼の治療を受ける。
 近作に於ける内藤忠司との相性があまり芳しく感じられなかつたゆゑ、2009年第二作「OL空手乳悶 奥まで突き入れて」(主演:成田愛)以来、気づくと結構間が空いてゐた単独自脚本といふ点に期待してみた国沢実2014年第一作。と、したところが。切れが悪ければ抜けもしない堂々巡りに、一時間付き合はされる苦行。直截に筆を滑らせると最も駄目なのが、カウンセリングの最中、犬飼が一切の脈略をスッ飛ばし凌一と和服がサマになるママさん(伊沢)の不倫を美優が想像してゐる点を、薮から突き出た棒に竹を接ぎ指摘する件。当然そこから強引にあるいはズルズルと伊沢涼子と中川大輔の濡れ場に繋がる訳だが、最早国沢実は、三番手の裸も満足に見せられないのかと軽く絶望した。二番手に関しては美優の背中を押す全体的な構成上の役割と、作中最も若く即物的ないはゆるナイス・バディは問題ないとして、今度は劇団玉の湯(主催:石動三六)所属の前沢健太が、壊滅的に拙い腰の振りで激しく水を差す。事後女にキスをする際の顔の角度さへ覚束ない、素人を連れて来るなら連れて来るで、入念に演技指導して貰はないと困る。商業娯楽映画と、木戸銭を落とした観客とを嘗めてゐるのか。過去の悔恨だ愛せない愛する資格がないだと、ある意味国沢実裏定番の陰々滅々路線ともいへ、心許ない主演女優を筆頭に伊沢涼子を除き脆弱な俳優部に無策に連動し、暗く歪む決定力にさへ事欠く始末。国沢実が厳しいなあ、何度さうした心境を懐けば済むものやら。その翼が再び力強く羽ばたくのは何時の日のことなのか、それとも終にまゝならぬまゝなのか。

 配役残り、登場順に協力隊―国沢実やEJDは当然として、クレジットレスの鎌田一利も―が、犬飼に点火され派手な公然露出を敢行する美優の、集団視姦要員。武田浩介の顔を知らないのは仕方がないにせよ、岡輝男を見落としたのは口惜しい。村田頼俊は、同じく電車―セット―内でM字開脚の眼福に与るサラリーマン。その後美優に付き纏ふも、山科薫のワンパンに圧倒される。それと、ボーカル入りのトラックが使用される不用意にハードコアな選曲は一体何なのか。本篇の薄さを誤魔化すつもりならば、それは通らぬ相談だ。

 以下はex.DMMに目を通しての付記< 便利な時代を実感、衆人環視要員のオカテルを確認した。最初のカットでは左から中村勝則・武田浩介と並んだ一番右の、スカジャンみたいなキャップの男。


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 「憧れの英語の先生 ‐監禁バイブ地獄‐」(1997/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:小山田勝治・村雨右京/照明:上妻敏厚・荻久保則男/編集:フィルム・クラフト/音楽:中空龍/制作:鈴木静夫/助監督:松岡誠・長野正太郎/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:桜井亜純・工藤翔子・甲斐太郎・MASA・中村和彦・紀伊正志・長野正太郎・青木こずえ)。照明部セカンドの荻久保則男は、まんたのりおと同一人物、変名感の爆裂する撮影部セカンドは誰なのか。
 高校生の一群に主演女優が紛れ込んでゐるのだが、華がないゆゑ殆ど埋没してゐるファースト・カット。ともあれ、見るからに怪しげなサングラスの中村和彦が、車の中から女を狙つてビデオカメラを回す。正直よく判らない流れで、予備校的な建物から出て来たななえ(桜井)が、勤務先の高校に入りタイトル・イン。多分旦々舎は最初で最後の工藤翔子が、ブルーベリーソースをかけたヨーグルトに舌鼓を打つ。出勤する父親の甲斐太郎と、何てことない会話を交す。青木こずえがゴーグル型のモニターで、自らがマスクを被つた男とセックスするビデオを見る。細かく刻み時折危険な球を放り込んで来るイントロダクションは、山邦紀が得意とする戦法。借金苦のダフ屋(中村)がガード下で下校中のななえを襲撃、三太(MASA)に運転させたライトバンで青木こずえが濃厚な自慰に耽る、バイト先の不動産屋で鍵をコピーした空家、といふ設定の旧旦々舎に拉致する。中村和彦と三太がななえを担ぎ居間に飛び込むと、青木こずえはオナニーの真最中。「何やつてんだこんな時に!」といふ中村和彦の一喝は、一体どんな時だといふ話である。兎も角、三人の目的は、女教師の強姦ビデオ撮影。ところが実際に犯されるななえは、あらうことか陳腐と笑ひだす。殺して呉れと姉(工藤)共々父親(甲斐)に性的虐待を受け続けて来たといふななえの告白を受け、青木こずえと中村和彦は方針転換。会社役員である父親の脅迫を思ひつくも、電話口の甲斐太郎は軽やかに一笑に付す。チャイルド・アビウス云々は、ななえの妄想だといふのだ。果たして真相は如何に、どうやら厄介ぽい女を抱へ込む羽目になつた、青木こずえと中村和彦は困惑する。配役残り紀伊正志と長野正太郎は、高校の門を出るななえと軽く絡むジョギング君二名。
 甲斐太郎の口を介して、稲村博の「嵐の乙女」シンドロームから想を得た旨が明確に語られる山邦紀1997年最終第五作―薔薇族がもう一本―は、個人的には史上最大級のニアミス作。妄想・虚言癖のある女が、首が回らなくなつた三人組に拉致・監禁される。脅迫ないしは身代金を要求する電話に対する女の家族の反応は分かれ事態が膠着する中、一味の内最も格下の寡黙な小男が、女と手と手を取り逃走する。大体似たやうなお話で、青木こずえが姿を消した二人に「あの二人つたら、勘違ひボニーと思ひ込みクライドね」と思ひきりハクい台詞を投げる、ピンクを観始めた頃に出会つたウルトラ・ロマンティックな一作をそこだけ覚えてゐた。回復可能な記憶とさうでないものとを峻別し得るつもりなので、タイトルは絶対に思ひださないことを断言出来る。ちやうど尺が折り返す、一回目の電話の辺りで遂にあの思ひ出の一作と再会か!?とハートに火が点き、後半戦は俄然前のめりに、殊に終盤は今か今かと固唾を呑んでゐたものの、結局その映画ではなかつた。悔しくて―村上ゆう含め―DMMのピンク映画chを一通り探してみたが、それらしきストーリーは見当たらない。雲を掴むつもりでjmdbにも目を通してみたが、結構観るなり見てゐるもので、臭ふ出演作は見当たらない。確かに青木こずえ―か村上ゆう―で勘違ひボニーと思ひ込みクライドの筈なのだけれど、詰まるところ勘違ひした俺が思ひ込んでゐるに過ぎないのかも。
 そんなこんなな至極パーソナルな次第で空振つた感が否応なく勝りつつ、今作自体に見所が何もない訳では決してない。三本柱の濡れ場をじつくり消化する前半は展開の腰がなかなか重く見せ、虚実が揺らぎ始めるや、物語が動き始める構成は裸映画的に何気に秀逸で、平素の妹のパターンと違ふ不穏さを案じる工藤翔子と、娘に疲れた甲斐太郎。一方素直に動揺する中村和彦と、腰の据わつた青木こずえ、攻守双方二つの対照も出色。何より重要視したいのは、サングラス越しの無表情を上手く切り取つた、徐々に変化する三太の心境の描写にはダメ人間の琴線を直撃するエモーションがある。最終的にはエクセスライク薫る桜井亜純の決定力不足が否めなくもないとはいへ、旦々舎常連の青木こずえと中村和彦が爽やか且つユーモラスに締め括るエピローグは磐石。


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 「天女の交はり ぬくもり昇天」(2014/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:海津真也・佐藤光/照明応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/協賛:GARAKU/天女衣裳製作:LOVEママ/出演:樹花凜・山口真里・久保田泰也・野村貴浩・眞木あずさ)。
 タイトル開巻、天文オタのコンビニバイト・長内達彦(久保田)が望遠鏡で覗く夜空の妙な星の多さに首を傾げてゐると、階下から下宿の未亡人管理人―劇中他の下宿生の気配はしない―桧山響子(山口)の呼ぶ声が。達彦がちよつとだけ出世したことの、豪勢なお祝ひ。ワインをクーッと一気飲みした響子はザクザク点火、膳を据ゑると料理に箸もつけずに一回戦に突入する。結合部を、響子が空けたグラスで遮る構成美。早々と轟チンした達彦に、響子が「早漏は青春のシンボル」と優しく―もしくは貪欲に―二回戦を要求したタイミングで、二階からボガーンとポップな爆発音。落雷かと慄く響子に対し、隕石かもと色めきたつた達彦が自室に飛び込むと、そこには羽衣を来た天女が、フルバースト・オブ・ナベ。掌を上に、揃へた両手を前に差し出し白鳥志織と名乗つた天女(樹)が、挙句に四十年後からやつて来た未来の恋人と自己紹介し達彦をマキシマムに面食らはせたところで、今度はチャイム音が来訪者を告げる。版権対策か、眞木あずさは微妙に、ゾロ・マスクも着用した野村貴浩は結構距離のある扮装の―うる星の―ラム(眞木)と黒執事(野村)が現れる、ナベのハイマットフルバーストだ。アンドロメダ星雲の惑星・OP69から来たといふラムは達彦に、ラムが先にイカされれば―圧倒的な軍事的優位を誇る―OP69は地球から手を引く。逆に達彦が先にイッてしまへばOP69が地球を征服、地球人は全員OP69星人の性奴隷にといふ対決を要求する。
 御馴染み最寄駅は南酒々井の、津田スタもとい未亡人下宿に未来から来た天女とアンドロメダ星雲からはラムと黒執事が来襲。人類の存亡を賭け、冴えないオタクがアグレッシブなボディのラムちやんとセックスする。

 これぞナベシネマ、

 プリミティブな物語を全力中の大全力で叩き込む、感動の渡邊元嗣2014年第一作。惜しかつた、今作が2013年に発表されてゐれば、セカンドバージンを倒せたかも知れないのに。・・・・いや、それは流石に筆の滑りも過ぎた。チンコ型の母艦の周囲を、何かの蓋程度にしか見えない遼艦が小バエみたいにプカプカ囲む。最早貫禄さへ漂ふチープ特撮に、開き直つた珍作と嘲笑すること勿れ。何でもない風景に涙を零した志織が、存在論の領域に片足突つ込んだかけがへのなさを謳ふ件ではワン・ショット必殺の飯岡聖英のカメラが火を噴き、事前に濡れ場込みで施された、志織の人外の能力で達彦が優勢の最終―でもない―決戦に、黒執事に一目惚れした響子がまさかの乱入。更なる女の裸の投入により、スイングする展開は裸映画的に実に秀逸。そもそも序盤のV.S.響子戦に於いて既に、達彦の早撃ちぶりを投げてゐる周到さも忘れてはなるまい。素頓狂と紙一重の、樹花凜の可憐さは底の抜けたありがちな大河を案外支へ抜き、残念ながら引退した眞木あずさは、豪快な大暴れで花道を自ら飾る。馬鹿馬鹿しい始終の中でもエモーションの要所は押さへ、ホロッと、あるいはホンワカさせる切なくもロマンティックなラスト。渡邊元嗣の信じた娯楽映画の形がここにあり、そして俺はそんなナベシネマを愛する。


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 「凄絶・監禁レイプ」(1990/製作・配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:倉田昇/美術:鎌倉浩一/照明:森隆一郎/音楽:吉栖康浩/編集:酒井正次/スチール:最上義昌/助監督:竹内雅俊/撮影助手:稲葉正広/照明助手:高橋淳/メイク:坂上久子/衣装:日本芸能美術/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津映画装飾/撮影協力:章英スタジオ・ホテル2001年/出演:川奈忍・井上真愉美・山岸めぐみ・赤城玲子・野沢純一・高崎隆二・長沢聖也・岡谷修・西田光月・時田賢一・大西毅・大森鉄)。出演者中、井上真愉見でなく井上真愉美といふのは本篇クレジットまま。
 高崎隆二が多分大森鉄にボディーは駄目だ足を狙へとピストルを手渡し、バキューンと足を撃たれた野沢純一(a.k.a.野澤明弘)がフッ飛んでタイトル・イン。川奈忍が、四人がかりでモタモタ手篭めにされる。続いて山岸めぐみと長沢聖也と、井上真愉美と野沢純一の濡れ場二連戦。五里霧中のストーリー展開を仕方がないので総合的に、もしくは事後的に整理すると、シャブの元締め・蔵島か倉島か倉嶋か蔵嶋(西田)のシマの新宿に、横浜から東堂か藤堂(高崎)が進出。二人連れのチンピラ(時田賢一と大西毅の二役?)に絡まれてゐたところを助けた縁で、情婦(山岸)を蔵島一家のジロー(長沢)に寝取られた東堂は激昂。東堂に恐れをなした蔵島は、ジローの兄貴分・ハートのマサ(野沢)にジローを匿はぬやう指示する。ビリング上は二番手であるものの扱ひは三番手の井上真愉美は、マサの情婦・ユミ。東堂の片腕・片桐鉄(恐らく大森鉄)にマサが銃撃された現場に、女友達とレインボーブリッジを見に来てゐたユウコ(川奈)が通りがかる。
 配役残り又しても脱がずの四番手の赤城玲子は、あからさまなキナ臭さに関り合ひになることを避け重傷のマサを見捨てて逃げる、ユウコの連れ。ビリング推定で岡谷修は、マサが担ぎ込まれた病院の医師?ここでの看護婦が、赤城玲子のもう一仕事か否かは正面から抜かれないため不明。消去法で時田賢一と大西毅は東堂の子分、片方はサブ。
 さて矢竹正知第二戦、特に狙つた訳でもないのだが、「新妻・衝撃の夜」のちやうど次作に当たる1990年第四作。これがまあ、粗が多過ぎて途方に暮れる強ひていふならば怪作。前作で火を噴いた長尺カットは改悛したかのやうに鳴りを潜め、逆に結構小刻みに刻んで来る。尤も、間に何某かの画を挿むだけで、結局長々と回してゐることに変りはない。ともあれ今度は刻んだら刻んだで、不用意にバンクを多用するゆゑ、何か意味があるのかと思ひきや、実際には一切まるで全然ないといふ情報撹乱レベルのインサートにはクラクラ来る。それ以前に、最初にこの人達は何者なのかといふイントロダクションをスッ飛ばして山岸めぐみV.S.ジロー戦とマサV.S.ユミ戦が延々と展開される序盤に、脈略といふ概念は存在しない。医師から摘出した銃弾を見せられたマサが、“スミス&ウェッソンの38口径リボルバーで銃身の短い近距離用”と拳銃の種類を無闇に詳細に分析してみせるのは、マサの凄腕ぶりを―凄く下手糞に―演出しようとした一幕なのかも知れないが、そもそも、開巻で東堂が片桐に渡すのはオートマチックである、寧ろ隙がない。ユウコと足を洗ふことにしたマサが、思ひついた新商売が歩行者天国でのわらび餅の露店といふのは、そこは笑ふところなのか?拉致したユウコ―ヤサに如何に辿り着いたのかは謎―に対する東堂の恫喝が、画は使ひ回しにも関らず開巻では“お尋ね者を匿つたらどうなるか”云々であつたものが、終盤では何故か“裏切り者を匿つたらどうなるか”、何故わざわざ間違つた方向にアフレコし直す。看板の監禁レイプも確かに凄絶、口では子分に譲つておいて東堂が最初にユウコを犯す時点で既にあまりにあんまりなのだが、続いて音声上は二番手を指名された鉄が大喜びしてゐるのに、画の中で実際にレイプするのはサブ、どうすれば斯くもへべれけな映画が撮れるのか。ユウコと、何時の間にかジローも捕はれたマサは、それなりに野澤明弘らしい戦闘力を発揮し東堂一家を壊滅、二人を救ひ出す、描写的にはジローはもしかしたら死んでるかも知らんけど。自首する腹でユウコの下を去つたマサが、港で適当にカッコつけて終りといふラストは何だこりや、高飛びでもするつもりかよ。繋ぎの夜景ショットひとつ取つてみても、パンが妙にぎこちない辺りが不完全無欠。稚拙あるいは出鱈目といふ直截はあへて呑み込むならば、ある意味不毛な愉しみには満ち溢れてゐるともいへ、最早ツッコんだ方が負けなのかと不安が鎌首をもたげぬでもない釣堀映画。何だか変に楽しくなつて来た、もう少し攻めてみよう。


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 「僕のオッパイが発情した理由」(2014/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/企画:亀井戸粋人/撮影:小山田勝治・猪本太久磨/照明:ガッツ・蟻正恭子/録音:沼田和夫・小林理子/助監督:北川帯寛・菊嶌稔章/応援:田中康文/音楽:中空龍/編集:有馬潜/MA:シンクワイヤ/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/タイトル:道川昭/ポスター:本田あきら/出演:愛田奈々・加藤ツバキ・みおり舞・里見瑤子・佐々木基子・なかみつせいじ・津田篤・ダーリン石川・竹本泰志・荒木太郎)。照明のガッツは、守利賢一の変名。出演者中ダーリン石川といふのが、石川ゆうや(ex.石川雄也)の気紛れに似た一時的な変名なのか、正式な改名なのかは不明。因みにダーリンといふのは、石川ゆうやがマスターのショットバーの店名。
 エクセス新ロゴ開巻、成年コミックが堆く積まれた屋根裏のオタク部屋。その癖、ラケットやボーリング玉といつた、アクティブなリア充アイテムも転がるのには若干の違和感を覚えぬでもない。その部屋で引きこもる佐藤裕美(津田)が、首から上は回避した主演女優の二役と致す淫夢を見る。騎乗位の上半身に、正面から抜いたユッサユサ悩ましく揺れるオッパイのスローモーションがオーバーラップしてタイトル・イン。先に外堀を埋めておくと、北川不動産の手に渡り、売家となつてゐるといふ設定の元佐藤邸は絶頂研究所と同じ、庭にプールがない方の三郷スタジオ、私称第二ミサト。依然裕美が棲息を許されるのは、売約済までの温情、そんな物件売れるのか?
 翌朝、用を足すかとした裕美(愛田)は驚愕する。排泄と自家発電にしか使はないチンコがなく、逆にオッパイは豊かに膨らむ。津田篤から愛田奈々に、裕美は男から女になつてゐたのだ。いつそ、広瀬寛巳といふ更に鋭角のキャスティングもアリだつたのかも、歳が歳だけど。慌てて電話した、パート中の別々に暮らす母親(佐々木)は息子の携帯越しの聞き知らぬ女の声を、まるで取り合はない。コンビニ(店員は北川帯寛?)に仕送りを下ろしに行つた裕美は、時代錯誤に男尊女卑な痴漢(荒木)や、イケメンなのに偏執的なストーカー(ダーリン)に遭遇する。窮した裕美がネット上の知恵袋の類の質問サイトを頼ると、案の定ヤラせろだ自画撮りを見せろだクソ以下のレスばかり、Boo!の口の形で頭を抱へるジャッキー・チェンの画像が目に浮かぶ。そんな中、目下裕美が置かれた状況を片や特権と看做し、片や危険に警鐘を鳴らす対照的な回答が着弾する。裕美はとりあへず特権論者、自身の名を冠した超心理学道場を主幹する、謎の潤沢な資金力も誇るギラついた怪人物・猿渡(なかみつ)に会つてみる。
 出演者残り加藤ツバキとみおり舞は、猿渡を師範と呼ぶところを窺ふに形式的には道場の弟子筋に当たる、ヨーガ担当の燕とダンス―実際にはバレエ―担当の雀。里見瑤子はこちらが危険論者、現代ジェンダー研究室の鶴橋、絵に描いたやうなコッテコテのフェミニスト。竹本泰志は、対面した母親には事実上勘当され首が回らなくなつた裕美を、よろめかせかけるスカウトマン。
 公式のアナウンスは未だないものの昨今復縁の気配を濃厚に漂はせつつ、兎も角一旦オーピーと決裂した浜野佐知が、古巣に電撃帰還したデジタル・エクセス第四弾。七十分弱の本作から更に足したり引いたりしたより長尺の一般映画第五作「BODY TROUBLE-ボディ・トラブル-」と一本で二本の二本撮りといふ、オーピーとエクセスにそれぞれ渡す一本づつ二本を二本撮りした友松直之を超える、画期的な戦略を採用してゐる。まづ注目すべきは、旦々舎が終に重い腰を上げ初挑戦したデジタル撮影。デジタル・カメラに35mm主砲用のレンズを装着する、といふ手法―山﨑邦紀監督にお聞きした―に実際如何なる意味があるのかはズッブズブの門外漢につき清々しく判らないが、カットによる画質のバラつきも結構ありながら、フィルムと遜色ないとまでいふのは為にする世辞にせよ、クリアといふのが単に深みの皆無な平坦さと同義の、標準的なVシネ画質とは一線を画した、それなり以上に風情のある画も確かに散見される。反面、節穴でザッと観た感じ光が強いと馬脚を露はす傾向が強いやうに見えたのは、照明の当て方に、検討なり火の粉を避ける余地が残されてゐるのかも知れない。録音部にも目もとい耳を向けると、デジタル・エクセス前戦では匙を投げさせられたアフレコではない同時録音こと同録は、先行する二本の清水組同様、何の問題も支障もなく普通。エクセスが生え抜きの工藤雅典を相手に―小屋に渡す皿を焼き損なふ等―仕出かすとは想像し難いゆゑ、矢張り元々の原版が酷かつたのだとしか思へない。
 映画の中身に話を戻すと、性差を越境したヒロインが繰り広げる、といふほど積極的ではなく巻き込まれる一騒動。濡れ場は三本柱三冠をなかみつせいじに任せた男優部は、隙のない布陣を揃へておいて扱ひは総じて軽い。荒木太郎も兎も角、竹本泰志の通り過ぎぶりには少し吃驚した。主役の一端を担ふ津田篤も、出番自体は暫く出没するダーリン石川よりも寧ろ少ない。一方、里見瑤子と佐々木基子が脱がずの後方にドッシリ座る女優部、愛田奈々は荒木組で一度玉砕した男勝りの口跡が、裕美の役所の不安定さに奇跡のフィット。この人もイヴちやん同様、お芝居に難を感じさせる主要な敗因は台詞回しにつき、さうなると絶対美人が堅実な強さを発揮する。「人妻エロ道中 激しく乗せて」(2013/脚本・監督:田中康文)の時とは別人のやうにガーリーガーリーした加藤ツバキ―個人的には「人妻エロ道中」時の方が好み>知らんがな―は、儚げに見せて芯の通つたエモーションで、最終的な裕美のエロスの選択と、アイデンティティの確立とを的確にサポート。流石に愛田奈々単騎に万事を委ねるには心許ない戦況の中で、加藤ツバキの働きは地味にでなく大きい。覚束ないチュチュ姿が微笑ましいみおり舞は、魅力的あるいは強烈な周囲と比べるとある意味逆に際立つ没個性ともいへ、狙つた配役か無作為のラック―怪我の功名ともいふ―なのかは兎も角、猿渡の従順な奴隷ポジに綺麗に納まる。対して弱い面としては、鶴橋が提供する、劇中裕美唯一人が体感可能な、決して単一ではない、殆ど対立する二つの社会観といふ魅力的なテーマは、「ボディ・トラブル」では深化が図られるのか今回は全く開陳されるに止(とど)まる。画調が根本的に異なる以上当然の、目新しい本篇に耳馴染みのある劇伴が、思ひのほか古臭さを感じさせ馴染まない。ともあれ、美しく百合咲き誇るクライマックスと、関根和美ばりのプリミティブな荒業をよもやまさかやらかすかと騙しておいて、爽やかに撃ち抜いた浜野佐知らしいフィニッシュの決定力は完璧。ジョン・ボイトに落胆を隠さない俺は特にも何もフェミ思想に媚を売るものではないのだが、この始終を経て裕美が辿り着いた結論には素直に共感する。諸々並々ならぬ覚悟もあつたのだらうが、近年百合ダスに感けてゐた感もなくはない浜野佐知が、大復活の雄叫びならぬ雌叫びを上げた快作。山﨑邦紀の新作も水面下で起動してゐるらしく、旦々舎の逆襲、もしくは進撃から目が離せない。

 「ボディ・トラブル」で補完されることも絶対にあるまいが、今作に欠けてゐるのは、女を男どころか女でも、霊長類どころか犬ですらなく、ある日キモオタの引きこもりが目覚めたらジャスティス級の美女になつてゐた。だなどと論理学上の対偶が如き訳の判らん女に寝取られたなかみつせいじが、栗原良の向かうを張り「どうしてかうなつたんだ」と眉根に闇雲な深さの最早溝を刻み込み身から出た錆を苦悩する一幕。これは得意の与太ではない、つもり。それがエクセスの屋台骨を旦々舎が支へた時代の、御馴染みの名場面であつたと固く信ずるからである。それと、持たざる者の勘繰り、いはゆる貧乏性を憚りもせず自覚した上で、結局裕美の生活経済の展望が、拓けず仕舞ひの点には気懸りを残した。


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 「新妻・衝撃の夜」(1990/製作・配給:大蔵映画/監督:矢竹正知/脚本:浮舟節子/企画:佐藤道子/撮影:伊東英男/美術:高橋淳/照明:沖茂/音楽:吉栖康浩/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/演出助手:竹内雅俊/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:稲葉和博/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/小道具:高津映画装飾/衣装:日本芸能美術/撮影協力:村山スタジオ・ホテル2001年/出演:白鳥麗・森園今日子・山岸めぐみ・赤城玲子・野沢純一・山科薫・高崎隆二・吉岡一郎・森下昌也・桂多門・西田光月)。
 野沢純一が走つて会社に飛び込みタイトル・イン。ここで、野沢純一といふのは野沢(あるいは野澤)明弘と同一人物。どうやら純一から明弘に改名したやうなのだが、jmdbによると境目に当たる「ドリームワイフ 官能の狂ひ腰」(1991/監督:市村譲/DMM未収録)の項目には、純一と明弘両方併記されてゐる。話を戻して、エリート社員―陰気な女のモノローグより―の吉岡(野沢)がカンザワ専務(どんな字を書くんだ/高崎隆二)に娘との結婚を申し出て完拒絶されるまでに、スタッフのクレジットが併走するのは、クレジットを追つたが最後少しでもなく判り辛い。交際してゐたカンザワの娘・芳恵(白鳥)を同僚の並川(山科)にカッ浚はれた吉岡は、辞表を提出、無軌道に夜の街に沈む。といふのに並川は、結婚後半年と経たずに新入社員・久美子(森園)と不倫、芳恵から心を―体も―離す。そんな中、退職金も使ひ果たし再会する間にホステスからママへと出世してゐたリカ(山岸)の家に転がり込みヒモとして暮らす吉岡は、化粧品店で万引きし逃走する芳恵を目撃する。
 配役残り、この人は、正確にはこの人も照明部らしき西田光月は、芳恵が浮気調査を依頼する中央興信所の、調査表を表紙から手書きする―1990年水準だとそれで問題ないのか?―調査員。脱がずの四番手・赤城玲子は、芳恵を追ひ駆ける化粧品店店員。吉岡一郎(a.k.a.吉岡市郎)は、最終的に吉岡に泡風呂に沈められた芳恵(源氏名:メグミ)の客。問題は森下昌也と桂多門が、手も足も出せずに特定不能。候補すら、背中からしか抜かれない化粧品店店主くらゐしか出て来ない。声はすれども姿は見えぬ、カンザワの運転手も含まれるのかな?
 初対戦の矢竹正知に関して、jmdbと日本映画監督協会公式サイトの、現存しない物故会員名簿(2003年没)のキャッシュを頼りに簡単に掻い摘むと、照明・撮影部から演出に転向、三十本弱を監督。興味深いといふいひ方が妥当なのか否かはよく判らないが、木俣堯喬とは古い付き合ひがあつたらしく、1995年にメガホンを擱いた以降、再び照明部に戻つてゐたりもする。DMMの中に六本ある中から1990年第三作の今作を選んだのは、サムネに野澤明弘が見切れてゐたのと、監協のキャッシュに大蔵映画監督賞を受賞したとあつたからである。と、したところが。平社員か幾分の役つきかまでは兎も角、若造が専務室にお嬢さんを下さいと乗り込む無造作な開巻で順調に垂れ籠めた暗雲が、終ぞ晴れることはなかつた。オープニング・クレジット直後の、芳恵を並川に奪はれた吉岡がドロップアウトするイントロダクションの、ガッチャガチャの繋ぎで既に十二分に大概なのは正しく序の口。最も特徴的なのは子細は俳優部に丸投げした、ひとつひとつが途方もない長さのカット。二分、三分は当たり前。旦那に夫婦生活の求めを拒まれた芳恵が、暫くゴソゴソした末に自慰に至る件。山科薫が丸々四分間をひたすら寝たふりで押し通す、前代未聞の長回しにはある意味度肝を抜かれた。面白いのが、それでも案外果てしない長尺をそれなり以上に乗り切つてみせる山科薫に対し、野澤明弘がカットの長さに全然耐へられない。甘いマスクと精悍な肉体、魅力的な張りのある発声に恵まれながら野澤明弘が大成しなかつた所以の一端は、その辺りに垣間見えるのであらうか。無体なのはさて措いてあちらこちら綻びだけは事欠かない始終に、実も蓋も消滅してしまふが特段見るべき点は見当たらない、一体大蔵の監督賞とは何なのかといふ話である。あまりにも漠然と掴み処がないゆゑ、もう五本あるのをぼちぼち見て行かう。


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 「女子プロ志願 乳固め卍くずし」(1998/製作:国沢プロ?/配給:大蔵映画/監督:国沢実/擬斗・脚本:樫原辰郎/制作:宮川裕/撮影:小山田勝治・岩崎智之/照明:多摩三郎/助監督:瀧島弘義/録音:シネ・キャビン/監督助手:石野朝子/主題曲:東京KAZ/ネガ編集:フィルム・クラフト/現像:東映化学/フィルム:愛光/スチール:佐藤初太郎/タイトル:道川昭/協力:喫茶シャローム・出馬康成・光石冨士郎/出演:七月もみじ・原田なつみ・相沢知美・銀冶・田中あつし・ときわ金成・竹本泰史・長沼英樹・大田始・梶原金七)。太くなく大きい大田始といふのは、当方の誤記ではない、初めて見た。大田始もかなりクサいが、協力の冨士朗ではなく光石冨士郎といふのは多分シンプルな誤植。
 雑多に物が溢れ、退廃的な空気漂ふ「シャローム」店内。捻りハチマキの常連客・梶原(ヒムセルフ=樫原辰郎)が静かにグラスを口に運び、カウンターの中には三十年続く店を伯父か叔父から継いだオカマのママ(竹本)。これ全部モンローか?壁に所狭しとピンナップの貼られたボックス席では、キョーコ(七月)がヒデさん(ヒムセルフ/ゲーム音楽作曲家とは同姓同名の別人)を接客する。頻りにボディ・タッチを繰り返すヒデさんに、キョーコ激昂。店から追ひ出すとここを打(ぶ)つてと差し出された頬ではなく、キョーコがアッパーを叩き込んだヒデさんを、最終的に梶原がパチキで止めを刺し、どさくさに紛れて勘定は踏み倒す。業を煮やしたママに終に馘にされたキョーコの帰り路、梶原に引き摺られ「浪曲子守唄」を歌ひつつ、やをらシャドーを始めるロングにゴングが鳴るタイトル・イン。どうしたんだ国沢実、この頃はこんなに充実してたぢやないか。
 売れない役者のギンジ(ヒムセルフ)とダラダラした同棲生活を送るキョーコはある日、女子プロレスを目指してゐた筈なのに、二十歳の癖にセーラ服姿で援交相手(ときわ)と連れ立つ旧友・ユリカ(相沢)と再会。終に奮起したキョーコは、ユリカ共々プロテストを目標に梶原の道場でのトレーニングを開始する。
 配役残り大田始は、開巻の一夜潰れたキョーコを事実上保護する格好となる、レス・ザン・ホームでナチュラル・ボーン・ドランカーな人。原田なつみはキョーコの姉で女子プロレスラーのアケミ、劇中ではアジャともタッグを組んだとされる。ギンジから女子プロを勧められたキョーコが、あんな飛行船みたいなガタイになりたくないと虚仮にした次のカットで、仁王立ちの当の飛行船が飛び込んで来る繋ぎは完璧。挙動不審なハンサムの田中あつしは、トップロープから落ち―プロレスラーとしては―再起不能の大怪我を負つたアケミの主治医。その他国沢実が、ギンジの現場に助監督役で見切れる、監督は出馬康成?
 P-1グランプリ2000一回戦で瀬々敬久の「アナーキー・イン・じやぱんすけ 見られてイク女」(1999/主演:佐々木ユメカ)を撃破した金星も今は懐かしい一作、因みに二回戦で田尻裕司の「OLの愛汁 ラブジュース」(1999/主演:久保田あつみ)に負けた。故福岡オークラで観てゐた記憶はありつつ、中身は全く頭になかつた。総合―格闘技―の経験がある樫原辰郎が擬斗も担当し、何処の道場―時期の離れた「OL空手乳悶 奥まで突き入れて」(2009/主演:成田愛)は勿論、「人妻陰悶責め」(2002/主演:橘瑠璃)とも別物件―かまでは判らぬが、実際のリングも登場する。休業日かあるいは潰れたのか、無人のゴルフ練習場でアケミがプラプラしてゐるキョーコを締める件や、梶原が鬼教官に扮してのキョーコ・ユリカの特訓風景に際しては、結構エグい関節技が原田なつみか樫原辰郎から七月もみじに仕掛けられる。それでもちやんとお芝居してゐるところを見るに、相当体が柔らかいのであらう。勝気な造形まで含め、七月もみじがキャリア・ハイを思はせるハマリ役。一度は自分で背中を押しておいて、走り始めたキョーコの背中に、焦りを覚えるギンジの姿も的確な一手。ただ三番手まで尺が回らないのはある意味仕方がないにせよ、それ自体は全然悪くはないアケミと田中先生の物語が終盤を大きく占拠してしまふのは、太るくらゐなら死んだ方がマシだといふ人生観で生きてゐる人間には些かキツい。オリジナル技として“乳固め卍くずし”を、結局繰り出せなかつた画竜点睛を欠いた感も否応なく響く。らしくないことをいふやうだけど、今の俺があの時の中野武蔵野ホールに居たとしたら、多分瀬々に上げる。


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