真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ためいき」(昭和48/製作:日活株式会社/監督:曾根中生/脚本:田中陽造/原作:宇能鴻一郎《『週刊新潮』連載》/プロデューサー:結城良煕/撮影:森勝/美術:徳田博/録音:紅谷愃一/照明:土田守保/編集:辻井正則/音楽:森田公一/助監督:浅田真男/色彩計測:水野尾信正/現像:東洋現像所/製作担当者:天野勝正/出演:立野弓子《新スター》・山科ゆり・中島葵・桑山正一・沢田情児・佐藤輝昭・風間杜夫・浜口竜哉・衣笠真寿男・野村隆・玉井謙介・白井鋭・露木護・小見山玉樹・佐藤了一・池田誉・坂卷祥子・大谷木洋子)。出演者中、立野弓子の括弧新スター特記が、ポスターではシンプルに新人。同じく衣笠真寿男から玉井謙介までと、露木護以降は本篇クレジットのみ。クレジットがスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 仰角で抜く電車痴漢、「硬い体と硬い体に挟まれて、ちやうど私がクッションの役割を果たしてしまふ」。「その所為か、わざと体を押しつけて来る男性もゐるんです」と、何気に一人称から踏み込みの甘いウノローグ起動。桑山正一に痴漢された庶務課勤務のOL・立野弓子(ハーセルフ)が、表情を崩してタイトル・イン。タイトルバックは通勤の雑踏、課長(白井)から舐める、庶務課オフィスが結構広い。十二時になり、弓子はパイセンのヤス子(中島)と後輩の純子(山科)の三人で社食に。係長の鈴木(佐藤)がアメリカから持ち込んだ、洋モノのエロ写真に主にヤス子と、純子が喰ひつく。
 辿り着ける限りの、配役残り。登場、あるいは見切れ順だとガチャガチャ煩雑になるためビリング順に浜口竜哉・玉井謙介・佐藤了一に大谷木洋子は、庶務課要員。呼称もされないが、ハマタツには森下といふ固有名詞が与へられる。沢田情児は、弓子から誘はれても昼休みバレーボールの輪に加はらない、変り者扱ひの中村、所属部署は会計。そして弓子が社内で驚きの再会を果たす桑山正一が、東洋銀行から送り込まれた新常務の北川、露木護は北川のお付き。何か、待つてましたといはんばかりの前のめりな勢ひでフレーム・インする、全宇宙大好きロマポのスーパーアイドル・小見山玉樹は、弓子・純子・ヤス子が三人で昼食を摂るレストランのウェイター。惚れ惚れするほど完璧なコミタマの一撃離脱ぶりが、今作の頂点。それで、十分。落ち着いて坂卷祥子も、露木護と同じく常務室。役柄的には別にも何も全く必要ないゆゑ、恐らく私的な偶さかで左腕がギブスの風間杜夫は、パー券を持て余した純子に乞はれ足を運んだ弓子を、城南大学軽音楽部ダンスクラブ主催の、ダンパでナンパする近藤。
 宇能鴻一郎が『週刊新潮』での連載を始めたのが同年につき、約四年半先行する日映版「ためいき」(昭和44/監督:林新一郎/脚本:高橋洸一/主演:一星ケミ)は、純然たる同名異作となる曾根中生昭和48年第六作。“続”と銘打たれてはゐながら、続きといふよりは最早パラレルな物語ぽい、曾根中生二作後の昭和49年第二作「続ためいき」(脚本:田中陽造/原作:宇能鴻一郎/主演:梢ひとみ)も、ex.DMMに入つてゐるので忘れなければそのうち見てみる。ところでウノコー先生の『ためいき』が、“あたし”の境遇がOLから人妻、そしてバツイチとある意味ゴキゲンに変遷する、『わなゝき』・『すゝりなき』と連なる足かけ四年のき終り三部作。そのうち、西村昭五郎の昭和50年第四作で「わなゝき」(脚本:佐治乾/主演:谷口香織/未配信)までは映画化されてゐる。
 当時既に且つ大いに名を馳せてゐた宇能鴻一郎の官能小説の、初映画化に際して日活からスカウトされた立野弓子―それまでの稼業はデルモ―が、仰々しくオッ広げてのけた“新スター”の大風呂敷が伊達でなく、今なら、もとい。2021年の現在に於いても、何とか坂の真ん中辺りにゐて全然おかしくもなささうな、結構な大美人にして決してお胸の主張が姦しくはないものの、伸びやかな手足としなやかな柳腰・オブ・柳腰。まるでお人形さんのやうな、スタイルも抜群。加へてあるいは演技指導の成果にせよ、口跡、表情、物腰、所作の逐一が手堅く、幾分長め八十分の量産型娯楽映画を、堂々と支へ抜いてのける。ラストの和服、といふよりも、アップにした髪型がアップにした髪型も似合つてゐるとは、正直あまり思へなかつたけれど。超絶美麗の主演女優を愛でてゐるだけで、統一的な物語の稀薄な漫然とした展開も、ボトムスの上から扱くが如く、よくいへば上品か、お高くとまつた裸映画をも厭きもせず最後まで心豊かに見通させる。絶妙なアクセントで猛然と飛び込んで来ては、後も濁さず潔く駆け抜けて行く。小見山玉樹こゝにありを叩き込む、らしい至極の至芸も当然忘れてはならない。といふか、だからそこが一番の見所なんだつてば。反面、「人権なんてものは侵害されるためにあるんだ!」とか途方もない与太を堂々と広言してのける、セクハラ常務から弓子が花壷排尿や菊座で生卵を食ふやう強ひられる件は、幾ら何でもな昭和の酷さが流石に看過し難く、令和の世で呑気に鼻の下を伸ばすには些かならずハードルが高い、保守なのに。土台が外部から、何しに来たんだこの御仁。普通に考へれば尾を引かない訳がない大概重大なシークエンスをも、ザックザク次に繋いで水に流して行く、実は力技のドラマツルギーはさて措き。直截なところ、世間様がソネチューソネチュー持て囃すところの所以がこの期にまるで腑に落ちない節穴ではあれ、要は尺八を吹く口元をノー修正で見せる奇策としての卵尺から、北川に8mmを回され驚いた弓子が、思はず卵をガブリと齧るや桑山正一が苦痛に顔をしかめる、カットの鮮烈さにはハッとさせられた。最終的に残されるのは、所詮ロマポは専門外とはいへ、それにしても立野弓子が名前から初見なのは如何なものかと軽くググッてみたところ、翌年には折角抜擢した日活に盃返してテレビに軸足を移し、更にその三年後には目出度く寿引退してしまつた、清々しい未完の大器感。


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 「若奥様 太股びらき」(1994/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:佐藤寿保/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:徳永恵実子・藤川佳三/撮影助手:小山田勝治/照明助手:江口和人/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:菊地奈央・中村京子・川本佳奈・掛田誠・杉本まこと・今泉浩一・小林節彦)。
 相変らずど頭に“再生”の文字が映り込んでゐたりする、プリミティブな配信動画。あとこれ音も、ノイズしこたま多いよね?フライパンでハンバーグを焼き、鼻歌交じりにキャベツを刻み始める女の手元から軽く引くと、跳ねた油で火傷しはしまいかと危なかしい裸エプロン。尻をしつかり抜いた上で、更に引いた背中にタイトル・イン。脊髄で折り返した印象をいふと鼻がおかしな貴奈子みたいな主演女優の傍らでは、小林節彦が小林節彦ぽいメソッドでにへらにへら。一層のこと、女の存在ごと全てがコバタケの妄想であつたならグルグル何周かして清々しいのに、と思はなくもなかつたものの。卒業と同時に教へ子と結婚した、高校の社会科教師・佐伯(小林)が膨らませてゐたイマジンは、新妻・美奈子(菊地)のあくまで裸エプロンのみ。男―もしくは観客―の惰弱な願望を具現化する、その至誠もとい姿勢は量産型娯楽映画として、絶対に正しい。尤も、味見をしてゐないのか美奈子の料理は食へたものではなく、夫婦生活に際しても尺八の歯を立て、佐伯を逆の意味で悶絶させてゐたりした。そんなある朝、佐伯を送り出した美奈子は郵便受けに放り込まれてゐた、“レンタル妻、大募集!”なる見るから激越に怪しいポスティングに、仕事しながら奥さん修行、だなどと底を地殻もろとも抜く豪快な方便で喰ひつく。
 配役残り川本佳奈は、さういふ次第で「友愛プランニング」―“You & I”とかかも―の敷居をのこのこ跨いだ美奈子を、最初に面接する女・マユミ。美奈子の頓珍漢な思ひ違ひをマユミが素直に諭さうとする、話の腰をヘシ折り隣室から現れる杉本まことが、終に固有名詞の呼称されない友愛プランニング社長、多分。無論、マユミとは懐刀、兼情婦といふ関係。こゝでの“無論”とはさうでないと、誰が三番手を介錯するのか。いや、自ら出張るなり美奈子と百合の花咲かせるなり、無理の通し方は何通りでもあるだらう。掛田誠は、美奈子が最初に派遣される単身赴任者・萩原。中村京子も萩原が呼んだ別のレンタル妻かと思ひきや、夫の仮住まひを訪ねて来たリアル妻・ヤヨイ。今泉浩一は、結婚のシミュレーションと称したユープラ利用者・坂本、この人は独身。ところで結局、劇中レンタル妻は美奈子しか出て来ない。
 みんなのエク動に三ヶ月ぶりで未配信作が着弾した、佐藤寿保1994年最終第四作。お金を貰つて自信のない家事の勉強をしようとした若奥様が足を踏み入れたのは、客の求めに応じ大股開かされる、それ以外の何物でもない出張風俗だつた。一応今泉浩一のデビュー作は同じくエクセス佐藤寿保の「制服盗聴魔 激射・なぶる!」(1990/脚本:五代響子/主演:森村あすか)ではあれ、小林節彦と国映スメルの色濃いビリング後ろ二人。へべれけに腰の砕けて呉れた方が、肩の力の抜けきつた展開には寧ろ相応しいやうにも思へる、佐藤寿保は佐藤寿保な最低限ソリッドな仕上がり。らしさが決して皆無でもない反面、エクセス公式ツイッターの、“なんつーか、らしくない?一本です!”なるノリノリなのか投げやりなのかよく判らないぞんざいなテンションも大いに頷ける、まるで新田栄のやうなのんびりした物語が、あたかも小川欽也の如くだらりだらりと進行するなだらかな裸映画。特に絡みに長けた訳でもない割に、我の強い芝居をする掛田誠が厳しくいへば手堅い面子の中に開いた小穴ともいへ、ひとまづ質的にも量的にも女の裸は十全に愉しませる普通のピンクも、撮らうと思へば別に全然撮れる。その、結果で出てゐるアドバンテージが常々繰り返す、佐藤寿保をいはゆる四天王中当サイトが最も高く評価してゐるところの所以。“立派な奥さんつて何だらう”から続けて、“幸せつて何だらう”。美奈子が藪から棒に根源的な疑問に到達するラストは、お気楽な商業ポルノの後味を不用意に濁す横意匠にせよ、レンタル妻の発覚した美奈子が、暫くレンタル妻として側に置くやう佐伯に懇願する、針の穴に竹を接いだ木を通すアクロバットなんてもう絶品。残り三天王にはまづ撮れない、撮る要をそもそも認めてゐないのかも知れないけどね。ところで佐伯も佐伯でヤヨイ、といふかナカキョンに捕食されてゐることに関しては、ある意味見事に等閑視して済ます。のは兎も角、残尺僅かなどさくさに紛れての、杉まこがマユミに求婚する、見えない角度から飛んで来る不意討ちの側面的ハッピー・エンドも地味に心地よい。

 もう、一点。凡そ三十年前といへど、浜野佐知は断じて許してゐなかつたにさうゐない、否、今なほ許してゐないと断言出来るのが萩原に劣るとも勝らない、坂本のマチズモ。買つた女を黙つて抱いてゐればいゝものを、「娼婦とメイド、この二つを合体させたのが妻といふ存在だ」と豪語する、あるいは豪語させるに至つては、幾ら仕事にせよ五代響子もよく書いた。といふか佐藤寿保もみんな逃げろ、ビームサイズばりの大鎌を振り回した、浜野佐知が疾風に乗つて首を狩りに来るぞ!


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 「人妻不倫・不倫・不倫」(1993/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:瀬々敬久/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:北本剛/撮影助手:村川聡/照明助手:広瀬寛己/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:井上あんり・しのざきさとみ・杉原みさお・斉藤桃華・杉本まこと・池島ゆたか)。照明助手の寛巳でなく広瀬寛己は、本篇クレジットまゝ。それと、jmdbに引き摺られたのか、所蔵フィルムからの翻刻を謳ふ、nfajまでもが助監督を今岡健治と記載してゐるのは頂けない、ちやんと信治でクレジットされてるだろ。
 よくよく見るとウォーリー感覚で池島ゆたかが紛れ込んでゐる、雑踏ロングにモノローグ起動。「私の名は兵頭六輔、長年勤め上げた興信所を辞め独立したばかりの探偵だ」。「探偵とはいつても」と、兵頭六輔(池島ゆたか/権藤六輔:川瀬陽太)が現実はレイモンド・チャンドラーの小説のやうには行かないのと、いゝ女も存在しない。とか自嘲したところでは、未だ気づかなかつた、何に。兵頭が松原和代(杉原みさお/沢井和代:薫桜子)から、夫の浮気調査を依頼される件。余所の女を抱いて来た夜は、入念に湯だけを浴びて来たと思しき典夫(杉本まこと/平川直大)が何の匂ひもしない寧ろ不自然と、さういふ時に限つて、妻を求める夫婦生活で辿り着いた、だから何に
 配役残り斉藤桃華が、課長である典夫の部下兼、浮気相手の霧島佑香。ビリング頭にしてはフレームの中にゐる時間から短い井上あんりは、六輔の妻・真理子(里見瑤子)。真理子がクラス会に家を空けた、日曜の昼下がり。鬼の居ぬ間に六輔が早速一杯始めたタイミングで、訪ねて来るしのざきさとみはお裾分けを持つて来た、隣家の小島房恵(小島晴美:春咲いつか)。房恵に関してもjmdb・nfajとも苗字を川島としてゐるものの、劇中に於いてはあくまで小島と呼称される。小島と川島、意外と手書きなら惜しいかも。与太は兎も角、さて。
 やあみんな、深町章ハンターだよ。今上御大の如くセルフリメイクするならまだしも、深町章1993年第一作が例によつて、瀬々敬久の書いた脚本を文字通り我が物面した、2007年第一作「若妻 しげみの奥まで」の元作。サルでも判る最大の相違点は、四番手の不在。但し「若しげ」に於いても、六輔が盗聴はする音声の中で、声だけ聞かせる佑香は春咲いつかが二役でアテレコしてゐる。加へて、「若しげ」ではその逢瀬を最後に結婚する佑香と典夫が―六輔の介入を待たず―勝手に別れてゐるため、のちに真理子との仲を疑つた六輔が典夫に接触した時点が、二人の初対面となるのも大き目な変更箇所。その他若干の固有名詞の差異はさて措き、「若しげ」が御馴染の聖地「花宴」でロケを張つた、伊豆映画であるのは視覚的にも如実な特徴。繋ぎの独白なり、くさめオチまで一緒とあつては、二作を比較する場合俳優部にでも目を向けるほかなく。さうなるとナオヒーローがどんなに頑張つたとて、全盛期のしのざきさとみと春咲いつかの絶望的な戦力差は、杉原みさおに対する薫桜子のアドバンテージをも相殺して文字通り余りある。何れにせよ、クラス会にて再会した真理子と典夫の関係に含みを残した上で、他愛なく濡れ場を連ねるのんびりした裸映画である点に何ら変りはない。今作を瀬々敬久の名に釣られ賞賛した手合は、きつと「若しげ」にも諸手を挙げたにさうゐない。もひとつ、世紀を跨いだ一回り以上の歳月と、結果としての平素通り平板な出来栄えを窺ふに恐らく、川瀬陽太は「若しげ」の脚本が元々、あるいは本来瀬々敬久のものであつたとは、知らなかつたのではなからうか。


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 「魔性尻 おまへが欲しい」(2020/制作:ファミリーツリー/提供:オーピー映画/監督・脚本:ベビーブーム・マサ/脚本:今奈良孝行/プロデューサー:榊英雄/音楽:北村太郎/撮影:川口晴彦《PHOTOGRAPHERHAL》/照明:土井立庭/照明助手:堅木直之/録音:木村健太/整音・音響効果:服部俊・中村未来/ヘアメイク:MAKO/仮面制作:小林雄二/タイトルデザイン:佐々木統剛/ガンエフェクト:小暮法大/助監督:三輪江一・飯山嘉幸/美術協力:北山陽二郎/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:木原佑輔・深野光洋・リバーマウス・ニューマタンゴ・WILD JUMBO/出演:知花みく・アベラヒデノブ・篠崎かんな・三浦知之・鈴木義君・前野恵・関幸治・沢村東次・石川雄也・今奈良孝行・石橋侑大・宮川太一・飯山嘉幸・千葉勲・榊英雄・飯島大介)。出演者中、沢村東次と飯山嘉幸・千葉勲は本篇クレジットのみ。
 載せてゐた尻が離れた、アベラヒデノブの恍惚とした横顔に大書で威勢よく叩き込むタイトル・イン。刑事の佐久間(千葉)と大木(榊)が―面相は抜かれない―制服警官もう一人(後述する消去法でセカンド助監督)を伴ひ、アベラヒデノブと三浦知之の死体が転がつた廃工場に入る。佐久間いはく蜂の巣といふ割に二人の遺体には二発づつの銃創があつたが、何時の間に鑑識を済ませたのか、アベラヒデノブの死因は窒息死だつた。一ヶ月前は飛ばして十五年前、新進俳優として脚光を浴びかけてゐた後藤日出男(アベラ、が苗字なんだ)は、共演した大先輩の清十郎(今奈良)から、芸能界御用達とかいふ占師を紹介される、石橋侑大が二人を引き合はせる助監督・ユウタ。日出男が素直に訪ねてみた夏目結衣(篠崎)は、ODZに於いて坂ノ上朝美が繰り出した、今なほ鮮烈な印象を残す爆乳肩揉み式のオッパイ枕と、雷電ドロップばりの顔面騎乗で日出男を籠絡。要は結衣に溺れやがて失踪した日出男と、日出男の同級生で、当時DJといふ設定に大した意味もない川村光司(三浦)が往来にてバッタリ再会。結衣の下に乗り込んだ川村は、“お前のためにやつてやつたよ”と称して結衣を刺殺する。十五年後、日出男の父で有限会社「後藤モータース」社長の裕也(飯島)は、俳優業を引退した日出男が継ぐ予定の後藤モータースに、お勤めを終へ出所した川村を迎へ入れる。
 配役残り、封切り時には既に―事務所―移籍改名してゐたらしい知花みくは、日出男が想ひを寄せる後藤モータース女子社員・小平恵。宮川太一と鈴木義君は、界隈に出没するポン引きのタイチと芦田智幸、時間差の後塵を拝す芦田の方が兄貴分。実生活まんまの役をノーミスのカッコよさで振り抜く石川雄也が、日出男が恵を誘ふ、実名登場するバー「ニューマタンゴ」(渋谷区本町)のマスター。石川雄也がダーリンから名義を戻すのも何時以来かと調べてみたら、佐々木浩久ピンク映画第三作「好色男女 セックスの季節」(2019/脚本・監督:佐々木浩久/主演:栄川乃亜)をケロッと忘れてゐた、忘れるやうな映画なんだけど。三人一遍に登場する前野恵・関幸治・沢村東次は裕也が川村を紹介する、後藤モータースの経理担当・林光子と、工員の楠木哲と中谷真一。社員の頭数が二桁にも満たない零細企業で、恵が何の仕事をしてゐるのかは気にしんさんな。その他芦田が声をかける“お尻のオリンピック”を、愛想笑ひで回避する男がチーフ助監督臭い気もするものの、見切れ具合が速すぎて確証能はず。何れにしても飯山嘉幸ではないのが、後述するとした消去法の所以。
 小癪極まりなくも一般映画版「アブノーマル・ロデオ・ブルース」(80分)は本名義で発表した、廣田正興改めベビーブーム・マサのピンク筆卸作。ベビーブーム・マサといふのは廣田正興が元々使用してゐた筆名だといふが、当サイトにいはせればオーピーもオーピー、斯様なナメた真似を何故許す。脊髄で折り返して廣田正興に腹が立つ返す刀で、最後の牙城といつてはエクセスに失礼ではあれ、量産型裸映画の本丸を担つてゐる自覚が果たしてあるのや否や、大蔵の生温い態度も甚だ嘆かはしい。頭を冷やしてクレジットから如実に窺へる通り、角田恭弥に続き榊英雄が連れて来た外様が、どうも共倒れもとい共々、ワン・ヒット・離脱の賑やかしで終る模様。えゝと、全然冷えてないよね。
 廣田正興が今作の想を得たとする、友人の俳優部が占師にガチで心身を囚はれた実話とやらは、当該俳優部の名前を出せないか出さない以上、あくまでありがちなギミックに止(とど)まる、といふ半ば突き放した扱ひに落ち着かざるを得ない。日出男に対する裏返した劣等感を川村が拗らせてゐるぽい、重たいつもりのドラマは呪文みたいな掴み処のない芸名同様、アベラヒデノブのアベラヒデノブな口跡に逆噴射された結果、ストレートに判り辛い。藪から棒な恵の首絞め願望に劣るとも勝らず、日出男の個展を開くレベルの趣味が仮面作りだなどといふのも、清々しく木に竹も接ぎ損なふ。クライマックスの舞台に、しかもあんな馬鹿デカい藪蛇か逆説的な小道具を持ち込む一見へべれけな無理に関しては、恵に挿す力技の道理に免じて等閑視。尤も、あるいはそもそも。死にすら至る苛烈な性的嗜好を描くにしては廣田正興に旦々舎の馬力なり、殊に山﨑邦紀の甘美であると同時に冷徹な夢幻を望むべくもなく。失速するだけのスピードも終に出ないまゝに、煙滓みたいな情けない龍雲が青空にポケーッと浮かぶ、屁のやうなラスト・ショットの何気に壮絶な破壊力まである意味等速直線運動。我ながらムチャクチャな数式だが、役所広司と深澤和明(ex.暴威)を足して二で割ると案外このくらゐになりさうな―深澤和明の負のベクトルはそこまで大きいのか―三浦知之はまだしも、一切の華といふ華をオミットした、ジミー土田の下位互換的なアベラヒデノブが、一本の劇映画を背負はせるには土台苦しくはなからうか。ビリング上に大穴の開いた致命傷に加へ顕示的な瑕疵が、言葉を換へると画が完全に負けてしまつてゐる、二番手の威圧的な乳尻をも霞ませかねない勢ひでラウドに鳴らす、無駄に前に出過ぎる劇伴、伴へよ。いはにや伝はらないのならいふてやるが、俺達は女の裸を観に来てゐるんだ。他愛ないスコアを、聴きに来た訳ぢやない。男主役をさて措くと―主役につき措けないが―パッと見そこそこ手堅さうな俳優部の面子にも思へ、一旦自身を半殺しにノシた芦田を、日出男がニューマタに連れて行つてのガード下。千鳥足も満足に踏めない大根二本が、無様に右往左往してゐるのはそれは転調ばかりのタップか何かか?反面、所々従来の文法的には不要に映らなくもない粗いカットの跨ぎと、描かないのか描けないのか、頑なに射精もしくは絶頂に至らない至らせない完全未完遂は兎も角、邪魔臭い音に耳を塞げば絡みは質量ともまあまあ。中でも非裸稼業から猛然と飛び込んで来ては、豪快な脱ぎつぷり乱れぶりでゴトモタ肉便器の座をエクストリームに撃ち抜く、前野恵の淫靡なブレイブは大いなる賞賛に値しよう。ピンク継続参加の期待は元より霞よりも薄さうだが、この人の濡れ場が一番クッソどエロかつた。当サイトは結衣の魔性尻よりも、光子にジュッポジュッポ吹いて欲しい、黙れ息すんのやめれ。面白くない詰まらないでいふと話を変へようかといふ仕方のない体たらくにせよ、勃つ勃たないなら意外と満更でもなく戦へるのかも知れない、首の皮一枚繋がつた一作、てなところである。


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 「マゾヒスト」(昭和60/製作:ビッグバン/提供:にっかつ/監督:菅野隆/脚本:磯村一路/プロデューサー:伊藤秀裕・高橋省一/企画:半沢浩・植木実/撮影:鈴木耕一/照明:遠藤光弘/録音:谷村彰治/編集:菊池純一/音楽:坂田白鬼/助監督:金沢克次/色彩計測:鈴木悟/製作担当:鈴木真己/VE:赤坂昇/記録:坂本希代子/スチール:浅石靖/出演:小川美那子・杉下なおみ・野上祐二・江崎和代《友情出演》・中沢京子・瀬川れい子・中田文・久木念・有働智章)。出演者中、江崎和代のカメオ特記は本篇クレジットのみ。同じく中沢京子が、ポスターには金沢京子。あと、各種資料には音楽が坂口博樹とあるのは、要は坂田白鬼が、坂口博樹の変名といふことなのか?
 ベッドに裸で横たはる小川美那子と、手前で体育座りの野上祐二。「君と最初に会つた時のこと」、「俺はよく覚えてゐない」。いきなり火を噴く、覚えてねえのかよ!といふ実も蓋もなさ。「その頃の俺にとつては、全てがどうでもいゝことだつた」、やぶれかぶれぶりが清々しい、野上祐二のモノローグ起動。「かうなつたのも」と続けた言葉を、愛染恭子や神代弓子らと同様、看板級の扱ひに終ぞ報ひ得ず、結果的に大してプログレスしなかつた覚束ない口跡で「少しは先生の所為です」と小川美那子が引き継いだ上で、暗転白抜きのタイトル・イン。ジョニ赤に発色するレタリングが、Tシャツが欲しくなるほど激越にカッコいゝ。寧ろ、その瞬間がこの映画のピークであつたのかも、そこ!?
 一応程度の総合病院に新しく赴任した看護婦の河村ミサ(小川)を、杉下なおみパイセンが案内する。なおみ(絶対仮名)がミサを紹介しようとした内科医の山口(野上)は、それが半ば常態化してゐるらしく、休息室で酒に浸り寝てゐた。山口は大学病院のエリートであつたものの、患者を死なせた偉いさんの医療ミスを被る形で要は都落ち。燻るのも通り越し自暴自棄気味の山口と、なおみは廃屋同然の旧病棟にて本格的な浣腸も繰り出す逢瀬を重ねる仲にあつた。
 旧病棟浣腸戦と並行して、多分寮の自室に昔の男からの電話を被弾したミサは、特に当てもなく外出。配役残り、当時がex.ELLE NADJAとなるのか否か微妙な中田文は、ミサに万引きの疑ひをかけるALVVAYSのkey.似のコンビニ店員。久木念が、馬面の訴へにホイッホイ乗る店長。「調べさせて貰ふよ」とか下半身にまで手を捻じ込むぞんざいな身体検査の末に、店長は―服の―「上からぢや判んねえや」。パン一のほぼ全裸にミサを脱がせる出し抜けな超展開にも度肝を抜かれ、るのはまだ早いんだな、これが。結局ミサが何も盗つてゐないとなると、中田文が脊髄で折り返して号泣する、プリミティブといふか何といふか、兎も角凄まじいシークエンスには何だこれと引つ繰り返つた。その他主たる役所(やくどころ)としては、舌圧子で口内をガチャガチャ掻き回す乱暴な診察を経て、少し喉が痛いだけなのに上半身裸にさせられる患者が、脱いでゐる分、上位に来る筈といふビリング推定なら中沢京子。但し何れにせよ、女の名前がひとつ余る。割とでなく脆弱な―俳優部の―面子の中、格の違ひを地味に見せつける今風にいふと菅野隆映画のミューズ・江崎和代が、ミサが指輪を盗んだと騒ぎを起こすマダームな入院患者。新しい勤務先までミサを追つて来る、元不倫相手のヨシザワ先生は有働智章。
 菅野隆映画祭、最終章。金子修介のnoteによると、前作の「セクシー・ドール 阿部定3世」(昭和58/脚本:佐伯俊道/主演:三東ルシア/未配信)が自ら認める失敗作で暫し干されたのちの、最終第五作は見るも無残なロマンX。数年後に、亡くなられたらしい。“見るも無残”といふのは今作個別の話ではとりあへずなく、今後場数を踏み重ねて行くうちにまた何か見つかる、のかも知れないけれど、佐藤寿保昭和61年第四作「制服処女 ザ・ゑじき」(脚本・事実上の主演:渡剛敏)や広木隆一(a.k.a.廣木隆一)昭和63年第一作「菊池エリ 巨乳責め」(脚本:石川欣/主演:菊池エリ)の如く、ビデオ撮影といふ条件をメタ的に取り込む戦法でも採らない限り、この壮絶な画質では誰が何を如何に撮つたところで、基本見るも無残な代物にしかならないやうに思へなくもない。
 元々持つてゐた被虐嗜好を物騒に拗らせた女が、折角再起しかけた男の人生を恐らく破滅させる。無体な物語は指輪騒動とアドレナリン爺さんの件―山口はよく見破つたな―を通して羞恥バックヤードを力技で回収、よくいへばミサの外堀を入念に埋める流れに論理性を酌むのが関の山。山口から攻撃的なプラシーボを打たれた、ミサの瞳に様々な光景が映る画の、即ち安いビデオ合成のデストラクティブな酷さには一昨日なベクトルで眩暈がさせられ、山口がミサの手首に、度重なるリストカットの痕跡を認める。画期的に新しかつたにさうゐない折角のシークエンスにも、当然情け容赦ない腐れ画質が無差別に水を差す。菅野隆らしさは旧病棟の凝つた―といふほどでもない―ロケーションに認めるのが精一杯の南風かなあ、といふ程度で、兎にも角にも、劣勢を強ひられた裸映画がアダルトビデオに抗戦を試みるに際し、選りに選つてな最悪手に菅野隆もむざむざ盛大な爆死を遂げた、矢張り見るも無残な一作。「ただ忘れてゐた女が」、「今度は忘れられない女になつた」。折角綺麗にキマッた野上祐二のモノローグを、地獄の氷が溶けたとて心許ない口跡で小川美那子が「少しは先生の所為ですよ」。アバンで犯したミスを律儀に蒸し返す、間の抜けたラストなんてもう完璧、逆の意味で。これでも2010年の―35mmフィルム―プリント廃棄前最後の上映時には、世間の片隅でシネフィルが色めきたつてゐた事実に対して、この期には生温かさを覚える気にもなれない。所詮はキネコの一言で事済む虚無的な、咲きすらしなかつた不具の、もとい不遇の徒花である。

 ミサと山口が入つた連れ込みの窓から引いて、パンしかけてまた何処に何某かあるのか全く判らない、多分ランダムな一点に軽く寄る漫然とした街景ロングに“終”。柳田友貴ばりの常人には理解不能な謎カメラワークが爆裂する、正体不明のオーラス。一箇所横長の長方形にボカシがかけられてゐるのは、全体そこに映つてゐた何が禁忌に触れたのか。


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 「新・未亡人下宿 裏も表もあいてます」(昭和63/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/製作:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/音楽:二野呂太/編集:酒井正次/助監督:小原忠美・五十嵐伸治/撮影助手:片山浩/照明助手:田島昌也/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:黒沢ひとみ・秋本ちえみ・橋本杏子・ジミー土田・大部大極丸・山本竜二・池島ゆたか)。脚本の周知安と製作の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 何か大きな建物を建ててゐる現場にさつさとクレジット起動、流れ者ぽくダッフルバッグを担いだボッサボサ頭の男が、寄るとまさかの秋本ちえみ。一方、町のハッテンもとい発展を方便に立ち退きを迫る地上げ屋(池島)に対し、夫が遺した持ち家で下宿屋を営む野沢明子(黒沢)は頑なに固辞する。秋本ちえみのロングに監督クレジット、津田スタ外景にタイトル・イン。明子が池島(とりあへずな仮名)から自堕落なドラマツルギーで手篭めにされかけるタイミングで、津田荘(ウルトラ仮称)に新しく加はる丸井定子(秋本)が到着、明子は助け舟を出された格好に。定子が3号―劇中“室”は使用されない―に通される一方、一旦敗走した形の池島は、相棒兼情婦?の橋本杏子に協力を乞ふ。池島ゆたかとハシキョンの役名を、終にどうしても呼称して呉れない。
 配役残りジミー土田は、1号のサラリーマン・岩淵竜也。岩淵が帰宅すると定子の着替へを覗いてゐた大部大極丸は2号の轟渉、職業不詳。岩淵と轟が何時も二人で明子のオナニーを覗いてはマスをかく、朗らかに曰くセンズリ兄弟であるといふのはどうでもよさを爆裂させつつ、なほのこと芳醇な枝葉。それと小原忠美ではないゆゑ、冠二郎と今上御大を足して二で割つた感じの―どう読ませたいのかも判らない―大部大極丸は、五十嵐伸治の変名なのかなあ。兎も角、そして山本竜二が5号のオカマ、その名も岡万太郎。駅前の「クルージング」勤務で、源氏名はそのまゝ放り込んで来るマンコ、固有名詞なら許されるのか。最後に飛び込んで来る亡夫遺影がリアル家主の津田一郎かと思ひきや、ノンクレの鈴木幸嗣で名前は園山高志、死後明子が籍を抜いた模様。つか、その予想もどうなのよ。
 深町章昭和63年第二作は、自身三本目となる未亡人下宿。といふので改めて、目下総計二十八作を数へる未亡人下宿の沿革を大雑把に踏まへてみると。山本晋也は矢張り山本晋也でも、元祖無印第一作が実は新東宝「未亡人下宿」(昭和44/製作:東京興映/配給:新東宝興業/監督:山本晋也/脚本:原良輔/主演:森美千代)。その後全て買取系ロマポの、日活未亡人下宿がセミドキュメントだ新だ続だと、何だかんだで都合十六作(昭和49~59/全監督:山本晋也)。が終つた後に、「新・未亡人下宿 間借り穴借り」(昭和61/監督:深町章/脚本:周知安/主演:田口あゆみ?)で再起動した第二次新東宝未亡人下宿が今作まで全四作、第二作「新・未亡人下宿 夜の手ほどき」(昭和62/脚本:平柳益実/主演:新田恵美)のナベ(渡辺元嗣名義)以外は深町章。更にその後の20th century未亡人下宿は、謎のエクセス未亡人下宿「新未亡人下宿 地上げ屋エレジー」(昭和63/監督:田胡直道/脚本:大沢治/主演:伊藤久美子?)と、深町章1997年第一作「未亡人下宿 熱いあへぎ」(脚本:岡輝男・榎本敏郎/主演:田口あゆみ)。今世紀に入つては愛染塾長の「平成未亡人下宿 痴漢みだら指」(2006/脚本:寿希谷健一・愛染恭子/主演:天衣みつ)を経て、清水大敬による大蔵未亡人下宿「未亡人下宿?」シリーズ(2017~)が、現在進行形で今のところ四本目。何気に清大が、本数では深町章に並んでゐたりもする。
 池島が女を担当し、男はハシキョンに任せる。地上げ屋が店子の籠絡を自ら―津田荘に不法侵入して―図る肉弾戦法は、如何にも裸映画的な底の抜けた展開ながら、本丸に堂々と乗り込んでしまつた以上ロケーションごと限定され、賑々しく絡み絡みが連ねられるとはいへ動きに乏しく、明子が岡のセクシャリティをガン無視してのける、今の時代では到底あり得ない―にも関らずのうのうと仕出かす外様もゐるのだが―昭和の大らかさか仕方のなさ以外には、これといふ見所も見当たらない。定子の思はぬ正体が明かされる件も、如何せん深町章にはネタ自体の他愛なさを補ふに足るキレに欠き、池島がとつちめられる修羅場の雑さ通り越した酷さは、割とでなく映画に止めを刺す致命傷。尤も、ムカデ人間式の“〇”で岡が轟を吹いてゐるのは別に問題ないのかも知れないが、“サ”で轟が岩淵に挿してゐるのには双方の心中を察するに余りある、連結した男女で文字を成すピンク版モジモジくんともいふべき怒涛の5Pは締めの濡れ場云々いふよりも、あれやこれやの些末を有無もいはさず吹き飛ばす、捨て身の迫力に溢れる。


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 「縄姉妹 奇妙な果実」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:中原俊/原作・脚本:石井隆『作品集・夜に頬よせ』《竹書房刊》/プロデューサー:斉藤信幸/企画:山田耕大/撮影:米田実/照明:矢部一男/録音:伊藤晴康/美術:中澤克巳/編集:井上治/選曲:小野寺修/助監督:堀内靖博/色彩計測:佐藤徹/現像:東洋現像所/製作担当:服部紹男/出演:美野真琴・北見敏之・萩尾なおみ・伊藤昌一・早乙女宏美《新人》・片岡五郎・玉井謙介・遠山牛・小金井宣夫・横田明宏・阿部勉・鷲津秀行/緊縛指導:浦戸宏)。早乙女宏美の括弧新人特記は、本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 高層ビルの夜景から、空にティルトするカメラと擦れ違ふが如く、下りて来たタイトルが画面中央で止ま、らずに。上から下にそのまゝフレーム内を通り過ぎる斬新なタイトル・イン、ならぬタイトル・パッシング。走行する電車越しに、公園でボサッとハイライトを咥へる北見敏之に寄る。冴えない外交販売員・村木(北見)が脳裏に浮かべる、ちやうど中央に村木挿んで、セールスマン計九人が整列する朝礼?風景。上司(遠山)が一人一人にゴツンと拳骨を入れた上で、「頑張つて下さい」と鼓舞するとか前時代的、でも案外ないクソさが清々しい。余程成績がいゝらしく、四人目の男が遠山上司から抱擁されるのに対し、ビリの村木は鼻を抓まれ捩じられる。こゝで同僚とされる横田明宏以下三名のうち、特定可能なのは三人目の阿部勉のみ。結論を先走ると、公式の配役には“セールスマン風の男”とある小金井宣夫が、どうしても何処にも見当たらない。閑話休題、もそもそパンを食したのち、ベンチに新聞紙を敷き―結局インクで衣服が汚れないか?―昼寝する村木は、前の会社の年功序列を厭ひ転職したものの、仕事が合はずボーナスも貰へない夫との仲を拗らせ気味な、妻・陽子(二年後に二代目一条さゆりを襲名する萩尾なおみ)との夫婦生活を夢に見る。その要は回想の中に、陽子から軽く詰られたのに朝礼を重ね合はせるフラッシュバックを更に捻じ込むのは、素人考へにほかならないが徒に時制を錯綜させる悪手に映る。さて措きピーピー鳴るポケベルに叩き起こされた村木は、電話ボックスでぺこぺこ謝るロングを経て漸く再起動。往来から路地に折れ、電線から坂道を歩く村木を舐める。結構な豪邸の表で落ちてゐる学生鞄を目にした村木が、開いてゐた通用門を潜つてみるとおパンティも露はに女高生の明香(早乙女)が倒れてゐて、姉の助けを求める明香の言葉に従ひ村木が庭に入つたところ、驚く勿れ、姉の博美(美野真琴/a.k.a.よしのまこと)は本格的に緊縛された状態で吊られてゐた。
 父親の仕事の都合で月の半分は広い屋敷に姉妹二人暮らしの博美と明香は、“変態”からの嫌がらせを度々受けてゐた。だなどと底しか抜けてゐない方便に則り、村木はガードマンを乞はれる格好に。その夜、不穏な気配を感じた村木が居室に不在の姉妹を捜し再び庭に出てみたところ、特機感全開の雨に打たれ、又しても博美が吊られてゐた。衝撃を受け直した村木は、背後から殴打され昏倒。俳優部残り伊藤昌一は、村木が意識を取り戻すと一緒に拘束されてゐた、どころか博美に尺八を吹かれてゐた内田。片岡五郎と玉井謙介は、一旦脱出したのち、改めて奇妙な果樹園に忍び込んだ村木に、声をかける二人組の刑事。片岡五郎が藪蛇な強面造形で、官憲といふより寧ろ筋者にしか見えない、藪蛇な東映臭を放散する。
 ロマポの手前勝手な新人特記に引き摺られてか、今作を以て早乙女宏美のデビュー作とする誤つた認識もちらほら散見されつつ、早乙女宏美は前年既に東活で初土俵を踏んでゐる、中原俊昭和59年第一作、中原俊的には通算第六作。早乙女宏美であれ誰であれ、東活の映画なんてこの期にどうやつて観るなり見るんだよといふのも兎も角、そもそも買取系とはいへ同じロマポで、中村幻児の「下半身症候群」(脚本:吉本昌弘・高原秀和/五月女弘美名義)が二週間前に封切られてゐたりもする。この辺り如何にも本隊の尊大な態度が看て取れるといふのは、果たして当サイトの穿ちすぎかしら。
 ドロップアウトすれすれの男が、住宅地に忽然と現れ―て消え―た、縄姉妹の司る迷宮に彷徨ひ込む。夜伽話、もとい御伽噺にも似た肌触りの物語を、監禁生活に関し村木との温度差を窺はせる、内田の正体あるいは去就含め何時種明かしに入るのか如何なる着地点に畳み込むのか見守つてゐると、最終的にも謎は謎のまゝ残し、エピローグ的なラストの手前まで一息にサドマゾ一辺倒で駆け抜けてみせる、予想外に豪快な構成には軽く驚かされた。かと、いつて。そこそこ以上にハードであつたり大掛かりな責めも敢行してゐる割に、資質的な問題なのか意図的な匙加減か、中原俊の場数を踏んでゐないゆゑ量りかねるのを素直に認めるが、何れにしても腰から下にゴリゴリ響く、煽情性にも馬力にも些かならず遠い。とかくSMとなると暗さなり重さを求めるのも、最早時代錯誤に片足突つ込んだ、ある種の偏向であつたにせよ。例によつて緊縛重視のブッキングにさうゐない、早乙女宏美も実も蓋もない言ひ方を平然としてのければペッラペラのピンクならばまだしも、もしくはグルッと一周した奇跡の親和を果たす余地も残されてゐなくもないとはいへ、ロマポの分厚さの中に放り込んだ場合、貧相なルックスが画を安くするきらひはどうしても否めない。一方男優部に目を向けると、アナグラムじみた木村に扮した、ナミならゐる菅野隆第一作から三年。遂に晴れて北見敏之が本家石井隆脚本による金看板の村木役―「天使のはらわた」第一作が六年前―を得こそすれ、名美がゐないとあつては狂はされるだけの運命にも結局縁遠く、精々蹴躓いてズッ転けるのが関の山。さうぞんざいに捉へた時、村木一人の片翼ながら、スター・シズテムの中でいつそ珍品の部類に放り込んだとてさして差支へないやうな一作、ともいつてしまへるのではなからうか。


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 「未亡人いんらんONANIE」(1990/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/演出助手:広瀬寛巳/撮影助手:鍋島淳裕・田中譲二/照明助手:尾田求/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:川奈忍・山本竜二・石川恵美・池島ゆたか・早瀬瞳・宗元大介)。脚本の周知安と企画の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 蝉の音鳴らした墓地のロング、浴衣の女が参る。クレジット起動と津田スタ夜景に続いて、山本竜二の遺影が飛び込んで来るのが開巻二十二秒。早いといふよりも速い、いはゆる未亡人ものの単刀直入な速度が清々しい。未亡人ものを撮る時は、誰しもが新田栄になる。
 朝顔柄の浴衣で悲嘆に暮れる野沢明子(川奈)が、始終そんなに徹底する訳でもないウノローグ―宇能鴻一郎調モノローグを略した造語―で「アタシ未亡人なんです」。三十八歳差と、明子は下手な親子より齢の離れた野沢俊介(山本竜二の一役目)と結婚した、ものの。新婚三日目に騎乗位の最中につき、俊介は腹上死ならぬ股下死、享年六十二。とか絡み初戦込みで明子が基本的な来し方を振り返つたところで、「ただいまー」と山竜ボイス。そんなこんなな目下、明子は俊介の連れ子―前妻の去就は一切等閑視―とはいへ、自身と同い年で大学生の大介(山本竜二の二役目)と二人暮らし。どうでもいゝが、大介は二十四で学部生なのか、医学部にも見えないし。閑話休題、ところで大介が最初は一見秀才ぽく見せて、次第に頬に刷いたチークも赤やかに、気がつくとトッ散らかるか、半ば以上にブッ壊れた何時も通りのばか造形。俊介が田舎の土地を売つた金が、まだ一億は残つてゐる筈だと主張する大介が有無から行方不明な預金通帳の探索を明子に促す一方、俊介の弟・コースケ(池島)が妻の悦子(石川)を伴ひ野沢家を来訪。明子の将来を鑑みて云々の一点張りで、野沢の家から籍を抜くやう勧める。
 大介を養子に迎へる形で遺産を狙ふコースケの思惑は、明子の予想外に固い、義息の面倒を見る決意で一旦頓挫。石川恵美の痴態がエクストリームな夫婦生活を入念に見せた上で、悦子は息子が駄目なら、大介を弟にする奇策を思ひたつ。配役残り、早瀬瞳は悦子が対大介に放つ、妹の倫子。さう来たか!といふ片岡修二らしいグルーヴ感が、今作のハイライト。そしてよもや大介役を、あるいは大介分もわざわざ別にクレジットしたのか?と最後まで読めなかつた、如何にも変名臭い宗元大介―次元を捩つたのかなあ―は、津田スタを急襲するオチ担当の借金取り。サングラスを更に別人の声がジャミングして甚だ判り辛いが、多分アテレコ―主不明―されたひろぽん。
 ビデオ題が邪魔臭くて一覧から未見作を探すのが正直無駄に骨の折れる、深町章1990年第七作。野沢埋蔵金を巡る騒動が最終的には他愛ない帰結を迎へ、明子と大介の疑似近親相姦物語も、相変らずな山竜がガッチャガチャに水を差す締めの濡れ場で、逆の意味で見事にドッチラケる。面白くない詰まらないでいふと煌びやかに見所を欠くかに映りかねない一作ながら、スッカスカな展開の隙間を女の裸で埋め尽くす量産型娯楽映画としての充実さあるいは誠実さと、何、より。大介を籠絡するべく飛び込んで来た倫子が、一戦カマすや御役御免と退場。話の流れを阻害するでも木に竹を接ぐでもなく、本筋に全く即した上での、なほかつ鮮やかな一撃離脱。何気に完成された、三番手の起用法が実は感動的。慎ましやかに研ぎ澄まされた、論理と技術が静かに火を噴く匠の一作。寧ろ以降の終盤丸々を、ロンゲストな蛇足と捉へてしまへ。


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 「生録盗聴ビデオ」(昭和57/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:菅野隆/脚本:伴一彦/プロデューサー:村井良雄《日本トップ・アート》/企画:進藤貴美男/撮影:野田悌男/照明:加藤松作/録音:伊藤晴康/美術:金田克美/編集:川島章正/音楽:甲斐八郎/助監督:加藤文彦/色彩計測:高瀬比呂志/現像:東洋現像所/製作進行:三浦増博/出演:風間舞子・江崎和代・織田倭歌・中原潤・明石勤・大河内稔・浜口竜哉・八雲大・広田正光・外崎晃・桐山栄寿・木下隆康・木下進・松永隆幸・佐多ちひろ・栗原由美子・松本信子・原田舞依)。出演者中、木下進以降は本篇クレジットのみ。
 ビルの谷間から余光煌めく夕陽を覗いて暗転、7:36のデジタル時計。窓越しに公衆電話の受話器を持つた女にピントを送り、真木子(風間)が食事をする約束で待ち合はせた筈の、商社マンの夫・芹沢修一郎(こゝでは声のみ/明石勤)から急な出張が決まつただのと、ぞんざいな方便でスッぽかされる。特に何処にも誰もゐない、スクランブル交差点の俯瞰にドラムでビート刻んでタイトル・イン。タイトルバックは繁華街をフラつく、真木子の適当な一人歩き。
 夫婦揃つて旧知の、小泉朋子(江崎)が営む会員制スナック「愛の巣」の敷居を跨いだ真木子は、他愛ない若造(多分木下隆康)のナンパには耳を貸さず、トレンチも脱がず一人でグラスを傾ける、竹田義一(中原)と目を合はせる。店を出ると、外は雨。指輪を外し竹田の傘に入つた真木子は、そのまゝ連れ込みに直行。急な生理が訪れるものの、豪気な竹田はハモニカを吹く口を止めもせず続行。真木子が気がつくとリアタイ的にはエポック・メイキングな機軸であつたにさうゐない、二人の情事はカメラで撮影され、ベッド脇のブラウン管に映し出されてゐた。土壇場ぽい大きな契約に、心奪はれた修一郎が徒に晩酌の杯を重ねる戸建の芹沢家居間。竹田との生録ビデオを見たと思しき、男からの怪電話を真木子は被弾する。誰も、“盗聴”に関して何の疑問も懐かなかつたのか。
 配役残り、竹田の個人情報求め「愛の巣」を訪ねた帰りの真木子を、夜の公園で襲ふ男は桐山栄寿。実は玄関からすぐのところにある1DKばりの構造に軽くビビる、台所に真木子が立つ昼下がり。織田倭歌(大体ex.青木三枝子)は黒いフーセンガムの女の子が呼鈴を鳴らしたかと思ふと、ずかずか上がり込んで来る謎の少女、に見えるけど齢は大人の環、実年齢で公開当時二十歳らしい。大河内稔は環の矢継ぎ早に芹沢家を急襲する、生録ビデオを携へたマサ斎藤似の紳士。広田正光と外崎晃は更にカメラと脚立を持つて現れる男AとB、広田正光がカメラを担いでゐる方。二人がかりで撮影しながら真木子を犯す、有無をいはさぬシークエンスの無体な豪快さも兎も角、環が適当なビデオカセットを再生すると、テレビにライブ映像が流れるロマポ驚異のメカニズムが何気に謎。一件を事由に離婚した真木子は、斎藤(超仮名)らが仕切る恐らく高級コールガールに。風間舞子と織田倭歌のほか、脱いで絡む女優部が更に二人(jmdbに項目のある、佐多ちひろと松本信子かなあ)投入される簡単にいふとヤリ部屋。浜口竜哉はカメラが順々に舐める三組目で、環を抱く男。愛の巣とヤリ部屋要員に、アバンの茶店も加へるとそもそも頭数から全然足りず、手も足も出ない木下進以降の本クレ限定隊に関しては潔くさて措き、最後に残つた名前が、今作最大のハイライト。竹田を捜す真木子は環を伴ひ、竹田と入り件のビデオを撮影された連れ込みに赴く。各室を窺へるモニターの並んだ支配人室にて二人の急襲を受ける、軽くググッてみた限り今作入れて同年のロマポ三本と、テレビドラマに出演した形跡の見当たる八雲大が誰あらう、当サイト的には小見山玉樹・庄司三郎とロマポ脇役部三巨頭を成す影山英俊の別名義。「西部警察 PART-II」(昭和57~昭和58)のゲストに八雲大と、影山英俊がノンクレの扱ひで併記されてあるのが微笑ましく、且つ断定の決め手。クレジットされてゐる訳がない、だつて同一人物なんだもん。
 引き続き風間舞子をヒロインに据ゑた、菅野隆第三作。八雲大=影山英俊に次ぐ枝葉にせよ矢張り大きな見所として、終盤ヤリ部屋のあるマンションとは別物件の真木子ヤサで、「探偵物語」(昭和54~昭和55)に於ける工藤探偵事務所ロケ先で知られた、同和病院(千代田区/1998年デモリッション)が登場する。
 偶さか一夜よろめいてみた人妻が、あれよあれよとアグレッシブな売春婦に。真木子が開眼する過程を、大味の展開を通してひとまづ描いてゐる点は大きな相違点ともいへ、「密猟妻 奥のうづき」同様、箍の外れたセックス・マシーンに風間舞子が扮する物語には、よくいへば量産型娯楽映画らしい、既視感を覚えなくもない。尤も、経血通り越して生命の存続すら危ぶまれる大量出血で、竹田との正常位を真上から捉へた画で純白のシーツに、まるでといふかまんま日の丸が拡がる凄まじいイメージを撃ち抜きつつ、ベクトルの絶対値が撥ね上がるのは寧ろそのショットの一点突破なり一発勝負に止(とど)まる。思想の深淵に触れるどころか握り潰しかねない勢ひで鷲掴んでみせた、前作と比べると決定的にパワーダウンしたきらひは正直否めない。三東ルシアといふ一応看板スターを擁してゐるにしては、何某か詰まらない事情でもあるのか第四作「セクシー・ドール 阿部定3世」(昭和58/脚本:佐伯俊道/助演:小見山玉樹)がソフト化にも配信にも何故か頑なに恵まれない中、菅野隆が、あと一本。


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