真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「おひとりさま 三十路OLの性」(2008/制作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督・脚本:工藤雅典/企画:亀井戸粋人/プロデューサー:秋山兼定/撮影:井上明夫/照明:小川満/助監督:黒川幸則/監督助手:関谷和樹/応援:梶野考・小川隆史/撮影助手:橋本彩子/照明助手:八木徹/スチール:伊藤太/ポスター撮影:MAYA/音楽:たつのすけ/編集:早野亮/録音・効果:シネキャビン/現像:東映ラボテック/協賛:FREEDOM KNIVES フリーダムナイブズ/出演:友田真希・藍山みなみ・寧々・那波隆史・なかみつせいじ・竹本泰志・サーモン鮭山・三上剛史・パスタ功次郎・飯島大介)。出演者中竹本泰志が、ポスターには竹本泰史。泰史から泰志に改名したのは、公開時からももう六年も前なのに。あと、三上剛史が三上猛士。
 大手デベロッパーのプロジェクトリーダー・岡島百合子(友田)は部下の西谷香奈(寧々)に、口述筆記で西新宿地区再開発事業の企画書を纏めさせる。テキパキ指示を出しながら、百合子はフと自らの仕事に対する虚しさも滲ませる。出来上がつた書類を香奈が二人の更に上司・金子祐三(なかみつ)の下へ届けると、金子は百合子の耳も憚らず、自室で香奈を抱く。百合子と金子は以前は関係を持つてゐたが、結局プライドの高い百合子が従来通りの意味合ひでの“金子の女”になるのを拒み、二人は終つてゐた。「何時まで独りでゐるつもりだ?」と、直球勝負にもほどがある捨て台詞を残してのこの上なくこれ見よがしに、金子は香奈を伴ひ先に退社する。一方、歓楽街片隅の薄汚れた機械室。マットの上で立ちんぼのレミ(藍山)が、見るから気色の悪い客・砂塚(サーモン)に抱かれてゐる。事後嫌悪感を露にするレミに引き下がる砂塚を、離れて見てゐたポン引き・板倉達男(那波)が撃退する。やさぐれた色男といふ役柄に、那波隆史が珍しくハマリ役。どうやらこの人には、インサイドの役をやらせると様にならない傾向があるやうだ。
 寂寥を隠しやうもない百合子は、馴染みのバー「After Dark」へと向かふ。カウンター席の右端に着いた百合子に、迎へ送りに際して、居酒屋と勘違ひでもしてゐるかのやうに接客の軽いマスター(三上)は、徒に苦み走つてみせた風情が微笑ましい、左端で一人飲むエリート官僚といふ沢田聡(竹本)を戯れに紹介する。会釈を交す百合子と沢田の後方のボックス席では、折悪しく金子が香奈と、そして離れて板倉が一人で飲んでゐた。百合子への当てつけか、悪く酔ひ他の客もゐる店内にも関らず香奈の体に手を伸ばす金子に、板倉がキレる。金子を殴り飛ばさうとした板倉の拳を、後ろから沢田が制する。さりげなく、ここで既に沢田の板倉に対する、戦闘力の圧倒的優位は見せつけられてゐた。
 飯島大介は、ジュクを仕切る組のヤクザ・加納。そこかしこで映画のグレードを一段上げる、飯島大介の働きは今作を通して極めて大きい。街娼の元締めで、組からの上納金の締めつけが厳しくなるばかりの街を、板倉は捨てることも考へてゐた。板倉と加納の対立を前に、健気に男のために稼いで来ようとするレミではあつたが、謎の男に、最早売り物にならぬほど傷ものにされてしまふ。レミをオシャカにした犯人を追ひ夜の街を奔走する板倉は、砂塚に絡まれ金を握らされてゐたところを、ショバを荒らしてゐるものかと勘違ひした百合子を捕まへる。加納の姿を認めた板倉は一旦その場は離れ、百合子を犯す。
 気がつくと、前作以来殆ど丸二年ぶりの工藤雅典新作。心に如何ともし難い隙間を抱へた三十路の堅気女が、闇社会に生きる男と偶さか巡り会つたところ、出し抜けに全てを捧げて入れ揚げる。最終的にはお話がまるで形を成さなかつた前作に比すと、今作の冷たく暗いメロドラマは、「死んでしまつてゐるものを殺して何の罪になるといふんだ」と城戸誠が太陽を盗んでから既に何年経つのだ、といふ話でもあるが、この社会全体を覆ふどうしやうもない閉塞感を上手く織り込むのにも成功し、概ね見応へがある。要所要所を締める飯島大介と友田真希のオッパイのほか、勝因として大きいのは、側面から飛び込んで来てはドラマの動因として十全に機能する、猟奇的な異常者のサブ・プロット。サーモン鮭山が誇る視覚的にも判り易い変態属性を利した、変質者の正体に関するミス・リーディングは綺麗に決まつてゐる。<イニシャルの烙印>の時点で悟るべきかと結果論としては思へぬでもないが、今回個人的には、香奈と金子が餌食になる件に於ける、周到に胸から上はフレーム外に置かれつつの体つきを見るまでまんまと騙されてゐた。板倉と対峙した際には、ピンクにしては極めて珍しく、アクション映画的な格闘術を齧る程度とはいへ披露してみせる点も面白い。対して主眼たるべき、百合子と板倉の悲恋物語は弱いといへば弱い。展開自体に問題はなからうが、手数といふ意味も含めて尺も、主演女優の演技力も少々不足してゐる。狙つた意欲的なアングルは画に力を持ちつつ、色合ひとしては如何せん安さが目につきもする撮影も、若干映画全体の足を引つ張りもする。傑作と称するには惜しいところで至らないが、落とした木戸銭の元は十分に取れる、力作といふのは間違ひあるまい。
 板倉は百合子を、再会したくば、買春の対価の金を持つて来いと突き放す。意図的にか、画面が非常に暗くて判り辛いのだが、踏ん切りの未だつかぬまゝ夜の街を彷徨ふ百合子に声をかけ、逃げられる柄の悪い二人組の内、画面向かつて右側は工藤雅典ではなかつたか。パスタ功次郎は、ラブホテルの従業員。パスタ功次郎二度目の登場場面、即ち劇中三度目の凶行に、堂々と二度目と同じホテルを使つたのか?といふ穴は決して目立たなくもない。それと、百合子の注文を受けた「After Dark」のマスターが、カウンターの上、客の目の前で缶からグラスにドバドバビールを注(つ)ぐと、未だ入つてゐる缶を、グラスの横にそのまま無造作に置く。などといふのは、バーとしてはどうなのよ。二杯目は、手酌で飲めといふ方式なのか。

 劇中、自らポン引きと称する板倉が、自分の商品に際しては頑なに“娼婦”といふ言葉を使ふ。世間の世知辛さを慮つたか、あるいは尻の穴の小ささに屈したか。それは些か台詞としての風情を欠き、用語として適当とはいひ難い。ポン引きが通るならばそこは矢張り、“パン女”でなくてはなからう。


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 「見られて燃えた姉夫婦」(1992『露出狂姉妹』の2008年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:新田栄/脚本:高島暁/企画・製作:田中岩夫/撮影:市原芳/照明:和泉洋明/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫/音楽:レインボーサウンド/撮影助手:片山浩/照明助手:光照夫/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:加賀ユリ・千秋誠・月丘雪乃・石神一・吉岡市郎・神坂広志)。照明助手の、光照夫などといふのは一体誰の変名なのか。
 女子大生の美土里(加賀)は、お盛んにも昼間から窓も開け彼氏・正人(神坂)とセックスに励んでの、大声の喘ぎ声が大家の逆鱗に触れアパートを追ひ出される。仕方なく美土里は姉・真奈美(千秋)と、義兄・敏夫(石神)の新婚家庭に転がり込む。すると家を訪れた、毎朝新聞勧誘員の土橋(吉岡)を着替へ中で半裸のまゝ美土里が出迎へると、真奈美からは窘められる。土橋は、覗きで逮捕歴もある好色漢だといふのだ。入浴中の裸身に早速注がれる土橋の視線も意識しつつ、美土里はその夜、姉と義兄の夫婦生活に興味を持ちこつそり覗いてみる。ところが敏夫は妻からの求めに応じる素振りもまるで見せず、憐れ真奈美は、夫がその場にゐながら自らの指で慰めるのであつた。勿論その様子も覗き見てゐた土橋は何て夫婦だと呆れ返り、一方美土里は義兄に、インポなのではないかといふ猜疑の目を向ける。
 主人公・美土里役の加賀ユリ、遠く時代の移り変りに埋もれた主演女優を判り易く譬へてみると、少しだけ可愛くしたライオネス飛鳥。三番手を三人揃へたかのやうな布陣に特筆すべき点は別になく、これは厳しい、これでは戦へぬと、頭を抱へ途方に暮れざるを得ない。
 翌朝、敏夫の不能疑惑を検証するべく、美土里は性懲りもなく半裸で朝の食卓に着く。見せつけるほどでもないオッパイをチラつかせ、トマトを落としたと称しては、パンティを履いただけの尻を義兄に向け突き出す、真奈美も同じテーブルで朝食を摂つてゐるといふのに。狼狽しコーヒーに砂糖と間違へ胡椒を入れてしまふ敏夫のポップ性まで含め、このシークエンスの清々しい馬鹿馬鹿しさのみが、辛うじて唯一挙げられるどうでもいゝ見所か。勿論、敏夫はちやんとクシャミまでして呉れる。敏夫の勃起を確認した美土里は、それならば職場で不倫でもしてゐるのではないかと、正人をアルバイトとして勤め先に送り込む。月丘雪乃は、そんな訳で敏夫の部下、兼不倫相手の藤子。正人の調査によると敏夫は、見られてゐないと燃えない性癖の持ち主であつたのだ。
 ここまでは、舞台もあちらこちら移るのもあり、ギリギリどうにか踏み止まれなくもない。とはいへ、こゝから姉夫婦宅に留まり、娯楽映画として定番の着地点ともいへ、予想を微塵も裏切ることのない結末に向け、多少組み合はせが変化する程度で決定力にも欠く濡れ場が延々連ねられるばかりの駄展開には、正直なところ手も足も出ない。出歯亀といふ己の立場も棚に上げ、他人の夫婦に呆れてみせる土橋を狂言回しに配した、底の抜けた桃色ホーム・ドラマといふのも一興かしらん。だなどと一瞬でも勝手に期待してみたりなんかした、当サイトは己の不明を大いに恥ぢるべきだ。我ながら筆の根も乾かぬ内にとはこのことではあるが、斯様なものを新版公開して、観客を眠りの海に沈めるほかに一体如何なる意味があらうといふのか。例によつてといふかいふまでもなくといふか、今作は2002年に少なくとも既に一度、「すけべな姉VS妹」といふ新題で旧作改題されてゐる。ことこゝに至ると、切なさすら込み上げて来る。どちらかといふと、より好色なのは妹の方ではないのか、どうでもいゝけど。

 開巻の、美土里のアパート大家と同じ声(誰のものかは不明)で、真奈美の御近所が三人の嬌声に金切り声を上げて終り。といふ構成は、幕の引き方としてはスマートである、あくまでその限りに於いては。


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 「変態エロ性癖 恥汁責め」(2004/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督・脚本:国沢@実/撮影:岩崎智之・橋本彩子・原伸也/照明:奥村誠/助監督:海野敦・小川隆史/効果:梅沢身知子/協力:喫茶ミロン・本田唯一・城定秀夫/出演:片桐さなえ・橘瑠璃・川瀬有希子・世志男・山名和俊・野上正義・ベトコン国沢・富永伸一郎)。出演者中、ベトコン国沢と富永伸一郎は本篇クレジットのみ。
 開巻、股を開いた女の秘裂を、パンティ越しになぞる男の指。頭に“ハプニング”が付く訳でもない普通の、しかも昼間の喫茶店のボックス席にて、何憚ることなくイチャつく非常識なカップル・梓(橘)と菊池(山名)に憤慨したウェイターの翔一(世志男)は、アイスコーヒーの注文を無視してトマトジュースを持つて行く。ものの情けないダメ人間に過ぎぬ翔一は、まんまと柄の悪い菊池の返り討ちに遭ふ。頭からトマトジュースを浴びせかけられた翔一は、何故か恍惚の表情を浮かべる。トボトボと帰途に着く翔一の後を、梓と菊池に絡まれてゐた際にも助け舟を出して呉れた、同僚の愛美(片桐)が追ふ。当惑する翔一を余所に、家にまで勝手に上がり込んだ愛美は、翔一に跨る。戯れに童貞狩りに勤しむ習慣のある愛美は、翔一の未経験を見抜いてゐた。一方的に押されるままの翔一ではあつたが、机上の小型冷蔵庫からデルモンタ社製のトマトケチャップを取り出した瞬間、ホウレン草を得たポパイよろしく豹変。翔一はトマトケチャップ・トマトジュースと、それを女体に塗りたくることを偏愛する変態性癖の持ち主であつたのだ。何はともあれ、真価を発揮した翔一の勢ひに嬉々と身を任せる愛美ではあつたが、トマト愛と同時に翔一のマザコンが発覚した途端、鮮やかに翻意し翔一を拒絶する。愛美に突き飛ばされ気を失つた翔一は、デルモンタ株式会社社長・北見徳三(野上)の部下・平林(ベトコン国沢)からの電話で目を覚ます。翔一は実は、一代でデルモンタ社を築き上げた徳三の息子であつた。但し息子の不甲斐なさを嘆いた徳三からは、勘当されてゐた。平林が伝へた急な一報とは、徳三が急死したといふのだ。デルモンタ二代目社長の座に就き、俄かに富と権力とを手に入れた翔一は、愛美と、梓・菊池への逆襲に歪んだ情熱を滾らせる。
 特殊な性癖を持つ社会不適応者の手に、棚から権勢が転がり込んで来る一種の変身譚、とでもいふべき趣向なのであらうか。面目ない次第ではあるが、“あらうか”だなどと覚束ぬ物言ひになつてしまはざるを得ないのは、今作、話が中途でブツ切りされたまま終つてしまふ以前に、軸足もまるで定まらないのである。起承転結でいふと転部での夢オチはまだ許されるとしても、その後の展開が頂けない。翔一二度目の対愛美戦での、コロッと手の平を返すが如く、翔一に感化されたトマト属性は兎も角、「私が貴方のママになつてあげる」とマザコンまで許容して呉れてしまふ愛美の態度が意味不明。自慰イマジンをそのまま具現化してしまつたかのやうな怠惰なファンタジーも、それはそれとしての覚悟で撃ち抜かれた場合は、あるいは最早堂々とした開き直りでのうのうと垂れ流されてしまつた際には、時に成立し得もしよう。とはいへそれにしては、ステレオタイプな俗物ぶりが齟齬を感じさせる余地もある翔一の新社長ver.は不要で、全篇を通してのテーマは“正夢”です、だとかいふ訳でもなからうにといふ結末は蛇足ではないか。童貞男が鴨葱な淫蕩女に言ひ寄られ、一度は翻意されながら二度目は条件は何ら変化してゐないにも関らず、何故だか百パーセントの形で受け容れられる。駄目な物語は駄目な物語でも構はないが、駄目は駄目なりに徹してゐて欲しい。駄目な物語の駄目さ加減が更に中途半端では、いよいよ以て全く形になりはしない、さういふ意味で駄目に徹せられても困る。せめてもの救ひは、パツンパツンなスクール水着が狂ほしく素晴らしい、梓と菊池の濡れ場となるところであつたのだが。ここでも国沢実は、余計な色気を出してしまふ。超絶の決戦兵器たるべき橘瑠璃を、純粋に邪魔なばかりの山名和俊のMCが阻害する。よしんば面白いものが作れなくとも、百歩譲つてせめていやらしいものは作つて呉れまいか。

 黒縁メガネがエクストリームな川瀬有希子は、徳三の秘書・麗子。梓は最早諦め麗子の一点突破で、今作を切り抜けるといふ途も僅かに残されてゐないではない。富永伸一郎は、翔一と愛美が勤める喫茶「ミロン」のマスター。他に、ぶつかつた翔一に凄む男は、泣けて来るプロジェク太画質の所為でまるで自信は持てないが、城定秀夫か?


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 「不毛な制服 恥づかしい半熟」(1990『制服本番 おしへて!』の2008年旧作改題版/制作:シネマアイランド/提供:Xces Film/監督:常本琢招/脚本:石川欣・常本琢招/プロデューサー:鶴英次・鎮西尚一/撮影:福沢正典/照明:本橋義一/編集:菊池純一/助監督:光石冨士朗/色彩計測:青木克弘/主題歌:『みなしごキッチン』作詞:稲川方人、作曲:クマガイコウキ、歌:山下麻衣/メイク:神林久美子/美術:鵜飼容子/出演:山下麻衣・桂木美雪・叶順子・田辺広太・江藤保徳・古田信行・伊藤裕作・佐和たかし・天津比呂志・原摂子・杉浦みなみ・尾形可耶子・内藤忠司・大工原正樹・神林久美子)。照明助手を初め、色々拾ひ損ねる。因みに女優部中、脱ぐのは順当に三本柱のみ。
 カトリック系の厳格な女子高、修道服を着た教師(尾形)に、涼子(桂木)が校則違反のブレスレットを没収される。そこに入れ替りで、優等生のまり(山下)が教師から借りてゐた本を返しに現れる。自分に対するのとは手の平を返したかのやうに教師がベタ褒めするまりが、涼子は攻撃的に気に喰はない。階段の踊り場に教師の立ち居地を一段高く置いた、配置の妙がさりげない。放課後、腰巾着のせつこ(原)・くみこ(杉浦)とともに、涼子はまりを尾行する。恐ろしく覚束ない材料に基いた推定でしかないが、二人の内、アラレちやんメガネがせつこで、ショート・カットの方がくみこか。涼子以下三人が、コントのやうに人の行く手を遮る公園の掃除夫(内藤)に邪魔されてゐる隙に、ヒラリと軽やかに内藤忠司をクリアしたまりは、公衆便所に消える。間もなく再び姿を見せたのは、まるで別人のやうに化粧は華やかで、服装も派手な女だつた。真夜中まで待つでなく、まりには放課後に別の顔があつた。男をハントしてはホテルに誘ひ、薬で眠らせると金品を盗むのだ。ホテルマネージャーになるといふ夢も何処吹く風、今は半ば無目的なラブホテルのフロント係・浩(田辺)は、部屋部屋に設置されたビデオカメラの映像からまりに興味を抱く。一方、せつこ・くみこ、そして運転手、兼実は掟破りでもある情夫のあきら(江藤)を引き連れ、女子高生買春グループのリーダーであつたりもする大胆な設定の涼子は、一仕事終へホテルから出て来たまりに接触する。秘密を握りすつかり優位に立つたつもりの涼子に対し、まりは不意を突く接吻一閃で黙らせる。ここでの、涼子が唇を奪はれた刹那凄い勢ひで背中越しにまりに寄るズーム・インと、カット変へて再び気持ちのいい威勢のよさで今度は涼子の背中から離れて行くズーム・アウトは、少なくとも今となつては微笑ましいばかりではあるが、志向したセンセーションを、見事に振りきつてみせた気概は素晴らしい。足を勇ませてしまふのを些かも恐れぬ、勇気は時に必要であらう。それがたとへ、野蛮なものであつたとしても。古田信行と伊藤裕作は、中島と田中。この件に登場するユニオンジャック柄の点かないライターの持ち主と、後にもう一人別に登場するまりのカモではあるが、どちらがどちらかなのか特定不能。点かないライターで燻つた心模様を表し、後(のち)に絶好の場面で唯一着火を果たす、小道具の使ひ方も手堅い。
 続けて残りの配役を一息に片付けると、叶順子は、弦楽器を嗜む浩の恋人・ひさこ。二人は贅沢にも主に浩の側から倦怠期にあり、終盤浩の部屋で一夜を明かしたまりを前に、ひさこは大人の余裕でおとなしく身を引く、都合のいい話といへばそれまでだが。天津比呂志は、ラブホテルの支配人・三浦。佐和たかしは、浩が飛び込んだことにより未遂に終る、劇中三人目となるまりの獲物。大工原正樹と神林久美子は、ほぼ背中のみフロントに見切れるだけの、ラブホテルのカップル客。
 一年余りの短い実働期間を、文字通り駆け抜けた感のある山下麻衣はオッパイは少々小さいが、美しい瞳に溢れるエモーションが兎にも角にも素晴らしい。浩と涼子らを堂々と向かうに回し、劇中世界を独り強靭に掌握する決定力は、正しく主演女優の名に相応しい。反面同時に、ロマンスの相手方たるべき田辺広太や、好敵手ポジションの筈の桂木美雪の、華のなさや心許なさは山下麻衣が突出してゐる分、却つて目につきもする。山下麻衣の魅力に頼りきりで、そもそものまりの動機等、そこかしこに描ききれてゐない部分も残る。最終的な完成度はひとまづさて措き、主演女優による主題歌を設けた辺りに形式的にも明白な、アイドル映画といふコンセプト。予算超過の因となつたであらうと憶測に難くはない、雑踏の中、見詰め合ふまりと浩の周囲を360度グルグル回るカメラ。常本琢招が狙つたところのものを、何はともあれ渾身の力で撃ち抜いた様は看て取れる。その限りに於いては百点満点の、デビュー作らしい瑞々しさと清々しさとに満ちた一作である。
 繰り返しになり、加へて話が今作からほぼ外れてしまふのは恐縮ではあるが、改題新版公開に際してエクセスの、かういふ思ひ切つた遡りぶりは深い感興を以て、強く支持したい。新東宝に関しても少々駄作率が高いのは難点ではあれ、概ね同じことがいへよう。といふ訳でここはオーピーにも、旧大蔵映画時代の大胆なルネサンスを、是非とも期待するものである。とりあへず、友松直之の「コギャル喰ひ 大阪テレクラ篇」(1997)辺りや、小林悟や関根和美の凄い旧作とか観てみたいんだけどなあ。

 浩の部屋を荒らした後のまりが、くすねた金を撒きながら戯れるやうにサビだけ口遊むカットと、奪つたあきらの車で二人逃げる件との都合二度使用される、主題歌の「みなしごキッチン」。歌詞にもメロディにも、エモーションの萌芽が確かに感じられはするものの、如何せん録音状態が厳しく宜しくない。音響が殊更に悪い小屋で観てゐる訳でもないのに、ヴォーカルもオケも、殆ど満足に聴こえない点は残念である。


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 「居酒屋の女房 酔ひ濡れ巨乳」(2008/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:岡輝男/撮影:長谷川卓也/照明:ガッツ/助監督:黒澤俊志、他一名/効果:梅沢身知子/フィルム:報映産業/協力:本田唯一・マイト和彦・木の実葉・村田頼俊・世志男・THUNDER杉山、他/出演:ささきふう香・岡部尚・片瀬まこ・間宮結・国沢真・丘尚輝・佐野和宏)。出演者中国沢真が、ポスターには国沢実。助手勢に全敗する。
 混み合ふ居酒屋の店内、やをら客同士(世志男とTHUNDER杉山)の喧嘩が勃発する。協力勢は、概ね店内シーンの客要員か、マイト和彦と村田頼俊は確認出来た。すると、一人で店を切り盛りする女将の三谷弘子(ささき)は、他の客の迷惑だと二人を一喝、頬を張り悶着を収める。決してサマにはならぬ弘子の啖呵に、今作に対して世評は概ね妙に高いものの、嫌な予感が立ち込める。ここはこの限りに於いては、佐々木基子の出番であらう。カウンター席、常連の酒屋・吉田鉄夫(丘)の隣で飲んでゐた一見客・沢木啓介(岡部)は、そんな弘子の姿に見蕩れる。国沢実と伊庭圭介とを足して二で割つたやうな感じの岡部尚は、東京乾電池所属。
 弘子の夫・孝三(佐野)には、浮気癖があつた。度々他の女を作つては家を捨てる孝三は、今は夫と死別後自殺しようかもとしてゐるところに出会つた、倉橋美保(間宮)と暮らしてゐた。雰囲気があるのか臭いのかそれとも浅いのか、互ひに相手の目を重視する男と女。美保は孝三の遠いところを見るやうな目に、弘子の下に帰りたがつてゐることを看て取る。それで帰れと背中を押して呉れるといふのも、美保にも美保で別の男が出来たか今の生活に嫌気が差すかしてゐたのでなければ、非現実的に都合のいい相談ではある、といふか話でしかない。ところで筆を滑らせるが、久し振りに見た間宮結は、何だか女装子のやうな顔をしてゐて少々キツい。実は失業中の沢木は、昼間の開店前に押しかけると、強引に居酒屋の店員として居ついてしまふ。再び街に舞ひ戻つて来たものの予想外の沢木と鉢合はせた孝三は、己のことは棚に上げ弘子が若い男を作つたものかと誤解する。
 (元?)盟友・樫原辰郎がM78星雲の人となつてしまつた為か、脚本に岡輝男を迎へた今作、ひとまづ煮ても焼いても喰へない暗黒自閉沈降映画といふことは成程ない。尤も、かといつてそれ程高いレベルでの成功に、辿り着いてゐる訳でも別にない。
 衝動的に弘子に襲ひかかつてゐた沢木を撃退すると、孝三は再び弘子と暮らし始める。とはいへ特に契機も無いまま直ぐに病気を再発した孝三は、過労で倒れた弘子に精のつくものを買ひに出た筈なのに、チンピラ(不明)に絡まれてゐたところを助けた川井友紀(片瀬)と又ぞろ暮らし始める。国沢真だか要は実は、左手薬指の指輪を孝三には隠してゐた、友紀の夫・高志。友紀も要は、まるで合せ鏡のやうに孝三の女版とでもいふべき人物であつた、斯様に出来過ぎた話もあるまいに。
 簡潔に言ひ切つてしまふが、今作の敗因は大きく二点。まづは自堕落極まりないだけの男―と加へて自堕落極まりないだけの女(友紀)も―が、好き勝手をし倒した挙句に、健気に待つて呉れてゐる配偶者の下へ何食はぬ顔をして戻つて行く。矢張り俺にはお前しか居ないんだよな、だとか何とかいひながら。かくも底の抜けたいい加減な話が、今時、ジャンル中の更に狭義の一カテゴリーとしての、男尊女卑演歌の世界でも通るものか。否、何処のジャンルにせよ、無自覚であればあるだけ相変らず通りもするものであるのやも知れぬが。第二には、そんな底抜けも、魅力的な自堕落者の一点突破が綺麗にキマッたならば、力技で無理から通せぬ話でも必ずしもないことはない。ところがここで、岡輝男に代り立ち塞がるのが本丸・国沢実。無敵の筈の、佐野和宏カードが何故か通らない。改めて振り返つてみれば、国沢実が絶好調時偶さかモノにするのもポップでキュートなアイドル、即ち女優映画で、よくよく考へてみると、実は男をカッコよく撮つたところを観た覚えがない。時に長閑な温かさや柔らかな肌心地には恵まれても、強度や熱を帯びた重量感、単なる死後にも似た硬直といふのではなく、いい意味での硬質といつた辺りからは基本的にこの人の映画は遠くはなからうか。最後の頼みの綱も沈黙しては、正しく万事休す。天秤にした枡に日本酒を注ぎながら、孝三が鉄男に人生に於ける平衡感覚の肝要を説く要の件を、他の場面との視覚的にも明確な差異を設けたかつた気持ちは酌めぬではないが、選りにも選つてキネコで処理してしまつたミスと、孝三が人の女には手を出さないことにしてゐるとかいふ俺ルールの、清々しい唐突さも響く。


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 「浴衣妻の下心 全身快感」(2000『ノーパン浴衣妻 太股の肉づき』の2008年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:金田敬/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:中尾正人/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/スチール:津田一郎/監督助手:加藤義一/撮影助手:西村聡仁/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:つかもと友希・しのざきさとみ・風間今日子・なかみつせいじ・村井智丸・日比野達郎・久須美欽一・荒木太郎)。
 下町の銭湯「富の湯」、番頭の与三郎(荒木)は富の湯を閉めるつもりで、地上げ屋の鹿嶋(日比野)から既に手付けも受け取つてゐた。そのことを与三郎は未だ公にはしてゐなかつたが、小遣ひ稼ぎに商店街のオヤジ達の尺八を吹く、タバコ屋「鈴木商店」看板娘であり富の湯常連の女子高生・美津子(風間)から、同じく常連で、将棋仲間でもある焼き鳥屋の熊川(なかみつ)や御隠居(久須美)も知るところとなる。そんなある夜、風呂上りの美津子がはしたなくも全裸で扇風機に吹かれ牛乳を満喫してゐるところへ、与三郎は「早く帰《けえ》れ」とけしかける閉店間際の富の湯に、見慣れぬ浴衣姿の女が現れる。女・さくら(つかもと)の謎めいた色気に、与三郎は一目で心を奪はれる。翌日以降も通ひ始めたさくらを、与三郎は富の湯を貸切にして迎へる。汗だくになりながら与三郎が湯加減を見るボイラー室に、さくらが気紛れに光臨する件。与三郎にとつては、その刹那灼熱のボイラー室が楽園にすら変つたといふ幻想的なショットをより決定づけるためには、思ひ切つてさくらにはタオルで隠さずに、不自然であつたとて肌も露なまゝボイラー室に入つて来ては欲しかつた。
 与三郎が、判れた女房・千恵子(しのざき)が営む和風スナック「さつき」を訪れると、熊川と御隠居が、昨今町の男達を賑せ鼻の下は伸ばす、寺の境内で男を漁ると、一夜を共にして呉れるとかいふ浴衣を着た美人幽霊の噂に花を咲かせてゐた。早速深夜ジョギングを始めようと躍起になる熊川を余所に無関心な風を装へど、与三郎は浴衣幽霊とはさくらではあるまいかと内心穏やかではない。噂話のイメージ中に登場する、折詰ブラ提げたポップな千鳥足の酔つ払ひは高田宝重。「さつき」店内に、もう一人後ろのボックス席に見切れる一人客は不明。開巻の濡れ場に登場する村井智丸は、さくらを抱く青年。一度限りといふ禁を破り再びさくらの前に現れるも、旦那はヤクザだといふ嘘に、すごすごと退散する。スタート・ダッシュをつかもと友希の濡れ場で飾りたいといふ言ひ分ならば、勿論判らぬではない。とはいへこの村井智丸の存在により、熊川が喰ひつき与三郎は心騒がされる、浴衣幽霊のプロットが初めから割れてしまつてはゐる。
 幽霊譚の機能不全により、片翼捥がれたやうな気がしなくもないものの、しつとりとした心情描写と、三作目といふ次第でエクセス・ルールにも囚はれない、情感豊かな主演女優とに麗しく支へられた人情ピンクは、潔い実用性の一点突破に徹しない際の下元哲にしては珍しく、正方向に見応へがある。加へて脇を固める布陣も磐石であるのは、改めていふまでもなからう。その上でなほ、明後日の方角に引つかゝつたのは。「銭湯なんて、何時かはなくなつてしまふもんだ」と、さくらには心を残す与三郎が、鹿嶋に便宜的な抵抗ならば見せておきながら、最終的に素直に富の湯を閉めることに対しては未練を感じさせない。その素気なさに、曲解の謗りも省みず個人的には大きな、強い疑問を残すものである。最短距離の更に内側で直截にいつてのければ、銭湯も、ピンクの小屋も、その立ち居地はほぼ変らないやうなものではないのか。鯨ならば、海に沈みあるいは翼を持ち空に飛立てばよいのかも知れないけれど、銭湯もピンクの小屋も、何時か時の流れに押し流されて、世の中から消え去りつつある場所である点に変りはないのではなからうか。だとするならば、映画の軸足を失してでも、たとへそれが儚い蟷螂の斧にすら過ぎなくとも、与三郎には意地を張つて貰ひたかつた。取つてつけたやうな方便でも、嘘をついて欲しかつた。与三郎役の荒木太郎にも、恐らくその意識、少なくとも状況認識自体は共有頂けよう。

 与三郎が終に富の湯を閉める件、何処かで聴いた音楽だと思へば、どういふ訳だか中空龍の劇伴が越境して(?)使用されてゐる。


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 「人妻・愛人 けいれん恥辱」(2008/製作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影:朝川良寛/照明:大川涼風/助監督:加藤義一/編集:《有》フィルムクラフト/監督助手:竹洞哲也/撮影助手:福島圭吾/照明助手:大幡暗田/スチール:津田一郎/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/音楽:OK企画/現像:東映ラボ・テック/出演:梅澤かほり・倖田李梨・山口真里・竹本泰志・姿良三・なかみつせいじ)。脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、何れも小川欽也の変名。
 薮蛇にカメラを傾けた画の中、フリーカメラマンの山田隆志(竹本)は、けふも追ひ続ける標的を捉へられなかつたバッド・ラックを毒づく。同棲中のモデル・小島京子(山口)から妊娠した旨告げられた山田は結婚を決意すると同時に、京子に今は亡き妹の過去を語る。山田の妹・由紀(一切登場せず)は、テレビ局関係者と不倫関係にあつた。ところが妊娠が発覚した途端、由紀は妻との離婚を経ての結婚も約束してゐた筈の不倫相手からは、手の平を返したかのやうに捨てられる。憐れ精神の平定を乱した由紀は、交通事故で死亡する。山田がスキャンダルを狙ふTVキャスターの小林功(なかみつ)が、ロケハン旅行で伊豆に向かふ。その情報を入手した山田も、小林を追ひ伊豆に入る。といふ訳で、いふまでもなく伊豆篇に於いては、御馴染み花宴が、殆どデフォルトの如く登場。
 小林の伊豆行に同行する梅澤かほりと姿良三は、番組アシスタント、兼不倫相手の谷崎真弓と、ディレクターの杉山。最早三番手の俳優に払ふギャラも惜しんだのか、伊豆に旅行がてらカメラも一通り回して来ました、とでもいはんばかりの風情すら漂ふ。倖田李梨は、小林の妻・玲子。小林と真弓の不倫現場をカメラに収めながら、山田は小林への復讐を決行するXデーを、玲子の抱く疑惑へのカウンターとして真弓も招く、自宅での小林誕生パーティー当日に定める。
 相変らずといふか性懲りもなくといふか進歩がないといふか、動機がメリハリをまるで欠いたまゝなし崩し的に開陳される復讐譚は、小林宅に突入した山田の一暴れで、即物的あるいは表層的な頂点を、矢張り特に頂きといふほどの盛り上がりを見せる訳でも別にない。女優陣の粒は、若干弱い主演に目を瞑りさへすれば手堅く揃つてはゐるので、つらつら流れる女の裸を、うつらうつら眺めてゐる分には、オフ・ビートな眼福を満喫出来ぬではない。
 最早戦慄すら催させる恐るべき無自覚が、暴力的なニヒリズムさへ喚起しかねないのは結末。小林宅に侵入した山田は、玲子を先頭に、家に帰宅したのと訪問した順に小林と真弓も拘束する。勿論玲子と真弓は犯し、現場写真を突きつけ、小林の不倫を暴露する。不法侵入・監禁・強姦・強盗etcと、死んだ妹の復習のためとはいへ凶悪犯罪博覧会の様相を呈する。一件後、そんな山田が辿る顛末は。真弓の指から抜き取つた小林からのプレゼントの指輪を、のうのうと何食はぬ顔で京子にエンゲージリングとして手渡すと、二人は手放しにラブラブな様子で全くのハッピーエンドを迎へる。だなどといふのは、一体全体如何なる了見か。観客の心理のベクトルを、何処に持つて行きたいのだかサッパリ判らない。最も恐ろしいのは、恐ろしいものを作らうとしてゐる者の生み出すものではなくして、矢張り何も考へずにものを作る手合だといふことなのか。少なくともシークエンス単位としては判り易く大袈裟な破綻も見られない分、ツッコミ処にも欠く始末。何故だらう、一言でいふと、小川欽也に負けたやうな気がする。


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 「黒髪教師・劣情」(2000『高校教師 ‐赤い下着をつける時‐』の2008年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督・脚本:中村和愛/企画:稲山悌二/製作:奥田幸一/撮影:小山田勝治/編集:酒井正次/助監督:横井有紀/写真:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/監督助手:田村孝之・久保田博紀/撮影助手:岩崎智之・山内匡・小山田智之/現像:東映化学/協力:《有》ペンジュラム・《有》マルコト・スナックエレナ・ビジュアルマイン・《有》ライトブレーン・《有》ファントムラインジャパン/出演:藤井さとみ・優生通子・夢乃・村上ゆう・銀治・真央はじめ・樹かず)。協力のファントムラインジャパンは、川村真一の制作プロダクション。
 交される音声のみで、妊娠した石原美樹(藤井)が恋人・黒沢義之(真央)から無下に捨てられ、堕胎した過去が語られる。親のない美樹を膝枕に乗せ、姉・歩美(村上)が童謡の「ふるさと」を歌ひ慰撫する。姉の膝枕に慰められるヴィジュアルは、美樹が度々見る回想夢であつた。このワン・ショットにのみ登場の村上ゆうに、当然濡れ場は設けられない。数学教師として勤める高校にぼんやりと向かふ美樹は、フと目にした光景に驚き足を止める。目を見開いた美樹からカット変ると新題タイトル・イン。ここで本来ならば必要なツー・ショットが抜けてゐるのは、旧題が実景に被せられてゐたからなのか?
 大半の者はてんで真面目に受けてなどゐない、崩壊気味の美樹の授業。少々派手な者も中にゐるものの、高校生に見える大勢がその他生徒要員で登場。二留の牧原幸太郎(銀治)が唯一人授業に耳を傾け、問題児の割には、当てられた質問にもキチンと答へてみせたりなんかする。後に語られる、牧原が身長を理由に野球を断念させられてからグレた、とかいふ狙ひ撃ちの直撃する設定はもう少し何とかならなかつたものか。そこに、まるで悪びれるでなく、小宮真知子(夢乃)が悠然と遅れて教室に入る。朝方美樹が衝撃を受けたのは、黒沢が、如何にも一夜を過ごした風情で真知子と歩いてゐたからであつた。美樹は同僚の体育教師・池上小百合(優生)に黒沢の件を相談すべく、行きつけの、下校時間付近の夕方から開いてゐては、終電に間に合ふ時間には閉めてしまふ不自然なバーへと向かふ。正方向の男前全開の樹かずは、バーのマスター。先に店を後にした美樹は、深夜の清掃バイトに汗を流す牧原に目を留める。その頃二人きりのバーでは、小百合が事前に入念に匂はされたマスターへの想ひを、遂に告白。事後の遣り取りまで含め、ここでの濡れ場は即物的な煽情性の充足を超え、目出度く届き叶へられた恋心に素晴らしく温かい気持ちにさせられる。通常“Welcome to the Waai Nakamura world.”と幕を開け、“Thank you for your having seen this Film.”と締め括られる中村和愛映画の、正しく和愛節が美しく奏でられる。話は戻るが美樹授業風景に於けるその生徒部に対する演技指導も、全く十全。
 帰宅した美樹を、不意の来客が訪れる。誰かと思ふと、かつて貸したきりになつてゐた金を返しに来たといふ黒沢であつた。真知子とは別れたと称する黒沢の泣き落としに美樹の弱さは陥落、二人は再び体を重ねる。ところが事後、黒沢の携帯には、普通に連絡を求める真知子からの電話がかゝつて来る。翌日、相変らず堂々と遅刻して登校した真知子はいきなり授業中にも関らず退学届けを叩きつけると、泥棒猫としかも美樹の頬を張る。
 肉感的の徳俵を残念ながら明確に割つてしまつた藤井さとみはひとまづさて措き、優生通子と樹かずとで一旦は美しい頂点を迎へておきながら、中村和愛がやをら自爆上等と突つ込んで来るのはここから。授業中に教師が生徒から頬を張られ、教室は俄かに騒然となる。「ゴメン!」と藪から棒に立ち上がつた牧原が、滅茶苦茶に火に油を注ぐ。「ゴメン、俺が先生を守つてやるよ」、「愛してる」。幾ら何でも箆棒だである、普通ならばここで壊れておかしくない映画が、ところが何故だか、頑強に踏み止まる。そこから無理矢理、美樹と牧原の、最早道ならぬことなど問題にならないラブ・ストーリーへと移行した物語は延々と、剥き出しの純情をノーガードで撃ち合ふ決死の展開へと突入。その中でも素面によく出来てゐる箇所といへば、深夜に牧原の姿を求め街に出た美樹は、何時ものやうに歩道橋を清掃する様子を確認する。牧原も美樹の視線に気づき、何事か言葉を発さうかとしたところで、先輩から呼ばれ慌てて仕事に戻る。といふ、まあそれもそれで類型的な場面程度しかないといへば確かにない。とはいへ、今作中小百合とマスターの件に於いて既に明らかであるやうに、中村和愛には、丹念に積み重ねたシークエンスを、見事に万事成就させる正攻法も十二分に可能である筈だ。にも関らず敢てそれをかなぐり捨て、今回中村和愛は捨て身の正面戦に討つて出た。いはば映画を捨ててまで追ひ求めた、ベタ以前の物言ひにもなつてしまふのは甚だ恐縮ではあるが、求め合ひ、結びつく心と心の愚直なエモーションに、私も底の抜けた阿呆であるからやも知れないが、少なくとも個人的には胸を撃ち抜かれた。平板な技術論からは世辞にも褒められた一作ではないにせよ、時に真のロマンティックは、そこから外れた地点に存する時もある。たとへそれが、しばしば全く極私的で、凡そ共有の適ふ筋合のものではなからうとも。今作が明後日か一昨日作であつたとしても、それは強い決意に裏打ちされた、覚悟の上での頓珍漢である。だとしたならば、そこから生み出されたロマンティックがエモーションが、それはそれとしての強さを、持ち得る可能性も時にあるのではないか。それは最早殆どラックにしか頼るほかはなく、だからこそ、平素あるべき技術論の土壌からは酌むべき点なし、といふ結論しか出て来ない訳でもあるが。

 出し抜けに「ゴメン!」と立ち上がつた牧原に、観客に対する中村和愛自身の姿をも重ね合はせられまいか。ごめん、俺はこの映画を捨てる。それでもなほ、描きたいものがある。流石に、牽強付会どころの騒ぎではないアクロバットに過ぎるやも知れぬ。名作・傑作の類とは決していひ難いが、一ファンとして、私は今作を買ふ。


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 「したがるかあさん 若い肌の火照り」(2008/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vパラダイス/監督:堀禎一/脚本:佐藤稔/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/協力プロデューサー:坂本礼/音楽:神尾光洋/撮影監督:清水正二/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也・森孝幸/撮影・照明助手:海津真也・種市祐介・広瀬寛巳/スチール:牛嶋みさを/編集:有馬潜/美術協力:若林将平・中川大資・伊藤一平、他/ロケ地協力:牛久フィルムコミッション、他/協力:小山田勝治・サトウトシキ、他/出演:かなと沙奈・速水今日子・青木りん・杏ののか・吉岡睦雄・下元史朗・飯島大介・水沢萌子・川瀬陽太・元井ゆうじ・伊藤猛)。出演者中伊藤猛は、本篇クレジットのみ。元井ゆうじが、ポスターには元井祐治。
 本倉摩耶(かなと)は通つてゐた短大の講師・周治(元井ゆうじ/遺影としてのみ登場)と結婚するも、結婚後一年、周治は脳溢血で急逝する。そのまゝ周治の連れ子・周平(吉岡)と二人一軒家に同居する摩耶は、同い年の義息と、さして罪悪感を感じさせるでもなく易々と一線を越える。インモラルといへば確かにインモラルではあるのだが、人間といふ生き物の姿として血肉を通はせぬでもないので、ここは一旦通り過ぎる。最早バランス、といふかデッサンすら失してオッパイの大きな周平の彼女・三輪佳織(青木)は、そんな彼氏の同居する義母が若過ぎるのに臍を曲げ、周治の兄・周市(飯島)は、独身の末弟・周造(下元)との再婚を摩耶に促す。次弟の寡婦と、未婚の末弟とを纏めて片付けてしまはうとする周市の、いい加減に調子の良さもそれはそれとして現実的であるとはいへようが、今作中視点としては一切出て来ない、摩耶の実家はその場合黙つてゐようか。摩耶が大量に貰つた素麺を友人の杉山由梨(杏)にお裾分けに行くと、今は由梨と同棲するかつては摩耶の交際相手・森野時男(川瀬)は、由梨の目前であるにも関らず、摩耶に復縁を迫る。それもそれで如何なものよといふ衝撃が、その後特に回収されることはない。
 速水今日子は、周治の前妻、といふことは即ち周平の母親でもある高野千紗子。周治とは、千紗子の方が男を作り別れた。小娘のやうな芸名の水沢萌子は、周市の妻・友子。伊藤猛は摩耶が桃を買ひに行く沼尻青果の大将、然しこの人は八百屋の店先がよく似合ふ
 木端微塵の前作「色情団地妻 ダブル失神」(2006/ダブル主演:葉月螢・冴島奈緒)後一般映画に進出してもゐた、堀禎一のピンク帰還作。さうなると、城定秀夫や羽生研司にも往生際の悪い期待を抱いてゐてもいいのであらうか。因みに、その一般映画「妄想少女オタク系」(2007)、「憐 Ren」(2008)の二作は、何れも小屋でしか映画を観る習慣がないゆゑ憚りながら未見。対一般層装備かと思はれる青木りんと杏ののかの演技力の不足は微妙に響くが、基本線としては、憤懣やるかたなかつた「色情団地妻」ほどの惨状を呈してはゐない。濡れ場には非ざる周市と友子の絡み、濡れ場含めての周造と千紗子との絡みは豊かに見させる。とはいへ、最終的には堀禎一と佐藤稔は又しても仕出かしてみせる。コンビとしての破壊力でいふならば、国映の新田栄&岡輝男か。摩耶を中心に据ゑた男と女の相関図は周平・時男、そして一応周造にも繋がり、一方周平のそれは、摩耶と佳織に繋がる。ドラマ・パートのクライマックス、摩耶は周平に感謝を伝へ、それに対し周平は了解した旨を叫ぶ。そこから結局、その件からは確かに現状を捨て歩き始めるかのやうに思はせた、摩耶が何処に向かつて行くのかが皆目判らない。それまで劇中に鏤められたものと、それから締めの一戦で相変らず安寧と体を重ねる摩耶と周平の姿からは、明示的なものは何一つ導き出し得ないやうにしか見えない。良きにつけ悪しきにつけ、主人公の下した決断を、その作品に触れる者に納得させる。その強度こそが、作劇上の勘所の、最たるものではないのか。雰囲気だけ漂はせておいて暗示すら避けるかういふ態度を、当サイトは単なる無為無策、乃至は唾棄すべき怠惰として排するものである。詰め切ることが最も困難な段取りであるとするならば、敢て詰め切らないといふことは、要は詰め切れなかつたことと変りはしないと見做されても仕方あるまい。

 意図的にか不作為にか見事にあつさりスルーされてしまつたが、少なくとも個人的には戦慄の走つたワン・カット。摩耶は由梨宅へ、時男に詰め寄られた勢ひに負け置いて来た自転車を回収しに出てゐる中、周平が留守番する家に摩耶を訪ねて来た周造と、周治に線香をあげに来た千紗子とが揃ふ。その流れで酒席を三人で囲み、周平も夜になつても未だ帰らぬ摩耶を迎へに出た隙に、周造と千紗子は懇ろになる。それも、周市兄貴としてはどうなのよ。そこに、摩耶が行き違ひで一人帰宅する。素直に結合、あるいは「釣りバカ日誌」風にいふならば“合体”を解けばいいものを、千紗子と繋がつたまゝ八足歩行でもするかのやうにユーモラスに身の隠し場を求め右往左往する周造の裸の尻を、摩耶は「周平君なの?」、と義息のものと誤認する。周造が周平からパンツを借りる伏線も置いてあるものの、男の裸の尻を前にしながら、摩耶はそれが周平のものかと、周平の尻ならば一欠片も狼狽しないのだ。論理的には、この時点で二人の触れた禁忌は露顕してしまつてゐる筈であらう。


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 「監禁の館 なぶり責め」(2008/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/監督助手:新居あゆみ/撮影助手:宮永昭典/照明助手:小松麻美/音楽:與語一平/出演:沢井真帆・倖田李梨・Aya・岡田智宏・石川雄也・松浦祐也・サーモン鮭山・青山えりな)。何がどうスッ転んだものか、松浦祐也の下の名前がポスターでは“拓也”にされてしまつてゐる、きのふけふピンクに出始めた訳でもなからうに。因みに、松浦祐也のピンクデビュー作はといふと「お仕置き家庭教師 ノーパン個人授業」(2004/監督:新田栄/脚本:岡輝男/主演:望月梨央)の、更に前に、実はカメオで城定秀夫必殺の処女作「味見したい人妻たち」(2003/主演:Kaori)に顔を出す。脚本の当方ボーカルは、小松公典の飽くなき変名。
 音も照明も貧弱ないはゆる今時のクラブと、木馬の置かれた殺風景な部屋。結果論からいふと、クラブ描写の惨状が、以降の全篇を象徴しもする。
 仲良く喧嘩しながら奥深い山道を行く、左千夫(岡田)と喜子(倖田)。左千夫は滝の眺めの絶景な穴場に喜子を連れて行くと、その場で一撃必殺を期した求婚を申し出る。感激に一旦は綻びかけた、喜子の頬が恐怖に引き攣る。二人の前に助けを求め不意に現れた傷だらけの男・哲治(石川)と、それを追つた、真つ赤な長襦袢に手には金槌を握つた昧宮真耶(沢井)に、更に滝の上には子供サイズのチビTに短パン姿の安(松浦)兄妹。真耶の金槌に昏倒させられた左千夫は、車椅子に拘束された上山荘に監禁される。自由を奪つた左千夫に跨る真耶、一方、喜子を陵辱する安の傍らには、ある時は人間食卓である時は人間犬の、朋子(Aya)が従順に傅いてゐた。
 竹洞組の山奥監禁陵辱ものといふと、二年前の決死の傑作、「乱姦調教 牝犬たちの肉宴」が容易に想起されよう。とはいへ今作は、「牝犬たちの肉宴」とは比ぶるのも憚られる、睡魔の波状攻撃に徳俵で屈するのが精一杯の凡作に堕してしまつた。主な敗因は、メリハリを全く欠いた演出と、起伏に乏しい展開。そして酷い目に遭ふ主人公が、青山えりな(と倖田李梨)から、岡田智宏に移行してしまつたことも大きいか。男が沢井真帆に蹂躙されたとて半ば結構なことにも思へて来る、といふ仕方もないだらしなさの以前に、異常な体験に慄いてゐる筈の表情が、吹き出すのを堪へてゐるかのやうに見えてしまふ、十三年といふ芸暦をモノともしない岡田智宏の天真爛漫さが完全に致命的。青山えりなは、クラブで目星をつけた哲治を誘惑し尺八を吹くと見せかけて、男性自身にスタンガンをフル・コンタクトしてKOする、といふ荒つぽいにも程がある手口で―そこで使ひ物にならなくなつてはどうするつもりだ?―安・真耶兄妹の“新しい玩具”を調達する、長姉・亜子、濡れ場も無し。前作―といふいひ方が許されるとして―の決戦兵器を最前線に投入、しなかつたのか出来なかつたものかは兎も角、主戦場での青山えりな不在も本作不発に響いたか。
 尺も後半戦に突入、漸く左千夫が脱出を果たし、たものの最初に襲撃された時点で落としてゐた携帯はお亡くなりになつてしまつた為、仕方なく自力での喜子救出を果たすべく山荘に戻つたタイミングで、新たに囚はれてゐたサーモン鮭山登場。折角シャバに出て来たといふのに直ぐにこんな羽目になつてしまつた、元粗暴犯と思しき“気紛れ丈二”―劇中さう自称する―が制止する左千夫も振り切り飛び出したところで、これで物語も少しは動き出すかと期待したのも本当に、見事に束の間。丈二も秒殺で、その描写も割愛されたままに返り討たれしまふと半ば万事休す。人間雑木林も画としての貧相さが先に立ち決定力を持ち得ず、厳冬から見るからに心地良ささうな初秋頃に季節を移した風景も、そこで快適になつてしまつてどうする、といふ話に終らう。明かされる真相も“友達”を“玩具”と言ひ換へただけでロジックは全く成立せず、強ひなくとも挙げられるヒット・ポイントといへば、Ayaの人間犬ぶりくらゐといふ有様である。他は劇伴に使用される、清々しく薄いエレクトロか。真横にフォロー・スイングを取りながら、結局は真耶が上から相手の脳天を撃ち抜くのは、頓珍漢な方向に可笑しかつた。

 ひとつ余計な与太を吹くと、惨劇の被害者が青山えりなから岡田智宏へ。このセンを明後日に推し進めれば、更に二年後恐ろしい体験をするのはソフィービー・ルミか。そこに一義と花子とが救出に飛び込んで来る類の、前半と後半とでまるで趣向を違(たが)へるミクストな娯楽映画というのも、それはそれで一興といへるやうな気もする。


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 「痴漢蚊帳の内 茄子と四十路後家」(2008/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:蒼井ひろ/企画:亀井戸粋人/プロデューサー:伍代俊介/撮影監督:創優和/撮影助手:丸山秀人/照明助手:宮永昭典・小松麻美/助監督:加藤義一/監督助手:小山悟/スチール:阿部真也/メイク:篠原ゆかり/編集:有馬潜世/制作協力:フィルムハウス/出演:竹内順子・倖田李梨・杉本愛理・岡田智宏・成田渡・小林三四郎)。
 蚊帳の中、肌蹴た乳房を自ら揉みしだく女。家々を回る、営業の男。女が女将を務める小料理屋に入つてタイトル・イン。
 松本美和(竹内)の夫・真介(成田渡/遺影としてのみ登場)は四年前、不倫相手との交際のもつれを苦に、橋から身を投げ自ら命を絶つ。美和が営む小料理屋「ひなたびより」、美和が表の鉢植ゑに水でもやるかとしたところに、訪問リフォーム業者の高沢春彦(小林)が通りかかる。高沢は立てつけの悪い入り口の引き戸を直すと、日を改めた来店を約しひとまづ立ち去る。「ひなたびより」には、けふも常連客の酒屋二代目・渡辺孝司(岡田)と純子(倖田)夫婦が訪れてゐる。孝司が最近界隈で噂の、目星をつけた女を薬で昏睡させ事に及ぶ、「水のないプール」な痴漢氏の話を切り出すと、純子は藪から棒に、自分はその男に犯されたのかも知れないだなどと箆棒なことをいひ出す。血相を変へた孝司は慌ただしく純子を連れ帰ると、手篭めにでもするかのやうに女房を抱く。その夜、生前の真介に一度茄子を入れられたことを思ひ出しながら自慰に耽り床に就いた美和は、夢の中で孝司の噂話通りの謎の男に抱かれる。それは果たして、夢なのかそれとも現実なのか。主演の竹内順子は、“T○F元バックダンサー”とかいふ経歴に、訴求力があるのだかないのだかよく判らないAV女優、ナルトの中の人とは全く別の人。迫力のある肢体が見映えはするものの、横になつた際の乳房の張り具合には、一抹以上の疑念を拭ひ切れない。不美人といふ訳でも決してないが、表情は終始乏しく、硬い。
 杉本愛理は、真介が身を投げた橋の袂で、姿を消した父親を探す高沢優奈。明確に義姉に想ひを寄せる真介の弟・真二(成田渡の二役)は、それを真介の不倫相手と誤認し喰つてかゝる。真二が美和に渡した、優奈から借りて来たといふ父親の写真は、高沢のものだつた。
  前作以来、凡そ丸二年ぶりともなる坂本太のピンク復帰作は、気負ひが過ぎたのか、余計な色気が消化不良を残す結果に終つてしまつた。蚊帳といふATフィールドを挟んでの、“待ち続ける女”と“逃げ続ける男”とのメロドラマは、脚本の薄さ以前に、小林三四郎も兎も角として、竹内順子にはどうにもかうにも手に余る。そこを強引に乗り越えて行く強靭なドラマ演出も、坂本太の本分ではなからう。加へて、美和が高沢と暮らし始めた途端に蚊帳を片付けてしまつては、女の姿としてはリアルさも感じさせるが、それでは蚊帳が映画全体に於ける鍵として如何せん機能し難い。優奈と真二のファースト・コンタクトへの布石の置き方の丁寧さは買へるが、優奈の濡れ場を真二相手に展開するに際して、「もう一度生まれ変りたい」。同じ言葉を残しての、兄を喪つた男と、今将に父を喪はんとしてゐる女とが、同じ場所に居るだの居ないだのといつた事の運び方は、藪から棒にもほどがある感を禁じ得ない。意欲が窺へぬでもないものの、素直にエクセス本流の、そして元来坂本太が十八番とするところの実用性の一点突破に潔く徹してゐれば良かつたものを、即物的な煽情性には富んだ筈の主演女優を擁してゐながら、全般的には生煮えに終つた印象が強い。ラストの刹那の凶行は、らしくないといへばらしくないが、ただそこへ向けての、孝司の引張り方は全く過不足なく秀逸。正攻法のドラマ志向を横好きと無下に斬つて捨てるには流石に少々吝かだが、折角久方振りの坂本太には、メロドラマなどではなく、好調時にはポップ感も心地良いエロドラマを、矢張り見せて貰ひたかつたところではある。


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 平成21年映画鑑賞実績:228本 一般映画:23 ピンク:180 再見作:25 杉本ナンバー:50 ミサトナンバー:7 花宴ナンバー:5

 平成20年映画鑑賞実績(確定):218本 一般映画:34 ピンク:160 再見作:24 杉本ナンバー:46 ミサトナンバー:4 >然し一般映画が少ないな、手が回らん

 再見作に関しては一年毎にリセットしてゐる。その為、たとへば三年前に観たピンクを旧作改題で新たに観た場合、再見作にはカウントしない。あくまでその一年間の中で、二度以上観た映画の本数、あるいは回数である。二度観た映画が八本で三度観た映画が一本ある場合、その年の再見作は10本となる。

 因みに“杉本ナンバー”とは。ピンクの内、杉本まこと(現:なかみつせいじ)出演作の本数である。改めてなかみつせいじの芸名の変遷に関しては。1987年に中満誠治名義でデビュー。1990年に杉本まことに改名。2000年に更に、現在のなかみつせいじに改名してゐる。改名後も、旧芸名をランダムに使用することもある。ピンクの畑にはかういふことを好む(?)人がままあるので、なかなか一筋縄には行かぬところでもある。
 加へて戯れにカウントする“ミサトナンバー”とは。いふまでもなく、ピンク映画で御馴染みプールのある白亜の洋館、撮影をミサトスタジオで行つてゐる新旧問はずピンクの本数である。もしもミサトで撮影してゐる一般映画にお目にかかれば、当然に加算する。
 同様に“花宴ナンバー”は、主に小川(欽也)組や深町(章)組の映画に頻出する、伊豆のペンション「花宴」が劇中に登場する映画の本数である。


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