真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「結婚前夜 やさしく挿れて」(2017/制作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/演出部:三上紗恵子/撮影助手:船田翔・染谷有輝/音楽:安達ひでや・首里音楽研究会/挿入歌:作曲:安達ひでや・作詞:荒木太郎『人生負け祭』/ポスター:本田あきら/制作:佐藤選人・小林徹哉/現場進行:手島有・冨田訓広/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック《株》/出演:麻里梨夏・神納花・今井ゆあ・夕須虎馬・冨田訓広・野村貴浩・牧村耕次/弁士:稲葉良子)。クレジットの大半はタイトル・イン直後の冒頭で、稲葉良子のみオーラスのエンド・マーク前。
 多呂プロ立体ロゴからモノクロ開巻、以降全篇に亘りモノクロとカラー各パートを往き来する格好なのだが、回想が全てモノクロでといふ訳でもなく、今井ゆあの濡れ場のやうに途中から色がつく件もあり、一見ランダムにしか見えないスイッチの基準は、デジタルにつきかういふ作業も簡便になつたといふ方便のほか釈然としない。稲葉良子が太宰治『弱者の糧』の朗読をオッ始め、要は大体「昭和枯れすすき」の節に、何もかんもに負け倒す歌詞がグルッと一周して痛快な挿入歌が起動した上で、パッチワーク風のタイトル・イン。後述する何と当人をも大登場させる闇雲な太宰治フィーチャーも、最終的には『一匹と九十九匹と』にも連なる太宰の卑屈と紙一重の映画観に荒木太郎が寄せる共感が、現作家としての志込みで酌めなくもないものの、斯くも断片的な引用では、実際の出来栄え上は藪から棒な印象に止(とど)まる。
 ロングで波打ち際を急ぐ二人の男、山上恒彦(牧村)の息子・達彦(野村)が、先に妊娠させた婚約者・斉藤藍(麻里)の家に父子で御挨拶に向かふ。ここから、といふか開巻で既にでもありつつ、所々で黙りながらも、初つ端は恒彦を上条恒彦と絡めたネタが爆裂する稲葉良子による口上大起動。こちらも改めて後述するが、これも荒木太郎が書いたのか案外気の利いた台本と、稲葉良子の自由自在な話芸ともに申し分ない。藍にも母親はをらず、どちらかといはなくとも恒彦より達彦に齢の近い比呂志(夕・・・・が苗字でいいのか?)は藍にとつて義父で、職業はホストだつた。達彦には失踪したと話してゐた母親に関し、恒彦が“亡き妻”と口を滑らせた弾みで、二人の父親は銘々身の上話を始める。
 配役残り今井ゆあは、三十五年前、リストラされ失意の恒彦が出会つた、当時ガソリンスタンド店員の達彦母・美奈子。妙に自信満々で恒彦の前露にする、自慢の爆乳が確かに威力絶大。重要な役ともいへ実は殆ど単なる濡れ場要員であるにも関らず、さう思はせないだけの確かな存在感を刻み込む。達彦が生まれて間もない頃、ある朝美奈子は起きて来ず、傍ら達彦も泣いてゐた。後々の描写を見るにリサイクル業を開業したと思しき恒彦が構はず仕事に出たところ、帰宅してみると美奈子は死んでゐた。といふのが、達彦に秘してゐた母親不在の真相。美奈子を搬送する救急隊員は、画面手前がコバテツに見えるのでだとすると制作部か。そして四年ぶりの復帰後荒木組三作連続登板の神納花が、藍の母親・春子。元々比呂志とは幼馴染の年上のお姉さん的な関係で、社会的地位も収入もあるけれどクソDV野郎の藍実父(荒木太郎)との生活に疲れ果てた春子が、客引き中の比呂志と再会したのが二人の馴初め。比呂志との再婚で平穏な幸福を取り戻した春子ではあつたが、交通事故で死去する。冨田訓広は、藍の子供の父親は比呂志ではないかと達彦に吹き込む―達彦も働く―古道具屋従業員と、着流しで飛び込んで来ては“私は、たいていの映画に泣かされる”と『弱者の糧』を引き続き一頻り打つ、よもやまさか太宰治当人の二役。正直精々ギター侍で、似せようとする意識は微塵も感じられない。面影で攻めるとなると・・・・岡田智弘辺りが衣裳は兎も角メイクの力も借りればいい塩梅に寄せられないか?
 闇よりも暗い神納花(ex.管野しずか)復帰作、枠そのものが恐ろしい不吉な怪談映画と結構壮絶な二連敗が続いた荒木太郎の、2017年第一作。ところがこれが、満更でもないから矢張り映画は観てみないと判らない。これから結婚する若き二人と同等か寧ろそれ以上に、二人の父親をフィーチャーした構成にしては、その若い方は佐川一政と舛添要一を足して二で割つたが如き、何処で拾つて来たぶりを迸らせる馬の骨に過ぎない。割に、夕須虎馬のところに空いた穴は適宜俳優部の全員野球でカバーする。絡みに突入してなほ始終姦しい稲葉良子の口上は、一見あるいは一聞するに不要な意匠で映画を散らかす荒木調ならぬ荒木臭の極致かと思ひきや、絡みの展開を思ひのほか的確にサポートするのと、締めの初夜に於いては麻里梨夏の乳尻に対する観客のエモーションを効果的に誘導する、のみならず。突入に際する女の裸を観に来た者供に対する注意喚起の返す刀で、素面の観客以外の一大どころかある意味主要勢力、ハッテン勢を牽制してのけるのには、荒木太郎の癖に洒落た真似をしやがると激しく感心させられた。偏に映画だけでなく、小屋にも向けられた荒木太郎の眼差しには軽くグッと来た。尤も、よくよく考へてみるまでもなく、映画館シリーズの荒木太郎を捕まへて、何をこの期に寝惚けた与太をと難じられるならば、全く以て仰せの通り。咥へてもとい加へて、少々薄味の物語も、最後は牧村耕次の朗々とした大歌唱で些末を吹き飛ばす大団円を捻じ込んでみせるのは、上手くハマれば多呂プロの御家芸。そして文字通りの手作り感が微笑ましいLucky号の砂浜ラン、もう少し物理的速度込みで疾走感が欲しかつた気持ちも残らぬではないが、陽性の娯楽映画の着地点として綺麗に抜けてゐる。オッパイオッパイして、思ひ返すほどの話の中身もないけれど、スカッとした心持で家路に就く。それはピンクの、別に偉ぶらなくともひとつの然るべき姿ではなからうか。


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 「痴漢電車 いぢわるな視線」(1999/製作・配給:大蔵映画/監督:渡邊元嗣/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:田中康文/撮影助手:岡宮裕/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:黒田誌織・西藤尚・しのざきさとみ・新崎貢治・やまきよ・十日市秀悦)。
 林の中から制服姿の黒田詩織がプラップラ出て来るけれど、感動的に女子高生には見えない。佐伯明衣(下の名前の読みはメイ/黒田詩織)が幼馴染の太田か大田和巳(新崎)にポップにオーイすると、劇伴起動して初めてのデート。適当にキャッキャウフフする二人に、明衣に横恋慕する体育教師の胡桃沢健二(十日市)と、そんな胡桃沢に岡惚れするこずえ(西藤)が穏やかでない視線を送る。ところで幾らポジショニング的な要請にしても、こずえのヴィジュアルがいはゆる瓶底メガネにマジックでそばかすを描いた、あんまりな造形。和巳がモジモジ告白しては、みたけれど。明衣は和巳が照れ隠しに石を蹴つた川の波紋と、口にした“可愛い”の単語に何故か過剰に反応して昏倒。送られた自宅の津田スタでも、プレゼントの中身が可愛いカタツムリのブローチ―実物蝸牛にリボンをつけただけの代物は、別にも何も全然可愛くはない―で、渦巻模様と“可愛い”の単語に止めを刺された明衣は、アイシャドウもバッキバキに直線的な淫語を乱打する淫乱女に変貌、を通り越して殆ど変身する。兎も角突入する―どうせ和巳も―初体験に、胡桃沢は笛の音で蛇を操り介入、煌びやかなまでの藪蛇ぶりにクラクラ来る。和巳のキンタマに噛みついた蛇を、明衣は引き千切つた電気コードの電流で引き離さうとする、また無茶な娘だ。となると当然、黒焦げアフロで煙を吹くところまで完遂する感電オチ。瓶底×そばかす、アイシャドウで淫乱女、藪蛇な蛇使ひ、そして何も足さなければ何も引かない感電オチ。チープ・ポップの権化たる渡邊元嗣こと我等がナベ怒涛の連打を前に、まだその陳腐の才もとい天賦の才を疑ふものがあるであらうか、いや、ない
 とも、かく。明衣が両親と渡米する出し抜けな別離の五年後、ウィンドウ・ディスプレイの職に就いた和巳と、何時の間にか単身帰国してゐた明衣が背中合はせで電車に揺られるものの、くたびれてるのか和巳は立つたまゝ居眠り。和巳の手荷物から飛び出すマネキンの指先が、器用に明衣の尻にちよつかい。その他乗客が提げるドリキャス―の渦巻―と、中吊り広告に躍る“かはいい”の単語に点火された明衣は、遂には弾みでマネキンの指も折るほど自ら腰を使ふ大ハッスル。降車際に漸く明衣の存在に気づいた和巳は、今は探偵に転職してゐた胡桃沢に明衣捜しを依頼する。
 配役残りしのざきさとみは、明衣に百合の花香らせる隣人・弥生。やまきよは徹頭徹尾明衣に電車痴漢を仕掛けるためにのみ出て来て用が済むと潔く捌ける、純然たる男優部濡れ場要員。その他、明衣を挟んで和巳と胡桃沢が巴戦を展開するところにこずえが介入するラストの痴漢電車に、佐藤吏がさりげなくでもなく見切れる。
 捜査官はまだしもチン機軸の海水浴と、全六作中の半分痴漢づく渡邊元嗣1999年第四作。恐怖の大王、何処吹く風。これてつきり、胡桃沢が車内で痴漢にうつゝを抜かしながら明衣を捜す、兄弟子・滝田洋二郎の黒田一平シリーズに渡邊元嗣が挑んだものかと、思ひきや。二番手の筈の西藤尚が最終盤に至つて漸く導入程度の電車痴漢を被弾するばかりで、脱がない横紙をさりげなく破りつつ、始終は如何にもこの時期のナベと面子から容易に予想し得る水準のグダグダしたコメディに終始。劇中ただ一点明確に弾ける、そこかしこでアコギを爪弾き倒す十日市秀悦によるオリジナル主題歌を完奏して漸く、今作が明衣ならぬ「メリーに首つたけ」のリメイクであつた驚愕の事実が発覚する。これ、途中で気づいた人どれだけゐたんだろ?

 最後まで聴かせないと趣向が成立しないゆゑか、タイトル・インは主題歌を完奏したオーラス中のオーラス。それでも、監督クレジットが出た辺りで、切つてしまふ小屋は容赦なく切つてゐたにさうゐない気もする。


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 「不倫狂ひの人妻 喰ひまくり」(1993『若奥様 不倫漏らす』の2000年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/美術:衣恭介/音楽:MGC/効果:協立音響/編集:井上和夫/助監督:小林豊/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:中上絵奈・松下英美・摩子・羽田勝博・夢野和樹・神坂広志)。美術の衣恭介は、木俣堯喬の変名。
 中上絵奈と夢野和樹の濡れ場で開巻、キャスト・スタッフの順でクレジットが先に走り、垂直に垂れる白濁液にタイトル・イン。呑気に庭でゴルフクラブを振るカシワギケンサク(夢野)が、お手伝ひの前田みよ子(松下)に軽く手を出す。二匹の猫を可愛がる妻のマミコ(中上)に、同族経営の会社で働くケンサクは朝まで仕事をしてゐただとかで、その日は出社しない旨を言明、平日なのかよ。マミコもマミコで夫の気紛れを気軽に受け、家事は自分がすることにしてみよ子に終日の暇を出す。
 配役残り羽田勝博が役職不詳のケンサクの兄で専務、摩子が秘書といふ名の愛人。といふか、愛人を秘書に据ゑた要は大蔵貢方式。この二人、前妻と死別した半年後に課長の娘であるマミコを押しつけたケンサクから、ハネカツが摩子を強奪した格好。元々は水商売の女であつた摩子にハネカツは何のかんのと悪態をつき続けつつ、昼夜を問はず何だかんだ抱く文字通り腐れた腐れ縁。神坂広志は、街に出たみよ子が落ち合ふ彼氏・三郎。
 この期に及んで何のものの弾みか番組に紛れ込んで来た、珠瑠美1993年第三作。DMMでも見られない珠瑠美旧作―新作があり得る訳でもなからうが―に、タマキュー!と絶叫しながら小屋の敷居を飛び跨いだものだが、よくよく考へてみるまでもなく、そもそも動画配信でわざわざ珠瑠美を見るところからどうかしてゐる。幾ら大原則として映画は観るなり見ないでは何も始まらないとはいへ、さういふ小賢しくさへない美徳の衣を纏つた貧乏性如き、易々と限りなく十割に近い打率で粉砕して後には草一本残さないのが珠瑠美。どうしてこの人は、登場人物の相関関係程度が関の山で満足な物語の“も”の字も設けずに、銘々が好き勝手に入り乱れ挿しつ挿されつするだけで映画が撮れるのか、挿しつ挿されつするだけの映画を量産もとい粗製乱造出来るのか。珠瑠美旧作を戯れにタマキューと略してみたものの、何だか、珠瑠美に腰骨を砕かれたピンクスの―浜岡賢次風―断末魔といつた方が、より適当なやうな気がして来た。劇映画といふにはドラマが限りなく透明に近い、ある意味最も純度の高い裸映画。首から下は申し分ない反面表情の硬い主演女優と、この娘は生気が抜けてゐるのではと心配になりかねないくらゐぼんやりした二番手を制し、超絶美人の摩子が扇の要に座る布陣はそれなり以上に盤石。おまけにエクセスライクも火に油を注ぐタマキューのビリングに、意味なんぞ端から殆どあるものか。正体不明の夢野和樹も男優部としての華はまるでないが絡みもまゝならぬといふほどではなく、何処から観ても何処でやめても全ッ然困りはしない裸がつらつらだかうつらうつら連ねられるに終始する、本当に終始するのみの時間は、それでもその限り、あくまでその限りに於いては安定してゐなくもない。

 ラストがグルッと一周してケッサク、いや、流石の与太吹きも、タマキューを傑作と賞する蛮勇は持ち合はせん。昼間エアロビと偽り三郎と寝て来たマミコに、疲れてゐると夫婦生活を断られたケンサクは、コニャックと称して寝室を後にするやみよ子を半分手篭め気味に抱く。のが尺の満了に伴ふ自動的な締めの一戦かと思ひきや、寝室に戻つたケンサクは平然とマミコ相手に二連戦。化け物か、あるいは病気か。正常位のストップモーションから、一旦切り替つた画面中央に鎮座した“END”が、グワーンッと凄い勢ひでズームするオーラスは、起承転結が転結どころか起から成立してゐようがゐまいが、ここで終りといつたら終りだ!とでもいはんばかりの、断固たる意志が感じられて変に清々しい。


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 「来訪者X 痴女遊戯」(2017/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:飯岡聖英/撮影助手:舟田翔/照明応援:広瀬寛巳/録音:小林徹哉/助監督:菊嶌稔章・小関裕次郎/編集:酒井編集室/スチール:本田あきら/音楽:與語一平/整音・効果:シネキャビン/タイトル:杉田慎二/特殊造形:はきだめ造形/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:石井良太/撮影機材:《有》アシスト/協力:吉田汀子/出演:桜木優希音・木村つな・さちのうた・春原未来・名嶋真・小滝正大・あぶかわかれん)。ひとつよく判らないのが、今回はきだめが何をそんな殊更に特別なものを作つてゐたのか。
 “女と猫は呼ばない時ににやつて来る”とボードレールを引用、血塗れの名嶋真を、木村つなが覗き込む。「この子もまた、私の教へ子だつたのだらうか」、名嶋真が呟くと暗転。実際の事件に基き、一部フィクションを加味した旨のクレジットが入る。ボードレールである意味見事にフラグを立てる勿体ぶつた開巻に、早くも頭を抱へさうになる。繁華街に於ける未成年への声かけ活動で「見回り先生」としても知られる、教育評論家の正木篤志(名嶋)が部屋の中でパターを一打ち。テレビに映るは、正木が出演したテレビ番組「モーニング現代」、あぶかわかれんが女性インタビュアー。ジョギングに汗を流す正木が、気合を入れて駆け上がらうとした階段がフェードすると、最初に大きくXが叩き込まれるタイトル・イン。結果論的には、あるいは事実上。“X”はエックスではなく、バッテンだつたんだけどね。
 正木の妻・千香子(春原)が妊娠、とか何とかな夫婦生活の事後、千賀子の父親が、何処かから転落して大怪我したとの一報が入る。テレビ出演のある正木を残し、千賀子は単身実家に。千賀子がキャンセルし忘れた夫用のバースデーケーキを自分で回収した正木が帰宅すると、マンション自室の前には前住人か野村を訪ねやつて来た、家出臭を爆裂させる水石香澄(さちの)がへたり込んでゐた。入れろ入れないの押し問答の末、一旦昏倒した香澄を、正木は担ぎ込む。ここが最大のツッコミ処、有名人である点も踏まへるならばなほさら、どう考へても正木はその場でスマホの1と1と0を押すところぢやろ。それをいつてはな野暮は兎も角、意識を取り戻した香澄がケーキに文字通り手をつけ、千賀子リクエストの写メを正木が撮れなくなつた件は、もう少し明確にフィーチャーすべきではなかつたか。
 配役残り桜木優希音は、香澄が自発的に退去した正木家に続けて現れる、第二の訪問者・楠沙希。修道女、にも見えないが、兎も角さういふ扮装をしてゐる。国沢組初参戦の小滝正大は、香澄の扱ひに窮した正木が助けを呼ぶ、師匠と仰ぐ児童相談所心理士・戸田博之、ずつとそんな場所に潜んでゐたのには確かにビビッた。観客も巻き込む正木が香澄と見紛ふ混同を意図的に放置する木村つなは、沙希が壊滅させた正木家に重ねて現れる、第三の訪問者・松村真奈。それとオーラス登場する医師が国沢実なのは楽勝か鉄板ながら、看護婦は不明。
 高橋祐太と組んで五作目となる―「マンネリ」以前にVシネその他があるのか否かは知らん―国沢実2017年第一作は、これ、元ネタが「ノック・ノック」だか「メイク・アップ」―要は冒頭の思はせぶりな断り書きも、原映画の方便なり体裁を踏襲しただけか―とか知つてゐたら少しは面白いのか?所帯持ちの男がまだ鬼ならざる配偶者のゐぬ間に、藪から棒に現れた女に理不尽な酷い目に遭ふ。酷い目の内容を膳を据ゑる方向にシフトさせるとなると、如何にもピンク映画的に最適な翻案具合ではある、ものの。最大の敗因は、濡れ場に際しての逆マグロといふほどでは必ずしもないにせよ、発声の覚束なさを見るか聞くに、娑婆でのキャリアも疑はしい主演男優。一人多いのはアクシデンタルなラックらしいが、それなりに豪華な四本柱との濡れ場を一手に引き受けさせるには、甚だ心許ない不足を感じさせる。終盤の落差ないしは飛躍を際立たせるための布石なのだらうが、正木の杓子定規な聖職者属性も、遣り取りの一辺倒加減が惹起する総体的な単調さ―無論、基本部屋から出ない一幕芝居のロケーションも、この点には色濃く作用する―と、肩の力の抜けてゐない時の国沢実らしいといへばそれまでの、監督デビュー二十余年未だに青臭い生硬さとを増すばかり。何れにしても役者が揃はぬことには始まらないとはいへ、災難譚といふザックリした括りでの大体同傾向の話でたとへば最終的には矢張り壮絶なバッドエンドとしても、ナオヒーローが終始ギリッギリ愉快に振り回され倒す池島ゆたか2004年第二作、「淫乱なる一族 第一章 痴人たちの戯れ」(脚本:五代暁子/主演:矢崎茜)のやうな攻め方もあつたのではあるまいか。因みにピンク初陣の名嶋真は、二作続けてほぼほぼレギュラー国沢組を欠場中―次作も含めると三連休、足を洗つたのか?―の、村田頼俊と同じ加藤企画所属。
 草を生やしながらツッコむでさへなく、ダメなところを延々と書き連ねるのも気が引けるといふか不毛な営みにも思へ、琴線に触れたのが、見るから少女少女した風貌から、脱いでみると絶ッ妙にエロいさちのうたの肢体くらゐしか見当たらなかつたゆゑ仕方がない。岐阜を突き落としたのも自分―達―だとか中途半端に手の内を明かした分、マクガフィンといふ訳でもない来訪者の謎なり正体が最後まで晴れないモヤモヤが、総体的な消化不良感に否応なく火に油を注ぐ。全篇に亘つて色恋に関する警句を鏤めてのける、衒学主義にすら至らない安つぽい俗物趣味も鼻につく。国沢実はかういふ真似仕出かす手合だつたかなと首を傾げかけて、前作でもやらかしてゐたのを思ひだした。もしかすると、高橋祐太の悪癖と殆ど同義の嗜好なのかも。何より一番酷いのも通り越して腹が立つたのが、幾分時制も混乱―最早大した問題でもないが―させる、風呂桶の中で小滝正大が振り回す本質も宿さない正しくどうでもいい些末。“血を吐きながら続ける悲しいマラソン”だのウルトラ五つの誓ひだのと、木に竹も接ぎ損なふウルトラ絡みの小ネタでオッサン釣るのがそんなに楽しいか。国沢実は自分の映画で、全体何がしたいのかと志を激しく疑つた。実は鋼の信念で迫るナベとは全く異なつた脆弱さと紙一重の繊細なアプローチで、主演女優をキラッキラに撮り上げる瞬間に、穏やかな温もりとともにこの人の映画は最も輝くやうな気がする。逆説的にリアルな革命映画「特務課の女豹 からみつく陰謀」(2014/主演:伊藤りな)で自ら走り始めた好調を、高橋祐太とのコンビで加速させたものかと思ひきや、この二連敗でみるみる湧き起こる不安は如何ともし難い。とりあへず、無謀か無防備に男優部の青田買ひに挑んでみせるのは勘弁して貰へないかな。あるいは、新顔を満足に御し得ない、この期に及んだ演出力の生馴れに匙を投げるのがより適当なのか。


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 「令嬢玩具 淫乱病」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:河中金美・難波俊三/照明:秋山和夫・渡部和成/音楽:中空龍/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/制作:西海謙一郎/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:姫ノ木杏奈・小川真実・吉行由美・荒木太郎・樹かず・甲斐太郎)。
 楠瀬志帆(姫ノ木)が、東化医院―凄え仮称―で精神科医(荒木)の診察を受ける。荒木先生(仮名)に手を出させた志帆は、荒木がとりあへず出してみた左手を両手で包み、「かうすると安心して話せることに気づいたんです」。姫ノ木杏奈にそれだけの芝居心があるのか否か今となつては甚だ微妙ながら、ニコニコ荒木を翻弄する志帆の見るからヤバい笑顔に、絶妙なリアリズムが煌めく。あるいは上手いこと切り取つた、演出の勝利か。荒木に何か書類を渡しに来た看護婦の潮(吉行)が、傍から見てゐるとデレデレでもしてゐるかのやうにも見えかねない二人の様子に、捌け際何気な不信感を露にするのは、吉行由実、ほかには小川真実や青木こずえら、魔女属性の名女優が得意とするスリリングなメソッド。荒木の目に幾許かの邪心を看て取る志帆に対し、当の荒木は無防備におどけてみせる。変に人を不安にさせる志帆の笑顔を改めて抜いて、無造作さが案外煽情的な筆致のタイトル・イン。
 タイトル明けは蛇口がグラグラ、直してゐるのか壊してゐるのかよく判らない水道修理。志帆は一人で暮らす相続遺産である旧旦々舎に、便利屋「ニコニコ便利社」―便利舎かも―の安野(甲斐)を呼ぶ。数日後の夜、就寝中の志帆の寝室に男が侵入。馬鹿正直に暗くて殆ど見えないが、兎も角志帆は犯される。この一幕、一通り尺も費やしあれやこれやヤッてゐるにも関らず、少なくとも配信動画をPCで見る限りでは本当に見えない、闇夜の黒牛の如き絡みではある。安野が妻・千香子(小川)の淹れたコーヒーを飲んでゐると、志帆からの電話を被弾。すぐ来て欲しいと尋常ならざる様子に駆けつけた安野に、志帆はレイプされた旨を告白。精神科通院中につき警察は被害妄想と取り合つては貰へまいと、志帆は安野にボディーガードを依頼する。
 念のためヌイておくには、途轍もなく濃厚な小川真実と甲斐太郎による安野家夫婦生活を経て、いざボディーガード初日、安野がすつかりその気の黒服で出撃するのはポップなギャグ。配役残り、超絶の陰鬱な無力さで立ち尽くす国沢実は、安野が楠瀬邸に到着したところ、門の前にゐた不審者。当然過敏に反応する安野を制した志保には、“ゐてもゐなくても人畜無害よ”と無体に等閑視される。人畜無害の、使ひ方がちぐはぐなやうな気もするが。ゐてもゐなくても何ら変りのない、いはば焼け石にかける水にもならぬ類の人間を、人畜無害と称するのではなからうか。樹かずは、色んな意味で楠瀬邸に出入りする配送業者の若い衆。
 遂にバラ売りにも残弾数ゼロ!山﨑邦紀1995年第五、ピンク限定第四作。いや別に、新着させて呉れたら、買ふよ。魔性の女といふほどでもなく、寧ろより直截にはプリミティブなり無作為な地雷女に振り回された男達が、軒並み破滅に至るオッソロシイ物語。半ば仕事も放ぽらかし志帆に捕まる亭主にさんざ業を煮やし倒した挙句、遂に颯爽と三下り半を叩きつける千香子の姿には清々しき女性主義が窺へ、るのだけれど。幾ら主導権を握るのが女にしても、甚だ旦々舎らしからぬ問題作。最大の疑問点は、荒木が医者としての職業倫理を放棄し、志帆に下した診断とその症例とを安野に打ち明ける件。劇中用語ママでボーダーライン症候群に関して、患者の殆どが女―正確な台詞は『殆どの患者は女性なのですが』―としてゐるのには度肝を抜かれた。旦々舎が最も量産しまくつてゐた修羅場の最中とはいへ、浜野佐知がよく首を縦に振つたもんだ。志帆に対抗心を燃やし荒木に膳を据ゑる潮の濡れ場も、如何せんノルマの消化感は否めず、荒木との対面を経た安野に元気出してねと向ける、頓着のない笑顔の意味も判らない。そもそも国沢実ならば兎も角、自立し成熟した男である筈の安野こと甲斐太郎が、小娘相手にみすみす同じ轍を踏むのも説得力には遠い。折角三枚揃つたオッパイで、エクセス作かと見紛ふ重量級の裸映画をゴリ押せばよかつたのにと思へなくもない、不用意な方便を持ち出したばかりに、語るに落ちた印象の強い一作である。


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 「OL官能日記 あァ!私の中で」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:小沼勝/脚本:宮下教雄/プロデューサー:樋口弘美/撮影:水野尾信正/照明:木村誠作/録音:橋本文雄/美術:徳田博/編集:鍋島惇/音楽:高田信/助監督:中川好久/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/製作担当者:高橋信宏/出演:小川亜佐美《新人》・中島葵・日野道夫・立原昌子・工藤麻屋・山田克朗・村国守平・浜口竜哉・堺美紀子・雪丘恵介・森みどり・小見山玉樹・影山英俊・中平哲仟)。出演者中、小見山玉樹と影山英俊は本篇クレジットのみ。各種資料に見られる企画の奥村幸士が、本篇クレジットには見当たらず。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 団地外景で開巻、朝食の洗ひものを片付ける鈴村亜佐美(小川)に、父親の耕平(日野)は帰つてからにするやう促す。二人暮らしの父娘―全く登場しない母親は既に故人―で仲良く出勤、電車と雑踏の画を連ねた上で、オフィスビルの窓の海にタイトル・イン。総務か営業以外の、明示はされない何課かでタイピストとして薄らぼんやり働く亜佐美は、如何にも機械機械した当時のタイプで手を怪我したか汚したらしく手洗ひに。手を洗つてゐた亜佐美が妙な気配を感じ身を潜めると、個室から誰彼構はず寝るゆゑ“公衆便所”の異名を誇、れない同僚の泉田駒子(中島)が、矢張り同じ課の戸倉(浜口)と出て来る。一方、亜佐美の後方の席の葉子(?濡れ場ありのビリング推定だと立原昌子なのだが、工藤麻屋の気がする)も目配せした亀田(影山)と物置に消え、かくいふ亜佐美は亜佐美で、課長の松木(山田)と不倫関係にあつた。
 配役残り、兎にも角にもこの二人の劇中固有名詞を呼称して呉れないのが致命傷。影山英俊と物置部屋にて致すのが工藤麻屋で当たつてゐるとすると、消去法で立原昌子が、亜佐美の隣席、間食大好きはつ子。村国守平は、亜佐美がはつ子・葉子とブラブラしてゐたところ、はつ子が喰ひつく形でミーツする一見ニヒルなヒヨコ売り・犬山。赤青に着色されたケミカルなヒヨコが、時代を感じさせる。小学生時分校門の表に時々ヒヨコ売りが来てゐた記憶があるけれど、今でも残存してるのかな?小学校敷地を一歩外に出た子供を捕まへる、今にして思へば大概な商売ではある。黒い宮内洋こと中平哲仟―何だそれ(´・ω・`)―は、亜佐美と犬山の再会を御膳立てする格好の、犬山をボコる強面のトラック運転手。小見山玉樹と堺美紀子に雪丘恵介は、鈴村が亜佐美に見合を薦める年の離れた同僚の塚本と、その両親。そもそもコミタマを娘と見合させる神経からどうかしてゐるとしか思へないが、二人きりで会つた喫茶店。アッサリ見切られたコミタマが、颯爽と立ち去る亜佐美に追ひ縋らうとして椅子に激突し前のめりに倒れる撃沈芝居が何気に絶品。ロマンポルノ如きシネフィルの観るものと捻くれた高を括つてはゐつつ、イイ情けなさで端役のキャリアを量産する、コミタマを見つけたり追つ駆けるのが楽しくなつて来た。俺なりのロマポが、始まつたのかも知れない。何処にどういふ形で飛び込んで来るのか全然読めなかつた森みどりは、亜佐美と松木が泊まる湖畔の宿の仲居。
 大体ロマポ一筋に戦ひ抜いた感の強い小川亜佐美のデビュー作は、OL日記シリーズが終了したのちの小沼勝昭和52年第一作。日活製作狭義のOL日記は、「OL日記 牝猫の匂ひ」(昭和47/監督:藤井克彦/脚本:西田一夫/主演:中川梨絵)から、「OL日記 猥褻な関係」(昭和50/監督:白井伸明/脚本:佐治乾/主演:二條朱実)まで全六作。その他東映ニューポルノの「純情OL日記 誘惑」(昭和49/監督:早坂紘/脚本:佐久次郎/主演:高畑梨絵)とナウポルノの「夜のOL日記 肉人形」(昭和54/監督:東元薫/脚本:宗豊/主演:東祐里子)、山本晋也の買取系「OL日記 しやぶり責め」(昭和57/脚本:山田勉/主演:松原玲子)に、元号と世紀をも超えて森山茂雄第五作「OL日記 あへぐ牝穴」(2003/脚本:佐野和宏/主演:佐々木日記)。時代に埋もれたOL日記の掉尾を、忘れた頃に森山茂雄が飾つてゐるのが感慨深い。
 映画の中身に、入る前に。兎にも角にも良くも悪くも凄いのが、凄まじくリップシンクがへべれけ、間違つてもよかねえか。そこかしこどころでなくあまりにもズレッズレで、否応なき拭ひ難い違和感がシュールレアリズムの界隈にでも突入しかねない始末。この時何を考へてだか血迷ふたか、腐つても天下の日活が斯様な代物を世に出したのか。シネキャビンでアドリブを爆走させる、唇と台詞の親和なんぞ取るに足らない些末とばかりに、予め放棄してのける久保チンの方がまだしも芸になつてゐる。
 改めて映画の中身も映画の中身、駒子が予想外にカッ飛ばした逆転ホームランや、松木の利己的な姿に亜佐美が揺れ動く。今でいふ自分探し的な物語は、ヒヨコに乗つた王子様たる犬山の造形が、まるで以てエバーグリーンたり得ない古めかしい類型性の範疇に囚はれる逆風にも足を引かれる。二人が一旦結ばれるのが、全体的な構成上些か早過ぎたのではなからうかと思へたのは、逆算すると仕方がなかつたのかも知れない、としても。挙句レギュレートされた尺さへ派手に持て余し、確かにタイプで一文字だけ打つた伏線もなくはないとはいへ、延々と流し倒すカルメン・マキ&OZの「私は風」に頼りきりのラストは、失するほどの求心力もそもそも疑はしく、ついでに小川亜佐美は走り姿があまりでなく決して美しくはない。


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 「痴漢電車 くひこみ調査隊」(1994/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:如月吹雪/撮影:柳田友貴/照明:荻久保則男/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:広瀬寛巳/音楽:東京BGM/スチール:佐藤初太郎/フィルム:AGFA/録音:シネキャビンRCO/現像:東映化学《株》/出演:梶原恭子・海川結衣・七重八絵・沢木直・樹かず・浅間凌次・白都翔一)。出演者中、沢木直といふのは冴木直のポップな誤植として、浅間凌次がポスターには畠山智行。確かに、畠山智行で画像検索してみると畠山智行ではある。
 電車ショットを漫然と連ねてタイトル・イン、ある意味速攻でマッタリした開巻が堪らない、逆の意味だ。乗降口窓外側から見た画で、真行寺桜子(海川)が左右から白都翔一と樹かずの挟撃を受けてゐるのかと思ふと、更に背後には浅間凌次だか畠山智行もゐて完全に三方を塞がれなされるがまゝ。最初は抵抗してゐた桜子も、次第に三人のうち一人の巧みな指戯に屈し、陥落する。そして、閑古鳥の鳴く「ピンクパンサー探偵事務所」。仕事もないので社長の加奈子(梶原)と真理(沢木もとい冴木直/明らかに低いビリングはアテレコのゆゑか)がトランプで茶を挽くところに、桜子が現れる。桜子の依頼は、あの日電車でイカせられた三人の痴漢中、“一番上手だつた人”捜し。となると自身らで電車痴漢に遭はねばならず、当然二の足を踏む二人を前に、ホテル業で名を馳せる真行寺コンツェルン一人娘との桜子は前金にポンと二三百万の札束を提示、加奈子と真理は手の平を返して首を縦に振る。
 真理がジェット・ストリーム・アタックを被弾、同じ会社に勤める三人の身元が判明する。“背の高い男”こと、半年前に彼女と別れ、趣味はピンク映画鑑賞の村川カツミ(白都)。そこにツッコむでない、御愛嬌御愛嬌。“痩せてる男”こと、暗くて目立たなく趣味もない工藤ハジメ(樹)。白都翔一と樹かずの背格好なんて、さう変らないのだが。もう一人は“太つた男”こと、彼女ゐない歴イコール年齢でソープ通ひが趣味の小笠原マコト(浅間)。この畠山智行だか浅間凌次が大問題なのが、脱いでみると女優部よりもオッパイの大きいダブッダブの肉襦袢。映画に出たいのなら、太るにしても綺麗に太れ。配役残り七重八絵は、小笠原との対戦を加奈子も真理も拒んだため、急遽もしくは都合よく招聘されるバイトのノリコ。その他ひろぽんが、何もしはせずに車中執拗に見切れ続ける。加奈子が村川とランデブーする、多分実店舗のスナック「テンプラー」マスターは不明。
 何故か当初題で―1998年新題が『どうにもとまらない』―七月第一週に上野オークラに来てゐたりもする、小林悟1994年第九作、ピンク限定第六作は今となつては大昔の話、トシちやんの生命線を絶つた女・梶原恭子の唯一ピンク主演作。結論を先走ると特にどころでなく面白い訳でもないのに、この期に及んで改めてか蒸し返して小屋にかけてみたのは、あれか?死人でも鞭打ちたかつたのか。それとも、殊更に謳ふでなくな、三月に他界した樹カズの元嫁追悼上映か。
 あれやこれや勘繰るのはさて措き、ベッドの上では完全にお店感覚の逆マグロ。挙句に超短小の高速早漏と、小笠原のセンは早々と消える。指技に関してノリコは検証してゐないやうな気もしつつ、その点に関しては、何時の間にかな真理は兎も角、村川と小粋なラブアフェアを演じて悦に入る加奈子もお留守。村川と工藤に各々入れ揚げた、要は劇中台詞にある通りミイラ取りがミイラになつた加奈子と真理が、桜子からの依頼に対してジレンマを抱へる展開は、小林悟にしてはらしくなく小奇麗に纏まつてゐなくもない。となると下手に破綻しない分、ただ単に詰まらないだけの映画かと思ひきや、驚天動地のそれでいいのか感が爆裂する大団円が火を噴く、豪快な大御大仕事には改めて吃驚した。一応ハッピーエンドではあるのだけれど、一旦高を括らせておいて、奈落の底に真逆様。如何にも棒球の球筋から地面にめり込まんばかりに落下する魔フォークの如く、一筋縄では行かない一作である。


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 「未亡人下宿? 谷間も貸します」(2017/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/脚本・監督:清水大敬/撮影:田宮健彦/照明:大久保礼司/録音:小林研也/ポスター撮り:中江大助/助監督:阿蘭純司/撮影助手:島崎真人・高島正人/照明助手:葉山昌堤/演出助手:狛江太郎/着付け師:板橋よね/企画・原案:中村勝則/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:円城ひとみ・京野美麗・橘メアリー・角田清美・あやなれい・扇まや・森羅万象・山科薫・野村貴浩・橘秀樹・佐々木共輔・田山みきお・東大和・鎌ヶ谷俊太郎・末田スエ子・米山敬子・本田裕子・石部金吉・生方哲・井坂敏夫・中野剣友会)。出演者中、田山みきおから鎌ヶ谷俊太郎(=鎌田一利)と、石部金吉(=清水大敬)から井坂敏夫までは本篇クレジットのみ。あと中野剣友会に、ポスターではアクション・チーム特記。
 波紋広がる大敬オフィスのロゴ、こんなだつたつけ?ズンチャカ劇伴が起動して、“下宿 貸間あり”のみの表札の一軒家。縁側を雑巾がけする未亡人大家の山城由美(円城)を、執拗にローアングルで狙ひ倒してタイトル・イン。以後、今作の明確な特徴として、円城ひとみが家事をするに際しては逐一ローアングルにこだはり抜く。それとタイトルに関しては、はてなマークの意味が判らない。何処からどう見るまでもなく何の疑問もなく未亡人下宿でしかないのだが、大蔵から未亡人下宿の看板で出すことに、気兼ねなり気後れしたりする業界的な何某かでもあるのであらうか。
 支度も下から抜いて、朝からワーワー騒がしい朝食。下宿の店子は十浪生!の大崎(野村)に、ex.ヤクザの山口(石部)と米田(佐々木)。二人の現職は建設業で、米田にとつて、山口は叔父貴と呼ぶ間柄。ところで新作では久ッし振りに見た佐々共は、山﨑邦紀の「ハレンチ牝 ひわい変態覗き」(2009/主演:朝倉麗)以来のピンク復帰。その更に前が池島ゆたかの「デリヘル嬢 絹肌のうるほひ」(2002/脚本:五代暁子/主演:真咲紀子)につき、何か、この人は七八年周期の彗星か。そこに近所のトキワ大学に通ふ由美の娘・美由紀(橘メアリー)も加はり、食卓はますます賑やかに。一同を送り出した由美に、麻矢(扇)をリーダー格とする近所の主婦連・裕子×敬子×末子(本田裕子・米山敬子・末田スエ子の要は四人とも大体ハーセルフ)が出て行けだ何だと、狂つたやうに騒々しく、文字通り狂騒的に詰め寄る。a.k.a.空想科学少女の米山敬子は兎も角、本田裕子と末田スエ子の特定がどうにも不可能。
 配役残り何のクレジットもないまゝになかみつせいじが、六年前に死別した由美亡夫遺影。橘秀樹は、下宿巣立ち時恒例らしい由美に筆卸して貰つた元店子・野島。後述するが、ある意味最大の功労者か被害者の京野美麗は、ホステスあがりの情婦の割に事務所まで宛がはれる、トキワ大学学生部長・鮫島権造(森羅)の懐刀・金城明美。鮫島は山城家の土地に裏金塗れのトキワ大新学生寮建築を目論み、そのために、明美が麻矢らを使つて未亡人下宿を立ち退かせようとしてゐるとかいふ構図。山科薫は、鮫島の腰巾着・山岡薫。明美を貫く鮫島に大声で名前を呼ばれた山岡が、カメラ前にワセリンを差し出し大映しにした上での、連ケツは俳優部の顔ぶれも見事な名チン場面。京野美麗のバタ臭さが、清水組の空気に上手く馴染む。藪から木に竹を接ぐ不脱のあやなれいは、元ヤンで喧嘩上等の野島姉。大蔵初上陸の角田清美と生方哲と井坂敏夫に中野剣友会は、未亡人下宿に乗り込む鮫島子飼ひのトキワ大顧問弁護士(が角田清美)と、謎の武闘集団(残り)、中野剣友会の皆さんは迷彩服で登場。田山みきおと東大和に鎌ヶ谷俊太郎は、明美の事務所に踏み込む刑事。
 好評なのか今年は現時点で既に二作を発表する、清水大敬2017年第一作。監督業二十一年目にして遂に、自身初痴漢電車で新年番組新作の栄誉なるか。未亡人下宿地上げの流れが明らかとなつた時点で、予想し得る始終を1mmたりとて裏切りはしない正調娯楽映画路線と、橘メアリーの大味な体躯がスクリーンに映える由美V.S.大崎戦を筆頭に、ゴリッゴリに押して来る濡れ場は近年従来通り、濡れ場がゴリゴリしてるのは昔からか。加へて今回最も特筆すべきは、デジエク頭二本から久々に完全復活を遂げた、遂げてしまつた必ずしも清水大敬と同等の熱量を有しない者―そもそもそれだけの人間が、どれだけゐるのかといふ話ではある―にも、自らと同じテンションで猛進の“猛”が“盲”かも知れない、ワーギャー猪突猛進する芝居を要求。地力か場数で乗り越えてみせる森羅万象と山科薫に対し、二番手と主婦連女優部はある意味見事に被弾する、エキセントリックを更にどぎつくしたエギゼンドリッグ演出。とりわけ京野美麗のヒステリックぶりは無惨なのも通り越してスッ飛んだギャグの領域に突入、折角の濡れ場に至つても本来乳尻に向けられる筈の興味なんぞとうに霧消してゐる始末。ともいへそれは、あくまで枝葉のチャームポイント。拉致監禁された美由紀がコッ酷く輪姦されるシークエンスくらゐしか不足を感じさせない、全てが既成のフォーマットから逸脱しない王道展開はそれはそれとしてそれなりに矢張り鉄板。プライベートなものでも、概ね清水大敬が自分で繰り出す取つてつけてもゐない、何れにせよ余計なメッセージの不存在は全体的なスマートさを地味に増し、オーラスには主演女優から観客へ年始の挨拶まで披露してのける、いはゆる第二弾封切りの綺麗な綺麗な準正月映画である。

 追記< とか何とか与太を吹き散らかして、ゐたところ。嘘を書いては、読者諸賢に御指摘賜る当サイトの家芸発動。佐々木共輔のピンク出演を、2009年の「ハレンチ牝 ひわい変態覗き」以来としたものだが、翌年の「色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…」(脚本・監督:山内大輔/主演:北谷静香)がある旨のコメントをキルゴア二等兵殿より頂戴した。いはれてみれば、恭輔のセンを完全に失念してゐた、粗忽の限りで面目ない。


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 「痴漢電車 朝からいかせて」(1992/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双美零/企画・製作:田中岩夫/撮影:稲吉雅志/照明:柴崎江樹/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:国分章弘/撮影助手:飯岡聖英/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/協力:東陶株式会社・七沢荘/出演:水島川彩・ジミー土田・平賀勘一・石川恵美・南城千秋・小川真実・山本竜二)。監督の渡辺元嗣は、勿論現在渡邊元嗣、協力に飛び込んで来るまさかの大本営に吃驚した。
 「私生まれも育ちも御当地相模、迎へます皆様方とはお初にお目にかゝります」。「三寸下は地獄の賭場に産湯を使ひ、賽子の音も子守唄」。「姓は下賀茂名は純子、通り名を壷振り純子と申します」云々。一通り仁義を切りセーラー服で賽を振る水島川彩が、賭場を俄かに騒がせるパトカーのサイレンにも動じないのは真鮮やかな夢オチ。電車にて痴女行為を仕掛け、最終的には金を巻き上げる姉の竜子(小川)と、一端のスケコマシ気取りが実際には売れないホストの兄・文太(南城)の間を割つて純子が駆け込んだ手洗ひでは、痔持ちの父・浩二(山本)が山竜一流の顔芸を駆使し悶絶してゐた。下賀茂家の家業は、浩二の破門癖もあり今や若い衆に皆去られた暴力団。浩二が振り回す任侠道に文太と竜子は時代遅れと辟易する一方、没母・ルイ(何故か遺影にモザイクがかゝる)の跡目を継ぐ壷振りを目指す純子には、浩二は堅気の人生を望んでゐた。登校する純子が、七沢荘玄関の看板に組の再建を誓つてタイトル・イン。
 配役残りジミー土田は、通勤電車で毎朝見かける純子に、告白も辞さないテンションで想ひを寄せる高倉健太郎。ウォシュレットならぬシャワレットを販売する、衛生陶器メーカー「株式会社シャワレット」社員。石川恵美は、文太の情婦・影子。そしてファースト・カットが普通にカッコいい平賀勘一は、任侠に反し浩二に破門された下賀茂組の代貸・金川信夫、元々影子は信夫の情婦。その他純子が校内で賽を振る賭場に見切れる面々は、特定能はず。
 フと気づくとDMMの中に結構大量に眠る未見作のみでも、三人目となるハンドレッド戦が全然普通に戦へる、渡邊元嗣1992年第一作。深町章と池島ゆたかに関しても、前提は同じものが成立する。あくまで当サイトが本気で狙つてゐるのは、辿り着けるかどうか判らない以上、兎にも角にも全力で突つ込むしかない関根和美
 閑話休題、傾いた組と組の行く末に―少なくとも表面的には―関心を示さない兄姉に対し、母と同じ女賭博師の道に進むことを禁じられる末娘。ヒロインに岡惚れする堅気の純情男と、組に止めを刺さんと蠢動する、出所した代貸。存在するならば教科書通りに登場人物を配し、痴漢電車が徹頭徹尾純子と健太郎がミーツする器に過ぎない点はあまり褒められたものではなく、すつたもんだと切つた張つたの末に目出度く二人が結ばれる。締めの濡れ場が完遂に至らないのは、特に面白くはないけれど完璧な構成に水の一滴も差しつつ、風前の灯の関東下賀茂組が正しく一家で賑々しく再興する大団円が見事な、綺麗な綺麗な娯楽映画。文字通り組の看板を賭けた、純子と信夫の最終決戦。雌雄を決する純子が繰り出した母譲りの秘技が、“賽子化粧壷隠し”。名前だけでサイコロを何処に隠したのか判る馬鹿馬鹿しさが清々しい、寧ろ量産型娯楽映画にとつて、斬新さなんぞ些末か余計な色気とまで開き直つてしまへ。時代の移り変りに応じて、描写は自ずと変らう。完成しきつた予定調和を逸脱するのが、山竜でも平勘でもジミ土でもなく、ダークホース中のダークホース・南城千秋。信夫の出所は秘した上で二人しての出奔を迫る影子に対し、文太が投げる捨て台詞が「俺はジゴロだぞ、女なんて幾らでもゐるんだよ」。骨格に連動し絶妙に湾曲した口跡で俺はジゴロだぞ(笑、南城千秋一世一代の破壊力に腹を抱へた。


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 「巨乳飼育術・監禁」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:小山田勝治・中川克也/照明:秋山和夫・荻久保則男/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:国沢実/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:姫ノ木杏奈・青木こずえ・荒木太郎・米田共・甲斐太郎・小川真実)。
 不安定にフェードインしてピントが合ふと、檻の中に主演女優が横たはつてゐる。姫ノ木杏奈が意識を取り戻し、目を覚ましたやうだと国沢実を中心に男達の声がガヤる。檻の周囲に四五人の男がゐるのに姫ノ木杏奈があげた悲鳴に合はせて、サングラスの荒木太郎を引き連れた小川真実がチャイナドレスで大登場。女子大生のキリハタ靖生(姫ノ木)が所属ゼミ教授の犬丸(小川)とゼミの先輩兼彼氏の原田(荒木)に助けを求めるものの、犬丸と原田の筈のオガマミと荒木太郎は、マダムファンとチーフの黒谷として靖生ならぬ紅子に客の男達に尻を突き出してみせるサービスを強要する、困惑する靖生だか紅子が叫んでタイトル・イン。評論家の柳原(米田共/超絶今更ながら、これ、糞をバラした変名だ)を招いての、犬丸が知人から提供を受けた旧旦々舎でのゼミに、靖生と原田が出席する。出席してゐたかと思ふと、開巻の檻のある一室。競りが始まり順に山﨑邦紀・鈴木静夫・国沢実を制して、柳原もといハイバラ(米田共の二役)が紅子を落札する。ゼミの模様と、黒谷のアシストの下にハイバラが紅子を凌辱する絡みを行き来した上で、紅子二度目の悲鳴明け、ワキユウコ(青木)が犬丸に、所属ゼミ教授・卜部(甲斐)によるセクハラを訴へる。半信半疑の犬丸は、とりあへず卜部に電話をかけてみる。昭和のNHKアナウンサーのやうな、テッカテカの七三分けで甲斐太郎が飛び込んで来る瞬間が、カット単位での今作最大の破壊力。
 山﨑邦紀1995年、「痴漢電車 覗いて嗅ぐ!」(主演:石原ゆり)から薔薇族一本挿んでピンク映画第二作。ユウコを発火点に卜部のセクハラ騒動と、これ見よがしな膳の据ゑぶりがポップな原田略奪。旦々舎一流の濃ッ厚な濡れ場込み込みで枝葉を咲き誇らせつつ、女子大生が恩師と彼氏に日々男々に売られる、パラレルな悪夢が連ねられる。端的に檻の中のヒロイン、あるいは別人格として現れる登場人物といつたモチーフもしくは特徴から、事前には自身の2007年第二作「社長秘書 巨乳セクハラ狩り」(主演:安奈とも)なり、浜野佐知2009年第一作「女豹の檻 いけにへ乱交」(脚本:山﨑邦紀/主演:Clare)辺りとの連関を予想させた。ユウコも源氏名不詳―紅子を買ふ卜部の名前はアオイ―で収監されるに及んで、先輩格でもある紅子の心境に変化が生じる。拡げた風呂敷を、なほ魅力的に展開させもした、かに思はせて。関連作どころの、話ではない。何もかにも一欠片たりとて回収せぬまゝ、豪快に走り過ぎてみせるラストには逆の意味で吃驚した。女の裸に全てのエモーションを賭けろ、一度(ひとたび)物語を追はうとしたが最後、貴様の負けだ。とでもいはんばかりの、ゼロヒャクさが清々しい一作である。


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