「不倫狂ひの人妻 喰ひまくり」(1993『若奥様 不倫漏らす』の2000年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/美術:衣恭介/音楽:MGC/効果:協立音響/編集:井上和夫/助監督:小林豊/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:中上絵奈・松下英美・摩子・羽田勝博・夢野和樹・神坂広志)。美術の衣恭介は、木俣堯喬の変名。
中上絵奈と夢野和樹の濡れ場で開巻、キャスト・スタッフの順でクレジットが先に走り、垂直に垂れる白濁液にタイトル・イン。呑気に庭でゴルフクラブを振るカシワギケンサク(夢野)が、お手伝ひの前田みよ子(松下)に軽く手を出す。二匹の猫を可愛がる妻のマミコ(中上)に、同族経営の会社で働くケンサクは朝まで仕事をしてゐただとかで、その日は出社しない旨を言明、平日なのかよ。マミコもマミコで夫の気紛れを気軽に受け、家事は自分がすることにしてみよ子に終日の暇を出す。
配役残り羽田勝博が役職不詳のケンサクの兄で専務、摩子が秘書といふ名の愛人。といふか、愛人を秘書に据ゑた要は大蔵貢方式。この二人、前妻と死別した半年後に課長の娘であるマミコを押しつけたケンサクから、ハネカツが摩子を強奪した格好。元々は水商売の女であつた摩子にハネカツは何のかんのと悪態をつき続けつつ、昼夜を問はず何だかんだ抱く文字通り腐れた腐れ縁。神坂広志は、街に出たみよ子が落ち合ふ彼氏・三郎。
この期に及んで何のものの弾みか番組に紛れ込んで来た、珠瑠美1993年第三作。DMMでも見られない珠瑠美旧作―新作があり得る訳でもなからうが―に、タマキュー!と絶叫しながら小屋の敷居を飛び跨いだものだが、よくよく考へてみるまでもなく、そもそも動画配信でわざわざ珠瑠美を見るところからどうかしてゐる。幾ら大原則として映画は観るなり見ないでは何も始まらないとはいへ、さういふ小賢しくさへない美徳の衣を纏つた貧乏性如き、易々と限りなく十割に近い打率で粉砕して後には草一本残さないのが珠瑠美。どうしてこの人は、登場人物の相関関係程度が関の山で満足な物語の“も”の字も設けずに、銘々が好き勝手に入り乱れ挿しつ挿されつするだけで映画が撮れるのか、挿しつ挿されつするだけの映画を量産もとい粗製乱造出来るのか。珠瑠美旧作を戯れにタマキューと略してみたものの、何だか、珠瑠美に腰骨を砕かれたピンクスの―浜岡賢次風―断末魔といつた方が、より適当なやうな気がして来た。劇映画といふにはドラマが限りなく透明に近い、ある意味最も純度の高い裸映画。首から下は申し分ない反面表情の硬い主演女優と、この娘は生気が抜けてゐるのではと心配になりかねないくらゐぼんやりした二番手を制し、超絶美人の摩子が扇の要に座る布陣はそれなり以上に盤石。おまけにエクセスライクも火に油を注ぐタマキューのビリングに、意味なんぞ端から殆どあるものか。正体不明の夢野和樹も男優部としての華はまるでないが絡みもまゝならぬといふほどではなく、何処から観ても何処でやめても全ッ然困りはしない裸がつらつらだかうつらうつら連ねられるに終始する、本当に終始するのみの時間は、それでもその限り、あくまでその限りに於いては安定してゐなくもない。
ラストがグルッと一周してケッサク、いや、流石の与太吹きも、タマキューを傑作と賞する蛮勇は持ち合はせん。昼間エアロビと偽り三郎と寝て来たマミコに、疲れてゐると夫婦生活を断られたケンサクは、コニャックと称して寝室を後にするやみよ子を半分手篭め気味に抱く。のが尺の満了に伴ふ自動的な締めの一戦かと思ひきや、寝室に戻つたケンサクは平然とマミコ相手に二連戦。化け物か、あるいは病気か。正常位のストップモーションから、一旦切り替つた画面中央に鎮座した“END”が、グワーンッと凄い勢ひでズームするオーラスは、起承転結が転結どころか起から成立してゐようがゐまいが、ここで終りといつたら終りだ!とでもいはんばかりの、断固たる意志が感じられて変に清々しい。
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