「ズームイン 暴行団地」(昭和55/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:黒沢直輔/脚本:桂千穂/プロデューサー:中川好久/企画:進藤貴美男/撮影:森勝/照明:木村誠作/録音:小野寺修/美術:川船夏夫/編集:鍋島惇/音楽:高田信/助監督:浅田真男/色彩計測:青柳勝義/現像:東洋現像所/ピアノ調律指導:橋本和久/製作担当:香西靖仁/協力:三石マイクマンスタントチーム/出演:宮井えりな・梓ようこ・大崎裕子・志賀圭二郎・松風敏勝・影山英俊・錆堂連・高樹レイ・飯田紅子・山地美貴・あららぎ裕子・緑川せつ・水木京一・庄司三郎・大谷木洋子・森みどり・片桐夕子《友情出演》)。出演者中、水木京一と庄司三郎は本篇クレジットのみ、らしさ迸る扱ひに勃起する。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
団地外景噛ませて、競輪選手の浜口功一(松風)が久留米と広島に二週間遠征する支度がてら、朝つぱらから朝つぱらゆゑその気もない妻・冴子(宮井)を、半ば押し倒し験担ぎの夫婦生活。どうやら以前、出がけに一発カマして来た際に優勝したらしい。功一を送り出した冴子は、ベッドの下から贈り物らしき結構デカい包みを引つ張り出すと、チャリンコの荷台に括りつけて外出。軽く荒野に近い原つぱにて、冴子のチャリンコが正体不明の黒トレンチ(以後黒トレ)の投げた石で倒される。見た目的にはほぼほぼ千枚通しな、調律工具のハンマーフェルトピッカーで際どく嬲られた末に犯された冴子は失神、黒トレはヒット・アンド・アウェイでその場を離脱する。意識を取り戻した冴子が脇のドラム缶に放尿、持ち物が散らばつたコンパクトに映つたのかハッと振り返つた、丘越しにまるで墓標の如く聳える四棟の団地に、ギザギザした煽情的なフォントで叩き込まれるどギツいタイトル・イン。決めのショットの威力は凄まじい反面、黒トレの後背位挿入を間抜けに三回リピートしてみたり、冴子が何に我に帰つたのか必ずしも判然としない等、こなれなさぶりもアバンで早々に散見する。
団地建設の人夫(庄司)に声をかけられつつ、冴子が向かつた先は同じ希望ヶ原団地別棟の、元カレでピアノ調律師の中林隆也(志賀)宅。回りくどいか勿体ばかりつけたカットを連ね冴子が中林と焼けぼつくひに点火してゐると、気がつけば何もなかつた壁に、何時の間にか冴子が持参した引越祝ひの絵が飾られてゐたりするのは軽い間違ひ探し感覚。絵は後々まで引つ張るアイテムであるにも関らず、どうしてさういふ無駄に判りにくい真似をしようとするのか。兎も角以降、団地内で背格好が中林と限りなく同じ黒トレによる、襲はれた女が犯され、は実はせずに、大体局部から体に火を点けられ焼き殺される、オッソロシイ凶悪事件が頻発。周囲とは別の慄き方で、冴子は中林に対する猜疑を燻らせる。
配役残り山地美貴は、観音様に油か何か染ませた布を突つ込まれ、人間火炎瓶にさせられる女高生。絶妙なハゲ具合を光らせる水木京一が、以来気がふれ団扇太鼓を乱打しながら南無妙法蓮華経を連呼する女高生の父親、素頓狂な声色も堪らない。あららぎ裕子は、焼け爛れたやうには見えない特殊メイクで、全裸の惨殺死体をジャングルジムに曝される女。ジャングルジム周りに、小森道子が見切れてゐるのは森みどり名義。そして不脱で御祝儀出演の片桐夕子は、調律に呼んだ中林の仕事にあやをつけるオペラ歌手。錆堂連と梓ようこは冴子と中林共通の友人で、多分夫婦で模型店を営む圭吾と沙智、部屋には映画ポスターも溢れる今ならばナード造形。作中一番美人でグラマラスな高樹レイは、冴子が建設中の団地での殺害を目撃する女。大崎裕子は団地に棲息するレス・ザン・ホームのまゆ子で、飯田紅子が焼却炉に放り込まれる最期をまゆ子に目撃される女。残る女優部が詰めきれない、大谷木洋子はキャリアの長さ的に噂話要員ぽくて、若干ビリングの高い緑川せつが、正面からは抜かれないスポ根に非ずのスポコン妊婦?そしてロマポ脇役部随一の色男を誇る影山英俊が、満を持して刹那の戦慄を煌めかせるジョーカー。
全五作続いた「ズームアップ」シリーズ(昭和54~昭和58)の間隙にインした、十年弱の社員助監督修行を経ての黒沢直輔第一回監督作品、この人はテレビ畑で今も―あるいはつい最近まで―現役らしい。とりあへず、黒トレの野郎が女を次々ヒン剥きまではするものの、何故か冴子を除いて―主演女優特権以外の理由は特に見当たらない―全員燃やしてしまひやがるものだから、総勢七名脱ぐ割に、乳尻にうつゝを抜かす余地は然程はおろか殆どない。寧ろ冴子をやきもきさせる中林とまゆ子のミーツを遮つて、梓ようこの濡れ場で木に竹を接ぐに至つては、二番手を斯くも無様に捻じ込まねばならないのか、どれだけ映画を撮るのが下手なんだと清々しく呆れ返つた。黒トレの正体を巡るサスペンスも、物語によつてではなく、単純に未熟な技法が無駄に錯綜。さんざ外堀ばかり掘り散らかしておいて、五年前冴子が姿を消した原因たると思しき、中林の人間的な問題は結局ものの見事に丸ごと等閑視される。前述したタイトル・ショットに加へ、些かの誇張でなく弩級の大衝撃を爆裂させる火柱臨月。終盤黒トレの女体点火がパラノーマルな領域に突入する、何気な疑問はさて措く。ほかにも団地の建築現場を、あたかも爆撃でも受けた廃墟かのやうに捉へてみたりと、兎にも角にも画の強さ―だけ―は滅法どころか比類なく強く、今作を隠れた傑作と激賞する向きもなくはないやうだが、直截には全篇ぎこちなくてぎこちなくてどうしやうもない、一言で片付けるとナンジャコリャ映画である。不審者の気配に逃げる山地美貴が、手足はバタバタさせどちつとも進んぢやゐないカットには、あまりのダサさに頭を抱へた。起死回生のイフとして、影英のところにコミタマが飛び込んでゐたならば、当サイトもなほ一層諸手を挙げてたかも知れないけれど。
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