真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美乳探訪 不埒な旅路」(2023/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:坂元啓二/録音:加唐学/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:赤羽一真・津田篤/制作応援:別府啓太/撮影助手:原伸也・戸羽正憲/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:通野未帆・黒川晴美・福田もも・津田篤・伊神忠聡・那波隆史)。
 スマホでFMラジオを聴く、「FOREST FM」の画面にタイトル開巻。正しく全篇通して結構喋繰り倒す、女DJの声の主には辿り着けず。軽くCM感覚の、伊神忠聡が自分で支度するところから茶漬けを完食するのは、泊りの予定を違へられ、遅くに帰宅したハイヤー運転手・星名寛治(伊神)の手軽ないし侘しい夕食。起こされ起きて来た、一週間早番とかいふ妻・明海(通野)に寛治が無理気味に迫りつつ、案外明海も応へて呉れる夫婦生活が初戦。演者を真上から抜く、完俯瞰をさりげなく披露する。そんなこんなな最中、寛治は担当する役員の山本志郎(那波)から日曜日に、目的地も用件の詳細も五里霧中。挙句社用車ですらなく寛治のアクアを出せなどといふ、最早仕事らしい仕事なのかすら怪しい、謎のタスクに駆り出されるか付き合はされる。
 配役残り、津田篤を伴ひ飛び込んで来る黒川晴美が、業者の屋号と本人の源氏名、双方不詳のデリヘル嬢・浜田美和。仕事終り、にも関らず迎へが来ない。伝書鳩扱ひに美和が往来でキレてゐるところに、上手いこと歩いて来る福田ももは、この人も嬢で美和の後輩にあたる森脇瀬奈。のち美和の誘ひを勤務中につき瀬奈が断る際の、主観視点の本体は太腿の傷も見切れないゆゑ完全に不明。こゝで三本柱のフィルモグラフィを整理しておくと、矢張り竹洞哲也の2016年第一作「純情濡らし、愛情暮らし」(脚本:当方ボーカル=小松公典/主演)と、2017年第二作「熟女ヴァージン 揉まれて港町」(脚本:深澤浩子/三番手)以来六年ぶり三本目となる、主演女優の印象は正直残つてゐない。二番手と三番手はともども初陣、現時点に於いて、最初で最後と思しき黒川晴美に対し、福田ももは竹洞哲也以外に髙原秀和や堂ノ本敬太第二作、外様作まで計四本継戦してゐる。組を選ばない機動性は、量産型娯楽映画のフィールドにあつてひとつの資質といへるのではなからうか。
 ピンクは加藤義一2021年第一作「誘惑妻物語 濡れた人差し指」(脚本:深澤浩子/主演:神咲詩織)を最後に、翌年四月で役者稼業ごと引退してゐる津田篤がよもやまさかの電撃復帰を果たした、割には。凄まじい、もとい清々しい一幕・アンド・アウェイを敢行、純然たる男優部版濡れ場要員で駆け抜けて行く竹洞哲也2023年第一作。重ねて尤も、2023年第一作とはいへプラスの方で前年暮れにフェス先行。なほかつといつていゝのか撮影時期は、釜無川周辺(多分山梨県)に桜が咲いてゐる頃であつたりもする。となるとブランク自体実は然程空いてゐる訳でもなく、要は寝かせてゐただけの話か。
 山本の余勢を借りる形で、寛治も来し方のリグレットを取り返す。陳腐な主題が例によつて、非力な俳優部が脆弱な台詞を捏ね繰り回すに終始する。竹洞調なのか小松型なのだか知らないが、相も変らずか性懲りもなければ他愛ない、平板な会話劇の中で特に結実する訳でも別にない。ついでに竹洞哲也が今年でデビュー二十年、全体何がしたいのか何をしたくて映画を撮つてゐるのか粗忽自慢の当サイトは未だに測りかね、ラストまで徒にフィーチャされるラジオ愛も、精々木に蛇の足を生やす程度。こんなものかの枠内を、半歩たりとて出でないザマかと、思ひきや。
 三番手第二戦を、寛治が膨らませる妄想で賄ふ関根和美ばりの力技が火を噴く辺りから、終盤が何気に加速。アグレッシブなお胸の谷間と、ホントに楽しさうな軽やかさが素晴らしい黒川晴美は、観客の惰弱を優しく温かく包み込んで呉れ、さうな柔らかみがエモくてエロいエローショナル。よしんば仄かにせよ、確かに煌めく二番手が生煮えさへし損なひかけた、空疎な映画を柔肌一枚救ふ。

 瀬奈のトレーナーと、結婚前の明海と寛治が宅飲みする缶ビール。カセットコンロと鍋を持ち出し外で作つて外で食べる袋ラーメン、の袋に、帰途道路脇の看板的なサムシング。都合四箇所、局部以外の理由でボカシが施される。単に節穴が気づかず見過ごしてゐるだけなのかも知れないが、体感的には百本に一本も観ないか見ない気がするこの手の案件。果たして如何なる、いはゆる大人の事情が具体的に絡んでゐるのか。あと、一作で四箇所といふのは、流石に多い気もする。


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 「続・股がり天使 旅立ちの朝勃ち」(2022/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:坂元啓二/録音:山口勉/編集:竹洞哲也/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:赤羽一真/監督助手:神森仁斗/制作応援:山本宗介/撮影助手:原伸也・田中彩野/録音助手:西田壮汰/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:ロケットワイフ/出演:友田彩也香・高橋りほ・星あめり・辰巳ゆい・工藤翔子・細川佳央・伊神忠聡・森羅万象・バクザン・モリマサ・巌屋拳児)。
 橋上の夜道、“シャボン玉 壊れて消えて”。泡風呂「ロケットワイフ」(吉原)の劇中呼称は店長・木津公平(巌屋拳児=岩谷健司)が、下手の横好きを自認する川柳を中七まで詠んだ上で、フレーム左袖に捌けてのタイトル・イン。
 これといふほどの物語もないゆゑ、サクッと配役残り。タイトル明けが濡れ場初戦、主演女優が猛然と飛び込んで来る火蓋の切り具合は清々しい。友田彩也香がロケットワイフのナンバーワン嬢・かおり、本名は南条いつき。そして、前回はクレジットに名前だけ載せ、本篇中には確か出て来ない一種の汚名を返上。満を持し姿を現すモリマサは、常連客の萬田良介。工藤翔子は女番頭格の寺本洋子、元泡姫。ビリングを一歩下がつた高橋りほと、星あめりはパイセン面するのが割とおこがましい十分新人のメイこと東田舞花と、こちらはピッカピカかズッブズブの新人・ジム、戸籍名は大野美佐。RGM-79みたいな源氏名は、昼間のOL仕事にちなむ。何は、ともあれ。美佐のパッドがリムと一体型の、スクエアとウェリントンの境界線を軽やかに綱渡る、黒縁のセルフレームが空前絶後にエクストリーム。辰巳ゆいは店を去つた北川梢、ロケワイ時代はなおみ。伊神忠聡は常連客の萬田良介、風俗通ひを再開してゐる点を見るに、困窮状態を目出度く脱した模様。バクザンはいつきが度々帰途の足を止める、ストリートミュージシャンの概ねヒムセルフ。投げ銭ついでに買つて聴く形で、アルバム『ゴミ箱』(2008)も見切れる。細川佳央はいつきの彼氏・月山尚文、海外での自給自足生活とか割と漠然とした夢に向かひ、本業のホワイトカラー以外に、会社には無断のバイトも入れ金を貯める好青年。森羅万象は、置物の狸よろしく人外な広大さの陰嚢を誇る一見客?登場は一幕きり。後述する、破天荒な荒業でデフォルトの限界ないし劣勢を挽回どころか、盛大なスペクタクルを巻き起こす必殺のクロスカウンターを放つた富士山富男はまだしも、端から律に阻まれ映す訳にも行かないモチーフを、中途半端に持ち込むのも些か如何なものか。
 二ヶ月前に封切られた前篇「股がり天使 火照りの桃源郷」(主演:高橋りほ)と二本撮りしたにさうゐない、竹洞哲也2022年第三作。最後メイとジムがそれぞれ相手する、瞬間的かつ背中しか見せない二人が若干怪しくもあれ、ダイエットした麻原彰晃のやうな赤羽一真ら、その他客要員は今回投入されない。しかも他人作で、この期にも及ぶ国沢実は兎も角、従業員とカスタマー両面イケる、井尻鯛辺りがゐて呉れると地味ながら画が俄然締まるのだけれど。
 かおると月山の物語が起動する以前の序盤を殊に、結構寸暇を惜み回想の乱打も厭はず放り込んで来る、女の裸濃度が決して低くはない、二三番手の薄さに目を瞑れば。尤も、ほゞ全ての絡みを少なくともどちらかがイクかヌクまで描ききる、完遂率の他を圧倒する高さは論を俟たず素晴らしいものの、腰から下に張られた下賤な琴線をメキメキ激弾きするくらゐ、一戦一戦が充実してゐる訳でも別にない。総じて淡白なのは、相も変らない通常運行。質的に平板な裸映画に劣るとも勝らず、大したドラマも土台存在しない空白を、俳優部と演出部双方の非力にも足を引かれる、元々妙味に乏しい高々無駄口が埋められる筈もなく。素といふ意味で裸の劇映画的にも例によつてツッコミの余地も欠いた、詰まらなくすらない最早虚無感をも漂ふ散々なザマ。一言で片づけると、度外れた大通り越して大概巨根を、デジタルの力技で合成したなかみつせいじの顔面で処理する。前作に於いて火を噴いた、呵々大笑の飛び道具・富士山富男がゐない分、パワーダウンするばかりではなからうか。これは何も竹洞哲也に限つた話でもないのだが、ネットで公開されてゐる霞より薄い予告に目を通し、脊髄で折り返した悪寒に近い予感がまんまと的中。そこは、当たらない方がよかつたかな。寧ろ二部作の構成として、なかみつせいじと森羅万象をスイッチする選択肢は採り得なかつたのか。その際「火照りの桃源郷」を要は捨てる、結果を強ひられたにせよ。・・・・いや、待て待て。この面子の中で、なかみつせいじを介錯するに足るコメディエンヌは辰巳ゆいを措いてほかにない、とすると。なおみ不在の状態で幕を開ける、「旅立ちの朝勃ち」に富士山は連れて来れないのか。
 今作固有の事情にも目を向けると、一般映画版ではもう少し満足に手数を費やしてあるのか、裏方で復帰する以前の洋子が、木津に何某か大事な手術の費用を無心する件は、説明不足の木に接ぎ損なふ竹。大した見せ場も与へられず、勿体ないレベルの確かな発声を半ば持て余す星あめりと比べた場合に、尚更際立つのが高橋りほの心許なさ。たゞでさへ他愛ない会話劇を、前回主役の二番手が火に力不足を注いで壮絶にバクザン、もとい爆散してゐやがるのを再確認した。萬田がジムの、普段使ひの黒縁セルフレームに日常性を見出す云々の遣り取りに至つては言語道断。お眼鏡とそれをかける当人とを秤にかけて、美佐を、より言葉を尽すなら所詮生身の人間を選ばねばならぬ理由が何処にある。メガネこそ美の本質、地上に輝く究極の宝玉であると、何故貴様等は大人しく認められん。誰に向かつて激昂してゐるのか、赤い彗星構文で。
 うらゝうらゝ、メガネを愛で始めるとどうにも止まらない、先に進む。一般職を辞し風俗一本に絞つた、ジム改め二代目かおるがメガネを外してしまふ点まで含め、度し難いメガネ軽視がそれでも恐ろしいことに、谷底ではないんだな、これが。“シャボン玉 壊れて消えずに 飛んで行け”。アバンを一応回収しはする、木津会心の一句に乗せて。ロケワイで奮闘するメイとex.ジムに、事実上寿退職した月山と新しい人生を歩み始めるいつき。ぞんざいに吹き散らかしたシャボン玉で三本柱を適当に彩る、屁のやうなシークエンスが雲散霧消するラストは逆の意味で見事にチェックメイト。この映画の、敗北を確信した。かれこれ、今年からだともう一回り昔か、森山茂雄2011。何一つ変らず、誰一人救はれない世界。地獄に一番近い此岸を、ペテン師の呉れた魔法の道具で、ヒロインの心が穏やかに包み込む。陰鬱なロードムービーが行き着いた果てで起きた、森山茂雄が起こした鮮烈な奇跡を、当サイトは未だ忘れてゐない。即ち、掉尾を飾るプロップに、シャボン玉を使ふのは如何せん負け戦なのではあるまいか。竹洞哲也だからどうかうでなく、流石に相手が悪い。


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 「股がり天使 火照りの桃源郷」(2022/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:坂元啓二/録音:山口勉/編集:竹洞哲也/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:赤羽一真/監督助手:神森仁斗/制作応援:山本宗介/撮影助手:原伸也・田中彩野/録音助手:西田壮汰/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:ロケットワイフ/出演:高橋りほ・友田彩也香・辰巳ゆい・工藤翔子・吉田憲明・伊神忠聡・なかみつせいじ・バクザン・モリマサ・野間清史・巌屋拳児)。出演者中、モリマサと野間清史は本篇クレジットのみ、ではあるけれど。
 カラカラ回るダーツの的にタイトル開巻、風俗店オーナーの木津公平(巌屋)が恐々見守る中、新人嬢の東田舞花(高橋)が源氏名をダーツで決める、的の回転が止まつてから。こゝで、拳磁的な何だかプロレスラー風の改名をしてゐるものの、巌屋拳児といふのはお馴染み、あるいは単なる岩谷健司(a.k.a.イワヤケンジ)。
 店の看板も実名で抜かれる、特殊浴場「ロケットワイフ」(吉原)、何でロケットなのか。ロケットワーイフ!無性に人を石丸博也の声色で叫びたくさせる、闇雲な勢ひの語感はなくもない。閑話、休題。ベテランのなおみ(本名は北川梢/辰巳ゆい)が、ナンバーワンのかおるには辿り着けなかつた、常連客・萬田良介(伊神)に掟破りのNS殺法。一方、仕事場となる個室に、新居感覚で―のち劇中に於いても自ら謳ふ―公称Hカップ92cmのお胸をときめかせる舞花改めメイを木津と、元嬢で女番頭格の寺本洋子(工藤)は不安がる、工藤翔子て当サイトとタメなんだ。
 一番の大物は後に回すとして、配役残り友田彩也香が、件のかおり嬢こと南条いつき。確かに乳は太いにせよ全般といふか全体的に過積載のきらひも否めない気持ち鈍重なビリング頭に対し、二三番手の美麗ぶりが殊更際立つ。如何なる付き合ひなのか小松公典と距離の近しいバクザンは、かおりお気に入りのストリートミュージシャン、大体ヒムセルフ造形。類型的なトラックが、挿入歌に使用される。竹洞哲也五作前の2020年第二作「温泉情話 湯船で揉みがへり」(主演:きみと歩実)ぶりのピンク通算五本目、本隊二本目となる吉田憲明は洋子に女手一つで育て上げられ、就職も決まつた息子の優一。話を戻して伊神忠聡は、新橋探偵物語から初めて外征した、即ち外様から外れての本隊筆下し作。野間清史はメイ・かおると二輪車を戦ふ常連客、この人はちやんと出て来る、この人は。その他、辰巳ゆいとの濡れ場の恩恵にも与る、何か少し痩せた麻原彰晃みたいな赤羽一真以下、山宗なり竹洞哲也・小松公典(a.k.a.近藤力etc.)は含まない客要員が若干名投入。内定祝に優一をロケワイに連れて来る、同じ大学のパイセンは神森仁斗。問題が、モリマサが何処にゐたのか本当に全然皆目判らん、寝てないよ。
 無駄口が枝葉も茂らせ損ねる、2021年第一作「生つば美人妻 妄想で寝取られて」(全て脚本は小松公典/主演:神納花)と、第二作「恋愛相談 おクチにできないお年頃」(主演:あけみみう)。寡黙な戦術に転じたら転じたで、霞より希薄な第三作「義父と未亡人 一夜だけの秘め事」(主演:乙白さやか)に、前作の「はまぐり三景 吸つていぢつて」(2022/主演:並木塔子)。相変らずか性懲りもなく大蔵の寵愛を受け、順調なのは撮らせて貰へてゐる本数ばかり。内容的には黒星が四つ並んだ三ならぬ黒い四連星の竹洞哲也2022年第二作は、二ヶ月後にほぼ同じ布陣の続篇が控へる要は二本撮り案件。
 泡風呂を舞台にしてゐる以上、三本柱の裸は潤沢、な割に。裸映画的には千歩譲つてまあまあ、といつた程度。時間に追はれたか、ものぐさなフィックスが動かうとしない画角は押並べて平板で、踏み込んで来る気迫の希薄な、絡みは大体淡白。終ぞ地に足の着かない浮ついたヒロイン始め、後述する偉大な存在感を轟かせる御仁以外、詰まるところ全員何となくしか生きてゐない。何でもないやうなことが何でもないまゝの、観客を揺さぶるサムシングに乏しい非力な物語も例によつて面白くも何ともなければ、大して詰まらなくさへない始末。始末といふか、不始末といふか。ベクトルの正負は仕方がないのでさて措くと、辛うじて琴線が触れかけたのは豚汁を如何に読むかの件。凡百のシークエンスに劣るとも勝らない、凄まじいまでの他愛なさにはグルッと一周して吃驚させられたか。路上にてメイが銭を投げようかとしたところ、被せるが如く不自然に割り込んで来られる、不格好なラスト・シーンなんてもう完璧、ある意味通り越して逆の意味で完璧。
 尤も、箸にも棒にもかゝらないだけで、終らなかつたのね、今回は。かおるが姿を消したロケワイに飛び込んで来るのが、来店は年に一回、業界単位で名を馳せる伝説の巨根客・富士山富男(なかみつ)。富士山並と畏れられる正しく超弩級の逸物は、なおみ曰く富士山どころかエベレスト。そのチョモランマを、デジタル撮影の果実を大人しく甘受、マットの上に寝た富士山の然るべき位置に、なかみつせいじの顔面を綺麗に合成処理する破天荒な奇手が大噴火。怒張の状態を、捧腹の顔芸で表現してみせるのもなほ超絶。事後、鼻を中折られた富士山からなおみが、太平洋はおろかブラックホールを拝命される無体なオチには、辰巳ゆいに対する不憫さも禁じ得なくもあれ、安田清美なら許されるのか。とまれ一発大逆転が鮮やかにキマりはする、無碍に匙を投げる訳にも行かない、一点ならぬワン・カット・突破で捨て難い一作。“だーれも触れーない、ふーたりだけーの国”。「ロビンソン」のコーラスを爆音で鳴らしたくなる、締めの濡れ場への空前絶後にスマートな導入で深い鮮烈を刻み込んだ、加藤義一の「すけべ繁忙期 モーレツたらし込み」(2021/脚本:筆鬼一=鎌田一利/主演:折笠慎也・久留木玲)に匹敵する一撃必殺を、昨今の直截に不甲斐ない竹洞哲也が叩き込んで来ようとは思なんだ、油断してゐた。


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 「夫婦情話 されどはまぐり」(2022『はまぐり三景 吸つていぢつて』の、OPP+版『されどはまぐり』のDVD題/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:坂元啓二/録音・整音:植田中/編集:竹洞哲也/音楽:與語一平/助監督:江尻大・島崎真人/制作応援:山本宗介/撮影助手:戸羽正憲・原伸也・辻菜摘/機材協力:中尾正人/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:並木塔子・岡江凛・辰巳ゆい・石川雄也・モリマサ・近藤善揮・倖田李梨)。
 モデルハウスみたいな普通の一軒家に、民泊「はまぐり」の黒板。生活感すらない厨房、女将の北川達子(倖田)が蛤を蒸しがてら、明るいうちからの酒をキメる。机上の写真に語りかけながらの、グルメ番組風に美味しさうな自分メシ。達子が手に取つた、蛤の殻にタイトル・イン。車で来れば敷地内に停められさうな気もしつつ、駅から歩いて二十分の「はまぐり」を、望(並木)と一郎(石川)の鶴見夫妻がとほとほ目指す。手前勝手にノッリノリの一郎に対し、望は微妙な距離感も滲ませる。ちやうど出て来た辰巳ゆい・近藤善揮と、交錯はせず二人は宿に到着。達子が望と一郎を部屋に通す三人のフルショットに、メニュー1「はまぐりのお吸ひ物」の副題イン。
 配役残り、芸か性懲りもなく、鶴見夫妻と入れ違ふ形で「はまぐり」に辿り着いた、岡江凛とモリマサがメニュー2「焼きはまぐり」部、加奈と明久の高尾夫妻。入院手術で休業に入る、相変らず活動が安定しない岡江凛(ex.美村伊吹/ex.緒川凛)は八戦目で流石に打ち止めか。尤も、八年前の初陣「尼寺 姦淫姉妹」(2013/監督:友松直之/脚本:百地優子・友松直之)で既に、ソリッドな美貌に勝るとも劣らない、お芝居の強さでも光芒を放つた岡江凛が目方を30kg落とした落とせた上での電撃復帰なら、遂に満を持すか機が熟しての、大逆転天下を取れても全然おかしくない気はする。一方、元年デビューのモリマサは、この人令和のかわさきひろゆきのセンで行けるのではないかしら、行けても別に行きたかなかろ。改めて辰巳ゆいと近藤善揮が、メニュー3「煮はまぐり」隊。こちらのカップルは入籍前、珠江と、式の段取りに頭を悩ませる関川元成。そ、して。「はまぐり三景」では省かれてゐる可能性も否めない、エピローグ的なメニュー4「はまぐりの酒蒸し」。現代ピンク最強の男前・山本宗介が、達子の亡夫役で「はまぐり」開業時のスナップに飛び込んで来る。時制的にはメニュー4が現在で、312の順に古いエピソードを、123の順で回想して行く構成。
 体調を派手に崩し遠征を断念、OPP+版「されどはまぐり」を更に改題した円盤を外王で借りて来て茶を濁した、竹洞哲也2022年第一作、つか90分あんのかよ。
 蛤料理を主たるモチーフに、三組の夫婦情話を綴る。脊髄で折り返した印象を、ぞんざいに吹くけれど。これをテアトル新宿―とシネ・リーブル梅田―にて一般映画でございと上映したのか!?と、霞よりなほ空ろな話といふか中身の薄さに衝撃を受けた。馬鹿の一つ覚えの砂浜を概ね主に、そこいらの往来を俳優部がホッつき回る辺りが中心なのだらうが、ピンク版を水増しするにせよ、二ヶ月先行したフェス作をベースに寧ろ削るにせよ。全篇ある意味もしくは良くなくも悪くも均質なほぼ真空ぶりにつき、二十分分の差異に目星をつけようにも忽ち途方に暮れる始末。鶴見夫妻のわだかまりは、新婚最初の献立とかいふ、はまぐりのお吸ひ物で何故か何となく氷解。高尾夫妻は接着剤で止めた焼きはまぐりが開かない開く訳がない、子供騙しのトリックで離婚に持ち込む。関川夫妻(予)に関してはわざと煮詰めすぎた煮はまぐりで煮詰まりを戒める、クソみたいな方便の壮絶な詰まらなさに度肝を抜かれ、る以前に。そもそも珠江が勝手に思ひ詰めてゐたところの所以が、初婚の元成に対し珠江は二度目ゆゑ、挙式に激しく抵抗を覚えてゐた、とかいふ他愛なさには尻子玉を抜かれた。片や、並木塔子と石川雄也の通り一辺倒な濡れ場が、可もなく不可もないのが精々関の山。岡江凛の完全に箍の外れたか底の抜けた大質量は触れる琴線を選び、ほかに連れて来る男優部はをらんのかとしかいひやうがない、素の口跡すらへべれけな近藤善揮はいざ絡みに入るや秒で息が上がり、今年の二月にも新作の撮影に参加してゐた模様の、有難く長く継戦して下さる辰巳ゆいを台無しにするばかり。所詮、坂元啓二によるプレーンな画は女の裸を官能的に煽情的にといふよりは、料理を小綺麗に撮るのには長けてゐる程度。と来ると即ち、要は地の劇映画としても、裸映画的にもスッカスカのカッスカス。前年からの不調を逆の意味で順調に継続する、竹洞哲也が四連敗も通り越した四爆散を遂げたとて別に驚くにはあたらないのかも知れないが、子飼ひの寵児が煮ても焼いても食へない体たらくで、大蔵の認識や果たして如何に。唯一、針の穴にボーリング玉を通す決死の覚悟で面白味を見出せなくもなかつたのが、浜辺で黄昏る珠江に達子が上手いこと目を留める、そもそも屋外温水シャワーで達子は何をしてゐたのよといふ、大恩師・小川欽也のスピリットを竹洞哲也が継承した、アグレッシブな頓着のなさが火を噴く無造作なロケーション。はこの際さて措き、近年沙汰の全く聞こえて来ない、今上御大の御様子が地味にでなく気懸りな件。


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 「義父と未亡人 一夜だけの秘め事」(2021/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:坂元啓二/録音・整音:植田中/編集:竹洞哲也/音楽:與語一平/助監督:江尻大・島崎真人/制作応援:山本宗介/撮影助手:戸羽正憲・原伸也・辻菜摘/スチール:須藤未悠/技術協力:中尾正人/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:乙白さやか・倖田李梨・辰巳ゆい・吉田祐健・近藤善揮)。
 二つ並んだ女の尻にタイトル・イン、一幕・アンド・アウェイの三番手がといふならばまだしも、二番手共々開巻に飛び込んで来る奇襲が鮮やかに決まる。完全に不意を突かれながらも、結論を先走るとそこが今作のピーク、ファースト・カットかよ。女はママ―兼ヅマ―友同士の大坪理佳(倖田)と水木愛菜(辰巳)で、男は理佳不倫相手の宮本輝樹(近藤)、とかいふ構図の巴戦。単に―休日を―明示してゐないだけなのかも知れないが、昼間から遊んでゐる、宮本の素性は不明。ところで近藤善揮の戦歴に関して、横山翔一の「新橋探偵物語」第一作スピンオフ、その間に山本淳一のギャル番第二作。外様三本は覚えてゐたが、新探一作目(2018)の遠い昔日、池島ゆたか2012年第二作「ホテトル譲 悦楽とろけ乳」(脚本:五代暁子/主演:周防ゆきこ)があつたのを完全に忘れてゐた。何れにしても、おひおひ後述するが近藤善揮はピンク四戦目で、目出度くなく女優部と初交戦、目出度くないのか。尺はふんだんに費やす、初戦を経て。東あずみ(乙白)がつはものどもが夢のあとなラブホテルの風呂を掃除してゐると、迂闊極まりなくも部屋にスマホを忘れた理佳が取りに来る。風景から窺ふに決して大して広くはなささうな町で、あずみと理佳も面識がなくはない御近所であつた。ガラス棚の中に物が入つてゐたりゐなかつたりする、生活感の希薄な矢鱈小綺麗でダダッ広い戸建て住まひのあずみは、義父で公務員を早期退職した一雄(吉田)と二人暮らし。未だ表札に名を遺す、あずみの夫・洋介は三年前交通事故で急逝してゐた。あずみと洋介の結婚自体は七年前で、一雄の妻もしくは洋介の母はどうしたのかといふと、二十年前に死別。洋介役には井尻鯛だと見切れオチになりかねないゆゑ、現場に来てゐるにさうゐない山宗が遺影辺りで紛れ込むかと思つたが、さうもならず、少なくともピンク版を観る限り。それと雄健にも話を戻すと、何故か人偏をオミットした祐建名義の、デジエク第十弾「憂なき男たちよ 快楽に浸かるがいい。」(2019/監督:松岡邦彦/脚本:金田敬/主演:並木塔子)以来、もう四年も経つのか。
 なかなか与し易、くはない竹洞哲也2021年第三作。未亡人と義理の父親がワンナイトラブに及ぶ、如何にもありがちな話、であつた筈なのに。致命傷の候補が、ひとつふたつで済まない別の意味での盛沢山。それさ、過積載でいゝだろ。可愛いは確かに可愛いものの、未亡人はおろか人妻味にすら欠ける乙白さやかの可愛らしさといふのが、お人形さん風の人工物一歩手前の静的な造形美で表情以前に、生気から乏しく結構通り越し大概心細い。一本の映画を支へさせる、主演女優としては。ビリング下位の介錯まで全員雄健に任せる―全力で開き直るか覚悟を極めた場合、三番手は夭逝した亡妻との思ひででイケた―訳には流石に行かない状況で、女男俳優部それぞれ三人づつの標準的な布陣から更に絞り込んだ、正しく限界の頭数で挑みなほかつ、今回の小松公典は常日頃の情報密度を勘違ひした、無駄口の弾幕を相当抑制する寡黙な戦法を採用した模様。かと、いつて。諸々ミニマムな映画を撮らうとしたミッションあるいは与へられた御題ならば酌めはするにせよ、それで話が通り辛く、面白くもないでは元も子もない。それとも、もしも仮に万が一、本末転倒を極めようとしたのであれば大成功といへる、のかも。ただでさへ何を考へてゐるのか何も考へてゐないのか覚束ないヒロインの、口数を制限した上でなほその不足を補ふか空白を埋める、効果的な演出の手数が繰り出されるでも別になく。片や雄健も雄健で、序盤中盤気づくと何かしら口に入れてゐる、食事映画といふ側面的の極致であれ画期的な機軸以外に、持ち前の馬力を遺憾なく発揮するドラマ上の見せ場にも特段恵まれず。大体血色からいゝ矍鑠とした一雄が、健康上爆弾を抱へてゐるやうにも映らない火に油を注ぐ、藪から棒な漁師願望なんて何処から湧いて来たのよ、天才の仕事か。見せるもの、より直截にいふと見せないと始まらない女の裸がキチンと見える、撮影部が丹精込めた見事な薄暗さは素晴らしい、終盤二十五分を丸々使ひきる締めの濡れ場。何が何だか脈略は終ぞ心許ないまゝに、兎に角あずみと一雄が漸く結ばれは、したけれど。先に湯を浴びる一雄の後から浴室に入つて来たあずみが、何か知らんけど泣きだしたのに対し、呆然と手をこまねく一雄が何もしやしない甚だ非力なラストには、抜かれるどころか尻子玉が尻(ケツ)の中で溶けるかと思つた。どうやら竹洞哲也も小松公典もコンビで仲良く、かつて日本一短い手紙で観客を滂沱の海に沈めた、観る者の心に極大のエモーションを最短距離で叩き込む、ゼロレンジ・ドラマツルギーは完全に失つてしまつたやうだ。
 思はせぶりなばかりで案外微動だにしない、ヒロインに代り理佳が藪蛇に拗らせる痴話含め。脱衣所にて軽く脱ぐか、控へめなワンマンショーに耽る程度で乙白さやかを温存しつつ、倖田李梨が近藤善揮と逢瀬を重ね、土台乳尻を削るほどの物語なり展開も存在しない根本的な希薄はさて措き、絡みの物足りなさはとりあへず感じさせない、純粋な意味での量的には。ところがこゝで火を噴くアキレス腱が、図々しくトメに座つてゐやがるのがレイジを加熱する近藤善揮。アクの強さと、下品さを履き違へたメソッド全般。少し動くとすぐ息があがり、下になつたらなつたで微動だにしない冷凍マグロ。激越にエローショナル―エロいとエモーショナルを合体させた脊髄反射造語―な辰巳ゆいの超絶裸身を台無しにする、大根にも満たない貝割れ役者には衛星軌道に乗れよと匙をブン投げた。改めて、男優部の重要さを痛感した次第。兎も角これで、竹洞哲也の2021年は木端微塵気味の玉と砕ける三連敗。EJDが何時までも単独デビューさせて貰へない反面、KSUもゐることだし当サイトは竹洞哲也が不調であつたとて特に胸も痛まないが、生え抜きの寵児が斯様な不甲斐ない体たらくで、大蔵的には果たしてどうなのよ。

 そ、もそも。主人公がラブホ清掃の職についてゐる、量産型裸映画的にお誂へ向きの設定が、実はあずみと理佳を一応交錯させる以外には一切全く本当に機能しない、清々しく木に竹を接ぐギミックである点には軽く度肝を抜かれた。単に日中あずみに家を空けさせる方便であるなら、仕事はもつと在り来たりな何でも全然構ふまい。


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 「恋愛相談 おクチにできないお年頃」(2021/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:植田中・小鷹裕/編集:中村和樹/音楽:與語一平/整音:小鷹裕/助監督:可児正光/監督助手:吉岡純平/撮影助手:赤羽一真/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:あけみみう・詩音乃らん・しじみ・山本宗介・赤羽一真・細川佳央)。
 ロングでマンション外景を一拍抜いて、あけみみうと山本宗介が乳繰り合つてゐる。初美(あけみ)が優吾(山本)に「ねえ、もしも」と切り出す、人の心が判るとしたらとか出し抜けに随分底の抜けた会話から、大正義正常位の火蓋を切る。手短な完遂後、実際読んだ優吾の心を初美が口にしかけるや、「チキショウ!」と語気も荒く優吾は男前を歪める。のは、アバンの初戦を、決して力技でなく夢でオトす悪夢。スナップ代りに、初美のタブレットに表示された優吾の画像にタイトル・イン。こゝまで順調、こゝまでは。
 美しい劇伴で女の裸を飾る、主演女優のシャワー・シーン挿んで、初美と優吾も成員の、何処園大学(ウルトラ仮名)の料理サークル「インスタントラーメンを突き詰める会」、略称は有無から知らん。原田ミチタカ(赤羽)自作の辛味調味料を入れてみた、ラーメンの放つ異臭に藍(詩音乃)とミナミ(しじみ)の三人で悶絶しつつ、口に入れてみると味にハマつたミナミが、辛味調味料を果てはぐびぐび喇叭飲みする奇行―徴兵忌避か―に、藍とミチタカは呆れ果てる。その頃初美はといふと、大学ごと出て来ない、戸建の優吾自宅前。普通にシレッと外出する優吾に、初美が声もかけられず二の足三の足を踏んでゐると、ミチタカとミナミを二人きりにイン突会を離脱した藍が接触。中略してある過日のサークル部室、普段とは違ふ装ひでキメて来た優吾を、秘かに片想ひする初美が軽く褒めた、ところ。開巻のナイトメア同様、俄かに血相を変へ優吾は飛び出して行つたのだつた。その際、実は―時と場合により―他人の心の声を聞くことの出来る初美には、「チキショウ!」と切り裂くやうな優吾の悪態が聞こえてゐた。
 配役残り、当然メタルフレームの、金縁ツーブリッジ面積バカ広ウェリントン。なんて途轍もなく難しい眼鏡を、カッコよく完璧にかけこなす。オダギリジョーばりのファッション偏差値の高さを弾けさせる細川佳央は、ミナミの多分同棲相手・トモくん、調理系の人。しじみV.S.細川佳央結構長丁場の一回戦を、ミチタカがミナミから破廉恥な惚気話をさんざ聞かされた旨、初美と藍に愚痴る形で処理する。即ち大きな絡みを卒なく回想で賄ふ構成も、案外裸映画的に気が利いてゐる。等々そこかしこ、枝葉は満足に繁つてもゐるのに。
 2014正月痴漢電車、かつ今やすつかり大女優的な貫禄をも漂はせる、辰巳ゆいのピンク初陣「痴漢電車 いけない夢旅行」(脚本:小松公典)以来、小鷹裕が思ひのほか久々で竹洞組に参加した2021年第二作。ちなみに小鷹裕の戦歴がピンク全体でいふと、少なくともこゝ二年正月痴漢電車の運行を停めた、小関裕次郎第二作「痴漢電車 夢見る桃色なすび」(2020/脚本:深澤浩子/主演:佐倉絆)ぶり。と、いふか。この期に改めて振り返つてみるに、正月もクソもない。「夢見る桃色なすび」以降、痴漢電車は路線自体最低運休してゐる。もう、公開題に“痴漢”なんて入つた映画をおいそれと封切れる時代ぢやないんだよ、さういふ世の中なのだらう。我ながら、認識がうすらのんびりするにもほどがある。
 公開初日を基準に、公称で二十三の詩音乃らんはまだしも、次に若いあけみみうで既に二十六、赤羽一真は三十前。しじみと山宗に至つては普通にアラフォーの五人が、ミナミに対してタメ対応の大学生といふのは、如何せん些か―どころでない―画的な無理も正直否み難い、惚れた腫れたにセンシティブな異能力を絡めた青春恋愛映画。勝手に二人で充足か完結するミナミとトモくんは措いておくか放たらかすとして、四人の恋路が器用に交錯する四角関係を構築、しはしたけれど。ミチタカのベクトルが、結局何処に向いてゐるのか判然としない点―しなくもないのか?―は兎も角、矢鱈マクガフィンじみた含みばかり持たせる会話を延々延々、性懲りもない執拗さで代名詞だらけの遣り取りを垂れ流し倒した挙句、力なく辿り着いた他愛ないラストを、與語一平によるギターはエモく哭くメイン・テーマで誤魔化す。より直截には、頼りきりで助けて貰ふ。Blue Forest Filmの映画を観てゐて常々、もしくはつくづく感じさせられる疑問について、気紛れに筆を滑らせてのけるが小松公典が徒に書き散らかした、膨大なダイアローグを処理するのに一杯一杯で、最早竹洞哲也には、満足に演出する余力の残されてゐないのではなからうか。そのくらゐ、口数ばかり夥しい割に、中身は霞より薄い尺が淡々と進行して、やがて尽きる。ただでさへ凡そセイガクには見えない根本的な負け戦の火に油を注ぎ、チキショウ当日との判り易い対比が、諸刃の剣的に働いたのかファッションからダサい山本宗介が、堂々巡りに明け暮れるドラマツルギーに動きも縛られ、気持ちよく自由気儘に飛び回り、しじみと二人九州か岩手、あるいは明後日か一昨日へと軽やかに駆け抜けて行く、細川佳央の後塵を明らかに拝してゐる。二人と比べると誤差程度のついでで、本職は俳優部らしい赤羽一真も、この人最終的には表情に乏しいのが微妙に厳しい。反面、山宗同様、煮詰まり続ける展開に身動きを封じられるビリング頭に対し、ワンダーなワン・ヒットを放つのが二番手。皆の前に出て来るやう、藍が優吾に促すのも通り越し、半ば迫る件。藍役に際して、基本肩の力を抜いた造形を宛がはれた詩音乃らんの、さりとて一旦気持ちを込めるや、轟然と輝きを増す瞳の強さが印象的。惜しむらくは此処以外さういふシークエンスに恵まれないのが甚だ勿体ない、一撃必殺の決定力ないしエモーションを撃ち抜く。美人のギアも、幾つか一息に上がる。尤も、窮屈なポジショニングに阻まれ、ボリューミーなオッパイを御披露なさる文字通りの見せ場にも、恵まれないのは重ね重ね残念無念。所詮は一応場数は稼ぐヒロインもヒロインで、終に締めの濡れ場さへ、妄想で事済ますしかないといへばないのだけれど。相も変らず大蔵の寵愛を受けこそすれ、前作で起動した悪寒を引き摺る、竹洞哲也の不調を大いに窺ふか疑はせる一作。偶さか優遇されてゐるだけにせよ、撮らせて貰へる分現に撮つてみせる。今日日唯一人、量産型娯楽映画のならではな量産性を体現する、最低限の体力ならば評価に値するものの、もう少し、中身が伴つて呉れなくてはエースと目するには全く心許ない。


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 「生つば美人妻 妄想で寝取られて」(2021/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:植田中/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:植田中/助監督:可児正光/監督助手:吉岡純平/撮影助手:赤羽一真/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:神納花・辰巳ゆい・倖田李梨・七菜原ココ・あけみみう・栄川乃亜・イワヤケンジ・折笠慎也・細川佳央・森羅万象・石川雄也)。
 戸建の玄関口から嬌声が聞こえて来るのに、カット跨ぐと連れ込みのベッドで辰巳ゆいが悶えてゐるのは、ピンク映画を主戦場とする脚本家・丸石智也(石川)が円盤に目を通す、過去に手がけたピンクの一幕。目下思ふやうに書けない不調に悩む智也が、溜息ついてタイトル・イン。こゝ、で。いきなり驚く勿れ呆れる勿れ、怒髪冠を衝く、勿れ。いや、レイジで被り物を突き上げるのはいゝ。結果的にアバンの束の間を豪快に駆け抜けて行く辰巳ゆいが、このビリングで下着までしか脱がない壮絶な不誠実。因みにハモニカを吹く相手役は、太股でガッチリ挟み込まれ識別不能。後ろ髪を見るに細川佳央かなあ、演出部動員でなければ。再びこゝで、こゝで使用されるDVDのパッケージは、竹洞哲也―は以下略―2018年第五作「田園日記 アソコで暮らさう」(脚本:当方ボーカル=小松公典/主演:白木優子)の、OPP+版でスターボードよりリリースされた「農家の人妻 長崎家の崩壊」。
 以前は執筆にノッて来ると余勢を借り、お盛んであつた妻・朋子(神納)との夫婦生活も、ドミノ式に滞り気味。さして深刻にでもなく窮した智也は、この御仁が何で死なずに生きてゐられるのか何気に不思議な、ドロップアウトした先輩格の脚本家・関川(森羅)に相談を求める。
 徒な頭数が淫らに膨れあがる配役残り、山内大輔2020年第二作「つれこむ女 したがりぼつち」(主演:桜木優希音)ぶりの七菜原ココと、役作りなのか派手な気紛れなのか、パンクスみたいに短く刈り込んだ折笠慎也は、智也の難航する新作『ガールズスケッチ』の登場人物・真紀と健也。主演女優を除くと七菜原ココが唯一、濡れ場らしい濡れ場を披露する。一応初の本隊作となるあけみみうと、国沢実2020年第二作「性鬼人間第三号 ~異次元の快楽~」(脚本:高橋祐太/主演:東凛)で、その点に関しては一歩先行する栄川乃亜は、智也が関川に見て貰ふ過去作中、シャワーを浴びがてら百合の花咲かせるカップル。この二人の、明らかに踏み込んで美しく撮られるシークエンスが矢張り束の間ながら、今作中僅かに、もとい最もエモーショナル。倖田李梨とイワヤケンジも過去作の登場人物、RiZぽい?居酒屋店内にて情を交す、女将と多分懇意の常連客。倖田李梨は、後背立位に突入する際尻までなら脱ぐ。関川の適当な発案による、朋子との交はりを意図的に断ち性欲を昂進させる“中学生作戦”の失敗を受け、次なる“プロジェクトNTR”に招聘される細川佳央は、関川・智也双方と近しい俳優部・山本タカアキ。最後にこゝで、倖田李梨から、七菜原ココを飛ばしてあけみみう・栄川乃亜・イワヤケンジまでが出演する智也過去作については、2017年第三作「疑心乱交 闇夜にうごめく雌尻」(脚本:当方ボーカル/主演:辰巳ゆい)のOPP+版、「柔らかい檻」のパケが使はれる。
 もしかすると、今後加藤義一に離されて行く竹洞哲也を見る破目になるのかも知れない。そんな予感の起動する、2021年第一作。
 筆の湿りに燻るピンクの脚本家が、頼つたのが土台話を訊く相手を間違へた感も否めない、人生ごと大雑把なパイセン。関川のへべれけな助言に従ひ、智也があれやこれや右往左往する艶笑譚。と、いふと。オールドスクールかストロングスタイルの量産型裸映画を、期待させなくもなかつた、にも関らず。軽やかさの中にも地力の強さを感じさせる、細川佳央がしなやかに飛び込んで来る“中学生作戦”から、“プロジェクトNTR”に移行する件で展開が偶さか弾むのが、精々のハイライト。最終的に、要は智也が勝手に拗れてゐただけの夫婦仲は、七十分の満了と同期するが如く、何時の間にかか何となく仲睦まじく回復。する反面、そもそもの発端ないし元凶であつた筈の、智也を悩ませる脚本家としての不振はケロッと等閑視して済ます、だらしなくないところのない関川に劣るとも勝らず、べろんべろんにへべれけなドラマツルギーには呆れ返つた。ただ、単に面白くない詰まらない、のみならばまだしも。小松公典は性懲りもなく十八番のつもりの、会話劇と称した無駄口に終始するうちに、即ちさんざ尺を空費した果てに。他とは一線を画する風格をも漂はせる辰巳ゆい―七年九本目―と、案外コンスタントに継戦する倖田李梨のベテラン勢に加へ、五十音順にあけみみう・栄川乃亜・七菜原ココが新進気鋭・ストリーム・アタックを放つ、豪華六番手まで擁する藪蛇に分厚い布陣にしては、穴のない二番手以降が逆の意味で見事に宝の持ち腐れ。神納花以外甚だ疎かに扱はれる、出来損なひの裸映画には直截に腹が立つた。起承転結の転で映画をブッた切らうともシュルレアリスムの領域に突入して支離滅裂であらうとも、竹洞哲也の師匠・小林悟は決して女の裸を蔑ろにはしなかつた。実は大御大よりなほ酷い気がしなくもない、珠瑠美でさへ常に綺麗処を揃へた三本柱の、絡みを少なくとも量的にはお腹一杯に見させた。終始上目遣ひで所謂アヒル口を尖らせる、神納花の甚だ甘たるい造形が琴線を逆向きに激弾きするのは、当サイトの極私的な選り好みにせよ。面白くなく詰まらなく、挙句乳尻も物足りぬでは、立つ瀬も縋る拠り処も何処にもない。寧ろ作家主義を気取つたソリッドにも欠けると来た日には、旧くはあれ別に良くはない、国映系の方がまだマシだつたとすら、思へかねないよくいへば問題作である、“よくいへば”の意味が判らねえ。

 と、ころで。主演の神納花(ex.管野しずか)が、2018年第一作「おつとり姉さん 恥骨で誘ふ」(脚本:当方ボーカル=小松公典)以来、と振り返り、かけて。そのあとに一旦公開後、未だ謎の理由でなされた封印があらゆる形で解かれてはゐない、山内大輔2018年第三作「アブノーマルファミリー 新妻なぶり」があつたのを忘れてゐた。なので、十年八本目となる。神納花に改名後出演作を三本撮つた、荒木太郎が大蔵から空前絶後に梯子を外された、「ハレ君」事件は執拗に覚えてゐるけどね。


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 「温泉情話 湯船で揉みがへり」(2020/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:島崎真人/監督助手:山崎源太/撮影助手:赤羽一真/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:きみと歩実・新垣智江・千葉ゆうか・吉田憲明・モリマサ・細川佳央・山本宗介・佐倉萌)。
 伊豆なのに、今上御大にデビューの面倒を見て貰つた大恩を忘れたか、大正義伊東のペンション「花宴」、ではなく、温泉旅館「華の湯」(長岡温泉)の外観にタイトル開巻。二人で映つたスナップからパンした先で、三川明日香(きみと)と頭師智郎(吉田)がディープキス。二人の薬指には、二人を繋ぐ指輪。吉田憲明が髙原秀和の大蔵第二作第三作と、越した新居にネット回線の繋がらない間、KMZのスケジュールを知り得ず観落とした―矢張り髙原秀和が連れて来た―石川欣電撃大帰還作に続く、ピンク四戦目にして初の本隊作。この人、戯画的なツッパリのメソッドは持つてゐなささう―なくて別に困らんし―ではあれ、ハレ物に触るといふか障つたか、とんと沙汰を聞かない岡田智宏(a.k.a.岡田智弘)の穴を埋められる、かも知れない。閑話、休題。妙に男のノリが悪いか暗い、正直微妙に感情移入し辛い一戦を経て、二人は内風呂の大といふほどでもない中浴場に。温もりがてら、明日香は頭師に「華の湯」を初めて訪れた時からの、割と壮大な顛末を語り始める。
 配役残りモリマサと、まさかの母娘風呂にも飛び込んで来る佐倉萌は、就職した明日香が家族旅行をプレゼントする、両親の丈と沙由理。本で読んだ前評判とは随分違(たが)ふ、「華の湯」のプアなサービスには閉口しながらも年一の往訪を約しつつ、その後二人は震災死する。初陣の新垣智江と、意外にも2020年初出の山本宗介は、客がヤリ倒した清掃中の部屋にて致す「華の湯」仲居の桑名菜摘と、大病フラグを抱へてゐるにも関らず薬を飲まない、無精者の彼氏・松野至。劇中最初は三川家の三人で参る、縁を死後も結ぶとか御利益がなかなかエクストリームな神社。明日香と菜摘がすつたもんだする境内に、悄然と現れる細川佳央が野々宮卓、千葉ゆうかが野々宮の十年前に事故死した恋人・野宮朱音。それと順番的にはホソヨシの前、菜摘の“忘れる努力”に足元だけ見切れさせる男なんて当然手も足も出ない。
 二作前の2019年第六作「発情物語 幼馴染はヤリ盛り」(主演:川上奈々美)から再び、小松公典が本名で挑んだ竹洞哲也2020年第二作。以降も今のところ小松公典名義につき、徒か戯れな変名の濫用に漸く飽きたか厭いたか、兎も角止めた模様。
 当初さんざ勿体つけた―交霊系の―能力が、いざ蓋を開けてみると個々人の間を比較的でなく自由に往き来する、都合のいゝフレキシビリティはこの際さて措き、一人につき一年に一回のみ、死者と再会出来る温泉を舞台に繰り広げられる感動物語。に、しては。主演女優を爆心地として二番手とよもやの四番手にモリマサまで誘爆する、小松公典の横好きとしか匙の投げやうもない、他愛ないネタを延々舌先ないし小手先で捏ね繰り回し続ける性懲りもない掛け合ひ会話が、木に竹を接ぐのが精々関の山の枝葉も枯らすダイオキシン。何がボインちやんなら、面白いつもりなのか。どうしてさう執拗に正攻法を拒む、といふか拒んでゐる訳では必ずしもなく、全体の展開的には業を煮やすかの如く無駄口の被弾を免れた野々宮が、朱音に対する激越な思慕を正しく振り絞るシークエンス。細川佳央が相当の地力と馬力とで轟然と撃ち抜く、ど直球勝負のエモーションが文字通り一撃必殺。それまで生煮えてゐた映画が劇的に復活する、その様にも吃驚した。間髪入れず、受けるきみと歩実も既に滂沱の大火に涙のガソリンを注ぎ、憚らずにいふが竹洞哲也の映画を観て当サイトが斯くも泣いたのは、通算第二作の依然現時点最高傑作「美少女図鑑 汚された制服」(2004/主演:吉沢明歩)以来ではなからうかといふほど泣かされた。一旦一段落したのち、持ち直した野々宮が人払ひする一幕に際しては、明日香―と観客―にもう大丈夫である旨明確に示す、強い目力も捨て難い。あと死者造形の所以でもあるのか、一見貧相なルックスに見せかけた三番手も、事後にはフレームの片隅でキラッキラ美しい瞳を慎ましやかに輝かせる。死に至る、松野の面倒臭がりに関しては流石に如何なものかといふ以外の言葉も見つからないが、菜摘が松野を偲んでの、豊かなオッパイの自撮りならぬ自舐めをも繰り出すワンマンショーは、エロくてエモい裸映画的ハイライト。咥へて、もとい加へて新垣智江がそんな可愛くも美人でも決してないけれど、半信半疑の明日香を断言で諭す「逢へる」の、オーラがグッと前に出る力の込め具合には案外確かな芝居勘を窺はせる。茶碗の飯を箸を使はずに食ふ、トチ狂つたやうにしか映らなかつた丈の奇行を、回収してみせる思はぬ離れ業にも不意を突かれた。
 それ、だけに。確かに映画的にアッと驚かされる、世にいふ衝撃の結末ではあるものの、形の如何を問はず結果的に諸方面の想ひを反故にした格好の、所謂シックス・センス風オチには疑問が残るといふか、より直截には「えー!」的に愕然とした。初戦に於ける、頭師の不可解な風情を拾つてゐるのは酌めるともいへ、オーラス改めて積み上げる生に向かつて背中を押す南風を、盛大に卓袱台返ししてのけるのは結構な蛇の足ではあるまいか。それ、とも。もしも仮に万が一、一般映画版を観るなり見れば頷ける相談であるのだとしたら、否、だとしても。そんなもん知らねえよ!と、何度繰り返し声を荒げたところでどうせ大蔵に届きはせんだろが、腹の虫が治まらないといふ―だけの―理由で何遍でもいふて呉れる。逆に、なほ釈然としない場合、いよいよ以て仕方のない次第、OPP+は言ひ訳じみた避難道か。

 最後にもう一点、マッパのきみと歩実を前に、甚だ礼を失した頭師の態度と丈の白痴ムーブはリカバーした反面、「華の湯」玄関での松野との別れ際。菜摘の「治つてもね」は投げたまゝだよね・・・・は!それももしも仮に万が一!?知らんがな、いい加減にせれ。そもそも、二兎を追ふからとかく編集が窮屈になるか、至らぬ詮索を生むのでは。といふのは腹立ち紛れの素人考へと、ためにするマッチポンプ。


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 「ひとり妻 熟れた旅路の果てに」(2020/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/録音:丹雄二/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/制作応援:泉知良/撮影助手:赤羽一真/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:辰巳ゆい・並木塔子・加藤ツバキ・折笠慎也・モリマサ・安藤ヒロキオ)。
 ウミネコの生息地として知られる種差海岸(青森県八戸市)、夫は遅れて来る結婚十年の記念旅行で当地を再び訪れた、旧姓野口の菅原恵深(辰巳)が一人佇む。辰巳ゆいの、タッパがロングに映える。恵深が前回同じ場所に来たのは、職場結婚後も二年前までは勤めてゐた会社の、二年前の慰安旅行。倒木に十メートルくらゐ間を空けて座る、夫の洋介(折笠)と、膵臓癌で死去した―のが告別式出席で洋介の来青が遅れた所以―石庭柊子(加藤)の不自然な姿を目撃しながら、恵深には二人に声をかけることが出来なかつた。浜から海空を抜いて、何故か左端にせゝこましく入れるタイトル・イン。間もなく辞める人間が慰安旅行には来るのかよといふ、尻の穴の小さいツッコミ処も何気に否めない。
 初見では単なる適当なナンパ野郎にでもしか見えない、恵深に話かけて来る芹澤拓真(安藤)の顔見せ挿んで、宿に戻らうとする恵深は櫻井拓也とホソヨシの親爺も祝杯を上げた、和風食事処「松家」の表に、飯を食つた客(完全に不明)を見送る従業員で、高校時代の同級生・羽賀梢枝(並木)を見つける。続けて梢枝に道を尋ねる男は、トレードマークのチューリップ―ハット―的にもしかして新田栄ライクな竹洞哲也?恵深が普通に旧交を温めようとした梢枝は如何にもな訳アリ風情を滲ませ、当時快活な優等生であつたものの、ある日学校に来なくなつた梢枝には、駆け落ちしたなり中絶したなり、キナ臭い噂が囁かれてゐた。恵深がホテルで浴びるシャワーと、慰安旅行初夜ならぬ終夜に於ける夫婦生活の回想とで漸く本来求められて然るべきものを一頻り見せた上で、執拗に連絡の取れない洋介が一人になりたい旨のぞんざいなLINEだけ寄こして来た恵深は、梢枝と待ち合はせた翌日芹沢と再会。作家を語るか騙る芹沢に、本好きとか称する恵深が脊髄で折り返してマイッケル、もといホイッホイ釣られるアメイジング。
 配役残りモリマサは、梢枝と自宅の安アパート近くで別れた恵深が続けて帰宅し、梢枝に迎へられる姿を遠目に目撃する、足の不自由な漁師で内縁の夫の大原正行。バンク・ラバーで強盗殺人を犯した、大原の指名手配写真を掲示板に貼る制服警官はEJD臭く見えたが、確信能はず。
 脚本家以外同じ並びのスタッフを窺ふに、前作「発情物語 幼馴染はヤリ盛り」(脚本:小松公典/主演:川上奈々美)と青森二本撮りしたぽい竹洞哲也2020年第一作。常々あれだけ大蔵の寵児ぶりを誇る竹洞哲也でさへ、昨年は二本しか発表出来てゐない事実に、コロニャン禍半端ねえな!と改めて愕然とした、何をこの期に。指標おかしいだろ、世捨ててんのか。
 二番手の幸せと三番手の心を踏み躙つた主演女優が、素知らぬ顔でノーミス人生を歩み続けようとする。ある程度丁寧な心情描写で丹念に綴られるマリシャスな物語は、最低限酌めはするくらゐには見てゐられる。尤も、梢枝パートの殊更にテローンと平板な明るさの画は、徒なヘビーさを凡そ支へきれず、それでゐて、芹沢の存在に踵を返した梢枝に恵深が連れ立つ往来。ビリング頭二人の顔が、影に沈む非力なカットは尚更苦笑もの。丁寧な心情描写に関し“ある程度”と意地の悪い注釈をつけたのは、入念に埋め込む女優部三人に比して、男衆の扱ひが清々しいほどにスッカスカ。大原に関しては限りなく等閑視、無駄口ばかり饒舌な割に、芹沢が本当に物書きであるのか、自己啓発系すら疑はせかねない、単なる胡散臭いマンに過ぎないのか最終的に痒いところに手を届かせず仕舞ひ。大体洋介は何時まで一人になりたガールなのか、立腹した恵深が帰つてしまはないのが不思議で不思議で仕方ない、最早網の如くそこかしこに開いた穴が大きく多すぎて、一見落ち着いた語り口には反し、展開が満足に体を成してゐるやうには受け取り難い。とこ、ろが。「サイコウノバカヤロウ」第二作に劣るとも勝らず漫然と二連敗する、ものかと思ひきや。カットバックもするとはいへ、地味に絡み初戦から緻密に構築してもゐなくもない大胆なイマジンで放り込む、昔よりは十分延びた尺も利して満を持した、加藤ツバキに任せた締めの濡れ場があまりにも一撃必殺。ワーキャー褒めそやすには別に値しないにせよ、溜めに溜めた末轟然と撃ち抜く裸映画特有のエモーションが、百難隠して余りある一作。に、しても。実は何処までも冷酷な恵深の八幡馬スローを、何をトチ狂つたか都合三度二回リフする加藤義一でもしなささうな苔生した演出には、竹洞哲也どうかしたのかなと首を傾げた。

 フと気づくと加藤ツバキが田中康文大蔵上陸作「人妻エロ道中 激しく乗せて」(2013)でピンク初土俵を踏んで以来、今作で十三戦目、フィルモグラフィーを現在進行形で積み重ねてゐる。この人が恐ろしいといふか、素晴らしいのが今なほ全盛期を更新し続けてゐる点。花の命が、案外長い。


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 「発情物語 幼馴染はヤリ盛り」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:丹雄二/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/制作応援:泉知良/撮影助手:赤羽一真/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:川上奈々美・工藤翔子・辰巳ゆい・櫻井拓也・細川佳央・ささきまこと・モリマサ)。
 十和田湖(青森県十和田市)湖畔、波打ち際に川上奈々美が佇む。何を持ち出したのかよく判らないが兎も角何某かを水に浮かべ、沈むと願ひ事の叶ふおまじなひ。十和田湖と背景の山々に更にその奥抜けるやうな青空とを、ドローンでドーンとパノラマぽく捉へたショットにタイトル・イン。ぼんやりした風情でドローンを操る尾田道夫(細川)と、てくてく歩く池田輝雄(以下愛称のテル/櫻井拓也)の背中。道夫が操作を失したドローンが、テルを直撃。映像系の会社に就職し先に上京したものの、遅れて進学したテルと行違ひになる形で、挫折し青森に戻つてゐた道夫は思はぬ再会を果たす。テルはといふと就活に失敗後、自由度の高い何でも屋「自分レンタル」でまあまあ充実した日々を送つてゐたところ、父親の腰痛を機に、実家の農作業を手伝ふため一時的に里帰り。一方そんな池田家では、テルの父・正勝(ささき)と母・貴子(工藤)が、だから正勝は腰をいはした筈であるにも関らずな夫婦生活。こゝで軽く度肝を抜かれたのが2018年第三作「人情フェロモン もち肌わしづかみ」(脚本:当方ボーカル/主演:友田彩也香)ぶりの工藤翔子、ではなく然様な些細なブランクなんぞ霞ませるどころか容易く吹き飛ばす、渡邊元嗣2002年第四作「女スパイ 太股エロ仕掛け」(脚本:山崎浩治/主演:デヴィ)以来実に十七年ぶりとなる相当な大復帰を遂げたささきまこと。家庭の事情で帰郷後、郷里の青森でも俳優活動を続けてゐる旨は公式サイトで見知つてゐたが、目を疑ふくらゐ結構お爺ちやんになつてゐて驚いた。口を開くと、口跡に特段変りはないが、ちなみに公称昭和35年生。閑話休題、尾田家にて手当てされたテルがレトルト飯を振る舞はれてゐると、道夫の父親で役所の偉いさん的な義春(モリマサ)が帰宅。また補足し難い名義のモリマサは、見た感じ本職の俳優部。義春マターの移住者募集CM制作に加はる格好となつたテルは、道夫を交へ三人の仲良しで、地方公務員に就職し今は義春の部下である木元雅美(川上)とも再会。ソフトフォーカスで予め明示する、淫夢もしくはイマジンを雅美に対し随時爆裂させながらも、テルは持ち前の底抜けな熱量で転がり込んだ仕事に取り組む。
 配役残り、地道に七戦目の辰巳ゆいは風俗嬢を本業に、ニックネームはリバたんのローカルアイドル活動に精を出す川野光、本名で動いてゐるのかも。僅かに洩らす呻き声を聞くに、光―源氏名不詳―の客が多分EJD、孤高のラッパーはもう沈黙したまゝなのか。そんな一昨日な与太はさて措き、単独デビュー作を、当サイトは未だ忘れても諦めてもゐない。その他後述する第一作の面子が捕まらなかつた反面、テルと義春が何かしら達成したらしき祝杯を交す隣のテーブルに、竹洞哲也やささきまこと同様青森出身の折笠慎也はまだしも、安藤ヒロキオのNSPならぬLSP“ラスト・関根和美's・ピンク”では男主役を張つた贅沢なコンビが、二人のアガッた様子を冷やかし気味に見切れる。
 小松公典が本名で脚本を担当するのは加藤義一2015年第一作「純情巨乳 谷間で歌ふ」(主演:めぐり)が二十日後には封切られつつ、竹洞組限定だと2015年第二作「四十路熟女 性処理はヒミツ」(主演:白木優子)以来の何れにしても五年ぶりとなる竹洞哲也2019年、この御時世何気に驚異の第六作。2017年第一作「レンタル女子大生 肉欲延滞中」(脚本:当方ボーカル/主演:彩城ゆりな)から連続する続篇かつ、この年夭逝した櫻井拓也にとつて、ラスト・ピンクにあたる。
 予告に目を通してみたところ、銘々悩みを抱へる田舎町に、絶対的にポジティブなバカが帰つて来る。判り易く趣向の酌めるよく出来たトレーラーで、個々の挿話が何一つ主軸を担ひ得ず、漫然とした「レンタル女子大生」を挽回する期待もそこはかとなく膨らんだ。何はともあれ、薄味な素の表情がもたらす印象からは意外と艶のある演技に長けた、ビリング頭の濡れ場はそれなりにエロく、完全に出来上がつた大人の女である辰巳ゆいが、タータンチェックに青い襟を大きくあしらつた、プリップリのピッチピチでおまけにスカートもキワッキワに短い、アイドル衣装に身を包むエクストリームな可愛らしさは比類ない。悔しがり歯噛みして呉れ、ナベ。側面的にはテルが自宅で風呂に入らうかとしたところ、リバたんver.―しかもノーブラ、ジャスティス!―の光が湯船に闖入して来るのに「これ明らかに夢ぢやん」。案外な斬新さを櫻井拓也の軽妙なビート感で加速する、明晰夢オチには普通にを通り越し大いに感心した。尤も、雅美が燻るのは道夫が塞ぎ込むいはば余波にほかならず、当の道夫の所以が、伝聞情報のみによる酷く苛められた―らしい―といふのは、漠然とか矢張り漫然とするにも度が過ぎる。寧ろ光の来し方の方が余程しつかりしてゐるのは、往々にして発生するちぐはぐ。雅美が今も抽斗に仕舞つてゐた、千切れた鞄の持ち手を鍵に、いはゆる日本一短い手紙で一撃必殺のエモーションを轟然と撃ち抜く、竹洞哲也がデビュー二本目に叩き出した最高傑作「美少女図鑑 汚された制服」(2004/脚本:小松公典/主演:吉沢明歩)と同趣向のシークエンスさへ繰り出す割に、要は女にも不自由しない出戻りニートを、総出で甘やかす他愛ない物語には噴飯するほどの片腹も痛まない。ヨシハル・エクス・マキナ頼みの子供も騙せない展開には都合のよさが否み難いといふか、凡そ否める訳もなく。テルと義春が飛び込みで戸々を回る謎行脚の目的と、光すなはち辰巳ゆいのそれもまた超絶なスーツ姿の意味がサッパリ腑に落ちないのは、どうせ一般映画版を見ないと通らない、例によつてふざけた相談だとしても。息子に向かつて、二言目にはバカバカ連呼するのをテルから難じられた貴子は、「子供つてのは、親にとつちやサイコウノバカヤロウなんだから」。OPP+題を上手く回収した、名台詞でも小松公典は書いたつもりなのかも知れないが、斯くも河島英五ばりにダサい文句を、この期に及んで工藤翔子に吐かせてどうするのよ。アホか、否、アホだ。もう一点、あれだけテルの彼女持ちを徒にフィーチャーするのならば、こゝは裸映画である以上、絡みのひとつも捻じ込んで然るべきではあるまいか。どうせ外様は概ね賑やかしのワン・ヒット・ワンダーと、括つた高があながち中らずとも遠からずであつた場合、本隊に新しい扉を抉じ開けて貰はないことには困る。といふか恐らく橋本杏子が最初に“最後のピンク女優”と称された時代からの、終る終る詐欺も性器を股に挿れて、もとい世紀を跨いでかれこれ幾星霜、遂にいよいよガチのマジで終(しま)へてしまふぞ。以下は間違つた認識を垂れてゐるつもりも毛頭ないが、世にいふ“閲覧注意”的な扱ひで、<若手男優部が決定的に不足し野村貴浩なり久保田泰也が煮ても焼いてもどうしやうもなかつた、一頃の惨状を櫻井拓也が細川佳央や山本宗介、可児正光らと劇的に改善した、未来をも覗かせる功績は当然当サイトも認めてゐる。さうは、いへ。申し訳ないが急逝した人間の結果的に最後の―ピンク―出演作などといふのは、決然と筆を滑らせてのけると偶さかな状況に過ぎず、当該映画単体の出来不出来とは、清々しいまでに全く別個の問題でしかない。>たとへばガミさんこと野上正義(2010年没)が、実際最後に撮影したのがどの映画になるのか判然としなくもあれ、工藤雅典の「お掃除女子 至れり、尽くせり」(主演:星野あかり)は論外。友松直之のメイドロイド第二作「最後のラブドール 私、大人のオモチャ止めました。」(石川二郎と共同脚本/主演:吉沢明歩)にせよ荒木太郎の非「映画館シリーズ」作「恋情乙女 ぐつしよりな薄毛」(主演:桜木凛)にせよ、だからといつて殊更ワーキャー涙を流して褒めそやすには、別に値しないのと同じである。ある、いは。敢へて積極的に構へるでなく、何時も通りの仕事ぶりが、偶々最期の作品となつた。大量生産大量消費を本質とするポップカルチャーの極北たる、量産型娯楽映画的には寧ろさういふフラットな態度の方が、より相応しくもあるのではなからうか。


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 「不倫、変態、悶々弔問」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:山田理穂/撮影助手:宮原かおり/スチール:富山龍太郎/仕上げ:東映ラボ・テック/制作協力:可仁正光/出演:高瀬智香・涼城りおな・彩奈リナ・森羅万象・ケイチャン・小林節彦・櫻井拓也)。如何にも可児正光の誤字か変名臭い可仁正光が、本篇クレジットに於いても確かに可仁正光。
 線香のCMみたいな白い雲の浮かんだ青い空に、上中下各句ひとつづつ入るタイトル・イン。開巻もとい開口一番、「人は皆何時か死ぬ、こればかりは」云々と割と実も蓋もない森羅万象のモノローグが起動し、喪服を着装する主演女優、といふほどでもない高瀬智香の背中。結論を一部先走ると、余程初心でなければサルでも判る森羅万象の重低音に対し、ビリング頭の初御目見えにしては個別的具体性を排したカットに一種の明示を酌み取るべきなのか、今作の主役はだとしたらせめてトメに据ゑてあげればよかつた森羅万象で、女優部の番手に限りなく意味はない。とまれ飯塚みのる(森羅)が、突き出た捩子にズボンの裾を引つ掛け転倒、頓死する。プロレスラーの名前をミキシングなりアレンジしたと思しき、男衆各々の固有名詞については面倒臭いので等閑視して済ますのと、予め存在しない筈の、みのるの妻に関しては一切語られず。ところがみのるは体が動かせないだけで意識は普段通りにあり、聴覚始め五感も恐らく生きてゐる―寧ろそんなに死んでねえ―中、声しか聞かせないバカ息子(EJDではない、気がする)が、勝手に忖度した親爺の意向を方便にへべれけに飲み倒す通夜。みのるの枕元に現れた息子嫁の麻耶(高瀬)は、寝落ちた配偶者が確実に当分起きては来ないのを見越し、浮気相手でしかも思くそ平服の松田勇(ケイチャン)を大胆にも連れ込んだ挙句、その場でオッ始めてみせる。忘れてゐたのがケイチャン(ex.けーすけ)は師匠である大御大の映画にはその晩年レギュラー格でよく出てゐたが、竹洞組は前作前々作の二部作が初陣。抽斗もしくはメソッド的には、奇声を発しての顔芸を温存しこそすれ、特にも何も何時もと殆ど全く変らない。麻耶の裸を拝みたい頑強な一心で、みのるは閉ぢられてゐた両目のうち左目を僅かに抉じ開けるミラクルに成功する。ものの、漸く開けた視界は当然の如く白一面。みのるの顔を覆つてゐたうちおほひで、松田が事後のチンコを拭いて無造作にまた元の場所に戻す。それ、汚れのみならず匂ひも激越に際立つだろ。仏を小便小僧程度にも思はない松田の不埒な行ひが、ある意味一番面白い。
 配役残り、棘の生えたチョーカーを巻いた首から髑髏のネックレスを提げた涼城りおなは、麻耶の娘で大学生の晴夜、オカルト女子。生死体(なましたい)に興奮した晴夜が、彼氏・高木賢介(櫻井)とのセックロスを振り返りつつワンマンショーに耽るのが、流石のみのるも孫に妄想を膨らませる予知はない二番手唯一戦。みのるとは多分中学の後輩以来といふ、半世紀に近い仲の旧友・最上彰役の小林節彦が松岡邦彦のデジエク二本を除くと、今回以前のピンクが矢張り竹洞哲也の2015年第一作「誘惑遊女の貝遊び」(脚本:小松公典=当方ボーカル/撮影:ザオパン・ツェン=早坂伸/主演:かすみ果穂)まで、意外と大きく遡る。そして圧倒的な素材でビリングを爆砕する彩奈リナが、みのるが結構本気で狙つてゐた、最上共々馴染の店「六本木」のママ・檜美都子。田舎のラブホには海外の都市名がつけられ、飲み屋には日本の地名が。春夜の回想中高木が垂れる、薀蓄が地味に活きるのは手数の割に数少ない妙手。
 死んだ男のモノローグで火蓋を切る、竹洞哲也2019年第五作。女の裸もおちおち落ち着いて愛でてゐられないほど、森羅万象がのべつまくなく無駄口を叩き続ける高瀬智香パートに放り投げかけた匙は、涼城りおなと彩奈リナの濡れ場に際しては概ね沈黙を守つてゐて呉れて辛うじて回避、それなら高瀬智香の時も黙れ。全体ピンクの本義を何と弁へてゐるのか、竹洞哲也と小松公典は泉下の小林悟と関根和美に改めて説教して貰へばいい。春夜が使ふ“マシマシ”に対し、みのるが“ラーメンにトッピングする時みたいに”とか途方もなく冗長にツッコミ損ねる―“二郎みたいに”の一言でいいぢやねえか―小事故に目を瞑るか耳を塞げば、ネタ自体の精度は必ずしも低くなく。尤も、三本柱が順々に登場する各篇を通して、みのるが溜め込んだレイジが遂に爆発。森羅万象が見事な発声で吠える「ふざけるなー!」でみのるを轟然と蘇生させておきながら、結局蛇に描いた足気味なエピローグは、何がどうなりも何をどうしもせず、漫然とか鬱屈と尺を持て余す。トラックを分けた場合森羅万象の音声ファイルばかり徒に膨らませた行き先は、母娘の口癖がみのるにも感染るのが精々関の山。大きな展開がうねるなりそれらしき主題が起動するでなく、七十分も要るのかなといふ脊髄で折り返した生温かい疑問を拭ひ難い、粒の小さな印象が何はともあれ最も強い。とはいへ、もしくは兎に角。いい意味でヤバい乳尻と、悪い意味でヤバくない腰周り。馬面も絶妙にエロく映る彩奈リナが、『走れメロス』ばりの爆走を―みのるのイマジンの中で―繰り広げる小林節彦をも押し退け、詰みかけた映画をサルベージしてのける孤軍奮闘にして一騎当千の救世主。最上が連れて来た美都子が上着を脱ぐとノーブラで、大ぶりのお乳首様をチョコンとされてゐる御姿だけで既に神々しい。オッパイは、エモーション。その真理の放つ眩く甘美な光芒の下では、万事は取るに足らぬ些事と化すであらう。現状彩奈リナがピンクに継戦してゐる形跡は窺へないが、幸なことに引退もしてゐない。早く清水大敬のところに連れて行くか、実用性に徹する条件で山内大輔。あるいは旦々舎と歴史的手打ち、セメントマッチもカシアス・クレイ、もといアリなんだぜ。


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 「風俗図鑑 ヤレない男たち」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:大塚学/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:谷口恒平・山田理穂/撮影助手:赤羽一真・金碩柱/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:辰巳ゆい・東凛・なつめ愛莉・友田彩也香・卯水咲流・若月まりあ・ケイチャン・折笠慎也・吉田覚丸・櫻井拓也)。
 アパートの外観にタイトル開巻、建物は多分横須賀ら辺、特殊浴場の従業員寮。「もーすぐ令和になつてまふでー」、平成最後の夜、後述する前作を回収するシャウトはひとまづキマる。ボーイである佐野六男(吉田)の部屋に遊びに来た送迎運転手の井手芳雄(ケイチャン)が、かつて店に所属してゐたAV女優・tokiko(東)の自慰ものをワーキャーしながら見る、人ん家なのに。佐野がAVを止め点けたテレビの中では、現役時代は立ち技最強を謳はれた、高田信雄(折笠)のジム練習生との不倫騒動。レス・ザン・とりとめの話題は泡姫に転身したtokikoを追ひ店で働き、最終的には目出度く結婚に漕ぎつけた、井手いはく“フカしの正太”こと戸田正太(櫻井)の話に。ダイヤルQ2もテレクラも知らない、佐野に井手がアイアンクローをカマし大騒ぎする部屋に、嬢の馬場麻琴(辰巳)も顔を出す。アイアンクローの旧さを指摘する麻琴に対し、井手が―プロレス技は―鉄の爪と真空飛び膝蹴りだけ知つてゐればいいとか適当な持論を開陳する件、真空飛び膝はキックの技だろ。
 出演者残り友田彩也香と卯水咲流に若月まりあは、鴨田千景と田野倉綾に千景の娘である朋子、ではなく、戸田の嘘武勇伝中に登場する、人妻と年上のOLに家出娘。十全に一戦交へる友田彩也香は兎も角、卯水咲流と若月まりあのそれこそ本当に瞬間的な登場時間の短さには度肝を抜かれた。ポスターを堂々と六人の裸で飾る、女優部倍増の六本柱は歴然とした頭数詐欺である。殊に若月まりあを如何に捻じ込むのか事前大いに頭を悩ませてゐたのだが、この扱ひには流石に吃驚した、クラスタ激おこ。気を取り直して戸田がtokikoに対する想ひを深める一幕、tokikoに道を尋ねるチャリンコが、KSUに見えたのは紀野製菓、もとい気の所為か。なつめ愛莉は、カード地獄に堕ちた末お縄を頂戴した富永五月、でもなく、普通に佐野の彼女・伊達尚美。往来にて、井手の臍スメルを嗅がされ、卒倒する男は判らん。麻琴が吐瀉物で汚したワンピを、一万円で井手から買ふイイ感じの労務者は、一皮剥けた貫禄も出て来たEJD。未だ当サイトは、単独ピンク映画デビューを諦めてはゐない。それはさて措きその件も、乾燥機のある店に行く―正確には行かせられる―途中で、ワンピ佐野の洗濯機で洗ふのは洗つたよね。更に無敗のまゝ引退した高田には、一敗だけ非公式の敗戦があつた。高田がバイトで生計を立ててゐた頃、戸沢に寝取られた彼女の大江なな(辰巳ゆいのゼロ役目)も、脱ぎもしないまゝシレッと見切れる。どうしてさういふ、徒か不用意に映画を混濁させる真似をしてのけるのか。
 一月前に封切られた「平成風俗史 あの時もキミはエロかつた」の続篇、かと思ひきや。辰巳ゆいとなつめ愛莉の配役が全く別人である点を最も顕著―当然ともいへ、麻琴に貢がせるだけ貢がせ捨てた男も、空手の経験者であれ非高田―に、地続きあるいは正調の続篇ではなくあくまでもしくは精々パラレルな竹洞哲也2019年第四作。細川佳央とカニ・クルーズに至つては、影も形も出て来ない。
 ガチ演芸部であるケイチャンの圧に富んだトークを、吉田覚丸が絶妙な距離感で往なし続ける。不思議と七十分を退屈も寝もせず観てゐられるものの、ピンク映画としては相当か大概な問題作。絡みらしい絡みといへば、序盤の友田彩也香と中盤tokikoの何れも対櫻井拓也の二戦に、最後に並走するなつめ愛莉×吉田覚丸に辰巳ゆい×ケイチャン。その間は散発的に往来に出なくもないとはいへ、ひたすらに、あるいは延々と。佐野家のリビングでああだかうだダベッてゐるだけ、何だそれ。挙句男に捨てられ塞ぐ麻琴に対し、井手がただでさへ―劇中での用語は“それでなくとも”―暗い御時世にとかける発破と一応な大オチを除くと、昭和から平成に跨いだ映画と平成から令和に跨ぐ映画といつた二部作コンセプトの割に、時代性は「平成風俗史」に劣るとも勝らず稀薄。尤もこの井手の、斯くもショボ暮れたクソみたいな時代に、時化た面してんなやといふ視座は、個人的に全ッ力で共有するものではある。閑話、休題。死の淵にすら差しかゝりかねない麻琴を、井手が車で甘噛みならぬ甘轢きするだなどといふ底の抜けきつたシークエンスも、へべれけに過ぎる。色黒の関西人と、体温の案外低さうなデブの愉快なお喋りを何か最後まで何となく観てゐたけれど、俺は確か、女の裸を目当てに小屋の敷居を跨いだ筈だよな。羊頭を懸けられ狗肉を買つて帰つたが如き、釈然としなさばかりが残される一作。前回単騎で決定的な気を吐いた卯水咲流と、現代ピンク男優部で屈指のエモーションの重さを誇る細川佳央。この二人を欠いて、パワーダウンしない訳がないともある意味いへるのか。

 とこ、ろで。友田彩也香と櫻井拓也による濡れ場初戦、正常位から騎乗位に移行するところで、一回ピント失してない?
 一応な大オチ< 佐野が尚美のカップ数を報告して来た電話に出た井手が、元号の変り目に中出しする機を失す


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 「平成風俗史 あの時もキミはエロかつた」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:大塚学/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:谷口恒平・山田理穂/撮影助手:赤羽一真・金碩柱/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:友田彩也香・卯水咲流・なつめ愛莉・東凛・辰巳ゆい・若月まりあ・細川佳央・櫻井拓也・折笠慎也・可児正光・吉田覚丸・ケイチャン《声》)。出演者中、吉田覚丸とケイチャンは本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、早朝に昭和天皇が崩御した、昭和64年(1989)一月七日。出版社営業の鴨田龍平(細川)が、同じアパートの202号室に住むフリーターの戸沢正太(櫻井)、203号室の制服OL・富永五月(なつめ)と、五月にベッタベタの先輩・田野倉綾(卯水)と挨拶は交さない程度に交錯して201号室に帰宅。多分同業他社で編集職の妻・千景(友田)も残業で、昭和最後の夕食がマクドナルドとなつた点には不平を垂れながらも、激アツの夫婦生活をキメる。ここで釈然としないのが、翌日―因みに八日は日曜日―も平成に突入する瞬間のフィニッシュ目指して、主に龍平主導で昼間から励む点。七日の昼には小渕恵三の平成発表会見が行はれ、平成は八日の午前零時から始まつたと記憶してゐる。それはさて措き、2018年第三作「人情フェロモン もち肌わしづかみ」(脚本:当方ボーカル)ぶりに観た友田彩也香が、何かオッパイ大きくなつた?直截といふか、脊髄で折り返すにもほどがある。ホステスみしか感じさせないレス・ザン・所帯―あるいは人妻―スメルもさて措き、ヤバいドライブで濡れ場がエロい。
 フェイバリットのAV女優・tokiko(東)にワンマンショーの捗る戸沢は、ある日買ひ置きを切らし緊急避難したポケットティッシュから、テレクラでの筆卸を決意。さうはいへ空振り倒して待ち惚けを喰らはされ続ける姿を、綾にはテレクラ地蔵と揶揄される。今回一切ディスプレイから出て来ないtokikoに関してVHSのパケまでは工面するものの、戸沢家のテレビが、ブラウン管ではない。東凛は現状旦々舎ピンク最終作となる山﨑邦紀2017年第二作「痴漢電車 変態の夢と現実」ぶりで、山﨑組から初の外征。
 おメガネがエモい五月は、何故か自分に粘着する対照的にブイッブイでイッケイケの綾に手を焼きつつ、何時しか綾エフェクトで身の丈を超えた買物中毒に嵌り、端的なカード地獄に堕ちる。
 配役残り面相は完全に回避する吉田覚丸―城定秀夫大蔵第四作「世界で一番美しいメス豚ちやん」(鈴木愛と共同脚本/主演:百合華)の養豚場店長―は、家計を破綻させ風俗に身を落とした五月の、指だけで太つてゐると知れる客。最初EJDにしては、幾ら何でも肥えすぎに見えた。最終的に五月は男の影響で転職した、会社の金を横領しお縄を頂戴する。当方ボーカルの本名である小松公典が、買つたばかりでまだ着てゐない、赤いコートを被つた五月を連行する制服警察官。折笠慎也は、戸沢のバイト後輩・高田信雄。ほかの奴等とは違ひこいつは夢を掴む、と戸沢に予感させるボクサー志望。2017年第三作「疑心乱交 闇夜にうごめく雌尻」(脚本:当方ボーカル)以来、ピンク初陣は2014年と歴が長い割に本数的には五本目の辰巳ゆいは、高田の彼女・大江なな。こちらも2017年の第五作「まぶしい情愛 抜かないで…」(脚本:当方ボーカル・深澤浩子/主演:優梨まいな)以来となる若月まりあは、平成8年に生まれた千景と龍平の娘・朋子、木に竹しか接がないアイドルになりたガール、可児正光は朋子の彼氏・山内旭。最後に飛び込んで来るケイチャン(ex.けーすけ)は、藪から棒か素頓狂な「平成が終つてまふでー」シャウト担当。
 一ヶ月後に続篇「風俗図鑑 ヤレない男たち」が控へる、竹洞哲也2019年第三作。二本分ゆゑの女優部倍増六人態勢といふのは、実に判り易い。
 ともに単身のプーとOLまでは兎も角、パッと見た感じ変らない間取りに共稼ぎ夫婦が暮らしてゐる点に関してはストレンジネスも否めなくはない、三部屋並んだ三世帯四人を軸に、得意とする―つもりの―モノローグ劇で平成の一時代を総括しようと試みた意欲作。尤も、試みるのは勝手だが、竹洞哲也もしくは小松公典の資質を問ふ以前に、デジタル化によつて十分延びたとはいへども、広げた風呂敷の大きさに比して決して潤沢ではない尺がただでさへ女の裸で削られる―当然、大いに削つて貰はないと困る―中、率直にいつてこの国が少なくとも政治的と経済的には三十年をドブに捨てた平成の三十年を、小道具も十全に揃へられるでなく、表層的な意匠の面に於いてさへ満足に捉へられてゐるとは凡そ認めるに遠い。戸沢宅には初代ファミコンがある癖に、どうして鴨田家に初代プレステがないのか。この辺りの戦ひ方は、荒木太郎の方がまだ秀でてゐたのではなからうかなんて、死んだ子の齢を数へてもみたり。閑話休題、一時代どころか、二本撮りで一本当り増えた頭数がある意味綺麗な諸刃の剣、個々人一人一人の人生にすら碌に手の回らない体たらく。何となく年をとる龍平と、気がつくとフェード・アウトしてゐる戸沢に、一直線に―あるいは工夫を欠き―転落する五月は、それでもマシな内。千景は何時の間にか泉下に沈み、高田とななは正直出て来―て申し訳程度の絡みを見せ―るのみ。それ自体取つてつけた如きものであつたとて、一応折角念願叶つた朋子が、ケロッと山内と結婚して子供まで産んでゐたりするのにはグルグル何周かして吃驚した。結末でこそないが、衝撃の着地点。個々のシークエンス単位では満更でもない反面、全体的なまとまりとしては木端微塵寸前の劇映画に対し、裸映画的には戸沢の他愛ないイマジン含め前半戦を概ね支配する、友田彩也香が貫禄をも感じさせる一騎当千の大活躍。逆に、ビリング二位以下の五人は、なつめ愛莉がギリまだしもにせよ何れも形ばかりの裸見せに止(とど)まる。とこ、ろが。よくなくも悪くも何時も通り燻りかけた始終にあつて、一撃必殺の鮮烈かつ激越な印象を叩き込むのが、誰あらうピンク六戦目の卯水咲流。並んで立つとバービー体型であるなつめ愛莉をも完膚なきまでに爆殺する、デルモばりの―実際モデル出身ではある―情け容赦ない超絶スタイルと、艶と張りを兼ね備へた見事な口跡。未だ千景存命中である幾許かの疑問は強ひて呑み込むと、龍平と偶さか寝た事後。こんな筈ではなかつた自身の来し方を綾が軽くやさぐれて見やるカットの、何ともいへない正しく筆舌に尽くし難い眼差しと圧倒的な強度とには、マッタリしかけた心持ちが一息にレッドゾーンに持つて行かれた。楽な姿勢にしてゐた、背筋がガチのマジで伸びた。卯水咲流の主戦場たる?AVなりVシネその他方面には手が回らないが、旦々舎過去四作―と新橋―を易々と凌駕する一世一代級の名芝居。そしてそれを引き出し得た、竹洞哲也のディレクションに潔く中折れを脱ぐほかない、一点突破で大いに元の取れる一作。暴力的な手マンを仕出かす戸沢に激昂した五月の、「エーブイの見過ぎなんだよ、バーカ!」を、御丁寧に二度繰り返すのも可笑しかつた。


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 「ホロ酔ひの情事 秘め事は神頼み」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/録音:竹本未礼/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:高橋草太・中津愛/スチール:阿部真也/制作協力:望月元気/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:川上奈々美・相澤ゆりな・川崎紀里恵・イワヤケンジ・津田篤・櫻井拓也)。
 「殺される訳ぢやない殺される訳ぢやない殺される訳ぢやない」、鳥居から覗いた境内。全部で何箇所あるのか多分神様も数へ間違ふ、何処かの明治神社。中身は燗したパック日本酒の真空マグを抱へ賽銭箱の陰に潜む木内美和(川上)が、やつとこさ意を決して出撃。カメラに向かつて真直ぐ突つ込んで来る美和の、黒いダウンコートで暗転してタイトル・イン。二週間で辞めたアルバイトの制服を返しに来た居酒屋の表で、美和は同じくバイトの篠田楓(相澤)と鉢合はせる。対人関係に爆弾を抱へる美和は、脊髄で折り返して踵を返す。一切登場しない両親は母親も父親の転勤先に行つた、美和の一人暮らしの実家。家では生の「まる」をマグカップでガブガブ飲みながら、どれだけ金になるのか美和がマッチングアプリのサクラをぽちぽち作業する一方、楓は居酒屋の店長にして不倫相手の、岡崎和彦(津田)と超絶の一戦をキメる。何が“超絶”といつて、対面座位×後背位、そして正常位。ユッサユサ悩ましく躍る楓こと相澤ゆりなの爆乳を、手を替へ品を替へ三度撃ち抜くスローモーション三連撃が今作の圧倒的なハイライト。初手で歓喜し二手目を追ひ討ち「もう一発来た!」と驚愕させた上での、三手目でエモーションに止めを刺す完ッ璧な構成には震へた、竹洞哲也やれば出来る。返しそびれが聳へ立つ制服―郵送すりやいいぢやん―も持て余し、相変らず賽銭箱の陰で拗れる美和は、普通に何事かお参りに来た清水(イワヤ)と出会ふ。
 配役残り櫻井拓也は、楓に執心する大学のサークルの先輩・高井大輝。サークルでの綽名が、アナル先生に続いてのチン毛先輩、矢張り酷え(笑。尤も、櫻井拓也が三十一歳なりたてといふ若さで急逝して早九ヶ月。アナル先生にせよチン毛先輩にせよ、何れも何気な見事さで自然にその身に纏つてみせる謎の懐の深さは、確かに得難いタレントであつた。良くも悪くも三番手ぶりを爆裂させる川崎紀里恵は、和彦の妻・咲子。美和の叔母で、心配な姪つ子に配偶者の店を紹介したのもこの人。自身は通販会社のパートにしては、和彦の商売がよほど儲かつてゐるのか、マークXになんか乗つてゐたりする。楓と同じリストバンドで予告冒頭に飛び込んで来る、自殺した美和の中学同級生もツイッター情報によると川崎紀里恵の二役、正直見切れなんだ。三本柱の戦績を手短に纏めると、川上奈々美は竹洞哲也の五作前、2018年第二作「青春のさゝくれ 不器用な舌使ひ」(脚本:深澤浩子)以来の二戦目。相澤ゆりなは後藤大輔五年ぶり作「牝と淫獣 お尻でクラクラ」(2019/原作・音楽・アニメーション:大場一魅/主演:和田光沙)に続く三戦目、川崎紀里恵は第二作を撮らせて貰へるのに個人的には驚いた、山本淳一のピンク映画第一作「マジカル・セックス 淫ら姫の冒険」(2018/大畑晃一と共同脚本/主演:阿部乃みく)以来の三戦目。脱いで絡む、本格参戦となると二戦目。
 竹洞哲也2019年第二作は、例によつて十五分も短い試作OPP+。一般論として、試作機の方が高性能などといふのは、精々ガンダム―的な―世界限定の絵空事。少女時代の悲痛な過去に立ち止まつたか壊れた女が、何だかんだの末に何となく立ち直る。最低限話の作りは形を成してゐなくもなく、エクストリームな相澤ゆりなのオッパイモーション・トリプルストライクに、藪から棒な決定力で川上奈々美が押し込む美和のある意味熟成された激情は、無理からでも何でも胸に迫る。見所も、決してなくはない。とは、いふものの。所詮な不自然さを最後まで挽回しきれない、美和と清水の非濡れ場の絡みは実を結ぶでなく徒花すら咲かせ損なひ、幾ら櫻井拓也らしい見せ場であつたとしても、チン毛先輩の件は一回十分に見せられればそれでお腹一杯。二番手はそれなりに気を吐く反面、狭義の絡みをイマジンで処理せざるを得ない、主演女優は服の上から愛撫するやうな塩梅で、それ以前に川崎紀里恵には、“脱いで絡む”といふほどの尺も割かれはしない。裸映画的な不足が決してでさへなく否めない中、登場人物がああだかうだ埒も開かない無駄話もとい会話劇に明け暮れるのは、脚本が小松公典から深澤浩子に替つたところで結局大して変わらない、平常運行の竹洞哲也。そもそも、神社に参つてみると姿は見えない女の声が、賽銭箱辺りから聞こえて来て吃驚する。恐らく正面―あるいは岩谷健司の背中―からではあまりにも嘘が明々白々すぎて抜けなかつた、美和と清水のミーツが画的に成立してゐない。標準的な大きさの賽銭箱に、大人を隠れさす発想が疑問手以前の土台無理筋。大体ガッチガチの衛生管理で定評のあるヤマザキパンが、果たして従業員の作業用長靴を共有させるのかといふ疑問は拭ひ難く、更に一点ツッコんでおくと、所帯持ちが、家を出る時には着てゐたしかもダウンのコートなんて大物の上着を、着ずに帰つて来るといふ状況も如何せんハードルが高すぎんだろとしか思へない。最も首を傾げ匙を投げるのは辛うじて我慢したのが、美和の生き辛さに対する、適当とはちやうどいい力加減のことだとか清水の他愛ない説教。あのさ、俺五十目前で、それでも小屋では比較的若い方かとも思ふのね。「こんな風にすればメンヘラ女子をオトせるよ、どう後を引いても知らないけどね!」的なハウツーでもあるまいし、全体、何をは一旦さて措いたとて、誰にどの層に届けるつもりで映画を撮つてゐるのか。川上奈々美が、箍のトッ外れた妄想を解放しワンマンショーの荒淫に果てる。たつたそれだけの恐らく歴史からは顧みられない潔さをこそ、当サイトは頑迷に尊ぶ。本末転倒、その一言で足る一作。この期に及ぶと、もう何の映画を指すのか判らなくもなるけれど。


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 「密通の宿 悦びに濡れた町」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:島崎真人/撮影助手:高橋草太・日高紘貴/協力:深澤浩子/スチール:田中幹雄/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:なつめ愛莉・南涼・倖田李梨・細川佳央・森羅万象・柳東史・櫻井拓也・ダーリン石川)。
 テトラポッドを背景に、細川佳央が釣り糸を垂れるロングにタイトル開巻。何某かの影響か単なる腕の問題か、さて措きその日もボウズの雲田雄太(細川)を、屋号不明な食堂の大将・鉄川哲男(森羅)が揶揄する。その頃雄太が主人の民宿「秀風荘」では、町を離れる災害支援のジブシー作業員・表野六児(櫻井)と、秀風荘を常用するデリ嬢・米川葵(なつめ)が最後のプレイ。餞別代りに雄太が弁当を寄こす、表野との別れに政治家一家に入婿、のち町長となる雄太の兄・野村現(ダーリン)が家を出た時の回想を噛ませて、葵いはく客が来るのが一大事の秀風荘に、見るからなスメルを漂はせる春木力也(柳)と蝶子(倖田)の夫婦が現れる。春木夫妻が大略を埋め、大体四十分前後で明らかとなる顛末。国からの補助金を撒き餌に、現が誘致した絶対安全を謳つた処理場が、以後も雄太や哲男は普通にその土地で暮らしてゐはする程度の重大な事故を起こし、兎も角事実上町は死ぬ。失職した現は失踪、哲男の娘で、現と不倫関係にあつた笑子(南)は、現を捜さうと往来に飛び出した瞬間車に撥ねられて命を落とす。配役残り、後頭部しか抜かれない三人の町民要員は特定不能で特に困りもしないが、沖縄に移つた葵の客である、眼鏡のデブがEJDにしては肥え過ぎてゐないか。永井卓爾に迫る勢ひの太りやうに目を疑ひ、果たしてEJDなのか否かも自信がない。
 第二十七回ピンク大賞に於いて優秀作品賞を始め、監督×脚本×主演女優×男優賞(森羅万象)を嘗めた2014年第三作「背徳の海 情炎に溺れて」(脚本:小松公典=当方ボーカル/主演:友田彩也香)の夢よもう一度と、小松公典が社会派ごつこに戯れた竹洞哲也2019年第一作。ん?話が終つてしまつてゐるやうにも思へるのは気にしないで。
 先に裸映画的な側面から触れておくと、過去パートで大概唐突に捻じ込む二番手濡れ場の木に竹を接ぎぶりにさへ目を瞑れば、ひとまづくらゐには安定する。矢張り二番手を務めた竹洞哲也前作「田園日記 アソコで暮らさう」(2018/脚本:当方ボーカル/主演:白木優子)では画期的に脱いでゐない南涼が、二戦目の正直で漸く絡みらしい絡みをこなし、なつめ愛莉は初端から、素立ちではあれ―多分―無修正の陰毛を披露する。
 片や物語の方はといふと、何かしらヤバい廃棄物の処理場が、人が住めなくなるほどではないインシデントを仕出かした。そこまでは酌めるなり語られるものの、具体的な枠組みが何一つ、本当に一ッ欠片たりとて構築されないとあつては、如何せん話の首が据わらない。その癖、得意とする―つもりの―会話劇は一向踏み込みもしないまゝに、あるいは同一円周上で相も変らず饒舌に花盛り。外堀ばかりを飾りたて、ハリボテにすら至らない展開の本丸を見やるに、未来を喪つた町を描く以前に映画自体が未来を喪つた、性懲りもなさの印象が兎にも角にも強い。土台が笑子の死に関して、インスタントな最期をぞんざいな音声情報のみで処理する、所謂―何が所謂なんだ―キキーッ死演出はこの期に及んでどうなのよ。苔生したクリシェを逆手に取る戦法もなくはなからうが、今作のシリアス嗜好もとい志向は、その手の捻くれた笑ひを呼び込むものでも求めるところでもあるまい。ついでにダーリン石川は、町長がその小汚いパーマ頭は如何なものか、弟の方が余程しつかりしてゐる。尤も、フレームに入る物理的時間に於いて、少なくとも形式的なビリング上は下位である倖田李梨にすら南涼が後塵を拝する一方、直截に片付けると無駄話に尺を割いた怪我の功名で、主演女優を愛でる分にはそこそこ以上に申し分ない。ヒールで砂浜を走り回る、何気か健康的な身体能力の高さを披露するのに加へ、スクリーン一杯になつめ愛莉が満面の笑みを輝かせるラスト・ショットが、少々無理からでもとりあへず、一篇を爽やかに締め括つてみせるのが数少ない救ひ。


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