真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人下宿 和服でハメ狂ひ」(1997『未亡人下宿 熱いあへぎ』の2007年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男・榎本敏郎/企画:福俵満/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:獅子プロダクション/出演:田口あゆみ・悠木あずみ・森下ゆうき・樹かず・池島ゆたか)。
 大手ゼネコン社員の近藤啓介(樹)が、社長の娘でもある真理子(森下)と開巻即座の熱い一発をキメる。野心家の近藤は真理子攻略に加へ、贈賄絡みの危ない橋も渡つてゐた。真理子との結婚の約束を取りつけ、将来の栄光を確信したのも束の間、近藤は半年間の支社出向を命ぜられる。支社の用意した住まひは、未亡人管理人の相馬(田口)が、一人娘の千草(悠木)と切り盛りする下宿屋であつた。
 近藤を迎へ入れる支社長(池島)含め、張り巡らされた謀略を十重二十重に想起させる序盤は充実してゐる。とはいへ、終盤まで引つ張ることなく真相の蓋は中盤で開いてしまふゆゑ、以降は濡れ場で間を繋がうとはするものの、若干以上に映画が求心力を失つた感は否めない。未亡人管理人に扮する田口あゆみは、女系家族の家長が堂々とサマになる貫禄のハマリ役。地味に演技派の悠木あずみも、処女の恥らひと同時にひたむきな情熱さとを好演。首から上は些か十年前にしても古臭くアクの強い森下ゆうきではあるが、太目への境界を徳俵一杯で踏み止まる肢体には充実感が溢れる。若い野心家で、序に色男の樹かず、含みを持たせた笑みを浮かべさせれば天下一品の池島ゆたか、何れも磐石。出演陣に全く不足は見られないだけに、構成の不備が惜しい一作ではある。

 結局相馬家復興のために取り込まれてしまふ近藤ではあつたが、開き直つて再起を力強く誓ふ爽やかなラスト。天に雄叫びを上げる近藤と、頼もしく寄り添ふ千草、の姿を大胆な仰角で捉へると、二人の姿を二階のベランダから布団を干しながら温かく見守る田口あゆみ、までをワン・ショットで押さへる。光線の塩梅がハチャメチャなのは惜しいが、ラスト・ショットとしてダイナミックな構図は完璧で惚れ惚れさせられる。

 付記< 回想に背中だけ登場する専務氏は、多分津田一郎


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 「やりたいOL 純ナマで激しく」(2007/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・水上晃太/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/助監督:水上晃太/スチール:小櫃亘弘/撮影助手:和田琢也/照明助手:桑原郁蔵/選曲:梅沢身知子/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック《株》/出演:瀬名ゆうり・坂井あいり・谷本舞子・天川真澄・牧村耕次)。脚本の二人は、ポスターでは水上晃太の名前が先。
 朝のゴミ出しに出た化粧品販売員の緑川夏美(瀬名)が、新聞配達に汗を流す篠原潔(牧村)に「お早う」と気軽に声をかける、目上だろ。挨拶されるのに慣れてゐないのか、篠原はぎこちなく返す。夏美は、恋人の武田信也(天川)と同棲―半同棲?―してゐた。弁当を作る手を遮り、信也は朝から夏美を求める。昼下がり、仕事が上手く行かない夏美は、公園のベンチで弁当を開ける。矢張り、信也に邪魔された料理は失敗してゐた。重なる苦さを、夏美は噛み締める。それではここで、第二のツッコミ。第一に関しては、最終的に後述する。公園ベンチのショット、上がらぬ売り上げにションボリする夏美は、気を取り直すかのやうに鏡を取り出すと、口紅を直す。それから、おもむろに弁当を取り出す・・・紅を引いてから飯を食ふなよ、真逆にもほどがある。尻を拭いてから、用を足すやうなものであらう。関根和美は一体何年、何本映画を撮つてゐるのか。だから瀬名ゆうりも、明らかにおかしいと思つたならば進言すべきだ。
 前作「巨乳看護師 白衣をもみもみ」(2006)に引き続き登場の“トランジスタ重戦車”坂井あいりは、夏美の親友・竹内未来。塞ぎ気味の夏美を見かねた信也は、未来を家に招き一席設ける。食ひ意地が張り呑み助であるといふ未来のキャラクター造型が、当て書きされたやうにしか見えない。潰れた未来を、信也は仕方なく送つて行く。だが然し、それは未来の策略であつた。部屋に辿り着くや、未来からの強引なアプローチで二人は寝る。何時も何時も夏美から彼氏自慢ばかりされてゐたことに対する、女の復讐であつた。二人の浮気を知つた夏美は傷つく。公園のベンチで途方に暮れる夏美に、篠原は新聞勧誘の声をかける。それどころではない夏美に対し、篠原はいふ。新聞だけでなく、「幸せも配達します」と。
 と、ここで関根和美が如何にも思はせぶりな含みを持たせた牧村耕次の表情を押さへておいたりなんかしてみせるので、阿呆な私は、思はず今作は何程かの特殊能力を有した新聞配達員が、主人公に幸福をプレゼントする類のファンタジーなのかしらん、などと滅茶苦茶な勘違ひをしてしまつた。ここから先、映画が折り返し地点を通り過ぎた辺りから、関根和美の“裏”十八番、繋ぎが不鮮明なまゝ矢継ぎ早に繰り出され続ける、夢オチ妄想オチがたて続けに映画を襲ふ。一体何が劇中世界に於ける現実で、何処までが虚実なのかが途端に全く判別し難くなつて来る。山﨑邦紀を“ピンク映画界のデビット・リンチ”と称する方もあるが、夢か現実か判らない映画を撮るといふ意味では、関根和美こそがピンク界のリンチの名により相応しいやうな気がする。リンチさん、殴らないで下さい。
 明後日と一昨日とを行つたり来たりする物語に何とかしがみついてゐると、あらうことか、全ては情緒不安定な夏美の妄想であつた、などといふあんまりにも程がある地点に、映画が一旦は不時着しかける。ここで火を噴くのが、2007年の日本映画界を震撼させる究極の終末兵器、そもそもそれも如何なものかといふ話なのだが、いきなり登場する信也の婚約者・若松知世役の谷本舞子。最短距離で最も判り易く説明するならば、福岡三区選出衆議院議員の、太田誠一に顔も体もソックリな女である。天川真澄との濡れ場では、上と下とで殆ど体型が変らない阿鼻叫喚を展開。それでは皆さん、声を揃へて御一緒に、1・2・3、何処からこんな女連れて来たんだよwwwwwwwwww!エクセスの無茶振りには平素十分慣らされてゐるつもりではあつたが、久々に度肝を、あるいは尻子玉を抜かれた破壊力である。映画の出来が悪いとか、詰まらないだとかいふ次元の出来事では最早ない。繰り返すが最終的に後述するが、そもそも今作に際して関根和美が立てたコンセプトは、さういふ地平にはなかつたのだ。
 唖然を通り越し愕然とさせられたまゝに、映画は一応はピンクの客層に南風を吹かせたと思へなくもない、無理からながらひとまづの結末を迎へる。それもこれも、最早さて措き。冒頭夏美が台所で弁当を作つてゐるシーンから顕著であつたのだが、瀬名ゆうりも坂井あいりも、「君等は一体何時の昭和の、何処の片田舎の場末のホステスなのだ!」といふハチャメチャなアイラインの引き方をしてゐる。谷本舞子に関しては、太田先生登場の衝撃に根こそぎ持つて行かれてしまひ、化粧にまで目が行かなかつた。即ち、前時代的なメイクに何処から連れて来たのか判らない、紛ふことなき最重量級の重戦車。昨今ほど(一応、あるいは最低限)洗練されてもゐない、女が脱いでゐればとりあへず誰でも文句がいへなかつた時代の昭和ピンクへのバッド、あるいはマッドな時間旅行を、今回関根和美は企図したのではなからうか。正直にいふと、さうとでもいふことにしておいて呉れ、でないととてもではないがやつてられない。今年も、関根和美は色々な意味で楽しませて呉れさうだ。色々といふか、色モノといふか。


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 「変態催眠 恥唇いぢめ」(2002/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:寺嶋亮/プロデュース:関根和美/撮影:図書紀芳/照明:柴田信弘/音楽:ザ・リハビリテーションズ/助監督:林真由美/協力:小林プロダクション、他/出演:安西なるみ・林由美香・里見瑤子・風間今日子・中村拓・竹本泰志・なかみつせいじ・町田政則/友情出演:富田幸司・高野倫子・須賀良・姫島真希子・今井恭子・岡田謙一郎・亜希いずみ・江藤大我・幸英二・吉田祐健・若葉要、他多数)。
 “第一回監督作品 監督 寺嶋亮”、晴れ晴れと大書でクレジットしての開巻。収録中のTV番組だといふことで、ビデオ撮りの画面。催眠術の流派・万斗流を継承した剣東二郎(中村)が、催眠術で植田真希子(安西)の胡瓜嫌ひを克服する。何と叫んでゐるのかはよく聞き取れなかつたが、東二郎の決めのシャウトに合はせ、撃ち抜かれたかのやうに安西なるみが画面左端で変身中の魔法少女よろしくヒラヒラと舞ひながらのタイトル・イン。女の裸こそないものの、新人監督のデビュー作に如何にも相応しい、勢ひと爽やかさとが心地良いオープニング・シークエンスである。
 万斗流先代―開祖かも?―の万龍(町田)は、余命幾許もない重い病に伏せる。医師・看護婦と弟子達の見守る中、万龍は万斗流の継承者に、随一の実力を誇りながら欲に溺れ、術を私利私欲のために平然と使用する森山郁夫(竹本)ではなく、力は郁夫に大きく劣るも、徳の高い東二郎を指名した。納得の行かぬ郁夫に対し、肉体は伏せつたまゝに、合成処理で力強く身を起こした万龍の精神は一喝する、「催眠術は技ではない、仁術なのだ!」。最後の気力を振り絞つた、万龍は死去する。催眠術によるクリニックを開業した東二郎が名声を得る一方、郁夫は姿を消す。だが然し、実力では自分に遠く及ばない筈の、東二郎の成功をテレビを通して薄暗く、侘しい部屋で見詰める郁夫は決して諦めてはゐなかつた。自由自在に人の心を操る催眠術を駆使し、郁夫の東二郎と、後継に自らを選ばなかつた万龍、全てに対しての逆襲が始まる。
 流派継承を巡る他を凌駕しつつも、人の業に抗し得ず自らの技に溺れた兄弟子と、力は及ばないものの、師の訓へを忠実に後継した主人公との相克。催眠術に事寄せての、豊富な濡れ場濡れ場に彩られながら堅実な起承転結と、王道の勧善懲悪とが紡がれる。全く正しき、商業娯楽映画の鑑である。プロデューサーの関根和美も、今作に関してはさぞかし鼻が高いに違ひない。自ら手掛けた脚本まで含め寺嶋亮の全き堅実は、堅実の堅実たる所以で決して突出した何物かを有するといふ訳でもないのだが、代りにといふか今作特筆すべきは、分厚いにもほどがあり過ぎる、寺嶋亮の初陣を飾るべく結集した主に俳優部方面の豪華な支援体制。主演の安西なるみは東二郎のクリニックの看護婦ともして、ほぼ全篇に出づつぱり。林由美香は、PC狂ひを克服しようとクリニックに通ふ平木彩乃。東二郎の留守にクリニックを強襲した郁夫に催眠術で東二郎と思ひ込まされ、同時に淫乱女の絡みを展開させられる。里見瑤子はTVレポーターの田畑真里、順番前後してなかみつせいじは、同じく患者の荒井和義。実はマゾである荒井は、マゾである妻の求めに応じやうと、催眠術でサディストの暗示をかけられる。風間今日子が、そんな荒井の妻・洋子。荒井と洋子の夫婦生活に際しては、尺もタップリと費やした充実した責めが堪能出来る。と、ここまでで、濡れ場のある女優が通常の三割増しの既に四名。男優部も、中村拓・竹本泰志・なかみつせいじ・町田政則と、同じく四名が通常出演者枠としてクレジットされる。ここからの、“友情出演”勢が質、量ともにズバ抜けてゐる。まづ富田幸司・高野倫子・須賀良の三名は、友情出演特記は割愛された上でポスターにも名前が載る。富田幸司といふ人が、どの人なのか特定出来ない。台詞の有無等から鑑みるに、東二郎らと万龍の最期を看取る最年長の弟子か。高野倫子と須賀良は、クリニックに詰めかける患者。須賀良はコミック・リリーフのおとぼけお爺ちやんとして、出番もそこそこに設けられる。ここから先、ズラズラと一般映画のそれと見紛ふほどに大量にクレジットされる中で、映画を観てゐてその人と知れたのは登場順に。声は別人(不明)がアテる岡田謙一郎は、万龍を看取る医師。関根和美の愛妻・亜希いずみは、岡田謙一郎の傍らで無言の看護婦。江藤大我は万斗流の若い弟子要員、幸英二も、大勢登場するクリニック患者要員。姫島真希子と今井恭子に至つては、己の刹那的な享楽に術を使ふ郁夫と、それを東二郎が諫める回想中に郁夫の操り人形として、贅沢にもトップレスで登場。画面に文字通りの、彩を添へる。吉田祐健と若葉要は、ラスト近くに二人連れでクリニックを訪れる矢張り患者要員。
 端々で、寺嶋亮は師匠の芸を忠実に継承したのか、どうでもいいと片付けてしまへばどうでもいい小ネタを随所で披露。とはいへどうでもいい小ネタながらに、幾度と着実に積み重ねることによつて起承転結の完成への側面からの支援と、さりげなくも爽やかな小技が決まるラスト・ショットの誘導も果たしてみせる。念願の監督デビュー作に際しての、入念な準備が窺へる。コメディ基調の演出のトーンと潤沢を突き抜けた豪勢な支援体制とは、何とも温かい肌触りを映画に与へ、プログラム・ピクチャーの枠内から半歩と踏み出でるものもないにせよ、観てゐて実に幸せな心持ちになれる一作。加へて東二郎がテレビ局の控へ室で急変した真里の痴態に、郁夫の陰謀を察知する件には師匠作には見当たらぬ切れ味が光り、クライマックスとオチの二段構へは、物語の着地と濡れ場の更なる積み重ねとを同時に実現する。一件落着した後に再び皆が東二郎のクリニックに集ふラスト・シーンの磐石さは、凡そ新人監督の手によるものとは思へない。決して傑作とはいはないが、良作といふ以上に評価したい。

 とこ、ろが。デビュー作でそれだけの仕事をしてみせた寺嶋亮、であるが、今作に続いては数作の関根和美の映画に相変らず助監督として名前を連ねるばかりで、翌年以降その名前をピンクスが目にすることはない。今作の水準を持続せしめ得た日には、今頃竹洞哲也は押し退け加藤義一とオーピー若手ツー・トップの名を欲しいまゝにしてゐたやもと思ふと、重ね重ね残念なところではある。伊藤正治・北沢幸雄・中村和愛の“沈黙するエクセスの宝石”と並び、上田良津・片山啓太、そして寺嶋亮の三名を、“姿を消した関根プロの新星(候補)”と称したい。フィルムハウスでも監督作のある上田良津は、片山啓太・寺嶋亮らと比べると関根プロダクションとの結び付きは薄いといへるのかも知れないが。といふかそもそも。“寺嶋亮”の名前が姿を消しただけで、もしかすると改名して現在でも活動を継続してゐる可能性もなくはない。さうした日には、唯単に銀幕を前に小屋の暗がりの中に潜むのみの身としては、最早如何とも手も足も出しやうがないが。


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 「どすけべ家族 義母も娘も色情狂」(1999『義母と娘 羞恥くらべ』の2007年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/出演:浅野京子・林由美香・水原かなえ・かわさきひろゆき・山内健嗣・杉本まこと)。
 内科医・宮坂啓一(杉本)との再婚を控へた美沙(浅野)は、探偵崩れの堀江史樹(かわさき)から望まぬ来訪を受けると、何か弱味でも握られてゐるのか、体を奪はれる。一方宮坂家、早くに妻と離婚して以来、男手ひとつで育てて来た一人娘の雛子(水原)は典型的なお父さん子で、妙齢となつた今でも、父親と一緒に風呂にも入る仲である。入浴中だといふことで陰毛の映り込みにも目こぼしを受けた風呂場での杉本まことと、瑞々しく若い水原かなえとの文字通りの濡れ場。大らかなエロチシズムが、ときめく幸福感とともに充満する。早くも結論を出してしまふが今作拾へるのはこの件と、後に登場する純然たる裸要員といへる林由美香の、銀幕を撃ち抜いてキラキラと輝く永遠の美しさのみ。
 話を戻すと、さういふファザコン娘の居る家に、後妻として訳アリ女が嫁いで来るといふ物語である。遡つて考へてみるならば、そもそも後妻、即ち義母が、互ひにレズビアンですらない娘しか居ない家に嫁いで来たところで、一体そこから何がどう転がるといふのか。図らずも同時に上映された下元哲の「和服義母の貞操帯 -肉締まり-」同様、ジャンル・ムービーの基本的な理解に全く欠いてしまつてゐる。主演の浅野京子も例によつて、デビル雅美とジャガー横田を足して二で割つた如きの、いはゆるエクセス美人。柄にもないシリアス路線はいい加減の斜め下を行く脚本に到底体を為さず、取り付く島の欠片もない清々しい凡作である。
 後妻として宮坂家に迎へられた次の日、美沙は早くも堀江の来襲を受ける。弱味を握られ半ば手篭めにされるやうに抱かれる痴態を、忘れた財布を取りに戻つた雛子に目撃される。その夜父親を奪はれヤキモキする雛子はあつさりと美沙の不貞を暴露してしまひ、家庭は秒殺で崩壊する。それまでそんなことなどなかつたのに、宮坂は無断で家を出たきり戻つて来ない。二人きりの居間で、雛子はプレステ(ワン)に荒れる。因みに、このシーンで流れるゲーム音も、ここで使はれてゐるものと同一である。ゲーム・オーバーに癇癪を起こして、「あんたの所為で、家の中は滅茶苦茶よ!」とリセット・ボタンを連打する雛子に対し、美沙は「人生の、リセット・ボタンは押せないは」と戒める。何ヌカしてやがる、何が“人生のリセット・ボタン”だ。糞みたいな文句で、平然と名台詞を書いたかのやうな気になつてみせる岡輝男が本気で腹立たしい。大体が、美沙が堀江に握られた弱味の中身といふ奴があんまりにも程がある。一度は結婚して子を設けながらも、身分の違ひとやらから、美沙は前夫とは別れさせられ、娘も奪はれてゐた。奪はれた幼子への恋しさから、美沙は他人の幼女を誘拐してしまふのである。堀江には、幼女を親元へとこつそり返す後始末を依頼したものだつた・・・・・それ普通に犯罪でしかないだろ。“人生のリセット・ボタン”もへつたくれもあつたものではない、さういふ説教は、罪を償つてからいへ。結局、母のない雛子と娘のない美沙は和解し、何だカンだで宮坂も家に戻る。堀江は別口から御用となり家族は新しい平穏を取り戻す、といふので一件落着となるのだが。それ、パクられた堀江は、まづ当然に美沙の過去の罪に関しても口を割るぢやろ。略取誘拐といふ重罪ともなると、公訴時効もさうさう早々に迎へられるものではない。脚本の、釦を掛け違へるにも限度があるのである。

 今作のオアシス林由美香は、宮坂の医院の看護婦・水原知花。特に体調でも良かつたのか、救ひのない映画の中で殊更に際立つ美しさを輝かせる。久し振りに観ると意外に男前であつた山内健嗣は、知花の彼氏・岡本将志。


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 「ノーパン熟女 まくる長襦袢」(1999『和服義母の貞操帯 -肉締まり-』の2007年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:岡野有紀&小猿兄弟舎/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/撮影助手:真塩隆英、他一名/協力:佐倉萌/出演:黒田詩織・しのざきさとみ・風間今日子・深山洋貴・杉本まこと・神戸顕一・茅茂)。見慣れぬ名前に屈し、助手勢を諸々拾ひ零す。出演者中、茅茂は本篇クレジットのみ。
 夜の山村家、階下には父の耕作(杉本)も居ようといふのに、のつけから勇二(深山)自室での、義母・里美(黒田)との濡れ場。あれれれれ?この映画一体何処から始まるのだ!?
 一流企業に勤めてはゐたものの、耕作はリストラされてしまつてゐた。不貞腐れた耕作は飲むは打つはと遊び歩き、書の道に心得のある里美は、商店街の店主相手に書道教室を開き何とか家計を支へてゐた。失職以来不能となつた耕作は妻の男性関係を邪推し、里美に貞操帯を着けさせる。
 和服義母が貞操帯を着けてゐることも、ノーパン熟女―この当時の黒田詩織が熟女?作中設定二十八歳といふのは些か逆サバか―が長襦袢を捲ることにも、最低限度の偽りはないのだが。明らかに、脚本に初めからの致命的な設計ミスが窺へる一本。
 風間今日子は、サラ金「双葉金融」―二葉とか二場かも―社長の金崎竜子。収入もないのに遊び歩く耕作は、案の定よからぬ筋に多額の借金を作つてゐた。実はレズビアンで、学生時代に二つ先輩の里美にフラれた過去があるといふ豪快な世間、より直截には劇中世界の狭さを唸らせる竜子は邪魔な耕作はチャッチャとマグロ漁船に放り込むと、利息分だと里美自身に目をつける。しのざきさとみは、勇二の担任・小久保沙紀、この人の役柄も酷い。家計を慮り大学進学を断念する勇二に対し、就職先の紹介と引き換へに若い肉体を求めるのである。一応はリアリズム志向と思しきメロドラマの中にあつて、如何にもピンクピンク然としたお手軽さは殊更に目に障る。ただ決まりかけた就職も、竜子とバックの黒崎組の妨害に遭ひ御破算に。無論、就職した勇二が父親の借金を肩代りしてしまふと、里美を手に入れられなくなるからである。竜子の卑劣で大いなる魔手に、里美と勇二は次第に追い詰められて行く。
 詰まるところは何が、本作の抱へた致命傷なのかといふと。冷酷な運命に翻弄される男と女の、物語としては確かに成立してもゐるのだが、問題はその女と男が、義母と血の繋がらない息子である必要が別にないところにある。雑な定型かも知れないが、いはゆる“義母もの”といふと、互ひに親子であるといふ関係性に基く障壁の存在は意識しながらも、惹かれ合ふ実の親子程には歳も離れぬまだ若い義母と多感な時期の、端的にいへばヤリたい盛りの息子。四の五とつかず離れずした挙句に、終には禁断の一線を越える。この、“終には禁断の一線を越える”件が、いはゆる“義母もの”のカタルシスが極大となる瞬間であり、このジャンル最強の決戦兵器となる筈であらう。ところが今作はといふと、開巻いきなり既に里美と勇二は乳繰り合つてしまつてゐる。切り札を馬鹿馬鹿しくも初めから切つてしまつた以降の展開は、何も義母と息子との物語である必要は特になからう。単に、人妻と若い間男であれば事済むだけの話である。大胆にも校内の踊り場での沙紀と勇二の絡みに際しては、下元哲は何を血迷ふたか先に達した沙紀に遅れて絶頂を迎へた勇二が、顔射を望む沙紀目がけて発射する瞬間にスローモーションを使用する。などといふ、腰も粉と砕ける見せ場も無くはない。ものの、最終的には今回の下元哲は、中途半端なドラマ志向への色気を見せた以前に、完全に作劇の勘所を失してしまつてゐると難じざるを得ない。殆どノーメイクの素顔をションボリさせながら、いはば右から左に流されて行くばかりで、凡そ十全たるメロドラマのヒロインたり得るにはどうにも心許ない黒田詩織の弱さも、矢張り痛い。因みに、二十八歳といふ黒田詩織の作中設定に関してであるが。戯れに検索を掛けてみたところ、一応昭和五十一年生―といふことは本公開年当時二十三歳―といふ公称スペックがひとつ出て来た。

 神戸顕一は、里美の習字教室に通ふ室岡周一。着物の上から抱きつく程度で、本格的な濡れ場は無し。森山茂雄ではない茅茂は、他に該当しさうな見切れ要員も見当たらない為、関西弁の「双葉金融」社員か。協力としてクレジットされる佐倉萌は、多分黒田詩織の着付け。日本舞踊も嗜むしのざきさとみも当然に着付けは出来ようが、劇中沙紀は、濡れ場非濡れ場関らず一切勇二としか絡まない。その舞台も校内に限られることから、恐らくは、残りのキャストとは完全に別働で撮影してゐたものではなからうかと推測される。


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 どの面提げてこの期に感が唸りを上げて炸裂してゐることなど、無論判つてゐる。それでも観落とした以前に未だ来てすらゐない映画も、無くはないのだ。それがザックリとしたところの、関門海峡以西のピンクスが置かれた状況にある。とはいへ放つておくと2007年も3/4が経過してもしまふので、ここいらで見切り発車するものである。ここに挙げたピンクに関しては、観てゐる以上勿論感想も書いてある。煩はしいので、最早一々リンクは貼らぬ。

 06年(昭和換算:79-2年)ピンク映画ベスト・テン

 第一位「ド・有頂天ラブホテル -今夜も、満員御礼-」(Xces/監督:松岡邦彦)
 第二位「妻失格 濡れたW不倫」(オーピー/監督:渡邊元嗣)
 第三位「SEX捜査局 くはへ込みFILE」(オーピー/監督:浜野佐知)
 第四位「乱姦調教 牝犬たちの肉宴」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 第五位「四十路の奥さん ~痴漢に濡れて~」(オーピー/監督:関根和美)
 第六位「ふしだらな女 真昼に濡れる」(国映・新東宝/監督:田尻裕司)
 第七位「巨乳な姉妹 ~谷間に吸ひつけ~」(オーピー/監督:吉行由実)
 第八位「愛人萌子 性生活」(Xces/監督:北畑泰啓)
 第九位「昭和エロ浪漫 生娘の恥ぢらひ」(オーピー/監督:池島ゆたか)
 第十位「四十路寮母 男の夜這ひ床」(Xces/監督:新田栄)
 
 大体こんなところか。次点としては、順不同に
 「混浴温泉 湯煙で艶あそび」(オーピー/監督:加藤義一)
 「ホテトル嬢 癒しの手ほどき」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 「悩殺若女将 色つぽい腰つき」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 「レンタルお姉さん 欲望家政婦」(Xces/監督:山内大輔)
 「巨乳DOLL わいせつ飼育」(オーピー/監督:浜野佐知)
 「親友の恥母 白い下着の染み」(Xces/監督:神野太)
 「巨乳妻メイド倶楽部 ご主人様いつぱい出して」(新東宝/監督:的場ちせ)
 「義父の愛戯 喪服のとまどひ」(オーピー/監督:加藤義一)
 「僕の妹 下着の甘い湿り」(オーピー/監督:荒木太郎)、等々

 序に未見の主なところとしては、公開順に
 「喪服レズビアン 恥母と未亡人」(Xces/監督:山内大輔)、「先生の奥さん したがり未亡人」(Xces/監督:羽生研司)、「弁護士の秘書 奥出しでイカせて」(オーピー/監督:池島ゆたか)、「淫婦義母 エマニエル夫人」(Xces/監督:下元哲)、「ホスト狂ひ 渇かない蜜汁」(オーピー/監督:池島ゆたか)、「ラブホ・メイド 発射しちやダメ」(オーピー/監督:渡邊元嗣)、「痴漢電車 濡れ初めは夢心地」(オーピー/監督:池島ゆたか)辺りか。元々殆ど評価してもゐない荒木太郎に関しては、脚本から三上紗恵子を斬れぬ内は如何なる未来も拓けぬ、と思つてまづ間違ひはなからう。羽生研司を落としたのは痛い。ピンクといふのは、全く一期一会であるからに。

 個別部門としては、監督賞は「ド・有頂天ラブホテル」の松岡邦彦。エモーショナルな映画ならば他にもあれこれありもするのだが、兎にも角にも一本の映画としての完成度がズバ抜けてゐる。それでゐて、残りの映画や続く映画は相変らずであつたりする辺りも微笑ましい。
 脚本賞は、「SEX捜査局 くはへ込みFILE」の山邦紀。大胆な世界観に思想の魔性、歴史の狡猾をも練り込んだ超絶は、余人には遠く手の届かぬ地平にある。一本きり(と薔薇族@のんけなので未見)の監督作は残念ながら外してしまつてゐたので、07年は質・量共に監督としての再起も望みたい。
 撮影賞は竹洞組、山内組、加藤組。違へた土俵で違へたカラー。正しく八面六臂の大活躍を見せた創優和。この人選に関しては、何人からも異論は出るまい。「乱姦調教」で炸裂させた、冬山の遠景。バジェットの瑣末など決死の覚悟と確かな技術とで蹴倒して呉れる、壮絶な雄志は強く心に残る。
 男優賞は、果てし無く広い硬軟の幅を、フィールドを全く選ばない逞しい柔軟さを以て堂々と展開した、ベテラン牧村耕次。
 女優賞は、ここが難しいな。特に誰とも決めかねるので、さういふ意味も含めて、林由美香亡き後の“最強の五番打者”の座をキッチリと果たす、小さな大女優華沢レモン。
 新人賞は殆ど初めから日高ゆりあで一択か。男優若手勢(松浦祐也らより更に次の世代)の手薄ぶりが甚だしい。何とかならないものか。

 こちらは気は進まぬが一応手を汚しておくか。ワースト・ファイブ

 第一位「絶倫絶女」(国映・新東宝/監督:いまおかしんじ)
 第二位「妻たちの絶頂 いきまくり」(新東宝/監督:後藤大輔)
 第三位「色情団地妻 ダブル失神」(国映・新東宝/監督:堀禎一)
 第四位「母娘(秘)レシピ 抜かず喰ひ」(オーピー/監督:国沢☆実)
 第五位「平成未亡人下宿 痴漢みだら指」(新東宝/監督:愛染恭子)

 次点としては、酷い順に
 「桃色仁義 姐御の白い肌」(オーピー/監督:荒木太郎)
 「昭和の女 団地に棲む人妻たち」(Xces/監督:工藤雅典)
 「淫らな果実 もぎたて白衣」(オーピー/監督:加藤義一)
 かうして一通り挙げてみたところ、傾向が傍から見て判然とするものやらしないのやら、当の本人としては些かならず覚束ないところではありつつも。三位までは全くの木端微塵。元来減点法で映画を観ることは吝かではあるが、それにしても0点以下。一切話にならない。次点三位の加藤義一に関しては、辛いかとは思ひつつも、その良心を一観客として信じてもゐるだけに、あへて挙げた。


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 「SEX捜査局 くはへこみFILE」(2006/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介・関将史/助監督:横江宏樹・安達守/応援:伊藤祐太/音楽:中空龍/キャスティング協力:株式会社スタジオビコロール/出演:北川明花・風間今日子・佐々木基子・平川直大・荒木太郎・なかみつせいじ)。
 西暦2015年、依然続いてゐれば平成27年。日本は少子化対策として、セックスの免許制を採用してゐた。法整備として二つの新法を制定、性交管理法によりセックスの免許制を採用し、生殖法により生殖目的以外のセックスを禁止してゐた。何れも逮捕は現行犯のみ―凄い刑事法規だ―とされる為、ライセンス捜査官が肉弾の囮捜査と、時には盗聴の類すら認められる苛烈な取締りとを敢行してゐた。けふもライセンス捜査官の弥生(北川)は、無免許の為偽造免許所持の五十男・即天(荒木太郎・・・・が五十男?)を、巧みに連れ込んだラブホテルにて逮捕する。
 何処までかは兎も角新体操の心得が一応以上はあるらしい、北川明花のダイナミックにも程があるド迫力の悩殺大開脚で開巻。怒涛の浜野佐知の馬力が早くも炸裂したかと思つたのも束の間、男女の性交に免許制が布かれた高度、あるいは硬度管理社会といふ、度外れた大胆な世界観が開陳される。
 毎度毎度の繰り返しにもなるが、浜野佐知(あるいは的場ちせ)はピンク最強、あるいは日本最強、すら通り越した、世界最強の女流監督である。その作品テーマは終始一貫、ピンク映画といふ基本的には品性下劣な男相手に女の性を商品化したプログラム・ピクチャーの一ジャンルの中にあつて、“女の側からの、女が気持ちよくなる為のセックスを描く”ことにある。それでゐてその映画は、決してフェミ臭が憤懣やるかたなくなつてしまふやうな説教臭い駄ピンクに堕することはなく、公言される女性美への偏愛は女優の艶姿を生半可な男の監督には到底太刀打ち出来ないいやらしさで銀幕に刻み込み、映画監督としての十全な体力は、決して軸足を商業娯楽映画の枠内から失ひはしない。
 そんな浜野佐知。フェミニズムといふ思想が、如何なる場合にもいはゆるリベラルの類に相似を見せなければならない訳では必ずしもなからうが。それにしても管理社会の片棒を担いだ、いはば官憲の犬を主人公に据ゑるとはこれ如何に。と、思ひながらも観てゐたところ。度外れた世界観の更なる大胆な展開を、重量感溢れる芝居で見事に牽引せしめる競演陣の登場により、バジェットのことなんぞ瑣末と物語の分厚さで忘れさせて呉れる超絶が、堂々と繰り広げられる。結論から先にいふと、近年の浜野佐知作の中でも屈指のマスターピースである。
 登場順は前後して佐々木基子と平川直大は、コンビを組み活動する売春婦・売春夫コンビの佐々木落花と白井玉条。囮捜査中の弥生から受けた注文に、玉条は久し振りに若くて綺麗なお姉さんからだと脊髄反射で鼻の下を伸ばす。対して寄る年波からか段々と稼業がキツくなりつつもある落花は、長年の勘から弥生を警戒する。落花と弥生との対峙が、まづ第一の見せ場。セックス免許制の採用された劇中の近未来日本は、どういふ訳だか現行の一夫一妻の結婚制度も放棄してしまつてゐるらしい。女は、ライセンスさへあれば誰とでもセックスして、誰の子供でも産めるのだ。売春婦と売春夫ながらに玉条との結び付きに偏つた視点からいへば固執する―やうに厳密にいへば装ふ―落花を、弥生は新時代の勝手な高みから嘲笑する。落花と弥生、立場を違へた二人の女の対決に、二つの時代の衝突が集約される。管理社会が片面からは更なる自由社会、山邦紀は一体どうしたのだ。尺の都合からか仕上げを怠つたのか落とし処付近を主に、物語の中に飛躍の大きな箇所や未整理の穴もそこかしこにありはするのだが、浜野佐知の作家性からの要請は例によつてキチンとクリアすると同時に、思想の魔性あるいは歴史の狡猾をも力強く描き込んだ、恐ろしくすらある充実を見せる。表層的な変幻怪異の陰に隠された、堅固で時には冷徹ですらある強靭な論理性、山邦紀の主砲が轟音を轟かせ火を噴く。その射程は、プログラム・ピクチャーの枠内を遙かに超えよう。
 なかみつせいじは、性交管理法と生殖法のPR番組を担当する人気TVキャスター・東風浩介。鏡月(直後に後述)との絡みも含めて、東風の他愛ない傀儡ぶりは如何にも浜野佐知らしく、求められる役所(やくどころ)を、求められるまま十全に応へ得るなかみつせいじの達者は逞しい。東風の対弥生戦では、殆ど煽情性すら通り越さんばかりの、思ひきつたアクロバティックが披露される。風間今日子は、さういふ東風の名声を目当てに接近したレジスタンス・鏡月。生殖目的以外のセックスが禁止された社会にあつて禁制品のバイブを振り回し、国家によるセックス管理の打倒と、セックスを個人の手に取り戻す闘争とを高らかに宣言する。かういふ豪快な大風呂敷を、鮮やかに定着せしめる風間今日子の頑丈な迫力、全く文句無く素晴らしい。
 免許を得られぬ五十男―といふ設定―の即天と意外な落花の素顔に、社会から見捨てられた者の悲哀も盛り込みながら、弥生は落花や鏡月との出会ひから、喪つてゐた人間性を取り戻す。肝心要での北川明花の演技力の心許なさは流石に痛いが、六十分三百万のレギュレーションなんぞ軽やかにレティクルの彼方まで蹴散らす大ロマン。旦々舎の底力が壮絶に炸裂する必殺の傑作である。これがあるから、ピンクから足を洗へないんだよな。


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 「悩殺OL 舌先筋責め」(2002/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:倉本和比人/照明:野口素胖/音楽:ザ・リハビリテーションズ/助監督:寺嶋亮/撮影助手:前井一作/監督助手:林真由美/出演:有賀美雪・仁科愛美・佐倉萌・江藤大我・平川直大・吉田祐健/友情出演:町田政則・若葉要・中村拓)。
 主演は、瞬間的な裸要員として出演した前作の印象は、恐ろしいまでに全く残つてゐない有賀美雪。どちらかといはなくとも、本職は踊り子さんのやうでもあるが。
 菅野由美(有賀)は十一社目の試用期間に、最早崖つぷちの見習ひ社員。ポスター惹句より、“変態プレイで出世街道まつしぐら 舐めまはして秘密を暴け!”。ハチャメチャにも程がある文句でありつつも、意外と看板に偽りはない。猪突猛進型の主人公が正規雇用と憧れの彼氏とを求めて、肉弾突進と矢継ぎ早の種々の謀略とを張り巡らせる、コメディ基調の我武者羅成功物語である。
 ファンながらに敢ていふが、関根和美のコメディといへばルーズだのイージーだのいふ以前に、銀幕を凍り付くのを通り越し石化すらさせてしまふやうな類のものもしばしば散見されるところではある。尤も今作は、主人公の行動原理はこの上なく明確。最終的に美人不美人の二極のどちらかにどうしても振り分けなければならないならば、まあ何といふかアレな方の有賀美雪も、作品世界の軸を担ひ得る、女優としてといふか少なくとも人間力の持ち合はせは感じさせる。突出した決定力には欠きながらも何れも高水準な濡れ場濡れ場の合間に、しつかりと機能し得る主人公が止(とど)まることなく堂々と物語を推進して行く、さりげなくも娯楽ピンクの佳作である。由美は汚い手も使ひ倒すのでオーソドックスな勧善懲悪からは外れもするが、まあさういふ細かいことはいひない。
 登場順に佐倉萌は、由美を軸とした劇中世界の対立軸をこちらは勿論堂々と果たす、何かと由美をネチネチいびるお局OLの妙子。タイプ・キャストの極みとはいへ、ここまで磐石だと流石に文句も出まい。吉田祐健は、セクハラ社長の怒木。妙な凄味を見せたかと思ふと別の場面ではグダグダのエロ親爺ぶりも発揮、多彩な彩を絡みに添へる。本筋とは全く離れたところで、今作が半ば暴発的に最高潮に弾けるのは冒頭、社長室にお茶を届けに向つた由美が、怒木からセクハラを受ける、妄想を例によつて臆面もなく開陳する件。誤解なきやう一言お断り申し上げると、ここで臆面ないのは無論関根和美である。自慰を強ひられた由美のショットのピントも合はぬ手前に、何でだか手がヒラヒラと動いてゐるのが映り込む。何事かと思ひながら観てゐると、唐突に画面手前のテーブルの上を、吉田祐健が右から左に背泳ぎで泳いで行く(逆に泳いで戻るカットもあり)。わはははは!何だこりや、コカインでもキメながら撮つてたのかよ。ああでもないかうでもないと奇抜をない知恵絞つて捻り出さうとしてゐる類よりも、かういふ無自覚に、あるいは直截には適当にサックリ撮り流してしまふ関根和美らの方が、結果的にはより条理に非ざる領域をフィルムに定着せしめられてゐる。これを皮肉と見るか祝福と看做すか、あるいは至極当然の帰結と捉へるべきなのかに関しては、今回は最早面倒臭いのでさて措く。
 江藤大我は、同じ社内で由美憧れの裕也。猪突猛進型の主人公に翻弄される、ラブ・コメ定型の相手役を好演。仁科愛美は、裕也の結婚秒読みの恋人で、由美の容赦ない姦計の無惨な犠牲となる美久。平川直大は、出入りの銀行マンで、かつ妙子の半ば性奴の博史。美久の排除をまんまと果たした由美が、野望を次なるステージに移す起承転結の転部で、重要な役割を果たす。振り返つて考へてみるならば、絶妙に堅実な出演者の布陣も、今作の成功に寄与してゐるやうに思へる。

 町田政則・若葉要・中村拓は、"友情出演”とクレジットされる。町田政則は、由美と仲のいい掃除夫。若葉要は、妙子の腰巾着ハイミス―推定―OLのカナメ。由美が天下を取つた後の、二人が辿る運命の交錯は爽やか且つ手堅く娯楽映画の締め括りを飾る。かういふ時に見せる微妙な分厚さは、副装備ともいへ関根和美映画の強力な武器のひとつであらう。ところで、若葉要(公称スペック昭和44年生)が佐倉萌(本人談昭和49年生)を捕まへて"センパイ”といふのは幾ら何でも何事か。妙子は昭和35年生であるとする最早荒唐無稽の次元に突入した劇中設定もあるとはいへ、あんまりである。中村拓は、裕也の向かひの席の男性社員、伊藤か。のんべんだらりながらに、それ程寒くもないいい塩梅の小ギャグ担当、濡れ場の旨味には一切与れず。


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 「黒髪マダムレズ -三十路妻と四十路熟女-」(2007/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:関根和美・水上晃太/企画:亀井戸粋人・奥田幸一/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/監督助手:伊藤拓也/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/協力:報映産業、東映ラボ・テック/出演:鏡麗子・しのざきさとみ・佐々木基子・なかみつせいじ・牧村耕次)。
 サンタナの「哀愁のヨーロッパ」ばりの、泣きのギターにて開巻。客(後姿しか見せないが多分、高田宝重)の前に和服を自ら紐解き、蚊帳越しにド迫力のストリップを展開する鏡麗子。振り返つてみるならば、ここで既に今作下元哲が立てた戦略は明らかであつた。
 日本庭園の手入れに勤しむ金城幸江(鏡)と、夫の和哉(なかみつ)は縁側で呑気に釣竿を覘く。幸江は築地で高級料亭を営む金城家に嫁入りし、女将として手腕を揮つてゐた。幸江は、和哉にも料亭の経営を手伝つて呉れるやう望んだが、和哉は料亭の切り盛りは女将、即ち女の仕事と相場は決まつてゐる、と飲む打つ買ふの三拍子揃つた放蕩三昧に耽つてゐた。ある日幸江に、見に覚えの全くない高利貸しからの電話がかゝつて来る、和哉がギャンブルで巨額の借金を作つたといふのだ。和哉は、前夜から姿を消してゐた。拉致されるかのやうに、幸江は高利貸しの社長・森島麗香(しのざき)の下へと向かふ。因みに森島邸は、例によつて御馴染みの洋館。料亭も、既に担保に入れられてゐた。不足分は体で払へ、お約束の淫獄に、幸江は囚はれてしまふ。
 どうせ元々分厚くもなかつたであらう関根和美から渡された脚本を、下元哲は更に大胆に簡略し、加速した潔さを炸裂させる。舞台を手短にあつらへると、後は本来この手の“囚はれた令夫人もの”必須とならう幸江の抵抗も逡巡も、後に一応は用意された夫との思はぬ形での再会すら殆ど何処吹く風。淫獄の先輩にIT企業社長夫人であつたとかいふ猪瀬紗織(佐々木)を指南役として登場させると、客々の下に向かつては威力絶大のビアンな白黒ショウを手を替へ品を替へ延々繰り広げる、だけの、重量感溢れる極彩色のエロ万華にひたすらに特化。幾らピンクとはいへ一本の劇映画としては画期的とすらいへる内容の希薄さを、濡れ場の破壊力の一点突破で堂々と押し切るエクセス十八番の重戦車ピンク。これはこれで、天晴であるとでもしか最早いひやうもない。

 牧村耕次は、麗香部下の北村邦弘。ギャングを気取るビートたけしばりの渋味を炸裂させるものの、退場の呆気なさには驚嘆させられる。今作に際して下元哲が採用した取捨選択が、ここにもよく表れてゐよう。幸江と紗織のビアン白黒ショウの客として、三組計四人登場。二組目の中年、あるいは初老の一人客は、現場にも参加した関根和美。幸江が紗織と初めて客前に立たされる際の中年客と、三組目の和哉の連れの若い男―伊藤拓也ではなく、水上晃太か?―は、何れも誰なのか不明。
 なかなか判り辛いのは、“三十路妻”といふのは鏡麗子を指すものだとして、“四十路熟女”といふのは。しのざきさとみと佐々木基子と、一体どちらのことなのか。もうどうでもいいよ、さうですか、さうデスね。ひとつ忘れてならないのは、各人の着物の着付けが何れも超絶に完璧。これは日舞を嗜むといふ、しのざきさとみの手によるものに違ひあるまい。

 以下は再見に際しての付記< 幸江が紗織と初めて客の前に立たされる際の中年客は下元哲。


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 「ノーパン医院 お脱がし治療」(2002/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:樫原辰郎/撮影:長谷川卓也/照明:守利健一/助監督:城定秀夫/監督助手:伊藤一平・大滝由有子/撮影助手:小宮由紀夫/スチール:佐藤初太郎/ネガ編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:池谷紗恵・柏原恵理・桜沢夕海・寺西徹・銀治・かわさきひろゆき・いか八郎・石動三六・田中護・廣田正興・鈴木厚・末吉太平・三浦俊・枝吉一大・小村大介・生方哲・山本幹雄・吉永幸一郎・矢上克彦・植ムラ・瀬川ゆうじ・荻野晶張・伊藤信彦・河野博史・高橋和彦・土橋大輔・船本賢悟・加藤義一・小泉剛・下垣外純・FUTOSI.com・岡下以蔵・菅沼隆・青木勝紀・鈴木祐馬・岸栄太郎・西浦淳平)。
 朝倉(寺西)は杉並区の開業医、近隣の住民は病的に健康な者が多く、朝倉の医院は開店休業の状態がずつと続いてゐた。ノイローゼ気味の朝倉が精神科に看て貰ふのを思ひたつてゐると、医院に頭から血を流した看護婦・リリ(池谷)が飛び込んで来る。妙に丈の短いナース服のリリは、驚く勿れノーパンであつた。
 閑古鳥の鳴く医院に転がり込んだ風俗嬢が、ノーパン看護婦として奮闘、大騒動を巻き起こす。大雑把に掻い摘んでみれば、さういふプロットのコメディである。国沢実には後に触れる自身の登場シーンのやうに、箸にも棒にもかゝらない暗黒映画を好き勝手に撮らせておくくらゐならば、喜劇演出の才に全く欠けてゐるといふ訳では必ずしもないにせよ。今作に於いて致命的なのは、寺西“『びっちゅう』”徹の徹底的なコメディ・センスの欠如。長々と朝倉の独り言で片づける導入部から容赦なく吹き荒れる空々しさが、映画を完膚なきまでに打ちのめす。芸術的な首から上の造作の美しさを活かしてキラキラと弾ける池谷紗恵にも、終に映画は救へなかつた。これも後述するがそれ以前の問題といふのも、国沢実は抱へてゐるのだが。
 一昔前のHRギタリストのやうな破天荒な金髪の柏原恵理は、森の中でタカシ(銀治)と青姦に勤しむミミコ。二人を木陰から覗くのは、アーミールックに身を包んだ自衛隊出身の国沢☆実。タカシの下手糞な腰使ひに業を煮やした国沢☆実は、「とう!」とライダーばりのかけ声よろしく飛び込み前転で木陰から飛び出すと、匍匐前進で二人に接近。タカシの背後を取ると、有無をいはさぬスパルタ指導で二人を絶頂へと導く。果てた後我に返り国沢☆実の存在に気づいたミミコは、膣痙攣を起こしてしまふ。同じく自衛隊出身であつたといふ設定のタカシと国沢☆実との、アドリブ風の遣り取りが楽しい。自身が登場するこの件は、肩の力も抜けきれてゐるのか普通に面白可笑しく観てゐられる。それが高級か低級なのかは兎も角、決して全く国沢実には喜劇演出の才が欠けてゐる訳ではなからう。銀治も自衛隊出身といふのはネタ―ではなかつた、文末付記を参照されたし―にしても、国沢実の最終階級―これは用語として正確なのか―が一等陸士といふのは事実であらうか。ミミコとタカシは、朝倉医院に駆け込む。ギャグが酷い以前に寺西徹が間の取り方を全く弁へない手術場面の寒さも、筆舌に尽くし難い。術後、ミミコは二人目のノーパン看護婦として医院に居座る。
 起承転結でいふと転部の強引ぶりにも程がある、身の丈に合はない飛び道具に関してはこの際等閑視して済ますとして。世界を救ふべく医院を後にしたリリは、数年後朝倉の下に戻つて来る。ギアをトップに入れて紗をかけた締めのリリと朝倉の濡れ場、「私には、あなたがゐるから」、「私の居場所は、こゝにしかないから」、「これからも二人で、ずつと」。そんな糞みたいな、しかも二人のモノローグの合唱(!)で映画をズッタズタに締め括る。壊れ気味のルーズなコメディとの、空気の齟齬など最早どうでもいゝ。これは何も国沢実に限られた話でもないが、近年性懲りもなく怠惰に垂れ流され続ける、この手のさもしい悪弊はどうにも煮ても焼いても喰へない。さみしいさみしいさみしい、五月蠅えデスれ。そんな無様な醜態を曝すくらゐなら、初めから近代なんて幕を開けなければ良かつたんだ。

 無闇に膨大な俳優部のうち、いか八郎は開巻を飾るジョギング男。あんまりこの人は、健康で健康で仕方のないやうには見えないが、ジョギング男は計三名。かわさきひろゆきと石動三六、以下無量大数はノーパン看護婦の評判を聞きつけ朝倉医院に詰めかけるスケベ患者。かわさきひろゆきは三人目のノーパン看護婦・カヨコ(桜沢)登場の呼び水に、出番もタップリとある。リリがノーパン看護婦として最初に引いて来る車を運転中の男が、誰なのか判らない。

 付記< 有難い時代で、ツイッターを介して樫原辰郎御本人様より御教示頂いた。よく知られる国沢実だけでなく、銀治も自衛隊出身とのこと


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 「痴漢電車 秘芯まさぐる」(2002/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影・照明:前井一作/編集:酒井正次/音楽:ヤマ/助監督《ポスターには“演出助手”》:下垣外純/制作:小林徹哉/協力:佐倉萌、他二名/出演:山咲小春・林由美香・篠塚あやみ《ポスターには“篠塚あゆみ”》・縄文人・小嶋尚樹・太田始、他)。
 御存知「キャラバン野郎」シリーズの第八作、「キャラバン野郎」シリーズに関して過去に感想を書いたものとしては、この辺や、この辺り
 前作ラストに登場する時任歩には矢張り何時の間にか逃げられたのか、今回真二(荒木)が白黒ショウの相手方として出会ふのは、電車の車中にて、無表情で痴漢男(太田)の為すがままにされてゐたナナ(山咲)。駅のホームで声をかけると、正月の善光寺での再会を期して一旦は別れる。今回花枝(林)は、初めから真二と行動を共にしてゐる。真二はテキ屋の源さん(小嶋)と各地を巡り、花枝は源さんと男女の仲にある。初めは男達に肌を曝すことに激しく躊躇するナナではあつたが、初々しいショウは、結果的に観客からの激しい喝采を浴びる。ショウは好評を博しつつ、ある日終演後に客からの御祝儀とオカリナを託けられたナナは、不意に姿を消す。
 縄文人は、オカリナの贈り主・志村。その筋では「トゥナイト2」に登場するほど有名―源さん談―な、ハメ撮りを得意とするAV監督である。篠塚あやみは、志村子飼ひのAV嬢・愛。オカリナを受け取つたナナが訪れたスタジオでのAV撮影シーンでは、豪快に口の動きと喘ぎ声とが合つてゐない。久々に改めて押さへておくとピンク映画は、香港映画や東映のスーパー戦隊シリーズと同様、撮影と同録ではなくアフレコを主としてゐる。勿論その方が、製作費が安く上がるからである。明け方の暗がりの中、真二が氷の張る富士五湖湖畔で何者かから激しい暴行を受ける件は、プロジェク太上映の画質にも助けられ妨げられ暴漢が誰であつたのかが、後のフォローも足りぬ故いまひとつ判然としなかつた。ライダース・ブーツの足元から鑑みるに、矢張り単車乗りでもある縄文人、即ち志村であらうか。ショウとテキ屋の客要員で、今回も多数登場。顔を見てその人と知れたのは、内藤忠司だけであつた。
 抜け殻のやうになつてしまつた真二の下に戻つて来たナナは、それまでの停止しか感じさせない人格をかなぐり捨て、俄然能動的に真二の心を操り始める。起承転結の転部としてさういふ転換は必ずしも悪くはないものの、ナナの言葉が覆るまでが、土台尺は六十分に過ぎないピンクにしても、些か早急に過ぎよう。落差が全く埋められない上でののどんでん返しは、取つて付けたやうにしか見えない。ここで尺の不足を補ふ論理的な技術といふものは、荒木太郎には期待出来まい。加へて、謎めいたクール・ビューティーに翻弄される、男が女の意のままに翻弄されるからこそ却つて純真さが際立つラブ・ストーリーの相手方。といふのは、荒木太郎は今回、自らにイイ役を当て過ぎではなからうか。役者としては好きだがこの人は、立ち止まると単に何もしてゐないやうにしか見えない。役者荒木太郎の本領は、気弱で妻、あるいは同居する父親に頭の上がらず狼狽するばかりのダメ夫役か、何を考へてゐるのか全く判らない、セクシャル・レプリカント然とした大変態役にこそある、と見るものである。

 今作も、ナナは真二の下を離れずに映画は幕を閉ぢる。事実上最終作の次作は、真二と花枝の出会ひを描いたいはゆるエピソード0につき、今作が時間軸上描かれた花枝と真二の、最後の姿といふことになる。


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 「欲しがる和服妻 くはへこむ」(2007/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:後藤大輔/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキヤビン/助監督:佐藤吏/監督助手:金沢勇大/撮影助手:関根悠太・村田千夏/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/出演:葉月螢・藍山みなみ・水原香菜恵・千葉尚之・川瀬陽太・牧村耕次)。
 昭和二十年・夏、「ふんはりと、あの人は空からやつて来た。鳥のやうに、蝶のやうに」。昨年夫を南部戦線で亡くした鏑木あや(葉月)は、山で山菜を採つてゐたところ重傷を負つた航空兵を発見する。帝国海軍鹿島基地所属の滝―瀧かも―勲(千葉)を、あやは自宅に連れ帰り手当てするが、勲は、練習機で軍を脱走した特攻隊員であつた。その事実を知りながらあやは勲を匿ふ一方、巡査(川瀬)を先頭とする脱走兵探査の網の目は、確実に鏑木家へも迫りつつあつた。
 今回は猟奇要素は抜きの、深町章十八番の昭和初期~戦中戦後モノ。藍山みなみは、鏑木家の女中・里子。最新型のカワイコちやんである藍山みなみは厳密には劇中世界の空気にはそぐはない、とはいへ。分け与へられた薩摩芋と引き換へに、好色な養鶏業者・蒲生(牧村)に体を易々と任せる濡れ場の、無心で芋を頬張りながら蒲生からは無性に突かれるシークエンスは、名匠清水正二の障壁物の使ひ方がダイナミックなカメラ・ワークと、獣の貪欲を感じさせる牧村耕次の熱演の力とを借り完成度は頗る高い。近年の、フィールドを選ばない牧村耕次の充実ぶりは極めて強力。頼もしい、限りである。
 純然たる濡れ場要員の水原香菜恵は、蒲生相手に作劇上の送りバントをキッチリ決める遊女・菊。この人の最終的な垢抜けなさは、自然に劇中世界にフィットする。葉月螢の和服の似合ひぶりに関しては、この期に論を俟つまい。ほかに巡査の部下と勲の山狩りに狩り出される村人役で、計六名登場。二度明確に抜かれる割に、あや亡夫の遺影が誰なのかサッパリ判らない。
 実は脚本自体は六十分の尺にすら心許ない程薄いものの、深町章の丹念かつ、いゝ意味で余裕をもたせた作劇により、充実した映画時間が流れて行く。捜索を辛くも、といふか結構余裕で逃れたのちの、締めのあやと勲のタップリ間ももたせた絡みで叙情は頂点に、達するところであつたのに。「ふんはりと、あの人は空からやつて来た。鳥のやうに、蝶のやうに」。再び繰り返される葉月螢のモノローグ、に続く後藤大輔の他愛なくすらない余計なもう一オチが、全てをブチ壊しにしてしまふ。蛇足といふ言葉さへ、最早生温い。映画の勘所の何たるかを弁へぬ、深町章でもなからう。邪魔は、バッサリと斬り捨てるべきであつた。“ふんはりと、あの人が空からやつて来る”シークエンス自体をキチンと押さへておいても欲しかつた点に関しては、バジェット上いつても詮無いノースリーブは初めから判つてゐることなので、大人しくさて措く。

 最後に、瑣末の極み。劇中時間を指し示す小道具のひとつに、四月十九日が水曜日の日めくりカレンダーが出て来る。少し気になつて調べてみると、昭和二十年の四月十九日は、木曜日であつた(笑。因みに四月十九日が水曜日なのは、直近だと2006年。今作、撮影時期は一体何時頃なのであらうか。
 更についでに、勲を人目につかぬやう匿ふため、あやは里子に暇を出す。里子が郷里へと向かふバスを待つカットは、道路の舗装が些か綺麗過ぎる。


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 「和風旅館のロシア女将 女体盛り」(2004/製作・企画:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳士/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:鏡早智/照明:野田友行/助監督:伊藤一平/監督助手:清水雅美/撮影助手:溝口伊久江/照明助手:吉田雄三/衣装:小川真実/主演:グロリア/出演:小川真実・瀬戸恵子・山本東・成田渡・野上正義)。出演者中、しかも主演のグロリアが、ポスターには何故かカレン・ユルサコフ。グロリアだかカレン・ユルサコフは、“主演”と別枠でクレジットされる。脚本の国見岳士は、勝利一の変名。
 サラリーマンの谷崎信一(山本)は男に金を持ち逃げされ途方に暮れてゐた、ロシア人のエカテリーナ(グロリアあるいはカレン・ユルサコフ)と出会ふ。忽ちエカテリーナと恋に落ちた信一は、結婚を決意し故郷の父親に紹介しようとするが、伊豆伊藤で温泉旅館「谷崎旅館」を経営する父・茂雄(野上)と、旅館を継ぐ意思のない信一とは絶縁状態にあつた。因みに谷崎旅館の表のガラス戸には、山喜とあるのだが。
 今作のエクストリームな決戦兵器は、何はともあれ主演のグロリア。何はなくとももしくはカレン・ユルサコフ。この辺りの名義の混乱が、どういふ事情に起因するものなのかは潔く知らぬ。エクセスの連れて来るロシア人女といふと、佐々木乃武良の放つたテンプルを砕く危険なロシアン・フックが個人的には印象に強い、といふか心に深い傷を残してもゐるのだが。今作のグロリアは、もういい意味で一体何処から連れて来たのか、あるいはもつといつてしまふと随分な言ひ草ではあるが、何でこの娘がこんなところに居るのかが判らないほど、もう、メッチャクチャに可愛い。正しくお人形さんのやうな、正調―北半球―高緯度地帯産美人のど真ん中をズバ抜く別嬪さんである。大雑把に譬へるならば、エマニュエル・ベアールの民生モデル、彼女はフランス人ではあるが。グロリアに話を戻すと、片言の日本語なんてどうでもいい。勿論存分にこなしては呉れるが、最早濡れ場すら別になくともいい。そこで小首を傾げて微笑んで呉れてゐるだけで、お腹一杯に大満足だ。映画の出来不出来も、この際さて措いたとて構はない。妙に執拗にフィーチャーされる、タトゥーは少々邪魔でもあるが。
 衣装にもクレジットされる小川真実は、谷崎旅館の仲居頭・山村真佐子。妻と既に死別した茂雄とは、男女の仲にもある。瀬戸恵子と成田渡は、エカテリーナに連れられ不意に谷崎旅館に逗留することとなる、如何にも訳アリな風情の原田あさ美と坂上佳宏。
 信一とエカテリーナ、あさ美と坂上のそれぞれの結婚問題を重ね合はせつつ、死すら決意の上で温泉町を訪れたあさ美と坂上が、心機一転明るく前を向いて宿を後にするまでは、お気楽ながらにそれはそれとして手堅くもある旅情譚として仕上がつてゐる。日本旅館にロシア人女将などと初めは否定してゐた茂雄が、その人とは知らぬ間にエカテリーナと懇意になつてゐたりするラックも鉄板。とはいへ強ひて挙げるならば残らなくもない問題は、棹尾を飾るエカテリーナの女体盛りの呼び水となるべく、谷崎旅館を訪れる四人組の予約客。高橋教授(勝利一)をリーダーとする、戸籍の発掘調査隊(残り三人は不明)である。物語の進行上然程有効に機能してはゐないのだが、谷崎旅館は、一帯の温泉の枯渇により休業の憂き目に遭つてゐた。従つて予約客は全て断つておいた筈が、一組だけ断り損ねてゐたのが、高橋調査隊である。繰り返すが、温泉の枯渇により休業してゐる筈の旅館を訪れた、予約を断り損なつた一行は戸籍の発掘調査隊。と、なると。ここは当然に、戸籍発掘中の調査隊が、偶然新たな湯脈を掘り当て温泉街は活況を取り戻しました、目出度し目出度し。と、来るのが娯楽映画的な展開の常道ではなからうか。陰鬱な客がエカテリーナの女体盛りで朗らかになる、などといふのは、斬つて捨ててしまへば蛇足に過ぎないやうにも思へる。あさ美と坂上が退場するまでが綺麗に纏まつてゐただけに尚更、締めでの詰めの甘さが、不自然にすら見えなくもない。
 
 国見岳士(=勝利一)も仕出かすぞ珍台詞、エカテリーナの女体盛りを盛り上げるべく信一のMC。「当旅館名物、若女将の女体盛り。今夜限りの、特別企画でございます!」。名物なのか一夜限りなのかどつちなんだよ、グロリアは兎も角、誰もおかしいとは思はなかつたのか。
 ポスターには、“好評<ロシアの女>シリーズ第2弾!”と晴れ晴れしく謳はれる。第一弾といふのは、「白い肌の誘惑 ロシア未亡人」(五月公開/監督:坂本太/主演:ナターシャ・タギロワ)のことか。観てはゐるやうな気もしつつ、内容は俄かには思ひ出せない。
 どうでもいいことと言つてしまへばそれまででもあるが、今作が、今年百本目のピンクである。序に先に触れた佐々木乃武良のロシアン・フックは、昨年の一般映画まで含めてトータルでの百本目でもある。どういふ訳でだか、百本目はロシア女と縁があるのであらうか。

 以下は再見時の付記(H21/5/10)< 上記の“今年百本目”といふのは二年前、第二十一次「前田有楽旅情篇」の折のこと。因みに今回第四十一次「小倉名画座急襲篇」に際しては、残念ながらピンクとしても全体としても、未だ百本目には至らず。


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 「義母同窓会 -息子を食べないで!-」(2004/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボーサウンド/監督助手:城定秀夫/撮影助手:池宮直弘/選曲効果:梅沢身知子/製作進行:阿佐ヶ谷兄弟舎/出演:水沢ゆりか・林由美香・葉月螢・松浦祐也・丘尚輝・なかみつせいじ)。
 静流(しずる/水沢ゆりか)は尾崎(全く出て来ない)の後妻として結婚するが、尾崎は海外に単身赴任で出てしまつてゐる為、今は義息の啓(松浦)との二人暮らし。義母とはいへ、歳もさほど離れない女盛りの静流に啓は秘かに肉欲の伴つた激しい恋情を抱き、静流も静流で、若い啓のことを意識せぬではなかつた。ある日静流は、高校の同窓会に出席する。円城寺薫(林)・三枝孝子(葉月)と女三人だけの二次会が、孝子の夫の馴染みの高級料亭で開かれる。矢張りどちらも後妻の薫と孝子は、静流を自分達のクラブ“セカンド・ワイフ・クラブ”に誘ふ。学生時代華やかな二人に憧れを抱いてゐた静流は喜ぶが、セカンド・ワイフ・クラブに入る為には、秘密を共有する条件が。その秘密とは、義息との不貞であつた。
 物語以上に豪快な配役が、映画を根こそぎ引つこ抜く一作。無茶もここまで来ると、いつそのこと清々しい。何が無茶かといふと、三組の、義母と義息との不義の物語。それで林由美香と葉月螢の相手を務める男優部残り二人が、たとへば柳之内たくまと白土勝功だといふのならばスンナリ肯けもするが。今作の場合は薫の義息が同い年の丘尚輝、孝子の義息は年上のなかみつせいじ、幾ら何でも豪快過ぎるだろ。孝子は義息と関係を持つに至つた理由として夫のEDを挙げるが、なかみつせいじの親爺となると、それは単なる耐用年数なのでは?
 破天荒はひとまづ黙殺することにして、今作が狂ほしい絶頂を迎へるのは、続く薫の啓攻略戦。後日、孝子が静流を誘ひ出し、その隙に薫が偵察がてら家に一人の啓を急襲する。啓が静流に劣情を抱きつつも、同時に未だ童貞であることを看て取つた薫は、俄かに綺麗―で淫ら―なお姉さんに変身。「啓君経験ないんだあ・・・。いいは、私が練習台になつてあげる」。「いいは、私が練習台になつてあげる」、林由美香のこの台詞を聞くだけでも、本作は絶対に観る価値がある。晩年即ち絶頂期と個人的には見るものである林由美香の、一撃必殺が火を噴く名シークエンス。常々の繰り返しにもなるが、ピンク映画を監督の名前で選り好みする悪癖に対しては、頑強に再考を促すものである。少なくとも、お目当ての一本は一本として、木戸銭も三本分払つてゐるのだ。残り二本もキチンと観て来るくらゐいいではないか、そこに何が出て来るか判らないのが量産型娯楽映画である。
 林由美香と松浦祐也の濡れ場に続いて、そのまま起承転結でいふと承部で静流と啓が結ばれてしまふ為、これは展開が些か性急過ぎはしないか。あるいは全体の構成のバランスのことを全く考へてゐないのではないか、と思ひながら観てゐたところ、更に悪ノリに拍車のかかる転部を経て、滅茶苦茶ながらに最終的には地味に映画をキッチリ纏め上げる。羽目を外すところでは外しながらも、全体的には案外さりげない水準作。転部の締めでタイトルを有効に活かす辺りは、ぞんざいな公開題の付けられ方がされることの多いピンクにあつては、なかなかないことでもある、さういふ辺りも踏まへて佳篇といへよう。

 これを恒例とするのも我ながら如何なものかとも思ふが、今作の岡輝男。薫は啓にスキンを被せるに際して、「薄皮一枚のモラル・・・・」。この“薄皮一枚のモラル”といふのはセカンド・ワイフ・クラブの合言葉なのか、それとも岡輝男が自分で余程気の利いた文句を思ひ付いたつもりにでもなつたのか、孝子も静流も用ゐるのだが、何が道徳か。本来の生殖機能を等閑視して、徒な悦楽を恣に貪る為の便宜だろがよ。ともあれ、肯定的に捉へるならば、今作はスキン着用を奨励したピンクではある。
 同窓会要員に、何れも男の他三名見切れる。啓の妄想中、静流に「ア~ン」して貰ふのは城定秀夫、残りの二人は知らん。

 以下は再見に際しての付記< 同窓会要員、城定秀夫の画面向かつて左に正面から抜かれるのは加藤義一。もう一人、加藤義一と歓談する男は背中しか見えないので本当に判らない。多分新田栄ではあるまいかとも思ふが、それならばいつそのこと三本柱の恩師・北村先生役で堂々と出撃すればよかつたのに。


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