真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女修道院 バイブ折檻」(1999/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:小山田勝治・岩崎智之/照明:上妻敏厚・河内大輔/編集:㈲フィルム・クラフト/音楽:中空龍/録音:杉山篤/効果:渡辺健一《東洋音響カモメ》/助監督:松岡誠・増田正吾/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:大川大作/スチール:岡崎一隆/現像:東映化学/協力:日活撮影所/出演:紺野沙織・河野綾子・村上ゆう・杉本まこと・やまきよ・荒木太郎・柳東史)。
 鐘の音の鳴る教会ビルに、どギツいフォントで被さるタイトル開巻。玄関口に出て来た二人の修道女、香苗(紺野)は詩織(河野)に別れを告げる。少し時制が遡り、教会内にて詩織が自慰に耽る場に現れた香苗は、ステンドグラスを背負ひ裸身を晒す。いきなり、このショットの強さが尋常ではない。「我は、天より下りし生けるパン也」、「人このパンを食べれば、永遠に生きるべし」と聖書の一説を引き香苗が詩織と咲かせる百合は、カット跨ぎハイキーな照明に捉へられたイメージ風の画に移行するや、効果的な劇伴の力―エンディング・テーマは堂々と「アヴェ・マリア」!―も借り扇情的にして宗教的な正体不明の光芒を放つ。紺野沙織の濡れ場毎に全篇を通して踏襲されるこの正しく奇跡こそ、当たりの主演女優と必殺の撮影部とが生み出す今作の決戦兵器。在野での救済活動を志し雑踏を進む香苗が向かつた先は、円山町のホテル街。非常識にも五千円を提示する男(松岡誠か増田正吾?)を遣り過ごした街娼の潤子(村上)に香苗は接触、藪から棒に仲間に入れることを申し出、潤子の目を丸くさせる。詩織も香苗を追ひ町に分け入る中、潤子はホームレスの健太郎(荒木)に引き合はせた香苗が、実際にその身を任せる姿に衝撃を受ける。一方、二万五千円で潤子と寝た劇中氏名不詳の風俗ライター(柳)から香苗の噂を聞きつけた、界隈のホテトルを牛耳る相馬(杉本)はポップな邪欲を滾らせる。
 配役残りやまきよ(a.k.a.山本清彦)は、名の通つた性病持ちといふ造形が正直よく判らない立花正樹。立花が性病科の江口医院から出て来る初登場シーン、立花を追ひ駆け忘れたお薬を手渡す看護婦は、クレジットには等閑視されるも麻生みゅう。

 先般、浜野佐知がオーピー映画と決裂し、旦々舎がピンク映画から撤退する衝撃的な情報が御両人のツイッターを通して発表された。どうせ楳図かずおと小学館の類の、直接には思慮の浅い担当者の不用意な言動に端を発す、双方諸々ひつくるめて仕方のない話にさうゐない。そもそも、騒動の具体的な仔細―それとも、フィルム云々?―を一切与り知らない床屋なり丘の上から単なる一ファンとして平然と与太を吹くと、あれやこれや思ふところや積もり積もつたものもあるのであらうが、それにしても惜しい。これこそ正しく覆水が盆には返るまいが、どうしやうもなく惜しい。ことは浜野佐知に止(とど)まらない、浜野佐知が退けば、当然山邦紀も追随する。更にそれだけではない、もしも仮に万が一、近い未来。最後のピンク映画を撮つたのが、女の監督であつたとしたら。商品化した女の性を、品性下劣な男客に供する商業娯楽映画のラスト・スタンディングが、抗ひ続けた逆風で鍛へた絶対のタフネスを誇る、女の監督であつたとしたら。実に痛快ではないか、世界の映画史に残るぞ。そしてそれは、決して底の抜けた夢想ではない。良くも悪くも、現実的に狙つて狙へなくはないひとつの可能性であるのだ。ひとつの可能性で、“あつた”といはねばならないのだとしたら、返す返す惜しい。とまれ、死んだ親の歳を数へてみても始まらない。残された機会を、観られるだけ見られるだけ観るだけのこと見るだけのこと。早とちりして貰つては困る、何もこれで、せえので全てが終つてしまつた訳ではない。

 さてと映画に話を戻すか、清浄な教会を捨て汚濁に塗れた娑婆に降り立つた修道女が、全ての疲れた人重荷を背負ふ人に休息を与へんとプリップリの美身を捧ぐ。一般映画第一作「尾崎翠を探して 第七官界彷徨」の公開を経ての、浜野佐知1999年ピンク映画第一作は気力の充実の継続を窺はせ、後作を持ち出すと“遠くから来て遠くへ行く”女が悲しい男や寂しい男、苦しい男を慰め癒す「乱痴女 美脚フェロモン」(2004/主演:北川明花)にも連なる、エモーショナルな桃色御伽噺。今でいふアヒル口がトレード・マークの紺野沙織は、表情は然程豊かではなく地から足の浮いた口跡も御愛嬌なものの、タップンタップンなオッパイが堪らない、裸の魅力を通り越した威力はエクストリーム。脇を固めるは爆乳の破壊力と硬質の美貌を誇る河野綾子と、南山不落な安定性で山邦紀の奇矯な世界を器用かつ強靭に固定し得る、風間今日子と並ぶ旦々舎影の看板女優・村上ゆう(a.k.a.青木こずえ)。細瑕の欠片も見当たらぬ手慣れた男優部と、布陣は全く大磐石。お腹と胸一杯の女の裸を通して弱者をドリーミングに回復させ、帰す刀で悪党は手厳しくやつゝける、娯楽映画としての構成も鉄板。その上で満を持して撃ち抜かれる、新時代の救世主を女に据ゑた大胆なメッセージ。ガッチガチにエロくて十二分に面白くて、なほかつ全身全霊を込めて思想的。忘れるな、これが旦々舎だ。首から上も腰から下も大満足の一作、かういふ映画を何百本と量産して来た偉大な軌跡こそが、当サイトが浜野佐知をして世界最強の女流監督と推す所以である。


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 「人妻不倫痴態 ‐女医・弁護士・教師‐」(1999/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/音楽:レインボー・サウンド/助監督:竹洞哲也/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:藤森玄一郎/効果:中村半次郎/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学/出演:女医篇 林由美香・久須美欽一・丘尚輝・山本万里 弁護士篇 佐々木基子・杉本まこと・田嶋謙一 教師篇 川原理香・中川大輔・竹本泰史・河野友孝・吉田健児)。
 タイトル開巻即座に、まるで手書きのやうな適当なフォントで“女医篇 田中みさえ 29歳”。泌尿器科・肛門科、チンコ模型を抜く画から、田中みさえ(林)が若い男(竹洞哲也)を羞恥気味に診察する、普通に若くてそれなりの山本万里が看護婦。診察時間は終つたにも関らず、みさえの元患者で数軒のラブホテルを経営する実業家・高橋俊弘(久須美)が来院。するとみさえは山本万里を帰し、診察室にて高橋と事に及ぶ。丘尚輝はみさえの夫で普通のサラリーマン・武則、劇中夫婦生活の恩恵には与れず。何だかんだの末、みさえが向かふ筈の学会のことはスッ飛ばし、“弁護士篇 服部芳子 33歳”。適当な法廷イラストと熱弁を振るふ様子を噛ませて、加川法律事務所所属の弁護士・服部芳子(佐々木)に繋がりが語られない土建業者・臼井和也(田嶋)から呼び出しの電話が入ると、海浜地帯に停めた臼井の車の中での逢瀬。改めて後述するが、作業服の田嶋謙一が、佐々木基子とカーセックスを一戦交へるとそれだけで退場する、杉本まことは同業者の夫・雅史。“教師篇 関口尚美 25歳”は授業風景から、一応ここまでは律儀なのだが。公立―あまり偏差値は高くないらしい―男子校教師・関口尚美(川原)の英語の授業、河野友孝と吉田健児が該当すると思はれる授業中の生徒要員は、計四名背中が見切れる。サクサク誰も居なくなる放課後、大胆なのか馬鹿なのか、尚美は教室で教へ子の斎藤一平(中川)と関係を持つ、竹本泰史は尚美の夫でこちらは私立進学校教師・仁。
 何の為に各個が別に掠りもしない三篇のオムニバス構成にしたのか、清々しく理解に遠い新田栄1999年第一作。ただでさへ短い一時間の尺を三分割、なほかつ濡れ場に関してシチュエーションの多彩さ込みでの質と量双方一欠片の妥協も頑強に拒むとあつては、元々望みの薄い物語の入り込む余地が本当に殆ど絶無。殊に、佐々木基子×杉本まこと×田嶋謙一と強靭な俳優部を揃へておいて、ドラマの膨らみなり深まりに一瞥だに呉れない、弁護士篇の逆の意味でのストイックさは正体不明の光芒を放つ。一方順番を前後して女医篇はといふと、面子からある意味磐石な、全く標準的な新田組。最後に、一応、不倫の不在工作といふ共通のネタを投げる時は意外と入念に投げておいて、最終的にはほぼ放置して済ます女医篇と弁護士篇に対し、教師篇は大概さがプリミティブな方向に加速。帰りの遅さを仁にやんはりと咎められた尚美は、三年生最後の大会が近い陸上部の活動と言ひ逃れる。ところが、二度の一平との教室戦に際して律儀に日付が一日進む黒板を見るに、劇中十二月。運動部にせよ文科系にせよ、日本で三年生が師走に参加する大会なんてあんのかよ。鞄から出て来たコンドームも、エイズ予防の指導要領が云々と強行回避。挙句に、急遽出来た暇にカミさんの教室でも覘いてくかと足を伸ばした―尚美の学校的には部外者に過ぎない―仁が、窓から覗ける―着衣のまま―騎乗位でアヒンアヒン腰を振る尚美の姿―下の男は死角―を「《陸上部の部活を》やつてるやつてる」と満足気にみやるシークエンスの底の抜け具合は、今でいふと草しか生えない。但しそんな他の二篇に劣るとも勝らない教師篇の決戦兵器が、まさかの主演女優、何がまさかなのか。ボサッとした馬面が、馬鹿デカい眼鏡で化けるのは奇跡のエクセスライク。三本柱に穴さへ開かなければ、新田栄は裸映画的には安定する。何処から見ても何処で止めても特に困らない、融通の利く一作である、どんな評し方だ。


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 「スナック桃子 同衾の宿」(2013/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:亀井戸粋人/プロデューサー:伍代俊介/撮影監督:創優和/撮影助手:宮永昭典・渡辺友麿/録音:シネキャビン/編集:有馬潜/助監督:小山悟/監督助手:奥村裕介/スチール:加藤彰/現像:東映ラボ・テック《株》/出演:山吹瞳・佐々木基子・星野ゆず・竹本泰志・津田篤・久保田泰也・すぎみつお・森羅万象)。出演者中、すぎみつおは本篇クレジットのみ。
 ゆつくりと時間をかけて、日傘を差した女が河原を進む。左手には弁当を提げた女は、テント生活する薄くでもなく汚れた、包帯でグルグル巻きのホームレスを訪ねる。定住住所どころか殆ど人間性さへ失した男に何とお父さんと話しかけた竹内か武内桃子(山吹)が、小田切とかいふ男との結婚の予感を報告したところでタイトル・イン。山吹瞳は裸になると首から下は案外若々しい体をしてゐるのに、メイクの所為か、下手に年喰つて見える。
 新宿ゴールデン街にて桃子が営むスナック「桃子」に、害虫駆除業者の小田切(竹本)が入る。養豚業を営んでゐた桃子の父親と、小田切は同じ消毒液の匂ひがした。イイ顔の上司(すぎ)に連れられ、ウジウジした営業職の佐藤(久保田)が桃子を訪れる。男に抱かれると腕に軽いアレルギー症状が現れると、桃子は屈託なく客に語る。小田切と男女の仲になつた桃子には不思議なことにアレルギー症状の蕁麻疹が発生しなかつたが、いい事ばかりはありやしない。小田切の細君・里子(佐々木)に二人の関係を察知され、一息にマキシマムに厄介な破目になる。
 配役残り津田篤は、前半の小田切篇を絶望的に通過後、桃子が河辺で黄昏れてゐると勝手にカメラを向けられる形で出会ふ、フリーカメラマンの柿崎雅人、イケメンならば何をしても許されるのか。友松直之が滾らせる憎悪に、俺も与する。星野ゆずは、柿崎の彼女・美穂。そして森羅万象は桃子の父親・源太郎と、ミイラの中の人。その他桃子に見切れる客要員は、演出部動員にしては妙に男前。
 セカンドバージンで世間の片隅―で完結するには激越に惜しい―の度肝を貫き抜いた2013年エクセス半年後の第二手は、色恋沙汰貞子以来再び三年ぶりとなる山内大輔。開巻の包帯男で鮮烈な先制パンチを叩き込みつつも、一言で片付けるならば綺麗に竜頭蛇尾な一作。小田切篇と柿崎篇とを並べるとエトフェンプロックス直入だなどとバッド・テイストの極北たる手数との対比もさることながら、一旦映画を完全に支配する、佐々木基子独白の質感が後半の全てを良くも悪くも圧倒してしまつてゐる。鉄砲玉も兼務するとはいへ、星野ゆずは所詮は三番手濡れ場要員につき多くを望むのは大人気ないにしても、津田篤は桃子の秘密の上つ面を舐めるに止(とど)まり、余白の多い顔が表情に乏しい正しくエクセスライクな主演女優と、チャラけないだけでマイナスがゼロになつた程度の久保田泰也に映画の雌雄を託するのは、土台通らぬ話であらう。父娘の過去も、叙情的な余韻を持たせ過ぎた結果、決定力には欠く。美穂の立ち居地は一旦無視するとして、もしも仮に万が一前後を引つ繰り返してみたにせよ、どうせ里子が決した始終を残り尺が上滑るに過ぎず、なかなか上手く行かないところではある。

 そんな中、山内大輔がショッキングのどさくさに紛れて仕出かした地味に衝撃的な禁じ手。劇映画的には最大の働きで全体のバランスを崩壊させる佐々木基子が、夫婦生活はおろか、シャワーすら浴びずに一切乳尻見せないまさかの二番手不脱。女の裸に最も厳格なあのエクセスが、よくぞ許したものだ。


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 「むつちり家政婦 吸ひつきご奉仕」(2013/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:広瀬寛巳/撮影助手:宇野寛之・玉田詠空・岡本彩/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/効果:梅沢身知子/タイミング:安斎公一/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:GARAKU/出演:ティア・AYUM・本多菊次朗・久保田泰也・津田篤・横山みれい)。
 絡み合ふ手と手から入る、横山みれいと津田篤の濡れ場でしつぽり開巻。後々明らかとなる真相は、家族には当然内緒の風俗嬢・相葉瑠璃子(横山)と常連客・矢野賢治(津田)の、矢野フェイバリットであるW不倫プレイ。ピンク界の松山ケンイチとサブカル女子の人気を集めたのもそろそろ何時の日にかな話、後半事後金を支払ふ矢野のウハウハした姿を観てゐると、津田篤はもう少しで助平親爺もこなせるやうになりさうだ。海岸と路面電車のショット噛ませて、物件的には鎌倉市長谷の御嶽大神なのだが、劇中ではおほぴい神社。願をかける瑠璃子は、花のカチューシャを起点に全身フリッフリな白い扮装―この服を着こなせるのも凄いファッション・スキルなレベル―のティアと出会ふ。ティアはみるくと名乗り、驚く瑠璃子と、空腹から足下がフラつくみるくを交互に抜いてタイトル・イン。
 相葉家のディテールは、瑠璃子が死去した姉(一切登場せず)の夫であつた創平(本多)と結婚したのが十年前。但し創平は半年前にリストラされ、目下無職。瑠璃子とは血の繋がらない息子・光一(久保田)も、東大を二浪中。ところで、リストラされたといふと退職理由が会社都合に当たるならば、月々の家のローン返済額にもよるが、半年程度ではいきなり瑠璃子が春を鬻(ひさ)がねばならぬほど追ひ詰められるとも思へないのだけれど。兎も角、キュート且つセクシーなみるくに鼻血を噴き驚喜する―流石ナベだ―父息子に、何とみるくは天子の卵と自己紹介する、流石ナベだ
 配役残り、予習段階では一瞬上加あむの別名義かと錯覚したAYUMは、二十歳にして未だ光一をパシらせる、腐れ縁のヤンキー娘・内海美樹。ダボダボのジャージに木刀まで担いであんまりな造形ではあれ、現実も結構あんまりなんだよな。我が家の近所では、古の暴走族文化が依然現在進行形、宇宙戦艦ヤマトみたいな単車今でも普通に見るよ。
 同じくティア主演の「姉妹相姦 いたづらな魔乳」(公開2/1)をスッ飛ばし、先に九州着弾した渡邊元嗣2013年第二作。主演女優の地から足の浮き加減は上手いこと浮世離れたキャラクターの中に消化、すると同時に、ウィズ改めGARAKU提供によるセクシー衣装の数々に包んだ、超絶プロポーションを瑣末な脈略如きお構ひなしに乱打し続ける戦法もお手のもの。穴のない三本柱を擁しなほかつ三番手をも進行に絶対不可欠な物語の形成に成功し、頑丈な裸映画がひとまづ成立する。その上で、そもそも初めから放置される瑠璃子がみるくを男が二人も居る家に連れ帰る不自然な覚束なさを回収する、おほぴい神社に於けるみるくの創平に対する告白。一山幾らのチャチで在り来りな御伽噺の筈なのに、渾身の力で撃ち抜かれたナベシネマに俺は相も変らずコロッと泣いた。舌ッ足らずな口跡が短く一生を終へた命に奇跡の親和、ティアが案外大女優であるのでなければ、他愛ないエモーションをにも関らず深く強く固定し得た所以は、迷ひのない渡邊元嗣の演出力に違ひあるまい。渡邊元嗣は、多分映画を信じてる。セカンドバージンの超絶を迎撃するのは、矢張りナベのプリミティブなエモーションなのか。今更にもほどがあるが、天使を描かせれば日本一はこの人なのではなからうか。神道とアブラハムの宗教世界とが混濁してる?細かいこたあいいんだよ!

 因みに、美樹の絵馬の画面向かつて右に瑠璃子の絵馬があることは劇中明確にフィーチャーされるとして、実は左には50kgの減量を祈願する、永井卓爾の絵馬がシレッと提げられる、50kgて(´・ω・`)


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 「家庭教師 いんび誘惑レッスン」(2013/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:内藤忠司/撮影:佐久間栄一/撮影助手:池田直矢・春木康輔/助監督:田口敬太・名倉健朗/録音:シネ・キャビン/ネガ編集:フィルムクラフト/効果:梅沢身知子/スチール:本田あきら/音楽:星貴也/フィルム:報映産業/現像:東映ラボ・テック/協力:佐々木麻由子・劇団展望/出演:早乙女らぶ・篠田ゆう・間宮結・野村貴浩・前沢健太・村田頼俊・内藤忠司・沼田大輔・牧村耕次)。出演者中、内藤忠司は本篇クレジットのみ。
 派遣家庭教師の相羽夏子(早乙女)と、山内健嗣似の男子高校生・小池卓也(前沢)の国語の授業風景。部屋の片隅にエレキ・ギターを見つけた夏子は、勝手に触るとサクサク点火。卓也の筆卸を致してゐるところに、折悪しく声のみ(誰?)で母親帰宅、夏子は衣類を抱へ窓から飛び出す。夏子が何と全裸で往来を逃走する、驚愕のショットを叩き込んでタイトル・イン。開巻には素直に度肝を抜かれた反面、先走ると結果的には、奈落の底に突き落とされる。
 川地派遣家庭教師センター、所長の川地五郎(野村)は卓也母親の苦情を受け夏子の担当を、五十六歳にして改めての大学進学を目指す、配管工の渡辺英次(牧村)に替へる。志望学科も決めてゐないアバウトな渡辺との初対面を噛ませて、未亡人女将の江波芳江(間宮)が営む小料理屋。常連客の渡辺とは男女の仲にもある芳江は、渡辺の家庭教師が小娘であることにポップに角を生やす。そこに外出がてら姿を見せる芳江の娘・亜美(篠田)は、母親と渡辺の交際を容認。渡辺が川地派遣家庭教師センターを頼つたのも、亜美が元家庭教師の川地と付き合つてゐる縁に端を発してゐた。亜美の外出は川地との逢瀬、そんなこんなで母娘のともに一度きりの濡れ場が併走。2008年第一作「居酒屋の女房 酔ひ濡れ巨乳」(脚本:岡輝男/主演:ささきふう香)以来の三本柱となる間宮結は矢張り些かキツい、とりあへず、その研ナオコみたいなアイシャドウはどうにかならんのか。夏子と渡辺の授業がお気楽に進行する中、渡辺のことが気が気でない芳江と、夏子に下心を残す卓也は周囲に蠢動する。
 2012年は前半戦の二作に止(とど)まり半年沈黙した、国沢実の世間一般的には正月第二弾に当たる2013年第一作。舞台方面もお忙しいやうだが、私見では国沢実には、まだまだどころか全然マッタリして貰つてては困るのだが。兎も角、余した力が明後日だか一昨日に暴発したのか、一週前に封切られた加藤義一の「義父と姉妹 桃汁味くらべ」(脚本:蒼井ひろ/主演:辺見麻衣)に劣るとも勝らない、衝撃の木端微塵系大問題作。日常生活にも支障を来たすのではないかと心配される、ギターの音色に夏子がフルスイングで欲情するギミックが何れの発案によるものなのかまでは、映画を観てゐるだけでは最終的にも何も判断をつけかねる。ものの、内藤忠司の敷いた基本線は、世間の狭さが上手い具合に交錯する芳江・亜美母娘と渡辺・川地の二つの恋路を、尻軽の家庭教師がシッチャカメッチャカに撹乱する。やがては人情風味に落とし込む定番の桃色喜劇にあつたのではないかと、芳江と渡辺の濡れ場に限らず絡みを観てゐると何となく思はせる。ところが、間宮結がキャット・ファイト仕込みのキレッキレの動きを何気に披露する、亜美以外の主要キャスト全員が器用に揃ふ渡辺宅での第一次修羅場明け。川地に連れられ夏子が頭を冷やしに海岸に向かふ辺りから、雲行きは猛烈に怪しくなつて来る。出し抜けに国沢実の暗黒面起動、木に竹も接ぎ損なふ孤独を夏子が持ち出すや、頭を抱へる間もなくあれよあれよとまさかのドミノ式皆殺し展開に突入、国沢実はこの期に富野―由悠季―にでも憧れたのか。文字通りの死屍累々の果てに、夏子がてれんこてれんこと踊る地獄の底も抜くラストまで一直線。極大の絶対値のベクトルが逆向きであるのが重ね重ね惜しい、平板な面白い詰まらないを粉砕する一作。全盛期の清水大敬―全盛期?―にも匹敵する絶望的な破壊力、ここまで壊れた映画も久し振りに観た気がする。虚無感と紙一重の、正体不明のこの清々しさは一体何なのか。

 出演者残り村田頼俊と内藤忠司は、終盤戦場と化した病院内に正直無駄に見切れる、車椅子の入院患者と医師。村田頼俊はお情けレギュラーとして、内藤忠司の心中や如何に。忘れてた、沼田大輔は、夏子が耳を傾けるストリートミュージシャン。渡辺と軽いデート中の夏子に、公園でギターを爪弾く沼田大輔を絡めた一幕は、非常にいい感じであつたのに。


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 「艶めき和服妻の痴態」(2013/制作:セメントマッチ・光の帝国/提供:オーピー映画/原題:『泡男の輪舞曲《ロンド》』/後藤大輔《監督・脚本》・池島ゆたか《製作》・飯岡聖英《撮影》・大場一魅《音楽》・酒井正次《編集》・永井卓爾《助監督+卓也》・北川帯寛《演出助手》・宇野寛之《撮影助手》・佐藤光《撮影助手》・巽亮人《撮影助手》・鷹野朋子《編集助手》・安斎公一《タイミング》・広瀬寛巳《応援》/協力:とみじゅん《声》・萌桜《着物提供+着付》/出演:周防ゆきこ《皐月》・佐倉萌《弥生》・鈴木鈴《葉月》・なかみつせいじ《ジュリー》・那波隆史《バトー》・野村貴浩《竜馬》)。協力の二人は、要は冨田じゅんと佐倉萌。
 一旦タイトル開巻、阿蘇を彷徨ふ艶めいた和服妻の野村皐月(周防)が、馬糞を踏んづける。慌てて手持ちのポケット・ティッシュで履物を拭つた皐月が、内包されたヴィジュアル系出張ホスト&ソープ「カサブランカ・ダンディ」の広告に目を留めたところで、“第一章 ジュリー(仮名)”の改めてタイトル・イン。カサブランカ・ダンディ時の扮装のなかみつせいじが、テレッテレッテーンと登場。若かりし日には歌手に憧れてゐたといふ一人しか居ないのだが「カサブランカ・ダンディ」No.1のジュリー(なかみつ)と、東京に残した亭主は勃たない皐月との一戦を、ここでは何事もなく消化する。ところで、一応ピンクスの仁義として押さへておくと、界隈でジュリーといへば、本来ならば沢田王子こと石川ゆうや(ex.石川雄也)なんだけれどね。皐月帰京、坂本竜馬に心酔する会社社長の夫・貴浩(野村)とは、皐月は竜馬属性から擦れ違ふ。夫婦生活未遂も含めシャワーを浴びる皐月に、妹の葉月(鈴木)から電話が入る。感情的に婚約解消を捲し立てる葉月は鼻風邪をひいてをり、ちやうど上手いタイミングで差し出したティッシュ配り(殆ど映されないが、背格好的には北川帯寛?)から受け取つたポケット・ティッシュの、攻殻系出張ホスト&ソープ「バトーの小部屋」の広告に目を留めたところで“第二章 バトー(仮名)”のタイトル・イン。バトー(那波)と葉月の一戦もひとまづ消化、帰宅したバトーは、ブティックを経営する内縁の妻・弥生(佐倉)をムーディーな夕食を準備し待つ。その日は十年前、橋から川に飛び込んだ弥生をバトーが助けた、二人の出会ひの記念日であつた。下手に触れられない何だかんだはスッ飛ばして、実は会社が大分傾いてゐることを皐月にはひた隠す貴浩が悪態を独り言ちたところで、“第三章 龍馬(仮名)”のタイトル・イン。顧客から評判を聞きつけた弥生が、何と爽やか系出張ホスト&ソープ「貴女を抱きしめ隊」の野村貴浩改め源氏名・竜馬を買ふ。「カサブランカ・ダンディ」は当然アリとして、「バトーの小部屋」だの「貴女を抱きしめ隊」だのと、後藤大輔が狙つてゐるのだかナチュラルなのだか判らない。
 後藤大輔2013年第一作、世評の妙な高さには例によつて乗り損なひ、決して得意な監督ではないのだが、今回はストレートに面白い。正しくロンド形式に則りいはゆる逆ソープを通して巧みに蒔かれた種が、やがて相互的に花開き作品世界が完成する様には感嘆を禁じ得ない。女の裸があつてこその劇映画、ピンクで映画なピンク映画の秀作は豊潤な本筋だけに飽き足らず、そこかしこの細部にも神を宿す。第一章タイトルから使用料対策で幾分崩した、「勝手にしやがれ」のイントロが鳴る完璧なタイミング。穴を開けた何かの蓋を瞼と頬の肉で挟み込んだだけなのに、結構バトーに見えるチープでプリミティブな特殊メイク。竜馬が持ち込んだマットに弥生が滲ませる懐かしさを、一旦後回しにする絶妙なカットの切り具合、端々に至るまでの充実が地味でなく堪らない。オーラスに至つて漸く姿を見せる、葉月の婚約者・卓也役に文句をつけるのはこの際大人気ないとして、絡みに突入するやクネクネ動くのがモーレツな主演女優。適当な距離感が効果的に機能する三番手に、進行の要を握る佐倉萌の重量・・・もとい安定感、三本柱も抜群に磐石。第四章「姉妹」までで慎重に拡げた風呂敷を見事に畳んでおいた上で、もう一オチの若干蛇足気味はさて措き、同一空間三組計七名による濡れ場・ジェット・ストリーム・アタックで畳み込む最終章「泡男と姉妹の輪舞曲《ロンド》」は、誠清々しきピンク的な大団円。何が素晴らしいといつて、貴浩のサイドビジネスぶりには如何にも御都合的な飛躍も窺はせるとはいへ、東京と熊本といふ地の利と十年の歳月を活かし、往々にして安普請映画特有の頭数の僅かさに伴ふ世間の狭さを微塵も感じさせない点は驚異的。第二章で概ね種明かしが終つたかに思はせておいて、もう一段の大ネタを第四章に叩き込みなほ引き込ませる、心憎い秀逸さにも震へさせられる。名手の妙技にまんまとしてやられた感が心地良い、凝つた物語と繊細にして大胆な語り口とで魅了する一作。概ねこぢんまりとした2012年を通過して、2013年はピンク映画反転大攻勢の一年となるのか?


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 「痴漢電車 夢指の熱い調べ」(2012/制作:ラボアブロス/提供:オーピー映画/脚本・監督:田中康文/撮影:下垣外純/照明:北村憲祐/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:江尻大/撮影助手:中村純一・矢澤直子/監督助手:酒村多緒/スチール:津田一郎/メイク:ユー・ケファ/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/応援:小林徹哉・関谷和樹・鎌田一利・中川大輔・冨田大策・百瀬賢人/出演:沙月由奈・星野ゆず・倖田李梨・久保田泰也・北川帯寛・佐々木基子・サーモン鮭山・牧村耕次・池島ゆたか・広瀬寛巳・太田始・荒木太郎・色華昇子・別所万伸・河口啓介・末田スエ子・電車乗客のみなさま)。出演者中、色華昇子以降は本篇クレジットのみ。明らかに不自然な酒村多緒の演出部に関しては、本篇クレジットまゝ。
 ともに痴漢の大ベテランである源太(池島)は辰夫(牧村)と合流し、高田馬場駅から電車に乗る、電車ショットを噛ませてタイトル・イン。混雑する車中には、痴漢させた相手から金品を失敬する―不登校だけど―女子高生スリの久美(沙月)、組に草鞋を脱ぐチンピラのヒモ健(北川)と、スケの彩乃(星野)の痴漢美人局コンビ。後に久美に受験票の入つた財布を掏られた過去が語られもする、浪人生の幸一(久保田)に、更に女痴漢捜査官―設定上は鉄道捜査官らしい―の由香(倖田)、一癖も二癖もある連中がひしめき合ふ。ところで、改めていふが、北川帯寛はそこそこ以上にイケメンではある反面、大きな役を与へると絶望的な目の表情のなさが致命傷。源太と辰夫は二手に別れ、源太は一目惚れした久美を、辰夫は由香を攻める。一方久美は、かつて実際に痴漢された際に助けて呉れた、ヒモ健に想ひを馳せてゐた。降車後源太は辰夫に、久美が思ひ出の弥生なる女に瓜二つであると語る。
 膨大な乗客要員は措いておいて、潤沢なその他配役は登場順に、太田始が、彩乃の色香に惑はされヒモ健に捕まり、かけるサラリーマンA。源太と辰夫の牽制を受け思ひ留まるかと思ひきや、結局はひつかゝつたやうだ。荒木太郎は、辰夫から由香を譲り受ける形のサラリーマンB。辰夫の長けた指戯には我を忘れるも、触り手が代り我に返つた由香に逮捕される。サーモン鮭山は、辰夫を取逃がし荒れる久美に喰はれる部下・郷田。この二人の絡みが動く動く、この辺りまでは、全く快調であつたのだが。辰夫は違法駐車の取締り、源太は放置自転車の撤去で官憲の手先となり日銭を稼ぐ。河口啓介と末田スエ子は、ここでの辰夫の相方と、源太の下に鍵の外せない自転車を押しつけに来る女。もう一人御大将の田中康文が、逆ギレし辰夫をボコるDQN役。佐々木基子は、私立病院を経営する久美の母親・涼子。医者としてにせよ経営者としてにせよ娘に病院を継ぐことを強ひ、そのことが、要は久美の不良行為の源であつた。田中康文前々作、兼電撃オーピー移籍作「女真剣師 色仕掛け乱れ指」(2011/主演:管野しずか)に見切れてゐなければ、「未亡人銭湯 おつぱいの時間ですよ!」(2010/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/主演:晶エリー《ex.大沢佑香》)以来案外久し振りとなる色華昇子は、辰夫が誤爆する殆どヒムセルフだかハーセルフ。因みに色華昇子を登用した同趣向のネタは、森山茂雄第七作「痴漢電車大爆破」(2006/脚本:佐野和宏・森山茂雄/主演:園原りか)以来、六年ぶり四度目。久々に観ると有難いものにも見えたのは、多分気の迷ひに違ひない。別所万伸は、公園で黄昏る久美に声をかけ、パンチラ写メを撮らせる交渉が成立したかに見せかけて、財布を掏られるサラリーマンC。そして今作の助演男優賞が、ドス黒いドーランと度派手なドレスシャツとで武装すると、ヒモ健から上がりを巻き上げる兄貴分・北島を凄演する広瀬寛巳。定番のTシャツ芸は何処吹く風、ウッカリひろぽんだなどと呼びかけるとブチ殺されかねない勢ひの、こんな悪い広瀬寛巳は初めて観た、これは映画的な大勝利だ。
 大蔵映画時代からの歴史ある正月痴漢電車の栄を得た、田中康文2012年第二作。とはいへ、主演女優がよくいつて肉と同時に華も削つてしまつた成田愛の劣化量産型、直截には何処から連れて来た感が迸る別の意味での綺麗な魚顔。映画本体の方も、所々穴が開きつつも、魅力的な面々が矢継ぎ早かつバラエティ豊かに飛び込んで来る充実した序盤まではいいとして、本筋の覚束なさに暗雲が立ちこめ始める中盤を経て、田舎ロケ―何処だか判らんが本当に何もない―まで敢行しておきながら、決定打に欠いた終盤は逆の意味で見事に失速する。表情の乏しさから難のある久美とヒモ健のエモーションは判然とせず、そんな中でも単騎で展開を制し得るだけの突破力は、久保田泰也は端から持ち合はせない。殆どマクガフィンじみて来る弥生の物語に下手な遊びを持たせた結果、牧村耕次と池島ゆたかの足までもが宙に浮いてしまふ始末。久美への片方向の恋心をウジウジと拗らせる幸一に、源太はガッハッハ系の発破をかける。大して曲がらない変化球よりも、渾身の直球だと。それは全くその通りであるにも関らず、問題なのは当の今作がピッチングもとい映画の組立に失敗し、ストライクに入らうと入るまいと、バットを振らせやうと打たれやうと、そもそも直球すら投げ損なつた印象が強い。飯岡聖英と比べるのがそもそも間違ひに思へなくもないが、ガード下で幸一が久美を伴つたヒモ健と対峙する一幕以外、画の力も総じて弱い。拡げた風呂敷が畳めないくらゐならば、これまで一貫して大所帯を戦ふ田中康文には一度三対三のデフォルト・ミニマムでの、腰を据ゑた作劇を観てみたい気もする。

 個人的に想起したあるいは欲しかつたのは、源太がムッシュの将来の姿であるといふ一ネタ、適当な無茶苦茶をいふやうだが。あれ?となるとゴールドフィンガーとカミさんの佐々木基子も居るけど、ゴールドフィンガー逮捕されてたら駄目ぢやん!


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 「女探偵 舌で搾り込む」(1998/製作:関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:上田良津/プロデューサー・脚本:関根和美/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:㈲フィルムクラフト/助監督:片山圭太/撮影助手:新井毅/監督助手:井戸田秀行/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/音楽:ザ・リハビリテーションズ/協力:永井卓爾/現像:東映化学/出演:村上ゆう・秋吉かほり・河名麻衣・出口彰紀・やまきよ・岡田謙一郎)。
 倉庫の屋上を電話の受話音とともに間延びして舐めて、碧川探偵事務所。誰も出ない電話に所長の碧川倫子(村上)が仕方なく出ると、半年溜めた家賃の催促(電話越しの大家の声の主不明)であつた。その頃調査員の高原七海(秋吉)と恩田(出口)はといふと乳繰り合ふ真最中、主要業務である迷子猫探しの減少に頭を抱へ首は回らない倫子が、ヤケクソ気味に迷はないなら猫を攫ひに出かけたところでタイトル・イン。画になる案外魅力的な事務所ロケーションにも関らず、寧ろ不思議なほどに活かされはしない。
 倫子は碧川探偵事務所への道を尋ねるやまきよを不機嫌かつ不自然にやり過ごし、大介(a.k.a.山本清彦)を七海―と恩田―が応対する。大介の依頼は、婚約者・星野杏子(河名)の身辺調査。二十五まで処女で大介が初めての男であつた杏子が、二ヶ月前から急にまるで商売女の如く淫乱に変貌してゐた。ボスである筈の倫子は正しく何処吹く風、七海と恩田で杏子の尾行を開始。コインロッカーから荷物を取り出した杏子は、手洗ひにて派手派手しい女に変装。ナンパを装ひ接触を図つた恩田は、モモコを名乗る杏子にコロッと捕獲、色んな勢ひで結局据膳を頂戴する。
 配役残り岡田謙一郎は、何事かただならぬ様子でモモコからフロッピーを受け取るや、邪険に扱ふ男。その正体は、帝国興信所時代の倫子の上司、兼恋人の山岡。
 関根和美でも見るかと適当に選んだところ、上田良津全七作中第六作、大蔵二作目―第四作「不倫狂ひの人妻たち」(1997/主演:坂上みすず)まではエクセス―であつた件。まあ、DMMがシンプルに仕出かした訳だが。そのこと自体は映画本体とは全く無関係なとばつちりとしても、蓋を開けてみると案の定ツッコミ処には事欠かない。事欠かないといふほど穴だらけといふのは幾分酷かも知れないが、最後の最後も本当の最後に大穴が結構派手に開く。杏子が製薬会社で新薬の開発に携つてゐることが明らかになる時点で起爆装置が露出する、底の浅いサスペンスを山岡投入で大胆に舵を切る構成そのものには、山岡に始末されかけた七海を、どうやつて居場所を突き止めたのか全く判らないし説明もなされない恩田が助けに来る。のを二人の遣り取りの音声情報だけで処理してみせる大雑把過ぎる大飛躍を筆頭に、全篇を貫き抜く自堕落な無造作さと、真相の解明を残り尺の僅かさに開き直つたが如くベラベラ説明台詞に頼り倒すへべれけさとを等閑視するならば、大きな破綻は案外ない、欠片たりとて面白くもないが。恩田がモモコver.の杏子と関係を持つた腹いせに、大介の新居を訪ねた七海が逆寝取りを敢行する、件の冒頭。第一声は二階の窓から眺望に感嘆して―中の人間は映らないロング―おいて、カット変ると二人が居るのは窓の外にブロック塀が見える一階であつたりするのは、寧ろ微笑ましい御愛嬌の範疇に数へるべきだ。何で気付かなかつたのか、あるいは気付かないとでも思つたか。そこまでは兎も角、さう、ここまでのあれやこれやは、それでもまだ兎も角の内なのだ。開巻こそ倫子が最初に登場するものの、以降は絡み初戦を担当する七海が恩田を大抵頼りない相方に牽引する。そもそも倫子はマッチポンプ式の猫攫ひにうつつを抜かし、杏子の調査には口を出す程度で基本的には参加しない。物語の大筋は杏子の急変を巡る―ほぼ倫子は不在の―探偵物語と、杏子と大介を交へた四角関係を軸に巻き起こる、七海と恩田のラブ・アフェアの一応二本柱。濡れ場的にも部分的に目出度くもなく男優部三冠を達成する秋吉かほりと二戦の河名麻衣に対し、何時までも出し惜しむ村上ゆうは終盤に差しかゝつて漸く、山岡のイントロダクションがてらの然程長くもない回想の一度きり。オーラスも七海を助手席に乗せた恩田運転の車が、新たな事件を求め走り出すショットで締めておきながら、一歩間違へると河名麻衣よりも出演時間の短い村上ゆうがトップに来る謎ビリングこそが、杏子の人が変つた理由を超える今作最大のミステリー。ポスターを二番手三番手が飾ることは今なほなくはないが、せめて本篇クレジットは実勢に即してゐるものだ。出口彰紀のモゴモゴした口跡に足を引かれなかなか苦戦を強ひられたにせよ、それなり以上に健闘し―山岡相手に披露する、どぎまぎした芝居が地味に出色―薄い映画を支へた秋吉かほりの報はれなさに、止め処なく流れよ、我が涙。そんな秋吉かほりを物凄くアバウトに譬へると、七月もみじと安西なるみを足して二で割つた感じ。


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 「桃色身体検査」(昭和60/製作:獅子プロダクション/配給:株式会社にっかつ/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/企画:奥村幸士/撮影:志賀葉一/照明:石垣悟/編集:金子編集室/助監督:片岡修二/監督助手:笠井雅裕・三好隆之/計測:栢野真樹/撮影助手:片山浩/照明助手:平良昌平/録音:銀座サウンド/選曲:工藤彰/現像:東洋現像所/スチール:津田一郎/車輌:金子ドライバー/進行:井川晃之/出演:滝川真子・真堂ありさ・彰佳響子・杉本未央・大杉漣・池島ゆたか・ルパン鈴木・江口高信・土田正明・対馬忠太郎・沢田北登美・渡辺美幸・野口洋子・いわぶちりこ《劇団セメント・マッチ》・笠松夢路・周知安・幡寿一・津田洋子・河野春樹・戸倉篤・螢雪次郎)。撮影の志賀葉一は、現:清水正二。出演者中杉本未央と、ルパン鈴木から幡寿一に、河野春樹と戸倉篤は本篇クレジットのみ。(色彩)計測の直樹でなく栢野真樹は、本篇ママ。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 大阪友愛病院、何故か神父姿でホッつき歩く入院患者の山村彰平(大杉)が、見習看護婦を対象とする看護実習が始まる旨の院内アナウンスに耳を留めチャッチャとタイトル・イン。内科第二診察室、院長(池島)が看護婦・高橋マコ(滝川)の肉体を用ゐて、見習看護婦(セメント女優部計四名、内一人は見習ではないぽい)に女性性器を解説する。目をキョロッと見開く、滝川真子のメソッドが力強く画面を支配する。そして男性性器は自身の男性自身、軽く化粧を施した、池島ゆたかの変態紳士造形も堪らない。所変りナース・ステーション、一週間の休暇でパリに行くと羽振りのいい葉子(真堂)から気軽に院内での売春を勧められるも、マコは固辞する。ビジュアル的には仲本工事に酷似する夫・明良(ルパン)との夫婦生活噛ませて、山村は同室の実はマコの義父・亀蔵(螢)に、大金になると遺体安置所からの死体盗難を持ちかける。
 僅かに特定可能の配役残り登場順に、彰佳響子と杉本未央が、看護婦売春のメンバー春子と波子。イコール笠井雅裕の笠松夢路は、跨る波子の腰の下で死ぬ、303病室の心臓の弱い人。笠井雅裕の名を叫びながら遺体に泣き縋る友人二人が、周知安(=片岡脩二)と幡寿一(=佐藤寿保)か。江口高信は、葉子を買ふナニに一千万かけて真珠を埋め込んだヤクザ。左手に包帯を巻いてゐるのは詰めたものかと思はせて、一切触れられず。わざわざポスターに名前が載るにしては、津田洋子がよく判らん、それらしき特別にフィーチャーされた看護婦は見当たらない。
 滝田洋二郎昭和60年第二作、桃色はさて措き結局何時身体検査した?といふのはいはない相談だ。滝田洋二郎について自分なりにでも概括する材料は清々しく欠くゆゑ、過ぎた真似は潔く諦めると、看護婦売春と死体争奪戦の二題噺。但し、女の裸を呼ぶ方便としては兎も角、看護婦売春には弱さを禁じ得ない。波子V.S.笠松夢路戦を、死体に関する友愛病院のイントロダクションに繋げる方策は素晴らしい。第一次遺体安置所探索に出た山村と亀蔵が、レントゲン技師の今井との人違ひで、春子を頂戴するのも流れ的にはそこそこ。但し、ヒロインたるマコに対しては葉子のパリ自慢に激しく掻きたてられる、だけといふのは如何にも無理矢理かつ如何せん物足りなく、一行がいよいよ本丸に突入する直前に、一気呵成を遮り葉子の濡れ場を持つて来るのは明確に頂けない。時機を完全に逸したものに一旦思へ、看護婦売春が、死体争奪戦に負けてゐる印象を強く懐いた。となると逆に、死体争奪戦が圧倒的。兎にも角にも螢雪次郎と大杉漣の芳醇な絡みが絶品、凡そ三十年前にして二人とも今と変らないやうに見えたのは、それは既に完成されてゐたものと見るべきか、進歩してゐないと捉へるべきなのか。ビートの効いた回想パートで無理の大きな“死体が必要な理由”を強引に固定すると、適度な紆余曲折を経てお宝の仏を遂にゲット、してからの豪快な大逃走劇が滅法面白い。確かに作りはチャチいがスピード感溢れる見せ方は全く十全な、まさかの切株。180°半回転、阿部定と清々しいまでの人体損壊描写を邪気もなく積み重ねた末に、よもやの出産!キナ臭いネタの連打が爆発的に笑かせる。明後日だか一昨日なお門違ひを思ひつくと、両義的に抜けないキャラクター劇を懲りずに量産する竹洞哲也は、もつとあるいは素直に先人の遺産―滝田洋二郎は死んでないけど―を参考にするなり真似するなりパクればいいのに。閑話休題、ここで初めて、看護婦売春が死体争奪戦と有機的に連関する切り返しに感心する、流石転んだまゝでは終らない。四人が二手に別れるに当たつて、螢雪次郎の相方が、大杉漣から盟友のルパン鈴木にスイッチするのも地味に渋い、山村が回したライトバン―もしかして救急車のつもり?―に飛び込む際の爽快感は抜群。目出度くゲット・エンドに思はせての、絶妙なオチは山村と亀蔵のションボリぶりまで含め完璧。四本柱の計三戦を力技で一挙に抜く、ラストのロングがこれまた圧巻。昔はよかつた、俺はさういふクズにでもいへる物言ひは決して好むものでも断じて―自らに―許すものでもないのだが、滝田洋二郎の名前は伊達ではなく、この映画は、生半可なことでは倒せない。


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 「浮気調査 情欲裏ファイル」(2013/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:有馬潜/助監督:江尻大/撮影助手:石井宣之・榎本靖/選曲:山田案山子/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/スチール:小櫃亘弘/現像:東映ラボ・テック/出演:波多野結衣・吉瀬リナ・宮村恋・那波隆史・森山翔悟・竹本泰志・太田始・なかみつせいじ・牧村耕次)。なかみつせいじのクレジットだけ、何故か粗いドットが見える。
 タイトル開巻、ここも本当の一瞬だけ、フォントがブレないか?
 法律事務所で働きながら司法試験合格を目指すのは、乾冴子(波多野)の表の顔。あちこち不自然な設定ではあるけれども裏の顔は、ボスにも内緒で冴子だけが接触出来る正体不明の何でも屋が何といふことはない冴子当人で、異常に高スペックの盗撮・盗聴行為をも駆使して、調査対象の不倫なり何なりの証拠を押さへるとかいふもの。けふも打算で上司と結婚したものの、元同僚、兼不倫相手の佐野恵一(竹本)との関係を続ける水谷リエ(宮村)を激写&激録。ボスである結城正晴(那波)に第三者の手柄を装ひ報告しつつ、事前にはデータ消去と引き換へに、チャッカリ小金を毟り取るのは正直不用意な蛇足にしか思へないが、贅沢にも竹本泰志と宮村恋がその場限りで通過する冒頭は流石に磐石。それは兎も角そのまゝ何だかんだで結城と事に及ぶのは、わざわざ失神してまでの自覚する冴子の妄想癖。本人が自覚するからには、二度三度と繰り返したところで何の問題もあるまい。失神中の妄想により片付ける濡れ場は、後半後述する太田始で繰り返し、オーラスにては引つ繰り返す。銀幕に絡みを載せる方便に際して、夢オチ妄想オチ上等。それがどうした文句があるか、展開上の蓋然性なんぞ犬にでも喰はせろ。関根和美の鉄の信念に打ち震へる、といふのは為にする滑らせた筆である。
 配役残り戯画的なアシンメトリーがポップな森山翔悟は、冴子のセフレで三流ホスト・常磐健。そこそこのイケメン若手が定着したのは、実に喜ばしい。波多野結衣の背面騎乗位グラインドが素晴らしい健戦の最後に於いても、冴子が実はバツイチである情報を投げるのは、以降一切膨らまない以前に触れられさへしない以上、無駄な一手にしか思へない。起承転結の綺麗な転部で登場する吉瀬リナは、冴子の新たなる標的となる名門白鳥女子大生・佐伯はるか、投入のタイミングが地味に完璧。自宅と白鳥女子大とを往復するはるかが、調査四日目に呼び出した男が健である世間の狭さに冴子は驚く。驚きついでに、仕事もそつちのけではるかV.S.健戦に電マまで持ち出した冴子自慰が併走するのは、だから細かい脈略なんぞさて措いた大サービス、全く以て麗しい姿勢にして至誠である。なかみつせいじは、冴子が情報源として手玉に取る悪徳警官・大沢圭吾。牧村耕次が界隈では“最後の渡世人”なる異名を誇る広域暴力団「嵐山会」二代目組長・三輪泰三、この御方が何とはるかのお爺ちやん、健大ピンチ。そして眉を剃り落とした太田始は、意外と間抜けでもない三輪の子分・サブ。ところで劇中目につくのが、妙に高いプーマ率。
 目下一人一作飛び抜けた早さで関門海峡を越える、五月末封切りの関根和美2013年第二作。ジョギングする三輪―とサブ―の尾行中に結城と出喰はした冴子は、薮蛇な咄嗟で双子の姉を偽る。相変らずシークエンス的には余計な横手間ながら、達者な東北弁も披露し初陣にして驚異的に手慣れた波多野結衣を眩いビリング頭に据ゑ、後ろに控へるのも吉瀬リナと宮村恋。強力美麗な三本柱に恵まれた上に、弁護士先生がG-SHOCKはどうなのよといふツッコミを呑み込めば男優部にも穴はなく、リアルタイム・ピンクとして抜群に安定してゐる。それにしても物語的には特筆すべき点も特にも別にも何もないよな、と観念してゐると油断するなとばかりに見せ場が。サブをめぐりガチャガチャしかけた修羅場を大沢と三輪が正しくケリをつける一幕は、仰々しい茶番を役者の貫禄で魅せる力技の名場面。それでゐてスマートなオーバー・アクトを競ひ合ふが如き、牧村耕次となかみつせいじの大激突が今作の白眉。そしてそれが見られるのも関根和美映画ならではとするならば、それでも矢張り捨て難い。突発的に量産型娯楽映画の豊潤さで酔はせておいて、チャッチャと始終を片付けるとオーラスは改めて波多野結衣の超絶裸身でコッテリ締める。一見他愛なく見せて、実際他愛ないにせよ、案外完成された裸映画。エクストリームな傑作といふのも当然それはそれとして、手前味噌ながらこの“案外”といふ奴が、馬鹿に出来ない気がする。


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