「淫乱女房 下半身の甘い香り」(2001/製作:小林プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:小林悟/撮影:小山田勝治/照明:ICE&T/編集:田中治/スチール:佐藤初太郎/助監督:竹洞哲也/監督助手:金基正/撮影助手:邊母木伸治/タイトル:ハセガワタイトル/録音:シネキャビン/現像:東映科学《株》/協力:『夜の公園』 新宿二丁目 3350-6925/出演:藤崎玲央奈・椎名みなみ・小室優奈・洞沢研二・今井正史朗・真央はじめ・坂入正三・田口ゆかり)。
アパートか下宿なのか、「神山荘」の表札を一拍。表を大家さんの奥さん(後述/大家当人は一切登場しない)が掃き掃除してゐると、慌ただしく飛び出して来た店子で会社員の沖田伸二(真央)が、不自然に積まれたダンボールの山に突つ込む。だから掃ばく前に、そのダンボールを片付けろといふ話だ。後々回収されるでなく、どぎまぎとまるで恋心を懐いてゐるかのやうな沖田を、神山夫人が大丈夫かと送り出しタイトル・イン。クレジットと連動して、沖田の妻・公恵(藤崎)がジャージ姿でてれんこてれんこ洗ひ物を片付ける。布団に残る夫の体臭に欲情した公恵は、この一年殆ど御無沙汰の夫婦生活をイマジンしつつ、起きたばかりだといふのにもう一度寝る。何て幸福な日常なんだ、セックスレス程度で不平を垂れるのが間違つてゐる。そこに勝手に上がり込み―神山荘の住人は鍵をかけないのか―茶を飲む神山夫人は、夫婦の疎遠の所以は公恵にあると、色気のないジャージ常用や口数の多さをまるで姑のやうに説教する。ともあれ忠告を聞き容れた公恵はそれなりに普通の格好で夕食には―本当に美味しさうな―ビフテキを出してみるも、沖田のリアクションは今日は寝巻きぢやないんだ程度で、結局夜の営みのおねだりも不発に終る。
その他出演者、自ら出陣する小林悟は、ゲームソフト会社「EYE CORP」本社勤務の沖田から、二日後の締め切りを被弾する同社プログラマー・森本。その場で携帯にかけて来たテレクラで捕まへたセフレに、沖田を紹介する。自分の名前が出て来る電話の遣り取りを傍で聞き、「何ですか?」と尋ねた沖田に対し、「テレクラの女だよ」と答へるドライな会話が堪らない。金基正の変名とみてまづ間違ひあるまい今井正史朗は、ドレスアップして出撃する公恵に、神山荘の玄関で見惚れる男。椎名みなみは、落とした紙バッグを公恵が拾つた縁で仲良くなる友人・由希。そして小室優奈(現:若林美保)が、森本から沖田に宛がはれた小百合。純然たる三番手濡れ場要員ともいへ、天井に張られた鏡を抜いた、凝つた画で飛び込んで来る。シングルマザーである由希は、昼は保険の外交員、夜はスナックで働く。坂入正三が由希の勤め先「夜の公園」マスター、竹洞哲也の変名の洞沢研二は、由希が公恵に紹介すると称して要は売る助平客。ほかに、夜の公園カウンターにもう三人見切れる。
大御大・小林悟、七月終盤公開の2001年第三作。この時は一見普通に元気な内トラぶりを披露しこそすれ、大体半年後の新作撮影中に卒倒、そのまゝ死去。文字通り戦つて死ぬ、壮絶な戦死を小林悟は遂げることとなる。今作単体に話を戻すと、神山夫人のアドバイスに従ひおめかしして新宿に繰り出す公恵と、仕事場が新宿の沖田は度々、といふかその都度遭遇しながら、沖田はあまりの変貌ぶりに妻と判らない。といふ画面(ゑづら)的には甚だ説得力を欠いた機軸を唯一の方便に、冷めた夫婦がヨリを戻すまでを一応一通り描く。霧消するでも爆裂するでもなく、起承転結が何となくでさへ最後まで進行する分、我々が知る小林悟にしてはまだしも良心的な一作。尤も、限りなくフリーダムな大御大仕事は所々で健在。由希が落とした紙バッグの中身は、子供用のブリーフ。それを公恵には“子供のパンツ”と説明しておいて、後程より詳しく境遇を語る件に際しては、由希の子供は娘、女の子にブリーフを穿かせてゐるのかよ。例によつて沖田家に普通に上がり込んだ神山夫人は、出し抜けに公恵から借りたらしいムック本『テレビ水戸黄門のすべて』をドーンと画面一杯に提示し「この本面白かつたは」。出版社から小銭でも掴まされたのか、実際に小林悟が読んで気に入つたのか。何れにせよ、清々しく木に竹すら接がないシークエンスでしかない。最終的に、ひとまづ始終をマッタリ消化した上で、ひとつの謎が残される。神山夫人役には田口ゆかりしか名前が残らないが、顎が首に融解した肥えやうも兎も角、目口鼻の造作が整形でもしたのかといふレベルで田口ゆかりとは全面的に違ふ、因みに声は多分佐々木基子のアテレコ。当日都合がつかなかつたとでもいふならばまだしも、当然田口ゆかりにアフレコを別人にアテさせる必要はない。一体、この女は誰なんだ?・・・・と一旦書いてみたものの、何度か目を通す内に田口ゆかりと田口あゆみを混同してゐるプリミティブな粗忽に気付いた。誰だもへつたくれもない、裏本・裏ビデオの女王としてその名を轟かせた時代を知らぬのは単なる小生の若輩ゆゑの無知。この時何が如何に弾んだものか、神山夫人役は十二年ぶりの銀幕復帰を果たした田口ゆかりである。
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