「老人のSEX 人妻折檻」(1998/製作:フィルムハウスの筈/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:原田清一/照明:小野弘文/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/助監督:高田宝重/制作担当:真弓学/監督助手:栗原淳一郎・田中俊彦/撮影助手:織田猛/照明助手:池田義郎/ヘアーメイク:住吉美加子/スチール:本田あきら/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:橘真帆・真純まこ・吉行由実・白都翔一・柳東史・野上正義)。出演者中、柳東史の史の字が、正確には左から右のはらひが髭付き、明朝体でないと出せん。
画面左から右に通過する電車と、マンション外観。天候に恵まれなければ意欲もあまり感じられない、正直パッとしない2カットに続いて手短に、“人妻折檻”が何故か腕白なフォントのタイトル・イン。三人暮らしの植原家、不良債権に揺れる都市銀行勤めの守(白都)と妻・有佳(橘)。守の父親で入り婿の徳三郎(野上)は、植原家の親族が経営する生命保険会社は一昨年定年退職し、同じ年に妻・ミサコ(遺影すら見切れず)とも死別してゐた。ここで清々しく本質を宿さない瑣末、前髪を下ろした白都翔一が、しばしば別人に見えて何度も我が目を疑ふ。何かにつけて仕事にかこつける守に女が居ることを、有佳は知つてゐた。結婚三年目となる去年の夏、不審を懐いた有佳が会社の前で張り込んでみたところ、守は児童公園で待ち合はせた有川奈美(真純)とホテルに消える。洗練度の低いヒラメ顔が時代を超えられない、その癖後述する吉行由実をさし措いて濡れ場を定石通り二度消化する、小癪な二番手が今作唯一の瑕疵。例によつて守は帰らず、美味しいらしい山芋が、大きいのをまだ二本残す秀逸な伏線を投げつつの息子嫁と義父二人きりの夕食。浮気性は自身を蔑ろにしたミサコ譲りであるとする徳三郎も、守の不貞を勘付いてゐた。一人寝の寂しさかついつい自ら慰める有佳の痴態を、出歯亀するかと思ひきや飛び込んだ徳三郎は、どさくさ紛れに―ミサコが外で仕込んで来た―守は自分の息子ではない衝撃の真実をも大告白。挙句に既に打ち止めの自身に代り、何時の間にか精巧に男性自身を模して彫り込んだ山芋を持ち出し有佳を責める、今宵はここまで。気を取り直し、近所に越して来たと事前に電話も入れた、守のことも相談出来る間柄の旧友・木下則子(吉行)の新居に有佳は遊びに行く。捌けた風情で則子がテレクラ遊びなんぞ勧めてゐると、当のセフレで個人輸入した怪しげな薬物を売り歩く盛岡信二(柳)が、無造作なグッド・タイミングで現れる。“エクスタシーの三倍効く”だとかいふ、おいその薬は依存性はないんだらうなと思はず心配な催淫剤に、コロッと点火された則子が盛岡とオッ始めたため木下家を慌てて飛び出した有佳が帰宅すると、前門の虎後門の狼とでもいふべきか、今度は本格的な貞操帯―携帯電話で操作するリモコン機能つき―を調達した徳三郎が待ち受ける。義理の娘を捕まへて“人妻”と称するのは少し違ふやうな気もしつつ、兎も角本格的な折檻がスタートする。
大門通1998年全三作中最終作、ピンク通算第九作は期待した実は精緻な構成美が煌く何気ない完成形、といふほどのことはないものの、綺麗な綺麗な裸映画。何はともあれ、エクセスライクが微笑んだ奇跡の主演女優が最大の勝因。橘真帆は適度に成熟したプロポーションが抜群に美しく、初めは十人並程度にしか感じられなかつた造作が、展開の進行とともに次第に堪らなく見えて来る映像の魔術には、殆ど差し出すかの如くおとなしく心を持つて行かれる。心なしか、有佳をいたぶる徳三郎ことガミさんも、妙にノリノリに見える。低劣なエモーションがされどもエクストリームな頂点に達する昼間の羞恥裸エプロン、晩に風呂で体を洗ふと称して嬲るところに守が帰宅するスリリング。そのままハード系のエロ映画に落とし込んで別に構はないものを、残り五分のタイミングで盛岡戦を捻じ込むのは無理気味にも思へたが、長閑な劇伴に乗せ有佳が用立てたバイアグラで徳三郎が回春する予想外のハッピー・エンドには、逆に驚かされた。とはいへ素直な絶頂フィニッシュは、貫禄の磐石さで一篇を締め括る。
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