真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「本《ほんばん》番」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:西村昭五郎/脚本:熊谷禄朗/原作:藤本義一 週刊小説連載『市井』より/プロデューサー:三浦朗/撮影:山崎善弘/照明:高島正博/録音:高橋三郎/美術:渡辺平八郎/編集:井上治/助監督:鴨田好史/色彩計測:鈴木耕一/現像:東洋現像所/製作担当者:栗原啓祐/協力:東京浅草 ロック座・戸倉上山田温泉 信州ミカド劇場/出演:山口美也子《新人》・宮下順子・松井康子・北斗レミカ・あきじゅん・橘雪子・高橋明・椎谷建治・中西良太・丹古母鬼馬二・雪丘恵介・庄司三郎・中平哲仟・松風敏勝・北上忠行・谷口永伍・佐藤了一/刺青:河野光揚/振付:斉藤智恵子)。出演者中、北上忠行以降は本篇クレジットのみ。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 背景で闇雲に炎が轟々アガる中、正直おさげ髪は微妙な山口美也子が、髷を結つた雪丘恵介に犯される。その模様にタイトル・イン後暗転、明けた先はストリップ小屋の楽屋。出番は次にも関らずチェリーが未だ出て来てゐない香盤に、夕子(橘)がアタる。因みに、女優部は全員ストリッパーといふ麗しさか潔さ。リーダー格の大木万子(宮下)が一舞台終へ楽屋に帰還、続けて漸くその日遅れた理由は終ぞ不明なチェリー水沢(山口)が現れるや、怒鳴り込んで来た支配人の野村(高橋)が、間髪入れずチェリーに蹴りを叩き込む昭和のワイルドが堪らない。この人ら、日常生活の大概は脊髄で折り返してる。兎も角、上手いのか下手なのかよく判らないチェリーのステージにクレジット起動。最初にスタッフ、主演女優が脱ぎ始めて俳優部、最後に開脚して西村昭五郎といふ磐石な流れが心地よい。手洗ひから出て来た酒田(中西)が、そのまゝ炊飯器を開けおにぎりを握る。楽屋に戻ると酒田からおにぎりを渡されたチェリーを、一同が冷かす。チェリーが呼び出された企画部の札の下がつた野村の事務所に顔を出すと、そこにはチェリーの半生記を取材希望するブン屋の藤井(丹古母)が。酒飲みがてら、軽く話し始めた顛末。チェリーの情夫、あるいはヒモの織田(椎谷)は、チェリーの舞台に乱入した酔客(不明)をシメる最中、逃がした酒田を長ドス抜いて追ひ駆け回し目出度く御用。以来、酒田が後釜に座る形でチェリーと距離を近づけてゐた。
 配役残りこの人は脱がない松井康子は、古参のその名もシルバー・マリ、あきじゅんは新人の桃子。中盤予想以上に尺を喰ふ活躍を見せる庄司三郎は、庄司三郎も小屋の男衆・長谷部。北上忠行は、浅草ロック座でのパチンコショーの客席、チェリーに見初められ急遽生板の相手役を務める男、そのあとチェリーは野村にどエラく怒られる。雪丘恵介はチェリーが育つた施設に慰問に訪れ、後に養女に迎へ入れ、最終的には手篭めにする旅芸人一座の座頭・石井。松風敏勝は、そんなこんなでチェリーが駆け落ちする若い座員・ケン。中平哲仟と谷口永伍に佐藤了一は、麻雀でイカサマがバレた酒田がチェリーを売る、青龍会の怖いお兄さん方。洋子役とされる北斗レミカがどうしても特定出来ないのと、ノン・クレジットではあれ、我等がコミタマことロマポの妖精・小見山玉樹が何処で飛び込んで来るか何処で飛び込んで来るかと固唾を呑んでゐたものの、結局今回は何処にも見切れなかつた。
 西村昭五郎昭和52年第三作は、今なほキャリアを継続させる山口美也子の銀幕デビュー作。といつて山口美也子にも、新人女優の脇を固める―劇中チェリーは万子姐さんとの百合ショーが売り―いはずと知れた天下御免の大エース・宮下順子に改めて心惹かれる、でもなく。高橋明が吠え、庄司三郎は走る。芝居なのか素なのか、絶妙に知能の低さうな感じが堪らない椎谷建治に、センシティブな好青年から、粗暴にやさぐれ抜く華麗な振り幅を披露する中西良太。「どうせ俺なんか生きてたつてしやうがねえ男だよ」、そんな台詞を一度は吐いてのけたいが、残念無念小生下戸。閑話休題、丹古母鬼馬二のいはゆるイイ顔含め、コミタマ不在でも十二分に戦へる分厚いロマポ男優部の放つ煌めきが強く琴線に触れた。そして三年前の「カルーセル麻紀 夜は私を濡らす」(脚本:大工原正泰)を当然想起させる、無体極まりないラスト。藤井にケンとの出奔を回想する件に際して、苛烈な生への意思を滲ませたチェリーが迎へる呆気ない非業は、クズくてクズくてあまりにもクズ過ぎて、グルッと一周した清々しい印象を刻み込む。百歩譲つて濡れ場は仕方ないにせよ、クライマックスに於いてさへ不用意に映り込んだ律に触れる箇所の回避に、無造作なジャンプを繰り返し続けるカットは甚だ考へものではあるのだけれど。


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 「疑心乱交 闇夜にうごめく雌尻」(2017/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉田淳/助監督:江尻大/監督助手:市原博文/撮影助手:佐藤雅人・三輪亮達/スチール:富山龍太郎/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:嬬恋フィルムコミッション/出演:辰巳ゆい・青山はな・黒木歩・世志男・吉田俊大・山本宗介・森羅万象・竹本泰志)。編集の三田たけしと整音の吉田淳が目見田健と吉方淳二のトラップではあるまいなと勘繰つたものだが、ポスター共々そのまゝクレジットされてゐた。
 意表を突く、茶碗に盛られた御飯にタイトル・イン。そこだけ切り取ると、ホームドラマを通り越してCMのカットにも見える。松田宏樹(竹本)は内縁の妻・松宮ゆきこ(黒木)が作つた茶漬けをサラサラッと入れると、求めに応じ準夫婦生活もサクサクッと片付けた上で、如何にも堅気ではない風情を匂はせ出撃する。潔く一幕限りで御役御免の純正濡れ場三番手が、開巻に飛び込んで来る奇襲が鮮やかに決まる点は兎も角、松田フェイバリットの梅―茶漬け―を切らしてゐた云々の件は別にも何もまるで意味がない、相ッ変らず引き算が苦手なやうだ。
 明けて大仰な男の悲鳴と、林道を飛ばす車。ハンドルを握るのは松田で、助手席には菅野昭二(世志男)。菅野の後ろの山中慎吾(吉田)が撃たれた左太股から大量に出血するとともにワーギャー呻き、運転席後部座席の永野みゆき(青山)はクールに手を拱く。四人は表向きの顔のラーメン屋大将が超絶サマになる、劇中呼称で“仕切り屋”の田中国男(森羅)に集められた、ヤマを踏む毎に顔と名前を変へる面倒臭い犯罪のプロフェッショナル。今回の仕事は、実は松田の故郷で行はれる川野組の取引を襲撃しての、代金の奪取。ところがその場に川野組でも取引相手でもない第三の勢力が現れ、金は手にしたものの山中が深手を負ふ。誰が糸を引いてゐるのか判らない以上下手には動けず、アテがないなら作ると菅野はたまたま見かけた一人で歩く御子柴かずみ(辰巳)を拉致。かずみが管理人として月に何度か訪れる、山中の保養所に四人は一旦転がり込む。
 俳優部残り、吉田俊大の所作は兎も角メタメタの発声に頭を抱へるにつけ、配役逆でよくね?といふ思ひも強い現代ピンク男優部最後の希望・我等が山宗こと山本宗介は、菅野が修羅場の勢ひで弾除けがてら攫つて来た、川野組組長のドラ息子・川野巧巳。男前すぎるのが竹本泰志を引き立たせる画面(ゑづら)の都合上逆に忌避されたのか、それとも、山内組との近似を回避したものか。その他、犯された後菅野に舌を切り取られる、小松の嫁は背格好から辰巳ゆい―主演女優が二役をこなすのも、ピンクならではではある―にしても、みゆきにブッ刺される二人組は顔も隠され流石に判らない、定石でいふと演出部辺り。
 当方ボーカル=小松公典が師匠の関根和美譲りの大振りを爆裂させる、竹洞哲也2017年第三作。屋外に於ける松田との遣り取りで、かずみが思はぜぶりどころではない謎めいた発言で煙を巻き続ける時点で気付くべきであつたのか、裏切り者は誰かなレザボア・ドッグス的クライム・サスペンスから、何処となくセイレーン・シリーズも彷彿とさせるエロティック・スリラーへとフルモデルチェンジを果たす、驚天動地の超展開には正方向にビックリした。丁寧に観客を騙す過程で、たをやかといふ言葉は目下この人のためにあるのではとさへ思へる、辰巳ゆいの裸がともしなくとも物足りない不満には大いに憤慨しかけつつ、かずみが窓越しにオッパイを見せ菅野を誘ふ一撃必殺級の名ショットが火蓋を切る、終盤の猛スパートで一息に挽回。物理的な尺の上ではそれでも不足は否めないにせよ、腹ならぬチンコ八分、このくらゐで寧ろちやうどいい塩梅とでもいふことにしてしまへ。いよいよ抜けて来た、俺の底。何をこの期にはさて措き、ちぐとはぐを最大限上手いこと接いだ豪快な一作。これで、ダム脇から森羅万象が伝へる事後報告だけでなく、一行が此処から彼処へと岸を跨いだ旨を示す、一手間でも設けてあればダイターンな特大技がなほ見事に決まつたやうな素人考へも胸を過りながら、例によつて節穴が見落としただけなのかも。
 備忘録< 辰巳ゆいの正体は故郷を捨てる松田(仮名)の後を追ふ過程で事故死した少女の霊


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 「乱行催眠 私は、かうして暴行された」(1996/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/美術:衣恭介/音楽:鷹選曲/効果:協立音響/編集:井上和夫/助監督:高部真一/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:東杏奈・桃井桜子・青木こずえ・竹田雅則・加藤健二・樹かず)。美術の衣恭介は、木俣堯喬の変名。
 何か一行が進むジャングルが目に浮かぶ、冒険映画みたいな劇伴にタイトル開巻、全体何を考へてこの曲を選んだのか。ワイングラスで赤い液体を飲んだ桃井桜子が、催眠状態突入を示すグルグル画を回す処理を経て、樹かずに嬲られる。如何にも抱き心地のよささうな、桃井桜子のバディ感溢れる肢体が絶品。三分濡れ場を黙つて見せた上で漸くクレジット起動、遅れ馳せた居心地の悪さが色濃い。珠瑠美クレジットの直前で、竹田雅則が加勢する。明けてチュンチュン、鳥のさへづり鳴らした戸建外景。休日なのか、朝つぱらから終に劇中呼称不明の桃井桜子(以下モモーイ)と、夫・雪村か幸村(竹田)の夫婦生活。事後の余韻に何時までも回す、無闇な尺が別の意味で堪らない。それは出勤時?何をしてゐるのかよく判らない背広姿でブラブラする雪村と、何処かの女子大から出て来る青木こずえのカットを何の脈略もなく連ねて、モモーイに、母親(珠瑠美)から電話がかゝつて来る。用件は、母親の父親の入院。の木に竹を接ぎ、モモーイ宛に元カレの、池田三郎から手紙が届いた旨を投げる。何だかんだで、モモーイの義妹で女子大生の千秋か千晶(青木)が、マッチポンプな悶着を抱へ雪村家に一時避難して来る。モモーイから千秋が処女である旨を聞いた雪村は、内心でもなく喰ひつく。動揺する雪村が明後日に酒を注ぎ卓を汚すのを、単なるクリシェと見るか。それとも珠瑠美にしては、心象を表しようとした十全な演出と目するべきか。
 配役残り総尺の1/4を消化してやつとこさ出て来た東杏奈は、眠剤入りのワインで女をこます、性質の悪いスケコマシである池田(樹)の情婦・レイコ、職業はパンティの中に手を入れても怒られない店のホステス。加藤健二は、レイコと雪村を引き合はせる、女遊びに長けた上司のオタキ課長。
 シーユー・タマキュー!珠瑠美1996年第三作で、DMMで見られるものも遂に見尽くした。この期に配信スルー作が小屋に飛び込んで来るものの弾みに恵まれれば勿論迎へ撃つし、買取系ロマポが今後―DMMに―新着する可能性は、果たしてあるのやらねえのやら。やらやら、もといやれやれ。といつて間違つても寂しかつたりする訳がない、全部で三十五本観るか見た珠瑠美作は、大体どれも似たやうなタマキュー。藪蛇な選曲、映写事故かと見紛ふほどの長尺フェード。頓珍漢なイメージの乱打と、多用する春画なり外人のエロ写真のモチーフ。勿体ぶつた書き言葉を一方的に投げる初めから破綻したダイアローグに、大抵そもそも存在しない物語。その癖、エクセスライクの地雷を踏む羽目には滅多に陥らず、恵まれた女優部の裸をあくまでその限りに於いてはお腹一杯に見させる純粋裸映画。いつそ適当な言語―ハナモゲラで可―にでも吹き替へて呉れた方が、余程素直に愉しめさうな可能性すら否み難い小一時間。改めて今回でソーロングになつたとて、名残惜しさが微塵も湧いて来ないのも至極当然といつたところか。兎も角今作の特徴を強ひてひとつ挙げるならば、桃井桜子にも青木こずえにも、東杏奈が秀でてゐるポイントが一欠片も見当たらない以上寧ろ賢明とさへいへるのか、豪ッ快なビリング完無視。レイコの役所(やくどころ)は、オタキのアシストを受け雪村と池田を繋ぐ、三番手の割には何気に本筋に貢献する満更でもない三番手。どちらにせよ、精々上手く展開に組み込まれた三番手が関の山。終盤家に池田をシレッと招いた雪村の魂胆は、眠剤ワインで眠らせた千秋の水揚げ、相変らずクライマックスもレイコ不在。共々実も蓋もない青木こずえ×竹田雅則と桃井桜子×樹かずの絡みを適当に並走させた末に、しかも何れも完遂には遠く至らないまゝであるにも関らず、池田がモモーイを喰ふ大絶賛中途でブツッと“END”が叩き込まれる結末には、最早この期に驚きもしない。起承転結が成立しやうがしまいが、ひとつの性行為に区切りがつかうがつくまいが、時間が来れば―といつて、実は六十分にも九十秒強余してゐたりする―強制終了。それが小林悟の大御大仕事に劣るとも勝らない、珠瑠美流の純粋裸映画である。雪村が千秋に喰ひついた流れで、モモーイが配偶者にバージンを捧げたとする話と、雪村と出会ふ前池田と拗らせた関係との間に燻る根本的な疑問如き、この際とるに足らない些末。一々そんなところに気づくのが悪い、いはゆる釣られた方が負けといふ奴だ。とかくタマキューの無造作な不条理に触れてゐると、正体不明の敗北感にも似た徒労が否応ない。それとも何時か、グルッと一周するか何某かから解放されるかして、楽になる日が来たりとかするのかな。

 軽く事件級のビリング破壊に関してはもしかすると、撮影当時、といふか当日。男優部としか顔を合はせない東杏奈の、拘束上の問題とか発生してゐたのかも知れないが。


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 「女いうれい 美乳の怨み」(2017/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/特殊メイク・造形:土肥良成/撮影監督:田宮健彦/録音:光地拓郎/編集:山内大輔/音楽・効果:Project T&K・AKASAKA音効/助監督:江尻大/監督助手:小関裕次郎・茂出木まり/撮影助手:高嶋正人・鎌田輝恵/特殊メイク・造形助手:新井衣莉果/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:佐倉絆・涼川絢音・竹本泰志・櫻井拓也・ケイチャン・浅場万矢・須藤未悠・須森隆文・加山なつこ《特別出演》・友田彩也香)。出演者中、加山なつこのカメオ特記は本篇クレジットのみ。 
 職場結婚を挙式目前に控へたミチル(友田)と准也(櫻井)の婚前交渉の、騎乗位のオッパイ開巻。山内大輔が本気を出すと強力な濡れ場を一頻り楽しませ、ミチルは准也宅を辞す。ガード下にて、見るから怖いピエロ(現にピエロに扮してのバルーンショーで飯が食へるケイチャン/ex.けーすけ)を目撃したミチルが逃げるやうにからがら帰宅。依然何某かの気配に怯えつつ、シャワーを浴び綺麗な肩を披露した上で就寝、したものの。寝室の天井には、ピエロが持つてゐた赤い風船が。家内の安全を確認してゐたところ、クローゼットの中から現れたピエロに犯されたミチルは、わざわざ准也宅のベランダから飛び降り自殺する。ミチルの葬儀に参列した、矢張り同僚のユウ(佐倉)とマリ(涼川)が喫茶店に入る。ユウはカウンターの中に、ミチルの幽霊を見る。ユウが口元に運ぶカップでカットを繋いで、「TOKUNAGAメンタルクリニック」。カウンセリングを受ける精神科医の徳永(竹本)に、ユウが死んだ人間が見える旨を告白してタイトル・イン。
 触れられる限りの配役残り、須森隆文は、ユウとマリが二人でお弁当を食べる川原に出没する、スーツ姿の幽霊。歩かせると幽霊にしては覚束なさが逆に心許ない反面、二人の後方から体育座りでユウをじつと見詰める、いはゆるこつち見んなショットは絶品。脱ぐ訳でないにも関らず、何気な佇まひだけで三本柱よりもクッソどエロい浅場万矢は、患者に茶くらゐは出す、徳永の妻・佐知子。乳は見せるが―改めて後述する―画一的なゾンビメイクを施される加山なつこは、虐待を受けてゐた中学時代、ユウが初めて見た老婆の霊。顔を踏みつける足しか映らないユウの母親は固より、暗い画に弱点を抱へる我等が前田有楽の映写に阻まれ、喫茶店のマスターとウェイトレスは特定不能。
 大蔵時代の伝統を2012年にナベが感動の大復活を果たして以降、後藤大輔で躓き、加藤義一も脱力。竹洞哲也が草を生やし、荒木太郎は如何にも荒木太郎的に仕出かす。一勝四連敗中の、ある意味本篇の中身よりも恐ろしい恒例夏の怪談映画の悲惨な歴史に終止符を打つべく、オーピーが今年は外様とはいへエース格の山内大輔を擁した2017年第三作。然れども負けこそしない程度で、引き分けに持ち込むのが精々な一作。ピエロの出自を大胆に等閑視して済ますならば、ひとまづ話は通る。尤も、一旦意図的に通り過ぎたが、確かに友田彩也香ファンは大歓喜にさうゐないにせよ、明らかに異様にマッタリマッタリ回して驚く勿れ尺の1/3を費やす大長アバンと、ザックザク急旋回を繰り返す、あるいは超展開を繰り出し続ける終盤とのバランスの悪さが兎にも角にも最大の疑問手。たとへば五十分そこらでサクッと映画を畳んでみせた深町章の如く、よしんばデフォルトの上映時間を持て余すのだとしたら、必ずしも全部使はない勇気は許されないのか。どうもこの人の映画には痒いところに手の届かない判り辛さが残るのは、編集の仕方と俺の頭、どちらが悪いのかは知らん。女優部を没個性化するほどのトゥー・マッチなゾンビ化粧にも、量産型娯楽映画に敷居の低さを求める観点からは疑問が残る。俳優部が―元々死んでゐる者含め―ほぼほぼ全滅する死屍累々の顛末は、キャンプな鑑賞法としては痛快といへば痛快ながら、みるみる築かれて行く死体の山にケラケラするには、如何せん抜け不足。秘めたロマンは秘められたまゝ尊ぶとして、劇中最強に鬼エロい浅場万矢に脱いで呉れとまでは―あへて―いはないが、好き勝手に任せておくと大体何時も似たやうな肌触りの映画が出来上がつて来る以上、ここはオーピーに積極的に横槍を入れて貰つて、ここいらで一度、物語的には最低限の起承転結で茶を濁し、持てる技術と論理とエモーションの一切合財を絡みの煽情性に全振りした、いはばエクセスよりもエクセスな裸映画を夢精、もとい夢想してみたくもならうところである。ハッテンの手も止まるほどの爆音の官能に小屋が揺れるのを、その時我々は体感し得るのではないかしら。
 備忘録、須藤未悠は准也を刺殺する第四の女


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 「巨乳発情ナース」(2000/製作・配給:大蔵映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影:飯岡聖英/照明:守利賢一/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:森角威之・下垣外純/撮影助手:黒田大介・比護富昭/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:神崎優・林由美香・西藤尚・佐々木共輔・ささきまこと・螢雪次朗)。
 ファースト・カットは馬鹿デカいビニール製のリボン、そんな代物何処で売つてゐるんだ。手毬で遊ぶ闇雲に幼児設定の神崎優に、要は志村けんの変なおじさんのエピゴーネンの佐々木共輔(a.k.a.佐々木恭輔)が、「オジサンが毬遊びよりも面白いことを教へてあげようか」。全く以て正体不明のシークエンスながら、神崎優のオッパイを弄びながらの「大きな毬が二つもほらほら」には、紛れもない天才の煌きも感じざるを得ない。何時しか佐々共の体が無闇な本数のコードで何某か計測器ぽいものに繋がれた上で、大絶賛騎乗位に突入。警報が鳴るどころかモックモック白煙まであがる中、カウントダウン・ゼロと同時に二人が絶頂に達するや、ボガーンとドリフ爆破、はせずにタイトル・イン。この時期の、貧相極まりないタイトル画面も、ぼちぼちグルッと一周したノスタルジアを獲得するのかしないのか。知らんがな(´・ω・`)
 閑話休題、二人が致してゐたのは「川崎快感クリニック」、看護婦の花園つぼみ(神崎)が、計測したデータを川崎(佐々木)に手渡す。曰く“人間の性行為に於ける固有の快感を絶対的に数値化することに成功”した川崎が、医学的実験と称して“快感指数”とやらを測定してゐたとかいふ寸法。如何にもピンク映画らしい、かつ見事に底の抜けた大風呂敷ではあるものの、終に濡れ場―の方便―を超えて機能する訳でもない。さうかうしてゐるところに現れた海野珊瑚(林)を、川崎とつぼみはすは重症だベッドの用意だと二人かがりでザクザク手篭め、もといあくまで治療、断じて治療。ところが珊瑚は患者ではなく、不能を拗らせ引きこもる、内縁の夫の相談に訪れたものだつた。
 俳優部残り、90年代後半以降、比較的チョイチョイ薔薇族含むピンクに出てゐた螢雪次朗が、問題の珊瑚内縁の夫・鳳学。往診したつぼみとの一戦を完遂した直後、「貴方があの青空組の組長!?」、一言の台詞で急旋回する展開が堪らない。組長の一人娘とデキたチンピラの学は、二代目を襲名する大出世。ところが兄貴分の妬みを買つた学は身を引く形で出奔、その後娘が継いだ青空組は解散寸前の状態に陥り、責任を学に押しつけた幹部連は暗殺命令を発する。逃亡生活の最中、学は深夜の公園にて暴力ヒモから逃げ出して来た珊瑚とミーツ。似た者同士が忽ち結ばれ、慎ましくも幸せに暮らしてゐたある日。見るから怪し気に尾行するささきまことの姿を目撃した学は、以来津田スタに籠つてゐた。多分佐藤吏でなければ、森角威之とも体格が異なるグラサンの黒服を従へ川崎快感クリニックに日参する西藤尚は、川崎目当ての蜘蛛の巣マダム・青空翔子。
 余程林由美香と螢雪次朗のパートが琴線に触れたのか絆されたのか、m@stervision大哥が妙に褒めておいでの渡邊元嗣2000年第一作。尤も、流石にそこの一点突破で是とするには、如何せん厳しい一作。出し抜けなつぼみのガンスリンガー造形に劣るとも勝らない、ささきまことのおとなしく珊瑚のDVヒモにしておけばいいのにな藪蛇配役にも阻まれ、ガチャガチャな始終はガッチャガチャなりに勢ひ―だけは―よく駆け抜けて行く反面、珊瑚と学のエモーションは最終的な結実には些か遠い。間に川崎を挟んだつぼみと翔子が織り成すトライアングルも、絡みの動因として以上に熟成されることもない。文字通り「ドヒャー☆」と振り逃げるラストは如何にもナベシネマ、この上なくナベシネマ、正真正銘生粋のナベシネマ、とはいへ。既に一般のフィールドで名を上げた螢雪次朗さんが、斯様に纏まりのないドタバタによくぞ快く、そこまで卑屈になる必要もなからう。寧ろ最たる見所は平素のキレを欠いたアイドル芝居でなく、m@ster大哥仰せの通りソリッドな毒婦役で予想外の輝きを放つ西藤尚なのではないかといふのと、もう一点。今をときめかない荒木太郎作でも見覚えのある、頓珍漢な筆致の経絡図の初出は全体何処なのか。更にもしかして、あれは林由美香画?

 ところで、螢雪次朗の現時点でのピンク最終戦は、矢張りナベシネマの2004年第一作「コスプレ新妻 後ろから求めて」(脚本:山崎浩治/主演:桜井あみ)。いや別に、今から大帰還を遂げて貰つて全然構はないんだぜ、つり合ひのとれる女優部は存在しないかも知れないけれど。


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 「ピンク・ゾーン 地球に落ちてきた裸女」(2017/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:飯岡聖英/撮影助手:宮原かおり・西村翔/照明助手:広瀬寛巳/録音:小林徹哉/助監督:菊嶌稔章・小関裕次郎・粟野智之/編集:酒井編集室/ポスター:本田あきら/スチール:だいさく/音楽:與語一平/整音・効果:シネキャビン/特殊造形:はきだめ造形/タイトル:杉田慎二/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:石井良太/協力:他一社・グンジ印刷株式会社・スナック 鈴/出演:阿部乃みく・桜木優希音・美泉咲・櫻井保幸・岡村ショウジ・片桐俊次・永川聖二・ヒメ・町田政則)。
 大星雲と地球の美麗なCGに、“オレは夢を見る”、“星の呼び声”、“銀河の煌き”と他愛ないポエム。一方一日の仕事を終へる、高木源太郎(岡村)・ふみ子(美咲)の社長夫妻に、従業員は星川朝雄(櫻井)一人きり、僅か三人で回す零細印刷会社「高木印刷所」。片や矢鱈と狭い屋上には、スーサイド目的の配送員・浦田啓介(町田)が。ショボ暮れた役所(やくどころ)にも足を引かれてか、改めて後述するとして老けたなあ。星川がその名の通りなのか何なのか星空に心奪はれるカット挿んで、スキットルを一息、いよいよ浦田が無理から覚悟を極めたところで、上空から派手な光点が今まさに飛び降りんとする往来に落下。警備員(国沢実、ではなく永川聖二)が様子を見に行つた小劇団の稽古場ぽい一室―野タレ死ニ?―には、ショートカットで、細い腰から充実した尻にかけてのラインが堪らない全裸の阿部乃みくが。ロクに救助する素振りも見せず、警備員が失神してゐるらしき女に手を出してゐると、阿部乃みくはキュイーンと再起動。騎乗位の体勢に逆転した阿部乃みくが鷲掴む形の右手をかざすや、警備員はミイラ化して絶命する。そのタイミングで浦田がその場に駆けつけ、斜めに斬り下す形でタイトル・イン。高木印刷所に出入りする浦田が配送車に同乗させるソラ(阿部乃)に、星川は関心を持つ。その夜浦田は、嫁にも逃げられた侘しい一人住まひに阿部乃みくを連れ帰る。一旦嫁の服を着せリリースした阿部乃みくが、包丁で喉を突かうとする浦田を再び人外の力で制止する一幕と濡れ場経て、空から地球に落ちてきたと称するゆゑ、ソラと名付けた阿部乃みくと浦田は暮らしてゐた。
 配役残り片桐俊次は、浦田を急襲するオネエな借金取り。中盤の火蓋を切る大登場を果たす桜木優希音は、死刑囚の護送中地球辺りで行方不明になつたララ(ソラの本名)を追ひ来地するリリ。正直わざわざポスターにまで載せるほどでもないヒメは、星川が捨てられてゐるのを拾つて来た犬セルフ、何方さんの愛犬なのかは知らん。
 国沢実2017年第二作最大のトピックは、何はともあれ前々作「性鬼人間第一号 ~発情回路~」に於ける寺西徹に続き、といふか大きく超える、田尻裕司の「ふしだらな女 真昼に濡れる」(2006/脚本:山田慎一/主演:仏本あけび)か、藤原健一の「ゼロ・ウーマンR 警視庁0課の女/欲望の代償」(2007/脚本:田中貴太・藤原健一/主演:三浦敦子)以来となる町田政則の超復帰。いふまでもなく、当サイトにとつて町田政則と来れば、ピンク映画最高傑作「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000/監督:関根和美/脚本:金泥駒=小松公典/主演:佐々木基子)の男主役である。トレードマークのパンチパーマも髭も影を潜め、齢をとつた印象は否応ないものの、義憤に駆られ、「俺を殺せるか」とソラに迫る件。ここぞといふ決め処での、発声の力強さは衰へてゐない。過去には馴染のある寺西徹はまだしも、町田政則は国沢組大絶賛初参戦。与へられた役をそれなりでもなく十全に果たす岡村ショウジと片桐俊次に対し、マオックスを勃起時とすると、普段のチンコみたいな髪型の櫻井保幸は惰弱な自分大好きが透けて見えるばかりで、煮ても焼いても食へない。相ッ変らず性懲りもない―あるいは無謀な―男優部青田買ひに明け暮れる国沢実にしては、町田政則大召還は全体どういふ風の吹き回しなのか。
 とまれ町田政則から離れると、三本柱で最も安定感ある割に、ビリング通りにしか働かない―働かせて貰へない―美泉咲はさて措き、持ち前のドヤァな面構へで、桜木優希音がピンク四戦目にして出て来るだけでウッスラ貫禄すら漂はせるものの、いざ口を開くと口跡は未だ覚束ない。逆に初陣の阿部乃みくは無作為な硬さが、異文化に不時着したストレンジャーの生硬さに上手いことフィットするラックに恵まれる。限りなくパントマイムに近いプリミティブな超能力バトルは見せ場にしては大いに心許ない反面、川原周りでは気合の入つた、脳が映画と認識するに足る画を見せる。だけに、ロケーション的にもう一つ二つ手数があればといふ心も残す。裸女が地球に落ちてくるSFサスペンスが一進一退の末に辛うじて体裁を保つ―チンコが妙に馴染んでる何時の間にかな疑問は等閑視する―傍ら、浦田が一度は失つた生きる力を、再び取り戻す人間ドラマは綺麗に形を成してゐる。とも、いへ。下手にシリアスなりハードな路線に挑んだ場合、何処からでも救ひやうのない闇に沈む危険性もしくは脆弱性に気が気でない国沢実だけに、ここはいつそ、人生を詰んだオッサンの下に、美少女造形の宇宙人が転がり込んで来るイヤッホーなファンタジーの可能性に、後ろ髪を引かれなくもない。その時国沢実の線の細さと殆ど同義の繊細さが、ナベとは違つた輝きを放つのではなからうかと、常々思ふところではある。


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 「快楽熟女 したい、いきたい」(1992『超ボディコンOL 後ろから前から』の1998年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・斉藤博・植田中/照明:秋山和夫・大塚忍/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:森山茂雄/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:木下浩美/スチール:岡崎一隆/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橘ますみ・篠宮響子・白都彩香・平本一穂・平賀勘一・栗原良)。
 開巻は銀ラメのボディコンでズンドコ躍る橘ますみ、仰つた画にタイトル・イン。劇伴は引き続きズンドコ、乳尻に寄つてみせた上で、一転静謐な旧旦々舎和室。根を詰める風情を徒に爆裂させながら、ミシン仕事にカタカタ精を出す栗原良に繋ぐカットが完璧。ASKAが曲作りに苦悶する頃CHAGEはといふとキャバクラで遊び呆ける、和田ラヂヲの名作四コマ『チャゲアス』を彷彿とさせる。といふか、時期的には今作の方が鼻差で早いかも。橘ますみに招かれた平本一穂の壊滅的なリズム感には頭を抱へつつ、兎も角楽し気な二人に、平勘が茶色い酒を舐め舐め冷徹な視線を送る。平本一穂とラブホに場所を移しての濡れ場初戦、橘ますみが美巨乳だけでなく、ウエストのくびれも凄まじく素晴らしい反面、開き直つたかの如くリップシンクはへべれけ。明けて浮島ゆかり(篠宮)に、探偵の山川(平賀)が調査報告書を手渡す。ゆかりは同僚の榊原ミホ(橘)に、彼氏の井ノ原ならぬ四ノ原ユージ(平本)を寝取られてゐた。山川が四ノ原に下したボディコン中毒なる底の抜け倒した診断に喰ひついたゆかりは、ミホのボディコン入手先を突き止めるやう調査続行を依頼する。
 配役残り白都彩香は、親の遺した旧旦々舎に姉妹で暮らすミホの妹・ユキ。そしてトメにドーンと座る栗原良が、亡父との縁で榊原邸に間借り、家賃代りに姉妹にオートクチュールのボディコンを提供するファッションデザイナー・新井明日尾。変人視する姉が邪険に扱ふ新井に対し、ユキは何気に気を揉む一方、当の新井はといふとミホに悶々とするどころでは納まらない劣情を滾らせてゐた。
 DMMスルーの旧作が小屋に飛び込んで来た僥倖に、喜び勇んで全力出撃した浜野佐知1992年第四作。そこで未だ知らぬ照明部セカンドと出会ふ、量産型娯楽映画の奥の深さよ。ボディコンを無理から軸に据ゑた物語は、力強く快走。幾ら張り込んでもミホがボディコンを外で買つて来る気配が窺へないゆゑ、業を煮やしたゆかりは山川に榊原邸潜入を指示。流石に二の足を踏む山川をゆかりが連れ込みに連行、身を任せ背中を押す流れはピンク映画的に極めてしなやか且つ秀逸。新井の気持ちを知るミホが、弄ぶかのやうに自慰を見せつける。新井が伸ばした手をピシャッと撥ね除けたミホは、「私のカラダはお前に抱かせるほど安物ぢやないのよ」、「見てるだけなら、許してあげるは」。それだけ豪語するに足る超絶裸身を誇る主演女優が撃ち抜く、如何にも旦々舎らしい女性上位宣言は煌びやかで清々しい。ところでその模様を山川に撮影させたビデオで、ゆかりは四ノ原を奪還。さうとも知らず荒れるミホが、腹立ち紛れに新井を放逐する件。自宅でもズンドコ乱舞する橘ますみと、とぼとぼと夜の闇に沈む栗原良の肩を落とした背中を繋ぐカットが改めて完璧。一旦―妹以外の―全てを失つたヒロインが、最終的に辿り着くハッピーエンドに際して、要は新井の御都合な変心によるほかないあくまでミホ的には―旦々舎―らしからぬ受動性と、新井に膳を据ゑるや御役御免とばかりにサクッと退場する、ユキのそれはそれとしての純情が終ぞ報はれない点には幾分心も残しつつ、つつも。橘ますみの歴史的にも最上級の裸と、受けて立つ栗原良鉄板の千両役者ぶりとで、類作とは明らかに一線を画す強靭な一作。兎にも角にも、ズンドコ橘ますみと難渋な栗原良とを繋ぐカットがあまりにも完璧、惚れ惚れするほどに完ッ璧。いや実際、電車乗つて観に行く甲斐あつた。


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 「ねつちり女将の乱れ帯」(1999/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:三河琇介/撮影:飯岡聖英/照明:ICE&T/編集:酒井正次/助監督:竹洞哲也/スチール:佐藤初太郎/監督助手:森角威之/撮影助手:鏡早智/タイトル:ハセガワタイトル/録音:シネキャビン/現像:東映科学《株》/出演:里見瑤子・春日奈々美・南けい子・坂入正三・田嶋謙一・港雄一)。
 林中の道路脇に停めたロードバイク搭載の四駆が、車中でヤラかしてゐると思しき揺れを見せる。致してゐるのは水上荘を継いだ元競輪選手、とかいふ素頓狂な設定の欣一(坂入)と、一年の交際を経て結婚を約したヒカル(春日奈々美/多分佐々木基子のアテレコ)。事後車外で放尿するヒカルを、欣一は義妹を迎へに行くところなのだからと急かす。そもそもヤッておいてといふ至極全うなツッコミは、開巻の速攻で二番手の裸を見せる方便に免じてさて措くべきだ、車が走りだしてタイトル・イン。クレジット時の画面は、助手席の車載カメラ。先に俳優部を片付けてスタッフに突入した途端、何故か軽く傾くクレジットが正体不明の御愛嬌、ハセガワ何してる。フランスでのワイン留学から三年ぶりに帰国した鮎美(里見)を伴ひ、欣一は水上荘に帰還。ここで竹洞哲也、ではなく森角威之が二人を出迎へる欣一競輪選手時代の後輩で、現在は水上荘従業員の三太郎。一方ヒカルは車からも降りずに、複雑な表情を浮かべる。没母の着物を着てみた鮎美が水上荘を継ぐことを申し出、現役復帰を摸索する欣一は、渡りに船とばかり快諾する。翌日兄妹は、山菜採りの最中の事故で、二人の母親が命を落とした滝を訪れる。といつて、実は欣一と鮎美はそれぞれ別の夫の連れ子で、没母と兄妹は血が全く繋がつてゐなかつた。それゆゑ三年前の母死去時、周囲の親戚が二人の仲を危ぶみ、鮎美をフランスにやつたものだつた、各々実父の去就に関しては完スルー。
 配役残り田嶋謙一は、居酒屋―店舗は内外ともリズ―を営むヒカルの、常連客を通り越した情夫・小川。星座のユニフォームで来店するので草野球でもして来たのかと思へば、単なる猫党。家でテレビ見るのに、全然関係ないチームのユニを着る意味が判らない。兎も角、営林署勤務の小川が欣一が相続した山にバイパスが通るインサイドな情報を入手したのが、ヒカルが欣一に接近した発端。何気に華麗なる女優部三冠を達成する―うち和姦は対ヒカルのみ―港雄一は先代からの水上荘の上客で、建設会社社長の村松。そしてラスト二十分に突入して漸く初めて遺影が抜かれる南けい子が、水上荘の先代女将にして鮎美・欣一の継母。m@stervision大哥がリアルタイムで仰せの通り、寧ろサカショーと南けい子が兄妹にしか見えない。
 豪快なキャスティングはこの際さて措き、デフォルトで禁忌に触れかねない兄妹の周囲で欲深き魑魅魍魎が蠢く、小林悟1999年第五作。打算の道筋に最低限筋が通つてゐなくもないヒカル・小川に対し、息を吐くやうに女を犯す村松の造形は、幾ら“犯し屋”の異名を誇つた港雄一を擁したとはいへ、流石に底が抜けてゐる。二代続けて村松に手篭めにされた鮎美は、結局南けい子が命を落としたのは事故死だつたのかそれとも自死なのか終に明示しないまゝ、件の滝に入水。その場に欣一が間一髪駆けつけヒシと抱き合ふまではいいとして、残念ながら尺が殆ど残らない。微塵の躊躇も葛藤も窺はせずに兄妹がオッ始め、一応ロケーションだけは悪くない軽く引いたロングに“完”が叩き込まれるラストは、そもそも火種が何ひとつ解消されてゐないのに濡れ場でヤリ逃げる貫禄の大御大仕事、全ッ然完結してねえ。そんな中でも琴線に触れたのは、田嶋謙一が里見瑤子を犯し始めるやハードロック調の劇伴がドカドカ鳴り始め、片や港雄一が里見瑤子を犯し始めるやハイキーな照明が迸るプリミティブかつポップな演出、ではなく。山菜を採りに山に入つた鮎美を、ヒカルからその旨聞きつけた小川が追ふ。その件、小川は都合四度「山菜、採れますか?」と声をかけつつ鮎美を神出鬼没に追ひ詰めるのだが、計四回の「山菜、採れますか?」を、田嶋謙一が何れも巧みに声色を変へてのけるのは数少ない正方向の見所聞き処。


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 「高校教師 淫らな課外授業」(1996/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:鈴木一博/照明:渡波洋行/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:灘島弘義/監督助手:小谷内郁代/撮影助手:便田あーす/照明助手:那雲サイジ/スチール:本田あきら/車両:灘友人/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:ひとみ綾・葉月蛍・西山かおり・樹かず・田嶋謙一・モト大野・荒木太郎《友情出演》・高田宝重・片山圭太・紗樹・藤崎健・橘梧郎・日暮謙& Dear Friends)。出演者中、葉月蛍がポスターには葉月螢、荒木太郎のカメオ特記と、高田宝重以降は本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、こんちこれまた宝徳学園。生徒と一緒に登校するヒロインが、とりたてゝ騒ぐほどの美貌といふ訳でもないものの、佇まひなり物腰がクッソどエロい。3年A組担任で担当科目は日本史の松澤香奈(ひとみ)が、恋人の数学教師・竹田英司(田嶋)が女生徒にモテてゐる場に軽く交錯するカット噛ませて、受験の頻出領域でもない割に、日本が大東亜戦争に突入する昭和初期を掘り下げる3Aの授業風景。竹田が顧問の映画研究会部長でもある筒井義之(モト)に、優等生で同じく映研の桐島温子(葉月)を抜いて、空席が二つ。その頃空席の主はといふと、へべれけに夏服を着崩す不良生徒の後藤健(樹)とガールフレンドの小林幸恵(西山)は、ラケットが映り込む点を見るにテニス部部室?にてヤリまくつてゐた。
 配役残り荒木太郎は、後藤の停学を3Aに報告する教師A、教頭かも。紗樹が筒井・温子ともう一人の映研部員なのか、授業中に体調を崩した温子が担ぎ込まれる保健室の、養護教諭なのかは完ッ全に特定不能。紗樹を飛ばして片山圭太以降は生徒要員として、問題があの高田宝重が、何処に見切れてゐるのか判らないピンク映画史上最大級のミステリー、ロングでもその人と知れる御仁なのに。
 北沢幸雄1996年第四作は、同年第二作「高校教師 私は、我慢できない」(主演:沢口レナ)、翌1997年ピンク映画第一作「高校教師 黒い下着を脱ぐとき」(主演:聖亜舞)と明確な三部作を成す「高校教師」シリーズ第二作。如何にもそこら辺にゐさうな風情を、さうはいつてもそこら辺にはさうさうゐないクオリティで撃ち抜く何気にエクセレントな主演女優を擁する反面、本筋らしい本筋は、何時まで経つても起動しない。夜の教室、後藤が呼び出した香奈を押し倒すと、手前の机々に埋もれた二人が一時見えなくなる間抜けな画面設計は強ひてさて措き、締めの濡れ場こそ締めらしい決定力に一応溢れてはゐるものの、生死から不明な竹田の去就に、双眼鏡で香奈のマンションを監視する筒井の出歯亀。そして何より、竹田の子を宿した温子の妊娠。蒔いた種を何ひとつ回収しないまゝに、日本史授業からシレッと暗転してのける豪快なラストには逆の意味で度肝を抜かれた。これでひとみ綾の何気な超絶美身でもお腹一杯拝ませて呉れれば裸映画として立つ瀬がまだしもあつたものを、如何せん不用意に暗い濡れ場が多く、却つてフラストレーションを募らせる始末となると正しく万事休す。広げた風呂敷を満足に畳み損ねる第一作と、碌すつぽ広げもしない第二作。ガッタガタの物語を無理から綺麗に纏める第三作が案外輝いて映る、北沢幸雄の高校教師三部作は一勝二敗といふ寸法。香奈単体の比較だと表情の硬い聖亜舞が一歩下がる、「私は、我慢できない」≒「淫らな課外授業」>「黒い下着を脱ぐとき」とならうかとも思ふけれど。

 ところで2005年に旧作改題された際の闇雲な新題が、「高校美教師 下着モモチラ!!」。後藤再テストなら兎も角、淫らも何もそもそも劇中課外授業が行はれてゐなければ、タイトスカートから下着がチラ見えるショットも別に設けられてはゐない件。“下着モモチラ!!”なる今でいふパワーワード、全体何処から降つて来たんだ。


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 「牝教師 嬲つてあげる」(1997『高校教師 黒い下着を脱ぐとき』の2017年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/監督:北沢幸雄/脚本:月岡よみ・北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:鈴木一博/照明:高原賢一/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:佐藤吏/監督助手:片山圭太/撮影助手:岡宮裕/照明助手:倉橋靖/スチール:本田あきら/ネガ編集:酒井正次/協力:増野琢磨/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:聖亜舞・葉月蛍・西山かおり・下川オサム・樹かず・真央はじめ・杉本まこと・詫間翔太・片岡圭・高原照明・藤崎健・橘梧郎・日暮謙& Dear Friends)。出演者中、葉月蛍がポスターには葉月螢、詫間翔太以降は本篇クレジットのみ。改めて触れておくと企画の業沖球太は、アナグラムによる北沢幸雄の変名。
 タイトル開巻、宝徳学園高校の銘板。産休による臨時教師の、松澤香奈(聖亜)の世界史の授業。早速覚束ない主演女優の口跡はさて措き、質量とも申し分ない生徒要員(詫間翔太以下、片山圭太は微妙だが、何処かに高原賢一も紛れ込んでゐるにさうゐない)から、優等生の桐島温子(葉月)、白バンダナが甘酸つぱい不良生徒・後藤健(樹)。成績は悪いけれど明後日な情熱を―女教師に―滾らせる梅宮真司(下川)に、梅宮の背後に後藤のガールフレンドの津川りさ子(西山)を抜く。のは煌びやかなまでに順当な開巻にしても、既に高校生にしてはあんまりな下川オサムの頭髪には、立ち止まらざるを得ないといふか、より率直にいへば涙を禁じ得ない。体育授業中の教室での、誰か来ると大概本格的に抵抗するりさ子を後藤が無理から抱くのを、廊下から軽く様子を窺つた香奈が咎めもせずに立ち去る絡み初戦経て、香奈の帰途を待ち受けた温子は、途中まで一緒にと一時歩いた別れ際、香奈に手紙を渡して行く。その夜、黒下着で武装する香奈の傍ら放られた手紙には、温子の百合香る恋情が綴られてあつた。
 配役残り真央はじめは、出撃した香奈がランデブーする今でいふワンナイトラブのお相手・ツーショット―ダイヤル―の男。香奈が身に着けた黒い下着に、「意外だな黒い下着なんて」。初対面の女にこのバカは何をスッ惚けてやがると呆れる間もなく、ちぐはぐな戯言を垂れ続ける。マオックスの所為でもないやうな気もしつつ、ちぐはぐな戯言がこの人にはある意味よく似合ふといふか、どんな台詞であれちぐはぐな戯言にしてしまふ、一種の魔力も否めない。杉本まことは、実は梅宮が表でストーキングする中、やつとの思ひで居場所を突き止めた香奈を急襲する竹田英司。この二人、前任校で竹田との不倫の末に、香奈が自殺未遂を仕出かした結構派手な因縁。挙句復職した香奈に対しドロップアウトしたまゝの竹田は、妻とも離婚してゐた。
 元題でDMM視聴も可能なものの、臆することなく小屋に出撃した北沢幸雄1997年ピンク映画第一作、薔薇族入れると第二作。2004年に元題ママで新版公開した際の新日本映像公式に辿り着いたところ、北沢幸雄五本前の1996年第二作、兼沢口レナのピンク映画デビュー作「高校教師 私は、我慢できない」と、同年第四作「高校教師 淫らな課外授業」(主演:ひとみ綾)に今作の三本で、高校教師三部作を成す旨が判明。更によくよく調べてみると、これがたとへば新田栄の「痴漢と覗き」の如く共有するのは看板だけの、極めて便宜的なものでは必ずしもなかつたりする。舞台は何れも宝徳学園で、ヒロインの名前も松澤香奈。樹かずと皆勤賞を果たす葉月蛍の役名も、三作共通で桐島温子。ついでに、西山かおり・真央はじめと一本休んだ二冠を達成する杉本まことも、二作共通で竹田英司。但し連続した前中後ないし完結篇といふ訳では―第一作ラストで香奈が宝徳を去る以上―もちろんなく、香奈の担当科目が各々異なつてゐる通り、パラレルなトリロジーを構成してゐる。
 幾らビリング頭の裸を見せるためとはいへ、マオックスと杉まこパートで思ひのほか尺を喰つてゐる内に、香奈を挟撃する梅宮と温子の岡惚れは一向深化されず。殊にストーカー行為を認識した上でなほ、香奈がヤラせはしない程度に梅宮に距離を近づけるに至つては清々しく理解不能。展開の腰が据わらないまゝ終盤に突入した映画は、力なく不時着するものかと、思ひきや。それまでの全てを回収する咆哮を締めの濡れ場に際して香奈が放つや、一度は堕ちた闇から抜けたのを華麗に示すラスト・ショットは案外完璧。素面の劇映画としては実はザックザクどころかズッタズタの物語にも関らず、一気呵成のフィニッシュで爽やかなエモーションを叩き込む。些かでなく強引ではあれ力技が見事に決まる、北沢幸雄の―苔生した―青春映画志向が綺麗に成就した一作である。


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