真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「エッチな18才 はちきれちやふ!」(1998/製作・配給:大蔵映画株式会社/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影:清水正二/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:湘南太郎/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:相沢知美・田口あゆみ・林由美香・樹かず・久保新二)。
 麗しの王冠開巻、街の遠景に天使の羽が舞ひ、キラキラリン音効が鳴る。本を読む背中挿んで、少女の足下に羽が落ちる。ルーズソックスとガングロの舞(相沢)が空を見上げると、今度はニュータイプ的な音効に閃光まで走らせた上、鐘の音によくいへばこの頃御馴染の、レス・ザン・バジェットなペラ紙一枚のタイトル・イン。正直この時点で既に、悪い予感しかしない。
 城山ゆき(田口)が日傘を差し楚々と歩く後ろを、処女作一発屋の小説家・河原畑淳之介(久保)が尾ける。またこの河原畑先生がゾンビ紙一重に隈がどす黒く、久保チン今回コンディション不良なんかいなとも思ひかけたが、体の動きなり口跡から窺ふ分には、別にさういふ風でもない模様。藪蛇な造形にも、早速あるいは順調に躓く。見るから不審な河原畑に舞が声をかけると、動揺した河原畑が橋の欄干であれよあれよバタついたのを、今度は舞がスーサイドするものかと勘違ひする。クリシェ迸るグダグダ通り越してグッダグダなシークエンスの末、制止したつもりの舞が橋から入水する。不安ないし猜疑が、ハンドレッド戦もとうに通過した経験に基づく確信に変る。うん、ダメな時のナベにさうゐない。兎も角、近辺のロケーションで何となくピンと来る、当然勿論絶対自動的な勢ひの津田スタに運ばれた舞は、自称小学校時代の愛読書『やどなしキューピッド』の作者が河原畑と知るや、寡暮らしの河原畑家に押しかけ家政婦を決め込む。
 配役残り樹かずは、零細出版社「ほがらか出版」の河原畑担当者・大藪。林由美香は大藪の同僚兼、事実上の婚約者・桑野か鍬野万里。編集部にもう二人見切れる、男女は完全に不明。それと、河原畑の絵本周りでひろぽん画伯のイラストが登場するのだけれど、湘南太郎だとか如何にも変名臭いセカンド助監督は、もしかして広瀬寛巳の変名?仮にさうであつた場合、藪から棒に、何でまたさういふ勿体つけた真似をするのかは知らないが。小田求かもよといふ可能性もなくはないにせよ、探せばあちこち出て来よう、広瀬寛巳と小田求が併記されたクレジットで否定し得るものと看做す。そもそも、小田求も小田求でそこはかとない共有スメルは否み難い。今に始まつたことでもないが、最早際限のない、無間地獄の獣道。何処かに辿り着く辿り着けるつもりで、歩いてる訳ぢやないんだよ。
 渡邊元嗣1998年第一作にして、大蔵第二作。何某か重たいドラマを抱へてゐるらしき久保チンの家に、軽やかな相沢知美が薄らかに転がり込む。コンフィデンスに進化か後退した危惧は、残念ながらまんまと的中。締めの濡れ場を、よもやまさか残り尺五分まで温存した二番手に委ねるだなどと、アグレッシブな奇策は展開上必ずしも酌めなくはないものの、それもそれで、せめて完遂させて欲しい。結局河原畑先生が舞には手を出し損ねた結果、三番手が絡みの回数を稼ぐアンバランスも微妙でなく苦しい。尤もその点に関しては、よしんばその場限りであつたとて、画期的な機動性で幾多のピンクをビリング下位からも救つて来た、林由美香の真骨頂をこそ尊ぶべきであるのかも知れない。最たる致命傷が、『やどなしキューピッド』に喰ひついた舞は、ネグレクト気味の家庭環境を匂はせつつ、今はすつかりくたびれたかやさぐれた河原畑に投げる。“世の中には沢山の孤独な子供達のゐること”と、“楽しい物語がそんな子供達の心の隙間を埋めること”とを。一撃必殺、一発大逆転も可能なエモーションの種を蒔いたにも関らず、結局<舞の正体が天使>とかいふありがちが暴力性に突き抜けるオチは根本的にどうしたものか。天からの何者かの降臨を、ギャルが察するアバンと激しくちぐはぐな以前に、林由美香を差し措いて、天使に適役な人間がこの星の上にゐるであらうか。否、ゐまい。一言で片付けるほかない、チャチいナベシネマ。クロッカス―劇中では頑なにクロウカス―の色によつて変る花言葉を、過去を引つ繰り返す重大なモチーフに持ち出すのも、オッサン相手の量産型娯楽映画としては疑問も禁じ得ない。クロッカスに限らず、花言葉なんて知らんがな、吉行由実でもやらないぞ。


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