真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「発情病棟 女医たちの下半身」(2002『痴漢病棟』の2014年旧作改題版/製作:ジャパンホームビデオ株式会社・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画/監督:愛染恭子/企画:福俵満/プロデューサー:寺西正己/撮影:飯岡聖英/助監督:石川二郎/録音:シネキャビン/ラインプロデューサー:藤原健一/照明:多摩三郎/編集:酒井正次/音楽:川口元気/脚本:山口伸明/演出助手:亀井享・斉藤勲/撮影助手:田宮健彦/照明助手:宮坂斉志・鈴木秀崇/スチール:山本千里/メイク:原川潮美/現像:東映化学/制作協力:フィルムワークスムービーキング/出演:愛染恭子・小室友里・沢木まゆみ・深澤和明・江口琢也・けーすけ・山科薫・我宮大凱・河内正太・久保和明・中村英児・新里猛作・翔見磨子・高橋りな・早生・青山円・中川真緒・いぬいりさこ・江面貴亮・大西裕・藤原健吉)。出演者中早生が、ポスターには松井早生、脚本クレジットの謎位置は本篇ママ。
 平尾総合病院深夜二時、当直勤務の看護婦・谷まゆみ(沢木)が、一人で巡回に出る。得体の知れない気配に怯えつつも恐々ナース・ステーションに帰還、したところで正体不明の暴漢に襲はれたまゆみは、レイプされてゐるといふのにワッシャワッシャ潮を噴く。さざ波のSEとともにタイトル・イン、沢木まゆみが超絶裸身で飛び込んで来る、開巻―だけ―は完璧であつたといへるのか。
 平尾総合病院理事長・平尾亜紀(愛染)は、院内で頻発する暴行事件に事務長の相川(山科)と頭を抱へる。亜紀は翌月全国総合病院連合会初となる女性理事長に立候補の予定を控へ、被害者に渡し事件を揉み消す口止め料も馬鹿にはならなかつた。亜紀は院長で婿養子の高志(深澤)の紹介で、弁護士の森山知恵(高橋)に調査を依頼するやう提案。亜紀と相川の遣り取りはさういふ話であつた筈なのに、いざ白衣姿でカウンセラーを偽装する知恵と再会した、高志は激しく動揺する。二人は過去に、因縁浅からぬ仲にあつた。
 配役残り高橋りなは、劇中二人目の看護婦被害者・清水里子。深夜コッソリ一服するかとした屋上にて、里子が犯される一幕。そもそも夜中に干しぱなしの点からツッコミ処な、病院風景のクリシェとして一面に広がる白いシーツに、里子が巻かれるなり不自然に自ら飛び込むなりしてゐると、何故かみるみる裸に剥かれて行く爆裂するストレンジ具合がグルッと一周して紙一重をも越える迷描写。リアルタイムに駅前ロマンと故福岡オークラで複数回観て以来、十三年ぶりの再見にも関らずそこだけは記憶にあつた。人の心に刻み込む、サムシングを有したシークエンスではあるのだらう。松葉杖を突く早生は、無理心中未遂の入院患者・本橋美雪。江口琢也はこちらは車椅子の入院患者の、各種資料には小室とされるも作中では伊沢か井沢、職業ホスト。けーすけは、何で入院してゐるのか全然元気な橋田、神崎組のヤクザ。知恵の尋問を軽く受けた橋田は、適当に受け流して読みかけのヤンマガに再び目を落とす。ここで、パーンとヘッドボードにヘッドレスト代りに威勢よく巻きつけたタオルが、直後のカットでは消えてゐる、だから誰も気づかなかつたのか。翔見磨子は婦長の田所君子、この人は脱がない。軽く友松直之似の我宮大凱は、平尾総合病院に入る合同警備のガードマン・塚本。勤務中にも飲酒してゐるのを知恵に嗅ぎつけられた塚本が、それが判るのはアンタも酒好きかと口説きかけるのは、些か奇異に思へる。非喫煙者と同じで、アルコールの匂ひには寧ろ下戸の方が敏感なのでは?その他、知恵が自宅に呼ぶ出張ホスト二人組の片方は中村英児。知恵が参加する「断酒の会」の皆さんは、主に藤原健一・大西裕ら内トラ部隊か。小室友里登場直前に手洗ひで陵辱される入院患者役が、濡れ場を務めるものの暗くて不明、よもや翔見磨子の二役?
 結局創立五十周年を記念する体力は残されてゐなかつた新東宝が、四十周年を記念したPINK‐Xプロジェクトの栄えあるのか別にさうでもないのか甚だ微妙な第一弾。いい機会かどうかは兎も角この期に改めて掻い摘んでおくと、PINK‐Xプロジェクトとは新東宝がVシネ会社と組み、本当かどうかは知らないが一本当たり一千万と通常三倍強の予算を投入した、全七作計八本―前後篇の二本立てを一作含む―の作品群。といつて、手放しで面白いといへるのは一作くらゐ。3/8は小さくでもなく汚いキネコで、ピンク映画の記念作にしては概ねキャスト・スタッフともVシネ勢に侵食された挙句に、一体何処に一千万かゝつてゐるのかよく判らずロマンポルノばりの分厚さを感じさせるものは皆無。要は当時的にはやらかした臭が濃厚で、再評価の機運にも寡聞にして触れた覚えのない、よくいへばチャーミングな、端的には清々しく漫然とした企画であつた。
 さて今作単体に話を戻すと、知恵が平尾総合病院に入るに当たつて高志は関与してゐるのかゐないのか、主人公の導入路から右往左往する物語。亜紀が見守る中、机上で四つん這ひにさせたまゆみと里子に、知恵がいはゆる手マンで犯行を検証する抜けた底がドリフ桶よろしく頭の上から降つて来さうな珍場面。ある意味、始終は順調に混迷する。そもそも、終に全うにキャリアを積み重ね灰汁が抜けることもなく我が道を歩き通した塾長―不脱の仕事は引退してゐないけれど―と、どんな台詞も安く聞かせる、別の意味での特異な才能を有した深澤和明(ex.暴威)がビリング上位に名前を連ねる時点で、明白に脆弱な俳優部。悪い条件しか見当たらない割には、本当に先が読めない謎の犯人探しは不思議と綺麗に展開、してゐたかのやうに思へたのは括つた高に瞳を曇らされた早とちり。上手くサスペンスが機能してゐたのではなく、単に下手に退路を断つてゐたに過ぎなかつた風呂敷を、ガッチャガチャに畳み損なふ粗雑なラストは逆の意味でお見事。百歩譲つて主演女優といふのならばまだしも、大体周年記念の幕開けに監督二作目の愛染恭子を連れて来た人選から問はれるべきなのかも知れない、PINK‐Xを象徴する一作である。

 最後に、PINK‐Xプロジェクト一覧、第一弾が本作。
 第二弾「プレイガール7 最も淫らな遊戯」(2002/監督・脚本:中野貴雄/誰を主演扱ひしたらいいのか覚えてない)
 第三弾「につぽん淫欲伝 姫狩り」(2002/監督・脚本:藤原健一/主演:西村萌・りょうじ)
 第四弾「紅姉妹」(2002/監督・原作・脚本:団鬼六/脚本・監督補:亀井享/主演:小川美那子・沢木まゆみ/これが前後篇公開)
 第五弾「政界レズビアン 女戒」(2003/監督:愛染恭子/脚本:藤原健一/主演:愛染恭子・清水ひとみ)
 第六弾「痴漢電車2003 さはられたい女」(2003/監督・脚本:神野太/主演:中谷友美)
 第七弾「愛染恭子VS菊池えり ダブルGスポット」(2003/監督:愛染恭子/脚本:寿希谷健一/主演:愛染恭子・菊池えり)
 先に触れた、手放しで面白いのは最終第七弾。この際、終りよければ全てよしといふ方向で   >どの際だ


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 「淫乱人妻ドライバー 男を乗せて、乗せられて」(1995『痴漢人妻タクシー』の2014年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:業沖球太/製作:奥田幸一/撮影:千葉幸雄/照明:高原賢一/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:瀧島弘義/監督助手:徳永恵美子/撮影助手:嶋垣弘之/照明助手:原康二/ネガ編集:酒井正次/車輌:スーパー・ドライバーズ/効果:東京スクリーンサービス/出演:生島奈香江・吉行由実・七重八絵・神戸顕一・真央元・倉岡恭平・国沢実・杉本まこと)。
 夜の繁華街、遠山小百合(生島)が運転する益子交通のタクシーが、吉行由実と真央元を拾ふ。クレジット起動と後部座席の二人は開戦、吉行由実が運転席に放り出す足が危なつかしい一頻りを見せた後、運転者証を抜いてタイトル・イン。本格的な吉行由実と真央元の一戦にアテられた小百合は、住宅地の狭い路地に勝手に停車。自宅に飛び込むと台所にモクモク白煙を噴く七色のフラスコを所狭しと拡げ、どうやら新薬開発に励んでゐるらしき夫・健太か謙太か憲太(杉本)に夫婦生活をせがむ。
 配役残り、え!?もう残り配役かよ。国沢実は、休憩中の小百合にちよつかいを出す益子交通の同僚。その件で見切れる小百合の車のナンバーが「練馬55 ね 19-19」、地味に洒落てゐる。倉岡恭平は、泣き落としで自宅に連れ込んだ小百合を、殆ど和姦気味でもあれ手篭めにする関西からの単身赴任男・平岡。七重八絵は実家に帰ると鼻息の荒い客・マーちやん、お揃ひのベアーのトレーナーの画期的なダサさが紙一重を越えて素晴らしい神戸顕一がマーちやんの夫で、新婚一ヶ月未だ初夜に二の足を踏んでゐるタッくん、童貞だけど大巨根。婚前交渉など初めから考へない人生観につき当然未経験のタッくんに対し、マーちやんもさうだよねと話を振られたマーちやんが何気にギクッとする小ネタが秀逸。
 関根和美のピンク映画最高傑作「淫行タクシー ひわいな女たち」(2000/脚本:金泥駒=小松公典/主演:佐々木基子・町田政則)に、新里猛作のデビュー作「痴漢タクシー エクスタシードライバー」(1999/脚本:大河原ちさと/プロデューサー:友松直之/主演:田中要次・奈賀毬子)。池島ゆたかの「人妻タクシー 巨乳に乗り込め」(2004/脚本:五代暁子/主演:持田さつき・牧村耕次)はぼちぼちとしても、母数自体が小さい中打率は比較的高いと思はれるタクシー・ピンク。予習した「暴行タクシー ハメられた女たち」(1997/主演:杉本まことと一応風間由衣)が漫然とした出来であつただけに当初の期待が危惧に翳つた、北沢幸雄の1995年第四作。今作はヒロインが自らハンドルを握つてゐる分、右往左往することなく始終は素直に直進、ビリングもグラつかない。各エピソードが相互にリンクするでなく、これといつた物語があるでもない上で、ラストの呼び水には吉行由実と真央元が再登場し展開を整へる。確かに男を乗せたり乗せられてばかりの、小百合の日々を綴る語り口はさりげなくスマートに纏まつてをり、人妻タクシードライバーが多分養つてゐる旦那は、在野の新薬研究者。予想外の設定が更に斜め上に突き抜けるラストまで、サクッと見させる。何処がどう決定的に面白い訳ではなく、生島奈香江もとりたてて美人といふといふ訳でもないものの、気だてのよさを感じさせる朗らかな雰囲気と、絶妙に熟れた肢体とが十二分に一篇を支へ得る主演女優を擁し、何となくにせよ何にせよ実に安定した裸映画。走行中の車内での本濡れ場を先行車から撮影する意欲があつた時点で、車内プレイが全て停車中である「暴行タクシー」との優劣は既に明らかであつたといへるのかも知れない。北沢幸雄的には、二年を経て後退してゐるのだから宜しくない話ではあるのだが。
 備忘録< オーラスは健太が恐らくハルクなモンスターに変貌


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 「めぞん美熟女 ぬるぬる下宿」(2014/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:海津真也/編集:酒井正次/音楽:日野サウンズ/主題歌:『未来には希望しかない』作詩:荒木太郎 作曲:安達ひでや 唄:河瀬純アニキ&ノムさん 演奏:安達ひでや/撮影・照明助手:矢澤直子・榮穣・広瀬寛巳/助監督:三上紗恵子・光永淳/総製作:佐藤選人/ポスター:本田あきら/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/車両:小林徹哉/出演:竹内紗里奈・愛田奈々・松すみれ・野村貴浩・那波隆史《特別出演》・河内哲二郎・ダーリン石川・佐々木基子・牧村耕次)。最近多呂プロのカンパニー・ロゴを観てゐない御無沙汰に、機を失して気づいた、何時からだ?
 チャンチャカチャンな主題歌起動、白の日傘×白のワンピース×白いハイヒールで楚々と土手道を歩くヒロインと、喜八(牧村)と次郎(野村)。義兄弟の毎読新聞勧誘員コンビの賑々しい顔見せにクレジットが併走、タイトルで朗々と締めるワン・コーラス歌ひ上げてタイトル・イン。片肌脱ぐと右の二の腕には南無妙法蓮華経の彫物も鮮やかな、春江(佐々木)が女将の未亡人下宿「日野荘」。下宿人の喜八と次郎が、同じく下宿人で、眠るデリヘル嬢のジャネット(松)に夜這ひを仕掛ける、昼間だけど。ところが、といふか当然ジャネットは途中で目を覚まし、喜八と次郎に、天井裏から愛を込めずに覗いてゐた医学生(荒木)も金を取られる。喜八の妹分でこの人も店子の明美(愛田)が、昔の男(ダーリン)に体よく弄ばれたショックで淺川橋から飛び込む飛び込まない騒いでゐるところに、アバンの白尽くめ女が通りがかり、喜八はポップに一目惚れする。日野荘に手伝ひといふ形でやつて来た、春江の姪・一乃(竹内)と再会した喜八は驚喜する一方、一乃が実は既婚者であるものの、夫は七年前に失踪してゐた。
 配役残り河内哲二郎は、人気の少ない夜の路上で手売りと、まるで、あるいは丸つきりパン女のメソッドで自作詩集を売る一乃に、絡む酔つ払ひ。話を戻して淺川橋の件では、未だ自立には至らないのか相変らず御子を背負つた三上紗恵子と、小林徹哉に小谷香織も見切れる。那波隆史は水車小屋にて七年ぶりに一乃と待ち合はせる、真二君もとい伸介君。
 一昨々年から一昨年にかけて一時的に復調の兆しを見せかけながら、以降は力なく迷走する荒木太郎の2014年第三作。ともに天下を取るほどの戦果も未だ挙げてゐない上で、荒木太郎と国沢実がある意味順調に萎んでゐるのは困つたものだ、この二人に限つた話でもないのかも知れないが。一本骨の通つたドラマを構築する体力は失つたとて、キャラクターを描く小手先は仮に手癖に過ぎずとも衰へてゐないらしく、日野荘に棲息する飛び道具揃ひの面々は騒々しく魅力的。日野といふと確か荒木太郎の居住地である筈の、日野荘の猥雑なロケーションも文句なく素晴らしい。尤も、それは要は映画美術といへば映画美術で、単なる生活環境といへば生活環境。その辺りの生活と映画の直結具合に、否応なく感じさせる限界の所以が逆説的に照射されてゐるやうに映らなくもない。兎も角、愛田奈々や佐々木基子が暮らす大所帯を掃き溜めと称するつもりは毛頭ないが、そこに一羽の鶴が舞ひ下りる手堅い構成は磐石。七転八倒するまでの明美の便秘を救つた医学生に体で対価を払ふのが、何故かジャネットであつたりする辺りには巨大な疑問符が拭ひ難くもありつつ、非日常的に弾けた日野荘の日常は勢ひでザクザク見させる。関根和美の向かうを張るかの如く、主演女優の濡れ場らしい濡れ場を全て妄想か夢オチで賄つてみせる潔いか威勢のいゝ態度も清々しい。反面、一乃が蒸発した亭主と再会する本来ならばクライマックスに際しては、生半可に生真面目にならざるを得ないだけに若干の失速感も否めないともいへ、幹はこの際等閑視、枝葉のフリーダムさを楽しむ軽演劇と割り切るべき、映画だけど。観終つた後に何も残らないのは優れた娯楽映画である一つの証左と捉へるならば、最早下手に一本の物語を紡ぐ能力にも乏しい、昨今の荒木太郎にとつてひとつの突破口たり得る可能性をも秘めた一作。己で与太を吹いておいて何だが、南なのか北なのか、風が何処から吹いて来るのか判らない。


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 「性の逃避行 夜につがふ人妻」(2015/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/企画:亀井戸粋人/撮影:小山田勝治・猪本太久磨/照明:ガッツ/録音:沼田和夫・広木邦人/助監督:菊嶌稔章・明日圭吾/応援:広瀬寛巳/音楽:中空龍/編集:有馬潜/MA:シンクワイヤ/整音:若林大記/音響効果:吉方淳二/タイトル:道川昭/ポスター:MAYA/協力:花道プロ/出演:竹内ゆきの・倖田李梨・加藤ツバキ・なかみつせいじ・柳東史・荒木太郎)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 伊豆の山道を走る四駆、運転するのは、髪に白を入れてゐるのか地毛なのか微妙な荒木太郎。後部座席、顔を強張らせた竹内ゆきのに、微笑みかけた倖田李梨が手を添へタイトル・イン。浜野佐知にしては、随分とおとなしい開巻。
 一行が辿り着いたのは、結局開店してゐないドライブイン「河鹿倶楽部」。本業は「天城旅館」の主人である荒畑(荒木)が東京のプランナーに唆され一旦開業するも、初日に運転資金を持ち逃げされる。以来放置してゐた河鹿倶楽部を、亡父が荒畑の知己であつた依子(倖田)が悠紀(竹内)をパートナーに譲り受ける。二人の関係は、悠紀が大学教授の夫・佃(なかみつ)のDVに苦しみ、依子は救済機関の相談員。依子の誘ひで悠紀は結婚生活を、自身は職を捨ていはば駆け落ちするやうな形で伊豆にやつて来た二人は、何時の間にか百合の花香る仲にもあつた。序盤は竹内ゆきのがなかみつせいじと倖田李梨に挟撃される濡れ場を一頻り連ねた上で、中盤の起点は川で写真を撮る柳東史投入。女二人が再オープンの準備を進める河鹿倶楽部に元々荒畑の知人で、要は空き家の河鹿倶楽部を常宿としてゐた環境活動家の間宮(柳)が勝手に上がり込む。どうやらこの人は真性ビアンなのか、依子が脊髄反射で猛々しい嫌悪を露にするのに対し、柳東史一流のメソッドで飄々とした間宮に、悠紀は相好を崩す。配役残り、柳東史と矢継ぎ早にチャリンコで颯爽と登場する加藤ツバキは、地元の同人作家・まりも。ともに梶井基次郎クラスタで、『交尾』の一節をガンガン引用しながら鳩が豆鉄砲を喰らつた風の悠紀を残し捌けた間宮とまりもは、間宮のテントでガンッガン交尾する。そして、文字通り役者が揃つた河鹿倶楽部に、悠紀のタブレットの位置情報を辿つた佃も乗り込んで来る。
 封切り五十日と鬼神の速さで地元駅前ロマンに着弾した、デジタル・エクセス第六弾、浜野佐知2015年第一作。浜野佐知にとつてはデジエク第四弾の前作、「僕のオッパイが発情した理由」(2014/主演:愛田奈々)に続いての古巣エクセス作となる。山﨑邦紀は関係を修復したオーピーでのデジタル作を撮り終へてゐる一方、浜野佐知の話は未だ水面(みなも)の上には聞こえて来ない。映画の中身に話を戻すと、山﨑邦紀がラストのダイアローグにも上手く捻じ込んだだけに浜野佐知もオミットしかねたのか、藪から棒な梶井基次郎フィーチャーは素頓狂に木に竹を接ぎ倒す。“それから彼らは交尾した。爽やかな清流のなかで”と『交尾』のハイライトを暗誦するまりもが間宮と、当然初対面の悠紀の前に現れるカットは、この期に及んで底の抜けたやらかした感が清々しい。反面浜野佐知が思ふ存分本領を発揮するのが、絶好調の裸映画演出ならぬ艶出。アバンこそお上品に澄ましてゐれど、本篇に突入するや何時もの浜野佐知。随所で叩き込む、主演女優の女陰に執拗に迫る際どいショットに顕な、未だ律に果敢に挑み続ける浜野佐知の敢闘精神はリスペクトに値し、柳東史と加藤ツバキの絡みは、年間ベストバウト級の名勝負。今風にいふとクッソエロい、クッソエロくて実に素晴らしい。佃に間宮とまりもの劇中第二戦を見せつけられた悠紀は、薮の中の蛇を突かれる。依子は外出し二人きりの河鹿倶楽部、悠紀は間宮に膳を据ゑる。今作最大の見せ場は、河鹿倶楽部の様子を窓越しに窺つてみたところ、間宮に跨り奔放に気をやる悠紀の姿に、佃が一撃で木端微塵に茫然自失となる件。男の弱さを戯画的に誇張した浜野佐知の演出意図に、なかみつせいじが十八番のオーバーアクトで応へた見事な一幕。女房を時には霊長類でさへない様々な対象に寝取られた末の、“どうしてかうなつたんだ”で御馴染みかつての、エクセスを主戦場としてゐた時代の旦々舎の千両役者・栗原良に、なかみつせいじが遂に肩を並べた瞬間には激しく胸が熱くなつた。旧来より尺の余裕があるにも関らず、百合の開花をスッ飛ばしてのけた大胆な省略には疑問も残らぬではないが、結局ヒロインは棹が欲しくなるナチュラルな展開は、底意地の悪いオチまで含めて出色。小雪似のキリッとした美貌が一見硬めに見える竹内ゆきのが、面持を自在に操つてみせ綺麗に形を成す。となると截然と筆を滑らせてのけるが弱いのが、佃から救ひ出したのか奪つた依子を、間宮にカッ浚はれる頼子役の倖田李梨。瀬戸恵子引退後、フィルムハウス作で飛び道具的三番手要員の穴を埋めてゐた時期には頼もしく見えたものの、個人的には業界内からものこの人に対する高評価がどうにもかうにも理解に遠い。基本的に表情に締りがないのと、入れ込んだ芝居を始めた途端何故か目から感情が消えるのが致命的。要は最終的に呉越が同じ境遇に至つた佃と依子を比べてみた場合、派手に玉と砕けてみせたなかみつせいじと、死んだ魚のやうな目をしてへたり込むばかりの倖田李梨とでは雌雄は一目瞭然。浜野佐知が、“『百合ダス』その後ともいへる『女を愛する女の悲しみ』に寄り添ふつもりで撮つた作品”とまでいふにしては、依子のエモーションは甚だ不発に終る。なかみつせいじどころか、竹内ゆきのとの並びでも踏んだ場数はそれこそ桁違ひの筈なのに、女優力の差が感じられるのは単に小生の節穴の所以か。
 まゝよ、かうなつたら何処までも筆禍を拗らせるか。昨今の、投票の間口を拡げた結果一種のAV女優人気投票と化したピンク大賞に関し、倖田李梨が投票を募る同業者を口汚く罵つた上で、“芝居を観てもらひたい”とツイッターで吠えてゐる。“私が沢山出たいと思つた場所がもはやグチャグチャなのが耐えられ”ず、“死ぬまで出続けたい場所であつて欲しい”とのこと。片腹痛いの一言で事足りるか否かは議論が分かれるとしても、話はさうさう簡単には片付かない。見解なり立場の相違は諸々あれ、唯一疑ひのないジャスティスは、小屋に落ちる木戸銭。木戸銭が枯れれば小屋は死に、小屋がなければ、映画は生まれない。特定のAV女優のファンが、お目当ての娘に一票を投ずる為―だけ―に上野オークラの敷居を跨ぐ。動機と結果の如何は一旦さて措き、下衆に勘繰るならば最早単独ではピンク大賞を継続し得ないPGが上野オークラの巧妙な営業戦略にいはば絡め取られた格好にせよ、何はともあれ小屋を潤す木戸銭に異を唱へる資格のある者が、果たして此岸に居るのであらうか。どう思ふよ?さやか姐さん。

 我ながらさんざ纏まらない挙句支離滅裂に空中分解してしまつたが、今更新は新田栄に続く二度目のハンドレッド戦、ハンドレッド・浜野佐知こと浜野佐知の感想百本通過に当たる。尤も、後続に正しく圧倒的な差をつけ、なほかつ小屋に於ける本戦のみで駆け抜けてみせた新田栄に対して、正直今回は最新作を狙ひ撃つべく、DMMで大分下駄も履いた。浜野佐知のハンドレッド戦で新田栄を称揚するのも頓珍漢極まりない非礼とは知りつつ、群を抜く小屋の番組支配率を人知れず誇つた、日の当たらないレジェンド・新田栄の偉大さを改めて実感した次第である。出来れば達成したい関根和美が事実上厳しい中、次なるハンドレッド戦の予定は目下ない。

 閑話休題もう一点、どれだけ錯綜すれば気が済むのか。山中の草原(くさはら)にて、伊豆入り後一息ついた悠紀と依子が竹とんぼで遊ぶロング。明後日に飛んだ竹とんぼを竹内ゆきのが長い手足を伸ばしキャッチするのが、映画の神に祝福されたスーパーショット。エイッといふ仕種がエクストリームに堪らん、寧ろ裸よりも堪らん!   >馬鹿か


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 「変態妻 肉仕込み」(1992『若奥様 変態仕込み』の1998年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:木俣瑠美/撮影:伊東英男/照明:隅田裕行/音楽:映像音律/美術:衣恭介/編集:井上和夫/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:一の樹愛・秋川典子・佐伯麗子・野澤明弘・牧村耕治・羽田勝博)。出演者中、野澤明弘がポスターには野澤明宏。それ以前に木俣瑠美が、ポスターでは珠瑠美に。美術の衣恭介は、珠瑠美の夫・木俣堯喬の変名。
 エクセス提供とプロ鷹画面とで二十秒を費やしタイトル・イン、のつけから珠瑠美的には絶好調。一の樹愛が手錠で両手を吊られたり床に大きく体を伸ばして横たはる、エクストリームなショットに乗せクレジットが走る。音楽クレジットの下手な多様性も珠瑠美映画―木俣堯喬譲りなのかも知れないが―の特色のひとつに数へ得ようが、映像音律といふのは初めて見た。
 自宅仕事のファッションデザイナー・早坂純二(野澤)が、仕事もせずに不自然な座り位置でアダルトビデオに現を抜かしてゐると、この人は外で働いてゐるのか、妻のマチ子(一の樹)が帰宅する。風呂場から寝室に移動する夫婦生活は全然中途で翌朝のマンション外観、会話から窺ふに、純二はクライアントとの商談に出向く。ところが純二は大学時代の友人・鈴木健一(羽田)とバッタリ再会、旧交を温める。え、時間大丈夫?正体不明の鈴木が「どうだちよつと捻くれ者の俺の仕事場覘いてみないか」と純二を連れ出したのは、あらうことかホテル街。どうやら鈴木の名刺にある「スカイプレーコーポレーション」とは高級デートクラブらしく、嬢(佐伯)と一流宣伝会社―劇中用語ママ、広告代理店といひたいのか―「MKクリエイティブ」専務・松田(牧村)の部屋に、純二は要は男根要員として鈴木に向かはされる。主人公が明後日に明後日に転がり続ける兎にも角にもハードコアな一夜を経て、松田に気に入られた純二は、MKクリエイティブの企画部に招かれる、何だこのへべれけなサクセス・ストーリー。出演者残り秋川典子は松田の愛人、ある意味配役に全く隙がない。
 一の樹愛のオッパイお目当てで選んだ、木俣名義の珠瑠美1992年第四作。随所で特徴的な長尺フェードと、主に牧村耕治の一人舞台で同じく独特の無闇矢鱈と勿体ぶる割に、意味は特にない長講釈で映画のリズムを寸断しつつも、そもそも、だからその日純二は本来どういふ用件で外出したのか。劇中最大にして序盤で完全に通り過ぎられる大疑問をさて措けば、鈴木経由で松田と出会つた純二が、マチ子共々性の饗宴だか狂宴に誘(いざな)はれる。右往左往に終始した末に支離滅裂に砕け散るでもなく、ひとまづ一応とりあへず一本の物語が真直ぐ進行してゐるだけで、珠瑠美にしては驚異的。褒めてゐるのか貶してゐるのかよく判らない点に関しては、お気になさらないで欲しい。その上で、一の樹愛の絶対巨乳を執拗に責めるシークエンスが見られない失望は三本柱の粒の揃ひぶりと相殺するとして、特筆すべきは純二が開巻こそ浅底の亭主関白風を吹かせながら、鈴木にも松田にも完全に押された挙句に、ラストに至つては出し抜けにサディズムに開眼したマチ子にいいやうに弄(なぶ)られる。我等がノジーこと野澤明弘の斯くも防戦一方の姿といふのは、滅多にお目にかゝれない気がする。一切の思想的バックボーン―と極々一般的な脈略―をスッ飛ばして、あの珠瑠美がまるで浜野佐知の如き着地点に藪から棒に辿り着いた、素頓狂な風情も微笑ましい。


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 「巨乳秘書 逆レイプ」(1994/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・小山田勝治/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:女池充・戸部美奈子/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:小山美由紀・田代葉子・如月ジュン・栗原良・ジャンク斉藤・山本竜二)。
 出し抜けに山竜が主演女優をレイプ、顔立ちは幼さを残す主演女優の、デローンと迫力あるオッパイがエクストリーム。二人は文学少女と作家先生らしく、挿入のストップモーションにタイトル・イン。半年後、ロマン派ミステリー作家・和田俊一(山本)の秘書の座に納まつた早苗(小山)に、前秘書の証言も得て和田の下半身スキャンダルを追ふゴシップ誌『現代ジャーナル』編集者・岡田(栗原)がしつこく食ひ下がる。ここは一旦振り切られつつ、金縁のサングラスをキメた栗原良(=リョウ=ジョージ川崎=相原涼二)が完全に悪党にしか見えないものの、それはそれとして画になる。早苗が、抽斗の中にも酒を常備する和田のアシスタント・筒井(ジャンク)と仕事をしてゐると、端から喧嘩腰な、バツ5で一応目下は独身である和田の前妻(田代)が和田宅―勿論旧旦々舎―を急襲する。一方、和田の前秘書・ミチヨ(如月)は、岡田曰く“スキャンダルを暴露することで日本の権力構造を撃つ”とやらの『現ジャー』編集方針にコロッと心酔。ロケーション的には公園のベンチにて、岡田がニーハイに置いた手の甲に手を添へる、要は膳を据ゑたかと思ふや、次のカットはそのまゝズバリ「旅館」なるポップ過ぎる連れ込みの看板。ザクザク濡れ場に突入する高速感が堪らないのと、序盤は田代葉子の裸は温存した上で、俳優部全員が十分そこらで出揃ふ手際も地味に光る。
 「-男あさり-」と「-のしかかる-」(二作とも脚本:山崎邦紀/主演:辻真亜子)、「近所のをばさん」二部作に挟まれた浜野佐知1994年第六作。因みにDMMのピンク映画chが、2000年新版「巨乳秘書 いたぶる!」と重複して収録ゐる無頓着は御愛嬌。乗り込んで来た前妻の姿と、執拗な岡田の追求。そもそも当初は自身も手篭めにされたこともあり、早苗は次第に、心酔してゐた和田に疑問を覚える。手堅い中盤を経て、何処で解禁するのか、下手を打つと映画全体を壊しかねない危惧も残さぬではない、田代葉子の絡みで早苗の背中を押す展開が女の裸と劇映画、ピンクで映画なピンク映画としてあまりにも秀逸。止(とど)めの一手はそれまで早苗が和田との行為で実は感じてゐなかつた告白を踏まへ、やさぐれた賢者ポジションの筒井に投げさせるその名も“性感奪還闘争”!冒頭レイプされたヒロインが、看板に謳ふ逆レイプで華麗に逆襲。実際に「これからはそんな馬鹿馬鹿しいセックスしない」、「自分の為に気持ちよくなるの」と宣言してみせるクライマックスは旦々舎・オブ・旦々舎な名場面。漂はせる捻くれた知性との兼合ひもあるゆゑ微妙なところながら、これで筒井役がもう少し色男であれば、最終的に仕事と恋路を両立した早苗の勝利がよりサマになり、性感奪還闘争の以前に筒井が早苗に提示する、いはゆるリアルよりリアリティーといふもう一本の魅力的な視座の追求には尺が回らなかつた点には微かに心を残すともいへ、“女の立場から、女が気持ちよくなるセックスを描く”旦々舎らしさが綺麗に形になつた一作。早苗が筒井に跨る騎乗位にクレジット起動、早苗が筒井の上で激しく気をやる、要は開巻を引つ繰り返したストップモーションに“FIN”が被さるラスト・ショットの強度も完璧。

 案外少ないともいへるのか、公開題に“逆レイプ”を冠したピンクは三本しか存在しない。今作と、一ヶ月後公開の矢張り旦々舎、山邦紀1994年第三作「いんらん令嬢 野外逆レイプ」(主演:石原ゆり)。先行する、小川和久(現:欽也)の「監禁《秘》逆レイプ」(1993/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:水鳥川彩)がDMMに見当たらないのが残念。


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 「全国変態妻 ‐どスケベ三昧‐」(1996/製作:旦々舎/提供:Xces Film/脚本・監督:山﨑邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:千葉幸雄・嶋垣弘之/照明:上妻敏厚・荻久保則男/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:高田宝重・飯塚忠章/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:美咲あやの・月野ひとみ・細野里緒・春野ふぶき・泉由紀子・扇まや・杉下なおみ・杉本まこと・佐々木恭輔・鈴木道徳・青木こずえ・甲斐太郎)。
 飛行機の着陸をモノレール越しに押さへてタイトル・イン、奥に東京タワーを置いた新幹線の画を挿み、クレジットに乗せて主演女優、二番目と三番目、杉下なおみに泉由紀子、続々と女々が馳せ参じる。更に若干名の男衆を加へた一同が会する一室、四つん這ひのウェディングドレス姿の女が、白衣の鈴木道徳に二股の張形で責められる。達した女が拍手に送られ捌けると、甲斐太郎にピンスポットが当たる。“心の同類と馬鹿をやらう”、“自分の変態を誤魔化さないで愉快な変態を厳密にやらう”をモットーとする、いはゆるマニアさん達の同好会「厳密美学研究会」主宰の梅原潔(甲斐)が会の総決算的な大イベントの開催を宣言したところで、噂を聞きつけたフリーのビデオジャーナリスト・ミナミレイコ(青木)が乱入する。梅原は取材の条件としてレイコが自身等と“心の同類”になれるか否かを提示し、事実上門前払ひ。開巻二番目の大阪から来た女と、鈴木道徳を助手ポジションに強姦プレイを敢行・撮影した梅原は、事後は大阪から来た女が持参した三重名産の赤福に舌鼓を打つ。
 配役残り、山﨑邦紀アテレコの高田宝重は序盤で早くも核心を割る、リビング・ニーズの件で梅原を訪ねる保険会社社員。泉由紀子はラバーフェチの女で、佐々木恭輔が泉由紀子戦の助手役。泉由紀子の土産はういらう、漢字で書くと外郎て書くんだ。続いてはビザールかと思ひきや、要は単なるコスプレらしいミチコ(美咲)篇、ここでの助手は再び鈴木道徳。杉本まことは、プレイの最中に雪崩れ込むミチコ夫。飛び込んで来るや出し抜けに女房の頬を張る杉本まことと、ミチコが激しく遣り合ふ一幕では美咲あやのがエクセスライクを吹き飛ばす、予想外の決定力を披露する。田中スタジオのエレベーター前で佐々恭に出迎へられる扇まやは、九州から明太子を手土産にやつて来た自ら曰く“二穴同時挿入の女”、正体不明の説得力を迸らせる。杉下なおみは正直泉由紀子と被る、レザーフェチの女・タカコ。この人は札幌からで、おみやはレーズンホワイト、品のセレクトも弱い。依然残す出演者に関しては、纏めて後述する。

 フロンティア・ロスト、

 今回は伊達ではない、水元はじめも見尽くした、正真正銘の残弾数ゼロである。オーピーのデジタル新作が観られる目処が未だ立たない中、大蔵時代の凄い旧作の新版プリントを焼いて呉れるのを期待するほかなくなつてしまつた。何気に絶望的な泣き言はさて措き、兎も角山﨑邦紀1996年最終第六作。最期を見据ゑた男が仕掛ける、一世一代の馬鹿騒ぎ。といふと絶頂研究所に先行する魅力的な大風呂敷にも思へ、話はなかなかさう単純には進まない。今回脱ぎも絡みもする女優が総計八人といふ大軍勢の所以は、対正月の御祝儀布陣。ところがこれが、諸刃の剣が悪い方向に転ぶ。濡れ場濡れ場と正直他愛ない津々浦々感に尺を埋め尽くされた結果、梅原のドラマが一向深化しない以前に、そもそも率直なところ量を優先した、粒の揃はぬ女優部すら自壊する。どストレートに可愛いルックスとプックリ悩ましく膨らんだオッパイの美咲あやのや手短に消化される泉由紀子に加へ、トメ前に座る青木こずえに至つては、クライマックスに及んで駆け込み気味に漸く脱ぐ始末。挙句に、八人も並んでゐるにも関らず、どう見てもなほ名前が少なくとも一人分足らない。オーラス今際の間際の梅原が見る全裸走馬灯の中に登場する点とビリング推定から、大阪から来た女が恐らく月野ひとみで、終盤コンビで片付けられる猿轡女とクスコ拡張女が細野里緒と春野ふぶきの何れかではなからうかとは、容易に推測出来る。ところが、さうなると些かカメラが遠く見慣れない人相が判然としない開巻三番目と、目隠しで隠された顔が殆ど満足に抜かれないウェディング女が仮に同一人物であるとしても、この人がクレジットから抜けてゐる。開巻三番目≒ウェディング女が、大阪から来た女・猿轡女・クスコ拡張女の何れでもないことは首から上的にも下的にも間違ひない。無闇な大所帯自体が混乱を来たしてゐるとなると、映画が纏まらないのもある意味至極当然の結果といつたところか。但し御上に怒られる箇所は強い光でトバした、銘々が微笑みながら順々にお迎へに来るオーラスの全裸走馬灯。役者の違ひを見せつける青木こずえの貫禄が出色、細い腰から骨盤にかけての充実したラインの美しさが比類ない。

 薔薇族込みで五十本弱のDMMピンク映画chの山﨑邦紀の頁には、実は浜野佐知1992年第五作「拷問水責め」(脚本:山崎邦紀/主演:木下みちる)と、遠軽太朗通算第三作「喪服妻暴行 お通夜の晩に‐」(1998/主演:里見瑶子)が紛れ込んでゐる。DMMがザルなのか元々エクセスが仕出かしたのかは兎も角、これ、となると逆に何処か余所に山﨑邦紀作が混入してゐる可能性があるかも知れないのか?


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 「暴行タクシー ハメられた女たち」(1997/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:小山田勝治/照明:渡波洋行/編集:北沢幸雄/音楽:TAOKA/助監督:加藤義一・三輪隆/撮影助手:岩崎智之/照明助手:細貝康介/スチール:本田あきら/ネガ編集:酒井正次/音響効果:東京スクリーンサービス/車輌:MORIMAN/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:風間由衣・槇原めぐみ・原田なつみ・桜沢愛香・神戸顕一・池島ゆたか・荒木太郎《友情出演》・濱本康輔・京都義一・加藤友人・業沖球太・杉本まこと)。
 夜のタクシー乗り場光の海を舐めて、大雑把なタイトル・イン。桃の図柄のMORIMANタクシー、またこの車外灯が甚だしくお粗末な出来で、斯様に不用意な小ネタであるならば、無闇に盛り込まなければいいのにといふ薮蛇感は強い。競馬では負け、客は近場ばかり。全く今日は最高の一日だと客(濱本)に愚痴るやさぐれたタクシードライバー・川間恭平(杉本)は、池島ゆたかと桜沢愛香の二人連れを乗せる。帰宅しようとする桜沢愛香に対し、池島ゆたかはレッツらゴーな持ちキャラでホテル直行を指示、さうかうしながら後部座席にて結構派手に開戦する。業を煮やした川間がわざと急ブレーキを踏み、初戦は強制終了。池島ゆたかが先に降り、川間と桜沢愛香二人きりの車内。運転手にナメた態度をとる桜沢愛香を犯した川間は、全く同罪の前科を持つてゐた。よく雇つたな、MORIタク。事後川間はまたやつちやつたと悔悛する素振りを見せかけて、腐れマンコ―何故か音声ノーガード―にブチ込んでやつただけとこの男全く懲りてない。
 配役残り、ここで遅れ馳せながらビリング頭の風間由衣は、MORIタク御用達の居酒屋女将・ユウコ、川間とは男女の仲にある。神戸顕一は川間に元利込み込みで十六万の貸し金も持つMORIタク同僚、固有名詞が聞き取れない、戸越?京都出身である加藤義一の変名に違ひない京都義一と、加藤友人・業沖球太もユウコの店でのMORIタク乗務員要員。背中からしか抜かれないので恐らく、ユウコの店のファースト・カットで神戸顕一の左に座つてゐるのが加藤義一。得意とする巻き舌の口跡が激越に腹立たしい原田なつみは、金がないゆゑ―運賃を―体で払はせろといふふざけた痴女客、レスの人妻。そしてよくいへばラストに飛び込んで来る槇原めぐみが、二年の文通の末に、待ち合はせた男にスッぽかされた栃木娘。忘れてた、荒木太郎は、借金の形にユウコを神戸顕一に売りかけて、思ひ留まつた川間に行く先の途中で降ろされる客。
 「痴漢人妻タクシー」(1995/主演:生島奈香江)を小屋に観に行く予習にと、DMMで拾つておいた北沢幸雄1997年最終第四作。ところがこれが、一言で片付けるとどうにもちぐはぐな一作。開巻の四番手奇襲は、そもそも四人目が必要なのかといふ根本的な疑問を一旦さて措けば決して悪くない。川間とユウコのマッタリと濃厚な濡れ場は、作中最も見させる。続いて借金の件を投げた上で、原田なつみパート。身勝手な膳を据ゑ続ける原田なつみに川間が、やかましいんだババアと終にブチ切れる瞬間には感情移入のゲージが頂点に達しつつ、どれだけ繁つたところで、所詮枝葉は枝葉、花が咲きはしない。ユウコが神戸顕一に手篭めにされるのを間一髪で阻止しての、雨降つて地固まる川間V.S.ユウコの劇中第二戦でお話を纏めるなり畳むものかと思ひきや、問題はその時点でまだ尺を十五分強も残す。結局最後の槇原めぐみ篇が綺麗に木に接いだ竹、下手に槇原めぐみに主演―の筈の―女優を制し得る決定力がある分なほさら浮いてしまつてゐる。狙ひ過ぎた結果、タクシー車内での絡みが暗くてよく見えないのも考へもの。四本柱各々のエピソードが単体ではそれなりでもあるものの、繋がりがあまりにもへべれけで一本の劇映画としては却つて居心地が悪い。


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 「ポルノ・レポート 金髪パンマ」(昭和51/製作:プロダクション鷹/配給:日活株式会社/脚本・監督:木俣堯喬/撮影:井上和夫/照明:石部肇/効果:秋山実/編集:井上正/助監督:中島義人/撮影助手:佐々木哲男/照明助手:三好実/録音:東音スタジオ/現像:ハイラボ・センター/出演:Missエマニエル、Missボン・ボン、谷了子、広瀬京子、青木理沙、藤ひろ子、港雄一、堺勝郎、長岡広、吉岡一郎、九重京司、木南清、林光男、青木けんじ、中台明、木村昌治、藤春樹/特別出演:珠瑠美)。jmdbには記載される企画の和泉聖治と製作の木俣堯喬が、本篇クレジットには見当たらない。
 波打ち際に生きた本物の鷹を配した、プロダクション鷹の猛烈にカッコいいカンパニー・ロゴにこれが本来のバージョンなのかと度肝を抜かれる。たて続けにビートの効いたディスコな劇伴が起動するや夜のホテル街、主演の金髪女優が、客とセックスする。原版が現存してゐる所以で、画質は非常に素晴らしい。尤も、快調であつたのはここまで。二分過ぎに手書きの適当なタイトルがインすると、同じ筆致の自由奔放なクレジットに眩惑させられる。“谷”の字を、“大”の下に“口”で書く略し方なんて初めて見たぞ。一々そんな簡単な漢字省略するなよ、画数もひとつしか違はねえぢやねえか。
 気を取り直して連れ込み「あぐら荘」、女将(藤)に井村マッサージから呼ばれた千吉(堺)が、マッサージもそこそこに喰はれかける。然し前世紀末までピンクに出続けた藤ひろ子が、この時点で全然変らないのには軽く驚いた。そこに到着した井村マッサージのパンマ・ヨリコ(谷了子か広瀬京子か青木理沙)を、女将は六号室に振る。最初は固辞してゐたのに、結局普通にヤッてゐる六号室の一戦と、女将V.S.千吉戦が併走。拷問レベルでチンコを乱雑に扱はれ、ポップに悶絶する堺勝郎の顔芸が楽しい。ところが、上がりを巡つて井村マッサージの親方・万吉(港)と対立したヨリコが出て行く。仕方なく新しい女のスカウトに繰り出した万吉と千吉は、鞄を引つ手繰られた白人女を目撃、新宿署から出て来たところを接触する。フランスからジャバニーズ歌麿要は歌麻羅の研究に来たといふジャネット(エマニエル)は、万吉が不安になるほどの話の早さでザクザク話を呑み込み、相変らず適当な手書きによる本篇字幕ママで“かくて金髪パンマ日本初登場”。井村国際マッサージ院と屋号も変へた、万吉の商売は繁盛する。因みに、初見の“パンマ”なる単語を調べてみると、“パンパン”と“按摩”の合成語で、女性マッサージ師を装つた売春婦とのこと、勉強になつた。
 固定出来る配役残り、広瀬京子か青木理沙か谷了子は、ヨリコ以外に井村マッサージ唯一のパンマ・マキと、万吉の女房・マサエ。ボン・ボンはアメリカからショーダンサーとして来日するも招聘したホテルが倒産、職にあぶれたといふ触れ込みであぐら荘女将が千吉に紹介する、黒人女・マーサ。またこの女が何処がダンサーだといふ黒い肉襦袢、千吉との実地訓練に際しては、堺勝郎のオーバーアクトとボン・ボンの大味なメソッドとが正面衝突。濡れ場の筈なのに怪獣映画の一幕の如く見える、奇跡なのか悪夢なのかよく判らない名ならぬ迷シークエンスが結実する。吉岡一郎はマキの客、そして満を持して登場する珠瑠美が、ジャネット・マーサ・マキの三人しかゐない井村国際マッサージ院三本柱と、千吉もおまけに一晩三十万で買ふ有閑マダム。
 DMMのピンク映画chにパツキンものが着弾したので何となく踏んでみたところ、木俣堯喬昭和51年第一作であつた。珠瑠美共々ウィキペディアが異常に充実してゐる木俣堯喬(2004年没)に関して大雑把に整理すると、相棒で今をときめく和泉聖治の実父にして、珠瑠美の夫。珠瑠美は四番目の妻―和泉聖治は二番目の妻との間に出来た子供―で、結婚したのは昭和56年。珠瑠美映画の美術担当で御馴染みの衣恭介が、木俣堯喬の変名であるといふのは寡聞にして知らなかつた。今作はプロ鷹参戦二作目の、買取系ロマポに当たる。昭和61年と早くに監督業から離れたこともあり、これまで普通に小屋に足を運ぶ限りでは、木俣堯喬作に触れる機会には恵まれず。とかいふ次第で初戦や如何にといふと、港雄一と堺勝郎のイイ味はひの2ショットや白黒の飛び道具といつた見所も確かになくはないものの、特筆すべき点が見当たらないといふか、端的には清々しく面白くも何ともない。幾ら流石に頭数なりロケーションが潤沢とはいへ、所詮お話がへべれけである以上やつゝけはやつゝけ。ピンク映画とロマンポルノが、別枠といへば別枠ともいへ、最終的には地続きの同じ裸映画であるシンプルな事実が実感出来る一作である。


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 「本番女医 濡れまくり」(1997/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:田中譲二・田宮健彦・戸田聡申/照明:秋山和夫・中野守/編集:㈲フィルム・クラフト/音楽:中空龍/助監督:井戸田秀行/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:水沢侑希・青木こずえ・田口あゆみ・杉本まこと・平賀勘一・樹かず・リョウ《友情出演》)。
 深夜の病院廊下にクレジット起動、“宿直室 平島奈津子”の表札。病室での内科入院患者・楠田雄次(平賀)と、その日―個室である―病室に宿泊することを許された妻・リエ(田口)が夫婦生活をオッ始める様子を捉へたビデオ映像に、楠田の担当医で、当病院の理事長夫人でもある平島奈津子(水沢)が視線を注ぐ。奈津子がブラウスの釦を外すと、首から上はある意味綺麗なおかめ顔ながら、威圧的なまでに見事なオッパイがボガーンと大発射。爆乳を揉みしだきながら大股開きで悶え始めるとタイトル・イン、開巻のパンチ感は圧巻。
 名札が見えさうで微妙に判読出来ない外科医(杉本)に「今夜会へない?」と誘はれた美津子は、「いいはよ」と吃驚して呆気にとられるほどの即答。割烹「富士乃」にて密会、新病院建設予定の関西に張りつく理事長と、事実上別居生活を送る美津子に杉本先生(仮名)は離婚の二文字すら持ち出して迫るも、見事にかはされる。ここで、清々しいまでに真直ぐな棒口跡はこの際―どの際だ―さて措き、水沢侑希は確かに乳も太いが全部脱がせてみると、要は全般的に太い。騎乗位の体勢になるや明らかに自分よりも体積の大きな女に乗られた、杉本まことが正直苦しさうだ。兎も角、水沢侑希V.S.杉本まこと第一戦は中途で切り上げ、平島病院(仮称)にキャップと大きなグラサンとで顔を隠した、明らかに不審な樹かずが現れる。激しい胃の痛みを訴へたミュージシャン・氷室真吾(樹)が検査入院することになつた美津子の診察室に、氷室の熱狂的ファンの看護婦・喜多マキコ(青木)が飛び込んで来る。氷室には呆れられ美津子には嗜められつつ、勿論その夜、マキコはいはゆる逆夜這ひを敢行する。配役残りカメオのリョウは、仕事が一段落ついたとやらで翌日帰京する旨の電話を入れる、美津子の夫・吾郎。
 前を肌蹴ただけだと相当のプロポーションに見えるものの、諸肌脱いだ状態では巨乳といふよりも要は巨体。凄く器用に、且つ物凄く派手に着痩せする主演女優を擁した浜野佐知1997年第二作。量産型娯楽映画が時に打ち込んで来る、吃驚キャスティングも今となつては麗しい、麗しいといふ言葉の意味知つてるか?女の裸をつらつらと愉しむ分には何ら問題はない―寧ろ、デカい女好きの御仁には猛烈に堪らないのかも―ものの、劇映画としては決して芳しくはない。患者を預かる責任だの、チェックは奈津子限定だのといつた戯けた方便で全病室に二十四時間体制の監視カメラを設置してゐるといふ平島病院(仮称)の基本的な設定が、手短な電話を入れるのみの出番で何しに出て来たのかよく判らないリョウの口から語られるのが尺も折り返しを過ぎた後半、といふのは些か遅きに失してはゐまいか。美津子はマキコV.S.氷室戦の翌日、薬物で昏睡させた氷室をマキコの仕業に偽装して喰ふ。尺八で抜いた氷室の精を胸の豊かな正しく双球に垂らすと立体的な弧を描いて流れ、更にそれを自分で舐めるショットは激しく扇情的で素晴らしいのだが、大概なお痛をカメラの存在込みで氷室に辿り着かれてからの終盤が頂けない。娯楽映画の王道たる勧善懲悪に従ふでなく、身から出た錆といふか自業自得とでもいふか、兎に角美津子が追ひ込まれた絶体絶命を覆す奇策が繰り出されるでもなく。表の顔と裏の顔とやらてんで釈然としないキー・ワードで無理矢理畳み込まうとするラストは、最終的には水沢侑希のエクセスライクに阻まれまるで纏まらない。田口あゆみは単なる平勘の恋女房、青木こずえも矢張りただの氷室真吾のグルーピー。女優部後ろ二人が濡れ場要員の枠の中に留まる布陣の中で、旦々舎一流の女性主義を徹底させた結果、よりもう一歩踏み込むならば固執した結果。さりとて悪人でしかないヒロインを素直に敗北させられぬ頑迷さが、物語の着地を歪めたものと評するところである。

 吾郎からの電話を取つた直後に、サンドイッチを買ひ訪ねて来た杉本先生(仮名)を美津子は―理事長が―帰つて来るのは明日だからと自宅に招く。ここもてつきり吾郎が一日予定を早め修羅場が繰り広げられるのかと色めきたつたのは、リョウ(=栗原良=ジョージ川崎=相原涼二)十八番の“どうしてかうなつたんだ”が見たかつたゆゑの勇み足。


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 「OL調教 私、変態ですか」(1998『OL奴隷監禁 もらす』の2001年旧作改題版/製作・関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:片山圭太/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:《有》フィルムクラフト/助監督:片山圭太/撮影助手:新井毅/照明助手:臼井幸男/監督助手:竹洞哲也/音楽:シノゾー/効果:東京スクリーンサービス/出演:桜井倫子《新人》・浅倉麗・原田なつみ・やまきよ・岡田謙一郎・真田亮宏・杉本まこと)。“配給:大蔵映画”ではなくオーピー映画提供としたのは、白黒のOP開巻に従つた。
 ハークション!商店街をポップに大きなくしやみをしながら田所岩男(杉本)がホテホテ帰宅する。夫の扱ひがぞんざいな妻・時枝(原田)に自ら夫婦生活を求めておいて、田所は情けなくも中折れ。二回戦の要求を、当然臍を曲げた時枝に突つ撥ねられたところでタイトル・イン。丸井物産営業一課、席次が判明する成員は時計回りに、十時の位置に雪子(浅倉)。十二時上座に係長の田所、以降順に武井信夫(やまきよ)・若林冴子(桜井)と続く。相変らず大きなくしやみを連発、見事な昼行灯ぶりに雪子や武井からは舐められてゐる田所に、冴子は優しくポケット・ティッシュを差し出す。そんな冴子を、豹変した田所が衆人環視の下暴力的に陵辱するのは、勿論関根和美一流の妄想オチ。武井と交際中の冴子と、武井の元カノであつた雪子が諍ふ会話を立ち聞きした田所は、帰宅途中忘れて来たことに気付いた財布を取りに戻つたオフィスでの、冴子と武井の情事を目撃する。そんなある日、更衣室や手洗ひを覗いた覗いてないで、冴子が田所に喰つてかゝる。その夜、冴子とラブホテルに入つた武井が、バットで後頭部を殴打され襲撃。冴子は野球のユニフォームにマスカラス・マスクの怪人物に、シーユーではなくソーロング閉店後のスナック「美風」に拉致監禁される。
 配役残り岡田謙一郎は、冴子失踪事件の捜査に際して乗り込んだ営業一課にて、武井と田所相手の事情聴取をブライバシー完無視でやらかす大雑把な刑事、真田亮宏はその部下。営業一課にもう二名若い男が見切れるのは片方が竹洞哲也につき、もう一人のパッと見山名和俊似が片山圭太なのか。
 関根和美1998年第四作、川井健二をもう三発残しつつも、DMMのフロンティアが消滅した今、関根和美未見―あるいは未感想―のド旧作が放り込まれるのはひとまづ何にせよ有り難い。開巻で三番手、序盤で二番手の濡れ場を順調に消化。展開上の大技込みで残り尺を主演女優に傾注する構成も磐石、であつた筈なのに。そもそも目つきが悪く、首から上も下もよくいつて十人並でしかない桜井倫子が清々しく訴求力に乏しい。加へて目元の大きく開いたマコカラス・マスクで素性をほぼ曝し、挙句に御丁寧にもユニフォームのまゝ帰宅するとあつては、監禁犯が謎ですらない以上サスペンスも機能するしない以前に成立してゐない。土台が、ミス・リードするに足る頭数さへビリングに見当たらない始末。抽斗の二段目と三段目二段構へのバッド・エンドは、手際のモタつく下手な手数ぶりが進歩の窺へぬ、もとい今も変らぬある意味安定はしてゐるけれども信頼は別にしてゐない関根和美クオリティ。兎も角もしくは兎に角、第三の野望あるいは悲願“ハンドレッド・関根和美”まであと二十有余本。デジタル・オーピーが観られる目処が未だ立たない中、正直小屋だけでそれを目指すのは絶望的な戦況であるやうに思へなくもないとはいへ、不発であれ不作であれ不毛であれ。ひとつひとつ、与へられた機会は全部観て行くのみ。何なんだその、頓珍漢に悲愴な決意は。

 桜井倫子の新人特記に関して一点、公開だけならば、「痴漢エロ恥態 電車・便所・公園」(1998/監督:勝利一・坂本太・佐々木乃武良/脚本:有馬仟世)の方が早い。桜井倫子は佐々木乃武良の第三話「公園の痴漢」に主演、勝利一と佐々木乃武良は当作で合同デビュー。


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 「白衣の生下着 太股ねぶり」(1995/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:井戸田秀行・北村聰一郎/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:里中未来・桃井良子・青木こずえ・樹かず・真央はじめ・荒木太郎・山本竜二)。
 ハイテンポな劇伴起動、局部―パンティは着用―にスポットを当てる画に乗せてクレジットが走り、出揃ふと暗転してタイトル・イン。床に伏せる男を白衣の看護婦が検温するのを、旧旦々舎の庭から抜く。軽い脳梗塞を起こした実業家の辰巳剛(山本)は、友人が院長の病院から通はせる劇中用語で付き添ひ看護婦の小谷か古谷綾子(里中)に、私はもう長くない的な泣き落としから最終的には押し倒して、幼少時親に見付かり中断されたお医者さんごつこの続きを求める。“特別看護料”もちらつかされ傷口がパックリと開いてだ腫れを消毒だと攻守が交替する愉快な事後、辰巳邸を辞す綾子は辰巳の長男・タカユキ(荒木)と擦れ違ふが、陰鬱といふ訳ではないにせよ非人間的スレスレに冷淡なタカユキは、父親に全く関心がない態度を露にする。妻・マリ(桃井)との会話もそこそこに、弟・ヒロユキ(樹)が美味しさうに夕食を摂る食卓にもつかずにタカユキは就寝。ヒロユキは兄に蔑ろにされるマリに言ひ寄るも、ここは固く拒まれる。翌日だか後日、綾子にタカユキとの疎遠に関して話を振られた辰巳は、自らがタカユキの幼少時にも、お医者さんごつこを必要以上に叱責してしまつた過去を告白する。
 配役残り真央はじめは綾子の彼氏、要は男優部濡れ場要員ながら、家族はバラバラで患者は矢鱈元気と、綾子の愚痴を聞く形で辰巳家の外堀を埋める作業に側面的に参加する。ファースト・カットから挑戦的に中盤の火蓋を切る青木こずえは、昏倒の報を聞きつけ辰巳邸に乗り込む、辰巳の愛人・ユカ。閉塞した辰巳家を揺さぶる動因を果たすと同時に、一流のバランス感覚で華麗に飛び回る。
 最後の最後で豪快に卓袱台が引つ繰り返るのも通り越し吹き飛ぶ、浜野佐知1995年ピンク映画第十作。因みにこの年はピンクが全十二作と、薔薇族が更にもう一本。量産型娯楽映画は、現に量産してこそ花よ。次男には自分達よりも長生きするとすら呆れられる、怪物的な家長が支配する一家。父親に距離をとる長男は心を閉ざし、放置された兄嫁は次男坊は拒絶しつつも、家長には普通に手をつけられてゐたりもする。そこに家長の愛人が飛び込んで来ていよいよ収拾がつかなくなる中、外から家に入るヒロインは兄嫁の不遇を慮る。里中未来もエクセスライクな覚束なさを感じさせることもなく、てんこ盛りの女の裸込みで頑丈に出来上がつた桃色のホーム・ドラマにあつて、舞ひ降りた白衣の天使―当該件では私服だけど―が荒木太郎の決定力で綺麗に形を成すタカユキの屈折を解き解すハイライトの強度は、文句なく素晴らしい。綾子に背中を押されたタカユキがマリとの夫婦仲を修復し、一人濡れ場の蚊帳の外に置かれたヒロユキを、青木こずえが持ち前のフットワークの軽さで救済する展開も磐石。となるとここは、全員に家を出られた辰巳がこれまでの傍若無人が祟つた“そして誰もゐなくなつた”孤独に叩き込まれる因果応報が流れに沿つた順当にして磐石な着地点。かと思ひきや、堂々とバレてのけるがよもや締めの濡れ場に綾子が辰巳との二度目の、劇中通算三度目となるお医者さんごつこを受け容れるとはまさか思はなんだ。辰巳を篭絡した綾子が、財産の独り占めを狙ふとでもいふ腹ですらなく、綺麗に繋がつた、繋がつてゐた筈の物語の流れが、ものの見事に水泡に帰すラストには本当に吃驚した。確かに、あるいはある意味でのいはゆる“衝撃の結末”。里中未来と荒木太郎の絡みで棹を立てる前に心洗はれた、俺のエモーションを返して呉れ。量産型娯楽映画は量産するのが花と先に述べたが、下手な鉄砲が当たるは当たるにせよ当たり処が悪かつたかのやうな一作である。


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 「美人姉妹 月下の凌辱」(2014/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:山内大輔/撮影監督:宮永昭典/編集:有馬潜/助監督:小山悟/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:加藤育・金山翔太郎/撮影応援:島根義明/音楽:友愛学園音楽部/音響効果:山田案山子/出演:桜ここみ・佳苗るか・酒井あずさ・津田篤・山本宗介・森羅万象)。クレジット終盤に力尽きる。
 細い三日月を一拍抜いて、鎖で繋がれた上に目隠しと口は粘着テープで塞がれた女が、ナイフで怯える体を嬲られタイトル・イン。秀逸に謎と核心とを投げた開巻は、グルッと二周して二度観ると重ねて素晴らしい。
 大蔵保険営業職のOL・大友レイ(桜)は言ひ寄つて来る同僚・遠藤隆史(山本)を、一切気は乗らぬまゝホテルに連れ込む。正常位での営みに自ら早々に匙を投げ、騎乗位で派手に気をやつたレイは事後、改めて遠藤を拒絶する。義父・雄司(森羅)が散乱した競馬新聞に囲まれ高鼾をかく大友家に帰宅したレイに、四つ下で、中野大学に通ふ妹・カナ(佳苗)は一人暮らしを決めたと報告。カナが家を出ることを、レイも快諾する。レイが中学の時に、二人の母親・ノブエ(酒井)は雄司と再婚。劇中仕事をしてゐる素振りは欠片も見せない雄司にさんざ苦労させられながらも、大病を患ひ死に至るまで、ノブエは雄司の肉の支配から逃れられなかつた。高校時代、度々雄司が母を虐げる夫婦生活を目撃してゐたレイは、余命幾許もないノブエが、カナを守る為に自身を雄司に売る会話も聞いてゐた。そんなある日、カナからの連絡が四日間途絶える。心配したレイはカナのアパートを訪問、一見善良さうに見える隣人・杉下(津田)は、友人宅にでも泊まつてゐるのだとレイを慰める。仕方なく手ぶらで帰るかとしたレイは、旅行中である旨のカナからのメールを着弾する。
 五ヶ月後に大蔵電撃移籍を果たす山内大輔を脚本家に擁し、デビュー十周年を記念した2012年第一作「どスケベ検査 ナース爆乳責め」(脚本:小松公典/主演:あずみ恋・Hitomi)以来、要は二年七作ぶりに満足な脚本を得た加藤義一2014年第二作。漸く袋小路を自覚したのかオーピーが終に堪忍袋の緒を切らしたのかは知らないが、とりあへず胸を撫で下ろす。尤も、次々作は盟友ないしは最終兵器・城定秀夫を迎へるのに対して、次作の脚本は相変らず鎌田一利であつたりもする。2015年第一作の話は地方在住の純然たる一ピンクスには依然聞こえて来ない中、かつての岡輝男との黄金コンビ復活を夢想してみるのは、恐らく叶はぬ望みであらうことならば判つてゐるつもりである。
 今作単体に話を戻すと、パキパキッとした硬質の美貌と、柔らかさを感じさせる天然美乳が狂ほしい桜ここみ。パーカのフードを被ると際立つ体の小ささが、自身の前作にして初陣「いんらんな女神たち」第一話「さやうなら好きになつた人」(脚本・監督:金沢勇大)の時とは別人のやうにロリロリした印象を爆裂させる佳苗るか。そして、永遠の全盛期を咲き誇る酒井あずさと、女優部三本柱はエクストリームに強力。一方受ける男優部は、邪欲の権化に相応しい歪んだ重厚感をバクチクさせる森羅万象をトメと扇の要に配し、絶妙に闇を孕んだ津田篤とストレートな山本宗介、脇を二人のイケメンに固めさせる布陣に隙はない。ドラマ的にも先行する姉の母譲りの業を、修羅場を潜り抜けた妹の狂気が一息に追ひ抜く展開には、流石山内大輔を連れて来ただけのことはあると激しく興奮した。ところが、カナがレイをブッ千切つたところで終つてしまふラストには、薮蛇に大友家に現れる遠藤の間抜けさ含め別の意味で吃驚した。肩を透かされるでなければ、腹を立てるでもなく。表面的にはダークな雰囲気に反して、唐突に現出した空白に只々呆気にとられた。何といふか、不思議な手応への一作である。


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 「かまきり熟女 長襦袢を剥ぐ」(1996/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:森満康巳・加藤義一/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:岩下志乃・桃井良子・青木こずえ・甲斐太郎・ジャンク斎藤・杉本まこと)。
 集合住宅の外観舐めて、楚々と歩く和服の馬面。一転肩を肌蹴た岩下志乃が舌を出してクレジット起動、楚々と絡みのイメージを往復がてら、東映化学までクレジット消化してタイトル・イン。夕日が丘ハイツ自治会会長・春木千尋(岩下)と、同じくイベント担当の川本真之介(真央はじめアテレコのジャンク斎藤)の一戦。顔の長さに慣れれば、案外以上にいい女かも。その頃夕日が丘ハイツ集会室では、自治会副会長・真藤恒介(杉本)以下後述する青木こずえ、鈴木静夫と加藤義一も含む計十名が千尋を待つ。澄ました顔で千尋到着、本日の議題は、隣接地に予定されるワンルームマンション。ありがちな風紀云々の方便を持ち出し建設反対の方向に持ち込まうとする執行部に対し、正味な話千尋に対する個人的な嫌悪感を根本に住民エゴであると会計担当の樋口祐子(青木)は異論を唱へる。真藤の妻・ケイコ(桃井)は夫の失踪後、多くの男と噂の立つ千尋に真藤も誑し込まれはしまいかとポップな嫉妬心を燃やす一方、祐子は一緒に自治会と戦ふ同士として、集会に顔を出さない川本に白羽の矢を立てる。秋のリクレーションのピクニックの下見、千尋は真藤と川本双方を言ひ包め、二人きりで山中に足を伸ばした真藤を、勿論そこで喰ふ。ところが下見当日の土曜日、ベンチで一服する川本に祐子が接触、千尋がついた嘘は露呈する。配役残り甲斐太郎は、祐子のお人好しの亭主。自治会要員恐らく森満康巳も除いた残り六名は、何処から動員したのか全くそれらしき中年の善男善女。
 祐子が目を落とす自治会名簿に、広報担当の山崎邦紀の名前も見切れる浜野佐知1996年第一作。川本を篭絡した祐子は、疑惑のピクニック下見に関する臨時役員会召集を動議。一見狭い共同体の中で千尋―と真藤も―は絶体絶命、素直に狼狽する真藤に対し、秘策があるのか千尋は動じない。と、比較的適宜種を蒔きつつ全般的には絡み絡みを穏やかに連ねるに終始する序盤と中盤を経て、いよいよ物語が本格的に動き始めてからの終盤が見所。千尋の起死回生の一手とは、川本宅に祐子が向かつた間隙を突く甲斐太郎篭絡。濡れ場のクロスカウンターが苛烈に火を噴く一幕、女の裸と劇映画、両面が一息に充実するグルーブ感は実に素晴らしい。結局、ケイコが終始真藤家リビングより半歩も踏み出でない点を鑑みるとビリングには修正の余地がなくもなく、最終的に岩下志乃は表情にも乏しいゆゑ思想的な深みは皆無ながら、雌雄を決した上で、対峙した祐子に千尋は言ひ放つ。「一瞬前には考へられなかつた出来事が一瞬後には現実になつてる、さういふ展開にワクワクするの」。鮮やかな決め台詞でエクセスライクな主演女優があの青木こずえを撃墜してみせるのは、青木こずえの受けもいいのだらうがサプライズな名場面。何でもないやうな映画が、面白かつたと思ふ、さういふ一作である。

 今回珍しく、監督クレジットはオーラスFINマークの直前に持ち越される。


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 「巨乳事務員 しやぶれ!」(2014/制作:セメントマッチ・光の帝国/提供:オーピー映画/脚本・監督:後藤大輔/プロデューサー:池島ゆたか/原題:『夢と同じ物』/撮影:飯岡聖英/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/タイミング:安斎公一/助監督:永井卓爾/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:宇野寛之・佐藤光、もう一名/編集助手:鷹野朋子/現場応援:中川大資/出演:麻宮ももえ・松井理子・衣緒菜・なかみつせいじ・津田篤・大場一魅・ジャコぱす太・小関裕次郎)。出演者中、小関裕次郎は本篇クレジットのみ。
 タイトル開巻、チャンチャチャンチャチャンと御馴染みのテーマをパクッた劇伴起動。パーティーグッズの安物のヅラを被り、銭形平次気取りで帰宅した加藤伸輔(なかみつ)を、妻の静江(松井)もお静気取りで迎へる。今回―も―時雨ではなく静江である所以は、平次とお静の夫婦(めをと)を成立させる為のギミックか。それはさて措き少し目を放した隙に松井理子が首から上含め完全にオバチャン体型で、特定のツボの持ち主以外には正直辛からう。台所にて夫婦生活がオッ始まるのは、伸輔の夢で一旦オトす。零細印刷会社「うざきや印刷」社長である伸輔が、自宅から直行したのか朝つぱらから営業してゐるSMクラブ「夜の女王様」(女王様は大場一魅、不完全消去法で奴隷は小関裕次郎)にチラシを納品。ところが女王様の注文は二千枚にも関らず実際刷つたのは二万枚と、枚数が一桁違つてゐた、とんだ五万節ならぬ二万節。出社した伸輔は、巨乳事務員・宮沢萌(松宮)を叱責する。ここで配役残りジャコぱす太は、技術職を方便に他の業務の一切を渋る「うざきや印刷」従業員・後藤。ジャコぱす太などと変名感がオネストな名義の正体は、ピンク映画界の小沢仁志こと後藤大輔その人である、因みに和義は工藤正典。伸輔に帰らされた萌が帰宅すると、カメラマンの同棲相手・清顕(津田)はアラビアンな扮装のケイ(衣緒菜)を家に連れ込んでゐた。萌が家出したり一晩で戻つたり、妊娠してゐるかも知れなかつたり知れなくなかつたり、萌と伸輔が何となく距離を近付けてみたりする中、萌は清顕と浜辺にポートレートの撮影に行く。出し抜けに愛の消失を告げた萌と、清顕は派手に痴話喧嘩。功成し名を遂げた清顕と矢尽き刀折れた萌だけでなく、この人も写真を志してゐた伸輔が、同じ海岸に引つ張り出したマミヤの中判カメラを抱へて撮影に来てゐた。二人の争ひに巻き込まれた格好の、伸輔はギックリ腰を爆発させ活動停止。伸輔を―伸輔の車で―長く一人の加藤家に担ぎ込んだ萌は、その場の勢ひといふか何といふかそのまゝ転がり込む。
 総じては粒の小さな、後藤大輔2014年第一作。寡暮らしの中年男に、オッパイが大きくて可愛い若い彼女が出来る。主要客層の琴線に延髄斬りを叩き込む非現実的もといドリーミンな大筋そのものに対しては、突つ込むのが寧ろ野暮といふもの。クラスタ同士でデキた萌と清顕は兎も角として、伸輔までもな写真好きばかりの工夫を欠いた劇中世界の狭さに関しては、一手間履歴書のエクスキューズを設けた以上、ひとまづ仕方なく等閑視することに。尤も、後藤大輔は女房に大病を患はせないとドラマが書けないのか、伸輔と静江の物語は脆弱なキャスティングに足を引かれ、なかみつせいじの片翼飛行を強ひられる。夢とやらが何時の間にか偶さかな色恋沙汰に変る、萌のアタシ臭い物語もオジサンにはハッキリいつてどうでもいい。但し、あるいは只々。「目なんか醒まさない!」、映画トータルの腰の弱さにも連動して基本心許ない主演女優が、突発的な決定力でエクストリームな名台詞を撃ち抜くハイライトには久々のテンションで吃驚した。おとなしくフィニッシュ・ブローを振り抜けばいいものを、余計な色気を出して衣緒菜(ex.吉瀬リナ)の濡れ場を再び盛り込んでみたりと以降も依然漫然としなくもないものの、午睡の夢であつたとて、よしんば過ちであつたとて。事ここに至るまで中途半端な表情を浮かべ続けたヒロインが決然と自らの人生を選び取る瞬間に、くたびれた体勢の客席からバキッと背筋が伸びる勢ひで感動した。一点突破で十分だ、残りは全て瑣末と忘れてしまへ。一撃必殺、何よりその言葉が似合ふエモーショナルな一作である。

 ところでこの映画の何処がもしくは何がテンペストなのか?そんなこと俺が知るか。


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