真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「屋台のお姉さん 食べごろな桃尻」(2009/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:小山田勝治/編集:酒井正次/助監督:三上紗恵子・金沢勇大/撮影・照明助手:大江泰介・藤田朋則/音楽:宮川透/協力:佐藤選人/出演:飯島くらら・里見瑤子・佐々木基子・野村貴浩・なかみつせいじ・久須美欽一・淡島小鞠・内藤忠司・ドンキー宮川・小林徹哉・広瀬寛巳)。出演者中、小林徹哉と広瀬寛巳は本篇クレジットのみ。
 兄・金吉(久須美)と弟・仙吉(荒木)の元労務者兄弟が二人で切り盛りする、違法営業らしい屋台「プロレタリア食堂」。屋台といふよりは露店にしか絶賛見えないことは兎も角、老婆役の淡島小鞠・内藤忠司・ドンキー宮川・小林徹哉・広瀬寛巳からなる抜群にイイ感じの常連客にも支へられ、食堂はとりあへず繁盛してゐた。一日の営業を終へ、とはいへ客単価の低さもあり上がりの侘しさを振り切るかのやうに、金吉と仙吉は久々に、特殊浴場にでも繰り出すのかと思へば菜摘(里見)の部屋を覗きに行く。そんな兄弟の前にアクティブな憎まれ役として登場するなかみつせいじは、二人の幼馴染で嫌味なジゴロ・轟こと、自称「轟シューさん」。何のことはない、菜摘は轟の情婦であつた。多分翌日、轟からこれ見よがしな出前の注文を請け負つた兄弟は、再び菜摘のマンションへと向かふ。藪から棒に獣化し欲情した菜摘との3Pに与りつつくたびれて帰路に就いた二人は、闇夜を切り裂く女の悲鳴を耳にする。つくづく役に立たない連中で、すつかり暴漢(誰なのかは不明)も果てた後に遅ればせながら駆けつけた兄弟は、助けた女・ゆき(飯島)をひとまづ食堂に連れて帰る。北海道から家出して来たといふゆきは食堂に居つき、看板娘として内藤忠司やドンキー宮川の鼻の下を伸ばさせる一方、金吉と仙吉は年甲斐もなくポップにゆきを巡り鞘当を演ずる。
 四の五の講釈を垂れながらプロレタリア食堂の料理と佇まひとに感激してみせる野村貴浩は、時折食堂に顔を出し、何時しかゆきが仄かな恋心を寄せる宇佐美義郎。内藤忠司が兄弟に教へた宇佐美の正体は、食を通じて日本をより良くすることを志す、議会の種類はイマイチ判らぬが議員候補であつた。宇佐美も宇佐美でゆきのことが好きであるらしいこともあり、何気にゆきとも3Pを経てゐることはさて措き、金吉と仙吉は涙を呑んでゆきを宇佐美に譲る。ところがそんな折、仙吉は和服姿の佐々木基子と仲睦まじい風情で腕組み歩く、宇佐美の姿を目撃する。出演者中淡島小鞠以下は、屋台客と同時に宇佐美応援者も兼務。
 身長差まで含めて、さりげなくいかりや長介と仲本工事とによる名作コント“ばか兄弟”を彷彿とさせもする、久須美欽一と荒木太郎の兄弟役自体は、決して悪くはない。不意に転がり込んだ、可愛いのかさうでもないのかがよく判らない微妙さが超絶に絶妙なヒロインを間に挟んで、ばかならぬプロレタリア兄弟が微笑ましく争ひつつ、未(ま)だ19である少女の将来のことも鑑み、前途有望な色男に一旦は託す。ものの、今度はそんなハンサムに二股疑惑が降つて湧く、といふ展開も人情譚としては麗しく王道で、素直に撮つてさへゐれば、普通に幾らでも形になり得てゐた筈だ。にも関らず、ここで正面戦を挑むことを知らないのが、あるいは挑み損ねるのが、荒木太郎といふ映画監督なのである。自身が基本的にはカメラの前に立ちつぱなしでその分疎かになつてしまつた、とかいふ間抜けな方便でもなからうが、兎にも角にも今作に於いて顕著となるのは冗長さ。台詞はそこかしこでモタつき、間が弛緩しきつたカットが頻出する。所々でマトモな箇所もなくはないのだが、全般的にテンポが悪く、配役とプロットだけ掻い摘めば魅力的にも思へるコメディが、まるで弾みもしなければ転がりもしない。その癖、夥しい品書きとスローガンとで埋め尽くされたプロレタリア食堂の店内を始め、舞台美術は徒に饒舌に過ぎる。菜摘や佐々木基子が事の最中に俄に暴走させるビースト・モードは、積極的に不要だ、といふか、より直截にいふならば邪魔だ。濡れ場に余計な意匠など妨げにしかならないことが、どうして荒木太郎には未(いま)だに理解出来ない。まづは勃たせるものを黙つて勃たせる、手前の映画を撮るのはそれからの話。プログラム・ピクチャーとしてのピンク映画は、さうあるべきではなからうか。必要なものが不足してゐて、要らないものばかりが溢れてゐては、それではどうあつたとて相談が通らう訳がない。脚本を三上紗恵子に委ねなかつた戦法は成功を収めてゐてもおかしくなかつたところなのだが、今度は荒木太郎が自身で、何時ものやうに仕出かしてしまつた。惜しさも残すだけに、なほ一層始末に終へぬ一作である。

 ところで佐々木基子の正体は兎も角職業はアナウンサーで、苗字は不明の名前はもな。かういふ辺りの振り逃げ具合は、瑞々しさも感じさせる。


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 「痴女の熟尻 やりたがり」(2000『異常体位 大淫乱』の2009年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/編集:金子尚樹 ㈲フィルムクラフト/助監督:高田亮・山口雅也/照明助手:藤塚正行・海沼秀悦/ヘアメイク:パルティール/制作担当:真弓学/スチール:本田あきら・加藤彰/タイトル:道川昭/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:麻宮淳子・里見瑤子・中村杏里・三浦景虎・ビートたかし・小池康之・畑中昭吾・ワタナベメグミ・中田朱美・白鳥沢京子・遠藤幸政・前川勝典・熊本輝生・久須美欽一)。出演者中、三浦景虎から遠藤幸政までは本篇クレジットのみ。脚本の国見岳志は、勝利一の変名。
 開店前のキャバクラ「ROSE GARDEN」、パイロットとの不倫の末にスチュワーデスを辞めたママの紀香(麻宮)が、旧知のカメラマン・大山義浩(前川)と立位による松葉崩しの真最中。アクロバティックな体位で喘ぐ主演女優のアップに、麻宮淳子のクレジットが被さる。旧題も鑑みると、誠麗しい開巻である。オープニング・クレジットは女優部三本柱と、勝利一のみ。事後、今後撮影予定のヘアヌードのモデルにと大山が乗り気でない紀香を口説かうとするところに、スーツケースを抱へた面接志望の真美(里見)が怖ず怖ず闖入。大きな荷物を見た紀香は、よもや家出娘ではあるまいなと疑ふが、真美は親の事業が失敗し金と住む場所とに窮したため、寮つきのアルバイトに応募して来た慶長大学の女子大生であつた。ゼミまで同じ後輩であつた奇縁もあり、紀香は真美を採用する。
 中村杏里と熊本輝生は、「ROSE GARDEN」のチーママ・春奈と、マネージャーの小金沢明、二人は男女の仲にもある。久須美欽一は、百万ばかりツケも溜めた常連の零細社長・吉岡肇。総勢八人の三浦景虎以降は、「ROSE GARDEN」の男女その他従業員と、客要員。ところでビートたかしといふのは、素直にターザン山本のことでいいのであらうか。出てたかなあ・・・・?さうと知つて観てゐた訳ではないので、全く覚束ない。長髪は長髪でも、飯田譲治のやうなのなら一人ゐたが。
 スマートなルーチンワーク、勝利一といふ人の売りを一言で評するならば、さういふ風にもいへるのではなからうか。当サイト的には、何気なく注目してゐる監督の一人である。今作は、エラ付近の大人ニキビに気づかないフリをすれば容姿超絶のヒロインを擁し、貧乏娘の水商売奮闘記といふ下町人情ピンクとしては大定番の物語を、ヌード写真の撮影に燃える写真家も絡めつつ立ち上げ、更にはその脇を、首から上の湾曲にさへ目を瞑れば完璧に近いプロポーションを誇る、イコール永森シーナの中村杏里が桃色に加速しながらガッチリ固める。本来なら順当に幾らでも綺麗な娯楽映画たり得てゐたところなのであらうが、ところが残念なことに、終盤に派手な、といふか無茶な釦の掛け違ひを仕出かすと、力技の硬着陸すら果たせず仕舞ひに散らかつたまゝ映画は幕を閉ぢてしまふ。しつこいくらゐ入念に置いたパンチ式カード錠の伏線から、一旦卓袱台を引つくり返す凶行の発生までは、まづ定石通りで軸足は些かも揺るがない。尤も、幾ら観客にも予想外のどんでん返しとはいへ犯人の意外な正体は、意外どころの話には済まず完全に破綻してゐる。あれでは初出勤日のシークエンスはほぼ全く、時に吉岡が暴発させる粘着質も、概ね成立しない。挙句にそこから先が、止めを刺すべく出鱈目に頂けない。急な窮地に俄に意を決した大山が「紀香、写真撮らせて呉れ!」と熱(いき)り立つと、紀香も「いいは!」と即答。一応締めの濡れ場がてらにいはゆるハメ撮り撮影、そのまんまエンド・マークなどといふ様(ざま)では、一大事を前に大山と紀香、頓珍漢二人の明後日な遣り取りに対しては確かに笑へぬでもないものの、広げた風呂敷が片付かないにもほどがある。メイン・ディッシュに麻宮淳子の美麗な裸身を改めて満喫出来るのは素晴らしいにせよ、だから奪はれた数百万円はどうするのかといふ話である。いつそ馬鹿二人が呑気にセックスなどしてゐるうちに、春奈と小金沢が警察に通報し何時の間にか一件落着、などといふ人を小馬鹿にでもしたかのやうなラストの方が、現実的にはまだしもしつくり来るであらう。

 まあそれにしても旧題も新題も、これだけ見てゐてはどんなストーリーなのだか一欠片たりとて想像がつかない辺りは妙に律儀に踏襲した、清々しいタイトルではある。幾ら何でも、紀香が別に痴女ではないが。


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 「社宅妻 ねつとり不倫漬け」(2009/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/脚本・監督:小川隆史/プロデューサー:国沢☆実/撮影・照明:長谷川卓也/編集:酒井正次/音楽:杉浦昭嘉/録音:シネキャビン/助監督:金沢勇大/監督助手:桑島岳大/撮影助手:梅津真也/撮影助手:桜井伸嘉/メイク:岩フェラー恵/スチール:本田あきら/制作進行:加藤学/現場応援:広瀬寛巳/編集助手:鷹野朋子/音響効果:山田案山子/タイミング:安斉公一/フィルム:報映産業/現像:東映ラボ・テック/特別協力:里見瑤子/協力:後藤大輔・風間今日子・江尻大・荏原ヒロシ・幸野賀一・小森俊兵・佐藤吏・渡邊元嗣・高井戸倉友会・杉の子プロ・荒木太郎・飯岡聖英・田中康文・小林徹哉・福原彰・アシスト・マジックアワー/出演:小池絵美子・淡島小鞠・越智哲也・野村貴浩・サイコ国沢・かとう馬ナブ・池島ゆたか・佐々木麻由子・佐々木基子・佐々木ユメカ・吉行由実)。出演者中、制作進行の加藤学と同一人物であらうかとう馬ナブは、本篇クレジットのみ。更に淡島小鞠が、ポスターでは何故か淡島亜小鞠。何だその名前、どうしたらさういふ頓珍漢が起きるのか。折角の初陣なのに、もう少しちやんとしてやれよ。
 ガイア・オルテガ・マッシュならぬ、登場順に基子・麻由子・ユメカ。近所で評判の弁当屋「たんぽぽ」のコロッケのり弁当を求め、佐々木三連星がジェット・ストリーム・アタックを展開する。転んだ基子をユメカが軽やかに飛び越すカットの疾走感は爽やかな反面、全般的には、あくまで走つてゐる“フリ”にしか見えない限界は突破出来ず。それと、恭輔や乃武良とは別にいはないが、こゝは日記も連れて来て欲しかつた。
 殺到する客を前に、店員の山本純子(小池)が厨房奥の池さん(後述)にコロのり弁の大量オーダーを朗らかに伝へるタイミングで、杉浦昭嘉と同じ選曲に乗せタイトル・イン。この時点で既に明らかともならう、特別と別立てされる里見瑤子が何を協力してゐるのかといふと、小池絵美子に代り主人公の声をアテレコ。一段落ついた「たんぽぽ」の表に、郵便配達のバイクが停まる。配達員・草間直人(越智)が人差し指と中指の間に挟んだ親指を舐める卑猥な仕種を純子に送ると、二人は何事かブロック・サインを交はす。草間はパートを終へた純子を社宅の住まひに訪ね、不倫の逢瀬。ところがその様子を、里中あかり(淡島)が誤配した郵便物を山本家の玄関郵便受けに突つ込まうとした、隣室に越して来たばかりの篠原久美子(吉行)に目撃される。事後、どうやら仕事を転々としてゐるらしき草間は郵便配達も辞め実家の農業を継ぐ展望を語り、純子も誘ふ。とはいへ、歳の差と夫がゐるのもあり、純子はどうにも煮え切らない。一方、久美子は純子の密通を密告する便りを認めがてら、筆の根も乾かぬうちに草間を狙ふ。
 画面の左右に座つた夕餉のカットにて、絶妙の2ショットを披露するサイコ国沢(国沢実の役者時名義)は、万年係長を揶揄される久美子の夫・茂樹、妻を抱く機会には恵まれず。こちらはヤリ手らしい野村貴浩は、妻の不貞の告発に翻弄される純子の夫・俊夫。御祝儀相場の様相を呈する―その割に旦々舎方面の名前は見当たらない―協力勢の中、フレーム内に見切れる人間は概ね「たんぽぽ」その他のモブ要員か。プロジェク太の画質が新作にも関らずあまり芳しくないのもあり、画面上ではひろぽんしか確認出来なかつた。正規俳優部に一人紛れ込むかとう馬ナブがよく判らない、遅れて「たんぽぽ」に売り切れたコロのり弁を買ひに来るピン客?池島ゆたかは改めていふまでもなく、味見が大好きな「たんぽぽ」主人・池さん。自分の味に絶対の自信を持つてゐたりする辺り、まるでアテ書きされたかのやう、実際さうなのかも知れないけれど。
 ピンク映画に於ける、最後の新人監督。だなどと哀しい噂も囁かれつつ小川隆史のデビュー作ではあれ、残念ながら話の軸が如何せん見えて来ない。好きな女優をふんだんに拝めるのは結構な眼福であるとはいへこゝは矢張り、本来メインの筈の草間と純子の物語は、中盤を完全に支配する久美子に遮断される。全く別個の結果論にしても、アフレコに別人を擁さねばならなかつた、主演女優の甚だ心許ないお芝居もパワー・バランス上勿論響く。トッ散らかつた色彩のセンスは映画的に満足な結実を果たせず、意外にも、重要なシークエンスに差しかゝるとこゝぞとばかりに鳴る杉浦サウンドが、思ひのほか汎用性が低いといふ牙を剥いてしまふ。賑やかしとしては妙に前に出て来る反面、弁当屋も物語の本筋には凡そ影響を及ぼさない。幹も満足に太らないまゝ、枝葉ばかり徒に茂らせてどうする。事そこに至る積み重ねが致命的に不足してゐるだけに、オーラスを締め括る草間の、自分達の勇気の欠如を嘆き気味に振り返るモノローグも殆ど全く響かない。そもそも、三番手の筈にしては何時まで経つても脱がないゆゑ、このまゝないものと諦めかけた淡島小鞠の濡れ場を、草間が純子の前から姿を消したのち事実上の締めに持つて来た、ある意味大胆な構成には驚かされた。更ににせよ、百合に玉蜀黍を絡めるセンスも如何なものか。ツブツブして気持ちいゝとのことらしいが、純子とあかりが互ひの体に口から零す玉蜀黍はまるで吐瀉物のやうにしか見えず、第一、どうにも実際問題としては激越に臭さうだ。そもそも、決して自身が満足な娯楽映画をコンスタントに撮れもしないのに、どの面提げて国沢実が新人監督をプロデュースしようなどとしてゐるのかといへば、その時点で既に雌雄は決せられてゐたやうな感もなくはない。

 願はくば、今作が久し振りに名前を見た杉浦昭嘉の、復活の契機にもしかしてなつては呉れないものかと、薮から蛇が出て来るのを望む類の期待を膨らませるばかりである。


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 「本番淫欲妻 -つぼ責め-」(1997/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセス》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/音楽:レインボー・サウンド/スチール:本田あきら/監督助手:北村隆/撮影助手:池宮直弘/照明助手:藤森玄一郎/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:香西れいな・悠木あずみ・桜沢愛香・竹本泰史・下川オサム・丘尚輝・久須美欽一)。出演者で、ポスターにのみもう一人北村淳。
 加奈子(香西)と夫・森田吉彦(竹本)の、ぎこちない夫婦生活。吉彦の浮気発覚後、加奈子は不感症に近い状態にあつた。夫婦揃つて大爆弾と小、あるいは中爆弾を抱へてゐる件に関しては、最後に纏めて述べる。思ひあぐねた加奈子は高校時代の先輩で看護婦の坂本かおる(悠木)を頼り、かおるが勤務する小出辰三(久須美)の産婦人科での、女体のツボを刺激することによる性感治療を受ける。一方、アフター5に当てもなくホテル街をぶらつく吉彦は、絶妙に尋常ではない様子で佇む、同僚で一般職の相川牧子(桜沢)と遭遇する。闇金融に借金を膨らませてた牧子は、OL買春に手と体とを汚してゐたのだ。牧子にとつては口止めと、吉彦は吉彦でいはばプロにセックスに関する悩みを相談するとかいふ方便を交錯させ、二人は手近なホテルにて一戦交へる。そもそも、これでは吉彦は現況の元凶について、一欠片も反省しとらんぢやろ。
 御丁寧にも二日に分けての治療は功を奏し、加奈子の観音様は潤ひを取り戻す。ところが今度は事前に小出が無責任に危惧した通りに、加奈子の情は度を越してしまふ。“ピンク界の三上博史”こと―何だそりや―下川オサムは、戯れに電車痴漢を働いてみたところ完全に点火した加奈子に捕獲され、ホテルに連れ込まれる岡本三郎。この期に改めて気づいたのが、車輌撮影が面倒臭いのか、二百本を優に越す膨大なキャリアを誇りつつ、新田栄は殆どといつていいほど痴漢電車を撮つてはゐない。この事実は、ピンク映画の歴史の中でもさりげなく特筆すべき点であるやうに思へる。そんな新田栄の別名義である北村淳は、貸した金を牧子から取り立てる飯塚君男。控へ目にももう少し寄ればいいのにとすら感じられる引きの画にて、辛うじて見切れる。
 ここで整理しておくと、夫婦の抱へる問題に際して加奈子は小出の医院に通ひ、吉彦は吉彦で文字通り牧子の胸を借り、それぞれ対策済。さうなると、後は森田夫妻が再び体を重ねさへすれば万事目出度く大団円、とならう筈の相談である。そこで丘尚輝は、吉彦が帰宅したところ、先に戻つた加奈子を縛り上げ室内を絶賛物色中の窃盗犯・松山耕ニ。妻と夫が関係を持つこと―だけ―の導入に、さういふ飛び道具を徒に繰り出してみせる要も別にないやうな気が禁じ得ない疑問はひとまづさて措けば、ここで松山の出現に、冒頭から何気に回覧板を見せ伏線を置いてゐたりする几帳面さは、新田栄&岡輝男コンビの仕事にしては画期的ともいへる上出来といへよう。気を引くためにジタバタしてみせる加奈子に対し、「痛い目に遭ひてえのk・・・!」と詰め寄りかけた松山が、物陰から吉彦に殴打され昏倒するカットの間も完璧。ただ、さうはいつても加奈子は、回覧板は何日も手元に留めておかずさつさと次の家に回すべきだ。とはいへそんなこんなで然るべき着地点に辿り着く物語は、本来ならば、比較的良質の部類にも入る?のかも知れないオーソドックスな娯楽映画たり得てゐた筈なのだけれど。
 兎にも角にも、今作に於ける暴力的なまでの反決戦兵器は。一見飄々とした風情ながら、実はそこはかとない名女優・悠木あずみと、個人的には初見で、jmdbのデータにもピンク出演は全て同年の本作含め計三作しか見当たらないものの、結構華のあるスレンダー美人といへる桜沢愛香、とを何故か大胆不敵にも脇に従へた主演女優・香西れいな。清々しく訴求力の低いポスターが相変らずのエクセス・クオリティに思へたのは、驚く勿れ呆れ果てる勿れ蓋を開けてみるとそれでもまだマシだつたのだ。銀幕の中で実際に動く香西れいなを直截に譬へるならば、ジャイアント馬場といかりや長介とを足して二で割つたやうな女。首から下は、まあ標準的なのだが。主演はエクセス初出演に限るとかいふ新日本映像(エクセス母体)の訳の判らない方針に、新田栄の無頓着が合はさればかつてしばしば引き起こされた惨劇であるともいへ、中々久し振りの勢ひで打ちのめされた破壊力であつた。ただ、負け惜しむつもりはないが敢ていふ。ロマンポルノも国映も、いつそシネフィルに呉れてやればいい。などといふ放言を当サイトが憚りもせず振り回す時、その先更に広がる地平が決してなくはない。それはロマポなり国映をシネフィルに任せたピンクスは、新田栄や他にはたとへば関根和美をこそ戦ふべきだといふ、我ながら滅茶苦茶な志向である。それは広がる地平といふよりは、最早草一本生えぬ荒野ではないか。

 ついでで、劇中そんな香西れいなの夫役を務める竹本泰史も、かういつては何だが正直昨今ウェイトの増加傾向にある竹本泰志と比べると、些かの誇張でもなく吃驚するくらゐに細い。この人は手遅れにならないうちに、もう少し絞るべきではあるまいか。


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 「夜這ひ尼寺 一夜のよがり泣き」(2001『尼寺の寝床 夜這ひ昇天』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/スチール:佐藤初太郎/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:前井一作/照明助手:細貝康介/効果:中村半次郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:吉原麗香、しのざき・さとみ、風間今日子、岡田智宏、丘尚輝、佐々木共輔、久須美欽一)。出演者中丘尚輝と、しのざきさとみに中点が入るのは本篇クレジットのみ。
 こんちこれまた、新田栄尼僧映画で御馴染み尼寺といへば大成山愛徳院。だから男子禁制だといつてゐるにも関らず、深夜の愛徳院に忍び込んだ野口充(佐々木)は、何事か過去に因縁のあつたらしい尼僧の優舜(吉原)を手篭めにする。この時期の新田栄作にしては画期的に映画の神、もとい仏に祝福された部類にも入らう主演の吉原麗香は、微妙にキツ目の首から上は尼頭巾で絶妙に隠すと、弾けさうな肢体の堪らないボリューム感は素晴らしく画面に映える。翌朝、何時ものやうに両親の作つた野菜を喜捨に訪れた村の青年・勝俣正和(岡田)は、住職・妙香(しのざき)の目を盗み、こちらも過去の関係を匂はせる優舜に言ひ寄る。何とまあ、大らかに破廉恥な尼寺であるだとかいふ以前に、要は優舜―出家前は優子―も過去を捨てるならば捨てるで、遠く離れた地を選べばよかつたのに。それをいつてしまつては、この物語は一ミリも動かない訳ではあれ。
 原理上当然でしかないが、まゝならぬ優子との恋路を抱へションボリ自転車に乗る正和に声をかける風間今日子は、東京から群馬の山間に嫁いで来た人妻・岡林麻美。とはいへ田舎に溶け込めない麻美は、正和を間男に気晴らしな不倫を重ねてゐた。久須美欽一は、正和を正坊と呼ぶ間柄の村医者・小島弘恒。
 終に正和も意を決し、学生時代は仲のいい同級生であつた優子に夜這ひを敢行する。一応最後まで事は致すものの妙香に発覚、優舜は激しく叱責され、正和もこの期に愛徳院への出入り禁止を改めて喰らふ。丘尚輝が大将の居酒屋にて、正和は小島を付き合はせヤケ酒をあふる。酔ひの勢ひに任せ口を滑らせた正和から、夜這ひのことを耳にした小島はポップか明後日に発奮。潰れた正坊は店に放置し、自身も優舜を狙つて愛徳院に突入する。
 適当な結末自体はさて措くにせよ、結部への着陸滑走路としての役割を実は完璧に果たす転部は、それなりに秀逸、少々褒め過ぎた。お目当ては優舜の二匹目の泥鰌であつたものを、間抜けた小島は妙香に誤爆。慌ててその場を、往診と言ひ包めようとする出鱈目ながら軽妙なフットワークは、久須美欽一ならではのものでもあらう。斯くも底の抜けたシークエンスが、上滑りもせず妙に成立し得てしまへるのも、殆ど別の意味で流石新田栄。もうこの際、さういふことにでもしてしまへ。加へて、小島の男の味に妙香はすつかり考へを改め、あるいは堕落すると、優舜と正和の関係も事実上認める方向に転向するだなどといふトゥー・フランクなハッピー・エンドに至つては、疑問を持つたり立ち止まつたりした方が寧ろ負けだ。一方、プロポーションは兎も角お芝居の方は大根、といふか石のやうに硬い吉原麗香のエクセスライクは潔く初めから諦め、軸を岡田智宏演ずる正和に担はせた賢明な戦略に関しては、手放しで賞賛に値しよう。ところで、五年前優子は正和とその日別れたところで野口に強姦され、その悲劇を契機に仏門に入つたものであつた。さうなると、野口に仏罰を落とし損ねた因果応報の未成就が、十全な娯楽映画としての起承転結の完成を最終的には阻む点は、大いに画竜点睛を欠くとの誹りを免れ得まい。それどころの話でもなからう、と呆れて、もしくは諦めれば正しくそれまででもあるのだが。大雑把も勇猛に通り越し乱暴な、麻美の正和に対する背中の押し様は、展開の中にさういふ段取りを最低限盛り込まうとした一手間で、最早ひとまづ合格とするべきだ。いいのか?そんな大尼な南風で。

 ところで今回新版ポスターの、「襖の向かうに、寝乱れの生き仏・・・」、「男達が忍び込む、一夜限りの極楽浄土」なる惹句(原文は珍かな)が、小気味よく飛ばしたビート感が心地よい。


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 「OLの愛汁 ラブジュース」(1999/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:田尻裕司/脚本:武田浩介/企画:朝倉大介/撮影:飯岡聖英/助監督:菅沼隆・吉田修/撮影助手:岡宮裕・高尾徹/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイミング:安斎公一/協力:《有》ライトブレーン・日本映機・清水正二・荒木太郎・細谷隆弘・榎本敏郎・星川隆宣・坂本礼・大西裕・早大映研/出演:佐藤幹雄・林由美香・澤山雄次・コマツユカ・森永徹・羅門ナカ・久保田あつみ)。
 28歳のOL・榊原友美(久保田)は六年間付き合つた彼氏から、不意に一方的な別れを告げられる。半ば放心状態で揺られる終電車、友美は終点の一つ前の駅で降りなければならない筈が、左肩に寝こけた若い男の頭を預けられ降り損ねてしまふ。ハンサムな若い男に、フと友美は吸ひ寄せられるやうに唇を寄せる。流石に気づいた男が目を覚ました瞬間の、ハッとした佐藤幹雄とドギマギする久保田あつみのショットには、評判に違はぬ強く高く、そして美しい映画的緊張度が漲る。終点駅で当てもなく放り出された友美を、ある意味元凶ともいへる二十歳の美大生・タカオ(佐藤)が追ひ駆けて来る。二人は成り行きのやうに、ホテルでセックスする。常時カメラを持ち歩き、ヴィデオ・ジョッキーといふひとまづの夢もあるタカオに、友美は憧れも入り混じつた感情を抱く。対して、ジェネレーションXといふには若干下の世代ではある―然しいふことが旧いな、俺も―ものの、似たやうな体温の刹那的なタカオも、もしもさういふものがあるならば、真意のほどは伝はらないまゝ結構律儀に友美の部屋に通ふ。
 澤山雄次は、友美を捨てた六年来の彼氏・西澤。濡れ場には参加しないコマツユカは、バンダナを巻いたダンサー風の西澤の新しい彼女。優しい西澤は二股をかけたコマツユカを捨てられずに、友美を捨てる。優しい男などといふ手合は、得てしてさういふものでもあるのであらう。東京の街を颯爽と闊歩するアクティブなワーキング・ウーマンと、狭苦しい住まひに侘しく暮らす三十路目前独身女との隔絶を超絶に演じ分ける林由美香は、友美と、西澤とも共通の友人・真紀。友美を案じつつ、自身の不倫相手(森永)との関係にも、男が必ず十二時には自宅へ帰つてしまふことに終に疲れた真紀は、自ら終止符を打つ。
 田尻裕司第二作である今作は、当時PG誌主催のピンク映画ベストテンにて作品部門一位・監督賞・脚本賞・男優賞(佐藤幹雄)をブチ抜いたのに加へ、一般映画の賞にも喰ひ込んだ話題作である。とはいへ最近はすつかり偏屈も拗らせ、ロマポも国映も、いつそシネフィルに呉れてやればいゝだなどと野放図な態度を臆面もなく採る当サイトとしては、「OLの愛汁 ラブジュース」といふピンクにしてはそれなり以上に名の通つたタイトルや、田尻裕司の名前に対して、格段のさしたる重きを置くものではない。以降の田尻裕司のピンクに特に激しく揺さぶられるでもなく、時にプロジェク太上映の駅前ロマンにて仕方なく前にする、昨今レジェンド・ピクチャーズで撮り流す毒にも薬にもならぬVシネに関しては、精々プロットをあつらへた辺りで以降は立ち止まる、度し難い空疎に呆れるばかりでわざわざ骨を折つて感想を書いてみる気にもなれない、巨大な世話だが。タカオの殆ど唯一明確な意思に司られるかの如く、決して展望の開かれぬ友美とタカオの関係が、やがて力ない命が尽きるやうに無体な結末を迎へる意図的にドラマティックではない顛末には、正直尺の長さを物理時間以上に覚えた。どの際だか判らないこの際、瀬々敬久が絶対に切るなと田尻裕司に助言したといふ、歩道橋の件に於いてバッサリとバッド・エンドで物語を断裁してしまつた方が、まるで二昔以上前のATG映画のやうな、絶望的な暗さに満ち満ちてまだしも喰へたのではなからうかと、我ながら訳の判らない感興も覚えた。ところが、一体何時出て来るのか、あるいは見落とした何処かに既に見切れてゐたのではあるまいかと本気で不安になりかけた羅門ナカ(=今岡信治)が、かつて見たことがない神妙な面持でオーラスに漸く登場するに至つて、何て素敵なラスト・シーンなのかと本気で感動した。依然明確な着地点といふものは提示されないまゝに、開巻を引つくり返しなほその先に繋げて行くアイデアが素晴らしくスマートで、手放しで感心した。何といつたらよいのか、言葉の選び方を間違へてゐるやうな気もしつつ、その時小屋の暗がりの中で感じたまゝをいふならば、斯様に薄汚れた小生ではあるが、心が洗はれた気がした。終り良ければ全て良し、この言葉は、個人的には映画に殊に当てはまるやうにも感ずる。よしんば田尻裕司がビギナーズ・ラックにも似たワン・ヒット・ワンダーであつたとしても、いい映画を観たと思ふ。

 尤も、といふかところで現実論としては、友美はそれ行けグッド・タイミングとばかりに西澤とヨリを戻してのけるのが、最も無難ではないのかとも歳の所為か老婆心的に思はぬでもないが、それでは流石に、あまりにも映画にならないのか。


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 「夫婦夜話 さかり妻たちの欲求」(2009/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也/撮影助手:橋本彩子/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/効果:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:夏川亜咲・藍山みなみ・西岡秀紀・吉岡睦雄・なかみつせいじ・山口真里)。
 風の心地良い小高い丘近くに借家の新居を構へた、新婚の矢口英治(西岡)と可憐(夏川)夫妻。引越し荷物もまるで片付かぬまゝに、英治は出張に向かふ。英治が帰つて来るまでに綺麗にしておかうと精を出す可憐を、隣家の宇田川晴子(山口)が訪ねる。空気も読めばいいのに、晴子は結婚したばかりの可憐に年月を経た結婚生活の幻滅を語る。そんな晴子に可憐は、夫・文夫(なかみつ)も交へ二人で飲みに来るやう誘ふ。適度に酔つた晴子が夫に絡み癖を披露する一方、気がつくと可憐は酔ひ潰れてしまつてゐる。放置してもおけないので、宇田川夫妻はその晩可憐を寝かしつけた上矢口家に一泊することに。環境が変り寝つけぬと手洗ひに起きたところ、扉の隙間から覗く可憐の寝姿に惹かれ寝室にお邪魔した文夫を、寝惚けた可憐は英治と間違ひキャプチュード。翌日、文夫と一戦交へたと大胆告白する可憐の頬を晴子は張るが、それは正直悪趣味に思へなくもない、可憐のカマかけであつた。実はその夜文夫は、自分は恋女房の晴子に加へ二人の女の相手をするほど器用ではないと、可憐の求めを拒んでゐたのだ。ポップに目出度く、宇田川家の朽ちかけた夫婦の絆は取り戻される。上手に紙飛行機を風に乗せ遠くに飛ばす英治の思ひ出に浸りつつ、何事か重大なメッセージを風に託さうとする可憐を、今度は英治の妹・戸松絵里香(藍山)が訪ねる。絵里香に悟られまいと、可憐は紙飛行機を握り潰す。絵里香も絵里香で、ガテン系の本命を袖に打算で選んだ仕事人間の夫・直人(吉岡)との、結婚生活が上手く行つてはゐなかつた。可憐には度々、手紙と共にセクシー下着や衣装が、出先の英治から宅急便で届く。ところで宇田川夫妻を招いての酒宴、女房と畳みは新しい方がいいだなどと堂々と晴子を前にいつてのける文夫に対し、可憐は女とワインは古い方がいいといふフランスの成句を紹介するが、日本でも、畳ではなく味噌ならば女房と味噌は古い方がいいとする諺もある。個人的な性癖としては、硬さを残す新品よりは、適度に馴染んだ古いものの方をより好むところではある    >知らねえよ、ハゲ
 本来、敷居が高いのは決して望ましいとはいへないと思はれるカテゴリーの娯楽映画としては、もう少し伏線を強く敷設しておくべきではなかつたかといふ疑問も残すが、直截なところ既視感も漂はぬではない物語を、一欠片たりとて臆することなく振り抜いてみせた感動作。何時でも何処にでも、色んなものを運んで来る風と、それに上手く乗れば何処まででも飛んで行ける紙飛行機。重要な二大モチーフを劇中に定着せしめることに丁寧に成功したのに加へ、ここはあへてかういふ言ひ方に筆を滑らせてのけるが、俺達のナベが全力で撃ち抜いた本気は、在り来りなネタにも関らず強く深いエモーションを銀幕に刻み込む。恐らく、渡邊元嗣は信じてゐるのではなからうか。たかだか六十分のプログラム・ピクチャーといへども、映画といふものは、美しくあつて然るべきではないのかと。振りが些か弱いので容易かどうかは兎も角、真相を割つてからの猛然とした畳みかけに際しては、穏やかな、されども強いメッセージを遺す西岡秀紀が、過去最高ではないかと思はせるカッコよさを見せる。一組は修復されもう一組は完全に終了してしまふにせよ、三人の女達が何れも前を向いて歩き始める構成も鉄板。義姉の扱ひに関しては大人の見る映画にしては、非現実的といふ意味での一抹の甘さが感じられないでもなく、オーラスの可憐の新しい出会ひは、都合が良過ぎる気もしないでもないが。

 側面的ながら麗しくて麗しくて仕方がないのは、託けられ可憐に届けられる品々に、唸りを挙げるウィズ魂。ここに過剰なジャンル的要請による不自然さをもしも感じたならば、それがナベ映画の定番ギミックである、量産型娯楽映画の正しくな量産性を理解するべきであらう。

 再見に際しての付記< 山口真里は、下手糞に泣く芝居が上手い。


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 「高校教師 ‐爆乳をもてあそばれて‐」(2001『高校美教師 ‐ふしだらに調教‐』の2009年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有馬千世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:藤塚正行/録音:シネキャビン/編集:金子尚樹/助監督:竹洞哲也/監督助手:小松慎典・米村剛太/撮影助手:市山誠・長澤海音/照明助手:迎修輔/メイク:パルティール/スチール:本田あきら/協力:浜辺華奈/タイトル:道川昭/現像:東映化学/出演:純名きりん・岩下由里香・間宮ユイ・千葉誠樹・岡田智宏・なかみつせいじ)。
 開巻は、建前上は神聖な筈の教室にて。目隠し、ボールギャグを噛まされた上両腕も頭上に縛り上げられたスタイル超絶の美女が、小太りの中年男に蹂躙される。絵に描いたやうな細身の体に不釣合ひな、たわゝなオッパイは悩ましいどころの騒ぎではない。いきなり爆音を鳴らす怒涛の煽情性は、今戦の坂本太が、1ラウンドから猛然とKOを狙つて来た事実を告げる。既にこの時点で、純然たるハッテンのみを目的とするものではない全ての観客は、ポール・ルーベンス化し得る危険性を誰しもが有してゐるにさうゐない。
 アバンを悪夢で処理し、私立高校の英語教師・蔭山冴子(純名)は重たく目覚める。素のお芝居は清々しく固い、主演の純名きりんは「くびれ女王」として誉れ高いex.草凪純で、因みに草凪純は更にex.加納瑞穂。御丁寧にも挿んで呉れるシャワー・シーンで重ねて美肉を拝ませつつ登校した冴子は、引き気味のカメラで上り坂の向かうから徐々に全身が見えて来る映画的なショットで、ぼんやりと再び学校に通ひ始めた不登校明けの三浦律子(岩下)に声をかける。卒業に必要な律子の補習を、冴子は担当してゐた。理事長の息子で学年主任の田中准一(岡田)が、冴子の婚約者であつた。授業時間中にも関らず、淫靡な音の漏れ聞こえる英語科職員室。田中の玉の輿を狙ふもオトし損ねた平井美鈴(間宮)が、矢張りとびきりの上玉を狙ふも冴子を田中に浚はれた盛岡政(千葉)に、授業も自習にし尺八を吹いてゐる。正直人に物を教へるやうなタマには殆ど見えない純名きりんに対し、セクシーな女教師像を完成させた感も強い間宮ユイに、そのまゝ最後まで致すものの、裸を見せる場面がここの一幕限りなのは少々寂しい。放課後、律子の補習を控へた冴子を、田中が呼び出す。田中の伝言を冴子に伝へに来る男子生徒役は、定石で考へれば竹洞哲也か小松慎典か米村剛太辺りか。補習は盛岡に代つて貰つた冴子に、田中は一年間のロンドン教育留学に、しかも来週から旅立つなどといふ薮から寝耳に水の報告をする。田中は留学生の選考に次点で洩れたものだつたが、本来の候補生が急に辞退したとのこと。帰国後の結婚を改めて約した流れで勿論一濡れ場こなし、田中をひとまづ送り出した冴子を、今度は思はぬ衝撃が襲ふ。冴子がかつて教育実習時に赴任してゐた高校から転任して来た、田中の後任主任を盛岡から紹介された冴子は驚愕する。それは実習生であつた冴子にマゾヒストの烙印を刻み込んだ、冷酷なサディスト・三上伸治(なかみつ)であつたのだ。しかも三上こそが、渡英を田中に譲つた形の、元々の留学予定者であつた。協力の浜辺華奈は多分、後々明るさを取り戻した律子が、一緒に登校する友達役。
 一言でいふと、時代に一切囚はれぬ、実戦系ピンク映画に於けるエクストリームな一大傑作。以降の展開は、完璧に定石通り。田中と三上に冴子がかまけてゐる隙に、律子は冴子と三上の過去をトレースするかのやうに、盛岡に調教される。後は律子の身代りに、冴子は再び、そして完全に三上の手中に落ちるといふ寸法。全ては何時か何処かで見たシークエンスで埋め尽くされ、悪くいへば一本の劇映画として新味の欠片もないが、今作に於いては寧ろ、ポルノグラフィの鑑として余計な色気を一切窺はせないソリッドさを賢明な長所と評したい。画期的なプロポーションを誇る主演女優を擁し、坂本太は無駄で笑止な映画的野心などには脇目も振らず、ハンドルをも固定するやアクセルを踏み抜くドライビングにのみ専念。即物的なエロチシズムの一点突破に潔く特化した、志の実に麗しい一作である。

 強ひて難癖をつけるならば、律子を餌に、冴子が盛岡も従へた三上に捕獲される件。盛岡だけでなく、冴子にとつては同性の同僚である美鈴もその場に絡めて欲しかつた希望は残る。羞恥に加へ狼狽する冴子が、「あゝ平井先生・・・・見ないで!平井先生見ないで!」的な    >息すんのやめれボケ


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 「義理の妹 いけない発情」(2005/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影監督:下元哲/照明:高田宝重/助監督:吉行良介/編集:《有》フィルムクラフト/音楽:ザ・リハビリテーションズ/録音:シネキャビン/撮影助手:中村拓・玄聖愛/監督助手:宮崎剛/スチール:小櫃亘弘/現像:《株》東映ラボ・テック/効果:東京スクリーンサービス/出演:出雲千尋・華沢レモン・森沢ゆう・松浦祐也・内山太郎)。
 サラリーマンの青木慎吾(松浦)が、一人暮らしの1DKかにくたびれ倒した様子で帰宅。自分で支度したブラックニッカのロックを、寂しく飲み始める。溜息混じりに杯を重ねたところで、そこそこの規模の地震発生。ひとまづ揺れが収まると、部屋の中にヒラヒラ一枚の紙切れが落ちて来る。それは、「とこしへに 忘れないよと 口ずさむ」(原文は珍かな)との川柳が書かれた短冊だつた。慎吾は感慨深げに拾ひ上げた紙片を見詰める、結果論ではあるが、ここからほぼ全篇を貫く長い長い長いひたすらにクッソ長い回想がスタートする。
 五年前、当時大学生の慎吾は、彼女・中尾エリ(華沢)との同棲生活をスタートする。同棲初日、エリの発案で神社に二人でお参りに行く。帰りしな、現に傾いてゐるやうにはあまり見えない点は些か落ちるが、ともあれ傾いた道祖神を見つけたエリは、路傍の神の佇まひを直して差し上げがてら、二人の行く末を再び祈る。ところがほどなく、二人を激震が襲ふ。バイト帰りに慎吾はリエの好物のモンブランを買つて帰るも、リエは鬼のやうな顔をして待つてゐた。慎吾とゼミ生後輩の火遊び写真が、エリに発見されてしまつたのだ。出演者クレジットにその他名前の見当たらない点を窺ふに、松浦祐也のリアル写真を大胆に流用したのでなければ、ここでの社会学科一年の前田寿々子(鈴子?)役は、もしかすると韓国人女性の撮影部サード・玄聖愛(ヒョン・ソンエ)か。
 用意よくトランクケースに纏めた荷物を抱へ、エリはとつとと出て行く。華沢レモンの、アグレッシブな瞬発力が活きる。とりあへず当てのないエリが、同郷兼サークルの先輩でもある、髪型もあり廉価版のヤックン―サムライゾンビでなく、薬丸の方―のやうな横山和男(内山)のマンションに転がり込む一方、成す術もなく部屋で頭を抱へる慎吾は、気づかぬ間に見知らぬ女―しかもムチムチの―がシャワーを浴びてゐるのに驚く。女は秋田から研修で上京のついでに立ち寄つた、中学で国語を教へるエリの姉・美沙(出雲)であつた。その夜美沙は慎吾宅に一泊、当然の如く夢でオトす姉妹丼なんぞも展開しつつ、翌日リエの前にも姿を現した美沙は、今度は慎吾の姉を名乗る。森沢ゆうは、横山の本命で23歳のOL・竹内梨香。横山が篭絡したリエに金を貢がせる皮算用を捻くりながら梨香を抱く様子を、美沙は超常的な力を駆使してリエに見せる。
 軽やかに割つてのけるが大筋としては、一組の男女の在り来りな危機に際し、道端の神様が信仰心とさゝやかな功徳とに免じ一肌脱いで下さるといふ物語である。件の神様が、セクシーな若い女の姿で御光臨あそばれる辺りが誠にピンク的に麗しいのはいいとして、兎にも角にも今作に関して特筆すべきは、まづ間違ひなく不作為的であらう、ゆゑにこそ実に関根和美ならではともいへる無頓着な大技が炸裂する、別の意味でのどんでん返し。改めて振り返るが開巻の一人酒の侘しいビートからは、オーラスにて明かされる慎吾の置かれた現況が感動的に窺へない。てつきり現在時制に於いても慎吾とリエとの関係は修復されてをらず、再び美沙の出番が来るものと、中盤通り越して終盤に差しかゝつた時点でもすつかり思ひ込んでゐた。それにしては確かに、尺の配分がまるで成り立ちはしないのだが。本来ならばオーソドックスな夜伽寄りの御伽噺の筈が、単なる個人的な早とちりかも知れないが、思はぬ方向から飛んで来た球に面喰はされる、よくいへばお茶目な一作である。

 ところで、初歩的かつ根本的な疑問なのが、“いけない発情”する対象といふのは、妹でなく義理の姉ではないのか?


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 「男で愛して 女でも愛して -盗まれた情火-」(2009/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:亀井戸粋人/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/助監督:関谷和樹/監督助手:大城義弘/撮影助手:橋本彩子・小川健太/照明助手:大橋陽一郎/編集助手:鷹野朋子/スチール:佐藤初太郎/選曲:山田案山子/録音:シネ・キャビン/制作応援:山口稲次郎・山口通平/現像:東映ラボ・テック/出演:MIZUKI・里見瑶子・ほたる・柳東史・竹本泰史・小林節彦・吉岡睦雄)。出演者中、竹本泰史が再改名したのか、本篇クレジットに於いても泰志でなく泰史。
 どうやら、研究なり教鞭によつて収入を手にし得る職には就いてゐないと思しき、兎も角博物学者の矢島圭吾(柳)が、菌類の採集に奥深い森に分け入る。チノパルス―和名:イヌノチンポ―だとかいふ珍しい茸と称した、美術的には単なるバイブレーターを発見し悦に入る矢島は、静寂を切り裂く少年の悲鳴を耳にする。声のする方に矢島が駆けつけると、足を押さへ苦悶する美少年・トロ(MIZUKI)と、傍らにはマムシに対する注意を促す看板が。咬まれたのかと矢島がトロの太股に口をつけ、毒を吸ひ出さうとしてゐるところに、今度は物騒な山男・花輪(小林)が大登場。末節にて再度触れるが、厳密な二人の関係はよく見えないまゝに、矢島がトロを誘惑しようとしたと誤解した花輪は、いきなり日本刀を抜くや斬りかゝる。出来ない殺陣は潔く見せない応酬の末、真剣白羽取りから刀を奪つた矢島は、一太刀の下(もと)に花輪を返り討つ。一方その頃矢島家では、帰りの遅い夫を妻の香織(里見)と、矢島とは大学時代からの友人であり文化人類学教授の石橋由紀夫(竹本)が待つ。妻と親友の気も知らず、矢島はトロを伴ひまるで遊びに行つてゐた子供同士のやうに仲良く帰宅。当然のことながら、その男の子は何処から連れて来た誰なんだといふ話になりつつ、矢島は花輪との文字通り刃傷沙汰は秘した上で森の中でトロと出会つた顛末を話し、ことによると現代人には失はれた野生を未だ有してゐるやも知れぬ、トロを研究対象として家に置く旨言ひ包める。殆ど律にすら触れかねない大絶賛非常識に関しては、虚構の飛躍に免じて通り過ぎるほかない。トロは矢島のおさがりならば袖を通す反面、香織の新しく買つて来た洋服には見向きもしない。料理も香織が作つたものは口にせず、そのくせ香織がパートで勤めるケーキ工場のシフォンケーキは、木の実よりも甘くて茸よりもフーワフワだと喜んで食べた。明らかに距離の近過ぎる夫とトロとの関係に香織は猜疑を募らせ、石橋は秘かな確信を深める。
 幻想的な森の中から現れた、平素我々が生活する近代市民社会からは隔絶され聖性すら漂はせる少年と、それを取り巻く者どもの幻想譚。といふとまるで山﨑邦紀映画のやうな、アクロバットとロマンティックとが唸りを挙げる枠組ではあれ、周囲に渦巻く愛憎のうち、矢島は無邪気に限度を超えてトロに入れ込む反面、その他が蠢かせる憎悪や欲望の攻撃性と、それらを娯楽映画として安定させるべく包ませるファンキーなオブラートとは、矢張り松岡邦彦の持ち味であらう。大きく二つ見られるエッジの効いたギャグの中で、一つ目はほたる(=葉月螢)のファースト・カット。香織の実家は、一族から政治家も多数輩出する名家であつた。聴衆もゐない更地の前でビール箱に乗り演説してゐるところに、トロとお散歩の最中の矢島が通りがかるもそのまゝ気付かぬふりで通り過ぎられようとするほたるは、香織の従姉で全国愛人同盟―何だその政治団体は―の市議会議員候補にして、藤川優里ならぬ藤森裕里。愛人も自信を持つて子供を産み、その出生によつて少子化を解消しようなどといふ政見がアナーキーで笑かせる。頼むから、その際にはまづ卓袱台を引つ繰り返す勢ひの民法全面改正から始めて呉れ。もう一つの石橋の正しくカミングアウトは、誇張でなく抱腹絶倒。卓越した受けを見せる里見瑶子と清々しい落差を演じ分ける竹本泰史、綺麗に二枚並んだ看板の力も借り、稀に見るレベルの完成度を誇る。正方向からはほゞ唯一とすらいへる濡れ場らしい濡れ場への、導入を果たしてゐる点も麗しい。終盤の香織のクラッシュに関しては、流石に薮から木に竹を接いだ印象も禁じ難いものの、こゝは最早、富野由悠季ばりの皆殺しぶりを味はへばいゝのか。配役残り吉岡睦雄は、矢島とは別の意味で即物的にトロに執心する石橋に、激越に嫉妬の炎を燃やす教へ子・薬師寺丸夫。底の浅いエキセントリックが、ヒステリーに上手く馴染む。
 主演はエクセス初出演といふエクセス・ルールにも則つとり初めて見る顔で、MIZUKIだけでは検索してみても素性には全く辿り着けぬが、神秘的な美少年・トロを演ずる主演のMIZUKIは女優である。何処から連れて来たのか判らない謎の主演女優といへば、前年「クリーニング恥娘。 いやらしい染み」の長崎メグも想起される。MIZUKIに話を戻すと、持ち前のいはゆる男顔も功を奏し、どう見ても女にしか見えないまゝ「私が愛した下唇」(2000/監督:片山圭太)に於いて男装に果敢に挑んだ里見瑶子よりは、余程健闘してゐる。劇中基本的にはトロは一貫して少年の姿に止(とど)まり、ポスターや題名から想起されるやうな、トロ夫とトロ子との間のスイッチは行はれない。さうなると、九月公開の今作の七箇月前に封切られた、「仮面の宿命 ~美しき裸天使~」(2009/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀)がもしかすると最後の薔薇族映画になるやも知れぬと噂される中、主演に女優を据ゑた変則的な、即ちピンクの仮面を被つたゲイ映画といふ視点も、あるいは成立し得るのではあるまいか。トロを間に挟んだ矢島と石橋のエロスはお腹一杯に十全に描かれる反面、里見瑶子の場合は実は驚くほどに、ほたるに至つては、このまゝ脱がずに映画が終つてしまふのではなからうかと本気で危惧させられるくらゐ、ピンク映画の割に女の裸比率はよくよく気がつくと画期的に低い。

 等々と、漫然と書き連ねてはみたけれど。最終的には当サイトは今作を前に、手をこまねき立ち竦まざるを得ない。仕方がないので正直に自らの不分明と恥を晒すが、シフォンケーキとキャピタリズムとを掛けた趣向までは酌めたのが関の山で、矢島改めマイケルが女体化したトロ子を後ろから激しく突く、ラスト・シーンを如何に理解すべきか正直皆目判らなかつた。映画をも超自然的なまゝ綺麗なまゝには畳ませないぜといふ、松岡邦彦の全方位的な黒さが垣間見えたやうな気もしつつ、全く以て覚束ない。仮にあのカットが頓珍漢な蛇足だといふならばまだしも、手も足も出ない。大人しくプリミティブな、といふか要はプアな完敗を認めるばかりである。

 以下は再戦に際しての相変らず覚束ない付記< オーラスは松岡邦彦流の堕落論でなければ、あるいは偽装ピンクの実質薔薇族に関して、エクセスの目を眩ませるためのエクスキューズか。何れにせよ何れも見当違ひにせよ、確たる正解には矢張り辿り着けなかつた


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 「性犯罪捜査II 淫欲のゑじき」(2009/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:中川大資/編集:有馬潜/監督助手:新居あゆみ・府川絵里奈/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:倖田李梨・大塚ひな・佐々木麻由子・天川真澄・甲斐太郎・佐々木恭輔・牧村耕次)。
 舞台は前作「性犯罪捜査 暴姦の魔手」(2008)から二年後、相田紗希(倖田)は城西署の性犯罪捜査課に配属されてゐた。とはいへ捜査四課に間借りした性犯罪捜査課に、紗希のほかには絵に描いたやうな昼行灯ぶりを披露する万年巡査部長の岩崎正則(甲斐)しかをらず、要は紗希は直属の上司を逮捕したことが上層部の逆鱗に触れ、閑職へ追ひやられたものだつた。あんまりだろ、警察組織。本部長から降格したのか捜査四課長(牧村)も、二人を何時も目の敵にする。今回も、牧村耕次は徹頭徹尾高圧的に嫌味なイジメ役に徹し、濡れ場の旨味には与りもしないといふ起用法は、何気に前作を踏襲したものともいへる。
 紗希と恋人の外科医・相馬大樹(天川)の関係も、依然継続してゐた。実は血を見るのが苦手といふ致命的な欠点を抱へる相馬は、準教授として教鞭を執るやうになり手術執刀回数の減つたことを喜ぶ。そんなある日、紗希をとんでもない衝撃が襲ふ。何と相馬が、強姦傷害事件の重要参考人として捜査対象となつたのだ。被害者は、相馬の教へ子でもある城南大学医学部三年生の若宮リエ(大塚)。犯行時刻、勤務する大学病院にて当直の不在証明があるといふ相馬は事件への関与を否定するが、リエの体内からは相馬の体液が検出され、犯行現場には愛用の万年筆も落ちてゐた。エポック・メイキングな形で取調室で紗希と対面した相馬は、浮気に関してはひとまづ自白といふか白状する。相馬が最近元気のないリエに声をかけたところ、二年間付き合つた彼氏を寝取られた悩みを打ち明けられ、その時から関係は始まつたとのこと。取調べ後、紗希に対して呑気にニヤニヤしながら岩崎いはく、「ひよんなことからバレるんですよ、浮気つて奴は」。強姦傷害は凶悪事件だ、全然些事ではなからう。この辺りのいい加減な大らかさは、如何にも関根和美的、とでもいふことにしてしまへ。
 リエの事件の捜査権は、四課に奪はれる。四課長から押しつけられた、正直どうでもいい結婚詐欺事件の資料整理に忙殺される紗希は、フと目を留める。事案は全て起訴にまでは至らなかつたものの、容疑者ファイルの中に、バーを経営するリエの母親・笑子(佐々木麻由子)の名前があつた。笑子の店に出向く一方、紗希はリエの元カレ・桂木龍平(佐々木恭輔)にも接触する。紗希も紗希で顔を仮面で隠した暴漢に襲はれつつ、桂木の死体が、リエの自室の浴槽から発見される。
 基本としては女優・俳優各三名づつのピンクの安普請も顧みず、犯人探しのサスペンスを展開するなどといふ土台負け戦を性懲りもなく展開し続ける関根和美ではあるが、今回は珍しく、どちらかといふと成功寄りの善戦を見せる。主人公に下手な推理を最早させずに、演者の地力にも頼り犯人の方から真相を明かさせた、逆説的に開き直つてもゐるやうだがそれはそれとして大胆な方策が、今作最大の勝因か。厳密にはそこかしこに無理も鏤めつつ、動機に説得力を持たせるドラマを構築し得た点に関しては、らしからぬ上出来を素直に称へるべきであらう。紗希が相馬の恋人であることなど勿論知る由もないリエが、別の意味で複雑な表情を浮かべる紗希に事件の状況と同時に相馬が犯人ではないといふ確信とを語るシークエンスなどには、中々お目にかゝれない熟練の底力が垣間見える。一見頼りなさげでゐて、肝心要ではヒロインの危機を救ふ活躍を見せる岩崎の造形も、麗しく定番。ひとまづ万事事件の解決したオーラスを、お痛は寛い心で赦し終に結婚も約した紗希と相馬の濡れ場で畳んでみせる幕引きは、娯楽映画として、ピンク映画として正しく完璧だ。その上で、クライマックス犯人の手に落ちた紗希が、まるで必死に自分の方から死なうとしてゐるやうにしか見えない微笑ましい不自然さは、この際御愛嬌の範疇に含めて済ますとしても、なほ一点、取り零した要点がなくはない。

 改めて整理すると、劇中起こる事件は四つ。第一の事件:相馬が重要参考人となるリエ強姦傷害事件。第二の事件:紗希強姦未遂。第三の事件:桂木、リエ宅浴室にて死亡。そして第四が、紗希全裸殺害未遂事件。この中で、犯行現場が明確に描かれ検挙もされるところから、第四の事件の犯人はいふまでもない。第三の事件の犯人も、無防備な罪を被る覚悟の第四の事件の犯人によつて語られる。第二の事件の犯人に関しては、被疑者死亡につき最終的には確定的ではないとはいへ、香りのヒントから概ね紗希が自力で辿り着く。問題が発端の事件で、一度抱かれた男の感触は覚えてゐるとかいふリエのはしたない自信を真に受けるならば、犯人はペニパンを着用した女でなければならないところだが、そこで後頭部の外傷の有無を確認し全ての事件にケリをつける段取りに欠いてゐる。そもそも、これでは単に相馬は純粋に劇的に運が悪かつただけにもなるまいか、だから劇なのだが。


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 「すけべな団地妻 奔放な下半身」(2005『不倫団地 かなしいイロやねん』の2009年旧作改題版/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vシアター135/監督:堀禎一/脚本:尾上史高/原題:『草叢』/企画:朝倉大介/プロデューサー:福俵満・森田一人・増子恭一/協力プロデューサー:坂本礼/撮影:橋本彩子/照明:山本浩資/音楽:網元順也/助監督:伊藤一平/編集:矢船洋介/スチール:山本千里/録音助手:梅沢身知子/出演:速水今日子・森田りこ・佐々木ユメカ・吉岡睦雄・伊藤猛・マメ山田・下元史朗・冴島奈緒・藤本風・本多菊雄・川瀬陽太、他多数/友情出演:飯島大介、他)。出演者中、本多菊雄以降は本篇クレジットのみ。結構な情報量を無造作に二息で見せるクレジットに、完敗するのも通り越し呆れ果てる。満足に見せる気がないのなら、初めから打たなければいい。
 大阪の周辺都市、人妻の寺森秋江(速水)がテレクラで知り合つた砂井進次(吉岡)と遊ぶ。当たり前のやうに避妊しようとする砂井を、秋江は遮る。秋江は、子供の産めぬ体であつた。何れにせよ、ほかに予防しなければならないあれこれもあるだらうに。楽しく致した後、自転車が盗まれてゐるのに顔色を俄に変へた秋江は、鍵を押しつけるやうに渡し、その夜は砂井と別れる。秋江は団地住まひで、夫・和彦(伊藤)は外に作つた女の下に入り浸り自宅には帰らなかつた。時折、秋江が昼間工場でのパートに出てゐる隙を窺ひ、和彦は着替へを取りに戻つた。団地に出入りするちり紙交換車の運転手といふ形で、秋江は砂井と思はぬ再会を果たす。
 埒が明かぬゆゑ配役から片付けると、まづはリストラの気配に漠然とした不安の広がる工場から。ビリングからも推定される通りに別に脱がない藤本風は、子供と喧嘩してばかりの若い同僚・ユキ。下元史朗は管理部門の主任・林、飯島大介は阪神帽を常用する作業員。ファースト・カット、普通人ならばあり得ないポジションから姿を現す反則スレスレの映像マジックを可能ならしめるマメ山田は、キレ者なのか間抜けなのかよく判らない、無闇に髪の長い社長。川瀬陽太は従業員に檄を飛ばす社長を持ち上げて机の上に載せてあげる背広組、クレジットが追へなかつたので菊次朗かも知れない本多菊雄は、社長のスピーチの最中藪から棒に感激し万歳を始める作業員。こちらも矢張り濡れ場は回避する冴島奈緒は、持ち回りの団地の役員を務める清水。子連れながら全身をピンク色で固める、正直あまりお近付きになりたくはないアレな造形。ここから濡れ場も担当するのは、森田りこが高松から砂井を慕ひ大阪にやつて来た人妻・ちはる、子供は喪つたとのこと。佐々木ユメカは、低目のビートで秋江に果敢な正面戦を挑む寺森の不倫相手・美香。虚勢を張つてか、夫にしがみつく秋江にも女を捨てられない寺森に対しても見切りをつけるやうな素振りを匂はせる反面、秘かに寺森の子供を堕ろす腹である旨を秋江には告白するに至つて、本当は本妻から男を奪ひたい愛人の弱みも見せる。ここでの、さりげない顔色に揺れ動く心情を超絶に表現してみせる佐々木ユメカの名演が、今作のハイライト。ほかに、工場と団地妻のその他皆さん、清水の未だ小さい娘等々、ピンクにしては信じられないほど大勢出演する。涼樹れん(現:青山えりな)や風間今日子も見切れてゐるらしいが、登場もクレジットもともに確認出来なかつた。出演者に加へ、全然拾へなかつたが協力もまるで一般映画並みに膨大。一体今作のプロダクションに、この時何が起こったのか。
 再会後、砂井は半分自嘲気味に秋江に語る。自分はゴミのやうな人間かも知れないが、ゴミは所詮ゴミなので失はれてしまつたとて大したことはなく、さう考へるとそれはそれなりに安心出来る。話が今作からは反れるが、この、砂井のネガティブな一種の諦観はオフェンシブに突き詰めればかつて山本圭演じた古賀勝にも通ずる、極めて重要な思想である。ダメ人間はダメ人間だからこそ、最期まで戦ひ抜くべきだ。否寧ろだからこそ、戦ひ抜くことも出来るのではないか。軌道を修正して美香の見せる揺動を頂点に、僅かな粗相も一見見当たらない場面場面は、シークエンス単位で掻い摘む分にはそれなり以上の充実を見せる。ものの、そこから一本の映画全体に対して満足した首を縦に振れるのかといふと、残念ながらさうはならない。断片的には強い輝きを感じさせつつ、最終的にそれらがひとつの大きな物語へには、まるで繋がつて行かない。堂々と割つてしまふが、最終的に何処を目指すでもない秋江が、ぼんやりと無断欠勤し林からの電話にも出ないなどといふある意味絶望的なラストは、一体全体何事か。改めて以降の作品も鑑みるに、堀禎一といふ人は恐らく、十全な起承転結を纏め上げる能力を持ち合はせるものではあるまい、と少なくとも結果論としては難じざるを得ない。仮に判断材料といふ名の素材だけを提供しておいて、後は観客の判断に委ねて済ますつもりであるならば、さういふ態度に対しては、個人的には大いに如何なものかと感ずる。譬へればそれは農家や漁師の仕事で、映画監督―少なくとも娯楽、あるいは商業映画の―といふ職業は、料理人であるべきではなからうか。のうのうと明後日に筆を滑らせると、かういふ雰囲気だけならばあるものの、要は生煮えた映画を妙に持ち上げてみせる姿勢はいはばシネフィルのもので、それはピンク映画にとつては、決してためになるものではないやうに思へる。

 開巻に見当たらなかつたので新版公開に際し切られたものかと早とちりしてしまつたが、“第2回月刊シナリオピンク映画シナリオ募集準入選作”云々は、情報過多なエンド・クレジットのどさくさに紛れる。


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 「奴隷船」(2010/製作・配給:新東宝映画/監督:金田敬/脚本:福原彰・金田敬/原作:団鬼六『奴隷船』/企画:衣川仲人/プロデューサー:福原彰・佐藤吏/撮影監督:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大友洋二/録音:シネ・キャビン/緊縛師:奈加あきら/助監督:佐藤吏/スチール:中居挙子/ヘアメイク:中尾あい/監督助手:高杉考宏・國武俊文/撮影助手:海津真也・花村也寸志/編集助手:鷹野朋子/照明応援:広瀬寛巳/メイキング:長谷川卓也/現像:東映ラボテック/協力:船宿・縄定/出演:愛染恭子、那波隆史、吉岡睦雄、三枝実央《特別出演》、小川真実、真咲南朋、友田真希、川瀬陽太、内藤忠司、奈加あきら、なかみつせいじ、中村幸雄、周磨要、森田一人、坂口一直、中村勝則、マイケル・アーノルド、諏訪太朗)。出演者中、中村幸雄からマイケルアーノルドまでは本篇クレジットのみ。
 とりあへず、といふかひとまづは、“愛染恭子引退記念作品”のテロップで開巻。
 絶妙に微妙な節回しで愛染塾長の歌ふ童謡「通りやんせ」を、真咲南朋の悲鳴が遮りタイトル・イン。SM作家・鬼又貫(諏訪)が主幹するSMサークル「鬼面の会」の定例行事、「奴隷船」。借り切つた屋形船にて、会員が経済的事情から手放した愛奴を、他の会員が競り落とすといふイベントを度々開催してゐた。けふも鬼面の会員に対しひよつとこ面の調教師(奈加)が進行する中、内藤忠司が激しく未練を残す真咲南朋を、なかみつせいじが五十一万円で落札する。別に通り過ぎても構はないが、その金額で大の大人が包丁を振り回すほど狂乱するといふのには若干疑問も残る。
 おとなしくフィルムに着地して(後述)、鬼又の平素の執筆風景。秘書兼愛人の美幸(三枝)が一欠片も憚らず鬼又に纏はりつく傍ら、担当編集・石井(川瀬)は畏まつて待つ。愛人とはいへ二人の間に肉体関係は未だなかつたが、ゆくゆくは鬼又は美幸を、M女として調教する心積もりではあつた。普段から下着を着けないことの多い美幸はノートに向かひ清書すると称して、観音様を石井に開陳しフランクに誘惑する。ここで猛烈に立ち止まらざるを得ないのが、特別出演の三枝実央。個人的には特に見知つた名前でもないのだが、一般的に最低限そこそこはありさうなネーム・バリューは兎も角、強張つた相沢知美のやうな首から上もたどたどしいお芝居も如何せん少々キツい。容姿もさて措き一見抜群のプロポーションに見えなくもない肢体の方も、縄を掛けるには些か絞り過ぎでもあるまいか。話が配役に飛ぶが濡れ場要員の名に輝かしく相応しい、鬼又の回想中にのみ登場する隷女役の友田真希を観てゐると、ただ単に若いだけの小娘よりもこのくらゐの女の方が、麻縄はよく映えるやうにも思へる。絞り込まれた縄から正しく零れる乳が、実に素晴らしい。
 美幸を伴ひ、鬼又は伊豆の梅津温泉旅館へと向かふ。旅館の二代目支配人・梅津善三郎(那波)の随分年上の妻・菊江(愛染)と鬼又とは実は、かつて経営の傾いた大阪の建設会社社長(一切登場せず)から鬼又が菊江を奴隷船を通して譲り受け、二年の間愛人関係にあつた。その際鬼又は結婚を考へぬでもなかつたが、結局菊江は過去を知らない男との新しい人生を選んだ。一応責めてはみるが当時鬼又は菊江に、マゾヒストの資質はないものと判断してゐた。二人の間にただならぬ因縁のあらう節を察知した美幸は臍を曲げると、一人帰京する。後を追つた鬼又も戻ると、自らの主導で美幸は縛られた上、石井に抱かれてゐる最中であつた。一方、鬼又に善三郎から、菊江が鬱病で入院したとの連絡が入る。雨宿りに男の妻が経営するドライブインに駆け込んだことから、菊江が北川(吉岡)とかいふ奇矯な若い男に陵辱され、以来脅迫とともに肉体関係を強要されてゐたのだといふ。事態を収拾すべく、鬼又は再び伊豆へと乗り込む。全く脱ぎはしないまゝに、素の芝居だけで他の女優勢を完全に圧倒する貫禄を見せつける小川真実は、北川の妻で片足の不自由な久子。惚れたヤクザを庇ひ足を怪我するまではベトナム久子といふ名のストリッパーで、鬼又とも旧知であつた。鬼又から夫の犯罪的な不貞の事実を突きつけられた久子は、軽やかに一笑に付す。北川の味を覚えると、女ならば誰しもが病みつきになつてしまふさうだ。それにつけても、本妻が小川真実で浮気の相手が更に愛染恭子、一体北川はどれだけ筋金入りなのか。ところで徒な振り幅が尋常ではない北川のエキセントリック青年変態ぶりには、「乱姦調教 牝犬たちの肉宴」(2006/監督:竹洞哲也)時とほぼ同様のメソッドが流用される。残る主演者中村幸雄からは、奴隷船の鬼面要員。
 愛染恭子の、今作のプロモーションのため出演した福岡ローカルのAMラジオで自ら力説してゐたところによれば、あくまで裸仕事からのといふ限定付きでの引退記念作品は、同時に改めて振り返つておくと、「紅薔薇夫人」(2006/監督・脚本:藤原健一/主演:坂上香織)、「鬼の花宴」(2007/監督:羽生研司/ラインプロデューサー:寿原健二/主演:黄金咲ちひろ・松本亜璃沙)、「Mの呪縛」(2008/監督:新里猛/プロデューサー:寺西正己・藤原健一/主演:成田愛)と、これまでは律儀に年一本続いて来たペースから少し間を空けた、新東宝鬼六企画の第四弾も兼ねる。いの一番に引退記念作品を謳ひ、エンド・クレジットも流れ終つたいよいよのオーラスも、果たしてクランク・アップ時か花束を受け取る愛染塾長のスナップで締め括りながら、映画本体は意外といふかより直截には呆れるくらゐ、脱ぎ仕事を引退する大女優に奉仕などしてゐない。前半は概ね、無駄に張り切つた三枝実央が尺を喰ふ。中盤から終盤にかけては充実してゐなくもないとはいへ、こゝも菊江が後方から支援しつつ、前面に立つのはあくまで鬼又。最初の関係こそは手篭めにしたとはいへ、以降は菊江が望んだものだといふ釈明を当然呑み込めない鬼又に、北川は仔細を語る。最初の情交の事後、戯れに菊江の尻をベルトで打ちつけた北川は、その刹那菊江に秘めた被虐願望のあるのを看破したといふ説明に、鬼又は呆然とする。自分の見たところ、菊江にはマゾヒストの資質はないものではなかつたのか。だが然し、現に北川のいふ通りに関係は継続してゐる。熟練したプロフェッショナルであつたつもりの鬼又が、北川といふ天才の出現に動揺を覚えるカットは展開として作中初めて光るが、そこから先が壊滅的に頂けない。無論菊江が再度奴隷船に乗せられるクライマックスは設けられるものの、何がそこまで思ひ詰めるほど地獄なのだか画期的にピンと来ない選りにも選つて善三郎に、拡げた風呂敷が縮小されてしまふ。本篇ラスト・ショットも鬼又と同時に観客に対して別れの挨拶を告げる愛染恭子の画で畳みつつ、これでは所詮菊江は多少重きを置かれた濡れ場要員に止(とど)まり、物語上の形式的な出番といふ意味での活躍度は、寧ろ美幸の方が余程大きくもあるのではなからうか。なかみつせいじが真咲南朋を安い単車程度の値段で落札する、奴隷船のイントロダクションが何故キネコであるのかと同様、少なくともプロモーション的には“愛染恭子引退記念作品”を堂々と打ち出す反面、金田敬が何を考へてかういふ舵取りをしてみせたのだかが感動的に判らない。

 正直なところ、一連の新東宝70分バージョンアップ・ピンクシリーズ―たつた今適当に名づけた―が、どうにも打率が芳しくない。噂によると新東宝は新作ピンク映画の製作から手を引き、今後は間違つても量産はしないこの路線に特化して行くとかいふ話もあるが、最大限度に如何なものかと思はざるを得ない。折角本格娯楽作家としての萌芽を感じさせかけた、田中康文の新作など観たくて観たくて仕方がないのだけれど。尤も、当サイトは未見の旧作は未知の新作と何ら変りはないとする立場なので、新版公開だけは、何とか継続して頂きたい。


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 「高校教師 喪服淫行」(1997『喪服教師 のどの奥まで』の2005年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二/撮影:佐々木要一・千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:高島平/音楽:レインボー・サウンド/撮影助手:伊藤潔/照明助手:藤森玄一郎/監督助手:北村隆/効果:中村半次郎/出演:松島エミ、西山かおり、田口あゆみ、熊谷孝文、杉本まこと、丘尚輝、望月薫、ブルックリン・ヤス、他二名)。出演者中、望月薫以降は本篇クレジットのみ。
 何処ぞの何とか高校、担任する三年三組の試験をフリンジの白いスーツ姿で監督する榎本美佐子(松島)は試験終了後、翌日は亡夫の初七日の為学校を休むことを生徒達に告げる。試験中から美佐子の色香にアテられ放しの内田雄大(熊谷)に対し、左隣の席に座るガールフレンドの三橋あかり(西山)は、けふも休めばいいではないかと憎まれ口を叩く。そして明くる日、一頻り終へ弔客も皆帰り、喪服姿の美佐子は二年間の入院の末に死去した夫・信一の遺影の前で一息つきがてら、在りし日の夫婦生活を想起するやジャンル上ここは殆ど自動的な勢ひで自慰をオッ始める。とそこに、多分信一の友人ではないかと思しき遠藤巧(杉本)が遅れて到着。抜群のタイミングで濡れ場に直面した遠藤は勿論、形だけの抵抗はしてみせる美佐子を抱く。更に、別に普通に弔問してもいいのにわざわざ庭に忍び込み美佐子を覗かうとしてゐた雄大が、その模様に持参する使ひ捨てカメラを向ける。当然といへば当然のあまりにも単純な結果論でしかないが、時代の移り変りを感じさせるアイテムではある。当時には未(いま)だ、カメラ付携帯電話は存在しない。話を戻して、ラブホでの雄大とあかりとの逢瀬。雄大が美佐子の秘密を握つたことを知つたあかりは、脅迫し得た金でティファニーの指輪だと現金な瞳を輝かせる。美佐子を誘ひ出すことに成功した雄大は、こちらも今は亡き新宿ジョイシネマの前にて待ち合はせると今度は逆に遠藤に目撃されてゐることも露知らず、例によつてホテル街にしけこむ。と、ここまでは、職場での美佐子の格好が喪に服してゐるやうには輝かしく見えない点に気付かないふりをすれば、一摘みの新味も意欲も感じられないながら、最低限物語が真直ぐに進んではゐたのだが。いよいよ個室に入り、いざといふ段になると雄大は美佐子に対し「好きだ!」、と直球勝負は兎も角薮藪から棒にも程がある求愛を繰り出した上、挙句にカメラをバラバラに破壊し御丁寧にも既に感光してしまつたフィルムも引き千切る。ところでさりげない奇異が際立つのは、雄大が忍び込んだ庭から互ひに喪装の美佐子と遠藤の情事をカメラに収めるのと、ここでの唐突が爆裂する告白場面とには、何故だか中空龍の音源が使用される。
 田口あゆみは、遠藤とは絶賛倦怠期にある細君・由佳。全体的に清々しく古めかしい画調以前に、今では特にさういふことを感じさせはしないが、改めて再確認すると少なくとも今作の時点に於いては未(ま)だ昭和の顔をしてゐる杉本まことと田口あゆみとのツー・ショットには、確か九十年代後半の筈の空気は凡そ感じられない。それが企図されたものなのか単なる不作為的な結果に過ぎないものかを問はなければ、それはそれとしてひとつの映像マジックには違ひなからう。丘尚輝は、アテレコだけといふ可能性もあるが英語の教科書を音読する姿を後ろから抜かれる雄大の前の席の山田君と、こちらは正面から美佐子が休んだ代理の佐藤先生とを兼任。出演者中男女各一名づつの他二名の内、男の方が多分間違ひなく絶妙な2.5枚目ぶりが麗しい信一遺影役で、さうなると望月薫以下三名は、恐らく三年三組の生徒要員。その中でも雄大の後ろの席に見切れる、顔から類推すると申年生まれのブルックリン・ヤスは、今では何気にHIPHOP業界の大物らしい。さうするとあるいは今作出演のことは、黒歴史にされてしまふやも知れぬ。そもそもどういふ経緯(いきさつ)で、HIPHOPの人がピンク―しかも新田栄―と接点を持つたものなのか。人に歴史あり、スクリーンの片隅に隠れキャラあり。
 一般的に考へれば、あるいは流れを無視してそこだけ切り取ればハイライトといつていへなくもない、内田から美佐子への告白が置かれたのはちやうど尺の折り返し地点で、そこからオーラスまでに、由佳×巧と二度目は定番の教室プレイを披露する内田×あかりとの絡みを漫然と差し挿む構成には、一体何処を目指してゐるのかと強い疑問が残らぬではない。といふのは、敵が新田栄―と岡輝男―であることを忘れた早とちり。何がどう転んだのか、完全にイッてしまつた美佐子が猛然と飛び込んで来ると、物語は撮り様によつてはサイコ・スリラーにすらなりかねないある意味衝撃的な結末へと雪崩れ込む。あかりも交へた一悶着経て、美佐子は再び一時的に学校を休む。その後放課後の教室に雄大を急襲した美佐子は、「先生、今までのアタシにサヨナラしてたんだ」、「けふはアタシの葬式なの、ウチで供養して呉れる?」、だなどと頓珍漢もここに極まれる病的に不可解なことを言ひ出す。狐につままれた面持でとりあへず雄大が榎本家へと向かふと、前夜矢張り呼び出されてゐた遠藤も素直に現れる。葬儀だといふことで神妙に、といふよりは観客と同様に事態を完全に呑み込めてゐない男二人を前に、「ぢやこれから、アタシの供養を始めます」と訳の判らない宣言を轟かせつつ美佐子は自ら足を開くと、

 「さ、舐めて」。

 そんな無茶苦茶な導入で怒涛のクライマックス3Pに硬着陸。一応、教師といふ聖職者なり愛する夫を喪つた未亡人だとかいつた、所与の社会的な役割を脱ぎ捨てた偽らざる真の自己に目覚めたとの方便らしいが、幾ら女の淫乱とピンク映画との親和度は晴々しく高いとはいへ、フリーダムも軽やかに跨ぎ越したアナーキーとさへいへる着地点に、正しく度肝を抜かれる。腰骨も、原子レベルにまで分解されさうだ。それにしても、「さ、舐めて」とは・・・・後述するがかつて “日本のエド・ウッド”とも謳はれた伝説の迷監督に愛された迷女優にして初めて繰り出し得るともいふべき、エポック・メイキングな迷台詞である。尤も、ここからが意外と新田栄が真価を正方向に発揮し、エクストリームな乱交でどれだけ無理矢理だとて力強く振り切つてみせた終幕は、裸映画としてはこれが意外に据わりはいい。変心といふよりは乱心といふべきラストの驚天動地に関しても、雄大な、もとい雄大の出し抜け過ぎる告白との二段構への展開上の飛び道具―反則技ともいへるが―と捉へると、何となく妙にしつくり来なくもない。詰まるところは一言で片付けてしまへば単なるバカ映画もしくは駄ピンクで終つてしまふのだが、そこかしこでの絶対値は徒に大きくもある。その意味では見所がなくもない、頗るチャーミングな一作である。何はともあれ、通らないピンクはゼロだ。たとへ通過後には、マイナスになつてしまつたとしても。

 以下は前エントリーの、翌日からの後日譚である。地元駅前も八幡の前田有楽も、昨年十月に単館から衣替へしなほかつ昨今、半分元に戻る気配を見せつつもある天珍も全て機能しない一週間。さりとて一週たりとも無駄にしたくはないと、スポーツ新聞に打つた広告も見当たらない小倉名画座に、正直応対に清々しく誠意の感じられないので気が重かつたが、仕方がないので電話をかけてみた。さうしたところ案の定ヤル気の欠片もない答へは、(坂本礼の)「いくつになつてもやりたい不倫」と、「高校教師」。“高校教師”といふ後にどういふサブタイトルが続くのかに関してすら、最早面倒臭さうなどうしやうもない風情であつたので、第三週に前田有楽に遠征予定―まづ間違ひなく出るが―である、坂本太の「高校美教師 ‐ふしだらに調教‐」(2001/主演:純名きりん)の2009年旧作改題版、「高校教師 ‐爆乳をもてあそばれて‐」のことであらうと適当に判断し、諦めて電話を切つた。残された最後の希望、久留米への途も絶たれ仕方なく手をこまねいてゐた日曜日、少し夜遊びしたりなんかして御前様で帰宅したところ、掲示板の方に北九州のピンクスの雄・どんがみ様より三月度の前田有楽と小倉名画座の有難い番組情報が。さうしたところ、「いくつになつてもやりたい不倫」と併映の「高校教師」とは、「高校教師」は「高校教師」でも、「爆乳をもてあそばれて」ではなく「喪服淫行」であつたといふ大驚愕の事実が判明した。未見であることは兎も角、所詮は新田栄の旧作ではないか、などといふこと勿れ。個人的には今作を押さへておくと、jmdbのデータが当てになり更に別の名義を使用してゐない場合、“関良平映画のミューズ”鈴木エリカ麻倉エミリ松島エミの、出演作がコンプリート出来るのだ。因みに活動時期順には、松島エミ→鈴木エリカ→麻倉エミリ。だからそれがどうした、なんて反駁はお願ひだから禁止にして呉れ。動いて動けぬことは辛うじてないとはいへ、体力的には過酷だの苛烈どころの騒ぎではない。だが然し、私が如何に底の抜けた粗忽者だとて猛烈に迷ひはしたが、行かなければ、後で絶対に後悔する。後ろに退いて後々悔やむか前に出て己の愚かさを呪ふかとでは、何れを選ぶべきかは自ずと明らかであらう。ピンクスは、小屋でピンクを観るのがジャスティス。さう腹を決め、無茶にも月曜日の仕事終りに超強行出撃で小倉を攻めたものである。映画の出来自体は殆ど初からさて措き、かうして無事生還を果たせたことに関しては、ひとまづ満足してゐる。


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