真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セックス★ライダー 濡れたハイウェイ」(昭和46/製作:日活株式会社/監督:蔵原惟二/脚本:浅井達也/企画:三浦朗/撮影:山崎善弘/美術:島田実/録音:神保小四郎/照明:高島正博/編集:鈴木晄/音楽:真田勉/助監督: 岡本孝二/色彩計測:山崎敏郎/現像:東洋現像所/製作進行:天野勝正/出演:田中真理《新スター》・吉沢健・滝波錦司・梅治徳彦・瀨戸ユキ・溝口拳・高橋明)。出演者中、田中真理の新スター特記はポスター共々で、梅治徳彦がポスターには梅谷徳彦。クレジットはスッ飛ばす、配給も日活。あと美術の島田実は、変名を暴露する日活公式サイトによると川原資三らしい。何れも、覚えのある名前ではないのだけれど。
 没個性的な高速道路の画に、開巻即タイトル・イン。ファンファーレ尻を、「あー」とか気の抜ける女声コーラスでいきなりチルアウトしてのける、正しく秒殺的な荒業は如何なものか。出鼻を挫く、こゝに極まれり。結婚式を翌日に控へた、美奈(田中)が神父の父親(ノンクレジット)を振り切りプチ出奔。互ひに会釈は交す、擦れ違つた修道女も美奈を振り返る横顔を覗かせつつ、矢張りノンクレ。制止の声を発する父親は殊に、ロマポに初射精、もとい精通された諸賢であれば容易く見切れるのか、元より専門外を憚りもしない、ピンク専の節穴には能はず。美奈が発車させる、アメ車にさうゐない馬鹿デカいステーションワゴンから、教会にパン。颯爽と運転する田中真理を一拍抜いて、停められた大型船にクレジット起動。スーパーで何やかや買ひ込んだのち、何時の間にか完全に日も沈み車が辿り着いた、ラブホテル「夢殿」に監督クレ。
 美奈が部屋に入ると既に聞こえて来る嬌声の、主は美奈自身。配役残り、頬骨だけは立派な滝波錦司は音声によるハメ撮りを嗜む、美奈の元カレ・尾崎。持参するアタッシュケース型の、といふかアタッシュ大のテープレコーダーにも、時代が偲ばれる。親の決めた、矢張り神父との結婚に退屈しか見出せない美奈が、独身最後の夜、昔の男との火遊びに繰り出した格好。ハッパなんてキメてみせもする情事は、適当に端折る。帰途の車中、ハメ撮り―カセット―テープの止めろ止めさせないをどさくさ争ふ弾みで、美奈の車が撥ねる男・亮が吉沢健、後年の吉澤健。脊髄で折り返し、逃げるやう主張した尾崎が結局無体に一人で尻(ケツ)を割る中、病院の表にでも放置して来るつもりで、一応亮を回収した美奈は運んでゐるうちにその死を誤認。未だ眼光も声の張りも完成に遠い高橋明は、美奈が亮を遺棄しに向かつた、湖で鳥を狩る猟師。亮と美奈が、美奈の金で入るレストランにノンクレ部がもう二人。母親は見当たらない父親と息子の父親が、この人賀川修嗣(a.k.a.賀川幸史朗)ぢやないかなあ?料理を平らげる亮の粗野な様に、怯える子役は知らん。泣きだした男児に、亮が想起する自らの幼少期。梅谷云々以前に、そもそも梅地徳彦の梅治徳彦が亮坊や。何気にエモいオッパイの瀨戸ユキが、傍らに息子が寝てゐるにも関らず平然と事に及ぶ亮の母親で、溝口拳が瀨戸ユキを抱く、父親ではない男。
 所詮量産型娯楽映画に非ざるゆゑ、当サイトは端から興味を持たないロマンポルノ・ナウ。を撮つた三監督が、各々セレクトした二本づつを上映するといふ企画も知らん間に進行中、ブルーレイで。偶々休みの日にカッコいゝタイトルの映画が来てゐるのに気づき、観に行つてみた一般での初陣を経ての、蔵原惟二第二作。ロマポ全体でも、通算第七作といふ最初期の一本にあたる。次作のセク★ライ第二作「傷だらけの欲情」(昭和48/脚本:永原秀一・峯尾基三/主演:杉原ミミ)が、どうも現状ソフト化も配信もされてをらず、何かの間違ひで何処かの小屋にでも飛び込んで来て呉れない限り、アンタッチャブルななかなか幻の一作である模様。
 今でいふマリッジブルーによろめいた女が、偶さか行動をともにする破目になつた無軌道な男と、濡れたハイウェイをブッ飛ばす。土台傾いたからこそのロマポともいへ、そこは天下の日活。ならではなカーアクションも繰り出す、如何にもニューシネマ的な刹那のエモーションを撃ち抜、いて呉れる皮算用を膨らませてはゐた。七本目にして初めて作品として認められた、ロマポの初日なる評価も見当たらなくはない、ものの。レストランを飛び出し、漸くハイウェイが本格的に濡れ始めるのがラスト十五分、総尺は六十八分弱。割とでなくもたつく湖を離れるまでの序盤中盤が、少なくとも2022年の感覚では端的にまどろこしくて、直截にしんどい。轢いた男を助ける助けない、車に積んだ亮は生きてゐるのか死んだのか。暫し右往左往に明け暮れる、大して先に進まぬ展開に食傷するのはまだ早い。美奈が小舟を湖の中央に進め、いよいよ亮を捨てんとしたところ。辺りに轟く銃声一発、仕留められた鳥が水に落ちる。猟師の存在ないし視線に一旦凶行を思ひ留まつた美奈が、それならカップルを偽装しようといふので、どうせ敵は遠目、単に体を重ねる程度で事済むものを、わざわざ全裸に脱ぐ眼福は眼福なシークエンスには、大概な素頓狂に腰を抜かすかと思つた。黎明のロマポが裸映画の文法を摸索してゐた、試行の錯誤を生温かく愛でる南風も吹かせ得るにせよ、今上御大ばりの、へべれけ具合に呆れてみせたとて別に構ふまい。亮の出自が明らかとなる辺りで、映画のエンジンが遅れ馳せながら本格的に始動。“最高のスピードの中で、最高のセックス”。ハンドルを握る亮に正面座位の体勢で美奈が跨る、亮が夢見たまゝを形にするクライマックスは、本来それなりにエモーショナルで、おかしくなかつた筈なのに。何故そこで、ミディアムなスキャットを選曲する。全篇通してとかくちぐはぐな、劇伴も目には見えない致命傷。果たしてその山道は高速道路なのか、といふ根本的な疑問をさて措きさへすれば、膣分泌液よりも寧ろ、ハイウェイを血で濡らすラストこそそこそこの衝撃を湛へはすれ、総じては普通に古びた、掴み処に欠くクラシックではある。

 ちなみに今作を選んだのは松居大悟で、もう一本が磯村一路(a.k.a.北川徹)の、主演女優の口跡からぎこちない「愛欲の日々 エクスタシー」(昭和59/主演:小川より子)。これ、もしかして。よもや松居大悟は、自作の方がマシに映るチョイスで二本選んだ訳ではなからうな。


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 「尻肉ライダー ぶつかけて青春」(2021/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/音楽・脚本・監督:清水大敬/撮影:大久保礼司/録音:西山秀明 ㈲スノビッシュ/照明:藤田陽介・ジョニー行方/作曲・振付:花椿桜子/ポスター:中江大助/助監督:郡司博史/制作進行:佐々木狂介/仕上げ:東映ラボ・テック㈱/出演:ふわり結愛・成宮いろは・松緯理湖・ことり・大山魔子・銀次郎・野間清史・陣場虎次郎・川上貴史・安藤ヒロキオ・佐々木狂介・吉良星明・郡司博史・森羅万象《特別出演》)。出演者中、陣場虎次郎と川上貴史に郡司博史、森羅万象のカメオ特記は本篇クレジットのみ。斬新にも、編集のクレジットが見当たらないのは相変らず。しかし、何かあちこちちぐはぐなビリングだな。
 マジ愛車のホンダCBR400Rを、ふわり結愛が始動させる。素の状態だと薄らぼんやりした、好意的にいふならば正しくふんはりした表情に、捩子の二三本外れた公開題―評価してるつもり―に比すと一層、随分あつさりしたタイトル・イン。アバンは案外こんなものなのか、あの清水大敬にしては淡白、どのだ。
 明けて御馴染歌舞伎町一番街のネオンから、上村錠治と山口幸子の名前が殺風景に並ぶ表札。一番街ネオンが、以降全篇通して繋ぎのカットで執拗に濫用―あと伝統的な画角の、大通り跨ぐ高架ロング―される割に、偶さか主人公宅が其処に存するといふだけで、実は歌舞伎町に特にも何も全く意味はない。劇団「朝日」の俳優・上村錠治(安藤)が、一緒に住む同劇団の研究生で、出勤前の山口幸子(ふわり)に見るから大丈夫ではない苦渋の風情で百万の無心を切り出しつつ、とりあへず挨拶代りのパツイチ。ふわり結愛の童顔×正調美少女素材を考慮し攻め方を変へてみたのか、旦々舎に勝るとも劣らない重量級轟音の煽情性、そして天下無類の即物性を誇る清水大敬が得意のローションも一旦封印。女の裸をただただひたすらエロくでなく、比較的綺麗に捉へるお上品な濡れ場を披露。手数の多さの諸刃の剣、ザックザク切り刻む大雑把な体位移行に際しても、幸子の顔を一拍挿み込むらしくない小技を繰り出してみせる。清水大敬に普通の絡みを撮られると、それもそれで却つて物足りなさを覚えてもしまふのは、ならばどうしろといふ我儘な贅沢。
 配役残り、野間清史は金槌を得物に―借りた金を返さない―上村を襲撃する、本部から派遣された「鮫島金融」の用心棒・金村。昨今、うつかりしてゐると清水大敬より老けて見えかねない佐々木狂介(ex.佐々木共輔/a.k.a.佐々木恭輔)と、先に触れた対ふわり結愛とは対照的に、従来の大敬オフィス作を力強く担保する成宮いろはは、幸子が事務員のアルバイトで働く「三原山物産㈱」の、社長の多分三原山とその夫人。同居する母親に気兼ねし自宅ではヤリ辛いとかいふ、一応道理が通つてゐるのか矢張り底が抜けてゐるのか。よく判らない方便で社内夫婦生活に日々勤しむ、仲睦まじいのは仲睦まじいファンキーな栄諧伉儷。要は概ね全員さうなるのだが恐らく額面通りの、公称151cmのふわり結愛と並ぶと矢鱈馬鹿デカく映る銀次郎は、幸子を訪ねて来る山桜高校の恩師・岡野か丘野。美人は美人の割に、色気のない男顔のことり(a.k.a.志摩ことり)は、後述する二人と「鮫島金融」を任される固有名詞不詳、金村とは懇ろな間柄。本クレで三番手に扱ひがひとつ昇格する―ポスターではことり―松緯理湖(ex.松井理子)は、ことり(大絶賛仮名)と姉妹分の堺明美で、大山魔子が明美姉貴分の鳳、即ち三人のリーダー格。国沢実2019年第二作「スペース・エロス 乳からのメッセージ」(高橋祐太と共同脚本/主演:南梨央奈)以来、箆棒に間隔が空いてもゐないが、再びのピンクとなる継戦自体に軽く驚いた吉良星明は、幸子の山桜高校演劇部の先輩・大山健二、岡野が顧問。ちなみにこの人、吉良星までが苗字、目出度えな。ある意味十八番芸ともいへるのかスチール出演の郡司博史は、息子の意に反し酒屋を継がせた健二の父。主役を得る条件のチケットノルマ百枚に窮し、上村が鮫島金融から借りた四十万は、文字通り法外な利子で忽ち百万に膨らむ。返済と引き換へに強ひられた、といふか断れば顔をボコボコにすると鳳らに脅された、ブツを届ける聞くからイリーガルな仕事を、上村の苦境を救はうと幸子が引き受ける。全体何がしたいのか鍵はかゝつてゐない檻の中で悠然と待つ川上貴史は、幸子から厚封筒を受け取り、植木鉢の陰だなどと、人を馬鹿にしたやうな隠し場所に金を置いて行く頓珍漢な強面、家の鍵か。油断してゐると吹き荒ぶ、清水大敬のプリミティブなフリーダム。陣場虎次郎は朝日の演出家、金で役を売る腐り倒した劇団の体質には反し、別に幸子を手篭めにしたりはしない。そして最早判で捺した如き定位置にドッカと座る森羅万象が、鮫金の上位組織「鮫島興業㈱」の社長・鮫島、どうせ下の名前は権造か権三。カメオではあれ、一幕を堂々と仕切る。改めて数へてみると、森羅万象の鮫島フィルモグラフィーが今作で足かけ六年の七本目。七百本はありさうな気がしてゐた、大御大・小林悟でもそんな撮つてねえ。
 近年は年三本撮らせて貰へてゐた、大蔵の何気な寵愛ぶりを窺はせる清水大敬も、コロナ禍の被弾は流石に回避し損ねたか2020年の二本を更に割り込み、2021年は一本きり作。郡司博史が演出部で、佐々狂も制作部兼任。フィジークばりに絞り込まれた制作プロダクションにも、地味に苦境を覗かせる。景気の悪い話はさて措き、今回上野が大敬オフィス作を公式に、ボリウッドの要領で“ダイウッド”と銘打つてゐるのが爆発的に可笑しい。“尻肉ライダー”に止(とど)まらず、オーピー絶好調すぎるだろ。
 単車乗りのヒロインが、自堕落な同棲相手の身代りに運び屋の危ない橋を渡る。と来ると愛しのCBR400Rと一緒なら勇気百倍、可憐な尻肉ライダーが卑劣な悪党どもと丁々発止渡り合ふ、痛快な娯楽活劇を期待、したかつたところが。普段が常に起き抜けみたいな、寧ろ脱いでからの方が面持ちの安定する心許ない主演女優に、たとへば海空花のやうな骨太のアグレッシビリティを端から望みやうもなく。重ねて、あるいは火に油を注ぐのが。見える見えないの問題ぢやない、危ないんだよボケといふ至極全うな理由で、ふわり結愛がリアルでは絶対にミニスカなんかで運転する訳がない、CBR400Rはそろそろ発進して、おそるおそる停止するのが関の山。正味な話、それでもふわり結愛は無防備な御々足がスースーするのが怖かつたらう。尻肉ライダーといふ画期的にファンタスティックな機軸を謳ひながら、さういふ、実際には情けない体たらくゆゑ、井上真愉見らが単車をバリバリ駆つてゐた、西村卓昭和61年第四作「暴走レイプ魔」には到底遠く及ばず。西村卓にも―“にも”とは何事か―出来てゐたことが何故出来ぬ、といふ遥か原初的な以前に。だから、そもそもバイクを太股も露に運転させる前提なり選択に根本的な無理がある。走らせたら走らせたで、何れにせよオートバイがカッコよく走つてゐる画を、果たして清水大敬に撮れたのか否か甚だ怪しいともいへ、大人しくバイクスーツをフェティッシュに舐める順当な方法論を採れなかつたものか、本質的な疑問は如何せん拭ひ難い。
 半ば潰へるべくして潰へた、バイカー映画は潔く諦めてしまへ、日本も印度だ。一方、ダイウッドに関しては。親子喧嘩の末郡司博史殺害を早とちりした健二は、幸子を追ひ東京に出奔。ツバメかバター犬的に、明美に拾はれる。片や、アル中の父親が粗相した便器を掃除させられた幼少期のトラウマで、鳳は強迫的な衛生観念の持ち主に。自白曰く僅か二滴手洗にヒッかけた―だけの―健二に対し、激昂した鳳は左右にことりと明美を従へ、“お前のためのショータイム”を宣告。グルッと一周したペラッペラさが満更でもないバンド演奏に乗せ、踊り歌ふのが「急ぐ膀胱、急ぐ肛門」、「心静かに、心静かに」。「手を添へて、手を添へて」、「外に漏らすな、外に漏らすな、外に漏らすな」、「松茸の、露!」なる画期的な歌詞の珍曲。ど、どわはははは!うん、言葉を選ぶと頭おかしい。清水大敬は天才にさうゐない、紙一重で惜しい御仁でなければ。ところが、よもやまさかの万が一。もしかすると惜しくないかも知れないんだな、これが。例によつて都合のいゝ奇縁に、足を洗つたことりと、金村の恋路の行方は等閑視される点を除いた全てが自動的な勢ひで導かれる、ピタゴラスイッチ大団円。皆から可愛がられるヒロインが棚から降り注ぐ牡丹餅を浴びるばかりで、実は殆ど全く一件の収束に寄与してゐない万事・エクス・マキナな結末に、斯くも壮絶な迷トラックが重要な呼び水として機能する。余人の追随を許さないプログレッシブ作劇こそが、音楽の富を奇想天外な遣り方で奪取してのけた、ダイウッドのダイウッドたる所以。そこまで見据ゑてのダイウッド命名であつたとしたら、オーピー超絶すぎるだろ。
 最も肝要な、裸映画的にはふわり結愛相手に一旦緩めたかに思へたアクセルを、ビリング後ろ三人で何時も通りベッタベタにベタ踏み。目新しいめりはりを生じさせた返す刀で、隙あらばたとへ敵が大山魔子であつたとて間断なく弾幕を張る、寸暇を惜しんだパンチラと胸の谷間とで画面を埋め尽くす。何よりエクストリームなのが、ことりと金村がアツい一戦をキメた事後、なほシャワーを浴びエモいトランジスタ爆乳を重ねて丹念に堪能させた湯上がり。鮫島周りの外堀をぼちぼち埋める会話がてら、その間もことりがわざわざオッパイにクリームを塗る最早神々しいまでに麗しい、是が非ともお塗りして差し上げたくなる無上のシークエンス。ジャスティス!さう尊ぶ以外に、如何なる讃辞も不要である。必然性だ、リアリティだ片腹痛い能書で、棹が勃つのか。否、勃つものか。観客の、見たいものを見せる。そこに乳尻がある限り、なければ連れて来ればいゝ。清水大敬が貫くまこと漢の姿勢ないし至誠は、断固として正しい。
 「生きてさへゐれば、きつといゝことがある」。かつては木に暗転極大スーパーを接ぎ観客を呆れ返らせてもゐた、鉄の信念は確かに鉄の信念と思しき他愛ないオプチミズムも、別れ際の岡野に幸子と健二には聞こえぬやう独り言ちさせる形で、思ひのほかスマートに処理、褒めすぎたかも。主演女優をまるで孫娘のやうに愛でる清水大敬は、へべれけな雪崩式ハッピー・エンドをも、持ち前の尋常ならざる熱量で力技の南風に無理から固定。下らない詰まらない拙い、ついでに折角のCBR400Rは走らない。然様なあれもこれも、もといあれやこれや、清水大敬にはどうでもいゝ、よかないんだけど。大いに清々しいのが、俺達の清大映画ぢやないか。メイビナットでない、褒めすぎた。


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 「OL誘拐犯 剥ぐ!」(昭和60/製作:獅子プロダクション/配給:にっかつ/監督・脚本:片岡修二/企画:奥村幸士/撮影:志賀葉一/照明:斉藤正明/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:末田健・浦富真悟/撮影助手:中松敏裕・鍋島淳裕/照明助手:坂本太/スチール:田中欽一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/挿入歌:『GIVE US THE TRUTH』作詞・作曲・演奏:リップクリーム 唄:千里/出演:藤村真美・ジミー土田・鈴木幸嗣・早乙女宏美・秋元ちえみ・瀬川奈津子・外波山文明・清水圭司・大山潤次・長尾恭平・下元史朗)。出演者中、清水圭司から長尾恭平までは本篇クレジットのみ。
 深夜、チャリンコに乗つた制服警官の沼田(多分大山潤次)が、倒れてゐるジミー土田を発見、慌てて駆け寄る。のは岩淵か岩渕達也(ジミー)と渉(鈴木)が仕掛けた罠で、渉に襲はれた沼田は、スミス&ウェッソン社製38口径―のち鑑識の台詞より―を奪はれる。その辺り、ガン考証に関しては門外漢につき潔く通り過ぎる。但し、渉の苗字は轟だらう。
 アバンが二十秒強の手短さでブルーバックにタイトル・イン、が実はブルーバックでなく、青い照明の当てられた壁といふさりげなく小洒落たカット。女(瀬川)を抱く警部補の野沢(俊介に決まつてゐる/下元史朗)に、頭を割られた沼田本人から拳銃強奪の急報が入る。女の制止を振り切り、出勤する野沢が出際に「俺のことに口を出すんぢやない」。閉められたドアに、女がクッションと投げつける台詞が「サイテー」。本篇冒頭の濡れ場初戦を四番手が飾る、電撃の奇襲作戦を鮮やかにキメた瀬川奈津子は、清々しく一幕限りの御役御免。それもそれで、潔い。
 所帯の大きさから窺ふに、結構な大企業の総務課。江藤倫子(藤村)に、サラ金から督促の電話がかゝつて来る、職場にまで。同僚の恋人・園山(高志か/清水圭司)のために、倫子は七十万まで膨らんだ、元本五十万の借金を作つてゐた。少なくとも政治的と経済的に一元号丸々ドブに捨てた、平成を経てなほこの期に潮目の全く変らない。当サイトは令和の底辺ながら七十万くらゐカード決済して呉れればなうこの瞬間返せるのだけれど、昭和の会社員が、何をそんな窮してゐるのか不思議な不自然に関しては等閑視される。のは、兎も角。こゝで衝撃的なのが清水圭司といふのが、声を聞く分には一目ならぬ一耳瞭然であるにも関らず、暫し目を疑ふほど肥えたex.清水国雄。
 金もないまゝとりあへず事務所に顔を出した倫子を、社長の佐伯(と来ると恭司/外波山文明)が―射精産業に送り込む―値踏みする、「微笑ローン」を達也と渉が襲撃。金庫のみならず、各人の机にも札束が入つてゐたりする、無防備かプリミティブな会社から三千万を二人が強奪する一方、正しくどさくさに紛れ、倫子も金銭借用証書を鷲掴みにして逃げる。突入前のエレベーター、ジミー土田と鈴木幸嗣が、バンダナを巻いて顔を隠すカットが普通にソリッド。
 またひとつ辿り着いた、配役残り。feat.千里―この人の素性は知らん―のリップクリームは、一旦達也が犯した倫子に飯を食はせるライブハウスにて、挿入歌を演奏してゐるバンドセルフ。当時既に、といふかとうにMTV文化の火蓋が切られてゐたにしては、プロモ風シークエンスの壮絶にダサい通り越して酷いカット割りはこの際さて措き。どう見てもドラムを狼狂二が叩いてゐるやうにしか見えなくて、調べてみたところLip CreamのDr.であるPILLの、役者活動時の名義が狼狂二。見える見えないではない、狼狂二が叩いてゐるんだ。更に先に進むと、現状確認可能な最も早い狼狂二の俳優部仕事は、片岡修二の九作前、昭和59年第二作の「黒い暴姦 婦警を襲ふ」(新東宝/主演:麻生うさぎ)。その映画ではa.k.a.PILLの狼狂二がLip Cream以前に参加してゐた、G-ZETが挿入歌を担当してゐる。ついでで同様に最後はVo.のジャジャと共演する、矢張り片岡修二の「地下鉄連続レイプ」シリーズ最終第四作「愛人狩り」(昭和63/主演:岸加奈子)。横道、坊主もとい終了。寝る時以外は家でもセーラー服の早乙女宏美は、倫子と二人暮らしの妹・恵。実は清水圭司の総務課ファースト・カットで一緒に見切れてもゐる秋元ちえみは、園山の二股相手・圭子。恐らく長尾恭平が、野沢の部下の革ジャン刑事・トクラ。何れにせよ、二人とも渉に撃たれ殉職する。その他総務課を皮切りに、笠井雅裕がゐるのは見切れる微ローとLip Creamがライブするハコ、捜査本部ならびあちこちの官憲部。ジャッブジャブ結構途方もない頭数が投入、されはする、見栄えするとは別にいつてゐない。
 片岡修二の買取系ロマポ第三作となる、昭和60年第五作。当年に関しては、ピンクよりも買取系の方が多い。
 同じ路地に一旦退避した奇縁で達也が赤で、渉は青。各々明確に色分けされた微笑強盗犯に、倫子が拉致。一旦脱出するも自宅をトクラに張り込まれ倫子は戻るに戻れず、結局二人と行動をともにする破目に。といふと無軌道なアクション映画の構造が、上手いことあつらへられたやうに思へなくもない、ものの。当サイトがかういふ感興を懐くのも正直珍しいが、諸刃の剣的に裸映画を一欠片たりとて疎かにしはしない分、寧ろもう少し延ばしても罰は当たるまい、ピンクと全く変らない尺。佐伯といふか外波文の過剰な造形―とex.清水国雄の贅肉―に、例によつて最終的には大雑把か粗雑なドンパチ。刹那的な凶行に巻き込まれた女が、何時しか男達を追ひ越し先頭に飛び出して行く。如何にも魅力的な物語の割に、大味なのか小ぢんまりしてゐるのかよく判らない展開が、駆け抜けも弾けもせず案外漫然と進行。序盤は再三再四投げつつ中盤暫し忘れてしまふ、“サイテー”も満足に結実し損ねるラストが逆の意味で綺麗に失速、墜落してるかも。多分似たやうな脚本を長谷部安春か西村昭五郎にでも渡してゐれば、吃驚するほどの傑作になつてゐた、のかも知れない微妙な一作。藤村真美がポップな阿亀顔に囚はれるか躓かなければ、この人ディフェンシブな絡みに実は長けるのが収穫で、一点どうしてもツッコまざるを得ないのが、担保と称して恵を手篭めにする、佐伯いはく「妹が姉の身代りになるのは合法的」。えゝと、それは何時の時代の何処の法だ。


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 「ダブルファイナル 性力増強!! お下劣クリニック」(1994/受審:新東宝ビデオ株式会社、の筈/監督:浜野佐知、の筈/出演:田村香織・手塚莉絵・栗原良・樹かず・杉本まこと)。
 ボディコンの田村香織が黒ブリーフ一丁の樹かずと軽く乳繰つて、本格的な尺八と騎乗位。手塚莉絵がナースの白衣を脱ぎ、矢張り口唇性行と性器愛撫、こちらのお相手は栗原良。ビリング頭二人を一分強で掻い摘むと、相変らず凄まじく酷い書体のタイトル・イン。新東宝ビデオ的には、一種の社風なのかしらん。
 旧旦々舎の庭に薮中―博章―劇伴が鳴り、栗原良が「ウチでセックス出来ないんです」。三年間夫婦生活が御無沙汰といふ患者の悩みを、恐らくハーセルフの女医(田村)が聞くカウンセリング。当人のアイデンティティとしては、セックスのエキスパートといふよりも“心の専門家”らしいゆゑ、専門は精神科か。白痴に二三本陰毛を生やした造形の、看護婦(手塚)が脇に控へる、こちらは下の名前が莉絵ちやんと劇中香織センセイから呼称される。香織が口にしたセックスレスの単語に、耳慣れぬ風情で栗原良が首を傾げる時代性。
 配役残り、ダッボダボにオーバーサイズのスーツに眩暈がする―断じて褒めてはをらん―樹かずは、香織の彼氏かセフレ。杉本まことはいざ挿入、といふ段になると萎えてしまふ勃起不全の相談に訪れる患者其の弐。
 嘘か本当か知らないが、“業界初の同時引退作品”を謳つた一本。ホワイエ、もといとはいへ。如何にも引退作的な湿つぽさないし花道調の晴々しさ賑々しさ、あるいはメモリアルな何某かとは一切全然まるで無縁。あと田村香織と手塚莉絵は二人とも、ピンクとは全く関係がない。
 香織が栗原さんの検査を莉絵に振つた時点で、検査キタ━━━(゚∀゚)━━━!!出し抜けにスラックスを下され呆気にとられるリョウを、莉絵がズッポズポ吹いてのける端から底を抜いた、大らか且つ低劣な琴線を最短距離で直撃する実戦的な煽情性が、そのまゝ大人しく全篇を支配する。本職の映画といふ訳ではなく、物語なり主題なりにも振り分ける労力を潔く端折つた上で、さうなるとあとは火の玉ストレートな濡れ場に全てを賭ける。腹を括つた、浜野佐知の豪腕が痛快に火を噴く。中折れに悩む杉まこがよく見る夢の中身といふのが、観音様の中からエイリアンが覗いてゐる。俄かに起動する山﨑邦紀の気配と、結局杉まこには未だ望まぬ子作りもしくはAIDSに対する、即ち所謂ノースキン挿入に潜在的な抵抗があるとかいふ方便で、コンドームの正しく薄皮一枚で問題を克服する煌びやかに底の浅い即物性とが清々しい、素晴らしいとはいつてゐない。それでゐて、処置を施す治療ルームと称した、要は単なる寝室に連れ込まれ呆然とするリョウや杉まこが、香織と莉絵からザックザク喰はれる辺りには、旦々舎らしい攻撃的な女性優位がそこはかとなく薫りもする。絡みぶりのよりダイナミックな田村香織と、上半身を大きく使ふ尺八がエモい手塚莉絵。粒の揃つた二枚看板に、無駄で下品なメソッドに興を殺がれることもない、劇映画にも十分に耐へ得る男優部。一見他愛ないか何でもない素振りで、なかなか高水準な小一時間をサクッと見させる。

 一点、凡そ三十年を経た現代の視座から眺める分には、軽く躓かざるを得ないシークエンス。治療ルームにて莉絵に吹かれる栗原良の姿―より直截には棹―に、香織が勝手にワンマンショーをオッ始める。目を丸くするリョウに対し、カウンセラーがオナニーしてはおかしいか問ふた香織は、続けて「女医やカウンセラーも、子供を産んだお母さんも」、「同時に、性欲を持つた生身の女なの」。今時―といつてもう三年前だが―触れるだけ触れて小栗はるひは豪快に等閑視してのけた、エイセクシュアルの存在に留意するならなほさら、ヘテロセクシュアルなるよくてアプリオリな前提、故意の悪し様にいふならばひとつのドグマに、囚はれてゐなくもないのではなからうか。


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 「激マブ探偵なな 手淫が炸裂する時」(2021/制作:ふくよか舎/提供:オーピー映画/企画・監督・編集:横山翔一/脚本:奥山雄太/プロデューサー:三橋翔太/撮影:佐藤直紀/照明:岩渕隆斗/編集・VFX・助監督:秋野太郎/制作担当:八ツ橋翔次・鶴丸彩/衣装:長瀬由依/ヘアメイク:安藤メヰ/録音・整音:田中秀樹/音楽:ひと:みちゃん/劇伴:松石ゲル・伊藤資隆/美術:柴田正太郎/装飾:岩間洋/特殊造形:快歩/タイトル:大脇初枝/スチール:篠田卓也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:きみと歩実、亜矢みつき、ジューン・ラブジョイ、長野こうへい、竹内健史、あらい汎、伊神忠聡、近藤善揮、高木健、卯水咲流《特別出演》、木村香代子、広瀬寛巳、吉田覚、松本卓也、中岡さんたろう、他ひと:みちゃんら夥しく多数)。まづ白旗を揚げておく、一般映画ばりの壮絶なクレジット情報量を、当サイトが誇、れない節穴の動体視力と記憶力とで全て拾つて来るのは土台無理。沙汰は未だ聞こえて来ないが何時かそのうち、円盤がリリースされたらそこで洗ふ、どうせフィジカルの方が先だらう。
 意図的に幾分落とした、ど頭はキネコ画質。夜の新橋西口通り、キャッチのクロフク(高木)が客を捕まへ、損ねる。勃たなくなり廃業した、初代セックス探偵の珍鎮(あらい)が見守るか水を差す中、二代目の果梨玉男(長野)と助手のなな(きみと)が特訓のセックロス。一方、そこそこ以上に所帯の大きな「トリプルエイチホールディングス」。草臥れリーマンの山田太郎(竹内)は、岡惚れる上司・大和(以下無記入は玉と砕けた残滓)が産休に入る激励会に、部長を後任する後輩・松本に引き継ぎ業務を押しつけられ出席出来ず。声をかけたクロフクも青ざめるほど、山田が完全に消沈して買ひに出た煙草の自販機。挙句百円ライターにも見限られ、半ベソの山田にガスマスクの怪人物が、三角形の紋章まで入つたジッポーで火を点けて呉れる。ジッポの蓋を閉ぢるや、男は消失。一服を深く吸ひ込み、通過する電車を見やる山田の背中フルショットから、後述する前作同様、新調した主題歌が威勢よく起動。普通にカッコいゝタイトルバックでメイン俳優部のクレジットを打ち込んだ上で、画面左半分に大書タイトル、右はきみと歩実が正座でニッコリ御挨拶するタイトル・イン。アバンから目を引くのが社屋ロケも全く十全なトリプルエイチに投入される、見た目も所作も手近で適当に見繕つた面子とはとても思へない高水準の大量動員と、まさかそのアダムジッポもわざわざ新造!?全体、この映画幾らで作つてゐるの。
 本篇の火蓋を切るのは二番手、セックス探偵の面々が根城とする表向きの稼業、チャイニーズオイルエステ店「アメノウズメ」の新人嬢・ハチ(亜矢)も交へた、改めての特訓セックロス巴戦。事後、新橋支配を目論む超男尊女卑犯罪結社、“Association of Domination with Amazing Men”を頭文字で略して「ADAM」と日々戦ふ果梨に、公式のカメオから連絡が入る。役つきに昇進、現場を離れる公安捜査官の長尾彩(卯水)は、果梨に独伊のADAMが初めて国際的に接触した事実を伝へ、本邦ADAMとの三国同盟阻止を依頼。事の最中に発動する超人的な推察力、シックスならぬ“セックス・センス”で捜査にあたる果梨をサポートする―即ち抱かれる―後任に、紐育市警から来日させた霞・ラヴクラフト(ジューン)を引き合はせる。多分丸腰の、彩のトリガーハッピーは治まつた模様。なほ白人部の招聘は、一撃必殺の告白がウルトラ泣かせる、滂沱の感涙作「むつちり家政婦 吸ひつきご奉仕」(2013/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:ティア)以来八年ぶり。は、いゝとして。同名同趣旨の犯罪結社が、各地で別個に興るちぐはぐな世界観はプリミティブなツッコミ処。
 膨大な配役残りを、目下辿り着ける限りで。丸が取れても丸々しさは変らない吉田覚(ex.吉田覚丸)は、ななに本番強要して出禁の大目玉を喰らふメンエス巨漢客。「恋の豚」は兎も角、竹洞哲也のパラレルな二部作を忘れてゐた。伊神忠聡は、姿を消した松本の捜索を望むHHH女子社員を伴ひ、「アメノウズメ」を訪ねる果梨の友人・前張達郎。この人確か設定だと俳優部の筈が、今回の劇中では制作部的なデスクワークしかしてゐない。木村香代子は果梨の大家から、松本の大家にプチ転職。事実上退場する果梨の代りに、珍鎮はクロフクに性豪を集めさせ五人の仮性セックス探偵を結成。揃ひの仮性Tが、本家の果梨Tより寧ろカッコいゝ。うち一名で、阪元裕吾の「グリーンバレット」あるいは「最強殺し屋伝説国岡[合宿編]」に於いて、最大瞬間風速的には主役の国岡昌幸(伊能昌幸)をも霞ませる、真中卓也役の松本卓也がゐるのには軽く度肝を抜かれた。仮性とはいへセックス探偵につき、当然女優部の恩恵にも与る。ただその体は、もう少し絞れるよね。近藤善揮は仮性の叛乱で「アメノウズメ」を失つた、珍鎮らが頼る映像制作会社「GOカンパニー」の社長・権座我鳴。GOカンパニー来客で、中岡さんたろうがシレッと紛れ込む。あとひろぽんは、何しに出て来たのか殆ど全く判らない、レス・ザン・ホームの情報屋。ピンクの座敷童を、外様が無理して連れて来た感も否めず。その他賑はふ新橋の往来始め、先述したトリプルエイチ要員とGOカン要員に、クライマックスの舞台となるネオ新橋ビル最上階、終電を逃したサラリーマンのオアシス―画的には安置場に近い―たる駅前サウナ「aSTiE アスティー」―実際にはaSTiLでアスティル―要員で優に数十人。その他、なながトリプルエイチに向かふ間、ハチの施術に悶絶する矢鱈一件に詳しい何かしら事情通に、松本以外のイランイラン名無し被害者。官憲部(にひと:みちゃん)etc.、途方もない人数がフレーム内に溢れ返る。全く不足を感じさせぬロケーションの数々に加へ、バトロワ的な首輪爆弾プロップの、最終盤に至つて遂に力尽きる如実な安普請にさへ気づかなかつたフリをすれば、美術・小道具にも隙はない。本隊近作でいふと、たとへば亜矢みつき(ex.神谷充希)の前作でもあるナベシネマと今作が、素人目ながら同じバジェットで撮られてゐるやうには正直凡そ見えないのだが、その格差の、所以は果たして何処(いづこ)に。
 横山翔一のピンク映画第二作は、当初からさんざ喧伝されてゐたにしては三年空いた、「絶倫探偵 巨乳を追へ!」(2018/脚本:奥山雄太《ろりえ》/主演:春原未来・長野こうへい)のその後を描いた「新橋探偵物語」正調続篇。では実はなく、公式の扱ひによるとあくまでスピンオフ。尤も、どちらでも大差ないけれど。ところで外様部隊が総本数に比して―元来ピンク全体で珍しめの―シリーズものが案外多く、梯子を外された荒木太郎とは異なり、自業自得で今をマキシマムにときめかない、金輪際ときめかなくて構はない榊英雄の、端から二本撮りされた「裸の劇団 いきり立つ欲望」(2016/脚本・助監督:三輪江一/主演:水城りの)を除いても、山本淳一の「ギャル番外地2 またシメさせてもらひます」(2020/主演:霜月るな)と、古澤健の「たわゝなときめき あなたの人生変はるかも」(2021/主演:松本菜奈実)に続く三本目。
 彩曰くに“真正の痴女”造形のラヴクラフトが最初に出て来た瞬間から既にトッロトロ―画面上の描写から窺ふ印象―で、あとはひたすらジャパニーズ・ウタマロに悶える通り越し白目を剥いて吠えるに只々徹する、純粋無垢な三番手ぶりを轟然と大披露。清々しさの陰で側面的に、高濃度媚薬で女々が廃人にさせられる、イランイラン事件から果梨を遠ざける。矢面に立たされたななは、大人しく認めても別に罰はあたるまい疑問もあれ、果梨に対する想ひに揺れながら怪人・イランイランに立ち向かふ。綺麗な物語が、第一作「絶倫探偵」の如く不用意にダークかウェットな方向に軸足を踏み外しもせず、そのまゝつゝがなく進行。荷物までまとめかけたななが、珍鎮の受け売りで華麗か現金に再起。お給料日に巷から女が消える、新橋最後の日。身体能力の高さを活かした特訓シークエンスも経て、ななが阿片窟ばりに煙るアスティーに単身赴く、王道展開は既に鉄板。イランイランとエステ対決と称した、要するに締めの濡れ場。“もう頑張らなくてもいゝよね”的な、カジュアルに心の折れる絶体絶命にまで追ひ詰められたななが、しかも絡みを通して、実は重ね重ね周到に打たれてもゐた布石を下に、果梨の幻影を突破し敢然と復活。凝り固まつた山田の女に対する怨嗟を、撃破しつつ浄化する大逆転は裸映画的にも、裸をサッ引いた素の娯楽映画としても一点の曇りも一欠片の衒ひもなくガチのマジで完璧。ピンクで映画のピンク映画の、近年稀に見る素晴らしい百点満点到達点。全て観る観ない以前に現時点で来てもゐないのに先走るが、全般的な完成度でいふと対「キモハラ課長 ムラムラおつぴろげ」(監督・脚本:城定秀夫/主演:七海なな)が流石に怪しいか厳しいにせよ、少なくとも締めの濡れ場限定でいふと2021年ブッ千切りで最高最強。強ひて難を論(あげつら)ふならば、ピンク的には若干姦しすぎるカット割り。もう少し女の裸を大人しく舐める、あるいは腰を据ゑて長く回す我慢を覚えて呉れるとなほ頼もしい。横山翔一が今後も量産型裸映画に留まるか否かは微妙なのかも知れないものの、とまれ未見の薔薇族も含めると三戦目で叩き出した感動作。嗚呼、今日はいゝ映画を観たと、心洗はれ小屋を後にした。

 こゝから先は、純然たる私事と与太、与太は全部与太なんだが。今作が上野にて封切られた当時、マネージャーと観に行くゆゑ、劇場で見かけたら声をかけて下さいねといふジューン・ラブジョイのツイートに触れ、何てエモーショナルなプロモーションなのかと激越な感銘を受けた。なので震へた魂を身銭で形にしようとあれこれした結果、思くそファンシーなラブジョイTシャツを購入。今も大絶賛愛用してゐるのみならず、堂々と着て小倉に出撃する、壮絶なキモオタムーブを敢行した。それはさて措き、目下ジューン・ラブジョイが、横山翔一の監督で主演自主映画を企画、クラファンで資金を募つてゐる。果梨とななの助けを得たラヴクラフトが、米ADAMと激闘を繰り広げる、「新橋探偵物語」第三作なら喜び勇んでぼちぼち出すぞ。
 付記< ナンバリングは第二作の「新橋探偵物語」第三作が、暮れにフェス先行で封切られる旨情報解禁。さうなると、セックス探偵・ゴーズ・アメリカは第四作でシクヨロ


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 「異常快感24時」(昭和60/製作:飯泉プロダクション/配給:大蔵映画/監督:飯泉大/脚本:しらとりよういち・飯泉大/企画:佐藤靖/撮影:倉本和人/照明:佐藤才輔/音楽:佐々木貴/編集:金子編集室/助監督:荒木太郎・田島政明/撮影助手:下元哲/照明助手:佐久間栄一/効果:東京スクリーンサービス/スチール:田中欣一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:伊藤清美・彰佳響子・河井憂樹・佐藤靖・江口高信・武藤樹一郎・田島政明・川島由美・金子真奈美・佐藤俊鬼・山地美貴《友情出演》)。製作の飯泉プロダクションは、アルファベット表記のIIZUMI Productionと要は同じ組織。
 通過する電車から住宅地にパン、最終的にカメラがどの家を目指したいのか、覚束なく寄つてクレジット起動。江口隆司(武藤)が朝食を摂り、妻の和代(彰佳)は台所に立つ朝の風景。一方、未だベッドの中にゐるのが大丈夫なのか軽く心配な、伊藤清美の部屋。スペースの入れ方が素頓狂で、“監督飯:泉大”に寧ろより読める監督クレが、掉尾を飾り損ねつつ琴線は撫でる、生温かく。伊藤清美がカーテンを開け、「こんな街、消えてしまへばいゝんだ」。ソリッドに呪詛を投げた、下町越しにビルを望むロングにタイトル・イン。監督飯に話を戻すと、演出部専任のケータリングか。
 明けて三番手の濡れ場が轟然と飛び込んで来る、まゝある手法の割に、陳腐さは案外感じさせない鮮やかな奇襲。風俗嬢のユキ(河井)が、仕事で男に買はれる前にホストの細山(佐藤)を買ふ一戦を一旦完遂した上で、会社的には午前中外回りの体にしてある江口課長は、三日間無断欠勤してゐる部下兼、浮気相手の北野秋子(伊藤)宅を訪ねる。
 秋子と江口の拗れた情事を、稼働する洗濯機のカットバックで中途に畳む。最初の一手が瞬間的すぎるのに思はず編集ミスかと面喰ふ、斬新な繋ぎを経て江口家の電話が鳴る。配役残り、江口高信は離婚したとやらで和代を訪ねて来る、関係を持つてゐたのが実に十二年前だなどと、大概底の抜けたか箍の外れた、それとも直截には知らんがなな元カレ・イワナガ。こゝまでは、いゝとして。田島政明以降が、名前から足らない藪の中。秋子と細山が出会ふ、各テーブルの上に―普通に外にかけられる―電話機が設置してあり、それでテーブル間に於ける遣り取りも可能といふのが、今となつては謎めいたシステムの喫茶店「モア」。客同士の店内通話はまだしも、細山がモアから営業電話をかけ倒すのは、全体如何なる料金体系になつてゐるのか。ちなみに細山からかゝつて来た電話を取つただけの秋子は、三百五十円しか払つてゐない。閑話休題、画面手前と奥にカップルが一組づつ見切れるうち、奥の男が多分佐藤俊鬼、当然a.k.a.サトウトシキ。女は二人とも山地美貴ではないゆゑ、川島由美と金子真奈美、手前奥の別は知らん。手前男と、不愛想なボーイに手も足も出ない。モアを出た細山が出勤するホストクラブで、かの「愛本店」が堂々と実店舗大登場。それで協力クレジットされもしない、豪気な昭和の大らかさに軽く震へる。幾許かの台詞とアクションの与へられる―二言三言ならボーイも喋る―ビリング推定で、田島政明は自分の客であるユキを寝取つた、細山をシメるホストか。山地美貴はモアのウェイトレス、に、しても。折角山地美貴を連れて来てゐる以上、もう少しこれ見よがしに抜いてみせても別に罰はあたるまい。
 飯泉大時代の北沢幸雄旧作が、ソクミルの中に一本ポカーンと入つてゐるのを見つけた昭和60年第五作。ほかに、何故かソクミルではアテナ映像のリリース―ex.DMMではアートポート―になつてゐる、代々忠や渡辺護も発見、随時出撃する予定。企画が佐藤靖といふのが気になり、調べてみるととうに既知の事実であつたにも関らず、今作の恐らくのちに、佐藤靖がバーストブレイン・プロダクツを興してゐた沿革を寡聞にして頭に入れてゐなかつた、まだまだ甘い。
 快感は兎も角、特にも何も、アブいプレイの一欠片たりとて行はれる訳でもなく、“異常”に意味は全くない。極太ゴシックで七文字ドカーンと叩きつける、タイトル・インの藪蛇な迫力をさて措けば。数組の男女の付かず離れず―全部の組み合はせ離れてないか?―といふか入れポン出しポンを、経時的に描く。と来た、日には。何となく覚えた既視感は、決して気の所為ではない。大体同趣向の増田俊光昭和59年第一作「ONANIE 24時間」(脚本:しらとりよういち/主演:沢田かほり)を想起するに、去来する思ひはやりやがつたな白鳥洋一。臆面もないレベルの焼き直し具合が、却つて量産型娯楽映画らしくさへある、ないかいな。問題は展開の経糸を繋ぐ犬のジュリーもゐなければ、実は一作を通して男女が一度も絡まない、結構離れ業のコンセプトも不在。燻るだけ燻り倒した銘々が、誰一人満足に爆ぜもせず。明確に起こる関係性の変化といふと二度目の堕胎―父親は何れも江口―挿んで、秋子と細山が偶さか交錯するくらゐ。両作並べてみると異快24時の小粒ぶりが際立つ、仕方のない縮小再生産加減が年を跨いで、新東宝と大蔵を股にかけた24時デュオロジーのハイライト。
 本作単体に背、もとい目を向けると。尺的には四十分前、第一次モア・パートの火蓋を切つて以降が、実は女の裸が暫しお留守な豪快仕様。一応、和代が腹を括つた風情を匂はせる、夫婦生活を締めに置きこそすれ、概ね佐藤靖と、伊藤清美のカップリングで終盤を支配する。二人が最初に接触を果たす際の会話が、細山から秋子に机上電話をかけ、「どうかしたんですかお嬢さん、今にも死にさうな顔して」。それでミーツが成立する途轍もないファンタジーに畏れ入るほかないが、無論不審がる秋子に対し、火にニトロをくべるエクスプロシブな名ならぬ迷台詞が、「貴女の寂しさうな横顔に、一目惚れしちやつた男ですよ」。えゝゝゝゝ!殺傷力の高いダサさに、太陽は隠れた戦慄を禁じ得ない。子供を堕ろして来た秋子と推定田島政明にボコられた細山とが、秋子が置き忘れた定期入れを接着剤に、何時まで開いてゐるのか深い時間のモアにて再会。再会後の第二次モア篇も第二次モア篇で、藪から棒に口火を切るゲーム方便が、茶も濁し損なふ他愛ない体たらく。アバン尻で火を噴きはした、伊藤清美の捨て鉢なエモーションなんて完全に不発。どころか、純粋無垢にそれきり、金輪際のそれきり。これぞ木に接いだ竹の極致、極めて呉れなくていゝ。詰まるところが、茶店で捕まへた主演女優を人質に展開をジャックする、佐藤靖の佐藤靖による佐藤靖のための俺様映画といふ色彩が最も色濃い。山科薫と熊谷孝文を足して二で割つた程度の、佐藤靖のファンであれば必見といへる、のかも知れないけれど。ところで佐藤靖クラスタが何処にゐるのとかそもそも現存するのか否か、といつた疑問を当サイトには訊かないで。


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