真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若妻の性欲 だらしない肢体」(1991『若奥様狩り 性感帯をなぶれ!』の2008年旧作改題版/製作:シネマアイランド/提供:Xces Film/監督・脚本:金田敬/プロデューサー:鶴英次/撮影:下元哲/照明:清野俊博/編集:菊池純一/音楽:アントニオウノキ/助監督:松岡邦彦/プロデューサー補:光石冨士朗/監督助手:安藤尋・加賀宮康子/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:白石成一・山田聖二/編集助手:田中小鈴/スタイリスト:星輝明/メイク:永江三千子/スチール:石原宏一/製作進行:福山健弥/録音:福島音響/現像:東映化工/出演:須磨れい子・五島めぐ・爆発村とをる・鶴田靖・小林節彦・山本竜二・岸加奈子・内藤忠司・繁田良司・鎮西尚一・大工原正樹・常本琢招・山岡隆資・小沢禎二・天原天女・七里圭・吉岡淳哉)。コンプなスタッフ並びにキャストのデータは、京都は七条のピンク映画館「本町館」公式サイトの、フィルムから写して記録したといふ上映済み作品記録に拠る。
 門司港発祥のバナナの叩き売り、客寄せ口上に節をつけた競り唄である「バナちやん節」を口ずさみながら、結婚ブローカーの村岡(小林)が東京タワーをブラつく。金も入れずに覗き込んだ展望鏡を、戯れにカメラの方へ向けたところでタイトル・イン。中村幻児主催の雄プロダクション出身、松岡邦彦、下元哲らに提供した脚本やそこそこの本数のVシネ監督作で知られ、2006年には「青いうた~のど自慢 青春編~」で遂に一般映画デビューも果たした金田敬の監督デビュー作にして、唯一のピンク映画である。
 万国旗でデコレートされたトンチキな部屋に同居する、フィリピーナのはるみ(須磨)とさゆり(五島)。さゆりは姉のやうに慕ふはるみが、日本に留まる目的で踏み切らうとしてゐる偽装結婚に対して感情的に反対してゐた。乳も豪快に放り出し二人がギャーギャー諍ひ合つてゐるところに、ピンサロ店員のケンちやん(爆発村)が迎へに来る。村岡は自室で、別れた妻である今日子(岸)を抱く。炬燵を活かした濡れ場の、立体的な展開が光る。事後今日子は村岡に、再婚することを告げる。後にも先にも岸加奈子の出番はこの一幕のみ、少々勿体ないか。
 東京タワーで、はるみは村岡・芳介(山本)と落ち合ふ。芳介が、村岡が斡旋したはるみの偽装夫だ。ラブホテルの一室、ホテルキーを御幣代りに、斎主は村岡の二人の結婚式がコミカルに執り行はれる。店での習慣で「一気」コールがないと飲めないはるみは、三々九度に模したビールを一息に飲み干してしまふ。
 さゆりも好きといふ設定で、繰り返し劇中歌唱される「バナちやん節」。�据がれて海を越え売られに来たバナナと、いはゆるジャパゆきさんとを重ね合はせてゐることは明白であらう。尤もそこに不法在留者としての闇が形式的には描かれても、作劇のトーンとしての暗さは概ねない。ともに市民社会のメインストリームからは外れた者同士の、惚れた腫れたがひとまづは活写される。とはいへニューシネマのやうな肌合ひはそれはそれとして買へつつ、人死にをドラマの動因として安易に軽んじる態度には、当サイトとしては賛同しかねる。加へてその件に於いても、ピンクだから仕方がない、といふのはそれをいつてしまへば元も子もないが、ハイゼットを実際に川に沈められなかつたのは正直苦しいか。木端微塵に破綻する訳でもないものの、最終的にこの人とこの人とが結ばれるのかといふ点に関しては、あちこち説得力が足りず、上滑つた顛末であるといふ感は否めない。須磨れい子・五島めぐ・岸加奈子と超強力な女優陣に支へられた濡れ場は十七年の歳月を些かもモノともしない威力に溢れながらも、小林節彦は兎も角爆発村とをる(ポスターには“松村透”)が活きが悪くはないとしてそれだけで弱過ぎる。さゆりの絡みの相手を務めるのはケンちやんしか居ないといふのに、爆発村とをる登場の瞬間から商業映画の体を成し得なくなるのが大いに苦しい。狙ひ過ぎたみせよ、画面が暗くて何が何だかよく判らないカットも二箇所派手に目立つ。全体的な感触は決して悪くはないけれども、痒いところに手の届かないデビュー作といへようか。尤もかういふ球を、この期に臆することなく投げ込んで来るエクセスの姿勢は買へる。

 キャスト中、本篇クレジットのみの内藤忠司以下、十人中監督が六名も名前を連ねる―内藤忠司・鎮西尚一・大工原正樹・常本琢招・山岡隆資・小七里圭―妙に豪華なその他出演者は、ほかに特に見当たらないゆゑ概ねはるみとさゆりとが働くピンサロの客か。明確に見切れてゐた中では、荒木太郎映画で見覚えのある内藤忠司しか確認出来なかつた。松岡邦彦のデビュー作で主演の一角を張つた七里圭ならば、正面から抜かれれば視認出来るつもりではあつたのだが。鶴田靖はピンサロ店長。


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 「痴漢電車 夢うつろ制服狩り」(2007/製作:幻想配給社/提供:オーピー映画/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/メイク:大久保沙菜/タイミング:安斎公一/撮影助手:堂前徹之・桑原正祀/照明助手:広瀬寛巳/助監督:池田勝る・逆井啓介/出演:亜紗美・澄川ロア・山口真里・井上如香・ホリケン。・加藤トモヒロ、他十一名)。出演者中、他十一名は本篇クレジットのみ。
 痴漢が犯罪であることを説くポスターを、アレな勢ひで注視する男。一方混み合ふ駅のホームで、品定めでもつけるかの如く、一人の男に色目を使ふ女子高生。
 女子高生・友里(亜紗美)は朝の電車で、ポスターを注視してゐたアレな男・川崎(ホリケン。)の痴漢に遭ふ。友里らの背後では、色目を使つた女子高生、といふかJK・アヤカ(澄川)が、自ら体に鈴木(加藤)の手を誘(いざな)つてゐた。友里は同じ車輌に乗る同級生のケンジ(井上)に頻りに目線で助けを求めるが、まるで気付いて貰へない。すると、不意にアヤカは鈴木の腕を掴むと周囲に大声で痴漢を訴へる。迷惑防止条例の条文も読み上げ鈴木を吊し上げるアヤカの姿に、友里は目を丸くすると同時に輝かせる。とはいへ実のところアヤカは、獲物に目星をつけては被痴漢を偽装し金を巻き上げる女だつた。
 その日の放課後、友里はケンジに朝の一件に関して文句をいひながらも、何とはなしに二人はイイ雰囲気になる。そのまま大胆にも教室で事を致さうとするものの、童貞のケンジは挿入の仕方を判らず、しかも友里に触れられるとそれだけで情けなくも暴発する。羞恥に我を失ひ逃げ帰るケンジと、友里とは早速微妙な距離に。翌日ケンジは友里を避け、仕方なく一人乗り込んだ車輌で、友里は再び川崎の痴漢に遭ふ。どうすることも出来ない友里に、アヤカが助け舟を出す。アヤカは川崎から例によつて巻き上げた金を、友里と山分けする。対してケンジは、うつかり女性専用車輌に乗り込んでしまふ。その日の朝、不倫相手と別れちやうど荒れてゐたOLの真紀子(山口)に捕まり、ケンジはホテルへと連れて行かれる。山口真里に無理からホテルへ連れて行かれるといふのは、近年映画の中に描かれた中でも、画期的に羨ましいアブダクションであらう。どうしてレスの筈の妻が懐妊するのかといふ、山口真里ファースト・カットの台詞もパンチが効いてゐる。
 五ヶ月前封切りの前作より、再び新東宝からオーピーへと戦場を移した友松直之の新作は、谷崎や乱歩を愛読する黒縁―メガネ―女子高生が痴漢や恋の擦れ違ひやを経て、いい娘(こ)もいい女も所詮は外から求められるままの、望まれるだけの姿に過ぎないと排し、悪い女を目指すといふそれはそれとしてのアクティブな青春映画である。友里が濡れ場まで含め終始賢明にメガネを外さない点も、友松直之は判つてゐる男だと激賞せずにはをれない。とはいへ、帰結としては判らなくもない一方で、大きな飛躍を補完するだけの説得力には些か欠き、唐突感は拭ひ切れない。変貌を遂げた友里が、自ら川崎相手に積極的に快楽を求める件の必要は、ピンク映画といふジャンル的要請を踏まへても酌めぬではないが、報復を誓ふ鈴木に拉致されたアヤカを、全く役には立たないケンジも伴ひ救出に向かふといふ、最も大きなイベントを素直にクライマックスに持つて来れなかつた点は、全体の設計としては矢張り苦しいか。さうかういひながらも、主演の亜紗美は非常に魅力的。最終的なトータルでの繋がりは弱い反面、場面場面での感情の表出は力強く、走り姿の美しさも買へる。映画女優としての萌芽を感じさせる亜紗美が、友松直之次作に於いても主演を務めてゐるところを見ると、今作は後々その重きを増す一作といへるのかも知れない。繰り返しにもなるのは恐縮だが、そんな亜紗美演ずる友里のボーイフレンドとしては、井上如香は引き立て役にせよどうにも貧弱。主演を喰つてしまつては問題かも知れないが、援護射撃のひとつもロクに撃てないでは話にならぬ。

 ズラズラズラッと見慣れぬ名前ばかりクレジットされる、男五名女六名計十一名のその他出演者は、友里らのクラスメートと、通学電車のその他乗客要員―あと、刑事役が一人―か、何れにも顔を出してゐる者も居ると思はれる。カットの変り際にまで用ゐられる効果音の使ひ方の、穿違へたポップ・センスは邪魔で頂けないが、実車輌でゲリラ撮影したパートから、電車セットパートへの繋ぎは超絶。シレッと観てゐる分には、全然境目が判らない。


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 「不倫女将 濡れた失楽園」(1999『未亡人旅館 したがる若女将』ではなく1998『いんらん旅館 濡れ濡れ若女将』の2008年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:福俵満/撮影:清水正二・飯岡聖英/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/出演:しのざきさとみ・相沢知美・西藤尚・杉本まこと・熊谷孝文・池島ゆたか)。脚本の周知安は、片岡修二の変名。
 悦子(相沢)は夫(全く登場せず)にリストラの不安を感じ、家計を助ける為に旅館「偕楽園」でアルバイトする。偕楽園を取り仕切るは社長の松原(池島)と、妻で女将の凛子(しのざき)。冒頭大した意味もなく偕楽園の紹介がてら三組の夫婦客が登場、一組目の旦那は深町章で、三組目の福々しい巨漢が高田宝重、風呂に浸かりながらの抜群の笑顔も見せる。二組目の若い男は飯岡聖英か?三組何れも背中しか見せない妻役は、背格好から多分相沢知美。悦子は実は松原とは男女の仲にあり、関係を持つ度にバイト代―の値上げ―をせびつてゐた。
 当初予定を早めた、隆司(熊谷)・聖子(西藤)の若夫婦が偕楽園を訪れる。特に根拠もないままに、悦子は二人が失楽園カップルではないかと、即ち情死の場を求めて偕楽園にやつて来たものではないのかと邪推する。一方、続けて久木(杉本)が一人で偕楽園に現れる。「役所広司より、あんな男と失楽園したいなあ・・・」と悦子は色めきたつが、実は久木は、不倫相手の凛子を追ひ宿泊客を装つたものだつたのだ。因みに渡辺淳一の『失楽園』がブームの頂点を迎へてゐたのは、旧版封切りの前年1997年である。
 悦子が隆司・聖子夫婦に向けるいい加減な失楽園疑惑が、実際の凛子・久木の不倫関係と十字に交錯する勘違ひドタバタ。ここで勘違ひといふのが、悦子の隆司・聖子夫婦に対する勘違ひと、夫婦客の失楽園疑惑を取り沙汰する悦子と松原に対し、凛子は自分達の不倫がバレてゐるのだと勘違ひするといふ、重層的なものである点が秀逸。二人シャワーを浴びる隆司と聖子に、悦子と松原は聞き耳をたてる。「キスマークだね」といふのを「失楽園だね」と聞き違へるといふのは些かぞんざいな気もするが、後に悦子が「聖ちやんカリ舐めて」といふ隆司の睦言を、「青酸カリ舐めて」と凄まじく豪快に誤解する件には、あんまりも通り過ぎて紙一重を超えた破壊力が漲る。とはいへ総じては展開の細部細部を無理や破綻が生じないやう丁寧に扱ひつつ、何れも充実した濡れ場濡れ場の重ね撃ちの末に、騒動を<ウンコネタ>でオトす作劇は実は一貫して論理的で、完成度は何気なくも高い。そのまま<凛子の脱糞>でヤリ逃げしてしまふ終幕もスラップスティック、あるいはコントとしてはアリかとも思はれるが、地に足を着け直した日々の描写を挿み、何故か魔法少女よろしく箒に跨ると「エイヤッ☆」とジャンプした相沢知美を、真下から捉へた画といふオーラスは、今となつてはそれはそれとして甘酸つぱくもある。

 改めて顧みると、簡潔の極みにして本篇の内容にジャスト・フィットした新題も、中々以上の出来栄えである。


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 「痴漢電車 おさはり痴女」(2003/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/監督助手:加納良明/撮影助手:小宮由紀夫/照明助手:石井拓也/衣装・大人の玩具協賛:《株》ウィズ/出演:谷川彩・風間今日子・ゆき・今野元志・シュウ・横須賀正一/特別出演:西藤尚)。特別出演の西藤尚は本篇クレジットのみ。監督助手は下の名前がヨシアキなのは(多分)確かなのだが、漢字が少々心許ない。
 流石に昨今はもう見られないやうな気もする、堂々とした手作り感が炸裂するどころの騒ぎではないチープな書割で開巻。ハウススタジオの洋館風マンションの一室に同居する、コンパニオンのルイ(谷川)、イメクラ嬢の楓(風間)、霊感師の早紀(ゆき)こと“ハッピーガールズ”(耳心)。彼氏が出来たとゴキゲンの楓ではあつたが、早速ルームメイトの二人を前に、男から絶縁を厳命するメールが届く。落胆する楓を余所に、早紀に霊感が降りる。中央線の七号車に運命の男との出会ひあり、ラッキーカラーは黒だといふのだ。ルイと楓は、その時ルイが履く黒いパンティを奪ひ合ひつつ駅へと向かふ。どうでもいいが、黒い下着の一枚や二枚持つてるだろよ。混み合ふ車中、二人はやつとこさ黒いシャツを着た男・恭平(今野)を発見する。果敢に痴女行為を仕掛け男性自身のサイズを確認した二人は、恭平を公園に誘ひ出す。とりあへず楓と寝てみることを申し出るいきなりなルイと楓に対し、古風な恋愛観の持ち主である恭平は、セックスはエステのお試しコースではないと突つ撥ねる。実はマッサージサロンを営む恭平は、ルイの姿勢が悪いことを看て取ると名刺を渡し、その日は二人と別れる。
 「失恋の痛手は新しい男で癒す」、「逆ナンの前に、まづは情報収集」(詰まるところはモノの大きさのこと)、「恋をするかどうかは、寝てから決める」等々、たはけた恋愛哲学―何が“哲学”だアホンダラ―を共有する三馬鹿女が、早紀の霊感を頼りに運命の出会ひを求めて右往左往する、といふドタバタラブコメである。
 横須賀正一は、自らの運命に関して降つて来た早紀の霊感に合致する、メッセンジャーの吉丸。一旦はハチャメチャなファッションに早紀も断念しかけるが、吉丸の自転車にブラ提げたトランジスタ・ラジオから、ラッキーソングの「おおブルネリ」が流れ始めたことで俄かに猛然とアタック。実は、といふか見るからにゲイの吉丸を早紀は半ば手篭めにする。ここはひとまづ、攻めのゆきと受けの横須賀正一とが上手く噛み合つた配役とはいへる。
 早紀から運命の男が動物だと占はれ、楓は憤慨する。満員電車の中で、楓は新見(シュウ=十日市秀悦)から痴漢される。ただそれは、イメクラの出張サービスであつた。新見から延長料金を毟り取つた、楓は目を丸くする。よくよく見てみると新見のネクタイの図柄は、交尾する牛のイラスト―何処で買つて来たんだよ、そんなモン―であつたのだ。早紀のいふ“動物”とはこのことかと、半信半疑の楓を新見は、ジョイトイを研究開発する自らの事務所へと誘(いざな)ふ。考案した巨根養成下着で馬並みの新見のイチモツを前に、楓は運命を確信する。とかいふ次第で、楓は部屋も引き払ひ一旦退場。仕方なく残された二人で向かつたボーイハント先で、早紀は再び吉丸と巡り会ひ、今度こそ完全に捕獲する。そんなこんなで楓と早紀とはそれなりに片付けておいて、破廉恥女が不器用男との出会ひから改心するといふ、ルイと恭平の純愛ストーリーに焦点を絞る構成は、脇が甘々のところに目を瞑れば、潰れればそれはそれとして堅実といへなくもない。ルイは恭平のマッサージ店「楽園」を目指すが、楽園は経営難から閉店してしまつてゐた。特別出演の西藤尚は、ルイが恭平を見付け出す為にジャックする、街頭ビジョンで放送中の「OPニュース」女子アナ・西藤尚役。
 再び電車内で痴漢プレイに戯れる楓と新見を、閉めた楽園の替りに「車内クイックマッサージ」を開業したルイが急襲する、といふオーラスは、それまでの物語を痴漢電車といふメイン・モチーフに綺麗に回収してみせた点は評価出来る。加へて“痴漢電車”とはいひながら、電車内での行為は何れも女主導のいはば“痴女電車”である点は、今作の隠された特色に挙げられようか。最早どうでもいいよといはれてしまへば、正しく実も蓋もないが。とはいへ大団円とまで称するには些か弱いのは、ここに登場するのがルイ+恭平と楓+新見の二組のカップル止まりで、早紀と吉丸は絡んで来ない点。といふか、改めて振り返れば実は本作、早紀は電車に一切乗つてはゐない。それぞれの女の運命を司る“女神”とやらの存在や、そもそも冒頭の霊感について、早紀が占つたのがルイなのか楓なのか、といつた重要点が必ずしも詳らかにならない脚本上の基本的な穴に加へ、二度目の遭遇から自転車で逃げる吉丸をブルマ姿にチェンジした早紀が走つて追ふ件。陸上出身と称しながら何故か早紀がバレー用の膝サポーターを着けてゐることや、チェイス自体のどうしやうもないタルさ等々、例によつてか一向に締まらない点を論ひ始めればそれこそキリもないが、そんなこんなは最早さて措き、意図的に何も考へずにのんべんだらりと眺めてゐれば、途中で寝落ちてしまふならばそれも又よし。くらゐの心持ちで挑めば挑められれば、何とはなしにのんびりと観てゐられなくもない一作。最終的に無理矢理纏めてみるならば、その日の気分か体調に、強力に左右されるともいへよう。それをいつてしまつては、それこそ元も子もないやうな気もするが。


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 「床屋の後家さん いぢられ好き!」(2000『未亡人理容室 痺れる指先』の2008年旧作改題版/製作:フィルム ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:坂本太/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/編集:金子尚樹 ㈲フィルムクラフト/照明助手:藤塚正行・海沼秀悦/助監督:高田亮・城定秀夫・笠木望/制作担当:真弓学/ヘアメイク:パルティール/スチール:本田あきら/タイトル:道川昭/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:島田綾・村上ゆう・佐々木基子・やまきよ・前川勝典・久須美欽一)。
 未亡人の浅田晴海(島田)は遺影すら見切らせない亡夫を、半年前に腹上死で喪つた。夫の遺した理髪店「理容室アサダ」を女手ひとつで切り盛りするものの、常連客といへば共に若後家の晴海を狙ふ、八百屋でこちらは男寡の樋口真悟(やまきよ)か、度外れた妻・恭子(佐々木)の性欲に手を焼くお好み焼き屋の高田久志(前川)ばかり。店と家を担保に町内会長の佐々木宗太郎(久須美)から借りた借金の期限も迫り、晴海は厳しい日々を送つてゐた。そんな折、結婚して家を出た晴海の妹・麗奈(村上)が、離婚したと捨てた筈の町に不意に戻つて来る。
 朝昼晩一日三回、といふか要は終日の妻の求めに終に屈し、不能になつてしまつた高田が恭子を伴ひ晴海―の肉体―を頼つて来たりもしつつ、最終的には麗奈発案の殆ど理髪もそつちのけの本番違法サービスで晴海の店には行列が出来るとかいふ物語は、桃色人情喜劇としてあまりにも鉄板。鉄板過ぎて新味の欠片もないが、さういふ付き合ひの悪いことを言ひ出す御仁は、図書館が所蔵するアジア映画でも観に行かれてゐればよからう。近代的な一夫一妻制の欺瞞に攻撃を加へ、乱婚制を通して大いなる人間賛歌を謳ひ上げ、てゐたりなんかする訳でも無論ない   なら書くな
 詰まるところは新田栄とやつてゐることは殆ど、といふか全く変りはしないのだが、流石に幾分以上に、テンポ宜しく一息に観させる仕上がりにはなつてゐる。尤も、カウンター席の鉄板にお好みを焼き焼き客からは冷やかされながら、半裸の恭子に尺八を吹かれる高田、などといふシークエンス相手に一々立ち止まつてゐては逆にこちらの負けだ。馬鹿馬鹿し過ぎて却つて具はつた攻撃力を、おとなしく愉快に楽しむくらゐの大らかさも時には必要であらう。ルーチンワークとまでいふのは些か言葉が過ぎるかも知れないが、かといつて別にそれでも構はないのかも知れない。とはいへ定番の上へ下への大騒ぎ、といふか要は腰から下が大騒ぎ商店街映画としては、ほぼ過不足ない99点の快作。何もないといへば何もないが、これでいいといへば、これでもいい時もあるのではないか。
 樋口の父親、晴海・高田のそれぞれの店の客として若干名登場。樋口の父親役は、そのままロケ先八百屋のリアル大将かも。晴海に本当に丸坊主に刈られてみせるのは、城定秀夫でも笠木望でもないところを見ると、高田亮?心なしかションボリしてゐるやうにも見えるのは気の所為か。それと急激な瑣末ではあるが、高田が恭子に尺八を吹かれながら焼くお好み。関西風だからまだ為せる技か、といふのも兎も角、少々油が多過ぎるやうに映る。

 ところで、先に“ほぼ過不足ない99点の快作”と述べた、一点の減点材料とは。麗奈のファースト・カット、商店街の街並みにそぐはない華美な毛皮のコートで登場するや、「相変らずシケた町ね!」と容易に予想し得るお約束の台詞をキメる。そこで、残念ながら村上ゆうのアフレコが別人である。村上ゆうのお転婆ぶりに当て書きしたかの如きシークエンスだけに、出来れば本人の声で聞きたかつた。


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 「兄嫁の夜這ひ すすり泣く三十七歳」(2000『三十路兄嫁 夜這ひ狂ひ』の2008年旧作改題版/製作:ワイワン企画/提供:Xces Film/脚本・監督・編集:関良平/企画:稲山悌二/プロデューサー:戸川八郎/撮影:鷹野聖一郎/照明:市城徹/助監督:水島貞之/メイク:田代晴美/スチール:勝村勲/製作主任:鈴木トモユキ/ネガ編集:フィルムクラフト/録音・効果:シネキャビン/ロケ協力:王子工房・厚木スタジオ/音楽:寺嶋琢哉/出演:鈴木エリカ・渡辺健一・大沢広美・沢井ひかる・塚本一郎・飯島大介)。
 ログハウス、斉藤みさ(鈴木)が入浴する。少し引き気味のカメラから見切れるやう、不自然にバスタブの向かつて左端に寄つて風呂に入る姿に、伝説の迷監督・関良平の、もう一歩のところで紙一重を越えられなかつた残念な作家性が早くも濃厚に漂ふ。ところで、何故(なにゆゑ)にさういふ真似をわざわざしなくてはならないのかは全く判らないが、今作主演の鈴木エリカと、二年後の次作にして現時点に於ける一応関良平最終作、「わいせつ女獣」主演の麻倉エミリとは同一人物である。風呂上り、屈託ないカメラ目線を呉れながら自らバスタオルを解いての御開帳なんぞ披露した上で、みさは外出。鈴木エリカの天衣無縫なカメラ目線は、以降些かも憚るでなく全篇を通し性懲りもなく繰り出され続ける。「ゴーストワールド」(2001/米/監督・共同脚本:テリー・ツワイゴフ/主演:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンソン)のラスト・シーンよろしく(大ロ虚)、みさを乗せたバスが画面奥に走り行く画でタイトル・イン。外光をてんでコントロール出来ずにルックがコロコロ変る撮影が、開巻早々消極的な意味でのオフ・ビートを加速する。
 カット変るといきなり、ソファーとマットだけが置かれた黒バックの一室での、みさと岩井おさむ(塚本)の絡み。横臥位を、ちつとも扇情的ではない角度から捉へる画が多い点に、本作を貫く如実な特色が見られる濡れ場を通して、みさと岩井の関係は、この情交の時制は、といつた観客の理解と物語のスムーズな進行とに必要な情報は、清々しいまでに一ッ欠片たりとて提供されない。「さあて始まつた」、といふ感を強くする。ベジータ風にいふならば、「これからが本当の地獄だ」。帰宅した―ならば岩井は誰だ―みさの夫・ひろし(飯島)が、同居してゐたものの三年前に不意に家を出た、ひろしの弟でみさからは小舅に当たる、あきら(渡辺)が戻つて来る旨を伝へる。しかも明日、藪から棒にもほどがある。そんな夫婦も世の中にはあるものなのか、みさは歳の離れた夫を、終始“オッチャン”と呼ぶ。矢張り佐伯をひろみが“オッチャン”と呼ぶ、「わいせつ女獣」との共通性が見出される点如き、そもそも大した問題ではない。風呂にするか飯にするかと問はれたひろしは風呂と答へておきながら、カット跨ぐとその夜の夫婦生活。妙にベッド・メイクに神経質なひろしの描写や、みさは半年前に流産してゐたとかいふ、その後一切活かされないまるで木に竹を接いだディテールを織り込みつつ、無茶苦茶な、といふかグチャグチャな自編集による濡れ場の乱れ撃ちで、みさは義弟であるあきらとも関係を持つてゐた過去が語られる。挙句に、ひろしは背面騎乗位の最中に寝てしまつてゐたりなんかする。画期的過ぎる、関良平の綾なす展開には何人もついて行けぬのではないか、関良平以外は。
 翌日、あきらの帰宅を思ひ出しがてら家事を済ませ、買ひ物に出たみさが家に戻ると、鍵は開いてゐた。ひろしがあきらを伴ひ既に帰宅してゐたのだ。変に説教臭いひろしの姿には何某かのテーマでも滲ませたつもりなのか、三人で酒を酌み交はすと、ひろしは酔ひ潰れて寝てしまふ。みさがあきらを風呂に入れたところで、場面移つて客のゐないスナックでの、ママの早苗(沢井)と岩井の情事。岩井は店のオーナーか、といふかだからこいつ誰なんだよ。早苗は、岩井とみさの関係を知つてゐるらしい。更に翌日外出したひろしは、早苗の店「アルタミラ」へ。何とアルタミラは裏ではデートクラブも経営してをり、ひろしは早苗の紹介で19歳ながら留年してゐるゆゑ未だ女子高生の、めぐみ(大沢)と落ち会ふ。ここからの、ひろしとめぐみの逢瀬が今作の白眉。もとい、関良平の文字通り想像を絶するアバンギャルド編集が終にその恐るべき真価を炸裂させる。ひろしの赤いミニの助手席に乗り込み紅を直しためぐみは、静かなところに行きたいとか切り出す。いきなりかよ、あんまりだ、捌けるどころの話では済まない。驚喜したひろしがミニを走らせると、次のカット何故か二人は

 河原で石なんか投げてゐる。

 早速ホテルぢやねえのかよ!続けてコークでもキメてゐるのかめぐみが今度は鬼ごつこをしようだとか言ひ出せば、舞台は移り二人は雑木林に。出し抜けにめぐみが下半身を露に誘惑、木を背にしたハモニカで絡み開戦。矢継ぎ早にカット変ると今度は護岸のテトラポッドの上で後背位、続けて神社の境内でいはゆる駅弁、更に草叢で騎乗位、果てにはロングショットの刈り取り後の田圃にて正常位・・・・・

 田園に死にさうだ。

 ジャンプ・カットどころの騒ぎではない、自由自在といふか縦横無尽といふか、直截に木端微塵といへばよいのか。否、最早さういふ言葉でも足るまい。空前絶後の関良平編集を前にしては、小林悟や小川欽也の映画であつてすら、アカデミー受賞作かと見紛ふであらう。その本質は混沌、あるいは夢幻か。実のところは単なるロー・スペックを通り越したノー・スペックであるなどといふのは、正しく実も蓋もなくなつてしまふので内緒だ。
 といふ訳でひろしはめぐみにうつゝを抜かし家を空けた、即ち兄嫁と義弟二人きりの夜。あきらに膳を据ゑるのかそんなつもりもないのか、正体不明の助走を経つつ、みさは悶々と岩井に電話する。すると折りよく岩井は早苗とセックスの最中だといふので、そのまゝ変則巴戦のテレホンセックスが開始される、

 その発想はねえな。

 斬新過ぎるシークエンスの最中、あきらは漸く重い腰を上げ、新題を体現する夜這ひをみさに対し敢行。といふか、その場合正確には“兄嫁に夜這ひ”でなくてはならないか。二組の情交がグダグダと交錯する中、これまでの鈴木エリカ絡みの濡れ場が目まぐるしく雑多に挿入され、初めから体を成してもゐなかつた映画が覚め際の悪夢の如くいよいよどうにもならない混濁を来たしたところで、ラストは更に後日。ひろしはあきらに、実は妻の、実弟との不貞を知つてゐたことを明かす。兄弟も観客も、少しも釈然とはしないまゝに、一人自信満々のみさが土手越しに姿を現す。てな塩梅でカメラ位置のてんで決まらない、中途半端なみさの引き気味の画がラスト・ショット。観客の恐らくは全てが振り切られたまゝ、少なくとも鈴木エリカ(=麻倉エミリ)は唯一人御満悦。ハーフと思しき容貌も相俟ち、死屍累々の荒野に高笑ひながら屹立する、死を喰らふ魔女の姿すら想起させられる。一方関良平自身の手応へは果たして如何にといへば、このやうな紙一重のその先には、実は更に果てのない虚空が巨大な口を開けてゐた、とでもいふべき映画を撮つてのける御仁の心中を、推し量る術など持ち合はせやうがない。聞きしに劣るとも勝らない一作、一言で今作の本質を言ひ表すならば、「何かの間違ひ」とでもしかほかに言葉が見つからない。このやうな最早偉大とでもしか評しやうもない大迷作を、「わいせつ女獣」一作のみならず少なくとも二本は撮つてゐる関良平といふ存在に、別のといふか逆の意味で震撼させられるばかりである。ある意味必見、一旦関良平を通つておけば、流石にもう恐いものはなからう。

 アバンとラストの二度、意表を突く淡白なイントロで始まる“今夜だけは綺麗に咲いて”、“別れの後独り抱いて”とサビから入る、ニューミュージックと歌謡曲が4:6程度のブレンドの主題歌が流れる。鈴木エリカの声には聞こえなかつたが、クレジットが一切なかつたため詳細は全く不明。“ニューミュージック”なる単語が未だ生きてゐた時代のテイストの曲で、2000年リアルタイム(付近)の作であつたならば素敵なアナクロニズムでもあるが、「さよなら」といふ言葉が轟くブリッジには、個人的には実は普通に心を揺さぶられた。音源があるなら幾らか余計に出しても欲しい、出来れば皿で。
 ついでに、この期に狂ほしいまでに別にどうでもいいが、早苗役の沢井ひかるは、清水大敬の「双子姉妹 淫芯突きまくり」(2002)に登場する、沢田まいと多分同一人物。


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 「20世紀少年」(2008/ 主題歌:『20th Century Boy』T.REX)。時にはメインストリームの映画も観るよ。
 因みに、初めにお断りしておくと、浦沢直樹の原作は一コマも未読。監督の堤幸彦に関しては、「溺れる魚」(2000)を観た際に「二度とこいつの撮つた映画は観ん!」と激昂したものであつたが、ひとまづ当代きつてのポン画界(“日本映画界”の意)ビッグ・プロジェクトといふことで、いそいそとシネコンに足を運んでみた。
 とりあへず、今作は二つの大きな過ちを犯してゐる。何はともあれ第一には、毎度毎度一般映画の概評を書く度に同じことばかりいつてゐるやうな気もするが、といふか事実さうでもあるのだが、

 フィルムで撮れよ、タコ。

 クライマックス、東京を襲ふ“ともだち”の巨大ロボットに主人公らが敢然と立ち向かふ“血のおほみそか”。肝心の巨大ロボットの全景すら判然としない有様なのは、半分はキネコ品質の所為。小屋で観るよりDVDで見た方がよく見えるやうな代物を、当サイトも映画として評価しない。
 羽田空港や国会議事堂のロング・ショットCG爆破シーンは、それまでのドラマ部分が総じて病的にカメラが寄り過ぎてばかりなだけに、偶さか映画を観てゐる気分を錯覚出来もするが、ここは矢張りジョー・ダンテのいふ通りに、ミニチュアで出来ることは、ミニチュアで撮影するべきではなかつたか。そもそもがフィルムで映画を撮らない人間に、いふたとて詮ない方便でもあらうが。全体的には、あくまで全三部作中の一作目とはいへ、何処に製作費六十億も使ふたのか?といふ感が非常に強い。映像的スペクタクルとしてはほぼ皆無。六十億といふ数字は本当に正味の映画「20世紀少年」に費やした総額で、その半分は広告宣伝費、といふオチであるならばそれはそれとして肯けぬでもない。
 第二には、ラストで流れる「20th Century Boy」のボリュームが小さい!個人的に勝手に期待してゐたところでは、映像は完全に終り、エンド・クレジットが流れ始めたところで、劇場を吹き飛ばす勢ひの大音量でドカーンとあの馬鹿でも知つてゐる名リフが轟くといふものである。対して実際は、第二章への繋ぎのエピローグのBGMとして「20th Century Boy」を浪費しておいて、オーラスに流れるのは唐沢寿明歌ふ、かつてはロックを志してゐたといふ設定の主人公:ケンヂの劇中オリジナル曲といふ有様。一体どういふブラック・ジョークか。今作の一切合財を掻き集めたとて、「20th Century Boy」の一小節にも敵ひはしないのだ。音楽の富を奪取せよ。映画はぼちぼちだつたのに、主題歌の威力で何故か大感動に震へながら劇場を後にする、最早さういふ形の突破口しか残されてゐなかつたのではないか。

 だとか何とかはいひつつも、あれやこれやは兎も角最終的には強大な敵に主人公らがレジストする、といふシンプルでエモーショナルな物語なだけに、何だかんだで散発的、あるいは局部的には心を揺さぶられたのが正直なところでもある。第2章にも、矢張り多くは望まないままに、一応足を運んでみようかとは思ふ。


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 「変態熟女 発情ぬめり」(2003/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:小宮由紀夫・赤池登志貴・藤田明生/助監督:伊藤一平・佐藤竜憲/音楽:中空龍/出演:鏡麗子・風間今日子・佐々木基子・平川直大・兵藤未来洋・柳東史)。
 「ねえ、私とセックスしない?」、「一度きりなら、何時でもOKよ」。インターネットを通して、アン(鏡)が男を狩る。一方、エモ(佐々木)はアンに夫を寝取られたことに激しく憤慨する。一度アンを抱いた男は、その超絶淫技に魅惑され妻にせよ恋人にせよ、一切の他の女への関心を失つてしまふのだ。アンとセックスしたエモの夫(全く登場せず)はその後腑抜けとなり、終には家を出、今では消息も掴めなくなつてしまつてゐた。けふもけふとて、アンはサカ(兵藤)と寝る。男の射精すら自由自在に操るアンのテクニック、これは確かに恐ろしいかも知れない。和室にて、酒を酌み交はしながら、テク(柳)と妻のフレ(風間)が情を交す。山邦紀一流のイントロダクションの最後に、秋田弁の男・雄アン(平川)登場。雄アンは接触したアンに尋ねる、アンは自分と同じ、セックス・アンドロイドではないのかと。
 人間を模した学習能力を付与された上級機種の雄アンは、自我を目覚めさせた結果、セックスする為に作られたアンドロイドとしての自らのアイデンティティーに疑問を覚える。アンとの対決を期するエモは、こちらは再びアンの女体を求め街を彷徨ふサカを、アンを偽り誘ひ出すことに成功。エモはサカと、アン探索の共同戦線を張る。一方、雄アンはテクを訪ねる。実は今は一線から身を引いたテクこそが、雄アンらセックス・アンドロイドの設計者であつたのだ。
 公開当時、“ピンク版『ブレードランナー』”として話題を集めた一作。今回観戦を控へバージョンは問はず「ブレラン」を再見しておくかしらんとしてゐたところ、更によくよく調べてみると、親ファイルは404で既に出て来はしなかつたが、トークショー時の山邦紀御自身の発言によると、実は今作は「ブレードランナー」ではなく、「ダーク・スター」(1974/米/製作・監督・共同脚本・音楽:ジョン・カーペンター)の翻案であるとのこと。さうかうしてゐると生来の曲り臍からか、かういふところに捕まつてゐたら負けかなといふ間違つた論理が鎌首をもたげても来たので、ここは小屋で上映される映画のみを相手にすることとする。
 さうしたところ、人間的な学習能力を与へられた挙句にロスト・アイデンティティーに苦しむ雄アンと、自分に疑ひを持たない低級機種としてセックスを縦横無尽に満喫するアンとの対比には、不完全な良心回路を組み込まれ善悪の狭間に苦悩するジローと、そのやうな洒落臭いものなど持たず天真爛漫な兄・イチローといふ、原作版の『人造人間キカイダー』を個人的には想起した。その上で、「人間になつたピノキオは果たしてそれで幸せになれたのか?」といふ深いテーマは残しつつも、その双克を超えることでジローがより強くなるといふキカイダーに対し、初めから迷ひのない飽くなき試行、乃至は志向の果てに、更にそのセックス機能を増進させ行くアンに軍配が上がるといふ今作には、実は冷徹な論理性を肝とする山邦紀の、ドライさがよく表れてゐる。それでゐて、黄・赤・紫の三色が鮮やかな花壇を背景に、雄アンがアンの手も借りつつ自ら機能停止を選ぶラストには深い叙情が同時に溢れる。頑丈な撮影にも支へられ、濡れ場の威力は何れも比類ないこともあり、エモの処遇には些か詰めの甘さを残しながら、プログラム・ピクチャーとして通常以上に要求される商品的要請と、自らの作家的嗜好とを見事に両立させた、山邦紀ここにありを轟かせる一篇である。

 ところで、今作が「ブレードランナー」の翻案にしても、フレ≒レイチェル(ショーン・ヤング)といふのは微妙ながら大きく違ひはしまいか。アンに骨抜きにされるテクの姿を前に、最終的に夫は自らを通して常にアンドロイドの方しか見てゐなかつたのだと幻滅する、フレは人間ではないのか?


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 「や・り・ま・ん」(2008/製作・配給:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vパラダイス/監督:坂本礼/脚本:中野太/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/撮影:中尾正人/助監督:大西裕/編集:蛭田智子/録音:シネ・キャビン/撮影助手:佐久間栄一・俵謙太/撮影応援:坂本啓一/監督助手:飯田佳秀・山口通平/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/協力:渡辺護・荒井晴彦・中村謙作・石川二郎・伊藤一平・永井卓爾・佐藤吏・中矢名男人・小嶋謙作・にいがたロケネット・シネウインド・フィルムクラフト・沖田中旅館/出演:華沢レモン・石川裕一・真田ゆかり・佐々木基子・佐野和宏・伊藤猛・川瀬陽太・伊藤清美・花村玲子・鈴木敦子・馬場衝平・細江祐子・服部由衣・中村良美・中村夢実・仲村弘美・辻久美・山岸亜紀・)。出演者中、伊藤清美と馬場衝平以降は本篇クレジットのみ。
 香川美紀(華沢)の部屋で、恋人・鈴木賢一(石川)とセックス。賢一は手に取つた美紀の乳房を「女つていゝよなあ、フワフワで」と満喫するが、美紀に無理矢理勃たされた上で挿入すると、賢一の男性自身は途中で中折れする。最近賢一は勃たなくなつてゐた、若干飽き気味の美紀相手には。悪戦苦闘の末に結局行為はまゝならず、美紀が匙を投げたところでタイトル・イン。賢一に対し、おどれのやうな贅沢者はデスれだなどといふのは、意図的に滑らせた筆である。
 別れ際、美紀が行きたがつてゐたライブのチケットを渡しながら、賢一はひとまづ美紀宅を後にする。浮気性の賢一は地下鉄駅への下り口にて、座り込み泣く女(不明)に声をかけるも突つ撥ねられ、ホームでは隣に立つ女(矢張り不明)の携帯を覗き込み怪訝な顔をされつつ、続けて高校時代の彼女・中村嘉子(真田)と不意に再会する。今は結婚し、仕事で東京に出て来たといふ嘉子とラーメンを食ふと、そのまゝ賢一が実家の直ぐ近く別に借りてゐるアパートへ。部屋に入るなり嘉子は捌けた様子で服を脱ぎ始め、二人は寝る。翌朝、目を覚ました賢一の隣に嘉子の姿は既になかつた。賢一が窓に向かふと、嘉子は未だ今しがた家を出たところだつた。別れの挨拶を軽く交し、窓からのほゝんと見送る賢一の眼前、嘉子はトラックに轢かれて死ぬ。作劇上の段取りとはいへ、少々強引に過ぎはしないか。少なくともその強引を無理矢理にでも定着せしめ得る馬力を、坂本礼は持ち合はせまい。
 嘉子は賢一に、素性を偽つてゐた。結婚などしてをらず新潟で一人暮らしの美紀の、縁者は全て死没してゐた。引き取り手がなくこのまゝでは無縁仏だといふ警察署員(川瀬)の言葉に、不憫に思つた賢一は衝動的に美紀の遺骨を盗み出し、菩提寺を自ら探しに新潟に向かふ。常ならざる賢一の様子に不安を覚えた美紀も、事情は知らぬまゝ同行する。
 互ひに心が離れた訳ではないのものの、微妙な位置にある一組の男と女。不意の再会から男が一夜を共にしたかつての恋人は、翌朝男の目の前で事故死する。死んだ女の墓を探しに男は限りなく当てもない旅に出、女も男と行動をともにする。その旅は、要は男の浮気相手のためのものだといふのに。賢一はまづ、嘉子最終住所のアパートを訪れてみる。その際嘉子宅のドアを乱暴に叩いてゐた男(相変らず不明)や、賢一に対し嘉子への不満を露にする別の部屋の主婦(つくづく不明)の洗礼を受け、三連撃の三撃目で止めを刺すアパート大家の伊藤清美は、賢一に嘉子がいはゆる“ヤリマン”であつたといふ残酷な事実を告げる。スーパー勤めの真由美(花村)を経て、翌日賢一は一人で嘉子の元同僚・安藤英理子(佐々木)の下へ向かふ。夫婦で旅館を営む英理子の、夫は観光シーズンオフの時期は建設現場の出稼ぎに出てゐた。嘉子は島田秋雄(伊藤猛)といふ男との不倫を機に、ヤリマンへと変貌した来し方を突き止めつつ、賢一はガランとした宿の中、余裕に欠ける求めに応じて英理子を抱く。一方海岸で一人黄昏る美紀は、ビーチカフェを営む佐山和幸(佐野)から声をかけられる。誘はれるまゝ入つた店で、賢一への対抗心からか、美紀は佐山と寝る。
 坂本礼監督作品の濡れ場が箸にも棒にもかゝらない点に関しては、百兆歩譲つてこの際最早仕方のないいはずもがなだとしても。どうにもかうにもお話が纏まらないのは、唐突極まりない退場後、結局嘉子といふ女の既に終つてしまつた人生の核心、乃至は真実が欠片も描かれない華麗なスルー。賢一(と美紀)の墓探しの旅を通して、出て来るものは断片的でアウトラインな証言ばかりで、嘉子のヤリマンへの変貌の鍵を握、つたのかも知れない島田も、現在の幸せに汲々とするのみで何も語らず。天涯孤独の身で、男を取つ替へ引つ替へするほかはなかつた嘉子の姿をそのまゝで、それだけの話で通過してゐては、片手が落ちるどころの騒ぎでは済むまい。ここで嘉子を救はずして、何のための物語かといふ次第である。尤も、嘉子は単なる物語の展開因に過ぎず、あくまで主眼はあれやこれやの末に壊れかけたところから元鞘に納まる、賢一と美紀とのロードムービーであつたにしても、流れる尺が満ちた辺りで予め決められた着地点に落ち着きましたといふだけで、中途半端かつ説得力には凡そ乏しい。そもそも、さういふ方便として人死にを軽んじる態度も如何なものか、ともいへる。嘉子に対する、憐憫の情が残されるばかりである。加へて、それらは今作特有の敗因として、もう一つ改めて気になるのが主演の石川裕一。昨今の国映作に好んで重用され、ひとまづ男前であるのと一通りのお芝居はこなせるのは兎も角、兎にも角にも、カッコいい場面にせよ情けない場面にせよ、画面に漲らせる力に決定的に欠けてゐる。今作散発的に映画が充実する華沢レモンとのツーショットを飾る佐野和宏と見比べてみれば、如何ともし難い正しく役者の違ひが歴然としよう。
 さうかうしてみると今作に唯一残された肯定的な評価の途としては、林由美香亡き後の“ピンク最強の五番打者”華沢レモンがまたしても見せた、終に全力を出すことはなかつたジャンボ鶴田ばりの余裕とでもいつたところか。第二作「18才 下着の中のうづき」(2001/脚本:井土紀州/主演:笹原りな)は確か面白かつたやうな感触もウッスラ残つてはゐるのだが、以降どうにも坂本礼が一向に喰へない。

 とこ、ろで。ズラズラズラッと結構多数クレジットされるその他出演者であるが、地下鉄駅入口で座り込んで泣く女に、賢一が嘉子と入る、白くはなつたもののリーゼントが昔と変らぬラーメン屋の大将。鈴木の妻子以外に・・・・・何処にそんな出てたかな?前田有楽にて再戦を果たしてなほ、鈴木敦子が如何なる形で見切れてゐたのか確認出来なかつたロストは、重ね重ね無念。


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 「エロマダム 襦袢と喪服」(2000『襦袢未亡人 白い蜜肌』の2008年旧作改題版/製作:シネマアーク/提供:Xces Film/監督:下元哲/脚本:岡野有紀-小猿兄弟舎-/企画:稲山悌二・奥田幸一/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:高田宝重/監督助手:永井卓爾/撮影助手:中泉三十郎・清水康宏/メイク:小川幸美/出演:桜沢菜々子・佐倉萌・やまきよ・杉本まこと・久須美欽一)。
 大東亜戦争敗戦間際、代々武人の家系の九條隆介(やまきよ)はいよいよ出征を控へてゐた。隆介は妻・菊江(桜沢)に自分が戦死した場合、九條家を捨て別の男と幸せになることを望むが、菊江は拒む。忘れ形見をと促され、隆介は菊江を抱く。一人九條家を守る菊江は、屋敷に忍び込み、囲炉裏に吊るした鍋の雑炊を盗み喰つてゐた双葉ゆり(佐倉)と出くはす。何処かから逃げて来たのか、弁明する間もなく気を失つてしまつたゆりを菊江は看病し、そのまま家に置くことにする。女二人の生活が続いたある日、隆介が戦死したと遺骨が届く。どうしたら出撃した特攻隊員の遺骨が遺族の手元に届くのか?といふ疑問は強く残る。ショックのあまり体調を崩した菊江の為にゆりが食べ物と薬とを買ひに家を空けた隙に、隆介の海軍学校での同窓生・四谷文三(杉本)が九條家を訪れる。妻は空襲で喪つたと証する四谷は、自分にもしものことがあつた場合に菊江を頼むと、隆介から託されたとのこと。出征する夫に持たせた自らの写真も見せられ、半信半疑のまま菊江が四谷に今将に抱かれんとしてゐたところに、ゆりが飛び込んで来る。ゆりは四谷に陵辱され、身上(しんしやう)も奪はれた挙句に女郎屋に売られたといふのだ。ゆりの登場に冷酷残忍なサディストの本性を現した四谷は、二人を監禁陵辱し、九條家の一切を手にするべく魔王然と振舞ふ。
 深町章の向かうでも張つたか、下元哲が挑んだ大東亜戦中猟奇―気味―譚は、一箇所オッチョコチョイが佐倉萌の体に影を落としてしまふ以外には、大袈裟な不手際を曝すことはないものの、特にこれといつた見所がある訳でもない。四谷の支配下に置かれた後(のち)、菊江はゆりには逃げることを勧める。一緒に逃げようといふゆりを遮り、菊江は四谷とこのまま暮らすことを選ぶ。隆介の忘れ形見、即ち子を宿してゐた菊江は、どういふ形であれ矢張り父親は必要だといふのだ。さういふ塩梅で、逞しく生を欲求する女と、徒に死に急ぐ男といふ対照は何度か匂はされかかるのだが、結局深く消化されることもなければ、高く昇華されることもない。全方位的に、身の丈に合はぬ横好きと難じざるを得まい。それはそれとして、一方実は、といふか案の定<死んではゐなかつた隆介が四谷は刺殺した>後の締めの濡れ場。隆介が菊江の菊門に挿入するといふ大オチは、もう少し顕示的にクローズ・アップしても良かつたのではなからうか。

 久須美欽一は九條家近所の農夫、菊江が小出しにする反物等と引き換へに、九條家に作物や酒を届ける。徹頭徹尾それだけの役なので、それならば高田宝重でもいつそ構はないやうな気もする。


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 「セックスファミリー2 花嫁はド淫乱」(2004『淫乱なる一族 第二章 絶倫の果てに』の2007年旧作改題版/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/監督助手:氏家とわ子・茂木孝幸/撮影助手:岡部雄二・前田賢一/スチール:山本千里/ネガ編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:山口玲子・秋津薫・矢崎茜・本多菊次朗・牧村耕次・神戸顕一・しのざきさとみ・梅沢身知子・小川隆史・田中サブロー・モテギタカユキ・平川直大)。出演者中、神戸顕一からモテギタカユキまでは本篇クレジットのみ。
 「僕は、結婚したかつた」、一ノ瀬たかし(平川)は四年間付き合つてゐた彼女と別れて半年、結婚に対し明確に飢ゑてゐた。初めて参加した合コンで、たかしはそれぞれタイプは異なる二人の魅力的な女と出会ふ。神戸顕一・梅沢身知子・田中サブロー名義の田中康文らはコンパのその他参加者要員。誇らしげな巨乳で積極的に色気を放散する三好さくら(山口)と、対照的にスマートな社長令嬢・山崎涼子(矢崎)。酔ひ潰れたさくらを手洗ひまで連れて行かうとしたたかしは涼子に引き留められかけつつ、結局さくらの思ふまゝに。座から掃け際の、さくらこと山口玲子が見せる「してやつたり」といふ微笑が絶品。まんまとたかしを連れ出したさくらは、そのまま二人別の店に移ることを持ちかける。要はこれがさくらの、意中の男をゲットする際の常套手段であつた。タイトル・イン明けるや早速頻出のシティ・ホテルにて、さくらがたかしの尺八を吹く。矢継ぎ早にパイズリ、背面座位へと流れるやうに移行。カット変つた半年後には半歩たりとて立ち止まらない勢ひで二人は結婚、抜群の出足には惚れ惚れさせられる。
 結婚後さくらは仕事は辞め、たかしの実家に専業主婦として入る。車椅子に乗つた祖父・留吉(牧村)、妻(しのざきさとみ/遺影としてのみの登場)には先立たれた堅物教師の父・満男(本多)、出戻りで実家に帰つて来た気難しい図書館司書の姉・弥生(秋津)との、五人での生活が始まつた。因みに、弥生は微妙に輪から外れた一家団欒、四人で「この俳優お父様にソックリ~」だとかいひながら見てゐるテレビに映し出されるのは、「ノーパン秘書2 悶絶大股開き」(2003)。体力作りのジョギングに汗を流す本多菊次朗が、公園で居合はせたつーくん(五代暁子の愛息、円くん)を抱き上げるのを、妻役の酒井あずさが微笑ましげに見詰める場面である。
 さくらの妻ぶりに概ね満足のたかしではあつたが、問題は三つあつた。まづは夫婦の寝室をハチャメチャに飾りたてる、出鱈目なセンス。問題其の弐は、留学経験もあるさくらの欧米かぶれの理屈ぽさ。そして最も重大な問題其の参は、さくらのあまりにも大胆で貪欲な性欲であつた。正直食傷気味のたかしは、結婚後三箇月にして早くも不能になつてしまふ。
 といふ訳で、仕事にかこつけてたかしが家を空け気味の隙に、性に関して過剰に開放的なさくらが家人を次々と桃色に攻略する展開が今作のハイライト。華麗に回春する牧村耕次や、ストイックな教育者の顔をかなぐり捨てる本多菊次朗の姿は抱腹絶倒、文句なく面白い。実は結婚を控へた涼子との火遊びも経てたかしがクライマックス漸く家に帰ると、あらうことか、そこでは正しく酒池肉林の4Pが繰り広げられてゐた。目を白黒させるたかしに子作りを期したさくらが無理矢理上から跨ると、満男はそんなさくらの菊門に挿入、更には腹上での心筋梗塞から復帰した留吉は、自らの剛直をさくらの口に捻じ込む。図らずも完成した親子三世代による山口玲子への三穴責めには、遂に成就した巨大ロボットの合体にも比類する怒涛のカタルシスが轟く。既に当惑も通り越し、あの時涼子を選んでおけば良かつたと絶叫するたかしの後悔は主人公ながらにこの際さて措くと、性を大らかに―些か大らか過ぎるが―肯定するメッセージも通底する、正しくピンク映画かくあるべしともいふに値する絶好調の一作である。

 旧題に“第二章”とあるやうに、今作には前作といふ意味合ひではなく、正しく対を成す第一章が存在する。冒頭の合コンからさくらではなく涼子と結婚することになつたたかしが、ベクトルは異なれど矢張り酷い目に遭ふ第一章「痴人たちの戯れ」も、「セックスファミリー いやらしい義母と若妻」と旧作改題されてゐる。実は六月に小倉名画座に来てもゐたのだが、遠征には出てゐない。


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 「銀行レディ エッチに癒して」(2007/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影:朝川良寛/照明:大川涼風/助監督:横江宏樹/監督助手:田中圭介/撮影助手:吉田剛/照明助手:伊丹司/効果:東京スクリーンサービス/音楽:OK企画/出演:@YOU・風間今日子・島田香奈・平川直大・ひょうどうみきひろ・石動三六・なかみつせいじ)。
 銀行員・水上麻衣(@YOU)の自慰シーンで開巻、達したところでタイトル・イン。ピンクとしては、誠清々しいオープニング・シークエンスではある。翌朝、麻衣は巨乳をブルンブルン揺らしながら慌ただしく出勤する、けふも遅刻だ。支店長の清水祐二(なかみつ)から夜遊びのし過ぎではないのか、彼氏は居ないのかなどとネチネチした小言を貰ふと、オールドミスの先輩行員・小池由美(風間)はセクハラだと横から喰つて掛かる。窓口担当を務める麻衣の下には、毎日のやうに浜崎茂(平川)がCDで済ませればいい小額を引き落としにやつて来る。浜崎は、麻衣目当ての半ばストーカーのやうな客だつた。仕事終り、麻衣は同僚の小川玲子(島田)から飲みに行かないかと誘はれるが、エステに行くと断る。お気に入りのエステティシャン・小林隆志(ひょうどう)のマッサージを受けながら夢見心地の麻衣は、小林とのセックスを妄想する。
 麻衣は小林とデートに行き、付き合ひ始める。由美は実は清水と不倫関係にあり、業務終了後の行内で情事に耽る。その様子を目撃してゐた玲子はそのことを報告しながら、目を丸くする麻衣に、更に自身の高校時代カーセックス体験も告白する。石動三六は、その際の玲子のお相手、身震ひさせられる程の濡れ場要員ぶりを披露する。相変らず連日窓口に通ひ詰める浜崎は、隆志とデートを楽しむ麻衣の姿に、不器用な恋情を歪ませる。
 量、一応質的にも絡みの回数だけはこなしつつ、一つ一つのエピソードが、何時まで経つても明確な本筋はてんで見えては来ないままに、漫然と積み重ねられる。一体この先展開はどうなつてしまふのかと、徐々に胸の内に立ち込める暗雲を感じ始めてもゐると、案の定、この先もどの先も、仕舞ひまで行つても映画はどうにもなりはしなかつた。銀行勤めに退屈する玲子が麻衣をAV出演に誘ふ、といふ比較的大き目の転換点にも見えたイベントさへも華麗にスルーしたままに、何だかんだの末に麻衣は隆志から求婚され、ラブラブー☆と喜んで終りといふあんまりな仕打ちには、最早やるせなさすらも込み上げて来ない。極地を仕方なく照らす白夜の如き、別の意味で感動的ですらある寥々たる空虚。そこには何もありはしなかつた、@YOUと風間今日子のオッパイの他には。それで十分ではないか、御飯何杯でもイケるぜ、お前は一体映画に他に何が必要であるといふのか。さういふ雄々しい態度が、針の穴に駱駝を通すよりも難い、今作に唯一許された鑑賞姿勢なのであらう。修行の足らぬ小生には、勿論そこに至ることは叶はなかつたが。
 行員その他と行内の客役で、クレジットはされない若干名が更に登場。浜崎初登場シーンの背後には、2カット姿良三が見切れる。くどいのも省みず押さへておくと、役者時名義の姿良三と脚本の水谷一二三といふのは、何れも小川欽也の変名である。

 最後に、以下は左が今作の、右が半年弱遡る前作「いたづら家政婦 いぢめて縛つて」の配役である。

 @YOU:水上麻衣        @YOU:水上麻衣
 風間今日子:小池由美     風間今日子:小池由美
 島田香奈:小川玲子       山口真里小林玲子
 なかみつせいじ:清水祐二   なかみつせいじ:小林祐二
 ひょうどうみきひろ:小林隆志  ひょうどうみきひろ:小林隆志
 平川直大:浜崎茂        竹本泰志:浜崎茂

 ・・・・あれ?

 玲子と祐二の苗字に変化が見られるのは、前作に於いては隆志まで含めての三人が家族といふ設定であつたから。即ち、殆ど全く同一の配役である。といふ訳で、もしやこの二作はパラレル・ワールドを成してゐるのか、あるいは、小川欽也がスター・システムを採用したか、などと余計な興味を抱いてしまつたのが運の尽き。どうもかうもない。全く純然たる、よくいつて単なる不作為、詰まるところは只の横着である。2/3は同じ役者が演じすらする同じ名前の劇中人物が登場する二つの物語に、二本とも無造作な映画であるといふ以外に一切の共通項は哀しいまでに無い。


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