真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「セクシー・ドール 阿部定3世」(昭和58/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:菅野隆/脚本:佐伯俊道/プロデューサー:村井良雄《日本トップアート》/企画:成田尚哉・山田耕大/撮影:野田悌男/照明:田島武志/録音:伊藤晴康/美術:金田克美/編集:奥原茂/音楽:細井正次/助監督:村上修/色彩計測:森島章雄/現像:東洋現像所/製作担当者:鶴英次/出演:三東ルシア・樫山洋子《東芝レコード》・萩尾なおみ・江角英明・石山雄大・八代康二・中原潤・新井真一・玉井謙介・桐山栄寿・小見山玉樹・中林義明・木元一治・井沢清秀・山本洋資・白井達始・松永隆幸・松本信子・立木綾香)。出演者中、松本信子と立木綾香は本篇クレジットのみ。
 電話ボックスに三東ルシアが入るロング、何処にかけようとしてゐたのかは結局謎の―当てが見当たらない―重宗和美(三東)が、木元一治(a.k.a.瀬木一将)をリーダー格とする三人組(二人は判らん)の愚連隊に襲はれる。逃げる和美と、追ふヒャッハーがタイトルバック。菅野隆のクレジットまで通過した頃合を見て、通りがかりの女・麗子(樫山)が四人の姿に目を留める。和美が派手に剥かれ、いよいよ挿されんとする段に介入した麗子が、如何にしてこの絶体絶命を打開するものかと、思ひきや。自ら毛皮のコートを脱ぎ始め、三穴で全員引き受けるエクストリームな利他主義には畏れ入つた。一旦果てさせてなほ、寧ろ麗子が三人を解放しない腰遣ひがエロいの向かう側でエモい。事後、車に乗せた和美に名を訊かれ、“阿部定”と答へた麗子は豪快に信号無視。麗子いはく青に見えたとかいふ、正真正銘赤信号にタイトル・イン。タイミングは兎も角、タイトルの入り具合にどうも違和感を覚えたのは気の所為か。
 表向きは村沢真知子(萩尾)を従業員にブティック―屋号は「E51 STREET」?―を営む、麗子の下に和美はそのまゝ逗留といふか居候。店を手伝ひもしないで優雅か有閑に雑誌なんか捲つてゐる和美が、鳴つた電話に出ようかとしたところ、「フェアリー・レディ」の留守番電話が起動。フェアリー・レディはコールガールだがゐるのはゐる筈の、真知子以外の嬢は劇中一切登場せず。
 辿り着ける限りの、配役残り。相変らず超絶の滑らかさでカット頭に飛び込んで来る、至高の十八番芸を華麗に披露する小見山玉樹はタクシー運転手、コミタマキタ━━━(゚∀゚)━━━!!。後部座席に麗子と座る石山雄大はフェアレの顧客、新日本商事の本庄、自称。ピックをバラ撒く橘高文彦感覚で本城もとい本庄が札片を切る、金で買はれ麗子に喰はれる濡れ場で、今回小見山玉樹も女優部の恩恵に結構与る。八代康二は本庄からの依頼を受け真知子が出張る、対イスラエルの武器輸出を巡る汚職疑惑で、偽装入院中の衆議院議員・今野吉雄。今野と真知子が死んだ一報に、麗子が慌てる隙を突かれ和美が二人組に拉致。中原潤が、そのうち男前な方の片桐タツヤ。片桐は和美を連れ、人の生死をも気軽に左右し得る何某かの大物・重宗源義(江角)邸に帰還。元々和美は重宗が妾に産ませた娘で、母親の死後正式に引き取られながら、逃げ出して来たものだつた。脱いで百合の花も咲かすにしては、本クレのみの扱ひが地味に不遇の松本信子と立木綾香は、重宗が周囲に侍らせる女。シックスナイン式に互ひを剃毛する、折角の斬新な絡みはもう少し引きで撮れないのか。新井真一は重宗邸から和美を逃がした咎で、拷問の末庭に半裸で放置されてゐる山口。玉井謙介は、麗子が本庄の素性を確認する貸事務所屋。徒にタナトス匂はせる、麗子―と片桐―の最終的な去就は語られないまゝに、“阿部定”を和美が勝手に襲名するラスト。全五作中三作と、菅野隆映画の最多常連を密やかに誇る桐山栄寿は、ビリヤード台に乗り大股開きで男を誘ふ和美の、観音様に玉を命中させ最初に頂戴する御仁。さて、クレジットに残る名前が五人分。ヒャッハ隊もう二人に、今野と真知子殺害を伝へる、玉謙と同じくらゐの齢恰好に映るNNK局アナウンサー、NNKは日本日活かなあ。あとプールバーにて桐山栄寿の露払ひを務め、全体を俯瞰するとアバンの麗子を引き継ぐ、巴戦に招かれる二人連れで一応数は合ふ。その他、麗子が本庄と入るレストランと、プールバーにそれぞれ十人前後。看護婦に扮装した真知子を易々通す、今野の病室を守る役立たずが二人、守れてねえ。和美拉致時に於ける片桐の連れと、貸事務所屋で黙々と机に向かふ男女一人づつ。ロマポらしい、豪勢な人数がノンクレで投入される。ち、なみに。共々藪から棒か木に竹を接いで“阿部定”を名乗りこそすれ、実は麗子も和美も、世代に関しては全く触れてゐない。
 凡そ四十年未ソフト化かつ未配信、どころか形の如何を問はず、上映されたといふ話もとんと聞かない。コケたともいはれてはゐるが、断片的に洩れ聞こえて来るところによると明確ないし対外的な所以があつた訳では必ずしもなく、どうやら日活の純然たるか生臭い内部的評価に―のみ―基き、兎に角封印されてゐた菅野隆第四作。ロマポ半世紀の周年記念に、リマスタ版が遂に発売されたものである。三東ルシア的には、前年の「女教師 生徒の眼の前で」(監督:上垣保朗/脚本:大工原正泰)に続く主演第二作。比較的大きめにも思へるネームバリューに反し、三東ルシアが劇場映画には全部引つ括めたとて両手で足る程度しか出演してゐないのもあつてか、主演したのは以上ロマポ二本と十九年ぶりで量産型裸映画に復帰した、松岡邦彦2005年第三作「肉屋と義母 -うばふ!-」(黒川幸則と共同脚本)の三本きりではある。
 女ごと国会議員を謀殺する、結構な大風呂敷をオッ広げてみせた割に、そもそも和美と重宗の因縁に触れないレベルで外堀を一向に埋めようとせず、前半娯楽映画が特にも何も弾まない以前に、覚束ない物語すら満足に起動しない。尤も三本柱の、裸は十全に拝ませる。後半も後半で、片桐が過去に麗子とは情死し損ね、重宗に対しても命を狙ひ損ねてゐた宿業じみた関係性を繰り出しつつ、矢張り詳細を詰めるのは頑なに拒み、単に、展開上和美が蚊帳の外に追ひやられかねない始末。とかく作劇的には痒い所に手が届かない、または確信犯的に届かせなかつたかのやうな出来栄え、とはいへ。要は菅野隆にとつて、お人形さんお人形さんした三東ルシアよりも、麻吹淳子あるいは風間舞子と同様、バタ臭い樫山洋子の方が恐らく琴線に触れるなり眼鏡に適つたのにさうゐない。オーソドックスな起承転結を爆砕してさへ、終盤を支配するのは出し抜けだらうと藪蛇だらうと遮二無二畳み込む叩き込む、否、撃ち抜く。和美と片桐が廃墟―は所謂お化けマンション―や荒野でひたすらヤッてヤッてヤッてしこたまヤリ倒す、“かんの”とクレジットに読み仮名まで振る第一作「ズーム・アップ ビニール本の女」(昭和56/脚本:桂千穂/主演:麻吹淳子)と、パッヘルベルキャノンの号砲轟く最高傑作「密猟妻 奥のうづき」(同/脚本:いどあきお/主演:風間舞子)のハイライトを足して二で割りはせず、更に踏み込んで二を掛けた渾身のスペクタクルが圧巻。素面の作劇としては正直木端微塵にせよ、同時に異様通り越して異常な迫力が溢れもする、決壊したダムの如くダダ溢れする。繰り返すと、決して裸映画的に不誠実の誹りにはあたらない。ただそれが、最たる情熱を注がれるのが主演女優でなく、二番手であつたといふだけで。直截にいふと今作の何処が何が斯くも、日活の逆鱗に触れたのだか釈然としなくはあれ、強ひて邪推を勘繰らせるならば、当時の日活目線では三東ルシアを新しいスターに育てたい目論見もしくは皮算用を、逆の意味で見事に御破算にしてのけたと看做されたのではあるまいか。それとも取つてつけたぞんざいなカットを窺ふに、阿部定御題にも大概後ろ足で砂をかけてゐる。デビュー三年の四本目にしては、偶さか往時の日活にとつて許し難い所業と受け取られたのかも知れないが、この期に及んだフラットな態度で触れる分には、菅野隆が窮屈なビリング―と企画自体―に縛られた中、それでも自らが最も撮りたいシークエンスを、果敢に全力で振り切つてみせた凛々しくリリカルな印象が強い。力なく無残な買取系ロマンXの最終第五作「マゾヒスト」(昭和60/脚本:磯村一路/主演:小川美那子)後ほどなく、即ちとうの昔に亡くなられた菅野隆の、再評価もへつたくれも遅きに失するにほどがある感は否み難くも、とまれ見られてよかつた、見ておくに如くはない一作。面白い詰まらないはこの際さて措き、確かに菅野隆の息吹がこゝにある。


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 「Tokyo×Erotica」(2001『トーキョー×エロティカ 痺れる快楽』の一般映画版?/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vシアター/配給:新東宝映画/脚本・監督:瀬々敬久/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/撮影:斉藤幸一/音楽:安川午朗/編集:酒井正次/録音:中島秀一/助監督:坂本礼・大西裕/撮影助手:田宮健彦/編集助手:堀善介/録音スタジオ:福島音響/現像:東映化学/協力:永井卓爾・鹿野依登久・小泉剛・細谷隆広・福岡芳穂・石川二郎・上野俊哉・坂口一直・フィルムクラフト・㈱メディアジャック・レジェンドピクチャーズ/出演:佐々木ユメカ・石川裕一・佐々木麻由子・伊藤猛・えり・奈賀毬子・川瀬陽太・佐藤幹雄・下元史朗・佐野和宏・福岡英子・福岡想・丸内敏治・境美登利・榎本敏郎・田尻裕司・女池充・菅沼隆・堀禎一・稲葉博文・松江哲明・近藤太・村上賢司・松島政一・朝生賀子・中西佳代子・境あかり)。
 開巻即、ノートの液晶でも目を覆ふか頭を抱へる、凄惨なキネコのスタンダード。最初のカットは原チャリの車載カメラ、ケンヂ(石川)がガード下を通りがかると、わらわら人が倒れてゐる。のちに駆けつける防護服の救急隊含め、多分こゝで闇雲に頭数の多い出演者を大分消費してゐる、のでは。異常な状況を表すのに、赤々と赤い照明ともくもくスモークを焚くのは兎も角、画面を大仰にぐいんぐいん動す必要はなからう。徒に、端から凄まじい安さの火に油を注ぐばかり。あと、何故かそんなロケーションに転がつてゐる、レトロ調のロボトイも如何せん狙ひすぎ。後述する真知子居室のジューク同様、直截にダセえよ。詰まるところ地下鉄ならぬ、地下道サリン事件的にケンヂは死ぬ。ケンヂが客観的に反芻する、元カノから以前振られた、生まれる前の時間と死んだ後の時間何れが長いのかだなどと、所詮漠然とした問ひを振り返つて「Tokyo×Erotica」のみのタイトル・イン。元作と一般映画版とで、もしかすると長さ違ふのかな。
 うすらぼんやり掴み処に欠いたアバンが、寧ろまだマシだつた―力なく―壮絶な地獄の蓋が開く。タイトル明けての本篇、真知子(佐々木麻由子)がぐだぐだクッ喋り始める。引き継がなくていゝのに引き継いで、Ba.のミチ(奈賀)以下、Gt.のハギオ(佐藤)、Vo.とGt.のシンイチ(川瀬)に、Dr.のアユミ(えり)。真知子と、バンド名不詳の面々が件の生まれる前と死んだ後問題に関し、五人全員満足な回答の体を成してゐない、適当な無駄口を垂れ流す、垂れ流し続ける。垂れ流し倒した上での1997年、“彼が死んだ後の時間”。ケンヂの元カノ・ハルカ(佐々木ユメカ)はOLといふ本職の傍ら、夜は雑踏に立ち、小遣ひ程度の金額でも男に体を売つた。ハルカが客を捕まへたつもりの、うさぎの着包み(下元)が実は死神で、殺伐とした事後ハルカは絞殺される。
 案外詰められたのかも知れない、配役残り。家族スナップでも撮影してゐる風情で登場する、ハルカの両親は苗字が同じ福岡夫妻?青シャツに黄色いタイを合はせると、体型に加速され結構ルパンぽくなる伊藤猛が非堅気にさうゐないトシロウ、真知子を訪ねる。伊藤猛の隣で―局所的に―テーマが全く謎のインタビューを受けるお母さん、と女児は境姓の美登利とあかりがリアル母娘?若者とオウムとの関りに、自らも身を投じた学生運動を照し合はせるオッサンは丸内敏治、脚本部。消去法で名前を潰して行くと近藤太が最後に残される気もしつつ、スーパーマンの扮装で弁当を食ふ、助監督風貌の男が判らない。そ、して。頭部チョバムをパージすると白塗りでマニキュアは黒い佐野和宏も、うさぎさんデスサイズ。
 nfaj記載の七十四分は所蔵プリントが三分分飛んでゐる―簡単にいふな―にせよ、元尺が七十七分の筈なのに、素のDMMに入つてゐる配信動画は七十分しかない正調国映大戦第四十四戦。仮に、今風にいへば新東宝+の方が現に短いのだとしたら、それもそれでなかなか聞かない、斬新なケースではある。流石に七分切るとなると割とでなく豪快な編集ではあれ、結論を先走ると概ね終始漫然と煮詰まる構成と、予め明確な結末なり結論なり、最終的に辿り着く何某か目的地の有無以前にそもそも求めてもゐないと思しき一作につき、少々端折つたところで大勢に影響は兄弟、もといしまい。
 素面の劇映画的なシークエンスとしてはケンヂが昔住んでゐたヤサに、ミチとハギオが新しく越して来る形で部分的に一応交錯しなくもない、三組の男女―うち一組は四人組―の去就が、あくまで断片的にか並行して描かれる。その合間合間にどうせ確信犯的に焦点を失した、面接動画で観る者見る者を煙に巻く禅問答、にすら値しない、曖昧模糊とした支離滅裂に明け暮れる。せめて女優部を綺麗に映さうといふ最低限の意欲、もしくは誠意さへ最早窺はせぬ機械的な濡れ場に記号的な刺激以外、煽情性もへつたくれも見当たらず。無間をも感じさせる堂々巡りの末、楽器も自分達で鳴らしてゐるのか否か、見極める耳目を当サイトは持ち合はせない、クソ仮称で川瀬陽太バンドがそれはそれとしてそれなりに、弾けるのは確かに弾けて漸くクレジット起動。忘れてゐた、言葉を選ぶとゴミより汚い画に引き摺られたのか、安川午朗の劇伴も、常にも増してペッラペラに響く。爆散するほどの破壊力にも欠いた、他愛なく雲散霧消する始終の最中、突発的なエモーションを轟然と撃ち抜くのが俺達の佐野。ハルカから“死ぬまでの時間”の選択可否を問はれた、死神の佐野いはく「人生はお前達の船出だ、俺達は最期の港」。一方的に船を停泊させる、拿捕どころか撃沈してのける。港にしては随分アグレッシブな他律性はさて措き、佐野らしいエッジの効いたビートが、まるで何かの間違ひのやうに火を噴く瞬間が今作に於ける紛れ当り的なハイライト、限りなく殆ど唯一の。清々しく粗雑に裁断してみると、この画質で撮ると誰が如何に撮らうとかうなつてしまふのだなといふ、要は国映産ロマンX。あるいはより映画寄りに踏み込んだ―風を謳ふか騙つた―ダブルエックスの更に先を攻めた、ロマンXXXとか称してみせるのもまた一興。その場合の“映画”といふのが、何映画なのかは訊かないで欲しい。とりあへず、偶さか国映と新東宝の共同製作―実質国映単独かも―で新東宝が配給してゐるだけで、本来女の乳尻を―質的にも量的にも十二分に―満喫させることを以て宗とすべき、量産型裸映画たるピンクでは少なくともない。


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 「悶絶スワップ すけべまみれ」(1995『ぐしよ濡れスワップ 《生》相互鑑賞』の2004年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:双美零/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:榎本敏郎/演出助手:菅沼隆/撮影助手:片山浩/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:青木こずえ・風間晶・杉原みさお・井上亜理奈・杉本まこと・平岡きみたけ・池島ゆたか)。
 津田スタ夜景にタイトル・イン、既にオッ始まつてゐる、アイダサヨ(青木)と夫(杉本)の夫婦生活で麗しく開巻。ハモニカを吹かれてゐる最中、サヨは池島ゆたかの声が自らの名を呼ぶ幻聴を聞く。片方向にサヨのみが達した事後、妻から申し出た尺八も固辞する、夫の配偶者第一主義にサヨは感激する。一方、玄関口をサヨがごそごそ掃除してゐると謎の大判封筒が、中身は何とスワップ誌。こゝで、誌名がサヨの―説明―台詞の中ではスワップビートとされる反面、のちに表紙が見切れる実物はモア出版の『スウィンギング』。いはゆる日本でいふところのスワッピング“swapping”の、英語圏に於ける一般的名称がスウィンギング“swinging”である。
 配役残り、サヨがスワップビートに目を丸くする件の、カット尻も乾かぬうちに飛び込んで来る杉原みさおは杉まこの部下、兼浮気相手のキョーコ。後述する江藤夫婦各々の登場と同様、実際へべれけな展開を、俳優部投入のスピード感で何となく固定させる力技。キョーコと杉まこの会話を通して、サヨが二人が勤務する、会社の社長令嬢である逆玉が明かされる。なので杉まこは、もしかすると入婿かも。居間でサヨがスワップビートを読み耽つてゐると、縁側から上がり込んで来る風間晶は隣家の江藤夫人。但し下の名前が大本命の倫子、でなく今回は妙子。ゴッリゴリのスウィンガーで、サヨがスワップに興味を持つてゐるらしきと知るや俄然時めく、猛然と時めく。井上亜理奈と平岡きみたけは、杉まこがキョーコを妻と偽りスワッピングする、内山スミエと連れのコーイチ。但しこの二人も、実はブティック経営者とアパレル勤務。即ち、要はコーイチにとつてスミエは顧客といふ事実上の上下関係にある偽夫婦。そして池島ゆたかが、妙子の夫。とりあへずは見られてゐるだけで十分と、アイダ家床の間で妙子と致す筋金入りの御仁。
 未見未配信の深町章旧作が地元駅前ロマンに着弾した、1995年第二作、新作があるのかといふ話ではある。久々に持論を蒸し返すが、当サイトにとつて、未知の新作と未見の旧作との間に、本質的な差異は概ね存在しない。さういふ意図的に見境を何処かに忘れて来た視座が、それもまた厳密には大いに疑問と我ながら首を傾げなくもないのと同時に、尤ももしも仮に万が一、新作を撮つて呉れるなら撮つて呉れたで、無論勿論畢竟絶対、反応反射音速光速で観に行くのはいふまでもない。
 夫婦交換の異様にカジュアルな、確信犯的に底を抜いた世界観といふか世間観を舞台に、全ての登場人物をスワップの経糸で巧みにか無理から紡いでは、実直な濡れ場のひたすらな連打に終始する、覚悟完了した裸映画。さうは、いへ。済し崩し的に絆を深めるアイダ夫婦の姿には、流石に如何なものよと自堕落も否み難い落とし処を、ESPな飛びギミックで遮二無二補完。一見、未だ尺を余す以降は蛇の足かと、思ひきや。蚊帳の外に追ひやられた四番手―と平きみ―の不憫さに、溢れる涙が止まらない大団円へと至る道程を、堂々と辿り着くと評するか、勢ひ任せに雪崩れ込むと解するのかに関しては、統一的な評価を求める類の議論ではそもそもなく、折々の体調機嫌その他諸々、銘々の気紛れなコンディションに寧ろ支配される、偶さかさに属する事柄にさうゐない。それをいつては、実も蓋もないやうな気もしつつ。


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 「ザ・業界」(昭和63『ザ・裏業界』のVHS題/製作:新東宝ビデオ㈱/配給:新東宝映画㈱/脚本・監督:いとうまさお/原作:宇多源二『××をめぐる冒険』より/製作総指揮:春蘭丸/製作:衣川仲人/プロデューサー:松岡弘/製作顧問:中村等/撮影:伊東英男・森下保正・山田幸二/照明:鈴木豊作・河村和幸/編集:酒井正次/助監督:河村光彦・深沢正樹/ヘアメイク:庄司まゆみ/スチール:伴俊雄/録音:銀座サウンド/現像:横浜シネマ現像所/タイトル:ハセガワプロ/協力:光映新社・高津装飾美術・ハイライト照明・八型プリント・東映化工・グローエンタープライズ/出演:百瀬まりも・小沢めぐみ・橋本杏子・平工秀哉・矢巻純・田辺洋行・浜健志・マッサー立鼻・ジミー土田)。出演者中、矢巻純がポスターには八巻純一。
 宮下由美(百瀬)が自室にて友達のロスト・バージン体験を電話で聞きがてら、アダルトビデオを見る。痛いばかりであつた、との話もそつちのけに、由美はファンである中沢瞳のAVに夢中。マスターの、入手経路が何気に不明。友人から今しがた耳にした現実とは違(たが)ひ、ブラウン管の中で乱れる中沢瞳の如く、どうすれば斯くも気持ちいゝセックスが出来るのか。なる根源的か原初的な疑問を持て余した由美は、パケ記載のSTプロに電話をかけてみる、STは新東宝にさうゐない。アバンでは一貫して首から上を見せないジミー土田が、何某か仕事中であるにも関らず、そんな由美の漠然としかしてゐない電話に慇懃に対応。「何か仕掛けでもあるんでせうか?」といふ由美の問ひに対し、“近年のアダルトビデオ界を支へて来た男と女の理想の媒介?”とかいふ“××《チョメチョメ》”の存在を匂はせた上で、全体何処を抜かうとしてゐるのか俄かには雲を掴む、渋谷の覚束ないロングにビデオ題・イン。暫く回して漸く判明するのが、STプロの助監督、兼スカウトにも駆り出される宇野圭介(平工)が空振りし続ける様子。この期の限りに及んで辿り着いたのが平工秀哉、何者かとの近似を覚えたのが、この人ASKAに似てゐるんだ。
 配役残り、橋本杏子は少なくとも下の名前はキョーコの、STプロに草鞋を脱ぐ嬢。小沢めぐみが件の中沢瞳で、なほかつ、由美にとつて高校の先輩・中野といふのは、流石に関係性を捏ね繰りすぎ。由美が訪ねたSTプロで対面を果たす中沢瞳が、再会もする中野センパイでもあつたといふのは、流石にシークエンスとして破綻してゐる。改めてジミー土田が、STプロの監督・斎田高次。残念ながら、当サイトが特定し得るのはこゝまで。STプロ職務不詳のキタジマと、社長のツネカワ。ハシキョンがスチールを撮られる件に登場する、外部のカメラマンと男優部。頭数的には合ふ、矢巻純からマッサー立鼻までの四人に手も足も出ない。ただ登場順とビリングが連動してゐるやうに、字面を見てゐて何とはなしに思へなくもない。社内に、その他ST要員が計三名見切れるのは内トラか。
 主戦場はAVらしい、いとうまさおが新東宝から都合三本発表してゐるうちの第二作。一本目の「透明人間 処女精密検査」(昭和62/主演:中沢慶子)は、ビデオ撮りの八十分。ex.DMMに入つてゐるゆゑ見ようと思へば見られるが、正直激しく面倒臭い。地味にニュートラルな公開題も禍したか、第三作「見せます 立ちます 覗きの手口」(1989/主演:杉浦みなみ)は軽くググッてみたとて殆ど全く何も出て来ない、本格的に謎の映画ではあれ―クレジット情報はnfajで閲覧可能な―俳優部・スタッフとも、面子的にはまあ大体アダルトビデオ。なのでもしかすると、今作が唯一のフィルム撮影、となるのかも知れない。キャリアの端緒である、16mm自主「失墜都市」(昭和55)を除けば。
 牽強付会気味に話を進めると、由美に寿司を食はせた結果、おけらになつてしまつた圭介を今度は由美が奢る形で次の店に誘ふ。二人がフレーム左袖に捌ける、歩道橋からカメラが引くと下道を歩いて来た斎田を、かつては一緒に暮らしてゐた瞳が颯爽と外車で拾はうとはする。画面全体の構図もそれなりに凝つたワン・カットには、確かに映画を志向したのであらう節が一応酌める。処女作「由美の冒険 気持ちいゝ事したい」を問屋にまで卸してゐる段階で、由美が実は高二である驚愕の、もしくは文字通り致命的な事実が発覚。すは一大事とSTプロが蜂の巣を突いた騒ぎになるトレイシーな販売中止祭りの最中、瞳と男優に開眼した圭介が勝手にオッ始めてゐるのに気づいた斎田が、「ようし本番行くぞ!」と号令をかけるラストは思ひのほか綺麗にキマッてゐる。とはー、いふもののー。ヒロインが憧れの女優の後を追ひ、裸稼業に飛び込む。林由美香が林由美香役に扮する、山﨑邦紀のエモーショナルな傑作「変態願望実現クラブ」(1996/主演:岩下あきら)的な展開を由美と瞳の組み合はせで採用する、訳では別になく。由美にとつて最たる関心事は、ひとへにAVの中で女優があんなにも気持ちよささうにセックロスしてゐる、してゐられる秘密なり秘訣。そのことに関して、斎田が多分口から出任せたのが“××《チョメチョメ》”。果たして、チョメチョメとは何ぞや。原作いはくの“冒険”といふほどの派手なイベントは特段ないにせよ、チョメチョメ談議に明け暮れ続けた挙句。途中から、何時の間にかチョメチョメの内実が由美の中で固まつてゐる風のへべれけな脈略に、覚えた危惧がまんまと的中。如何にもジミー土田ぽい、臭さをグルッと一周させる捨て身のメソッドで、チョメチョメの正体が「それは、愛だよ!」的な自堕落なオチに、着地しやがつた日にはどうして呉れようか。なんて、身構へるまでもなかつたんだな、最終的に。結局、逆の意味で見事にチョメチョメの答へを出さないまゝに、尺の満ちた映画が自動的に終つて行く、盛大なマクガフィンと書いて肩透かしには大概なインパクトで度肝を抜かれた。土台本筋がしつかりした上で、味つけにといふならばまだしも。よもや本丸がマクガフィンなどといふはりぼてぶりには、こぶた三兄弟の長兄と次兄も吃驚といふ奴だ。もしかすると斎田には―あと外様写真家にも―誰かしらモデルでもゐるのか、二言どころか1.5言毎くらゐの頻度で「鋭い指摘だー」弾幕を張り倒す、まるで山竜ばりの執拗さでジミ土がブッ壊れる造形にも鼻白む。幾らでも、周囲にツッコミを入れさせるタイミングはあつたらうに。当時的には訴求力を有してゐた名前なのか、ビリング頭二人に時代を超えるエターナルさは乏しい。主に平工秀哉―の衣装―が爆裂させる80年代の迸るダサさが象徴的な、総じては漫然とした一作である。


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 「逆レイプ女王様 愛川まや 牝豹の生贄」(1991/受審:新東宝ビデオ株式会社/監督:浜野佐知、の筈/出演:愛川まや・石井基正・山口賢二)。石井基正と山口賢二には、各々“AS 友人”・“AS 夫”と役名までクレジット併記される。役名といふか、役柄といふか。
 まや女王様(大絶賛ハーセルフ仮名)の仁王立ちを、足下からカメラが舐める。気を張つてゐないと割と覚束ない、素の表情にアバンでは愛川まやのみクレジット。女王様にしては吹いて下さる、尺八を仰角に抜いた画が―以降サブタイトルが入る度に―暗転して“もう一つの物語”。朝食の支度をするまやに、夫(山口)が背後から迫る。喘ぐ口元のアップを止めて、凄まじく酷い書体のタイトル・イン。“新居の幸せな午後”、素敵なマンションでまやと夫が適当に乳繰り合つて、ゐたかと思へば。唐突に起動する砂嵐挿んで、女王様ver.のまやが奴隷を張る。アバンギャルドと紙一重に無造作な、雑すぎる構成が堪らない。“爽やかな休日の朝”から、その発想を忘れてゐた女体ならぬ男体盛りを展開する“女王様のお食事”と続いての、“親しい友人の来訪”。クレには友人とあるものの、劇中の遣り取りを窺ふに、夫の後輩である石井基正が愛欲の巣に遊びに来る。石井基正キタ━━━(゚∀゚)━━━!!、とても2022年の感興とは思へない。
 “スペルマに血が混じるまで…”“女王様が責めまくる”だとか、パケにはブルータルな惹句も躍るアダルトビデオ。確かに、夫犬が勝手にハモニカを吹いて女王様激おこの件では、熱ロウで責められた山口賢二が普通に絶叫してゐる。例によつての確認可能な限りで、愛川まやは新田栄の「痴漢と覗き」第六作「露天風呂篇」(三本とも1991/脚本:夏季忍=久須美欽一)に主演したほか、大御大・小林悟の「女子大生 奴隷志願」(主演:工藤ひとみ/四番手)と、イヴちやん(a.k.a.神代弓子)の妹である家永翔子(a.k.a.竹田愛美)の最初で最後作「巨尻 ぶち抜く!」(脚本・監督:珠瑠美/二番手)に出演してゐる。
 往来する虚実が最終的に何処かへと膨らむなり抜ける、でもなく。さうなつて来ると所詮は漫然とした羅列に止(とど)まる、総じてはいふほどの無茶もしないプレイの数々を、副題と砂嵐とでズッタズタに切り刻む。まるで断裁するかの如くぞんざいな繋ぎに、そこでさう切るのかよ!とその都度軽く度肝を抜かれる以外には、物語的な面白さは絶無で、山賢のところに大穴の開く、俳優部の旨味も大いに物足りない。琴線の触れ処を探すにも俄かには難く、最早ホッケーと乳尻を眺めるほかない、スタージョンの黙示に支配された大山の、山腹から下を成す一山幾ら作。最終章の“新しい一日が始まる”、夫と一泊した友人を普通に送り出したまやが、「さあてお掃除でも」とか伸びをして、玄関に引つ込まうとする一欠片の変哲もない画に、兎に角叩き込まれるFINには起承転結の転部でも平然と映画を強制終了してのける、大御大・小林悟に近い正体不明の衝撃を受けた。といふか転がすところまで辿り着くどころか、起部から満足に起きてない。

 あと、サブタイのひとつに“心暖まる晩餐の時”とあるのは、さういふ用法の時は“温まる”だと思ふよ。


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 「恋愛相談 おクチにできないお年頃」(2021/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:植田中・小鷹裕/編集:中村和樹/音楽:與語一平/整音:小鷹裕/助監督:可児正光/監督助手:吉岡純平/撮影助手:赤羽一真/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:あけみみう・詩音乃らん・しじみ・山本宗介・赤羽一真・細川佳央)。
 ロングでマンション外景を一拍抜いて、あけみみうと山本宗介が乳繰り合つてゐる。初美(あけみ)が優吾(山本)に「ねえ、もしも」と切り出す、人の心が判るとしたらとか出し抜けに随分底の抜けた会話から、大正義正常位の火蓋を切る。手短な完遂後、実際読んだ優吾の心を初美が口にしかけるや、「チキショウ!」と語気も荒く優吾は男前を歪める。のは、アバンの初戦を、決して力技でなく夢でオトす悪夢。スナップ代りに、初美のタブレットに表示された優吾の画像にタイトル・イン。こゝまで順調、こゝまでは。
 美しい劇伴で女の裸を飾る、主演女優のシャワー・シーン挿んで、初美と優吾も成員の、何処園大学(ウルトラ仮名)の料理サークル「インスタントラーメンを突き詰める会」、略称は有無から知らん。原田ミチタカ(赤羽)自作の辛味調味料を入れてみた、ラーメンの放つ異臭に藍(詩音乃)とミナミ(しじみ)の三人で悶絶しつつ、口に入れてみると味にハマつたミナミが、辛味調味料を果てはぐびぐび喇叭飲みする奇行―徴兵忌避か―に、藍とミチタカは呆れ果てる。その頃初美はといふと、大学ごと出て来ない、戸建の優吾自宅前。普通にシレッと外出する優吾に、初美が声もかけられず二の足三の足を踏んでゐると、ミチタカとミナミを二人きりにイン突会を離脱した藍が接触。中略してある過日のサークル部室、普段とは違ふ装ひでキメて来た優吾を、秘かに片想ひする初美が軽く褒めた、ところ。開巻のナイトメア同様、俄かに血相を変へ優吾は飛び出して行つたのだつた。その際、実は―時と場合により―他人の心の声を聞くことの出来る初美には、「チキショウ!」と切り裂くやうな優吾の悪態が聞こえてゐた。
 配役残り、当然メタルフレームの、金縁ツーブリッジ面積バカ広ウェリントン。なんて途轍もなく難しい眼鏡を、カッコよく完璧にかけこなす。オダギリジョーばりのファッション偏差値の高さを弾けさせる細川佳央は、ミナミの多分同棲相手・トモくん、調理系の人。しじみV.S.細川佳央結構長丁場の一回戦を、ミチタカがミナミから破廉恥な惚気話をさんざ聞かされた旨、初美と藍に愚痴る形で処理する。即ち大きな絡みを卒なく回想で賄ふ構成も、案外裸映画的に気が利いてゐる。等々そこかしこ、枝葉は満足に繁つてもゐるのに。
 2014正月痴漢電車、かつ今やすつかり大女優的な貫禄をも漂はせる、辰巳ゆいのピンク初陣「痴漢電車 いけない夢旅行」(脚本:小松公典)以来、小鷹裕が思ひのほか久々で竹洞組に参加した2021年第二作。ちなみに小鷹裕の戦歴がピンク全体でいふと、少なくともこゝ二年正月痴漢電車の運行を停めた、小関裕次郎第二作「痴漢電車 夢見る桃色なすび」(2020/脚本:深澤浩子/主演:佐倉絆)ぶり。と、いふか。この期に改めて振り返つてみるに、正月もクソもない。「夢見る桃色なすび」以降、痴漢電車は路線自体最低運休してゐる。もう、公開題に“痴漢”なんて入つた映画をおいそれと封切れる時代ぢやないんだよ、さういふ世の中なのだらう。我ながら、認識がうすらのんびりするにもほどがある。
 公開初日を基準に、公称で二十三の詩音乃らんはまだしも、次に若いあけみみうで既に二十六、赤羽一真は三十前。しじみと山宗に至つては普通にアラフォーの五人が、ミナミに対してタメ対応の大学生といふのは、如何せん些か―どころでない―画的な無理も正直否み難い、惚れた腫れたにセンシティブな異能力を絡めた青春恋愛映画。勝手に二人で充足か完結するミナミとトモくんは措いておくか放たらかすとして、四人の恋路が器用に交錯する四角関係を構築、しはしたけれど。ミチタカのベクトルが、結局何処に向いてゐるのか判然としない点―しなくもないのか?―は兎も角、矢鱈マクガフィンじみた含みばかり持たせる会話を延々延々、性懲りもない執拗さで代名詞だらけの遣り取りを垂れ流し倒した挙句、力なく辿り着いた他愛ないラストを、與語一平によるギターはエモく哭くメイン・テーマで誤魔化す。より直截には、頼りきりで助けて貰ふ。Blue Forest Filmの映画を観てゐて常々、もしくはつくづく感じさせられる疑問について、気紛れに筆を滑らせてのけるが小松公典が徒に書き散らかした、膨大なダイアローグを処理するのに一杯一杯で、最早竹洞哲也には、満足に演出する余力の残されてゐないのではなからうか。そのくらゐ、口数ばかり夥しい割に、中身は霞より薄い尺が淡々と進行して、やがて尽きる。ただでさへ凡そセイガクには見えない根本的な負け戦の火に油を注ぎ、チキショウ当日との判り易い対比が、諸刃の剣的に働いたのかファッションからダサい山本宗介が、堂々巡りに明け暮れるドラマツルギーに動きも縛られ、気持ちよく自由気儘に飛び回り、しじみと二人九州か岩手、あるいは明後日か一昨日へと軽やかに駆け抜けて行く、細川佳央の後塵を明らかに拝してゐる。二人と比べると誤差程度のついでで、本職は俳優部らしい赤羽一真も、この人最終的には表情に乏しいのが微妙に厳しい。反面、山宗同様、煮詰まり続ける展開に身動きを封じられるビリング頭に対し、ワンダーなワン・ヒットを放つのが二番手。皆の前に出て来るやう、藍が優吾に促すのも通り越し、半ば迫る件。藍役に際して、基本肩の力を抜いた造形を宛がはれた詩音乃らんの、さりとて一旦気持ちを込めるや、轟然と輝きを増す瞳の強さが印象的。惜しむらくは此処以外さういふシークエンスに恵まれないのが甚だ勿体ない、一撃必殺の決定力ないしエモーションを撃ち抜く。美人のギアも、幾つか一息に上がる。尤も、窮屈なポジショニングに阻まれ、ボリューミーなオッパイを御披露なさる文字通りの見せ場にも、恵まれないのは重ね重ね残念無念。所詮は一応場数は稼ぐヒロインもヒロインで、終に締めの濡れ場さへ、妄想で事済ますしかないといへばないのだけれど。相も変らず大蔵の寵愛を受けこそすれ、前作で起動した悪寒を引き摺る、竹洞哲也の不調を大いに窺ふか疑はせる一作。偶さか優遇されてゐるだけにせよ、撮らせて貰へる分現に撮つてみせる。今日日唯一人、量産型娯楽映画のならではな量産性を体現する、最低限の体力ならば評価に値するものの、もう少し、中身が伴つて呉れなくてはエースと目するには全く心許ない。


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