真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「赤い暴行」(昭和62/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:朝倉大介/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:五十嵐伸治/監督助手:渋谷一平/撮影助手:中松俊裕/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:東音スタジオ/現像:東映化学/出演:橋本杏子・風見怜香・春原悠理・鈴木幸嗣・山本竜二・池島ゆたか)。脚本の周知安は、片岡修二の変名。
 ファースト・カットは湖畔に車椅子を並べる二人の老婆―メイクのハシキョンと風見怜香―ではなく、端から当てられてゐる黒電話に続き、ピンスポで闇の中から浮かび上がる橋本杏子。池島ゆたかの声が「さあ奥さん、貴女は今家にたつた一人でゐるんです」と大雑把に語りかけ、野沢亜紀子(橋本杏子/里見瑶子)に対する催眠治療が開始される。他愛ない遣り取りは薄らぼんやりしながらも普通に交してゐた亜紀子が、電話が鳴るや途端に狼狽。観察する精神科医の佐伯恭司(池島ゆたか/なかみつせいじ)と妻でインターンの悦子(風見怜香/水原香菜恵)を一拍抜いて、電話機を破壊し始めた亜紀子を佐伯が慌てて制止。呼ばれた悦子も注射器を手に駆け寄ると、波面に競り上がり式のタイトル・イン。簡単な粗筋に目を通した際脊髄で折り返した確信は、日が東から出づるが如く的中する。
 安普請を豪快に開き直つた矢張り湖畔、でもなく適当な椅子を二つ向かひ合はせに置いただけの砂浜。佐伯が、亜紀子の夫である俊介(鈴木幸嗣/平川直大)に療後の面談。電話の受信音に異常に反応し極度の興奮状態に陥つた末、何気なく電話に出ようとした野沢に出刃を向けた挙句、電話線をブッた切る結構な刃傷沙汰を起こした亜紀子を、遂に見かねた野沢が佐伯のクリニックに入院させたものだつた。亜紀子の異変に野沢が最初に気づいたのは三ヶ月前、何か起こらなかつたかと佐伯に促された野沢は、洋服を新調する亜紀子に付き合つて外出した折、会社の会合で二三度会つた程度の面識があるといふかしかないといふか、兎も角取引先である「黒崎工業」の若くして部長・沼田明(山本竜二/牧村耕次)とバッタリ出くはした、他愛ない出来事を器用に思ひだす。出演者残り、今作に於いては額面通りの三番手に納まる春原悠理は、課長である野沢の部下兼、不倫相手の江藤倫子、藍山みなみの役。
 忘れた頃に再起動した国映大戦第三十四戦、深町章昭和62年第三作は、2006年第一作「淫絶!人妻をやる」がほぼ忠実にカバーした元作。スラッシュ挿んで不可解に煩雑な配役表記は、「淫絶!」版を併記してゐる。いはずもがなを幾度でも繰り返すが、片岡修二に書かせた脚本を、我が物面するのはよくないぞ。
 電話を起爆剤に壊れるやうになつたヒロインが、療養先で劇中二度目の再会を果たす大筋と、沼田が始末されるに至る顛末は全く同一。サブスク最高と改めて「淫絶!」に軽く目を通してみたところ、細部に関しても雄琴はまだしも、トルコまで馬鹿正直にトレースしてゐる、あと城南公園。逆に異なつてゐるのは俳優部の面子のほか、津田スタと水上荘といふ―主に―野沢家とそれに伴ふ周囲のロケーションに、手切れ金の有無まで含め倫子の扱ひ。とこ、ろが。2006年の新作映画で特殊浴場を称してトルコはねえだろ、土政府激おこどころか、この期にはノーマークにさうゐない。とかいふのは早とちりであるのが、最大の相違点。完全新規で設けられた四十年後のプロローグとエピローグで挟んだ「淫絶!」の本篇時制は、最も単純に考へると実は昭和41年、ソープランドなんて言葉使ふ訳がない。深町章らしく最後の最後まで溜めた一ネタを、明かしたそのまゝの勢ひで“終”を叩き込む。かに思はせたものの、不用意なストップモーションをしかも御丁寧に二つクロスさせ絶妙に後味を濁す今作と比べると、別にまどろこしくもなく、「淫絶!」の方が丁寧に形を成してゐなくもない。あと明らかにいへるのは、部長感一本勝負ならば牧村耕次の圧勝、寧ろそこで何故山竜を連れて来たのか。裸映画的には風見怜香のユッサユッサ悩ましく弾むエクストリームなオッパイに、もう少し尺を割いて欲しかつた含みを除くと大体互角。約二十年の時と時代を超え世紀をも跨いだ、橋本杏子と里見瑶子の竜虎相搏つ激突は見応へがありつつ、さうなると今度は沼田に関する逆で、正しく下手な憔悴メイクを施してみた分「淫絶!」の分が悪くなりもする。一長一短が色々白い、元々の一作。だけれど人が書いたものを、自らの筆によるやうな顔をするのはあまりでなく感心しないのも大幅に通り越して、端的にけしからん。

 一旦脱稿後一時して気がついたのが、新東宝が十月に「淫絶!」を、「赤い凌辱」なる改題で新版公開してゐやがる、十年ぶり二度目。片岡修二―と志賀葉一=清水正二―が黙つてゐれば誰も気づきやしないとでも思つたか、新東宝もシレッとキナ臭い真似をしてのける。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「トリプルエクスタシー けいれん」(昭和63『恋する女たち トリプルエクスタシー けいれん』のVHS題/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:双葉零/製作:伊能竜/企画:白石俊/撮影:宮本良博/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:小原忠美/計測:中松敏裕/撮影助手:渡辺タケシ/照明助手:金子高士/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:林里奈・橋本杏子・伊藤清美・池島ゆたか・山本竜二・守矢トオル・山口麻美《友情出演》・螢雪次朗)。
 夜明けのベッド、「済まんな、祥子・・・・」と詫びるレコーディング・ディレクターの斉巻幸一(螢)に対し、祥子(橋本)は「謝つたりしないで」。続けて「今がよければいいの」とか、典型的な風情の会話。キスを交して開戦、したところで女子ぽく散らかつた部屋の電話が鳴る。「あたしヤッちやつたんだ」といふ祥子の声に、部屋の主・星野陽子(林)は寝惚け眼で「なあに?新記録でも作つたの」、なかなか斬新な会話ではある。風鈴×プリンと寝起きのボケを二手重ねて、陽子は祥子の不倫報告に跳ね起きる。不倫かあと陽子が上方を見やり、波面に上の句を端折つたビデ題でのタイトル・イン。タイトルバックは陽子が起床するカットで軽く見切れる、彼氏と波打ち際でキャッキャするロング。
 配役残り、捕虫網を携へ虫籠も提げてゐるゆゑ、てつきり昆虫クラスタなのかと思ひきや。小脇にハードカバーを挿んでゐたりもする。要は、本気で虫を捕まへる気なんか別にない、空前絶後に藪蛇な造形の伊藤清美は、陽子・祥子と女子大生三羽烏を成す飛鳥今日子、もしかしたら明日香今日子かも。それなりにイケメンではあるものの、前後が長い髪型と全体的にオーバーサイズのトップスに、止(とど)めは裾の絞れたケミカルウォッシュ。グルッと一周して最早眩いほどの、壮絶な八十年代ファッションに軽くでなく眩暈のする守矢トオルが、改めて陽子の彼氏・ヒロシ、地味に絡みが上手い。一応ググッてみた限りでは、守矢トオルが今作以外には佐藤寿保昭和62年第一作「暴行クライマックス」(脚本:夢野史郎《a.k.a.大木寛/a.k.a.別所透》/主演:岡田きよみ)しか出演した痕跡は見当たらない、変名ないし改名の底なし沼はもう知らん。山本竜二は、祥子に不倫マウントを取られ、激しく対抗心を燃やす陽子が目星をつける、仏語教授の前原。雑にいふと山竜版のイヤミ、流石にシェー!はしないけど。前原がレストランにてボーイに、テレホンカードが使へるかとドヤる場面には、時代が偲ばれる。今や、公衆電話を探すのに苦労する。話を戻して西洋文化を、肌で感じるだ体で覚えるだのといつた如何にも秀逸な方便で、据膳モード全開の陽子を前原はホテルに連れ込んでおきながら、子供からのポケベル―配偶者には実家に帰られた―が入るやそゝくさと帰宅する。池島ゆたかは、前原を追ひ往来に飛び出した、陽子がミーツする男・氷室、職業は外科医。最後にカメオの山口麻美は、ヒロシを車で回収する海辺の女。その他ノンクレ隊が人相は抜かれない乳母車を押す人妻とボサッとした背広に、前原からフランス語同好会に勧誘される二人組。
 公称を鵜呑みにすると、林里奈と伊藤清美なんて実は齢が八つ離れて―林里奈とハシキョンで三つ―ゐたりもする、何気に豪快なキャスティングの渡辺元嗣昭和63年第一作。不倫してゐる自分に酔ふ祥子と、祥子にアテられた陽子はどうかした勢ひの邪気の無さで不倫に焦がれる。そして今日子はそんな陽子が蔑ろにするヒロ君に、秘かに想ひを寄せる。女優部三本柱を軸に構築するとした場合、何気に超絶の完成度を誇らなくもない物語はその割に、ビリング頭と、今もあまり変らないといへば変らないナベがキレを欠き、一見すると他愛ない。かに見えかねないところから、それぞれの幻滅の末に三人が旧交を温める極めて穏当な着地点に、鳶が油揚げをカッ浚ふスパイスを効かせるラストは、パッと見以上に気が利いてゐる。大人びた、といふかより直截には背伸びした祥子と、気と尻のどちらがより軽いのか、どつちでもいい陽子。に、かなりハードコアな不思議ちやんの今日子。パーソナリティーが対照的どころかバッラバラで、何でこの面子で仲良しなのかよく判らない三人娘の、案外綺麗な青春映画。砂浜に配した―だけの―椅子とテーブルとビーチパラソルとでカフェ面してのける、堂々とした安普請の回避策は御愛嬌。

 とこ、ろで。クライマックスは、並走する横恋慕の実つた今日子V.S.ヒロシ戦と、スッぽかされた同士の陽子V.S.氷室戦の並走。ダサい通り越して馬鹿馬鹿しいズーム、略してバカズー三連打―をしかも各々繰り返す―で順に今日子と陽子は濡れ場を完遂に至る一方、祥子と斉巻の逢瀬は、何れも中途で端折られる。即ち、公開題でトリプルを謳ふエクスタシーは、実際の劇中ではダブルまでしか描かれてゐない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「《秘》追跡レポート 初夜の性態」(昭和49/製作:プリマ企画株式会社/監督:代々木忠/脚本:鳴滝三郎/制作:藤村政治/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/編集:中島照雄/音楽:多摩住人/助監督:城英夫/効果:秋山サウンド・プロ/制作主任:大西良夫/制作助手:奥野清/監督助手:安部峯昭/小道具:高津映画/衣裳:京都衣裳/現像所:東洋現像所/録音所:大久保スタジオ/協力:南伊豆下田温泉 下田海浜ホテル/出演:堺勝朗・桜マミ・石井梅淋・くるみ夏子・市村譲二・丘マヒロ・野上正義・石橋和子・西山由美江・木村典子・山下りよ・河野亜紀・佐藤弓子・田中明・中野悦)。企画の渡辺忠は、代々木忠の変名。
 多分伊豆急下田駅に到着した総勢十数名の新婚旅行客を、大絶賛実名登場「下田海浜ホテル」の番頭(堺)が出迎へる。マイクロバスに一同を乗り込ませるに際し、堺勝朗が尻を女は何気に触り、男には蹴りを入れる小ネタが芳醇。盛況にほくそ笑む番頭が、指を鳴らしてタイトル・イン。観光的なタイトルバックに、選曲は大正義メンデルスゾーンの「結婚行進曲」。クレジットが協力に差しかゝるタイミングで、車がバシッと下田海浜ホテルに到着するロングまであまりにも完璧。最後に文字情報だけテローンと流すよりも、かうして一仕事構築してみせる方が、余程気が利いてゐるやうに思へる。
 主にフィーチャーされる新婚さんは三組、何処かしら書店の令嬢である宮沢夏代(桜)と、使用人から婿養子になつた旧姓井上の司郎(石井)妻夫。銀行員の青木功介(市村譲二/a.k.a.市村譲)と見合結婚した美江(くるみ)夫妻に、ともに童貞と処女の、田代正夫(野上)と友子(丘)夫妻。ここで丘マヒロが、代々木忠前作「セミドキュメント スケバン用心棒」(脚本:林崎甚/構成:佐々木忠=代々木忠/主演:五十嵐のり子)に於ける、パイ子役の織田政代と同一人物。織田政代で検索してみてもスケバン用心棒しかヒットしない一方、丘マヒロはまひろ名義で他作にも出演してゐる形跡が窺へるゆゑ、織田政代といふのは、恐らく劇中での役名なのではなからうか。特段の意味もなく序盤を駆け抜ける膣痙攣カップルの、女は恐らく確実なビリング推定で石橋和子。その他ハネムーン部以外に海浜ホテル要員も若干名登場するので、クレジット分のみでは頭数は全然足らない。
 概ね海浜ホテルに籠城した上で、各々悪戦苦闘する三通りの初夜―といふか初一昼夜―を描く、代々木忠昭和49年第二作。例によつて“追跡レポート”を謳ひながらも、純然たる通常の劇映画である。大体同時進行する、三つの絡みのクロスカッティングが頻繁すぎるのと無造作な繋ぎが甚だ不親切につき、しばしば誰と誰が致してゐるのか一旦釈然としなくなるのは、スケ用にあつても集団が集団的に動き始めるや、途端に何処を如何に撮つたものか判らなくなる、代々忠的にはある意味想定の範囲内。青木の一方的か不遜なサディズムに、不可思議な従順さで美江が籠絡されるのは相当高いミソジニ下駄を履かねば呑み込むに難く、ボロックスでも腫れてゐたのかおたふく風邪を理由に、田代が壮絶に難儀するところのこゝろもピンと来ない。尤も堂々と主演を張る堺勝朗以下、市村譲二と野上正義、鉄壁の男優部三本柱を擁し、特段面白くも全くないにせよ、モキュメンタリーでもない普通の量産型娯楽映画として始終はとりあへず安定する。夏代と司郎の上下関係が、一夜明けると見事に逆転してゐたりする展開は、綺麗に形を成す。帰郷したのち、殊に宮沢家方面から悶着の起こりさうな気配がしなくもないけれど。裸映画的には白粉臭さかバタ臭さが当時的には受けてゐたのか、時代の波を超えるには、桜マミが正直些かキツい。タップタプンのオッパイは猛烈に悩ましい、くるみ夏子のヒロミツ顔に関しては目を瞑れ。問題が、もとい問題ではない。特筆すべきなのが今でいふ両生類系の丘マヒロが、この人こんなに可愛かつたかなと目を疑ふほど、エクストリームに可憐で狂ほしいくらゐ可愛い。細い背中をシャンとして、黙つて座つてゐる佇まひだけでそれなりの画になり、田代と双方初陣同士で、ひたすらにどぎまぎる様には胸がキュッとなる、不整脈か?ただ如何せん相手がズーズーver.のガミさんにつき、力任せのフルスイングで情熱的な締めの濡れ場を除けば、これといつた美しいシークエンスに恵まれないのがアキレス腱。そこいら辺りをもう少し攻め込めてゐたら、記録には残らずとも、記憶に残る一作たり得てゐたのかも知れない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴漢電車 パンティの穴」(1990/製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:佐野正光/撮影助手:片山浩/照明助手:恵応泉/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・しのざきさとみ・岸加奈子・早瀬美奈・芳田正浩・小林節彦・下元史朗)。脚本の周知安と企画の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 何処ぞ東京のど真ん中の画に、「世の中平和である」。切り口のぞんざいさも兎も角、ナレーションの主が小林節彦といふ意表を突いてタイトル・イン。老はさて措き、若男女の中オジサンが一人負けしてゐる状況を適当に組み立てた上で、朝六時四十五分の津田スタ。妻の明子(ショートカットの橋本杏子)は眠りこける傍ら、園山高志(下元)が目覚ましを止める。そんな訳で通勤電車、コバレーションによるオジサンの条件が、曰く麻雀とカラオケが好きな巨人ファンでおしぼりで顔を拭いて下らない洒落をいひ、「そして痴漢をする」。空前絶後の、“そして”感。どうせ苗字は黒崎にさうゐない悦子(しのざき)に、園山が電車痴漢。改札を出たロングで悦子に捕獲された園山は最初白を切りつつ、悦子が続きを希望してゐると知るや、宣誓でもする形で手の平を立て「私ですー痴漢したのは」。この件、掌の返しぶりの鮮やかさは面白かつた。もしくは、鮮やかさだけは。
 配役残り改めて小林節彦は、十八齢の離れた久美子(早瀬)と結婚した轟渉、共稼ぎ。岸加奈子は電車痴漢を介して轟が偶さかミーツする、浮気性の人妻。芳田正浩は、毎晩遅い久美子の帰りに猜疑を募らせる、轟が頼つた興信所の探偵・岩淵。小林節彦・下元史朗と三人並んだ名前を見た時点で、よもや芳田正浩が探偵役だとは予想だにしなかつた。
 最早そこにしか弾が残つてゐない、新東宝の痴漢電車を片端から見て行くかとしたところ、予想通り深町章映画祭の火蓋が切られた模様の1990年第三作。さうはいつても、近年深町章は痴漢電車撮つてないよな?とも思ひ調べてみると、さんざ撮り倒した末に飽きたあるいは厭きたのか、深町章最後の痴漢電車は、1998年第四作「ノーパン痴漢電車 まる出し!!」(主演:相沢知美/ex.青井みずき/a.k.a.会澤ともみ)まで遡る。
 尺を二等分した後半の轟篇に際しては、今度は下元史朗がナレーションを担当する。かといつて電車痴漢がフランクな底の抜けた世界観を共有する以外には、二篇が一欠片たりとて交錯するでなく。“女元気時代”と、“男ショボ暮れ時代”。二年目の分際で、平成の世をさう総括してのける粗雑な着地点には、呆れるのも通り越し直截に腹が立つ。ベクトルの正負はこの際等閑視するとして、映画が突発的に煌めくといふか揺らぐのは、大概唐突に岸加奈子が飛び込んで来る瞬間。事前の轟家電車内夫婦生活が観客のミスリードを目した周到な伏線であつたならば、鮮やかな妙手といふほかない。あくまで、さうであつたならば。形式的には早瀬美奈よりひとつビリングが優位とはいへ、純然たる濡れ場要員に限りなく近い岸加奈子を、その発言を以て岩淵に橋を渡すのは、ギッリギリの救済策。もう一点特筆すべきなのが、“パンティの穴”だなどと屁のやうな公開題を、誰も別に気にしてゐなくとも何らおかしくないにせよ、カッ攫ふかの如くキシカナが回収して行くのは何気なサプライズ。

 に、してもだな。一応順番上最後といふ意味に於いてのみともいへ、締めの濡れ場たるカーセックスに関して。幾ら何でも、午前様間際にしては車の外が薄らぼんやり明るすぎるだろ。白夜かよ、何時から東京はそんな高緯度になつたのか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「ポルノだョ!全員集合《秘》わいせつ集団」(昭和49/製作:プリマ企画株式会社/監督:山本晋也/脚本:山本晋也/製作:藤村政治/企画:渡辺忠/撮影:久我剛/照明:近藤兼太郎/音楽:多摩住人/編集:中島照夫/効果:秋山実/助監督:城英夫/撮影助手:中田一幸/照明助手:大原信男/製作進行:奥山透/録音:大久保スタジオ/現像:東洋現像所/出演:桜マミ・有沢正美・鹿島アグリ・乱孝寿・星野アリミ・早川レナ・南洋子・増野京子・関根恵子・小杉ジュン・石橋和子・松浦康・久保新二・吉田純・野上正義・滝沢秋弘・堺勝朗・秋津敬介・伝三郎・鏡勘平・坂本昭・三重街竜・国分二郎・滝島孝二・ドラキュラ・城浩・佐川二郎・三島新太郎・都健二)。監督と脚本の別立ては、本篇クレジットに従ふ。企画の渡辺忠は、代々木忠の変名。
 “この映画は登場人物.商品.商標などはすべてフィクションであり事実上とはまつたく関係ありません。”の断りクレ、一応でも断つとかな。断つたところで、といふ話でしかないやうな気もするのだが。
 ファンファーレ鳴らして競り上がり式のタイトル開巻、ど頭が意表を突く、HHK局を偽つた白黒の君が代。それは何放送協会なのか、一日の放送を終へたテレビも点けたまゝ、セックロスしてゐる国分二郎と女にクレジット起動。女優部の人海戦術には、抗ふ気力も見せずに白旗を揚げる。男が寄り切られる形で終戦、憤慨した女が別れを吐き捨て出て行く一方、国分二郎は呑気に寝こける。翌朝、目覚まし時計に叩き起こされた国分二郎は七時のニュースのアナウンサー(都)が伝へる、政府がトルコ風呂の入浴料と本番料の高騰に懸念を示すニュースに顔色を変へる。エゲレスのエロザベス女王が強姦されただなどとキナ臭いネタ挿んで、ロマンポルノの猥褻性が争はれた裁判の第四十八回公判、の中継録画。検察官(吉田)と弁護人(堺)に裁判官(松浦)がかぶりつきで見守る中、久保チンが女優部と絡みを実演する。堺勝朗が前貼りの存在を根拠に本番行為を否定し、弁護側が優勢に立つた流れで閉廷する展開が、馬鹿馬鹿しいけれど幾分気も利いてゐる。スポーツの話題も全日本ヌードボウリング選手権大会、混乱した国分二郎がチャンネルを回してみても、テレビは矢張り手替へ品替へ女の裸を垂れ流し続けた。
 確認出来た最多で、野上正義はアテレコ含め八回あるいは八通りの異なつた役で次々登場し多羅尾伴内をも超えてのける、配役に関しては際限がなくなるゆゑ概ね放棄する。恐らく三重街竜は、アオカン専用避妊薬「カキダース」CMのジェロニモ一度きり。とこ、ろで。青姦と屋内姦を区別する意味が判らない、精子と卵子の間で、何が変るんだ?
 山本晋也昭和49年第四作は、既に係争中のロマポ裁判と、映画を脅かすテレビとにありつたけかなけなしのレイジを撃ち抜き倒す笑撃作。番組の並び的に平日ぽい割に、終日国分二郎が布団から出もせず見るパロディ番組と嘘CMの内容は、文字通り明けても暮れても裸・裸・女の裸。鏡勘平が司会者の「お昼のワイセツ」では視聴者の夫婦生活を写真に収める、模様を放送してみたり、「紅白歌のベストセックス」では郷へろみ(滝沢)が「オカマの子オネエの子」を熱唱。アテレコのガミさんが解説者(五役目)の「夜のブルーフィルム劇場」は、名作の「女が愛して別れる時」と称して適当な洋ピンを放送する。コマーシャルもコマーシャルで、学費感覚の売春貯蓄だとか電力不足につき、さつさと寝ての性行を促す節電CMとハッチャメチャ。「東京電力は愛の暗闇を作ります」、何故かそこだけノーガードに実名登場させてゐる。個々のネタ的には下手な鉄砲を数打つ質といふより正直量の手数勝負で、自身の「女湯」シリーズを拝借した「時間ですよ」を、更に奪還した「痴漢です。」のパート等、一篇あたりが長くなると、ダレ始める感も否めなくはない。松浦康(三役目)と坂本昭(二役目)が「テレビハレンチ寄席」で披露する、漫才もピクリとも面白くない。極私的な琴線の触れ処としては、かといつて別段特徴もなく、次に見るか観た際に思ひだせるのか否か甚だ微妙な点は兎も角、遂にお目にかゝれた都健二の面相と、皆でババンババンバンバンする「痴漢です。」パート尻。銭湯の大将役(四役目)の松浦康が最後を「また来いよ」で締めるのは、この人の決め台詞みたいなものなのか。所々で粒が揃ふ、乳尻をもう少し腰を据ゑて拝ませて欲しかつた感も残しつつ、昼ワイ生放送を中止させる官憲(松浦康の二役目)の介入を始め、ポルノ取締官募集に鋏マークのポルノ検閲。幕間のCMが徐々に抑圧的な雰囲気を醸成、した末に。誰かと誰かがヤッてる映像で終りを告げる、放送終了まで結局丸一日テレビを見てゐた国分二郎を、砂嵐の中から現れた制服警官が射殺。するショッキングなラストを、矢継ぎ早に加速するのが正しく満を持したミヤコレーション。テレビ受像機捨て場をゆつくりと引く画に、「1999年三月二日、テレビ文化沈没」と挑発的に口火を切つた上で、「この日ラーメン一杯の値段八万五千円、天麩羅蕎麦一杯十五万二千円」と、当時的にはシリアスな懸念であつたのか、結果的には掠りもしなかつたハイパーインフレへの懼れも垣間見せる。一旦叩き込まれた“完”がコテンと左に四十五度コケるのは、幾分重苦しくなつてしまつた照れ隠しか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「乙女の挑発パンティー」(昭和61/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/製作:伊能竜/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:小原忠美/撮影助手:中松敏裕/照明助手:鈴木浩/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・小林あい・秋本ちえみ・ジミー土田・山本竜二・鈴木幸詞・池島ゆたか《友情出演》・螢雪次朗)。出演者中幸嗣でなく鈴木幸詞は、本篇クレジットまゝ。
 無音の新東宝ビデオ開巻に一旦突き落とされた絶望は、最後そのまゝ普通に流れる本クレに救はれる。わざわざ無用の手間をかけて、余計な真似仕出かさなくていいんだよ。クレジットの如何を問はず、見れば新たに撮影したアダルトビデオなのか、流用したピンク映画なのかなんて大人なら大体判るだろ。
 夕暮れ空に、危ふげな劇伴が鳴る。その日婚姻届けを提出した新婚―貧乏―カップルの角田優(鈴木)と由絵(小林)が、記念にとホテルに時化込む。正式な結婚指輪の買へない角田が、由絵の左手薬指に通した指輪の大ぶりな赤い石に、オッカナイ秋本ちえみが透けて見える。人気のない廊下に魔子(秋本)がおどろおどろしく起動、一方美乳を堪能させ湯を浴びる由絵は、爪を黒く塗つた謎の二人組に犯される。何時まで経つても風呂から出て来ない、由絵に業を煮やした角田が覘いた浴室に、新妻の姿はなかつた。魔女の館的な異空間、由絵が全裸で十字架にかけられたゴルゴダみ爆裂するショット―怒られるぞ―を叩き込んだ上で、青バックでのタイトル・イン。ビデオ題は冠にビリング頭の橋本杏子、ではなく、小林あいを戴く匙加減。
 新宿のロングからカットを適当に連ねて、歌手を兼業にあくまで本業は探偵―とかいふ設定に特段の意味は一切見当たらない、前作でも何かあんのかな?―とする魔夜未来(橋本)の事務所。調査書に悪戦苦闘する未来を、相手にされない刑事・早川創元(螢)が冷やかしに顔を出す。欧米人ならソノラマ・スニーカーとでもなるのか、あるいはフランス・グリーンドアとか。フルスロットルな閑話休題、高校の後輩である由絵(ex.小林)から届いた結婚報告葉書に目を落とした未来は、葉書に緑色のスライム的な異物が滴る、幻影に慄く。胸を騒がされた未来がノーヘルの原チャリで角田家を訪ねてみたところ、由絵に変つた様子は別に見受けられない反面、心なしか憔悴した角田は浮かない顔をしてゐた。とこ、ろで。法令の改正と、撮影時期との兼合ひが判らないが、原付も含めた全ての単車に、全ての道路でヘルメット着用が義務化されたのは同じ昭和61年のことである。今の目で見ると、片側数車線のダダッ広い道路を、裸の頭で走る画がストレートに一番恐い。あと角田家が貧乏所帯の所以が、劇中角田に仕事をしてゐる様子が窺へない件。
 配役残りカメオの池島ゆたかは、角田が指輪を買つた、古物商「国際古美術百貨センター」の店主。この頃多用してゐた、軽く?化粧を施しユニセックスな造形。何処に如何なる形で出て来るのか全く読めなかつたジミー土田と山本竜二は、魔子の僕(しもべ)・裕矢と敏詩。裕矢は兎も角、敏詩といふのは何と読ませる気なのか。こちらの造形は、ピエロ的なメイクのショッカー戦闘員。遅れ馳せながら今回改めて気づいたのが、ジミー土田が案外小気味よく体が動く。
 少なくともきちんとタグ管理されてあるものに関しては、ex.DMMにいよいよ残り弾も僅かとなつて来た渡辺元嗣昭和61年最終第七作。単独第十三作で、年を跨いだ次作が、買取系ロマポ初陣の「痴漢テレクラ」(昭和62/脚本:平柳益実/主演:滝川真子)となるタイミング。
 探偵であるのを由絵の口から知つた角田に泣きつかれる格好で、未来は由絵が結局一人で帰宅してゐた失踪騒ぎ以来、夜な夜な別人格に変貌し角田も夫婦生活の間意識を失ふ、二人が苛まれる怪現象に首を突つ込む。ダーク系ファンタなナベシネマ、とは、いふものの。当時二十一歳の橋本杏子が全盛期を思はせる鮮度を爆裂させる、アイドル映画パートに中途半端にも満たないチャチい怪異譚がある意味見事に完敗し、全体的なトーンはとかく漫然か雑然としかしてゐない。魔子の正体は、昭和の始めに死んだ廃ホテルの女主人で色情狂の女―の亡霊―であつた。早川が未来と由絵を異界から一か八かで救出した正真正銘次のカットで、最終的な解決には至らないまでも、怪事件の真相が未来の口から唐突に開陳される。機械仕掛けの神様が登場する暇もない、木に東京タワーを接ぐ箆棒な展開には終にこの映画グルッと一周したと、観念にも似た感興を覚えた。魔子にさんざ貢がせた上で、張形二本を手切れに捨てた極道。のなれの果てである古美百センター店主が、実際張形を魔子に渡す件を、角田が来店した際とビジュアルに変更も加へずに古美百センター店内で撮つてゐては、昭和初期とされる魔子の死亡時期と否応ない齟齬を来す。止めを刺すといふか、寧ろ通常の範囲内とは全く異なつた別の次元に映画が突き抜けるのが、未だ囚はれる角田の奪還に、未来と早川が赴く最終決戦。十手を得物とした、未来美少女戦士ver.の意匠―多分オリジナル―が大概藪蛇なのは予熱以前。ジェット・ストリーム・アタック的な攻撃も敢行する裕矢と敏詩が、大雑把に説明するとゴン太くんにキャノン砲を生やしたやうなデザインの、チンコ怪獣に合体変身するのには度肝を抜かれるのも通り越してリアルに眩暈がした。いやいやいやいや、キマッてないつて。正気だつてば、ホントにさういふ映画なんだよ。俳優部の発声が粗いのか録音部が録り損ねたのかは知らないが、未来がチンコ怪獣を倒す、必殺技の名前がよく聞こえない辺りはこの期に及ぶと逆の意味で完璧。角田を解放するシークエンスを端折るのは兎も角、ラスボスたる愛子を実は倒してゐない。そもそも、安アパートにて角田が魔子に喰はれる絡みを四十分前の最後に、幾らエンドロール込みともいへ残り二十分を丸々スッ空騒ぎに空費してのける、尺の配分が完全にブッ壊れた構成が最早腹も立たない木端微塵。強ひてよくいへば凄いものを見た、直截にいふと、酷い代物を見たなんだけど。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「風俗図鑑 ヤレない男たち」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:大塚学/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:谷口恒平・山田理穂/撮影助手:赤羽一真・金碩柱/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:辰巳ゆい・東凛・なつめ愛莉・友田彩也香・卯水咲流・若月まりあ・ケイチャン・折笠慎也・吉田覚丸・櫻井拓也)。
 アパートの外観にタイトル開巻、建物は多分横須賀ら辺、特殊浴場の従業員寮。「もーすぐ令和になつてまふでー」、平成最後の夜、後述する前作を回収するシャウトはひとまづキマる。ボーイである佐野六男(吉田)の部屋に遊びに来た送迎運転手の井手芳雄(ケイチャン)が、かつて店に所属してゐたAV女優・tokiko(東)の自慰ものをワーキャーしながら見る、人ん家なのに。佐野がAVを止め点けたテレビの中では、現役時代は立ち技最強を謳はれた、高田信雄(折笠)のジム練習生との不倫騒動。レス・ザン・とりとめの話題は泡姫に転身したtokikoを追ひ店で働き、最終的には目出度く結婚に漕ぎつけた、井手いはく“フカしの正太”こと戸田正太(櫻井)の話に。ダイヤルQ2もテレクラも知らない、佐野に井手がアイアンクローをカマし大騒ぎする部屋に、嬢の馬場麻琴(辰巳)も顔を出す。アイアンクローの旧さを指摘する麻琴に対し、井手が―プロレス技は―鉄の爪と真空飛び膝蹴りだけ知つてゐればいいとか適当な持論を開陳する件、真空飛び膝はキックの技だろ。
 出演者残り友田彩也香と卯水咲流に若月まりあは、鴨田千景と田野倉綾に千景の娘である朋子、ではなく、戸田の嘘武勇伝中に登場する、人妻と年上のOLに家出娘。十全に一戦交へる友田彩也香は兎も角、卯水咲流と若月まりあのそれこそ本当に瞬間的な登場時間の短さには度肝を抜かれた。ポスターを堂々と六人の裸で飾る、女優部倍増の六本柱は歴然とした頭数詐欺である。殊に若月まりあを如何に捻じ込むのか事前大いに頭を悩ませてゐたのだが、この扱ひには流石に吃驚した、クラスタ激おこ。気を取り直して戸田がtokikoに対する想ひを深める一幕、tokikoに道を尋ねるチャリンコが、KSUに見えたのは紀野製菓、もとい気の所為か。なつめ愛莉は、カード地獄に堕ちた末お縄を頂戴した富永五月、でもなく、普通に佐野の彼女・伊達尚美。往来にて、井手の臍スメルを嗅がされ、卒倒する男は判らん。麻琴が吐瀉物で汚したワンピを、一万円で井手から買ふイイ感じの労務者は、一皮剥けた貫禄も出て来たEJD。未だ当サイトは、単独ピンク映画デビューを諦めてはゐない。それはさて措きその件も、乾燥機のある店に行く―正確には行かせられる―途中で、ワンピ佐野の洗濯機で洗ふのは洗つたよね。更に無敗のまゝ引退した高田には、一敗だけ非公式の敗戦があつた。高田がバイトで生計を立ててゐた頃、戸沢に寝取られた彼女の大江なな(辰巳ゆいのゼロ役目)も、脱ぎもしないまゝシレッと見切れる。どうしてさういふ、徒か不用意に映画を混濁させる真似をしてのけるのか。
 一月前に封切られた「平成風俗史 あの時もキミはエロかつた」の続篇、かと思ひきや。辰巳ゆいとなつめ愛莉の配役が全く別人である点を最も顕著―当然ともいへ、麻琴に貢がせるだけ貢がせ捨てた男も、空手の経験者であれ非高田―に、地続きあるいは正調の続篇ではなくあくまでもしくは精々パラレルな竹洞哲也2019年第四作。細川佳央とカニ・クルーズに至つては、影も形も出て来ない。
 ガチ演芸部であるケイチャンの圧に富んだトークを、吉田覚丸が絶妙な距離感で往なし続ける。不思議と七十分を退屈も寝もせず観てゐられるものの、ピンク映画としては相当か大概な問題作。絡みらしい絡みといへば、序盤の友田彩也香と中盤tokikoの何れも対櫻井拓也の二戦に、最後に並走するなつめ愛莉×吉田覚丸に辰巳ゆい×ケイチャン。その間は散発的に往来に出なくもないとはいへ、ひたすらに、あるいは延々と。佐野家のリビングでああだかうだダベッてゐるだけ、何だそれ。挙句男に捨てられ塞ぐ麻琴に対し、井手がただでさへ―劇中での用語は“それでなくとも”―暗い御時世にとかける発破と一応な大オチを除くと、昭和から平成に跨いだ映画と平成から令和に跨ぐ映画といつた二部作コンセプトの割に、時代性は「平成風俗史」に劣るとも勝らず稀薄。尤もこの井手の、斯くもショボ暮れたクソみたいな時代に、時化た面してんなやといふ視座は、個人的に全ッ力で共有するものではある。閑話、休題。死の淵にすら差しかゝりかねない麻琴を、井手が車で甘噛みならぬ甘轢きするだなどといふ底の抜けきつたシークエンスも、へべれけに過ぎる。色黒の関西人と、体温の案外低さうなデブの愉快なお喋りを何か最後まで何となく観てゐたけれど、俺は確か、女の裸を目当てに小屋の敷居を跨いだ筈だよな。羊頭を懸けられ狗肉を買つて帰つたが如き、釈然としなさばかりが残される一作。前回単騎で決定的な気を吐いた卯水咲流と、現代ピンク男優部で屈指のエモーションの重さを誇る細川佳央。この二人を欠いて、パワーダウンしない訳がないともある意味いへるのか。

 とこ、ろで。友田彩也香と櫻井拓也による濡れ場初戦、正常位から騎乗位に移行するところで、一回ピント失してない?
 一応な大オチ< 佐野が尚美のカップ数を報告して来た電話に出た井手が、元号の変り目に中出しする機を失す


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴漢電車 車内口撃」(1989/製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:夏季忍/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:カサイ雅裕/監督助手:瀬々敬久/撮影助手:中松敏裕/照明助手:福井道夫/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:川奈忍・石原ゆか・南野千夏・橋本杏子・池島ゆたか・久須美欽一・芳田正浩・山本竜二)。脚本の夏季忍と企画の伊能竜は、それぞれ久須美欽一と向井寛の変名。
 タイトル開巻、満員電車の車内実景にクレジット起動。新東宝ビデオでクレジットが普通に流れてゐると胸を撫で下ろす、そんなゴミの如き屈折した安堵なんて要らない。クソみたいなウェリントンの、吉田正夫(芳田)が大欠伸。芳田正浩は二宮和也に見える時もあれば、加藤芳郎にも似てゐる。吉田に対面で密着した小夜子(川奈)が、身を預けてグラインドし始める。「女の痴漢・・・・痴女だ!」と判り易く火の点いた吉田は迎撃に転ずるものの、あへなく陥落。降車後“おスペ代”と称して吉田から一万円を徴収した小夜子の名刺には、痴漢総合代理株式会社営業部とあつた。「世の中には色んな仕事があるんですねえ」と吉田が素直に感嘆する、飛躍の大きな設定を豪快に一撃で纏めてみせるダイナミズム溢れる流れで、吉田は小夜子から三万円で人妻とのプレイを紹介して貰ふ流れに。尤もそんな吉田が自宅の津田スタでは、夫婦生活の不甲斐なさを理由に、妻の随子(南野)から尻に敷かれるどころか下僕以下に虐げられてゐた。
 尺も大体綺麗に三等分した、三篇のオムニバス?仕立ての一作。配役残り山本竜二は、橋本杏子に電車痴漢を仕掛けて、手錠をかけられる男。山竜を自宅に連行したハシキョンは、ボストンバッグ一杯の淫具で責める。鞭で出鱈目に乱打され、山竜があげる悲鳴が殆ど怪鳥音。久須美欽一は、浣腸は打つのではなく自らに打たせたハシキョンが、助けを呼ぶと押し入れから飛び出して来る、インポの治つた亭主。何故かこの頃の久須りんは、今より髪が薄い。不思議だなあ、何でだらう、不思議だなあ。閑、話、休、題石原ゆかは、高速道路の計画ルート内にある池島ゆたかの土地を、妹の小夜子と狙ふ毒婦・イズミ。病に伏せる―にしてはガンッガン元気な―池爺を肉弾往診する際には、イズミが普通に看護婦の白衣を着てゐるにも関らず、あくまで“主治医”と称される。池爺が所有する畑の権利書は、何時の間にか息子であるヘースケ(山本)の名義に移つてゐた。
 ex.DMMピンク映画chの中にある、五十音順でエクセス・大蔵・新東宝、シリーズとしてタグがついてゐる三社の痴漢電車を虱潰しに見て行くかとしたころ、最早新東宝しか残り弾がなかつた。そんなこんなで盛大な深町章祭になりさうな予感の、1989年最終第七作。
 電話越しの声すら聞かせない色男一枚噛ませて、小夜子が吉田に宛がつた人妻といふのが、あらうことにといふか何てこともないといふべきか、兎も角随子。ありがちなオチはさて措き、問題なのが小夜子が提供したコンセプトが、自宅の寝室で眠る人妻に、劇中昼間なんだけど事実上の夜這ひを仕掛けるといふもの。それ、吉田は思ひきり帰宅してんぢやねえかとかいふ空前絶後のツッコミ処は、ある意味見事に等閑視してのける。破天荒にもほどがある作劇が、驚く勿れ呆れ果てる勿れ、まだまだ全然序の口に過ぎなかつたんだな、これが。ハシキョン篇は、そこだけ切り取れば十全に成立してゐる。男性機能を回復した久須りんは、山竜を押し退けハシキョンと―正常位で―夫婦生活をオッ始める。あぶれた山竜に連ケツを掘られ、オカマに変貌か本来の姿を取り戻した久須りんの発案で、三人での新生活がスタートする運びに。左右に山竜と久須りんを据ゑハシキョンを扇の要に、三人でキメッキメの記念写真を撮る中盤ラストは、スリーショット自体の豊潤な威力もあり綺麗に形を成す。更なる大問題が、結局痴漢総合代理も小夜子も掠りもしないハシキョン篇に於ける山竜と、池爺パートのヘースケとが同じ人間なのか、もしくは豪快か底の抜けた二役であるのかに関して、一ッ欠片の説明も為されなければ、三篇を統合しようとする試みも1mmたりとて行はれない点。小夜子も小夜子、川奈忍が小夜子なる名前の女を演じてゐるといふだけで、東京でヘースケが小夜子に電車痴漢する一幕こそあれ、痴漢総合代理はちの字も出て来ない。よしんば序盤の小夜子と終盤の小夜子が同一人物であつたとて、ドリーミンなセールスレディから、姉妹で将と馬を挟撃せんとする他愛ない小悪党に堕してしまつてゐる。悪びれもせず結末にまで筆を滑らせると、計画ルートが変更され父子の土地が単なる田舎の畑に戻つた結果、脊髄で折り返して手の平を返した姉妹は去る。なほも納まりのつかなくなつた親爺に迫られた、山竜の絶叫エンド。改めて整理すると、わざわざ金を払つて自宅に昼這ひし、個人を特定し得ない不作為のパラレルな登場人物がしかも二人。そして山竜の持ちキャラに胡坐をかき、投げ放した締め。無論、締まつてなどゐない。滅多にお目にかゝれないレベルの、粗雑極まりない映画を見たといふのが、それ以外に溜息も屁も出ない直截な概評である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「変態怪談 し放題され放題」(2019/制作:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督・編集:山内大輔/特殊メイクアップ・造形:土肥良成/撮影監督:中尾正人/録音:大塚学/音楽・音効:project T&K・AKASAKA音効/ラインプロデューサー:江尻大/助監督:小関裕次郎/撮影助手:戸羽正憲・榮穰/特殊メイク・造形:戸塚美早紀/ポスター:本田あきら/エキストラ協力:松井理子・吉原麻貴・河合夕菜・有志エキストラの皆さん/制作部見習ひ:松野宏昭/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:星川凛々花・玉木くるみ・並木塔子・安藤ヒロキオ・森羅万象・ケイチャン・櫻井拓也・佐々木狂介・長谷川千紗)。
 「その客が見たいといつたのは、中古の一戸建てだつた」。後述する三沢の口頭に名前が上るだけで、行きつけのスナックのママに事故物件を紹介した社長の矢木澤は別に登場しない「ハッピー不動産」の江口弘樹(安藤)が、やけに青白い不気味な男(佐々木)を古ぼけた一軒家に内覧させる。江口の適当な説明には耳を貸さず、勝手に家内を見て歩き畳みの間にもスリッパのまゝ上がつた佐々狂は、挙句江口が雨戸を開けてゐる隙に押入れに入つてしまふ。当然そこに誰かゐる訳のない、女の人影に気を取られ一瞬目を切つた江口が開けた押入れの中に、佐々狂の姿はなく。慌てた江口が佐々狂を捜し回つてゐると、長谷川千紗らしいがゴースト通り越してクリーチャーな特殊メイクがキッメキメで、正直華奢なら男でも構ふまい女の幽霊がカット飛ばしてガンッガン肉迫、して来て暗転。数時間後意識を取り戻した逸話を、江口が中途入社の新人・田村(櫻井)に語る。営業車の後部座席にも出現した女幽霊の気配に、田村が身震ひしてタイトル・イン。結局この短い一幕限り、櫻井拓也がアバンを駆け抜けるのには軽く驚いた。
 江口は結婚四年の妻・灯里(並木)と、幸福な夫婦生活を送つてゐた、筈なのに。台所でのアツい裸エプロン戦をキメた翌日、「好きな人ができました。探さないで下さい。灯里」とだけ書いた置手紙に指輪を添へ、灯里は出奔する。完全にスポイルされた江口は無断欠勤の末に解雇、いよいよ尻に火の点いた半年後、寮完備のみに釣られ「三沢解体工業」の門を叩く。江口を面接した、矢木澤とは懇意の社長・三沢剛(森羅)はガッハッハな即決で採用。するや否や作業着一式を持つて来た、タコ部屋もとい社員寮「涼風荘」寮母の藤子(星川)は、江口が仲良くなつた―かどうかは微妙な―同僚で脛は傷だらけな模様のオラついた関西人・岩木要三(ケイチャン)の言によると、博打好きの夫の借金の形に、裏方面の顔も持つ三沢に囲はれた女だつた。
 配役残り、競馬で当てた岩木が江口を連れて行く、売春スナック「スミレ」のママが何故か照明を当てない長谷川千紗の二役で、クラミジアがまだ治つてゐないホステスが吉原麻貴。河合夕菜も兎も角、松井理子が何処に見切れてゐたのかがサッパリ不明。例によつて、一般映画の方を観ないと判らないだとかたはけた次第ならば、最早何もいふことはない、こともない。有志の皆さんは主に三沢解体工業の作業員と、クラミジアを安く買ふ男以下スミレの客。そして玉木くるみが、江口をホテル直交のアフターに誘ふホステス・りん。ポスターより一つ順位の上がつた、ビリングに疑問は残らなくもない。
 予告では「2019年・夏 原点回帰の正統“大蔵怪談”映画」を堂々と謳ふ、山内大輔2019年第二作。山内大輔的には怒涛の四連敗を一旦引き分けで止めた、「女いうれい 美乳の怨み」(2017/主演:佐倉絆)以来二年ぶり、路線復活後初となる一人二本目。当サイト判定の通算成績は、一昨年の佐々木浩久ピンク映画第二作「情欲怪談 呪ひの赤襦袢」(主演:浜崎真緒)までで一勝五敗一分。渡邊元嗣が「おねだり狂艶 色情いうれい」(2012/脚本:山崎浩治/主演:大槻ひびき)で麗しいルネサンスを果たしたのも、改めて振り返ると何だか結構遠い昔。以降後藤大輔加藤義一竹洞哲也、そして荒木太郎が悉く玉と砕けるか敗れ去つた死屍累々の掉尾を飾つた―飾れてない―荒木太郎も、今はもうゐない。
 解体予定の廃病院を下見した、江口が―後々そこにも出没する由来の語られる―女霊に慄きつつ、基本線としては魅惑的な寮母を軸に据ゑた、情欲渦巻くエロドラマ。さうは、いへ。男達を絡め取り、意のまゝに操るファムファタルにしては、如何せんパッとしない主演女優が兎にも角にもな難点。掃き溜めに鶴の高が知れ具合がリアルではあれ、そこは映画ここは小屋、もう少し華やかか艶やかな夢を見させて欲しい。星川凛々花共々ピンク初陣の玉木くるみは、仕出かさなければ上出来といふ程度の出番しか与へられず、何故か本クレでは三番手に下がる並木塔子が、服を着てゐようと脱いでゐようとの総合的に、群を抜いて安定してゐる図式はある意味考へもの。それだけ地力に差があると並木塔子を尊べばそれでいいではないかといふ話にせよ、デビュー僅か二年目にして、これではたとへば林由美香なり風間今日子の仕事ぶりである。一般映画版のタイトル「やさしい男」にも採つた、臆面もなく自ら呆れてのけるほどの江口の“優しさ”とやらも理解に難く共感に遠い。単に、惰弱に燻るか生煮えてゐるばかりにしか映らない。最終的に主を喪つた三沢解体工業が解散し、江口が再び全てを失つた超絶のタイミングで、上手いこと駆け落ちした男に捨てられた灯里が戻つて来る展開は、グルッと一周したファンタジーに徳俵を割る。徒に道程の複雑な、此岸に跨いだ復讐譚は案外纏まつてゐなくもなく、エクストリームな特殊メイクを施された、女幽霊が突進して来るショットは闇雲な迫力に溢れてゐただけに、力技の画でゴリゴリかゴアゴア押す、パワー系幽霊映画に徹する選択肢も寧ろあつたやうにも思へる。それが、大蔵怪談の正調なのか否かはさて措き。結局、とか何とかいふ不足も、R15+ver.を観るか見れば解消される、のかも知れない可能性ないし不安が、そもそもないはずもがな。タス版の方は―商業的にも―得られてゐるのかどうだかに関しては興味もないが、いい加減、ピンクの客を虚仮にしてまで、二兎を追ふのはやめにしたら如何か。
 備忘録< 徒に道程の複雑な復讐譚のこゝろは、佐々狂が藤子を通して岩木か江口に、自身らの仇たる三沢を始末させゆ


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「変態指圧師 色欲の狂宴」(昭和46/製作:プリマ企画株式会社/監督:梅沢薫/脚本:佐々木忠・矢吹丈/製作:渡辺忠/企画:丸山完一/撮影:生田洋/照明:小森政夫/音楽:山城礼/編集:中島照雄/助監督:中村幻児/演出助手:吉岡宣孝/撮影助手:君津邦男/照明助手:大久保武志/効果:秋山実/録音:日録スタジオ/衣裳:東京衣裳/製作主任:大西ひとし/出演:松浦康・東祐里子・堺勝朗・青山美沙・泉ユリ・瀬川ルミ・宮本圭子・黒瀬マヤ・高見由紀・杉村久美・宮瀬健次・藤ひろ子・木南清・吉田純・神原明彦・今泉洋・野上正義)。出演者中、東祐里子がポスターには東裕里子で、今泉洋は本篇クレジットのみ、現像のクレジットがないのは本篇ママ。共同脚本の佐々木忠と製作の渡辺忠は代々木忠の変名、といふ以前に、一捻りもしない矢吹丈とか全体誰なんだ。
 タイトル開巻、三味が走る。タイトルバックは諸々連ねた女の裸、無駄のなさが清々しい。“セックスのなやみすべて解消”を謳ふ、「宮の市指圧医院」の盛大な手書き看板。若妻(瀬川)に対する院長・宮の市徳次郎(松浦)の施術を、助手のタエちやん(東)とピーター(堺)が適当に見守る。若妻に屈曲位を説明するのに助手にやらせかけたところ、下にならうとしたオカマのピーターを宮の市が突き飛ばすのが脊髄で折り返した鮮やかな速さ。乳だ尻だといふよりも、松浦康と堺勝朗による勢ひ勝負のどつき漫才が、イマジナリ線をも豪快に無視して展開。これといつたオチがつくでもそもそも若妻の悩みが解消されるですらなく、一幕は大雑把にブッた切られる。
 以降も全篇そんな感じで統一的な物語は特にも何も全く存在しないゆゑ、サクサク配役残り。宮本圭子は、一年前に配偶者をポックリ亡くした三十路未亡人。神原明彦は宮の市が三十路未亡人を看てゐる間、助手の二人が往診と称した、要は完全に今でいふ出張風俗に出向く助平社長。しつこく自身を狙ふ、ピーターとプロレス紛ひの攻防も披露。この件の堺勝朗が如何せん姦しすぎて、映画を壊してしまふのも辞さない山竜領域に突入する。吉田純と泉ユリは、芸者・冷奴(黒瀬)との浮気の過程で交通事故を起こし、不能となつた北千住で鉄工所を営む豊原シゲルと、その妻・チカコ。野上正義と青山美沙が、宮の市を介して豊原夫妻と夫婦交換する、神父とその妻・タケコ。タケコが性感帯の尾骶骨周りを掴まれるや、「ムヒョ~!ムヒョ~!」と底の抜けた絶叫をその都度繰り返し続ける下らなさの陰に隠れ、チカコもチカコで全身にマヨネーズを塗りたくるやう求める、何気に壮絶なWAMを敢行。画的に色艶はいいものの、それ実際には匂ひその他どうなのよ。黒瀬マヤは宮の市医院に現れてフラワーな形而上学を垂れ倒す、劇中用語ママで気違ひ・スミレ。スミレに押し倒された宮の市が警察への通報を促すと、スミレは「貴方はあの気違ひじみた国家権力を呼ぶのですか」。すると宮の市が再び脊髄で折り返した速さで「お前の方が余程気違ひぢやねえかよ」、このビート感。そして凄い端役で飛び込んで来る今泉洋が、恐らく内トラの白衣二人を伴ひ、スミレを回収しに来る先生と呼ばれる人。木南清は新婦の父・西田で、藤ひろ子が新郎の母。各々片親で育てた新婦・ヒトミ(杉村)と新郎・ヒロシ(宮瀬)が、ともに極度のファザコンとマザコンで果たして初夜をどうしたものか、とかいふ構図。
 藤ひろ子まで全員脱ぐ女優部を豪華にも9.5枚揃へた、梅沢薫昭和46年第十三作、0.5はピーター。尤も、あるいはかといつて。腰を据ゑて見せる濡れ場のひとつある訳でもないまゝに、些末を放棄した猥雑なスラップスティックを、大いなる確信―か大らかなやつゝけ―を以て一気呵成に駆け抜ける。殆ど着弾するよりも先に迎撃する、アドリブの早さにしか見えない宮の市のツッコミ―とピーターのボケ―は、果たして脚本上はどうなつてゐたのか。何時、もしくは何処で。松浦康が「だめだこりや」と言ひだしはしまいかと変にハラハラさせられつつ、冷静に検討してみると「大爆笑」が放送開始するのは今作の六年後、寧ろ秘かに先んじてゐてもおかしくない。クライマックスはヒトミよりもヒロシが一層どうしやうもない、新郎新婦に業を煮やした宮の内が強引に背中を押す、藤ひろ子と木南清の模範指導に先導させる形の二両編成を採用した締めの絡み。漸く二人が挿入までどうにか辿り着いた末、「現代メカニズム文明に抑圧された人間どものセックスの欲望は実に狂気を帯びてますな」云々とぞんざいな総括に入つた宮の市が、最後はカメラ目線で「また来いよ、うん」。小屋に来いよといふ意味なのか何なのかよく判らないが兎も角溢れる、正体不明のいかりやみ。さうすると何となく、堺勝朗も加トちやんか志村、吉田純が注さんで、ガミさんは工事に見えて来る不思議、流石にブーが見当たらない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )