真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「牝猫フェロモン 淫猥な唇」(2010/製作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/撮影:飯岡聖英/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:田辺悠樹/撮影助手:宇野寛之/照明助手:八木徹/編集助手:鷹野朋子/スチール:津田一郎/タイミング:安斎公一/選曲:梅沢身知子/録音:シネ・キャビン/現像:東映ラボ・テック/協賛:ウィズコレクション/出演:早川瀬里奈・クリス小澤・津田篤・横須賀正一・鮎川なお)。
 午前七時半、毎朝決まつてこの時間に目覚める槙原淳子(早川)は、出勤する隣の部屋に住むサラリーマン・戸山夏夫(津田)に小窓の隙間から熱い視線を注ぐ。出がけに夏夫が出して行つたゴミ袋を、淳子はいそいそと回収、自室に戻るや早速内容物をチェックする。クールの吸殻を満喫しつつゴミの中から下着を発見した、淳子は驚喜し大切に保管する。そんな中、夏夫が合コンで知り合つたOL・長山麻美(クリス小澤)を部屋に連れて来る。すは一大事と淳子が押入れに駆け込み、コップを壁に当て固唾を呑むのはさて措き、クリス小澤の持ちキャラに合致する西洋的な肉食性を発揮した麻美は、夏夫に跨りガンガン腰を振る。津田篤も津田篤で、上でガンガン腰を振られる姿が様になるといふ、ディフェンシブな意味合ひで騎乗位がよく似合ふ。何気ない一幕ながら、配役にフィットした何気に秀逸な濡れ場ともいへるのではないか。淳子は明後日な積極性と微妙な高スペックを披露、麻美の勤務先に、一般職OLとして潜入する。加藤義一の「痴漢電車 びんかん指先案内人」(2007)以来、久々の新作出演ともなる―その割に、まあこの人も変らないが―横須賀正一は、麻美の上司、兼不倫相手の矢部。麻美が矢部に妻との離婚を強く望む様子に夏夫に対する不誠実を感じ取つた淳子は、今度は妊娠中の夏夫の妻を装ひ麻美に接触。正直甚だ雑なシークエンスを経て、麻美を夏夫から遠ざけることに成功する。そんなそんな中、遠い遠い伏線も噛ませながら、夏夫は―あるいは夏夫も―出席した高校の同窓会にて、現在はキャバクラ嬢の小沢由衣(鮎川)と再会する。どうでもよかないが、鮎川なおといふ人は止め画(ゑ)と実際に動くところとで、どうして斯くも派手に印象が異なるのであらうか。よもや、大掛かりな修正を施してゐたりはするまいな。前年の「異常交尾 よろめく色情臭」(共演:真田ゆかり・柳之内たくま)の時よりも顔の歪みが加速してゐるといふか、直截に筆を滑らせると目つきが恐い。兎も角、当時由衣が好きであつた夏夫が想ひを認(したた)めようと苦悶し結局捨てたラブレターを、相変らず淳子は非合法的に入手。夏夫の純情に心打たれた淳子は、アイロンをかけ捨てられた手紙を修復、良くも悪くも勝手に由衣宛に改めて送信する。すると目出度く恋心が届いたのか、由衣が夏夫の部屋に現れる。なほ鮎川なおも鮎川なおで、津田篤の上で攻撃的に気をやる。
 隣室住人の全生活に抑制を欠いた関心と情熱とを向ける、簡単にいはうと難しくいはうとストーカー女の、世間一般的には予め幸せになることを拒んだかのやうな純愛物語。手紙が展開の鍵を握る重要なアイテムとして登場するのと、印象的な劇伴が偶さか同じく使用されることもあり、お話の中身は全く別物ではあるが、渡邊元嗣2006年の傑作ラブ・ストーリー「妻失格 濡れたW不倫」(主演:夏井亜美・真田幹也・西岡秀記・朝倉まりあ)を比較的容易に想起し得るか。勝手に持ち出しておいて何だが、「妻失格 濡れたW不倫」の強靭な完成度と比較せずとも、物足りない点は消して少なくはない。回想パートの女子高生制服は至極自然としても、対麻美戦に於けるOL制服と御座成りな偽妊婦に加へ、対由衣戦に際しては地味系掃除婦に果ては少年装と、全般的に早川瀬里奈のコスプレに傾注し過ぎるきらひと、登場順に表情の乏しい三番手と表情の険しい二番手に殊に顕著な全体的な布陣の貧弱さとから、主人公の立ち位置が歪(いびつ)であれば歪であるだけ、この手の映画は美しくもならうところが、如何せん本筋が、何時まで経つてもどうにも心許ない。淳子が麻美に続き由衣も連破、邪魔者は全て捌けたといふ次第で、登場人物が早川瀬里奈と津田篤二人きりになり漸く物語が求心力を有し始めたはいいものの、今度は万事を台詞に頼りきる工夫を欠いた作劇に、再び頭を抱へかける。ところがところが、溜めに溜めたといふよりは、正しく意表を突いて叩き込まれる同窓会スナップの鮮烈には、冷静には力技に思へなくもない落とし処をも有無もいはさず定着させるだけの、雌雄を決し得る力強さが漲る。詰まるところは、確かに穴も多いがフィニッシュの強度は素晴らしい、完成されたとまではいへなくとも、終わり良ければ全て良しな一作とでもいへようか。今作がピンク最終作となるらしい早川瀬里奈自身にも重ね合はせるかのやうな、叙情的なラストが麗しく一篇を畳む。


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コメント
 
 
 
横須賀正一氏について (XYZ)
2011-05-09 05:17:35
現在、横須賀氏は男優を廃業し、ALLURE(現役でいうと、麻美ゆま・hitomi・夏井亜美、引退した神田ねおん・早川瀬里奈等が所属している事務室)に入社し、名物おネェマネージャとして頑張っておられます。この映画の撮影当時は、早川瀬里奈他のマネージャーだった時期のはずです。
 
 
 
>横須賀正一氏について (ドロップアウト@管理人)
2011-05-09 19:36:03
 XYZ様、興味深い情報を有難う御座います。

>名物おネェマネージャー

 よしんば現実はさうではないとしても、
 完全に映画そのままのポップな御活躍ぶりが、容易に予想出来ます(笑)。
 
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