真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「悶々法人 バリキャリ男喰ひ」(2022/制作:ネクストワン/提供:オーピー映画/監督・編集:工藤雅典/脚本:橘満八/プロデューサー:秋山兼定/音楽:たつのすけ/撮影:井上明夫/照明:小川満/録音・整音:大塚学/VFX:竹内英孝/助監督:永井卓爾/監督助手:赤羽一真/演出部応援:岡元太・長谷川千紗/撮影助手:林雄一郎/照明助手:広瀬寛巳/ポスター:MAYA/協力:浅生マサヒロ、KOMOTO DUCT、池袋・バレルハウス/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/出演:希島あいり・Kent・卯水咲流・初愛ねんね・古本恭一・那波隆史・パスタ功次郎・なかみつせいじ)。
 “着る、を観る。 全く新しいFashion WEB Magazine ハレホラヒレ”の紙パブを一拍挿んで、『ハレホラヒレ』編集長・華子(希島)の自宅。業務上横領で懲戒解雇が相当なところ、華子が情夫のよしみで依願退職に収めた、元編集者の榊原(古本)に対面座位で跨る。名器の締めつけに屈し、中に出した榊原を華子は改めて追ひ出す。赤いビニール傘が鮮やかに映える、雨の往来。男運のなさを嘆きつつ、坂を下る華子の背中にタイトル・イン。たつのすけこんな人だつたかなとど頭から耳を疑ふ、頓着なくズンドコ鳴らすぞんざいな劇伴が、結論を先走るとアバンで既に勝敗を決してゐた。それ、と。もしかしてVFXはこゝのビニール傘の発色―と後半、夜間ロングの明らかに距離の近い満月―で使つてる?
 半角スペースを入れるのが凄まじく気持ち悪い、字幕ママで“ファッションWebマガジン「ハレ ホラ ヒレ」編集部”。そもそも、ウェブ媒体とはいへ雑誌を謳つてゐる以上、二重鉤括弧を使つて欲しい。さて措き、雅衣(初愛)と伊藤(パスタ)以外の人員は、あらかた辞めたか華子が放逐した編集部に、新任エンジニアの板谷(Kent)が入つて来る。きれいな太三といつた風情のパスタ功次郎が、2008年第二作「如何にも不倫、されど不倫」(主演:鈴木杏里)以来の地味に大復帰で通算三作目。再度閑話休題、パンツ越しにも歴然とした、板谷の立派な逸物に華子は忽ち心を奪はれる。と、ころで。華子と板谷のミーツが、出会ひ頭で華子がタンブラーのコーヒーを板谷の股間にブッかける、要は食パン美少女の変形バリエーションであるのは兎も角。華子がテンプルに指を添へる毎に、スチャスチャ音がするメガネはだから眼鏡屋に調整を頼んで直して貰へだなどと、この期に及んでなほいはせるつもりか。量産型娯楽映画にとつてクリシェは一種の花にしても、一切のアップデートを拒んでいゝといふ訳では必ずしもあるまい、保守なのに。尤も、意図的に野暮つたい雅衣のボストンとの対比も効いた、華子こと希島あいりの使ふ細身のオーバルが、美人を加速させるメガネとして狂ほしく超絶。さうは、いへ。いよいよ事に及ぶ段に、外してしまふのは矢張り頂けない。実際邪魔なのは邪魔なんだけど、そこはそれ、フィクションならではの美しい嘘といふ方便でどうぞ宜しく。
 配役残り、かれこれ七年十本目となる卯水咲流は、セックスお悩み相談の回答者に華子が白羽の矢を立てる、蕨法経大学の同期で女優の岩下桃子。板谷もワラホーで、桃子の演劇部後輩といふのは、単に大ファンであれば事足りる藪の中の蛇。桃子のデビュー作が工藤雅典の名作「紅の純情ロード」(2008)だなどと、熱つぽく板谷に語らせるのは恥づかしくないのか。なかみつせいじが、撮影中の桃子相手役。河原のロケ現場に全員リアル撮影隊とは恐らく限らない、工藤雅典以下計七人がフレーム内に公然と投入。助監督の赤羽一真と照明部のひろぽんまでは識別出来たものの、永井卓爾の巨躯が見当たらず。これクレジットにはないけれど、スクリプタか制作部ぽいのが末田佳子に見えるのは気の所為か。那波隆史は桃子の事務所社長、兼不倫相手。社長が既婚者、桃子に店を持たせてもゐる。バレルハウスを画像でググると撮影に使つてゐるのは判る割に、屋号が抜かれはしない。前述した撮影隊のほか、スタジオ内の楽屋にもう三人―と赤羽一真が―見切れるうち、メイクは多分長谷川千紗。あとHHH編集部にその他編集者も、女と男一人づつ見切れる。いふまでもなく、重複してゐる者の存在は否めない。
 同じく希島あいりを主演に迎へた前作、「人妻の湿地帯 舌先に乱されて」(2020/脚本:橘満八)で実に十二年ぶりともなる久々の白星を叩き出した、工藤雅典の大蔵第四作。昨年暮れ、ツイッターで工藤雅典が新作を編集してゐる気配は窺へる、ピンクであるのか否かは不明。
 強欲、いや性に主体的なヒロインが、純情男の巨根に回りくどくお胸をときめかせる。先に触れたズンドコは、いはば挨拶代り。華子の心情が大きく揺らぐ度に、エレキをギュインギュイン連動させる天井かと見紛ふ底の浅い選曲に咥へもとい加へ、最終的には勃起に擬音をつけてのける、友松直之も裸足で逃げ出す底の抜けた音効には畏れ入つた、勿論悪い意味で。榊原を起承転結を整へる噛ませ犬的な動因と、濡れ場の火種に据ゑるのが精々関の山。華子発案の板谷攻略戦は迂回のための迂回に終始、勧善懲悪を強制完了する、謎弾着のいゝ加減な扱ひは何気に衝撃的。雅衣と伊藤が出社してゐるにも関らず、板谷―と華子―は在宅勤務。リモート会議で新婚夫婦生活がオッ始まるしやうもないラストまで含め、かつての工藤雅典らしい、硬質さなり端正さは欠片もお目にかゝれない結構惨憺たる体たらく。オープンで卯水咲流となかみつせいじが対峙するカットに際して、卯水咲流が逆光側に立つてゐたりする。希島あいりを綺麗に撮る以外には、撮影部も無造作か平板な画を臆面もなく連発といふか乱発。三本柱の乳尻を少なくとも量は十全に拝ませる、裸映画的に最低限安定はしてゐるだけに、辛うじて腹こそ立ちはしないにせよ。殊に男優部主役が壊滅的にパッとしないこの面子の中で、論を俟たず絡みの技術に最も長けた、なかみつせいじを温存する壮絶なセルフ負け戦は流石に如何なものか。土台高々このくらゐの水準の映画なら、せめて月に数十本は量産して数で圧し潰すでもするしかなささうな、全く以て漫然とした一作。橘満八のno+eによると驚く勿れ何と十二稿まで改稿したといふが、これは所謂あれかいな、全ての色を混ぜると灰色になるとかいふ現象を、一本の映画の形で体現して見せられたのであらうか。


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 「性悪女 茂みのぬくもり」(1998/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/監督助手:佐藤吏/撮影助手:岡宮裕・小沢匡史/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/ネガ編集:フィルムクラフト/現像:東映化学/出演:篠原さゆり・工藤翔子・水原かなえ・かわさきひろゆき・樹かず・神戸顕一・山ノ手ぐり子・藤森きゃら)。
 曇天の遠景、遠目から歩いて来るロングに寄りがてら、工藤翔子のモノローグが起動する「人生に偶然なんてない」。一欠片の新味も欠いた、他愛ない運命論を投げた上でフランス書院ぽさのあるエンボスなタイトル・イン。何が恐ろしいといつて、わざわざアバンで思はせぶりに投げさせておきながら、最終的に二番手は広げた風呂敷に触れさせてすら貰へぬまゝ、ラストまで辿り着けず一幕前で呆気なく退場。運命論に新味どころか一切意味のない虚無と紙一重の無造作さは、五代暁子あるいは池島ゆたかの特性といふよりも寧ろ、消費され忘れられてナンボのポップ感。量産型娯楽映画としての本質に、源を求めた方がなほ適切であるやうにも思へる。野暮は兎も角、引きの画―しかも着衣―で既に十分な破壊力を放つ、クドショのオッパイが凄え。
 フリーライターの多分一ノ瀬か一之瀬かおり(工藤)が朝のゴミ出しに行くと、近所の主婦(山ノ手ぐり子と藤森きゃら)が越して来た齢の差夫婦の噂話に花を咲かせてゐる、聞こえよがしに。当の柚月家、帰宅した柚月圭一(かわさき)は精神の平定を怪しまれるレベルの、闇雲な高圧さで十八離れた妻・真奈美(篠原)に対する。ぐりきゃらいはく“ジャニーズにゐてもおかしくない男”、と来るとこの人しかゐない、彼氏の尚也(樹)も来てゐるかおり宅に、柚月が声を荒げる夫婦生活の様子が騒々しく漏れ聞こえる。かおりと尚也の粛々とした婚前交渉を経て、柚月から殴られたのか、顔に痣を作つた真奈美とゴミ置き場にて出会つたかおりは、煩い二人が来たのでいつそ家に招く。
 配役残り、かおりが尚也とよく使ふ、クレジットに等閑視されるゆゑ謎の店に、マスター以下計四五人ノンクレで投入される。中盤の絶妙なタイミングで飛び込んで来る水原かなえは、柚月の素性不明な浮気相手・洋子、一応スーツは着てる。変なおじさんばりの、劇映画にしては明らかに汚し過ぎたビジュアル―と正気を疑ふ所作―に、誰なのか暫し識別に苦しんだ神戸顕一は、親戚をたらひ回しされた真奈美を手籠めにする傍系三親等。
 流石にex.DMMの中にも残り弾がなくなつて来た、池島ゆたか1998年薔薇族込み第六作。ひとつ前々から気にはなつてゐるのが、何故かエク動が池島ゆたかを配信しようとしない謎。
 特段姦計といふほどの姦計を練る訳でも全くない割に、あれよあれよと事が上手く運んで性悪女がテイクス・オールするに至る始終は、これで裸映画的に安定してゐなければそれこそ目も当てられぬほど、ドラスティックに面白くも何ともない。ドミノ倒しの如くぞんざいに散つて行く柚月とかおりに劣るとも勝らない、真奈美に唯々とチョロ負かされる尚也の操り人形ぶり。ついでで、羽目を外しすぎた山竜よりなほトッ散らかつた神顕。狂言回しの二人は所詮進行役につきこゝはさて措き、絡み要員の洋子を、絡み要員のポジションで辛くも災禍を免れる洋子を除くと、誰一人満足な造形の登場人物が見当たらない死屍累々。要は濡れ場以外全篇隈なく酷い壮絶な有様なのだが、強ひて致命傷を挙げるならば、過去パートを見る分には徹頭徹尾可哀想な少女にしか思へない真奈美が、魔性の女に変貌する過程はおろか契機さへ、丸々端折つて済ます豪快作劇。柚月が事切れるのを大人しく待つて、首を絞められてゐた真奈美が身を起こすシークエンスの煌びやかなまでの凡庸さダサさが、グルッと一周してもう完璧。

 反面、柚月が洋子のお胸に精を放つ辺りから、画面の手前ボカシ越しにチンコ―の模型―があるのはまた間抜けか邪魔臭い意匠だなあ、と呆れかけてゐたところ。洋子がして呉れる所謂お掃除を、亀頭、より正確には棹の根本視点でカットを割らずに描く、案外明確な企図が存在した、AVの感覚なりメソッドに近いのかな。


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 「私の中の娼婦」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:武田一成/脚本:西岡琢也/プロデューサー:結城良煕⦅N·C·P⦆/企画:半沢浩・進藤貴美男/撮影:前田米造/照明:木村誠作/録音:金沢信一/編集:山田真司/音楽:髙原朝彦トリオ/効果:小島良雄/美術:部谷京子/助監督:高橋安信/色彩計測:森島章雄/製作担当:三浦増博/現像:東洋現像所/製作協力:伊豆雲見温泉観光協会/出演:田坂都・大林丈史・朝倉まゆみ⦅新人⦆・有田麻里・荻尾なおみ・水木薫・加藤忠・粟津號・鶴岡修・松熊信義・遠山牛・阿部勉・石渡しあき・浅見小四郎・小倉茂・藤原稔之・荒尾敏明・宮内裕三)。出演者中、小倉茂以降は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 製配ロゴから時化の海挿んで、砂を噛む下駄。割と脱力してゐる主演女優が、しやがみ込んでゐたかと思へば、くさめをしてみたり。海を見やる桂子(田坂)を陸(をか)側から抜いた、後姿のロングが恐ろしく広い。桂子が里の中を歩く、今度は海からのロングにタイトル・イン。キッメキメの撮影部がアバンから敢然と攻めて来る一方、一つ目の“の”と“娼”が無駄に赤く着色されてあるタイトルは正直ダサい。
 アフリカの海に遠洋漁業に出てゐる、夫の帰りを桂子が来年に待つ海町。一方、骨壺を抱へ電車に揺られる黒田(大林)の、妻・郁子(水木)は間男宅にて急死。一度寝た不義の発覚を懼れる改札(遠山)を、桂子が軽くあしらふ駅に黒田が降り立つ。過去に一度、郁子と当地を訪れてゐた黒田は、現存した民宿「たつ」の同じ部屋に宿を取る。
 勘繰るに協力を得たよしみに快く首を縦に振つたか振らされたと思しき、フレーム内に雪崩れ込む甚大な現地民ないし縁故人員の頭数にも屈した、松熊信義を見つけられない配役残り。ほかに新生百合族を組んだ望月真美と、赤坂麗。優勝者が何人ゐるんだといふ、同年にっかつ新人女優コンテスト優勝者の朝倉まゆみは不良の千加、「たつ」の女将・たつ子(有田)の娘、ちなみに父親は影も形も出て来ない。黒田が浸かる共同温泉場の岩風呂、隣の湯船で盛大な青姦をオッ始める漁師夫婦は荻尾なおみと浅見小四郎。加藤忠は、黒田が舟の手配を乞ふ漁師。そして鶴岡修が郁子の情夫、ジュンちやんまでしか固有名詞不詳、外科医ぽい。家主が帰宅する以前の、郁子死亡現場に黒田がゐるシークエンスが不可思議といへば不可思議。黒田に対し、「けどよく探しましたね、こゝ」とジュンちやんがグルッと一周して感心する、エクスキューズが一応設けられはする。石渡しあきはへべれけに繁盛するスナックのママで、そこで桂子と何となく距離を近づける黒田に、小指の順番を守れと凄む男が阿部勉。粟津號は、スナック奥の間で桂子を抱く漁師。事後桂子の方からしあきママに支払ふのを見るに、連れ込み代りにでも使つてゐるといふ寸法なのか。その他タイトルバックで桂子と会話を交す魚市場要員を皮切りに、リーダー格兼千加の男でもあるタダシ以下、族のみなさんが十余人。黒田と会話を交す救急隊員に、霊安室の計三人。あと、スナック「しあき」(超仮称)で素面の映画的には木に竹しか接がない、何故か尺をも過分に費やし「兄弟船」を熱唱する謎のオッサン等々が不明。いやホント、オッサン誰よ。
 この辺り、正直門外漢かつ初見につき全く手探りのまゝに、どうもシネフィル受けのいゝらしい、武田一成のロマンポルノ最終第十七作にして監督自体打ち止め作。昭和59といふと当サイトは小学六年生、まあ四十年近くの結構な昔である。近年テレビ畑でも仕事をされてゐないゆゑ、さういふ印象になるのも致し方ないが、監協公式サイトを覘いてみるに現会員。九十二歳の、御長寿であられる。暫し名前を聞かない、米寿の今上御大はお元気しとられるのか。
 シネフィルの連中に受けるとなると、如何にも文芸臭い、お上品な代物なのかと思ひきや。女の乳尻を決して疎かにはしない、腹の据わつた裸映画ぶりが何はともあれ出色。勃つ勃たないでいふならば、ちやんと勃つ。妻を喪つた男と、実は夫を喪つてゐた女。秀逸なミスリードに統べられてゐた、淡々と進行するエロいところはしつかりエロいメロドラマの、盛り上がりなり感情移入をさりとて阻むのは。体躯も身形も扮装も、出て来た時の見た目からパッとしない漫然とした男優部主役。後々“無事故無違反無欠勤”に着弾させる目的を優先させた、諸刃の剣も覚悟の上での魚雷的なキャスティングであつたのならば、ある意味しやうがないにせよ。徐々に凄味を増す田坂都が業の深さを感じさせる桂子と、終始ニュートラルに入りぱなしな黒田の、生の濃淡がフィットしてゐないちぐはぐさが兎にも角にもな致命傷。桂子の告白に続いての、絵画のやうな曇天二連撃。蚊帳越しに桂子を捉へた画なども流石の必殺ぶりながら、少なくとも当サイトには、殊更ヨネゾーヨネゾー有難がるのは些か難い。決してそれを、第一義的に求めてゐる訳ぢやない。尤も一時間を跨いで、実際は託した相手が違つた遺志の残酷な真意が明らかとなる辺りから、足をためてゐた映画が猛然と爆加速。これは凄いものを観た見せられたと、小躍りしかけたのも束の間。結局その時点で残つた大林丈史に、矢張り以降を任せられるでなく。砂浜一面に相当数の花火を適当に挿した、終に美術部が力尽きるぞんざいなカットから、小舟が闇夜の黒牛状態の海に漕ぎ出でるや照明部も共倒れ。“お前”といふのが文脈を鵜呑みにすると郁子を指す、「俺だけだよなあ、お前のことを思つてやつてるのは」。他愛ないミソジニーを黒田が垂れ流す、屁のやうなラストで改めて失速する。


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 「悶絶ふたまた 流れ出る愛液」(2005/製作・配給:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vパラダイス/監督:坂本礼/脚本:尾上史高/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/撮影:鏡早智/編集:酒井正次/録音:福島音響/助監督:伊藤一平/撮影助手:矢頭知美・柴田潤/監督助手:岸川正史/制作応援:永井卓爾・田山雅也/美術協力:松井祐一/メイク協力:波止和子/協力:福原彰・河合里佳・大橋健三郎・桜井一紀・加藤遼子・毛原大樹・菊地健雄・中川大資・泉知良・河西由歩・朝生賀子・今岡信治/タイミング:安斎公一/現像:東映ラボ・テック/出演:夏目今日子・石川裕一・藍山みなみ・佐野和宏・伊藤猛・あ子・吉岡睦雄・岸田雅子・伊藤清美・山崎佳寿江・飯島大介・上野つかさ)。出演者中、飯島大介と上野つかさは本篇クレジットのみ。
 小癪にも『それから』を新潮文庫版でど頭に抜く開巻、もしも仮に万が一、よもや漱石に何某かの含意が込められてあつたのだとしても、浅学菲才で右に出る者のゐない当サイトには諒解能はず。いや、そこは進んで出て貰へよ、といふか左に下がれ。加藤美紀(夏目)と、この時点では一緒に住んでゐなかつた筈―のちの「とりあへず一緒に住みますか」との間に齟齬を生じる―の苗字不詳亮介(石川)の婚前交渉。ナルコレプシーばりに事の最中度々寝落ちる、美紀の大概底の抜けた不自然な造形に劣るとも勝らず、生で挿したはいゝものの、亮介がくさめした弾みで中に出してしまふ下らなくすらないシークエンスが早くも木端微塵。ックション、「あ!」、何だそれ。眠る美紀にキスを二回、亮介も寝てタイトル・イン。アバンから猛然と飛ばす飛ばす、逆向きに。そして、その加速を保つたまゝ完走を果たす。
 明けて主(ぬし)に辿り着けない医師の声で、「本日の検査では進行は見られませんね」。「今日は妹さん達来て呉れてよかつたですね、橋本さん」。こゝから先、三姉妹下二人の順番に関しては、遣り取りと雰囲気からの大胆か適当な当寸法。長女は確定の橋本好子(あ子)が眠る病室に、恐らく次女の美江子(岸田)と消去法で三女の八重子(山崎)。八重子の息子である亮介に美紀まで集まり、亮介の兄・明(伊藤)も遅れて顔を出す。八重子と同居、終ぞ配偶者なり子供の見当たらない、明はどうもチョンガーぽい。一方、大学時代の恩師・田中(佐野)と不倫関係にある美紀は、田中の妻も癌を発症したとやらで、藪から棒かつ一方的な別れを切り出される。
 劇中常時、ダダッ広い会議室にてパッと見時間を潰してばかりゐる、美紀の業務内容が謎めいてゐつつ亮介も亮介。賃金の発生する時間の無駄に関しては、当サイトも現場稼業なんだけどゴンドラでビルの外壁を清掃する人等が、スーツで通勤するかね。最終的には、個人の自由なんだけどさ。兎も角配役残り、ファースト・カットでは二人乗つてゐたのに、次に亮介がゴンドラから携帯をかける際には消えてゐる連れは不明、落ちたのか?出し抜けに酔つ払つて出て来る藍山みなみは、最後まで繋がりの如何を一切語らずに済ましてのける、亮介の浮気相手・ちひろ。どうも、婦人を職業にしてをられる職業婦人の模様。吉岡睦雄は妊娠したちひろが、亮介以外に父親の可能性を残す男・相澤。あまり見覚えのない、茶髪のチャラ男造形、チャラ男は大体何時もチャラ男のやうな気もしなくはない。あくまで不脱ながら、三番手らしい一幕・アンド・アウェイを敢行する伊藤清美が、大病を患つた田中の妻・典子。土壇場で飛び込んで来る、飯島大介はまさかの神父、何がまさかなんだ。あとは分娩室の看護師が、朝生賀子であるのが看て取れる限界、医師は無理。ツイッターに上げられてゐた―シネロマン掲示の―プレスシートの画像から、乳児の名前がつかさちやんで上野つかさのベイビーセルフ。問題が、マペットの類にしては相当よく出来てゐる―風に節穴には映る―新生児に全く手も足も出ない。
 勝山茂雄の「人妻 濃密な交はり」(2005/脚本:奥津正人/主演:真田ゆかり)と同じ要領で、坂本礼第四作について以前茶も濁し損なつたエントリーの、全面的改稿を潔く選んだ国映大戦第五十七戦。第二作にして最高傑作に感激したばかりだといふのは極私的なタイミングにつきさて措き、余程悪い記憶につき消去されてゐたらしく、まあ軽く驚くほど綺麗に覚えてゐなかつた、そんなに宜しくないのか。
 クソ面白くない相当酷い以前に、しかも終始、人物間を凄まじく無造作に往来するカメラに匙を投げるといふか橘高文彦のピック感覚でバラ撒いてゐたところ。恐ろしい通り越して呆れ果てることにそれがどうやら、大人しくカットを割ればいゝものを、無駄か闇雲に長く回す諸刃の剣であるのに気づいた瞬間には、エウレカ!と全裸で往来に飛び出したアルキメデスが、強化外骨格でもガキンガキン着装するくらゐの衝撃を受けた。一言で片づけると、斯くも間抜けな映画初めて見たよ。カメラ自体は動かないまゝ、機械的に寄れば寄つたでガチョーンとか音が聞こえて来さうなぞんざいなズームにも、改めて腰骨ごと尻子玉が粉と砕けた。俳優部の顔に照明の当たらない、何処までも逆の意味で完璧な締めの濡れ場への導入含め、画角云々どころでないプリミティブな惨状に、果たして鏡早智は、今作に名前を残してゐて大丈夫なのか。この期の限りに及んで、膨大な世話でしかない不安さへ去来する。もう一言付け加へるならば、斯くも素頓狂な撮影滅多に見ないよ。フィックスの画が何故か―特に何もなければ別に誰もゐない空間へ―勝手に動いて、何事もなかつたかのやうにまた元の位置に平然と戻る。その時この御仁が何を撮つてゐたのか大御大も多分知らない、“大先生”柳田友貴の魔技・ヤナギダスライダーに匹敵する箆棒な破壊力を、鏡早智が撃ち込んで来るとは思はなんだ。
 典子と吉岡睦雄は無視するにせよ、四角関係を成す女二人が、それぞれ父親を絞りきれない子供を宿す。ただでさへトッ散らかつた状況の、火に油を注ぎ。別れたいのに別れて貰へない、佐野にしては防戦一方の田中以外、あとの三人が何れも、各々の恋敵に直談判あるいは直接攻撃を仕掛けて来るエントロピーの高い連中揃ひ。亮介に至つては、与へられた情報は美紀が大量に借りパクした、田中蔵書に捺された田中印のみ。田中さんの性別も判らない出発点から、クリエイティブな猜疑を膨らませるにもほどがある。七面倒臭い風呂敷を広げるだけ広げ倒しておいて、はてさてこの物語といふかより直截にはこんな物語、全体如何にオトすものかと期待はせずに心配してゐると。どうせ清々しく意味不明ゆゑ、支離滅裂をのうのうとバレてのけるがちひろの子供に関しては、亮介が父親ではないとする、ちひろの確信を尊重するほかない、その後の産む産まぬは知らん。亮介と美紀はつかさの父親は棚上げした上で結婚、ところが式場で昏倒した好子が、そのまゝ往生。どさくさした勢ひに任せ美紀が産気づくへべれけな展開に、悶絶するにはあたらない。展開云々以上だか以下に、カメラワークからへべれけだからな。それは律は首を縦に振つたのか、好子の骨を皆で舟から川に流すラスト。つかさちやんがくさめをした何となくなタイミングで、ボレロなんて鳴らしてみたり。暗転、クレジットが起動する瞬間の、六十五分の五里霧中が漸く終る正体不明の安堵こそ、今作がもたらすエモーションの最たるものであらうか、最早映画といふより一種の苦行に近い。
 前述したミステリアスな美紀の会議室勤務―保健室登校か―に関しても、要は今上御大のイズイズム的なそれらしきオフィスのロケーションと要員を用立てる袖と労力とを端折つた、無作為の生んだ不条理にさうゐない。あるいは、肉を斬らせて骨まで断たれる、壮絶な布石にせよ。美紀が相変らず会議室でポケーッとしてゐると、流石にメットは被つてゐる私服の亮介がゴンドラで降りて来るカットには、桂文枝(ex.桂三枝)のメソッドで引つ繰り返つた。これ実は、盛大なバッカバカバカ映画にまんまと釣られてるだけなのかな。単なる詰まらなさに止(とど)まらずヤバい、坂本礼が珠瑠美―あるいはプロ鷹―とも互角に殴り合へさうな、国映系の枠内から逸脱さへしかねない一種の問題作である。


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 「18才 下着の中のうづき」(2001/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督:坂本礼/脚本:井土紀州/企画:朝倉大介/音楽:安川午朗/撮影:鏡早智/編集:酒井正次/助監督:大西裕/録音:福島音響/撮影助手:平林利穂/撮影応援:中島美緒/監督助手:躰中洋蔵/演出部応援:伊藤一平/現像:東映化学/デジタルカメラ撮影:今岡信治・田尻裕司・榎本敏郎・女池充/協力:泉田聖・小曾根京子・片良あゆみ・五来恵美・平田亜希子・陣内智子・浜田梢恵・境美登利・坂本仁・境駿平・鈴木賢一郎・細井禎之・ファントムライン/出演:笹原りな・川瀬陽太・工藤あきら・山崎瞳・鈴木あつ子・樋口大輔・山根豊治・中村祥二郎・星野麻伊・海老原由紀・五十嵐愛・佐野ゆかり・伊藤渚・田辺彩・井野朝美・野平美保子)。
 真ん中を端折つた「18才のうづき」でタイトル開巻、これは配信題なのか、DVD題は「連続自殺 メル友」で別にある、ホラーかよ。「ねえ、ハルマゲドン来なかつたね」。今更感の軽く漂ふ、十七ヶ月前ノストラダムス―といふか五島勉―が盛大に外した、2000年の歳末。忍び込んだアトムビルの屋上にて、略称でナカジョの女子高生・舞子(山崎)が彼氏(多分中村祥二郎)と乳繰り合ふ。事後ジュースを買つて来た彼氏の眼前、舞子は足から飛び降りる。遺された舞子の携帯がメールを送信、したタイミングでピンク題でのタイトル・イン。以降ラストまで全篇を貫く、藪蛇なフラメンコ推しが何気に今作最大の謎、金が動いてゐる風にも見えないし。
 その他生徒七人と先生(境美登利までの協力部)に、ビリング頭の計九名がフラメンコ教室に飛び込んで来る。校外でフラメンコを習ふショウジ千尋(笹原)は、同じスタジオに通ふ同級生のヒダカ亮(まこと/恐らく山根豊治)に片想ひするものの、まるで相手にされない。制服の違ふ親友・京子(工藤)が千尋を慰めがてら、メル友であつた舞子の噂話。“綺麗なまゝ死にたい”、“綺麗”の定義を問ひ詰めたい―無論非処女である―舞子の方便に、千尋が何となく共感を示す一方即物的に距離を置く京子は、バンドマンの彼氏・ヨシヒコ(樋口)から連絡が入るや、サクッと千尋と別れ逢瀬に向かふ。置いてけぼりにされた格好の千尋は渋谷の街にて、舞子の事件に興味を示す元教師のウラサワ真(この人もまこと/川瀬陽太)と、牧歌的な出会ひ系を介して遭逢。7セグメントのアラビア数字をフィジカルで差し替へる、造りが結局アナログな東急のパブで“21世紀まであと3日”のある日、京子もアトムビルから飛び降りる。
 凄まじく大雑把な配役残り、星野麻伊から野平美保子までの誰か一人が、千尋にはダンスのことしか頭にないと宣ふたにも関らず、渋谷駅の構内で真がお別れのチュッをして貰ふ美少女。イコール敦子の、恐らく今回きり使つてゐない名義の鈴木あつ子は真の在職当時教へ子。固有名詞が最後まで呼称されぬゆゑ、大絶賛仮名でアツコ。真と要は淫行したのち、卒業後の結婚すら約しつつ、アツコは幹線道路に飛び込む。チュッ子ちやん(超仮名)役以外の七人が、京子や舞子と千尋を迎へる屋上部隊。二十四人投入される頭数を、無事整理出来るとは思はなかつた。と、ころで。受験勉強してゐる気配の一滴も窺へない、留年してゐなければ高三である筈の、千尋の進路については見事か豪快に通り過ぎて済ます。浪人してわざわざ入る、高校の生徒にも更に一層見えないぞ。
 配信では見られないものと諦めてゐた坂本礼第二作が、楽天TVの中にあるのを見つけた国映大戦第五十六戦。喜び勇んだついでで、ザッと探してみたところサトウトシキの「悶絶本番 ぶちこむ!!」(1995/脚本:立花信次=福間健二)も入つてるぢやない。こゝから先は純然たる私(わたくし)の些事でしかないが、近所のスーパーの会員カードがUNiTe Cardに切替へだか吸収。普通に生きてゐると勝手に貯まつて行く、楽天ポイントで戦へるのは非常に捗る、プレイヤーの使用感も悪くない。これで旧素のDMMに劣るとも勝らず画質の酷い、使ひ心地から決して芳しくはないビデオマーケットと縁が切れる。短い間だつたけど、今まで有難う。
 実は舞子と京子が同じロケーションから飛び降りた以外、残りの七人に関してはイントロをスッ飛ばしてもゐる、パラノーマルな少女達の連続自殺。好きな男の子からは木端微塵にフラれ、マブもダイブ。偶さか渦に吞み込まれさうになる少女と、敦子の死と一連のアトムスーサイドに直接の関係なくね?とかいふ、割と根本的かプリミティブな疑問はさて措き、一件の真相に辿り着かうとする男。ほかには八ヶ月後の美波輝海(a.k.a.大貫あずさ/a.k.a.小山てるみ)初陣、「股がる義母 息子の快感」(製作・脚本・監督・編集:北沢幸雄)しかピンクに於ける活動の痕跡なり戦績の見当たらない笹原りなは、下手に攻めれば映画を沈めかねない覚束なさが、元々正体不明の不安に奇跡の調和。あとこの人、モコモコした冬支度でチョコチョコ右往左往する姿がエクストリームに可愛らしく、寄つて抜くよりも寧ろ距離を取つてのロングに映える。亮と同じハンドルの人間とランデブーする千尋の、微笑ましい高揚感。狭義の絡みに止(とど)まらない、真と敦子の絡み。何か贈り物を貰つた真が手を繋いで来た時の、敦子が零すさりげないときめき。他愛ないシークエンスの数々が他愛ないまゝに、超絶のエモーションを随所で連発。舞子と京子、にほか七人。総勢九人の少女―少女ぽくないのが何人もゐるのは気にするな、通り過ぎろ―が千尋を天国だか地獄かよく判らない、今風にいふとハビタット的なサムウェアに誘(いざな)ふ劇中第三次アトムビル。斯くも物騒な場所が、閉鎖されてゐないのが大いなる二つ目の不思議。真が間一髪滑り込む、カット割りは正直御愛嬌ではあれその前段、「せーの」の足下なんてもう完璧。井土紀州の作家性を論じる資質は持ち合はせないけれど坂本礼は確かに、二十有余年後の今なほ相変らず晴れる兆しすら窺へない、空つぽにしては何故か息が詰まる、恒常化した半ば肌身の閉塞感を果敢に正面突破してみせた。それ、だけに。主演女優のオッパイを何と五十五分温存してゐた事実に気づいてから驚かされた、締めの濡れ場に跨ぎで突入。ピンク特有の要請ないし要諦としても、一種のぞんざいさに平素とは真逆の不服を覚えかけたくらゐ。尤も、一旦突入した以上、締めの濡れ場は矢張りキチンと完遂させるべきではあるまいか、と横に振るほどでもないけれど、首を傾げる疑問は否み難い。それが裸映画のみならず、女の裸と映画それぞれに対する責任といふ奴ではなからうか、漸くらしくなつて来た。為に吹く与太は兎も角、よしんばあとから思へば底の抜けた馬鹿騒ぎながら、二十一世紀の火蓋を切る瞬間と興奮とをカメラに捉へ、二月の頭には封切る。如何にも量産型娯楽映画らしい、熱い内に打ちのめすスピード感も清々しい。暗転ならぬイエローバックの黄転で起動するクレジットが、南風そよぐ映画を温かく軽やかに締め括る。今後いまおかしんじの遺志を酌み電撃大蔵参戦でもしない限り、当サイト選坂本礼最高傑作、褒めるのは構はないにせよ今岡信治別に死んでねえ。


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 「裸のタイガー エロス狩り」(2022/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:切通理作/撮影・照明:渡邊豊/撮影助手:渡邊千絵/録音:小林徹哉/スチール:本田あきら/助監督:菊嶌稔章/編集:渡邊豊/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/擬闘:大平真嗣/ガンエフェクト:小暮法大/フードコーディネーター:志摩ことり/特殊造型:土肥良成/協力:はきだめ造型・野間清史・郡司博史・ロケ太郎・江尻大・貝原クリス亮/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐倉絆・南梨央奈・並木塔子・折笠慎也・安藤ヒロキオ・裏地圭・GAICHI・あぶかわかれん・根岸晴子・末田佳子・橘メアリー⦅回想シーン⦆・小滝正大)。出演者中、回想特記の橘メアリーは本篇クレジットのみ。
 赤い月に、実はど頭で大オチを割りもする並木塔子のシャウトで「虎だ、お前は虎になるのだ!」。後述する前作ラストで出奔、今は追はれる身のアンドロイド型ダッチワイフ・マナ(佐倉)と手傷を負つた、ポーラボーン社マナ計画オブザーバーの風早タクマ(小滝)が、国沢実の好んで使ひがちな物置然とした一室に逃げ込む。手当てがてらオッ始めた絡み初戦の完遂を待つて、適当なプロテクターを身に纏つたアンドロイドハンター大登場。飛び道具を用ゐた手短な攻防の末、マナとアンドロ狩りが直接激突せんとするタイミングでタイトル・イン。言葉を選べば微笑ましい虎さんの着包みがガオーガオー吠えるのが、一旦俳優部―のクレジット―が先行するタイトルバック。ところで素朴な疑問、ブレードランナーといふのは、一般名詞的に使つたら怒られる単語なのかな。
 腹を空かせた風来坊の背中挿んで、ケン(安藤)が親爺の跡を継いだ青果店「八百丸」。周囲の店の、シャッターが劇中常時閉まつてゐるのが地味に気になる。兎も、角。客要員で飛び込んで来るEJDと、一緒に店を切り盛りする妹のアキ(南)。三羽烏的な常連客のワンノブゼン(あぶかわ)で賑ふ八百丸表の往来を、GAICHI(ex.幸野賀一)の大型バイクが暴走。危ふく轢かれさうになるアキを、通りがかつたはらぺこ流れ者(折笠)がプリミティブな特撮で描かれる、超人的ジャンプで助け出す。男はケンからバイクレーサーの夢を託された弟分でアキとも恋仲にありつつ、レース中の事故で再起不能の重傷。爾来行方不明の、ダンヒデオと瓜二つであつた。けれどもあくまであるいは、その場的な勢ひで郷田リクを名乗つた折慎は野菜が箆棒に大好きで、厳密には葉緑素を含んでゐるものをしこたま食はせる賄ひを唯一の条件に、正直人件費は出せない八百丸に居つく。自慢の単車を満足に抜いて貰へる訳ですらなく、「シェケナベイベ」のクッソしやうもない断末魔を残して御役御免、途轍もなくどうでもいゝGAICHIの扱ひに涙も枯れる。
 配役残り、この二人は事務所に一応籍を置いてゐる、根岸晴子と末田佳子が三羽烏のあと二人。三人に三人なりのフィルモグラフィがなくもなく、本職プロデューサーのあぶかわかれんは加藤義一2017年第四作「肉体販売 濡れて飲む」(しなりお:筆鬼一/主演:きみと歩実)以来、国沢実的には2017年第一作「来訪者X 痴女遊戯」(脚本:高橋祐太/主演:桜木優希音)ぶりの通算四戦目。村田頼俊と同じく「加藤企画」所属の根岸晴子は、2019年第二作「スペース・エロス 乳からのメッセージ」(高橋祐太と共同脚本/主演:南梨央奈)以来の二戦目。根岸晴子は池島ゆたか2018年第三作、といふか現状最終作となる「冷たい女 闇に響くよがり声」(脚本:高橋祐太/主演:成宮いろは)以来の三戦目。ゆめゆめ誤解なきやうお断り申し上げておくと、現状ないし不遇を追認するものでは断じてない。閑話休題、並木塔子が町に舞ひ戻つたセックスカウンセラー・南ユリ子にして、ケンの一年前に逃げられた女房、即ちアキにとつては義姉。に止(とど)まらないんだな、これが、覚悟しろ、覚悟て何よ。バンク限定で登場の橘メアリーはマナのライバル格、マナ計画的には試作段階のジャンクパーツが勝手に合体して誕生した野良アンドロイドのジュン。ハイパーメガバズーカ砲でマナに倒されたのち、復活もしくは再生したといふ。再度敗れたとはいへ、元々底の抜けた出自込みで、マナより何気に不死身のジュンの方が凄くはなからうか。最後に、何しに出て来たのか清々しく判らない裏地圭は、異国と称したそこら辺のホテル街にて再び回遊中のユリ子に拾はれる?百万円持つてゐるのが不思議な作業員。丸ごと謎の意味不明な一幕につき、何時とユリ子以外の3.5Wが本当に雲を掴む。
 国沢実の新作は山内大輔2020年第一作「はめ堕ち淫行 猥褻なきづな」で引退後、2021年第一作「淫靡な女たち イキたいとこでイク!」(主演:加藤ツバキ)で電撃復帰した佐倉絆を完全カンバック的にビリング頭で迎へた、2019年第一作「溢れる淫汁 いけいけ、タイガー」の正統続篇。尤も前回と同じ役の佐倉絆と小滝正大、橘メアリーに対し、マナ計画責任者・蛇塚信一郎博士であつた安藤ヒロキオは下町の八百屋二代目、折笠慎也も無宿人は無宿人ながら、名無しの悪役から主役級―といふか主役―の善玉へと全然別の役に変つてゐる。国沢実と切通理作のコンビとしては、2018年第三作「ピンク・ゾーン2 淫乱と円盤」(主演:南梨央奈)を皮切りに「いけタイ」、2020年第一作「ピンク・ゾーン3 ダッチワイフ慕情」(主演:佐倉絆)と連なる四作目。撮影時期的には滑り込まうと思へば恐らく滑り込めた、2021年公開なら年一ペースを守れてゐたのか。
 さうはいへ佐倉絆をわざわざ連れて来たにしては、再生ジュンと相討ちしたダメージなのか、それとも耐用年数間近の経年劣化。二つの所以が並行する脚本の初歩的か根本的な粗忽はさて措き、木に牙を接ぐ吸血属性―しかも相手は若い女に限る―を背負ひ込まされたマナは、出番ごとダンのヴィランに後退。物語の本筋は記憶を失つた郷田あるいはヒデオと、アキのあれこれ素直になりきれない、とかく面倒臭い恋模様が担ふ。先に進む前に、脚本のミスをもう一点。風早が<ダン>を捕まへて、“アンドロイドも家庭的な温もりには弱い”云々と嘲笑つてみせるのは、だからそこは人造人間ではなく改造人間、即ちサイボーグだろ。筆の勢ひ余つて書き損じるのは別に構はないが、現場から完パケに至るまでの過程で、誰もおかしいと思はなかつたのが寧ろ信じられない。気づいてはゐたけれど、直さないのならなほさら。さて措き切通脚本の最も顕著な特徴に挙げられよう、粒の小ささと紙一重ではあれ、よくいへば繊細な国沢実の、直截にいふとミニマムな器を弁へないオーバーフローの大風呂敷を何も考へずにオッ広げた結果、悪い意味で見事に映画が爆散する。略してオーバーフローシキが続篇エフェクトで幾分緩和されたのか、ナミキ・エクス・マキナ一点張りの超展開が乱打される滅茶苦茶通り越して出鱈目な終盤も、折笠慎也が誇る怒涛の熱量頼みで案外躓きもせず一息に突破。面白いと賞する途方もない勇気は流石に持ち合はせないが、腹が立つでなければ呆れ果てるでもなく、ひとまづ大人しく見させる見せきるのは、近年の国沢実にしては上出来の部類か。裸映画的にはソープテクニック映画を燦然と復興させる、ユリ子とケンの豪快な夫婦生活が何はともあれ何はなくともな白眉。対決の最中にいきなり諸肌脱いだマナが、艶めかしく誘惑してダンの機先を制するのは、実にピンクらしいチャーミングな妙手。反面、事実上のヒロインと看做して問題ない二番手は、処女設定ともどかしさを優先した回りくどい作劇とに足を引かれ、質量双方の不足は否み難い。さうなると、それともそれだけに。郷田目当てにホストクラブ感覚で三羽烏が通ひ詰める、八百丸の風景だのヒデオとケンの笑へもしない特訓。花は青いか赤いのかといつた、他愛なくさへないシークエンスで茶も濁し損なふくらゐなら、女の乳尻に尺を割くべきだといふ至極全うな義憤も禁じ得ない。アキとヒデオが壮大な紆余曲折を経て漸く結ばれる、締めの濡れ場を堂々と完遂した上で、綺麗な大団円を素直に畳んでみせれば、よいものを。アキも虎になりたガールにしてしまひ、全く以て不用意不必要に後味を濁してみせるのは、国沢実の悪い病気と当サイトはもう諦めた。諦めがついたのが、もしかすると今作最大の収穫かも、何だそれ。

 二度目の別れに際しケンが洩らした坦懐を聞くに、ユリ子が家を空けてゐた期間は一年間。とかいふ数字に色とりどりの齟齬なり無理が鏤められてゐるやうにも思へるのは、だからこの人等にその手の野暮を吹き始めてもキリがない。却つて、釣られたら負けの世界に近いものがある。
 ナミキ・エクス・マキナ驚愕の三変化< セックスカウンセラーから性の極意を極めたキラークイーン、から更にの、ダンに改造手術も施した―まんまショッカーな―ポーラボーン首領


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 「ONANIE一家 ‐バイブ蕾責め‐」(1998/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二・岡宮裕/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏・広瀬寛巳/音楽:大場一魅/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:吉行由実・小松ひろみ・東麗奈・神戸顕一・佐々木共輔・平賀勘一)。
 “これは、その名の通り、「人の三倍はスキモノ」の三好家一家の物語である。”漢数字かアラビア数字、読点の打ち方が若干異なる以外、後述する第三作とほぼ全く同じ文言の手書きスーパーによる開巻。三好の表札を抜いた上で、昼下がりの津田スタにタイトル・イン。純然たる私的な雑感でしかないのだけれど、配信動画に於いて大蔵映画時代(~2001)の、王冠カンパニー・ロゴを目にすると心なしか郷愁にも似た穏やかな気持ちになる。ヒャヒャヒャーヒャヒャン、何時から使つてゐたものなのかは知らん。
 台所に立つ息子嫁の礼子(吉行)が、義父の徳三(平賀)が爆音で鑑賞するAVにキレる間隙を縫ふかの如く、双子の弟で受験生の椿(佐々木)はテレクラで捕まへた女子大生・奈津美(東)を伴ひシレッと帰宅。玄関でのディープキスから、カット跨ぎで絡み初戦に勢ひを殺さずサクッと突入する。椿あるいは三番手が切る火蓋の完遂を待つて、双子の姉・さくら(小松)も帰宅。何の物の弾みか小松ひろみが全面にフィーチャーされたポスターに、最後まで翻弄されてゐたのは神を宿すのか否か微妙な些末。礼子いはく色の好み具合が徳三似の椿と、優等生のさくらは父親である杉男に似てゐるとする一方、連夜家に仕事を持ち込む当の杉男(神戸)は妻と満足に向き合はうとすらせず、二人の営みは既に三年間なかつた。
 配役残り、さくらは部屋に家人を一切入れない方向なのか、壁の受験勉強時間割―ひろぽん画伯作―に堂々と記載された午前二時のオナニータイム。多分三本所有するバイブにさくらが各々名前をつけてゐる、黒バイブはブラピで白はディカプリオ。もう一人ゐる筈のオナペットは、模造紙が画角に削られ判読不能。そのうち、安ブロンド鬘の一点突破で、さくらが迸らせるイマジンの中に現れるレオ様当人は佐々木共輔の二役、流石に面相は回避してある。完全に再起不能を思はせるほど、一旦昏倒した徳三を往診する医師の、帰りがけの声は池島ゆたか。
 池島ゆたか1998年薔薇族込み第四作は、2001年第五作の「好き者家族 バイブで慰め」(脚本:五代暁子/主演:佐々木麻由子)を三部作の三本目とする「三好家の人々」第一作。第二作の2000年薔薇族込み第五作「奥様 ひそかな悦び」(脚本:五代暁子/原案:たけだまさお/主演:佐々木麻由子)が、現状配信でも見られない何気にアンタッチャブル、あとたけだまさおて誰?足かけ四年、計三本に亘る中キャスティングに変動が見られ、綺麗に皆勤するのは椿役の佐々共のみ。杉男も全作通して神顕ではあるものの、「好き者家族 バイブで慰め」は写真と声だけのカメオ出演。礼子と徳三が、後ろ二本では佐々木麻由子とかわさきひろゆきに後退、もとい交代してゐる。さくらに至つては「奥様 ひそかな悦び」に出て来ないばかりか、河村栞が「奥ひそ」で別の役(礼子の姪・めぐみ)を演じてゐたにも関らず、「好きバイ」で復活したさくらに扮してゐたりするのが実にフリーダム。ex.川崎季如に関して、m@stervision大哥は徳三は久保チンの役と難じておいでだが、平勘もなかなか悪くない。滑つてゐる、より直截には滑り散らかしてゐる風に映るのは、他愛ない脚本が悪い。
 序盤徒に尺を食ふ、クスリとも面白くない下ネタ・ホームコメディには匙を投げかけさせられつつ、三年前に没した形になつてゐる、遺影も用意されない亡母を徳三が押し倒す様をさんざ見せられて来た、杉男が実は御無沙汰云々以前に性自体忌避する人物造形には、逆にこの二人のコンビで、さういふ周到な手数を踏まれると却つて面喰ふ。事が順当に運んだ場合、当然同じタイミングで大学に進学する子供を二人抱へる家計の苦しさと、夫婦のレスをテレクラに直結する力業も、量産型裸映画の下駄を履き案外スムーズに決まる。声で気づかないのかといふプリミティブな疑問を到底否み難い、礼子が椿と、さくらは杉男とテレクラに燃える三好家にて、徳三が長い昼寝感覚で文字通り再起動。何故か番号を知つてゐた、奈津美に直電をかけ参戦する電話性交トリプルクロスは、そもそもの無理筋さへさて措くと、へべれけの極みながらクライマックスに足る賑々しさ、堂々と底を抜いた。二番手のM字絶頂を、寸前で百歩譲つて女優部ならばまだしも、選りにも選つて神戸顕一で遮る一大通り越した極大疑問手は、如何せんさて措けないがな。何はともあれ、殊に横乳が狂ほしいほどエモい爆乳に正しく勝るとも劣らない、劇中礼子に入浴―と睡眠―シークエンスがないゆゑ、吉行由実が正真正銘一秒たりとて外さないウェリントンすれすれの巨大なスクエアが、限りなく唯一にして最大の勝因といへるやうな一作。それがどうした、オッパイの大きな美人の御メガネ、それこそ全て。究極あるいは本質、この地上に於いて最も美しく輝く宝玉である。あゝ人生を厭悪するも厭悪せざるも、誰か美女の眼鏡に遭ふて欣楽せざるものあらむ、透谷か。

 箍のトッ外れた賛美は兎も角、姉弟がそれぞれの自室にて、何者かからの合否通知―椿は棚牡丹の裏口なのに―を銘々携帯で待つ。要は撮影を南酒々井で完結させる横着か安普請が生んだ、イズイズム的な不自然さについてはこの際等閑視してしまへ。とも思つたが、よくよく考へてみるに、礼子が徳三の車椅子を押し、二人で海辺に赴く一幕が設けられてゐたりもする、それは何処で撮つたのよ。


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 「痴漢電車 弁天のお尻」(1998/製作:国映株式会社/配給:国映・新東宝映画/脚本・監督:いまおかしんぢ/企画:森田一人・朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・福原影/撮影:鈴木一博/編集:酒井正次/助監督:菅沼隆/監督助手:柳内孝一・小林康宏/撮影助手:飯岡聖英・鈴木健太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/ガンエフェクト:ブロンコ/刺青:ポンテンスタジオ/応援:広瀬寛己・坂本礼・女池充・榎本敏郎・堀禎一/ロケ協力:加藤章夫/協力:17番企画・今川修二・河田拓也・梶原誠司/出演:鈴木卓爾・長曽我部蓉子・川瀬陽太・内藤忠司・岡田智宏・児島なお・佐々木ユメカ・星川隆宣・佐藤宏・上野俊哉・正岡邦夫・秦国雄・伊藤猛・林由美香・吉田チホ)。新しい版と変りがない場合、出演者中、星川隆宣から秦国雄までは本篇クレジットのみ。同じく吉田チホがポスターには吉田ちほ、チホが正解。応援の寛巳でない広瀬寛己は、本篇クレジットまゝ。
 本来はど頭にでも入つてゐたのか、ビデオマーケットが配信してゐる動画に、最初から最後まで勿論目を通したが何題なのかよく判らない「弁天のお尻 彩られた柔肌」にせよ元題の「痴漢電車 弁天のお尻」にせよ、兎に角一切のタイトルが何処にも入らない。
 朝の電車、男の譫言と、しやがみこむ女。女は一晩で十人の客を取り、擦り切れたホテトルのベン子(長曽我部)。男はのちに鉄格子のあるホスピタルに入つてゐたといふか入れられてゐた出自を自白する、即ち本物の大黒雅人(鈴木)。一人になるや終始戯言を呟き続ける反面、人との会話は会話で普通に出来る大黒に、ベン子が金銭の発生しない痴女行為を仕掛ける。先走ると締めまで含め全ての絡みを中途で端折る、小癪な潔癖の類でないなら一種の逃避で、痴漢電車はぞんざいに途中下車。往来できれいなお姉さん(林)と擦れ違つた大黒は、運転手は多分内トラのセダンに下敷きになるほど轢かれる。方々で火の燃える廃墟、異様な咆哮に大黒が天を仰ぐと技術込みで特殊造形のクレジットもない割に、合成もまあまあの―着包み―大怪獣・デメキング出現。建物に大黒が入ると、額に銃創を開けた瀕死の自分が「お前の女だ、助けてやれ」。大黒は改めて屋外、全裸で倒れてゐる、背に見事な弁天様の彫られた女の身を起こすとベン子だつた。てつきり車の下で事切れる風に映つた大黒が生きてゐて、現実に帰還。持ち帰つた食品ボトルを開けてみると1999年の三月に自らが採取した、数畳分はあらうかといふデメキングの足跡が入つてゐた。
 配役残り伊藤猛は、ベン子のヒモで見るから筋者のタケシ。弁天様を見せろ見せないで大黒と諍ひになるベン子の眼前、オートマチックでタケシを射殺する男はいまおか映画のリーサルウェポン・佐藤宏。佐々木ユメカはベン子のホテトル仲間で不感症の南極、南極に電車痴漢を働く岡田智宏が、手短なプレイで一万円巻き上げられたかに思はせ、十万入つた財布をスッてゐたスリのシャモ。客からの電話がかゝつて来ない、閑古鳥の鳴くホテトル事務所。大股開いて寝こける名無し嬢役の吉田チホといふのは、杉浦昭嘉デビュー作「淫気妻 つまみ喰ひ」(主演:葉月螢/二番手)に、八ヶ月先んじてゐた泉由紀子(a.k.a.柚子かおる/a.k.a.いずみゆきこ)の別名。内藤忠司はシャモの齢の離れた相棒・寿、パクられた警察から、足を洗ふ記念感覚で回転式をスッて来る凄腕。児島なおがサラ金「ローンズエイワ」のありがちな疎外感を燻らせるOL・ホテイで、川瀬陽太は会社から尻尾を切られた挙句、二千万の借金を負はされ強盗を企てるエビス。南極こゝで死んでねえか?といふ気も否めない、早漏の客は正岡邦夫、オーグリーンの人。上野俊哉と多分星川隆宣は、タケシが草鞋を脱いでゐた組の偉いさんと若い衆。黒い土田晃之といつた風情の、秦国雄を見つけきらなんだ。シャモと寿がよく使ふ、何時の間にか七人勢揃ひ後もみんなで行く焼肉屋。ファースト・カットで四人見切れるその他客がそれなりの面子である可能性も大いに残しつつ、少しは安くしろとでもいひたくなる、随分な低画質で識別能はず。は兎も角、大問題なのが焼肉屋に現れ、ベン子に軽傷を負はせた佐藤宏を、大黒が返り討つてのゲームセンター。なほも錯乱した大黒が暴れ倒す、この辺りから徐々に求心力を失し、映画がグダつき始める兆しとなる別の意味でキナ臭い修羅場。を、「生きてるかー」で半ば強制終了するダッフルコート美少女は全体何者。もうクレジットの中に、女の名前なんて朝倉大介(a.k.a.佐藤啓子)しか残つてないぞ。
 監督として使用したのはこれまで一度きりの、いまおかしんぢ名義による今岡信治第三作で国映大戦第五十五戦。いましろたかしによる原作マンガ(1991)を豪快にパクッてのけた上、後年怒られたとかいふ大概な逸話には、いやしくも商業映画で然様にフリーダム通り越してイリーガルな真似が許されるのかと軽く驚いた。目下確認し得る、いまおかしんぢ限定のフィルモグラフィは榎本敏郎のデビュー作「禁じられた情事 不倫妻大股びらき」(1996/井土紀州と共同脚本/主演:悠木あずみ)の助監督と、自身の前作「痴漢電車 感じるイボイボ」(1996/主演:水野麻亜子)の星川隆宣と共同脚本。三本目が今作で、最後に今度は鎌田義孝デビュー作「若妻 不倫の香り」(1998/主演:佐々木ユメカ)の、江面貴亮と共同脚本といつたところ。大事な仔細を、忘れてゐた。大きめロマポ並みの、尺は驚愕の八十二分、小屋からは相当面倒臭がられたにさうゐない。
 登場順で弁財天を背負つたベン子に、大黒天もそのまんま。一番難しい南極は、寿老人は別にゐるゆゑ≒南極老人の福禄寿。シャモは毘沙門天の中に埋もれてゐて、最高齢の寿が寿老人。いふまでもなく、布袋と恵比寿もそのまんま。臨死体験で未来に飛んだ大黒を中心に、行き逸れたか生き逸れた連中ばかりの七人が、意識的に結成するでなければ、威勢よく集結しもせず焼肉屋に何となく集合。ドロップアウト七福神で、世界を壊滅させるデメキングに挑む。大黒を除いた六人の、デメキングと対峙する意思の有無も兎も角、八犬士的に七福神が揃ふところまでは、別に当サイトが盛つたものではない。さてそこで、七人で力を合はせて大怪獣をやつゝける堂々とした娯楽大作を、今岡信治に望む訳ではないけれど。
 佐藤宏の第一次凶行後、ベン子と大黒は大黒が暮らす―あるいは住みついた―神社に避難。愛する男を殺された絶対的な喪失感の中、遂に弁天様を大黒に開陳しがてら、ベン子曰く「神様なんて役に立たないよ」。未だノストラダムスが活きてゐた時代の拭ひきれない終末思想と、よもや二十五年後の平成もとつくに通り過ぎた今なほ、抜ける兆しの“き”の字すら見当たらないとは。流石に思ひも寄らなかつたより具体的な、ほとんどフィジカルな閉塞感。「神様なんて役に立たないよ」、バッキバキにキャラの立つベン子こと長曽我部蓉子を、勝るとも劣らない速度で佐々木ユメカと岡田智宏が激しく追撃。内藤忠司は飄々としたいゝ味で適度に脱力、クソな現し世を蹴倒すソリッドな寓話が女の裸は疎かにするものの、あゝ、国映の連中はかういふのがやりたかつたのかな。ぞんざいな雑感も胸を過るほど、十二分にも三分にも面白かつた、のに。畳みあぐねたシークエンスを明らかに持て余す、ゲーセンの件でみるみる失速。安普請が底を尽き演出は力尽き、雁首並べた七福神が、てれんてれん塩を撒くへべれけなクライマックス?は、スペクタクルはおろか木に竹も接ぎ損なふ。そして、たおやかなベン子の寝顔で誤魔化し、きれない全てを投げ放し、見る者観る者を煙に巻くくらゐしか精々能のないラスト。一時間を跨いだ辺りでみるみる瓦解、横紙を盛大にブチ抜いたかに少なくとも形式的には見せ、結局ピンクのフォーマットといふ掌から、案外逃れられてはゐなかつたのかも知れない一作。だなどといふのは、我ながら如何にも当サイト臭い、牽強付会を垂れるにも度が過ぎるかしら。


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