真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女教師 秘密の放課後」(2013/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:鎌田一利/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:小山悟/監督助手:布施哲也/撮影助手:知久紘子・竹野智彦/照明助手:小松麻美/メイク:MICO/スチール:本田あきら/音楽:友愛学園音楽部/撮影響力:人体改造BAR 新ギニーピッグ/現像:東映ラボ・テック/出演:辺見麻衣・二宮ナナ・岡田智宏・久保田泰也・佐々木麻由子)。
 公開は年の瀬なのだが、劇中真夏。傍らには婿養子で塾講師の夫・洋(寝癖みたいな変なパーマの岡田智宏)が眠る中、高校数学教師の速瀬理奈(辺見)は男子生徒・伊部澄夫(久保田)に教室で犯された過去を夢で見る。洋に悟られぬやう濡らした下着を替へた理奈が、レイプが苛烈ながらも甘美なものであつた旨想起してタイトル・イン、激怒せれ浜野佐知。
 理奈が繰り返し白日夢に囚はれるほかは手数に欠いた序盤、大学も中退しフリーダムに生きてゐた理奈の妹・亜紀(二宮)が、経済的苦境につき住居を失つたと男連れで実家に転がり込んで来る。洋は深く考へるでもなく受け容れる反面、亜紀の婚約者でショットバーを潰したのが、誰あらう澄夫であるジャンル的にありがちな世間の狭さに理奈は驚く。
 配役残り佐々木麻由子は澄夫の店の常連で、こちらはそれなりに順調な同業者・新藤幹子、亜紀からは新藤ママと頼られる。
 デビュー当時、これで将来的に大蔵の屋台骨は安泰だと思はせかけたのも今は本当に過ぎ去つた昔、加藤義一今や筆を荒げたくなるほど攻撃的に詰まらない2013年第四作。一体オーピーは加藤義一の現状といふ惨状、より直截には体たらくを、如何に評価してゐるのかゐないのか。速瀬家に面子が一応揃つて以降は、ビリングはトメに座りつつも実質的には三番手濡れ場要員の佐々木麻由子が、新ギニーピッグにて一人気を吐くのが精々関の山。広がりも深まりも盛り上がりも何もかも欠いたちつともドラマチックではないドラマが、淡々とあるいは遅々と進行するばかり。その癖、理奈が言ひ寄る澄夫と自らとを称して“時計の針のやうに追ひ着き追ひ越せの駆けつこをしてゐる”だの。陵辱された五年前の記憶を未だ拭へずにゐる点に関しては、“太くて熱い火箸によつて心に火傷を負つた私”だのと、気の利いた文句を思ひついたつもりと思しき悦に入りぶりが、無職かつ借金持ちの分際で澄夫がアメスピなんぞ吸つてやがること以上だか以下に癪に障るモノローグを濫発。下手の横好きが無闇矢鱈と振り回される始終には、セクシャルとは別の意味での淫らといふ言葉くらゐしか見当たらない。チンコで火傷を負つたといつた舌の根も乾かぬ内に、理奈が“貴方の体液で冷やして”だなどといふに際してはあまりのへべれけさに頭を抱へるほかなく、瑣末にも躓く。一旦は再会した澄夫を拒む素振りを見せる理奈が“私は速瀬洋の妻”と自己表明するのは、洋が入り婿である設定を鑑みると些か奇異に聞こえる。最も、猛烈に腹立たしいのは理奈は頭痛で寝込み、亜紀は幹子の店に向かひ、理奈と澄夫二人きりの昼下がりの速瀬家。当然発生するヤラせろヤラせないの攻防戦の中、澄夫が“テレビの昼メロみたいな展開ですね”とほざいてみせるに至つては何事か。昼メロはもつと波乱万丈を盛り上げ茶の間の視聴者を楽しませる、本篇気取りなのか単なる度し難い勘違ひなのだか知らないが、木戸銭落とした観客含め何もかんも馬鹿にしてゐる。唯一シークエンスが輝くかと早とちりしたのは、逆に洋と亜紀二人きりの夜。風呂上りの亜紀に洋が晩酌のスペイン産ワインを勧めたところ、「オーレイ☆」と亜紀がおどけた弾みでバスタオルが外れた瞬間には、師匠である今上御大・小川欽也直伝の絡みへの底抜け導入かと色めきたつたものの、結局ナニするでもなく正しく万事休す。俯瞰で捉へた、机下では亜紀と澄夫が足でそれぞれ洋と理奈を篭絡する食卓に、薔薇が花弁ではなく、牡丹か何かと間違つたのか額ごと降るですらなくボトボト無造作に落ちて来て散らかる無様なラスト・シーン。何某か狙ひがあつたであらう節は酌めぬでもないにせよ、結果綺麗に仕出かした凡作が真逆の意味で完成する。かうなるといよいよ不在が際立つ、あれで意外と偉大であつたのかも知れない岡輝男再評価の機運と、コチンコチンに膨らんだ辺見麻衣の乳首以外には、一欠片の見所さへ見当たらない。


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 「フェチな女たち ‐恥づかしい下着‐」(1999/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:岩崎智之・藤井昌之/照明:上妻敏厚・河内大輔/編集:《有》フィルム・クラフト/音楽:中空龍/助監督:松岡誠・田中康文/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:河野綾子・篠原さゆり・柳東史・熊谷孝文・やまきよ・村上ゆう)。
 ズンチャカ劇伴起動、落ち葉鮮やかな雑木林の中を河野綾子が歩いて来る。女性下着訪問販売員・デコラ(河野)は付き合ひ始めた彼氏との原因を自覚する別れを嘆きながらも、仕事に生きる旨を一旦誓つて街に。ワインレッド地にエレガントなフォントのタイトル・イン、この頃の大蔵にしては、どうかしたのかと不安にさせられるほどの小洒落さではある。
 旧旦々舎和室、デコラが正宗(やまきよ)に顧客が試着した―試着させるのか―パンティを提供すると、正宗は付着した陰毛を舐り、女の年齢から体型、性格やセックスの傾向まで言ひ当てる。ソムリエか、といふか『俗物図鑑』にかういふキャラクターゐたね、向かうは嘔吐物だけど。デコラと正宗はそれなりに親しき仲らしく、彼氏と別れたことを見破られたデコラが、褌愛好家であることがここで明らかとなる。因みに、といつてデコラが愛用する褌はレース生地の褌として締めなければスカーフにでもしか見えないやうな代物で、同じ褌なら褌でも、山邦紀の褌女偏愛が浜野佐知に清々しくスッ飛ばされた、「和服姉妹 愛液かきまはす」(2011/主演:浅井千尋)の方が余程ストレートに褌褌してゐる。ともあれ、正宗と褌が然程機能しない普通の一戦を交へつつ、褌趣味を受け容れ得るのが陰毛フェチの変態しかゐない男運のなさを自嘲するデコラに、正宗は変り者の親友を紹介することを約する。
 そんなこんなで熊谷孝文が、一見普通の好青年風に見えデコラがサクサク自宅に連れ込む才蔵、この人の正体は尻毛フェチ。篠原さゆりは、「軽蔑はしないけど度肝抜かれた」デコラに才蔵がもつと凄い女の人と逸話を紹介する、真純か真澄か真須美か以下省略。入れられる方のスカルファックを切望する、苛烈な頭蓋骨フェチ、死ぬぞ。スカルファックの話を向けられ、ううんと頭(かぶり)を振り知らない知らないする河野綾子が超絶可愛い。村上ゆうは、正しく類が友を呼ぶデコラの友人・桃園、コルセット愛好家。柳東史は桃園が痛い目に遭つた、黒革のジャケットと黒シャツをカッコよくキメたハンサム。普通に桃園が満足する一回戦を通過後、シミーズ着用後水に濡れさせた桃園を暴力的に犯す。
 薔薇族が一本先行する、山邦紀1999年ピンク映画第一作。村上ゆうや篠原さゆりや山本清彦がゐて、柳東史はまだ若かりし時代。正宗から才蔵でドッチラケる流れが、真純で最大加速。桃園と柳東史で綺麗に尻すぼむとはいへ、友達の友達は皆友達だとでもいはんばかりに、世界に変態の輪が広がる様は世間一般的には屈曲してゐるやうに見えて、この上なく山邦紀らしい安定飛行。尤も、アクロバットに拡げた風呂敷を、満足に畳む段には決して成功を果たしてゐるとはいへない。結局、理解ある男との出会ひを諦めたデコラと桃園が、百合の花を咲かせるに至るのはある意味定番展開。能動的に嗜好あるいは志向する性癖といふよりも、それ以前の性格乃至は要は幼少期のトラウマを拗らせた―だけの―柳東史は顧みられるに値しないとしても、正宗と才蔵、劇中最強のアブである真純の去就も放置―正宗が真純に接近を図る、イメージは挿入されるものの―した上で、デコラと桃園が褌とコルセットで大儲け。札片を浴び大喜びした末に、オーラスのデコラの台詞が「私達変態でよかつた」だなどといふのは随分とらしからぬ怠惰なオプティミズム。そもそも、自らを紛れもないこの世界の正統派と自任する陰毛フェチの正宗が、孤独な異端の人と半ば見下す才蔵が尻毛フェチといふのは如何なる他愛ない冗談か。但し、物足りない幹に対し枝葉は豊かに生ひ茂る。一本の陰毛から女の諸々を看破する特殊能力をデコラに呆れられた正宗曰く、「神は細部に宿り賜ふ」。わはははは、斯くも本質的な言ひ得て妙見たことがない。尻毛を偏愛する才蔵に対し、デコラが「マニアにどうしては禁句ね」と疑問を呑み込むのも冷静にして的確な態度。最も凄まじいのは、唐突に挿入される正宗ことやまきよがふりかけ感覚で陰毛を御飯にパラパラと塗(まぶ)し、美味しさうに平らげる陰毛飯のイメージ・ショット!何だこの奇跡的なイマジネーション、知らない訳ではなかつたが、改めて山邦紀天才過ぎるだろ。何はともあれ、強力な三本柱が硬質の撮影に映える濡れ場の威力は絶大。腰から下で見るなり観る分には、文句なく満足出来る。物語が覚束ないならば女の裸にエモーションを賭せばよい、それがピンク映画の強みでなくして一体何であらう。


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 「痴漢と覗き 丸見え診察台」(1993『産婦人科診察室3 ‐よく見せて!‐』の1999年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:亀井よし子/企画:伊能竜/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:三木修/撮影助手:新川四郎/照明助手:石井克男/スチール:田中スタジオ/音楽:レインボーサウンド/効果:時田グループ/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:青山ゆう・月丘雪乃・深田みき・芹沢砂城・坂入正三・神坂広志・久須美欽一)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。
 何処ぞの産婦人科医院の外景と診察室の画に乗せて、白衣の天使も生身の人間、白衣の下は一人の女とする主演女優のモノローグ、色んな図解に打ち込み系の劇伴がズンチャカ鳴つてタイトル・イン。津村産婦人科医院の看護婦・小山リエ(青山)が、“今日の診察はウフフの日”とほくそ笑む。“ウフフの日”とは一体何ぞや、院長の津山ではなく津村健三(久須美)が不妊治療に訪れた大野夫人(月丘)を診察してゐる間に、リエは別室にて旦那(神坂)の精液を採取。緊張して自家発電が上手く行かない大野に、お手伝ひと称してオナニー見せするのがリエの大好きな“ザーメン検査”―劇中津村もこの用語を使用する―といふ次第。診察後、津村は日頃の慰労にとリエに十八金のネックレスをプレゼントする。
 配役残り、深田みきは異物挿入が大好きで、結果津村に度々お世話になる海野、職業は教師。坂入正三は人妻と偽つた海野とホテルに入る、行きずりの男。人気シリーズ効果か、潤沢にも四番手にして女優部一番の美人の芹沢砂城は、この人も津村医院の常連、津村を明確にオトす目的の笹村。
 「痴漢と覗き」未見作どころか、何のことはない「産婦人科診察室」シリーズ第三作、羊頭を懸げて狗肉を売るにもほどがある。痴漢と覗きが羊で産婦人科診察室は犬なのか、ここでの冷静な検討は割愛する。患者のバラエティを軸に、濡れ場を連ねることに全てを賭ける。誠潔い裸映画に思はせて、海野先生の貪欲に女性不信に陥りかけた津村に気を揉むリエが、笹村のへべれけな据膳を食ふだか喰はれる津村の姿に、逆に男性不信に。器用な離れ業で物語を立て直すと、リエと津村の雨降つて地固まる型のラブ・ストーリーに案外見事に収束してみせる。津村をロック・オンした笹村からリエを引き離す方便に、子宝目指して夫婦生活の最中の、小山夫妻の電話相談をぶつける一手も、力技といふとそれまでだがクレバーといへばクレバー。テクニカルな脚本に支へられた、決して馬鹿には出来ぬ一作。因みに、次回作に色気を見せる爽やかなモノローグで締め括つておいて、当の次作は全然違ふお話であつたりもする。

 最後に、改題に際しわざわざ別シリーズの「痴漢と覗き」を冠しておいて、痴漢要素も覗き要素もともに全く一切綺麗に皆無な迸るエクセスライク。


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 「尼寺 姦淫姉妹」(2013/製作:オールインエンタテインメント・新東宝映画/配給:新東宝映画/監督:友松直之/脚本:百地優子・友松直之/企画:福俵満/プロデューサー:西健二郎・衣川仲人・石川二郎/キャスティング:久保和明/撮影・照明:田宮健彦/録音:千阪哲也/助監督:高野平/編集:石井塁/監督助手:島崎真人・福田竜馬/撮影・照明助手:川口諒太郎/ヘア・メイク:化粧師AYUMO/スチール:中居挙子/メイキング:奥渉/ロケコーディネイト:田中尚仁/協力:土井光・ファンデッド・Mスタジオ/制作協力:アウトサイド/出演:緒川凛・あん・若林美保・福天・森羅万像・浅野潤一郎・金子弘幸・稲葉凌一)。久し振りなので改めておさえへておくと、共同製作のオールインエンタテインメントはex.GPミュージアムソフト。
 憐れ暴虐に曝された姉妹が横たはる、姉がことそこに至る顛末を語る旨を告げタイトル・イン。
 深い森の中、女郎に売られた佳代(緒川)と美代(あん)の姉妹が女衒・留五郎(浅野)に追はれ逃げる。ピンク映画前作「猥褻事件簿 舌ざはりの女」(1995/脚本・監督:出馬康成)では物静かなイケメンを演じた浅野潤一郎が、昨今ではそれが十八番らしく大衆演劇ばりの戯画的な悪党面でポップに怪演、所属事務所公認のファンサイトの好評も博してゐる。旦々舎作にて間男だけでなく色んなものに女房を寝取られた栗原良(a.k.a.リョウ・ジョージ川崎・相原涼二)が、眉間にギリギリと皺といふより最早溝を刻み込み、「どうしてかうなつたんだ」と闇雲に難渋に苦悩する様にやんややんやの喝采を送る当サイトとしては、非常にシンパシーを覚えるものでもある。閑話休題、三人の前に現れた恩福寺の庵主(若林)は、留五郎が支払つた二人?の代金の肩代りを宣言、姉妹を保護する。喜ぶ佳代と美代ではあつたが、二人に恩福寺を教へ先に逃げ込んでゐる筈の、ヨネ(簀巻から落ちる簪しか登場せず)を庵主は知らなかつた。とまれ、仏道の修行に入るや庵主は華麗に豹変、姉妹が親に売られた不遇の源を仏教の縁起思想を大胆不敵に正しく換骨奪胎、もとい援用しヤラせない女の業に直結。寺男・三吉(福天)と、懇ろな仲にもある代官(森羅)も交へ佳代と美代を陵辱する。
 配役残り、歴戦に培はれた渋味と絶妙な投入のタイミングとで起承転結の転部を綺麗に担ふ稲葉凌一は、入る者はゐても出て来る者が見当たらない、恩福寺に猜疑の目を向ける同心・杉蔵。正直時代劇には些かならず苦しい金子弘幸は、隠し金を貯め込んでゐるのではと噂される庄屋・畑中与兵衛。
 レイプゾンビ完結編がタイムラインを席巻する友松直之2013年第二作のお盆映画が、一年遅れで地元駅前ロマンに着弾。因みに藤原健一も愛染塾長も袖に、封切られたばかりの今年の新東宝新作は「セイレーンX」以来六年ぶり二度目となる城定秀夫ならぬ城定夫。オーピーと決裂した浜野佐知が古巣のエクセスに戻り、逆に山内大輔が大蔵電撃参戦となると、なかなかどうして。刻一刻と激動する情勢が、映画以前に面白い。再度閑話休題、不幸な女達の駆け込み寺は、檀家その他へのまぐはひ修行と称して要は性奴隷を養成する魔窟であつた。腰から下―のみ―を直撃する人を喰つた類型的な通俗ポルノグラフィーに、時代劇である以上当然でしかないのだが時代がかつた口跡がかつて観た覚えがないくらゐハマる、若林美保がキャリアハイを思はせる超絶のジャスト・フィット。女子力を“をなごぢから”と効果的に近古語訳した上で、ヤラせない女の、罪ではなくこゝでは業を、庵主が自己啓発セミナーよろしく絨毯爆撃するのは信頼するしないは兎も角安定の友松節。佳代に無理から尺八を吹かせながら、代官もエモーショナルに叫ぶ。「中年は、キモいか!」、「臭いか!」、「ウザいかーッ!」。ほかならぬ森羅万像が定立する、キモい臭いウザい中年三原則も出色。さうはいへ、一体何度目の同工異曲かといふ話ではある。修辞法に若干のマイナー・チェンジがありこそすれで完全に定型は出来上がつてゐるだけに、ライフ・テーマ乃至お家芸と捉へるのか、あるいは手癖と同義のマンネリズムと看做すのか、議論は大いに分かれるところなのでもあるまいか。ところが、杉蔵の登場に恩福寺の邪にせよ何にせよな安定感は揺らぎ始め、不審火の下手人に関して庵主と代官が食ひ違ふさりげなくも重要なツイストを経て、高を括つた油断は否めないともいへ予想外の方向から飛んで来た重たいストレートに、まんまとバットはヘシ折られた。エキセントリックな相貌にロジカルな本格を隠す友松直之にとつては造作ない作劇に過ぎないのかも知れないが、意外といつては失礼だが演者自身の熱量も相俟て、ヒロインの底深い、そして文字通りの愛憎あるいはこゝでこそ業が劇中世界を畳み込む、否呑み込んでしまふラストには強い衝撃を受けた。単なる持論の器に止(とど)まらず、純然たる一個の物語であることに潔くシャッポを脱いだ。断じて忘れてならないのは、お芝居だけでなくクッソエロい体の主演女優を擁し裸映画的にも充実。森羅万象と福天の、巨大な腹で結合部を自然に隠した緒川凛・あんそれぞれの騎乗位ショット二連撃はエクストリームに素晴らしい。よくよく考へてみると、最終的に実は代官の去就が宙ぶらりんのやうな気もするが、神も宿さぬ些末は気にするな。
 二度目のさうはいへ、それでも友松直之にはそろそろこゝいらで、平素のトモマツイズム縮めてマチズムを一切廃し、脚本を川村真一に渡すつもりで書いたガッチガチの正攻法を披露して貰ひたいところではある。何が望みなのかといふと、一遍城定秀夫との真正面からの撃ち合ひが観てみたいんだよね。

 一点苦言を呈しておかざるを得ないのが、美代が三吉に帯を引かれ、クルクル独楽のやうに回りながら身包み剥がれる大定番御馴染みのシークエンス。そこで美代が上げる悲鳴が、「いや~ん」といふのは激しく頂けない、そこは是が非とも「あ~れ~」であるべきではなからうか。それは単なる量産型娯楽映画のクリシェなどではない、営々と積もつた塵、もとい積み重ねられた伝統に対する敬意である。


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 「熱い吐息 股間のよだれ」(2001『痴漢電車 さはつてビックリ!』の2014年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:榎本敏郎/脚本:河本晃/企画:福俵満/撮影:中尾正人・田宮健彦/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/応援:堀禎一/助監督:菅沼隆・永井卓爾/協力:藤田功一・朝生賀子・大西裕・小泉剛・上野勉・田尻裕司・杉浦昭嘉・増田正吾・松江哲明・海野敦・藤江啓子/出演:麻田真夕・葉月螢・鈴木敦子・川瀬陽太・佐野和宏・十日市秀悦・あ子・小林節彦・いぐち武志・羅門ナカ・秦国雄・伊藤一平・藤川佳三)。出演者中、秦国雄以外のいぐち武志以降は本篇クレジットのみ。応援の前にポスター・スチールの元永斉。
 開け放たれた窓越しに―劇中七月五日となると、虫が入るぞ―目覚まし時計に起こされる足下を抜いて、若いのにくたびれ気味のサラリーマン・斎藤祐二(川瀬)が通勤電車に飛び込む。ドアの窓ガラスに川瀬陽太がペチャーとなつてタイトル・イン。因みに瑣末を突つ込んでおくと、ホームへと駆け上がる階段で祐二が擦れ違ふ降車客は、朝のラッシュ時の人間には見えない。
 一見ハイソな職業婦人・吉本明日香(麻田)に密着された祐二は、据膳的な風情についつい電車痴漢。男の夢中を看て取つた明日香は、祐二の財布を掏る。要は明日香はさういふ手口の、女スリだつた。一方熟練のスリ師・梅田昌義(佐野)はそんな仕事中の同業者から掏るも、追つて来た刑事・滝(小林)の気配を感じ、仕方なく明日香の財布は祐二のポケットに放り込む。その日の夜、祐二が帰宅すると、部屋には明日香が上がり込んでゐた。鮮やかなスリのクロスカウンターを誤解した明日香は、混乱と困惑し固辞する祐二を、仕事仲間として組まうとする。そこに祐二の同僚兼婚約者・松田由実子(葉月)から来宅する旨の電話が入り、明日香は本棚のハーモニカをくすね一旦退出する。
 若干前後するその他出演者、十日市秀悦は明日香がバイトするコンビニの脱サラ店長・谷岡信雄で、鈴木敦子がその浮気相手のギャル・山本ミキ。いぐち武志と伊藤一平は、川瀬マシーンの二仕事目、カチ込んだ街金の若い衆。あ子は明日香のヨイヨイの祖母・弥生、この人もスリ。悪いイケメンの秦国雄は、誰かさんの二股氏・三浦健太。ともに演出部の藤川佳三と羅門ナカ(=今岡信治)は、祐二以外に明日香に釣られる痴漢リーマン。あと冒頭の祐二が明日香とミーツする痴漢電車の車中に、よく判る形で杉浦昭嘉が見切れてゐる。
 キュートグレた珠玉の造形と、肩の薄さと腰の細さが堪らない麻田真夕に初見で心を射抜かれつつ長く再会を望んでゐた2001年榎本敏郎ピンク映画唯一作(薔薇族が一本先行)を、へべれけに改題された新版で再見。幾らピンク映画会社のすることとはいへ、台無し感は迸る。それは兎も角、大胆な映画的虚構の数々で展開を巧みに繋ぐと、正しく曇り時々雨のち晴れ。万事が然るべき納まり処に納まる、磐石にして爽やかなラスト・シーンに一時間強の尺を一直線。意外な女の裸比率の低さにも些かたりとて躓かせない、色褪せぬ恋愛映画の逸品。拗ねて毛布をヒッ被り、時にいふ“髪の毛まで芝居する”麻田真夕。エルボー気味に、佐野和宏が川瀬陽太の胸内ポケットにハーモニカを捻じ込むカットの超絶。久ッし振りに観たけど凄え、ザクッとフレーム・インする佐野の背中が凄え!量産型娯楽映画が数打つラックの中から叩き出した、度肝を抜かれるレベルの名場面の数々。十日市秀悦の「励まさないで呉れよう」、あ子の「あ・そ・こ」―断じてセクシャルな意味合ではない―と、脇を飾るキャラクターに至るまでハマッた名台詞を乱打する奇跡の配役。完璧なタイミングで投入される秦国雄の起用法も、濡れ場込みで地味に捨て難い。長い歴史を通して辿り着いた、キラキラと輝く名作痴漢電車。今作のプリントが薄くでもなく汚れたこのクソ世界に残された、僅少な宝石のひとつであることを俺は信じて疑はない。


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 「濡れる秘書室 淫らな匂ひ」(1993『いんらん秘書 スペシャルONANIE』の2000年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:山崎邦紀/脚本:的場千世/撮影:田中譲二・松本治樹・若杉恵吾/照明:秋山和夫・永井日出男/音楽:薮中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斎藤秀子/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:田中虹子・四谷桃子・麻美・杉本まこと・久須美欽一・平賀勘一・山本竜二)。脚本の的場千世といふのも浜野佐知の変名(その場合は的場ちせ)ではなく、山邦紀自身。
 颯爽と歩くハイヒールの足下に続き、闊歩する主演女優の全身を抜いて手短にタイトル・イン。秘書付きレンタルオフィス「CITY OFFICE CENTER」の秘書・栗木か栗城素子(田中)がカチャカチャ馬鹿デカいOA機器を叩く姿に、「CITY OFFICE CENTER」に事務所を構へる使用済み下着通販業者・江端か江幡か江畑(久須美)は複雑な視線を送る。“あの夜のことは夢だつたんですか?”、素子は江端の商品の仕込みに、わざわざオッパイまで見せONANIEを披露、下着を美しく汚す。男子たるもの当然点火、「これ以上は秘書の仕事ぢやありませんよ」―とつくの既に秘書の仕事ぢやねえよ―と拒みつつも、なし崩し的に素子と事に及んだ一夜を、江端は忘れられないでゐた。江端以外に、ヌードモデル斡旋業者・田屋か田谷か田家か以下省略(平賀)も利用する共同事務所である「CITY OFFICE CENTER」に、妙にしつかりした出来のチラシを見た出版業との藤原(杉本)が照会の電話をかけて来る。堅気の顧客を得られるのではと、素子は交代で勤務する佐久間ヨウコ(四谷)と期待する。
 配役残り、いはゆるワンレンボディコンが今となつては懐かしいといへば懐かしい麻美は、田屋の面接を受け、葱を背負はされる鴨・ヒロミ。髪に白を入れた山本竜二は、契約外を個人的にお手伝ひといふ形で素子が藤原の会席に同行する、大企業の会長・君塚、如何にもお偉いさんぽい苗字ではある。
 山邦紀1993年、水元はじめ名義による大蔵第一作と薔薇族(山崎邦紀名義の矢張り大蔵)挿んで第四作。「DMM荒野篇」が初戦にして木端微塵に粉砕されたのも今となつては甘酸つぱい思ひ出といふことに誤魔化してしまふとして、通算では第五作。兼現状、観戦可能な山邦紀の最も古い映画に当たる。因みに次作が、“子供でも動物でも、動くものなら何でも犯した”甲斐太郎がエポック・メイキングにしてリミット・ブレイクにカッコいい獣欲魔、確かに獣欲の魔物だ。話を戻すと、器用に曲者揃ひの秘書付き共同事務所を舞台に巻き起こるチン騒動。ここは旦々舎の性格上マン騒動といふべきなのかも知れないが、それではレトリックが成立しない。一件をヒロインが主導する女性上位の力技で無理から収束させる辺りは如何にも旦々舎らしいともいへ、藤原にせよ江端にせよ田屋にせよ世間一般的にポップな好色漢に過ぎず、正体不明の魑魅魍魎が愉快奇怪に蠢動する、十八番の変態博覧会が開催される訳ではない。田中虹子が肢体込みで正統派の美人過ぎたことが逆に禍したのか、絡みも比較的にでもなく素直で、思ひのほか標準的なピンク映画に近い。最もエモーションが動くのは、素子の華麗なる男供三連撃の三打目。序盤はそれはそれとしてそれなりに純な江端の素子への下心を物語の軸に据ゑるのかと思はせて、藤原と田屋に押し退けられ江端は暫し退場。脛に傷持つ藤原と田屋だけでなく、江端までもが朝の挨拶のクロスカウンターに頬を張られた瞬間には、完全に江幡に感情移入して即時同衝撃に驚いた。このある意味見事な件、展開の流れとしては明後日な暴投ゆゑ、情けない受けの芝居に長けた久須美欽一に負ふところがより大きかつたのではなからうか。「そんなあ」といふ泣き言を上げさせれば、多分日本一だ。


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 「不倫旅行 一晩に三人と」(2004『小説家の情事2 不倫旅行』の2007年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:河本晃/企画:福俵満/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:若宮弥咲・里見瑤子・麻白・久保新二・岡田智宏)。
 執筆の山篭りと称して家を出る作家の浜野耕二(久保)に、不倫旅行を疑ふ妻・町子(若宮)が追ひ縋り、往来も憚らず長々と回す痴話喧嘩。案の定、駅―但しロケーション的には、到着先のJR東日本中央本線塩山駅―でアサミ(麻白)と落ち合つた浜野は、小娘に振り回されつつも一路温泉地を目指す。一方、御馴染み水上荘では、女将の多佳子(里見)がイケメン板前の健一(岡田)を喰ふ形の初濡れ場。結局至らないものの、多佳子の菊穴舐めに健一が生まれて来る生まれて来ると盛り上がるのは、一体何が生まれて来るといふのか。事後、庭を掃除する多佳子は宿を訪ねた旧知の浜野、ではなく連れのアサミを見た瞬間表情を一変。健一に一方的に仮病を言ひ包めると、客の相手も放棄し引つ込んでしまふ。部屋に入るなりヤリたい浜野をかはし、アサミはひとまづ一風呂。待ち惚けを喰はされた格好の浜野の携帯が、道子からの電話を着弾。無視を決め込み庭でも眺めてみた浜野は驚く、疑り深い町子が遥々押しかけて来てゐたのだ。文字通り、水上荘に役者は揃つた。
 これぞ終幕の魔術師の真骨頂、深町章2004年第一作。好色男が傍らの女房の目を掻い潜り、浮気相手と、あはよくば女将とも虻蜂取る情事を目論む。ひとつめの大技でふたつめの、伏線だけは先に蒔いたより大きな荒業を中和すると、マッタリモッサリした始終をジェット・ストリーム・アタックでそして誰もゐなくなつた結末に丸め込む。オーソドックスな攻防に終始し、フィニッシュは絶妙なクラッチ技で決まるベテラン同士のプロレス第三試合にも似た、工芸的な一品。鍵を握る妙手中の妙手は、浜野の描いた絵図には違(たが)へ、昼間の内にオッ始まる若宮弥咲V.S.岡田智宏戦。ところで浜野の丹前と浴衣は誰が何故隠したのか?フルチンでフラフラする久保チンの滑稽さに免じて、然様な瑣末はさて措くべきだ。
 備忘録< 元々百合を咲かせてゐた多佳子とアサミ、瓢箪から駒が出た町子と健一が各々出奔。久保チンは水上荘ひとりぼつちに


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 「人妻 渇いた舌先」(2003/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:野口素胖/助監督:中村拓/編集:《有》フィルムクラフト/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/スチール:佐藤初太郎/音楽:ザ・リハビリテーションズ/撮影助手:小山田勝治・海津真也/照明助手:小綿照夫/監督助手:仲畑祐一/現像:東映ラボ・テック/タイトル:ハセガワタイトル/協力:グランド・ヴィュー・一宮、山崎すず/出演:酒井あずさ・ゆき・東カケル・竹本泰志・岡田謙一郎・中村拓・町田政則)。
 風の強い外房、ペンションの雇はれ管理人・三浦勇一(町田)が完璧に整つた釣り支度で出撃、ホテホテ海まで歩いてタイトル・イン。砂浜から釣糸を投げる三浦は、小憎らしい借金取り・山崎勳(中村)を衝動的に必殺の殺人スリーパーで首をヘシ折り殺害した過去を想起する。そこに、「釣れた?」と酒井あずさが。三浦は海岸にて記憶を失つた状態の酒井あずさを発見、前科持ちにつき警察沙汰を忌避するだとか説得力を欠いた方便で、以来生活を共にしてゐた、無論男女の仲にもある。酒井あずさは夫と息子に晩御飯を用意してゐる最中に、家内の異変に慄く悪夢に度々苛まれつつ、三浦とそれなりに平穏な暮らしを送る。そんな中、雨の夜に山田太郎と花子だなどと、偽名であることを最早憚りもしない竹本泰志とゆきがペンションに無理矢理上がり込む。ともあれチェックアウト時、忘れ物を取りに行かせ三浦を引き離した隙に、山田は酒井あずさに「全て予定通りらしいな、ユキ」と含みを持たせ倒した一言を残す。
 残りの配役を纏めて片付けると、岡田謙一郎は、ユキとコールガール・レイコ(東)とキメキメの巴戦を戦ふ、凶悪で好色な外務大臣・若林正憲。核心―の半分―を明らかにする件に飛び込ませる三番手絡み要員の起用法は、確かにクレバーではある、あるいは僅かに。
 関根和美2003年第三作、漏れてゐた近作―といつても十年以上前だが―をDMMで落穂拾ひ。してみたところが、m@stervision大哥が呆れ果ててをられるのも無理からぬ、全篇にツッコミ処の鏤められたネガティブな問題作。無造作な回想で時制がガタガタに粉砕され、観るなり見てゐて無駄に振り回されるのは正しく序の口。記憶を失くした状態で発見された―しかも海辺で―女は何某かのミッションを帯びてゐたらしく、女の正体を知る謎の悪漢が女と女を助けた男の前に現れる。といふとレニー・ハーリンの最高傑作にして、世界一タイトルのカッコいい映画“LKGN”こと「ロング・キス・グッドナイト」と大体似たやうな物語とはいへ、結局ユキと、行楽帰りの交通事故で夫と息子を喪ひながら、只一人生き残つた外務省事務次官夫人・小平幸子との間に拡がる巨大な溝は、清々しいまでに埋められることなく放置される。どころか、これではそもそも思はせぶりに蒸し返されるナイトメアの意味が全く判らない。関根和美は天才過ぎて、人類の知能では理解能はぬ映画を撮つたにさうゐない、嘘だけど。確かに細部に神ではないにせよ本質を宿したのか、逐一ディテールの数々もまるで間違ひ探しの様相を呈する。三浦が取り出す元妻(亜希いずみ)のスナップ写真の裏には“1999年3月 方南公園にて”と書かれてあり、同時に三浦は酒井あずさにはム所帰りでこの土地に来て四年と語る。となると何か、“崖つ縁で見放して消えた”とかいふ元妻の写真は出所後の見放される寸前に撮つたのか、意外と劇中現在は2003年当時の近未来?押しかけておいて早速オッ始めた山田と花子に対抗し、三浦と酒井あずさも応戦する。といふ濡れ場のクロスカウンターはいいとして、カメラが二部屋を往き来する間に三浦と酒井あずさの居室が変つてゐる。山田と花子に用意した朝食に、三浦と酒井あずさも同席。ペンションといふ業態ではそのやうなことが認められ得るのか出不精につきよく判らない一幕では、リップシンクが綺麗にへべれけ。山田がユキを監禁した物置に三浦は正体不明の探査能力で自動的に辿り着き、酒井あずさが問題の鞄をぞんざいに始末するに際しては、酒井あずさと三浦が居る位置の標高が大胆に上下移動する。関根和美はフリーダム過ぎて、通常の文法なり蓋然性の枠内には納まりきらない映画を撮つたにさうゐない、与太だけど。大御大・小林悟のドライな破壊力とも今上御大・小川欽也の穏やかな無頓着とも全く性質を異にする、関根和美のプリミティブな衝撃。かういふ映画を見てゐると、同じルーチン枠に一括られるとはいへ、ああ見えて新田栄は技術的には相当高いレベルにあるのではなからうかとすら思へて来る、実際実は上手いのかも知れないが。

 今作殆ど唯一の収穫は、下元哲が監督作でよく使ふ海の近い十二階建ての建物の物件名「グランド・ヴィュー・一宮」が判明したこと。マンションとばかり思つてゐたが、コンドミニアムだつたんだ。


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 「道具責め ONANIEナース」(1994/製作:旦々舎?/配給:大蔵映画/監督:水元はじめ/脚本:秋津瑛/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・永井日出雄/編集:㈲フィルム・クラフト/効果:時田滋/助監督:広瀬寛巳/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:森山美麗・哀川うらら・璃緒奈・太田始・樹かず・荒木太郎)。
 ドギツい大書が扇情的なタイトル開巻、新宿の人混みの中一人場違ひな看護婦・秋島鳥湖(森山)がポケベルを被弾、電話ボックスに入る。小刻みな暗転で繋ぐ、この時期既に一流のイントロダクション。ガスか電気か水道かまでは判らない検針員の桑原(荒木)が、女のワレメに似た木の幹の割れ目に吸ひ寄せられる。女子高に勤務する国語教師(太田)は八百屋の店先で立ち尽くすと、大根×胡瓜×茄子、ガチョーンガチョーンガチョーンとカメラが寄るトリプルズームで心を奪はれる、実にプリミティブなカメラワークではある。井伊(哀川)はテレクラに狂ひ、ナツミ(璃緒奈)はモテモテのカラオケ店長の彼氏(樹)の勃ちの悪さに無造作な難色を示す。鳥湖の実家に残した家族との電話と、公開題の後段を忠実に実行する―前段を担当するのは桑原―ONANIEを噛ませて、一体何を仕出かしたのか公衆電話で女に平謝りする桑原は、後述する突飛な方法で連絡先を入手。自宅に呼んだ、某財団から派遣される訪問ナースである鳥湖に、観音様の拡張マニアであるがなかなか受け容れられないといふ悩みを打ち明ける。
 前作「獣欲魔 ちぎれた報酬」から年を跨いで、水元はじめ名義による山邦紀ピンク映画大蔵第三作。山邦紀は本名に戻す―それでも当初は山崎邦紀名義―まで水元はじめ名義で四作を発表してゐるとのことだが、残念ながらDMMの中には第二・第三二作しか入つてゐない。太田先生宅では“ストリップ紛ひのことはしたくない”といつておいて、桑原から即金で受け取る謝礼の三万円といふ絶妙な額まで含め灰色ですらなく出張風俗嬢と変りない訪問ナースが、各種の特殊性癖者を癒し渡り歩く。旦々舎作に特徴的なヒロインの漂泊性も踏まへた上で、奇怪にして愉快な変態がワラワラ湧く博覧は、山邦紀真骨頂の感にひとまづ堪へない。訪問ナースのチラシ付きバイブレーターが、空から降つて来るはジュースの代りに自販機が吐き出すは運転の止まつたコインランドリーの中から出て来るはと、想像力溢れるファンタスティックも楽しい。尤も、しつかりとした骨組みと豊かな枝葉には反し、全体的な構成は然程でもなく堅牢ではない。拡張させた女陰の内部を覗き込み自慰をオッ始めた桑原を、鳥湖は「拡張の趣味が悪いんぢやないの、オナニーしか出来ないのが問題なのよ」と叱責する、いや拡張自体にも問題がなくはないだろ。同好の女を探すとか素直に憑き物を落とす桑原の姿には、馬鹿正直にポジティブ過ぎる印象も禁じ得ない。容易く矯正されなどしない強固な屈折が俳優部としての荒木太郎の持ち味で、そもそも、曲がつたものは曲がつたままで生きる。それもひとつの“真直ぐな生き方”とはいへまいか、俺はさう思ふ。拍子の外れる桑原戦を経て、太田先生パートが唯一始終を十全に振り抜く最高潮。この御仁はこの御仁で、野菜を挿入した女性性器を前にせんずりで自己完結する太田先生に対し、鳥湖が野菜コンプレックスを看破するのは異才山邦紀流石の奇想。促され通常の性行為に漕ぎつけた太田先生が、“僕はこれで野菜達と兄弟に”と感激するのも振るつてゐる。野菜と兄弟!野菜の性別なんて考へたこともない。昨今の、たとへば文房具同士のセックスを描くカッ飛んだ同人誌の、完全に先を行つてゐる。そこまでは、いいとして。太田始がビリングに疑問を呈する大活躍を見せた後(のち)に、劇中トリで鳥湖のお世話になる樹かずが、ナツキ経由で治療するといふ変則的なアプローチは出色といへるものの、要は底の抜けたナツキを持て余しての単なる一時的な不能に過ぎないといふのは逆の意味で感動的な失速。再起動した断続暗転で、ONANIE中の鳥湖に銘々が礼を述べるラストに際しても、結局最後まで正方向に転んでみせないどころか寧ろ拗らせた、太田先生が一人気を吐く。
 と、消化不良気味に本篇を満了したところで、実はなほも五分尺を余す。残りを延々鳥湖のONANIE・トリコナニーで突つ切るのは大胆といふか大概な力技ともいへ、これが濡れ場として十二分以上に充実してゐるだけに、不発の劇映画を裸映画がすんでで救済した風情は感興深い。

 最後に、クレジットの中に薮中博章の名前がないことに軽く驚きかけつつ、よくよく思ひ返してみると、今作画の背景に流れるのは汽笛を筆頭に効果音のみで、いはゆる劇伴を使用してゐない。


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 「愛する貴方の目の前で… 女教師と教へ子」(2014/制作・販売・著作:アタッカーズ/脚本・監督:清水大敬/撮影:立川良明/照明:春野おがわ/音声:吉永健次/V・E:橋山元信/音楽:花椿桜子/美術:劇団ザ・スラップスティック/衣装:Miki衣装レンタル/編集:清水大敬/パッケージ:上野光政/現場スチール:山谷徹也/メイク:青木真由美・山口裕子/助監督:関谷和志/撮影助手:広瀬忠則/照明助手:尾木矢萩/演出助手:西山秀樹・及川恒二/制作:清水大敬・星野周平・野上裕/主題歌:『カーブ』作詞・作曲・編曲:後藤冬樹 歌:小滝みい菜《Milky Pop Generation》/出演:香西咲・京野結衣・小滝みい菜・倖田李梨・角田清美・扇まや・本田裕子・末田スエ子・桶狭間洋子・空想科学少女・桜餅まき・衣緒菜・杉本まこと・清水大敬・山科薫・村野武満・本町太郎・三鷹進之助・中村勝則・土門丈・生方哲・平田浩二・周磨ッ波・松島出版・鎌田金太郎・中江大珍・村上雅宣・井波量善・鷹取尚志・三浦誠・印南俊明・東京JOE・谷口正浩・鷹羽和利・スマイル坂井・竹本隆穂・凸凹太吉・山地拓男・上田馬之助・越井引っ越し・山本小鉄・浅之内匠守・岩沢ロック・Maika・北条麻妃《特別出演》/友情出演:大槻ひびき・藤北彩香・森川ななせ・住田みく)。制作・販売・著作のアタッカーズはパッケージのみで、本篇クレジットにはない。ビリング正確には、衣緒菜と杉本まことの間に友情出演四人が入る。
 前年クリスマスに公開されたデジタル・エクセス第二弾「女教師と教へ子 ‐罪名、婦女暴行なり‐」の、年を跨いで約二週間後にリリースされたアタッカーズAV版。「罪名、婦女暴行なり」を観た一週間以内には―駅前ロマンの―近所のAV屋でDVDを購入してゐたのだが、手許に置いてしまふと案外見ないもんだな。因みに清水大敬がアタッカーズから監督作を発表するのは、沙羅樹主演作以来七年ぶり。順々に片付けて行くと、エクセス版で気になつた濡れ場の最中のジャンプ気味の編集は、矢張りAV水準の画の回避。直截にいふと、棹なり玉が映り込むなどピンク映画ではあり得ないといふ寸法、薔薇族の仁義は知らん。細かな繋ぎの一幕の有無に関しては、エクセス版にあつてアタッカーズ版にはないもの、逆にアタッカーズ版にあつてエクセス版にはないもの双方見られる。その中で地味に重要でなくもないのは、ヒロイン一行が最初に山崎編集長を訪ねた際の、エクセス版にはない玄関まで見送られるカット。ここで武男が山崎が先輩である情報を投げる、エクセス版ではその前段の、“大学で一緒だつた君”としか触れられない。野村貴浩と、依然不明な山崎編集長役(ビリング推定だと角田清美?)が同級生には見えぬと訝しんだ所以で、そもそも先輩を捕まへて“君”呼ばはりはイカンぢやろ。エクセス版とアタッカーズ版の正しく最大の相違は、武男が深夜の企画会議に呼び出され出勤してからの、咲が自宅で強姦される件が丸々エクセス版には存在しないこと。逆に、擬似である咲と武男の夫婦生活が、アタッカーズ版に含まれてゐないのは興味深い。エクセス版とアタッカーズ版とで異なるエンディングは、要はどちらが仕出かすかといふだけで、アタッカーズ版では何故そこにそんなものがあるのか爆発的に可笑しいミラーボールと、得物の入手経路が一応描かれてある以外に決定的な差異がある訳でもない。アタッカーズ版のみの、普通にメジャー水準の出来栄えの小滝みい菜の主題歌には驚かされた。初見の名前にググッてみたところ、所属アーティストは全てAV女優の新しい音楽レーベルとのMPGだが、オジサン耳から鱗が落ちた。

 最後に、大槻ひびきを筆頭に友情出演勢は、矢張り妙にハイレベルなその他女生徒要員。もうひとつ残る問題は、エクセス版とアタッカーズ版とで結構別物のクレジット。野村貴浩と久保田泰也と津田篤の変名が村野武満と本町太郎と三鷹進之助の何れかなのか、それとも完全に端折つてゐるのか?


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 「連れ込み妻 夫よりも…激しく、淫靡に。」(2014/制作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督・脚本・編集:工藤雅典/企画:亀井戸粋人/プロデューサー:秋山兼定/撮影:井上明夫/照明:小川満/録音・整音:亀井耶馬人/音楽:たつのすけ/助監督:鈴木元/監督助手:森克行/照明応援:広瀬寛巳/出演:江波りゅう・酒井あずさ・倉持結愛・那波隆史・飯島大介・中山峻・津田篤・森羅万象・深澤和明)。
 おお、エクセス新ロゴだ!後述する小癪なタイトル開巻。
 雑巾がけするローライズの女、映画監督の健一(劇中一切触れられない苗字は判らん/那波隆史)は、越して来たばかりの侘しい新居を片付ける元女優の妻・弥生(江波)を残し仕事に出る。仕事場に向かふ健一の姿に、森羅万象が見るから悪いイイ顔で目を留める。健一が向かつた先は、黒崎康治(中山)が社長のAV制作プロダクション。借金の形に専属契約を交した倉田沙織(倉持)を、カメラテストと称して健一はザクザク陵辱、津田篤がカメラを回す。津田篤の役名も不明、一度だけ呼称されるが小屋の音響以上だか以下に録音が悪く、少しでも明瞭でない台詞は悉く聞こえない。その頃健一宅を、資金ショートで頓挫した健一の映画の撮影部チーフ・加瀬耕助(森羅)が未払ひのギャラを寄こせと急襲、如何にヤサを見つけだしたのかは清々しく語られない。加瀬は専業主婦の弥生に仕事を勧め、自身が雇はれ店長のPUB―正確にはオッパブ―「ミルキー」の名刺を置いていく。そんなある日、健一が顔を出すと黒崎のプロダクションは大騒ぎに。ボディガード(深澤)を引き連れた業界の顔役・坂口(飯島)が、多分本妻ではなく愛人・マサエ(酒井)主演のプライベート・ビデオをしかも自らの監督で撮影に来たといふのだ。健一と津田篤だけでなく黒埼まで男優に駆り出され、坂口一人がノリノリの事務所兼スタジオ。素人監督にへべれけの現場と飯島大介の組み合はせといふと、想起せざるを得ないのはかつてm@stervision大哥にピンク映画界のエド・ウッドと讃へられた―讃へたのか?―伝説の名ならぬ迷匠・関良平。一方、「ミルキー」に赴き面接を受けるも、加瀬に犯されかけ金的で撃退し退散した弥生は、ホステス募集の貼紙に惹かれマサエがママを務める「ステージ・ドアー」の門を叩く。
 「夏の愛人 おいしい男の作り方」(2011/主演:星野あかり)以来、気がつけば何時の間にか随分久し振りとなる工藤雅典の新作は、先行する二本清水大敬に続くデジタル・エクセス第三弾。京都七条のピンク映画館「本町館」に工藤雅典が寄せたコメントによると、エクセスからの注文は二つ。①フィルムではなくデジタルで撮る事と、②“映画”を撮る事。その上で機材を触つた工藤雅典は“デジタルでもフィルムと遜色のない画作りができる事も確認”と自信を見せてゐる、けれど。フィルムどころか、オーピーのデジタル撮影の水準は未だ公開されてゐないのだから当然知らない上で、今時の新東宝作と比べても遜色ある画はそれ以前に、激しくだか甚だしく安い同録が気分的にどうにもかうにも映画に見せず、せめて構図くらゐは凝つてみせるショットひとつある訳でもない。弥生を奪還した健一と、マサエは津田篤がカッ浚ふ濡れ場が併走する中、扇の要で拘束された坂口が地団太を踏み、やがて自由になつた左手でマスをかき始めるカットは、猪突猛進といふ単語が異常に相応しい飯島大介の突進力で爆発的に可笑しいが。相関関係が繋がるのが関の山の物語はスケール感・深み・盛り上がり何もかも欠き、自ら編集を手掛けておきながら、雑なり不用意な繋ぎが散見されるのは一層考へもの。選りにも選つて主人公夫妻の夫婦生活の導入に最も顕著な、等閑なシークエンスと全方位から飛んで来る陳腐な台詞とにフラストレーションが積もり積もつた挙句に、深澤和明必殺のへt、もとい下手投げを被弾しつつ、九死に一生を得る件であまりのダサさに遂に工藤雅典がグルッと一周した。後藤大輔と同じく日活生え抜きのキャリアを持ち、デジタル化改装後のシネロマン池袋の杮落しに本作が選ばれたことからも、今なほ、あるいはこの期に及んでエクセスに重用される気配の窺へる工藤雅典は、終にグルッと一周した。面白くなさ過ぎぶりが面白い、色んな意味で衝撃的な問題作。幸にもその憂は免れたものの、もしも仮に万が一小生が工藤雅典のファンであつたならば、観るのは観たにせよこの映画の話はしたくない。
 先に挙げた「本町館」に寄せたコメントの中で、工藤雅典は三本柱についても触れてゐる。江波りゅうを主演に起用した理由に関して、とあるAVで見た“妖艶で鮮烈なカラミ”が強く印象に残つたからだと述べてゐる。AVまでとてもではないが手が回らぬゆゑ江波りゅうの実力は存じ上げないが、少なくとも今回工藤雅典が撮つた絡みは、妖艶でなければ鮮烈でもない。酒井あずさがゴージャスな女を演じさせたら鉄板女優といふのは全く以てその通りとして、倉持結愛を“清純であどけない表情と、熟れた淫らな肉体を合はせ持つ少女”(原文は珍仮名)と評してゐる。因みに倉持結愛は倉持結愛でムチムチさが堪らないいはゆるロリ巨乳のカテゴリーに属し、成熟した大人の女のプロポーションには些かでもなく遠い。個人的には藍山みなみカスタムといふ印象を受け、あれよあれよと無理矢理AVを撮影される最初の見せ場には、低劣で即物的な嗜虐心を大いに刺激された。但し、だからといつて観客が一切知らない間に津田篤とイイ仲になつてゐたりなんかするぞんざいな去就が、免罪される相談ではない。そもそも、男優部に刀を返すと脇を固める強面役に深澤和明を据ゑる脇の甘さが、何をかいはんやといふ話である。それをいつては元も子もないのかも知れないが、実際なかつた。

 タイトル画面とクレジットには縦に傷が流れるフィルム風味の処理が施され、オーラスには映写機がカラカラ回るSE。これが、工藤雅典の提示する“映画”なのか?

 以下はデジタル化した前田有楽にて再見した上での付記< デジエクに抜群の強さを発揮する新生有楽で観てみたところ、確かに画は綺麗で、同録も俳優部が明瞭に発声さへしてゐれば問題なく聞こえる。ただだからといつて、それはあくまでそこまで、あるいはそれだけの話。津田篤の役名はタクヤ、ボディガードは多分タキモト。


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