真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「白衣 制服のうづき」(1997『白衣いんらん日記 濡れたまゝ二度、三度』の2010年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:女池充/脚本:小林政広/企画:福俵満/撮影:鈴木一博/照明:安部力/録音:小南鈴之介/編集:金子尚樹《J.S.E.》・三上えつ子/音楽:安田治・小豆沢達郎/助監督:坂本礼/監督助手:森本修一/撮影助手:松根広隆・澤井貴善/録音助手:五十嵐廣幸/照明助手:小林昌宏/照明応援:内山信夫・藤本淳/スチール:佐藤初太郎/タイミング:安斎公一/タイトル:道川昭/録音スタジオ:シネマンブレイン/現像:東映化学/光学:港リーレコセンター/応援:今岡信治・田尻裕司・榎本敏郎・小泉剛・島田剛・島田カブ・星川隆宣・吉田昌史/キャスティング協力:綿引近人/協力:石川二郎・大野泰生・岡村直子・鈴木佐和子・アロハカーレンタル・獅子プロダクション・フィルムクラフト・いなげ浜のみなさん・女池陽子・女池克弥/制作協力:岩田治樹・サトウトシキ・上野俊哉・朝倉大介・アウトキャストプロデュース・モンキータウンプロダクション/出演:吉岡まり子・寺十吾・本多菊雄・河名麻衣・槇原めぐみ・松原正隆・羅門ナカ・野上正義)。撮影助手に力尽きる。出演者中、今岡信治の役者名義である羅門ナカは本篇クレジットのみ。
 足の悪い看護婦、近藤アケミ(吉岡)が足を引き摺りながら一人暮らしのアパートにほてほて帰宅。まだ新米のアケミは勤務は日勤のみで、病院の食堂で安く食事も摂れたが、コンビニで簡単な惣菜を買ひ部屋で一人食べるのが、特に理由もないアケミの日課だつた。すると隣室から、住人のトシコ(河名)と不倫相手との、壁の薄さも憚らぬ情事の様子が洩れ聞こえて来る。女の嬌声を嫌悪するアケミは、足の不自由も押し屋外へと退避する。この時点では互ひに知らなかつたが、トシコお相手の男は、実はアケミが勤務する病院の医師・久保(本多)であつた。多摩川にかゝる二子橋(新旧の別までは不明)の上でアケミを、ガンマイクを自らの足下に向け人物の走行音を録音する若い男が追ひ抜いて行く。そのまゝ欄干から危なかしく身を乗り出し今度は河の流水音を録音しようとする男の姿に、アケミはキョトンとした視線を送る。翌日、久保の指示でぼちぼち麻酔が切れる急患患者の下に赴いたアケミは驚く、患者は昨晩のガンマイクを持つた若い男・川村邦夫(寺十)であつたのだ。痛がる川村の脚をさすつたアケミは自分は魔法使ひだとおどけてみせ、何となく心を開く。川村は映画の録音技師で、結局その後、橋から落ちたとのこと。機材はどうしたのかといふ疑問は劇中さて措いたまゝに、アケミはそれで死ななかつたのに二度驚く。
 槇原めぐみは、アケミの同僚でオッパイの大きなサトコ。松原正隆は、アケミ・サトコと久保がW海水浴デートと洒落込む際のもう一人の男。セダンの久保に対し、軽自動車に乗つてゐたりする対比が判り易い、久保の後輩か。変にラフな格好の羅門ナカは、派手に卓袱台を引つ繰り返すオーラスに登場する、今岡組のカントク。監督助手の森本修一が、ここでは助監督として登場。野上正義は、高校時代にアケミを犯さうとした多分実父。逃げる際に階段から落ち、折つた足を二週間我慢してゐたのが足を悪くしたのと、アケミが性を忌避する原因であつた。
 特に材料も持ち合はせぬゆゑ通り過ぎるが、女池充のデビュー作である。妙な情報量に概ね寄り切られたクレジットには、それらしき名前がズラズラッと並ぶ。最大限によくいへばロマンティックな、気恥づかしい窓辺の逢瀬が擦れ違つて以降が豪快かつ作為的に木端微塵で、いはゆる“衝撃のラスト”に関しても、驚きより先に、グダグダした困惑が先に立つ。ディテールであるがそもそも、ピンクで同録は基本的にしないだらう。無闇に拡げられた風呂敷は十全に片付けられるでもまるでなく、落とした木戸銭を盾に、作劇としては世辞にも首を縦に振れる筋合にはない。尤も、面白いのか否かといふと直截に詰まらないのだが、これで意外と、後の仕事ぶりと照らし合はせれば女の裸はキチンと見せてゐる。美形の河名麻衣に、アグレッシブな乳の大きさが堪らない槇原めぐみ。終始ボソボソと一歩間違へば陰鬱なほどに地味な造形が、狂ほしく琴線に触れるアケミ演ずる吉岡まり子の、たをやかな母性を感じさせる腰から尻にかけてのラインは、これがまた超絶に素晴らしい。濡れ場は何れも余計な意匠が施されることもなく実直に捉えへられてあり、裸の劇映画としてはまるで買へないが、女の裸が主眼の裸映画としては、若気が至つた展開に足を引かれさへしなければ、案外戦へなくもない一作である。

 音楽の富に素直に従つた作劇が志向してあれば、商業映画的な雌雄はまた違つたものとなつてゐたやうな気もするエモーショナルなオープニング・テーマが、音楽担当の二者のうち、何れの手によるものかも不明。それと、別に構はないが看板を幾らか偽り、劇中白衣プレイが行はれる訳では別にない。


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 「和服巨乳妻 不倫・淫乱・悶絶」(1998/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:稲山悌二《エクセス》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/メイク:馬場一美/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:弁田一郎/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:小島翠・田口あゆみ・林由美香・杉本まこと・尾崎和宏・久須美欽一)。脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 和服の前を完全に肌蹴た巨乳妻の、爆裂する自慰にて豪然と開巻、何はともあれといはんばかりのビート感が実に清々しい。
  最初のカットがプールのミサトニックな洋館は、資産家の石川悠三(久須美)邸。五年前に交通事故で前妻―遺影さへ登場しない―と下半身の自由を男性機能ごと喪つた石川は、実家工場への支援を盾に、先刻の巨乳妻・加奈子(小島)と再婚。夫が不能ゆゑ独り遊びに溺れる次第といふ、何気ない論理性が慎ましやかに光る。しかも猛烈に女の裸を見せる、ピンク映画とは、かくあるべきではなからうか。話を戻して、夫を車椅子に乗せ河原をお散歩。寂しげな石川が、抱いてやれない妻に浮気すら許容したその日、加奈子は家を訪ねて来た、都市銀行地方支店支店長代理として単身赴任中のかつての同僚・金井伸吾(杉本)と再会する。早速翌日、石川には着付け教室に向かふと称して外出した加奈子は、田舎住まひを嫌ひ残して来た、上司の娘でもある妻・直美(林)とは心を擦れ違はせる金井と密会、トーマス・マックナイトのポスターが貼られた金井自室で逢瀬を重ねる。公認直後の加奈子の翻心にも呆れるが、タップリとしたボリュームの金井との絡みを経た中盤、映画は本格的に壊れ始める。何時の間にか夜も更け遅くに帰宅した加奈子を、石川は不貞を疑ひ手篭めにでもするかのやうに激しく責める。舌の根も乾かぬ内に、とは正しくこのことだ。とはいへ自身は勃たないので、淫具を持ち出したそれはそれとして派手な見せ場を通過すると、今度はへべれけな繋ぎでいきなり一夜明けた直美の朝、時制のジャンプ具合が半端ない。昨晩豪遊し二日酔ひ状態の直美の傍らには、ホストクラブから持ち帰つた木村良平(尾崎)が。ここで見慣れない名前、かつ然程仕事をした形跡も見当たらない尾崎和宏は、簡単に譬へると少しだけ男前にした西村博之。要は八十年代の残滓を引き摺る、微妙なハンサムである。
 無闇に盛り沢山の濡れ場の合間を、僅かな僅かなドラマ・パートが曲芸のやうにすり抜けて行く様はある意味スリリングといへなくもないものの、直截に片づけてしまへば、水が流れるが如く展開は一応滞りなく進行する反面、物語本体も明後日から一昨日へと流れ消え去るやうな一作である。唐突感が煌く直美with間男登場後、今度は石川から資金の援助も受けるバーのママ・吹田礼子(田口)が電話越しにリング・イン。“いゝ男と歩いてゐた”、とプリミティブに加奈子の金井との不義を密告する礼子に対し、石川は改装資金を出汁に調査を依頼。即座に二人連れ添ふ加奈子と金井を尾行した礼子は写真も激写、更にそれを東京の直美にも送る。この際礼子の妙な名探偵ぶりを称へるべきなのか、それとも田舎町の狭さを嘆くところなのか。そこまでの礼子の活躍は、新田栄が実は秘かに誇る語り口の速さの中に含めて済ませられなくもないとして、ここから先の終盤に荒れ狂ふ無造作ないゝ加減さは、寧ろいつそシュールの領域にすら突入しかねない。ハニー・トラップを命ぜられた礼子は、酔はせた金井を首尾よく寝取る、全く以て有能な女だ。それはさて措きその現場にのこのこ鉢合はせさせられるべく、加奈子は金井の部屋へと向かふ。徐々に数字を上げるエレベータのデジタル階数表示に、体位を変へた礼子と金井の絡みが差し挿まれる、クロスカッティングの原初的なポップさは微笑ましい。問題なのは、こゝで映画史上空前の偶然が火を噴き、直美から泥棒猫にレイプの鉄槌を下すべく差し向けられた、木村も参戦してみせるドラマツルギーの過積載。「和服の女、間違ひないな」だなど危なつかしく標的を特定した木村は、狙ひ通り金井と礼子の情事を目撃し、ショックを受け部屋を飛び出して来た加奈子を捕獲、エレベータ内で犯す。事後恥づかしい写真も撮影した木村が、加奈子に投げる捨て台詞「奥さん、不倫はやめといた方がいゝぜ」。何故この男は私の不倫を知つてゐるのか、といふ身元が割れる危険性以前に、強姦もやめろ。最終的に筆を滑らせてみるがすつかり懲りた加奈子と、石川は満足気にヨリを戻す。さういふ次第で石川が一人勝ちを果たす結末には、名実ともの無体さに開いた口が塞がらないのも通り越し、この、妙な敗北感は一体何なのか。そもそも、冒頭石川の加奈子に対する浮気容認が、よくよく考へると感動的に余計なものに思へる。これさへなければ、まだしももう少しお話が順当に繋がるといふか、最低限破綻は来たさなかつたのではなからうか。遥か遠く銀河の彼方にそれどころではない、やうな気も激越にするけれど。


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 「最後のラブドール 私、大人のオモチャ止めました。」(2010/製作:幻想配給社/提供:Xces Film/監督:友松直之/脚本:石川二郎・友松直之/撮影:飯岡聖英/助監督:貝原クリス亮・安達守・菅原正登/撮影助手:桑原正祀・玉田詠空・広瀬寛巳/アクション監督:猪俣浩之 助手:亜紗美/メイク:江田友理子/スチール:山本千里/特殊造形:西村映造/VFX:鹿角剛司/制作担当:池田勝/編集:酒井編集室/ダビング:シネキャビン/出演:吉沢明歩・しじみ・若林美保・亜紗美・原口大輔・畠山寛・ホリケン。・野上正義)。ポスターではホリケン。に、句点がついてゐない。怒られるぞ、そもそもそれはお門違ひでもあるのだが。
 江戸川工科大学機械工学科に通ふ、成績も容姿もパッとしないステレオタイプなアキバ系のボンクラ学生・秋葉章太郎(原口)は、学園のマドンナ的な存在・西条彩華(吉沢明歩の二役)に恋をしラブレターも認(したた)めるが、彩華はイケメン準教授・城咲ジョージ(畠山)に夢中であつた。イチャつく二人を前に何も出来ずに歯噛みする章太郎の携帯が、その時鳴る。恩師の高円寺義之(野上)からのメールで、重要な話があるので至急作業場まで来いといふ。ところが、いざ章太郎が向かつた作業場兼研究室では、高円寺は何者かに殺害されてゐた。数日後、サイバーコンバート技術開発研究所代表のプロフェッサー植草(ホリケン。)が、実も蓋もなくなるが友松直之が好んで繰り返し使用するモチーフともいふべき、「顔面身分制度」と「恋愛格差社会」の打倒を喧伝するテレビ番組を見てゐた章太郎の部屋に、高円寺から大きな木箱が届く。ひとまづ章太郎が箱を開けてみたところ、フォトジェニックに零れる緩衝材とともに、彩華と瓜二つでメイド服姿の美少女が現れた。極めて精巧な出来ではあるが、どうやら人間ではないらしきメイドの女陰に等身大のフィギアかと章太郎がとりあへずパンティ越しに指を挿れてみると、陰核がキーとなつてゐた美少女は俄に起動する。驚きつつも章太郎は、添付の取扱説明書を初めてRX-78-2に乗り込んだアムロ・レイの如く繙く。メイド服姿の美少女は、高円寺が開発した女給型人造人間・メイドロイドのマリア(吉沢)であつた。一方、イケメン消火器販売員(畠山寛の二役目)に誑し込まれ詐欺商法に加担させられる主婦(しじみ)、イケメン課長(畠山寛の三役目)に誑かされ業務上横領の共犯となるOL(若林)、イケメン同級生(畠山寛の四役目)にこまされ援助交際に手を染める女子高生(亜紗美)らの事件が頻発する。ところでこゝでOL嬢に問ひたいのは、画的には別に構はないやうな気もしなくはないが、幾ら何でも、一般職の制服のまゝホテルに入る無防備な女といふのはあんまりでなからうか。見境をなくした世界は、意外と広いものなのかも知れないが。自動的に城咲も御多分に洩れず、あらうことか彩華を泡風呂に沈めようとすらしてゐる現場に出くはした章太郎は、果敢に食つてかかるも、ルックスに正比例した戦力差の前にまんまと撃退される。とそこに、御主人様の危機に激昂したマリアが参戦、二連撃で圧倒した城咲もマリアと同様、何と人間ではなかつた。マリアは城咲改めホストロイドを激闘の末に大破させたものの、自身の機能も停止させられる。マリアを研究室に搬送した章太郎が、取説片手に悪戦苦闘してゐると、マリアの股間から、ダイイング・メッセージとして高円寺のホログラム映像が映し出される。高円寺が研究資金の援助を受けたプロフェッサー植草は、醜男ゆえの童貞といふルサンチマンを正方向だか逆向きにだかよく判らない勢ひで画期的に拗らせた、世界の転覆を本気で企てるいはゆる“悪の天才科学者”であつた。高円寺はマリアとともに、章太郎に植草の野望を喰ひ止める使命を託す。ダメ人間が美少女アンドロイドを宛がはれると同時に、世界の命運を握る羽目になる、何と麗しいプロットなのか。友松直之は、自ら今作のノベライズを官能小説レーベルから発表してゐるが、ポルノ小説といふよりも、寧ろラノベのお話といへよう。
 私選2009年ピンク最高傑作「メイドロイド」続作、といふよりはお話は全く別物のため、正確には第二作といふべきか。因みに同時進行企画のDVD題は、「メイドロイドVSホストロイド軍団」。サイバーパンクの意匠を借りたプリミティブな恋愛映画の大傑作たる前作に対し、正調特撮活劇を目指したと思しき一作ではある。何はともあれ顕著な点は、果敢な意気込みは確かに買へ、是非は一旦兎も角DVD鑑賞した際にはそれほど気にはならないのかも知れないが、全篇を通して多用されるロー・バジェットVFXの代償といふか直截には弊害として、小屋で観戦すると上映画質がフィルムとキネコ調との間をコロッコロコロッコロ文字通り猫の目のやうに変る点。それゆゑ清々しく変動的な画調と同調するかのやうに、全てがクライマックスの一言へと見事に収束して行つた第一作の完璧と比較せずとも、物語の軸も映画の首もどうにも据わらない。プロフェッサー植草はそれまでのイケメンをブサメンに、ブサメンをイケメンへと転化させる、「価値観転倒電波」―ところでそれは、男に対してしか作用しないのか?―を遂に完成させる。いよいよ稼働寸前の装置を前に、いふまでもなく植草と同じサイドに生きる章太郎が見せる逡巡は、形式的にも実質的にも落ち着かない展開の中数少ない、そして最大のドラマ上の盛り上がり処ではなからうかとも思へたものである。ところが、ホストロイドを倒すべく生み出されたメイドロイド・マリアには内蔵された「愛情回路」完成の件と同様に、章太郎が抱へたジレンマはその場の成り行きだけで何となく片づけられ、満足な形にはなつてゐない。マリアの最終兵器フルパワーラブラブアタックに関しても、描写共々恐ろしく唐突である。他方で、突発的な最高潮が炸裂する最大の見せ場は吉沢明歩のアクション・ダブルを務めたとの、亜紗美の手放しで素晴らしい身体能力が銀幕を轟かせる、マリアV.S城咲第一戦。屈んだ章太郎の背を起点にしての側転浴びせ蹴りと、城咲の首を人間ではあり得ない方向にまで捻じ曲げる後ろ回し蹴りは正しく電光石火、南無阿弥陀仏を唱へるどころか、顔が見切れる暇もない。斯様にとかく飛び道具には事欠かないだけに、全般的な粗さがもう少し改善されてあれば、決定的な姉妹の姉作を前に当然予想され得る負け戦も、まだしも健闘出来てゐたのではなからうか。あるいは、初めからコンセプトとして志向されたB級作であるとしたならば、ツボはガッチリ撃ち抜いてあるやうに思へぬでもないが。

 繋ぎの一幕として通り過ぎられ、若林美保的には、竹洞哲也の「若義母 むしやぶり喰ふ」(2009)に続く出演のすり抜け具合を披露する、ホストロイドに篭絡される女達のシークエンスに象徴的なやうに、主眼は明確にストーリーの進行に置かれ、然るべき煽情性の要素も極めて薄い。エクセスにしては、ピンクよりも完全に映画寄りのピンク映画である。


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 例年通り、その内今年も終るだろ、といふ時期に差し掛かつて漸く、去年のピンク映画の私選ベスト・テンと、返す刀でワースト・ファイブとである。開き直るでもないが、仕方がないものは仕方がない。このタイム・ラグでないと、私が住む―生まれた訳ではない―県にまでは来ないのだ。ところで、全五十三本の新作ピンクの内、外したつもりは毛頭ないのだが、三月公開の「熟女と新人巨乳 したがる生保レディ」(監督:小川欽也/主演:友田真希)だけ何故か観てゐない。まさか前田有楽に来てはゐないのか、あるいは私が派手に仕出かしたか。唯一本観落としたからではなく、普通に猛烈に惜しい。

 気を取り直して09年(昭和換算:79-5年)ピンク映画ベスト・テン

 第一位「老人とラブドール 私が初潮になつた時…」(Xces/監督:友松直之)
 サイバーパンク・ピンクの最高峰にして、プリミティブな恋愛映画の大傑作。頑強に積み重ねられた世界観の先に辿り着くのは、在り来りなメッセージ。但しその一言は、最大限の強度で観る者の胸を撃ち抜く。
 第二位「絶倫・名器三段締め」(新東宝/監督・共同脚本:佐藤吏)
 一見小品にも思へるが、その分全体的な統合力は磐石。クライマックスに於ける、原初的な特撮が火を噴く昇天ショットの威力は比類ない。
 第三位「ハレンチ牝 ひわい変態覗き」(オーピー/脚本・監督:山邦紀)
 狂ひ咲くファンタ、唸るロジック。らしさが轟く快作。
 第四位「愛液ドールズ 悩殺いかせ上手」(オーピー/監督:渡邊元嗣)
 友松直之の第一位作「メイドロイド」に続く人造人間もの。前年には些か落ちるも、渡邊元嗣依然快調を堅持。
 第五位「折檻調教 おもちやな私」(オーピー/監督:松原一郎)
 オフ・ビートのエロ映画と思はせておいて、最後の最後に狙ひ澄まされたフィニッシュ・ブローが炸裂する鮮烈な一作。吉行由実と酒井あずさといふ2トップも勿論超攻撃的。
 第六位「痴漢温泉 みだら湯覗き旅」(オーピー/監督:池島ゆたか)
 時代にフィットした、南風薫る極楽温泉映画。濡れ場の打点も何れも高い。
 第七位「OL空手乳悶 奥まで突き入れて」(オーピー/脚本・監督:国沢☆実)
 射精が雄叫ぶポップ・チューン。二作に留まりながら、国沢実が復調。
 第八位「誘惑教師 《秘》巨乳レッスン」(オーピー/監督:加藤義一)
 ヒロインが終章タイトルを文字通りブレイク・スルーするショットの一点突破。
 第九位「福まんの人妻 男を立たす法則」(Xces/監督:松岡邦彦)
 松岡邦彦にしては若干弱い。
 第十位「獣の交はり 天使とやる」(国映・新東宝/監督:いまおかしんじ)
 濡れ場の力も借りた奇跡を、奇跡のまま終らせればいいのに。

 順不同の次点は封切り順に、昨今渡邊元嗣が得意とする正攻法による大人の恋愛映画「夫婦夜話 さかり妻たちの欲求」(オーピー/監督:渡邊元嗣)・かすみ果穂×松浦祐也×AYA×倖田李梨の探偵4ショットが非常に魅力的な「人妻探偵 尻軽セックス事件簿」(オーピー/監督:竹洞哲也)・前半まではほぼ完璧だつた「よがり妻」(新東宝/監督:深町章)・濡れ場のクロスカウンターでドラマを牽引する様が素晴らしい「不倫旅行 恥悦ぬき昇天」(オーピー/脚本・監督:友松直之)、等々。

 男優賞には、「わいせつ性楽園 をぢさまと私」(オーピー/監督:友松直之)・「ねつちり娘たち まん性白濁まみれ」の仕事も光る野上正義。新人賞はかすみ果穂以外にあり得ない。カンバック賞に、浜野佐知の「魔性しざかり痴女 ~熟肉のいざなひ~」で針生未知と名義を変へ五年ぶりにピンク帰還を果たした川瀬有希子と、ベスト・テン五位の松原一郎作にて、夫である関根和美に連れられ三年ぶりの銀幕復帰を果たした亜希いずみ。

 五本も選ばなくていいやうな気がしないでもないワーストは

 第一位「いくつになつてもやりたい不倫」(国映・新東宝/監督:坂本礼)
 ヒロインが気違ひでないと成立しない闇雲な物語、且つだとしても、別に面白い訳ではない。
 第二位「本番オーディション やられつぱなし」(新東宝/監督:佐藤吏)
 終盤が自堕落極まりない。
 第三位「痴漢電車 女が牝になる時」(Xces/監督・脚本:工藤雅典)
 凡そ工藤雅典らしからぬへべれけさ。
 第四位「アラフォー離婚妻 くはへて失神」(オーピー/脚本・監督:吉行由実)
 そんな演技指導を施されなかつた主演女優にファックオフ。
 第五位「ねつちり娘たち まん性白濁まみれ」(オーピー/監督・共同脚本:荒木太郎)
 脚本家としての三上紗恵子と組むことを諦めない荒木太郎の、手詰まり感が甚だしい。



 裏一位は、新版公開まで含めると依然圧倒的な小屋の番組占有率を誇らぬでもない、新田栄の最終作となつてしまふのか、「未亡人家政婦 -中出しの四十路-」(Xces/監督:新田栄)
 綺麗な娯楽映画たり得てもゐたところが、卓袱台を床板ごと引つ繰り返してみせた。
 裏二位は「熟女淫らに乱れて」(国映・新東宝/監督:鎮西尚一)
 この時期に如何せん暗過ぎる、北風には吹かれ飽きた。綺麗に丸々切つてしまへる、純然たる濡れ場要員のピンで堂々とポスターを飾つてみせた太太しさは、逆に天晴。
 第三位は「社宅妻 ねつとり不倫漬け」(オーピー/監督・脚本:小川隆史)
 綺麗に空回つたデビュー作。


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 「ハレンチ牝 ひわい変態覗き」(2009/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:大江泰介・鷲田進/照明:ガッツ/助監督:金沢勇大・関力男/応援:田中康文/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/協力:かわさきひろゆき・セメントマッチ/参考図書:『女性を捏造した男たち―ヴィクトリア時代の性差の科学』シンシア・イーグル・ラセット著・工作舎刊/出演:朝倉麗・倖田李梨・佐々木共輔・荒木太郎・平川直大・丘尚輝・ささきふう香)。かわさきひろゆきと、池島ゆたかの制作プロダクションであるセメントマッチの協力が、劇中どの部分に表れてゐるのかには辿り着けなかつた。
 縁側で眠る浴衣姿の女のイメージ・ショットに、荒木太郎のモノローグが被さる、「物いはぬ、昼寝する女ほど美しいものはない」。
 ケーブルTVの討論番組「ガチンコ闘論」にて、ラディカルなフェミニズム学者・露草しずく(倖田)と、「女権撲滅道場」などといふ、看板のノー・ガードな潔さが寧ろ清々しささへ感じさせかねない女性蔑視団体の主催者・荒畑寛司(荒木)とが、最早当然の成り行きで激突する。何処そこの研究結果によれば男よりも一般的に小さな女の脳はゴリラにより近いだの、女の参政権は二人で一票で十分だなどと、無茶苦茶な放言を垂れ流す荒畑の姿に露草だけではなく、放送を見てゐたSMのキカ女王様(ささき)と、エロすぎる市会議員候補、から実際に市議となつた麻美多鶴(朝倉)は激昂する。ここで丘尚輝は、終始従順に責められるのみのキカ客。薄いグラサンで武装しバイオレントな秋田弁を駆使する平川直大は、裏で糸を引き最終的には妻を国政の場へ送り込まんと画策する、多鶴の夫・友一。今回序盤から好調に飛ばす山﨑邦紀の映画に、情報量は軽やかに多い。キカ女王様は、恐らくペドロ・アルモドバルの「キカ」(1993/西)とは特に関係ないやうに思へる。多鶴の事務所に貼られた二種類の選挙ポスターに躍るキャッチフレーズが、「女の欲望を市議会へ!」に、「エロスと政治の結婚」。市政レベルとはいへ、こんな底の抜けた候補を通したのは何処のお調子者の有権者だ。そしてヴィクトリア時代の偏向した疑似科学を告発した参考図書の反映は、歪曲した荒畑の立ち居地にダイレクトに認められる。ところで「ガチンコ闘論」は、露草の挑発に無闇に乗る形で荒畑が“腐れマ○コ!”を連呼し始めたため、強制終了される。2009年は薔薇族映画―勿論大絶賛未見―とピンクを各一本きりしか発表してゐない山﨑邦紀は、余程力を余してゐるやうだ。喜べばいいものやら如何なものやら、複雑なところでもある。
 学者とSEXワーカーと政治家といふ、互ひの職種の相違も超え露草とキカ、多鶴は女性主義の錦旗の下に共闘してゐた。露草を援護すると同時に自らの鬱憤も爆発させるべく、「女権撲滅道場」に押しかけたキカと多鶴を、平素は相談者にすら会はないといふ荒畑に代り、師範代の笹沼泥沼(佐々木)が出迎へる、どんな名前なのだ。といふツッコミは思ふ壷であらうところなので兎も角、仕方のないことをいふやうだが、新作で久し振りに見た―「デリヘル嬢 絹肌のうるほひ」(2002/監督:池島ゆたか)以来か―佐々木共輔は、些か加齢も感じさせる。「ガチンコ闘論」出演時のエキセントリックな荒畑の様子とは対照的に、普段は隆盛する女の勢ひに押され気味の、弱い男達に対する一種のカウンセリングに当たつてゐるといふ笹沼は穏やかな、どちらかといはずとも姿勢の低いやうな人物だつた。通した部屋で文字通り重量級の女傑二人を相手に苦戦を強ひられる弟子の様子を、覗き穴を通して荒畑は隣室から窺視する。弾みで掴んだ多鶴の手を通して、笹沼は「レディ・イン・ザ・ウォーター」よろしく青く澄んだ水の中に沈む、多鶴の心象風景に触れる。笹沼はさういふ一種のテレパスであり、現に多鶴は、自分が友一のいはば操り人形でしかないことに、疑問を感じぬでもない隙間を心に抱へてゐた。その場は繕ひながらも本心を見透かされ動揺も隠せない多鶴は、キカとも対立し飛び出して行く。
 一匹の奴隷はさて措くとして、女性恐怖にも似た特殊な性癖を喧伝の底にひた隠す活動家。何れも沸点の低い攻撃的な女達に物静かな能力者と、ギラギラし放しの野心家。奇人怪人が激しく撃ち合ふ苛烈な応酬の中を、実は実直なドラマが粛々と進行して行く。前面の奇矯な飛び道具を、最終的には冷徹な論理が統べる様が、性的な倒錯の濃度は低くもあるが実に山﨑邦紀らしい一作。メイン話者の傍らで他者が視線や身体を僅かに動かせる、画面の端々の充実に窺へる全体的な演出の頑強さに加へ、個々のシークエンスも高打率で秀逸。心に開いた穴を看破され退場した多鶴に続き、キカは自らその逞しい腕を笹沼に委ねる。一旦はまるで夢を見ないルパン三世のやうに、笹沼が感応し得る内実を持たぬキカではあつたが、反面表面的には一方的に虐げてゐるやうでゐて、詰まるところは客であるM男の欲望に奉仕してゐるに過ぎない自身の状態に乾く。露草が単身笹沼は去つた「女権撲滅道場」に乗り込んだ際には、頼らざるを得ない荒畑には効かない睡眠薬が、しずくには効果を発する。荒木太郎はポツリと零す、「俺には効かないのにな」。狂ひ咲くファンタと、重層的に唸るロジック。そして旦々舎作には初期装備された、実用性満点の滾るエロティシズム。これが、これこそが山﨑邦紀のピンク映画だ。揺らぎを経て新しい均衡点にひとまづ落ち着いた多鶴と、相変らず狂騒的な残りの者共の対照が光るラストは、多鶴と笹沼が到達したエモーションの打点が少々低いことは着地点の強度不足も感じさせ、女優三本柱の内二名がオーバー・ウェイトに相当するといふ、極々私的な琴線の張り具合は勿論響かない訳がない。とはいへ溜めに溜めた一撃必殺の決定力は、勝者の存在しない全方位的な逆境の中にあつても、状況に対し有効に働くや否かは一旦兎も角、矢張り燦然と煌く。理屈臭さに臍を曲げる偏屈でなければガッツ・ポーズで面白からう、らしさが轟く快作である。

 以下は再見に際しての付記< 青い水に沈む女のイメージは、シャマランの「レディ・イン・ザ・ウォーター」(2006)の影響を受けるどころか遥か十年以前に、既に「痴漢電車 潮吹きびんかん娘」(1996/主演:小泉志穂)に於いて見られる。


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 「熟女の股ぐら 焦らされて号泣」(1994『全身性感帯 超いんらん女』の2010年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・真崎良人/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:森山茂雄/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斎藤秀子/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:麻吹まどか・田代葉子・辻かれん・石神一・ジャンク斎藤・平賀勘一・久須美欽一・栗原良)。
 女を乗せたライトバンを回して客を拾ひ、そのまま車中で致せば一万。事務所に向かひベッドの上で抱きたいなら三万円、といふ料金設定の移動売春「ピンク・キャブ」。ピンクといひつつ車体の色が何の変哲もないネズミ色ある点は、別に気にするな。因みにピンク・キャブといふ名称はエクセス公式サイト内の紹介文から拾つたもので、本篇中で特に呼称される訳ではない。とまれピンク・キャブ運転手兼マネージャーの星川龍太(栗原)は、新宿の映画館街で吉村恵一(石神)の捕獲に成功する。売春ギャル・水落海子(辻)を気に入つた吉村は、車中コースを変更して劇中“サロン”と称されるピンク・キャブ事務所へ。星川はさういふ稼業を妻には伏せ、貯金通帳を眺めマイホーム購入を夢見る明美(田代)は、夫はタクシー運転手だと信じ込んでゐた。そんなある日、山本洋介(久須美)の要望に負け海子をホテルに委ね、停車した車の中で手持ち無沙汰の星川に、丸めた世界地図を手にした今福さゆり(麻吹)が声をかけて来る。海子が戻つて来るまでは、星川はこの場に留まる筈だと踏む地味な明察を発揮したさゆりは、無邪気に食事を御馳走して呉れるやう求める。半分勝手の掴めないながらに、辻真亜子の居ない「味茂」―因みに今作は、「近所のをばさん2」四作前にあたる―で鰻丼を食べさせた星川は、“パパ”と呼び妙に懐いて来るさゆりを仕事中の海子と並行するのはさて措きホテルで抱き、そのまゝピンク・キャブに乗せることに。星川の、妻への秘密も抱へた苦い日々が、さゆりの存在で潤ひを取り戻したのも束の間、さゆりに目をつけたピンク・キャブ経営者の山内重雄(平賀)は、さゆりをより客単価の高いホテトルへと引き抜いてしまふ。さゆりとの別離に、星川は栗原良一流の持ち芸を発動させ加速して苦み走る。
 適当極まりない新題―大体が熟女枠に該当するのは、田代葉子しか居ないのだが、別に誰も号泣しないし―に関してはこの際通り過ぎるとして、一言で片付けると、起承転結の転部で尺があるいは力尽きてしまつたかのやうな一作。三度目に登場した山内が、海子を二度目でホテルに連れ出す。車に残された星川に、山内の下を逃げ出して来たさゆりが接触。この、山内の気紛れが即ち星川とさゆりが再会を果たすタイミングを成すギミックは、さりげなくも論理的で秀逸。地図を片手にパナマだイスタンブールだと、気紛れに目的地を口にするさゆりを連れ、明美も捨てたのか星川は逃げる。とか、いふ次第で。バジェットに必死の抵抗を試みる逃避行でも展開されるのか、と思ひきや。とりあへずホテルに時化込み一戦、そこからカット明けると三ヶ月後、山内の睨んだ通り、栗崎孝(ジャンク)相手にタクシーでいふところの白タク営業を行ふピンク・キャブが、親分の指示を受け逃亡者の発見に奔走する手下二人組に発見される。二人の内、黒いコートの男は山崎邦紀で、相方のベージュのコートの男は、森山茂雄でいいやうな気がする。手下の接近に気付いた星川は、冬だといふのに栗崎は半裸で放棄。パラオに行くには、「この車で地面の上を何処までも南に走つて行くのさ」と、ロマンティックなつもりの台詞とともにプーッと走り去る車のロング・ショット。だなどいふラストは、矢張り拭ひ難い物足りなさにどうにも間が抜ける。麻吹まどか自身の魅力不足による面もあるが、さゆりといふ不思議なキャラクターの描き込みにもそもそも欠け、ここは盛り沢山の濡れ場のボリュームを若干削つてでも、裸映画から裸を差し引いた裸のドラマの充実を、図つて欲しかつたやうな気持ちも残る。

 ところで定食屋「味茂」であるが、戯れに画像検索してみたところ、昨年九月のブログ記事が出て来た。恐らく、今でも東西線落合駅前交差点そばに現存するやうだ。


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 「好きなをばさん 疼いてしやうがない」(1994『近所のをばさん2 -のしかかる-』の2004年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩・丸北弘/照明:秋山和夫・荻野真也・近藤満次郎/音楽:藪中博章/助監督:佐々木乃武良/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/出演:辻真亜子・吉行由美・田代葉子・栗原良・平賀勘一・太田始・甲斐太郎)。
 男根を正しく貪る、辻真亜子怒涛のイメージ・ショットで猛然と開巻。尺八の勢ひと速度が半端ない、喰ひ千切られてしまひさうだ。
 水商売上がりで今は定食屋「味茂」のパート店員・萩原野乃子(辻)は、あんまり客が無造作に“をばさん”“をばさん”と連呼することに激昂、店を飛び出して行く。その様子を、厨房の中から店長にしては少々若い、小椋義男(太田)が不安げに見やる。ところで、十年以上前に活動停止してゐる反面今でも根強いファンが居るらしい、文字通り熟女AV女優の辻真亜子ではあるが、新日本映像のエクセス公式サイトによれば―恐らく今作製作当時―御歳五十四歳。野乃子は腹を立てるものの、仕方もなからう、形式的にも実質的にもオバサン以外の何者でもない。帰宅した野乃子は、十年前のバー「アカネ」のママ時代に蒐集した、関係を持つた常連客の、魚拓ならぬいはゆるチン拓のアルバムに目を落とす。未来に繋げる為の過去を振り返ることを思ひ立つた野乃子は、チン拓の主を訪ね歩き、なほかつ十年後のチン拓も新たに取ることにする。ババアがチン拓を手にかつて体を重ねた男々を巡る、ピンク・ロード・ムービー。逃げ場のない熟女ものを製作するに際して、これほどまでに画期的なプロットを未だかつて観たことがない。トータルではそれどころではない衝撃に打ちのめされ忘れてしまひがちにもなりかねないが、このことは、確かに特筆されるべきであらう。
 最初に野乃子が訪問したのは、何かの製造会社の常務・桑島五郎(甲斐)。この期の来訪に脊髄反射で困惑しつつも過去の恥づかしい記録を突きつけられた桑島は、野乃子に社内でペロリと喰はれ、これで終つたかとひとまづ安堵したのも束の間、現在のチン拓を採集される。細かいのか重大なのかよく判らない瑣末に触れておくと、次のパートで再度同様の流れは繰り返されるが、ここは少々、順序がおかしくはあるまいか。壮年期の男を捕まへて、一度撃たせてからもう一度勃たせることには、それなりの困難が伴なふ場合も常識的に想起されて然るべきでは。ともあれ、野乃子を金輪際厄介払ひしたい桑島は、二度と自分には近づかないことを条件に、矢張り当時の常連客で現在は外資系企業の部長・原田真之介(平賀)と、ベストセラーを当て左団扇の出版社社長・松川勇二(栗原)の住所と連絡先とを野乃子に渡す。全く以て、個人情報並びに仁義といふ言葉を知らない常務さんである。今作のオアシスたる吉行由美は、原田の秘書、兼愛人の高見祐子。田代葉子は、松川の妻・絵美。
 ポルノグラフィーとしては、辻真亜子の五十四歳の肉体に喰ひつくには、まだまだ個人的には年季が幸か不幸か足りない。二作前の前作「近所のをばさん -男あさり-」(主演:辻真亜子)も、2000年に「破廉恥をばさん 欲しくてたまらない」と旧作改題されてゐる模様ではあるが、観たいものやら如何なものやら、激しく逡巡するところでもある。そんな次第で、正方向の煽情性に関しては兎も角、何をトチ狂つたか後に進んで地雷原に飛び込んで来る太田始のことは一旦措いておくとして、順に甲斐太郎・平賀勘一・栗原良(=リョウ=ジョージ川崎=相原涼二)。曲者揃ひの三人を辻真亜子が単騎で撃破して行く加齢なr・・もとい華麗なる戦記としては、変な方向に見応へがなくもない。この三人が、全員これほどまでに苦しい防戦を強ひられた印象は極めて珍しい。
 桑島のチン拓最新版を更新した野乃子が放つ名―もしくは直截に迷―台詞、「人に歴史ありね」、確かに歴史かも知れないけどよ。原田から野乃子に接触し十年前のチン拓を買ひ取ることを指示されながら、祐子がコロッと先輩同性に共感し懐柔される件の拍子の抜け具合。野乃子が松川と絶賛交戦中に、絵美が帰宅してしまふカットのテンポとてんこ盛りの笑かし処に、止めを刺すのは小椋。桑島・原田と連破したまではいいとして、松川に対しては絵美の闖入を招き当初目的を果たせず仕舞ひの野乃子の足は、ションボリと味茂に向かふ。すると一応伏線も敷設済みとはいへ小椋が、「こんなチン拓は捨てて、僕と一緒に未来を生きませう!」と藪から棒に情熱的な告白、そのまま雪崩れ込むクライマックスの壮絶な濡れ場。野乃子の肉体に、小椋は滅茶苦茶な舌鼓を打つ。「この弛んだ肉」、「この潮」、「腐りかけたこの匂ひ」。それで褒めてゐるつもりか、野乃子も腹を立てていいぞ。挙句に、「果物だつて肉だつて、腐る直前が一番美味しいんだ!」・・・・

 お前定食屋だろ!

 こんな変態が料理を作る危険な店では、絶対に飯を食ひたくはない。面白いのか詰まらないのかと問ふならば、少なくともピンク映画としては、別の意味で抱腹絶倒に面白い、ある意味圧倒的な快作あるいは怪作である。浜野佐知一流の平素の攻撃的な女性主義ではなく、今回はこれで意外と穏当な女性映画として実は手堅く纏められてゐる点は、不思議ですらある。
 更に細部を突くと、映画の神が微笑んだのか対原田戦に於いて、野乃子が履く年甲斐もないライトグリーンのパンティの、左尻の縫ひ目付近に小さな穴が開いてゐたりする辺りは妙にリアルである。更に更に、当然浜野佐知自宅である松川家で、松川と野乃子がチン拓を返せ渡さないと争ふ攻防戦。流石に男の力に押され気味の野乃子が自ら宝物のチン拓を手放すや、松川に覆ひ被さり責めに転じる逆襲も、実に秀逸な戦術といへるのではなからうか。

 ところで、劇中のキー・アイテムとなる野乃子のチン拓集のタイトルが、アルバムの表紙に「CHINPOLER'S FILE」。“チンポラー”てのは何々だよ、“チンポラー”てのは。斬新過ぎて最早言葉を失ふ。


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 「どすけべサラリーマン 開花篇」(1991『人妻VS風俗ギャル ザ・性感帯』の2010年旧作改題版/製作:伊能竜/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/撮影:稲吉雅志/照明:田端一/編集:酒井正次/助監督:山崎光典/監督助手:渋谷一平/撮影助手:片山浩/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・石川恵美・井上真愉見・石原まりえ・英悠奈・山本竜二・池島ゆたか /ナレーター:芳田正浩)。製作の伊能竜は向井寛の、脚本の周知安は片岡修二の変名。実際のビリングは、本篇クレジットのみの芳田正浩が山竜と池島ゆたかの間に入る。それと、ポスターでは照明が田端功に。
 同期入社ながら全く対照的な二人、万事に生真面目な堅物人間の園山(池島)と、逆にアバウトな柔らか人間・轟(山本)。因みに堅物人間と柔らか人間といふカテゴライズは、本篇ナレーションまゝ。三年前に二人から求婚されたアキコ(橋本)は、出世面・浮気の心配・健康状態、全てに於いて上回ると判断し、園山と結婚する。ところが園山は、健康診断で癌告知を希望しなかつたのと、偶さかアキコから精力の減退を指摘された悪いタイミングとが重なり、自分はもしかすると癌なのではないかと、薮からな不安を俄に膨らませる。相談を持ちかけた園山を、轟は何時もの能天気さでパーッと行かうぜとホテトル遊びに誘ふ。初めての風俗、轟がオッパイの大きなホテトル嬢(石原)と楽しく遊ぶ一方、園山の部屋に現れた感動的に若い石川恵美は、園山が正直に風俗童貞を告白したところ、生でさせて呉れた。ところが事後、その旨を耳にした轟は園山を激しく叱責する。劇中平然と連呼されるが、エイズ罹患の危険性があるといふのである。発病してゐようとゐまいと血液を検査すれば感染の有無は判るといふことを知らないのか、今度は潜伏期間のあるエイズの潜在的な恐怖に慄く園山は、アキコからは体を離す反面、火の点いたやうに女遊びに明け暮れ始める。とんでもない、その際にはコンドームを必ず使用するとはいへども、まるでテロリストのやうな男だ。井上真愉見と英悠奈は、そこで登場する園山との巴戦要員。ボーイッシュな髪の短い女(井上)と、英悠奈が髪の長い方。
 傍目には正しく杞憂に右往左往する、生真面目であると同時に小心男の悲喜劇。石川恵美再登場を機に、清々しく論理的な段取りで堅物人間が開放される件に感心したのも束の間、よくいへばニヒリズムとでもいへばよいのか、あつけらかんと無体な結末に園山を放り込む展開は、ある意味鮮やかといへば鮮やかではある。寧ろそのまゝスパッと映画を振り逃げてしまへば、それはそれとしての余韻も残したのではないかと思へるが、以降にアキコと轟の濡れ場にもタップリと尺を割いてしまふ構成は、些か以上あるいは以下に冗長であるとの誹りも免れ得まい。今でいふとモキュメンタリー風にアキコが心情を語るカットにも、元来ならば園山に据ゑられてゐたであらう筈の軸足を微妙にブレさせる、ドラマの調子を乱す逆効果の方が大きいやうに見受けられる。

 ラスト・ショットは、アキコに見送られ出勤する轟のストップ・モーション。声だけ聞くと南条(南城)千秋にも聞こえるナレーションが、「この二人の結末も教へてあげたいが」、「どうやら時間が来てしまつたやうである」だなどとぞんざいに締め括る。今回新題に“開花篇”とあるやうに、本来のどすけべサラリーマン・轟を主役とした続篇の存在も特に期待はしないが予想されつつ、製作有無は不明。ここで“今回”新題といつたやうに、今作は1996年に「性感妻全身マッサージ」との適当な新題で、既に一度新版公開済みである。


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 「ザ・種馬」(昭和61/企画・製作:イーストホーク/配給:新東宝映画/監督:川崎軍二/脚本:池田正一/企画:北海三郎/撮影:田中正博/照明:並木武彦/録音:杉崎喬/編集:鵜飼邦彦/音楽:井口明夫/美術:多摩川美術/助監督:福原ゆかり/撮影助手:望月真寿男/照明助手:白倉考/監督助手:稲葉雄大/メイク:湯沢あずさ/出演:美波里花・田代葉子・佐竹一男・番哲也)。助監督の福原ゆかりが、ポスターには何故か福原ユカリ。
 牧場の風景に重ねられる、素朴なタイトル・インがいい感じ。
 新婚旅行に出てゐた厩務員の信次(番)が、新妻の弘子(田代)を伴ひ牧場に戻つて来る。牧場主の良平(佐竹)は、仔細は清々しく省略されるが妻・加奈(美波)の不注意により下半身不随、かつ不能の身にあつた。加奈は罪悪感もあつてか良平に甲斐甲斐しく仕へつつ、弘子と信次が否応なく発散させる新婚夫婦のセクシュアルな空気にもアテられ、矢張り拭ひ難い、肉の欲望への飢ゑを覚えることは禁じ得なかつた。そんな妻の風情を酌んだ良平は、浮気すら公認するが加奈にはそのやうなつもりは毛頭ない中、良平の牧場でも、馬の種付けが始まる。目にした文字通り長大な馬の陰茎に、思はず加奈は胸をときめかせる。
 とかいふ、大筋を纏め上げたところまでで、以降は物語を膨らませるなり枝葉を茂らせる営みを感動的に放棄してしまふため、中盤以降が猛烈に中弛む。正直にいふが小屋の暗がりに包まれ前にすると、相当睡魔に抗ふにも困難の伴ふ一作ではある。土台がお馬さんの一物が人間の女の女陰に入らう訳が到底なく、よしんば、もしも仮に万が一入つたとて、我が国の律に照らせばおいそれと撮れよう筋合にもない。実際さうであるやうに、精々、馬と女を交互に捉へたイメージ映像風の出来栄えにしかなり得まい。さうなると、この期に漸く気がつくといふのも随分と間の抜けた話ではあるのだが、クライマックスがさういふ服の上から痒い所を掻くが如きものにしかならない以上、この手の特殊―あるいは特撮―ジャンル作が事前に惹起される衝撃的な好奇はさて措き、結果的には得てして決定力に欠き漫然とした仕上がりとなつてしまふのも、ある意味仕方のない道理といへるのかも知れない。尤も、ラストは小さな赤いヒールを履いただけの姿で白馬―劇中加奈のお相手を務めるのは、黒い別の馬―に跨つた、美波里花の―ほぼ―全裸乗馬といふショットの威力で意外と綺麗に締める。もしかすると、逆に乗馬スキルから逆算してのキャスティングなのか。超絶のカメラワークを駆使しお馬さんの首で巧みに股間は回避しながらも、どうしても数カット覗かずにはゐられない陰毛?は、当時としては結構センセーショナルでもあつたのであらうか。前貼りを全く使用しないとも考へ難いゆゑ、別のものである可能性もあるが、兎も角それらしき箇所に黒い何某かがチラチラ見える。

 今作は2003年に「人妻と馬 うづく快感」といふ新題で既に一度旧作改題されてゐるが、実は更に大きく遡る1991年にも、「馬と人妻」といふシンプル極まりない新題で旧作改題されてゐる。となると今回は何と、旧題そのまゝながら都合三度目の新版公開といふ寸法になる、凄まじい世界に突入して来た感が強い。但し、繰り返すが当サイトは、未見の旧作は未知の新作と何ら変りはないとする姿勢につき、昨今番組編成上を吹き荒れる旧作の嵐に対しても、それはそれとして上等と挑むものである。無論、元気に新作がメキメキ製作されるならば、それが最良であるのはいふまでもない。


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 「をばさん家政婦 肉づきたつぷり」(1994『どスケベ家政婦 下半身拭ひ』の2010年旧作改題版/企画:セメントマッチ/製作:オフィスバロウズ/提供:Xces Film/監督:池島ゆたか/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:隅田浩行/編集:酒井正次/音楽:平岡きみたけ/助監督:高田宝重/監督助手:森山茂雄/撮影助手:小山田勝治/照明助手:藤森玄一郎/スチール:津田一郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:沢田杏奈・井上あんり・杉原みさお・平岡きみたけ・神戸顕一・山の手ぐり子・池島ゆたか・野上正義)。出演者中、山の手ぐり子(=五代響子/現:五代暁子)は本篇クレジットのみ。
 テレクラを介して、江崎恒(池島)が森永聖花(沢田)と出会ふ。早速ホテルに直行、何処か地に足の着かないのと同時にセックスは好きさうな聖花と恒が楽しく遊んだのも束の間、江崎家を激震が襲ふ。同居する恒の父親・新造(野上)が倒れてしまつたのだ。看護婦(山の手)を連れ往診に訪れた医師(神戸)は、入院にまでは至らない新造の自宅療養と、介護の要とを恒に告げる。ところが、恒の後妻・栗子(井上)が新造の介護を無体に拒否。困り果てた恒は両親不在の実家で祖父の面倒を見てゐたとの聖花の申し出に乗り、愛人を住み込みの家政婦として家に入れるとかいふ、画期的に大胆な奇策を実行する。平岡きみたけは恒の息子で、義母を通して女全般に憎悪に近い嫌悪を抱くフリーターのバンドマン・真。髪を金髪メッシュに染め上げると、元来ディフェンシブな童顔も案外それらしく見える。当然恒はスリリングな自宅不倫に戯れる一方、血は争へないとでもいふ方便なのか新造も新造で、身の回りの世話をして呉れる聖花に対しセクハラがてら、病躯に鞭打ち最後まで一戦交へる。祖父の冷や水を目撃した真はバンドのグルーピー、兼一応彼女の成沢まゆみ(杉原)との逢瀬に際し乱暴なプレイの挙句怪我を負はせ、栗子も栗子で、矢張り家の中に自分以外の若い女がゐる状態に嫉妬心を燃やす。聖花を家政婦として家に入れた結果新造の介護問題が解決するどころか、案の定江崎家は更に揺さ振られる。こゝで、映画本篇が与り知らぬところでちぐはぐなのが、栗子が女のライバル心を刺激されるやうに、どう転んでも二十代後半にしか見えずしかもスレンダーな沢田杏奈を捕まへて、一体エクセスは何を気迷ふてか「をばさん家政婦 肉づきたつぷり」だなどと、“家政婦”以外はまるで明後日な売り方をしようと思ひたつたのか。
 淫蕩な小悪魔、といふよりも今作に於ける聖花の描かれ方は寧ろ、逆の意味で純真な奔放な天使、といつた方がより適切であるのかも知れないが、兎も角性的にフットワークの軽過ぎる第三者の介入により、動揺するひとつの家族。洋の東西を問はず、この手の裸映画に於いては麗しく定番の設定といへる。と同時に、今作がさりげなく優れてゐるのは、様々な問題を抱へた一家が、一回卓袱台を完全に引つ繰り返す荒療治により新たな安定状態を取り戻す。大らかに万事がセックスに直結する、範疇特有のデフォルト的傾向を差し引けば、実は実にホーム・ドラマ的にも全く定番の物語構造を採つてゐる点。それゆゑ一見すると沢田杏奈と井上あんりの綺麗処2トップが軽やかに牽引する、ポップなピンク映画といふ印象に止(とど)まりかねないが、よくよく吟味してみるならば、娯楽映画としての意外な安定感も誇る地味に堅実な一作。強ひて贅沢をいへば、オーラスの再起を果たす江崎家の風景に、実際には一人零れ落ちたまゆみも差し込み処遇を回収してあれば、大団円がより一層磐石なものとなつたのではなからうか、といふ贅沢は残る。

 真が聖花と情を交す現場に恒・栗子・新造が駆けつけ、一旦家族がそれぞれ持つ秘密が暴露されるクライマックス。シークエンスとしての手堅さについては先に述べた通りだが、ひとつ奇異に映つた点がある。床に臥せつてゐる筈の新造までもがその場に結構元気に現れてゐるどさくさ紛れに対しては、流れ的に当然の如く恒か栗子が、ツッコミを入れるべきポイントではあるまいかとも思へるのだが。


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 「若義母 むしやぶり喰ふ」(2009/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・山口大輔/原題:『黒い捩子』/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/監督助手:櫻井信太郎・エバラマチコ/撮影助手:宮永昭典・高橋舞/スチール:佐藤初太郎/音楽:與語一平/現像:東映ラボテック/出演:AYA・かすみ果穂・若林美保・倖田李梨・サーモン鮭山・佐藤玄樹・岡田智宏・岩谷健司・牧村耕次)。
 AYAのモノローグで開巻。生き方には二通りあり、誰のために生きるかは自分で決め、何のために生きるかは、この胸が決めたさうだ。
 小奇麗な暮らしぶりが、逼迫してゐるやうにそもそも見えない点が弱い今野家。家長の春樹(牧村)は、現役時代にはワンマン経営も振るつたネジ製作の町工場「今野精機」―大田区蒲田に現存、ロケ地か―倒産後、肉体的にもリタイア。現在は心を閉ざし、寝たきりの状態にあつた。長男の潔(岡田)は家が借金を抱へたゆゑ営業職に転職するも、慣れない仕事に荒れ妻の佳奈(かすみ)を暴力的に抱く日々。佳奈は病身の義父を甲斐甲斐しく看護する、今野精機の元従業員で自らと歳も変らない春樹の後妻・清美(AYA)に、鬱屈の矛先を向けがてら辛く当たつた。そんな清美を、次男で昼間はスーパーで働きながら夜間大学に通ふ、志郎(佐藤)は道ならぬ恋情も込み込みで擁護する。倖田李梨とサーモン鮭山は、潔の嫌味な上司。竹洞組平素の悪ふざけは一切排し、憎まれ役を憎たらしく好演する。暮らしの先は見えないにも関らず、佳奈はそれでも潔の子供を妊娠する。追ひ詰められアンケーターのバイト中遂にブチ切れた佳奈は、今野精機元工場長の中堂英一(岩谷)を文字通り抱き込み、邪魔者を纏めて片付ける、直截に犯罪的な姦計を巡らせる。
 陰々滅々とした昼メロ導入部のやうな物語は、やがてサスペンスの黒い口を開く。全篇を通して終始メリハリを欠き、ノッペリと一本調子に明るすぎる、あるいは軽すぎる撮影は劇中世界の醸成と観客の移入とを妨げつつ、余計な小ネタに走らず久し振りに正攻法に徹した点に関してはひとまづ高評価。潔の、終に馴染めないネクタイの使ひ方に見られる、尺を大きく跨いだ丹念さはいゝ意味での竹洞組的で、レイプまがひながらも毎晩夫に抱かれる佳奈が、最大距離でそれどころではない同世代の義母に対し、女としての充足をひけらかす件にはドラマチックな充実が漲る。何よりも特筆すべきは、救ひのない展開を開放に転ずるでなく、更なる暗黒に叩き込む大転換の力点に、実は清美の母親・水沢亜由美演ずる若林美保の、溜めに溜めた唯一の出番にして濡れ場を持つて来た構造が、実にピンク映画的で素晴らしい。同時に反面、志郎が弾みで清美を刺した筈を大胆に放棄した無茶や、佳奈と潔の去就に顕著な後半の性急な粗雑、志郎と清美の情交に際しての携帯の扱ひにもらしくない甘さ―志郎の肘が、携帯を小突いてゐる、そこで気づくだろ―が見受けられる。久保田泰也と同じプロダクション所属といふので事前には勝手に危惧した佐藤玄樹も、一方的に翻弄される枯葉の如き、一種の道化役を十二分に健闘してゐる。着痩せするタイプなのか、脱ぐと意外な体の緩みが酷いけれど。そんなこんな、良きと悪しきが綺麗に同居した一作ではある。
 とこ、ろで。いはずもがなに触れておくと、今野には少し輪をかけて、清美と潔を間に挟んで志郎とで、当年五月に亡くなられた忌野清志郎が完成する、合掌。となると同時に、中堂英一は仲井戸麗市の変形と見てまづ間違ひなからう。

 己の間抜けな節穴ぶりを憚りもせずにひけらかすが、詰まるところ、冒頭の独白の意味はよく判らない。開き直ればその強度不足は、今作に象徴的なものともいへまいか。


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 「新妻の味 ONANIEと覗き」(1992『ザ・裏わざONANIE』の2010年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:亀井よし子/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:国沢実/監督助手:石田孝/撮影助手:片山浩/照明助手:新井英夫/音楽:レインボー・サウンド/出演:麻川梨乃・本田美希・松田恵子・石神一・吉岡市郎・久須美欽一)。
 新婚の中田家、前夜の営みをタップリと通過した上で、夫の幸男(石神)は新妻の杏里(麻川)を残し、三日間の地方支社出張へと向かふ。表に出て幸男を見送る杏里に、御近所の清水聡(吉岡)が声をかける。ヌメヌメした好色さを漂はせる、吉岡市郎はなかなか得難いキャラクターだ。清水が自らに向ける邪欲に気付かない杏里に、清水の妻・晶子(本田)から電話が入る。出張美容師を呼んでゐるので、遊びに来ないかといふのである。そんなこんなで杏里も同席した清水家に、近所の主婦連に大評判の出張美容師・カール太田(久須美)登場。カール太田・・・・コントかよ。尤も、特にカール的なギミックが施されるでなく、若い以外は何時もの久須美欽一。カール太田は晶子の髪を整へると、目を丸くする杏里の前で躊躇みもせずにいはゆる“逆ソープ”サービスを提供。要はカール太田はさういふ業態の、半ば男娼であつた。折角セットして貰つたスタイルが、直ぐに乱れてしまふのは気にするな。後に起こる事件に対するリアクションに照らし合はせると、意外にも思へる気軽な素直さで、杏里は晶子に勧められるまゝに翌日カール太田を予約する。そして当日、亭主の居ぬ間に若妻が家に連れ込んだ間男といよいよ事に及びかけた時、カール太田に、次の予約客の田口妙子(松田)から電話が入る。営業トークとはいへ、目の前の自らはさて措き妙子に愛を囁くのに匙を投げ、杏里はカール太田を追ひ出す。ところで、妙子の部屋に貼られた馬鹿デカい「赤い光弾ジリオン」(昭和62)のポスターと、カール太田が美容師道具、と淫具とを入れ持ち歩くトランクに内臓式の、携帯電話は大いに時代を感じさせるアイテム。杏里の部屋で鳴つた電話にカール太田が何気なく出るので、一瞬新田栄の名前に引き摺られ、清々しい頓珍漢を仕出かしたのかと思つた。
 夫が家を空けた三日間の、若妻のアバンチュール。当初はライトな肌触りにも思はせておいて、不能を打開するためだとか大胆不敵といふか犯罪的に傍迷惑な方便―現に犯罪でしかないのだが―にて、ストッキングで覆面を施した清水は杏里を強姦。役立たずにもすつかり事後駆けつけたカール太田は薮蛇に杏里と距離を縮め、駆け落ちするだのしないだのといつた方向に転がる展開は、実は伏線も敷設済みであるとはいふものの流石に予測不能。そこに幸男が、旅支度を整へる杏里の前に予定を早めて帰宅。超絶に不自然な妻の風情に、頼むから幸男は触れて呉れ。ニュース番組テーマ曲のやうな劇伴鳴る中、―カール太田との待ち合はせ―に「行かせて!」と、夫婦生活に際しての「イカせて!」のダブル・ミーニングなどといふ、コロンブスの卵的な荒技を駆使する締めの濡れ場は、切ないのと扇情的なのと、激弾きされる琴線をどちらに振ればよいものやら戸惑ひも禁じ得ない、意外な名シークエンス。事実上杏里にフラれた格好のカール太田は駅から寂しげに姿を消す一方、満足気にシャワーを浴びる幸男に対し完全に箍の外れた格好で狂乱する杏里のエクストリームな自慰で、必ずしも綺麗に纏められてはゐない起承転結を振り逃げる。エレファントカシマシの宮本浩次似ながら、絶妙に当時風のアイドルの香りも残す主演女優を筆頭に、製作年次と新田栄作である点を鑑みれば奇跡的なラックにも思へるが女優三人がそれなりに粒揃ひゆゑ、変則的な構成の妙を見せる一作を、まあまあ楽しんで観てゐられる。但し甚だしく大きな疑問を残すのが、回復し晶子との夫婦仲を修復しすらした、清水に些かの懲悪も加へられない娯楽映画としてのバランスの悪さ。そもそも杏里とカール太田を結びつける目的のギミックとしてならば、清水の凶行は別に未遂でも構はなかつた筈ではなからうか。

 旧題にあるONANIEの裏技に関しては、カール太田排斥後に杏里は蒟蒻を持ち出し、一方カール太田を迎へ入れた妙子は、泥鰌を用意してゐたりする中盤で律儀に回収する。食べ物と生き物を粗末にしてばかりである、後にちやんと腹に入れたのかも知れないが。


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 「義母・不倫の日々 息子をナマづかみ」(1995『義母と息子 不倫総なめ』の2010年旧作改題版/企画・製作:オフィス・コウワ/提供:Xces Film/脚本・監督:佐々木尚/プロデューサー:高橋講和/撮影:松尾研一/照明:斉藤久晃/編集:金子尚樹/製作担当:堀田学/撮影助手:木戸信明/照明助手:小倉義正/助監督:佐々木乃武良/音楽:伊藤義行/効果:協立音響/出演:小泉ゆか・南英司・瀬川稔・水鳥川彩・憂木かおる)。ロストしたのではなく、セカンド助監督のクレジットは初めからない。
 すつかり上機嫌に酔つた、「月刊マンデー」記者の高井順子(小泉)と、上司で副編集長の木田京一(南)。娘は居るが妻は居ない木田は勢ひに任せ未亡人である部下に求婚するが、順子は大学三年生になる血の繋がらない息子・修(瀬川)が卒業するまではと、態度を保留する。順子の亡夫と、木田が現在独り身でゐることの理由に関しては、清々しく一切通り過ぎられる。純然たる濡れ場要員ぶりを咲き誇る水鳥川彩は、その夜順子にフラれた木田が抱く、セフレの三木満ちる。泥酔して帰宅した順子は、部屋まで担ぎ込んで呉れた修の前で服を脱ぎ始め、実は十歳の時に亡父が再婚して以来、義母に道ならぬ恋情を寄せる義息を喜ばせる。一方、修は木田の娘の、麻美(憂木)と交際関係にもあつた。両親同士が再婚した場合、自分達は兄妹になつてしまふことになると、二人はさして深刻になるでもなく受け止める。
 ポジションにしては比較的に珍しく、序盤に登場して以降全くそれきりの水鳥川彩はさて措いて、さういふ交錯する高井母息子と木田父娘の関係性を説明したところで、そこから先お話がどのやうな展開を辿るのかといふと、水増し気味の濡れ場が連ねられる中を、僅かな繋ぎのカットが劇映画の体裁を辛うじて保つて行くばかり。その癖、感動的に枝葉に過ぎない、順子の仕事ぶりに変に尺を割いてみせる辺りは御愛嬌。この件に登場する、都合四名のその他出演者と、後述するラストに見切れるウェイター役は何れも不明。話を戻していはばイントロダクションだけに止(とど)まり満足なストーリーの存在しないやうな一作ではあるが、女優三本柱が綺麗に機能してゐることと、妙に水準の高い撮影にも支へられ画面の構成はしつかりしてゐる為、仮に何処で中座したとて欠片も困らない気軽な裸映画としては、意外と満足して楽しませる。もしもそれが狙つて辿り着いた地平であるのだとするならば、一見ルーチンワークに偽装された、それはそれとして実は極めて高度に設計された、プログラム・ピクチャーのステルシーな到達点ともいへるのではあるまいか。さういふ牽強付会は兎も角、消費主義的といふ意味に於いて、少なくともポップではあるやうに思へる。

 ラスト・シーンは、順子と高井が再婚を決め、新しい四人家族が、レストランのテーブルに横一列に並び会食する。ところがテーブルの下では、木田は順子の、修は順子と麻美の太股にそれぞれ手を伸ばしてゐたといふ桃色家族ゲームは、左から高井・順子・修・麻美と座つた位置関係を、後ではなく先にロングで抜いておいて、もう少し明確に見せておくべきではなかつたらうか。


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 「極淫セックス 噛む!」(1998『超いんらん 姉妹どんぶり』の2010年旧作改題版/製作:国映/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:朝倉大介/撮影・照明:清水正二/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/監督助手:佐藤吏・横井有紀/撮影助手:飯岡聖英/照明助手:広瀬寛巳/録音:シネキャビン/スチール:津田一郎/タイトル:道川昭/現像:東映化学/Special Thanks:三国コキジ・赤木都・木村健二・西山亜希・横須賀紫緒・?大木板朗・福俵満・ひとみ・よしぴょん/出演:水原かなえ・吉行由実・東麗菜・佐々木恭輔・佐野和宏・神戸顕一/Special Guest Star:清水大敬)。今作のシナリオ題は「月光の食卓」で、2002年一度目の新版公開時の新題は「美人姉妹 淫らな夜」。更にはリリース年次がよく判らないが、「背徳の館 姉妹いぢり」なるビデオ題もある。館といふほどの館では、特にどころか全然ない、何せロフトに模した倉庫に過ぎないからな。
 ゴゴーゴゴーと、工場地帯に鳴る不協和音のやうなSEに乗せてタイトル・イン。本篇明けると浴室に、シャワーの湯を浴びながら絶命する血塗れの女が。被害者の女はスナック従業員の佐伯久美(東)、無惨にも久美の性器は噛み切られてゐた。取調室、背後で斉藤(神戸)が調書を取り、長谷川(佐野)が久美殺害の容疑者で大学院生の、朝倉和彦(佐々木)を取り調べる。未だ自身が置かれた状況を呑み込めてゐない朝倉ではあつたが、仕方なく、事こゝに至るまでの顛末をぽつぽつ語り始める。
 三ヶ月前、朝倉家の向かひのロフトに、黒尽くめの美人姉妹が越して来る。ポップに関心を持つた朝倉は、拾つた赤いワインオープナーを届けがてら、姉妹に接触する。妖艶といふ言葉が超絶に相応しい姉が、ワイン関連の職に就いてゐるとかいふ黒谷月美(吉行)。対照的に可憐さを感じさせる妹の真夜子(水原)は、病弱で姉に養つて貰つてゐるとのこと。妹との距離を近づけた朝倉は、久美が働く行きつけのスナックに誘ふも、カクテルに口をつけた真夜子が早速体調を崩してしまつたりしつつ、遂に体を重ねる段まで漕ぎつける。ところがその際にも真夜子は、唇の皮膚が弱いだの称して、朝倉の接吻だけは頑として許さなかつた。そんな折、朝倉の部屋を訪ねた月美が、妹の男をコロッと寝取る。朝倉も朝倉だが、吉行由実に迫られてはまあ仕方がない。逆の状況で、水原かなえ(デビュー作/現:水原香菜恵)から言ひ寄られた場合にも、全く同じ着地点の感慨に落ち着きさうな気もするが。月美の場合は自ら唇を寄せると、あらうことか朝倉の唇に歯を立てる。口元に付着した朝倉の血液を、月美は拭ひすらしなかつた。その時以来、朝倉の体に異変が生じる。水を飲んでも飲んでも決して癒されない激しい渇きに襲はれ、更には男女の別すら隔てない、猛烈な性衝動に見舞はれる。
 最も近くには渡邊元嗣の「異常交尾 よろめく色情臭」(2009/脚本:山崎浩治/主演:鮎川なお・真田ゆかり)が挙げられるであらう、吸血鬼ピンクの最高傑作として推す声も高い一作。成程、抗へど抗へど抗へきれないバジェットの決定的な差がそれでも残されるのか否かに関しては議論も分かれようが、細部に至るまでの完成度は抜群に高い。兎にも角にも、画期的にフォトジェニックな美人吸血鬼“偽”姉妹の水原かなえと吉行由実が素晴らしい。映画に必要なものは何ぞやといふと特撮とアクションは一旦兎も角もう一つは女の裸で、なほかつ女の裸といへば、まづは何はともあれオッパイだ。我ながら何をトチ狂つた筆を滑らせてゐやがるのかよく判らないフリをするが、全身を黒で固めた二人が街を行くビジュアルは、それだけで震へるほどに映える。陰惨な凶行でいの一番に観客の度肝を抜いておいて、以降取調べを受ける容疑者の供述といふ形で、始終をトレースする手堅い構成も丹念に形を成してゐる。真夜子は未成熟な個体ゆゑ、月美のやうには日中に於ける活動の自由度が高くはないといつた設定や、種族の掟で、月美と真夜子が真夜子にとつては依然心を残さぬでもない朝倉を捨ててでも、九十日毎に住居を改めなくてはならない、といつた小ネタの数々も何れも有効。月美が真夜子の男を奪つてしまふのはまゝある茶飯事らしく、諍ふ中で悪びれるでなく月美が投げる捨て台詞、「大した男ぢやないぢやない、あんなのがいゝの?」。実際にさうであるのかも知れないが、まるで吉行由実のためにアテ書きされたかのやうなハクい名台詞。そして噛まれた人間が見せる感染症状の一例といふ方便での、ヘテロでなければホモでも構はないセクシュアルの全方位外交に対しては、のんけピンクスの身としては別に喜びはしないが、薔薇族方面にも果敢に越境してみせたピンクの勇敢な貪欲さと評価したい。いふまでもなく、このギミックがラスト・シーンをそれはそれとして甘美に、あるいは絶望的に締め括る、更なる衝撃の呼び水を果たす決定力のある秀逸さには、諸手を挙げて賞賛するほかない。

 Special Guest Starとして別枠も設けられる清水大敬は、消耗し街を彷徨ふ朝倉が巡り会ふ薔薇要員。良きにつけ悪しきにつけ濡れ場に際するこの人の馬力は、相手が順当に女であれさうではなく男であれ、清々しく違和感を感じさせない。清水大敬が、あるいは清水大敬も同属であるのか、単なる素晴らしく嗅覚の鋭い人―間―であるのかは描かれない。結構潤沢なSpecial Thanks部は、主に久美が働くスナック店内に見切れる皆さん。台詞もそこそこ与へられるヒロミ似の朝倉友人・タカシ役が、誰なのかは判らなかつた。最後に一点、朝倉による久美噛殺の模様は、大胆にもネガ反転で逃れやうのない安普請を切り抜ける。これが意外と、プリミティブな方法論が結構サマになつてゐる。何と、この件が反転してゐないバージョンもあるらしいのだが、それが何処で、どのやうな形で観られた―もしくは見られた―ものなのかは知らない。


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 「不倫旅行 恥悦ぬき昇天」(2009/製作:《有》幻想配給社/提供:オーピー映画/脚本・監督:友松直之/撮影:百瀬修司/照明:太田博/助監督:安達守・林雅之・菅原正登/撮影助手:大賀明義・鈴木聡介/メイク:江田友理子/スチール:山本千里/制作:池田勝る/編集:酒井正次/出演:亜紗美・山口真里・しじみ・藤田浩・如春)。
 確か女の方は有休を取つたとかいつてゐた割には、大胆にも社用のライトバンで温泉旅館へと向かふ、一組の男女。助手席の女は「オーピーリース」OLの沢村恵美(亜紗美)で、運転する男は同じ会社に勤める不倫相手の山田宏(藤田)。離婚する離婚すると口では繰り返す癖に、妻は次の子供を出産間近であつたりする山田と、恵美は別れる腹づもりでゐた。男女関係に際し山田がひけらかす、この期に俗流利己的遺伝子論に関しては苦笑も禁じ得ないがそれはさて措き、運転中に助手席から尺八を吹いて貰つてゐたカップルの車がクラッシュ。弾みで一物を噛み千切られた男は失血死し、女はその棹を喉に詰まらせ窒息死。以来、事故現場には失はれた男性自身を探し求める男の幽霊が現れる、などといふバッド・テイストな話をした上で、全く同じシチュエーションにも関らず山田は平然と恵美に口唇性行を乞ふ、どういふ神経をしてをるのだ。運転席の男の股間に顔を埋めた亜紗美の、窓に向けて突き出す格好になつた肉感的な尻が、抜群にいやらしくて素晴らしい。案の定車は危なつかしく蛇行しながらも、ひとまづ目指す矢野屋旅館に到着した二人を、若旦那の健司(如春)が出迎へる。宿に着いたら着いたで、入浴を主張する恵美と食事を求める山田とは早速対立。無作法な山田の喰ひ散らかし方に完全に臍を曲げた恵美は、一人で風呂に入りに行く。浴室でざんばら髪の女の幽霊を見た、恵美が上げた悲鳴に慌てて健司が飛び込んで来る一方、部屋で一人料理と酒に舌鼓を打つ山田を、女将の明美(山口)と、明美の妹で女子高生の沙織(しじみ/ex.持田茜)が歓待する。ところが不思議なことに、山田から健司の話を向けられた明美は、自分には確かに弟は居たが、既に死んでしまつたといふ・・・・
 普通に映画にせよ小説にせよ、物語に触れる習慣のある者ならばまあ途中でオチは読めてしまふであらう、いはゆる“意外な真相”とやらを丁寧に形にした、スマートな幽霊映画である。後述するがてんこ盛りの濡れ場でなほかつしなやかにストーリーを展開させつつ、六十分でネタを明かせて綺麗に映画を畳み込む。山田と恵美が、彼岸からの手招きに対し「行つとく?」、「しやうがないみたい・・・・」と終に観念するラスト・ショットに際しては亜紗美の、無愛想であると同時に色つぽい、独特の口跡がさりげなく火を噴く。ふざけたコントのやうに全篇を飾らない、効果のない効果音にさへ耳を塞げば、実はこれまで絶妙に作品に恵まれなかつた亜紗美にとつて、五作目(後藤大輔の『新・監禁逃亡』もカウントすれば六作目)にしてピンクに於ける初日が出たともいへるのではなからうか。

 磐石な構成に加へて今作の白眉は、オーピー前作「わいせつ性楽園 をぢさまと私」(主演:無月レイラ・野上正義)にも見られた方法論を更に前に推し進めた、浴室の恵美×健司に、居室の明美×山田×沙織。交錯する二組の絡みが次第にエスカレートして行く、クロスカンター濡れ場が圧倒的に素晴らしい。まづは入浴中といふことで勿論既に全裸の恵美が火蓋を切り、山田にカメラが戻るや、いきなり姉妹丼を完成せしめてゐたりする大飛躍で猛加速。以降居室と浴室の間をカットが切り替る毎に、煽情性のレベルを徐々に上げて行くと共に、予め終りかけた恵美と山田の男女のドラマをも進行させて行く一連の完成度は比類なく、正しくピンクで映画なピンク映画といふべき決定的な名シークエンス。松岡邦彦がエクセスと命運を共にする気配を漂はせないでもない中、目下のピンク最強は、渡邊元嗣でなければ友松直之に違ひあるまい。


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