真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「兄嫁の谷間 敏感色つぽい」(2008/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:新居あゆみ/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/スチール:小櫃亘弘/監督助手:江尻大/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/選曲:梅沢身知子/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック/出演:平沢里菜子・久保田泰也・倖田李梨・華沢レモン・なかみつせいじ・深澤和明・牧村耕次)。
 資産家の父・水沢太一(牧村)は既に寝てゐるのをいいことに、隣家の未亡人・日野ゆかり(倖田)がニートの翔太(久保田)に逆夜這ひを敢行する。互ひに暇を持て余し関係を持つやうになつた二人ではあるが、ゆかりから妊娠した旨打ち明けられた翔太は、俄かに懼れをなす。事後、「今の状況から逃げる訳ぢやない」、「これは俺にとつての新しい旅立ちなんだ」だとか何とか、未だ眠る―フリをした―太一の枕元に調子のいい決意をホザくと、東京へ直截にいふと矢張り逃げる。開巻早々、自堕落にもほどがある主人公に、海の底よりも暗い暗雲が垂れ込める。映画の底も、既に抜けてゐる。
 コンビニすらない田舎からひとまづ上京を果たした翔太は、早速都会の洗礼を受けたとでもいふ格好なのか、肩のぶつかつたヤクザ(深澤)にノサれ、入院する程度の怪我を負ふ。退院の日を迎へるも―退院を告げる看護婦の声は、新居あゆみか?―持ち合はせに欠く翔太は、太一と反目し、故郷を捨てた兄・陽一(なかみつ)を頼る。兄貴に合はせる顔がないと頭を抱へる翔太を迎へに来たのは、幼馴染の薫(平沢)であつた。驚く勿れ、陽一は郷里の家族にも報せぬまゝに、薫と結婚してゐたといふのだ。といふ次第で陽一宅に転がり込んだ翔太が、今は兄嫁である薫にのんべんだらりとした妄想を膨らませる辺りは、チッとも面白くはなくとも、最終的にはそれでも未だ致命的ではなかつたのだ。
 とりあへずバイトの面接を受けに行く翔太に、田舎者を案じるといふ方便で、薫が同行する。まんまと面接には落ちた翔太を、薫はブラブラするだけのデートに誘ふ。華沢レモンは、薫が食べる物を買ひに離れた際に翔太が目撃する、陽一の不倫相手・赤坂ゆりあ。薫は陽一にとつて、実は二人目の妻であつた。前妻のサチコ(一切登場せず)から、薫は陽一をいふならば略奪したのだ。加へて実は実は、ゆりあは陽一と、陽一がサチコと一度目の結婚をする前から関係を持つてゐた。トップに立つのは不安だ、即ち自分は二番手以降の女でいいと嘯(うそぶ)くゆりあに、陽一はトップに立つてみる気はないかと向ける。藪から棒に、陽一は薫も捨てての、ゆりあとの再々婚を考へてゐた。さうかうしてゐる内に、電話は取らない翔太に、ゆかりから太一が倒れた急を告げるメールが届く。それでも頑なに帰郷を拒む陽一には業を煮やし、一人で帰らうとした翔太に、薫もついて来る。
 孕ませた女を捨て東京に逃げて来た弟と、内緒で二度も結婚しておいて、しかも二度目の妻も捨てようとしてゐる兄。血が繋がつてゐる以上、得てして実際にはさういふものであるのやも知れないが、斯くも暴力的にいい加減な兄弟が主人公とあつては、正直開いた口も塞がらない。入念にも二段構への棚牡丹のアシストを借りつつ、最終的には終始受動的な翔太がどういふ了見だか辿り着いたハッピー・エンドも、たとへ呑気な男客の怠惰な妄想を具現化するのも時には許されようピンク映画とはいへ、幾ら何でも物事には限度といふものもある、これでは凡そお話にならない。かうも箍の緩み切つた惰弱な無駄話よりは、名物博士の珍発明でダメ男が出し抜けに美女にモテモテになる類の、阿呆な与太話の方がまだしも百兆倍マシであらう。全ての物語は、心貧しき者のためにこそあるべきである。さういふ過言を、当サイトは一欠片の躊躇もなく振り抜ける。かつて福田恆存は、日本一の名評論『一匹と九十九匹と―ひとつの反時代的考察―』(昭和二十二年二月)に於いて、“なんじらのうちたれか、百匹の羊を持たんに、もしその一匹を失はば、九十九匹を野におき、失せたるものを見いだすまではたずねざらんや”といふ新約聖書ルカ伝の一節を引いた上で、かう述べた。 “文学にしてなほこの失せたる一匹を無視するとしたならば、その一匹はいつたいなにによつて救はれようか”。甲本ヒロトもかう歌つた、“君が救はれないんなら 世界中救はれないよ”。物語が心貧しき者のためにこそあるべきものであつたとしても、だからといつて、その物語自体が貧しくては困る。前作に続かなくともよいのに続き、これで2008年関根和美は、救ひやうもない愚作を二連発してしまつた格好になる。全く、勘弁して欲しいところである。久保田泰也のイケ好かないチャラ男ぶりが、噴飯通り越して憤慨ものの今作に、注がなくともよい油を更に注ぎいはば止めを刺す。大体ああいふチャラケた腰抜け風情が昨今何故か持て囃されるのは女子供の悪弊で、俺達には関係ないどころか逆効果でしかないやうに思はれるのだが。

 蒸し返すと暴威の初代メンバー(Sax)である深澤和明(当時は深沢和明名義)は、徹頭徹尾ヤクザが翔太に怪我を負はせる短いシーンにのみ登場。ポスターにも本篇クレジットにも、名前の記載は見られる。ヤクザが翔太の肩口を掴まうとして掴み損ねたカットを、関根和美はどうして撮り直さないのか。


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 「SM女医 巨乳くひ込む」(2003/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影監督:小山田勝治/助監督:竹洞哲也/監督助手:成松裕妃/撮影助手:大江泰介・及川厚/音楽:レインボーサウンド/機材:シネオカメラ/出演:山口玲子・酒井あずさ・鏡麗子・兵頭未来洋・なかみつせいじ・飯島大介・丘尚輝)。
 開業医の里中美弥子(山口)が、患者・工藤心(兵頭)を診察する。傍らに見切れる看護婦は、定石からいふと成松裕妃か。成松裕妃といふ、グーグル検索してみても何も出て来ない人が女だとして。さういふ画面の端々に立つ人物の顔のよく見えない辺りが、プロジェク太上映はどうにもかうにも心苦しい。遠くそれ以前の、問題であることはいふまでもないが。その日の診察時間は終了後、美弥子は親友の夫にして、不倫相手の志水恭司(なかみつ)と診察室にて情事に戯れる。なかみつせいじが振り抜く大時代的な色男ぶりは、今作のさりげない出色。その折に、ちやうどジャスト・ミートで夫との不仲の悩みを打ち明ける電話を美弥子にかけて来つつ、結局その親友とやらの理恵が、姿はおろか声すら聞かせることは以降全篇を通して半カットたりとてない。別れ際、美弥子と志水はエレベーター前でキスを交す。志水を見送つた美弥子に、心当たりのない人物からのメールが届く。添付された画像を目にした美弥子は驚愕する、今しがたの、美弥子と志水のキス現場を捉へた写真であつたのだ。謎の人物は、画像をネタに美弥子を脅迫する。といふか、その時点で犯人は、その気になれば捕まへられるくらゐの恐ろしく近くに居る訳なのだが。よくよく考へてみたならば、そこかしこにフラグは既に立つてゐたといへよう。
 丘尚輝は、美弥子が往診する、戦場にて全身不随の重傷を負つた従軍ジャーナリスト・原田敬太。酒井あずさは、傍目には献身的に夫を看護する、原田の妻・ますみ。原田から、ますみに虐待されてゐることを訴へるメモを手渡された美弥子は、気の迷ひだと一笑に付す。然し往診後フと気になつた美弥子が屋内を覗き込んでみると、原田のいふ通り、ますみは自由の利かない夫の、何故かそこだけは普通に元気な肉棒を弄んでゐた。光景に目を奪はれた美弥子は、何がどうスッ転んだものだか、自らがますみに陵辱される幻想を見る。幻想の中で美弥子が達すると挿入される、てんてんと手毬が転がるイメージ・ショット。堅実な娯楽作家の筈の加藤義一にしては、正体不明の演出に戸惑はされる。
 美弥子は脅迫メールの一件を志水に相談する。暫く距離を置かうとか何とかいひながら、二人は相変らず別れ際には昼間屋外の路上であることも憚らぬキスを交す、こんならは“危機意識”といふ言葉を知らんのか。早速その現場も再び目撃した旨の電話を受け取つた美弥子は、姿は見せぬ謎の脅迫者の指示の下、路上での放尿を強ひられる。後に、終に美弥子の前に姿を現す段にはプロレス風のマスクも着用した“謎の脅迫者”、とはいへ。特徴ある声でそれが何者なのかは瞬時に看て取れてしまふ辺りも、最早どうもかうもない。そもそもそれは、入れ替り立ち替る女優勢に比して、男優数の著しく少ないピンク映画にとつては、構造上の問題ともいへる。
 一応謎のつもりの脅迫者に、美弥子は全裸緊縛され秘部には淫具を宛がはれた状態で、スーツケースに詰め込まれ新宿に連れ出される。飯島大介は、都庁側(そば)にてその状態のまま放置された美弥子が唐突に回想する、“忘れた筈の、私の記憶”とやらに登場する近所のをぢさん・梶山吾一。ム所にでも入つてゐたのか、暫く姿を消してゐた梶山は高校生に成長した美弥子の前に再び現れると、美弥子を捕縛。目前で繰り広げた情婦・宮崎朱美(鏡)との情事に下着を濡らしてしまつた美弥子を、梶山はお仕置きする。正直何しに出て来たのかよく判らない飯島大介ではあるが、梶山がノーブラ・ブラウスの美弥子を水責めするシーンに於いて見せる、嬉々とした猟色は流石の貫禄。再び遡ると即ち、ますみ篇に挿み込まれた手毬が転がるイメージも、美弥子の梶山との記憶に繋がつて来るといふ寸法か、実質的にはまるで繋がつてもゐないのだが。
 とか何だとかいふ次第で、責め師を設けぬSM(風)描写と同様グダグダな始終のままに、梶山に仕置きされた原体験を基に被虐に目覚めた美弥子が、再度のお仕置きを求め脅迫者の目前で開き直つたかの如き志水との情事を披露する、といふ展開は綺麗にてんで纏まらない。事ここに至ると奇妙な清々しさすら感じ、腹も立たねば呆れ返りもしないのは、単に私が偶々リミット・ブレイクに疲れ果ててゐたからに違ひない。そのまま、<兵頭未来洋>唯一の持ち芸ともいへる、どうしたらいいのか途方に暮れ今にも泣き出しさうな情けない表情のアップで、ザックリ終つて呉れてゐてもこの際構はなかつた。ともいへ今度はスーツケース宅配といふ大掛かりなプレイの為に、美弥子を詰め込んだスーツケースを手にコンビニに消える脅迫者のロングから、逆パンしたカメラが特に美しくもない東京の空を通り過ぎて都庁を抜く、といふ更にどうでもいいショットで映画は締め括られる。
 重量級の煽情性を炸裂させる、山口玲子の濡れ場はそれなり以上に見応へがある。ものの昨今の、オッパイはそのままに無駄肉を落とし更に攻撃的に進化した最新型を知る目からは、この時期の山口玲子は矢張り些か太い。

 以下は再見時の付記< 美弥子の診察室に見切れる看護婦は、見覚えのある顔でもない為、矢張り成松裕妃ではないかとしか思へない。それと、美弥子は一体何時までトランクを借り放しなのか、中も汚してるし。


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 「美尻誘惑 公衆便所のいたづら」(1999『公衆便所 私いたづらされました』の2008年旧作改題版/製作:ネクストワン/製作協力:THE PSYCHEDELIC PLASTICRAINS/提供:Xces Film/監督:瀧島弘義/脚本:五藤利弘・瀧島弘義/企画:稲山悌二/製作:秋山兼定/撮影:林誠/照明:多摩三郎/編集:冨田伸子/音楽:齋藤慎一/助監督:羽生研司・野尻克巳・高田亮/照明助手:金森由夫/撮影助手:堂前徹之、他三名/メイク:おかもと技粧/出演:森本みう・嶋田いち子・吉行由実・佐野和宏・森羅万象・浮部文雄・坂井康浩・和戸田智生、他四名/友情出演:工藤翔子)。出演者中、和戸田智生以下は本篇クレジットのみ。
 繁華街を通り抜けた女子高生・みどり(嶋田)が、公衆便所に入る。ひとまづ鏡を覗き込んだみどりが個室へと体を向けると、鏡の中には、長身の女装の男“あいつ”(佐野)の姿が。ここの佐野和宏の見切れ方が絶品、映画全篇の高い強度を予想させる。用を足すみどりは、個室に侵入して来た“あいつ”に犯される。・・・といふ書き出しの、女流作家・高木彩乃(吉行)の自伝的官能小説。和戸田智生は、眺めの格別な高層ビルの喫茶店にて彩乃と打ち合はせする、『文芸サロン』誌の編集者・掘野。綾乃は掘野を前にしながらフと、自らの太股に大勢の手が這ふ幻想を見る。この幻想は、別段なくて構はないやうにも思へる。自宅に戻り、ノートPCで執筆中の綾乃に、文壇の重鎮・玉城(森羅)より呼び出しの電話が入る。物憂げに電話を受ける彩乃、カット変ると、新進作家のミキ(森本)がホテルに向かふ。ミキを出迎へたのは玉城と、『文芸サロン』誌編集長・辻(浮部)に、玉城の書生・荒井(坂井)。ミキは荒井がビデオカメラを回す中、玉城と辻とに抱かれる。業界での地位の確立のために、若い女がその身を慰みものにされるといふ寸法である。主演の森本みう、程好い肉付きには反比例するともいへる少女のあどけなさを残した容貌は、薄汚い男供に蹂躙される可憐な役柄に麗しくフィットする。ミキが自らの姿を投影した綾乃の小説の劇中人物であることは、ファースト・カットから教へておいて呉れて良かつたやうな気もするが。綾乃が玉城に呼び出されてから直ぐにミキが矢張り玉城の下へと向かふゆゑ、幾分混同あるいは混乱を禁じ得ない。かういふ点は、実際に現場で作業に当たる分には判り辛くもあらうが、同時にそこを詰めるのが、娯楽映画に必須とされる論理性なのではあるまいか。
 傷ついた心と体を抱へ帰途公衆便所に立ち寄つたミキは、“あいつ”と遭遇する。意に反してミキから救ひを求められた“あいつ”は、ミキのアパートで二人暮らし始める。
 原体験を持つ作家と作家の小説中の主人公とが、“あいつ”を共有する。求めるものの、終ぞ現し世の地平では“あいつ”と再び邂逅すること叶はぬ作家は、自らの思惑を離れ、“あいつ”と満ち足りた日々を送る小説中の主人公に何時しか嫉妬し始めるやうになる、といふ展開は秀逸。生活感のまるで伴はぬミキと“あいつ”との生活も、メタフィクションであることにより嘘臭さを感じさせない。純化された官能と、幸福感とを美しく醸成する。対して、そんなミキを面白く思はない、女の欲望に激しく飢(かつ)ゑる彩乃のキャラクターには、吉行由実も抜群にハマリ役。“あいつ”をずつと待つてゐるのに、“あいつ”が迎へに来て呉れないのはミキの所為だと、綾乃はいはば逆ギレする。繰り返すが、“迎へに来て呉れない”。さういふ湿つぽく埒は明かず業の深い台詞が、吉行由実には実に様になる。殆ど褒めてゐるのか、貶してゐるのだかよく判らないが。綾乃がミキに試練を与へることにする終盤の転換は、ストレートに盛り上がる。他四名の内二名は、玉城と辻に加へ人数を増してミキを蹂躙する作家先生。ホテルで哀しく“あいつ”に助けを呼ぶミキに対し、俄かにミキのアパートでは、“あいつ”が女装の身支度を始める。すは女装に武装した“あいつ”が、ホテルに乗り込み森羅万象以下五名を血祭りにあげるのか!?といふのは、底の浅い小生の早とちり。そのまま単に昂つただけなのか、何時ものやうに公衆便所に向かつた“あいつ”は、囮捜査官(工藤)に御用となる。他四名の残り二名は、その際登場する男子警察官。
 ミキと彩乃とが“あいつ”を中央に挟んでの、三人のメイン・パートが視覚的にも強靭。妖艶な吉行由実と可憐な森本みうとの対照は、作家と自作中の作家自身を投影した主人公、といふ立ち位置に絶妙に映える。己に具はらぬものをこそ、求めるのであらう。執筆活動を通し女として満たされることを強烈に欲する彩乃にとつて、ここでのいふならば美化は、全く肯ける話である。加へて、一貫して無言のまゝ少々歪みつつも、歪んでゐるからこそなほのことストレートな“あいつ”の色気を銀幕一杯に放散させる佐野和宏も素晴らしい。浮世離れしたミキと“あいつ”の日々に力を与へるのは佐野和宏の質感で、なほかつ、夜空に降る星をミキのために捕まへようとするシークエンスでは、まるで全盛期の大槻ケンヂのやうなピュアな眼差しも見せる。更に今作がピンクとして素晴らしいのは、実用的にも頗る充実してゐる点。男は“あいつ”を相手に、フラッシュ・バックでミキと彩乃が幾度とスイッチする濡れ場には、全体のテーマに即した幻想性と、高いレベルでの即物的な煽情性とが見事に両立する。砂浜での景気のいいロング・ショットは映画的だが、ピンクでは仕方もない安普請にも足を引かれたラストは、確かに少々弱い。そこかしこの細部と詰めとに一練り二練りの余地も残す以上、傑作とまで激賞するには当たらないが、とはいへ十二分に見応へのある力作である。

 ところで。冒頭“あいつ”に公衆便所で強姦される女子高生役の嶋田いち子は、奈賀毬子と同一人物。撮影時期の前後までは判らぬが、1999年当時今作封切りのちやうど一週間後、奈賀毬子としてデビュー作の「アナーキー・インじゃぱんすけ」(監督・脚本:瀬々敬久)も公開されてゐる。因みに、カメオ出演で工藤翔子が囮捜査官といふと、後年「三浦あいか 痴漢電車エクスタシー」(2001/監督:国沢実/脚本:樫原辰郎/主演:三浦あいか)に於いても登場する。


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 「色つぽい義母 濡れつぱなし」(2004『義母と巨乳 奥までハメて!』の2008年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:長谷川卓也/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/出演:山口玲子・水原香菜恵・君嶋もえ・川瀬陽太・本多菊次朗・牧村耕次)。
 新宿を根城にするコンビのスリ・テツ(川瀬)とまるこ(山口)、ある日テツがチンピラ(不明)から掏つた定期入れから、ギザギザに切り裂かれた1$札が出て来る。どうやら、何某かの取引の際に使ふ割符らしい。としたところに、テツに父・乙也(牧村)の後妻・満子(水原)から電話がかゝつて来る。乙也が、惚けてしまつたといふのだ。テツはとりあへず、まるこも連れ実家に帰ることにする。そのことに、思はず喜んでしまふまるこの笑顔が眩しい。
 一方テツに定期入れを掏られたチンピラは、新宿を仕切る大木エンタープライズ会長、要は大木組組長・大木(本多)に吊し上げられてゐた。半分の1$札は、矢張りコカインの大きな取引に必要な割符であつたのだ。そのやうな大事な物を、ドジな下つ端に持たせた己も悪い。君嶋もえは、大木が激昂する毎に文字通りの怒張を咥へさせられる、大木の情婦・圭。割符の奪還に全力を尽くす大木は、やがてテツとまるこの存在を掴む。といふ次第でテツが帰省した翌日、いきなり乙也が正しく急死する中、二人を追ふ大木は、圭と更にチンピラ二人(何れも矢張り不明)を引き連れテツの田舎にまで乗り込んで来る。
 情に厚いタイプを思はせる、山口玲子のキャラクターが活きるテツとまるこの恋模様。急に乙也が惚けてしまつたドタバタ。夫を喪つた満子と、父を喪つたテツとのしんみりさせる家族劇。テツサイドの物語は人情ドラマとして綺麗に纏め上げられたところで、そこに割り込んで来た大木一行が如何様に絡んで来るのか、あるいは、割符が鍵となる運命はテツ・まること大木、果たしてどちらに転ぶのか。といふ展開が当然の如く予想されるところではあつたのだが、これが驚くことに、映画は起承転結でいふとちやうど“転”の辺りで、いきなりドカーンと終つてしまふ、プリントが豪快に飛んだのかと思つた。満子が経営するカラオケスナック「ちよ」を、満子は乙也を看てゐる間、テツとまるこの二人で切り盛りすることになる。テツはまるこの提案で、以前腕に覚えのあるラーメンを「ちよ」で始めることにする。なんて件や、どうでもいい姿の消し方をした割符が、再びどうでもよくテツの手元に戻る挿話など、無くてもいいからブツ切りにされたラストから先を描いてて呉れよ、といふのがストレートな思ひである。その断裁のラストにせよ、陽性のロードムービー風の爽やかな風情は買へるが、そもそも代金も持ち合はせぬのに、割符だけ手に入れてどうするのだ、といふ話ではある。とはいへあまりのことに吃驚させられ、呆れもしなかつた以前に、全般的な感想は、意外なことに満更でもない。最も、といふか唯一演技力に難のある―かも知れない―君嶋もえを寡黙な役柄に押し込んだ機微も光る、ひとつひとつのシークエンスはそれなりに豊かに観させるからである。最終的な出来栄えとしては不可なものの、感触としては可、の一作とでもいへようか。


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 「変態穴覗き 草むらを嗅げ」(2007/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:邊母木伸治/照明助手:田中康文/助監督:横江宏樹・新居あゆみ/協力:丘尚輝/音楽:中空龍/出演:香咲美央・里見瑤子・吉岡睦雄・平川直大・風間今日子・荒木太郎)。
 夜の闇の中、パンティ・ストッキングに満悦する牛さんの着ぐるみを着た里見瑤子といふ、いきなりビートの効いた開巻。
 人気ピンク女優であつたゆり(香咲)は、脚本家の影中暗黒(荒木)と結婚し引退する。無防備なプロットにも思へてしまふのは、私が下衆の所為か。とはいへ暗黒の仕事は遅々と捗らず、経済的に窮乏した夫婦は庭木の葉を揚げた天婦羅ばかりを食す日々を送る。今回山邦紀は内角スレスレのシュートを、終に自分自身に向かつて投げ込んでみせるつもりか。そんなゆりを、ピンク仲間である監督の澄田勇吉(吉岡)や女優の堀川ミナ(風間)、結婚以前からゆりを半ば崇拝視する俳優の箱島笛男(平川)らは心配する。協力の丘尚輝は、撮影シーンに登場するカメラマン、黙して見切れるのみ。同じく現場に姿を見せる女助監督は、ほぼ間違ひなく新居あゆみか。大仰なサングラスで、顔は殆ど隠してゐる。
 古代アナトリア半島に栄えたリディア王国、リディア王カンダウレスは我が妻の美しさをひけらかしたくなり、側近ギュゲスに強要し王妃の裸身を覗き見させる。そのことに気付き、恥辱に震へた王妃はカンダウレスの暗殺をギュゲスに指示。暗殺後、ギュゲスがカンダウレスの妻を改めて娶りリディアの王となつた。といふヘロドトスの『歴史』(まんま登場する)の一節に、暗黒は感銘を受ける。暗黒はパンストを履かせただけのゆりの裸身を激賞する自らの姿に、カンダウレスを重ね合はせたのだ。暗黒は王妃にゆり、ギュゲスには箱島といふ配役を念頭に置き脚本を書き始める。箱島を家に招き、実際にゆりとの夫婦生活を覗き見させた暗黒はフと思ひ留まる。これでは、自分が箱島に暗殺されゆりを寝取られてしまふことになる。それは気に喰はない、といふ次第で。暗黒はギュゲス役には、牛さんの着ぐるみを着たレズビアンでパンストフェチのヘアメイク・潮路マリモ(里見)を想定し直して脚本を改稿する。牛さんの着ぐるみを着たレズビアンでパンストフェチ、そんな人物の登場が些かの疑問も抵抗も感じさせないといふのも、山邦紀映画ならではであらう、まこと稀有な作家である。

 と、夏に小倉名画座にて煮え湯を飲まされた際の導入部を臆面も無く流用しておいて、さてこの度、晴れて念願叶ひ八幡は前田有楽劇場にて再戦を果たしたものである。さうしてキチンと観てみたところが、訳が判らぬといふことはないものの、これが残念なことに結局てんで纏まらない映画であつた。生活者としても脚本家としても破綻した、暗黒が徐々に陥つて行く袋小路。そんな暗黒を文字通りのダークサイドに、今作の場合は吉岡睦雄の即物的な薄つぺらさが上手くフィットする、暗黒のことはさて措き、満足に飯も喰へぬゆりを案ずる澄田やミナを現し世のサイドに置いた対照性。いふまでもなく、地に足の着いた風間今日子の頑丈な安定性も、この対照に効果的に作用する。ゆりへの同性愛も背景に、暗黒に敵意を剥き出しにするまりもや、どうスッ転んだものだか、俄かに暗黒に傾倒してしまふ箱島の姿も、周囲をバラエティ豊かに彩る。夫に半ば匙を投げ、ゆりが自ら脚本の執筆に取り掛かるカウンター。そして、カット明けの台詞一言で片付けられてしまふのは全く弱いが、暗黒がカンダウレス王ではなく、ギュゲスに自らのポジションの落とし処を見出す展開。何れも一手一手としては有効ながら、それらが一本の劇映画として束ねられることは終にない。意表を突いたつもりのラスト・ショットも、物語が体を為さないままでは、まるで形になるまい。「思へないかい?」といふ暗黒の問ひかけで映画は強制終了させられるが、“思へないかい?”ではない。そこは思はせて呉れないと困るのだ。しかも、カンダウレス王からギュゲスへの転移に於いてもいへることであるが、肝心要を易々と全て台詞で語らせてしまつてどうする。開き直つたかの独白は、これで実は潔いのかも知れない敗北宣言にすら見える。とまでいふのは、筆を勇ませるにも程があるであらうか。浜野佐知に脚本を提供した「魔乳三姉妹」にも似た、あれこれ策を弄し過ぎたものの、理に落ちる以前の綺麗な木端微塵に終つてしまつた一作。二作の比較の中では、各々のピース単位では充実も見せる今作の方が、まだしも惜しいといへば惜しいが。


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 「OL日記 あへぐ牝穴」(2003/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏/プロデューサー:池島ゆたか/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:伊藤一平/監督助手:松丸善三/撮影助手:馬路貴子・藤本秀雄/録音:シネキャビン/スチール:佐藤初太郎/現像:東映ラボテック/協力:高円寺ビストロ「K」・《有》オフィスバロウズ・中村美穂・中沢匡樹・《有》ガルウイング・長谷川九仁広・吉野充・宇佐美和彦・BAMBOO HOUSE/出演:佐々木日記・片岡命・色華昇子・山口玲子・柏木舞・真央はじめ・神戸顕一・池島ゆたか)。出演者中、池島ゆたかは本篇クレジットのみ・・・・ではあつたのだけれど、後述する。
 行きつけのオカマバーでママの翔子(色華)と、大学時代軽音サークルの二つ後輩で、現在は取引先の会社に勤める馬場有也(片岡)を相手に、OLの中田礼夢(日記)がポップに頭を抱へる。ここは素直に、「ドリームハンター麗夢」からのインスパイアを看て取つてよからう。話してみろと急かされるも初め拒んでゐた礼夢は、終に重い口を開く。礼夢の奇想天外な悩みとは、「アタシの夢に出て来た人が、アタシと同じ夢を見てる」といふもの。礼夢はオカマバーで、何故だか大嫌ひなオヤジ上司・吉幾多三(神戸)を相手にストリップを披露する夢を見る。明くる朝、悪夢と浅い眠りとに気分の冴えない礼夢の前に現れた吉は、明らかに礼夢のストリップを見てゐた気配を窺はせる。しかも、再び夢の中に出て来た吉の顔を今度は礼夢が思ひ切りひつかくと、次の日の吉は、夢の通り顔中傷だらけであつたといふのだ。まるで取り合はない有也に対し、理解を示す翔子は礼夢に、夢の内容をよく思ひ出してみるやう促す。店で吉を相手に裸で踊る礼夢の艶姿を、翔子も見てゐたのだ。
 歪んだ色男ぶりが狂ほしくハマリ役の真央はじめは、実は言ひ出せない想ひを礼夢に寄せる有也は余所に、礼夢が憧れる有也の会社の先輩・渋川陽平。山口玲子は、夢の中に渋川が登場し礼夢がぬか喜びしたのも束の間、渋川が礼夢ではなく抱く、同僚の雨野晴美。山口玲子は後にも先にも全くの純然たる濡れ場要員に止まるが、因みに渋川と晴美の絡みが展開されるのは、無印国沢実の「人妻たちの性白書 AVに出演した理由」(2001/主演:青山円)で、野上正義が片瀬めぐみを相手にするのと同じ部屋。柏木舞は、完全に酔ひ潰れた礼夢を部屋にまで送り届けた有也が、礼夢の渋川への想ひを成就させる目的で、即ち自らは身を引くために、そのまま礼夢の部屋に呼ぶ風俗嬢・沙香里。初めは3Pはお断りだと臍を曲げてゐた沙香里は、有也の説明を聞くや納得すると同時に同情し、心を尽くす。それはそれで、三人目の脱ぎ役の女優の存在まで含め酌めぬでもないが、それならば、おとなしく有也が自分の部屋に帰つてから呼べばいいものではないのか。流石に人の部屋に、加へて酔ひ潰れてゐるとはいへ主も居るにも関らず、そこにデリヘルを呼ぶなどといふのは些か不自然も度を越さう。挙句にその主は惚れた女、無理の役満だ。
 有也は食事を御馳走すると称して渋川を礼夢の部屋に連れて来ると、ひとまづ三人での夕食後、デザートを買つて来ると偽り退場する。
 ヒロインが見る不可思議な形態の夢の物語は、何時の間にか、ヒロインに対して抱へた終ぞ伝へられぬ片想ひに悶々とする、ダメ男に焦点を移す。最も身近で、しかも一番自分を大切に想つて呉れてゐた人物の存在にヒロインが気付くのと、全方位的な消極性に首まで浸かつたダメ男が、漸く重い腰を上げ目出度く結ばれる段に、明確に手間が足りない。展開が適当になし崩されてしまつてゐるやうに、一旦は思へた。実は今回、仕事終りに小屋の敷居を跨いだのは、尺も3/4を概ね経過した時点であつた。そのままグルッと丸々もう一周して―因みに残りの二本は『新・監禁逃亡』の再見と、どうといふこともない宇田川大悟のVシネ―改めて全篇を通して観た際、私の心は洗はれた。心ない渋川に蹂躙され失意のまゝ眠りに就いた礼夢が目覚めた翌朝、予感を胸にアパートの通路に出てみると、そこに一呼吸置いて有也が現れる。昨晩肩のぶつかつた結構ハンサムな労務者(伊藤一平)にノサれた有也が、傷だらけの顔で「俺・・・」と口を開くと礼夢は、<「判つてる、夢で見たの」>。ダルで砕けた佐々木日記の口跡が、慎ましやかな名台詞を撃ち抜く。二人が共有した予兆を明示しないストイックさは、娯楽映画としては如何なものなのかといつた点に微妙に疑問の余地を残しつつも、忘れ去られた訳では決してなかつた基本設定が、さりげなくも決定力のあるエモーションを轟かせる。粗忽なヒロインと生きて行く強さに欠いたダメ男とが、もし会へたらな夢に背中を押され結ばれる、何てロマンティックなんだ。そこからの二人の濡れ場が、前夜の有也と翔子の相克に尺を割き過ぎたのか、あるいは無茶の大きな沙香里のパートは丸々不要ともいへるのか、やつとこさ漕ぎつけた礼夢と有也のセックスが描写として中途に終つてしまふのは重ね重ね痛く、全般的な完成度の面に於いてはひとまづ兎も角、一点突破の可能な決戦兵器たるべきワン・シーンを有した一作。時にさういふ映画の方が、強い印象を残すこともある。痛快なラストの一オチも、終幕を爽やかに飾る。

 出演者クレジットには、確かに池島ゆたかの名前があつた。m@stervision大哥のレビューにも、“腰だけ出演”とされてある。ところが、今回5/4回観たものの、何処に池島ゆたかが登場してゐたのだかさつぱり判らなかつた。情けない話がプロジェク太上映の小屋につき、カットが飛んでしまつた訳でもなからうに、とも思へるのだが。他に翔子の店に、それぞれ二人連れづつの女客男客が登場。女の二人連れは、翔子ママにオッパイを触らせて貰ふ、欠片も羨ましくはないが。


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 「中川准教授の淫びな日々」(2008/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:亀井戸粋人/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/助監督:永井卓爾/監督助手:関谷和樹/撮影助手:下田麻美/照明助手:金田佑輝/音楽:戎一郎/出演:平沢里菜子・藍山みなみ・酒井あずさ・那波隆史・伊庭圭介・世志男)。淫靡の“靡”の字は、映画タイトルには持ち込めなかつたのか、字面が些か間が伸びてしまふ感は禁じ得ない。
 何とか工芸大学、洋の東西に於ける近親相姦の社会的位置づけの相違について、人文社会研究課―劇中表示ママ―の中川四郎准教授(那波)がたどたどしく講義する。自分の講義なのに何とかならんのか中川の所在無さは、切れ味鋭いラスト・シーンとの対照の為ともいへ、那波隆史の大根ぶりに形にならない。ここは矢張り、なかみつせいじか吉田祐健で観たかつたところではある。小林節彦では、親子関係からして―見た目的に―少々歳を喰ひ過ぎか。ノートもテキストも広げぬまゝ学生に混じり座つてゐた望月奈々(平沢)が、聴く者を引き寄せる能力に乏しい講義に飽きたのか、モリスのメンソールに火を点ける。他の学生はさりげなく騒然とする中、幾ら何でも非常識に過ぎる奈々を、不甲斐ないにもほどがある中川は注意することすら出来ない。そこに現れた、プリント―大学では、レジュメといふ用語を通例使はないか?―を持つて来た中川の助手・与田種彦(伊庭)は、当然の如く居丈高に奈々を注意する。逆ギレした奈々は、火の点いたタバコを投げ棄て教室を後に。平沢里菜子の鋭角が、早速煌く。教室の中には父親の勤務する大学に通ふ、中川の娘・恵美(藍山)も居た。後に奈々が接近すると、育ちがよく人の好い恵美はコロッと受け容れる。二度目に中川の研究室を強襲した奈々は、弱々しい抵抗を見せる与田と強引に事に及ぶ。事後奈々の吐き捨てる、女優平沢里菜子一撃必殺の名台詞「あんたもタダの男ね、抜いたらカラッポ」。かういはれてしまつては、我々としてはそれこそ実も蓋もない。そこに中川が現れ、狼狽した与田が逃げるやうに退場すると、肌も隠さぬまま奈々は衝撃的な事実を告げる。奈々は、堕ろして呉れたものと思つてゐた中川の私生児で、奈々の母親・奈美(一切登場せず)は、父親は居ぬまま体を売り奈々を育て、昨年死んだ。奈々は、復讐を期して父親である中川の前に現れたといふのだ。
 基本シャープな作劇と、人間性の邪なることを見据ゑた際に炸裂させる比類ない突進力とを誇る、目下当サイトに於いて一押しの“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦。その作風にドス桃色にジャスト・フィットしたプロットは、加へてクール&アグレッシブ・ビューティー平沢里菜子を主演に迎へ、絵に描いたやうに恵まれたひとつの家庭が、地獄より襲来した鬼女の前に見事に瓦解して行く復讐譚は綺麗に見応へがある。殆ど唯一の瑕疵は、今作に限らないことともいへ構図、色調とも平板な撮影か。これは所作指導に因るものなのかも知れないが、登場人物が棒立ち気味になつてしまふカットも、全篇を通して散見される。とはいへそんなこんなは最早瑣末とさて措き、然程周到な姦計でもないのかも知れないが、解き放たれた、といふか松岡邦彦に加速された平沢里菜子の、正しく縦横無尽な暴れぷりを心ゆくまで堪能したい。前に出る力に欠く那波隆史は兎も角、残りの出演者は全て里菜子女王の引き立て役か脇の攻撃対象に留め置かせた、配役配置の妙も光る。それが功を奏するのも、磐石の主演女優ぶりを披露する平沢里菜子の決定力あつてこそ。最広義の映画としての総合評価も兎も角、“女優映画”として傑出してゐる。今年のPG誌主催によるピンク映画ベストテンの、主演女優賞の最有力候補であらうか。
 ピンク復帰第二作となる酒井あずさは、中川の妻・瑶子、弁護士ではない。夫から求められた際の、久方振りの夫婦生活に初めは戸惑ひも見せる演技は出色。世志男は、文字通りの奈々女王の奴隷・赤尾恵三。女王様からは“赤犬”と呼ばれ、従順な奴隷兼飛び道具ぶりを好演。この点は清々しく説明が足らない割には不思議とそれほど映画を観進める上での蹉躓とはならないが、恵美と瑤子のことを、何故だか強姦殺害された自らの妻子が、生まれ変つた姿だと思ひ込んでゐる。そもそも、本当に赤尾が結婚してゐたのか、といつた点から不明。

 男女取り合はせて十人前後、講義中の学生役として登場。前作のカルセン生徒といひ、何処から連れて来たのか。よくよく考へてみると、奈々が本当に中川の娘であるのか確認する段取りが欠けてゐるやうな気もするが、この際まあいいか。


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 「発情妻 口いつぱいの欲情」(1989『人妻 口いつぱいの欲情』の2008年旧作改題版/企画・製作:メディアトップ/配給:新東宝映画/監督・脚本:鈴木ハル/撮影:斉藤幸一/照明:平岡裕史・菊地宏明/音楽:富永豊/助監督:広瀬寛巳/効果:中村半次郎/協力:ステップbyステップ/出演:川奈忍・岸加奈子・中根徹・下元史朗、他六名)。
 イメージ風の濡れ場に被せられる女の朗読、「人の恨みの深くして。憂き音に泣かせ給ふとも。生きてこの世にましまさば・・・」。能楽『葵上』中、生霊となり葵上の枕元に立つ六条御息所の怨念を綴つた地謡である。これは一体、如何様に業の深い物語となるのか。
 カオリ(川奈)は親の決めた縁談で大田(下元)と結婚するが、大田はアキコ(岸)と堂々と外泊する不倫に耽る。ある夜、終に意を決し果物ナイフを忍ばせアキコ宅へと向かつたカオリは、携帯電話、では当時未だなく、運転中にタバコを吸はうとして気を取られた藤井(中根)の車に撥ねられる。動転した藤井は、カオリを自宅に連れ帰る。翌朝意識を取り戻したカオリは、何故だか藤井のことをセイジと呼び激しく求める。求められるまゝに、藤井はカオリとの愛欲の日々に溺れて行く。藤井をセイジと呼ぶカオリは、どうやら古い時代の、カオリとは別の女・マイの記憶に従つてゐるやうだつた。何処やらの農村で各々既に祝言を挙げてゐたマイとセイジ(それぞれ川奈忍と中根徹の二役)は、矢張り道ならぬ関係にあつた。
 偶さか出会つた男と女、男は女の求める時空を超えた情交に、全てを捧げる。といふ粗筋が纏まつたところで、そこからお話がどのやうに転がつて行くのかといふと。驚くことに、以降まるで膨らまない。最終盤には動き出しもすれ、それもどちらかといはなくとも逆(さか)向きだ。藤井がカオリの素性と、病状とを調べるために多少ウロつき回る程度で基本的には、舞台は藤井の部屋に留まつた、カオリと藤井の幾分は幻想的な濡れ場が延々と繰り広げられるばかり。美しい川奈忍の肢体をお腹一杯に堪能出来るとはいふものの、中弛んでしまふ感はストレートに禁じ得ない。とはいへ最終的には、ラストはなかなかに鮮烈。男は女との夜の夢に、全てを捨てて己が身を捧げた。ところが女はフとした弾みで夢から醒めると、男の前に姿を見せた時と同様、不意に現し世へと再び帰つて行く。いふならば誘(いざな)はれた男は、それでゐて女に置いてきぼりにされたのだ。ここでの男女の立ち位置の対比は、一般論としても有効か。強引な力技ともいへ、情感タップリの劇伴に彩られ同時に豪快なロング・ショットにて押さへられた、居た堪れなくなつた、既に現し世には居場所をなくした男の凶行。近年さういふ撮り方をする人があまり見られないのもあり、行き場を失つた男の激情の暴発が生み出したやぶれかぶれな惨劇は、あつけらかんと捉へられることにより、逆に深い余韻を残す。中盤強力にモタつきながらも、最後の最後には綺麗に突き抜けて呉れた一作。観戦後の感触は、停滞期間を思ふと思ひのほか悪くはない。『葵上』との関連を、どう考へればよいのかはよく判らないが。
 他六名出演者としてクレジットされる内、実際に画面の中に見切れるのは四名まで。無断欠勤を続ける藤井を心配して、といふか直截には業を煮やして家を訪れる上司と、オーラス藤井を取り押さへる、並木道に通りすがりの三人連れの男達。他にカオリの病状を説明する医師と、実名登場朝日新聞の集金人が、声のみ聞かせる。ところで、口唇性行が殊更にフィーチャーされるでは、劇中特にない。

 再びところで、中根徹は勝アカデミーの4期卒業。といふと、吉田祐健の一期先輩に当たる。


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 「若奥様 羞恥プレイ」(2003/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:野口素胖/助監督:大竹朝子/録音:シネキャビン/編集:《有》フィルムクラフト/音楽:ザ・リハビリテーションズ/音響効果:中村半次郎/スチール:佐藤初太郎/監督助手:村田直哉/撮影助手:岩崎智之・海津真也/照明助手:中村拓/現像:東映ラボ・テック/出演:安西なるみ・渚マリン・酒井あずさ・岡田謙一郎・竹本泰志)。
 激しい自慰に溺れる若い女と、痴態を凝視する、男の目のアップ。歩道橋の上で佇むヒロインが、若い女と擦れ違ふ。振り返り複雑な眼差しを向ける安西なるみに対し、颯爽と歩き過ぎる渚マリンは気にも留めない、タイトル・イン。二番手の濡れ場で開巻といふのも、斬新といへばいへるのかも知れない。リアルタイムに観た記憶は既に然程定かでない旧作であるのと、加へて渚マリンが正直馴染みの薄い女優部につき、一瞬又仕出かされたのかと不安になつてしまつた。
 松田泉(安西)は優しい夫の健一(竹本)と、結婚三年目を迎へる。健一は記念日に奮発したプレゼントを買つて来てゐたが、泉は何も用意してゐなかつた。忘れた風を装ふ泉であつたがその実は、わざと買はずにゐたものだつた。暴力的に厳格な父親に育てられた泉は、その反動からか優しい健一を選び結婚する。ところが、何時しか何をしても自分を叱つて呉れない健一に、逆の不満を泉は覚えるやうになる。贈り物を準備しなかつたのも、泉は健一に怒つて欲しかつたのだ。屈折したフラストレーションは加速し、泉は万引き行為を繰り返す。ある日、スーパー警備員・加瀬弘史(岡田)に呼び止められた泉は、監視カメラからの画像をプリント・アウトした証拠写真を突きつけられ、警備員詰所での陵辱、後日の露出指令と、犯されるがまゝに加瀬の肉奴隷への道を転がり堕ちて行く。
 あつけらかんと類型的な物語、且つメリハリを欠いた展開は終始のんべんだらりとはしながらも、如何にも“若奥様”然とした安西なるみの適確に熟れた肉体が、偏執的に蹂躙される粘着質の絡み自体は存分に楽しめる。ホワイエ、もといとはいへ。開巻も飾る、加瀬の第二の被害者・新堂美保(渚)まではいゝとして、やゝこしくも寝たきりの加瀬の妻・夏美(酒井)の登場は、木に竹を接ぐどころの騒ぎでは済むまい。加瀬の歪んだ夫婦愛に関する説明は最終的には明快に不足し、コロコロと右から明後日に転がり続けたお話は詰まるところ微塵も収束しないまゝ、夫に懐いた変則的な欲求不満は何処吹く風、泉が「氷の微笑」のシャロン・ストーンばりの淫蕩女に華麗なる変貌を遂げる。とかいふ豪快さんなラストは、幾ら即物的なエロが主体の映画にしても、観客をナメてゐるのでなければ自由奔放に過ぎる。どうでもよかないが、その石化した引き合ひも我ながらもう少しどうにかならないものか。関根和美的には珍しい、実用方面への潔い一点突破に徹して呉れれば良かつたものを、下手な色気がまんまと玉と砕けた一作。一応裸を見せもするものの、結局結実し得なかつたところまで含め酒井あずさの無体な扱ひに関しては、止め処なく流れよ、我が涙。

 オアシスの眼鏡でない方にも似た、松田家御近所のジョギング女は、定石から考へると大竹朝子か。ラスト・シーン、公園のベンチでノーパンのまゝ足を組み換へる泉に鼻の下を伸ばすサラリーマン二人連れのうち、中村拓の傍らの部長役が誰なのかは不明。


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 「新・監禁逃亡」(2008/製作:株式会社竹書房・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画株式会社/監督:後藤大輔/脚本:高木裕治・後藤大輔/原案:ジャパンホームビデオ株式会社/企画:加藤威史・衣川仲人/企画協力:石橋健司・赤荻武・遠藤祐司/プロデューサー:黒須功/撮影監督:飯岡聖英/音楽:古川美弥子/編集:酒井正次/ヘアメイク:伊藤有香/スチール:中居挙子/助監督:佐藤吏/演出助手:小川隆史・中岸幸雄/撮影助手:鶴崎直樹・松川聡/制作協力:黒須映像工業/企画協力:CINEMA-R/出演:亜紗美・さくらの・江連健司・いとうたかお・千川彩菜・高山直之・中村方隆)。因みに総尺は六十九分。
 対ピンク上映館仕様か、御馴染み新東宝カンパニー・ロゴにて開巻。スチーム音がこだまする地下室、手錠を掛けられた両の腕を鎖に繋がれ吊り上げられた、きみか(さくらの)が監禁されてゐる。そこに、サルの被り物の上に更にガスマスク、相撲取りの肉襦袢を身に着け、話す声はヴォコーダーで加工した怪人が現れる。怪人は怯えるきみかを罵倒しながら、悠然と雲竜型の土俵入りを披露する。ガスマスクに絶妙な表情を持たせる、撮影は全篇を通して秀逸。きみかの父親で中堅ゼネコン社長の大介(江連)は、支那企業との合併交渉の最中で眠れない日々が続いてゐた。肉体関係にもある秘書室長の成美(亜紗美)に、大介はきみかが昨日予備校に行つたきり戻らない心配を打ち明ける。きみかの母親即ち大介の妻は、娘を出産した際に死亡してゐた。一方、大介の会社は、合併に反対する役員・高梨(中村)を中心に、内紛の火種を抱へる。
 「妖女伝説セイレーンX」と勿論お話の中身に一切関係はないが形式的には姉妹作ともいへる、矢張りエロティック系Vシネシリーズを元企画とした、ピンクの小屋に一応かゝりもすれどほぼ一般映画である。因みにVシネでの「監禁逃亡」シリーズは、調べてみると1992年から足掛け七年の間に、何と十二作も製作されてゐる。個人的にその中では、仁志・和義の小沢兄弟が中原翔子を巡つて文字通りの死闘を繰り広げる、「異常性欲の果てに」などといふ破天荒な副題のつけられた第四作(1995/監督:神野太)だけならば見てゐる。
 今作の主たる特色は、監禁犯が全身を被り物と着ぐるみに包んでゐることによるサスペンス要素。そこかしこに種を鏤めたミス・リーディングは必ずしも悪くはないが、肝心の真相を明らかにする段の、手際がどうにも今ひとつふたつなところは大いに惜しい。重ねて誤誘導のデコイに真犯人と、さしたる説明も為されぬまゝ同じ行為を犯させてしまふ飛躍は激しく頂けない。それでは、初めから観客を騙した意味がない。謎を明かしてからのダークな、あるいは袋小路の『めぞん一刻』とでもいふべき大胆な転調に際しては、亜紗美が堂々と絶望的な嫉妬の告白で一幕に大いに力を与へるのに対し、江連健司の不甲斐なさぶりは致命的。加へてこの人、脱いでみたら逆に凄い体の緩みはもう少しどうにかして貰へまいか。肉体は俳優の言葉ではなかつたのか、仮にさうであるからこそ、正比例しての芝居の弛みであるのやも知れないが。取つて付けられた最終的な主客逆転に関しては兎も角、そこに至るまでの謎解きを中心とした一連の顛末に、監禁された当の被害者が殆ど主導的な役割を果たさないといふ点も、シリーズを通観するならば変則的な出色ともいへるのであらうか。
 独自色を摸索した気配は窺へもするものの、全般的には濡れ場の威力まで含め決定力に終始欠いた一作ではあるが、明後日の方向でのハイライトは、大介の鮮やかに呆気ない最期。適当な譬へ方をすると70年代辺りの、あまり心も込められてゐない映画に於いてしばしば見られたやうな別の意味での感動的な唐突さは、一歩間違へるとギャグ寸前の領域で清々しい息吹を運ぶ。どんな映画にも何処かしらひとつチャーミングなところがあるとするならば、この件こそが今作随一のチャーム・ポイントに違ひない。予備校に通ふ年頃のいはば小娘が堂々とゼネコン新社長の座に納まるだなどといふ、半ば確信犯的にふざけたラストも奮つてゐる。
 若い頃の佐野和宏にも―少しだけ―似た高山直之は、一度は社内で分不相応な重職に就くも、まんまと無能ぶりを露呈した高梨の甥つ子。不脱の千川彩菜(ex.谷川彩)は地味に野心家の黒田課長、部署は不明。不完全消去法でいとうたかおは、多分大介の運転手。

 今年の七夕の日にお亡くなりになつた中村方隆さんにとつて、六月初頭封切りの本篇劇中には勿論、所属事務所の公式サイトにもその旨のアナウンスは見られないが、ことによると最後の映画出演作になるのかも知れない。今回の高梨役は、出番が多い訳でもなければ決して特に重きの置かれた役でもなかつたが、傑作「痴漢義父 息子の嫁と…」(2003/脚本・監督:後藤大輔)での主演は、今でも印象に深い。末文ながら、ここに故人の御功績を偲び、謹んで哀悼の意を表するものである。


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 「熟女たちの欲求 イジリ喰ひ」(2000『いぢめる女たち -快感・絶頂・昇天-』の2008年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:下元哲・アライタケシ/照明:上妻敏厚・河内大輔/編集:㈲フィルム・クラフト/音楽:中空龍/助監督:松岡誠・田中康文・小川隆史/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:時任歩・里見瑤子・風間今日子・佐々木基子・鈴木エリカ・吉田祐健・なかみつせいじ・やまきよ/thanks:荒木太郎・国沢実・内藤忠司・加藤義一)。thanksの四人は本篇クレジットのみで、正確な位置は杉本まことと山本清彦の間。
 一流企業のエリート社員と、臆面もなくモノローグで自負する浦島慶一(やまきよ/a.k.a.山本清彦)は、頭に怪我をし急患で運ばれる。浦島はぼんやりと、こんな筈ぢやなかつたと回顧する。浦島は同僚の桃川友里(里見)を口説き、関係を持つ。急な物入りに見舞はれた浦島は、貯金を当てに友里に無心してみたところ、(貯金は)「私が幸せになるためのものなの!」と激昂した友里にビール瓶で頭を割られたのであつた。看護婦の吉田さつき(風間)は、そもそも浦島が金策に追はれる羽目になつた顛末に興味を示す。昨晩、イイ調子で酔つ払つた浦島は、公園でチンチロリンに興じる五人の浮浪者の群れに割つて入る。さりげなくも驚くほど豪華なspecial thanks勢は、その内の四人、最低一言は全員台詞も与へられる。最初は勝ち続ける浦島であつたが、五人のリーダー格・大熊蔓造(吉田)が四のゾロ目を出した瞬間、浦島は余所に一同の顔色が変る。凄んで一千万支払へと詰め寄る大熊を、浦島は悪い冗談かと一笑に付すが、五人は完全に本気であつた。その夜のチンチロリンは、臓器移植の闇ルートで、捌けるボディ・パーツは全て金に換へるスペシャル・ルールの、命懸けのラスト・チンチロリンであつたといふのだ。恐れをなした浦島は逃げ帰るが、如何に調べ上げたものか、大熊は家にまで取立てに押しかけた。と、浦島が語り終へたところでどういふ訳でだか、俄かにさつきが欲情してゐたりする辺りはピンクとはいへ流石に少々粗雑ではあれ、風間今日子のオッパイに免じてさういふ無粋はいふまい。割られた頭を縫つたばかりなのに一戦交へた浦島が眠りに就いてゐると、大熊は病室にまで現れる。
 佐々木基子は、茫然自失とひとまづ退院した浦島を病院前で拾ふ、取引先の女社長・小倉由美子。“関良平映画のミューズ”鈴木エリカは、由美子の秘書・北原和美。浦島の窮状を看て取つた由美子は、二百万の返さなくともよい金、いはばギャラで、和美も交へて三人のセックスの模様を収めるプライベート・ビデオに出演するやう持ちかける。主演作では傍若無人な自由奔放ぶりを炸裂させる鈴木エリカも、幸なことに今作に於いては、佐々木基子の陰でおとなしくして呉れてゐる。といふか、要は浜野佐知がおとなしくさせた格好なのか。
 由美子から得た二百万、更には自らの貯金四百万。浦島は六百万を渡すも、大熊は残り四百万と頑として首を縦には振らなかつた。なかみつせいじは、もうどうしやうもなくとぼとぼ夜の街を彷徨ふ浦島に声をかける、中年女性・マリリン。階段の踊り場で事に及び、相手が女装子であるのを漸く知つた浦島が騒ぎ始めると、「マリリン怒つちやつた!」とポップに大激怒。手錠で浦島を手摺に固定し、平素よりも過分に動物的な腰使ひで後門を犯す。事後吐いた捨て台詞が、「オカマをバカにすんぢやないよ」、「アタシたちだつて、一生懸命生きてるんだからさ!」。それは判らぬではないが、今作あれこれ浦島が遭ふ酷い目の中でも、一際恐ろしいシークエンスではある。
 最早自暴自棄気味に更にウロつく浦島は、半ば最期に温かい酒が飲みたくなり、一軒の赤ちやうちん「ふく仙」の暖簾を潜る。店は遺産を得た田並美江(時任)が買ひ取つたものの、女将が美江に変つてから、客足は途絶えがちであつた。
 例外の殆どない、基本的には男客相手に女の性を商品化することを宗とするピンク映画にあつて、頑なに女の主体性、あるいは女性優位を謳ひ続ける浜野節は、攻撃的なタイトルに比して今回は比較的控へ目。強ひていふならば友里のストレートな利己主義や、さつきや由美子のアグレッシブな好色が挙げられようが、それらは何れも、仔細を側面から彩る枝葉に過ぎない。代つて最終盤には夢をメイン・モチーフとした、力技ともいへ情感豊かな人情ドラマへとシフトしてみせる。男の主人公が、翻弄され続けた末にとはいへ、最後は新しい未来を手に前を向いたラストを迎へる映画といふのは、この人の場合結構以上に珍しいのではなからうか。受身ながらに劇中先頭を走るのは常に浦島で、最後に登場する、そして終の女の美江にしても、ポジションとしてはあくまで浦島の脇を飾るに止(とど)まる。更によくよく顧みてみるならば、今作は豪華にも四大女優と飛ばせなかつた飛び道具、更には飛び過ぎるマリリンまで擁しておいて、驚く勿れ実は全員濡れ場要員であるとすらいへるのではないか。ともいへ時任歩に関しては、閑散としたカウンター席に、浦島と二人並ぶショット。抜群に素晴らしい映画的叙情を漂はせる深い眼差しが、木に竹を接いだといへなくもない展開に、大いに説得力を付与した功績は高く評価出来よう。個人的にはオーラス「ふく仙」に、<死んだ筈の>大熊まで含め全ての登場人物が集ひ和やかに飲み交し食ひ笑ふ、大団円が設けられてゐて良かつたやうにも思へるが、浜野佐知の強靭な論理性は、そのやうなものは芸を欠く予定調和、あるいは惰弱と一瞥だにせぬところであるのやも知れない。


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 「美人銀行員を狙へ! 異常レイプ」(1999『マル秘性犯罪 女銀行員集団レイプ』の2008年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:小野弘文/編集:金子尚樹 《フィルム・クラフト》/ネガ編集:酒井編集室/助監督:周富良/音楽:藤本淳/製作担当:真弓学/ヘアメイク:大塚春江/タイトル:道川昭/出演:平沙織・吉田祐健・永森シーナ・桜居加奈・佐倉萌・若山慎・平川ナオヒ・橋本嘉之・銀治・星野アカリ・林倫子・八神徳子、他・竹本泰史・久須美欽一)。出演者中、星野アカリから他までは本篇クレジットのみ。旧題の“マル秘”は、正確には○の中に秘。
 午後三時、窓口業務終了間際の三英銀行西畑支店。表のシャッターも閉り始める中、窓口係の太田瑛子(平)は「講和システム」との架空の取引を装ひ、遠藤ミチヲ(竹本)をカウンターに招き寄せる。思はせぶりな目配せを交しつつも二人が手を拱いてゐるところに、行内に真の衝撃が走る。二階の応接室で支店長の久我皓一(久須美)が応対してゐた町工場の社長・西尾駿志(吉田)が、久我に拳銃を突きつけ下りて来たのだ。瓢箪から駒、あるいは嘘から出た誠。
 孤児施設に育つた瑛子は、久我に引き取られる。そのまま現在は三英銀行に就職したものであつたが、施設で保護司の性的虐待を受けてゐた過去を持つ瑛子にとつて、新しい生活は、単なる新しい地獄に過ぎなかつた。瑛子は久我からも、性的関係を強要されてゐたのだ。主演の平沙織、首から下は均整の取れた美しい肢体を誇るものの、首から上は微妙に頬の肉も緩みかけ、一言で片付けると華が無いにも程がある。とはいへその辺りが逆に、低劣で邪な嗜虐願望を絶妙に刺激する、といへばいへなくもない。閉ざされた日々を送る瑛子に、転機が訪れる。ある日瑛子の窓口を、周囲には悟られぬやう要求は紙に書き、ナイフをちらつかせた強盗がぎこちなく襲ふ。賊の顔を見た瑛子は驚く、瑛子を犯した保護司を刺し少年院に入れられて以来、離れ離れになつてゐた施設での幼馴染・ミチヲであつたからだ。逃げたミチヲを瑛子は追ひ、その夜二人は体を重ねる。ここでの瑛子とミチヲの濡れ場は、よくよく考へてみると少々淡白か。性的虐待を受け続ける瑛子にとつて、セックスのハードルが非常に低いものであつたとしても、ミチヲにしてみれば恐らく初めて、少なくとも恐ろしく久方振りに瑛子を抱くことになる筈だ。だとすれば情交に、少々情熱を欠きもする。二人で地獄から抜け出す為に、次こそは瑛子がミチヲを手引きしての銀行強盗、現金強奪を思ひ立つ。
 一方、久我からむべもなく融資を断られた西尾は、仕方なく街金の平沢克美(若山)を頼る。ものの当然の如く蟻地獄にはまり、平沢は利子分だと称して舎弟の東航(平川)と共に西尾の妻・久子(佐倉)を犯し、その模様を裏ビデオに撮影。そのことが原因で、久子は首を吊る。プランとブラ下がつた久子の傍らで、西尾は一線を越える。売人(不明)から銃を手に入れると、その場で金も払はずに売人を撃ち殺す。続けて平沢と東もブチ殺すと、今度は久我に復讐の、あるいは愛を叫ぶ引鉄を引くべく三英銀行西畑支店へと向かふ。即ち、瑛子とミチヲの自作自演の最中に、本物のバンクジャックが起こつてしまつたのだ。
 永森シーナ(a.k.a.中村杏里)は、お局感をスパークさせる意地の悪い窓口主任・栗原慶子。主任の癖に、髪形も色も銀行員としてはハチャメチャなのだが。桜居加奈(a.k.a.夢乃)は、新人窓口係の香山薫。間飛ばして星野アカリ以下三人は、画面の奥手で固まつて見切れるのみのその他女子行員。橋本嘉之と銀治は、行員の野沢と奥寺。残り五、六名名前の見られる出演者は、その他銀行客要員と、西尾の凶行の最初の餌食となる拳銃の売人。
 本来ならば主人公の瑛子とミチヲが、幼い頃から二人の心の支へであつた、神様が全てを赦して呉れ、助けて呉れるとかいふアメリカの何処だかの“神様の山”を目指す為に銀行強盗を仕組むメイン・プロットは、一向に形にならない。刺すは襲ふはと表面的には大胆なやうにも思へて、ミチヲは瑛子の動因として機能するのがせいぜい関の山で、現場では何の役にもてんで立たない憎みきれなくも使へないロクデナシ。瑛子も瑛子で、モタモタと陰鬱なばかりでミチヲよりはまだマシともいへ、それでも映画一本を背負はせる屋台骨には、まるで心許ない。そこに飛び込んで来るのが、絶望的で、凶暴過ぎる純愛を絶唱する吉田祐健。
 久我を初め行員と、客はミチヲのみ―厳密には客ではないのだが―が残された、西尾が支配する行内。反人間的な、あるいは真の人間主義がスパークする狂宴の幕が開ける。西尾は尿意を催した者と喉の渇いた者とを募ると、組を作らせて小便を飲ませ、小便を飲ませた方にはお詫びとして今度は口唇性行、乃至は愛撫を強要する。支店長の面目がけて放尿したところまではある意味良かつた反面、久我を咥へさせられる羽目になつた野沢には、スクリーンのこちら側からも同情を禁じ得ない。といふか、このやうな条件下の状況であれば、俺は夢乃の小水ならば飲めさうな気もする。西尾が奥寺には慶子を、ミチヲと野沢に対してはそれぞれ薫と瑛子を犯すやう命令すると、土壇場でミチヲは奥寺を押し退け瑛子は渡さない。その様を、事の真相を知らずに誤解した西尾がほくそ笑むショットには、実に味がある。箍の外れた西尾の歪みが歪んだままに、即ち歪みながらも逆説的にはストレートに発露する一連のシークエンスは、同じ歪みを共有する者にとつては清々しく見応へがある。とはいへそれだけに止まらず、今作が輝くのを通り越して燃え盛る最高潮を迎へるのはここから。相変らず、瑛子とミチヲの手柄ではないが。
 ミチヲから暴虐の目的を尋ねられると、それまでの逆上し通しの様子からは一転、不意に穏やかな笑みすら浮かべ西尾はかう答へる。
 「地獄に堕ちる為さ」。
 「女房が待つてるんだよ。地獄で、俺を・・・!」。兎にも角にも、ここの吉田祐健が素晴らしい。
 借金の形にと、ヤクザに輪姦された女房は自殺した。地獄に堕ちた女房を追ふ為に、男は銃の売人とヤクザを撃ち殺し、銀行をジャックする。その場に居合はせた人間全ても、勿論皆殺しにするつもりだ。何となれば、自らも地獄に堕ちる為に。その憎しみと表裏一体の、暴力と混然とした愛はエモーションは。詰まらない欲を張つたばかりに巻き添へで情婦を殺されてしまつた場末の酒場のしがないピアノ弾きが、死んだ情婦の為に、八つ当たり気味にスポンサーの暴力組織を捨て身で壊滅させた上、半ば自ら進んで蜂の巣になる。サム・ペキンパーがその最高傑作ともしばしば称される「ガルシアの首」(1974/米/監督・共同脚本:サム・ペキンパー/主演:ウォーレン・オーツ)で描き出した絶望的で、凶暴過ぎる愛とエモーションと、今作のそれとは正しく同一ではないか。坂本太がペキンパーになつたといふには少々蛮勇も足りないが、約十年越しの切望し続けた再見を果たした上で、改めて断言出来る。今作に於いて、吉田祐健は「ガルシアの首」のウォーレン・オーツになつたのだ

 祐健が役者人生一世一代の大仕事を渾身の力を込めやり遂げたところで、確か主人公らしい男女は性懲りもなく蚊帳の外。尤もオーラス中のオーラスで漸くヒロインに舵を取らせると、曇り続けた平沙織の冴えない表情を、偶さかにしても最も輝かせた坂本太の手腕は、よくよく見てみれば地味に出色か。終り良ければ全て良し、このことは映画観戦後の感触に際して、個人的には殊に当てはまるやうにも思へる。見事モノにしてみせた最大級のエモーション。それまでは機能不全気味の主人公に、最後の最後で主導権を握らせる意外に堅実な構成。ところで瑛子を悦ばせる他は、終始一貫殆ど全く何ひとつ満足に為し得ないミチヲのことはもう忘れてしまふと、これでもう少し全体的にメリハリがあつたならば、坂本太一撃必殺のマスターピース!とでも筆を滑らせてしまへたところであつたのに。全般的な完成度に関してはひとまづ兎も角、吉田祐健の、己含めて誰一人幸せにはしないままに轟くエモーションと、即物的には西尾司るエクストリームな乱姦に対しては、間違ひなく必見と太鼓判を押せる一作。詰まるところは今感想を通して、自らの品性下劣を吐露したに過ぎないやうな気がする。


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 「女曼陀羅 七人の絶頂」(2003/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影・照明:前井一作/編集:酒井正次/音楽:安達栄治・セロハンズ/助監督:田中康文/制作:小林徹哉/出演:高原リカ・佐々木基子・愛羽・風間今日子・里見瑤子・葉月螢・佐倉萌・柳東史・滝川鯉之助・荒木太郎・小林徹哉、他)。
 カズオ(柳)が七つ年上の暴力妻・マサコ(佐倉)の尻に敷かれる吉川夫婦、ある朝、出勤するカズオの朝食もそこそこに新聞を開いたマサコは仰天する、三千万の宝くじが当たつてゐたのだ。その日から人が変つてしまつたマサコは酒に浸り、カズオも仕事に行かせて貰へず頭を抱へる。そこに、無断欠勤を続ける部下を案じた、カズオの上司・内田(荒木)が家を訪れる。巨根を誇りつつも勃ちの悪いカズオをマサコは放り捨てると、内田を相手に肉欲に溺れる。居場所を失したカズオはマサコに愛想を尽かし、何処ともなく家を捨てる。山間の村を歩くカズオは、行き倒れた盲目の少女・栗原小百合(高原)を介抱、手際の良さに、居合はせた村人(不明)はカズオを医師と勘違ひする。あれよあれよといふ間に、カズオは小百合の姉で元看護婦の水城良子(佐々木)と共に、無医村であるその村で診療所を始める羽目に。患者役で更に五、六名登場。良子に偽医者であることを見抜かれたカズオは、村から逃げる。廃校のグラウンドで鞭打たれる女を助けようとしたカズオは、AVを自主制作する女子大生の大田原リカ(愛羽)・ルミ(風間)の姉妹に出会ふ。ルミによると、“女が撮る、女の為のAV”であるとのこと。リカとルミなどではなく、ハマコとサチコにでもして怒られてみればよかつたのに。何故だか即座にAVプロデューサーであると二人を言ひ包めたカズオは、リカとルミの力も借り、地主(小林)から出資金と称して金を引き出す。今回小林徹哉は、濡れ場の恩恵にも思ふ存分与る。良子の通報で医師法違反による自らの捜査が始まつてゐることを知つたカズオは、再び姿を消す。道すがら、郵便局でカズオは何者かに送金する。今度は良子、もとい佐々木基子の向かうを張つてか髪を綺麗に剃り落とし、カズオは滝に打たれる。そんなカズオの姿に、流行り病で住職である夫を喪つたばかりの神宮寺桜(里見)は心を奪はれる。カズオを寺に引つ張り込んだ桜は、一物を御神体に村人の信奉を集める。僧侶なのか檀家なのか坊主軍団の一員に、自らも頭を丸めた荒木太郎が再登場。一方、女刑事・二宮綾弥(葉月)はカズオを追ふ。瞽女志望の小百合の弾く三味線も担当する滝川鯉之助は、綾弥とは肉体関係にもある後輩刑事、劇中“鯉之助”とそのまま呼称される。
 改めていふまでもなく、高々六十分に過ぎない尺にしては少々エピソードを詰め込み過ぎで、女優の頭数も並べ過ぎである。文字通り、濡れ場の乾く暇もないといつたところで、物語が一応つつがなく流れはするものの、一向に深まつては行かない。度々ロスト・アイデンティティーを嘆くカズオに対し、綾弥がシンパシーを寄せる件などは見事なまでに未消化以前の無消化に止(とど)まる。スポーツカーばりのシャープな足回りと、ダンプカー並みの馬力とを誇る松岡邦彦であつたならばまだしも、何時までも瑣末で無用な、いはゆる作家性とやらから脱却し得ない荒木太郎には、所詮過ぎた相談といへるのであらう。とはいへ、その企図したところは全く果たせてゐない訳では必ずしもない。ピンク版「街の灯」ともいふべきラスト・シーン、それまでは持て余した巨根を女達に貪られるばかりで、始終騎乗位の下に甘んじてゐたカズオが終に採用する正常位には、転遷の果ての着地点が明確に表れてゐる。遡つて良子の濡れ場は、サスペンス的緊張度も含めて、底の浅いにもほぢがある物言ひになつてしまふのは心苦しいが、そこにセックスがある必然性に満ち溢れてゐる。単なるノルマごなしに終るのではなく、そこに女の裸があるからこそ、なほのこと映画として深化するピンク。といふ荒木太郎が事ある毎に公言する理想は、万全ではないにせよ最低限形にはなつてゐる。これでもう少しヒロインが美人で細ければ、クライマックスの決定力で映画全体の印象も大きく変つてゐたのではなからうか、とも惜しまれる一作ではある。

 もう一人の新人女優で、更に太い愛羽に関しては、リアルタイムでm@stervision大哥が“ボンレスハム”と激しく痛罵されてをられる。全くその通りであるといふか・・・・・美味しいボンレスハムさんに失礼です>< 躁状態を思はせるくらゐに変にノリノリな辺りが、火に油を注いで癪に障る。


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 昨年九月末に消滅した旧本館より戯れのサルベージ企画、今回は二年前の正月、郷里に帰省した際に観に行つた、隣り町の尾道に当時一般公開されてゐた戦艦大和の実物大セットについての思ひ出である。いふに事欠いて“思ひ出”とは何事か。改めて振り返るが戦艦大和の実物大セットとは、「男たちの大和」(2003/製作・音楽総合プロデューサー:角川春樹/配給:東映/監督・脚本:佐藤純彌/特撮監督:佛田洋)の撮影で実際に使用されたロケセットのことである。

 焼夷弾に関して、「大きな打ち上げ花火だと思つてください」(仮名遣ひを改めるのみで原文ママ)、だなどと呑気が唸りを上げ炸裂する珍解説が付けられてゐたり、土産物のコーナーでは、何の変哲も無い従来からある旧態依然とした尾道土産に、無理から大和のシールが貼られて売られてゐたりと、大和の実物大セットは普通に一地方都市の観光スポットとして機能してゐた。大東亜戦争を忌避する者からも美化する側からも、さういふ光景に対しては何かと難癖つけたくもなりかねない雰囲気ならば酌めぬではないが、ひとまづかうして、尾道に人が集まり、そして金を落として行くといふことは、綺麗事だけでは片付かぬ日々の生活の中では、それはそれとして、その限りに於いてのみであつたとしても、矢張り結構なことに違ひない。事の是非は一旦さて措くと、今生きてゐる人間は、けふの飯を喰はなくてはならないのだ。
 艦首から艦尾までの全てが再現されてゐる訳でないことは兎も角、第一主砲と艦橋上部はCG合成であるといふことで、想像、あるいは希望してゐたものと若干趣は異なつてゐた。鉄で出来てゐるかと思へばベニヤであつたりと、間近で見てみれば案外安普請であつたりもしつつ、それにしても矢張りデカい。少し引いて眺めてみれば、予想以上に壮観である。これならば、エンジンを積み替へれば大宇宙の彼方にまで航行出来るであらうことも、十分容易に肯ける(出来ねえよ)。あんなにコスモタイガーをわらわらと胴体に艦載することは、流石に無理だとしても(だからさういふ問題ではない)。
 元々その場にあつたオンボロの建物に(普段使つてあつたのか否かも最早判らないレベル)急拵へた資料スペースも、容れ物の割に中身の方はそこそこに充実してあつた。買つてはゐないので恐らくはといふ推測であるが、パンフレットから転載した白石加代子の、かういふちやんとした映画を多くの若い人達に観て貰ひたい、といふコメントは胸を打つた。阿川弘之氏の、『大和を思ふ』と題された小文には更に胸を撃ち抜かれた。当時既にとつくに時代遅れであつたことが明らかであつた筈の、超巨大戦艦大和。それはたとへ無用の長物であつたとしても、それでも尚のこと矢張り、当時の日本のひとつの結実、ひとつの到達点であつたのだ。確かに無用ではあつたとしても、大和は決して無駄ではなかつたのだ。決して大和を無駄にしてはならないのだ。といふ内容で、結果論の泣き言といつてしまへばそれまででもあるが、衷心から時代を超え世代を超えて心に響く名文であつた。ただ、一箇所(×二回)仮名遣ひの誤りが見られたのが気になつた。あれは阿川氏御本人の筆の誤りなのか、それともアホタレの担当者が仕出かしたのか。
 大和は、正月早々大勢の人出で賑はつてゐた。普通に一地方都市の観光スポットとして機能、と先に述べたが、映画は素通りして純然に物見有山で訪れた方も多いのであらう。さうした向きの中から一人でも、もしも劇場にフィードバックされたならば、それでれつきとした正解ともいへるのではないか。土産物コーナーの一角には、封切り三週目にして未だ全国共通の劇場前売り券が売られてあつた。それはとりあへずいいとして、謎なのは。確か千三百円である筈の前売りが、千二百円で売られてゐたことである。値が崩れたのか?

 映画本体に関しては。ドラマ・パートは求心力を欠いたグランド・ホテル、航空機その他のCG合成は毎度の東映特撮ではあつたが、実物大セットの上で、若年兵中心の(最早若年兵しか残つてはゐなかつたのだ)日本軍が虫ケラのやうに無残に命を散らして行く、壮絶な悲壮は確かに見応へがあつた。三十点以下の映画を期待して観に行つたところ(どういふ屈折した期待だ)、六、七十点の映画であつた、といふのが概評である。長淵師範が、主題歌に留まらず本篇の中にまで出張つて呉れてゐたならば、もつと期待通り映画の底も抜けたのに。だから何だ、その明後日を向いた期待は。後、仲代達也の役は生きてゐれば室田日出男の役であつたらう、とは思ふ。仲代達也では幾分男前過ぎる。

 資料スペースに於いて佐藤純彌のフィルモグラフィーの中から、「北京原人」がシレッと無視されてゐたことには笑つた。


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 そこかしこに未見作も残しつつ、とか何とか拱いてゐる内に年も明けてしまひかねない頃合につき、今年もヤッツケ気味に見切り発車気味に07年ピンク映画ベスト・テンを掻い摘んでみるものである。全般的には、正方向にも逆の意味でも若干決定力不足に、と見るところなので簡略に済ませる。

 07年(昭和換算:79-3年)ピンク映画ベスト・テン

 第一位「未亡人アパート 巨乳のうづく夜」(オーピー/監督・共同脚本:吉行由実)
 小粒ながら、誠実な娯楽映画としての、総合的な完成度に於いては随一。
 第二位「ノーパンパンスト痴女 群がる痴漢電車」(Xces/監督:松岡邦彦)
 クライマックスのグルーヴ感は圧巻。唯一のウイーク・ポイントは主演女優。
 第三位「桃肌女将のねばり味」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 縦横無尽な本格を披露する、松浦祐也が力強く牽引する鉄板青春映画。
 第四位「裸の女王 天使のハメ心地」(新東宝/監督:田中康文)
 必ずしも成功を果たしてゐるとはいへないが、正調娯楽映画への志向は買へる。
 第五位「痴女・高校教師 ‐童貞責め‐」(Xces/監督・共同脚本:神野太)
 実用部門最高傑作。濡れ場に突入してもヒロインにメガネを外させない姿勢は、宇宙が生まれ変つても正しい。
 第六位「密通恋女房 夫の眼の前で…義父に」(Xces/監督:大門通)
 “久須美欽一・ストライクス・バック”を高らかに告げる痛快作。
 第七位「新妻の寝床 毎晩感じちやふ」(オーピー/監督:関根和美)
 特にどうといふこともないが、主演の小峰由衣と、大胆にも親子役に扮する城春樹と牧村耕次の軽妙かつ芳醇な絡みは見させる。
 第八位「厚顔無恥な恥母 紫の下着で…」(Xces/監督・脚本:山内大輔)
 ソリッドさも兼ね備へつつ、こちらも実用部門から。主演の花野真衣の体はヤバい。
 第九位「社長秘書 巨乳セクハラ狩り」(オーピー/脚本・監督:山邦紀)
 男優部門の久須美欽一と並び、久方振りに脱いで呉れた吉行由実がカンバック賞受賞。
 第十位「潮吹きヘルパー 抜きまくる若妻」(Xces/監督:新田栄)
 馬鹿馬鹿しいながらに、実は手堅く、そして綺麗に纏め上げられた一作。

 未見作の主だつたところとしては、公開順に
 「ロリ作家 おねだり萌え妄想」(オーピー/監督:渡邊元嗣)
 「女引越し屋 汗ばむ谷間」(オーピー/監督:竹洞哲也)
 「特命シスター ねつとりエロ仕置き」(オーピー/監督:渡邊元嗣)
 「痴女教師 またがり飲む」(オーピー/監督:池島ゆたか)
 「変態穴覗き 草むらを嗅げ」(オーピー/脚本・監督:山邦紀)、等々。

 個別部門としては抜粋気味に、主演男優賞は「ワイセツ和尚 女体筆いぢり」の佐野和宏。自ら手掛けた脚本の、後半の変節は重ね重ね惜しい。カンバック賞の久須美欽一と吉行由実に加へ、新人賞は結城リナ。

 因みにこちらも粒が小さいワーストは

 第一位「をんなたち 淫画」(国映・新東宝/監督:大西裕)
 ゴダールの言つてゐたことは嘘であることだけは判つた。
 第二位「いたづら家政婦 いぢめて縛つて」、「銀行レディ エッチに癒して」(共にオーピー)の二作を通して小川欽也が採用した反スターシステム。
 第三位「魔乳三姉妹 入れ喰ひ乱交」(オーピー/監督:浜野佐知)
 話がまるで成立してゐない。
 第四位「淫情 ~義母と三兄妹~」(国映・新東宝/監督:坂本礼)
 酷く虚しい一作。
 第五位「老人と美人ヘルパー 助平な介護」(Xces/監督・脚本:山内大輔)
 大根にも程がある棒立ち主演女優に、映画全体が負けてしまつた。
 それと、国沢実も二本とも酷かつた。


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