「SM女医 巨乳くひ込む」(2003/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影監督:小山田勝治/助監督:竹洞哲也/監督助手:成松裕妃/撮影助手:大江泰介・及川厚/音楽:レインボーサウンド/機材:シネオカメラ/出演:山口玲子・酒井あずさ・鏡麗子・兵頭未来洋・なかみつせいじ・飯島大介・丘尚輝)。
開業医の里中美弥子(山口)が、患者・工藤心(兵頭)を診察する。傍らに見切れる看護婦は、定石からいふと成松裕妃か。成松裕妃といふ、グーグル検索してみても何も出て来ない人が女だとして。さういふ画面の端々に立つ人物の顔のよく見えない辺りが、プロジェク太上映はどうにもかうにも心苦しい。遠くそれ以前の、問題であることはいふまでもないが。その日の診察時間は終了後、美弥子は親友の夫にして、不倫相手の志水恭司(なかみつ)と診察室にて情事に戯れる。なかみつせいじが振り抜く大時代的な色男ぶりは、今作のさりげない出色。その折に、ちやうどジャスト・ミートで夫との不仲の悩みを打ち明ける電話を美弥子にかけて来つつ、結局その親友とやらの理恵が、姿はおろか声すら聞かせることは以降全篇を通して半カットたりとてない。別れ際、美弥子と志水はエレベーター前でキスを交す。志水を見送つた美弥子に、心当たりのない人物からのメールが届く。添付された画像を目にした美弥子は驚愕する、今しがたの、美弥子と志水のキス現場を捉へた写真であつたのだ。謎の人物は、画像をネタに美弥子を脅迫する。といふか、その時点で犯人は、その気になれば捕まへられるくらゐの恐ろしく近くに居る訳なのだが。よくよく考へてみたならば、そこかしこにフラグは既に立つてゐたといへよう。
丘尚輝は、美弥子が往診する、戦場にて全身不随の重傷を負つた従軍ジャーナリスト・原田敬太。酒井あずさは、傍目には献身的に夫を看護する、原田の妻・ますみ。原田から、ますみに虐待されてゐることを訴へるメモを手渡された美弥子は、気の迷ひだと一笑に付す。然し往診後フと気になつた美弥子が屋内を覗き込んでみると、原田のいふ通り、ますみは自由の利かない夫の、何故かそこだけは普通に元気な肉棒を弄んでゐた。光景に目を奪はれた美弥子は、何がどうスッ転んだものだか、自らがますみに陵辱される幻想を見る。幻想の中で美弥子が達すると挿入される、てんてんと手毬が転がるイメージ・ショット。堅実な娯楽作家の筈の加藤義一にしては、正体不明の演出に戸惑はされる。
美弥子は脅迫メールの一件を志水に相談する。暫く距離を置かうとか何とかいひながら、二人は相変らず別れ際には昼間屋外の路上であることも憚らぬキスを交す、こんならは“危機意識”といふ言葉を知らんのか。早速その現場も再び目撃した旨の電話を受け取つた美弥子は、姿は見せぬ謎の脅迫者の指示の下、路上での放尿を強ひられる。後に、終に美弥子の前に姿を現す段にはプロレス風のマスクも着用した“謎の脅迫者”、とはいへ。特徴ある声でそれが何者なのかは瞬時に看て取れてしまふ辺りも、最早どうもかうもない。そもそもそれは、入れ替り立ち替る女優勢に比して、男優数の著しく少ないピンク映画にとつては、構造上の問題ともいへる。
一応謎のつもりの脅迫者に、美弥子は全裸緊縛され秘部には淫具を宛がはれた状態で、スーツケースに詰め込まれ新宿に連れ出される。飯島大介は、都庁側(そば)にてその状態のまま放置された美弥子が唐突に回想する、“忘れた筈の、私の記憶”とやらに登場する近所のをぢさん・梶山吾一。ム所にでも入つてゐたのか、暫く姿を消してゐた梶山は高校生に成長した美弥子の前に再び現れると、美弥子を捕縛。目前で繰り広げた情婦・宮崎朱美(鏡)との情事に下着を濡らしてしまつた美弥子を、梶山はお仕置きする。正直何しに出て来たのかよく判らない飯島大介ではあるが、梶山がノーブラ・ブラウスの美弥子を水責めするシーンに於いて見せる、嬉々とした猟色は流石の貫禄。再び遡ると即ち、ますみ篇に挿み込まれた手毬が転がるイメージも、美弥子の梶山との記憶に繋がつて来るといふ寸法か、実質的にはまるで繋がつてもゐないのだが。
とか何だとかいふ次第で、責め師を設けぬSM(風)描写と同様グダグダな始終のままに、梶山に仕置きされた原体験を基に被虐に目覚めた美弥子が、再度のお仕置きを求め脅迫者の目前で開き直つたかの如き志水との情事を披露する、といふ展開は綺麗にてんで纏まらない。事ここに至ると奇妙な清々しさすら感じ、腹も立たねば呆れ返りもしないのは、単に私が偶々リミット・ブレイクに疲れ果ててゐたからに違ひない。そのまま、<兵頭未来洋>唯一の持ち芸ともいへる、どうしたらいいのか途方に暮れ今にも泣き出しさうな情けない表情のアップで、ザックリ終つて呉れてゐてもこの際構はなかつた。ともいへ今度はスーツケース宅配といふ大掛かりなプレイの為に、美弥子を詰め込んだスーツケースを手にコンビニに消える脅迫者のロングから、逆パンしたカメラが特に美しくもない東京の空を通り過ぎて都庁を抜く、といふ更にどうでもいいショットで映画は締め括られる。
重量級の煽情性を炸裂させる、山口玲子の濡れ場はそれなり以上に見応へがある。ものの昨今の、オッパイはそのままに無駄肉を落とし更に攻撃的に進化した最新型を知る目からは、この時期の山口玲子は矢張り些か太い。
以下は再見時の付記< 美弥子の診察室に見切れる看護婦は、見覚えのある顔でもない為、矢張り成松裕妃ではないかとしか思へない。それと、美弥子は一体何時までトランクを借り放しなのか、中も汚してるし。
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