真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 巨乳もみもみ」(2000/製作・配給:大蔵映画/監督:渡邊元嗣/脚本:波路遥/撮影:飯岡聖英/照明:ガッツ/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/監督助手:田中康文/撮影助手:田宮健彦・清水康宏/照明助手:広瀬寛巳/出演:神崎優・西藤尚・工藤翔子・熊谷孝文・山信・十日市秀悦)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 同じテーマをバックにした電車の画で幕を開けるところからも、「下着検札」をトレースしたかのやうな開巻。まづはほんの前世紀末の製作なのに、昭和の映画にしか見えない画面の色合に魅了される、プロジェク太上映なのだが。ポップに混み合ふ満員電車の車中、押されたリサ(神崎)が神木茂(熊谷)に抱きつくやうにもたれかかる。恐縮する茂に対し、リサはコケティッシュに微笑みかけると痴女行為を敢行。コロッと恍惚とする茂の隙をつき、リサは茂の手鞄を掏る。リサはさういふ手口の、スリの常習犯であつた。茂を出し抜き一人降車したリサではあつたが、獲たばかりの手鞄を、今度は元仲間のマリ(西藤)に掻つ攫はれる。鞄を掏られてしまつたことを報告した、茂は署長の森(十日市)から激しく叱責される。事の重大さを今ひとつ呑み込めない茂ではあつたが、県警宴会係長―何故か警視庁ではない―である茂の鞄の中には、宴会の領収書と、参加者の名簿とが入つてゐた。さういふ書類を、何でまた茂が持ち歩いてゐたのかは清々しく不明。茂が越して来たばかりの新居にくたびれ帰宅したところ、かけた筈の鍵は開いてをり、室内には内務調査班の潤子(工藤)が居た。内務調査班だらうと何だらうと、不法侵入は不法侵入だ。誠麗しい色仕掛けで茂を攻略する潤子も、盗まれた手鞄の中身に興味を持つ。ところで冷静になつてみると電車車中のリサに続き、茂が誑し込まれるのは本日二度目でもあるのだが、学習能力といふ言葉を知らんのか。何者かと謀議を交す森の判り易いこと極まりない悪巧みカットを経て、翌日帰宅した茂を、牧歌的も通り越しコント感覚のライフル狙撃が狙ふ、馬から落ちて落馬する。画期的に安直な劇中世間の狭さをスパークさせつつ、茂は実は隣に住んでゐたことが直前に判明したばかりのリサの部屋に逃げ込む。
 山信は同郷でもあるリサ・マリ―二人並べるとお気付き頂けようか―のスリの師匠で、現在はマリがリサから寝取つた形の情夫でもある三隅。何気に大蔵らしからぬ、スラッシュに見舞はれる。テレビ・リポーター役で、実際ならばあまり映像に載せるのは如何なものかと思はれぬでもない貧相な男が登場、スタッフの何れかか。
 これは劇中的には後に語られることなのだが、一旦は急病と偽装されもした大臣暗殺未遂事件に揺れる昨今、警備担当の警察幹部が当日、官々接待にうつつを抜かしてゐた疑惑が囁かれてゐた。茂がリサに掏られた手鞄の中には、即ちその際の領収書と名簿とが入つてゐたのだ。ワイドショーでも取り上げられるほど世間で話題になつてもゐたものを、どうして迂闊にも茂が知らないのかといふ次第でしかないのだが、要はさういふ塩梅のサスペンス・ピンクである。そんなこんなな次第で、といふかナベだから、などといつてしまつてはそれこそ実も蓋も消滅してしまふが、全篇を通し脇は甘々で、初めは金目の品に欠けるとも落胆してゐたバッグの中に、裏帳簿といふ思はぬ金の卵が入つてゐることに驚喜するマリと三隅とが、「ウー、チョーボ!」とシャウトするや劇伴にマンボが鳴り始め、てれんこてれんこと踊つた勢ひで絡みに突入するだなどといふシークエンスの爆発的な下らなさには、それこそ小屋が吹き飛んでしまふかとすら頭を抱へさせられた。とはいへその割には、最終的には意外と娯楽映画として綺麗に形になつてもゐたやうに映つたのは不思議だといふか、直截あるいは正確には単なる俺の気の迷ひか。ただ工藤翔子の硬質なキャラクターがサスペンス風味のプロットによく映えそこかしこのカットを支へもすることと、何はともあれ、一件を最終的には痴漢電車で収束させてみせた点は、ジャンル映画として正方向に評価出来よう。秋吉リサと名乗つたリサに対し、茂が「小説のヒロインみたいな名前だね」、「そんなこといはれたの初めて///」なんてこそばゆい以前に陳腐な遣り取りや、まるで「大変なものを盗んでいきました」とでもいはんばかりの、オーラスの濡れ場の導入に対しては評価も割れるやも知れぬが、アイドル映画の甘酸つぱさといふものは、そのくらゐでちやうどいいものであるのかも知れない。個人的には絶妙に洗練度の低い神崎優に対しては、心の琴線を爪弾かれて爪弾かれて仕方がないといふことも別にないのだが。


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